(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168880
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】圧電材料および圧電デバイス
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20241128BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20241128BHJP
H10N 30/80 20230101ALI20241128BHJP
H10N 30/85 20230101ALI20241128BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20241128BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20241128BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20241128BHJP
H10N 30/01 20230101ALI20241128BHJP
H10N 30/40 20230101ALI20241128BHJP
C30B 29/16 20060101ALI20241128BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/20
H10N30/80
H10N30/85
H10N30/30
H10N30/88
H10N30/076
H10N30/01
H10N30/40
C30B29/16
C23C14/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085908
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神野 伊策
(72)【発明者】
【氏名】足立 秀明
(72)【発明者】
【氏名】田中 清高
【テーマコード(参考)】
4G077
4K029
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB06
4G077BB07
4G077DA11
4G077GA07
4G077HA11
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA49
4K029CA06
4K029DC05
4K029DC16
4K029EA01
(57)【要約】
【課題】酸化亜鉛中の亜鉛を、希土類元素とマンガンとで所定の置換量の範囲で共置換することにより、圧電特性(特に圧電定数d
33)を向上させる。
【解決手段】圧電材料は、主成分として、亜鉛、希土類、およびマンガンを含み、亜鉛をZn、希土類をR、マンガンをMnとして、Zn
1-x(R
0.5+δMn
0.5-δ)
xOで表されるウルツ鉱型酸化物を有する。希土類は、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素である。置換量xは、0.04以上0.15以下の値である。不定量δは、絶対値で0.1以下の値である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として、亜鉛、希土類、およびマンガンを含み、亜鉛をZn、希土類をR、マンガンをMnとして、Zn1-x(R0.5+δMn0.5-δ)xOで表されるウルツ鉱型酸化物を有し、
前記希土類は、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、
置換量xは、0.04以上0.15以下の値であり、
不定量δは、絶対値で0.1以下の値である、圧電材料。
【請求項2】
c軸に沿った縦方向の圧電定数d33が、15pC/N以上である、請求項1に記載の圧電材料。
【請求項3】
置換量xは、0.08以上0.11以下の値である、請求項1に記載の圧電材料。
【請求項4】
c軸に沿った縦方向の圧電定数d33が、18pC/N以上である、請求項3に記載の圧電材料。
【請求項5】
前記希土類が、セリウムである、請求項1に記載の圧電材料。
【請求項6】
膜厚が、0.1μm以上10μm以下である、請求項1に記載の圧電材料。
【請求項7】
前記ウルツ鉱型酸化物を複数層有し、
各層における前記置換量xは、互いに異なる、請求項1に記載の圧電材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の圧電材料と、
前記圧電材料を挟む一対の電極と、
前記圧電材料を、一方の前記電極を介して支持する基板と、を備える圧電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料および圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化亜鉛(ZnO)系のウルツ鉱型酸化物において、希土類元素およびマンガンを含む群から選択される少なくとも1種の元素をドープし得ることが知られている(例えば特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-9384号公報
【特許文献2】特開2013-103843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1および2では、圧電特性(特に圧電定数d33)を向上させるために、酸化亜鉛中の亜鉛を、希土類元素とマンガンとで共置換すること、および圧電特性を向上し得る置換量の範囲については一切検討されていない。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、酸化亜鉛中の亜鉛を、希土類元素とマンガンとで共置換するとともに、共置換するときの置換量の範囲を適切に規定することにより、圧電特性(特に圧電定数d33)を向上させることができる圧電材料と、その圧電材料を備える圧電デバイスとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る圧電材料は、主成分として、亜鉛、希土類、およびマンガンを含み、亜鉛をZn、希土類をR、マンガンをMnとして、Zn1-x(R0.5+δMn0.5-δ)xOで表されるウルツ鉱型酸化物を有し、前記希土類は、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、置換量xは、0.04以上0.15以下の値であり、不定量δは、絶対値で0.1以下の値である。
【0007】
本発明の他の側面に係る圧電デバイスは、上記の圧電材料と、前記圧電材料を挟む一対の電極と、前記圧電材料を、一方の前記電極を介して支持する基板と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸化亜鉛中の亜鉛を、希土類元素とマンガンとで所定の置換量の範囲で共置換することにより、圧電特性(特に圧電定数d33)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ノンドープ酸化亜鉛の結晶構造を模式的に示す説明図である。
【
図2】本発明の実施の一形態に係る圧電材料に含まれるウルツ鉱型酸化物の結晶構造を模式的に示す説明図である。
【
図3】上記圧電材料を含む圧電デバイスの一例であるBAWフィルタの概略の構成を示す断面図である。
【
図4】上記BAWフィルタの他の構成を示す断面図である。
【
図5】実施例および比較例の各薄膜の圧電性能を示す説明図である。
【
図6】実施例の代表的なXRD回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
〔1.圧電材料について〕
図1は、本実施形態の圧電材料の前提となるノンドープ酸化亜鉛(以下、酸化亜鉛はZnOとも称する)の結晶構造を模式的に示す説明図である。ノンドープZnOは、六方晶の単位格子を持つウルツ鉱型の結晶構造を有する。この結晶構造では、亜鉛イオン(Zn
2+)からなるZn層と、酸素イオン(O
2-)からなるO層とがc軸方向に交互に積層される。O層は、その上下にある2枚のZn層から等距離の位置よりも、c軸方向にずれた位置に配置される。上記の結晶構造では、外部電界が印加されなくても、c軸に平行な方向に分極ベクトルが生じる。
【0012】
本実施形態の圧電材料は、主成分として、亜鉛、希土類、およびマンガンを含むウルツ鉱型酸化物を有する。ここで、「主成分として、亜鉛、希土類、およびマンガンを含むウルツ鉱型酸化物」とは、本実施形態のウルツ鉱型酸化物が、亜鉛、希土類、マンガン以外の成分(不純物)を含んでいてもよいことを意味する。
【0013】
図2は、本実施形態のウルツ鉱型酸化物の結晶構造を模式的に示す説明図である。本実施形態のウルツ鉱型酸化物は、亜鉛をZn、希土類をR、マンガンをMnとして、
Zn
1-x(R
0.5+δMn
0.5-δ)
xO ・・・(1)
で表される。すなわち、本実施形態のウルツ鉱型酸化物は、
図1で示したZnOの結晶構造の一部のZn
2+をRで置換すると同時に、他のZn
2+をMnで置換した構造を有する。このように、一部の元素を複数種類の元素で同時に置換することを「共置換」と言う。なお、式(1)は、Znと(R+Mn)との原子濃度の比が(1-x):xであり、RとMnとの原子濃度の比が(0.5+δ):(0.5-δ)であることを示す。なお、原子濃度の比は、モル比と読み替えることもできる。
【0014】
ここで、希土類(R)は、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素である。希土類元素は、具体的には、スカンジウム(Sc)およびイットリウム(Y)の2元素と、ランタノイド系の15元素との合計17元素を指す。ランタノイド系の15元素は、具体的には、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、およびルテチウム(Lu)である。希土類(R)は、上記の17元素の中から選ばれる1種類の元素であってもよいし、複数の元素であってもよい。
【0015】
上記の式(1)中のxは、Zn2+をRおよびMnの各イオンで共置換するときの置換量を示す。言い換えれば、置換量xは、Znサイトの全元素に対する、RおよびMnのトータルの原子濃度の割合を示す。本実施形態では、後述する所望の圧電特性を実現する観点から、置換量xは、0.04以上0.15以下の値に設定される。
【0016】
上記の式(1)中のδは、後述する所望の圧電特性を実現するにあたって許容される、RおよびMnの原子濃度のバラツキの範囲(不定量)を示す。不定量δは、具体的には、絶対値で0.1以下の値に設定される。つまり、-0.1≦δ≦0.1である。
【0017】
上記したMnは、価数として、2価~7価のいずれかの値を取り得る。したがって、
図2において、Mnの価数をmとすると、m=2~7のいずれかである。一方、希土類(R)の価数は主として3価が安定であるが、場合によっては2価を取ったり、Ceのようにさらに4価をも取り得る。したがって、
図2において、Rの価数をnとすると、n=2~4である。
【0018】
本実施形態のように、ZnOの結晶構造のZnサイトに含まれる一部のZn2+を、RおよびMnで共置換することにより、ノンドープZnOよりも、結晶構造の電荷バランスが大きく崩れて、分極が大きくなる。その結果、圧電特性(例えばc軸に沿った縦方向の圧電定数d33)を向上させることができる。
【0019】
例えば、ノンドープZnOの圧電定数d33は、9~10pC/N程度であることが一般的に知られている。これに対して、式(1)で示すウルツ鉱型酸化物を有する本実施形態の圧電材料では、後述する実施例より、圧電定数d33として15pC/N以上が得られることが確認できている。
【0020】
特に、置換量xが0.04以上0.15以下の値であることにより、15pC/N以上の圧電定数d33を確実に実現することができる。また、不定量δが絶対値で0.1以下の値であるため、圧電材料の成膜時に成膜条件によってRおよびMnの原子濃度が目標濃度からずれた場合でも、そのズレ(バラツキ)を許容した上で、上記の圧電定数d33を実現することができる。
【0021】
また、本実施形態の圧電材料は、ZnOを主成分とした酸化物である。このため、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電材料に比べて、低い成膜温度で成膜可能であり、作製が容易である。また、上記酸化物は、大気などの酸素雰囲気での昇温下でも化学的に安定しているため、この点でも作製が容易である。
【0022】
より高い圧電定数d33を実現する観点では、置換量xは、0.08以上0.11以下の値であることが望ましい。置換量xが上記範囲内の値であれば、18pC/N以上の圧電定数d33を実現できることが、後述する実施例から確認できている。
【0023】
上記希土類は、Ceであることが望ましい。ランタノイド系の元素において、例えば3価のイオンを考えると、原子番号が大きくなるにつれて、イオン半径は小さくなることが一般的に知られている。ランタノイド系の元素の中で、原子番号が2番目に若いCeのイオン半径は1.01×10-10m程度であり、原子番号が最も若いLaのイオン半径は1.03×10-10m程度である。つまり、ランタノイド系の元素の中で、CeはLaに次いでイオン半径大きい。また、Ceは、上述のように、希土類元素の中でも4価を取り得る。このため、希土類(希土類元素)としてCeを用いることにより、結晶構造の電荷バランスを崩して分極を大きくすることが容易となる。その結果、圧電定数d33を容易に向上させることができる。
【0024】
圧電材料の膜厚は、0.1μm以上10μm以下であることが望ましい。このような膜厚範囲の圧電材料は、圧電デバイスへの応用に好適である。圧電デバイスとしては、例えばBAW(Bulk Acoustic Wave;バルク弾性波)フィルタなどの弾性波フィルタ(周波数フィルタ)を考えることができる。
【0025】
〔2.圧電デバイスについて〕
図3は、本実施形態の圧電デバイスの一例であるBAWフィルタ10の構成を示す断面図である。BAWフィルタ10は、基板1上に、下部電極2と、圧電薄膜3と、上部電極4と、をこの順で積層してなり、共振子(共振器)を構成している。
【0026】
基板1は、例えば単結晶Si(シリコン)単体からなる半導体基板で構成される。基板1には、空洞(キャビティ)1aが形成されている。これにより、基板1に束縛されずに圧電薄膜3が振動することが可能となる。下部電極2は、例えば白金(Pt)で構成されるが、Ptの代わりに、金(Au)、アルミニウム(Al)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)のような金属で構成されてもよい。上部電極4も、下部電極2と同様に、Pt、Auなどの金属で構成されるが、下部電極2とは異なる金属で構成されてもよい。
【0027】
圧電薄膜3は、
図3の例では、1つの層3aで構成される。層3aは、本実施形態で説明したウルツ鉱型酸化物を有する圧電材料で形成される。すなわち、上述した本実施形態の圧電材料は、圧電薄膜3に適用される。
【0028】
このように、圧電デバイスとしてのBAWフィルタ10は、上述した本実施形態の圧電材料(圧電薄膜3)と、上記圧電材料を挟む一対の電極(下部電極2および上部電極4)と、上記圧電材料を、一方の電極(下部電極2)を介して支持する基板1と、を備える。
【0029】
一対の電極により圧電薄膜3に高周波信号を与えると、圧電材料の自発分極の向きに応じて厚さ方向に伝搬する弾性波が励起される。そして、圧電薄膜3の膜厚および組成に応じた周波数で、厚み方向の振動(共振)が起こる。圧電薄膜3では、圧電材料が有する圧電効果により、機械的な振動が電気的な信号に変換される。つまり、圧電薄膜3を共振させることにより、特定の周波数範囲の信号を電気信号として取り出すことができる。
【0030】
例えば携帯電話またはスマートフォンなどのモバイルデバイスで通信を行う場合、アンテナで受信した電波の中から、必要な周波数の電波を取り出すことが必要となる。また、5Gと呼ばれる第5世代移動通信システムでは、3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯の周波数が使用される。本実施形態のBAWフィルタ10は、圧電薄膜3を薄くすることにより、共振周波数を上げて高周波の信号を取り出すことができる。したがって、本実施形態のBAWフィルタ10は、特に5Gの通信システムを利用するモバイルデバイスに好適となる。
【0031】
図4は、BAWフィルタ10の他の構成を示す断面図である。
図4のBAWフィルタ10は、複数の層3aを積層して圧電薄膜3を形成した以外は、
図3で示したBAWフィルタ10と同様の構成である。
図4では、層3aの数を2つとしているが、3つ以上であってもよい。各層3aは、本実施形態のウルツ鉱型酸化物で構成される。ここで、各層3aで置換量xが同じであれば、各層3aは全体として1つの層とみなせるため、
図4では、各層3aにおける置換量xは互いに異なるとする。例えば、後述する実施例1~4で示す4つの圧電材料の中からいずれか2つを選択し、各層3aとして積層することにより、
図4のBAWフィルタ10を構成することができる。なお、圧電薄膜3が3つ以上の層3aで構成される場合は、少なくとも2つの層3aの置換量xが異なっていればよい。
【0032】
このように、本実施形態の圧電薄膜3を構成する圧電材料は、本実施形態のウルツ鉱型酸化物を複数層有し(複数の層3aを有し)、各層における置換量xは、互いに異なる構成であってもよい。この場合、置換量xによって分極値や分極方位等の分極状態が各層毎に異なることになり、全体の圧電薄膜3の周波数に対して積層数の倍数で高周波化させた圧電デバイス(BAWフィルタ10)を実現することができる。また分極方位は、一部の層の分極のみを強電界で反転させて構成することも可能である。
【0033】
〔3.実施例〕
次に、本実施形態の圧電材料の具体的な実施例について説明する。
酸化亜鉛(ZnO)とマンガン酸セリウム(CeMnO3)の2個のターゲットを用いた2元スパッタ装置により、置換量xの異なるZn1-x(Ce,Mn)xO薄膜を、300℃に加熱したPt電極(下部電極)付きのSi基板上にスパッタ形成した。スパッタガスとしては、アルゴン(Ar)75%と酸素(O2)25%との混合ガスを用いた。成膜装置(真空チャンバ)内の気圧は、1Paとした。また、下部電極となるPtの厚み100nmに対して、Zn1-x(Ce,Mn)xO薄膜を300nmの厚みで成膜した。用いたSi基板の厚みは、525μmであった。
【0034】
また、ZnOターゲットの入力パワーは100Wとし、CeMnO
3ターゲットの入力パワーは、
図5に示す値とした。なお、置換量xは、CeMnO
3ターゲットの入力パワーを
図5のように変化させることによって調整した。
【0035】
図5に、実施例1~4および比較例1~2の各薄膜の圧電性能を上記置換量xとともに示す。なお、比較例1は、置換量xがゼロの薄膜(つまり、ノンドープZnO薄膜)であり、比較例2は、置換量xが0.17であるZn
1-x(Ce,Mn)
xO薄膜である。実施例1~4は、置換量xがそれぞれ、0.04、0.08、0.11、0.15であるZn
1-x(Ce,Mn)
xO薄膜である。薄膜の圧電性能(圧電定数d
33)については、薄膜の上部に厚み100nmのPt電極(上部電極)をスパッタによりさらに形成し、薄膜に厚み方向の応力を加えたときに発生する電荷を、上部電極を介して検出することによって評価した。
【0036】
成膜した薄膜の結晶構造は、X線回折(XRD:X-ray diffraction)の2θ/θ測定の結果より、ウルツ鉱型結晶構造のc軸配向膜であることを確認した。なお、実施例1~4および比較例1~2では、ほぼ同じようなXRD回折パターンが得られたため、代表として、実施例2の圧電薄膜のXRD回折パターンを
図6に示す。
図6より、実施例2の薄膜は、(002)軸、つまり、c軸に配向した圧電薄膜であることがわかる。これにより、他の実施例1等の圧電薄膜についても、
図6に準じてc軸配向膜であることが容易に理解できる。また、薄膜の化学組成については、エネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により、Zn
1-x(Ce,Mn)
xOの組成であることを確認した。
【0037】
図5の結果より、置換量xが0.04以上0.15以下の範囲では、圧電定数d
33が15pC/N以上であり(実施例1~4参照)、純粋なZnO薄膜(比較例1)よりも圧電定数d
33が1.6倍以上向上することが確認された。特に、置換量xが0.08以上0.11以下の範囲では、圧電定数d
33が18pC/N以上であり(実施例2~3参照)、純粋なZnO薄膜(比較例1)よりも圧電定数d
33が2倍以上向上することが確認された。
【0038】
また、ZnをCeとMnとで共置換するときの、CeとMnの基準の原子濃度の比を1:1としたとき、実施例1~4では、不定量δが絶対値で0.1以下であり(具体的には絶対値で0.01以上0.05以下)であり、CeとMnとが基準の原子濃度の比に近い比で薄膜中に存在していることがわかる。つまり、ZnをCeとMnとで共置換する場合でも、CeおよびMnの基準の原子濃度からのバラツキが小さい状態で、圧電性能が向上していることがわかる。
【0039】
〔4.補足〕
本実施形態および実施例では、Zn1-x(R,Mn)xOで表されるウルツ鉱型酸化物において、希土類(R)として、Ceを用いた例について説明したが、Ce以外の希土類元素を1種または2種以上用いて、MnとともにZnを共置換する場合でも、本実施形態と同様の効果が得られることが期待される。
【0040】
本実施形態および実施例では、ZnOを主成分とするウルツ鉱型酸化物において、リチウム(Li)の含有量はゼロである。本実施形態では、ウルツ鉱型酸化物がMnを含んでいるため、Liを含まなくても電気絶縁性を高めることができる。つまり、Liの代わりにMnを用いて電気絶縁性を高めつつ、圧電定数d33を向上させることができる。
【0041】
本実施形態では、Zn1-x(R,Mn)xOで表されるウルツ鉱型酸化物を適用可能な圧電デバイスとして、BAWフィルタ10を例に挙げて説明したが、本実施形態のウルツ鉱型酸化物は、SAW(surface acoustic wave;弾性表面波)フィルタにも適用可能である。
【0042】
本実施形態の圧電材料が適用される圧電デバイスは、BAWフィルタおよびSAWフィルタなどの周波数フィルタには限定されない。例えば、インクジェットヘッドのアクチュエータ(圧電アクチュエータ)、圧電センサ(振動センサ、ジャイロセンサ、超音波センサ)、赤外線センサ、不揮発性メモリなどにも、本実施形態で説明した圧電材料を適用することが可能である。
【0043】
〔5.付記〕
以上の本実施形態で説明した圧電材料および圧電デバイスは、以下のように表現することができる。
【0044】
付記(1)の圧電材料は、
主成分として、亜鉛、希土類、およびマンガンを含み、亜鉛をZn、希土類をR、マンガンをMnとして、Zn1-x(R0.5+δMn0.5-δ)xOで表されるウルツ鉱型酸化物を有し、
前記希土類は、希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、
置換量xは、0.04以上0.15以下の値であり、
不定量δは、絶対値で0.1以下の値である。
【0045】
付記(2)の圧電材料は、付記(1)に記載の圧電材料において、
c軸に沿った縦方向の圧電定数d33が、15pC/N以上である。
【0046】
付記(3)の圧電材料は、付記(1)または(2)に記載の圧電材料において、
置換量xは、0.08以上0.11以下の値である。
【0047】
付記(4)の圧電材料は、付記(3)に記載の圧電材料において、
c軸に沿った縦方向の圧電定数d33が、18pC/N以上である。
【0048】
付記(5)の圧電材料は、付記(1)から(4)のいずれかに記載の圧電材料において、
前記希土類が、セリウムである。
【0049】
付記(6)の圧電材料は、付記(1)から(5)のいずれかに記載の圧電材料において、
膜厚が、0.1μm以上10μm以下である。
【0050】
付記(7)の圧電材料は、付記(1)から(6)のいずれかに記載の圧電材料において、
前記ウルツ鉱型酸化物を複数層有し、
各層における前記置換量xは、互いに異なる。
【0051】
付記(8)の圧電デバイスは、
付記(1)から(7)のいずれかに記載の圧電材料と、
前記圧電材料を挟む一対の電極と、
前記圧電材料を、一方の前記電極を介して支持する基板と、を備える。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の圧電材料は、弾性波フィルタなどの圧電デバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 基板
2 下部電極(電極)
3 圧電薄膜(圧電材料)
3a 層
4 上部電極
10 BAWフィルタ(圧電デバイス)