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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168855
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】衛生陶器の設計方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20241128BHJP
   G06T 17/30 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06T17/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085870
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今尾 英子
(72)【発明者】
【氏名】前原 康秀
(72)【発明者】
【氏名】永田 淳哉
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 真浩
(72)【発明者】
【氏名】岡本 貴秀
(72)【発明者】
【氏名】白川 滋久
(72)【発明者】
【氏名】内野 洋明
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 貴之
【テーマコード(参考)】
5B080
5B146
【Fターム(参考)】
5B080AA13
5B080AA19
5B080CA00
5B080FA00
5B080GA00
5B146EA02
5B146EA17
(57)【要約】
【課題】短時間で高精度のリバースエンジニアリングが可能となる衛生陶器の設計方法を提供すること。
【解決手段】実施形態に係る衛生陶器の設計方法は、衛生陶器の生産において現物となる衛生陶器を再現するために衛生陶器の形状を設計する衛生陶器の設計方法であって、3Dデータを有しない、衛生陶器の1以上の型類の3Dスキャンデータを取得する工程と、3Dスキャンデータを、実際の型類のように位置合わせする工程と、3Dスキャンデータの一部を型類の3Dサーフェスデータと組み合わせる、または、型類の3Dサーフェスデータの一部を3Dスキャンデータと組み合わせるもしくは3Dスキャンデータに追加して、型類における幾何形状と自由曲面形状とが混在するマスターデータを取得する工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛生陶器の生産において現物となる衛生陶器を再現するために該衛生陶器の形状を設計する衛生陶器の設計方法であって、
3Dデータを有しない、前記衛生陶器の1以上の型類の3Dスキャンデータを取得する工程と、
前記3Dスキャンデータを、実際の型類のように位置合わせする工程と、
前記3Dスキャンデータの一部を前記型類の3Dサーフェスデータと組み合わせる、または、前記型類の3Dサーフェスデータの一部を前記3Dスキャンデータと組み合わせるもしくは前記3Dスキャンデータに追加して、前記型類における幾何形状と自由曲面形状とが混在するマスターデータを取得する工程と
を含む、衛生陶器の設計方法。
【請求項2】
前記3Dスキャンデータにおいて前記型類における前記幾何形状と前記自由曲面形状とを分割する分割ラインを生成する工程と、
前記分割ラインに基づいて、前記3Dスキャンデータから前記自由曲面形状のスキャンデータのみを抽出する工程と、
前記自由曲面形状の前記スキャンデータを前記3Dサーフェスデータにおける前記自由曲面形状に該当する部分と置き換える工程と
を含む、請求項1に記載の衛生陶器の設計方法。
【請求項3】
前記3Dスキャンデータにおいて前記型類における前記幾何形状と前記自由曲面形状とを分割する分割ラインを生成する工程と、
前記分割ラインに基づいて、前記3Dスキャンデータから前記自由曲面形状のスキャンデータのみを抽出する工程と、
前記分割ラインに基づいて、前記3Dスキャンデータにおける前記幾何形状に該当する部分をサーフェスで作成する工程と
を含む、請求項1に記載の衛生陶器の設計方法。
【請求項4】
前記3Dスキャンデータにおいて不明瞭な部分が存在する場合に、前記3Dスキャンデータにおける前記不明瞭な部分の近傍の形状を基に該不明瞭な部分を修復または再現する工程
を含む、請求項1に記載の衛生陶器の設計方法。
【請求項5】
前記不明瞭な部分をサーフェスで作成する工程
を含む、請求項4に記載の衛生陶器の設計方法。
【請求項6】
前記型類の前記3Dスキャンデータを取得する工程において、2以上の前記型類の前記3Dスキャンデータを取得する、請求項1に記載の衛生陶器の設計方法。
【請求項7】
前記3Dスキャンデータを位置合わせすることで、前記型類によって形成される前記衛生陶器の形状を3Dデータとして取得する工程
を含む、請求項1~5のいずれか一つに記載の衛生陶器の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、衛生陶器の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製品を設計する場合に、3Dスキャンデータにおける局所的なデータを利用して製品の輪郭線を生成する技術が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5343042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衛生陶器の生産においては、現物を再現するために衛生陶器の形状を設計する場合に、たとえば、3Dスキャンデータから必要なワイヤーフレームを取り出し、取り出したワイヤーフレームを利用してサーフェス(面)が形成される。
【0005】
上記の従来技術では、狙いの形状に近づけることができる反面、対象とするものが機械的精度の高い金属であるため、衛生陶器の生産に上記の従来技術を適用しようとしても、衛生陶器のような機械的精度が高くない部分を含むものには対応できない場合がある。
【0006】
衛生陶器の生産に必要な型類の形状を再現(リバースエンジニアリング)するためには、陶器特有の機械的精度が高くない製品形状によって、長い時間(日数)を要し、また、現物との間に誤差も発生する。さらに、衛生陶器の成形品は、乾燥による収縮および重力による変形によって、リバースエンジニアリングが実質的に不可能である。
【0007】
実施形態の一態様は、短時間で高精度のリバースエンジニアリングが可能となる衛生陶器の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一態様に係る衛生陶器の設計方法は、衛生陶器の生産において現物となる衛生陶器を再現するために該衛生陶器の形状を設計する衛生陶器の設計方法であって、3Dデータを有しない、前記衛生陶器の1以上の型類の3Dスキャンデータを取得する工程と、前記3Dスキャンデータを、実際の型類のように位置合わせする工程と、前記3Dスキャンデータの一部を前記型類の3Dサーフェスデータと組み合わせる、または、前記型類の3Dサーフェスデータの一部を前記3Dスキャンデータと組み合わせるもしくは前記3Dスキャンデータに追加して、前記型類における幾何形状と自由曲面形状とが混在するマスターデータを取得する工程とを含む。
【0009】
衛生陶器の生産において現物となる衛生陶器を再現(リバースエンジニアリング)するために衛生陶器の形状を設計する場合、機械的精度が高くない衛生陶器の形状は、現物(リバースエンジニアリングの対象となる衛生陶器)との誤差が発生する点や、リバースエンジニアリングに要する時間(日数)が長くなる点から、再現困難である。しかしながら、このような構成によれば、衛生陶器の型類について、短時間で高精度の3Dデータ化(マスターデータの取得)が可能となる。これにより、短時間で高精度のリバースエンジニアリングが可能となる。
【0010】
上記の衛生陶器の設計方法において、前記3Dスキャンデータにおいて前記型類における前記幾何形状と前記自由曲面形状とを分割する分割ラインを生成する工程と、前記分割ラインに基づいて、前記3Dスキャンデータから前記自由曲面形状のスキャンデータのみを抽出する工程と、前記自由曲面形状の前記スキャンデータを前記3Dサーフェスデータにおける前記自由曲面形状に該当する部分と置き換える工程とを含む。
【0011】
このような構成によれば、衛生陶器の型類において機械的精度が高い幾何形状と機械的精度が高くない自由曲面形状とを分割する分割ラインを生成し、分割ラインに基づいて抽出した自由曲面形状のスキャンデータを3Dサーフェスデータにおける自由曲面形状に該当する部分と置き換えることで、型類のより高精度の3Dデータ化(マスターデータの取得)が可能となる。
【0012】
上記の衛生陶器の設計方法において、前記3Dスキャンデータにおいて前記型類における前記幾何形状と前記自由曲面形状とを分割する分割ラインを生成する工程と、前記分割ラインに基づいて、前記3Dスキャンデータから前記自由曲面形状のスキャンデータのみを抽出する工程と、前記分割ラインに基づいて、前記3Dスキャンデータにおける前記幾何形状に該当する部分をサーフェスで作成する工程とを含む。
【0013】
このような構成によれば、衛生陶器の型類において機械的精度が高い幾何形状と機械的精度が高くない自由曲面形状とを分割する分割ラインを生成し、分割ラインに基づいて抽出した自由曲面形状のスキャンデータから3Dスキャンデータにおける幾何形状に該当する部分をサーフェスで作成することで、型類のより高精度の3Dデータ化(マスターデータの取得)が可能となる。
【0014】
上記の衛生陶器の設計方法において、前記3Dスキャンデータにおいて不明瞭な部分が存在する場合に、前記3Dスキャンデータにおける前記不明瞭な部分の近傍の形状を基に該不明瞭な部分を修復または再現する工程を含む。
【0015】
このような構成によれば、3Dスキャンデータを取得する場合に衛生陶器の型類をスキャンする3Dスキャナが認識できない形状(すなわち、3Dスキャナの測定範囲外となる形状であり、たとえば、深過ぎる形状や、狭過ぎる形状)がある場合でも、3Dスキャンデータにおける不明瞭な部分の近傍の形状を基に不明瞭な部分を編集することで、マスターデータとして使用することができる。なお、この場合、編集可能な範囲は、所定の範囲以下であることが望ましい。
【0016】
上記の衛生陶器の設計方法において、前記不明瞭な部分をサーフェスで作成する工程を含む。
【0017】
このような構成によれば、比較的短い時間で3Dスキャンデータにおける不明瞭な部分の補完が可能となるとともに、補完した3Dスキャンデータをマスターデータとして使用することができる。
【0018】
上記の衛生陶器の設計方法において、前記型類の前記3Dスキャンデータを取得する工程において、2以上の前記型類の前記3Dスキャンデータを取得する。
【0019】
このような構成によれば、測定不可能な部分を型の反対側のデータで取得することができるようになり、型に応じて衛生陶器の種形状の取得が可能となる。
【0020】
上記の衛生陶器の設計方法において、前記3Dスキャンデータを位置合わせすることで、前記型類によって形成される前記衛生陶器の形状を3Dデータとして取得する工程を含む。
【0021】
このような構成によれば、マスター型を含む型類から生産される衛生陶器(成形品)の形状は、時間の経過と共に収縮して変形するという陶器特有の材料特性によって、実際にスキャンすることが困難である。しかしながら、かかる構成によれば、型類の3Dスキャンデータを実際の型類のように位置合わせすることで、設計どおりの成形品となる形状を正確に再現することが可能となる。なお、3Dスキャンデータを位置合わせする場合は、3D上で実際の型組みと同じように合わせ、中身の形状のみ分割して組み合わせる。
【発明の効果】
【0022】
実施形態の一態様に係る衛生陶器の設計方法によれば、短時間で高精度のリバースエンジニアリングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法の概要説明図である。
図2図2は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法の工程の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの分割ラインの説明図(その1)である。
図4図4は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの分割ラインの説明図(その2)である。
図5図5は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの分割ラインの説明図(その3)である。
図6図6は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの不明瞭な部分の修復手順の一例の説明図(その1)である。
図7図7は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの不明瞭な部分の修復手順の一例の説明図(その2)である。
図8図8は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの不明瞭な部分をサーフェスに置き換える手順の一例の説明図(その1)である。
図9図9は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの不明瞭な部分をサーフェスに置き換える手順の一例の説明図(その2)である。
図10図10は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの位置合わせの説明図(その1)である。
図11図11は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの位置合わせの説明図(その2)である。
図12図12は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの位置合わせの説明図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する衛生陶器の設計方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
3Dデータを利用した衛生陶器の生産において、焼成前の成形品(衛生陶器)の形状は、3Dスキャンデータ(STL(ステレオリソグラフィ)データともいい、点群あるいはポリゴンともいう)として正確な形状を取得することが困難である。たとえば、金型成形の場合は、金型表面の形状と取り出し後の成形品形状とが同一であるため、成形品の形状を3Dデータ化することができるが、成形品が衛生陶器の場合は、型内成形中に収縮変形が始まっているため、取り出した成形品を3Dスキャンしても必要なデータが得られることはない。
【0026】
また、衛生陶器の形状は、複雑な形状の場合は一対のみの型でなく、形状に沿って分割した複数の型で全体を構成しており、各型から取り出された成形品同士を組み合わせて最終的な製品の形状が得られる。このため、組み合わせ時の変形や作業中において常に進行している収縮などによって、正確な成形品形状を3Dデータとして取得することが不可能である。
【0027】
本実施形態に係る衛生陶器の設計方法は、衛生陶器の生産において現物となる衛生陶器を再現(リバースエンジニアリング)するために衛生陶器の形状を設計する場合に、3Dスキャンデータの一部を衛生陶器の型類の3Dサーフェスデータと組み合わせることで、型類における幾何形状と自由曲面形状とが混在するマスターデータを取得する。または、型類の3Dサーフェスデータの一部を3Dスキャンデータと組み合わせる、もしくは、型類の3Dサーフェスデータの一部を3Dスキャンデータに追加することで、型類における幾何形状と自由曲面形状とが混在する、型類のマスターデータを取得する。
【0028】
ここで、3Dスキャンデータ(STLデータまたは点群データ)は、三角形の細かい面(ポリゴン)を組み合わせて作成するモデルのデータであり、3Dサーフェスデータは、点と線とによってサーフェス(面)を作り出し、サーフェス(面)を組み合わせて作成するモデルのデータである。また、型類において、幾何形状とは、機械的精度の高い形状のことをいい、自由曲面形状とは、機械的精度の高くない形状のことをいい、すなわち、陶器特有の個体ごとにもばらつきのある曲面形状のことをいう。また、衛生陶器の型類としては、たとえば、試作型、生産型、マスター型、受け型、ゲージ型などがある。
【0029】
上記のように、実施形態に係る衛生陶器の設計方法は、衛生陶器の生産において現物となる衛生陶器を再現(リバースエンジニアリング)するために衛生陶器の形状を設計する衛生陶器の設計方法である。なお、本実施形態における衛生陶器は、水洗大便器である。また、衛生陶器としては、水洗大便器の他、小便器や手洗い器などであってもよい。
【0030】
図1は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法の概要説明図である。図1に示すように、実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、3Dスキャナ50によって再現対象の衛生陶器の型類10をスキャンして、型類10の3Dスキャンデータ11を取得する。また、実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、3Dスキャンデータ11における後述する不明瞭な部分11aの3Dサーフェスデータ12を作成する。
【0031】
実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、3Dスキャンデータ11の一部を3Dサーフェスデータ12と組み合わせることで、型類10のマスターデータ13を取得する。または、型類10の3Dサーフェスデータ12の一部(3Dスキャンデータ11の不明瞭な部分11aに該当する部分)を3Dスキャンデータ11と組み合わせることで、もしくは、型類10の3Dサーフェスデータ12の一部(3Dスキャンデータ11の不明瞭な部分11aに該当する部分)を3Dスキャンデータに追加することで、型類10のマスターデータ13を取得する。
【0032】
なお、3Dスキャンデータ11、3Dサーフェスデータ12および型類10のマスターデータ13は、たとえば、3Dスキャナ50と接続される図示しない情報処理装置などの制御装置において取得される。制御装置は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)などを有する処理部や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などの記憶部、さらには入出力部を有し、これらが互いに接続されて互いに信号の受け渡しが可能なものである。
【0033】
また、実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、取得した型類10のマスターデータ13は、たとえば、3Dスキャナ50と接続されるサーバ100に格納される。これにより、型類10のマスターデータ13の管理が可能となる。
【0034】
図2~12を参照して、実施形態に係る衛生陶器の設計方法についてさらに説明する。図2は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法の工程の一例を示すフローチャートである。図2に示すように、実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、まず、型類10の3Dスキャンデータ11を取得する工程を行う(ステップS101)。ステップS101の工程では、3Dスキャナ50によって、3Dデータを有しないマスター型を含む1以上の型類10の3Dスキャンデータ11を取得する。
【0035】
次いで、3Dスキャンデータにおいて分割ライン11b(図3参照)を生成する工程を行う(ステップS102)。ステップS102の工程では、3Dスキャンデータ11において、型類10における幾何形状と自由曲面形状とを分割する分割ライン11bを生成する。次いで、3Dスキャンデータ11から自由曲面形状のスキャンデータのみを抽出する工程を行う(ステップS103)。
【0036】
ここで、分割ライン11bについて説明する。図3~5は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類10の3Dスキャンデータ11の分割ライン11bの説明図である。型類10について3Dスキャンを行い、型類10の3Dスキャンデータ11を取得する場合、図4に示すように、図中の角部(エッジ)の分割ライン11bを抽出して、3Dスキャンデータ11を機械的精度の高い部分と高くない部分とに分割する。
【0037】
3Dスキャンデータ11は、3D上の任意の場所に存在しているため、3Dスキャンデータ11の基準(x,y,z軸)を決定する基準ベクトルを設定する。また、基準ベクトルを設定した3Dスキャンデータ11の原点を設定する。次いで、基準ベクトルおよび原点を設定した3Dスキャンデータ11を利用して、型類10の誤差尺度の値を設定する。次いで、型類10の所定の面の1つを任意の領域として、誤差尺度の値を設定して分割する。任意の領域とは、幾何形状で置き換えられる領域と、置き換えられない領域とで分けられればよく、本実施形態においては、型類10の曲率が大きい部分の近傍と、比較的曲率が小さい部分とで領域を分けている。なお、本実施形態においては、誤差尺度の値を変動させて領域を区分しているが、これに限らず、目視による任意の領域としてもよい。
【0038】
また、領域の区分けについては、本実施形態では、たとえば、型類10の任意の面である第1面11c(図4参照)と、第1面11cと連続する第2面11d(図4参照)について誤差尺度の設定を行わない場合には、第1面11cと第2面11dとにそれぞれ単一の領域が設定される。しかし、本実施形態のように、任意の誤差尺度を設定した場合には、第1面11cと第2面11dとの交点11e(図5参照)となる部分の近傍が、第1領域R1(図5参照)として設定され、それ以外は第2領域R2(図5参照)として設定される。たとえば、第1領域R1は、第2領域R2と比較して複雑な面形状となっているため、幾何形状に置き換えにくいが、第2領域R2は、比較的簡易な面形状であるため、幾何形状に置き換えた場合の誤差が少なくなる。
【0039】
図4に示すように、第2領域R2を、対応する幾何形状に変換する。幾何形状は、特定の形状を示すものではなく、第2領域R2の面形状に応じて形状が異なる。幾何形状で表現される領域を利用して仮想サーフェス11fを作成する。
【0040】
図4に示すように、第1面11cおよび第2面11dのそれぞれの仮想サーフェス11fを延長してそれぞれが交わる交点を抽出し、この交点が分割ライン11bとなる。より具体的には、図5に示すように、隣接する第1面11cと第2面11dにおいて、それぞれで第1領域R1と第2領域R2とが設定される。第2領域R2を幾何形状に置き換えた仮想サーフェス11fとしてそれぞれの領域の仮想サーフェス11fを延長させて、それぞれが交わる交点11eを分割ライン11bとして抽出することができる。
【0041】
このように,各断面において抽出された分割ライン11bを周方向に連続させることで、型類10の全周の分割ライン11bを生成することができる。仮に、仮想サーフェス11fの延長が交わらない場合、それぞれの仮想サーフェス11f同士を近似線で繋ぎ,その交点11eを分割ライン11bとして生成する。なお、仮想サーフェス11fの延長が交わらない場合であっても、第1面11cと第2面11dとの仮想サーフェス11fの任意の点(たとえば、仮想サーフェス11f同士が最も接近する点)を分割ライン11bとして抽出して、長さを修正することも好ましい。
【0042】
このように生成された分割ライン11bは、2D平面に投影される。さらに、オフセットされたラインによって、3Dスキャンデータ11を分割するサーフェスを作成する。作成した分割サーフェスを利用して3Dスキャンデータ11を、機械的精度の高い部分と高くない部分とで分割する。
【0043】
図2に戻り、実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、次いで、自由曲面形状のスキャンデータを3Dサーフェスデータにおける自由曲面形状に該当する部分と置き換える工程を行う(ステップS104)。実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、自由曲面形状のスキャンデータを3Dサーフェスデータにおける自由曲面形状に該当する部分と置き換える工程に代えて、3Dスキャンデータ11における幾何形状に該当する部分をサーフェスで作成する工程を行ってもよい(ステップS104)。
【0044】
実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、3Dスキャンデータ11において不明瞭な部分11a(図6参照)が存在する場合には、3Dスキャンデータ11における不明瞭な部分11aの近傍の形状を基に、不明瞭な部分11aを修復または再現する工程を行う(ステップS105)。また、不明瞭な部分11aを修復または再現する工程を行う場合には、不明瞭な部分11aをサーフェスで作成する工程を行う。
【0045】
図6および7は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類10の3Dスキャンデータ11の不明瞭な部分11aの修復手順の一例の説明図である。
【0046】
図6に示す例では、3Dスキャンデータ(ポリゴン)11に空白となった不明瞭な部分11aが存在する場合(図6(a))、領域分割によって幾何形状のサーフェス11gを抽出する(図6(b))。抽出したサーフェス11gを点群11hに変換し(図6(c))、点群11hをさらにポリゴン11iに変換する(図6(d))。3Dスキャンデータ11とポリゴン11iとを組み合わせることで(図6(e))、空白となった不明瞭な部分11aの修復(または再現)が完了する(図6(f))。
【0047】
図7に示す例では、3Dスキャンデータ(ポリゴン)11に空白となった不明瞭な部分11aが存在する場合(図7(a))、領域分割によって幾何形状(図7の例では、円柱)11jを抽出する(図7(b))。幾何形状11jと同様に平面11kを抽出する(図7(c)、図7(d))。幾何形状11jにおける平面11kとの間の根元部分のアール11lを作成する(図7(e))。
【0048】
幾何形状11j、平面11k、アール11lを点群11mに変換する(図7(f))。点群11mをさらにポリゴン11nに変換する(図7(g))。ポリゴン11nを元のポリゴンとなる3Dスキャンデータ11と重ねて(図7(h))、両者を組み合わせたデータ11oを得る(図7(i))。データ11oに残存する穴埋めを行い(図7(j))、データ11oを全体データに重ねて(図7(k)、空白となった不明瞭な部分11aの修復(または再現)が完了する(図7(l))。なお、穴埋めとは、周辺データを整えたうえでノイズを削除することをいう。また、穴埋めは、曲率重視であってもよいし、接線重視であってもよい。また、穴埋めには、幾何形状を抽出した後に必要範囲を点群とし、点群をメッシュ変換したものを使用する。
【0049】
図8および9は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類の3Dスキャンデータの不明瞭な部分をサーフェスに置き換える手順の一例の説明図である。
【0050】
図8に示す例では、3Dスキャンデータ(ポリゴン)11に空白となった不明瞭な部分11aが存在する場合(図8(a))、領域分割によって幾何形状のサーフェス11pを抽出する(図8(b))。抽出したサーフェス11pを延長し(図8(c))、3Dスキャンデータ11との境界線11qを生成する(図8(d))。境界線11qに沿って不要なサーフェス11pをカットし、不要なポリゴン11rもカットして((図8(e)、図8(f))、空白となった不明瞭な部分11aの修復(または再現)が完了する(図8(g))。
【0051】
また、角部(エッジ)11s(図9(b)参照)を出す場合には、図9(a)に示すように、交差するポリゴン11tも同様に修復(再現)する。図9(b)に示すように、交差する角部(エッジ)11sは2つのサーフェス11uの交差であるため、鋭いエッジ11sを有するモデルとなる。
【0052】
図2に戻り、実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、次いで、3Dスキャンデータ11を位置合わせする工程を行う(ステップS106)。ステップS106の工程では、3Dスキャンデータ11を、実際の型類のように位置合わせ(型組み)する。
【0053】
図10~12は、実施形態に係る衛生陶器の設計方法における型類10の3Dスキャンデータ11の位置合わせの説明図である。
【0054】
図10に示すように、型類10の3Dスキャンデータ11を位置合わせする場合、衛生陶器の型類10のである、左右の側型10a,10b、底型10c、中型10d、表裏のリム型10e,10fの各3Dスキャンデータ11を、3D上で位置合わせ(型組み)する。型類10の3Dスキャンデータ11の位置合わせする場合は、型合い面を基準として位置合わせする。なお、型類10の位置合わせは、底型10c、右側の側型10b、左側の側型10a、中型10d、裏側のリム型10f、表側のリム型10eの順に行う。
【0055】
3Dスキャンデータ11において型合い面14を基準とする位置合わせでは、たとえば、設計ソフトが自動で型合い面14同士の面積が広い部分を優先的に合わせようとするが、実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、図11に示すように、型合い面14同士が同じ位置になるように組み合わせる。これにより、実際の型類10の位置合わせ(型組み)を再現することができる。
【0056】
図2に戻り、実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、次いで、型類10のマスターデータを取得する工程を行う(ステップS107)。ステップS107の工程では、上記のように、3Dスキャンデータ11の一部を型類10の3Dサーフェスデータ12と組み合わせることで、型類10における幾何形状と自由曲面形状とが混在するマスターデータ13を取得する。または、型類10の3Dサーフェスデータ12の一部を3Dスキャンデータ11と組み合わせることで、もしくは、3Dスキャンデータに追加することで、型類10における幾何形状と自由曲面形状とが混在するマスターデータ13を取得する。
【0057】
次いで、衛生陶器20(図12参照)の形状を3Dデータとして取得する工程を行う(ステップS108)。ステップS108の工程では、3Dスキャンデータ11を位置合わせすることで、型類10によって形成される衛生陶器20の形状を3Dデータとして取得する。
【0058】
図12に示すように、型類10の3Dスキャンデータ11を位置合わせ(型組み)することで、型に応じた衛生陶器20の種形状を得ることができる。なお、図中の矢線は、点群の法線方向を示している。
【0059】
図2に戻り、実施形態に係る衛生陶器の設計方法では、次いで、型類10のマスターデータ13および衛生陶器20の形状の3Dデータをサーバ100(図1参照)に格納する工程を行い(ステップS109)、リバースエンジニアリングを終了する。
【0060】
以上説明したように、衛生陶器の生産において現物となる衛生陶器を再現(リバースエンジニアリング)するために衛生陶器の形状を設計する場合、機械的精度が高くない衛生陶器の形状は、現物(リバースエンジニアリングの対象となる衛生陶器)との誤差が発生する点や、リバースエンジニアリングに要する時間(日数)が長くなる点から、再現困難であるが、実施形態に係る衛生陶器の設計方法によれば、衛生陶器の型類10について、短時間で高精度の3Dデータ化(マスターデータ13の取得)が可能となる。これにより、短時間で高精度のリバースエンジニアリングが可能となる。
【0061】
また、衛生陶器の型類10において機械的精度が高い幾何形状と機械的精度が高くない自由曲面形状とを分割する分割ライン11bを生成し、分割ライン11bに基づいて抽出した自由曲面形状のスキャンデータを3Dサーフェスデータ12における自由曲面形状に該当する部分と置き換えることで、型類10のより高精度の3Dデータ化(マスターデータ13の取得)が可能となる。
【0062】
また、3Dスキャンデータ11を取得する場合に衛生陶器の型類10をスキャンする3Dスキャナ50が認識できない形状(すなわち、3Dスキャナ50の測定範囲外となる形状であり、たとえば、深過ぎる形状や、狭過ぎる形状)がある場合でも、3Dスキャンデータ11における不明瞭な部分11aの近傍の形状を基に不明瞭な部分11aを編集することで、マスターデータ13として使用することができる。この場合、編集可能な範囲は、所定の範囲以下であることが望ましい。
【0063】
また、不明瞭な部分11aをサーフェスで作成することで、比較的短い時間で3Dスキャンデータ11における不明瞭な部分の補完が可能となるとともに、補完した3Dスキャンデータ11をマスターデータ13として使用することができる。
【0064】
また、2以上の型類10の3Dスキャンデータを取得することで、測定不可能な部分を型の反対側のデータで取得することができるようになり、型に応じて衛生陶器の種形状の取得が可能となる。
【0065】
また、マスター型を含む型類10から生産される衛生陶器(成形品)の形状は、時間の経過と共に収縮して変形するという陶器特有の材料特性によって、実際にスキャンすることが困難であるが、実施形態に係る衛生陶器の設計方法によれば、型類10の3Dスキャンデータ11を実際の型類のように位置合わせすることで、設計どおりの成形品となる形状を正確に再現することが可能となる。3Dスキャンデータ11を位置合わせする場合は、3D上で実際の型組みと同じように合わせ、中身の形状のみ分割して組み合わせる。
【0066】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 型類
11 3Dスキャンデータ
11a 不明瞭な部分
11b 分割ライン
12 3Dサーフェスデータ
13 マスターデータ
20 衛生陶器
50 3Dスキャナ
100 サーバ
図1
図2
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図10
図11
図12