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特開2024-168817氷核形成抑制または着氷抑制用の部材
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  • 特開-氷核形成抑制または着氷抑制用の部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168817
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】氷核形成抑制または着氷抑制用の部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20241128BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241128BHJP
   C08F 292/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B32B9/00 Z
B32B27/00 Z
C08F292/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085782
(22)【出願日】2023-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】315006377
【氏名又は名称】日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522184121
【氏名又は名称】日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】玉本 健
(72)【発明者】
【氏名】松井 徳純
(72)【発明者】
【氏名】杉田 翼
(72)【発明者】
【氏名】辻井 敬亘
(72)【発明者】
【氏名】松川 公洋
(72)【発明者】
【氏名】黄瀬 雄司
(72)【発明者】
【氏名】中野 健
(72)【発明者】
【氏名】大久保 光
【テーマコード(参考)】
4F100
4J026
【Fターム(参考)】
4F100AB10B
4F100AB11B
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK25A
4F100AS00A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100GB07
4F100GB16
4F100GB32
4F100YY00A
4J026AC00
4J026BA30
4J026BA50
4J026BB01
4J026BB09
4J026BB10
4J026CA06
4J026DB06
4J026DB09
4J026DB19
4J026DB40
4J026FA05
4J026FA08
4J026GA10
(57)【要約】
【課題】本発明は、氷核形成、着氷を抑制することができる部材を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の氷核形成抑制用または着氷抑制用の部材は、基材に固定された複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含む層を有し、前記高分子鎖集合体を含む層は液状物質を保持していて、前記液状物質の少なくとも一部が水であり、前記液状物質中の前記水の総質量に対して不凍水の占める割合が15質量%以上であることを特徴としている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に固定された複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含む層を有し、
前記高分子鎖集合体を含む層は液状物質を保持していて、
前記液状物質の少なくとも一部が水であり、前記液状物質中の前記水の総質量に対して不凍水の占める割合が15質量%以上である、氷核形成抑制用または着氷抑制用の部材。
【請求項2】
前記高分子鎖が不凍水形成可モノマー単位からなる不凍水形成可ユニットを含む、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記高分子鎖の分子量に対する、前記高分子鎖中の不凍水形成可モノマー単位に含まれる不凍水形成可構造部分の分子量の合計の割合(前記不凍水形成可モノマー単位に含まれる不凍水形成可構造部分の分子量の合計/前記高分子鎖の分子量)が0.80以上である、請求項1または2に記載の部材。
【請求項4】
前記基材は前記高分子鎖集合体とは別の物質からなる担体であり、
前記基材表面における前記高分子鎖の表面占有率が0.08~0.65である、請求項1または2に記載の部材。
【請求項5】
前記部材が、前記基材である高分子鎖に前記複数の高分子鎖が側鎖として結合したボトルブラシ構造を有する部材であり、
側鎖の表面占有率が0.08~0.65である、請求項1または2に記載の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、氷核形成抑制または着氷抑制用の部材に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調整機、冷凍機に用いられる熱交換器などにおいては、空気が急冷されることで熱交換器中の冷却部材表面に水滴が付着したり、霜が形成されたりして、熱交換効率などが低下することがある。特に、霜は、冷却部材表面の着氷や氷核の形成・成長を通して形成される。
霜の形成を抑制する方法として、特許文献1に記載されているように、部材表面に樹脂膜を形成する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-158247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法では、部材表面に付着する水滴の形態を制御して霜の成長を遅延させることはできるものの、部材表面の氷核形成や着氷を十分に抑制することはできず、さらなる改善が求められていた。
【0005】
従って、本発明の目的は、氷核形成、着氷を抑制することができる部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
基材に固定された複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含む層を有し、
前記高分子鎖集合体を含む層は液状物質を保持していて、
前記液状物質の少なくとも一部が水であり、前記液状物質中の前記水の総質量に対して不凍水の占める割合が15質量%以上である、氷核形成抑制用または着氷抑制用の部材。
[2]
前記高分子鎖が不凍水形成可モノマー単位からなる不凍水形成可ユニットを含む、[1]に記載の部材。
[3]
前記高分子鎖の分子量に対する、前記高分子鎖中の不凍水形成可モノマー単位に含まれる不凍水形成可構造部分の分子量の合計の割合(前記不凍水形成可モノマー単位に含まれる不凍水形成可構造部分の分子量の合計/前記高分子鎖の分子量)が0.80以上である、[1]または[2]に記載の部材。
[4]
前記基材は前記高分子鎖集合体とは別の物質からなる担体であり、
前記基材表面における前記高分子鎖の表面占有率が0.08~0.65である、[1]または[2]に記載の部材。
[5]
前記部材が、前記基材である高分子鎖に前記複数の高分子鎖が側鎖として結合したボトルブラシ構造を有する部材であり、
側鎖の表面占有率が0.08~0.65である、[1]または[2]に記載の部材。
【発明の効果】
【0007】
本発明の部材は、上記構成を有するため、氷核形成、着氷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】着氷応力の試験方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0010】
[部材]
本実施形態の部材は、基材に固定された複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含む層を有し、上記高分子鎖集合体を含む層は液状物質を保持していて、上記液状物質の少なくとも一部が水であり、上記液状物質中の上記水の総質量に対して不凍水の占める割合が15質量%以上である、氷核形成抑制用または着氷抑制用の部材である。
上記部材は、上記基材と高分子鎖集合体を含む上記層とのみからなる部材であってもよいし、さらに他の層や材料を有していてもよい。
上記高分子鎖集合体を含む層は、高分子鎖集合体と液状物質とのみからなる層であってもよいし、さらに他の物質を含んでいてもよい。
なお、本明細書において、ブラシ状の高分子鎖集合体を含む層を、「高分子鎖集合体を含む層」と称する場合がある。
【0011】
本実施形態の部材は、優れた着氷抑制効果および氷核形成抑制効果を有している。このような効果が得られる詳細な理由は不明であるが、次によるものであると推測される。本実施形態の部材では、液状物質が上記高分子鎖集合体によって保持されて高分子鎖集合体を含む層中にて不可逆的な液漏れなどが起こりにくい安定な液体層を形成していると推測される。また、高分子鎖集合体に保持された液状物質は、高分子鎖集合体によって運動性が適度に制御されて過冷却状態または不凍状態を生み出しやすいと推測される。本実施形態の部材は、このような安定な液体層が存在していることにより、氷、雪、霜などに対する運動性の高い界面を有していると推測される。また、このような安定な液体層が存在していることにより、氷点以下でも水が凝固することなく熱運動させることができるので、部材表面上での水の氷結温度をより低下させることもできると推測される。
そして、本発明者らは、着氷の抑制の検討を更に進めたところ、驚くべきことに、着氷が発生する温度よりも極めて低い温度である-90℃以下でも凍結しない不凍水の割合が、氷核形成の抑制及び着氷抑制に関連することを見出した。本実施形態の部材は、高分子鎖集合体を含む上記層中の液状物質に不凍水が多く含まれるため、低温下でも部材表面上で水が氷結しにくく、部材表面上にて氷、雪、霜などが形成されにくく、更には、氷、雪、霜などに対する運動性の高い界面を有しているため、部材表面上に氷、雪、霜などが形成されてもこれらの滑落性に極めて優れているため、極めて優れた着氷抑制効果を有していると推測される。
また、本実施形態の部材は、部材内部または表面上での水の氷結温度をより低下させることもできるため、氷核の発生温度を低下させることができ、極めて優れた氷核形成抑制効果を有していると推測される。
【0012】
なお、本実施形態で用いる高分子鎖集合体とは、複数の高分子鎖の集合体であって、全体としてブラシ状の形状をなしているものであり、高分子の溶液を単に塗布して形成した有機膜とは全く異なるものである。
なお、本明細書において、「ブラシ状」とは、基材表面または基材上の層に少なくとも一方の末端が固定され、基材から離れる方向に延びる高分子鎖が、複数(例えば、2本以上)存在する構造としてよい。なお、高分子鎖の両端が基材に固定される場合、U字状の構造であってよい。
【0013】
高分子鎖集合体を含む層が液状物質を保持していることは、示差走査熱量測定により確認することができる。また、示差走査熱量測定で確認できない場合は、押し込み硬さ試験(インデンテーション試験)の方法で確認することができる。また、高分子鎖集合体を含む層中の不凍水の割合は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
本実施形態の部材において、上記液状物質は、上記高分子鎖集合体を含む層に保持され、常温で液体である物質を意味する。上記液状物質の少なくとも一部は氷点より低い温度(好ましくは-10℃以下、より好ましくは-18℃以下、さらに好ましくは-20℃以下、特に好ましくは-30℃以下)でも液体状態を保持していることが好ましい。また、上記液状物質は水であることが好ましい。
本実施形態の部材は、氷核形成および着氷の抑制効果に優れる観点から、-18℃において、上記高分子鎖集合体を含む層内に含まれる高分子鎖100質量部に対する、上述の温度で液体状態と確認される物質の質量割合が、50質量部以上であることが好ましく、より好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは80質量部以上、特に好ましくは90質量部以上である。上記割合は高分子鎖と液状物質との組み合わせなどにより調整することができる。また、上記割合は、原子間力顕微鏡やエリプソメトリー法などにより測定することができる。
本実施形態の部材は、-18℃において、基材に固定された複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含む層を有し、上記高分子鎖集合体を含む層が液状物質を保持することが好ましい。
【0015】
本実施形態の部材は、上記高分子鎖集合体を含む層に不凍水を含む。
なお、不凍水とは、該層内で-90℃において液体状態の水をいい、高分子との強い相互作用により-90℃でも凍結しない高分子中の水(水和水)をいう。不凍水は、例えば、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0016】
本実施形態の部材において、高分子鎖集合体を含む層の厚さは、より優れた着氷抑制効果および氷核形成抑制効果が得られやすいという理由から、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、350nm以上であることが更に好ましく、500nm以上であることがより一層好ましく、1000nm以上であることが特に好ましい。上限は特に限定はないが、例えば100μm以下とすることができ、50μm以下とすることもできる。
高分子鎖集合体を含む層の厚さは、エリプソメトリー法などにより測定することができる。また、上記膜厚は-18℃で測定した値としてよい。
【0017】
以下、本実施形態の部材について詳細に説明する。
【0018】
[高分子鎖集合体]
本実施形態における高分子鎖集合体は、複数の高分子鎖からなり、全体としてブラシ状の形状をなすものである。本明細書における「高分子鎖」とは、複数のモノマー単位が鎖状に連なった構造を有する分子または分子の部分のことをいう。高分子鎖集合体を構成する複数の高分子鎖は、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、高分子鎖は、複数の同一または異なるモノマー単位が鎖状に連なった構造を有していればよく、直鎖状であってもよいし、側鎖を有していても分岐構造を有していてもよく、高分子鎖同士の間や高分子鎖と基材との間に架橋構造が形成されていてもよい。
【0019】
(高分子鎖)
上記高分子鎖は、1種類のモノマーを重合させたホモ重合体であってもよく、2種類以上のモノマーを重合させた共重合体であってもよい。共重合体として、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラジエント共重合体、交互共重合体などが挙げられる。
上記高分子鎖の生成に用いられるモノマーは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0020】
上記高分子鎖は、不凍水形成可ユニットを含む。上記高分子鎖は、不凍水形成可ユニットのみからなっていてもよいし、不凍水形成可ユニットと不凍水形成可ユニット以外のユニット(その他のユニットと称する場合がある)とからなっていてもよい。上記不凍水形成可ユニットとは、後述の不凍水形成可構造部分を有する不凍水形成可モノマー単位のみからなる、1個のモノマー単位又は複数のモノマー単位の連なりをいう。
上記高分子鎖100質量部に対する不凍水形成可ユニットの質量割合は、高分子鎖集合体を含む層中に不凍水を多く保持できる観点から、40~100質量部であることが好ましく、より好ましくは50~100質量部、さらに好ましくは80~100質量部である。上記高分子鎖中の不凍水形成可ユニットの割合とは、上記高分子鎖中の上記不凍水形成可モノマー単位の割合である。また、上記その他のユニットとは、不凍水形成可モノマー単位以外のモノマー単位のみからなる、1個以上のモノマー単位の連なりをいう。
【0021】
上記不凍水形成可構造部分は、高分子鎖内に不凍水を形成し保持できる性質を有する、モノマー単位内の構造部分をいい、例えば、水素結合できる官能基、(ポリ)アルキレングリコールやアルコキシ(ポリ)アルキレングリコールに由来する構造等が挙げられる。なお、(ポリ)アルキレングリコールに由来する構造とは、全アルキレンオキシド単位と末端のヒドロキシ基をいい、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコールに由来する構造とは、全アルキレンオキシド単位と末端のアルコキシ基とをいう。
上記不凍水形成可モノマー単位は、不凍水形成可構造部分を1個有していてもよいし、複数個有していてもよい。
【0022】
上記水素結合できる官能基としては、カルボキシ基、カルボキシ基の塩に転換できる基、ヒドロキシ基、グリシジル基、スルホン酸基、スルホン酸塩、アミド基、4級アンモニウムを含む基、イミド基、ニトリル基、アルコキシ基、等が挙げられる。上記水素結合できる官能基は、不凍水形成可モノマーの末端にあることが好ましい。
【0023】
上記カルボキシ基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられる。また、上記カルボキシ基を有するモノマーのエステルであってもよく、例えば、マレイン酸のモノアルキルエステル、フマル酸のモノアルキルエステル、等が挙げられる。なお、本明細書において、アルキル基は、炭素数1~10個(好ましくは2~5個)のアルキル基であってよい。
【0024】
上記カルボキシ基の塩に転換できる基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、tert-ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
上記ヒドロキシ基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート)等が挙げられる。
【0026】
上記グリシジル基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
上記スルホン酸基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、p-スチレンクロロスルホン酸、スチレンスルホン酸、等が挙げられる。
【0028】
上記スルホン酸塩を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、上記スルホン酸基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーの塩、メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩等のアニオン型モノマー、等が挙げられる。
【0029】
上記アミド基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、等が挙げられる。
【0030】
上記4級アンモニウムを含む基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、イオン液体型モノマー、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドなどのカチオン型モノマー、等が挙げられる。
上記イオン液体型モノマーとしては、特に限定されないが、例えば下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
式(1)において、mは1~10の整数を表し、nは1~5の整数を表す。Rは、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、R、RおよびRは、各々独立に炭素数1~5のアルキル基を表す。ただし、R、RおよびRにおけるアルキル基は、その炭素原子や水素原子が、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子で置換されていてもよく、R、RおよびRは、その2つ以上が連結して環状構造を形成していてもよい。
Yは一価のアニオンを表す。Yが表す一価のアニオンとしては、例えば、BF 、PF 、AsF 、SbF 、AlCl 、NbF 、HSO 、ClO 、CHSO 、CFSO 、CFCO 、(CFSO、Cl、Br、Iなどを挙げることができる。アニオンの安定性を考慮すると、BF 、PF 、(CFSO、CFSO 、またはCFCO であることが好ましい。
イオン液体型モノマーは、式(1)で表される化合物のなかでも、特に下記式(2)~(9)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【化2】
式(2)~(9)において、m、n、R、R、Yは、式(1)のm、n、R、R、Yと同義である。Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表す。
【0031】
上記イミド基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、等が挙げられる。
【0032】
上記ニトリル基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、等が挙げられる。
【0033】
上記アルコキシ基を有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、ポリエトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエトキシプロピル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0034】
上記アルキレングリコールを有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、ポリ(アルキレングリコール)モノ(メタ)アクリレート(例えば、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリレートなど)、アルコキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレート(例えば、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレートなど)、フェノキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレート(例えば、フェノキシポリ(エチレングリコール)メタクリレートなど)、ポリアルコキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレート、2-グルコシロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリレートなどのノニオン型モノマー、等が挙げられる。
【0035】
上記ベタインを有する不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーとしては、(3-[(3-アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホン酸、等が挙げられる。
【0036】
中でも、上記不凍水形成可モノマー単位としては、高分子鎖集合体を含む層中に不凍水をより多く保持できる観点から、アルキレングリコールを有するモノマーが好ましく、ポリアルコキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0037】
上記高分子鎖の生成に用いるモノマーは、その重合により得られる高分子鎖を、グラフト鎖として基材に結合できるものであることが好ましい。そのようなモノマーとして、付加重合性の二重結合を少なくとも1つ有するモノマーを挙げることができ、付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーであることが好ましい。付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとして、(メタ)アクリル酸系モノマー、スチレン系モノマーなどが挙げられる。
上記不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーは、不凍水形成可構造部分を有し、さらに付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーが好ましい。不凍水形成可構造部分を有し、さらに付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとしては、例えば、上述の不凍水形成可構造部分を有するモノマーとして例示され、且つ後述の付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとしても重複して例示されるモノマーが挙げられる。
【0038】
(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリレート-2-アミノエチル、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1-(メタ)アクリロキシ-2-フェニル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)エタン、1-(4-((4-(メタ)アクリロキシ)エトキシエチル)フェニルエトキシ)ピペリジン、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチル-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、トリフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2-トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチル-2-ペルフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ジペルフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロメチル-2-ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロヘキサデシルエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0039】
スチレン系モノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-クロロスチレン、p-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、o-アミノスチレン、p-スチレンクロロスルホン酸、スチレンスルホン酸およびその塩、ビニルフェニルメチルジチオカルバメート、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)スチレン、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)スチレン、1-(2-((4-ビニルフェニル)メトキシ)-1-フェニルエトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレンなどが挙げられる。
【0040】
また、付加重合性の二重結合を1分子中に1つ有する単官能性のモノマーとして、フッ素含有ビニルモノマー(ペルフルオロエチレン、ペルフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなど)、ケイ素含有ビニル系モノマー(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなど)、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、マレイミド系モノマー(マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなど)、ニトリル基含有モノマー(アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど)、アミド基含有モノマー(アクリルアミド、メタクリルアミドなど)、ビニルエステル系モノマー(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなど)、オレフィン類(エチレン、プロピレンなど)、共役ジエン系モノマー(ブタジエン、イソプレンなど)、ハロゲン化ビニル(塩化ビニルなど)、ハロゲン化ビニリデン(塩化ビニリデンなど)、ハロゲン化アリル(塩化アリルなど)、アリルアルコール、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、メチルビニルケトン、ビニルイソシアナート、主鎖がスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサンなどから誘導されたマクロモノマーなども用いることもできる。
【0041】
上記高分子鎖は、反応性基を有するポリマー同士が反応して得られたポリマーであってもよい。反応性基としては、ヒドロキシ基やイソシアネート基などが挙げられる。反応性基を有するポリマーとしては、ポリエチレングリコールやジメチルシロキサンの重合体などが挙げられ、具体的には、サイラプレーンFM-0421(反応性シリコーン)(信越化学工業社製)などが挙げられる。
氷核形成および着氷の抑制効果に特に優れる観点から、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート、またはドデシルメタクリレートとトリデシルメタクリレートとの混合物が好ましく、屋外での着雪抑制の観点から、ドデシルメタクリレートとトリデシルメタクリレートとの混合物が特に好ましい。
【0042】
上記高分子鎖は、高分子鎖集合体を含む層に保持させる液状物質に対して親和性を有する親水性高分子鎖であることが好ましい。
例えば、高分子鎖集合体を含む層に、水や親水性の液状物質を保持させる場合は、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖は、親水性高分子鎖であることが好ましい。親水性高分子鎖は、親水性モノマーを用いて合成してもよく、疎水性モノマーを用いて高分子を合成した後に、その高分子に親水性基を導入することによって合成してもよい。
本明細書において、水との相溶性が高い高分子鎖を「相溶系高分子鎖」、水との相溶性が低い高分子鎖を「非相溶系高分子鎖」と称する場合がある。なお、水との相溶性が高い高分子鎖とは、原子間力顕微鏡を用いた膜厚測定法で測定、算出される膨潤度が、1.5以上(好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上)である高分子鎖をいい、水との相溶性が低いとは1.5未満(好ましくは1.3以下、より好ましくは1.1以下、さらに好ましくは1.08以下、特に好ましくは1.05以下)である高分子鎖をいう。
なお、上記膨潤度は以下の方法で測定された値をいう。層の厚さを測定する試験体に、ピンセット先端などで傷をつけ、基板素地がむき出しになっている部分と層がある部分の境界を、原子間力顕微鏡コロイドプローブ法(コンタクトモード)を用いて段差の高さ(すなわち、乾燥状態の層の厚さ)を見積もる。次に、対応する液状物質(例えば、水)に、同一試験体を終夜浸漬した後に、液中、同一箇所で原子間力顕微鏡コロイドプローブ法(コンタクトモード)を用いて段差の高さ(すなわち、膨潤状態の層の厚さ)を見積もる。そして、膨潤状態の層の厚さ/乾燥状態の層の厚さから、膨潤度を算出する。
【0043】
上記高分子鎖の生成には、親水性モノマーを用いることが好ましい。すなわち、上記高分子鎖は親水性モノマー由来のモノマー単位を含むことが好ましい。
上記不凍水形成可モノマー単位を構成するモノマーは、不凍水形成可構造部分を有し、さらに親水性を有するモノマーが好ましい。不凍水形成可構造部分を有し、さらに親水性を有するモノマーとしては、例えば、上述の不凍水形成可構造部分を有するモノマーとして例示され、且つ後述の親水性モノマーとしても重複して例示されるモノマーが挙げられる。
【0044】
親水性モノマーとしては、ヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエトキシプロピル(メタ)アクリレートなど)、ポリ(アルキレングリコール)モノ(メタ)アクリレート(例えば、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリレートなど)、アルコキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレート(例えば、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレートなど)、フェノキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレート(例えば、フェノキシポリ(エチレングリコール)メタクリレートなど)が好ましく、ポリアルコキシポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレートがより好ましい。
また、親水性モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド(例えば、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミドなど)、2-グルコシロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、メタクリルアミド、N-ビニルピロリドン、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、およびその四級アンモニウム塩を用いることもできる。
【0045】
親水性高分子鎖の生成には、カルボキシ基またはカルボキシ基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有する親水性モノマーを用いることも好ましい。生成した高分子鎖の側鎖の基を、カルボキシ基またはカルボキシ基の塩に転換することにより親水性付与することができる。カルボキシ基またはカルボキシ基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有するモノマーとしては、tert-ブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0046】
本実施形態の部材において、上記液状物質の少なくとも一部が水であり、氷核形成および着氷の抑制効果に優れる観点から、上記高分子鎖は相溶系高分子鎖であることが好ましい。
上記相溶系高分子鎖は、ポリ(エチレングリコール)モノメタクリレートなどのノニオン型モノマー;メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩などのアニオン型モノマー;メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドなどのカチオン型モノマー;および3-[(3-アクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパン-1-スルホン酸などのベタイン型モノマー;からなる群から選ばれる少なくとも一種の相溶系モノマーに由来する構造単位を含むことが好ましい。なかでも、氷核形成および着氷の抑制効果に特に優れる観点から、(ポリ)アルキレングリコールを有するモノマーが好ましい。上記相溶系モノマーは、一種を単独で用いてもよいし複数種を組み合わせて用いてもよい。
上記相溶系高分子鎖は、高分子鎖100質量部に対する、上記相溶系モノマーに由来する構造単位の質量割合が、50質量部超(好ましくは70質量部以上、より好ましくは80質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上、特に好ましくは100質量部)である高分子鎖をいう。上記高分子鎖は、高分子鎖100質量部に対する、上記ベタイン型モノマーに由来する構造単位の質量割合が、70質量部以上であることが好ましく、より好ましくは80質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上、特に好ましくは100質量部である。
なお、相溶系モノマーとは、ホモポリマーとしたときの上記膨潤度が1.1以上であるモノマーといい、非相溶系モノマーとは、ホモポリマーとしたときの上記膨潤度が1.1未満であるモノマーという。相溶系高分子鎖を構成するモノマーの一部が非相溶系モノマーであってよい。
上記高分子鎖が(ポリ)アルキレングリコールを有するモノマーを含む場合、上記高分子鎖100質量部に対する不凍水形成可ユニットの質量割合は、高分子鎖集合体を含む層中に不凍水を多く保持できる観点から、80~100質量部であることが好ましい。
【0047】
本実施形態の部材において、本発明の効果を損なわない範囲において、上記液状物質の一部が水と非相溶系の物質であってよい。
【0048】
高分子鎖集合体には、高分子鎖同士の間や高分子鎖と基材との間に架橋構造が形成されていてもよい。これにより、高分子鎖集合体の弾性率を制御することができる。高分子鎖同士の間に形成する架橋構造は、物理的架橋構造および化学的架橋構造のいずれであってもよい。架橋構造は、高分子鎖を生成するための重合反応と同時に形成してもよいし、高分子鎖を生成した後に形成してもよい。高分子鎖を生成するための重合反応と同時に行う架橋構造の形成は、重合反応液に、高分子鎖を生成するための単官能性モノマーに加えて、エチレングリコールジメタクリレートなどのジビニルモノマーのような二官能性モノマーを適量添加することにより行うことができる。また、生成した高分子鎖同士の間や高分子鎖と基材との間の架橋構造の形成は、架橋基を有するモノマーを用いて高分子鎖に架橋基を導入しておき、その架橋基と、他の高分子鎖の反応基との反応、その架橋基と基材の反応基との反応により行うことができる。架橋基としては、アジド基、ハロゲン基(好ましくはブロモ基)、アルコキシシリル基、イソシアネート基、ビニル基、チオール基などを挙げることができる。また、高分子鎖をリビングラジカル重合で生成した際に、グラフト鎖の末端に残る反応基を架橋基として用いることもできる。
【0049】
本実施形態の部材において、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖は基材に固定されている。基材は、高分子鎖集合体とは別の物質からなる担体であってもよいし、高分子鎖集合体に含まれる高分子鎖と同一または異なる直鎖状または分岐鎖状の高分子鎖であってもよい。なお、本明細書において、基材としての高分子鎖を「幹ポリマー」と称する場合がある。
基材が担体である場合、高分子鎖集合体は「ポリマーブラシ」を構成する。上記担体は平板状、球状、多孔質状などの広い表面積(例えば、100mm以上の表面積)を有する基材であってよい。
また、基材が幹ポリマーである場合、主鎖としての該幹ポリマーと、その主鎖に結合した上記高分子鎖(側鎖)を合わせた全体が「ボトルブラシ構造」を構成する。基材が幹ポリマーである場合、本実施形態の部材は当該ボトルブラシ構造が上述の担体に接着したものを含む。
また、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖が、高分子鎖集合体とは別の物質からなる担体に固定されていている場合、たとえば、高分子鎖集合体が「ポリマーブラシ」を構成する場合においては、高分子鎖の一部(例えば、高分子鎖の片側末端や中央部など)のみが基材(担体)に固定されていてもよく、高分子鎖の両末端のそれぞれが基材(担体)に固定されていてもよい。高分子鎖の両末端が基材(担体)に固定されている場合は、高分子鎖はループ構造をなしており、このような高分子鎖集合体は、ループ構造のポリマーブラシを構成している。ループ構造を成すブラシ状ポリマーは、ボトルブラシであってもよい。
ここで、固定とは、基材を構成する化合物または基材表面に導入した開始基と高分子鎖とが直接化学的に結合すること、基材表面に設けた層と高分子とが化学的に結合することなどが挙げられる。中でも、低温での氷核形成抑制および着氷抑制に優れる観点から、基材を構成する化合物または基材表面に導入した開始基と高分子鎖とが直接化学的に結合することが好ましい。
なお、本明細書において「基材」とは高分子鎖が固定されるものをいう。また「担体」とは表面に複数の高分子鎖で構成されたブラシ状の高分子鎖集合体を含む層を有することができるものをいう。例えば、上述のポリマーブラシ構造を有する部材において、基材は、高分子鎖が固定されるものであり、担体もまた高分子鎖が固定されるものとしてよい。上述のボトルブラシ構造を有する部材において、基材は幹ポリマーであり、担体は幹ポリマーが接着するものとしてよい。
【0050】
本実施形態の部材において、高分子鎖集合体が上記ポリマーブラシを構成している場合、ポリマーブラシの層の厚さ、すなわち、高分子鎖集合体を含む層の厚さは、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、300nm以上であることがなお更に好ましく、500nm以上であることがより一層好ましく、1000nm以上であることが特に好ましい。上限は特に限定はないが、例えば100μm以下とすることができ、50μm以下とすることもできる。高分子鎖集合体が自己組織化により形成される場合、この層厚さは、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることが更に好ましい。上限は特に限定はないが、例えば1μm以下とすることができ、10μm以下とすることもできる。高分子鎖集合体が自己組織化により形成されるとは、個々の高分子鎖が、自発的に高分子鎖集合体を形成することを意味する。
【0051】
また、本実施形態の部材において、高分子鎖集合体が上記ボトルブラシ構造を有する場合、高分子鎖集合体を含む層の厚さは、2nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、300nm以上であることがなお更に好ましく、500nm以上であることがより一層好ましく、1000nm以上であることが特に好ましい。上限は特に限定はないが、例えば100μm以下とすることができ、50μm以下とすることもできる。
【0052】
以下においては、ポリマーブラシとボトルブラシ構造を有する部材のそれぞれについて、その高分子鎖集合体の形成方法を説明する。
【0053】
[A]ポリマーブラシ
ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、複数の高分子鎖をグラフト鎖として基材である担体に結合させるグラフト重合法、等により得ることができる。このグラフト重合は、Grafting-from法やGrafting-to法で行うことができ、このうち、Grafting-from法を用いることが好ましい。ここで、Grafting-from法は、基材に重合開始基を導入して、その重合開始基からグラフト鎖を成長させる方法であり、Grafting-to法は、予め合成したグラフト鎖を、基材に導入した反応点に結合させる方法である。
また、高分子鎖集合体は、疎水性ブロックと親水性ブロックを有する高分子(ブロック共重合体)の疎水性部分を、疎水性の基材または疎水性化された基材の表面に疎水結合させる方法によっても得ることができる。ブロック共重合体としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)構造を疎水性ブロックとし、ポリ(ナトリウムスルホン化グリシジルメタクリレート)(PSGMA)構造を親水性ブロックとする共重合体を挙げることができる。PMMA構造とPSGMA構造との間には、他の高分子構造が介在していてもよい。この方法の詳細については、Nature, 425, 163-165 (2003)などを参照することができる。
【0054】
(グラフト重合法)
以下に、高分子鎖集合体を、グラフト重合法を用いて製造する方法を具体的に説明する。
【0055】
-高分子鎖の生成-
グラフト重合法で用いる高分子鎖の製造方法は、特に限定されないが、ラジカル重合法を用いることが好ましく、リビングラジカル重合法(LRP)法を用いることがより好ましく、原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いることがさらに好ましい。リビングラジカル重合法は、高分子鎖の分子量や分子量分布をコントロールし易い、様々な種類の共重合体(例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体、組成傾斜型共重合体など)をグラフト鎖として生成できるという利点がある。また、リビングラジカル重合法によれば、高圧条件やイオン液体溶媒を用いることで、後述の濃厚ポリマーブラシを、その密度および厚さを精密に制御して生成することができる。ここで、リビングラジカル重合法を用いる場合のグラフト重合の方法は、Grafting-from法、Grafting-to法のいずれであってもよいが、Grafting-from法であることが好ましい。リビングラジカル重合法とGrafting-from法を組わせたグラフト重合法の詳細については、特開平11-263819号公報などを参照することができる。また、原子移動ラジカル重合法の詳細については、J. Am. Chem. Soc., 117, 5614 (1995)、Macromolecules, 28, 7901 (1995)、Science, 272, 866 (1996)、Macromolecules, 31, 5934-5936 (1998)を参照することができる。
また、高分子鎖は、ニトロキシド媒介重合法(NMP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法、可逆移動触媒重合法(RTCP)、可逆的錯体形成媒介重合法(RCMP)などによっても生成することができる。
【0056】
ラジカル重合法で用いる触媒は、ラジカル重合を制御できるものであればよく、好ましくは遷移金属錯体である。遷移金属錯体の好ましい例として、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を挙げることができ、中でも、銅錯体、ルテニウム錯体、鉄錯体またはニッケル錯体を用いることが好ましく、銅錯体を用いることがより好ましい。銅錯体は、1価の銅化合物と有機配位子の錯体を含むことが好ましく、1価の銅化合物と有機配位子の錯体と2価の銅化合物と有機配位子の錯体の両方を含むことがより好ましい。1価の銅化合物として、塩化第一銅、臭化第一銅などを挙げることができ、2価の銅化合物として、塩化第二銅、臭化第二銅などを挙げることができる。有機配位子として、2,2’-ビピリジル若しくはその誘導体、1,10-フェナントロリンもしくはその誘導体、ポリアミン(テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミンなど)、L-(-)-スパルテインなどの多環式アルカロイドなどを挙げることができる。1価の銅化合物と2価の銅化合物の両方を用いる場合、高分子鎖集合体を含む層中の不凍水の割合を一層高くでき、分子量分布指数(Mw/Mn)の調整が良好となることから、2価の銅化合物に対する1価の銅化合物のモル比率は、10倍以上であることが好ましく、20倍以上であることがより好ましく、30倍以上であることがさらに好ましい。2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合には、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類を添加するのが好ましい。2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)なども触媒として好適である。ラジカル重合において銅錯体を配合する際は、あらかじめ銅錯体を形成させておいたうえでラジカル重合に用いてもよいし、銅化合物と有機配位子とを銅錯体が形成される比率で配合してラジカル重合を行ってもよい。ラジカル重合において配合する銅化合物と有機配位子との比率は、銅化合物に対する有機配位子が十分に配位し銅錯体の溶解が良好となることから、有機配位子のモル数が銅化合物のモル数に対し2倍以上であることが好ましく、2.1倍以上であることがより好ましく、2.2倍以上であることが最も好ましい。
【0057】
重合反応は溶剤中で行うことが好ましい。溶剤として、炭化水素系溶剤(ベンゼン、トルエンなど)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼンなど)、ハロゲン化炭化水素系溶剤(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t-ブチルアルコールなど)、ニトリル系溶剤(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、カーボネート系溶剤(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど)、アミド系溶剤(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなど)、ハイドロクロロフルオロカーボン系溶剤(1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパンなど)、ハイドロフルオロカーボン系溶剤(炭素数2~5のハイドロフルオロカーボン、炭素数6以上のハイドロフルオロカーボンなど)、ペルフルオロカーボン系溶剤(ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサンなど)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶剤(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタンなど)、酸素含有フッ素系溶剤(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコールなど)、水などを挙げることができる。これらの溶剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0058】
-重合開始基の導入-
高分子鎖集合体を、例えばGrafting-from法を用いて製造するには、基材に重合反応の開始点となる重合開始基を導入し、この重合開始基から、上記の重合方法を用いて高分子鎖をグラフト成長させる方法が挙げられる。重合開始基としては、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化スルホニル基などを挙げることができる。重合開始基は、グラフト鎖の密度(グラフト密度)およびグラフト重合により得られる高分子鎖の一次構造(分子量、分子量分布、モノマー配列様式)を精度よく制御できることから、基材表面に物理的若しくは化学的に結合されているのが好ましい。重合開始基を基材表面に導入(結合)する方法としては、化学吸着法、ラングミュアー・ブロジェット(LB)法などを挙げることができる。
例えば、シリコンウエハ(基材)表面へのクロロスルホニル基(重合開始基)の化学結合による導入は、2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシランや2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシランなどを、シリコンウエハ表面の酸化層と反応させることにより行うことができる。
【0059】
また、LB法により重合開始基を導入するには、重合開始基を含む膜形成材料を適切な溶媒(例、クロロホルム、ベンゼンなど)に溶解する。次に、この溶液少量を清浄な液面、好ましくは純水の液面上に展開した後、溶媒を蒸発させるか、または隣接する水相に拡散させて、水面上に膜形成分子による低密度の膜を形成させる。続いて、仕切り板を水面上で機械的に掃引し、膜形成分子が展開している水面の表面積を減少させることにより膜を圧縮して密度を増加させ、緻密な水面上単分子膜を得る。次いで、適切な条件下で、水面上単分子膜を構成する分子の表面密度を一定に保ちながら、単分子層を堆積する基材を、水面上単分子膜を横切る方向に浸漬または引き上げることによって、水面上単分子膜を該基材上に移し取り、単分子層を該基材上に堆積する。LB法の詳細については、「福田清成他著、新実験化学講座18巻(界面とコロイド)6章、(1977年)丸善」、「福田清成・杉道夫・雀部博之編集、LB膜とエレクトロニクス、(1986年)シーエムシー」、或いは、「石井淑夫著、よいLB膜をつくる実践的技術、(1989年)共立出版」を参照することができる。
【0060】
重合開始基を基材表面に導入するにあたっては、基材に結合する基および基材と親和性を有する基の少なくとも一方と、重合開始基に結合する基および重合開始基と親和性を有する基の少なくとも一方を有する表面処理剤を用いて基材表面を処理することが好ましい。この表面処理剤は低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。表面処理剤として、例えば下記式(10)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
式(10)において、nは1~10の整数であり、3~8の整数であることが好ましい。R11、R12およびR13は、各々独立に置換基を表す。R11、R12およびR13の少なくとも1つは、アルコキシル基またはハロゲン原子であることが好ましく、R11、R12およびR13の全てがメトキシ基であるか、エトキシ基であることが特に好ましい。R14およびR15は、各々独立に置換基を表す。R14およびR15は、各々独立に炭素数1~3のアルキル基、または芳香族性官能基であることが好ましく、R14およびR15の両方がメチル基であることが最も好ましい。X11は、ハロゲン原子を表し、臭素原子であることが好ましい。
【0061】
表面処理剤として、重合開始基を含有するシランカップリング剤(重合開始基含有シランカップリング剤)を用いることが好ましい。これにより、表面処理と重合開始基の導入を同時に行うことができる。重合開始基含有シランカップリング剤としては、上記式(10)で表される化合物などが挙げられる。重合開始基含有シランカップリング剤およびその製造方法の説明については、国際公開第2006/087839号トの記載を参照することができる。重合開始基含有シランカップリング剤の具体例として、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリメトキシシラン(BHM)、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン(BPM)を挙げることができる。
【0062】
グラフト密度を調整する観点から、重合開始基含有シランカップリング剤を表面処理剤に用いる場合には、重合開始基を含有しないシランカップリング剤、例えば、公知のアルキルシランカップリング剤を併用することが好ましい。これにより、重合開始基含有シランカップリング剤と重合開始基を含有しないシランカップリング剤との割合を調整することで、グラフト密度を自在に変更することができる。例えば、シランカップリング剤のすべてが重合開始基含有シランカップリング剤である場合、その表面処理後にGrafting-from法にてグラフト重合を行うことにより、0.03を超える表面占有率で高分子鎖を成長させることができる。なお、表面処理剤として重合開始基含有シランカップリング剤を使用する場合、その重合開始基含有シランカップリング剤を水の存在下で加水分解させてシラノールとし、部分的に縮合させてオリゴマー状態とした後に表面処理に供してもよい。具体的には、このオリゴマーを、例えばシリカなどの基材に水素結合的に吸着させた後、乾燥処理することで脱水縮合反応を起こさせ、重合開始基を基材に導入してもよい。
【0063】
(基材)
ポリマーブラシ型の高分子鎖集合体において、高分子鎖を固定する基材(担体)を構成する材料としては、特に限定はない。有機材料、無機材料、金属材料などから適宜選択することができる。
上記基材は、上記高分子鎖集合体とは異なる物質からなる担体が好ましい。
【0064】
有機材料としては、特に限定されず、各種樹脂およびゴムを制限なく用いることができる。樹脂としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれでもよい。熱硬化性樹脂としては、たとえば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリシクロオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコールなどのビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂;などが挙げられる。ゴムとしては、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、ブチルゴムなどのジエン系ゴム;エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ポリエーテルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴムなどのジエン系ゴム以外のゴムなどが挙げられる。
【0065】
上記基材は、ポリマーモノリスであってもよい。ここで、ポリマーモノリスとは、三次元的に連通した連続空孔とポリマー骨格とで三次元共連続構造が形成されている高分子多孔質体をいう。
ポリマーモノリスのポリマー骨格は、重合性化合物と架橋剤との重合物であることが好ましい。
【0066】
上記重合性化合物としては、架橋剤との重合によりポリマー骨格を形成可能な化合物であればよく、例えば、エポキシ化合物、(メタ)アクリレート化合物、スチレン化合物などが挙げられる。なかでも、柔軟性に優れ、微細な多孔質構造のポリマーモノリスを形成しやすい点から、エポキシ化合物が好ましい。上記エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンべースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、2,2,2-トリ-(2,3-エポキシプロピル)-イソシアネートなどのトリグリシジルイソシアヌレート、トリアジン環含有エポキシ樹脂など、複素芳香環を含むエポキシ樹脂、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンなどの芳香環由来の炭素原子を含む芳香族系エポキシ化合物や、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどの芳香環由来の炭素原子を含まない脂肪族系エポキシ化合物などが挙げられる。なかでも、2官能以上のエポキシ化合物が好ましく、分子内にグリシジル基を2つ以上有する化合物がより好ましい。好ましい具体例としては、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0067】
上記架橋剤としては、例えば、アミン化合物、酸無水物、フェノール化合物、ヒドラジド化合物などが挙げられる。
上記アミン化合物としては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなどの芳香族アミン化合物;トリアジン環などの複素芳香環を有する芳香族アミン化合物;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6-トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタンおよびこれらの変性品などの脂環族アミン化合物;1,6-ヘキサメチレンビス(N,N-ジメチルセミカルバジド)などの脂肪族ポリアミンヒドラジド化合物;ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミン類やポリアミノアミド類などが挙げられる。
上記酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメット酸、無水ピロメット酸などの芳香族酸無水物が挙げられる。
上記フェノール化合物としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂などが挙げられる。
上記ヒドラジド化合物としては、例えば、イソフタル酸ジヒドラジドなどの芳香族ヒドラジド化合物;アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジドなどの脂肪族ヒドラジド化合物が挙げられる。
【0068】
架橋剤は重合性化合物の種類に応じて適宜選択することが好ましい。重合性化合物として、エポキシ化合物を用いた場合は、架橋剤はアミン化合物であることが好ましく、2官能以上のアミン化合物である分子内にアミノ基を2つ以上有する化合物がより好ましい。2官能以上のアミン化合物としては、脂環族アミン化合物であることが好ましい。好ましい具体例としては、ビス(4-アミノシクロへキシル)メタンなどが挙げられる。
【0069】
ポリマーモノリスのポリマー骨格としては、ポリマーモノリスの形成が簡便な点から、2官能以上のエポキシ化合物と2官能以上のアミン化合物の重合物であることが好ましく、2官能以上の脂肪族系エポキシ化合物と2官能以上の脂環族アミン化合物の重合物であることがより好ましい。
【0070】
重合性化合物と架橋剤の配合割合は、架橋密度などを考慮して決定すればよい。例えば、重合性化合物が2官能以上のエポキシ化合物であり、架橋剤が2官能以上のアミン化合物である場合、重合性化合物のエポキシ基1当量に対して、架橋剤のアミン当量が0.6~1.5の範囲になるように調整することが好ましい。
【0071】
ポリマーモノリスは、例えば、重合性化合物と架橋剤と孔形成剤とを含むポリマーモノリス形成用組成物によって形成することができる。より具体的には、担体としての基材にポリマーモノリス形成用組成物を塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を硬化する。重合性化合物の重合に伴ってポリマー成分が増大し、スピノーダル分解が起こって共連続構造が発現する。その後、硬化膜から孔形成剤を除去することでポリマーモノリスを形成することができる。
【0072】
ポリマーモノリスを設ける面には、ポリマーモノリス形成用組成物との親和性を向上させるために、シランカップリング剤などの公知のカップリング剤による処理や、プラズマ処理などが施されていてもよい。
【0073】
無機材料としては、特に限定されず、セラミックス(例、アルミナセラミックス、バイオセラミックス、ジルコニア-アルミナ複合セラミックスなどの複合セラミックスなど)、金属(例、鉄、鋳鉄、鋼、ステンレス鋼、炭素鋼、高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)などの鉄合金、アルミニウム、亜鉛、銅、チタンなどの非鉄および非鉄合金など)、多結晶シリコンなどのシリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、各種ガラス、石英、およびこれらの複合材料などが挙げられる。
【0074】
基材の種類は、特に限定されない。
例えばチューブ、シート、繊維、ストリップ、フィルム、板、箔、膜、ペレット、粉末、粒子、成形品(例、押出し成形品、鋳込み成形品など)などが挙げられる。また、本実施形態の部材を適用する物品そのものを基材に用いてもよい。
【0075】
(他の製造方法)
また、ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、次の製造方法によって製造することもできる。すなわち、基材を構成する有機材料(以下、基材重合体ともいう)と、ポリマーブロックAおよびポリマーブロックAよりも基材重合体に対する親和性が低いポリマーブロックBとを備え、かつ、ポリマーブロックAを少なくとも2箇所に有している複数のブロック共重合体とを溶剤中で混合して混合液を調製する工程と、混合液中から溶剤を除去して、相分離を生じさせる工程とを備える製造方法により製造することができる。この製造方法によれば、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両末端のそれぞれが担体である基材に固定されているループ構造のポリマーブラシの高分子鎖集合体を製造することができる。
【0076】
基材重合体である基材を構成する有機材料については、特に限定されず、上述したものが挙げられる。
【0077】
ブロック共重合体としては、ポリマーブロックAおよびポリマーブロックAよりも基材重合体に対する親和性が低いポリマーブロックBとを備え、かつ、ポリマーブロックAを少なくとも2箇所に有しているものであればよく、特に限定されないが、ループ構造を好適に形成できるという観点より、ポリマーブロックBは、基材重合体に対して非相溶であるものを用いることが好ましく、ポリマーブロックBが、基材重合体に対して非相溶であり、かつ、ポリマーブロックAが、基材重合体に対して相溶である組み合わせがより好ましい。
【0078】
ここで、ポリマーブロックAが、基材重合体に対して相溶であるとは、次の状態をいう。すなわち、ポリマーブロックAのみからなる重合体と、基材重合体とを、熱溶融混合や共溶液混合などにより混合した後、得られた混合物について、冷却あるいは溶剤蒸発除去などにより固化することにより得られた試料について、ガラス転移温度(Tg)を測定した場合に、ポリマーブロックAのみからなる重合体のTgと、基材重合体のTgとの間の温度域に、これらとは異なるTgが観測できる場合に、相溶であると判断することができる。
また、ポリマーブロックBが、基材重合体に対して非相溶であるとは、次の状態をいう。すなわち、ポリマーブロックBのみからなる重合体と、基材重合体とを、熱溶融混合や共溶液混合などにより混合した後、得られた混合物について、冷却あるいは溶剤蒸発除去などにより固化することにより得られた試料について、ガラス転移温度(Tg)を測定した場合に、ポリマーブロックBのみからなる重合体のTgおよび基材重合体のTg以外に、これらとは異なるTgが観測できない場合に、非相溶であると判断することができる。
【0079】
ポリマーブロックAおよびポリマーブロックBとしては、基材重合体に対する相溶性が上記の関係にあるものを用いればよいが、ループ構造を好適に形成できるという観点より、これらのSP値(溶解度パラメータ)に関し、ポリマーブロックAのSP値と、ポリマーブロックBのSP値との差は1.5(MPa)0.5以上であることが好ましく、3(MPa)0.5以上であることがより好ましく、5(MPa)0.5以上であることがさらに好ましい。また、ポリマーブロックAのSP値に関し、ポリマーブロックAのSP値と、基材重合体とのSP値との差が0.5(MPa)0.5以下であることが好ましく、0.3(MPa)0.5以下であることがより好ましく、0.2(MPa)0.5以下であることがさらに好ましい。ポリマーブロックBのSP値に関し、ポリマーブロックBのSP値と、基材重合体のSP値との差が1.5(MPa)0.5以上であることが好ましく、3(MPa)0.5以上であることがより好ましく、5(MPa)0.5以上であることがさらに好ましい。なお、ポリマーブロックAおよびポリマーブロックBのSP値は、たとえば、ポリマーハンドブック(第4版、Wiley-Interscience)に開示された値を用いることができる。
【0080】
ポリマーブロックAとしては、上述した特性を満たすものであればよく、特に限定されず、用いる基材重合体との関係で選択すればよいが、その具体例としては、上述した基材重合体を構成する樹脂またはゴムとして例示した樹脂またはゴムを構成する重合体セグメントからなるものなどが挙げられる。
【0081】
ブロック共重合体のポリマーブロックA部分の分子量(重量平均分子量(Mw))は、特に限定されないが、基材重合体と十分な相互作用を示し、これにより、ポリマーブロックBにより形成されるループ構造をより適切に支えることにより、耐久性をより高めることができるという観点より、好ましくは1,000~100,000、より好ましくは1,000~50,000、さらに好ましくは1,000~20,000であり、さらにより好ましくは2,000~20,000、特に好ましくは2,000~6,000である。
【0082】
ポリマーブロックBとしては、上述した高分子鎖として説明したもののうち、基材重合体との間で上述した特性を満たすものが好ましく用いられる。
【0083】
基材重合体と、複数のブロック共重合体鎖とを溶剤中で混合する際に、用いる溶剤としては、特に限定されず、基材重合体と、ブロック共重合体鎖とを溶解あるいは分散可能な溶剤であれば何でもよい。たとえば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどの含窒素系炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチルなどのエステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノールなどのアルコール類などが挙げられる。
【0084】
このような溶剤中で、基材重合体と、複数のブロック共重合体鎖とを混合し、溶解あるいは分散させることで、混合液を得ることができる。次いで、得られた混合液を用いて、キャスト法やスピンコート法などにより製膜した後に、製膜した混合液中から溶剤を除去する。溶剤を介して基材重合体に対して分散状態にある複数のブロック共重合体鎖のうち一部が、溶剤が除去されることで、ポリマーブロックAについては、基材重合体と相溶した状態となったままで、ブロック共重合体鎖を構成するポリマーブロックBが、基材重合体と相分離して、ポリマーブロックAが基材重合体中にあり、かつ、ポリマーブロックBが基材重合体から露出した状態に変化させることができ、これにより、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両末端のそれぞれが担体に固定されたループ構造を形成させることができる。
【0085】
溶剤を除去する方法としては、特に限定されず、用いる溶剤の種類に応じて選択すればよいが、50℃~100℃にて加熱する方法が好ましく、70~80℃にて加熱する方法がより好ましい。
【0086】
また、ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、次の製造方法によって製造することもできる。すなわち、基材重合体と、ポリマーブロックAおよびポリマーブロックAよりも基材重合体に対する親和性が低いポリマーブロックBとを備え、かつ、ポリマーブロックAを少なくとも2箇所に有している複数のブロック共重合体とを加熱下で混合して溶融混合物を調製する工程と、溶融混合物を冷却させることで相分離を生じさせる工程とを備える製造方法により製造することもできる。この製造方法によっても、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の両末端のそれぞれが担体である基材に固定されているループ構造のポリマーブラシの高分子鎖集合体を製造することができる。
【0087】
基材重合体と、複数のブロック共重合体とを加熱下で混合して溶融混合物を調製する際における加熱温度としては、特に限定されず、基材重合体またはブロック共重合体が溶融する温度、好ましくは基材重合体およびブロック共重合体鎖の両方が溶融する温度とすればよいが、好ましくは40~300℃、より好ましくは80~200℃である。
【0088】
得られた溶融混合物を用いて、キャスト法、スピンコート法、ディップコート法などにより製膜した後に、冷却させ、冷却により固化する過程において相分離を生じさせる。溶融混合されていることにより、基材重合体に対して分散状態にある複数のブロック共重合体のうち一部が、溶融状態から固体状態になる過程において、ポリマーブロックAについては、基材重合体と相溶した状態となったままで、ブロック共重合体を構成するポリマーブロックBが、基材重合体と相分離することで、ポリマーブロックAが基材重合体中にあり、かつ、ポリマーブロックBが基材重合体から露出した状態に変化させることができ、これによりループ構造を形成させることができるものである。
【0089】
溶融混合物を冷却する方法としては特に限定されないが、製膜した溶融混合物を室温下で静置する方法や、溶融混合物を構成する各成分の溶融温度よりも低い温度にて加温した状態で静置する方法などが挙げられる。
【0090】
(高分子鎖の数平均分子量および分子量分布指数)
高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500~10,000,000であり、より好ましくは100,000~10,000,000である。
高分子鎖集合体における分子量分布指数(Mw/Mn)は、高分子鎖集合体を含む層中により多くの不凍水を保持できる観点から、1.0~2.0が好ましく、1.0~1.5がより好ましい。分子量分布指数(Mw/Mn)が上記範囲であれば、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の最表面まで高密度な状態を維持しうるという効果が期待できる。分子量分布指数(Mw/Mn)は、一例として、高分子鎖集合体を形成させるラジカル重合において用いる銅触媒中の1価の銅化合物と2価の銅化合物の比率や銅化合物に対する有機配位子のモル数等により調整することができる。
高分子鎖集合体の数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)は、フッ化水素酸処理により基材から高分子鎖を切り出し、切り出した高分子鎖についてゲル浸透クロマトグラフィー法などのサイズ排除クロマトグラフィー法による分子量分析を行うことで測定することができる。
また、グラフト重合法を用いて高分子鎖集合体を形成した場合には、高分子鎖の重合反応に際して生成するフリーポリマーが、基材に固定される高分子鎖と等しい分子量を有すると仮定して、そのフリーポリマーについてサイズ排除クロマトグラフィー法により、数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)を測定し、これをそのまま高分子鎖の数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)として用いる方法も採用することもできる。なお、数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)は、基材に固定される高分子鎖と重合反応時に生成するフリーポリマーでほぼ等しいことを確認している。
【0091】
フリーポリマーを用いる分子量の測定方法について具体的に説明する。高分子鎖を表面開始リビングラジカル重合で合成する際、重合溶液に遊離開始剤を添加すると、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖と同等の分子量および分子量分布を有するフリーポリマーを得ることができる。このフリーポリマーを、サイズ排除クロマトグラフィー法にて分析することにより、数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)を決定する。
【0092】
なお、サイズ排除クロマトグラフィー法での分析は、入手可能な分子量既知の同種単分散の標準試料を用いた較正法、多角度光散乱検出器を用いた絶対分子量評価を行うものである。本明細書では、本明細書の実施例では、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)の値は、多角度光散乱検出器ならびに各種標準試料の分子量検量線を用いて適切に算定した絶対値で示す。標準試料としては、ポリスチレン標準試料、ポリメチルメタクリレート標準試料、ポリエチレングリコール標準試料などが挙げられる。
【0093】
基材表面における高分子鎖の密度は、0.01鎖/nm以上であることが好ましく、0.05鎖/nm以上であることがより好ましく、0.1鎖/nm以上であることが更に好ましく、0.2鎖/nm以上であることが特に好ましい。上限は、特に限定されないが1.0鎖/nm以下とすることができ、0.9鎖/nm以下とすることもできる。
【0094】
高分子鎖の密度は、単位面積当たりのグラフト量(W)と高分子鎖集合体の数平均分子量(Mn)を測定し、下記式を用いて求めることができる。
高分子鎖の密度(鎖/nm)=W(g/nm)/Mn×(アボガドロ数)
式において、Wは単位面積当たりのグラフト量を表し、Mnは高分子鎖集合体の数平均分子量を表す。
単位面積当たりのグラフト量(W)は、基材がシリコンウエハのような平面基板の場合には、エリプソメトリー法により乾燥状態の総厚さ、すなわち、高分子鎖集合体層の乾燥状態における厚みを測定し、バルクフィルムの密度を用いて、単位面積当たりのグラフト量(W)を算出することにより求めることができる。
高分子鎖集合体の数平均分子量(Mn)の測定方法については、上述した方法にて測定することができる。
【0095】
基材表面における高分子鎖の表面占有率(ポリマーの断面積×高分子鎖の密度)は、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。表面占有率は、基材表面をグラフト点(1つ目の構成単位)が占める割合を意味し、最密充填で1である。高分子鎖の密度の算出方法については、上述した方法にて測定することができる。ポリマーの断面積は、ポリマーの伸びきり形態における繰り返し単位長さとポリマーのバルク密度を用いて求めることができる。ポリマーが共重合体の場合は、構成するモノマーの比率に応じて数平均値として求めることができる。
基材表面における高分子鎖の表面占有率は、0.08~0.65であることが好ましく、より好ましくは0.10~0.40、さらに好ましくは屋外での着雪抑制の観点から0.15~0.25である。
【0096】
本実施形態の部材は、ポリマーブラシ構造を有する場合、0℃~-18℃の幅広い範囲で優れた着氷抑制効果を得ることができる観点から、上記基材が上記高分子鎖集合体とは別の物質からなる担体であり、上記基材表面における上記高分子鎖の表面占有率が0.08~0.65(好ましくは0.10~0.40、より好ましく0.15~0.40)であることが好ましい。特に、ポリマーブラシ構造を有する場合、表面占有率が上記範囲であると、ブラシの密度が適度な範囲となることで、液状物質の保持力が向上し(特に水と非相の液状物質では、保持力が大きく向上する)、サイズ排除効果による氷核形成の抑制を一層向上させることができる。
【0097】
[B]ボトルブラシ構造を有する部材
次に、ボトルブラシ構造を有する部材について説明する。
ボトルブラシ構造は、主鎖から複数の側鎖が分岐していて、全体としてボトルブラシ様の形状をなす分岐高分子構造のことをいう。ボトルブラシ構造は、主鎖が基材を構成し、側鎖が高分子鎖集合体を構成するが、さらに、ボトルブラシ構造が、担体に接着されてボトルブラシ構造を有する部材となってよい。担体については上述したものが挙げられる。また、この場合、ボトルブラシとポリマーブラシの両方を担体に固定または接着してもよい。その場合、ポリマーブラシは濃厚ポリマーブラシであることが好ましい。
本実施形態の部材は、上記基材である高分子鎖に上記複数の高分子鎖が側鎖として結合したボトルブラシ構造を有する部材が好ましい。
【0098】
ボトルブラシ構造を有する部材も、グラフト重合法により得ることができる。このグラフト重合は、予め合成した反応性側鎖(グラフト鎖)を、主鎖となる幹ポリマーに結合させるGrafting-to法、マクロ開始剤(重合開始基を導入した幹ポリマー)の重合開始基から側鎖(グラフト鎖)を成長させるGrafting-from法、マクロモノマー(側鎖構成ポリマーの末端に重合性官能基を有するポリマー)を重合させるGrafting-through法を用いて行うことができる。また、これらの側鎖や幹ポリマーの合成には、リビングアニオン重合、開環メタセシス重合(ROMP)、あるいは汎用性の高いリビングラジカル重合法(LRP)を用いることができる。ボトルブラシ構造を有する部材の好ましい例として、式(11)で表される化合物を挙げることができる。
【化4】
式(11)中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、Rは置換基を表し、炭素数が1~10のアルキル基であることが好ましい。RおよびRは原子または原子団からなる末端基を表し、水素原子、ハロゲン、重合開始剤由来の官能基などが挙げられる。Xは、OまたはNHを表し、Yは、2価の有機基を表し、nは、10以上の整数を表し、Polymer Aは、高分子鎖を表す。式(11)で表される化合物では、nで括られた構成単位の繰り返し構造がボトルブラシ構造の主鎖に相当し、Polymer Aがボトルブラシ構造の側鎖に相当する。
【0099】
Yが表す有機基として、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~5のオキシアルキレン基(RO)(Rは炭素数1~5のアルキレン基を表す)、このオキシアルキレン基が複数連結した連結構造、または、これらの有機基(炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~5のオキシアルキレン基およびオキシアルキレン基の連結構造)のうちの少なくとも2つの組み合わせからなる2価の有機基などを挙げることができる。ここで、アルキレン基およびオキシアルキレン基のアルキレン基は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、環状構造を有していてもよい。アルキレン基の具体例として、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロヘキシレン基を挙げることができる。このアルキレン基およびオキシアルキレン基のアルキレン基は、置換基で置換されていてもよい。置換基として、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基を挙げることができ、これらの置換基はさらに置換基で置換されていてもよい。Polymer Aの説明と好ましい範囲、具体例については、上述した高分子鎖を参照することができる。Polymer Aは、主鎖の構成単位同士で、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0100】
ボトルブラシ構造を有する部材について、主鎖を中心軸とし、その中心軸から側鎖(グラフト鎖)を直線状に延ばして、その先端を含む面(仮想外周部)を想定したとき、その部材の外形は、その先端を含む面を側面とする円柱と捉えることができる。こうした外形を有する部材では、側鎖(グラフト鎖)の長さが長くなる程、その側面における側鎖(グラフト鎖)の密度が低下し、側鎖(グラフト鎖)の構造上の自由度が高くなる。その結果、側鎖(グラフト鎖)は自由に折り畳まれ得ることになる。
【0101】
ボトルブラシ構造を有する部材において、側鎖の表面占有率(σ)は、下記式により求めることができる。
【数1】
上記式中、DPn,graftはグラフト鎖の数平均重合度、xは幹ポリマー単位長さあたりのグラフト鎖数(本/nm)、rは骨格ポリマーの半径(nm)(例えば、PBIEMでは0.8nmである)、aはモノマーの断面積(nm)(例えば、PEGMAでは3.3nm)、lは高分子鎖の繰り返し単位の全長(nm)(例えば、ポリメタクリレートの場合は0.25)であり、2π(DPn,graft・l+r)はボトルブラシの断面の円周(nm)、l/xは隣接するグラフト鎖間の距離(nm)である。上記方法は、Biomacromolecules、2021、22、2505-14を参照することができる。
側鎖の表面占有率は0~1の値を示し、数値が大きくなる程、ポリマー側面の側鎖先端部が占める割合が大きくなり、側鎖の自由度が制限されることになる。すなわち、側鎖の表面占有率は、側鎖の自由度を反映する数値であり、側鎖の表面占有率(σ)が高い程、側鎖の構造上の自由度が制限される。その結果、側鎖が主鎖に対して、略垂直方向に延びた状態を維持することができ、その構造に特有の性質を示すと推測される。
【0102】
ボトルブラシ構造を有する部材の側鎖の表面占有率は0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.10以上であることが更に好ましい。
また、側鎖の表面占有率は、0.08~0.65であることが好ましく、より好ましくは0.10~0.50、さらに好ましくは0.20~0.40である。
【0103】
ボトルブラシ構造を有する部材の側鎖の密度は、0.01鎖/nm以上であることが好ましく、0.05鎖/nm以上であることがより好ましく、0.1鎖/nm以上であることが更に好ましく、0.2鎖/nm以上であることが特に好ましい。上限は、特に限定されないが1.0鎖/nm以下とすることができ、0.9鎖/nm以下とすることもできる。
【0104】
ボトルブラシ構造を有する部材の数平均分子量は、1,000~10,000,000であることが好ましく、1,000~1,000,000であることがより好ましく、5,000~500,000であることがさらに好ましい。
【0105】
ボトルブラシ構造を有する部材の分子量分布指数(Mw/Mn)は、1.0~2.0が好ましく、1.0~1.5がより好ましい。分子量分布指数が上記範囲であれば、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の最表面まで高密度な状態を維持しうるという効果が期待できる。
【0106】
本実施形態の部材がボトルブラシ構造を有する部材である場合、上記部材が上記基材である高分子鎖に上記複数の高分子鎖が側鎖として結合したボトルブラシ構造を有する部材であり、上記ボトルブラシ構造を有する部材は、側鎖の表面占有率が0.08~0.50(より好ましくは0.10~0.50、さらに好ましく0.15~0.50)であることが好ましい。
【0107】
[液状物質]
本実施形態の部材の高分子鎖集合体を含む層は液状物質を保持しており、上記液状物質は少なくとも水を含む。上記液状物質は、水のみであってもよいし、さらに他の液状物質を含んでいてもよい。
水以外の液状物質は親水性の液状物質であることが好ましい。親水性の液状物質としては、親水性イオン液体やメタノールやエタノールなどの低分子のアルコール、アセトニトリル、アセトン、エチレングリコールなどが挙げられる。液状物質には、添加剤が含まれていてもよい。
【0108】
イオン液体とは、イオン性液体または常温溶融塩とも呼称される、イオン伝導性を有する低融点の塩である。イオン液体の多くは、カチオンとしての有機オニウムイオンと、アニオンとしての有機または無機アニオンとを組み合わせることにより得られる比較的低融点の特性を有するものである。イオン液体の融点は、通常100℃以下、好ましくは室温(25℃)以下である。イオン液体の融点は、示差走査熱量計(DSC)などにより測定することができる。
【0109】
イオン液体としては、下記式(20)で表される化合物を用いることができる。このイオン液体の融点は、50℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましい。
【化5】
式(20)において、R21、R22、R23およびR24は、各々独立に炭素数1~5のアルキル基、またはR’-O-(CH-で表されるアルコキシアルキル基を表し、R’はメチル基またはエチル基を表し、nは1~4の整数である。R21、R22、R23およびR24は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R21、R22、R23およびR24のいずれか2つが互いに結合して環状構造を形成していてもよい。但し、R21、R22、R23およびR24の少なくとも1つはアルコキシアルキル基である。X21は窒素原子またはリン原子を表し、Yは一価のアニオンを表す。
【0110】
21、R22、R23およびR24における炭素数1~5のアルキル基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基など挙げられる。
21、R22、R23およびR24において、R’-O-(CH-で表されるアルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基またはエトキシメチル基、2-メトキシエチル基または2-エトキシエチル基、3-メトキシプロピル基または3-エトキシプロピル基、4-メトキシブチル基または4-エトキシブチル基などが好ましい。
21、R22、R23およびR24のいずれか2つが互いに結合して環状構造を形成している化合物としては、X21に窒素原子を採用した場合には、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環などを有する4級アンモニウム塩などが好ましく、X21にリン原子を採用した場合には、ペンタメチレンホスフィン(ホスホリナン)環などを有する4級ホスホニウム塩などが好ましい。また、4級アンモニウム塩としては、置換基として、R’がメチル基であり、nが2の2-メトキシエチル基を少なくとも1つ有するものが好適である。
Yにおける一価のアニオンとしては、BF 、PF 、AsF 、SbF 、AlCl 、NbF 、HSO 、ClO 、CHSO 、CFSO 、CFCO 、(CFSO、Cl、Br、Iなどが挙げられ、BF 、PF 、(CFSO、CFSO 、またはCFCO であることが好適である。
【0111】
イオン液体としては、式(20)のR21がメチル基で、R23およびR24がエチル基で、R24がR’-O-(CH-で表されるアルコキシアルキル基である構造の化合物が好ましく用いられる。
【0112】
式(20)で表される化合物のうち、好適に用いられる4級アンモニウム塩および4級ホスホニウム塩の具体例として、以下に示す化合物が挙げられる。
【化6】
【0113】
また、イオン液体としては、イミダゾリウムイオンを含むイオン液体や芳香族系カチオンを含むイオン液体を用いることもできる。
【0114】
高分子鎖集合体を含む層に液状物質を保持させる方法は特に限定されない。例えば、高分子鎖集合体を含む層の表面に液状物質を塗布した後、静置して保持させる方法や、高分子鎖集合体を含む層を形成した基材を液状物質中に浸漬させる方法などが挙げられる。また、高分子鎖集合体が大気中の水分を取り込んで高分子鎖集合体を含む層中に液状物質である水を保持することもある。
【0115】
上記液状物質100質量部に対する、水の質量割合は80質量部以上であることが好ましく、より好ましくは90質量部以上、さらに好ましくは95質量部以上、特に好ましくは100質量部である。
液状物質としての水は、不凍水を含む。液状物質中の水の総質量に対する不凍水の質量割合は、下限としては、15質量%以上であり、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上であり、上限としては、50質量%以下であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。液状物質中の水の総質量に対する不凍水の質量割合は、上記高分子鎖のモノマー組成等により調整することができる。
高分子鎖集合体を含む層中の水としては、層中に含まれるバルク水及び水和水(例えば、高分子鎖中の水など)があり、上記水和水としては、-90℃で凍結する自由水や中間水、及び-90℃で凍結しない不凍水が挙げられる。また、不凍水の質量割合は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0116】
[部材の特性]
本実施形態の部材は、-18℃における着氷応力が150kPa以下であり、好ましくは100kPa以下、より好ましくは80kPa以下、より好ましくは65kPa以下、さらに好ましくは50kPa以下、さらに好ましくは35kPa以下、特に好ましくは20kPa以下である。
なお、-18℃における着氷応力は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
上記-18℃における着氷応力は、高分子鎖の種類、液状物質の種類、高分子鎖の表面占有率等により調整することができる。
【0117】
本実施形態の部材の-8℃における着氷応力は、10~50kPaであることが好ましく、より好ましくは10~30kPa、さらに好ましくは0~20kPaである。-8℃における着氷応力が上記範囲であると、0℃~-18℃の幅広い範囲で優れた着氷抑制効果を得ることができる。
上記-8℃における着氷応力は、高分子鎖の種類、液状物質の種類、高分子鎖の表面占有率等により調整することができる。
【0118】
本実施形態の部材の-18℃における着氷応力と-8℃における着氷応力との差は、100kPa以下であることが好ましく、より好ましくは90kPa以下、さらに好ましくは80kPa以下、さらに好ましくは50kPa以下、さらに好ましくは30kPa以下、特に好ましくは10kPa以下である。差が上記範囲であると、0℃~-18℃の幅広い範囲で優れた着氷抑制効果を得ることができ、中でも、高分子鎖として相溶系高分子鎖を用いると、0℃~-20℃で特に優れた着氷抑制効果を得ることができる。
本実施形態の部材は、-18℃における着氷応力が-8℃における着氷応力より高いことが好ましい。
本明細書において、-18℃における着氷応力と-8℃における着氷応力との差とは、差の絶対値をいう。
【0119】
本実施形態の部材表面の25℃の水に対する接触角は、10°以上であることが好ましく、20°以上であることがより好ましく、45°以上であることが更に好ましく、48°以上であることがより一層好ましく、48~80°であることが特に好ましい。接触角が上記範囲であれば、より優れた水滴付着抑制効果、着氷抑制効果および氷核形成抑制効果が得られる。本明細書において、部材表面の水に対する接触角の値は、23℃で部材表面に水を1μL着摘したのち、着滴1秒後の部材表面の水の接触角を測定して求めた値である。
【0120】
本実施形態の部材は、高分子鎖集合体を含む層中により多くの不凍水を保持できる観点から、高分子鎖集合体を含む層中の高分子鎖の数平均分子量に対する、高分子鎖中に含まれる各不凍水形成可モノマー単位に含まれる不凍水形成可構造部分の分子量の合計の割合(不凍水形成可モノマー単位に含まれる不凍水形成可構造部分の分子量の合計/高分子鎖の数平均分子量)が0.75以上であることが好ましく、より好ましくは0.80以上、さらに好ましくは0.80~0.95である。上記割合は、不凍水形成可モノマー単位の質量割合等により調整することができる。
なお、上記割合は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0121】
[部材の形状]
本実施形態の部材の形状は、特に限定されない。チューブ状、シート状、繊維状、ストリップ状、フィルム状、板状、箔状、膜状、ペレット状、粉末状、粒子状などが挙げられる。
【0122】
[部材の適用形態]
本実施形態の部材は、様々な物品に適用することができる。例えば、窓ガラス、車両用ガラス、ミラー、配管、容器などが挙げられる。
本実施形態の部材は、0℃から-20℃の範囲において着氷応力が大きく変化しないため、0℃から-20℃の広い温度範囲で着氷を抑制したい用途に好適に使用することができる。
【0123】
本発明は、高分子鎖集合体を含む層中に、少なくとも水を含む液状物質を保持でき、該液状物質中の水の総量に対して不凍水の占める割合を15質量%以上とすることができる部材であってもよい。例えば、上述の方法で得た部材を乾燥させ、水に浸すことで、製造することができる。浸透した水は、高分子鎖集合体を含む層中で高分子と強く相互作用しやすいため、浸透した水の多くが-90℃でも凍結しない不凍水となる。
【実施例0124】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0125】
(実施例1)
シリコンウエハおよびDSCパン(アルミニウム製)を、アセトン中で30分間、クロロホルム中で30分間および2-プロパノール中で30分間それぞれ超音波洗浄を行ったのち、シリコンウエハおよびDSCパンの両面にUVオゾンを30分間照射した。次に、DSCパンのみシリカコーティングを施した。次にシリコンウエハおよびシリカコートを施したDSCパンを、エタノール中で30分間超音波洗浄した後、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシプロピルトリメトキシシラン(BPM)/エタノール/アンモニア水=1/89/10(質量比)の混合液に浸漬し、24時間浸漬してシリコンウエハおよびDSCパンに重合開始基を導入した。次に、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code 447943、数平均分子量=500)(以下、PEGMA)と、エチル2-ブロモ-2-メチルプロピオネート(以下、EBIB)と、臭化第一銅(以下、CuBr(I)と、臭化第二銅(以下、CuBr(II)と、4,4’-ジノニル-2,2’-ビピリジン(以下、diNbip)との混合物(PEGMA/EBIB/CuBr(I)/CuBr(II)/diNbip=20万/0.1/1036.8/28.8/2344(モル比))の50質量部と、アニソールの50質量部とを入れたフッ素樹脂容器に、上記重合開始基を導入したシリコンウエハおよびDSCパンを入れた。容器を密閉してアルミ袋で覆い、高圧反応装置に入れて400MPa、60℃で4時間重合反応を行った。重合反応終了後、容器からシリコンウエハおよびDSCパンを取り出し、振とう装置を用いてテトラヒドロフランで洗浄した。その後、乾燥することによって、シリコンウエハ表面に、複数の高分子鎖からなるブラシ状の高分子鎖集合体(ポリマーブラシ層)を形成して試験体を得た。
得られた試験体の層の厚さを原子間力顕微鏡を用いて、乾燥状態と水浸漬状態で測定した結果、高分子鎖集合体を含む層中に含まれる高分子鎖を100質量部とした場合、水の質量割合は50質量部であった。その後解析をしたところ、シリコンウエハ表面に形成されたポリマーブラシ層の厚さは1102nm、数平均分子量が6.2×10、分子量分布指数(Mw/Mn)が1.4、ポリマー重合率が3%、高分子鎖の密度が0.12鎖/nm、高分子鎖の表面占有率は0.33であった。なお、ポリマーブラシ層の膜厚はエリプソメトリー法で測定した。ポリマーブラシ層の数平均分子量および分子量分布指数は、展開溶媒として10mMのリチウムブロマイドを含むジメチルホルムアミドを用い、検出器として多角度光散乱検出器を用いたゲル浸透クロマトグラフィー法で算出した。また、ポリマー重合率は、H-NMRにて測定した。
得られたDSCパンを40℃で24時間の条件で減圧乾燥させた。その後、0.03mgの水(飽和膨潤状態の層における層中の水分量(Wmax)を超える量の水)で湿潤状態とした。後述の方法により、高分子鎖集合体を含む層中に、不凍水が20質量%含まれることを確認した。また、示差走査熱量測定を実施することで、-18℃においても高分子鎖集合体を含む層内に、水が液状で保持されていることを確認した。
【0126】
(実施例2)
メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code 447943、数平均分子量=500)の代わりに、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code (447951)、数平均分子量=950)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして部材を得た。
【0127】
(実施例3)
メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code 447943、数平均分子量=500)の代わりに、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code 447943、数平均分子量=500)50質量部とメトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code (447951)、数平均分子量=950)50質量部の混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして部材を得た。
【0128】
(実施例4)
メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code 447943、数平均分子量=500)の代わりに、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code (447935)、数平均分子量=300)50質量部とメトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code (447951)、数平均分子量=950)50質量部の混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして部材を得た。
【0129】
(実施例5)
メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code 447943、数平均分子量=500)の代わりに、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code (447935)、数平均分子量=300)50質量部とメトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code 447943、数平均分子量=500)50質量部の混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして部材を得た。
【0130】
(比較例1)
メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code 447943、数平均分子量=500)の代わりに、メトキシポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Aldrich製、code (447935)、数平均分子量=300)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして部材を得た。
【0131】
[評価]
上記実施例で得られた部材について、下記の測定を行った。
【0132】
(表面占有率)
上述の方法により算出した。
【0133】
(高分子鎖集合体を含む層中の水の質量割合)
実施例、比較例で部材を作製する際、40℃で24時間の条件で減圧乾燥させた後の高分子鎖集合体を含む層の厚さを、該層があるところとないところの段差を、原子間力顕微鏡(商品名(JPK Instruments社製 NanoWizard3))のコンタクトモードで測定した。
その後、イオン交換水に室温で浸した状態である飽和膨潤状態で高分子鎖集合体を含む層の厚さを同様の方法で測定した。そして、飽和膨潤状態の層厚さと乾燥状態の層厚さとの差から、飽和膨潤状態の高分子鎖集合体を含む層に含まれる水分量(Wmax、単位(mg))を求めた。
また、上記と同様に製造した乾燥状態の部材の高分子鎖集合体を含む層に、上記Wmaxを超える量(Wcal、単位(mg))のイオン交換水を加えて湿潤状態とし、湿潤状態の部材を得た。湿潤状態の該部材に蓋(Tzero Hermetic Lid、TA Instruments社製)を被せて密封し、Discovery DSC 2500型示差走査熱量計(TA Instruments社製)を用いて、25℃から3℃/分の冷却速度で-90℃まで冷却した後、3℃/分の昇温速度で50℃まで昇温して示差走査熱量測定を行い、DSC曲線から算出される融解熱量を氷の融解潜熱(334J/g)で除して、湿潤状態の高分子鎖集合体を含む層中の凍結水量(Wice、単位(mg))を求めた。
そして、高分子鎖集合体を含む層に加えたイオン交換水の量WcalからWiceを減じて不凍水量Wf(単位(mg))を得、不凍水の割合Wf/Wmax×100(単位(質量%))を算出した。
なお、高分子鎖集合体を含む層に過剰量の水を加えると、バルク水と水和水(高分子中の水)とになる。そして、上記水和水には、0℃で凍結する自由水、0℃では凍結しないものの-90℃まで冷却すると凍結する中間水、及び-90℃でも凍結しない不凍水、とが含まれる。上記自由水と中間水とは、-90℃で凍結する高分子鎖中の水和水である。本明細書において、高分子鎖集合体を含む層中の水の質量割合を測定する際の、液状物質中の水の総質量とは、バルク水を除く水和水の総質量としてよい。
【0134】
(不凍水形成可構造部分の分子量の割合)
高分子鎖集合体を含む層から、フッ化水素酸処理により基材から高分子鎖を切り出し、切り出した高分子鎖についてサイズ排除クロマトグラフィー法による分子量分析により数平均分子量(Mn)を測定した。
また、高分子鎖集合体中に含まれる不凍水形成可モノマー単位の構造を分析し、該モノマー単位内の不凍水形成可構造部分の組成から分子量を算出した。
なお、サイズ排除クロマトグラフィー法による分子量分析は、以下の方法で行った。
サイズ排除クロマトグラフィー法の分析は、多角度光散乱検出器(商品名(実施例参照))、及び分子量既知の同種単分散の標準試料であるポリメタクリル酸メチル標準試料を用いて作成した分子量検量線を用いて算出した。なお、サイズ排除クロマトグラフィーは以下の条件で分析を行った。
使用装置名及び型番:shodex社製 GPC-101
カラムの商品名及び型番:shodex社製、LF-804、KF-06L
溶離液:DMF/LiBr(10mM)
溶離液の流量:0.8mL/min
カラム温度:40℃
検出器の装置名及び型番:Wyatt Technology社製、DAWN-HELLO
高分子鎖集合体を含む層から切り出した高分子鎖の数平均分子量をMn、及び重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)を表1に示す。
また、高分子鎖の分子量に対する、不凍水形成可ユニットを構成する不凍水形成可モノマー単位に含まれる不凍水形成可構造部分の分子量の合計の割合は、以下の式(1)から算出した。
不凍水形成可ユニットを構成する各モノマー単位に含まれる不凍水形成可構造部分の分子量の合計/高分子鎖を構成するモノマー単位の分子量の合計 ・・・(1)
【0135】
(着氷応力)
実施例、比較例で得られた部材を、顕微鏡用冷却機能付き延伸ステージ(ジャパンハイテック社製)上にセットし、着氷応力測定を実施した。氷柱は、縁にシリコングリスを塗ったアルミ製円柱型(内径6mm)の内側に純水60μLを注入し、これを5℃/minの速さで-20℃まで冷却、30分間保持することで作製した。その後、ステージの設定温度を5℃/minの速さで-18℃まで昇温させて30分間保持した後、試験を実施した。延伸ステージの移動に伴ってステージに取り付けたL字治具がアルミ製の円柱を押すようにセットし、氷柱が剥離した際に延伸ステージのロードセルにかかった荷重から着氷応力(kPa)を算出した(図1)。そして以下の基準で評価した。ステージ移動速度は10mm/minとした。
◎(極めて優れる):着氷応力が50kPa未満
〇(優れる):着氷応力が50kPa以上100kPa未満
△(良好):着氷応力が100kPa以上150kPa未満
×(不良):着氷応力が150kPa以上
【0136】
(高分子鎖集合体を含む層の厚さ)
分光エリプトソメリー法(ファイブラボ社製 MASS-105)で室温にて測定した。光学定数などに関しては、メーカー所定の手法に従い、作製した各試験体を用いて作成したファイルを用いた。
【0137】
(膨潤度)
実施例、比較例で作製した部材を、40℃で24時間の条件で減圧乾燥させた。そして、部材の高分子鎖集合体を含む層に、ピンセット先端で傷をつけた。そして、基板素地がむき出しになっている部分と高分子鎖集合体を含む層がある部分の境界を、原子間力顕微鏡コロイドプローブ法(コンタクトモード)を用いて、段差の高さ(すなわち、乾燥状態の高分子鎖集合体を含む層の厚さ)を測定した。次に、イオン交換水に、同一試験体を室温で浸漬した後に、液中、同一箇所で原子間力顕微鏡コロイドプローブ法(コンタクトモード)を用いて、膨潤状態の段差の高さを測定した。そして、膨潤状体の層の厚さ/乾燥状態の層の厚さから、膨潤度を算出した。
【0138】
【表1】
図1