(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168800
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】アノード触媒、水電解セル及び水電解セルスタック
(51)【国際特許分類】
C25B 11/081 20210101AFI20241128BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20241128BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20241128BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241128BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20241128BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241128BHJP
C04B 35/465 20060101ALI20241128BHJP
B01J 23/656 20060101ALI20241128BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C25B11/081
C25B11/052
C25B11/032
C25B1/04
C25B9/77
C25B9/00 A
C04B35/465
B01J23/656 M
B01J23/89 M
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085750
(22)【出願日】2023-05-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内野 幸奈
(72)【発明者】
【氏名】宇根本 篤
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC08A
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC29A
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169CC40
4G169CD10
4G169DA05
4G169EA01Y
4G169EC23
4G169FA01
4G169FB05
4G169FB29
4G169FC08
4K011AA69
4K011BA12
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】長寿命であるアノード触媒を提供する。
【解決手段】Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンと、Bサイトイオンに4価の金属イオン及びイリジウムイオンとを含み、イリジウムイオンのモル濃度が30mol%以上であり、ペロブスカイト型構造を有する酸化物を含み、前記酸化物は、さらに遷移金属元素イオンを含むアノード触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンと、Bサイトイオンに4価の金属イオン及びイリジウムイオンとを含み、
前記イリジウムイオンのモル濃度が30mol%以上であり、ペロブスカイト型構造を有する酸化物を含み、
前記酸化物は、さらに遷移金属元素イオンを含むアノード触媒。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属イオンがストロンチウムイオンを含む請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項3】
前記4価の金属イオンがチタンイオンを含む請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項4】
前記遷移金属元素イオンがマンガンイオン、ニッケルイオン、銅イオン、鉄イオン及びコバルトイオンから選択される少なくとも1種類のイオンを含む請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項5】
前記遷移金属元素イオンと前記4価の金属イオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合が、5%以上91%以下である請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項6】
前記遷移金属元素イオンと前記4価の金属イオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合が、14%以上82%以下である請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項7】
前記遷移金属元素イオンと前記4価の金属イオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合が、21%以上75%以下である請求項1に記載のアノード触媒。
【請求項8】
アノードガス拡散層と、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のアノード触媒と、電解質膜と、カソード触媒と、カソードガス拡散層と、セパレータとを備える水電解セル。
【請求項9】
請求項8に記載の水電解セルを複数積層させた水電解セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アノード触媒、水電解セル及び水電解セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解(以下、「水電解」という場合がある。)は、電気分解によって水から水素及び酸素を生成する方法である。例えば、エネルギー源として水素を利用する技術において、水電解は、持続可能な水素生成のための有望な技術である。
【0003】
水電解に用いる水電解セルは、アノードセパレータ、アノードガス拡散層、アノード触媒、電解質膜、カソード触媒、カソードガス拡散層、カソードセパレータ等を備えている。アノード触媒及びカソード触媒については、水電解に適した触媒が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、パラジウム(Pd)とルテニウム(Ru)を含むPdRu固溶体ナノ粒子が開示され、このナノ粒子は、水電解反応用触媒として用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ルテニウム、イリジウム等のアノード活性を有する元素を含むアノード触媒は、高い触媒活性を有する。しかし、アノード触媒は、水電解中は強酸化雰囲気に晒されるため、例えば、ルテニウム、イリジウム等の元素は溶解しやすく、当該元素を含むアノード触媒は短寿命化しやすい。
【0007】
例えば、特許文献1のようなルテニウムを含む水電解反応用触媒では、ルテニウムが溶解しやすく、当該触媒は短寿命化するおそれがある。
【0008】
本開示の目的は、長寿命であるアノード触媒、並びに、これを含む水電解セル及び水電解セルスタックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンと、Bサイトイオンに4価の金属イオン及びイリジウムイオンとを含み、前記イリジウムイオンのモル濃度が30mol%以上であり、ペロブスカイト型構造を有する酸化物を含み、前記酸化物は、さらに遷移金属元素イオンを含むアノード触媒。
<2> 前記アルカリ土類金属イオンがストロンチウムイオンを含む<1>に記載のアノード触媒。
<3> 前記4価の金属イオンがチタンイオンを含む<1>又は<2>に記載のアノード触媒。
<4> 前記遷移金属元素イオンがマンガンイオン、ニッケルイオン、銅イオン、鉄イオン及びコバルトイオンから選択される少なくとも1種類のイオンを含む<1>~<3>のいずれか1つに記載のアノード触媒。
<5> 前記遷移金属元素イオンと前記4価の金属イオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合が、5%以上91%以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載のアノード触媒。
<6> 前記遷移金属元素イオンと前記4価の金属イオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合が、14%以上82%以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載のアノード触媒。
<7> 前記遷移金属元素イオンと前記4価の金属イオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合が、21%以上75%以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載のアノード触媒。
<8> アノードガス拡散層と、<1>~<7>のいずれか1つに記載のアノード触媒と、電解質膜と、カソード触媒と、カソードガス拡散層と、セパレータとを備える水電解セル。
<9> <8>に記載の水電解セルを複数積層させた水電解セルスタック。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、長寿命であるアノード触媒、並びに、これを含む水電解セル及び水電解セルスタックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2は、各実施例及び各比較例における遷移金属元素イオン割合と電流密度の維持率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0013】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えられてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えられてもよい。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えられてもよい。
【0015】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0016】
<アノード触媒>
本開示のアノード触媒は、Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンと、Bサイトイオンに4価の金属イオン(以下、特定の金属イオンとも称する。)及びイリジウムイオンとを含み、前記イリジウムイオンのモル濃度が30mol%以上であり、ペロブスカイト型構造を有する酸化物を含み、前記酸化物は、さらに遷移金属元素イオンを含む。本開示のアノード触媒は、前述のペロブスカイト型構造を有する酸化物を含むことで長寿命となる傾向にある。この理由としては、イリジウムイオンのモル濃度が30mol%以上で、酸化物が遷移金属元素イオンを含むことによって酸化物のペロブスカイト型構造を安定化させる効果が好適に発揮されるため、と推測される。なお、本開示は以下の推測に限定されない。
本開示において、イリジウムイオンのモル濃度は、イリジウムイオン、4価の金属イオン及び遷移金属元素イオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度を意味する。
【0017】
Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンと、Bサイトイオンに特定の金属イオンとイリジウムイオンと、を含み、さらに遷移金属元素イオンを含むペロブスカイト型構造を有する酸化物については、従来公知の方法により製造することができる。例えば、従来公知の固相法、液相法等により当該ペロブスカイト型構造を有する酸化物を作製可能である。固相法としては、固体原料の直接反応による方法が挙げられ、液相法としては、ペッチーニ法、錯体重合法、水熱合成法等が挙げられる。
【0018】
本開示のアノード触媒は、ペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む。ペロブスカイト型構造を有する酸化物は、一般的にABO3の化学式で表される。ペロブスカイト型構造の酸化物は酸素不定性を有するものもある。酸素量が3より欠損、あるいは過剰となっていてもよい。また、AサイトイオンとBサイトイオンは、それぞれ別の元素に部分的に置換されていてもよい。アノード触媒がペロブスカイト型構造を有するか否かは、X線回折測定(XRD)により分析することができる。
【0019】
ペロブスカイト型構造のAサイトイオンは、アルカリ土類金属イオンを含む。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオン等が挙げられる。本開示では、Aサイトイオンであるアルカリ土類金属イオンは、ストロンチウムイオン、カルシウムイオン及びバリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ストロンチウムイオンを含むことがより好ましい。Aサイトイオンは、1種のアルカリ土類金属イオンであってもよく、2種以上のアルカリ土類金属イオンであってもよい。例えば、Aサイトイオンは、ストロンチウムイオンのみであってもよく、ストロンチウムイオンと1種以上の他のアルカリ土類金属イオンとの組み合わせであってもよい。
【0020】
ペロブスカイト型構造のBサイトイオンは、特定の金属イオンとイリジウムイオンと、を含む。
【0021】
特定の金属イオンは、4価の金属イオンであれば特に限定されず、例えば、ジルコニウムイオン及びチタンイオンから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、チタンイオンを含むことが好ましい。
【0022】
ペロブスカイト型構造を有する酸化物は、遷移金属元素イオンをさらに含む。例えば、遷移金属元素イオンはAサイトイオンに含まれていてもよく、Bサイトイオンに含まれていてもよく、酸化物表面に位置していてもよい。
遷移金属元素イオンがBサイトイオンに含まれており、遷移金属元素イオンが4価の金属イオンである場合、4価の遷移金属元素イオンは、遷移金属元素イオンではなく、特定の金属イオンに分類する。
【0023】
遷移金属元素イオンとしては、周期表の第3族元素から第12族元素の間に存在する元素のイオン(但し、特定の金属イオン及びイリジウムイオンを除く)が挙げられる。例えば、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)等のイオンが挙げられる。当該遷移金属元素イオンは、マンガンイオン、ニッケルイオン、銅イオン、鉄イオン及びコバルトイオンから選択される少なくとも1種類のイオンであることがより好ましい。
酸化物に含まれる遷移金属元素イオンは、1種の遷移金属元素イオンであってもよく、2種以上の遷移金属元素イオンであってもよい。
【0024】
遷移金属元素イオンはマンガンイオン、ニッケルイオン、銅イオン、鉄イオン及びコバルトイオンから選択される少なくとも1種類のイオンを含むことが好ましい。
【0025】
Bサイトイオンは、特定の金属イオン及びイリジウムイオン以外のその他のイオンを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。Bサイトイオンがその他のイオンを含む場合、その他のイオンとしては、前述の遷移金属元素イオン、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)等のイオンが挙げられる。
【0026】
本開示のアノード触媒では、Aサイトイオンがアルカリ土類金属イオンを含み、Bサイトイオンが、チタンイオン及びイリジウムイオンを含むことが好ましい。
【0027】
イリジウムイオン、4価の金属イオン及び遷移金属元素イオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は、30mol%以上であることが好ましく、35mol%以上であることがより好ましい。
前述のモル濃度は、70mol%以下であってもよく、50mol%以下であってもよい。
【0028】
遷移金属元素イオンと特定の金属イオン(好ましくはチタンイオン)のモル数の和に対する、遷移金属元素イオンのモル数の割合は、アノード触媒の長寿命化の観点から、5%以上91%以下であることが好ましく、14%以上82%以下であることがより好ましく、21%以上75%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
イリジウムイオン、4価の金属イオン及び遷移金属元素イオンの合計モル濃度に対するイリジウムのモル濃度及び前述のモル数の割合は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)によりアノード触媒を分析することで求めることができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散X線分光法(EDS)により触媒粉末を撮像して元素分析を実施することで、金属の濃度を定量評価できる。
【0030】
本開示のアノード触媒は、Aサイトイオンにアルカリ土類金属イオンと、Bサイトイオンに4価の金属イオン及びイリジウムイオンとを含み、イリジウムイオンのモル濃度が30mol%以上であり、ペロブスカイト型構造を有し、さらに遷移金属元素イオンを含む酸化物以外の成分を含んでいてもよい。例えば、ペロブスカイト型構造を有する酸化物以外の触媒活性を有する成分、ペロブスカイト型構造を有する酸化物の生成に用いた原料の未反応成分、副反応成分等が挙げられる。
【0031】
本開示のアノード触媒でのペロブスカイト型構造を有する酸化物の含有率は、特に限定されず、アノード触媒の全量に対して、50質量%~100質量%であることが好ましく、70質量%~100質量%であることがより好ましく、90質量%~100質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
<水電解セル>
本開示の水電解セルは、アノードガス拡散層と、前述の本開示のアノード触媒と、電解質膜と、カソード触媒と、カソードガス拡散層と、セパレータとを備える。
【0033】
前述のアノードガス拡散層、電解質膜、カソード触媒、カソードガス拡散層及びセパレータとしては、従来公知の水電解セルにて使用される部材を適用してもよい。
【0034】
水電解セルは、他の構成要素を更に含んでいてもよい。他の構成要素は、公知の水電解セルの構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、ガスケット、シール材等が挙げられる。
【0035】
例えば、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層としては、それぞれ独立に、多孔質体、粉末焼結体、繊維焼結体、金属メッシュ、フェルトなどの、層内を流体が流通可能とする物質を用いることができる。
【0036】
アノードガス拡散層は、酸化による高抵抗化を抑制する観点から、耐食性の導電性材料でコーティングされていてもよい。コーティング材としては、例えば、白金、金、銀、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン等が挙げられる。
【0037】
電解質膜は、水電解に使用される公知の電解質膜(イオン交換膜であってもよい)から選択されてもよい。電解質膜は、プロトン(H+)を選択的に透過する性質を有することが好ましい。電解質膜としては、例えば、高分子電解質膜(PEM)が挙げられる。高分子電解質膜としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜等が挙げられる。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜としては、例えば、ナフィオン膜が挙げられる。
【0038】
電解質膜は、イオン性基を有することによりプロトン伝導性を有するポリマーであり、例えば、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質のいずれであってもよい。
【0039】
ここで、フッ素系高分子電解質とは、ポリマー中のアルキル基及び/又はアルキレン基における水素の大部分又は全部がフッ素原子に置換されたものを意味する。イオン性基を有するフッ素系高分子電解質の代表例としては、“ナフィオン”(登録商標)(ケマーズ(株)製)、“アクイビオン”(登録商標)(ソルベイ社製)、“フレミオン”(登録商標)(AGC(株)製)及び“アシプレックス”(登録商標)(旭化成(株)製)などの市販品が挙げられる。
【0040】
炭化水素系高分子電解質としては、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系ポリマーが好ましい。ここで、芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン骨格等の炭素原子と水素原子のみからなる炭化水素系芳香環だけでなく、ピリジン環、イミダゾール環、チオール環等のヘテロ環などを含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもよい。
【0041】
芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンオキシド、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合等を有している構造の総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。芳香族炭化水素系ポリマーは、これらの構造を複数有していてもよい。これらのなかでも、芳香族炭化水素系ポリマーとして特にポリエーテルケトン骨格を有するポリマー、すなわちポリエーテルケトン系ポリマーが好ましい。
【0042】
電解質膜は、補強材と組み合わせてもよい。補強材を用いることで、例えば、ホットプレス法により電解質膜と電極を接合する際に膜が破損することによるガスのリーク、電極内の短絡等が生じにくくなる。
【0043】
補強材の具体例としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素系高分子又はPE(ポリエチレン),PP(ポリプロピレン)等の熱可塑性樹脂、PI(ポリイミド)、PSF(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPSS(ポリフェニレンスルフィドスルホン)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PEK(ポリエーテルケトン)、PBI(ポリベンズイミダゾール)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PPP(ポリパラフェニレン)、PPQ(ポリフェニルキノキサリン)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)等のエンジニアリングプラスチックなどからなる均質な多孔質膜が挙げられる。
【0044】
カソード触媒は、水電解に使用される公知の触媒から選択されてもよい。触媒の成分としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム及びこれらの合金、これらの酸化物等が挙げられる。触媒の形態は、粒子であってもよい。また、アノード触媒は、担体に担持された触媒を含んでいてもよい。担体としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ等が挙げられる。カソード触媒は、担体に担持された触媒を含んでいてもよい。担体としては、例えば、カーボンブラック等が挙げられる。
【0045】
水電解セルは、アノード触媒(好ましくはアノード触媒粒子)及びアイオノマーを含むアノード触媒層を備えていてもよく、カソード触媒(好ましくはカソード触媒粒子)及びアイオノマーを含むカソード触媒層を備えていてもよい。これにより、触媒層内での触媒とアイオノマーとの接触面積が増えるため、反応が促進される傾向にある。
【0046】
アノード触媒の一次粒子径は1nm~10μmであることが好ましく、2nm~1μmであることがより好ましく、5nm~100nmであることがさらに好ましい。アノード触媒の一次粒子径が1nm以上であることにより、接触面積を増加させるために必要なアイオノマーの混合比が大きくなりすぎず、アノード触媒層内部での電子伝導パスを多く確保できるため、高抵抗化しにくくなる傾向にある。アノード触媒の一次粒子径が10μm以下であることにより、アイオノマーとの接触面積の低下が抑制されるため、高抵抗化しにくくなる傾向にある。
【0047】
セパレータとしては、アノードガス拡散層側に配置されるアノードセパレータ、及びカソードガス拡散層側に配置されるカソードセパレータが挙げられる。セパレータの材質としては、例えば、チタン、ステンレス、カーボン等が挙げられる。アノード側に発生する酸素による酸化抑制の観点から、アノードセパレータは、チタンを含むことが好ましい。
【0048】
アノードセパレータは、酸化による高抵抗化を抑制するため、耐食性の導電性材料でコーティングされていてもよい。コーティング材としては、例えば、白金、金、銀、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン等が挙げられる。
【0049】
水電解セルにおける各構成要素の配置は、公知の水電解セルを参考に決定されてもよい。水電解セルにおいて、電解質膜は、アノード触媒とカソード触媒との間に位置することが好ましい。水電解セルにおいて、電解質膜並びにアノード触媒及びカソード触媒は、アノードガス拡散層とカソードガス拡散層との間に位置することが好ましい。水電解セルにおいて、電解質膜、アノード触媒及びカソード触媒並びにアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層は、2つのセパレータの間に位置することが好ましい。
【0050】
アノード触媒層あるいはカソード触媒層はアイオノマー及び溶媒と混合してスラリー化し、電解質膜に塗布して触媒層付き電解質膜としてもよい。また、テフロン(登録商標)シート等のフィルム上に触媒層を塗布し、電解質膜に転写してもよい。触媒層をガス拡散層に塗布してガス拡散電極としてもよい。触媒層スラリーの塗布装置としては、スプレーコータ、コンマコータ、ダイコータ、リバースロールコータ、グラビアコータ、バーコータ、ディップコータ、スリットコータ、リップコータ等がある。
【0051】
水電解セルの一例を
図1に示す。
図1は、水電解セルの概略断面図である。
図1に示すように、水電解セル100は、
図1の上側から順にアノードセパレータ60と、アノードガス拡散層20と、アノード触媒12と、電解質膜11と、カソード触媒13と、カソードガス拡散層30と、カソードセパレータ70と、を備える。さらに、アノードセパレータ60と電解質膜11との間にガスケット40が配置されており、カソードセパレータ70と電解質膜11との間にガスケット50が配置されている。
【0052】
<水電解装置>
本開示の水電解装置は、前述の本開示の水電解セルを複数積層してなる水電解セルスタックであってもよく、当該水電解セルスタック又は本開示の水電解セルと他の構成要素とを備える装置であってもよい。
【0053】
他の構成要素は、公知の水電解装置の構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、パワーコンディショナー、水ポンプ、イオン交換樹脂、熱交換器及び除湿器などの補機類が挙げられる。
【実施例0054】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。
【0055】
<実施例1>
ペッチーニ法により、イリジウムイオン及びマンガンイオンをチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)に組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、チタンテトラブトキシド(C16H36O4Ti)、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム(K2IrCl6)及び硝酸マンガン六水和物とした。硝酸マンガン六水和物はマンガンイオンの濃度が4M(mol/L)となるよう秤量し、水に溶解して水溶液とした。硝酸マンガン水溶液の濃度はICPにより分析した。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、硝酸マンガン水溶液を17.7μL、クエン酸一水和物(C6H8O7・H2O)を0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。C16H36O4Tiを0.081g秤量して、4mLのエチレングリコール(C2H6O2)ともに混合し、10分以上攪拌して混合した。この混合溶液を溶液Bとした。溶液Aを溶液Bに投入した後、ホットスターラーを使用し、70℃で3時間以上攪拌混合した。その後、混合溶液をジルコニア製るつぼに移し、180℃で12時間、200℃で6時間、300℃で6時間、500℃で3時間、600℃で6時間熱処理した。熱処理後の粉末を回収し、濃度1Mの塩酸水溶液50mLとともにビーカーに投入して3時間以上攪拌し、未反応成分を取り除いた。得られた混合溶液は、吸引ろ過器を使用して水洗し、オーブンにて60℃で乾燥した後、触媒粉末を得た。合成した触媒粉末に対して、X線回折測定を実施したところ、ペロブスカイト型構造に由来する回折パターンが得られた。得られた粉末の組成をFE-SEM/EDSにより分析した。粉末組成物をカーボンテープ上に塗布し、10,000倍に拡大した3視野についてイリジウム、チタン及びマンガンの原子濃度をマッピング分析により評価し、元素ごとの原子濃度の平均値を元素の濃度と定義した。この結果、イリジウムイオン、チタンイオン及びマンガンイオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であり、遷移金属元素イオン(実施例1ではマンガンイオン)とチタンイオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合(以下、「マンガンイオン割合」ともいう。表1中の遷移金属元素イオン割合に相当)は、7.8%であった。
【0056】
<実施例2>
合成したSrTiO3に組み込んだマンガンイオンについて、マンガンイオン割合が11.8%となるよう、硝酸マンガン水溶液を35.5μL及びC16H36O4Tiを0.0564gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0057】
<実施例3>
合成したSrTiO3に組み込んだマンガンイオンについて、マンガンイオン割合が19.1%となるよう、硝酸マンガン水溶液を47.3μL及びC16H36O4Tiを0.0401gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0058】
<実施例4>
合成したSrTiO3に組み込んだマンガンイオンについて、マンガンイオン割合が26.7%となるよう、硝酸マンガン水溶液を59.1μL及びC16H36O4Tiを0.0242gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0059】
<実施例5>
合成したSrTiO3に組み込んだマンガンイオンについて、マンガンイオン割合が37.4%となるよう、硝酸マンガン水溶液を71.0μL及びC16H36O4Tiを0.0080gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0060】
<実施例6>
遷移金属元素イオンとして、マンガンイオンの替わりにニッケルイオンを組み込んだ以外は実施例1と同様にして、ペッチーニ法により、イリジウムイオン及びニッケルイオンをSrTiO3に組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、SrCO3、C16H36O4Ti、K2IrCl6及び硝酸ニッケル六水和物とした。硝酸ニッケル六水和物はニッケルイオンの濃度が4Mとなるよう秤量し、水に溶解して水溶液とした。硝酸ニッケル水溶液の濃度はICPにより分析した。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、硝酸ニッケル水溶液を17.7μL、C6H8O7・H2Oを0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。C16H36O4Tiを0.0805g秤量して、4mLのC2H6O2ともに混合し、10分以上攪拌して混合した。この混合溶液を溶液Bとした。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めた、イリジウムイオン、チタンイオン及びニッケルイオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であり、遷移金属元素イオン(実施例6ではニッケルイオン)とチタンイオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合(以下、「ニッケルイオン割合」ともいう。)は、13.5%であった。
【0061】
<実施例7>
合成したSrTiO3に組み込んだニッケルイオンについて、ニッケルイオン割合が17.9%となるよう、硝酸ニッケル水溶液を35.5μLに変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0062】
<実施例8>
合成したSrTiO3に組み込んだニッケルイオンについて、ニッケルイオン割合が19.6%となるよう、硝酸ニッケル水溶液を35.5μL及びC16H36O4Tiを0.0564gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0063】
<実施例9>
合成したSrTiO3に組み込んだニッケルイオンについて、ニッケルイオン割合が60.3%となるよう、硝酸ニッケル水溶液を59.1μL及びC16H36O4Tiを0.0242gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0064】
<実施例10>
合成したSrTiO3に組み込んだニッケルイオンについて、ニッケルイオン割合が80.1%となるよう、硝酸ニッケル水溶液を71.0μL及びC16H36O4Tiを0.0080gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0065】
<実施例11>
遷移金属元素イオンとして、マンガンイオンの替わりに銅イオンを組み込んだ以外は実施例1と同様にして、ペッチーニ法により、イリジウムイオン及び銅イオンをSrTiO3に組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、SrCO3、C16H36O4Ti、K2IrCl6及び硝酸銅三水和物とした。硝酸銅三水和物は銅イオンの濃度が4Mとなるよう秤量し、水に溶解して水溶液とした。硝酸銅水溶液の濃度はICPにより分析した。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、硝酸銅水溶液を17.7μL、C6H8O7・H2Oを0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。C16H36O4Tiを0.0805g秤量して、4mLのC2H6O2ともに混合し、10分以上攪拌して混合した。この混合溶液を溶液Bとした。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めた、イリジウムイオン、チタンイオン及び銅イオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であり、遷移金属元素イオン(実施例11では銅イオン)とチタンイオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合(以下、「銅イオン割合」ともいう。)は、19.4%であった。
【0066】
<実施例12>
合成したSrTiO3に組み込んだ銅イオンについて、銅イオン割合が22.2%となるよう、硝酸銅水溶液を35.5μL及びC16H36O4Tiを0.0564gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0067】
<実施例13>
合成したSrTiO3に組み込んだ銅イオンについて、銅イオン割合が37.4%となるよう、硝酸銅水溶液を59.1μL及びC16H36O4Tiを0.0242gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0068】
<実施例14>
合成したSrTiO3に組み込んだ銅イオンについて、銅イオン割合が46.2%となるよう、硝酸銅水溶液を71.0μL及びC16H36O4Tiを0.0080gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0069】
<実施例15>
遷移金属元素イオンとして、マンガンイオンの替わりに鉄イオンを組み込んだ以外は実施例1と同様にして、ペッチーニ法により、イリジウムイオン及び鉄イオンをSrTiO3に組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、SrCO3、C16H36O4Ti、K2IrCl6及び硝酸鉄九水和物とした。硝酸鉄九水和物は鉄イオンの濃度が4Mとなるよう秤量し、水に溶解して水溶液とした。硝酸鉄水溶液の濃度はICPにより分析した。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、硝酸鉄水溶液を17.7μL、C6H8O7・H2Oを0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。C16H36O4Tiを0.0805g秤量して、4mLのC2H6O2ともに混合し、10分以上攪拌して混合した。この混合溶液を溶液Bとした。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めた、イリジウムイオン、チタンイオン及び鉄イオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であり、遷移金属元素イオン(実施例15では鉄イオン)とチタンイオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合(以下、「鉄イオン割合」ともいう。)は、10.1%であった。
【0070】
<実施例16>
合成したSrTiO3に組み込んだ鉄イオンについて、鉄イオン割合が19.5%となるよう、硝酸鉄水溶液を35.5μL及びC16H36O4Tiを0.0564gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0071】
<実施例17>
合成したSrTiO3に組み込んだ鉄イオンについて、鉄イオン割合が34.9%となるよう、硝酸鉄水溶液を59.1μL及びC16H36O4Tiを0.0242gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0072】
<実施例18>
合成したSrTiO3に組み込んだ鉄イオンについて、鉄イオン割合が50.5%となるよう、硝酸鉄水溶液を71.0μL及びC16H36O4Tiを0.0080gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0073】
<実施例19>
遷移金属元素イオンとして、マンガンイオンの替わりにコバルトイオンを組み込んだ以外は実施例1と同様にして、ペッチーニ法により、イリジウムイオン及びコバルトイオンをSrTiO3に組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、SrCO3、C16H36O4Ti、K2IrCl6及び硝酸コバルト六水和物とした。硝酸コバルト六水和物はコバルトイオンの濃度が4Mとなるよう秤量し、水に溶解して水溶液とした。硝酸コバルト水溶液の濃度はICPにより分析した。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、硝酸コバルトを17.7μL、C6H8O7・H2Oを0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。C16H36O4Tiを0.0805g秤量して、4mLのC2H6O2ともに混合し、10分以上攪拌して混合した。この混合溶液を溶液Bとした。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めた、イリジウムイオン、チタンイオン及びコバルトイオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であり、遷移金属元素イオン(実施例19ではコバルトイオン)とチタンイオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合(以下、「コバルトイオン割合」ともいう。)は、12.4%であった。
【0074】
<実施例20>
合成したSrTiO3に組み込んだコバルトイオンについて、コバルトイオン割合が20.8%となるよう、硝酸コバルト水溶液を35.5μL及びC16H36O4Tiを0.0564gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0075】
<実施例21>
合成したSrTiO3に組み込んだコバルトイオンについて、コバルトイオン割合が62.3%となるよう、硝酸コバルト水溶液を59.1μL及びC16H36O4Tiを0.0242gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0076】
<実施例22>
合成したSrTiO3に組み込んだコバルトイオンについて、コバルトイオン割合が80.6%となるよう、硝酸コバルト水溶液を71.0μL及びC16H36O4Tiを0.0080gにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0077】
<実施例23>
合成したSrTiO3に組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が67mol%となり、かつ、マンガンイオン割合が32.6%となるよう、SrCO3を0.2920g、硝酸マンガン水溶液を9.3μL及びC16H36O4Tiを0.0152gに変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0078】
<比較例1>
遷移金属元素イオンを組み込まなかった以外は実施例1と同様にして、ペッチーニ法により、イリジウムイオンをSrTiO3に組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、SrCO3、C16H36O4Ti及びK2IrCl6とした。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、C6H8O7・H2Oを0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。C16H36O4Tiを0.1048g秤量して、4mLのC2H6O2ともに混合し、10分以上攪拌して混合した。この混合溶液を溶液Bとした。以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めた、イリジウムイオン及びチタンイオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であった。
【0079】
<比較例2>
チタンイオンをBサイトイオンに組み込まなかった以外は実施例1と同様にして、ペッチーニ法により、イリジウムイオンをマンガン酸ストロンチウム(SrMnO3)のBサイトイオンに組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、SrCO3、K2IrCl6及び硝酸マンガン六水和物とした。硝酸マンガン六水和物はマンガンイオンの濃度が4Mとなるよう秤量し、水に溶解して水溶液とした。硝酸マンガン水溶液の濃度はICPにより分析した。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、硝酸マンガン水溶液を76.9μL、C6H8O7・H2Oを0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。溶液Aのみを用い、以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めた、イリジウムイオン及びマンガンイオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であり、マンガンイオン割合は、100%であった。
【0080】
<比較例3>
チタンイオンをBサイトイオンに組み込まなかった以外は実施例6と同様にして、ペッチーニ法により、イリジウムイオンをニッケル酸ストロンチウム(SrNiO3)のBサイトイオンに組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、SrCO3、K2IrCl6及び硝酸ニッケル六水和物とした。硝酸ニッケル六水和物はニッケルイオンの濃度が4Mとなるよう秤量し、水に溶解して水溶液とした。硝酸ニッケル水溶液の濃度はICPにより分析した。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、硝酸ニッケル水溶液を76.9μL、C6H8O7・H2Oを0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。溶液Aのみを用い、以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めた、イリジウムイオン及びニッケルイオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であり、ニッケルイオン割合は、100%であった。
【0081】
<比較例4>
チタンイオンをBサイトイオンに組み込まなかった以外は実施例11と同様にして、ペッチーニ法により、イリジウムイオンを銅酸ストロンチウム(SrCuO3)のBサイトイオンに組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、SrCO3、K2IrCl6及び硝酸銅三水和物とした。硝酸銅三水和物は銅イオンの濃度が4Mとなるよう秤量し、水に溶解して水溶液とした。硝酸銅水溶液の濃度はICPにより分析した。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、硝酸銅水溶液を76.9μL、C6H8O7・H2Oを0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。溶液Aのみを用い、以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めた、イリジウムイオン及び銅イオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であり、銅イオン割合は、100%であった。
【0082】
<比較例5>
チタンイオンをBサイトイオンに組み込まなかった以外は実施例19と同様にして、ペッチーニ法により、イリジウムイオンをコバルト酸ストロンチウム(SrCoO3)のBサイトイオンに組み込んだペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。出発原料は、SrCO3、K2IrCl6及び硝酸コバルト六水和物とした。硝酸コバルト六水和物はコバルトイオンの濃度が4Mとなるよう秤量し、水に溶解して水溶液とした。硝酸コバルト水溶液の濃度はICPにより分析した。SrCO3を0.2794g、K2IrCl6を0.0800g、硝酸コバルト水溶液を76.9μL、C6H8O7・H2Oを0.2800g、硝酸(1.38)を0.3mLそれぞれ秤量し、10mL純水に投入して混合し、室温で10分以上攪拌して溶解した。この混合溶液を溶液Aとした。溶液Aのみを用い、以降の操作は実施例1と同様にして触媒粉末を回収した。実施例1と同様にして求めた、イリジウムイオン及びコバルトイオンの合計モル濃度に対するイリジウムイオンのモル濃度は35mol%であり、コバルトイオン割合は、100%であった。
【0083】
<比較例6>
合成したSrTiO3のBサイトイオンに組み込んだイリジウムイオンのモル濃度が20mol%となり、かつ、マンガンイオン割合が23.3%となるよう、SrCO3を0.2930g、硝酸マンガン水溶液を103.3μL及びC16H36O4Tiを0.0844gに変更した以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型構造を有する酸化物を含む触媒粉末を得た。
【0084】
[電流密度の測定]
合成した触媒の電流密度と電圧の関係は、回転ディスク電極法により室温で評価した。触媒粉末を10mg、5質量%ナフィオン分散溶液を0.1mL、2-プロパノールを0.4mL、及び純水を1.5mLを秤量してガラス容器に移し、ホモジェナイザーにより30分以上混合した。得られた混合溶液を10μL取り分けて、直径5mmのグラッシーカーボン電極上に塗布した。乾燥後、回転ディスク電極装置によりセッティングし、作用極とした。対極は白金線、参照極は水溶媒系Ag/AgCl参照電極をそれぞれ使用し、これらと作用極を、0.5M硫酸水溶液を投入したビーカー内に配置した。開回路で10分以上保持した後、室温において水素可逆電極(RHE)基準で0.05V~1.4Vの範囲、掃引速度100mV/秒、回転速度1,600rpmでサイクリックボルタンメトリー測定を60サイクル実施し、触媒表面の電気化学的クリーニングを実施した。その後、RHE基準で1.2V~1.6Vの範囲、掃引速度5mV/秒、及び、回転速度1,600rpmの条件で、サイクリックボルタンメトリー測定を30サイクル実施し、初回サイクルと30サイクル目の1.6Vにおける電流を計測した。グラッシーカーボン電極の面積で電流値を割り算して電流密度(単位:mA/cm2)とした。初回サイクルの電流密度及び30サイクル目の電流密度の測定結果に基づいて、電流密度の維持率(単位:%)を求めた。結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
表1に示すように、実施例1~23は、比較例1~6と比較して電流密度の維持率が高かった。例えば、イリジウムイオンのモル濃度が30mol%以上で、遷移金属元素イオン及びチタンイオンを組み込んだ実施例1~23では、遷移金属元素イオン又はチタンイオンを含まない比較例1~5と比較して電流密度の維持率が高かった。また、実施例1~23では、イリジウムイオンのモル濃度が30mol%未満で、遷移金属元素イオン及びチタンイオンを組み込んだ比較例6と比較して電流密度の維持率が高かった。
【0087】
図2は、各実施例及び各比較例における遷移金属元素イオン割合と電流密度の維持率との関係を示すグラフである。
図2に示すように、遷移金属元素イオン割合を調整することで、高い電流密度の維持率が得られる傾向にあった。例えば、遷移金属元素イオン割合が、5%以上91%以下である閾値1では、電流密度の維持率は60%以上であり、遷移金属元素イオン割合が、14%以上82%以下である閾値2では、電流密度の維持率は75%以上であり、遷移金属元素イオン割合が、21%以上75%以下である閾値3では、電流密度の維持率は85%以上であることがグラフから読み取れる。つまり、イリジウムイオンのモル濃度が30mol%以上で、遷移金属元素イオンを組み込むことで高い電流密度の維持率が得られ、当該遷移金属元素イオン割合を調整することでさらに高い電流密度の維持率が得られることが分かった。
前記遷移金属元素イオンと前記4価の金属イオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合が、5%以上91%以下である請求項1に記載のアノード触媒。
前記遷移金属元素イオンと前記4価の金属イオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合が、14%以上82%以下である請求項1に記載のアノード触媒。
前記遷移金属元素イオンと前記4価の金属イオンのモル数の和に対する、前記遷移金属元素イオンのモル数の割合が、21%以上75%以下である請求項1に記載のアノード触媒。