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特開2024-168770車両運動制御装置、車両運動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168770
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】車両運動制御装置、車両運動制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20241128BHJP
   B60W 40/10 20120101ALI20241128BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20241128BHJP
   B60W 40/076 20120101ALI20241128BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/10
B60W30/10
B60W40/076
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085701
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奈須 真吾
(72)【発明者】
【氏名】上野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 信治
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA16
3D241BA51
3D241BB21
3D241BC01
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB10Z
3D241DC05Z
3D241DC45Z
(57)【要約】
【課題】道路勾配が変化する道路を車両が走行する際に、乗員の安心感や乗心地を改善する。
【解決手段】車両運動制御装置は、走行軌道計画ユニット4において、自車両の走行状況に関する情報(走行状況情報)を取得する情報取得部41と、自車両の目標速度および目標加速度を生成する速度計画部44とを備える。速度計画部44は、自車両が道路を走行する際に自車両に生じる上下加速度および上下加加速度について、上下加速度が所定の第1制限値以下であり、かつ上下加加速度が所定の第2制限値以下となるように、情報取得部41が取得した走行状況情報に基づいて自車両の目標速度を生成するとともに、自車両の目標加速度を生成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行状況に関する情報を取得する情報取得部と、
前記自車両が道路を走行する際に前記自車両に生じる上下加速度および上下加加速度について、前記上下加速度が所定の第1制限値以下であり、かつ前記上下加加速度が所定の第2制限値以下となるように、前記情報に基づいて前記自車両の目標速度を生成するとともに、前記自車両の目標加速度を生成する速度計画部と、を備える車両運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、
前記情報に基づいて前記自車両が前記道路を走行する際の目標経路を生成する経路計画部を備え、
前記速度計画部は、前記目標経路、前記第1制限値および前記第2制限値に基づいて、前記道路の勾配が変化する勾配変化区間での前記自車両の上限速度を算出し、前記上限速度に基づいて前記目標速度を生成する車両運動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両運動制御装置において、
前記勾配変化区間は、前記道路の縦断勾配が変化する区間を含む車両運動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両運動制御装置において、
前記勾配変化区間は、前記縦断勾配が下り勾配である下り勾配区間と、前記縦断勾配が上り勾配である上り勾配区間とを含み、
前記速度計画部は、前記下り勾配区間における前記上限速度よりも前記上り勾配区間における前記上限速度が高くなるように、前記上限速度を算出する車両運動制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両運動制御装置において、
前記下り勾配区間から前記上り勾配区間に切り替わる場合、前記速度計画部は、前記上限速度が前記勾配変化区間内で前記下り勾配区間から前記上り勾配区間にかけて次第に上昇するように、前記上限速度を算出し、
前記上り勾配区間から前記下り勾配区間に切り替わる場合、前記速度計画部は、前記上限速度が前記勾配変化区間内で前記上り勾配区間から前記下り勾配区間にかけて次第に低下するように、前記上限速度を算出する車両運動制御装置。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれか一項に記載の車両運動制御装置において、
前記勾配変化区間は、前記道路の横断勾配が変化する区間を含み、
前記速度計画部は、前記横断勾配が変化する区間での前記自車両の横加速度が所定の第3制限値以下となるように、前記上限速度を算出する車両運動制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、
前記第1制限値および前記第2制限値をそれぞれ設定する制限値設定部を備え、
前記制限値設定部は、前記自車両の乗員と、前記自車両の積み荷の質量、大きさおよび配置と、前記情報が表す前記自車両の走行状況と、の少なくともいずれか1つに基づいて、前記第1制限値および前記第2制限値の少なくとも一方を設定する車両運動制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、
上位コントローラと接続されており、前記上位コントローラから送信されるフラグ情報に基づいて、前記速度計画部による前記目標速度および前記目標加速度の生成を許可または禁止する車両運動制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の車両運動制御装置において、
前記速度計画部は、前記目標速度および前記目標加速度の候補をそれぞれ複数ずつ生成し、前記情報が表す前記自車両の走行モードに基づいて、複数の前記目標速度および前記目標加速度の候補の中からいずれかをそれぞれ選択する車両運動制御装置。
【請求項10】
自車両の走行状況に関する情報を取得し、
前記自車両が道路を走行する際に前記自車両に生じる上下加速度および上下加加速度について、前記上下加速度が所定の第1制限値以下であり、かつ前記上下加加速度が所定の第2制限値以下となるように、前記情報に基づいて前記自車両の目標速度を生成し、
前記自車両の目標加速度を生成し、
前記目標速度および前記目標加速度に基づいて前記自車両の運動を制御する、車両運動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行経路に応じて車両の運動を制御する車両運動制御装置、および、車両運動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転支援や自動運転に代表される車両運動制御技術の一種として、車両の走行目標となる走行軌道を生成し、その走行軌道に沿って車両が走行するようにパワートレイン、ブレーキ、ステアリングなどを制御する技術が知られている。こうした車両運動制御では、車両の走行軌道に応じて走行速度を制御する必要がある。最も単純な走行速度の制御方法としては、例えば、設定した走行速度を維持する速度維持制御がある。
【0003】
また、より高度な走行速度制御技術としては、例えば、特許文献1に開示されるものが知られている。特許文献1には、自車両前方の道路形状および自車両の現在位置に基づいて、自車両前方の道路上の各地点における目標速度を算出し、この目標速度および現在速度に基づいて、自車両に発生させる前後方向の駆動指令値を演算するとともに、自車両の上下方向の加速度を制限する加速制限値をGzmaxとし、この加速制限値Gzmaxと道路勾配の変化量とを用いて、駆動指令値を調整する加減速制御方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-39400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の加減速制御方法では、道路勾配が変化したときに自車両の上下方向における過度な加減速力が自車両にかかるのを防止することで、走行中に過度な浮遊感等の違和感を乗員に与えにくくするようにしている。しかしながら、自車両の上下方向の加速度を制限する加速制限値Gzmaxを、自車両に生じている現在加速度と加加速度制限値の積として求めており、この方法では道路勾配の変化に対して適切な加速制限値を設定することができない。したがって、特許文献1の技術を利用して勾配が変化する道路を車両が走行しようとすると、例えば上り坂の頂点や下り坂の谷底などのような道路勾配の変化点において、車両の減速不足や振動増加が発生し、その結果、乗員の安心感の低下や乗心地の悪化が生じるおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、道路勾配が変化する道路を車両が走行する際に、乗員の安心感や乗心地を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車両運動制御装置は、自車両の走行状況に関する情報を取得する情報取得部と、前記自車両が道路を走行する際に前記自車両に生じる上下加速度および上下加加速度について、前記上下加速度が所定の第1制限値以下であり、かつ前記上下加加速度が所定の第2制限値以下となるように、前記情報に基づいて前記自車両の目標速度を生成するとともに、前記自車両の目標加速度を生成する速度計画部と、を備える。
本発明による車両運動制御方法は、自車両の走行状況に関する情報を取得し、前記自車両が道路を走行する際に前記自車両に生じる上下加速度および上下加加速度について、前記上下加速度が所定の第1制限値以下であり、かつ前記上下加加速度が所定の第2制限値以下となるように、前記情報に基づいて前記自車両の目標速度を生成し、前記自車両の目標加速度を生成し、前記目標速度および前記目標加速度に基づいて前記自車両の運動を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、道路勾配が変化する道路を車両が走行する際に、乗員の安心感や乗心地を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る車両運動制御装置を有する車載システムの機能ブロック図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る走行軌道計画ユニットの機能ブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る走行軌道計画ユニットのフローチャートである。
図4A】上下方向の加速度のみを考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる凹型縦断勾配での車両運動に関する物理量の例を示す図である。
図4B】上下方向の加速度と加加速度の両方を考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる凹型縦断勾配での車両運動に関する物理量の例を示す図である。
図5A】上下方向の加速度のみを考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる凸型縦断勾配での車両運動に関する物理量の例を示す図である。
図5B】上下方向の加速度と加加速度の両方を考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる凸型縦断勾配での車両運動に関する物理量の例を示す図である。
図6A】上下方向と横方向の加速度のみを考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる横断勾配変化での車両運動に関する物理量の例を示す図である。
図6B】上下方向と横方向の加速度に加えて、さらに上下方向の加加速度を考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる横断勾配変化での車両運動に関する物理量の例を示す図である。
図7】本発明の第3の実施形態に係る車両運動制御装置を搭載した自車両が凹型縦断勾配の走行経路を走行する際に、自車両において生じる車両運動に関する物理量の例を示す図である。
図8】本発明の第3の実施形態に係る車両運動制御装置を搭載した自車両が凸型縦断勾配の走行経路を走行する際に、自車両において生じる車両運動に関する物理量の例を示す図である。
図9】本発明の第4の実施形態に係る走行軌道計画ユニットのフローチャートである。
図10】本発明の第5の実施形態に係る走行軌道計画ユニットの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の車両運動制御装置の実施例を、図面を使用して説明する。なお、実質的に同一又は類似する構成には同一の符号を付し、説明が重複する場合には、その説明を省略する場合がある。また、周知技術についても、その説明を省略する場合がある。
【0011】
(第1の実施形態)
まず、図1から図6Bを用い、本発明の第1の実施形態に係る車両運動制御装置を以下に説明する。
【0012】
<車載システム1>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る車両運動制御装置2を有する車載システム1の機能ブロック図である。車載システム1は、自動車等の車両(以下、自車両と称する)に搭載され、運転支援や自動運転などの車両運動制御を実行するためのシステムである。図1に示すように、車載システム1は、車外通信装置11、GNSS(Global Navigation Satellite System)12、地図情報記憶部13、センサ14、HMI(Human Machine Interface)ユニット15、車両運動制御装置2、パワートレインシステム6、ブレーキシステム7、ステアリングシステム8を有する。以下、順次説明する。
【0013】
<車両運動制御装置2の情報源群>
車外通信装置11は、無線通信により、自車両と他車両の間の車車間通信、又は、自車両と路側機の間の路車間通信を実行する。これらの通信により、他車両や路側機に対して、自車両や他車両の走行状況や周辺環境に関する情報を送受信する。
【0014】
GNSS12は、準天頂衛星やGPS(Global Positioning System)衛星などの人工衛星から発信される電波を受信し、自車両の位置などの情報を取得する。
【0015】
地図情報記憶部13は、ナビゲーションシステムなどで使用される一般的な道路情報、道路の幅や道路の曲率などのカーブに関する情報、路面状況や交通状況などの情報を、地図情報として記憶する。また、車外通信装置11により受信した他車両の走行状況や周辺環境などの情報を、地図情報の一部として地図情報記憶部13に記憶することもできる。なお、他車両の走行状況や周辺環境の情報は、車外通信装置11を介して、車車間通信や路車間通信で取得される情報により、逐次更新される。
【0016】
センサ14は、自車両の周辺環境の情報を検出する外界認識センサ(画像センサ、ミリ波レーダ、ライダーなど)や、自車両の走行状況(速度、加速度、加加速度、角速度、車輪の操舵角、ドライバによる運転操作など)の情報を検出するセンサなどを含む。外界認識センサにより検出される自車両の周辺環境の情報とは、例えば、自車両の周辺に存在する各種物体(障害物、標識、車線境界線、車線外側線、建造物、歩行者、他の車両など)の情報である。また、センサ14は、例えば、画像センサが路面を撮像することで得られた画像データの白線と路面の輝度との差に基づいて、車線境界線や車線外側線などを認識することもできる。
【0017】
HMIユニット15は、ドライバや同乗者であるユーザによる車載システム1への入力操作(走行モードの選択や目的地の設定など)を受け付けるとともに、ユーザへの情報提供を行う。HMIユニット15は、例えばディスプレイの画面表示やスピーカの音声出力により、車外通信装置11、GNSS12、センサ14によってそれぞれ取得された情報や、地図情報記憶部13に記録された情報を、ユーザに提供する。また、HMIユニット15は、これらの情報に基づいて自車両の走行状況を判断し、必要に応じてユーザに注意喚起するための警報を発生してもよい。
【0018】
ここで、自車両において選択可能な走行モードには、例えば、コンフォートモード、エコノミモード、スポーツモードなどがある。これらの走行モードは、ユーザが自車両の走行中に任意のタイミングで設定してもよいし、ユーザが予め設定してもよい。また、自車両の走行状況に応じて後述の運行管理ユニット3により設定されてもよい。自車両では選択された走行モードに応じて、速度、加速度、加加速度、自車両と先行車との間における速度や距離などが設定される。このとき選択可能な走行モードには、例えば移動時間を最短にする最短時間モードや、移動距離を最短にする最短距離モードなどが含まれる。
【0019】
<車両運動制御装置2>
車両運動制御装置2は、図1に示すように、運行管理ユニット3、走行軌道計画ユニット4および走行制御ユニット5を有する。この車両運動制御装置2は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置、半導体メモリなどの主記憶装置、補助記憶装置、通信装置などのハードウェアを用いて構成されており、自車両を統括制御するECU(Electronic Control Unit)として機能する。車両運動制御装置2は、主記憶装置にロードされるプログラムを演算装置で実行することにより、運行管理ユニット3、走行軌道計画ユニット4および走行制御ユニット5の各機能を実現することができる。なお、本実施形態では、説明の都合上、車両運動制御装置2において運行管理ユニット3、走行軌道計画ユニット4、走行制御ユニット5は互いに分離した構成としているが、必ずしも分離した構成である必要はない。また、これらユニットを実際の車両に使用する場合には、車両運動制御装置2の上位コントローラにより、その機能の一部または全部を実現してもよい。
【0020】
<運行管理ユニット3>
運行管理ユニット3は、車外通信装置11、GNSS12、センサ14によりそれぞれ取得される情報と、地図情報記憶部13に記憶される地図情報とに基づいて、自車両や自車両の周辺に存在する各種物体の位置や走行状況に関する情報を生成する。自車両の走行状況に関する情報は、例えば、自車両の前後加速度、前後加加速度、横加速度、ヨーレイト、横加加速度などの情報を含む。また、運行管理ユニット3は、生成したこれらの情報を、車外通信装置11を介して、定期的に他の車両や路側機に送信すると共に、地図情報記憶部13にも送信する。地図情報記憶部13では、運行管理ユニット3から送信されるこれらの情報に基づいて、記憶された地図情報を逐次更新することができる。さらに、運行管理ユニット3は、生成したこれらの情報や、HMIユニット15により受け付けられる情報(例えば、走行モードや目的地)に基づいて、自車両の走行状況に関する情報のうち、自車両の現在位置から目的地までの経路の情報を設定することもできる。以下では、運行管理ユニット3により生成または設定される自車両の走行状況に関する情報を、「走行状況情報」と称する場合がある。
【0021】
<走行軌道計画ユニット4>
走行軌道計画ユニット4は、運行管理ユニット3から走行状況情報を取得し、この走行状況情報に基づいて、自車両が道路を走行する際の走行軌道を計画する。この走行軌道には、自車両が道路を走行する際の走行目標となる経路(以下「目標経路」と称する)と、その目標経路における自車両の目標速度および目標加速度とが含まれる。走行軌道を計画する際に、走行軌道計画ユニット4は、走行中に自車両に生じる上下加速度および上下加加速度について、上下加速度が所定の制限値(以下「第1制限値」と称する)以下であり、かつ上下加加速度が所定の制限値(以下「第2制限値」と称する)以下となるように、自車両の目標速度を生成するとともに、自車両の目標加速度を生成する。そして、生成した目標速度および目標加速度の情報と、目標経路の情報とを、走行軌道情報として走行制御ユニット5に出力する。なお、走行軌道計画ユニット4の詳細については後述する。
【0022】
<走行制御ユニット5>
走行制御ユニット5は、走行軌道計画ユニット4から出力される走行軌道情報に基づいて、自車両が目標速度および目標加速度で目標経路に追従して走行するように、自車両の目標駆動力、目標制動力、目標操舵角などを設定する。そして、これらの設定値に基づいてパワートレインシステム6、ブレーキシステム7、ステアリングシステム8をそれぞれ制御することにより、自車両の運動制御を行い、自車両を走行軌道に従って安全に走行させる。
【0023】
<車両運動制御装置2の制御対象群>
パワートレインシステム6は、ドライバによる操作や走行制御ユニット5から出力される目標駆動力に基づいて、自車両に搭載された内燃機関や電動機などにより発生する駆動力を制御する。
【0024】
ブレーキシステム7は、ドライバによる操作や走行制御ユニット5から出力される目標制動力に基づいて、自車両のブレーキキャリパなどにより発生する制動力を制御する。
【0025】
ステアリングシステム8は、ドライバによる操作や走行制御ユニット5から出力される目標操舵角に基づいて、自車両の車輪の操舵角を制御する。
【0026】
<走行軌道計画ユニット4の詳細>
図2は、本発明の第1の実施形態に係る走行軌道計画ユニット4の機能ブロック図である。本実施形態の走行軌道計画ユニット4は、図2に示すように、情報取得部41、経路計画部42、制限値設定部43、速度計画部44、情報出力部45の各機能ブロックを有する。走行軌道計画ユニット4のこれらの機能ブロックは、例えば車両運動制御装置2の演算装置が補助記憶装置に記憶された所定のプログラムを主記憶装置にロードして実行することにより、それぞれ実現される。
【0027】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る走行軌道計画ユニット4のフローチャートである。本実施形態の走行軌道計画ユニット4は、図3のフローチャートに示す処理を所定の演算周期ごとに実行することで、走行軌道情報を生成する。
【0028】
まず、ステップS1では、走行軌道計画ユニット4の情報取得部41は、運行管理ユニット3から送信された自車両の走行状況情報を取得する。
【0029】
次に、ステップS2では、走行軌道計画ユニット4の経路計画部42は、ステップS1で取得した走行状況情報に基づいて、自車両が道路を走行する際の目標経路を生成する。ここでは、例えば、センサ14などで取得した自車両の周辺環境の情報や、地図情報記憶部13に記録されている地図情報などを用いて、走行状況情報が表す自車両の走行状況に応じた目標経路を生成する。なお、目標経路の生成方法は限定しない。
【0030】
次に、ステップS3では、走行軌道計画ユニット4の制限値設定部43は、ステップS1で取得した走行状況情報と、ステップS2で生成した目標経路とに基づいて、自車両が道路を走行する際に生じる車両運動の物理量に関する制限値を設定する。ここでは、自車両の上下加速度に対する前述の第1制限値と、自車両の上下加加速度に対する第2制限値とを、自車両が目標経路を走行する際の制限値としてそれぞれ設定する。このとき、走行状況情報が表す自車両の走行モードに応じて、設定する制限値を変化させてもよい。なお、制限値の設定方法は限定しない。
【0031】
次に、ステップS4では、走行軌道計画ユニット4の速度計画部44は、ステップS2で生成した目標経路と、ステップS3で設定した制限値とに基づいて、自車両が道路を走行する際の走行目標となる目標速度および目標加速度を生成する。ここでは、自車両の上下加速度が第1制限値以下であり、かつ上下加加速度が第2制限値以下となるように、目標経路の各地点における自車両の上限速度を算出し、この上限速度に基づいて目標速度を生成する。また、この目標速度を達成できるように、自車両の走行時にユーザが感じる乗り心地などに応じて予め設定された条件に基づき、目標経路の各地点における自車両の目標加速度を生成する。なお、ステップS4で速度計画部44により生成される目標速度の具体例については、図4Aから図6Bを参照して後述する。
【0032】
最後に、ステップS5では、走行軌道計画ユニット4の情報出力部45は、ステップS2で生成した目標経路と、ステップS4で生成した目標速度および目標加速度とに基づいて、走行軌道情報を生成し、走行制御ユニット5に出力する。
【0033】
<目標速度の例(凹型縦断勾配)>
次に、本実施形態において図3のステップS4で速度計画部44により生成される目標速度の具体例について、図4A図4Bを用いて以下に説明する。以下では、勾配が途中で変化する勾配変化区間を含む道路を自車両が走行する際の目標速度の一例として、道路の縦断勾配が下り勾配である下り勾配区間から、道路の縦断勾配が上り勾配である上り勾配区間に切り替わる場合(凹型縦断勾配)に、速度計画部44で時々刻々と生成される目標速度の例を説明する。
【0034】
図4Aは、本発明を適用せず上下方向の加速度のみを考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる凹型縦断勾配での車両運動に関する物理量の例を示している。図4Aにおいて、(a)~(c)の各グラフは、自車両が走行する道路の縦断勾配の変化を表している。具体的には、(a)路面高さ、(b)縦断勾配(θ)、(c)縦断曲線の曲率(κ)をそれぞれ表している。また、(d)~(f)の各グラフは、(a)~(c)のグラフで表される凹型縦断勾配の道路を自車両が走行する際の自車両の走行状況の変化を表している。具体的には、(d)車速(V)、(e)上下加速度(Gz)、(f)上下加加速度(Jz)を表している。ここで、(a)~(f)の各グラフにおいて、横軸は自車両の走行距離をそれぞれ表しており、各グラフ上で横軸方向の同じ位置にある点同士は、自車両の進行方向における道路上の同じ位置にそれぞれ対応している。すなわち、各グラフの点P1~P5のそれぞれは、自車両が道路上でこれらの点に対応する位置をそれぞれ走行する際の各物理量を表している。
【0035】
図4Aにおいて、制限値設定部43により設定される上下加速度に対する第1制限値をGzKと表すと、(d)のグラフで示される自車両の車速Vに対する上限値(上限速度)は、(b)の縦断勾配θと(c)の曲率κを用いて、以下の式(1)により表される。式(1)において、gは重力加速度を表している。
上限速度=√{[GzK+g・(cosθ-1)]/κ} ・・・(1)
【0036】
自車両の車速Vは、点P1から点P5までの勾配変化区間において、上記式(1)で求められる上限速度に制限される。このとき、自車両の上下加速度Gzおよび上下加加速度Jzは、図4A(e)、(f)のグラフに示すようにそれぞれ変化する。これらのグラフから分かるように、上下方向の加速度のみを考慮して自車両の目標速度を設定した場合、上下加速度Gzは第1制限値GzKの範囲内(-GzK以上)に収まっているが、上下加加速度Jzは第2制限値JzKの範囲(-JzK以上かつJzK以下)を超過している。したがって、自車両が凹型縦断勾配の道路を走行する際に乗員の乗り心地を改善するためには、目標速度について改善が必要であることが分かる。
【0037】
図4Bは、本発明の適用により上下方向の加速度と加加速度の両方を考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる凹型縦断勾配での車両運動に関する物理量の例を示している。図4Bにおける(a)~(f)の各グラフの構成は、図4Aと共通である。
【0038】
前述の式(1)で計算される上限速度は、上下加速度に対する第1制限値GzKに基づいて決定される上限速度である。一方、上下加加速度に対する第2制限値JzKに基づく上限速度は、以下の式(2)により表される。これらの上限速度のうちいずれか低い方の値が、図4Bにおいて(d)のグラフで示される自車両の車速Vに対する上限値(上限速度)として採用される。
上限速度=3√(JzK・ds/dκ) ・・・(2)
【0039】
自車両の車速Vは、点P1から点P5までの勾配変化区間において、上記のように決定される上限速度に制限される。この上限速度は、図4Aのグラフ(d)における上限速度よりも低い値となっていることが分かる。
【0040】
このとき、自車両の上下加速度Gzおよび上下加加速度Jzは、図4B(e)、(f)のグラフに示すようにそれぞれ変化する。これらのグラフから分かるように、上下方向の加速度と加加速度の両方を考慮して自車両の目標速度を設定した場合、上下加速度Gzが第1制限値GzKの範囲内(-GzK以上)に収まり、かつ、上下加加速度Jzが第2制限値JzKの範囲内(-JzK以上かつJzK以下)に収まっている。したがって、自車両が凹型縦断勾配の道路を走行する際に乗員の乗り心地を十分に確保できる。
【0041】
<目標速度の例(凸型縦断勾配)>
次に、本実施形態において図3のステップS4で速度計画部44により生成される目標速度の別の具体例について、図5A図5Bを用いて以下に説明する。以下では、勾配が途中で変化する勾配変化区間を含む道路を自車両が走行する際の目標速度の一例として、道路の縦断勾配が図4A図4Bの例とは反対に、上り勾配区間から下り勾配区間に切り替わる場合(凸型縦断勾配)に、速度計画部44で時々刻々と生成される目標速度の例を説明する。
【0042】
図5Aは、本発明を適用せず上下方向の加速度のみを考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる凸型縦断勾配での車両運動に関する物理量の例を示している。図5Aにおける(a)~(f)の各グラフの構成は、図4Aと共通である。
【0043】
図5Aにおいて、(d)のグラフで示される自車両の車速Vに対する上限値(上限速度)は、(b)の縦断勾配θと(c)の曲率κを用いて、前述の式(1)により表される。前述の図3Aの場合と同様に、車速Vは点P1から点P5までの勾配変化区間において、この上限速度に制限される。このとき、自車両の上下加速度Gzおよび上下加加速度Jzは、図5A(e)、(f)のグラフに示すようにそれぞれ変化する。これらのグラフから分かるように、上下方向の加速度のみを考慮して自車両の目標速度を設定した場合、上下加速度Gzは第1制限値GzKの範囲内(GzK以下)に収まっているが、上下加加速度Jzは第2制限値JzKの範囲(-JzK以上かつJzK以下)を超過している。したがって、自車両が凸型縦断勾配の道路を走行する際に乗員の乗り心地を改善するためには、前述の凹型縦断勾配の場合と同様に、目標速度について改善が必要であることが分かる。
【0044】
図5Bは、本発明の適用により上下方向の加速度と加加速度の両方を考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる凸型縦断勾配での車両運動に関する物理量の例を示している。図5Bにおける(a)~(f)の各グラフの構成は、図5Aと共通である。
【0045】
図5Bにおいても図4Bと同様に、(d)のグラフで示される自車両の車速Vに対する上限値(上限速度)は、前述の式(1)、(2)でそれぞれ計算される上限速度のうちいずれか低い方の値として決定される。自車両の車速Vは、点P1から点P5までの勾配変化区間において、この上限速度に制限される。この上限速度は、図5Aのグラフ(d)における上限速度よりも低い値となっていることが分かる。
【0046】
このとき、自車両の上下加速度Gzおよび上下加加速度Jzは、図5B(e)、(f)のグラフに示すようにそれぞれ変化する。これらのグラフから分かるように、上下方向の加速度と加加速度の両方を考慮して自車両の目標速度を設定した場合、上下加速度Gzが第1制限値GzKの範囲内(GzK以下)に収まり、かつ、上下加加速度Jzが第2制限値JzKの範囲内(-JzK以上かつJzK以下)に収まっている。したがって、前述の凹型縦断勾配の場合と同様に、自車両が凸型縦断勾配の道路を走行する際にも、乗員の乗り心地を十分に確保できる。
【0047】
以上説明した本発明の第1の実施形態において、走行軌道計画ユニット4が備える速度計画部44は、上下方向の加速度に加えてさらに加加速度を考慮して、自車両が勾配変化区間を走行する際の目標速度を設定する。これにより、自車両の走行中における振動の発生や上り坂の頂点で身体が浮く感覚などの不快感を抑制しつつ、自車両の車両運動に関する物理量を制限値内に収めることができる。したがって、情報出力部45からの走行軌道を受信する走行制御ユニット5は、乗り心地の良い車両制御を実現するように、パワートレインシステム6、ブレーキシステム7、ステアリングシステム8を制御することができる。
【0048】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0049】
(1)車両運動制御装置2は、走行軌道計画ユニット4において、自車両の走行状況に関する情報(走行状況情報)を取得する情報取得部41と、自車両の目標速度および目標加速度を生成する速度計画部44とを備える。速度計画部44は、自車両が道路を走行する際に自車両に生じる上下加速度Gzおよび上下加加速度Jzについて、上下加速度Gzが所定の第1制限値GzK以下であり、かつ上下加加速度Jzが所定の第2制限値JzK以下となるように、情報取得部41が取得した走行状況情報に基づいて自車両の目標速度を生成するとともに、自車両の目標加速度を生成する。このようにしたので、道路勾配が変化する道路を車両が走行する際に、乗員の安心感や乗心地を改善することができる。
【0050】
(2)走行軌道計画ユニット4は、走行状況情報に基づいて自車両が道路を走行する際の目標経路を生成する経路計画部42を備える。速度計画部44は、経路計画部42により生成された目標経路と、第1制限値GzKおよび第2制限値JzKとに基づいて、道路の勾配が変化する勾配変化区間での自車両の上限速度を算出し、この上限速度に基づいて目標速度を生成する(図4B図5B)。このようにしたので、道路勾配に応じて適切な上限速度を設定し、目標速度の生成を行うことができる。
【0051】
(3)上記の勾配変化区間は、図4B図5Bに示すように道路の縦断勾配が変化する区間を含む。そのため、自車両が走行中の道路における縦断勾配の変化に伴って生じる上下加速度や上下加加速度を確実に抑制でき、その結果、乗員の安心感や乗心地の向上につながる。
【0052】
(第2の実施形態)
次に、図6A図6Bを用いて、本発明の第2の実施形態に係る車両運動制御装置を以下に説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態との共通点については、特に必要のない限り、その重複説明を省略する。
【0053】
本実施形態では、自車両の上下加速度に加え、さらに横加速度を考慮して自車両の目標速度を設定する場合の例を説明する。なお、本実施形態における車載システム1や車両運動制御装置2、走行軌道計画ユニット4の構成は、第1の実施形態とそれぞれ共通である。また、走行軌道計画ユニット4の処理手順についても、第1の実施形態で説明した図3のフローチャートと同様である。
【0054】
<目標速度の例(横断勾配)>
次に、本実施形態において図3のステップS4で速度計画部44により生成される目標速度の具体例について、図6A図6Bを用いて以下に説明する。以下では、勾配が途中で変化する勾配変化区間を含む道路を自車両が走行する際の目標速度の一例として、道路の横断勾配が変化する場合に、速度計画部44で時々刻々と生成される目標速度の例を説明する。
【0055】
図6Aは、本発明を適用せず上下方向と横方向の加速度のみを考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる横断勾配変化での車両運動に関する物理量の例を示している。図6Aにおいて、(a)~(c)の各グラフは、自車両が走行する道路の横断勾配の変化を表している。具体的には、(a)鳥観図、(b)横断勾配(θ)、(c)カーブ曲率(κ)をそれぞれ表している。また、(d)~(g)の各グラフは、(a)~(c)のグラフで表される道路を自車両が走行する際の自車両の走行状況の変化を表している。具体的には、(d)車速(V)、(e)上下加速度(Gz)、(f)上下加加速度(Jz)、(g)横加速度(Gy)を表している。ここで、(a)~(g)の各グラフは、図4Aと同様に、横軸は自車両の走行距離をそれぞれ表しており、各グラフ上で横軸方向の同じ位置にある点同士は、自車両の進行方向における道路上の同じ位置にそれぞれ対応している。すなわち、各グラフの点P1~P5のそれぞれは、自車両が道路上でこれらの点に対応する位置をそれぞれ走行する際の各物理量を表している。
【0056】
図6Aにおいて、制限値設定部43により設定される上下加速度に対する第1制限値をGzKとし、さらに横加速度に対する制限値(以下「第3制限値」と称する)をGyKと表すと、(d)のグラフで示される自車両の車速Vに対する上限値(上限速度)は、以下の式(3)、(4)でそれぞれ表される上限速度のうち、いずれか小さい方の値として決定される。
上下加速度による上限速度
=√{[GzK+g・(cosθ-1)]/κ・sinθ} ・・・(3)
横加速度による上限速度
=√[(GyK+g・sinθ)/κ・cosθ] ・・・(4)
【0057】
自車両の車速Vは、点P1から点P5までの勾配変化区間において、上記式(3)、(4)で求められる上限速度に制限される。このとき、自車両の上下加速度Gz、上下加加速度Jzおよび横加速度Gyは、図6A(e)、(f)、(g)のグラフに示すようにそれぞれ変化する。これらのグラフから分かるように、上下方向と横方向の加速度のみを考慮して自車両の目標速度を設定した場合、上下加速度Gzは第1制限値GzKの範囲内(-GzK以上)に収まり、かつ横加速度Gyも第3制限値GyKの範囲内(-GyK以上)に収まっているが、上下加加速度Jzは第2制限値JzKの範囲(-JzK以上かつJzK以下)を超過している。したがって、自車両が図6Aのような道路を走行する際に乗員の乗り心地を改善するためには、目標速度について改善が必要であることが分かる。
【0058】
図6Bは、本発明の適用により上下方向と横方向の加速度に加えて、さらに上下方向の加加速度を考慮して自車両の目標速度を設定する場合に、自車両において生じる横断勾配変化での車両運動に関する物理量の例を示している。図6Bにおける(a)~(g)の各グラフの構成は、図6Aと共通である。
【0059】
前述の式(3)、(4)で計算される上限速度は、上下方向と横方向の加速度に対する第1制限値GzKおよび第3制限値GyKに基づいて決定される上限速度である。一方、上下加加速度に対する第2制限値JzKに基づく上限速度は、第1の実施形態で説明したように、前述の式(2)により表される。これらの上限速度のうちいずれか低い方の値が、図6Bにおいて(d)のグラフで示される自車両の車速Vに対する上限値(上限速度)として採用される。
【0060】
自車両の車速Vは、点P1から点P5までの勾配変化区間において、上記のように決定される上限速度に制限される。この上限速度は、図6Aのグラフ(d)における上限速度よりも低い値となっていることが分かる。
【0061】
このとき、自車両の上下加速度Gz、上下加加速度Jzおよび横加速度Gyは、図6B(e)~(g)のグラフに示すようにそれぞれ変化する。これらのグラフから分かるように、上下方向と横方向の加速度に加えてさらに上下方向の加加速度を考慮して自車両の目標速度を設定した場合、上下加速度Gzと横加速度Gyが第1制限値GzK、第3制限値GyKの範囲内(-GzK以上、-GyK以上)にそれぞれ収まり、かつ、上下加加速度Jzが第2制限値JzKの範囲内(-JzK以上かつJzK以下)に収まっている。したがって、自車両が横断勾配の変化する道路を走行する際に乗員の乗り心地を十分に確保できる。
【0062】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、勾配変化区間は、道路の横断勾配が変化する区間を含む。速度計画部44は、この横断勾配が変化する区間での自車両の横加速度Gyが所定の第3制限値GyK以下となるように、自車両の上限速度を算出する。このようにしたので、横断勾配が途中で変化する道路を車両が走行する際に、乗員の安心感や乗心地を改善することができる。
【0063】
(第3の実施形態)
次に、図7図8を用いて、本発明の第3の実施形態に係る車両運動制御装置を以下に説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態との共通点については、特に必要のない限り、その重複説明を省略する。
【0064】
本実施形態では、勾配変化区間内で自車両の目標速度を変化させて設定する場合の例を説明する。なお、本実施形態における車載システム1や車両運動制御装置2、走行軌道計画ユニット4の構成は、第1の実施形態とそれぞれ共通である。また、走行軌道計画ユニット4の処理手順についても、第1の実施形態で説明した図3のフローチャートと同様である。
【0065】
図7は、本実施形態の車両運動制御装置を搭載した自車両が凹型縦断勾配の走行経路を走行する際に、自車両において生じる車両運動に関する物理量の例を示している。図7における(a)~(f)の各グラフの構成は、第1の実施形態で説明した図4A図4Bと共通である。
【0066】
本実施形態では、図7(d)のグラフに示すように、点P1から点P5までの勾配変化区間において、自車両の車速Vに対する上限速度が徐々に高くなるように設定している。すなわち、下り勾配区間から上り勾配区間に切り替わる凹型縦断勾配の場合、速度計画部44は、上限速度が勾配変化区間内で下り勾配区間から上り勾配区間にかけて次第に上昇するように、上限速度を算出する。このようにすることで、自車両が勾配変化区間の前半の下り勾配を走行している時の乗員の安心感が向上する。さらに、下り勾配から上り勾配に差し掛かる前に加速を始めることができるため、乗員が感じる加速不足感を低減することができる。
【0067】
図8は、本実施形態の車両運動制御装置を搭載した自車両が凸型縦断勾配の走行経路を走行する際に、自車両において生じる車両運動に関する物理量の例を示している。図8における(a)~(f)の各グラフの構成は、第1の実施形態で説明した図5A図5Bと共通である。
【0068】
本実施形態では、図8(d)のグラフに示すように、点P1から点P5までの勾配変化区間において、自車両の車速Vに対する上限速度が徐々に低くなるように設定している。すなわち、上り勾配区間から下り勾配区間に切り替わる凸型縦断勾配の場合、速度計画部44は、上限速度が勾配変化区間内で上り勾配区間から下り勾配区間にかけて次第に低下するように、上限速度を算出する。このようにすることで、例えば自車両から上り勾配の頂点の先が見えず、その先に先行車がいるかどうか不明な場合でも、自車両を減速しながら走行させることができるため、乗員の安心感が向上する。さらに、上り勾配を超えた後に先行車が検出された場合でも自車両を急減速させる必要がないため、乗員の乗り心地をより一層向上させることができる。
【0069】
以上説明した本発明の第3の実施形態によれば、勾配変化区間は、縦断勾配が下り勾配である下り勾配区間と、縦断勾配が上り勾配である上り勾配区間とを含む。速度計画部44は、下り勾配区間における上限速度よりも上り勾配区間における上限速度が高くなるように、上限速度を算出する。具体的には、例えば図7のように下り勾配区間から上り勾配区間に切り替わる場合、速度計画部44は、上限速度が勾配変化区間内で下り勾配区間から上り勾配区間にかけて次第に上昇するように、上限速度を算出する。また、例えば図8のように上り勾配区間から下り勾配区間に切り替わる場合、速度計画部44は、上限速度が勾配変化区間内で上り勾配区間から下り勾配区間にかけて次第に低下するように、上限速度を算出する。このようにしたので、乗員の安心感を向上させるとともに、乗員の乗り心地をより一層向上させることができる。
【0070】
(第4の実施形態)
次に、図9を用いて、本発明の第4の実施形態に係る車両運動制御装置を以下に説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態との共通点については、特に必要のない限り、その重複説明を省略する。
【0071】
本実施形態では、上位コントローラから送信されるフラグ情報に基づいて、速度計画部44による目標速度および目標加速度の生成を許可または禁止する場合の例を説明する。なお、本実施形態における車載システム1や車両運動制御装置2、走行軌道計画ユニット4の構成は、第1の実施形態とそれぞれ共通である。
【0072】
図9は、本発明の第4の実施形態に係る走行軌道計画ユニット4のフローチャートである。このフローチャートは、第1の実施形態で説明した図3のフローチャートに対して、ステップS1とステップS2の間にステップS6の処理を追加したものである。本実施形態の走行軌道計画ユニット4は、図9のフローチャートに示す処理を所定の演算周期ごとに実行することで、走行軌道情報を生成する。
【0073】
ステップS6では、上位のコントローラ(例えば、運行管理ユニット3)で生成され、ステップS1で走行状況情報とともに取得したフラグ情報に基づいて、速度計画部44の処理を禁止するか否かを判定する。その結果、フラグ情報が処理禁止を示すものである場合は(ステップS6:YES)、図9のフローチャートに示す処理を終了する。この場合、ステップS2以降の処理が実行されないため、速度計画部44の処理が禁止され、自車両の目標速度と目標加速度は算出されない。一方、フラグ情報が処理許可を示すものである場合は(ステップS6:NO)、ステップS2以降の処理へ進む。この場合、速度計画部44の処理が許可されてステップS2以降の処理が実行され、自車両の目標速度と目標加速度が算出されて、車両運動制御装置2による自車両の走行制御が行われる。
【0074】
以上説明した本発明の第4の実施形態によれば、車両運動制御装置2は上位コントローラと接続されており、この上位コントローラから送信されるフラグ情報に基づいて、速度計画部44による目標速度および目標加速度の生成を許可または禁止する(ステップS6)。このようにしたので、状況に応じて車両運動制御装置2の処理内容を適切に切り替えることができる。例えば、センサやシステムの異常検出時等に、上位コントローラの指示により、車両運動制御装置2が行う安心感や乗り心地を改善するための処理を禁止して、回避性能を重視した上位コントローラの制御に移行させることができる。これにより、センサやシステムの異常発生時には、乗り心地の悪化を招くものの、センサやシステムの異常による障害物への衝突を回避して安全性を確保することができる。
【0075】
(第5の実施形態)
次に、図10を用いて、本発明の第5の実施形態に係る車両運動制御装置を以下に説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態との共通点については、特に必要のない限り、その重複説明を省略する。
【0076】
本実施形態では、速度計画部44において、目標速度および目標加速度の候補をそれぞれ複数ずつ生成し、これらの中からいずれかをそれぞれ選択して自車両の走行制御に用いる場合の例を説明する。なお、本実施形態における車載システム1の構成は、第1の実施形態と共通であるが、車両運動制御装置2の構成の一部が異なっている。
【0077】
図10は、本発明の第5の実施形態に係る走行軌道計画ユニット4の機能ブロック図である。本実施形態の走行軌道計画ユニット4は、第1の実施形態で説明した図2の構成において、速度計画部44内に目標速度・加速度候補生成部44aと目標速度・加速度選択部44bを追加したものである。
【0078】
目標速度・加速度候補生成部44aは、経路計画部42により生成された目標経路と、制限値設定部43により設定された制限値とに基づいて、自車両が道路を走行する際の走行目標となる目標速度および目標加速度の候補を複数ずつ生成する。ここでは、自車両が目標経路を走行する時に生じる自車両の車両運動に関する物理量が制限値内になる目標速度と目標加速度の組み合わせを複数生成し、生成された各組み合わせを目標速度・加速度選択部44bに出力する。
【0079】
目標速度・加速度選択部44bは、情報取得部41により取得された走行状況情報が表す自車両の現在の走行モード(最短時間モードやエコノミモードなど)に基づいて、目標速度・加速度候補生成部44aにより生成された複数の目標速度および目標加速度の候補のうち、いずれか1つずつをそれぞれ選択する。そして、選択した目標速度および目標加速度の候補を、目標速度および目標加速度として情報出力部45に出力する。
【0080】
例えば、走行状況情報が最短時間モードを示す場合には、目標速度・加速度候補生成部44aが生成した複数の目標速度および目標加速度の候補の中から、移動時間が最短のものを選択する。また、走行状況情報がエコノミモードを示す場合には、目標速度・加速度候補生成部44aが生成した複数の目標速度および目標加速度の候補の中から、消費エネルギが最小のものを選択する。つまり、目標速度・加速度選択部44bでは、自車両の走行モードに応じて、複数の目標速度および目標加速度の候補の中から、移動時間が最短の組み合わせや消費エネルギが最小の組み合わせを、最終的な目標速度および目標加速度として選択することができる。
【0081】
以上説明した本発明の第5の実施形態によれば、速度計画部44は、目標速度・加速度候補生成部44aにおいて、目標速度および目標加速度の候補をそれぞれ複数ずつ生成する。また、目標速度・加速度選択部44bにおいて、走行状況情報が表す自車両の走行モードに基づいて、目標速度・加速度候補生成部44aが生成した複数の目標速度および目標加速度の候補の中からいずれかをそれぞれ選択する。このようにしたので、第1~第4の各実施形態と同様の効果が得られるだけでなく、自車両における走行モードの選択状況に応じて車両運動を制御することができる。
【0082】
なお、以上説明した第1~第5の各実施形態において、制限値の設定対象に自車両の前後加速度、前後加加速度、横加加速度などを含めてもよい。速度計画部44は、それらを含めてそれぞれの制限内になるように、自車両が勾配変化区間を走行する際の上限速度を算出して自車両の目標速度を生成することができる。
【0083】
また、以上説明した第1~第5の各実施形態において、制限値設定部43は、前述の第1制限値、第2制限値、第3制限値をそれぞれ設定する際に、これらの少なくとも一つを、自車両の乗員、自車両の積み荷の質量、大きさおよび配置、走行状況情報が表す自車両の走行状況などに基づいて設定するようにしてもよい。これにより、速度計画部44では、自車両の状況をより詳細に反映して設定された制限値に基づいて、自車両の目標速度や目標加速度を生成することができる。そのため、自車両の走行時の乗り心地を更に改善することができる。
【0084】
なお、本発明は上記した各種の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために、具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を、他の実施形態の構成の一部に置換することもできる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することもできる。また、各実施形態の構成の一部について、それを削除し、他の構成の一部を追加し、他の構成の一部と置換することもできる。
【0085】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 車載システム
2 車両運動制御装置
3 運行管理ユニット
4 走行軌道計画ユニット
5 走行制御ユニット
6 パワートレインシステム
7 ブレーキシステム
8 ステアリングシステム
11 車外通信装置
12 GNSS
13 地図情報記憶部
14 センサ
15 HMIユニット
41 情報取得部
42 経路計画部
43 制限値設定部
44 速度計画部
45 情報出力部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10