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特開2024-168881光ヘテロダイン干渉測定装置および光ヘテロダイン干渉測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168881
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】光ヘテロダイン干渉測定装置および光ヘテロダイン干渉測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 9/02 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G01J9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085911
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】加藤 尚明
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 優
(72)【発明者】
【氏名】田中 博
(57)【要約】
【課題】測定精度の低下を抑制することができる光ヘテロダイン干渉測定装置を提供する。
【解決手段】光ヘテロダイン干渉測定装置1は、ビーム生成部10、ビームスプリッタ21、ミラー31、第1光検出器41、直線偏光板42、第2光検出器51、直線偏光板52、AD変換部60およびコンピュータ70を備える。第1光検出器41は、直線偏光板42から出力された光を受光し、その光強度の時間的変化を検出して第1検出信号(測定信号)を出力する。第2光検出器51は、直線偏光板52から出力された光を受光し、その光強度の時間的変化を検出して第2検出信号(参照信号)を出力する。コンピュータ70は、参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の測定信号を正弦関数でフィッティングして得られた信号に基づいて測定対象物90に関する情報を取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成部と、
前記ビーム生成部から出力された前記第1光ビームおよび前記第2光ビームを一括して2分岐して第1分岐光および第2分岐光として出力するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタから出力された前記第1分岐光に含まれる前記第1光ビームおよび前記第2光ビームの双方または何れか一方が測定対象物で反射または透過した後に、前記第1光ビームと前記第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を検出して測定信号を出力する第1光検出器と、
前記ビームスプリッタから出力された前記第2分岐光に含まれる前記第1光ビームと前記第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を検出して参照信号を出力する第2光検出器と、
前記参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の前記測定信号に基づいて前記測定対象物に関する情報を取得する演算部と、
を備える光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項2】
ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成部と、
前記第1光ビームおよび前記第2光ビームの双方または何れか一方が測定対象物で反射または透過した後に、前記第1光ビームと前記第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を検出して測定信号を出力する光検出器と、
前記測定信号の周期の整数倍の周期を有する或いは前記測定信号の周波数の整数倍の周波数を有する参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の前記測定信号に基づいて前記測定対象物に関する情報を取得する演算部と、
を備える光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項3】
測定対象物で反射または透過した光に基づいて、ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成部と、
前記第1光ビームと前記第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を検出して測定信号を出力する光検出器と、
前記測定信号の周期の整数倍の周期を有する或いは前記測定信号の周波数の整数倍の周波数を有する参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の前記測定信号に基づいて前記測定対象物に関する情報を取得する演算部と、
を備える光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記ビーム生成部における前記第1光ビームおよび前記第2光ビームの生成に関連する周期的な信号を前記参照信号として用いる、
請求項2または3に記載の光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項5】
前記演算部は、前記区間毎に、その区間内の前記測定信号を所定の関数でフィッティングして得られた信号の位相、および、その区間内の前記参照信号を所定の関数でフィッティングして得られた信号の位相に基づいて、前記測定対象物に関する情報を取得する、
請求項1~3の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記参照信号が極小値、極大値および閾値のうちの何れかに達するタイミングから始まる区間を設定する、
請求項1~3の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記参照信号の周期の整数倍の時間の区間を設定する、
請求項1~3の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記ビーム生成部における前記第1光ビームおよび前記第2光ビームの生成機構の1周期に等しい時間の区間を設定する、
請求項1~3の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項9】
前記演算部は、区間毎に取得された前記測定対象物に関する情報を平均化する、
請求項1~3の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項10】
前記演算部は、前記測定対象物に関する情報として、前記測定対象物のリタデーション、前記測定対象物の変位、前記測定対象物の屈折率変化、前記測定対象物の面形状および前記測定対象物の表面粗さのうち少なくとも一つの情報を取得する、
請求項1~3の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定装置。
【請求項11】
ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成ステップと、
前記ビーム生成ステップにおいて出力された前記第1光ビームおよび前記第2光ビームをビームスプリッタにより一括して2分岐して第1分岐光および第2分岐光として出力する2分岐ステップと、
前記ビームスプリッタから出力された前記第1分岐光に含まれる前記第1光ビームおよび前記第2光ビームの双方または何れか一方が測定対象物で反射または透過した後に、前記第1光ビームと前記第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を第1光検出器により検出して測定信号を出力する第1光検出ステップと、
前記ビームスプリッタから出力された前記第2分岐光に含まれる前記第1光ビームと前記第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を第2光検出器により検出して参照信号を出力する第2光検出ステップと、
前記参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の前記測定信号に基づいて前記測定対象物に関する情報を取得する演算ステップと、
を備える光ヘテロダイン干渉測定方法。
【請求項12】
ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成ステップと、
前記第1光ビームおよび前記第2光ビームの双方または何れか一方が測定対象物で反射または透過した後に、前記第1光ビームと前記第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を光検出器により検出して測定信号を出力する光検出ステップと、
前記測定信号の周期の整数倍の周期を有する或いは前記測定信号の周波数の整数倍の周波数を有する参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の前記測定信号に基づいて前記測定対象物に関する情報を取得する演算ステップと、
を備える光ヘテロダイン干渉測定方法。
【請求項13】
測定対象物で反射または透過した光に基づいて、ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成ステップと、
前記第1光ビームと前記第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を光検出器により検出して測定信号を出力する光検出ステップと、
前記測定信号の周期の整数倍の周期を有する或いは前記測定信号の周波数の整数倍の周波数を有する参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の前記測定信号に基づいて前記測定対象物に関する情報を取得する演算ステップと、
を備える光ヘテロダイン干渉測定方法。
【請求項14】
前記演算ステップにおいて、前記ビーム生成ステップにおける前記第1光ビームおよび前記第2光ビームの生成に関連する周期的な信号を前記参照信号として用いる、
請求項12または13に記載の光ヘテロダイン干渉測定方法。
【請求項15】
前記演算ステップにおいて、前記区間毎に、その区間内の前記測定信号を所定の関数でフィッティングして得られた信号の位相、および、その区間内の前記参照信号を所定の関数でフィッティングして得られた信号の位相に基づいて、前記測定対象物に関する情報を取得する、
請求項11~13の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定方法。
【請求項16】
前記演算ステップにおいて、前記参照信号が極小値、極大値および閾値のうちの何れかに達するタイミングから始まる区間を設定する、
請求項11~13の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定方法。
【請求項17】
前記演算ステップにおいて、前記参照信号の周期の整数倍の時間の区間を設定する、
請求項11~13の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定方法。
【請求項18】
前記演算ステップにおいて、前記ビーム生成ステップにおける前記第1光ビームおよび前記第2光ビームの生成機構の1周期に等しい時間の区間を設定する、
請求項11~13の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定方法。
【請求項19】
前記演算ステップにおいて、区間毎に取得された前記測定対象物に関する情報を平均化する、
請求項11~13の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定方法。
【請求項20】
前記演算ステップにおいて、前記測定対象物に関する情報として、前記測定対象物のリタデーション、前記測定対象物の変位、前記測定対象物の屈折率変化、前記測定対象物の面形状および前記測定対象物の表面粗さのうち少なくとも一つの情報を取得する、
請求項11~13の何れか1項に記載の光ヘテロダイン干渉測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ヘテロダイン干渉を利用した測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の強度を検出する光検出器の検出帯域は、検出しようとする光の周波数と比べて遙かに低い。このことから、光検出器は、時間的に平均化された光強度を測定することができるに留まり、光の位相を直接に測定することができない。
【0003】
測定対象物に関する情報を位相情報として第1光ビームまたは第2光ビームに持たせ、第1光ビームと第2光ビームとを合波して干渉させた光の強度を光検出器により検出すると、光検出器から出力される検出信号の値は位相情報に応じたものとなり、これから測定対象物に関する情報を取得することができる。しかし、この場合、第1光ビームおよび第2光ビームそれぞれの強度が既知であることが必要である。
【0004】
また、第1光ビームまたは第2光ビームの強度にノイズが含まれている場合には、正確な位相情報を求めることができない。ノイズとしては、例えば、温度変動に由来する光源の出力光の強度変動、光源等に電力供給する商用電源に由来する周波数(50Hzまたは60Hz)の強度変動、光検出器のノイズ、等がある。
【0005】
光ヘテロダイン干渉法(特許文献1~3を参照)は、第1光ビームまたは第2光ビームの強度にノイズが含まれている場合であっても、そのノイズの影響を低減して、光検出器から出力される検出信号に基づいて位相情報を求めることができるとされている。
【0006】
光ヘテロダイン干渉法では、第1光ビームの光周波数ωと第2光ビームの光周波数ωとを互いに僅かに異ならせる。この光周波数の差ω(=ω-ω)は、ヘテロダイン周波数と呼ばれ、第1光ビームおよび第2光ビームそれぞれの光周波数より遙かに低く、光検出器の帯域より十分に低い値に設定される。第1光ビームと第2光ビームとを合波して干渉させた光の強度を光検出器により検出すると、光検出器から出力される検出信号I(t)は、ヘテロダイン周波数ωで正弦波状に時間的に変化する成分を有する。
【0007】
第1光ビームの電場E(t)を下記(1)式で表し、第2光ビームの電場E(t)を下記(2)式で表すとする。tは時刻であり、φ,φは位相である。第1光ビームと第2光ビームとを合波してヘテロダイン干渉させた光の強度を光検出器により検出すると、光検出器から出力される検出信号I(t)は下記(3)式で表される。
【0008】
【数1】
【0009】
【数2】
【0010】
【数3】
【0011】
ここで、1/Tは光検出器の帯域に相当する。上記(3)式の右辺第3項は、ヘテロダイン周波数ωで正弦波状に時間的に変化する。第1光ビームの電場振幅eまたは第2光ビームの電場振幅eが未知であっても、検出信号I(t)のうちヘテロダイン周波数ωで正弦波状に時間的に変化する成分(右辺第3項)の位相を求めることができる。また、第1光ビームの電場振幅eまたは第2光ビームの電場振幅eにノイズが含まれている場合、ノイズの周波数スペクトルにおいてノイズ強度が小さい周波数にヘテロダイン周波数を設定することにより、ノイズの影響を低減して位相情報を求めることができるとされている。
【0012】
特許文献3に開示された光ヘテロダイン干渉法を用いた測定技術は、ノイズの周波数スペクトルにおいてノイズ強度が大きい周波数にヘテロダイン周波数を設定した場合であっても、所定の条件を満たすようにヘテロダイン周波数を設定することにより、ノイズの影響の低減を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平2-83428号公報
【特許文献2】特開2010-210541号公報
【特許文献3】特開2023-59340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、本発明者らは、特許文献1に開示された光ヘテロダイン干渉法を用いた測定技術を採用した場合であっても、他の要因により測定精度が低下する場合があることを見出した。
【0015】
本発明は、上記のような本発明者らの知見に基づいてなされたものであり、測定精度の低下を抑制することができる光ヘテロダイン干渉測定装置および光ヘテロダイン干渉測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第1態様は、(1) ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成部と、(2) ビーム生成部から出力された第1光ビームおよび第2光ビームを一括して2分岐して第1分岐光および第2分岐光として出力するビームスプリッタと、(3) ビームスプリッタから出力された第1分岐光に含まれる第1光ビームおよび第2光ビームの双方または何れか一方が測定対象物で反射または透過した後に、第1光ビームと第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を検出して測定信号を出力する第1光検出器と、(4) ビームスプリッタから出力された第2分岐光に含まれる第1光ビームと第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を検出して参照信号を出力する第2光検出器と、(5) 参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の測定信号に基づいて測定対象物に関する情報を取得する演算部と、を備える。
【0017】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第2態様は、(1) ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成部と、(2) 第1光ビームおよび第2光ビームの双方または何れか一方が測定対象物で反射または透過した後に、第1光ビームと第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を検出して測定信号を出力する光検出器と、(3) 測定信号の周期の整数倍の周期を有する或いは測定信号の周波数の整数倍の周波数を有する参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の測定信号に基づいて測定対象物に関する情報を取得する演算部と、を備える。
【0018】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第3態様は、(1) 測定対象物で反射または透過した光に基づいて、ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成部と、(2) 第1光ビームと第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を検出して測定信号を出力する光検出器と、(3) 測定信号の周期の整数倍の周期を有する或いは測定信号の周波数の整数倍の周波数を有する参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の測定信号に基づいて測定対象物に関する情報を取得する演算部と、を備える。
【0019】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第4態様では、第2または第3の態様において、演算部は、ビーム生成部における第1光ビームおよび第2光ビームの生成に関連する周期的な信号を参照信号として用いる。
【0020】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第5態様では、第1~第4の態様の何れかにおいて、演算部は、区間毎に、その区間内の測定信号を所定の関数でフィッティングして得られた信号の位相、および、その区間内の参照信号を所定の関数でフィッティングして得られた信号の位相に基づいて、測定対象物に関する情報を取得する。
【0021】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第6態様では、第1~第5の態様の何れかにおいて、演算部は、参照信号が極小値、極大値および閾値のうちの何れかに達するタイミングから始まる区間を設定する。
【0022】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第7態様では、第1~第6の態様の何れかにおいて、演算部は、参照信号の周期の整数倍の時間の区間を設定する。
【0023】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第8態様では、第1~第7の態様の何れかにおいて、演算部は、ビーム生成部における第1光ビームおよび第2光ビームの生成機構の1周期に等しい時間の区間を設定する。
【0024】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第9態様では、第1~第8の態様の何れかにおいて、演算部は、区間毎に取得された測定対象物に関する情報を平均化する。
【0025】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定装置の第10態様では、第1~第9の態様の何れかにおいて、演算部は、測定対象物に関する情報として、測定対象物のリタデーション、測定対象物の変位、測定対象物の屈折率変化、測定対象物の面形状および測定対象物の表面粗さのうち少なくとも一つの情報を取得する。
【0026】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第1態様は、(1) ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成ステップと、(2) ビーム生成ステップにおいて出力された第1光ビームおよび第2光ビームをビームスプリッタにより一括して2分岐して第1分岐光および第2分岐光として出力する2分岐ステップと、(3) ビームスプリッタから出力された第1分岐光に含まれる第1光ビームおよび第2光ビームの双方または何れか一方が測定対象物で反射または透過した後に、第1光ビームと第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を第1光検出器により検出して測定信号を出力する第1光検出ステップと、(4) ビームスプリッタから出力された第2分岐光に含まれる第1光ビームと第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を第2光検出器により検出して参照信号を出力する第2光検出ステップと、(5) 参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の測定信号に基づいて測定対象物に関する情報を取得する演算ステップと、を備える。
【0027】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第2態様は、(1) ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成ステップと、(2) 第1光ビームおよび第2光ビームの双方または何れか一方が測定対象物で反射または透過した後に、第1光ビームと第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を光検出器により検出して測定信号を出力する光検出ステップと、(3) 測定信号の周期の整数倍の周期を有する或いは測定信号の周波数の整数倍の周波数を有する参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の測定信号に基づいて測定対象物に関する情報を取得する演算ステップと、を備える。
【0028】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第3態様は、(1) 測定対象物で反射または透過した光に基づいて、ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成ステップと、(2) 第1光ビームと第2光ビームとのヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を光検出器により検出して測定信号を出力する光検出ステップと、(3) 測定信号の周期の整数倍の周期を有する或いは測定信号の周波数の整数倍の周波数を有する参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の測定信号に基づいて測定対象物に関する情報を取得する演算ステップと、を備える。
【0029】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第4態様では、第2または第3の態様において、演算ステップにおいて、ビーム生成ステップにおける第1光ビームおよび第2光ビームの生成に関連する周期的な信号を参照信号として用いる。
【0030】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第5態様では、第1~第4の態様の何れかにおいて、演算ステップにおいて、区間毎に、その区間内の測定信号を所定の関数でフィッティングして得られた信号の位相、および、その区間内の参照信号を所定の関数でフィッティングして得られた信号の位相に基づいて、測定対象物に関する情報を取得する。
【0031】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第6態様では、第1~第5の態様の何れかにおいて、演算ステップにおいて、参照信号が極小値、極大値および閾値のうちの何れかに達するタイミングから始まる区間を設定する。
【0032】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第7態様では、第1~第6の態様の何れかにおいて、演算ステップにおいて、参照信号の周期の整数倍の時間の区間を設定する。
【0033】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第8態様では、第1~第7の態様の何れかにおいて、演算ステップにおいて、ビーム生成ステップにおける第1光ビームおよび第2光ビームの生成機構の1周期に等しい時間の区間を設定する。
【0034】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第9態様では、第1~第8の態様の何れかにおいて、演算ステップにおいて、区間毎に取得された測定対象物に関する情報を平均化する。
【0035】
本発明の光ヘテロダイン干渉測定方法の第10態様では、第1~第9の態様の何れかにおいて、演算ステップにおいて、測定対象物に関する情報として、測定対象物のリタデーション、測定対象物の変位、測定対象物の屈折率変化、測定対象物の面形状および測定対象物の表面粗さのうち少なくとも一つの情報を取得する。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、光ヘテロダイン干渉法を用いた測定において測定精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、光ヘテロダイン干渉測定装置1の構成を示す図である。
図2図2は、光ヘテロダイン干渉測定装置2の構成を示す図である。
図3図3は、光ヘテロダイン干渉測定装置3の構成を示す図である。
図4図4は、光ヘテロダイン干渉測定装置2Aの構成を示す図である。
図5図5は、光ヘテロダイン干渉測定装置1における各信号の波形の例を示すとともに、各区間の始期および長さの第1設定例について説明する図である。
図6図6は、第1設定例の場合の演算部の処理のフローチャートである。
図7図7は、ステップS1,S2において参照信号に基づいて区間の始期タイミングT1および終期タイミングT2を決定する方法について説明する図である。
図8図8は、各区間の始期および長さの第2設定例について説明する図である。
図9図9は、各区間の始期および長さの第3設定例について説明する図である。
図10図10は、第1~第3の設定例において参照信号の1周期を各区間の長さとして区間毎に測定信号の解析をした場合の解析結果の例を示す図である。
図11図11は、各区間の始期および長さの第4設定例について説明する図である。
図12図12は、各区間の始期および長さの第5設定例について説明する図である。
図13図13は、各区間の始期および長さの第6設定例について説明する図である。
図14図14は、各区間の始期および長さの第7設定例について説明する図である。
図15図15は、各区間の始期および長さの第8設定例について説明する図である。
図16図16は、光ヘテロダイン干渉測定装置2Bの構成を示す図である。
図17図17は、各区間の始期および長さの第9設定例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0039】
初めにヘテロダイン干渉測定装置およびヘテロダイン干渉測定方法の全体構成について説明し、その後に構成の要部について説明する。
【0040】
図1は、光ヘテロダイン干渉測定装置1の構成を示す図である。光ヘテロダイン干渉測定装置1は、ビーム生成部10、ビームスプリッタ21、ミラー31、第1光検出器41、直線偏光板42、第2光検出器51、直線偏光板52、AD変換部60およびコンピュータ70を備える。光ヘテロダイン干渉測定装置1は、ビームスプリッタ21とミラー31との間の光路上に置かれた測定対象物90のリタデーションを測定することができる。
【0041】
ビーム生成部10は、偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力する(ビーム生成ステップ)。第1光ビームおよび第2光ビームは、ヘテロダイン周波数だけ光周波数が互いに異なる。ビーム生成部10は、レーザ光源11、2分の1波長板12、4分の1波長板13、レーザドライバ14、モータ15およびモータドライバ16を含む。なお、偏光が互いに直交するとは、それぞれの偏光状態をジョーンズベクトルで表したときにそれらが複素ベクトルとして直交するということを意味する。互いに直交している偏光状態の例は、x偏光及びy偏光の組み合わせ、右回り円偏光及び左回り円偏光の組み合わせであり、より一般には2つの楕円偏光の組み合わせもありうる。
【0042】
図中に示されるように、説明の便宜の為にxyz直交座標系を設定する。z軸は、光の進行方向に平行な方向である。x軸は、紙面に平行であって光の進行方向に垂直な方向である。y軸は、紙面に垂直な方向である。
【0043】
レーザ光源11は、レーザドライバ14により駆動されて、レーザ光を出力する。レーザ光源11から出力されるレーザ光は、直線偏光である。例えば、レーザ光源11から出力されるレーザ光は、x軸方向に平行な直線偏光である。レーザ光源11は、任意のものが用いられ得るが、例えばHe-Neレーザ光源である。レーザドライバ14は、レーザ光源11と電気的に接続されており、レーザ光源11にレーザ発振を行わせる。レーザドライバ14には、商用電源から周波数60Hzで交流電圧100Vの電力が供給される。
【0044】
2分の1波長板12は、レーザ光源11と光学的に接続されている。2分の1波長板12は、平板形状を有するものであって、モータ15の回転軸に対して垂直に固定されている。2分の1波長板12は、モータ15の回転軸の回転に伴い一定速度wで回転する。モータドライバ16は、モータ15と電気的に接続されており、コンピュータ70からの指示を受けて、2分の1波長板12を一定速度wで回転させるようモータ15を駆動する。
【0045】
レーザ光源11から出力されたレーザ光は、一定速度wで回転している2分の1波長板12を通過することで、光周波数が互いに異なる2つの光成分(右回り円偏光成分、左回り円偏光成分)が重ね合わされたものに変換される。2分の1波長板12から出力される右回り円偏光成分および左回り円偏光成分それぞれの強度は互いに等しくてもよく、等しくなくてもよい。右回り円偏光成分および左回り円偏光成分それぞれの光周波数は、レーザ光源11から出力されたレーザ光の光周波数に対して±2wだけ変化したものである。すなわち、右回り円偏光成分および左回り円偏光成分それぞれの光周波数の差は、2分の1波長板12の回転速度wの4倍である。
【0046】
4分の1波長板13は、2分の1波長板12と光学的に接続されている。4分の1波長板13の進相軸は、xy平面上にあってx軸方向に対し所定の角度(例えば、45°)だけ傾斜している。ただし、2分の1波長板12から出力された右回り円偏光成分および左回り円偏光成分は、4分の1波長板13を通過することにより、x偏光成分およびy偏光成分になる。4分の1波長板13から出力されるx偏光成分およびy偏光成分それぞれの強度は互いに等しくてもよく、等しくなくてもよい。x偏光成分およびy偏光成分それぞれの光周波数は、レーザ光源11から出力されたレーザ光の光周波数に対して±2wだけ変化したものである。すなわち、x偏光成分およびy偏光成分それぞれの光周波数の差(ヘテロダイン周波数)は4wである。
【0047】
ビーム生成部10は、4分の1波長板13から出力されるx偏光成分の光およびy偏光成分の光のうち、一方を第1光ビームとして出力し、他方を第2光ビームとして出力する。第1光ビームおよび第2光ビームは、偏光が互いに直交しており、ヘテロダイン周波数4wだけ光周波数が互いに異なる。また、一定速度で回転する2分の1波長板12および4分の1波長板13は、レーザ光源11から出力されたレーザ光に基づいて、光周波数が互いに異なり偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力する周波数シフタを構成している。
【0048】
ビームスプリッタ21は、ビーム生成部10と光学的に接続されている。ビームスプリッタ21は、ビーム生成部10から出力された第1光ビームおよび第2光ビームを一括して所定の強度比で2分岐して、第1分岐光および第2分岐光として出力する(2分岐ステップ)。ビームスプリッタ21は、例えば、強度比1:1で分岐するハーフミラーである。また、ビームスプリッタ21は偏光依存性を有していてもよい。したがって、ビームスプリッタ21から出力される第1分岐光および第2分岐光それぞれは、偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを所定の強度比(例えば、強度比1:1)で含む。ビームスプリッタ21は、反射させた第1分岐光をミラー31へ出力し、透過させた第2分岐光を直線偏光板52へ出力する。
【0049】
ミラー31は、ビームスプリッタ21と光学的に接続されている。ミラー31は、ビームスプリッタ21から出力されて測定対象物90を通過した第1分岐光を入力し、その第1分岐光を垂直反射させる。ミラー31で反射された第1分岐光は再び測定対象物90を通過し、続いてビームスプリッタ21を透過した第1分岐光は直線偏光板42に入力される。
【0050】
測定対象物90を2度通過した第1分岐光は、測定対象物90のリタデーションの情報を位相情報として有する。第1分岐光に含まれる第1光ビームおよび第2光ビームは、ヘテロダイン周波数4wだけ光周波数が互いに異なるx偏光成分およびy偏光成分である。測定対象物90の進相軸をx軸方向またはy軸方向に一致させておくことにより、第1分岐光に含まれる第1光ビームおよび第2光ビームは、測定対象物90の複屈折性(偏光方向によって屈折率が異なる性質)によって異なる位相変化を受けることになる。なお、測定対象物90のリタデーション情報が未知である場合などでは、測定対象物90を回転させながらリタデーションを測定し、リタデーションが極値となる角度に基づいて、測定対象物90の進相軸をx軸方向またはy軸方向に一致させてもよい。
【0051】
ここでは測定対象物90のリタデーションを測定するために第1分岐光の第1光ビームと第2光ビームとは同じ光路を辿ったが、例えば図2のように測定対象物90の変位を測定したい場合などには、ビームスプリッタ21と測定対象物90との間に偏光ビームスプリッタを配置し、この偏光ビームスプリッタにより第1分岐光を第1光ビームと第2光ビームとに偏光分離し、第1光ビームおよび第2光ビームのうちの何れか一方のみを測定対象物90に入射させてもよい。
【0052】
直線偏光板42は、ビームスプリッタ21と光学的に接続されている。直線偏光板42の透過軸は、xy平面上にあってx軸方向に対し所定の角度(例えば、45°)だけ傾斜している。直線偏光板42は、ビームスプリッタ21から到達した第1分岐光を入力して、その第1分岐光に含まれる第1光ビームおよび第2光ビーム(x偏光成分およびy偏光成分)を所定の強度比(例えば、強度比1:1)で混合して、単一の直線偏光成分を有する光に変換して出力する。このとき、ヘテロダイン信号に含まれる正弦波の振幅が最も大きくなるように、第1光ビームおよび第2光ビームを混合するとよい。
【0053】
第1光検出器41は、直線偏光板42と光学的に結合されている。第1光検出器41は、直線偏光板42から出力された光を受光し、その光強度の時間的変化を検出して第1検出信号を出力する(第1光検出ステップ)。この第1検出信号は、第1分岐光に含まれる第1光ビームおよび第2光ビーム(x偏光成分およびy偏光成分)のヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を表すものであり、ヘテロダイン周波数4wで正弦波状に時間的に変化する成分を含む。第1検出信号は、測定対象物90のリタデーション情報を位相情報として有する測定信号である。
【0054】
直線偏光板52は、ビームスプリッタ21と光学的に接続されている。直線偏光板52の透過軸は、xy平面上にあってx軸方向に対し所定の角度(例えば、45°)だけ傾斜している。直線偏光板52は、ビームスプリッタ21から到達した第2分岐光を入力して、その第2分岐光に含まれる第1光ビームおよび第2光ビーム(x偏光成分およびy偏光成分)を所定の強度比(例えば、強度比1:1)で混合して、単一の直線偏光成分を有する光に変換して出力する。このとき、ヘテロダイン信号に含まれる正弦波の振幅が最も大きくなるように、第1光ビームおよび第2光ビームを混合するとよい。
【0055】
第2光検出器51は、直線偏光板52と光学的に結合されている。第2光検出器51は、直線偏光板52から出力された光を受光し、その光強度の時間的変化を検出して第2検出信号を出力する(第2光検出ステップ)。この第2検出信号は、第2分岐光に含まれる第1光ビームおよび第2光ビーム(x偏光成分およびy偏光成分)のヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を表すものであり、ヘテロダイン周波数4wで正弦波状に時間的に変化する成分を含む。第2検出信号は、測定対象物90のリタデーション情報を位相情報として有しない参照信号である。第2検出信号は、測定信号の周期の整数倍(=1倍)の周期を持つ参照信号である。
【0056】
AD変換部60は、第1光検出器41および第2光検出器51と電気的に接続されている。AD変換部60は、ヘテロダイン周波数4wより十分に速いレートでアナログ信号のデータをサンプリングして、これをデジタル信号のデータに変換することができる。例えば、AD変換部60のサンプリングレートは、ヘテロダイン周波数4wの2倍以上のレートであればよく、さらに、10倍以上のレートであってもよい。AD変換部60は、第1光検出器41から出力された第1検出信号(測定信号)を、アナログ信号として入力し、これをデジタル信号に変換して出力する。また、AD変換部60は、第2光検出器51から出力された第2検出信号(参照信号)を、アナログ信号として入力し、これをデジタル信号に変換して出力する。
【0057】
コンピュータ70は、AD変換部60と電気的に接続されている。コンピュータ70は、次に説明するような設定部および演算部の双方の機能を有する。設定部としてのコンピュータ70は、ヘテロダイン周波数4wを所望値に設定して、モータ15が2分の1波長板12を一定速度wで回転させるようモータドライバ16に指示する。
【0058】
演算部としてのコンピュータ70は、AD変換部60からデジタル信号として出力された第1検出信号(測定信号)および第2検出信号(参照信号)を入力して、これらの信号のうちヘテロダイン周波数4wで正弦波状に時間的に変化する成分の位相を求め、これらの位相に基づいて測定対象物90の位相差(リタデーション)Δφを求める(演算ステップ)。さらに、コンピュータ70は、この位相差Δφに基づいて下記(4)式から、複屈折の指標であるΔn(x偏光に対する屈折率とy偏光に対する屈折率との差)を求めることができる。dは測定対象物90における光通過方向の厚みであり、λは光の波長である。この式は、第1分岐光が測定対象物90を2度通過したことを考慮したものである。
【0059】
【数4】
【0060】
図2は、光ヘテロダイン干渉測定装置2の構成を示す図である。光ヘテロダイン干渉測定装置2は、ビーム生成部10、第1光検出器41、直線偏光板42、AD変換部60およびコンピュータ70を備える。光ヘテロダイン干渉測定装置2は、ビーム生成部10と直線偏光板42との間の光路上に置かれた測定対象物90のリタデーションを測定することができる。
【0061】
この構成では、ビーム生成部10から出力された第1光ビームおよび第2光ビーム(x偏光成分およびy偏光成分)は、測定対象物90を通過して直線偏光板42に入力される。直線偏光板42の透過軸は、xy平面上にあってx軸方向に対し所定の角度(例えば、45°)だけ傾斜している。直線偏光板42は、測定対象物90を通過した第1光ビームおよび第2光ビームを入力して、これらの第1光ビームおよび第2光ビーム(x偏光成分およびy偏光成分)を所定の強度比(例えば、強度比1:1)で混合して、単一の直線偏光成分を有する光に変換して出力する。このとき、ヘテロダイン信号に含まれる正弦波の振幅が最も大きくなるように、第1光ビームおよび第2光ビームを混合するとよい。
【0062】
第1光検出器41は、直線偏光板42から出力された光を受光し、その光強度の時間的変化を検出して第1検出信号を出力する。この第1検出信号は、第1光ビームおよび第2光ビーム(x偏光成分およびy偏光成分)のヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を表すものであり、ヘテロダイン周波数4wで正弦波状に時間的に変化する成分を含む。第1検出信号は、測定対象物90のリタデーション情報を位相情報として有する測定信号である。
【0063】
AD変換部60は、第1光検出器41から出力された第1検出信号(測定信号)を、アナログ信号として入力し、これをデジタル信号に変換して出力する。また、AD変換部60は、ビーム生成部10のモータドライバ16から出力されたヘテロダイン周波数4wで時間的に変化する電気信号(参照信号)を、アナログ信号として入力し、これをデジタル信号に変換して出力する。なお、モータドライバ16から出力される参照信号は、正弦波でなくてもよい。
【0064】
モータドライバ16から出力される信号は、周波数4wのタイミングを出力する補助としての役割を果たす。周波数2wで振動する(正弦波に限られない)波形がモータドライバ16から出力され、この波形の立ち上がり及び立ち下がりそれぞれに閾値を設けて、その閾値を超えたタイミングを位相の基準として用いることができる。あるいは、周波数wで振動する波形がモータドライバ16から出力され、それを基にして周波数4wのタイミングをコンピュータでの解析時に定めることも可能である。
【0065】
演算部としてのコンピュータ70は、AD変換部60からデジタル信号として出力された第1検出信号(測定信号)および第2検出信号(参照信号)を入力して、これらの信号のうちヘテロダイン周波数4wで正弦波状に時間的に変化する成分の位相を求め、これらの位相に基づいて測定対象物90の位相差(リタデーション)Δφを求める(演算ステップ)。さらに、コンピュータ70は、この位相差Δφに基づいて、複屈折の指標であるΔn(x偏光に対する屈折率とy偏光に対する屈折率との差)を求めることができる。
【0066】
図1に示された構成と比較すると、図2に示される構成では、ビームスプリッタ21、ミラー31、第2光検出器51および直線偏光板52が不要となり、光学系が簡易なものとなるので、光学系の調整が容易である。なお、図1および図2の何れに構成においても、参照信号は無くてもよく、測定信号のみから測定対象物90の位相差Δφを求めることもできる。この場合、例えば、測定対象物90を配置しない状態で較正するとよい。
【0067】
図3は、光ヘテロダイン干渉測定装置3の構成を示す図である。光ヘテロダイン干渉測定装置3は、ビーム生成部10、偏光ビームスプリッタ22、ミラー31、4分の1波長板33、第1光検出器41、直線偏光板42、4分の1波長板53、AD変換部60およびコンピュータ70を備える。光ヘテロダイン干渉測定装置3は、測定対象物90の変位を測定することができる。
【0068】
この構成では、偏光ビームスプリッタ22は、ビーム生成部10と光学的に接続されている。偏光ビームスプリッタ22は、ビーム生成部10から出力された第1光ビームおよび第2光ビーム(x偏光成分およびy偏光成分)のうち、第1光ビーム(x偏光成分)を透過させて4分の1波長板53へ出力し、第2光ビーム(y偏光成分)を反射させて4分の1波長板33へ出力する。
【0069】
偏光ビームスプリッタ22を透過して出力された第1光ビームは、4分の1波長板53を通過した後に測定対象物90で反射され、4分の1波長板53を再び通過して偏光ビームスプリッタ22に入力される。4分の1波長板53の進相軸は、xy平面上にあってx軸方向に対し45°だけ傾斜している。第1光ビームは、4分の1波長板53を2度通過することによりx偏光成分からy偏光成分に変換されるので、偏光ビームスプリッタ22で反射されて直線偏光板42へ出力される。
【0070】
偏光ビームスプリッタ22で反射されて出力された第2光ビームは、4分の1波長板33を通過した後にミラー31で反射され、4分の1波長板33を再び通過して偏光ビームスプリッタ22に入力される。4分の1波長板33の進相軸は、xy平面上にあってx軸方向に対し45°だけ傾斜している。第2光ビームは、4分の1波長板33を2度通過することによりy偏光成分からx偏光成分に変換されるので、偏光ビームスプリッタ22を透過して直線偏光板42へ出力される。
【0071】
直線偏光板42は、偏光ビームスプリッタ22と光学的に接続されている。直線偏光板42の透過軸は、xy平面上にあってx軸方向に対し所定の角度(例えば、45°)だけ傾斜している。直線偏光板42は、偏光ビームスプリッタ22から到達した第1光ビーム(y偏光成分)および第2光ビーム(x偏光成分)を入力して、第1光ビームおよび第2光ビーム(y偏光成分およびx偏光成分)を所定の強度比(例えば、強度比1:1)で混合して、単一の直線偏光成分を有する光に変換して出力する。このとき、ヘテロダイン信号に含まれる正弦波の振幅が最も大きくなるように、第1光ビームおよび第2光ビームを混合するとよい。
【0072】
第1光検出器41は、直線偏光板42から出力された光を受光し、その光強度の時間的変化を検出して第1検出信号を出力する。この第1検出信号は、第1分岐光に含まれる第1光ビームおよび第2光ビーム(y偏光成分およびx偏光成分)のヘテロダイン干渉による強度の時間的変化を表すものであり、ヘテロダイン周波数4wで正弦波状に時間的に変化する成分を含む。第1検出信号は、第1光ビームおよび第2光ビームそれぞれの光路長の差(すなわち、測定対象物90の変位情報)を位相情報として有する測定信号である。
【0073】
AD変換部60は、第1光検出器41から出力された第1検出信号(測定信号)を、アナログ信号として入力し、これをデジタル信号に変換して出力する。また、AD変換部60は、ビーム生成部10のモータドライバ16から出力されたヘテロダイン周波数4wで時間的に変化する電気信号(参照信号)を、アナログ信号として入力し、これをデジタル信号に変換して出力する。なお、モータドライバ16から出力される参照信号は、正弦波でなくてもよい。また、参照信号は図1のように光学的に取得してもよい。すなわち、ビーム生成部10と偏光ビームスプリッタ22との間にビームスプリッタを追加し、このビームスプリッタで反射した光を直線偏光板に通した後に光検出をすることで参照信号を取得してもよい。また、参照信号は無くてもよく、測定信号のみから測定対象物90の変位を求めることもできる。
【0074】
演算部としてのコンピュータ70は、AD変換部60からデジタル信号として出力された第1検出信号(測定信号)および第2検出信号(参照信号)を入力して、これらの信号のうちヘテロダイン周波数4wで正弦波状に時間的に変化する成分の位相を求め、これらの位相に基づいて測定対象物90の変位を求める(演算ステップ)。
【0075】
光ヘテロダイン干渉測定装置の構成としては、図1図3に示された光ヘテロダイン干渉測定装置1~3の構成の他にも様々な態様が可能である。例えば、光源から出力されたレーザ光に基づいて光周波数が互いに異なる第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力する周波数シフタは、図1図3に示された2分の1波長板12および4分の1波長板13を含む構成の他、2分の1波長板12のみを含み4分の1波長板13を含まない構成であってもよい。後者の構成の周波数シフタは、第1光ビームおよび第2光ビームとして、光周波数が互いに異なる右回り円偏光成分および左回り円偏光成分が重ね合わされた光を生成して出力することができる。なお、右回り円偏光と左回り円偏光とは、偏光状態が直交している。
【0076】
周波数シフタの他の構成としては、電気光学変調器または音響光学変調器を用いた構成、光を2分岐して一方の分岐光を一定速度で移動するミラーで反射させた後に2つの分岐光を合波する構成、光を2分岐して一方の分岐光を一定速度で回転するラジアル回折格子により回折させた後に2つの分岐光を合波する構成、等がある。
【0077】
偏光が互いに直交する第1光ビームおよび第2光ビームを生成して出力するビーム生成部の構成としては、光源および周波数シフタを用いた構成の他、横ゼーマンレーザ光源を用いる構成、2個の外部共振器型レーザダイオードそれぞれから出力された互いに直交する偏光を有する光を合波する構成、等がある。
【0078】
他の構成の一例として、電気光学変調器(Electro-Optic Modulator、EOM)を用いた周波数シフタを備える光ヘテロダイン干渉測定装置2Aの構成について説明する。図4は、光ヘテロダイン干渉測定装置2Aの構成を示す図である。光ヘテロダイン干渉測定装置2A(図4)は、光ヘテロダイン干渉測定装置2(図2)の構成と比べると、ビーム生成部10に替えてビーム生成部10Aを備える点で相違する。
【0079】
ビーム生成部10Aは、レーザ光源11、レーザドライバ14、EOM17および電圧波形発生器18を含む。レーザ光源11から出力されるレーザ光は、x軸方向に対し所定の角度(例えば、45°)の直線偏光である。EOM17は、レーザ光源11と光学的に接続され、また、電圧波形発生器18と電気的に接続されている。EOM17は、レーザ光源11から出力されたレーザ光を入力し、その入力したレーザ光のx偏光成分とy偏光成分との間に、電圧波形発生器18から印加される電圧の大きさに応じた位相差を与える。電圧波形発生器18は、鋸歯状波の波形を有する電圧信号をEOM17に与える。鋸歯状波の波形を有する電圧信号は、電圧値Vから一定の速さで電圧値Vまで変化していき、電圧値Vに達すると直ちに電圧値Vに戻る、ということを繰り返す。
【0080】
電圧波形発生器18によりEOM17に印加される電圧値が0Vから一定の速さで或る電圧値まで変化していく期間内の時刻tにおいて、x偏光成分とy偏光成分との間に与えられる位相差φ(t)は下記(5)式で表される。EOM17から出力されるレーザ光は、ジョーンズベクトルで下記(6)式のように表される。このように、EOM17から出力されるx偏光成分の光およびy偏光成分の光それぞれの光周波数は互いに異なる。ビーム生成部10Aは、EOM17から出力されるx偏光成分の光およびy偏光成分の光のうち、一方を第1光ビームとして出力し、他方を第2光ビームとして出力する。
【0081】
【数5】
【0082】
【数6】
【0083】
光ヘテロダイン干渉法を用いることで、測定対象物(例えば透過型空間光変調器、水晶などの結晶、配向した液晶、ガラスなどの光弾性体)を光が透過する際のリタデーション、測定対象物(例えば反射型空間光変調器)で光が反射する際のリタデーション、測定対象物での光の反射を利用した測定対象物(の反射面)の変位、測定対象物を光が透過する経路に沿った光路長の変化、測定対象物の屈折率変化、測定対象物の面形状、測定対象物の表面粗さ、等を測定することができる。測定対象物の表面粗さ、あるいは表面形状は、測定対象物の光の反射を利用した測定対象物の変位を面で測定すると求めることができる。また、測定対象物の屈折率変化とは、測定対象物の光の反射を利用した測定対象物の変位において、物理的距離が一定とした状態での光路長の変化に相当する。
【0084】
リタデーション測定の場合には、図16に示される構成のように、光源と周波数シフタとの間の光路上に測定対象物を配置してもよい。図16は、光ヘテロダイン干渉測定装置2Bの構成を示す図である。光ヘテロダイン干渉測定装置2B(図5)は、光ヘテロダイン干渉測定装置2(図2)の構成と比べると、ビーム生成部10に替えてビーム生成部10Bを備える点、および、測定対象物90が配置されている位置の点等で相違する。
【0085】
ビーム生成部10Bでは、周波数シフタは、4分の1波長板13および直線偏光板19を含んで構成される。レーザ光源11と直線偏光板19との間の光路上に4分の1波長板13が配置されている。測定対象物90は、レーザ光源11と4分の1波長板13との間の光路上に挿入される。レーザ光源11から出力されるレーザ光は、x軸方向に対して45°の方位の直線偏光であり、x偏光成分およびy偏光成分を含む。
【0086】
複屈折を有する測定対象物90の進相軸がx軸方向またはy軸方向に一致している場合、レーザ光源11から出力されたレーザ光が測定対象物90を透過すると、その透過後のレーザ光に含まれるx偏光成分とy偏光成分との間に位相差が生じる。測定対象物90を透過した後のレーザ光が4分の1波長板13を透過すると、x偏光成分およびy偏光成分は、それぞれ、右回り円偏光成分および左回り円偏光成分に変換される。
【0087】
これらの右回り円偏光成分および左回り円偏光成分は、速度wで回転している直線偏光板19を透過することにより、それぞれ光周波数が-w、+wだけシフトして、光周波数が2wだけ異なることになる。光検出器41は、光周波数が2wだけ異なる右回り円偏光成分および左回り円偏光成分を含むレーザ光を受光し、その光強度の時間的変化を検出して検出信号を出力し、これを測定信号とする。また、モータドライバ16から出力される信号(正弦波とは限らない。)を参照信号とする。
【0088】
演算部としてのコンピュータ70は、AD変換部60からデジタル信号として出力された第1検出信号(測定信号)および第2検出信号(参照信号)を入力して、これらの信号のうちヘテロダイン周波数2wで正弦波状に時間的に変化する成分の位相を求め、これらの位相に基づいて測定対象物90の位相差(リタデーション)Δφを求める。
【0089】
図5は、光ヘテロダイン干渉測定装置1(図1)における各信号の波形の例を示す図である。この図は、2分の1波長板12が2回転する期間(0.1秒間)に亘って、2分の1波長板12を透過して出力されたレーザ光の強度、第1光検出器41から出力された第1検出信号(測定信号)、および、第2光検出器51から出力された第2検出信号(参照信号)それぞれの時間変化を示している。縦軸はレーザ光強度値または信号値であるが、縦軸の目盛りの数値は実際のレーザ光強度値または信号値を表すものではない。この図において上方に示された1~8の数字は、区間の番号を示している。以降の図においても同様である。
【0090】
この図では、参照信号が極小値となる或るタイミングを時刻0とし、参照信号が極小値となるタイミングを縦方向の破線で示し、参照信号が極小値となるタイミングと次の極小値となるタイミングとの間(隣り合う二つの縦方向の破線の間)を一つの区間としている。この図に示されるように、2分の1波長板12から出力されたレーザ光の強度は時間的に変動しており、しかも、詳細に見ると、そのレーザ光強度の時間的変動は4区間を周期として繰り返されている。すなわち、区間5~8におけるレーザ光強度の時間的変動パターンは、区間1~4におけるレーザ光強度の時間的変動パターンとよく一致している。また、参照信号および測定信号それぞれは、概略的に見れば正弦関数状の周期信号であるが、詳細に見ると正弦関数状の周期信号に対し差異が存在し、しかも、その差異は4区間を周期として繰り返されている。
【0091】
この4区間を周期とする現象(レーザ光強度の変動、正弦関数状の周期信号に対する参照信号および測定信号それぞれの差異)は、2分の1波長板12の面内の光透過率の不均一性に因ると考えられる。すなわち、このような不均一性を有する2分の1波長板12の回転中心位置から離れた位置にレーザ光を入射させると、2分の1波長板12の回転に伴ってレーザ光透過強度が変動する。2分の1波長板12の回転中心位置にレーザ光を入射させる場合でも、2分の1波長板12を含む各種光学素子の製造誤差や光学調整の不完全性により、2分の1波長板12の回転に伴ってレーザ光透過強度が変動する。また、2分の1波長板12の1回転は4区間に相当する。このことから、上述したような4区間を周期とする現象が発生すると考えられる。そして、このような現象を考慮することなくリタデーション等の測定を行うと、その測定精度が低下する場合がある。
【0092】
そこで、測定精度の低下を抑制するために、演算部(コンピュータ70)は、参照信号が所定値となるタイミングから始まる区間毎に、その区間内の測定信号を正弦関数でフィッティングして得られた信号に基づいて測定対象物に関する情報を取得する。このように区間毎に測定信号の解析をすることにより、測定精度の低下を抑制することができる。なお、図5では参照信号の極小値間の1周期(2分の1波長板12の1/4回転分の時間)を1区間としているが、これに限られない。
【0093】
各区間の始期は、参照信号が所定値となるタイミングである。各区間の始期を決める参照信号の所定値は、極小値であってもよいし、極大値であってもよいし、極小値と極大値との間に設定された閾値であってもよい。各区間の始期を決める参照信号の所定値を閾値とする場合、参照信号の値が増加していく際に閾値に達するタイミングを各区間の始期としてもよいし、参照信号の値が減少していく際に閾値に達するタイミングを各区間の始期としてもよいし、双方のタイミングを各区間の始期としてもよい。
【0094】
各区間の時間的長さは、区間内の測定信号を正弦関数でフィッティングすることが可能であればよい。各区間の長さは、参照信号の周期の整数倍であるのが好適である。また、各区間の長さは、ビーム生成部における第1光ビームおよび第2光ビームの生成機構の1周期に等しいのが好適である。2分の1波長板12を回転させて第1光ビームおよび第2光ビームを生成する場合には、各区間の長さは、2分の1波長板12の1回転分の時間(参照信号および測定信号の周期の4倍)であるのが好適である。
【0095】
また、参照信号は、第2光検出器51から出力された第2検出信号であってもよいし、ビーム生成部10における第1光ビームおよび第2光ビームの生成に関連する周期的な信号であってもよい。
【0096】
上述ではデジタル信号をコンピュータで解析する例を述べたが、少なくとも第1光検出器41から出力された電気信号を、演算部としてアナログ回路を用いて信号処理(解析)する方法でもよい。例えば、リセット機能を有するアナログ回路によって参照信号が所定値となるタイミングを検知してリセット機能を動作させることで、同様の処理を行うことができる。
【0097】
以下では、図5図15を用いて、各区間の始期および長さの設定例について説明する。
図5に示される第1設定例では、参照信号が極小値となるタイミングを各区間の始期とし、参照信号の1周期を各区間の長さとしている。第1設定例では、参照信号が極小値となるタイミングを各区間の始期とすることにより、各区間内の参照信号および測定信号を正弦関数でフィッティングしやすい。
【0098】
図6は、第1設定例の場合の演算部の処理のフローチャートである。
ステップS1では、参照信号に基づいて区間の始期となるタイミング(参照信号が極小値となるタイミング)T1を決定する。ここでいう参照信号の極小値は、参照信号を概略的に見て正弦関数状の周期信号であるとしたときの極小値である。例えば、参照信号の移動平均をとることで極小値のタイミングを決定する。
【0099】
ステップS2では、参照信号に基づいて区間の終期となるタイミング(参照信号が次に極小値となるタイミング)T2を決定する。ここでいう参照信号の極小値も、参照信号を概略的に見て正弦関数状の周期信号であるとしたときの極小値である。
【0100】
ステップS1,S2により区間(T1~T2)が設定される。なお、区間は、始期タイミングT1から終期タイミングT2までの期間であってもよいし、始期タイミングT1から終期タイミングT2より一点手前までの期間であってもよい。
【0101】
ステップS3では、ステップS1,S2で設定された区間(T1~T2)内の参照信号を正弦関数(下記(7)式)でフィッティングする。A、f、φおよびCは、フィッティングで求めるべきパラメータである。tは時刻の変数である。
【0102】
【数7】
【0103】
ステップS4では、ステップS1,S2で設定された区間(T1~T2)内の測定信号を正弦関数(下記(8)式)でフィッティングする。A、f、φおよびCは、フィッティングで求めるべきパラメータである。なお、周波数fについては、ステップS3で求められた周波数fが固定値として用いられてもよい。
【0104】
【数8】
【0105】
ステップS5では、区間における測定信号および参照信号それぞれのフィッティング結果に基づいて位相差(Δφ=φ-φ)を算出する。この位相差は、測定対象物90で生じたリタデーションと光学系で生じたリタデーションとの和に相当する。
【0106】
ステップS6では、区間の終期となるタイミングT2を、次の区間の始期となるタイミングT1に設定する。以降、ステップS2~S6を繰り返す。
【0107】
このようにして区間毎に測定信号の解析をすることにより、測定精度の低下を抑制することができる。
【0108】
上述では所定の関数として正弦関数によるフィッティングを一例として述べたが、フィッティング関数は正弦関数に限られない。例えば強度が大きく変動して正弦関数によるフィッティングが困難である場合には、多項式関数によるフィッティングを行い、このフィッティングによって得られた多項式関数の極大点あるいは極小点の時刻を位相として扱うことも可能である。
【0109】
図7は、ステップS1,S2において参照信号に基づいて区間の始期タイミングT1および終期タイミングT2を決定する方法について説明する図である。この図に例示されるように、参照信号は、概略的に見れば正弦関数状の周期信号であるが、その正弦関数状の周期信号の極小点だけでなく、他の箇所(この図では、正弦関数状の周期信号の極大点に近い箇所)にも極小点を有する場合がある。ステップS1,S2では、参照信号を概略的に見て正弦関数状の周期信号であるとしたときの極小値のタイミングT1,T2を検出し、他の箇所(この図では、正弦関数状の周期信号の極大点に近い箇所)に存在する極小値のタイミングを除外する。
【0110】
図8は、各区間の始期および長さの第2設定例について説明する図である。第2設定例では、参照信号が極大値となるタイミングを各区間の始期とし、参照信号の1周期を各区間の長さとする。この設定例では、参照信号が大きい値となるタイミングを各区間の始期とすることにより、電気回路でのノイズの影響を受けにくい。
【0111】
図9は、各区間の始期および長さの第3設定例について説明する図である。第3設定例では、参照信号の値が増加していく際に閾値(極小値と極大値との間に設定される値、この図では2000)に達するタイミングを各区間の始期とし、参照信号の1周期を各区間の長さとする。この設定例では、アナログ電気回路やデジタル電気回路での実装が容易である。
【0112】
図10は、第1~第3の設定例において参照信号の1周期を各区間の長さとして区間毎に測定信号の解析をした場合の解析結果の例を示す図である。この図において、横軸および図中上方に示された1~31の数字は、区間の番号を示している。縦軸は、各区間の解析結果としての位相を示している。この図に示されるように、各区間の解析により得られた位相は、2分の1波長板12の1回転分の時間(参照信号および測定信号の周期の4倍)を周期として変動している。そこで、例えば、区間1~4の解析結果を平均化し、区間5~8の解析結果を平均化し、区間9~12の解析結果を平均化し、・・・というように、4区間毎に順に平均化していくのが好ましい。第1~第3の設定例では、参照信号の1周期を各区間の長さとして区間毎に測定信号の解析をすることにより、後の処理において平均化の区間数を任意に選択することができる。
【0113】
図11は、各区間の始期および長さの第4設定例について説明する図である。第4設定例では、参照信号が極小値となるタイミングを各区間の始期とし、参照信号の周期のM倍(Mは任意の整数)を各区間の長さとする。この設定例では、参照信号のM周期の期間毎に測定信号の解析をすることができる。
【0114】
図12は、各区間の始期および長さの第5設定例について説明する図である。第5設定例では、参照信号が極小値となるタイミングを各区間の始期とし、参照信号の周期のN倍(Nは整数)を各区間の長さとする。各区間の長さは、ビーム生成部における第1光ビームおよび第2光ビームの生成機構の1周期に等しい。2分の1波長板12を回転させて第1光ビームおよび第2光ビームを生成する場合には、各区間の長さは、2分の1波長板12の1回転分の時間(参照信号および測定信号の周期の4倍)であり、N=4である。この設定例では、参照信号のN周期の期間(正弦関数状の周期信号に対する差異についての1周期)毎に測定信号の解析をすることができる。
【0115】
第4設定例および第5設定例では、参照信号が極小値となるタイミングを各区間の始期としたが、参照信号が極大値または閾値に達するタイミングを各区間の始期としてもよい。
【0116】
図13は、各区間の始期および長さの第6設定例について説明する図である。第6設定例は、光ヘテロダイン干渉測定装置2(図2)または光ヘテロダイン干渉測定装置3(図3)においてビーム生成部から出力された周期的な信号(正弦波に限られない。)を参照信号として用いるものである。この設定例では、参照信号の周期は測定信号の周期の4倍である。この設定例では、参照信号が極小値となるタイミングを各区間の始期とし、参照信号の1周期を各区間の長さとする。
【0117】
図14は、各区間の始期および長さの第7設定例について説明する図である。第7設定例は、光ヘテロダイン干渉測定装置2(図2)または光ヘテロダイン干渉測定装置3(図3)においてビーム生成部から出力された周期的な信号(正弦波に限られない。)を参照信号として用いるものである。この設定例では、参照信号の周期は測定信号の周期の2倍である。この設定例では、参照信号の値が増加していく際に第1閾値(この図では2500)に達するタイミング、および、参照信号の値が減少していく際に第2閾値(この図では3500)に達するタイミング、それぞれを各区間の始期とし、これらのタイミングの間を各区間とする。各区間の長さは、測定信号の1周期に等しいとは限らない。
【0118】
図15は、各区間の始期および長さの第8設定例について説明する図である。第8設定例は、光ヘテロダイン干渉測定装置2A(図4)において電圧波形発生器18からEOM17に印加される電圧信号を参照信号として用いるものである。この設定例では、電圧波形発生器18からEOM17に印加される電圧信号(参照信号)が極大値から極小値へ遷移するタイミングを各区間の始期とし、参照信号の1周期を各区間の長さとする。参照信号は、鋸歯状波の波形を有する周期信号である。参照信号の1周期は、測定信号の周期の整数倍に相当する。
【0119】
この図に示されるように、印加電圧信号(参照信号)が極大値から極小値へ遷移するタイミングにおいて、周波数シフト量が大きく変化してしまい、測定信号は理想的な正弦波形から大きくずれてしまう。このような周波数シフト量の変動に起因する理想的な正弦波形からの測定信号のずれが存在すると、リタデーションの測定精度は低下する。このような問題は、EOMを用いた構成だけでなく、音響光学変調器を用いた構成、光を2分岐して一方の分岐光を一定速度で移動するミラーで反射させた後に2つの分岐光を合波する構成、光を2分岐して一方の分岐光を一定速度で回転するラジアル回折格子により回折させた後に2つの分岐光を合波する構成、等においても存在する。このような問題を解消するため、第8設定例では、印加電圧信号(参照信号)が極大値から極小値へ遷移するタイミングを各区間の始期とし、参照信号の1周期を各区間の長さとする。このようにすることにより、測定精度の低下を抑制することができる。
【0120】
図17は、各区間の始期および長さの第9設定例について説明する図である。この設定例では、参照信号の周波数は測定信号の周波数の2倍である。参照信号は正弦波に限られない。この設定例では、参照信号が極小値となるタイミングを各区間の始期とし、参照信号の2周期を各区間の長さとする。
【0121】
各区間の始期の設定、各区間の長さの設定、および、これらの組合せとしては、上述した第1~第9の設定例の他、様々な態様が可能である。
【0122】
第1~第6の設定例では、図6のフローチャートに従った処理を行ってもよいし、このフローチャートのうちステップS3(各区間内の参照信号を正弦関数でフィッティング)およびステップS5(各区間内における測定信号および参照信号それぞれのフィッティング結果に基づいて位相差を算出)を行わなくてもよい。ステップS3,S5を行わない場合、ステップS4(各区間内の測定信号を正弦関数でフィッティング)により得られた位相φに基づいて、測定対象物に関する情報を取得すればよい。
【0123】
第6設定例(図13)では、図6のフローチャートに従った処理を行う場合、ステップS4(各区間内の測定信号を正弦関数でフィッティング)で用いる周波数fは、ステップS3(各区間内の参照信号を正弦関数でフィッティング)で求められた周波数fの4倍の周波数とすればよい。
【0124】
第7設定例(図14)および第8設定例(図15)では、参照信号が正弦波信号に対し大きく異なるので、図6のフローチャートのうちステップS3およびステップS5を行うことなく、ステップS4(各区間内の測定信号を正弦関数でフィッティング)により得られた位相φに基づいて測定対象物に関する情報を取得するのが好ましい。
【符号の説明】
【0125】
1,2,2A,2B,3…光ヘテロダイン干渉測定装置、10,10A,10B…ビーム生成部、11…レーザ光源、12…2分の1波長板、13…4分の1波長板、14…レーザドライバ、15…モータ、16…モータドライバ、17…電気光学変調器(EOM)、18…電圧波形発生器、19…直線偏光板、21…ビームスプリッタ、22…偏光ビームスプリッタ、31…ミラー、33…4分の1波長板、41…第1光検出器、42…直線偏光板、51…第2光検出器、52…直線偏光板、53…4分の1波長板、60…AD変換部、70…コンピュータ、90…測定対象物。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17