(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168853
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】多孔質膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/02 20060101AFI20241128BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241128BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20241128BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20241128BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20241128BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20241128BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B01D69/02
B01D69/00
B01D71/68
B01D71/40
B01D61/14 500
B01D69/04
B01D69/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085866
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大石 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】道川 功実子
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA21
4D006MA24
4D006MA26
4D006MA31
4D006MB09
4D006MB10
4D006MB20
4D006MC37X
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC59
4D006MC61
4D006MC62X
4D006NA25
4D006NA62
4D006PA01
4D006PB52
4D006PB55
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高く、かつ、ウイルス除去性能に優れた多孔質膜の提供。
【解決手段】疎水性高分子と親水性高分子を含有する多孔質膜であって、
前記多孔質膜の外表面近傍の緻密層における空隙率が35%以上45%以下であり、
外表面近傍の緻密層における孔外接矩形の長径/短径が1.00以上1.45以下であり、
緻密層の厚みが1~8μmであり、
抗体濃度が15 mg/mLになるように緩衝溶液で調整した25℃の溶液を前記多孔質膜で196 kPaの有効濾過圧で3時間濾過して、抗体の疎水性相互作用をA、抗体含有溶液の濾過処理量をBとしたとき、B=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)の関係を満たす多孔質膜。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性高分子と親水性高分子を含有する多孔質膜であって、
外表面近傍の緻密層における空隙率が35%以上45%以下であり、
外表面近傍の緻密層における孔外接矩形の長径/短径が1.00以上1.45以下であり、
緻密層の厚みが1~8μmであり、
抗体濃度が15 mg/mLになるように緩衝溶液で調整した25℃の溶液を前記多孔質膜で196 kPaの有効濾過圧で3時間濾過して、抗体の疎水性相互作用をA、抗体含有溶液の濾過処理量をBとしたとき、B=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)の関係を満たす多孔質膜。
【請求項2】
前記親水性高分子が電気的に中性な非水溶性の親水性高分子である、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記疎水性高分子がポリスルホン系ポリマーである、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記非水溶性の親水性高分子がビニル系ポリマーである、請求項2に記載の多孔質膜。
【請求項5】
前記多孔質膜が、前記多孔質膜の外表面から接液表面に向かって連続的に孔径が変化する傾斜構造を有する、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項6】
前記緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数が0.5~12.0である、請求項1又は5に記載の多孔質膜。
【請求項7】
前記多孔質膜が、限外濾過膜である、請求項1又は5に記載の多孔質膜。
【請求項8】
前記多孔質膜が、ウイルス除去膜である、請求項1又は5に記載の多孔質膜。
【請求項9】
前記多孔質膜が、中空糸状膜又はチューブラー状膜である、請求項1又は5に記載の多孔質膜。
【請求項10】
請求項1又は5に記載の多孔質膜を含むフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、副作用が少ないこと及び治療効果が高いことにより、医薬品として、血漿分画製剤及びバイオ医薬品を用いた治療が広まってきている。しかし、血漿分画製剤はヒト血液由来であること、バイオ医薬品は動物細胞由来であることから、ウイルス等の病原性物質が医薬品に混入するリスクが存在する。
【0003】
医薬品へのウイルス混入を防ぐため、ウイルスの除去又は不活化が必ず行われている。ウイルスの除去又は不活化法として、加熱処理、光学的処理及び化学薬品処理等が挙げられる。タンパク質の変性、ウイルスの不活化効率及び化学薬品の混入等の問題から、ウイルスの熱的及び化学的な性質に拘わらず、すべてのウイルスに有効な膜濾過方法が注目されている。
【0004】
除去又は不活化すべきウイルスとしては、直径25~30nmのポリオウイルスや、最も小さいウイルスとして直径18~24nmのパルボウイルスが挙げられ、比較的大きいウイルスでは直径80~100nmのHIVウイルスが挙げられる。近年、特にパルボウイルス等の小さいウイルスの除去に対するニーズが高まっている。
【0005】
ウイルス除去膜に求められる第一の性能は、安全性である。安全性として、血漿分画製剤及びバイオ医薬品にウイルス等の病原性物質を混入させない安全性と、ウイルス除去膜からの溶出物等の異物を混入させない安全性が挙げられる。
ウイルス等の病原性物質を混入させない安全性として、ウイルス除去膜によりウイルスを十分に除去することが重要となる。非特許文献1には、マウス微小ウイルスやブタパルボウイルスの目標とすべきクリアランス(LRV)は、4とされている。
また、溶出物等の異物を混入させない安全性として、ウイルス除去膜から溶出物を出さないことが重要となる。
【0006】
ウイルス除去膜に求められる第二の性能は、生産性である。生産性とは、5nmサイズのアルブミン及び10nmサイズのグロブリン等のタンパク質を効率的に回収することである。孔径が数nm程度の限外濾過膜及び血液透析膜、並びにさらに小孔径の逆浸透膜は、濾過時にタンパク質が孔を閉塞させるために、ウイルス除去膜として適していない。特にパルボウイルス等の小さいウイルス除去を目的とした場合、ウイルスのサイズとタンパク質のサイズが近いため、上記の安全性と生産性を両立させることは困難であった。
【0007】
特許文献1には、再生セルロースからなる膜を用いたウイルス除去方法が開示されている。
特許文献2には、熱誘起相分離法により製膜されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる膜にグラフト重合法により表面が親水化されたウイルス除去膜が開示されている。これらの膜は、抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が圧倒的に低い傾向にある。
【0008】
また、特許文献3には、PhiX174に対する少なくとも4.0の初期のウイルス対数除去率(LRV)を有し、表面がヒドロキシアルキルセルロースでコーティングされたウイルス除去膜が開示されている。ヒドロキシアルキルセルロースで親水性にされた表面を有し、約1000L/m2を超えるスループットを有する本質的に疎水性の高分子膜基材である。
【0009】
特許文献4には、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドン(PVP)のブレンド状態から製膜されたウイルス除去膜が開示されている。
特許文献5には、ポリスルホン系高分子とビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体のブレンド状態から製膜された膜に多糖類又は多糖類誘導体がコーティングされたウイルス除去膜が開示されている。これらの膜は、溶液に含まれるウイルスを効率よく分離除去することができ、同時に、タンパク質などの有用回収物質が効率よく透過可能である。
【0010】
特許文献6には、基材としてのポリエーテルスルホンとコート層としての親水性高分子とからなる中空糸膜が開示されている。タンパク質溶液に含まれるウイルスを高効率に除去し、高いFluxと濾過中の目詰まりによるFlux低下を抑制して、ウイルスを含むタンパク質溶液からタンパク質を高効率に回収可能である。
特許文献7には、ポリスルホン系高分子と親水性高分子を含み、膜の外表面部位から内表面部位に向かって孔径が大きくなる傾斜構造を有する中空糸濾過膜が開示されている。タンパク質会合体等の、透過有効成分に近いサイズを有する比較的小さな夾雑物が存在する場合においても、濾過中の経時的なFlux低下を抑制し、効率的に有用成分を回収可能である。
特許文献8には、ポリスルホン系高分子と親水性高分子を含み、細孔の平均孔径が外表面から内表面に向かって大きくなる傾斜型非対称構造を有する中空糸濾過膜が開示されている。タンパク質溶液濾過中の緻密層の細孔表面へのタンパク質の吸着を抑制し、タンパク質透過性に優れた性能を有する。
特許文献9には、疎水性高分子と非水溶性の親水性高分子を含有する細孔の平均孔径が濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる傾斜構造の多孔質膜が開示されている。タンパク質溶液濾過中の目詰まりを抑制しつつ、高効率に有用成分を回収することが可能である。
特許文献10には、ポリスルホン系高分子と親水性高分子を含み、膜厚の中心領域に緻密層を有する多孔質中空糸膜が開示されている。タンパク質溶液濾過中の経時的なFlux低下を抑制しながらウイルス除去が可能である。
特許文献11には、TOF-SIMSにより膜の表面を規定した疎水性高分子に親水性高分子がコーティンされている多孔質膜が開示されている。多孔質膜の製造時に膜同士が固着する現象を減少することが可能である。
【0011】
特許文献3~11には、疎水性高分子と親水性高分子を含む膜がタンパク質溶液からウイルスを除去することに優れていることが記載されている。しかしながら、これらの膜には抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高いことに関しての記載が一切ない。さらに、これらの膜には中空糸状膜又はチューブラー状膜に成形された膜から成る膜束の製束がしやすいことに関しての記載が一切ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4024041号公報
【特許文献2】国際公開第2004/035180号
【特許文献3】特許第4504963号公報
【特許文献4】国際公開第2011/111679号
【特許文献5】特許第5403444号公報
【特許文献6】特許第6770807号公報
【特許文献7】特許第6522001号公報
【特許文献8】特許第6433513号公報
【特許文献9】特許第6385444号公報
【特許文献10】特許第6367977号公報
【特許文献11】特許第7185766号公報
【非特許文献1】PDA Journal of GMP and Validation in Japan, Vol.7, No.1, p.44(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高く、かつ、ウイルス除去性能に優れた多孔質膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、所定の構造を有する多孔質膜が、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]
疎水性高分子と親水性高分子を含有する多孔質膜であって、
外表面近傍の緻密層における空隙率が35%以上45%以下であり、
外表面近傍の緻密層における孔外接矩形の長径/短径が1.00以上1.45以下であり、
緻密層の厚みが1~8μmであり、
抗体濃度が15 mg/mLになるように緩衝溶液で調整した25℃の溶液を前記多孔質膜で196 kPaの有効濾過圧で3時間濾過して、抗体の疎水性相互作用をA、抗体含有溶液の濾過処理量をBとしたとき、B=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)の関係を満たす多孔質膜。
[2]
前記親水性高分子が電気的に中性な非水溶性の親水性高分子である、[1]に記載の多孔質膜。
[3]
前記疎水性高分子がポリスルホン系ポリマーである、[1]又は[2]に記載の多孔質膜。
[4]
前記非水溶性の親水性高分子がビニル系ポリマーである、[2]又は[3]に記載の多孔質膜。
[5]
前記多孔質膜が、前記多孔質膜の外表面から接液表面に向かって連続的に孔径が変化する傾斜構造を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質膜。
[6]
前記緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数が0.5~12.0である、[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質膜。
[7]
前記多孔質膜が、限外濾過膜である、[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質膜。
[8]
前記多孔質膜が、ウイルス除去膜である、[1]~[6]のいずれかに記載の多孔質膜。
[9]
前記多孔質膜が、中空糸状膜又はチューブラー状膜である、[1]~[7]のいずれかに記載の多孔質膜。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の多孔質膜を含むフィルター。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高く、かつ、ウイルス除去性能に優れた多孔質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】多孔質膜の外表面近傍に存在する孔外接矩形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0019】
本発明の多孔質膜は、外表面近傍の緻密層における空隙率が35%以上45%以下であり、外表面近傍の緻密層における孔外接矩形の長径/短径が1.00以上1.45以下であり、緻密層の厚みが1~8μmであり、抗体濃度が15 mg/mLになるように緩衝溶液で調整した25℃の溶液を前記多孔質膜で196 kPaの有効濾過圧で3時間濾過して、抗体の疎水性相互作用をA、抗体含有溶液の濾過処理量をBとしたとき、B=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)の関係を満たす多孔質膜であることを特徴とする。
前記式の上限(B=-62.59A+84.68+2.5)以下であることにより、ウイルスの目標とすべきクリアランス(LRV)が向上する傾向にある。また、前記式の下限(B=-62.59A+84.68-2.5)以上であることにより、抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が向上する傾向にある。
【0020】
[多孔質膜の組成]
本発明の多孔質膜(以下、単に「膜」ともいう。)は、疎水性高分子と親水性高分子を主成分とする。ここで、「疎水性高分子と親水性高分子を主成分とする」とは、疎水性高分子と親水性高分子の合計が多孔質膜を構成する材料の80質量%以上を占めることをいい、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
【0021】
[疎水性高分子]
疎水性高分子としては、例えば、ポリスルホン系ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられ、これらの中でも芳香族ポリスルホン系ポリマーが好ましい。本発明で用いられる芳香族ポリスルホン系ポリマーとしては、例えば、下記の一般式(1)、又は一般式(2)で示される繰り返し単位を有するものが挙げられる。なお、式中のArは、好ましくは2置換のフェニル基、より好ましはパラ位での2置換のフェニル基を示す。そして、疎水性高分子化合物の重合度や分子量は特に限定されない。
-O-Ar-C(CH3)2-Ar-O-Ar-SO2-Ar-(1)
-O-Ar-SO2-Ar- (2)
芳香族ポリスルホン系ポリマーとしては、一般式(1)及び一般式(2)の構造において、官能基やアルキル基等の置換基を含んでもよく、炭化水素骨格の水素原子はハロゲン等の他の原子や置換基で置換されてもよい。ポリスルホン系ポリマーは、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0022】
[親水性高分子]
本実施形態においては、高分子フィルム上にPBS(日水製薬社から市販されているダルベッコPBS(-)粉末「ニッスイ」9.6gを水に溶解させ全量を1Lとしたもの)を接触させたときの接触角が90度以下になるものを、親水性高分子という。
本実施形態において、親水性高分子の接触角は60度以下が好ましく、接触角40度以下がより好ましい。接触角が60度以下の親水性高分子を含有する場合には、多孔質膜が水に濡れ易く、接触角が40度以下の親水性高分子を含有する場合には、水に濡れ易くなる傾向が一層顕著である。
接触角とは、フィルム表面に水滴を落とした時に、水滴表面がなす角度を意味し、JIS R3257で定義される。
【0023】
[非水溶性の親水性高分子]
本実施形態において、非水溶性の親水性高分子とは、上記接触角と溶出率を満たす物質である。非水溶性の親水性高分子には、物質自体が非水溶性である親水性高分子に加え、水溶性の親水性高分子であっても、製造工程で非水溶化された親水性高分子も含まれる。すなわち、水溶性の親水性高分子であっても、上記接触角を満たす物質であって、製造工程で非水溶化されることで、フィルターを組み立てた後の定圧デッドエンド濾過において、上記溶出率を満たすのであれば、本実施形態における非水溶性の親水性高分子に含まれる。
【0024】
本実施形態の多孔質膜は、好ましくは、非水溶性の親水性高分子を含有する。
タンパク質の吸着による膜の目詰まりによる濾過速度の急激な低下を防止する観点で、本実施形態の多孔質膜は、疎水性高分子を含有する基材膜の細孔表面に非水溶性の親水性高分子が存在することにより親水化されることが好ましい。
基材膜の親水化方法としては、疎水性高分子からなる基材膜製膜後の、コーティング、グラフト反応、及び架橋反応等が挙げられる。また、疎水性高分子と親水性高分子のブレンド製膜後に、コーティング、グラフト反応、架橋反応等により、基材膜を親水化させてもよい。
【0025】
[ビニル系ポリマー]
非水溶性の親水性高分子としては、例えば、ビニル系ポリマーが挙げられる。
ビニル系ポリマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等のホモポリマー;スチレン、エチレン、プロピレン、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート等の疎水性モノマーと、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーのランダム共重合体、グラフト型共重合体及びブロック型共重合体等が挙げられる。
また、ビニル系ポリマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のカチオン性モノマーと、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、スルホプロピルメタクリレート、ホスホオキシエチルメタクリレート等のアニオン性モノマーと、上記疎水性モノマーとの共重合体等が挙げられ、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーを電気的に中性となるように等量含有するポリマーであってもよい。
【0026】
[電気的に中性]
非水溶性の親水性高分子は、溶質であるタンパク質の吸着を防ぐ観点で、電気的に中性であることが好ましい。
本実施形態においては、電気的に中性とは、分子内に荷電を有さない、又は、分子内のカチオンとアニオンが等量であることをいう。
【0027】
非水溶性の親水性高分子としては、多糖類であるセルロース等や、その誘導体であるセルローストリアセテート等も例示される。また、多糖類又はその誘導体として、ヒドロキシアルキルセルロース等が架橋処理されたものも含まれる。
非水溶性の親水性高分子としては、ポリエチレングリコール及びその誘導体であってもよく、エチレングリコールと上記疎水性モノマーとのブロック共重合体や、エチレングリコールと、プロピレングリコール、エチルベンジルグリコール等とのランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよい。また、ポリエチレングリコール及び上記共重合体の片末端又は両末端が疎水基で置換され、非水溶化されていてもよい。
ポリエチレングリコールの片末端又は両末端が疎水基で置換された化合物としては、α,ω-ジベンジルポリエチレングリコール、α,ω-ジドデシルポリエチレングリコール等が挙げられ、また、ポリエチレングリコールと分子内の両末端にハロゲン基を有するジクロロジフェニルスルホン等の疎水性モノマーとの共重合体等であってもよい。
非水溶性の親水性高分子としては、縮合重合により得られる、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等の主鎖中の水素原子が親水基に置換され、親水化されたポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等も例示される。親水化されたポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等としては、主鎖中の水素原子が、アニオン基、カチオン基で置換されていてもよく、アニオン基、カチオン基が等量のものでもよい。
ビスフェノールA型、ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基が開環されたものや、エポキシ基にビニルポリマーやポリエチレングリコール等が導入されたものでもよい。
また、シランカップリングされたものでもよい。
非水溶性の親水性高分子は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0028】
非水溶性の親水性高分子としては、製造のしやすさの観点から、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマー;3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1-カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーと、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレートの疎水性モノマーとのランダム共重合体が好ましく、非水溶性の親水性高分子をコートするときのコート液の溶媒の選択のしやすさ、コート液中での分散性及び操作性の観点から、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマー;3-スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の親水性モノマーと、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート等の疎水性モノマーとのランダム共重合体がより好ましい。
【0029】
水溶性の親水性高分子を、膜の製造過程で非水溶化した非水溶性の親水性高分子としては、例えば、疎水性高分子の基材膜に、側鎖にアジド基を有するモノマーと2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の親水性モノマーを共重合させた水溶性の親水性高分子をコーティングした後、熱処理をすることにより、基材膜に水溶性の親水性高分子を共有結合させることで、水溶性の親水性高分子を非水溶化したものであってもよい。また、疎水性高分子の基材膜に対して、2-ヒドロキシアルキルアクリレート等の親水性モノマーをグラフト重合させてもよい。
【0030】
本実施形態の多孔質膜として、あるいは、本実施形態における基材膜として、親水性高分子と疎水性高分子がブレンド製膜されたものであってもよい。
ブレンド製膜に用いられる親水性高分子は良溶媒に疎水性高分子と相溶するものであれば、特に限定されないが、親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン又はビニルピロリドンを含有する共重合体が好ましい。
ポリビニルピロリドンとしては、具体的には、BASF社より市販されているLUVITEC(商品名)K60、K80、K85、K90等が挙げられ、LUVITEC(商品名)K80、K85、K90が好ましい。
ビニルピロリドンを含有する共重合体としては、疎水性高分子との相溶性や、タンパク質の膜表面への相互作用の抑制の観点で、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体が好ましい。
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合比は、タンパク質の膜表面への吸着やポリスルホン系高分子との膜中での相互作用の観点から、6:4から9:1が好ましい。
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体としては、具体的には、BASF社より市販されているLUVISKOL(商品名)VA64、VA73等が挙げられる。
親水性高分子は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
[細孔変形が低い緻密層]
膜の濾過下流部位に緻密層を有する逆傾斜構造膜の外表面を可能な限りテンションレスで製造することが、抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高く、かつ、ウイルス除去性能に優れた多孔質膜を提供するために極めて重要であることを本発明者等は見出した。
多孔質膜の外表面が緻密層である逆傾斜構造膜、或いは外表面近傍に緻密層がある逆傾斜構造膜は、緻密層が外表面の構造を反映した構造となる。製膜原液と非溶媒の接触により液液相分離が誘発されてから相分離(凝固)が完了するまでの多孔質膜の製造工程において、後述する多孔質膜の外表面を可能な限りテンションレスで製造することによって、緻密層における細孔変形が低い緻密層を本発明者等は完成した。
【0032】
[多孔質膜の外表面近傍の緻密層における空隙率]
本実施形態の多孔質膜は、外表面近傍の緻密層における空隙率が35%以上45%以下である。空隙率が低いとは、膜抵抗が大きくなることを意味する。外表面近傍の緻密層における空隙率が35%より小さくなると疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高いウイルス除去膜が得られ難い。製膜の原理から外表面近傍の緻密層における空隙率が45%より大きくな膜を作製することは困難である。外表面近傍の緻密層における空隙率が35%以上となる膜は後述の湿潤状態の膜の両端部を固定し、糸束が張った状態かつ糸束を完全に水に浸漬させた状態で高圧熱水処理を行うことにより実現される。
【0033】
[多孔質膜の外表面近傍の緻密層における孔外接矩形の長径/短径]
本実施形態の多孔質膜は、外表面近傍の緻密層における孔外接矩形の長径/短径が1.00以上1.45以下であることが好ましい。孔外接矩形の長径/短径が大きいとは、孔が円形ではないことを意味し、濾過物質の透過性が低下することを意味する。多孔質膜の外表面を可能な限りテンションレスで製造することによって、外表面近傍の緻密層における孔外接矩形の長径/短径を低くすることが可能である。外表面近傍の緻密層を完全にテンションレスで製造することができれば、孔外接矩形は孔外接正方形となることから外表面における孔外接矩形の長径/短径が1.00未満には理論上成らない。外表面における孔外接矩形の長径/短径が1.45を超えると抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高いウイルス除去膜が得られ難い。
【0034】
[多孔質膜の構造の特定方法]
多孔質膜の外表面近傍の緻密層における空隙率、外表面近傍の緻密層の細孔変形の同定は、以下の方法により特定することが可能である。
【0035】
[多孔質膜の外表面近傍の緻密層の画像の取得方法]
多孔質膜が中空糸膜である場合、外表面を走査型電子顕微鏡(SEM)の観察試料台にカーボンペーストで固定する。作製した試料をオスミウムコーター(HPC-30W、株式会社真空デバイス製)を用いて印加電圧調整つまみ設定4.5、放電時間3秒の条件でオスミウムコートを施し、観察試料とする。下記条件にて観察試料に電子線を照射し、像の上下方向が中空糸膜の糸長方向と平行になるよう視野角度を調整する。骨格樹脂と孔のみからなる視野にて、オート機能でコントラストを調整する。画像上下方向に最も大きな孔が5個以上60個以下含まれ、画像横方向に最も大きな孔が7以上60以下含まれるような外表面孔径分布を説明可能な倍率を撮影倍率とする。チャージアップによる構造の歪み、異常コントラストがない状態であり、且つ、試料台、カーボンペースト、及び剃刀切断面を含まない反射電子像を得る。
【0036】
(SEM装置条件)
SEM:株式会社日立ハイテク製 走査型電子顕微鏡SU7000
プローブ電流:Normal
加速電圧:1kV
作動距離:6mm
検出器:MD検出器(反射電子像)
画像サイズ:縦1920×横2560ピクセル
【0037】
1種類の中空糸膜に対し、各3ロットの中空糸膜を用い、ロットに対し重なりのない3視野以上のSEM像(計9枚以上)を取得する。
【0038】
[多孔質膜の外表面近傍の空隙率Co’の算出]
電子顕微鏡像のラベル(文字やスケールバー部分)をトリミングで除く。この像に対し5×5の正方形カーネルを用いたメジアンフィルターによりフィルター処理を行った後、マルチ大津法により0でない2つの閾値を決定する。この閾値の内、大きな値である方を閾値として閾値以下のピクセルを黒、それ以外のピクセルを白とする像の二値化を行う。なお、白の輝度は255、黒の輝度は0である。二値化後の像に対し、2×2の正方形カーネルを用いてクロージング処理を一度行い、ノイズ除去を行う。得られた第一の解析対象像に対して像全体の総ピクセル数をAo、黒であるピクセルの数をBoとして、以下の式(1)から1枚のSEM像の空隙率Co(%)を算出する。
Co=Bo×100/Ao (1)
【0039】
1種類の多孔質膜に関して3ロット各3視野分(合計9枚)以上のSEM像を用いて、1枚のSEM像中の外表面側から0.2~0.5μmの領域に関して空隙率Coを算出する。これら空隙率Coの数平均値を多孔質膜外表面近傍の空隙率Co’とする。
【0040】
[多孔質膜の外表面近傍に存在する孔外接矩形の長径/短径M’の算出]
第2の解析対象像で独立した白の領域を抽出する。抽出した白の領域ごとに、上下左右方向いずれかの隣り合うピクセルが黒である白のピクセルを抽出することで、各領域の輪郭検出を行う。
図1(505:多孔質膜の外表面近傍に存在する孔)に示すように、この輪郭に対し回転も考慮した外接する矩形のうち、最も面積が小さい矩形を外接矩形とする。外接矩形の4つの辺の内、短い辺の長さを短径K、長い辺の長さを長径Lとして、ある輪郭における長径/短径を表すMは下記の式(2)で与えられる。
M=L/K (2)
【0041】
1種類の多孔質膜に関して3ロット各3視野分(合計9枚)以上のSEM像を用いて、1枚のSEM像中の外表面側から0.2~0.5μmの領域に関して長径/短径Mを算出する。これら長径/短径Mの数平均値を多孔質膜外表面近傍の長径/短径M’とする。
【0042】
[多孔質膜の断面構造]
本実施形態の多孔質膜は、膜の外表面から接液表面に向かって連続的に孔径が変化する傾斜構造を有することが好ましい。傾斜構造には、例えば、膜の外表面から接液表面に向かって孔径が連続的に小さくなるスポンジ構造(正傾斜構造)、膜の外表面から最小細孔径層に向かって連続的に孔径が小さくなり最小細孔径層から接液表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)、及び膜の外表面から接液表面に向かって連続的に孔径が大きくなるスポンジ構造(逆傾斜構造)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
多孔質膜の断面構造における孔径が連続的に変化する傾斜構造であることにより、タンパク質溶液濾過中の目詰まりを抑制しつつ、高効率に抗体等の有用成分を回収することが可能である。
本実施形態の多孔質膜は、多孔質膜をウイルス分離濾過膜としての用途を考える場合、膜の濾過下流部位に最小細孔径層(緻密層)を有する逆傾斜構造の膜が好ましい。本明細書において、「緻密層」とは平均孔径が50nm以下の層である。また、平均孔径が50nmより大きい層が「粗大層」である。
本実施形態において、濾過下流部位とは、一方の膜表面に相当する濾過下流面から膜厚の10%までの範囲を指し、他方の膜表面に相当する濾過上流部位とは濾過上流面から膜厚10%までの範囲を指す。例えば、多孔質中空糸膜においては、外表面側に通液すれば、内表面から膜厚10%までの範囲が濾過下流部位であり、外表面から膜厚10%までの範囲が濾過上流部位であり、内表面側に通液すれば、内表面から膜厚10%までの範囲が濾過上流部位であり、外表面から膜厚10%までの範囲が濾過下流部位となる。
本実施形態において、多孔質膜の形態としては、例えば、平膜、中空糸膜(中空糸状膜)及びチューブラー状膜が挙げられる。
【0043】
本実施形態の多孔質膜は、好ましくは、膜の濾過下流部位に緻密層を有する逆傾斜構造膜であり、細孔の平均孔径が膜の濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる傾斜型非対称構造を有し、及び緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数が0.5~12.0であることが好ましい。
本実施形態において、多孔質膜の緻密層、及び緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数は、膜断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影することで決定される。例えば、撮影倍率を50,000倍に設定し、膜断面の任意の部位において膜厚方向に対して水平に視野を設定する。設定した一視野での撮像後、膜厚方向に対して水平に撮像視野を移動し、次の視野を撮像する。この撮影操作を繰り返し、隙間なく膜断面の写真を撮影し、得られた写真を結合することで一枚の膜断面写真を得る。この断面写真において、(膜厚方向に対して垂直方向に2μm)×(膜厚方向の濾過下流面から濾過上流面側に向かって1μm)の範囲(一視野)における平均孔径を濾過下流面から濾過上流面側に向かって1μm毎に算出する。
【0044】
平均孔径の算出方法は、画像解析を用いた方法で算出する。具体的には、MediaCybernetics社製Image-pro plusを用いて空孔部と実部の二値化処理を行う。明度を基準に空孔部と実部を識別し、識別できなかった部分やノイズをフリーハンドツールで補正する。空孔部の輪郭となるエッジ部分や、空孔部の奥に観察される多孔構造は空孔部として識別する。二値化処理の後、空孔/1個の面積値を真円と仮定し、孔径を算出する。全ての孔毎に実施し、1μm×2μmの範囲毎に平均孔径を算出していく。なお、視野の端部で途切れた空孔部についてもカウントすることとする。
【0045】
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数とは、緻密層と定義された視野と緻密層に近接する粗大層の視野に基づいて算出される。平均孔径が50nm以下の緻密層(第1の視野)と平均孔径が50nm超の粗大層の視野(第2の視野)を用いて傾斜指数を算出する。ここで、第1の視野と第2の視野とは互いに隣接する。すなわち、平均孔径が膜の濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる場合において、平均孔径が50nm以下から50nm超へと変化する2つの視野が、第1の視野及び第2の視野となる。具体的には、下記式(1)により、平均孔径が50nm以下の緻密層から平均孔径が50nm超の粗大層への平均孔径の傾斜指数を算出することができる。
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数(nm/μm)=(平均孔径が50nm超の粗大層(第2の視野)の平均孔径(nm)-平均孔径が50nm以下の緻密層(第1の視野)の平均孔径(nm))/1(μm)・・・(1)
【0046】
ウイルス除去膜におけるウイルス除去機構は次のように考えられている。ウイルスを含んだ溶液は透過方向に対して垂直なウイルス捕捉面が何層も重なったウイルス除去層を透過する。この面の中の孔の大きさには必ず分布が存在し、ウイルスのサイズよりも小さな孔の部分でウイルスが捕捉される。この時、一つの面でのウイルス捕捉率は低いが、この面が何層も重なることにより、高いウイルス除去性能が実現される。例えば、一つの面でのウイルス捕捉率が20%であっても、この面が50層重なることにより、全体としてのウイルス捕捉率は99.999%となる。平均孔径が50nm以下の領域において、多数のウイルスが捕捉される。
【0047】
例えば、主な濾過対象生理活性物質である抗体の分子サイズは約10nmであり、パルボウイルスのサイズは約20nmである。多孔質膜に通液される濾過溶液である抗体溶液中には、抗体の会合体等の夾雑物がウイルスよりも大量に含まれている。
タンパク質溶液中の夾雑物の量がわずかでも多くなると、Fluxが著しく低下することが経験的に知られている。夾雑物による緻密層の孔の閉塞が、経時的なFlux低下の原因の一つである。夾雑物による緻密層での孔の閉塞を抑制するためには、緻密層に夾雑物を透過させないことが重要となるので、タンパク質溶液が緻密層を透過する前の傾斜構造層で夾雑物を捕捉させることが好ましい。
緻密層を透過する前の傾斜構造層で夾雑物をできるだけ多く捕捉するためには、緻密層を除く傾斜構造層における夾雑物の捕捉容量を多くすることが好適である。緻密層を除く傾斜構造層における透過面にも孔径分布が存在するため、緻密層から傾斜構造層への平均孔径の傾斜が緩やかであれば、夾雑物を捕捉できる面が増え、層として夾雑物を捕捉できる領域が増えることになる。
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜を緩やかにすることが、夾雑物が緻密層の孔を閉塞することによるFlux低下を抑制するために重要となる。緻密層直前の傾斜構造層で効果的に夾雑物を捕捉させるためには、緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数が0.5~12.0であることが好ましく、2.0~12.0であることがより好ましく、2.0~10.0であることがさらに好ましい。
【0048】
濾過溶液の透過速度を意味するFluxは膜中の最も孔径の小さい領域である緻密層を溶液が透過する速度に支配される。緻密層での孔の閉塞を抑制することで、濾過中の経時的なFlux低下を抑制することができる。濾過中の経時的なFlux低下の抑制がタンパク質の効率的な回収につながる。
【0049】
ウイルス除去膜において、ウイルスは主に平均孔径が50nm以下の領域において捕捉されるため、ウイルス捕捉能力を高くするためには、緻密層を厚くすることが好ましい。しかし、緻密層を厚くするとタンパク質のFluxが低下する。高効率なタンパク質の回収を行うためには、緻密層の厚みは、1~8μmであることが好ましく、2~6μmであることがより好ましい。
【0050】
本実施形態において、多孔質膜は、特に限定されるものではないが、例えば多孔質膜を中空糸形状の多孔質膜である多孔質中空糸膜とする場合、以下のようにして製造することができる。疎水性高分子として、ポリスルホン系高分子を用いた場合を例にして以下説明する。
例えば、ポリスルホン系高分子、溶媒、非溶媒を混合溶解し、脱泡したものを製膜原液とし、内部凝固液とともに二重管ノズル(紡口)の環状部、中心部から同時に吐出し、空走部を経て凝固浴に導いて膜を形成する。得られた膜を、水洗後巻取り、中空部内液抜き、熱処理、乾燥させる。その後、親水化処理させる。
【0051】
製膜原液に使用される溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド、ε-カプロラクタム等、ポリスルホン系高分子の良溶媒であれば、広く使用することができるが、NMP、DMF、DMAc等のアミド系溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。
【0052】
製膜原液には非溶媒を添加するのが好ましい。製膜原液に使用される非溶媒としては、グリセリン、水、アルコール類、ジオール化合物等が挙げられ、ジオール化合物が好ましい。ジオール化合物とは、分子の両末端に水酸基を有する化合物の総称である。ジオール化合物としては、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TriEG)、テトラエチレングリコール(TetraEG)、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。
【0053】
詳細な機構は不明であるが、製膜原液中に非溶媒を添加することにより、製膜原液の粘度が上がり、凝固液中での溶媒、非溶媒の拡散速度を抑制させることにより、凝固を制御し、多孔質膜として好ましい構造制御をしやすくなり、所望の構造形成に好適である。
製膜原液中の溶媒/非溶媒の比は、質量比で40/60~80/20が好ましい。
【0054】
製膜原液中のポリスルホン系高分子の濃度は、膜強度や透過性能の観点で、15~35質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。
【0055】
製膜原液は、ポリスルホン系高分子、良溶媒、非溶媒を一定温度で、撹拌しながら溶解することで得られる。この時の温度は、常温より高い、30~80℃が好ましい。3級以下の窒素を含有する化合物(NMP、DMF、DMAc)は空気中で酸化され、加温するとさらに酸化が進行しやすくなるため、製膜原液の調製は不活性気体雰囲気下で行うことが好ましい。不活性気体としては、窒素、アルゴン等が挙げられ、生産コストの観点から、窒素が好ましい。
【0056】
紡糸中の糸切れ防止や、製膜後のマクロボイドの形成抑制の観点で、製膜原液を脱泡することが好ましい。
脱泡工程は、以下のようにして行うことができる。完全に溶解された製膜原液が入ったタンク内を2kPaまで減圧し、1時間以上静置する。この操作を7回以上繰り返す。脱泡効率をあげるため、脱泡中に溶液を撹拌してもよい。
【0057】
製膜原液は、紡口から吐出される前までに、異物を除去することが好ましい。異物を除去することにより、紡糸中の糸切れ防止や、膜の構造制御を行うことができる。製膜原液タンクのパッキン等からの異物の混入を防ぐためにも、製膜原液が紡口から吐出される前に、フィルターを設置することが好ましい。孔径違いのフィルターを多段で設置してもよく、特に限定されるものではないが、例えば、製膜原液タンクに近い方から、順に孔径30μmのメッシュフィルター、孔径10μmのメッシュフィルターを設置することが好適である。
【0058】
製膜時に使用される内部凝固液として、製膜原液、凝固液に使用される成分と同じ成分を使用することが好ましい。製膜原液の溶媒/非溶媒として、例えば、NMP/TriEG、凝固液の溶媒/非溶媒としてNMP/TriEG・水を使用したならば、内部凝固液はNMP・TriEG・水から構成されることが好ましい。
内部凝固液中の溶媒量が多くなると、凝固の進行を遅らせ、膜構造形成をゆっくりと進行させる効果があり、非溶媒量が多くなると、増粘効果により、溶液の拡散を遅らし、凝固の進行を遅らせ、膜構造形成をゆっくりと進行させる効果があり、水が多くなると、凝固の進行を早める効果がある。
凝固の進行を早すぎず、遅すぎず、適切に進行させ、膜構造を制御し、濾過膜として好ましい膜構造の多孔質中空糸膜を得るためには、内部凝固液中の有機成分である溶媒および非溶媒をほぼ同量で用いることが好ましく、内部凝固液中の有機成分である溶媒/非溶媒の比率を重量比で35/65~65/35とし、有機成分/水の比率を質量比で70/30~100/0とすることが好ましい。
【0059】
紡口温度は、適当な孔径とするために、25~50℃が好ましい。
製膜原液は紡口から吐出された後、空走部を経て、凝固浴に導入される。空走部の滞留時間は0.02~0.6秒が好ましい。滞留時間を0.02秒以上とすることにより、凝固浴導入までの凝固を十分にし、適切な孔径とすることができる。滞留時間を0.6秒以下とすることにより、凝固が過度に進行するのを防止し、凝固浴での精密な膜構造制御を可能にすることができる。
【0060】
本発明者等は、製膜原液と非溶媒の接触により液液相分離が誘発されてから相分離(凝固)が完了するまでの多孔質膜の製造工程において、多孔質膜の外表面を可能な限りテンションレスで製造することによって、緻密層における細孔変形が低い緻密層を完成した。
従来の方法では、製膜原液はフィルター、紡口を通り、空走部で適度に凝固された後、凝固浴に導入される。製膜原液は内部凝固液中の非溶媒との接触により液液相分離が誘発される。凝固液を入れただけの一般的な凝固浴中に、液液相分離が誘発されて凝固が完了されていない状態の膜が凝固浴に導入されると、浴抵抗や凝固浴中のロールに接触することによる摩擦抵抗により、膜に延伸力(テンション)が働くことから外表面の緻密層、或いは外表面近傍の緻密層中の細孔変形が発生する傾向にある。
【0061】
一方、本発明では、膜が凝固浴に導入される前に、膜の移動方向と同じ方向(すなわち、膜の移動方向に対して平行な方向)に移動する凝固液(「外部凝固液」という。)に、膜の外表面を接触させることにより、膜の外表面に働くテンションを低減することができ、これにより、膜の外表面における細孔変形を抑制することができる。このような方式であると、膜の外表面の界面における液交換が非常に緩やかに行われ、凝固が緩やかに進行する。
【0062】
テンションレス製造の具体例としては、製膜原液をチューブ内に吐出させながら、前記チューブ内に外部凝固液を、製膜原液の吐出方向と同じ方向で、流す方法が挙げられる。なお、製膜原液を吐出する紡口と、チューブとの間には空走部(エアギャップ)が存在する。
【0063】
紡口から吐出された製膜原液の移動速度(線速)と、外部凝固液の移動速度(線速)との差が小さいほど、接触時のテンションを低減することができる。そのため、製膜原液の線速と、外部凝固液の線速との差が±12%以内であることが好ましく、±10%以内であることよりが好ましく、±5%以内であることよりが更に好ましい。本明細書において、前記差が±12%以内である場合、「同一線速」であると表現する。
【0064】
また、膜の外表面における細孔変形を抑制するために、紡糸速度を遅くすることも好ましい。紡糸速度は、2m/分以下であることが好ましく、生産性の観点からは0.1m/分以上2m/分以下であることが好ましい。
【0065】
ドラフト比([引取り速度]/[製膜原液の吐出線速度])は、好ましくは1.1~6であり、より好ましくは1.1~4であり、更に好ましくは1.1~2である。引取り速度は、引取り機と巻取り機の間に延伸がかかっていない場合、紡糸速度と同義である。
【0066】
膜の移動方向(製膜原液の吐出方向)、及び外部凝固液の移動方向は、いずれも鉛直方向(すなわち、重力方向)であることが好ましい。
【0067】
膜の外表面と、外部凝固液とは、相分離(凝固)が完了するまで接触していることが好ましい。接触している時間は、好ましくは5秒~180秒であり、より好ましくは10秒~150秒であり、更に好ましくは20秒~120秒である。
【0068】
好ましい製造方法としては、例えば、紡糸速度が2m/分以下であり、且つ製膜原液と内部凝固液との接触により液液相分離が誘発されてから相分離が完了するまでに、紡口から吐出される製膜原液と同一線速で、外部凝固液を前記製膜原液に、紡口からの吐出方向に平行に、接触させる製造方法が挙げられる。
【0069】
製膜時に使用される外部凝固液として、製膜原液、内部凝固液に使用される成分と同じ成分を使用することが好ましい。
有機成分は凝固を遅らせる効果があり、水は凝固を早める効果があるため、外部凝固液組成は、有機成分の溶媒/非溶媒比は質量比で35/65~65/35で、有機成分/水の質量比は90/10~50/50が好ましく、60/40~40/60がより好ましい。
【0070】
ここで、紡糸速度(紡速)とは、紡口から内部凝固液とともに吐出した製膜原液がエアギャップを通過して、製膜原液と内部凝固液との接触により液液相分離が誘発されてから相分離が完了するまでに、紡口から吐出される製膜原液と同一線速で、外部凝固液を前記製膜原液に、紡口からの吐出方向に平行に、接触させ、さらに凝固浴を通過した膜が巻き取られる中空糸膜の一連の製造工程において、該工程中に延伸操作が無い時の巻き取り速度を意味する。また、エアギャップを円筒状の筒などで 囲み、一定の温度と湿度を有する気体を一定の流量でこのエアギャップに流すと、より安定した状態で中空糸膜を製造することが可能である。
【0071】
一般的に、原液中の製膜原料の濃度が低くなる、原液温度を高くなる、内部凝固液中の良溶媒の濃度が低くなる、内部凝固液の温度が高くなると、孔径が大きくなり、Fluxは高くなるが、LRVは低下する。また、製膜時に凝固力を弱くする、例えば、原液中に凝固力の弱い貧溶媒を添加する、外部凝固液に良溶媒を加えると、緻密層が厚くなり、Fluxは低下するが、LRVは高くなる。このように、各種製膜条件を最適化することおよびテンションレスで製膜することにより濾過性とウイルス除去性を両立させる膜構造を有するウイルス除去膜の作製が可能となる。
【0072】
多孔質膜のウイルスクリアランスは、LRVとして5以上が好ましい。パルボウイルスとして、実際の精製工程中に混入するウイルスに近似しているもの、操作の簡便性からマウス微小ウイルス(MVM)であることが好ましい。
【0073】
凝固浴から引き上げられた中空糸膜は、温水で洗浄される。
水洗工程では、残溶媒及び非溶媒を確実に除去することが好ましい。中空糸膜が溶媒を含んだまま乾燥されると、乾燥中に膜内で溶媒が濃縮され、ポリスルホン系高分子が溶解または膨潤することにより、膜構造を変化させる可能性がある。
除去すべき溶媒・非溶媒、膜に固定化されていない親水性高分子の拡散速度を高め、水洗効率を上げるため、温水の温度は50℃以上が好ましい。水洗工程は、ネルソンローラを使用することが好ましい。
十分に水洗を行うため、中空糸膜の水洗浴中の滞留時間は80~300秒が好ましい。不要成分の除去を目的とした水洗工程は長いほど好ましいが、生産効率の点から、300秒以下とすることが適当である。
【0074】
水洗浴から引き上げられた中空糸膜は、巻取り機でカセに巻き取られる。この時、中空糸膜を空気中で巻き取ると、膜は徐々に乾燥していき、わずかであるが、膜は収縮する。そして、巻取り初期と後期の膜の収縮度が異なり、膜構造が異なることとなり、生産工程において得られる中空糸膜の不均一性の原因となる。均一な膜とするために、中空糸膜は水中で巻き取られることが好ましい。
【0075】
カセに巻き取られた中空糸膜は、長さが60cm以下になるように両端部を切断し、束にし、両端をフィルムで巻き、フィルムでまかれた部分をバンドで縛り、弛まないように支持体に把持させる。そして、把持された中空糸膜は、中空糸内部に水を通液させる水洗工程後に熱水処理工程により、洗浄される。そして、固定された中空糸膜は、中空糸内部に水を通液させる水洗工程後に熱水処理工程により、洗浄される。
カセに巻き取られた状態の中空糸膜の中空部には、ナノメートルからマイクロメートルサイズのポリスルホン系高分子の微粒子が浮遊している白濁液が残存している。白濁液を除去せず、中空糸膜を乾燥させると、ポリスルホン系高分子の微粒子が中空糸膜の孔を塞ぎ、膜性能が低下することがあるため、中空部内の白濁液を除去することが好ましい。
熱水処理工程では、水洗工程で除去しきれなかった微粒子等が効率的に除去される。熱水の温度は50~100℃が好ましい。熱水の温度を50℃以上にすることは、洗浄効率を高くできる点で、好ましい。
洗浄時間は30~120分が好ましい。熱水は洗浄中に数回、交換することが好ましい。
【0076】
本実施形態において、巻き取られた中空糸膜は高圧熱水処理をすることが好ましい。具体的には、長さが60cm以下の湿潤状態の弛まないように支持体に把持された糸束を、さらに糸長方向に0.01から0.05Nの力がかかるように糸束を張った状態にして両端のバンドを支持体に把持させる。この糸束を完全に水に浸漬させ、高圧蒸気滅菌機に入れ、120℃以上で2~6時間保持するのが好ましい。糸束を張った状態で高圧熱水処理することにより、中空糸の収縮が抑制されるだけではなく、詳細な機構は不明であるが、中空糸膜中に微残存する溶媒・非溶媒、膜に固着していない親水性高分子が完全に除去されるだけでなく、緻密層領域でのポリスルホン系高分子の絡み合い、存在状態が最適化され、外表面近傍の空隙率も最適化される。
処理時間は、生産効率の点より、6時間以下とすることが好ましい。
【0077】
本発明では、紡口から吐出された製膜原液の移動速度と外部凝固液の移動速度の差、紡糸速度およびドラフト比を適切に設定することにより、製膜原液が紡口から吐出されてから凝固が完了するまでに膜にかかるテンションを低減することにより、外表面の緻密層および外表面近傍の緻密層中の細孔変形を抑制し、さらに糸束を張った状態で高圧熱水処理をすることにより外表面近傍の空隙率が最適化され、疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高いウイルス除去膜を製造することができる。
【0078】
本実施形態の多孔質中空糸膜は、長さが60cm以下の湿潤状態の糸束を張った状態で120℃以上で熱処理する工程後に、長さが60cm以下の湿潤状態の糸束を張った状態で湿潤状態から真空乾燥することが好ましい。他に風乾、熱風乾燥等により乾燥する方法もあるが、乾燥中に膜が収縮しないように、長さが60cm以下の湿潤状態の糸束を張った状態で、乾燥されることが好ましい。
フィルター加工のしやすさから、多孔質膜の内径は200~400μmであることが好ましく、膜厚は30~80μmであることが好ましい。
【0079】
基材膜(コート前の多孔質膜)はコート工程を経て、本実施形態の多孔質膜となる。
例えば、コーティングにより親水化処理させる場合には、コート工程は、基材膜のコート液への浸漬工程、浸漬された基材膜の脱液工程、脱液された基材膜の乾燥工程からなる。
浸漬工程において、基材膜は親水性高分子溶液に浸漬される。コート液の溶媒は親水性高分子の良溶媒であり、ポリスルホン系高分子の貧溶媒であれば特に制限されないが、アルコールが好ましい。
コート液中の非水溶性の親水性高分子の濃度は、親水性高分子によって基材膜の孔表面を十分に被覆させ、濾過中のタンパク質の吸着による経時的なFlux低下を抑制する観点から1.0質量%以上が好ましく、適切な厚さで被覆させ、孔径が小さくなりすぎて、Fluxが低下することを防ぐ観点から、10.0質量%以下が好ましい。
コート液への基材膜の浸漬時間は8~24時間が好ましい。
【0080】
所定時間、コート液に浸漬された基材膜は、脱液工程において、膜の中空部及び外周に付着している余分なコート液が遠心操作により、脱液される。残存する親水性高分子による乾燥後の膜同士の固着を防止する観点で、遠心操作時の遠心力を10G以上、遠心操作時間を30分以上とすることが好ましい。
【実施例0081】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。実施例において示される測定方法は以下のとおりである。なお、外表面近傍の緻密層における空隙率及び孔外接矩形の長径/短径、並びに緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数は、上述の方法で測定した。
【0082】
(1)内径および膜厚の測定
多孔質中空糸膜の内径は、膜の垂直割断面を実体顕微鏡で撮影することにより求めた。
内径と同様に外径を求め、(外径-内径)/2により膜厚を求めた。
膜面積は、内径と中空糸膜の有効長より算出した。
【0083】
(2)純水の透過速度の測定
有効膜面積が3.3cm2になるように組み立てられたフィルターを1.0barの定圧デッドエンド濾過による25℃の純水の濾過量を測定し、濾過時間から透水量を算出した。
【0084】
(3)タンパク質の濾過試験
有効膜面積が3.3cm2になるように組み立てられたフィルターを122℃で60分 高圧蒸気滅菌処理をした。タンパク質の積算濾過量は、以下の実験により求められる。15mg/mLになるようにpH5.5、100mM酢酸―水酸化ナトリウム緩衝液、200mM塩化ナトリウム、の溶液を温度は25℃で2.0barで定圧濾過した。このとき、積算タンパク質回収量は濾液回収量、濾液のタンパク質濃度、フィルターの膜面積より算出した。また、濾過に使用したタンパク質は、製剤を試験研究用として購入したものを使用した。
【0085】
(4)ウイルスクリアランス測定
(3)タンパク質の濾過試験において調製した溶液に0.5容量%のマウス微小ウイルス(MVM)溶液を spikeした溶液を濾過溶液とした。調製した濾過溶液をデッドエンドで、2.0barの一定圧力で180分間濾過を行った。濾液のTiter(TCID50値)をウイルスアッセイにて測定した。MVMのウイ ルスクリアランスはLRV=Log(TCID50)/mL(濾過溶液)-Log(TCID50)/mL(濾液)により算出した。本測定では、LRVが5以上となったときウイルス除去性が高いとした。
【0086】
(5)溶出評価
(3)と同様の方法で作成したフィルターを、2.0barの定圧デッドエンド濾過により、25℃の純水を100mL濾過し、濾液を回収し、濃縮した。得られた濃縮液を用い、全有機炭素計TOC-L(島津製作所社製)にて、炭素量を測定し、膜からの溶出率を算出した。
【0087】
(6)抗体の疎水性相互作用(HIC)の測定
HPLCシステムとして、ACQUITY UPLC H-Class Bioシステム(Waters社)、カラムとしてACQUITY TSKgel Butyl-NPR Column(Waters社)、検出器として、紫外可視光検出器(280nm)を用いた。溶離液として2M硫酸アンモニウム水溶液と0.04Mリン酸緩衝液(pH7.0)と超純水を用いた。三菱田辺製薬社より市販されている献血ヴェノグロブリンIH5%静注の保持時間を1としたときの保持時間比をHIC値とした。
【0088】
(7)緻密層の厚み
中空糸断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により、加速電圧を1kV、撮影倍率を50,000倍に設定し、中空糸断面の任意の部位において膜厚方向に対して水平に視野を設定して撮影した。設定した一視野での撮影後、膜厚方向に対して水平に撮影視野を移動し、次の視野を撮影した。この撮影操作を繰り返し、隙間なく膜断面の写真を撮影し、得られた写真を結合することで一枚の膜断面写真を得た。この断面写真において、(膜の円周方向に2μm)×(外表面から内表面側に向かって1μm)の範囲における平均孔径を算出した。
平均孔径は、画像解析を用いた方法で算出した。MediaCybernetics社製Image-pro plusを用いて、明度を基準に空孔部と実部を識別した。識別できなかった部分やノイズをフリーハンドツールで補正し、空孔部の輪郭となるエッジ部分や、空孔部の奥に観察される多孔構造は空孔部として識別した。二値化処理の後、空孔/1個の面積値を真円と仮定し、空孔の直径を有効数字2ケタで算出した。全ての孔毎に実施し、1μm×2μmの範囲毎に平均孔径を算出した。視野の端部で途切れた空孔部についてもカウントすることとした。
平均孔径が50nm以下の視野を緻密層とし、緻密層の厚みは、「平均孔径50nm以下を示した画像の数×1μm」とした。
【0089】
[実施例1]
PES(BASF社製ULTRASON(登録商標)E6020P)24質量部、NMP(キシダ化学社製)36質量部、TriEG(関東化学社製)40質量部を35℃で混合した後、2kPaでの減圧脱泡を7回繰り返した溶液を製膜原液とした。この製膜原液を35℃に保ち、NMP75質量部、水25質量部からなる内部凝固液(水の含有量が25重量%)とともに、紡口(2重環状ノズル、ノズル温度35℃、ノズル部での製膜原液の温度35℃、内部凝固液の温度35℃)から吐出させ、密閉された30mmのエアギャップを通過させて、紡口から吐出される製膜原液と同一線速で、NMP25質量部、水75質量部からなる外部凝固液(温度20℃)を、前記製膜原液に紡口からの吐出方向に平行に、2m接触(直径1.0cmのチューブ内を外部凝固液と共に2m走行)させた後、20℃、NMP25質量部、水75質量部からなる凝固液が入った凝固浴に導入された。紡糸速度は1.5m/分であった。製膜原液と外部凝固液を紡口からの吐出方向に平行に2m接触させることにより相分離が完了していることを確認した。ドラフト比(紡糸速度と紡口からの製膜原液吐出線速度との比)を2とした。凝固浴から引き出された膜は、55℃に設定された水洗槽をネルソンロール走行させた後、水中でカセを用いて巻き取った。
巻き取られた膜はカセの両端部で切断し、長さが45cmの湿潤状態の膜を束にし、両端をフィルムで巻き、フィルムでまかれた部分をバンドで縛り、弛まないように支持体に把持させた状態で、15分間、中空糸内部に水を通水させる。次に、長さが45cmの湿潤状態の膜の両端部を糸長方向に0.02Nの力で張った状態で支持体に把持させ、128℃、3時間の条件で、高圧熱水処理した後、長さが45cmの湿潤状態の膜の両端部を固定した状態で膜を湿潤状態から真空乾燥させることにより中空糸状の基材膜を得た。
得られた中空糸状の基材膜を、重量平均分子量80kDaのポリヒドロキシエチルメタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート(関東化学社製)を用いて製造した。)2.5質量部、メタノール97.5質量部のコート液に24時間浸漬させた後、12.5Gで30min遠心脱液した。遠心脱液後、18時間真空乾燥させて、中空糸状の多孔質膜を得た。
タンパク質濾過試験には、HIC値が1.01、等電点が6.5のモノクローナル抗体を使用した。タンパク質処理量がB=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たした。得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高い、ウイルス除去膜であることを確認した。
【0090】
[実施例2]
タンパク質濾過試験に、HIC値が1.16、等電点が7.1のモノクローナル抗体を使用した以外は実施例1と同様に行った。タンパク質処理量がB=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たした。多孔質膜の性能を以下の表1に示す。抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高い、ウイルス除去膜であることを確認した。
【0091】
[実施例3]
タンパク質濾過試験に、HIC値が1.25、等電点が7.0のモノクローナル抗体を使用した以外は実施例1と同様に行った。タンパク質処理量がB=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たした。多孔質膜の性能を以下の表1に示す。抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高い、ウイルス除去膜であることを確認した。
【0092】
[実施例4]
外部凝固液温度及び凝固液温度を25℃にした以外は、実施例1と同様にして行った。製膜原液と外部凝固液を紡口からの吐出方向に平行に2m接触させることにより相分離が完了していることを確認した。
タンパク質濾過試験には、HIC値が1.01、等電点が6.5のモノクローナル抗体を使用した。
タンパク質処理量がB=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たした。得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高い、ウイルス除去膜であることを確認した。
【0093】
[実施例5]
タンパク質濾過試験に、HIC値が1.16、等電点が7.1のモノクローナル抗体を使用した以外は実施例4と同様に行った。タンパク質処理量がB=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たした。多孔質膜の性能を以下の表1に示す。抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高い、ウイルス除去膜であることを確認した。
【0094】
[実施例6]
タンパク質濾過試験に、HIC値が1.25、等電点が7.0のモノクローナル抗体を使用した以外は実施例4と同様に行った。タンパク質処理量がB=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たした。多孔質膜の性能を以下の表1に示す。抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高い、ウイルス除去膜であることを確認した。
【0095】
[実施例7]
実施例1で得られた基材膜を25kGyでガンマ線照射した後、50℃の2-ヒドロキシプロピルアクリレート(東京化成工業社製)7質量部、t-ブタノール(関東化学社製)25質量部、水68質量部の溶液に浸漬させ、1時間グラフト重合を行った。グラフト重合後、50℃のt-ブタノールで洗浄し、未反応物を除去した後、18時間真空乾燥させて、中空糸状の多孔質膜を得た。
タンパク質濾過試験には、HIC値が1.01、等電点が6.5のモノクローナル抗体を使用した。
タンパク質処理量がB=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たした。得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高い、ウイルス除去膜であることを確認した。
【0096】
[実施例8]
製膜原液を40℃に保ち、NMP74質量部、水26質量部からなる内部凝固液(水の含有量が26重量%)とともに、紡口(2重環状ノズル、ノズル温度40℃、ノズル部での製膜原液の温度40℃、内部凝固液の温度40℃)から吐出させ、密閉された30mmのエアギャップを通過させて、紡口から吐出される製膜原液と同一線速で、NMP45質量部、水55質量部からなる外部凝固液(温度18℃)を、前記製膜原液に紡口からの吐出方向に平行に2m接触(直径1.0cmのチューブ内を外部凝固液と共に2m走行)させた後、18℃、NMP45質量部、水55質量部からなる凝固液が入った凝固浴に導入した以外は、実施例1と同様にして行った。製膜原液と外部凝固液を紡口からの吐出方向に平行に2m接触させることにより相分離が完了していることを確認した。
タンパク質濾過試験には、HIC値が1.16、等電点が7.1のモノクローナル抗体を使用した。
タンパク質処理量がB=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たした。得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高い、ウイルス除去膜であることを確認した。
【0097】
[実施例9]
タンパク質濾過試験に、HIC値が1.25、等電点が7.0のモノクローナル抗体を使用した以外は実施例8と同様に行った。タンパク質処理量がB=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たした。多孔質膜の性能を以下の表1に示す。抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高い、ウイルス除去膜であることを確認した。
【0098】
[比較例1]
外部凝固液温度及び凝固液温度を25℃、紡糸速度は5m/minとし、ドラフト比を2とした以外は実施例1と同様に行った。外表面近傍の孔外接矩形の長径/短径比が大きくなったため、タンパク質処理量が18.5kgとなり、B=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たさなかった。
【0099】
[比較例2]
紡糸速度は20m/分、紡糸速度と紡口からの製膜原液吐出線速度との比を10にした以外は、実施例1と同様にして行った。
タンパク質濾過試験には、HIC値が1.01、等電点が6.5のモノクローナル抗体を使用した。
得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。多孔質膜の外表面近傍及び緻密層から粗大層が適切な構造を有していなかったため、ウイルス除去性能が低下した。
【0100】
[比較例3]
タンパク質濾過試験に、HIC値が1.16、等電点が7.1のモノクローナル抗体を使用した以外は比較例2と同様に行った。
得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。多孔質膜の外表面近傍及び緻密層から粗大層が適切な構造を有していなかったため、ウイルス除去性能が低下した。
【0101】
[比較例4]
タンパク質濾過試験に、HIC値が1.25、等電点が7.0のモノクローナル抗体を使用した以外は比較例2と同様に行った。
得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。多孔質膜の外表面近傍及び緻密層から粗大層が適切な構造を有していなかったため、ウイルス除去性能が低下した。
【0102】
[比較例5]
PES(BASF社製ULTRASON(登録商標)E6020P)26質量部、NMP(キシダ化学社製)32質量部、TriEG(関東化学社製)32質量部、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体(BASF社製Luviskol(登録商標)VA64、以下、「VA64」と記載する)10質量部を50℃で混合した後、2kPaでの減圧脱泡を7回繰り返した溶液を製膜原液とした。この製膜原液を50℃に保ち、NMP42.8質量部、TriEG52.2質量部、水5質量部からなる内部凝固液(水の含有量が5重量%)とともに、紡口(2重環状ノズル、ノズル温度50℃、ノズル部での製膜原液の温度50℃、内部凝固液の温度50℃)から吐出させ、密閉された30mmのエアギャップを通過させて、紡口から吐出される製膜原液と同一線速で、NMP38.9質量部、TriEG46.7質量部、水15質量部からなる外部凝固液(温度20℃)を、前記製膜原液に紡口からの吐出方向に平行に2m接触(直径1.0cmのチューブ内を外部凝固液と共に2m走行)させた後、20℃、NMP38.9質量部、TriEG46.7質量部、水15質量部からなる凝固液が入った凝固浴に導入された。紡糸速度は5m/分であった。製膜原液と外部凝固液を紡口からの吐出方向に平行に2m接触させることにより相分離が完了していることを確認した。紡糸速度と紡口からの製膜原液吐出線速度との比を2とした。凝固浴から引き出された膜は、55℃に設定された水洗槽をネルソンロール走行させた後、水中でカセを用いて巻き取った。以降の処理は実施例1と同様に行った。
タンパク質濾過試験には、HIC値が1.01、等電点が6.5のモノクローナル抗体を使用した。
得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。緻密層が厚くなったため、タンパク質処理量が5kgとなり、B=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たさなかった。
【0103】
[比較例6]
タンパク質濾過試験に、HIC値が1.16、等電点が7.1のモノクローナル抗体を使用した以外は比較例5と同様に行った。
得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。緻密層が厚くなったため、タンパク質処理量が4.0kgとなり、B=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たさなかった。
【0104】
[比較例7]
タンパク質濾過試験に、HIC値が1.25、等電点が7.0のモノクローナル抗体を使用した以外は比較例5と同様に行った。
得られた多孔質膜の性能を以下の表1に示す。緻密層が厚くなったため、タンパク質処理量が3.5kgとなり、B=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たさなかった。
【0105】
[比較例8]
糸束を張った状態にせず、高圧熱水処理を行った以外は、実施例1と同様に行った。外表面近傍の空隙率が低下したため、B=-62.59A+84.68±2.5(1.01≦A≦1.25)を満たさなかった。
【0106】
本発明に係る多孔質膜は、抗体の疎水性相互作用に対する抗体含有液の濾過処理量が高く、かつ、ウイルス除去性能に優れた膜であることから産業上好適に利用可能である。