(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168750
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】試験システム及び最大ドップラー周波数算出方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/309 20150101AFI20241128BHJP
【FI】
H04B17/309
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085675
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 武史
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 圭祐
(57)【要約】
【課題】実際の伝搬路環境における移動物体などの影響を加味した形で最大ドップラー周波数を推定することができる試験システム及び最大ドップラー周波数算出方法を提供する。
【解決手段】試験システム1は、実伝搬路を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの複数の解析対象タイミングにおける伝搬路特性の推定特性を算出する実伝搬路推定特性算出部21と、前記伝搬路特性の推定特性の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を算出するパラメータ算出部22と、を含み、パラメータ算出部22は、解析対象チャネルの準ドップラースペクトラムの各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を最大ドップラー周波数として推定する最大ドップラー周波数推定部22cと、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する実伝搬路推定特性算出部(21)と、
前記推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、前記解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を算出するパラメータ算出部(22)と、を含み、
前記パラメータ算出部は、
サブキャリアk(kは0からK-1までの整数)における前記推定特性H^n
ij(k)を、前記サブキャリアごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Gk
ij(f)に変換する領域変換部(22a)と、
前記周波数領域の特性Gk
ij(f)の前記サブキャリアごとのパワースペクトラムをK個の前記サブキャリアについて加算することで、前記解析対象チャネルの準ドップラースペクトラムを算出する準ドップラースペクトラム算出部(22b)と、
前記解析対象チャネルの前記準ドップラースペクトラムの各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を前記最大ドップラー周波数として推定する最大ドップラー周波数推定部(22c)と、を含むことを特徴とする試験システム。
【請求項2】
ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する実伝搬路推定特性算出部(21)と、
解析対象タイミングtn(nは0からN-1までの整数)における前記推定特性H^n
ij(k)から、前記解析対象タイミングtnにおける前記解析対象チャネルのインパルス応答gn
ij(m)を算出するインパルス応答算出部(23)と、
前記推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、前記インパルス応答gn
ij(m)から、前記解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を算出するパラメータ算出部(24)と、を含み、
前記パラメータ算出部は、
遅延タップτm(mは0からM-1までの整数)における前記インパルス応答gn
ij(m)を、前記遅延タップごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Fm
ij(f)に変換する領域変換部(24a)と、
前記周波数領域の特性Fm
ij(f)の前記遅延タップごとのパワースペクトラムをM個の前記遅延タップについて加算することで、前記解析対象チャネルのドップラースペクトラムを算出するドップラースペクトラム算出部(24b)と、
前記解析対象チャネルの前記ドップラースペクトラムの各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を前記最大ドップラー周波数として推定する最大ドップラー周波数推定部(24c)と、を含むことを特徴とする試験システム。
【請求項3】
前記アンテナ装置が前記ダウンリンク信号を受信する際に、前記アンテナ装置の前記ネットワーク側の送受信装置に対する移動速度がゼロであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の試験システム。
【請求項4】
前記1以上のチャネルの全てを前記解析対象チャネルとするとき、
前記最大ドップラー周波数推定部は、1以上の前記解析対象チャネルの全ての前記最大ドップラー周波数のうちの最大値を、前記実伝搬路全体の前記最大ドップラー周波数として決定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の試験システム。
【請求項5】
ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する実伝搬路推定特性算出ステップ(S3)と、
前記推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、前記解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を算出するパラメータ算出ステップ(S4~S10)と、を含み、
前記パラメータ算出ステップは、
サブキャリアk(kは0からK-1までの整数)における前記推定特性H^n
ij(k)を、前記サブキャリアごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Gk
ij(f)に変換する領域変換ステップ(S4)と、
前記周波数領域の特性Gk
ij(f)の前記サブキャリアごとのパワースペクトラムをK個の前記サブキャリアについて加算することで、前記解析対象チャネルの準ドップラースペクトラムを算出する準ドップラースペクトラム算出ステップ(S5~S9)と、
前記解析対象チャネルの前記準ドップラースペクトラムの各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を前記最大ドップラー周波数として推定する最大ドップラー周波数推定ステップ(S10)と、を含むことを特徴とする最大ドップラー周波数算出方法。
【請求項6】
ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する実伝搬路推定特性算出ステップ(S23)と、
解析対象タイミングtn(nは0からN-1までの整数)における前記推定特性H^n
ij(k)から、前記解析対象タイミングtnにおける前記解析対象チャネルのインパルス応答gn
ij(m)を算出するインパルス応答算出ステップ(S24)と、
前記推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、前記インパルス応答gn
ij(m)から、前記解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を算出するパラメータ算出ステップ(S25~S30)と、を含み、
前記パラメータ算出ステップは、
遅延タップτm(mは0からM-1までの整数)における前記インパルス応答gn
ij(m)を、前記遅延タップごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Fm
ij(f)に変換する領域変換ステップ(S25)と、
前記周波数領域の特性Fm
ij(f)の前記遅延タップごとのパワースペクトラムをM個の前記遅延タップについて加算することで、前記解析対象チャネルのドップラースペクトラムを算出するドップラースペクトラム算出ステップ(S26~S29)と、
前記解析対象チャネルの前記ドップラースペクトラムの各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を前記最大ドップラー周波数として推定する最大ドップラー周波数推定ステップ(S30)と、を含むことを特徴とする最大ドップラー周波数算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャネルモデルのパラメータである最大ドップラー周波数を算出する試験システム及び最大ドップラー周波数算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末を試験する際には、基地局シミュレータが出力するダウンリンク信号を伝搬路シミュレータに通した信号を携帯電波端末に供給することによって、フェージング環境における復調性能が評価される。その伝搬路シミュレータで使われるチャネルモデルとしては、試験用に定義されたものが使われることが多い。一方で、実際の伝搬路環境に近い伝搬路特性のチャネルモデルを使って携帯電話端末の復調性能を評価したいという要求もある。
【0003】
非特許文献1の3GPP(登録商標) TS38.521-4のAnnex B.2.2のTable B.2.2-1などに記載されているように、携帯電話端末のコンフォーマンス試験規格では、チャネルモデルのパラメータの一つである最大ドップラー周波数fdは、あらかじめ決められた値を使うことになっている。
【0004】
開発用途の試験環境としては、ユーザがチャネルモデルのパラメータを自ら定義して伝搬路モデルを構成する場合もあるが、一般的なチャネルモデルでは、最大ドップラー周波数fdとして、携帯電話端末の移動速度vと携帯電話端末が受信する信号のキャリア周波数fcによって計算される値(fd=vfc/c)が使われる(cは光速)。この計算によると、移動速度vがゼロの場合には最大ドップラー周波数fdもゼロとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】3GPP TS38.521-4 V16.12.0,2022年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、実際の伝搬路環境における伝搬路特性を観測すると、携帯電話端末の移動速度vがゼロであっても最大ドップラー周波数fdはゼロにはならない。これは実際の伝搬路環境においては、たとえ携帯電話端末が静止していたとしても、周囲に移動している物体が多数存在し、それらの物体からの反射波を携帯電話端末が受信するためである。つまり、最大ドップラー周波数fdとしてvfc/cを使うと、周囲の環境中にある物体の移動の影響が無視できない状況のときに、現実的な最大ドップラー周波数の見積もりができなくなるという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、実際の伝搬路環境における移動物体などの影響を加味した形で最大ドップラー周波数を推定することができる試験システム及び最大ドップラー周波数算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る試験システムは、ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する実伝搬路推定特性算出部(21)と、前記推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、前記解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を算出するパラメータ算出部(22)と、を含み、前記パラメータ算出部は、サブキャリアk(kは0からK-1までの整数)における前記推定特性H^n
ij(k)を、前記サブキャリアごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Gk
ij(f)に変換する領域変換部(22a)と、前記周波数領域の特性Gk
ij(f)の前記サブキャリアごとのパワースペクトラムをK個の前記サブキャリアについて加算することで、前記解析対象チャネルの準ドップラースペクトラムを算出する準ドップラースペクトラム算出部(22b)と、前記解析対象チャネルの前記準ドップラースペクトラムの各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を前記最大ドップラー周波数として推定する最大ドップラー周波数推定部(22c)と、を含む構成である。
【0009】
この構成により、本発明に係る試験システムは、実際の伝搬路環境における移動物体などの影響も加味した形で、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を推定することができる。
【0010】
また、本発明に係る試験システムは、ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する実伝搬路推定特性算出部(21)と、解析対象タイミングtn(nは0からN-1までの整数)における前記推定特性H^n
ij(k)から、前記解析対象タイミングtnにおける前記解析対象チャネルのインパルス応答gn
ij(m)を算出するインパルス応答算出部(23)と、前記推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、前記インパルス応答gn
ij(m)から、前記解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を算出するパラメータ算出部(24)と、を含み、前記パラメータ算出部は、遅延タップτm(mは0からM-1までの整数)における前記インパルス応答gn
ij(m)を、前記遅延タップごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Fm
ij(f)に変換する領域変換部(24a)と、前記周波数領域の特性Fm
ij(f)の前記遅延タップごとのパワースペクトラムをM個の前記遅延タップについて加算することで、前記解析対象チャネルのドップラースペクトラムを算出するドップラースペクトラム算出部(24b)と、前記解析対象チャネルの前記ドップラースペクトラムの各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を前記最大ドップラー周波数として推定する最大ドップラー周波数推定部(24c)と、を含む構成である。
【0011】
この構成により、本発明に係る試験システムは、実際の伝搬路環境における移動物体などの影響も加味した形で、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を推定することができる。
【0012】
また、本発明に係る試験システムは、前記アンテナ装置が前記ダウンリンク信号を受信する際に、前記アンテナ装置の前記ネットワーク側の送受信装置に対する移動速度がゼロである構成であってもよい。
【0013】
この構成により、本発明に係る試験システムは、アンテナ装置のネットワーク側の送受信装置に対する移動速度がゼロ又は非常に低い速度である場合に、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を適切に推定することができる。
【0014】
また、本発明に係る試験システムは、前記1以上のチャネルの全てを前記解析対象チャネルとするとき、前記最大ドップラー周波数推定部は、1以上の前記解析対象チャネルの全ての前記最大ドップラー周波数のうちの最大値を、前記実伝搬路全体の前記最大ドップラー周波数として決定する構成であってもよい。
【0015】
この構成により、本発明に係る試験システムは、被測定物がMIMO(Multiple Input Multiple Output)方式での通信を行うものである場合に、適切な最大ドップラー周波数を推定することができる。
【0016】
また、本発明に係る試験方法は、ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する実伝搬路推定特性算出ステップ(S3)と、前記推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、前記解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を算出するパラメータ算出ステップ(S4~S10)と、を含み、前記パラメータ算出ステップは、サブキャリアk(kは0からK-1までの整数)における前記推定特性H^n
ij(k)を、前記サブキャリアごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Gk
ij(f)に変換する領域変換ステップ(S4)と、前記周波数領域の特性Gk
ij(f)の前記サブキャリアごとのパワースペクトラムをK個の前記サブキャリアについて加算することで、前記解析対象チャネルの準ドップラースペクトラムを算出する準ドップラースペクトラム算出ステップ(S5~S9)と、前記解析対象チャネルの前記準ドップラースペクトラムの各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を前記最大ドップラー周波数として推定する最大ドップラー周波数推定ステップ(S10)と、を含む構成である。
【0017】
また、本発明に係る試験方法は、ネットワーク側の送受信装置(100)から送信されたダウンリンク信号を実伝搬路(110)の環境において受信するアンテナ装置(10)から出力された前記ダウンリンク信号のIQデータを用いて、前記実伝搬路を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性の複数の解析対象タイミングにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する実伝搬路推定特性算出ステップ(S23)と、解析対象タイミングtn(nは0からN-1までの整数)における前記推定特性H^n
ij(k)から、前記解析対象タイミングtnにおける前記解析対象チャネルのインパルス応答gn
ij(m)を算出するインパルス応答算出ステップ(S24)と、前記推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、前記インパルス応答gn
ij(m)から、前記解析対象チャネルの最大ドップラー周波数を算出するパラメータ算出ステップ(S25~S30)と、を含み、前記パラメータ算出ステップは、遅延タップτm(mは0からM-1までの整数)における前記インパルス応答gn
ij(m)を、前記遅延タップごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Fm
ij(f)に変換する領域変換ステップ(S25)と、前記周波数領域の特性Fm
ij(f)の前記遅延タップごとのパワースペクトラムをM個の前記遅延タップについて加算することで、前記解析対象チャネルのドップラースペクトラムを算出するドップラースペクトラム算出ステップ(S26~S29)と、前記解析対象チャネルの前記ドップラースペクトラムの各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を前記最大ドップラー周波数として推定する最大ドップラー周波数推定ステップ(S30)と、を含む構成である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、実際の伝搬路環境における移動物体などの影響を加味した形で最大ドップラー周波数を推定することができる試験システム及び最大ドップラー周波数算出方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】基地局とアンテナ装置との間の実伝搬路の環境を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る試験システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】推定特性の周波数領域及びその時間変化を示す時間領域の特性を説明するための図である。
【
図4】準ドップラースペクトラム又はドップラースペクトラムとその最大ドップラー周波数の一例を示すグラフである。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る試験システムを用いる最大ドップラー周波数算出方法の処理を説明するためのフローチャートである。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る試験システムの構成を示すブロック図である。
【
図7】インパルス応答の遅延軸方向及びその時間変化を示す時間軸方向の特性を説明するための図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係る試験システムを用いる最大ドップラー周波数算出方法の処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る試験システム及び最大ドップラー周波数算出方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、ネットワーク側の送受信装置の一例である基地局100とアンテナ装置10との間の実伝搬路110の環境を模式的に示す図である。
図1において、基地局100とアンテナ装置10との間のデータ通信は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式による複数のサブキャリアを使って行われる。本発明では、アンテナ装置10が基地局100からのダウンリンク信号を受信する際に、アンテナ装置10の基地局100に対する移動速度が、ゼロ又は非常に低い速度である状況を想定している。
【0022】
アンテナ装置10は、1以上のチャネルで構成される実伝搬路110の環境において、基地局100のT個のアンテナTx1~TxTから送信されたダウンリンク信号を受信するものである。例えば、アンテナ装置10は、エアモニタ又は携帯電話端末などである。アンテナ装置10は、基地局100のアンテナTx1~TxTから送信されたダウンリンク信号を受信信号として受信するR個のアンテナRx1~RxRと、IQデータ出力部11と、を有する。
【0023】
ここで、基地局100のアンテナTx1~TxTの個数Tと、アンテナ装置10のアンテナRx1~RxRの個数Rは、それぞれ1以上の整数であり、T×Rの値が実伝搬路110のチャネル数となる。
【0024】
IQデータ出力部11は、アンテナRx1~RxRにより受信されたR個の受信信号に、増幅、周波数変換、アナログ-デジタル変換などの受信処理を行うようになっている。さらに、IQデータ出力部11は、受信処理されたR個の受信信号を復調して、R組の互いに直交するI成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号を生成するようになっている。本明細書では、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とをまとめて、単に「IQデータ」とも呼ぶ。
【0025】
図1におけるH
n
11(k),H
n
21(k),・・・,H
n
R1(k),H
n
12(k),H
n
22(k),・・・,H
n
R2(k),・・・,H
n
1T(k),H
n
2T(k),・・・,H
n
RT(k)は、後述する式(1)で示すチャネル行列H(k,n)の要素である。
【0026】
図2に示すように、本実施形態の試験システム1は、試験装置15と、信号処理部20と、擬似伝搬路特性生成部30と、表示部41と、を含む。
【0027】
試験装置15は、被測定物(Device Under Test:DUT)120を試験するために必要なダウンリンク信号を生成して擬似伝搬路を介してDUT120に送信し、DUT120から送信されたアップリンク信号を受信して試験に必要な処理を行なう擬似基地局装置の機能を備えたものである。試験装置15は、例えば、DUT120の復調性能の試験を行うようになっている。試験装置15とDUT120との間の擬似伝搬路は、後述する擬似伝搬路特性生成部30により形成される。DUT120は、例えば、MIMO(Multiple Input Multiple Output)方式での通信が可能な携帯電話端末である。
【0028】
信号処理部20は、実伝搬路推定特性算出部21と、パラメータ算出部22と、を含む。
【0029】
実伝搬路推定特性算出部21は、アンテナ装置10のIQデータ出力部11から出力されたIQデータを用いて、実伝搬路110を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性Hn
ij(k)の複数の解析対象タイミングtnにおける推定特性H^n
ij(k)を算出するようになっている。ここで、Hn
ij(k)は、下記の式(1)の実伝搬路110のチャネル行列H(k,n)の各要素を表している。iはアンテナ装置10のR個のアンテナRx1~RxRのインデックスであり、jは基地局100のT個のアンテナTx1~TxTのインデックスである。
【0030】
すなわち、R=1かつT=1はSISO(Single Input Single Output)方式、R≧2かつT=1はSIMO(Single Input Multiple Output)方式、R=1かつT≧2はMISO(Multiple Input Single Output)方式、R≧2かつT≧2はMIMO方式を表している。
【0031】
【0032】
式(1)において、kは周波数方向のインデックスであり、例えば、サブキャリア番号のインデックスである。ここで、Δfをサブキャリアの周波数間隔とすると、各サブキャリアの周波数fkはk×Δfである。また、nは、上記の複数の解析対象タイミングtnに対応する時間方向のインデックスであり、例えばOFDMシンボル番号のインデックスである。ここで、kは0からK-1までの整数であり、nは0からN-1までの整数である。
【0033】
アンテナ装置10のIQデータ出力部11から出力されたR組のIQデータには、参照信号(Reference Signal:RS)が含まれている。例えば、5G NR規格であれば、CSI-RS(Channel State Information Reference Signal)、DM-RS(Demodulation Reference Signal)、TRS(Tracking Reference Signal)、PT-RS(Phase Tracking Reference Signal)などの参照信号が用意されている。
【0034】
実伝搬路推定特性算出部21は、基地局100のT個のアンテナTx1~TxTから送信されたダウンリンク信号に含まれる既知のRSと、IQデータ出力部11から出力されたR組のIQデータに含まれる各チャネルのRSとから、伝搬路特性Hn
ij(k)の推定特性H^n
ij(k)を算出するようになっている。推定特性H^n
ij(k)は、j番目のアンテナTxjが送信する既知のRSに対する、i番目のアンテナRxiで受信された受信信号から得られたIQデータのRSの振幅変動量及び位相変動量の情報を含んでいる。例えば、5G NR規格であれば、実伝搬路推定特性算出部21は、IQデータに含まれるCSI-RS、DM-RS、TRS、及びPT-RSなどのRSと、対応する既知のRSとを、推定特性H^n
ij(k)の算出に用いる。ここで、H^n
ij(k)は、式(1)の実伝搬路110のチャネル行列H(k,n)の推定値の行列H^(k,n)の各要素を表しており、式(2)のように表現される。
【0035】
【0036】
例えば、
図3に示すように、あるH^
n
ij(k)について、時間軸tにおけるある一つのn(ある一つの解析対象タイミングt
n)において、kを解析対象の信号帯域幅の分だけ周波数軸f方向に振った一連のデータは、H^
n
ij(k)の周波数領域の特性を表す。
図3の下側のグラフは、H^
n
ij(k)の周波数領域の特性の実部と虚部をベクトル表示したものである。
【0037】
一方、あるH^
n
ij(k)について、周波数軸fにおけるある一つのk(ある一つの周波数f
k)において、nを解析対象タイミングt
nごとに時間軸t方向に振った一連のデータは、H^
n
ij(k)の時間軸に沿った変化を示す時間領域の特性を表す。
図3の右側のグラフは、H^
n
ij(k)の時間変化を示す時間領域の特性の実部と虚部を表示したものである。
【0038】
ここで、ナイキスト定理に従って情報欠落なく推定特性H^n
ij(k)の変化を時間軸t方向にキャプチャするためには、解析対象タイミングtnの間隔の最大値Tcが、Tc<1/(2×fd)を満たす必要がある。ここで、fdは、後述するパラメータ算出部22により算出される最大ドップラー周波数である。
【0039】
パラメータ算出部22は、実伝搬路推定特性算出部21により算出された推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出するようになっている。すなわち、パラメータ算出部22は、実伝搬路推定特性算出部21により算出された推定特性H^n
ij(k)のうち、統計的な性質が変化していないとみなせる期間内の推定特性H^n
ij(k)を用いて、パラメータを算出する。パラメータ算出部22により算出されたパラメータは、擬似伝搬路特性生成部30に入力される。
【0040】
擬似伝搬路特性生成部30は、例えば、TDLモデル(Tapped Delay Line model)やCDLモデル(Clustered Delay Line model)などの公知のチャネルモデルを含む。擬似伝搬路特性生成部30は、パラメータ算出部22により算出されたパラメータに応じた、複数の擬似伝搬路特性を生成するようになっている。
【0041】
さらに、擬似伝搬路特性生成部30は、生成した擬似伝搬路特性を有する擬似伝搬路を試験装置15とDUT120との間に形成する伝搬路シミュレータとして機能する。
【0042】
例えば、パラメータ算出部22は、TDLモデルのパラメータとして、「Kファクタ」、「PDP(Power Delay Profile)」、「アンテナ相関行列」、及び「最大ドップラー周波数」などを算出する。
【0043】
以下、TDLモデルのパラメータのうち、「最大ドップラー周波数」を計算するためのパラメータ算出部22の構成を説明する。
【0044】
パラメータ算出部22は、
図2に示すように、領域変換部22aと、準ドップラースペクトラム算出部22bと、最大ドップラー周波数推定部22cと、を含み、実伝搬路推定特性算出部21により算出された推定特性H^
n
ij(k)から、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数f
dを算出するようになっている。
【0045】
領域変換部22aは、下記の式(3)に示すように、あるサブキャリアkにおける推定特性H^n
ij(k)を、サブキャリアkごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Gk
ij(f)に変換するようになっている。
【0046】
【0047】
準ドップラースペクトラム算出部22bは、下記の式(4)に示すように、領域変換部22aにより変換された周波数領域の特性Gk
ij(f)のサブキャリアごとのパワースペクトラムSk
ij(f)をK個のサブキャリアについて加算することで、解析対象チャネルの準ドップラースペクトラムSij(f)を算出するようになっている。
【0048】
【0049】
最大ドップラー周波数推定部22cは、準ドップラースペクトラム算出部22bにより算出された解析対象チャネルの準ドップラースペクトラムS
ij(f)の各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を最大ドップラー周波数f
dとして推定するようになっている。ここで、規定パワーは、例えば、雑音成分の上限のパワー以上であればよい。
図4は、準ドップラースペクトラム算出部22bにより算出された準ドップラースペクトラムS
ij(f)とその最大ドップラー周波数f
dの一例を示すグラフである。
【0050】
なお、最大ドップラー周波数推定部22cは、実伝搬路110を構成する1以上のチャネルの全てを解析対象チャネルとするとき、1以上の解析対象チャネルのそれぞれについて最大ドップラー周波数fdを推定するようになっている。さらに、最大ドップラー周波数推定部22cは、推定した全ての最大ドップラー周波数fdのうちの最大値を、実伝搬路110全体の最大ドップラー周波数fdMAXとして決定するようになっていてもよい。
【0051】
表示部41は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)などの表示機器などで構成され、信号処理部20からの表示制御信号に基づいて、試験システム1の試験内容に関わる設定を行うための設定画面、試験結果、最大ドップラー周波数fdの推定結果などを表示する。なお、表示部41は、表示画面上のソフトキーなどの操作機能を有していてもよい。
【0052】
信号処理部20は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などを含むコンピュータなどの制御装置で構成される。また、信号処理部20は、CPU又はGPUによる所定のプログラムの実行により、実伝搬路推定特性算出部21、パラメータ算出部22、後述するインパルス応答算出部23、及び後述するパラメータ算出部24の少なくとも一部をソフトウェア的に構成することが可能である。
【0053】
なお、上記のプログラムは、ROM又はHDDにあらかじめ格納されている。あるいは、上記のプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式でコンパクトディスク、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録された状態で提供又は配布されるものであってもよい。あるいは、上記のプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータに格納され、ネットワーク経由でのダウンロードにより提供又は配布されるものであってもよい。
【0054】
以下、本実施形態の試験システム1を用いる最大ドップラー周波数算出方法について、
図5のフローチャートを参照しながら、その処理の一例を説明する。なお、上述の試験システム1の構成の説明と重複する説明は適宜省略する。
【0055】
まず、ダウンリンク信号のIQデータをアンテナ装置10のIQデータ出力部11から信号処理部20に入力する(ステップS1)。
【0056】
次に、信号処理部20は、サブキャリアのインデックスkの初期値と、後述する配列S'ij(f)の初期値をそれぞれ0に設定する(ステップS2)。
【0057】
次に、実伝搬路推定特性算出部21は、ステップS1で入力されたIQデータを用いて、実伝搬路110を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性Hn
ij(k)の複数の解析対象タイミングtnにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する(実伝搬路推定特性算出ステップS3)。
【0058】
次に、領域変換部22aは、サブキャリアkにおける推定特性H^n
ij(k)を、サブキャリアkごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Gk
ij(f)に変換する(領域変換ステップS4)。
【0059】
次に、準ドップラースペクトラム算出部22bは、領域変換ステップS4で変換された周波数領域の特性Gk
ij(f)のパワースペクトラムSk
ij(f)を算出する(準ドップラースペクトラム算出ステップS5)。
【0060】
次に、準ドップラースペクトラム算出部22bは、ステップS5で算出されたパワースペクトラムSk
ij(f)を現在の配列S'ij(f)に加算して、新たなS'ij(f)とする(準ドップラースペクトラム算出ステップS6)。
【0061】
次に、信号処理部20は、インデックスkがK-1に到達したか否かを判断する。インデックスkがK-1に到達していない場合(準ドップラースペクトラム算出ステップS7:NO)、信号処理部20は、ステップS8以降の処理を実行する。インデックスkがK-1に到達した場合(準ドップラースペクトラム算出ステップS7:YES)、信号処理部20は、ステップS9以降の処理を実行する。
【0062】
ステップS8において信号処理部20は、現在のインデックスkに1を加算する(準ドップラースペクトラム算出ステップS8)。そして、信号処理部20は、再びステップS3以降の処理を実行する。
【0063】
ステップS9において信号処理部20は、現在の配列S'ij(f)を解析対象チャネルの準ドップラースペクトラムSij(f)とする(準ドップラースペクトラム算出ステップS9)。
【0064】
次に、最大ドップラー周波数推定部22cは、準ドップラースペクトラム算出ステップS9で算出された準ドップラースペクトラムSij(f)の各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を最大ドップラー周波数fdとして推定する(最大ドップラー周波数推定ステップS10)。
【0065】
次に、信号処理部20は、T×R個の全ての解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdが最大ドップラー周波数推定ステップS10により推定されたか否かを判断する。T×R個の全ての解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdが最大ドップラー周波数推定ステップS10により推定された場合(ステップS11:YES)、信号処理部20は、ステップS12以降の処理を実行する。T×R個の全ての解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdが最大ドップラー周波数推定ステップS10により推定されていない場合(ステップS11:NO)、信号処理部20は、まだ最大ドップラー周波数fdが推定されていない解析対象チャネルについて再びステップS2以降の処理を実行する。
【0066】
次に、最大ドップラー周波数推定部22cは、最大ドップラー周波数推定ステップS10で推定された全ての最大ドップラー周波数fdのうちの最大値を、実伝搬路110全体の最大ドップラー周波数fdMAXとして決定する(ステップS12)。
【0067】
次に、信号処理部20は、最大ドップラー周波数推定ステップS10で推定された各チャネルの最大ドップラー周波数fdと、ステップS12で決定された最大ドップラー周波数fdのうちの最大値fdMAXを表示部41に表示させる(ステップS13)。
【0068】
なお、ステップS4~S10は、推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdを算出するパラメータ算出ステップを構成する。
【0069】
以上説明したように、本実施形態に係る試験システム1は、実伝搬路110の環境で得られた推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdを算出するようになっている。これにより、本実施形態に係る試験システム1は、実際の伝搬路環境における移動物体などの影響も加味した形で、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdを推定することができる。
【0070】
特に、本実施形態に係る試験システム1は、アンテナ装置10が基地局100からのダウンリンク信号を受信する際に、アンテナ装置10の基地局100に対する移動速度がゼロ又は非常に低い速度である場合に、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdを適切に推定することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る試験システム1は、上記の最大ドップラー周波数fdを用いて、伝搬路シミュレータとしての擬似伝搬路特性生成部30によりチャネルモデルの擬似伝搬路特性を生成する。さらに、本実施形態に係る試験システム1は、擬似伝搬路特性生成部30により生成された擬似伝搬路特性を用いて実伝搬路110の統計的な伝搬路特性を再現する形で、DUT120の試験を実施することができる。
【0072】
また、本実施形態に係る試験システム1は、1以上の解析対象チャネルの全ての最大ドップラー周波数fdのうちの最大値を、実伝搬路110全体の最大ドップラー周波数fdMAXとして決定するようになっていてもよい。これにより、本実施形態に係る試験システム1は、DUT120がMIMO方式での通信を行うものである場合に、適切な最大ドップラー周波数を推定することができる。
【0073】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る試験システム及び最大ドップラー周波数算出方法について、図面を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。また、第1の実施形態と同様の動作についても適宜説明を省略する。本実施形態も、アンテナ装置10が基地局100からのダウンリンク信号を受信する際に、アンテナ装置10の基地局100に対する移動速度が、ゼロ又は非常に低い速度である状況を想定している。
【0074】
図6に示すように、本実施形態の試験システム2が備える信号処理部20は、実伝搬路推定特性算出部21と、インパルス応答算出部23と、パラメータ算出部24と、を含む。
【0075】
インパルス応答算出部23は、実伝搬路推定特性算出部21により算出された解析対象タイミングtnにおける推定特性H^n
ij(k)から、解析対象タイミングtnにおける解析対象チャネルのインパルス応答gn
ij(m)を算出するようになっている。ここで、下記の式(5)に示すように、推定特性H^n
ij(k)は、複数の経路に対応する複数の遅延タップτmからなるインパルス応答gn
ij(m)で表すことができる。ここで、mは遅延タップτmのインデックスであり、Mは遅延タップの数である。
【0076】
【0077】
式(5)は下記の式(6)のように書き換えることができる。
【0078】
【0079】
さらに、式(6)は下記の式(7)のように変形することができる。ここでは、行列Aの一般逆行列をA+と表している。すなわち、インパルス応答算出部23は、式(7)に従ってインパルス応答gn
ij(m)を算出するようになっている。行列Aは、時間領域のインパルス応答を要素とする列ベクトルを乗算することで、周波数特性を要素とする列ベクトルを算出することができるような一種のフーリエ変換行列である。
【0080】
【0081】
インパルス応答g
n
ij(m)における複数の遅延タップτ
mは、遅延軸τに沿って配置される。インパルス応答g
n
ij(m)は解析対象タイミングt
nに応じて変化するため、
図7のように遅延軸τと時間軸tの2次元関数として示すことができる。
【0082】
図7の下側のグラフは、時間軸tにおけるある一つのn(ある一つの解析対象タイミングt
n)に沿ったg
n
ij(m)の一連のデータの実部と虚部をベクトル表示したものである。
【0083】
一方、あるg
n
ij(m)について、遅延軸τにおけるある一つのm(ある一つの遅延タップτ
m)において、nを解析対象タイミングt
nごとに時間軸t方向に振った一連のデータは、g
n
ij(m)の時間軸に沿った変化を示す時間領域の特性を表す。
図7の右側のグラフは、g
n
ij(m)の時間変化を示す時間領域の特性の実部と虚部を表示したものである。
【0084】
パラメータ算出部24は、第1の実施形態のパラメータ算出部22と同様に、実伝搬路推定特性算出部21により算出された推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータを算出するようになっている。すなわち、パラメータ算出部24は、実伝搬路推定特性算出部21により算出された推定特性H^n
ij(k)のうち、統計的な性質が変化していないとみなせる期間内の推定特性H^n
ij(k)を用いて、パラメータを算出する。パラメータ算出部24により算出されたパラメータは、擬似伝搬路特性生成部30に入力される。
【0085】
例えば、パラメータ算出部24は、TDLモデルのパラメータとして、「Kファクタ」、「PDP」、「アンテナ相関行列」、及び「最大ドップラー周波数」などを算出する。
【0086】
以下、TDLモデルのパラメータのうち、「最大ドップラー周波数」を計算するためのパラメータ算出部24の構成を説明する。
【0087】
パラメータ算出部24は、
図6に示すように、領域変換部24aと、ドップラースペクトラム算出部24bと、最大ドップラー周波数推定部24cと、を含み、インパルス応答算出部23により算出されたインパルス応答g
n
ij(m)から、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数f
dを算出するようになっている。
【0088】
領域変換部24aは、下記の式(8)に示すように、ある遅延タップτmにおけるインパルス応答gn
ij(m)を、遅延タップτmごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Fm
ij(f)に変換するようになっている。ここで、mは0からM-1までの整数である。
【0089】
【0090】
ドップラースペクトラム算出部24bは、下記の式(9)に示すように、領域変換部24aにより変換された周波数領域の特性Fm
ij(f)の遅延タップτmごとのパワースペクトラムをM個の遅延タップτmについて加算することで、解析対象チャネルのドップラースペクトラムDsij(f)を算出するようになっている。
【0091】
【0092】
最大ドップラー周波数推定部24cは、ドップラースペクトラム算出部24bにより算出された解析対象チャネルのドップラースペクトラムDs
ij(f)の各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を最大ドップラー周波数f
dとして推定するようになっている。
図4は、ドップラースペクトラム算出部24bにより算出されたドップラースペクトラムDs
ij(f)とその最大ドップラー周波数f
dの一例を示すグラフである。
【0093】
ここで、第1の実施形態で説明した式(4)の準ドップラースペクトラムSij(f)は、下記の式(10)のように変形できる。
【0094】
【0095】
このように、式(4)の準ドップラースペクトラムSij(f)は、式(9)のドップラースペクトラムDsij(f)を重ね合わせた形式になっていることが分かる。つまり、ドップラースペクトラムDsij(f)の周波数軸方向の広がりは、準ドップラースペクトラムSij(f)の周波数軸方向の広がりと等しく、ドップラースペクトラムDsij(f)と準ドップラースペクトラムSij(f)から共通の最大ドップラー周波数fdが得られることが分かる。
【0096】
なお、最大ドップラー周波数推定部24cは、実伝搬路110を構成する1以上のチャネルの全てを解析対象チャネルとするとき、1以上の解析対象チャネルのそれぞれについて最大ドップラー周波数fdを推定するようになっている。さらに、最大ドップラー周波数推定部24cは、推定した全ての最大ドップラー周波数fdのうちの最大値を、実伝搬路110全体の最大ドップラー周波数fdMAXとして決定するようになっていてもよい。
【0097】
以下、本実施形態の試験システム2を用いる最大ドップラー周波数算出方法について、
図8のフローチャートを参照しながら、その処理の一例を説明する。なお、上述の試験システム2の構成の説明と重複する説明は適宜省略する。
【0098】
まず、ダウンリンク信号のIQデータをアンテナ装置10のIQデータ出力部11から信号処理部20に入力する(ステップS21)。
【0099】
次に、信号処理部20は、遅延タップτmのインデックスmの初期値と、後述する配列Ds'ij(f)の初期値をそれぞれ0に設定する(ステップS22)。
【0100】
次に、実伝搬路推定特性算出部21は、ステップS21で入力されたIQデータを用いて、実伝搬路110を構成する1以上のチャネルのうちの解析対象チャネルの伝搬路特性Hn
ij(k)の複数の解析対象タイミングtnにおける推定特性H^n
ij(k)を算出する(実伝搬路推定特性算出ステップS23)。
【0101】
次に、インパルス応答算出部23は、解析対象タイミングtnにおける推定特性H^n
ij(k)から、解析対象タイミングtnにおけるインパルス応答gn
ij(m)を算出する(インパルス応答算出ステップS24)。
【0102】
次に、領域変換部24aは、遅延タップτmにおけるインパルス応答gn
ij(m)を、遅延タップτmごとの時間変化を示す時間領域の特性から周波数領域の特性Fm
ij(f)に変換する(領域変換ステップS25)。
【0103】
次に、ドップラースペクトラム算出部24bは、領域変換ステップS25で変換された周波数領域の特性Fm
ij(f)のパワースペクトラムを現在の配列Ds'ij(f)に加算して、新たなDs'ij(f)とする(ドップラースペクトラム算出ステップS26)。
【0104】
次に、信号処理部20は、インデックスmがM-1に到達したか否かを判断する。インデックスmがM-1に到達していない場合(ドップラースペクトラム算出ステップS27:NO)、信号処理部20は、ステップS28以降の処理を実行する。インデックスmがM-1に到達した場合(ドップラースペクトラム算出ステップS27:YES)、信号処理部20は、ステップS29以降の処理を実行する。
【0105】
ステップS28において信号処理部20は、現在のインデックスmに1を加算する(ドップラースペクトラム算出ステップS28)。そして、信号処理部20は、再びステップS23以降の処理を実行する。
【0106】
ステップS29において信号処理部20は、現在の配列Ds'ij(f)を解析対象チャネルのドップラースペクトラムDsij(f)とする(ドップラースペクトラム算出ステップS29)。
【0107】
次に、最大ドップラー周波数推定部24cは、ドップラースペクトラム算出ステップS29で算出されたドップラースペクトラムDsij(f)の各周波数成分の中で、規定パワー以上となる最大の周波数を最大ドップラー周波数fdとして推定する(最大ドップラー周波数推定ステップS30)。
【0108】
次に、信号処理部20は、T×R個の全ての解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdが最大ドップラー周波数推定ステップS30により推定されたか否かを判断する。T×R個の全ての解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdが最大ドップラー周波数推定ステップS30により推定された場合(ステップS31:YES)、信号処理部20は、ステップS32以降の処理を実行する。T×R個の全ての解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdが最大ドップラー周波数推定ステップS30により推定されていない場合(ステップS31:NO)、信号処理部20は、まだ最大ドップラー周波数fdが推定されていない解析対象チャネルについて再びステップS22以降の処理を実行する。
【0109】
次に、最大ドップラー周波数推定部24cは、最大ドップラー周波数推定ステップS30で推定された全ての最大ドップラー周波数fdのうちの最大値を、実伝搬路110全体の最大ドップラー周波数fdMAXとして決定する(ステップS32)。
【0110】
次に、信号処理部20は、最大ドップラー周波数推定ステップS30で推定された各チャネルの最大ドップラー周波数fdと、ステップS32で決定された最大ドップラー周波数fdのうちの最大値fdMAXを表示部41に表示させる(ステップS33)。
【0111】
なお、ステップS25~S30は、推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、インパルス応答gn
ij(m)から、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdを算出するパラメータ算出ステップを構成する。
【0112】
以下に、第1の実施形態の「推定特性H^n
ij(k)の時間変化を示す時間領域の特性から最大ドップラー周波数fdを推定する方法(以下、「方法1」と呼ぶ)」と、第2の実施形態の「インパルス応答gn
ij(m)の時間変化を示す時間領域の特性から最大ドップラー周波数fdを推定する方法(以下、「方法2」と呼ぶ)」のそれぞれの特徴をまとめる。
【0113】
方法1は、実際の伝搬路環境から算出される推定特性H^n
ij(k)をそのまま利用するので、方法2でインパルス応答gn
ij(m)を算出する際の誤差の影響を受けずに、最大ドップラー周波数fdを推定することができる。例えば、インパルス応答gn
ij(m)を算出する際の誤差は、周波数軸上で解析対象の信号が割り当てられた一部の伝搬路特性の推定特性のみから算出することなどに起因すると考えられる。
【0114】
しかしながら、方法1は、式(10)に示すように、遅延タップτmごとの特性Fm
ij(f)を振幅次元のまま加算するので、遅延タップ間の干渉の影響を受ける可能性がある。
【0115】
一方、方法2は、式(9)に示すように、遅延タップτmごとのパワースペクトラムをパワーの次元で加算するので、遅延タップ間の位相差等による干渉度合いに依存しない形で最大ドップラー周波数fdを推定することができる。
【0116】
しかしながら、方法2は、遅延軸τにおける遅延タップτmの位置の時間変化などに起因して、インパルス応答gn
ij(m)の時間変化を算出する際に同一遅延タップの判別が難しくなる可能性がある。
【0117】
以上説明したように、本実施形態に係る試験システム2は、実伝搬路110の環境で得られた推定特性H^n
ij(k)の統計的な性質を特徴づけるパラメータとして、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdを算出するようになっている。これにより、本実施形態に係る試験システム2は、実際の伝搬路環境における移動物体などの影響も加味した形で、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdを推定することができる。
【0118】
特に、本実施形態に係る試験システム2は、アンテナ装置10が基地局100からのダウンリンク信号を受信する際に、アンテナ装置10の基地局100に対する移動速度がゼロ又は非常に低い速度である場合に、解析対象チャネルの最大ドップラー周波数fdを適切に推定することができる。
【0119】
また、本実施形態に係る試験システム2は、上記の最大ドップラー周波数fdを用いて、伝搬路シミュレータとしての擬似伝搬路特性生成部30によりチャネルモデルの擬似伝搬路特性を生成する。さらに、本実施形態に係る試験システム2は、擬似伝搬路特性生成部30により生成された擬似伝搬路特性を用いて実伝搬路110の統計的な伝搬路特性を再現する形で、DUT120の試験を実施することができる。
【0120】
また、本実施形態に係る試験システム2は、1以上の解析対象チャネルの全ての最大ドップラー周波数fdのうちの最大値を、実伝搬路110全体の最大ドップラー周波数fdMAXとして決定するようになっていてもよい。これにより、本実施形態に係る試験システム1は、DUT120がMIMO方式での通信を行うものである場合に、適切な最大ドップラー周波数を推定することができる。
【0121】
以上で説明した本実施形態では、実伝搬路110に向けてダウンリンク信号を送信するネットワーク側の送受信装置が基地局100であるとしたが、基地局の代わりに例えばWi-Fi(登録商標)のアクセスポイントなどをネットワーク側の送受信装置としてもよい。
【符号の説明】
【0122】
1,2 試験システム
10 アンテナ装置
11 IQデータ出力部
15 試験装置
20 信号処理部
21 実伝搬路推定特性算出部
22,24 パラメータ算出部
22a,24a 領域変換部
22b 準ドップラースペクトラム算出部
22c,24c 最大ドップラー周波数推定部
23 インパルス応答算出部
24b ドップラースペクトラム算出部
30 擬似伝搬路特性生成部
41 表示部
100 基地局(ネットワーク側の送受信装置)
110 実伝搬路
120 DUT
Rx1~RxR アンテナ
Tx1~TxT アンテナ