(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168779
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】水処理システム及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20241128BHJP
【FI】
C02F1/44 A
C02F1/44 D
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085714
(22)【出願日】2023-05-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-08
(71)【出願人】
【識別番号】517039483
【氏名又は名称】WOTA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 史郎
(72)【発明者】
【氏名】川島 一徳
(72)【発明者】
【氏名】森島 龍司
(72)【発明者】
【氏名】新妻 拓
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006JA58Z
4D006KA16
4D006KE03P
4D006KE03Q
4D006KE13P
4D006KE13Q
4D006KE19P
4D006KE23Q
4D006KE24Q
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB08
(57)【要約】
【課題】ろ過装置を間欠的に運転させた場合にも高い再生率で高純度のろ過水が得られる水処理システム及び水処理方法の提供。
【解決手段】原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過膜を含むろ過部と、前記ろ過部に原水を供給する供給部と、前記ろ過部から取り出される透過水を貯留する貯留部と、前記ろ過部と前記貯留部との間に設けられ、ろ過部から取り出される透過水の一部を前記供給部に移送する移送ラインと、を備え、前記移送ラインは、ろ過部の運転開始直後にろ過部から取り出される透過水を供給部に移送する、水処理システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過膜を含むろ過部と、
前記ろ過部に原水を供給する供給部と、
前記ろ過部から取り出される透過水を貯留する貯留部と、
前記ろ過部と前記貯留部との間に設けられ、ろ過部から取り出される透過水の一部を前記供給部に移送する移送ラインと、を備え、
前記移送ラインは、ろ過部の運転開始直後にろ過部から取り出される透過水を供給部に移送する、水処理システム。
【請求項2】
前記移送ラインは、ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度が基準値以下となり、かつ不純物濃度が一定となるまで透過水の移送を実施する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記ろ過部は、運転開始直後にろ過部から取り出される透過水の不純物濃度が基準値を超えた状態で一定になる場合は運転を停止する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記移送ラインにより移送される透過水の量は、ろ過部の容量の25体積%~1000体積%である、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記ろ過部から取り出される濃縮水を供給部に移送する移送ラインをさらに備える、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項6】
ろ過膜を用いて原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過工程と、
透過水の一部を原水と混合する混合工程と、を備え、
原水と混合される透過水は、ろ過の開始直後に得られる透過水である、水処理方法。
【請求項7】
前記混合工程は、原水と混合される透過水の不純物濃度が基準値以下となり、かつ不純物濃度が一定となるまで実施される、請求項6に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記ろ過工程は、原水と混合される透過水の不純物濃度が基準値を超えた状態で一定になる場合は停止される、請求項6に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記原水と混合される透過水の量は、ろ過膜を含むろ過装置の容量の25体積%~1000体積%である、請求項6に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記ろ過工程で得られる濃縮水を原水と混合する工程をさらに備える、請求項6~請求項9のいずれか1項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水処理システム及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ろ過膜を利用したろ過装置は、水中の不純物を除去する性能がきわめて高いため、工業用の純水や飲料水の製造に用いられている。
例えば、特許文献1には逆浸透膜式のろ過装置を備えた飲料水の自動販売機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ろ過膜を使用したろ過装置では、ろ過装置に供給される原水に圧力を印加してろ過膜を透過する水(透過水)と、ろ過膜を透過しない水(濃縮水)とに分離することで不純物を除去する。
ろ過膜を利用するろ過装置を自動販売機や家庭用浄水器のような水処理の規模が比較的小さいシステムに適用する際は、ろ過装置を常時運転させるのではなく、休止期間を設けて間欠的に運転させるのが消費電力節約等の観点から望ましい。しかしながら、ろ過装置を間欠的に運転させた場合、ろ過開始後に得られるろ過水の不純物濃度は、ろ過装置を常時運転させた場合に得られるろ過水の不純物濃度よりも高くなる場合がある。
そこで本開示は、ろ過装置を間欠的に運転させた場合にも高い再生率で高純度のろ過水が得られる水処理システム及び水処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過膜を含むろ過部と、
前記ろ過部に原水を供給する供給部と、
前記ろ過部から取り出される透過水を貯留する貯留部と、
前記ろ過部と前記貯留部との間に設けられ、ろ過部から取り出される透過水の一部を前記供給部に移送する移送ラインと、を備え、
前記移送ラインは、ろ過部の運転開始直後にろ過部から取り出される透過水を供給部に移送する、水処理システム。
<2>前記移送ラインは、ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度が基準値以下となり、かつ不純物濃度が一定となるまで透過水の移送を実施する、<1>に記載の水処理システム。
<3>前記ろ過部は、運転開始直後にろ過部から取り出される透過水の不純物濃度が基準値を超えた状態で一定になる場合は運転を停止する、<1>又は<2>に記載の水処理システム。
<4>前記移送ラインにより移送される透過水の量は、ろ過部の容量の25体積%~1000体積%である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の水処理システム。
<5>前記ろ過部から取り出される濃縮水を供給部に移送する移送ラインをさらに備える、<1>~<4>のいずれか1項に記載の水処理システム。
<6>ろ過膜を用いて原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過工程と、
透過水の一部を原水と混合する混合工程と、を備え、
原水と混合される透過水は、ろ過の開始直後に得られる透過水である、水処理方法。
<7>前記混合工程は、原水と混合される透過水の不純物濃度が基準値以下となり、かつ不純物濃度が一定となるまで実施される、<6>に記載の水処理方法。
<8>前記ろ過工程は、原水と混合される透過水の不純物濃度が基準値を超えた状態で一定になる場合は停止される、<6>又は<7>に記載の水処理方法。
<9>前記原水と混合される透過水の量は、ろ過膜を含むろ過装置の容量の25体積%~1000体積%である、<6>~<8>のいずれか1項に記載の水処理方法。
<10>前記ろ過工程で得られる濃縮水を原水と混合する工程をさらに備える、<6>~<9>のいずれか1項に記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、ろ過装置を間欠的に運転させた場合にも高い再生率で高純度のろ過水が得られる水処理システム及び水処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】水処理システムの構成の一例を示す概念図である。
【
図2】ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度の変動パターンの一例を示すグラフである。
【
図3】ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度の変動パターンの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0009】
<水処理システム>
本開示の水処理システムは、
原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過膜を含むろ過部と、
前記ろ過部に原水を供給する供給部と、
前記ろ過部から取り出される透過水を貯留する貯留部と、
前記ろ過部と前記貯留部との間に設けられ、ろ過部から取り出される透過水の一部を前記供給部に移送する移送ラインと、を備え、
前記移送ラインは、ろ過部の運転開始直後にろ過部から取り出される透過水を供給部に移送する、水処理システムである。
【0010】
本開示の水処理システムは、ろ過装置を間欠的に運転させた場合にも高い再生率(すなわち、ろ過部に供給される原水に対して得られるろ過水の割合)で高純度のろ過水が得られる。このため、水処理の規模が比較的小さくろ過装置を常時運転する必要がない場合、例えば、家屋用の水処理システムとして好適である。
【0011】
本開示の水処理システムは、ろ過膜を含むろ過部を備える。ろ過部では、供給部から供給される原水を、透過水(ろ過膜を透過する水)と、濃縮水(ろ過膜を透過しない水)とに分離する。
【0012】
ろ過膜を利用するろ過装置を間欠的に運転させた場合、ろ過開始後に得られる透過水の不純物濃度は常時運転時に得られる透過水の不純物濃度よりも高くなる場合がある。この要因としては、ろ過部が休止している間にろ過膜の透過水側の水圧と濃縮水側の水圧との間に差がなくなることで発生する、濃縮水側の不純物の一部が透過水側に混入する現象(クリープ現象)が考えられる。
【0013】
本発明者らの検討の結果、ろ過装置を間欠的に運転した場合、運転直後に得られる透過水の不純物濃度はそれ以降に得られる透過水の不純物濃度よりも高い傾向にあることがわかった。そこで、本開示の水処理システムを用いて原水の処理を行った。その結果、ろ過装置を間欠的に運転した場合であっても、貯留部に貯留される透過水の不純物濃度を低く維持することができた。この結果は、ろ過装置の運転直後に得られる透過水の不純物濃度はそれ以降に得られる透過水の不純物濃度よりも高いという本発明者らの見出した知見と合致する。
【0014】
本開示の水処理システムは、ろ過部から取り出される透過水の一部を供給部に移送するための移送ラインをろ過部と貯留部との間に備えている。この移送ラインは、ろ過部から取り出される透過水のうち、ろ過部の運転開始直後にろ過部から取り出される透過水を供給部に移送する。すなわち、移送ラインはろ過部の運転開始直後に得られる不純物濃度が高い透過水が貯留部に移送されるのを防ぐ役割を果たす。
【0015】
さらに、本開示の水処理システムでは、移送ラインにより移送される透過水が供給部に移送されて再びろ過部に供給される。このため、運転開始直後の透過水を単に廃棄する場合に比べて節水能力に優れている。
【0016】
本開示において「ろ過部の運転直後」とは、ろ過部の運転開始からの所定の時間tが経過するまでの期間を意味する。
時間tは、ろ過部の運転開始から時間tが経過した後にろ過部から取り出される透過水の不純物濃度が所定の基準値以下となるように設定することが好ましい。
時間tを設定する際の指標は、水処理システムの処理能力、ろ過膜の使用日数、水処理システムの使用に関するパターンを考慮して設定してもよい。
水処理システムの使用に関するパターンとして具体的には、ユーザーの属性(人数、男女比、年齢等)、生活習慣、生活態様、嗜好、飼育ペットの有無や種類などが挙げられる。
【0017】
ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度の基準値の設定は、種々の指標を用いて行うことができる。例えば、下記の指標のうち1つ又は2つ以上の組み合わせを用いて基準値を設定してもよい。
(1)電気伝導度(Electrical Conductivity、EC)、pH、酸化還元電位、アルカリ度、イオン濃度、硬度
(2)濁度、色度、粘度、溶存酸素量
(3)臭気度、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、全窒素、残留塩素、全リン、全有機炭素、全無機炭素又は全トリハロメタンの量
(4)微生物センサの検知結果、化学的酸素要求量、生物学的酸素要求量
(5)シアン、水銀、油分又は界面活性剤の量
(6)光学センサの検知結果、TDS(Total Dissolved Solids)センサの検知結果
(7)質量分析結果、微粒子の量、ゼータ電位、表面電位
上記指標の中でも、簡便性の観点からは電気伝導度、濁度、色度、臭気度及び粘度が好ましい。
【0018】
本開示の水処理システムにおいて、移送ラインは、ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度が基準値以下となり、かつ不純物濃度が一定となるまで透過水の移送を実施することが好ましい。
より詳細には、間欠的に運転されるろ過部から取り出される透過水の不純物濃度は、ろ過部の運転開始から時間の経過とともに不純物濃度が上昇する第1段階、不純物濃度が下降する第2段階、及び不純物濃度が一定になる第3段階をこの順に含む変動パターンを示す傾向にある。
【0019】
間欠的に運転されるろ過部のろ過再開時(Ts)からの時間の経過に伴う透過水の不純物濃度の変動パターンの例を、
図2及び
図3に示す。
図2に示すように第3段階における不純物濃度があらかじめ設定した基準値(この例では電気伝導度100μS/cmとする)以下であると、ろ過部から取り出される透過水を貯留部に移送しても貯留部における不純物濃度が充分に低い状態を維持することができる。したがって、第3段階に移行するろ過水移送終了時(Tt)まで透過水の移送を実施することが好ましい。
一方、
図3に示すように第3段階における不純物濃度が基準値(この例では電気伝導度500μS/cmとする)を超えていると、ろ過部から取り出される透過水を貯留部に移送すると貯留部における不純物濃度が高まるおそれがある。したがって、ろ過停止時(Tt)においてろ過部の運転そのものを停止することが好ましい。
【0020】
上述したように、移送ラインによる透過水の移送をろ過部から取り出される透過水の不純物濃度の変動パターンを考慮した方法で実施することで、貯留部に貯留される透過水の不純物濃度をより確実に管理することができる。
以上の観点から、水処理システムは、ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度を監視する監視部と、監視部による不純物濃度の監視結果又は監視結果から導かれる不純物濃度の変動パターンに基づいて移送ラインの運転を制御する制御部と、を備えることが好ましい。
【0021】
本開示の水処理システムにおいて、ろ過部は、運転開始直後にろ過部から取り出される透過水の不純物濃度が基準値を超えた状態で一定になる場合は運転を停止することが好ましい。停止後は、ろ過部におけるろ過膜を洗浄する運転が開始されるようにしてもよいし、切替バルブにより基準値を超えた不純物濃度の透過水を本開示の水処理システムの系外へ排出してもよい。また、ろ過部の運転開始直後にろ過部から取り出される透過水の不純物濃度の変動パターンが過去の監視結果から導かれる不純物濃度の変動パターンとは異なる異常パターンを監視した場合にも、ろ過部の運転そのものを停止、または透過水を本開示の水処理システムの系外へ排出するよう制御してもよい。
ろ過部が上述の場合に運転を停止、または透過水を系外へ排出することで、貯留部に貯留される透過水の不純物濃度をより確実に管理でき、循環型の水処理システムの利用者に安全な水を提供することができる。
以上の観点から、水処理システムは、ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度を監視する監視部と、監視部による不純物濃度の監視結果に基づいてろ過部の運転を制御する制御部と、を備えることが好ましい。
【0022】
透過水の不純物濃度の基準値は、例えば、水処理システムで得られるろ過水の用途などに基づいて設定できる。
具体的には、ろ過水をトイレ用水として使用する場合は、ろ過水の電気伝導度を500μS/cm以下となるように設定してもよい。ろ過水を家庭で一般的に使用される用途(食器洗い、洗濯、入浴、手洗い等)としては、ろ過水の電気伝導度を250μS/cm以下、又はより好ましくは100μS/cm以下になるように設定してもよい。
【0023】
透過水の不純物濃度の監視は、種々の指標を用いて行うことができる。例えば、ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度の基準値の設定に使用されうる上述した指標のうち1つ又は2つ以上の組み合わせを用いて基準値を設定してもよい。
上記指標の中でも、簡便性の観点からは電気伝導度、濁度、色度、臭気度及び粘度が好ましい。
【0024】
貯留部内の透過水の不純物濃度を低く維持する観点からは、移送ラインにより供給部に移送される透過水の割合(以下、戻し率ともいう)は、ろ過部の容量(すなわち、ろ過部に収容可能な水の量の最大値)の25体積%以上であることが好ましく、100体積%以上であることがより好ましく、400体積%以上、であることがさらに好ましい。
水処理システムの稼働効率の観点からは、上記戻し率は1000体積%以下であることが好ましく、750体積%以下であることがより好ましく、500体積%以下であることがさらに好ましい。上記戻し率はろ過部の容量の25体積%~1000体積%(すなわち、ろ過部の容量の0.25倍~10倍)、又は100体積%~500体積%(すなわち、ろ過部の容量の1倍~5倍)であってもよい。
【0025】
本開示の水処理システムの規模が比較的小さく、ろ過水を直ぐに利用に供する必要があるような場合においては、透過水の不純物濃度の監視結果を待って移送ライン又はろ過部の運転の制御に反映させるのでは時間がかかりすぎてしまい、利用者の利便性に応えた適切な再生水の供給ができないおそれがある。そこで、移送ラインによる透過水の戻し率を設定することで効果的な水処理を実施することができる。
透過水の戻し率は、ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度の監視結果又は監視結果から導かれる不純物濃度の変動パターンを記録し、当該記録に基づいて設定してもよい。
【0026】
透過水の移送を実施するように移送ラインを操作する方法は、特に制限されない。
例えば、水処理システムの利用環境下において学習したろ過部から取り出される透過水の不純物濃度の過去の第1段階~第3段階での変動パターンに基づいて、移送ラインによって移送されるべき透過水の量Qをあらかじめ設定し、ろ過部の運転の開始と同時に移送ラインによる透過水の移送を開始し、移送された透過水の量が設定値Qに達したときに移送ラインによる透過水の移送を停止する方法が挙げられる。
あるいは、移送ラインによって移送されるべき量の透過水の移送に要する時間Tをあらかじめ設定し、ろ過部の運転の開始と同時に移送ラインによる透過水の移送を開始し、移送開始からの経過時間が設定値Tに達したときに移送ラインによる透過水の移送を停止する方法が挙げられる。
移送ラインによる透過水の移送量又は移送時間が設定値に達したか否かを判断するための手段は特に制限されず、積算流量計、流速計、タイマー(ろ過流量が一定の場合等)などを使用できる。
移送ラインの操作の制御は、例えば、コンピュータ等の演算処理機能を持つ装置を用いて行うことができる。
【0027】
本開示の水処理システムの構成の一例について、図面を参照して説明する。
図1に示す水処理システム10は、ろ過膜を含むろ過部1と、ろ過部1に原水を供給する供給部2と、ろ過部から取り出される透過水を貯留する貯留部3と、ろ過部1と貯留部3との間に設けられ、ろ過部1から取り出される透過水の一部を供給部2に移送する移送ラインAと、を備えている。図中の矢印は、水処理システム内の水の移送方向を示す。
【0028】
より具体的には、供給部2からろ過部1に供給された原水は、ろ過部1において圧力を印加されてろ過膜を透過しない濃縮水と、ろ過膜を透過する透過水と、に分離される。透過水はろ過部1から取り出され、移送ラインAによって供給部2に移送される分を除き、貯留部3に貯留される。
【0029】
ろ過部1の構成は、ろ過膜を含むものであれば特に制限されない。例えば、ろ過部1はろ過膜のロール状物又は積層物を容器に収容した状態であってもよい。ろ過部1は、ろ過部1に供給される原水に圧力を印加するための機構を備えていてもよく、当該機構は外部電源に接続されてもよい。
ろ過部1に含まれるろ過膜の種類は特に制限されず、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)等から選択できる。不純物の除去性能の観点からは、ろ過膜としては逆浸透膜及びナノろ過膜が好ましく、逆浸透膜がより好ましい。
【0030】
供給部2は、ろ過部1に原水を供給する機能に加えて他の機能を備えていてもよい。すなわち、本開示における「ろ過部」は、ろ過部1に原水を供給する機構のみならず、当該機構と他の機能を果たすための機構との組み合わせを包含する概念である。
【0031】
供給部2が備えてもよい他の機能として具体的には、ろ過水の使用者による利用後の排水を原水として回収及び貯留する機能、ろ過部に移送される前の原水の前処理を行う機能、前処理後の原水を貯留する機能などが挙げられる。
供給部2が排水を原水として回収及び貯留する機能を備えることで、ろ過水の再利用が可能となり、循環式の水処理システムを構築できる。
供給部2が原水の前処理を行う機能を備えることで、原水からの不純物の除去性能をより高めることができ、より効率的に高純度のろ過水を得ることができる。また、ろ過膜の寿命を長くすることができる。
【0032】
原水の前処理の種類は特に制限されず、原水の状態、ろ過水の用途等に応じて選択でき、2種以上の前処理を組み合わせてもよい。前処理として具体的には、生物処理、副次ろ過等が挙げられる。
供給部2が生物処理機能を備える場合、生物処理の方式は特に制限されず、活性汚泥法などの公知の方式であってよい。特に、生物処理の対象物が生活排水である場合は、微生物の活動に必要な栄養源(窒素化合物、リンなど)が不足して処理効率が低下しやすい。このため、ろ過部の運転開始直後にろ過部から取り出される透過水を供給部へ移送して、微生物の栄養源として供してもよい。これにより、微生物の活性が良好に維持され、より効率的かつ高度な水再生率が実現する。
副次ろ過の種類は特に制限されず、水処理システムの用途に応じて選択できる。水処理システムによる不純物の除去効率を高める観点からは、副次ろ過部はろ過部におけるろ過とは異なる作用機構(活性炭への吸着、イオン交換等)を利用するものであることが好ましい。
【0033】
供給部2は、ろ過部1に供給するための原水を収容する槽を備えてもよく、ろ過部1に供給するための原水を収容する槽とその他の槽との組み合わせであってもよい。
その他の機構としては、利用後の排水を貯留する排水調整槽、生物処理槽、生物処理後ンの原水を貯留する処理水貯留槽、副次ろ過を経た原水を貯留する中間槽等が挙げられる。
【0034】
貯留部3の構成は、特に制限されない。例えば、ろ過部1から取り出される透過水を収容する槽であってもよい。
【0035】
移送ラインAの構成は、ろ過部1から取り出される透過水の一部を供給部2に移送できるものであれば、特に制限されない。
例えば、移送ラインAは
図1に示すようにろ過部1と貯留部3とを連結するラインから分岐した状態であってもよく、ろ過部1と貯留部3とを連結するラインとは独立した状態であってもよい。
【0036】
本開示の水処理システムは、
図1に示すように、ろ過部1から取り出される濃縮水を供給部2に移送する移送ラインBを備えていてもよい。
移送ラインBは、ろ過部1でろ過されなかった水(濃縮水)を供給部2に戻す。供給部2に戻された濃縮水は原水と混合され、ろ過部1に移送されて再びろ過される。
移送ラインBを備える水処理システム10は、ろ過部1で生じた濃縮水を単に廃棄する場合に比べて節水能力に優れ、水の再生率向上に寄与している。
【0037】
供給部2が複数の槽を含む場合、移送ラインBはこれらのいずれに対して濃縮水を戻してもよい。
原水の処理効率の観点からは、移送ラインBは不純物濃度が相対的に高い原水を含む槽に濃縮水を戻すことが好ましい。水処理システムが生活排水を処理する場合は、移送ラインBは排水調整槽又は生物処理槽に濃縮水を戻すことが好ましい。この場合、濃縮水を生物処理に関わる微生物の活性維持に必要な無機質の供給源として利用できる。
【0038】
本開示の水処理システムは、
図1に示すように、貯留部3内の透過水を供給部2に移送する移送ラインCを備えていてもよい。
移送ラインCにより移送される透過水は、例えば、ろ過膜を含むろ過部の洗浄用水として利用される。
【0039】
本開示の水処理装置は、上述したろ過部、供給部、貯留部及び移送ライン以外の機構を備えてもよい。
例えば、本開示の水処理システムは、ろ過部から貯留部に移送される前の透過水の後処理を行う機構を備えてもよい。
透過水の後処理を行う機構の種類は特に制限されない。例えば、上述したようなろ過部におけるろ過とは異なる作用機構(活性炭への吸着、イオン交換等)を利用してもよい。
【0040】
本開示の水処理システムは、ろ過部から取り出される濃縮水を供給部に戻さずにシステム外に排出してもよい。すなわち、本開示の水処理システムは、ろ過部から取り出される濃縮水の全部又は一部を排出するための機構を備えてもよい。濃縮水の全部又は一部を排出することで、例えば、濃縮水と混合される原水の不純物濃度が設定値を上回らないように調節できる。
【0041】
本開示の水処理システムにおいてろ過部に供給される原水は、ろ過膜を利用したろ過に適した状態であれば特に制限されない。原水の供給源として具体的には、洗面所、浴室、台所、洗濯等で生じる生活排水、工業排水、雨水、河川水、海水等が挙げられる。原水の供給源は1種のみでも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0042】
本開示の水処理システムは節水効率に優れているため、循環式の水処理システムとして好適に使用できる。例えば、本開示の水処理システムは水資源に乏しい地域で一度使用した水を再利用する目的に好適に使用できる。
【0043】
本開示の水処理システムは間欠的な運転を行っても高い再生率で高純度のろ過水が得られるため、水処理規模が小さい場合も好適に使用できる。
例えば、本開示の水処理システムの規模は、一日あたりの処理水量が1m3~1000m3であってもよい。
【0044】
<水処理方法>
本開示の水処理方法は、
ろ過膜を用いて原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過工程と、
透過水の一部を原水と混合する混合工程と、を備え、
原水と混合される透過水は、ろ過の開始直後に得られる透過水である、水処理方法である。
【0045】
本開示の水処理方法によれば、ろ過膜を含むろ過装置を間欠的に運転させた場合にも高い再生率で高純度のろ過水が得られる。このため、水処理の規模が比較的小さくろ過装置を常時運転する必要がない場合、例えば、家屋用の水処理システムとして好適である。
【0046】
本開示において「ろ過の開始直後」とは、ろ過の開始からの所定の時間tが経過するまでの期間を意味する。
時間tは、ろ過の開始から時間tが経過した後にろ過装置から取り出される透過水の不純物濃度が所定の基準値以下となるように設定することが好ましい。
時間tを設定する際の指標は、水処理方法の処理能力、ろ過膜の使用日数、水処理方法の実施に関するパターンを考慮して設定してもよい。
水処理方法の実施に関するパターンとして具体的には、ユーザーの属性(人数、男女比、年齢等)、生活習慣、生活態様、嗜好、飼育ペットの有無や種類などが挙げられる。
【0047】
本開示の水処理方法において、混合工程は、原水と混合される透過水の不純物濃度が基準値以下となり、かつ不純物濃度が一定となるまで実施することが好ましい。
【0048】
混合工程を上述の方法で実施することで、水処理を経た透過水の不純物濃度をより確実に管理することができる。
水処理方法は、例えば、ろ過装置から取り出される透過水の不純物濃度を監視する監視工程と、監視工程における不純物濃度の監視結果に基づいて混合工程の実施を制御する制御工程と、を備えることが好ましい。
【0049】
本開示の水処理方法において、ろ過工程は、原水と混合される透過水の不純物濃度が基準値を超えた状態で一定になる場合は停止することが好ましい。
ろ過工程を上述の場合に運転を停止することで、水処理を経た透過水の不純物濃度をより確実に管理することができる。
水処理方法は、例えば、ろ過装置から取り出される透過水の不純物濃度を監視する監視工程と、監視工程における不純物濃度の監視結果又は監視結果から導かれる不純物濃度の変動パターンに基づいてろ過工程の実施を制御する制御工程と、を備えることが好ましい。
【0050】
透過水の不純物濃度の基準値は、例えば、水処理方法で得られるろ過水の用途などに基づいて設定できる。
透過水の不純物濃度の基準値は、本開示の水処理システムにおける透過水の不純物濃度の基準値の設定に使用されうる上述した指標のうち1つ又は2つ以上の組み合わせを用いて設定してもよい。
上記指標の中でも、簡便性の観点からは電気伝導度、濁度、色度、臭気度及び粘度が好ましい。
混合工程又はろ過工程の実施の制御は、例えば、コンピュータ等の演算処理機能を持つ装置を用いて行うことができる。
【0051】
ろ過水の不純物濃度を低く維持する観点からは、原水と混合される透過水の割合(以下、戻し率ともいう)は、ろ過膜を含むろ過装置の容量(すなわち、ろ過装置に収容しうる水の量の最大値)の25体積%以上であることが好ましく、100体積%以上であることがより好ましく、400体積%以上であることがさらに好ましい。
原水の処理効率の観点からは、上記戻し率は1000体積%以下であることが好ましく、750体積%以下であることがより好ましく、500体積%以下であることがさらに好ましい。上記戻し率はろ過装置の容量の25体積%~1000体積%(すなわち、ろ過装置の容量の0.25倍~10倍)、又は100体積%~500体積%(すなわち、ろ過装置の容量の1倍~5倍)であってもよい。
【0052】
本開示の水処理方法の規模が比較的小さく、ろ過水を直ぐに利用に供する必要があるような場合においては、透過水の不純物濃度の監視結果を待って混合工程の実施を制御するのでは時間がかかりすぎてしまい、利用者の利便性に応えた適切な再生水の供給ができないおそれがある。そこで、原水と混合される透過水の戻し率を設定することで効果的な水処理を実施することができる。
透過水の戻し率は、ろ過工程で得られる透過水の不純物濃度の監視結果又は監視結果から導かれる不純物濃度の変動パターンを記録し、当該記録に基づいて設定してもよい。
【0053】
透過水の一部を原水と混合する方法は、特に制限されない。
例えば、水処理方法の利用環境下において学習したろ過工程で得られる透過水の不純物濃度の過去の変動パターンに基づいて、原水と混合されるべき透過水の量Qをあらかじめ設定し、ろ過の開始と同時に透過水と原水との混合を開始し、原水と混合された透過水の量が設定値Qに達したときに混合を停止する方法が挙げられる。
あるいは、原水と混合されるべき量の透過水を原水と混合するのに要する時間Tをあらかじめ設定し、ろ過の開始と同時に透過水と原水との混合を開始し、混合開始からの経過時間が設定値Tに達したときに混合を停止する方法が挙げられる。
原水と混合されるべき透過水の量、又は原水と混合されるべき量の透過水を原水と混合するのに要する時間が設定値に達したか否かを判断するための手段は特に制限されず、積算流量計、流速計、タイマー(ろ過流量が一定の場合等)などを使用できる。
混合の開始又は停止の制御は、例えば、コンピュータ等の演算処理機能を持つ装置を用いて行うことができる。
【0054】
本開示の水処理方法は、上述した本開示の水処理システムを用いて行ってもよい。したがって、上述した本開示の水処理システムの詳細及び好ましい態様は、本開示の水処理方法の詳細及び好ましい態様であってもよい。
例えば、原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過工程は、
図1に示した水処理システムのろ過部1を用いて行ってもよく、透過水の一部を原水と混合する混合工程は、
図1に示した水処理システムの移送ラインAを用いて行ってもよい。
【0055】
本開示の水処理方法は、ろ過工程で得られる濃縮水を原水と混合する工程をさらに備えてもよい。例えば、ろ過工程で得られる濃縮水を原水と混合する工程は、
図1に示した水処理システムの移送ラインBを行ってもよい。
【0056】
本開示の水処理方法は節水効率に優れているため、循環式の水処理方法として好適に使用できる。例えば、本開示の水処理方法は水資源に乏しい地域で一度使用した水を再利用する目的に好適に使用できる。
【0057】
本開示の水処理方法は間欠的なろ過を行っても高い再生率で高純度のろ過水が得られるため、水処理規模が小さい場合も好適に使用できる。例えば、本開示の水処理方法の規模は、一日あたりの処理水量が1m3~1000m3であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1:ろ過部
2:供給部
3:貯留部
A、B、C:移送ライン
【手続補正書】
【提出日】2024-02-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過膜を含むろ過部と、
前記ろ過部に原水を供給する供給部と、
前記ろ過部から取り出される透過水を貯留する貯留部と、
前記ろ過部と前記貯留部との間に設けられ、ろ過部から取り出される透過水の一部を前記供給部に移送する移送ラインと、を備え、
前記移送ラインは、ろ過部の運転開始直後にろ過部から取り出される透過水を供給部に移送し、移送される透過水の量は、前記ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度の変動パターンの記録に基づいて設定される、水処理システム。
【請求項2】
前記移送ラインは、ろ過部から取り出される透過水の不純物濃度が基準値以下となり、かつ不純物濃度が一定となるまで透過水の移送を実施する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記ろ過部は、運転開始直後にろ過部から取り出される透過水の不純物濃度が基準値を超えた状態で一定になる場合は運転を停止する、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記移送ラインにより移送される透過水の量は、ろ過部の容量の25体積%~1000体積%である、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記ろ過部から取り出される濃縮水を供給部に移送する移送ラインをさらに備える、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項6】
ろ過膜を用いて原水を透過水と濃縮水とに分離するろ過工程と、
透過水の一部を原水と混合する混合工程と、を備え、
原水と混合される透過水は、ろ過の開始直後に得られる透過水であり、原水と混合される透過水の量は、前記透過水の不純物濃度の変動パターンの記録に基づいて設定される、水処理方法。
【請求項7】
前記混合工程は、原水と混合される透過水の不純物濃度が基準値以下となり、かつ不純物濃度が一定となるまで実施される、請求項6に記載の水処理方法。
【請求項8】
前記ろ過工程は、原水と混合される透過水の不純物濃度が基準値を超えた状態で一定になる場合は停止される、請求項6に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記原水と混合される透過水の量は、ろ過膜を含むろ過装置の容量の25体積%~1000体積%である、請求項6に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記ろ過工程で得られる濃縮水を原水と混合する工程をさらに備える、請求項6~請求項9のいずれか1項に記載の水処理方法。