(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168869
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】タイヤの耐久性能の予測方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20241128BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085890
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】金谷 資輝
(72)【発明者】
【氏名】晒 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 叡二
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB03
3D131BC55
3D131LA21
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】タイヤを破壊することなくタイヤの耐久性能を予測できる、タイヤの耐久性能の予測方法の提供。
【解決手段】この予測方法は、転動する参照タイヤの実形状を測定する工程、転動による実形状の変化として変位プロファイルを取得する工程、高速フーリエ変換によって変位プロファイルの1次からN次(Nは2以上の整数)までの次数成分の変位量を算出する工程、スタンディングウェーブ現象の兆候による実形状の変化を反映する次数成分の変位量の総和の逆数を定量指標値として求め、参照タイヤの耐久性能を表す性能指標値と定量指標値との相関を取得する工程、及び、参照タイヤの転動をシュミレーションして、定量指標値に対応する仮想定量指標値を見積もり、仮想定量指標値と定量指標値との相関を取得する工程とを含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタンディングウェーブ現象を考慮してタイヤの耐久性能を予測する方法であって、
路面を転動している参照タイヤの実形状を測定する工程と、
転動による実形状の変化として、転動している参照タイヤの実形状と停止している参照タイヤの実形状との差で表される、変位プロファイルを取得する工程と、
高速フーリエ変換によって、前記変位プロファイルの1次からN次(Nは2以上の整数)までの次数成分の変位量を算出する工程と、
前記スタンディングウェーブ現象の兆候による実形状の変化を反映する次数成分の変位量の総和の逆数を定量指標値として求め、前記参照タイヤの耐久性能を表す性能指標値と前記定量指標値との相関を取得する工程と、
前記参照タイヤの転動をシュミレーションして、前記定量指標値に対応する仮想定量指標値を見積もり、前記仮想定量指標値と前記定量指標値との相関を取得する工程と
を含み、
前記参照タイヤの実形状を測定する工程において、前記参照タイヤの速度を所定速度に設定し前記参照タイヤを所定時間走行させるステップを繰り返すことで、前記参照タイヤの速度が段階的に上げられる、
タイヤの耐久性能の予測方法。
【請求項2】
一の前記ステップにおいて前記参照タイヤが設定速度で走行する時間が30秒以上60分以下であり、
一の前記ステップの次のステップにおける前記参照タイヤの設定速度と、一の前記ステップにおける前記参照タイヤの設定速度との差が、5km/h以上10km/h以下である、
請求項1に記載のタイヤの耐久性能の予測方法。
【請求項3】
前記参照タイヤが走行を維持できなくなるまで、前記ステップが繰り返される、
請求項1又は2に記載のタイヤの耐久性能の予測方法。
【請求項4】
前記定量指標値が、前記次数成分と前記変位量との関係において、10次成分から15次成分までの次数成分にピークとなる次数成分を含む変位プロファイルにおいて求められる、
請求項1又は2に記載のタイヤの耐久性能の予測方法。
【請求項5】
前記定量指標値が、前記ピークとなる次数成分を中心とする±7次成分の範囲にある次数成分の変位量の総和の逆数で表される、
請求項4に記載のタイヤの耐久性能の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの耐久性能の予測方法に関する。詳細には、本発明は、スタンディングウェーブ現象を考慮してタイヤの耐久性能を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの耐久性能の評価には、タイヤの破壊を伴うケースが多い(例えば、下記の特許文献1)。タイヤの破壊を伴うことなく、タイヤの耐久性能を評価できる技術の確立が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、タイヤを破壊することなくタイヤの耐久性能を予測できる、タイヤの耐久性能の予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るタイヤの耐久性能の予測方法は、スタンディングウェーブ現象を考慮してタイヤの耐久性能を予測する方法である。この予測方法は、路面を転動している参照タイヤの実形状を測定する工程と、転動による実形状の変化として、転動している参照タイヤの実形状と停止している参照タイヤの実形状との差で表される、変位プロファイルを取得する工程と、高速フーリエ変換によって、前記変位プロファイルの1次からN次(Nは2以上の整数)までの次数成分の変位量を算出する工程と、前記スタンディングウェーブ現象の兆候による実形状の変化を反映する次数成分の変位量の総和の逆数を定量指標値として求め、前記参照タイヤの耐久性能を表す性能指標値と前記定量指標値との相関を取得する工程と、前記参照タイヤの転動をシュミレーションして、前記定量指標値に対応する仮想定量指標値を見積もり、前記仮想定量指標値と前記定量指標値との相関を取得する工程とを含む。前記参照タイヤの実形状を測定する工程において、前記参照タイヤの速度を所定速度に設定し前記参照タイヤを所定時間走行させるステップを繰り返すことで、前記参照タイヤの速度が段階的に上げられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、タイヤを破壊することなくタイヤの耐久性能を予測できる、タイヤの耐久性能の予測方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】スタンディングウェーブ現象を説明する模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るタイヤの耐久性能の予測方法で使用する試験装置の概要を示す概略平面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るタイヤの耐久性能の予測方法の概要を示すフロー図である。
【
図6】予測方法で実行されるタイヤの速度プロファイルのイメージを示すグラフである。
【
図7】転動しているタイヤの実形状の測定結果の一例を示す図である。
【
図8】転動による実形状の変化を表す変位プロファイルを示すグラフである。
【
図9】変位プロファイルを高速フーリエ変換して得られる1次成分の変位プロファイルのイメージを示すグラフである。
【
図10】変位プロファイルを高速フーリエ変換して得られる各次数成分の変位量を示すグラフである。
【
図11】変位プロファイルを高速フーリエ変換して得られる各次数成分の変位量を示すグラフである。
【
図12】定量指標値と性能指標値との相関を示すグラフである。
【
図13】シミュレーションにより見積もられた変位プロファイルを高速フーリエ変換して得られる各次数成分の変位量を示すグラフである。
【
図14】仮想定量指標値と性能指標値との相関を示すグラフである。
【
図15】仮想定量指標値と定量指標値との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、タイヤに荷重をかけていない状態は、正規状態と称される。
【0009】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0010】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0011】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0012】
本発明において、速度記号とは、例えば、JATMA規格において規定され、タイヤが、そのロードインデックスにより示された質量を規定の条件で負荷された状態において、走行可能な最高速度を表す記号である。
【0013】
本発明において、ロードインデックス(LI)とは、例えば、JATMA規格において規定され、規定の条件下でタイヤに負荷することが許される最大の質量、すなわち最大負荷能力を指数で表す指標である。
【0014】
本発明において、タイヤのトレッド部とは、路面と接地する、タイヤの部位である。ビード部とは、リムに嵌め合わされる、タイヤの部位である。サイドウォール部とは、トレッド部とビード部との間を架け渡す、タイヤの部位である。タイヤは、部位として、トレッド部、一対のビード部及び一対のサイドウォール部を備える。トレッド部とサイドウォール部との境界部分は、バットレスとも呼ばれる。
【0015】
[本発明の基礎となった知見]
タイヤの耐久性能の評価項目の一つに、高速耐久性がある。高速耐久性の評価では、段階的に速度を上げながらバーストするまでタイヤの走行が行われる。この走行試験で得られる、タイヤにバーストが生じた速度や、タイヤがバーストに至るまでの走行時間で、タイヤの高速耐久性は評価される。
タイヤの耐久性能の評価を行うには、タイヤが必要である。評価を行うために評価用タイヤが作製される。作製したタイヤに対して走行試験が行われる。タイヤの評価は時間を要する。タイヤの開発期間は長くなる傾向にある。
高速耐久性の評価は、タイヤの破壊を伴う。タイヤは高速で走行するので、タイヤがバーストしたときの衝撃は強い。飛び散った破片によって試験装置が故障することもある。
このような事情から、タイヤの破壊を伴うことなく、タイヤの耐久性能を評価できる技術の確立が求められている。
【0016】
ところで、走行しているタイヤに生じる現象の一つとして、スタンディングウェーブ現象が知られている。スタンディングウェーブ現象は、空気圧が不足した状態でタイヤが高速で走行することで生じる現象である。
図1は、ドラムD上を走行するタイヤTにおいて、スタンディングウェーブ現象が生じている状態を示す模式図である。
図1において矢印RDで示される方向がタイヤTの回転方向である。
図1に示されるように、スタンディングウェーブ現象が生じるとタイヤTは波状に変形する。この状態で走行を続けると、タイヤTは熱を帯び、やがてバーストする。スタンディングウェーブ現象は、タイヤTの耐久性能に影響を及ぼす。
【0017】
本発明者らは、スタンディングウェーブ現象が生じるとタイヤTが波状に変形することに着目し、鋭意検討した。その結果、本発明者らは、走行によるタイヤTの変形を変位プロファイルとして取得することで、スタンディングウェーブ現象の兆候を捉えることができること、この兆候を表す変位プロファイルを高速フーリエ変換によって解析することで、この兆候を変位量として把握できること、この変位量はタイヤTを用いて得られる耐久性能の指標値と相関していること、そして、この変位量はシミュレーションによって見積もることができることを見出し、以下に説明する本発明を完成するに至っている。
【0018】
[本発明の実施形態の概要]
[構成1]
本発明の一態様に係るタイヤの耐久性能の予測方法は、スタンディングウェーブ現象を考慮してタイヤの耐久性能を予測する方法であって、路面を転動している参照タイヤの実形状を測定する工程と、転動による実形状の変化として、転動している参照タイヤの実形状と停止している参照タイヤの実形状との差で表される、変位プロファイルを取得する工程と、高速フーリエ変換によって、前記変位プロファイルの1次からN次(Nは2以上の整数)までの次数成分の変位量を算出する工程と、前記スタンディングウェーブ現象の兆候による実形状の変化を反映する次数成分の変位量の総和の逆数を定量指標値として求め、前記参照タイヤの耐久性能を表す性能指標値と前記定量指標値との相関を取得する工程と、前記参照タイヤの転動をシュミレーションして、前記定量指標値に対応する仮想定量指標値を見積もり、前記仮想定量指標値と前記定量指標値との相関を取得する工程とを含み、前記参照タイヤの実形状を測定する工程において、前記参照タイヤの速度を所定速度に設定し前記参照タイヤを所定時間走行させるステップを繰り返すことで、前記参照タイヤの速度が段階的に上げられる。
【0019】
このように整えられた、タイヤの耐久性能の予測方法によれば、例えば、走行によってタイヤに生じる歪みを計算することで、タイヤにバーストが生じる速度や、タイヤがバーストに至るまでの走行時間の予測が可能である。この予測方法は、タイヤを破壊することなくタイヤの耐久性能を予測できる。
【0020】
[構成2]
好ましくは、前述の[構成1]に記載の、タイヤの耐久性能の予測方法においては、一の前記ステップにおいて前記参照タイヤが設定速度で走行する時間が30秒以上60分以下であり、一の前記ステップの次のステップにおける前記参照タイヤの設定速度と、一の前記ステップにおける前記参照タイヤの設定速度との差が、5km/h以上10km/h以下である。
【0021】
[構成3]
好ましくは、前述の[構成1]又は「構成2」に記載の、タイヤの耐久性能のよそくほう法においては、前記参照タイヤが走行を維持できなくなるまで、前記ステップが繰り返される。
【0022】
[構成4]
好ましくは、前述の[構成1]から[構成3]のいずれかに記載の、タイヤの耐久性能の予測方法においては、前記定量指標値が、前記次数成分と前記変位量との関係において、10次成分から15次成分までの次数成分にピークとなる次数成分を含む変位プロファイルにおいて求められる。
【0023】
[構成5]
好ましくは、前述の[構成4]に記載の、タイヤの耐久性能の予測方法においては、前記定量指標値が、前記ピークとなる次数成分を中心とする±7次成分の範囲にある次数成分の変位量の総和の逆数で表される。
【0024】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0025】
本発明の一実施形態に係る「タイヤの耐久性能の予測方法」(以下、予測方法)は、タイヤを実際に走行させて得られる知見に基づいて、タイヤの耐久性能を予測する。
本発明においては、前述の知見を得るために用いられるタイヤが参照タイヤTr(又はタイヤTr)と呼ばれる。予測対象のタイヤは対象タイヤTt(又はタイヤTt)とも呼ばれる。
この予測方法が対象とするタイヤは、好ましくは、乗用車用タイヤ及び小形トラック用タイヤである。
【0026】
[試験装置]
予測方法で使用する試験装置2が説明される。
図2及び3は、予測方法で使用する試験装置2を示す。
図2は試験装置2の平面図である。
図3は試験装置2の斜視図である。
図2及び3は試験装置2の概要を示す。
試験装置2はタイヤTの走行試験を行う。試験装置2は、走行しているタイヤTの実形状を測定する。
図2及び3に示された試験装置2にセットされているタイヤTは、参照タイヤTrである。
この試験装置2は、走行部4、測定部6及び制御部8を備える。
【0027】
走行部4は、参照タイヤTrの走行を行う。走行部4は、ドラム10、駆動ユニット12及び接地ユニット14を備える。
【0028】
ドラム10は路面16と中心軸18とを有する。路面16は、タイヤTrが転動する部分である。この試験装置2では、ドラム10の外周面が路面16である。中心軸18はドラム10を支持する。中心軸18が回転することでドラム10は回転する。ドラム10が回転することで、タイヤTrが路面16を転動する。
【0029】
駆動ユニット12はドラム10を回転駆動する。駆動ユニット12はドラム10の中心軸18を回転自在に支持する。図示されないが、駆動ユニット12はモーターを備える。モーターがドラム10の中心軸18を回転駆動する。モーターの回転速度を制御することで、ドラム10の回転速度が調整される。これにより、路面16を転動するタイヤTrの速度が調整される。
【0030】
接地ユニット14はタイヤTrを支持する。接地ユニット14は、ドラム10の路面16に向けてタイヤTrを動かし、このタイヤTrを路面16に接地させることができる。これにより、タイヤTrに荷重がかけられる。タイヤTrに荷重がかけられている状態はロード状態とも呼ばれる。この接地ユニット14は路面16に接地していたタイヤTrを路面16から引き離すこともできる。これにより、タイヤTrにかけられていた荷重が除かれる。タイヤTrに荷重がかけられていない状態はアンロード状態とも呼ばれる。
接地ユニット14はタイヤ軸20と支持部22とを備える。
【0031】
タイヤ軸20の一方の端は支持部22に支持される。タイヤ軸20は、その軸芯がドラム10の中心軸18の軸芯と平行になるように支持される。タイヤ軸20の他方の端には、リムRに組まれたタイヤTrが回転自在に取り付けられる。ドラム10の軸芯を含む仮想平面内にタイヤTrの軸芯が位置するように、タイヤTrは走行部4にセットされる。
【0032】
支持部22はタイヤ軸20を支持する。支持部22は、タイヤ軸20をドラム10の径方向に移動させることができる移動機構(図示されず)を有する。
支持部22がタイヤ軸20をドラム10に近づけることで、タイヤTrが路面16に押し当てられる。これによりタイヤTrがロード状態になる。タイヤ軸20の移動量を制御することでタイヤTrにかかる荷重の大きさが調整される。
支持部22がタイヤ軸20をドラム10から遠ざけることで、タイヤTrは路面16から離される。これによりタイヤTrはアンロード状態になる。
【0033】
支持部22は角度調整機構(図示されず)を有する。角度調整機構は、ドラム10の中心軸18に対してタイヤ軸20がなす角度を調整できる。詳述しないが、走行部4は、ドラム10の中心軸18に対してタイヤ軸20を傾けることで、タイヤTrのスリップ角及びキャンバー角を調整できる。
【0034】
測定部6は、タイヤTrの実形状を測定する。測定部6は、タイヤTrの実形状を測定するための測定手段24を備える。この試験装置2の測定手段24は2台のカメラ24cである。2台のカメラ24cにストロボスコープ26を併用し、ステレオ法でタイヤTrの外面が撮影される。撮影した映像を解析することで、タイヤTrの実形状を表す情報が得られる。
【0035】
この試験装置2では、タイヤTrの実形状を測定できるのであれば、測定手段24に特に制限はない。この試験装置2は、測定手段24として、変位センサーを用いてもよく、高感度カメラを用いてもよい。
【0036】
制御部8は、走行部4及び測定部6のそれぞれと通信ケーブルで接続される。制御部8は、例えば、プログラマブルシーケンサ、マイコン、パーソナルコンピュータ、その他の制御デバイスで構成される。制御部8は、走行部4及び測定部6の動作を制御する。
【0037】
図4は、制御部8の一例を示す概念図である。制御部8は、CPU(中央演算装置)からなる演算部28と、処理手順を記憶する記憶部30と、記憶部30から処理手順を読み込む作業用メモリ32とを含んで構成される。制御部8には、処理結果等を表示するための表示部や、オペレータが操作するための操作部が設けられてもよい。
【0038】
[タイヤの耐久性能の予測方法]
次に、前述の試験装置2を用いて実行する場合を例にして、本発明の一実施形態に係る予測方法が説明される。この予測方法は、スタンディングウェーブ現象を考慮してタイヤの耐久性能を予測する方法である。
【0039】
図5は予測方法のフローの一例を示す。この予測方法は、
(1)参照タイヤTrの実形状を測定する工程S1、
(2)転動による実形状変化を表す変位プロファイルを取得する工程S2、
(3)高速フーリエ変換により変位プロファイルを解析する工程S3、
(4)定量指標値と性能指標値との相関を取得する工程S4、そして、
(5)シミュレーションにより参照タイヤTrの仮想定量指標値を見積もり、仮想定量指標値と定量指標値との相関を取得する工程S5
を含む。
【0040】
[工程S1]
工程S1は、路面を転動している参照タイヤTrの実形状を測定する。実形状の測定のために、参照タイヤTrが試験装置2にセットされる。
タイヤTrはリムRに組まれる。リムRは、例えば正規リムであってもよく、JATMA規格における許容リムであってもよい。このリムRが、JATMA規格における適用リムに対応する試験用リムであってもよい。
【0041】
タイヤTrをリムRに組むとタイヤTrの内部に空気が充填される。これにより、タイヤTrの内圧が調整される。タイヤTの内圧は正規内圧に調整されてもよく、正規内圧よりも低い内圧に調整されてもよく、正規内圧よりも高い内圧に調整されてもよい。
内圧調整後、タイヤTrを装着したリムRが走行部4のタイヤ軸20に取り付けられる。タイヤTrを路面16に押し当て、タイヤTrに荷重がかけられる。タイヤTrにかけられる荷重は正規荷重であってもよく、正規荷重よりも低い荷重であってもよく、正規荷重よりも高い荷重であってもよい。
この予測方法では、予測の対象である対象タイヤTtの走行状態を考慮して、内圧、荷重、スリップ角、キャンバー角等の条件が設定される。
【0042】
試験装置2へのタイヤTrのセットが完了すると、制御部8が走行部4の駆動ユニット12を駆動し、ドラム10を回転させる。これにより、タイヤTrの走行が開始される。記憶部30に記録されている速度プロファイルにしたがって、制御部8が、タイヤTrに係る荷重を監視しながら、タイヤTrの速度をコントロールする。
【0043】
図6は、走行試験で実行されるタイヤTrの速度プロファイルを説明するグラフである。グラフの横軸は時間tを表し、縦軸は速度Vを表す。この
図6に示された速度プロファイルは、この工程S1の走行試験で実行される速度プロファイルの一例である。
【0044】
この予測方法では、工程S1において、試験装置2は、タイヤTrの速度Vをステップ状に上昇させる。
図6の縦軸に示されたV1~V4までの符号は、各ステップでの設定速度を表す。試験装置2は、タイヤTrの走行を開始すると速度Vを設定速度V1まで上昇させる。時間t1で速度Vが設定速度V1に到達すると、試験装置2は時間t2まで速度Vを設定速度V1で保持する。時間tが時間t2になると、試験装置2は速度Vを設定速度V2まで上昇させる。時間t3で速度Vが設定速度V2に到達すると、試験装置2は時間t4まで速度Vを設定速度V2で保持する。
この予測方法では、工程S1において、タイヤTrの速度Vを所定速度に設定し、その速度で所定時間タイヤTrを走行させるステップを複数回繰り返すことで、タイヤTrの速度Vは段階的に上げられる。例えば、タイヤTrにバーストが生じるなどして、タイヤTrが走行を維持できなくなるまで、このステップは繰り返される。なお、最初のステップでの設定速度V1は、タイヤの速度記号で表される最高速度から100km/h差し引いた速度に設定される。さらに、一のステップからその次のステップへの移行に要する時間は1分以内に設定される。
【0045】
図6において両矢印hで示される時間範囲は、一のステップにおいてタイヤTrが設定速度で走行する時間(以下、走行時間h)である。両矢印ΔVで示される速度範囲は、一のステップの次のステップにおけるタイヤTrの設定速度と、一のステップにおけるタイヤTrの設定速度との差(以下、速度上昇分ΔV)である。
図6において符号tbで示される時間は、タイヤTrにバーストが生じ、タイヤTrが走行を維持できなくなった時間である。両矢印hbで示される時間範囲は、タイヤTrが速度V4で走行していた時間である。
【0046】
タイヤTrが破壊するまでの走行時間に、速度Vを次の設定速度に到達させるために要する時間(例えば、速度Vを設定速度V1から設定速度V2まで上昇させるために要した時間)は含まれないとした場合、
図6に示された速度プロファイルがタイヤTrの走行試験の結果であれば、タイヤTrが破壊するまでの走行時間は、設定速度V1での走行時間h、設定速度V2での走行時間h、設定速度V3での走行時間h、そして設定速度V4での走行時間hbとの合計(3h+hb)で表される。つまり、この走行試験の結果は、タイヤTrが破壊した速度Vは設定速度V4、タイヤTrが破壊するまでの走行時間は3h+hbとして表される。
本発明においては、走行試験により得られる、タイヤが破壊した速度、そしてタイヤが破壊するまでの走行時間は、タイヤの耐久性能を表す性能指標値である。
この予測方法では。性能指標値は制御部8に記憶される。
【0047】
この工程S1では、タイヤTrの実形状が測定される。前述したように、測定手段24としての2台のカメラ24cにストロボスコープ26を併用し、ステレオ法でタイヤTrの外面が撮影される。撮影した映像を解析することで、タイヤTrの実形状を表す情報が得られる。この撮影した映像を解析は、例えば制御部8において行われる。解析により得た、タイヤTrの実形状を表す情報は、例えば制御部8に記憶される。
【0048】
この工程S1では、タイヤTrの実形状を測定するために、タイヤTrの外面に、スプレー等によって塗料を散布し、塗料からなる複数の飛沫点が予め作成される。撮影した映像において、飛沫点を座標点として認識し、映像を解析することで、タイヤ全周にわたる三次元座標系の外面形状の情報が取得される。取得した三次元座標系の外面形状において、例えば、任意の位置にて測定点を抽出し、それらをつなぎ合わせることで、その位置におけるタイヤ1周分の実形状が得られる。特定位置の1回転分の位置情報をつなぎ合わせることで、タイヤ1周分の実形状が表されてもよい。
【0049】
前述したように、内圧調整後、タイヤTrを装着したリムRが走行部4のタイヤ軸20に取り付けられる。その後、タイヤTrを路面16に押し当て、タイヤTrに荷重がかけられる。
この工程S1では、タイヤTrを路面16に押し当てる前に、タイヤTrの実形状が測定される。本発明においては、タイヤTrを路面16に押し当てる前に測定される実形状が、停止しているタイヤTrの実形状である。そして、走行試験の各ステップにおいて、タイヤTrの実形状が測定される。本発明においては、走行試験で測定される実形状が、転動しているタイヤTrの実形状である。
【0050】
図7は、スタンディングウェーブ現象が発生したステップにおける、タイヤTrの実形状の測定結果の一例を示す。符号ARで示される位置は、タイヤTrの回転軸の軸芯である。この軸芯ARは、試験装置2におけるタイヤ軸20の軸芯に一致する。
図7に示された実形状は、軸心ARを中心に矢印RDで示される方向に回転するタイヤTrの側面の形状である。
【0051】
図7においては、0(ゼロ)度で示される位置を基準位置とし、タイヤ各部の位置が角度θで表される。例えば、角度θが90度を示す位置は、位相90度と呼ばれる。角度θが30度を示す位置から60度を示す位置までの部分は、位相30度から位相60度までの範囲とも呼ばれる。
【0052】
図7において、符号Bで示される部分は膨らみとして検出された部分である。符号Kで示される部分は窪みとして検出された部分である。
【0053】
膨らみBは、基準位置、すなわち、路面16に接地している部分において確認される。この部分では、タイヤTrは路面16に押し当てられる。タイヤTrのサイド部が外向きに突出するように変形するので、この部分は膨らみBとして検出される。
【0054】
位相15度から位相180度までの範囲に、周方向に点在する窪みKが確認される。前述したように、スタンディングウェーブ現象が生じるとタイヤTは波状に変形する。
図1に示されるように、波状の変形はタイヤTが路面から離れた後に現れる。
図7において位相15度から位相180度までの範囲は、タイヤTrが路面16から離れた後の部分に対応する。位相15度から位相180度までの範囲に確認される周方向に点在する窪みKは、スタンディングウェーブ現象の兆候である。
【0055】
この予測方法では、同じ仕様を有する複数本のタイヤTrが準備される。例えば、それぞれのタイヤTrの内圧は、異なる内圧に調整される。この場合、異なる内圧を有する複数本の参照タイヤTrが準備される。それぞれのタイヤTrに対して走行試験が行われる。そして、走行試験の各ステップにおいて、
図7に示されるような、転動しているタイヤTrの実形状が測定される。
【0056】
この予測方法では、同じ内圧を有する複数本の参照タイヤTrを準備し、タイヤTrに作用させる荷重を変えて、それぞれのタイヤTrに対して走行試験を行い、走行試験の各ステップにおいて、転動しているタイヤTrの実形状が測定されてもよい。同じ内圧を有する複数本の参照タイヤTrを準備し、キャンバー角を変えて、それぞれのタイヤTrに対して走行試験を行い、走行試験の各ステップにおいて、転動しているタイヤTrの実形状が測定されてもよい。同じ内圧を有する複数本の参照タイヤTrを準備し、スリップ角を変えて、それぞれのタイヤTrに対して走行試験を行い、走行試験の各ステップにおいて、転動しているタイヤTrの実形状が測定されてもよい。タイヤTrの走行条件は、耐久性能を予測すべきタイヤの走行状態を考慮して適宜決められる。
【0057】
[工程S2]
工程S2は、転動によるタイヤTrの実形状変化を表す変位プロファイルを取得する。この工程S2では、転動によるタイヤTrの実形状の変化として、転動しているタイヤTrの実形状と停止しているタイヤTrの実形状との差で表される、変位プロファイルが取得される。この変位プロファイルの取得は、例えば制御部8において行われる。
【0058】
図8は、工程S2において取得される変位プロファイルの一例を示すグラフである。グラフの横軸はタイヤTrの位相を表し、縦軸は変位量を表す。この変位プロファイルは、タイヤが路面を転動することにより生じるタイヤの実形状変化を表す。
この
図8の変位プロファイルを得たタイヤのタイヤサイズは、205/65R16 95Hであり、この変位プロファイルを得たステップの走行条件は次の通りである。
リムサイズ:16×6.0
内圧:280kPa
キャンバー角:0度
スリップ角:0度
荷重:正規荷重の80%
速度:210km/h
【0059】
前述したように、工程S1では、停止しているタイヤTrの実形状と、転動しているタイヤTrの実形状とが測定される。この変位プロファイルは、転動しているタイヤTrの実形状と停止しているタイヤTrの実形状との差を計算することで得られる。変位量が0(ゼロ)mmの位置が、停止しているタイヤTrの実形状に対応する。
【0060】
前述の工程S1において、例えば、
図7に示されるような、タイヤTrの実形状が測定される。この工程S2では、例えば、
図8に示されるような、変位プロファイルを取得するために、測定によって得た、タイヤTrの実形状に関する情報から、特定位置におけるタイヤ1周分の実形状に関する情報が抽出される。
図7において、符号PWで示される位置は、正規状態においてタイヤTrが最大幅を示す位置に対応する。
図8には、タイヤTrの最大幅位置PWにおけるタイヤ1周分の実形状に基づいて取得された変位プロファイルが示される。
【0061】
図8に示されるように、
図7に示された、位相0度の位置での膨らみBと、位相15度から位相180度までの範囲において点在する窪みKとが、変位プロファイルに反映されている。この予測方法は、走行によるタイヤTの変形を変位プロファイルとして取得することで、スタンディングウェーブ現象の兆候を捉えることができる。
【0062】
タイヤのサイド部において転動によるタイヤ軸方向の変動幅が大きい位置は、タイヤの最大幅位置である。そのため、この実施形態では、変位プロファイルの取得のために、タイヤTrの最大幅位置PWにおけるタイヤ1周分の実形状が抽出されている。しかし、この予測方法では、変位プロファイル取得のために用いられる実形状は、タイヤTrの最大幅位置PWにおけるタイヤ1周分の実形状に限られない。タイヤTrのビード部におけるタイヤ1周分の実形状が用いられてもよいし、タイヤTrのバットレスにおけるタイヤ1周分の実形状が用いられてもよい。予測対象のタイヤの耐久性能に影響する損傷の発生位置等を考慮して、変位プロファイル取得のために用いられる実形状に関する情報の抽出位置が選択される。
【0063】
前述したように、工程S1において、異なる内圧を有する複数本の参照タイヤTrが準備されている。それぞれのタイヤTrについて、工程S2が実行され、転動によるタイヤTrの実形状変化を表す変位プロファイルが取得される。
【0064】
[工程S3]
工程S3は、高速フーリエ変換により、工程S2において取得した変位プロファイルを解析する。この工程S3では、高速フーリエ変換によって、変位プロファイルの1次からN次(Nは2以上の整数)までの次数成分の変位量が算出される。この変位プロファイルの解析は、例えば制御部8において行われる。
【0065】
図9は、変位プロファイルを高速フーリエ変換して得られる1次の次数成分(以下、1次成分)の変位プロファイルのイメージを示す。
図9において、符号Mx1は1次成分の最大値を示し、符号Mn1は1次成分の最小値を示す。両矢印D1で示される長さが1次成分の変位量である。変位量D1は最大値Mx1と最小値Mn1との差で表される。
本発明においては、次数成分の変位量とは、変位プロファイルを高速フーリエ変換して得られる、各次数成分の最大値と最小値との差で表される、変位の幅を意味する。
【0066】
図10は、変位プロファイルを高速フーリエ変換して得られる各次数成分の変位量を示すグラフである。グラフの横軸が次数を表し、縦軸が変位量を表す。
前述したように、工程S1は、タイヤTrの速度Vを段階的に上げながら、タイヤTrの実形状を測定する。この
図10には、変位プロファイルの高速フーリエ変換による解析結果の例として、実形状を測定する際の速度が異なる、3つの変位プロファイルの解析結果が示される。
【0067】
図10に示された解析結果を得るために、以下に示す状態に調整されたタイヤ(タイヤサイズ:205/65R16 95H)について、速度を段階的に上げながら測定した実形状の変位プロファイルが用いられている。
リムサイズ:16×6.0
内圧:280kPa
キャンバー角:0度
スリップ角:0度
荷重:正規荷重の80%
【0068】
図10において符号Lで示される解析結果は、3つの解析結果の中で最も遅い速度(110km/h)で測定した実形状に基づく解析結果である。符号Hで示される解析結果は、3つの解析結果の中で最も速い速度(210km/h)で測定した実形状に基づく解析結果である。符号Mで示される解析結果は、解析結果Lの速度よりも速く、解析結果Hの速度よりも遅い速度(190km/h)で測定した実形状に基づく解析結果である。
図10に示されるように、最も遅い速度の変位プロファイルの解析結果である、解析結果Lは、次数が高くなるほど変位量が単調に減少する傾向を示す。2番目に速い速度の変位プロファイルの解析結果である、解析結果Mには、5次以降の次数成分において、解析結果Lでは確認されなかった、変位量の高まりが確認される。最も速い速度の変位プロファイルの解析結果である、解析結果Hには、解析結果Mと同様、5次以降の次数成分において変位量の高まりが確認されるとともに、13次成分に変位量のピークが認められる。
【0069】
タイヤの速度が速まるとやがて、スタンディングウェーブ現象の兆候がタイヤに現れる。タイヤは波状に変形するが、タイヤの速度が速まるほど、タイヤの変形は強くなる。
実形状の測定において、解析結果Lを得たステップではスタンディングウェーブ現象の兆候は確認されなかったものの、解析結果Mを得たステップでは、スタンディングウェーブ現象の兆候である波状の変形が確認されている。解析結果Hを得たステップでは、解析結果Mを得たステップに比べて、スタンディングウェーブ現象の兆候による波状の変形が強く表れていることが確認されている。
つまり、
図10に示された解析結果は、走行によるタイヤの変形を変位プロファイルとして取得し、これを、高速フーリエ変換によって解析することで、スタンディングウェーブ現象の兆候を捉えることができ、その兆候を変位量として把握できることを示す。
【0070】
ところで、
図10において、スタンディングウェーブ現象の兆候が認められる解析結果M及びHと、スタンディングウェーブ現象の兆候が認められない解析結果Lとを対比すると、5次以降の次数成分において、両者の変位量に違いが生じることが確認される。
図10において両矢印Dfで示される長さは、スタンディングウェーブ現象の兆候が認められない解析結果(この
図10においては解析結果L)からの乖離の長さを表す。
本発明においては、スタンディングウェーブ現象の兆候が認められない解析結果からの乖離が確認される次数成分のうち、最も低い次数成分(以下、基準次数成分)における乖離長さDfが0.2mm以上である場合、この基準次数成分の次数よりも一つ小さい次数成分以降の変位量が、スタンディングウェーブ現象の兆候による変位が反映された変位量として扱われる。基準次数成分における乖離長さDfが0.2mm未満である場合は、基準次数成分よりも高次数側において、乖離長さDfが0.2mm以上を示す次数成分よりも一つ小さい次数成分以降の変位量が、スタンディングウェーブ現象の兆候による変位が反映された変位量として扱われる。
図10に示された解析結果M又はHにおいては、解析結果Lからの乖離は、6次以降の次数成分で確認され、この6次成分における乖離長さDfは0.2mm以上である。したがって、基準次数成分である6次成分よりも1つ小さい次数成分である5次成分以降の変位量が、スタンディングウェーブ現象の兆候による変位が反映された変位量として扱われる。なお、次数成分の変位量がスタンディングウェーブ現象の兆候による変位が反映された変位量であるかの判断は、正規内圧の1.1倍以上に内圧を調整したタイヤにおいて確認されるのが好ましい。
【0071】
詳述しないが、解析結果Hのように、変位量のピークが認められる解析結果では、その2倍の次数成分において変位量の増大が認められることが確認されている。この点が考慮され、工程S3においては、変位量のピークが認められた次数成分の2倍の次数成分までが、変位量算出の対象次数成分である。
【0072】
図10に示されるように、解析結果M及びHは、18次以降の次数において、スタンディングウェーブ現象の兆候が認められない解析結果Lに収束している。この
図10に示された結果を参考にして、以降の解析結果に関する説明では、特に言及がない限り、5次以上20次以下の次数範囲における変位量が、スタンディングウェーブ現象の兆候による実形状の変化を反映する変位量として扱われる。
【0073】
前述したように、この予測方法では、工程S1において準備された、複数本の参照タイヤTrそれぞれについて工程S2が実行され、転動によるタイヤTrの実形状変化を表す変位プロファイルが取得されている。この予測方法では、工程S2において取得した変位プロファイルに対して工程S3が実行され、変位プロファイルを構成する各次数成分の変位量が算出される。そして、変位量を算出した変位プロファイルの一部を用いて、次の工程S4が実行される。
【0074】
[工程S4]
工程S4は、定量指標値と性能指標値との相関を取得する。具体的には、この工程S4では、スタンディングウェーブ現象の兆候による実形状の変化を反映する次数成分の変位量の総和の逆数を定量指標値として求め、タイヤTrの耐久性能を表す性能指標値と定量指標値との相関が取得される。定量指標値の算出、そして性能指標値と定量指標値との相関の取得は、例えば制御部8において行われる。性能指標値と定量指標値との相関の取得では、制御部8において算出された定量指標値と、制御部8に記憶されている性能指標値とが用いられる。
【0075】
図11は、内圧が異なる4本の参照タイヤTrの実形状の変位プロファイルを構成する各次数成分の変位量の算出結果を示す。この
図11は、変位プロファイルを高速フーリエ変換して得られる各次数成分の変位量を示すグラフである。グラフの横軸が次数を表し、縦軸が変位量を表す。両矢印SCで示される範囲が、この
図11に示される解析結果において、スタンディングウェーブ現象の兆候による実形状の変化を反映する変位量として扱われる範囲である。
【0076】
図11には4つの解析結果が示されるが、そのうち、符号P1で示される解析結果は、最も低い圧力(220kPa)に内圧を調整したタイヤTrの実形状に基づく解析結果である。符号P2で示される解析結果は、解析結果P1のタイヤTrの内圧よりも高い内圧(250kPa)を有するタイヤTrの実形状に基づく解析結果である。符号P3で示される解析結果は、解析結果P2のタイヤTrの内圧よりも高い内圧(280kPa)を有するタイヤTrの実形状に基づく解析結果である。符号P4で示される解析結果は、解析結果P3のタイヤTrの内圧よりも高い内圧(310kPa)、言い換えれば、最も高い圧力に内圧を有するタイヤTrの実形状に基づく解析結果である。
【0077】
図11に示された解析結果を得るために、内圧以外は、以下に示す状態に調整されたタイヤ(タイヤサイズ:205/65R16 95H)について、速度を段階的に上げながら測定した実形状の変位プロファイルが用いられている。
図11に示された解析結果は、タイヤTrの速度記号(この場合は、H)により表される速度を設定速度とするステップで得た変位プロファイルの解析結果である。
リムサイズ:16×6.0
キャンバー角:0度
スリップ角:0度
荷重:正規荷重の80%
【0078】
工程S4では、定量指標値を得るために、スタンディングウェーブ現象による実形状の変化を反映する次数成分の変位量の総和が求められる。下記の表1には、
図11に示された、4つの解析結果から得られる、変位量の総和が、工程S1において確認された、タイヤTrの耐久性能を表す性能指標値としての、タイヤTrが破壊するまでの走行時間とともに示される。この表1に示された変位量の総和は、
図11において両矢印SCで示される次数範囲、すなわち、5次以上20次以下の次数範囲に含まれる各次数成分の変位量の合計である。
【0079】
【0080】
前述したように、工程S4では、変位量の総和の逆数で表される定量指標値が求められ、定量指標値と性能指数値との相関が取得される。
図12は、前述の表1に示された変位量の総和及び走行時間により把握される、定量指標値と性能指標値との相関を示すグラフである。グラフの横軸は定量指標値を表し、縦軸は性能指標値としての走行時間を表す。
符号AP1で示されるプロットは、解析結果P1に基づく定量指標値と性能指標値との相関を示す。符号AP2で示されるプロットは、解析結果P2に基づく定量指標値と性能指標値との相関を示す。符号AP3で示されるプロットは、解析結果P3に基づく定量指標値と性能指標値との相関を示す。符号AP4で示されるプロットは、解析結果P4に基づく定量指標値と性能指標値との相関を示す。
この
図12に示されるように、定量指標値と性能指標値との相関は一次関数で近似できる。このことは、工程S3において変位プロファイルを高速フーリエ変換で解析することで得られる変位量を基礎とする定量指標値は、性能指標値と相関することを示す。したがって、耐久性能の予測対象の対象タイヤTtの定量指標値を把握できれば、
図12に示された相関関係を用いることで、対象タイヤTtの性能指標値の把握が可能である。
【0081】
本発明において定量指標値と性能指標値と相関を表す関係式は、最小二乗法により求められる。相関係数が1に近い関係式によって、両者の相関は表される。後述する、仮想定量指標値と性能指標値との相関を表す関係式、そして仮想定量指標値と定量指標値との相関を表す関係式も同様にして得られる。
【0082】
[工程S5]
工程S5は、シミュレーションにより参照タイヤTrの仮想定量指標値を見積もり、仮想定量指標値と定量指標値との相関を取得する。つまり、この工程S5では、タイヤTrの転動をシュミレーションして、工程S4で得た定量指標値に対応する仮想定量指標値を見積もり、この仮想定量指標値と定量指標値との相関が取得される。
【0083】
詳述しないが、路面を転動することでタイヤに生じる歪みは、例えば、有限要素法(Finite Element Method(FEM))により計算できる。そこで、本発明者らは、工程S1で実行する走行試験と同様にタイヤを転動させた場合に、タイヤ最大幅位置PWに生じるタイヤ1周分の歪みプロファイルをFEMにより計算し、この歪みプロファイルを、タイヤTrの最大幅位置PWにおけるタイヤ1周分の実形状に基づいて取得された変位プロファイルに置き換えて、前述の工程S3及び工程S4で示した処理を試みている。その結果が、以下に示される。
【0084】
図13は、タイヤTrの転動をシュミレーションして得た、内圧が異なる4本の参照タイヤTrの歪みプロファイルを高速フーリエ変換して得られる各次数成分の変位量を示すグラフである。グラフの横軸が次数を表し、縦軸が変位量を表す。なお、この
図13に示される解析結果の基礎である歪みプロファイルを得るために設定される、タイヤサイズ等の条件には、
図11に示された解析結果を得るために実施された走行試験の内容が反映されている。
【0085】
図13には4つの解析結果が示されるが、そのうち、符号YP1で示される解析結果は、最も低い圧力(220kPa)に内圧を設定した場合の解析結果である。符号YP2で示される解析結果は、解析結果YP1を得るために設定した内圧よりも高い内圧(250kPa)に設定した場合の解析結果である。符号YP3で示される解析結果は、解析結果YP2を得るために設定した内圧よりも高い内圧(280kPa)に設定した場合の解析結果である。符号YP4で示される解析結果は、解析結果YP3を得るために設定した内圧よりも高い内圧(310kPa)、言い換えれば、最も高い内圧に設定した場合の解析結果である。
【0086】
工程S5では、例えば、
図13に示された解析結果に対して前述の工程S4で示した処理を行うことで、シミュレーションにより参照タイヤTrの仮想定量指標値が見積もられる。そのために、歪みプロファイルを高速フーリエ変換することで得られる次数成分の変位量の総和が求められる。変位量の総和を求める際の、次数成分の対象範囲には、工程S4で設定された次数成分の範囲が適用される。
【0087】
下記の表2には、
図13に示された、4つの解析結果から得られる、変位量の総和が、工程S1において確認された、タイヤTrの耐久性能を表す性能指標値としての、タイヤTrが破壊するまでの走行時間とともに示される。この表2に示された変位量の総和は、表1に示された変位量の総和と同様、5次以上20次以下の次数範囲(
図13において、両矢印YSCで示される範囲)に含まれる各次数成分の変位量の合計で表される。
【0088】
【0089】
工程S5では、さらに、変位量の総和の逆数で表される仮想定量指標値が求められ、仮想定量指標値と性能指数値との相関が取得される。
図14は、前述の表2に示された変位量の総和及び走行時間により把握される、仮想定量指標値と性能指標値との相関を示すグラフである。グラフの横軸は仮想定量指標値を表し、縦軸は性能指標値としての走行時間を表す。
符号VP1で示されるプロットは、解析結果YP1に基づく仮想定量指標値と性能指標値との相関を示す。符号VP2で示されるプロットは、解析結果YP2に基づく仮想定量指標値と性能指標値との相関を示す。符号VP3で示されるプロットは、解析結果YP3に基づく仮想定量指標値と性能指標値との相関を示す。符号VP4で示されるプロットは、解析結果YP4に基づく仮想定量指標値と性能指標値との相関を示す。
この
図14に示されるように、仮想定量指標値と性能指標値との相関は、前述の定量指標値と性能指標値との相関と同様、一次関数で近似できる。参照タイヤTrの転動をシュミレーションして見積もった仮想定量指標値も、性能指標値と相関している。
【0090】
図15は、工程S5で見積もった仮想定量指標値と、工程S4で求められる定量指標値との相関を示すグラフである。グラフの横軸は仮想定量指標値を表し、縦軸は定量指標値を表す。
符号C1で示されるプロットは、解析結果YP1に基づく仮想定量指標値と解析結果P1に基づく定量指標値との相関を示す。符号C2で示されるプロットは、解析結果YP2に基づく仮想定量指標値と解析結果P2に基づく定量指標値との相関を示す。符号C3で示されるプロットは、解析結果YP3に基づく仮想定量指標値と解析結果P3に基づく定量指標値との相関を示す。符号C4で示されるプロットは、解析結果YP4に基づく仮想定量指標値と解析結果P4に基づく定量指標値との相関を示す。
【0091】
この
図15に示されるように、仮想定量指標値と定量指標値との相関は一次関数で近似できる。参照タイヤTrの転動をシュミレーションして見積もった仮想定量指標値は、実際の走行試験により得られる性能指標値と相関している。このことは、タイヤの実形状変化を表す変位プロファイルを高速フーリエ変換して得られる変位量は、タイヤの転動をシミュレーションすることによって見積もることができることを示す。言い換えれば、このことは、予測対象の対象タイヤTtの転動をシュミレーションして、仮想定量指標値に対応する予測定量指標値を見積もることで、破壊を伴うことなく、対象タイヤTtの耐久性能を予測することができることを意味する。つまり、この予測方法を用いることで、タイヤの破壊を伴うことなく、タイヤにバーストが生じる速度や、タイヤがバーストに至るまでの走行時間の予測が可能である。この予測方法は、タイヤを破壊することなくタイヤの耐久性能を予測できる。
【0092】
この予測方法では、工程S5の仮想定量指標値や、予測対象タイヤの予測定量指標値を見積もる場合、タイヤの転動状態がシミュレーションされるが、タイヤの転動解析で用いられる、定常輸送解析(STEADY STATE TRANSPORT;SST)の様な手法が用いられ、仮想定量指標値や予測定量指標値を得るための変位プロファイルが準備されてもよい。
【0093】
前述したように、工程S1において行われる走行試験に設定される速度プロファイルでは、一のステップにおいてタイヤTrが設定速度で走行する時間、すなわち走行時間hが設定される。
タイヤの耐久性能を正確に予測できる観点から、工程S1において設定される走行時間hは30秒以上であるのが好ましい。タイヤの耐久性能を効率よく予測できる観点から、この走行時間hは60分以下であるのが好ましい。
【0094】
前述の速度プロファイルにおいては、一のステップの次のステップにおけるタイヤTrの設定速度と、一のステップにおけるタイヤTrの設定速度との差、すなわち、速度上昇分ΔVが設定される。
タイヤの耐久性能を効率よく予測できる観点から、工程S1において設定される速度上昇分ΔVは5km/h以上であるのが好ましい。タイヤの耐久性能を正確に予測できる観点から、この速度上昇分ΔVは10km/h以下であるのが好ましい。
【0095】
タイヤの耐久性能を効率よくしかも正確に予測できる観点から、走行時間hが30秒以上60分以下であり、速度上昇分ΔVが5km/h以上10km/h以下であるのがより好ましい。
【0096】
例えば、
図11に示されるように、定量指標値を求めるために使用した解析結果はいずれも、10次から15次までの次数範囲に変位量のピークが確認される。前述したように、この
図11の解析結果に基づいて得られる定量指標値は、性能指標値と相関する。タイヤの耐久性能の予測精度を高めることができる観点から、定量指標値は、次数成分と変位量との関係において、10次成分から15次成分までの次数成分にピークとなる次数成分を含む変位プロファイルにおいて求められるのが好ましい。この場合、定量指標値が、ピークとなる次数成分を中心とする±7次成分の範囲にある次数成分の変位量の総和の逆数で表されるのがより好ましい。
【0097】
前述したように、
図11に示された解析結果は、タイヤTrの速度記号により表される速度を設定速度とするステップで得た変位プロファイルの解析結果である。この
図11の解析結果に基づいて得られる定量指標値は、性能指標値と相関する。タイヤの耐久性能の予測精度を高めることができる観点から、タイヤTrの速度記号により表される速度を設定速度とするステップで得た変位プロファイルを用いて、前述の工程S4は行われるのがより好ましい。
【0098】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、タイヤを破壊することなくタイヤの耐久性能を予測できる、タイヤの耐久性能の予測方法が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明された、タイヤの耐久性能の予測方法は、種々のタイヤにも適用できる。
【符号の説明】
【0100】
2・・・試験装置
4・・・走行部
6・・・測定部
8・・・制御部
10・・・ドラム
12・・・駆動ユニット
14・・・接地ユニット
16・・・路面
18・・・中心軸
20・・・タイヤ軸
22・・・支持部
24・・・測定手段
24c・・・カメラ
26・・・ストロボスコープ
28・・・演算部
30・・・記憶部
32・・・作業用メモリ