(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168864
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】位置推定装置及び位置推定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 5/02 20100101AFI20241128BHJP
G01S 19/47 20100101ALI20241128BHJP
G01S 19/49 20100101ALI20241128BHJP
G01C 21/28 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01S5/02 A
G01S19/47
G01S19/49
G01C21/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085883
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日笠 健
(72)【発明者】
【氏名】竹原 成晃
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤好 宏樹
【テーマコード(参考)】
2F129
5J062
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB02
2F129BB06
2F129BB07
2F129BB20
2F129BB22
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2F129BB62
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2F129CC15
2F129GG17
2F129HH20
2F129HH21
5J062BB01
5J062CC07
5J062CC11
5J062FF02
5J062FF04
(57)【要約】
【課題】移動体が測位手段を変更する際に推定位置の精度低下を抑制可能な位置推定装置を提供する。
【解決手段】本願に開示される位置推定装置200は、絶対測位センサ20による絶対測位センサ情報、及び動体1の相対位置の変化を検出する相対測位センサ30による相対測位センサ情報に基づき自己位置を推定する位置推定装置200であって、絶対測位センサ情報に基づき移動体1の絶対測位位置を算出する絶対測位位置算出部50と、相対測位センサ情報に基づき絶対測位位置を基準とする移動体1の相対測位軌跡を算出する相対測位軌跡算出部60と、相対測位軌跡が相対測位軌跡選択条件を満足する場合に、選択された相対測位軌跡上にある移動体1の最新位置を移動体1の推定位置として出力する相対測位軌跡比較部90と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、それぞれ既知の位置から放射される複数の信号を受信する絶対測位センサによって取得された絶対測位センサ情報、及び前記移動体に搭載され前記移動体の相対位置の変化を検出する相対測位センサによって取得された相対測位センサ情報に基づき自己位置を推定する位置推定装置であって、
前記絶対測位センサ情報に基づき、前記移動体の絶対測位位置を算出する絶対測位位置算出部と、
前記相対測位センサ情報に基づいて、前記絶対測位位置を基準とする前記移動体の相対測位軌跡を算出し、算出された前記相対測位軌跡を保持する相対測位軌跡記憶領域を有する相対測位軌跡算出部と、
前記相対測位軌跡が予め規定された相対測位軌跡選択条件を満足する場合に、選択された相対測位軌跡上にある前記移動体の最新位置を前記移動体の推定位置として出力する相対測位軌跡比較部と、
を備える位置推定装置。
【請求項2】
前記相対測位軌跡算出部は、前記相対測位センサ情報に基づく最新の相対測位軌跡が相対測位軌跡保持条件を満足するごとに、前記最新の相対測位軌跡を前記相対測位軌跡記憶領域に保持する処理を繰り返して、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された過去の相対測位軌跡を前記最新の相対測位軌跡に更新し、
前記最新の相対測位軌跡が予め規定された前記相対測位軌跡保持条件を満足しない場合は、前記最新の相対測位軌跡を前記相対測位軌跡記憶領域に保持せずに削除することを特徴とする請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項3】
前記絶対測位位置算出部は、算出された前記絶対測位位置を保持することが可能な絶対測位位置記憶領域を有し、前記絶対測位位置記憶領域に保持された複数の前記絶対測位位置に基づき前記移動体の絶対測位軌跡を算出し、前記絶対測位センサ情報に基づき前記絶対測位軌跡上の前記移動体の最新位置を前記絶対測位位置として更新することを特徴とする請求項2に記載の位置推定装置。
【請求項4】
前記絶対測位位置算出部は、前記絶対測位軌跡の信頼度を表す絶対測位軌跡信頼度を算出し、
前記相対測位軌跡算出部は、前記絶対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度以上である場合に、相対測位軌跡算出条件を満足すると判定することを特徴とする請求項3に記載の位置推定装置。
【請求項5】
前記絶対測位軌跡信頼度は、前記絶対測位軌跡の算出に用いる前記複数の絶対測位位置にそれぞれ生じる推定誤差と、前記絶対測位軌跡の算出に用いる前記複数の絶対測位位置の前記相対測位軌跡に対するそれぞれの位置誤差と、前記絶対測位軌跡の算出に用いる前記複数の絶対測位位置を算出する間に前記移動体が移動した距離との少なくとも一つを指標として算出されることを特徴とする請求項4に記載の位置推定装置。
【請求項6】
前記絶対測位センサ情報及び前記相対測位センサ情報に基づき、前記移動体の周囲の走行環境を推定する周辺環境推定部をさらに備え、
前記絶対測位軌跡信頼度を算出するための指標として、前記移動体の周囲の走行環境をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の位置推定装置。
【請求項7】
前記相対測位軌跡算出部は、前記相対測位軌跡の信頼度である相対測位軌跡信頼度を算出し、
前記相対測位軌跡比較部は、前記相対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度以上である場合に、前記相対測位軌跡選択条件を満足すると判定することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の位置推定装置。
【請求項8】
前記相対測位軌跡信頼度は、前記絶対測位位置の推定誤差と、前記絶対測位位置に対する前記相対測位軌跡の位置誤差と、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡に対する前記相対測位軌跡の位置誤差と、前記相対測位軌跡の算出開始時における前記絶対測位位置の推定誤差と、前記絶対測位センサ情報及び前記相対測位センサ情報から推定される前記移動体の走行状態と、前記相対測位軌跡の算出開始時における前記移動体の走行状態と、前記絶対測位センサ及び前記相対測位センサから推定される前記移動体の周囲の走行環境と、前記相対測位軌跡の算出開始時における前記移動体の走行環境と、前記相対測位軌跡の算出開始後から経過した経過時間との少なくとも一つを指標として算出されることを特徴とする請求項7に記載の位置推定装置。
【請求項9】
前記絶対測位センサ情報及び前記相対測位センサ情報に基づき、前記移動体の走行状態を推定する走行状態推定部をさらに備え、
前記相対測位軌跡信頼度を算出するための指標として、前記走行状態推定部が推定した前記移動体の走行状態と、前記相対測位軌跡の算出開始時における前記移動体の走行状態と、をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の位置推定装置。
【請求項10】
前記相対測位軌跡算出部は、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡に関して、全ての前記相対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度未満である場合に、相対測位軌跡算出条件を満足することを特徴とする請求項9に記載の位置推定装置。
【請求項11】
前記相対測位軌跡算出部は、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡について、前記相対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度以上である場合と、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡の保持量が予め設定された閾値保持量未満である場合と、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡の保持量が前記閾値保持量以上であり、かつ前記閾値信頼度の範囲内において前記相対測位軌跡信頼度が予め設定された設定信頼度値よりも高い前記相対測位軌跡である場合との少なくとも一つが成立することにより、相対測位軌跡保持条件を満足すると判定することを特徴とする請求項7に記載の位置推定装置。
【請求項12】
前記相対測位軌跡算出部は、前記絶対測位位置が予め規定された相対測位軌跡算出条件を満足する場合に、前記相対測位センサ情報に基づいて、前記絶対測位位置を基準とする前記移動体の相対測位軌跡を算出することを特徴とする請求項1に記載の位置推定装置。
【請求項13】
移動体の位置を推定する位置推定装置によって以下の各ステップが実行される位置推定方法であって、
絶対測位センサによって取得された絶対測位センサ情報に基づき前記移動体の絶対測位位置を算出するステップと、
前記移動体の相対位置の変化を検出する相対測位センサによって取得された相対測位センサ情報に基づいて、前記絶対測位位置を基準とする前記移動体の相対測位軌跡を算出し、算出された前記相対測位軌跡を相対測位軌跡記憶領域に保持するステップと、
前記相対測位軌跡が予め規定された相対測位軌跡選択条件を満足する場合に、選択された相対測位軌跡上にある前記移動体の最新位置を前記移動体の位置として推定するステップと、
前記相対測位センサ情報に基づき最新の相対測位軌跡が相対測位軌跡保持条件を満足するごとに、前記最新の相対測位軌跡を前記相対測位軌跡記憶領域に保持する処理を繰り返して、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された過去の相対測位軌跡を前記最新の相対測位軌跡に更新するステップと、
を備える位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、位置推定装置及び位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System)、GNSS(Global Navigation Satellite System)、QZSS(Quasi-Zenith Satellite System)といった測位衛星を利用する位置推定技術、複数の無線LAN基地局あるいは携帯電話基地局からの電波の伝達時間または電波の電界強度を利用する位置推定技術、赤外線を利用する位置推定技術など、様々な位置推定技術が開発されている。
【0003】
しかしながら、例えば測位衛星を利用する位置推定の場合には、信号の電離層における遅延、ビル等によるマルチパス、信号の途絶等に起因する測位誤差が存在する。この測位誤差の影響を軽減するために、移動体の相対位置を推定するデッドレコニング等の技術が存在する。デッドレコニングは、主にジャイロセンサから得られる角速度及び車速センサから得られる車速を用いて位置推定を実施する技術である。一方、精度が低下した衛星測位位置を基準にデッドレコニングを開始すると、デッドレコニングによる測位位置の精度も同時に低下する問題がある。
【0004】
これらの問題に対して、特許文献1に記載の位置検出装置では、個々の衛星測位位置を起点として推測航法に基づく相対軌跡を推定し、保持することで、測位衛星から送信される測位信号が途絶する際に、衛星測位誤差の増大以前の相対軌跡を継承して推測航法に基づく推定位置を演算することによって、推測航法による推定位置の精度低下を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の位置検出装置によれば、衛星測位誤差の増大以前の相対軌跡を継承して推測航法に基づく推定位置を演算し、推測航法による位置の推定を継続する。しかしながら、相対軌跡の更新と棄却は逐次実施されており、衛星測位が不可な領域に進入した際に推測航法を継続するための相対軌跡の選択肢が限定され、推測航法の精度が低下してしまう可能性がある。
【0007】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたもので、例えば衛星測位のような絶対測位が不可能な場合であっても推定位置の精度低下を抑制可能な位置推定装置及び位置推定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示される位置推定装置は、
移動体に搭載され、それぞれ既知の位置から放射される複数の信号を受信する絶対測位センサによって取得された絶対測位センサ情報、及び前記移動体に搭載され前記移動体の相対位置の変化を検出する相対測位センサによって取得された相対測位センサ情報に基づき自己位置を推定する位置推定装置であって、
前記絶対測位センサ情報に基づき、前記移動体の絶対測位位置を算出する絶対測位位置算出部と、
前記相対測位センサ情報に基づいて、前記絶対測位位置を基準とする前記移動体の相対測位軌跡を算出し、算出された前記相対測位軌跡を保持する相対測位軌跡記憶領域を有する相対測位軌跡算出部と、
前記相対測位軌跡が予め規定された相対測位軌跡選択条件を満足する場合に、選択された相対測位軌跡上にある前記移動体の最新位置を前記移動体の推定位置として出力する相対測位軌跡比較部と、を備える。
【0009】
本願に開示される位置推定方法は、
移動体の位置を推定する位置推定装置によって以下の各ステップが実行される位置推定方法であって、
絶対測位センサによって取得された絶対測位センサ情報に基づき前記移動体の絶対測位位置を算出するステップと、
前記移動体の相対位置の変化を検出する相対測位センサによって取得された相対測位センサ情報に基づいて、前記絶対測位位置を基準とする前記移動体の相対測位軌跡を算出し、算出された前記相対測位軌跡を相対測位軌跡記憶領域に保持するステップと、
前記相対測位軌跡が予め規定された相対測位軌跡選択条件を満足する場合に、選択された相対測位軌跡上にある前記移動体の最新位置を前記移動体の位置として推定するステップと、
前記相対測位センサ情報に基づき最新の相対測位軌跡が相対測位軌跡保持条件を満足するごとに、前記最新の相対測位軌跡を前記相対測位軌跡記憶領域に保持する処理を繰り返して、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された過去の相対測位軌跡を前記最新の相対測位軌跡に更新するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本願に開示される位置推定装置及び位置推定方法によれば、絶対測位位置を基準とし、相対測位センサから取得する相対測位センサ情報に基づいて、相対測位軌跡及び相対測位軌跡信頼度を随時保持及び更新することにより、移動体の走行中に絶対測位が不可になった場合であっても、より信頼度の高い相対測位軌跡を用いて、高精度な位置推定を継続することが可能となる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る位置推定装置を搭載した移動体と、移動体に対する測位システムを示した模式図である。
【
図2】実施の形態1に係る位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】実施の形態1に係る位置推定方法による位置推定処理の内容を模式的に示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態1に係る位置推定方法による絶対測位軌跡信頼度算出処理の内容を模式的に示すフローチャートである。
【
図5】実施の形態1に係る位置推定方法による相対測位軌跡信頼度算出処理の内容を模式的に示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態1に係る位置推定装置の動作の一例を説明する模式図である。
【
図7】実施の形態1に係る位置推定装置の動作の他の一例を説明する模式図である。
【
図8】実施の形態1に係る位置推定装置のハードウエアの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の目的、特徴、態様、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る位置推定装置200を搭載した移動体1と、移動体1に対する測位システム全体を示した模式図である。
【0013】
移動体1は、実施の形態1に係る位置推定装置200、移動体1の絶対測位に用いる絶対測位センサ20、及び移動体1の相対測位に用いる相対測位センサ30を搭載する。
図1では、既知の位置から放射される複数の信号を受信することによる絶対測位手段の一例として、複数の測位衛星2から衛星信号を受信することによる衛星測位の場合について示している。
【0014】
<実施の形態1に係る位置推定装置の構成>
図2は、実施の形態1に係る位置推定装置200の構成を示すブロック図である。実施の形態1に係る位置推定装置200は、絶対測位位置算出部50と、相対測位軌跡算出部60と、周辺環境推定部70と、走行状態推定部80と、相対測位軌跡比較部90と、を備える。
【0015】
絶対測位位置算出部50の内部には絶対測位位置記憶領域51が設けられ、相対測位軌跡算出部60の内部には相対測位軌跡記憶領域61が設けられている。
【0016】
実施の形態1に係る位置推定装置200の外部に設けられた絶対測位センサ20によって取得された絶対測位センサ情報、及び同じく外部に設けられた相対測位センサ30によって取得された相対測位センサ情報が実施の形態1に係る位置推定装置200にそれぞれ出力される。
【0017】
絶対測位センサ20は、例えば、GNSS受信機21、UWB受信機22、赤外線受信機23、無線LAN受信機24などの少なくとも一つ以上によって構成される。
【0018】
相対測位センサ30は、例えば、ジャイロセンサ31、車輪速センサ32、加速度センサ33、カメラ34などの少なくとも一つ以上によって構成される。
【0019】
図2に示す実施の形態1に係る位置推定装置200の一例では、絶対測位センサ20及び相対測位センサ30は位置推定装置200の外部に備え付けられているが、これらは位置推定装置200の内部に備え付けても良い。例えば、相対測位センサ30の一例であるジャイロセンサ31が位置推定装置200の内部に備え付けられている場合であっても、実施の形態1に係る位置推定装置200は位置推定に関して同様の効果を得ることができる。
【0020】
以下に、実施の形態1に係る位置推定装置200を構成する、絶対測位位置算出部50と、相対測位軌跡算出部60と、周辺環境推定部70と、走行状態推定部80と、相対測位軌跡比較部90とのそれぞれの基本的な機能を説明する。なお、より詳細な機能は、実施の形態1に係る位置推定装置200の動作の説明において詳述される。
【0021】
絶対測位位置算出部50は、絶対測位センサ20から取得した絶対測位センサ情報に基づいて、移動体1の絶対測位位置を算出する。算出された絶対測位位置は絶対測位位置算出部50の内部に設けられた絶対測位位置記憶領域51に記憶される。また、絶対測位位置算出部50は、絶対測位軌跡の信頼度を表す絶対測位軌跡信頼度を算出する。
【0022】
相対測位軌跡算出部60は、絶対測位位置算出部50において算出された絶対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度以上であるか否かを判定する。
【0023】
周辺環境推定部70は、絶対測位センサ20及び相対測位センサ30からそれぞれ取得した絶対測位センサ情報及び相対測位センサ情報に基づいて、移動体1の周囲の走行環境を推定する。
【0024】
走行状態推定部80は、相対測位センサ30から取得した相対測位センサ情報に基づいて、移動体1の走行状態を推定する。
【0025】
相対測位軌跡比較部90は、相対測位軌跡算出部60において算出及び保持された相対測位軌跡の信頼度を比較し、相対測位軌跡信頼度が最も高い相対測位軌跡を選択し、当該相対測位軌跡上となる絶対位置(以下、移動体1の最新位置とも言う)を移動体1の推定位置として出力する。
【0026】
<実施の形態1に係る位置推定装置の動作>
実施の形態1に係る位置推定装置200が行う処理内容の概要を、
図3から
図5に示すフローチャートを用いて、以下に説明する。
【0027】
位置推定装置200では、
図3のフローチャートに示すような位置推定処理が繰り返される。ステップS301において、絶対測位位置算出部50は、絶対測位センサ20から取得した絶対測位センサ情報に基づいて、移動体1の絶対測位位置を算出する。また、算出された絶対測位位置を絶対測位位置記憶領域51に記憶する。なお、絶対測位位置記憶領域51に記憶される絶対測位位置には、例えば衛星測位における搬送波推定の収束度のような測位精度に関する情報が含まれる。ステップS301の処理後、ステップS302の処理に進む。
【0028】
ステップS302において、周辺環境推定部70は、絶対測位センサ20及び相対測位センサ30からそれぞれ取得した絶対測位センサ情報及び相対測位センサ情報に基づいて、移動体1の周囲の走行環境を推定する。また、算出された走行環境に関する情報を絶対測位位置記憶領域51に記憶、つまり保持する。すなわち、ステップS302の処理では、移動体1の周囲の走行環境を推定しておく。
【0029】
例えば、GNSS受信機21が測位している複数の測位衛星2のうち、受信強度が予め設定された閾値強度以上である測位衛星2の仰角の分布に基づいて、移動体1の周囲の遮蔽物が無い空間の割合を表す天空率がおおよそ算出される。算出された天空率を絶対測位位置記憶領域51に記憶しておいても良い。
【0030】
一般に、天空率が低い場合、測位衛星2の個数の減少、あるいはマルチパスの増加などの影響によって衛星測位精度は低下する。また、例えば、移動体1の前方にカメラ34が設置されている場合は、予めカメラ34を用いて移動体1の走行経路上における周囲の遮蔽物の有無及び位置を検知して、絶対測位位置記憶領域51に記憶しておいても良い。遮蔽物として、例えば高層建築物、橋梁、道路防音壁、山、トラック、またはバス等の他の移動体1などが挙げられる。ステップS302の処理後、ステップS303の処理に進む。
【0031】
ステップS303において、絶対測位位置算出部50は、絶対測位位置記憶領域51を参照し、絶対測位位置記憶領域51に記憶された絶対測位位置の保持数が予め設定された閾値個数以上である場合に、記憶された絶対測位位置に基づいて、移動体1の絶対測位軌跡を算出し、絶対測位軌跡上にある移動体1の絶対位置(移動体1の最新位置)を絶対測位位置として更新する。
【0032】
なお、移動体1の絶対測位軌跡の算出は、絶対測位位置記憶領域51に記憶された絶対測位位置の測位精度に関する情報に基づいても良い。また、絶対測位位置算出部50は、絶対測位軌跡の信頼度を表す絶対測位軌跡信頼度を算出する。絶対測位軌跡信頼度の算出方法の詳細については後述する。ステップS303の処理後、ステップS304の処理に進む。
【0033】
ステップS304において、絶対測位位置算出部50は、絶対測位軌跡の算出に用いた絶対測位位置に関する情報を絶対測位位置記憶領域51から削除する。このような処理を行えば、絶対測位位置の保持に必要な絶対測位位置記憶領域51を小さくすることが可能となる。ステップS304の処理後、ステップS305の処理に進む。
【0034】
ステップS305において、相対測位軌跡算出部60は、絶対測位位置算出部50において算出された絶対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度以上であるか否かを判定する。かかる判定条件を、相対測位軌跡算出条件と呼ぶ。絶対測位軌跡信頼度が閾値信頼度以上である場合、YESとなり、ステップS306の処理へ進む。一方、絶対測位軌跡信頼度が閾値信頼度未満である場合、NOとなり、ステップS309の処理へ進む。
【0035】
ステップS306において、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡記憶領域61を参照し、相対測位軌跡記憶領域61に相対測位軌跡が既に保持されている場合に、保持された全ての相対測位軌跡信頼度が閾値信頼度未満であるか否かを判定する。この判定条件を、相対測位軌跡保持条件と呼ぶ。保持された全ての相対測位軌跡信頼度が閾値信頼度未満である場合、YESとなり、ステップS307の処理へ進む。一方、保持されたいずれか一つの相対測位軌跡信頼度が閾値信頼度以上である場合、NOとなり、ステップS309の処理へ進む。これにより、不要な相対測位軌跡の算出が抑制され、メモリ容量及び処理負荷を低減する効果を奏する。
【0036】
ステップS307において、走行状態推定部80は、相対測位センサ30から取得した相対測位センサ情報に基づいて、移動体1の走行状態を推定する。例えば、ジャイロセンサ31による移動体1の回転検知結果、車輪速センサ32による左右車輪速差検知結果などに基づいて、移動体1は旋回走行中であると推定される。また、例えば、加速度センサ33の検知結果に基づいて、移動体1の振動状態あるいは加減速状態が推定される。すなわち、ステップS307の処理では、移動体1の走行状態を推定しておく。
【0037】
ステップS308において、相対測位軌跡算出部60は、絶対測位位置を基準とし、相対測位センサ30から取得した相対測位センサ情報に基づいて、移動体1の相対測位軌跡を算出する。また、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡の信頼度を表す相対測位軌跡信頼度を算出する。相対測位軌跡信頼度の算出方法の詳細については後述する。ステップS308の処理後、ステップS309の処理へ進む。
【0038】
ステップS309において、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡記憶領域61を参照し、相対測位軌跡記憶領域61に相対測位軌跡が既に保持されている場合に、当該相対測位軌跡上にある相対位置を基準とし、相対測位センサ30から取得した相対測位センサ情報に基づいて当該相対測位軌跡を更新する。また、相対測位軌跡の信頼度を表す相対測位軌跡信頼度を更新する。ステップS309の処理後、ステップS310の処理へ進む。
【0039】
ステップS310において、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡算出部60において算出された相対測位軌跡信頼度が、閾値信頼度以上であるか否かを判定する。相対測位軌跡信頼度が閾値信頼度以上である場合、YESとなり、ステップS311の処理へ進む。一方、相対測位軌跡信頼度が閾値信頼度未満である場合、NOとなり、ステップS313の処理へ進む。
【0040】
ステップS311において、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡記憶領域61を参照し、保持された相対測位軌跡の個数が予め設定された閾値個数未満であるか否かを判定する。保持された相対測位軌跡の個数が閾値個数未満である場合、YESとなり、ステップS312の処理へ進む。保持された相対測位軌跡の個数が閾値個数以上である場合、NOとなり、ステップS313の処理へ進む。
【0041】
ステップS312において、算出または更新された相対測位軌跡を、相対測位軌跡記憶領域61に保持する。このとき、新規に算出された相対測位軌跡については、ステップS302において周辺環境推定部70が推定した走行環境に関する情報と、ステップS307において走行状態推定部80が推定した当該相対測位軌跡算出時における移動体1の走行状態とを、相対測位軌跡に関する情報として相対測位軌跡記憶領域61に記憶する。
【0042】
ステップS313において、相対測位軌跡算出部60は、対象となる相対測位軌跡の相対測位軌跡信頼度を、相対測位軌跡記憶領域61に保持された他の相対測位軌跡における相対測位軌跡信頼度と比較することにより、相対測位軌跡信頼度の高さの序列を判定する。相対測位軌跡信頼度の高さの序列が予め設定された許容序列条件を満足する場合、YESとなり、ステップS312の処理へ進む。相対測位軌跡信頼度の高さの序列が予め設定された許容序列条件を満足しない場合、NOとなり、ステップS314の処理へ進む。
【0043】
ステップS314において、相対測位軌跡算出部60は、算出または更新された相対測位軌跡を削除する。これにより、メモリ容量を低減する効果を得る。
【0044】
相対測位軌跡算出部60は、算出及び更新された相対測位軌跡の総数n個について、ステップS310からステップS314までの処理を繰り返し実施する。ステップS310からステップS314までの処理の実施後は、ステップS315の処理へ進む。
【0045】
ステップS315において、相対測位軌跡比較部90は、相対測位軌跡算出部60において算出及び保持された相対測位軌跡の信頼度を比較し、相対測位軌跡信頼度が最も高い相対測位軌跡を選択し、当該相対測位軌跡上となる絶対位置(移動体1の最新位置)を移動体1の推定位置として出力する。かかる選択条件を、相対測位軌跡選択条件と呼ぶ。
以上が、実施の形態1に係る位置推定装置200が行う処理内容の概要である。
【0046】
<絶対測位軌跡信頼度の算出方法>
絶対測位軌跡信頼度の算出方法の具体的な処理内容について、
図4のフローチャートを用いて、下記に説明する。
【0047】
<初期信頼度の設定>
ステップS401において、絶対測位位置算出部50は、絶対測位軌跡信頼度を算出するタイミングで、絶対測位軌跡信頼度の初期値として初期信頼度rを設定する。初期信頼度rは予め設定されていても良いし、あるいは位置推定装置200の処理ステップの中で動的に変更されても良い。例えば、絶対測位センサ20の検知性能が高い場合は、予め初期信頼度rを高く設定しても良い。
【0048】
また、例えば、絶対測位センサ20が複数個設置されている場合は、位置推定のためのセンサ入力が多く存在するとして、予め初期信頼度rを高く設定しても良い。また、例えば、位置推定装置200の処理ステップの途中段階において、絶対測位センサ20の故障が疑われる場合は、動的に初期信頼度rを低くするように設定しても良い。
【0049】
ステップS402において、絶対測位位置算出部50は、絶対測位軌跡の算出に用いた絶対測位位置の推定誤差を予め設定された許容誤差と比較し、許容誤差に収まる場合には初期信頼度rを増加させる一方、収まらない場合には推定誤差の大きさに応じて初期信頼度rを減少させる。これは、例えばステップS302において絶対測位位置記憶領域51に保持された衛星測位精度に関する情報に基づいて算出された推定誤差を予め設定された許容誤差と比較する場合に相当する。すなわち、ステップS402の処理では、絶対測位位置の精度に応じて信頼度を設定する。
【0050】
ステップS403において、絶対測位位置算出部50は、絶対測位軌跡に対する、絶対測位軌跡の算出に用いた絶対測位位置の位置誤差の分散値を予め設定された許容分散値と比較し、許容分散値に収まる場合には初期信頼度rを増加させ、収まらない場合には分散値の大きさに応じて初期信頼度rを減少させる。これは、例えば移動体1が直進中の場合に、理想的には絶対測位位置が絶対測位軌跡上に一致することから、絶対測位軌跡に対する絶対測位位置の位置誤差の分散値は0となるが、分散値が許容分散値よりも大きい場合には、いずれかの絶対測位位置に位置誤差が生じていると判定することができ、絶対測位軌跡信頼度を減少させる場合に相当する。すなわち、ステップS403の処理では、絶対測位位置のばらつきに応じて信頼度を設定する。
【0051】
ステップS404において、絶対測位位置算出部50は、絶対測位軌跡の算出に用いた絶対測位位置を算出する間に移動体1が移動した距離と予め設定された許容移動距離を比較し、許容移動距離に収まる場合には初期信頼度rを増加させる一方、収まらない場合には移動距離の大きさに応じて初期信頼度rを減少させる。これは、例えば絶対測位センサ20による絶対測位が一時的に途絶した後に絶対測位を再開し、途絶前後の絶対測位位置を絶対測位軌跡の算出に用いる場合に相当する。すなわち、ステップS404の処理では、絶対測位位置の距離的な連続性に応じて信頼度を設定する。
【0052】
移動体1の周囲の走行環境に応じて絶対測位軌跡信頼度を設定する。絶対測位軌跡信頼度を設定するに際しては、カメラ34、地図情報、路側機などを使用する。ビル等の遮蔽物は衛星測位に悪影響を与える。よって、絶対測位軌跡信頼度の増減度合いを変更する必要がある。
【0053】
ステップS405において、絶対測位位置算出部50は、絶対測位軌跡の算出に用いた絶対測位位置を算出する間の移動体1の周囲の走行環境を予め設定された許容環境条件と比較し、許容環境条件に収まる場合には初期信頼度rを増加させ、収まらない場合には初期信頼度rを減少させる。すなわち、ステップS405の処理では、移動体1の周囲の走行環境に応じて信頼度を設定する。
【0054】
許容環境条件として、例えば、移動体1の周囲の遮蔽物の有無が挙げられる。これは、例えば絶対測位手段として衛星測位を用いる場合に、移動体1の周囲に高層ビルが存在する環境においては、例え測位衛星2からの信号強度が強い場合であっても、高層ビルの壁面を測位信号が反射するマルチパスによって、衛星測位精度が低下する恐れがあるため、衛星測位精度の信頼度を減少させる場合に相当する。信号のマルチパスは、衛星測位だけでなく、例えば他の絶対測位手段であるUWB受信機22を用いたUWB測位などでも生じる恐れがある。
【0055】
以上に説明した絶対測位軌跡信頼度の算出方法は、絶対測位軌跡の算出に用いた複数の絶対測位位置の精度が良好であるか否かを絶対測位軌跡の信頼度に反映できるようにすることを基本的な考え方としている。このとき、絶対測位軌跡信頼度の算出方法として少なくとも一つ以上を用いることで、本開示の効果を奏することができる。
【0056】
<相対測位軌跡信頼度の算出方法>
相対測位軌跡信頼度の算出方法の具体的な処理内容について、
図5のフローチャートを用いて、以下に説明する。
【0057】
<初期信頼度の設定>
ステップS501において、相対測位軌跡算出部60は、計算対象である相対測位軌跡aの相対測位軌跡信頼度taを算出するタイミングで、相対測位軌跡信頼度taの初期値として初期信頼度ta0を設定する。初期信頼度ta0は、予め設定されていても良いし、位置推定装置200の処理ステップの中で動的に変更されても良い。例えば、相対測位センサ30の検知性能が高い場合は、予め初期信頼度ta0を高く設定しても良い。
【0058】
また、例えば、相対測位センサ30が複数個ある場合は、位置推定のためのセンサ入力が多く存在するとして、予め初期信頼度ta0を高く設定しても良い。また、例えば、位置推定装置200の処理ステップの途中の段階において、相対測位センサ30の故障が疑われる場合は、動的に初期信頼度ta0を低くするように設定しても良い。
【0059】
ステップS502において、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡aの算出開始時における相対測位軌跡aの算出基準として用いた絶対測位位置の推定誤差を予め設定された許容誤差と比較し、許容誤差に収まる場合には相対測位軌跡信頼度taを増加させる一方、収まらない場合には推定誤差の大きさに応じて相対測位軌跡信頼度taを減少させる。これは、例えばステップS302において絶対測位位置記憶領域51に保持された衛星測位精度に関する情報に基づいて算出された推定誤差を、予め設定された許容誤差と比較する場合に相当する。
【0060】
あるいは、絶対測位位置の推定誤差の代わりに絶対測位軌跡信頼度を指標として、予め設定された許容信頼度と比較し、許容信頼度に収まる場合には相対測位軌跡信頼度taを増加させ、収まらない場合には絶対測位軌跡信頼度の大きさに応じて相対測位軌跡信頼度taを減少させても良い。これは、例えば、基準となる絶対測位軌跡の精度が良好であれば相対測位軌跡の精度も良好であるとする場合に相当する。すなわち、ステップS502の処理では、相対測位軌跡の算出開始時における絶対測位位置の推定誤差(=絶対測位軌跡信頼度)に応じて、相対測位軌跡信頼度を設定する。
【0061】
ステップS503において、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡aの算出開始時における移動体1の走行状態を予め設定された許容走行条件と比較し、許容走行条件に収まる場合には、ステップS504以降の処理において相対測位軌跡信頼度taを増加させやすくし、収まらない場合にはステップS504以降の処理において相対測位軌跡信頼度taを減少させにくくする。移動体1の走行状態は、ステップS307において走行状態推定部80が推定した走行状態に関する情報である。
【0062】
許容走行条件として、例えば、移動体1の旋回半径が挙げられる。これは、例えば相対測位軌跡を新規に算出する際に、ジャイロセンサ31による移動体1の回転検知結果、車輪速センサ32による左右車輪速差検知結果などに基づいて移動体1が旋回走行中であると判定し、旋回半径が予め設定された閾値旋回半径以上である場合に、相対測位軌跡aの基準となる絶対測位軌跡の精度は低下するものとして、相対測位軌跡aを更新する際に、相対測位軌跡信頼度taの増加量を減少する場合に相当する。
【0063】
例えば、絶対測位手段としてGNSS受信機21による衛星測位を用いる場合において、衛星測位の処理周期は、一般的にジャイロセンサ31または車輪速センサ32などの処理周期と比べて長く、旋回走行中には移動体1の走行軌跡に対する追従性が悪化する場合が多い。
【0064】
ステップS504において、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡aの算出開始時間から現在の算出時間または更新時間までの経過時間を予め設定された許容時間と比較し、許容時間に収まる場合には、ステップS504以降の処理において相対測位軌跡信頼度taを増加させやすくする。一方、許容時間に収まらない場合にはステップS504以降の処理において相対測位軌跡信頼度taを減少させにくくする。すなわち、ステップS504の処理では、相対測位軌跡の算出開始後の経過時間が経過するほど信頼度を上げにくくする。
【0065】
一般に、移動体1の相対測位位置は、相対測位センサ30から取得された相対測位センサ情報に基づいて推定される移動体1の相対移動量の積分処理によって算出されるため、積分時間の増加に伴ってセンサ誤差も蓄積され、相対測位軌跡信頼度は低下する。したがって、センサ誤差特性に応じて許容時間を定めることで、相対測位軌跡信頼度を適切に算出することが可能となる。
【0066】
ステップS505において、相対測位軌跡算出部60は、最新の絶対測位位置の推定誤差が予め設定された許容誤差に収まる場合に、最新の絶対測位位置に対する相対測位軌跡aの位置誤差を相対測位軌跡aの推定誤差として、予め設定された許容誤差と比較し、許容誤差に収まる場合には相対測位軌跡信頼度taを増加させ、収まらない場合には推定誤差の大きさに応じて相対測位軌跡信頼度taを減少させる。すなわち、ステップS505の処理では、精度の良い絶対測位位置に対する相対測位軌跡の位置誤差を比較する。
【0067】
これは、例えばステップS302において絶対測位位置記憶領域51に保持された衛星測位精度に関する情報に基づいて算出された推定誤差が予め設定された許容誤差に収まる場合に、絶対測位位置を真値とみなして、相対測位軌跡の位置精度の信頼度を判定する場合に相当する。また、絶対測位センサ20が複数設けられている場合の絶対測位位置に関しては、推定誤差が最も小さい、いずれか一つの絶対測位位置を採用しても良いし、各絶対測位位置の平均値を採用しても良いし、あるいは、絶対測位センサ20の検知性能に応じて重みづけ平均値を採用しても良い。
【0068】
ステップS506において、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡記憶領域61に保持された相対測位軌跡bに対する相対測位軌跡aの位置誤差を相対測位軌跡aの推定誤差として予め設定された許容誤差と比較し、許容誤差に収まる場合には相対測位軌跡信頼度taを増加させ、収まらない場合には推定誤差の大きさに応じて相対測位軌跡信頼度taを減少させる。
【0069】
移動体1の走行状態は、ステップS307において走行状態推定部80が推定した走行状態に関する情報である。ここで、相対測位軌跡bは、相対測位軌跡記憶領域61に保持された相対測位軌跡のうち、相対測位軌跡信頼度tbが予め設定された許容信頼度以上であり、かつ最も高いものである。
【0070】
これは、すでに位置精度が高い相対測位軌跡が存在する場合に、当該相対測位軌跡を真値とみなして、相対測位軌跡の位置精度の信頼度を判定する場合に相当する。なお、絶対測位と相対測位の処理周期が異なり、相対測位軌跡信頼度の算出タイミングにおいて絶対測位位置が未算出である場合に、ステップS506の処理は省略しても良い。
【0071】
ステップS507において、相対測位軌跡算出部60は、ステップS307において走行状態推定部80が推定した走行状態を予め設定された許容走行条件と比較し、許容走行条件に収まる場合にはtaを増加させやすくし、収まらない場合にはtaを減少させにくくする。許容走行条件としては、ステップS503と同様の許容走行条件を設定することが可能である。つまり、ステップS507の処理では、絶対測位センサ20及び相対測位センサ30から推定される移動体1の走行状態(加速度、ヨーレート)に応じて信頼度を上げにくくする。相対測位センサ30にはスケールファクター誤差が生じるからである。
【0072】
以上に説明した相対測位軌跡信頼度の算出方法の中で少なくとも1つ以上を用いることで、実施の形態1の効果を得ることができる。
【0073】
なお、相対測位軌跡算出部60は、相対測位軌跡記憶領域61に保持された相対測位軌跡について、相対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度以上である場合と、相対測位軌跡記憶領域61に保持された相対測位軌跡の保持量が予め設定された閾値保持量未満である場合と、相対測位軌跡記憶領域61に保持された相対測位軌跡の保持量が予め設定された閾値保持量以上であり、かつ閾値信頼度の範囲内において相対測位軌跡信頼度が予め設定された設定信頼度値よりも高い相対測位軌跡である場合との少なくとも一つが成立することにより、相対測位軌跡保持条件を満足すると判定しても良い。
【0074】
<実施の形態1に係る位置推定装置の動作>
図6は、実施の形態1に係る位置推定装置200の動作の一例を説明する模式図である。
図6は、具体的には、絶対測位位置及び相対測位位置、並びに絶対測位位置及び相対測位位置から算出される相対測位軌跡の一例を示している。相対測位軌跡は、予め設定された時刻ごとに、絶対測位位置を基準として算出される。
図6に示される一例では、時刻0sの時点で測位された絶対測位位置aに基づき、相対測位軌跡Aが算出され、時刻4sの時点で測位された絶対測位位置bに基づき、相対測位軌跡Bが算出される。すなわち、同時刻に複数の相対測位軌跡が存在する。相対測位軌跡上における移動体1の最新位置に関しては、複数の相対測位軌跡の中から選択された相対測位軌跡上における最新の相対測位位置が推定位置として出力される。なお、時間的に最も新しい相対測位軌跡を、最新の相対測位軌跡と呼ぶ。
【0075】
例えば、
図6のように絶対測位位置の測位結果を取得できている場合は、時刻2sにおいては時刻2sの相対測位位置aを移動体1の最新位置として出力する。また、時刻6sにおいては、相対測位軌跡Aが選択された場合は相対測位位置bを、相対測位軌跡Bが選択された場合は相対測位位置cを、移動体1の最新位置として出力する。
【0076】
図7は、実施の形態1に係る位置推定装置200の動作の他の一例を説明する模式図である。
図7は、具体的には、移動体1が、絶対測位が不可能な領域、すなわち絶対測位不可領域に進入する場合における、絶対測位位置及び相対測位位置、並びに絶対測位位置及び相対測位位置から算出される相対測位軌跡の一例を示している。絶対測位位置aが高精度である一方、絶対測位位置bが低精度であった場合には、高精度な絶対測位位置aを起点とした相対測位軌跡Cのみを算出し、更新し続け、相対測位軌跡Dは算出されない。この結果、推定位置の精度低下を抑制することが可能となる。
【0077】
すなわち、絶対測位位置が予め規定された相対測位軌跡算出条件を満足する場合という条件のもとに相対測位軌跡の算出可否を判定することによって、精度が低い相対測位軌跡を予め排除するので、たとえ絶対測位が不可能な場合であっても、推定位置の精度低下を抑制することが達成可能となるという効果を奏する。
【0078】
<実施の形態1の効果>
以上、実施の形態1に係る位置推定装置及び位置推定方法によると、絶対測位センサから取得された絶対測位センサ情報に基づいて算出した絶対測位位置を基準とし、相対測位センサから取得された相対測位センサ情報に基づいて、相対測位軌跡及び相対測位軌跡信頼度を随時保持及び更新することにより、移動体の走行中、絶対測位が不可になった場合であっても、より信頼度の高い相対測位軌跡を用いて、高精度な位置推定を継続することが可能となるという効果を奏する。
【0079】
なお、上述の実施の形態1にかかる位置推定装置200の構成では、位置推定装置200は機能ブロックとして説明されているが、位置推定装置200を格納するハードウエアとしての構成の一例を
図8に示す。ハードウエア800は、プロセッサ801と記憶装置802から構成される。記憶装置802は図示していないが、ランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを具備する。
【0080】
また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を具備してもよい。プロセッサ801は、記憶装置802から入力されたプログラムを実行する。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ801にプログラムが入力される。また、プロセッサ801は、演算結果等のデータを記憶装置802の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。
【0081】
<本願の諸態様のまとめ>
以下、本願の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0082】
(付記1)
移動体に搭載され、それぞれ既知の位置から放射される複数の信号を受信する絶対測位センサによって取得された絶対測位センサ情報、及び前記移動体に搭載され前記移動体の相対位置の変化を検出する相対測位センサによって取得された相対測位センサ情報に基づき自己位置を推定する位置推定装置であって、
前記絶対測位センサ情報に基づき、前記移動体の絶対測位位置を算出する絶対測位位置算出部と、
前記相対測位センサ情報に基づいて、前記絶対測位位置を基準とする前記移動体の相対測位軌跡を算出し、算出された前記相対測位軌跡を保持する相対測位軌跡記憶領域を有する相対測位軌跡算出部と、
前記相対測位軌跡が予め規定された相対測位軌跡選択条件を満足する場合に、選択された相対測位軌跡上にある前記移動体の最新位置を前記移動体の推定位置として出力する相対測位軌跡比較部と、
を備える位置推定装置。
【0083】
(付記2)
前記相対測位軌跡算出部は、前記相対測位センサ情報に基づく最新の相対測位軌跡が相対測位軌跡保持条件を満足するごとに、最新の相対測位軌跡を前記相対測位軌跡記憶領域に保持する処理を繰り返して、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された過去の相対測位軌跡を前記最新の相対測位軌跡に更新し、
前記最新の相対測位軌跡が予め規定された前記相対測位軌跡保持条件を満足しない場合は、前記最新の相対測位軌跡を前記相対測位軌跡記憶領域に保持せずに削除することを特徴とする付記1に記載の位置推定装置。
【0084】
(付記3)
前記絶対測位位置算出部は、算出された前記絶対測位位置を保持することが可能な絶対測位位置記憶領域を有し、前記絶対測位位置記憶領域に保持された複数の前記絶対測位位置に基づき前記移動体の絶対測位軌跡を算出し、前記絶対測位センサ情報に基づき前記絶対測位軌跡上の前記移動体の最新位置を前記絶対測位位置として更新することを特徴とする付記2に記載の位置推定装置。
【0085】
(付記4)
前記絶対測位位置算出部は、前記絶対測位軌跡の信頼度を表す絶対測位軌跡信頼度を算出し、
前記相対測位軌跡算出部は、前記絶対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度以上である場合に、相対測位軌跡算出条件を満足すると判定することを特徴とする付記3に記載の位置推定装置。
【0086】
(付記5)
前記絶対測位軌跡信頼度は、前記絶対測位軌跡の算出に用いる前記複数の絶対測位位置にそれぞれ生じる推定誤差と、前記絶対測位軌跡の算出に用いる前記複数の絶対測位位置の前記相対測位軌跡に対するそれぞれの位置誤差と、前記絶対測位軌跡の算出に用いる前記複数の絶対測位位置を算出する間に前記移動体が移動した距離との少なくとも一つを指標として算出されることを特徴とする付記4に記載の位置推定装置。
【0087】
(付記6)
前記絶対測位センサ情報及び前記相対測位センサ情報に基づき、前記移動体の周囲の走行環境を推定する周辺環境推定部をさらに備え、
前記絶対測位軌跡信頼度を算出するための指標として、前記移動体の周囲の走行環境をさらに含むことを特徴とする付記5に記載の位置推定装置。
【0088】
(付記7)
前記相対測位軌跡算出部は、前記相対測位軌跡の信頼度である相対測位軌跡信頼度を算出し、
前記相対測位軌跡比較部は、前記相対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度以上である場合に、前記相対測位軌跡選択条件を満足すると判定することを特徴とする付記1から6のいずれか1項に記載の位置推定装置。
【0089】
(付記8)
前記相対測位軌跡信頼度は、前記絶対測位位置の推定誤差と、前記絶対測位位置に対する前記相対測位軌跡の位置誤差と、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡に対する前記相対測位軌跡の位置誤差と、前記相対測位軌跡の算出開始時における前記絶対測位位置の推定誤差と、前記絶対測位センサ情報及び前記相対測位センサ情報から推定される前記移動体の走行状態と、前記相対測位軌跡の算出開始時における前記移動体の走行状態と、前記絶対測位センサ及び前記相対測位センサから推定される前記移動体の周囲の走行環境と、前記相対測位軌跡の算出開始時における前記移動体の走行環境と、前記相対測位軌跡の算出開始後から経過した経過時間との少なくとも一つを指標として算出されることを特徴とする付記7に記載の位置推定装置。
【0090】
(付記9)
前記絶対測位センサ情報及び前記相対測位センサ情報に基づき、前記移動体の走行状態を推定する走行状態推定部をさらに備え、
前記相対測位軌跡信頼度を算出するための指標として、前記走行状態推定部が推定した前記移動体の走行状態と、前記相対測位軌跡の算出開始時における前記移動体の走行状態と、をさらに含むことを特徴とする付記8に記載の位置推定装置。
【0091】
(付記10)
前記相対測位軌跡算出部は、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡に関して、全ての前記相対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度未満である場合に、相対測位軌跡算出条件を満足することを特徴とする付記7から9のいずれか1項に記載の位置推定装置。
【0092】
(付記11)
前記相対測位軌跡算出部は、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡について、前記相対測位軌跡信頼度が予め設定された閾値信頼度以上である場合と、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡の保持量が予め設定された閾値保持量未満である場合と、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された前記相対測位軌跡の保持量が前記閾値保持量以上であり、かつ前記閾値信頼度の範囲内において前記相対測位軌跡信頼度が予め設定された設定信頼度値よりも高い前記相対測位軌跡である場合との少なくとも一つが成立することにより、相対測位軌跡保持条件を満足すると判定することを特徴とする付記7から10のいずれか1項に記載の位置推定装置。
【0093】
(付記12)
前記相対測位軌跡算出部は、前記絶対測位位置が予め規定された相対測位軌跡算出条件を満足する場合に、前記相対測位センサ情報に基づいて、前記絶対測位位置を基準とする前記移動体の相対測位軌跡を算出することを特徴とする付記1に記載の位置推定装置。
【0094】
(付記13)
移動体の位置を推定する位置推定装置によって以下の各ステップが実行される位置推定方法であって、
絶対測位センサによって取得された絶対測位センサ情報に基づき前記移動体の絶対測位位置を算出するステップと、
前記移動体の相対位置の変化を検出する相対測位センサによって取得された相対測位センサ情報に基づいて、前記絶対測位位置を基準とする前記移動体の相対測位軌跡を算出し、算出された前記相対測位軌跡を相対測位軌跡記憶領域に保持するステップと、
前記相対測位軌跡が予め規定された相対測位軌跡選択条件を満足する場合に、選択された相対測位軌跡上にある前記移動体の最新位置を前記移動体の位置として推定するステップと、
前記相対測位センサ情報に基づき前記最新の相対測位軌跡が相対測位軌跡保持条件を満足するごとに、最新の相対測位軌跡を前記相対測位軌跡記憶領域に保持する処理を繰り返して、前記相対測位軌跡記憶領域に保持された過去の相対測位軌跡を前記最新の相対測位軌跡に更新するステップと、
を備える位置推定方法。
【0095】
本開示は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
【0096】
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0097】
1 移動体、2 測位衛星、20 絶対測位センサ、21 GNSS受信機、22 UWB受信機、23 赤外線受信機、24 無線LAN受信機、30 相対測位センサ、31 ジャイロセンサ、32 車輪速センサ、33 加速度センサ、34 カメラ、50 絶対測位位置算出部、51 絶対測位位置記憶領域、60 相対測位軌跡算出部、61 相対測位軌跡記憶領域、70 周辺環境推定部、80 走行状態推定部、90 相対測位軌跡比較部、200 位置推定装置、800 ハードウエア、801 プロセッサ、802 記憶装置