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特開2024-168884電子ドナー型光電変換材料、それを用いた光電変換素子、光センサおよび表示装置ならびに化合物。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168884
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電子ドナー型光電変換材料、それを用いた光電変換素子、光センサおよび表示装置ならびに化合物。
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/60 20230101AFI20241128BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20241128BHJP
   H10K 65/00 20230101ALI20241128BHJP
   H10K 85/30 20230101ALI20241128BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20241128BHJP
   H10K 30/20 20230101ALI20241128BHJP
【FI】
H10K30/60
C07F5/02 D
H10K65/00
H10K85/30
H10K85/60
H10K30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085914
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柴田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】北澤 大輔
【テーマコード(参考)】
3K107
4H048
5F149
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107AA03
3K107BB01
3K107CC36
3K107CC41
3K107EE68
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB91
4H048VA11
4H048VA32
4H048VA77
4H048VB10
5F149AA03
5F149AA04
5F149BA09
5F149BA21
5F149BA28
5F149BB03
5F149BB07
5F149BB08
5F149CB05
5F149CB06
5F149FA02
5F149FA04
5F149FA05
5F149GA02
5F149LA02
5F149XA01
5F149XA43
5F149XA55
(57)【要約】      (修正有)
【課題】緑色光領域に感度を有しながら耐熱性が高く、光電変換層においてp型半導体としての利用が可能な光電変換材料を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表される構造を有する電子ドナー型光電変換材料。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有する電子ドナー型光電変換材料。
【化1】
(上記一般式(1)中、R、R、RおよびRのうち1~3個は、それぞれ独立に下記一般式(2)で表される基であり、それ以外は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アミノ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
およびLは、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
【化2】
上記一般式(2)中、***は、炭素原子との結合部を示す。
およびR12は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
~R11は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。)
【請求項2】
前記一般式(2)において、RおよびR12が、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる、請求項1に記載の電子ドナー型光電変換材料。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R、R、RおよびRのうち、前記一般式(2)で表される基以外が、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれる、請求項1に記載の電子ドナー型光電変換材料。
【請求項4】
前記一般式(1)において、Rが、ハロゲン以外の基で置換されたアリール基、および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる、請求項1に記載の電子ドナー型光電変換材料。
【請求項5】
前記一般式(1)において、RおよびRが、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれ、RおよびRのうち少なくとも一つが前記一般式(2)で表される基である、請求項1に記載の電子ドナー型光電変換材料。
【請求項6】
前記一般式(1)において、RおよびRがそれぞれ独立に前記一般式(2)で表される基である、請求項5に記載の電子ドナー型光電変換材料。
【請求項7】
前記一般式(1)において、RおよびRの少なくとも一方が、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれる、請求項6に記載の電子ドナー型光電変換材料。
【請求項8】
前記一般式(1)において、LおよびLがフッ素原子である、請求項7に記載の電子ドナー型光電変換材料。
【請求項9】
陽極と陰極の間に光電変換層が存在し、光を電気エネルギーに変換する光電変換素子であって、前記光電変換層が請求項1~8のいずれかに記載の電子ドナー型光電変換材料を含有する光電変換素子。
【請求項10】
前記光電変換層がさらに電子アクセプター型光電変換材料を含有する、請求項9に記載の光電変換素子。
【請求項11】
請求項9または請求項10のいずれかに記載の光電変換素子を有する、光センサ。
【請求項12】
請求項11に記載の光センサと有機発光素子とを有し、前記有機発光素子の光を利用して生体情報を検知する機能を有する、表示装置。
【請求項13】
前記生体情報が指紋情報である、請求項12に記載の表示装置。
【請求項14】
前記生体情報が静脈情報である、請求項12に記載の表示装置。
【請求項15】
下記一般式(3)で表される化合物。
【化3】
(R13~R17のうち、少なくとも1つは、炭素原子数が2以上のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アミノ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれ、それ以外は水素原子である。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ドナー型光電変換材料、それを用いた光電変換素子、光センサおよび表示装置ならびに化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)やビッグデータが注目を集めており、それを支える様々なデータを取得するセンシング技術の重要度が増している。センシング技術には様々な方式が存在するが、中でも、光センシングは、対象波長を選択することによりセンシング対象を変更することができるなど、多様な用途展開が可能であり、有用性が高いセンシング技術である。
【0003】
光センサは、一般に、光を電気エネルギーに変換する光電変換素子と発光素子とを独立に備え、発光素子からの光を対象物に照射し、対象物を透過もしくは反射した光を光電変換素子で受光してセンシングする。このような光センサは、例えば、緑色光や赤色光、近赤外光を用いることにより、指紋や静脈の形状、血中酸素濃度などの生体情報を取得することが可能である。さらに、基板や発光素子、受光素子を主に有機物で形成することにより、薄型でフレキシブルなデバイスを構成することが可能である(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
一般に、有機太陽電池や有機光検出器などにおける光電変換素子に用いられる光電変換材料として、ピロメテン化合物が検討されている(例えば、特許文献1~3参照)。ピロメテン化合物は一般的に吸光係数が高く、置換基を選択することにより吸収波長領域を所望の範囲に設計することができる特長がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「サイエンス アドバンシズ(Science Advances)」、2016年、2巻、e1501856頁
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/119039号
【特許文献2】特開2021-125682号公報
【特許文献3】国際公開第2021/020246号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ディスプレイの大画面化のため、画面の縁(ベゼル)を小さくするベゼルレス化が進んでいる。ディスプレイのベゼルレス化に伴い、画面内にセンシング素子を設けることができ、発光素子から放射される青色光、緑色光、赤色光のうち特に緑色光を選択的に吸収し、青色光と赤色光は吸収しにくい光電変換材料が求められている。
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に記載されるピロメテン化合物は、緑色光領域に感度を有するものの、有機デバイスを製造する真空蒸着時や、その前段階の高純度化工程である昇華精製時に熱分解しやすい課題があった。また、光電変換層を構成する上で、電子供与の働きをするp型半導体としての利用は十分に検討されていない。
【0009】
そこで、本発明は、緑色光領域に感度を有しながら耐熱性が高く、光電変換層においてp型半導体としての利用が可能な光電変換材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成をとる。
[1]下記一般式(1)で表される構造を有する光電変換材料。
【0011】
【化1】
【0012】
上記一般式(1)中、R、R、RおよびRのうち1~3個は、それぞれ独立に下記一般式(2)で表される基であり、それ以外は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アミノ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
およびLは、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
【0013】
【化2】
【0014】
上記一般式(2)中、***は、炭素原子との結合部を示す。
およびR12は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
~R11は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
[2]前記一般式(2)において、RおよびR12が、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる、[1]に記載の電子ドナー型光電変換材料。
[3]前記一般式(1)において、R、R、RおよびRのうち、前記一般式(2)で表される基以外が、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれる、[1]または[2]に記載の電子ドナー型光電変換材料。
[4]前記一般式(1)において、Rが、ハロゲン以外の基で置換されたアリール基、および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれる[1]~[3]のいずれかに記載の電子ドナー型光電変換材料。
[5]前記一般式(1)において、RおよびRが、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれ、RおよびRのうち少なくとも一つが前記一般式(2)で表される基である、[1]に記載の電子ドナー型光電変換材料。
[6]前記一般式(1)において、RおよびRがそれぞれ独立に前記一般式(2)で表される基である、[1]~[5]のいずれかに記載の電子ドナー型光電変換材料。
[7]前記一般式(1)において、RおよびRの少なくとも一方が、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれる、[1]~[6]のいずれかに記載の電子ドナー型光電変換材料。
[8]前記一般式(1)において、LおよびLがフッ素原子である、[1]~[7]のいずれかに記載の電子ドナー型光電変換材料。
[9]陽極と陰極の間に光電変換層が存在し、光を電気エネルギーに変換する光電変換素子であって、前記光電変換層が[1]~[8]のいずれかに記載の電子ドナー型光電変換材料を含有する光電変換素子。
[10]前記光電変換層がさらに電子アクセプター型光電変換材料を含有する、[9]に記載の光電変換素子。
[11][9]または[10]のいずれかに記載の光電変換素子を有する、光センサ。
[12][11]に記載の光センサと有機発光素子とを有し、前記有機発光素子の光を利用して生体情報を検知する機能を有する、表示装置。
[13]前記生体情報が指紋情報である、[12]に記載の表示装置。
[14]前記生体情報が静脈情報である、[12]に記載の表示装置。
[15]下記化合物(3)で表される化合物。
【0015】
【化3】
【0016】
上記一般式(3)中、R13~R17のうち、少なくとも1つは、炭素原子数が2以上のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アミノ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれ、それ以外は水素原子である。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、緑色光領域に感度を有しながら耐熱性が高く、光電変換層においてp型半導体としての利用が可能な光電変換材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定さ れるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0019】
<光電変換材料>
本発明の実施の形態に係る光電変換材料は、電子ドナー型光電変換材料である。電子ドナー型光電変換材料とは、分子が光励起して生じる励起電子を他の分子に供与しやすい性質を有する材料を表す。例えば、後述のように光電変換層中に電子ドナー型光電変換材料(p型有機半導体材料)の対として存在し、電子受容の性質を有する電子アクセプター材料(n型有機半導体材料)に対して電子供与を行う。
【0020】
本発明の実施の形態に係る光電変換材料は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0021】
【化4】
【0022】
上記一般式(1)中、R、R、RおよびRのうち1~3個は、それぞれ独立に下記一般式(2)で表される基であり、それ以外は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
およびRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アミノ基、およびシリル基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
およびLは、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、およびシアノ基からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
【0023】
【化5】
【0024】
上記一般式(2)中、***は、炭素原子との結合部を示す。
およびR12は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
~R11は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、ハロゲン、アミノ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれる。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。
【0025】
一般式(1)において、R、R、RおよびRは、共役構造を延長し得ることから、吸収波長に寄与する基である。緑色光を選択的に吸収するには、一般式(1)で表される構造における共役の拡張を抑制することが好ましい。そこで、本発明においては、R、R、RおよびRのうち1~3個が一般式(2)で表される基である。一般式(2)で表される基は、RおよびR12の位置に置換基を有するため、一般式(1)で表される構造において、ピロメテン骨格部分の平面構造に対してねじれた構造をとる。そのため、一般式(2)で表される基は、アリール基でありながら、一般式(1)で表される構造における共役の拡張を抑制することができる。それによって、本発明の実施の形態に係る光電変換材料は、緑色光選択的な波長吸収特性を有する。
【0026】
蒸着温度低減と電気化学的安定性の観点から、RおよびR12は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、および隣接基との間に形成される環構造からなる群より選ばれることが好ましく、中でもアルキル基はより好ましい。
【0027】
、R、RおよびRのうち、一般式(2)で表される基以外の基は、前述のとおりであり、中でも、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれることが好ましい。
【0028】
およびRが、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれ、RおよびRのうち少なくとも一つが一般式(2)で表される基であることが好ましい。RおよびRは、合成の容易さの観点から上記の基が好ましく、中でも、水素原子、および置換もしくは無置換のアルキル基がより好ましい。
【0029】
また、吸収波長選択制向上と合成の容易さの観点から、RおよびRの両方がそれぞれ独立に一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【0030】
およびRの少なくとも一方は、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれることが好ましく、化合物の安定性と合成の容易さの観点から、RおよびRの両方が、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、および置換もしくは無置換のシクロアルキル基からなる群より選ばれることがより好ましい。
【0031】
一般式(1)で表される構造において、Rで置換される部位を以下「橋頭位」と称する場合がある。電気的安定性または熱的安定性の観点から、Rは、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれることが好ましい。耐熱性向上と薄膜状態における分子間相互作用による電荷授受の観点から、Rは、置換もしくは無置換のアリール基、および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれることがより好ましい。具体的には、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のナフチル基、置換もしくは無置換のフェナントリル基、置換もしくは無置換のジベンゾフラニル基が挙げられ、置換もしくは無置換のフェニル基、および置換もしくは無置換のナフチル基がより好ましい。またここでの置換基としてハロゲン原子は以下にて説明するp型半導体としての電子供与性を損ねる観点から除かれる。したがって、Rが、ハロゲン以外の基で置換されたアリール基、および置換もしくは無置換のヘテロアリール基からなる群より選ばれることが好ましい。
【0032】
およびLは、発光特性と熱的安定性の観点から、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、アリールエーテル基、ハロゲンおよびシアノ基からなる群より選ばれることが好ましい。LおよびLは、それぞれ同じでも異なっていてもよいが、合成の容易さの観点から、同一であることが好ましく、ともにフッ素原子であることがより好ましい。
【0033】
上記の全ての基において、水素原子は重水素原子であってもよい。以下に説明する化合物またはその部分構造においても同様である。
【0034】
また、上記の全ての基において、置換される場合における置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、水酸基、ハロゲン、シアノ基、アミノ基、シリル基が好ましく、さらには、各置換基の説明において好ましいとする具体的な置換基が好ましい。また、これらの置換基は、さらに上述の置換基により置換されていてもよい。ただし、前記一般式(1)のRで置換されるアリール基もしくはヘテロアリール基に置換される場合においては、p型半導体としての電子供与性を損ねる観点から電子求引性基に代表されるハロゲン、シアノ基は該当しない。
【0035】
また、上記の全ての基において、「無置換」とは、対象となる基本骨格または官能基に結合する原子が水素原子または重水素原子のみであることを意味する。
【0036】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換されている場合の追加の置換基には特に制限は無く、例えば、アルキル基、ハロゲン、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0037】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0038】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0039】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上20以下の範囲である。
【0040】
アリール基とは、単環もしくは縮合環のいずれでもよく、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などの芳香族炭化水素基を示す。中でも、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。アリール基は、置換されていても無置換でもよい。ここで本発明では、ビフェニル基、ターフェニル基など複数のフェニル基が単結合を介して結合している基は、アリール基を置換基として有するフェニル基として扱うものとする。環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。また、フェニル基においては、そのフェニル基中の隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。
【0041】
ヘテロアリール基とは、単環もしくは縮合環のいずれでもよく、例えば、ピリジル基、フラニル基、チオフェニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などの、炭素および水素以外の原子、すなわちヘテロ原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示す。ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、または硫黄原子であることが好ましい。ヘテロアリール基は置換されていても無置換でもよい。環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上40以下、より好ましくは2以上30以下の範囲である。
【0042】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介して芳香族炭化水素基が結合した基を示し、芳香族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0043】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールチオエーテル基における芳香族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。アリールチオエーテル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0044】
ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選ばれる原子を示す。
【0045】
シアノ基とは、構造が-C≡Nで表される基である。ここで他の基と結合するのは炭素原子である。
【0046】
アミノ基とは、置換もしくは無置換のアミノ基である。置換する場合の置換基としては、例えば、アリール基、ヘテロアリール基、直鎖アルキル基、分岐アルキル基が挙げられる。アリール基、ヘテロアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、キノリニル基が好ましい。これら置換基はさらに置換されてもよい。炭素数は特に限定されないが、好ましくは、2以上50以下、より好ましくは6以上40以下、特に好ましくは6以上30以下の範囲である。
【0047】
シリル基とは、置換もしくは無置換のケイ素原子が結合した基を示し、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基などのアルキルシリル基や、フェニルジメチルシリル基、tert-ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、トリナフチルシリル基などのアリールシリル基を示す。ケイ素上の置換基はさらに置換されてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは、1以上30以下の範囲である。
【0048】
一般式(1)で表される、ピロメテン骨格を有する化合物の一例を以下に示すが、これ に限定されるものではない。
【0049】
【化6】
【0050】
【化7】
【0051】
【化8】
【0052】
【化9】
【0053】
【化10】
【0054】
【化11】
【0055】
一般式(1)で表される骨格を有する化合物は、例えば、J.Org.Chem.,vol.64,No.21,pp.7813-7819(1999)、Angew.Chem.,Int.Ed.Engl.,vol.36,pp.1333-1335(1997)、Org.Lett.,vol.12,pp.296(2010)などに記載されている方法を参考に製造することができる。
【0056】
さらに、一般式(1)で表される骨格にアリール基やヘテロアリール基を導入する方法としては、例えば、パラジウムなどの金属触媒下、ピロメテンホウ素錯体のハロゲン化誘導体とボロン酸またはボロン酸エステル誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-炭素結合を生成する方法などが挙げられる。また、ピロメテン骨格にアミノ基やカルバゾリル基を導入する方法としては、例えば、パラジウムなどの金属触媒下、ピロメテンホウ素錯体のハロゲン化誘導体とアミンまたはカルバゾール誘導体とのカップリング反応を用いて炭素-窒素結合を生成する方法などが挙げられる。
【0057】
一般式(1)で表される化合物は、再結晶やカラムクロマトグラフィーなどの有機合成的な精製を行った後、さらに、一般的に昇華精製と呼ばれる減圧加熱による精製により低沸点成分を除去し、純度を向上させることが好ましい。昇華精製における加熱温度は特に限定されないが、化合物の熱分解を防ぐ観点から、330℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。精製によって得られた化合物の純度は、素子特性の安定化の観点から、99重量%以上が好ましい。
【0058】
一般式(1)で表される骨格を有する化合物の吸収スペクトルにおいて、緑色光の吸収強度を高める観点から、ピーク波長は480nm以上580nm以下であることが好ましい。ここで、一般式(1)で表される骨格を有する化合物の吸収スペクトルは、トルエンを溶媒とする濃度10-5mol/Lの希釈溶液を用いて、紫外可視分光光度計を用いて測定することができる。
【0059】
ピーク波長を上記範囲にするために、R、R、RおよびRのうち1~3個は、一般式(2)で表される基であり、RおよびR12は、それぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、および隣接基との間に形成される環構造からなる群より選ばれることが好ましい。
【0060】
<光電変換素子>
本発明の実施の形態に係る光電変換素子は、陽極と陰極の間に光電変換層が存在し、光を電気エネルギーに変換する光電変換素子であって、光電変換層に上述の電子ドナー型光電変換材料を含有する。
【0061】
光電変換層は、2種類以上の光電変換材料を含むことが好ましく、例えば、一般式(1)で表される構造を有する光電変換材料を電子供与性の特性を有する電子ドナー型光電変換材料(p型有機半導体)として利用し、その対として電子受容性の特性を有する電子アクセプター型光電変換材料(n型有機半導体)と組み合わせることが好ましい。すなわち、光電変換層が、一般式(1)で表される構造を有する電子ドナー型光電変換材料(以下、単に「電子ドナー材料」という場合がある)と、電子アクセプター型光電変換材料(以下、単に「電子アクセプター材料」という場合がある)とを含有することがより好ましい。
【0062】
電子ドナー材料と電子アクセプター材料とはHOMO-LUMO準位が互いに異なる。上記のように、一般式(1)で表される構造を有する電子ドナー型光電変換材料とHOMO-LUMO準位が異なる電子アクセプター材料と組み合わせることにより、光を吸収して生成する励起子が異種材料界面で効率的に電荷分離・電荷解離するため、光電変換効率をより高めることができる。光電変換素子において電子はよりエネルギーの低い準位に流れる観点から、電子ドナー材料はその最低空軌道LUMOの絶対値が電子アクセプター材料のLUMOの絶対値よりも同等かあるいは小さい(LUMO≦LUMO)ことが好ましい。ただし、光電変換素子に印加する電圧の大きさによってLUMO>LUMOの条件でも光電変換効果が表れる場合もある。LUMO>LUMOであるとき、LUMOとLUMOとの差は1eV以下が好ましく、0.5eV以下がより好ましい。
【0063】
電子アクセプター材料としては、例えば1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(NTCDA)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(PTCDA)、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボキシリックビスベンズイミダゾール(PTCBI)、N,N'-ジオクチル-3,4,9,10-ナフチルテトラカルボキシジイミド(PTCDI-C8H);2-(4-ビフェニリル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、2,5-ジ(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール(BND)等のオキサゾール誘導体、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、フラーレン化合物、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリ-p-フェニレンビニレン系重合体にシアノ基を導入した誘導体(CN-PPV)などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0064】
中でも、フラーレン化合物は電荷分離速度と電子移動速度が速いため、好ましく用いられる。フラーレン化合物としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94を始めとする無置換のもの、[6,6]-フェニル C61 ブチリックアシッドメチルエステル([6,6]-PCBM)、[5,6]-フェニル C61 ブチリックアシッドメチルエステル([5,6]-PCBM)、[6,6]-フェニル C61 ブチリックアシッドヘキシルエステル([6,6]-PCBH)、[6,6]-フェニル C61 ブチリックアシッドドデシルエステル([6,6]-PCBD)、フェニル C71 ブチリックアシッドメチルエステル(PC70BM)、フェニル C85 ブチリックアシッドメチルエステル(PC84BM)などが挙げられる。
【0065】
光電変換層は、一般式(1)で表される構造を有する電子ドナー型光電変換材料いがいの電子ドナー材料をさらに含んでいてもよい。その場合の電子ドナー材料としては、例えば、ターチオフェン、クウォーターチオフェン、セキシチオフェン、オクチチオフェンなどのオリゴチオフェン化合物、フェニレンビニレン系化合物、p-フェニレン系化合物、ポリフルオレン系化合物、化合物H2フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)等のフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン(TPD)、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン(NPD)等のトリアリールアミン誘導体、4,4’-ジ(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0066】
光電変換層が2種類以上の光電変換材料を含む場合、これらの材料は一層の中で混合されていてもよいし、各光電変改材料を含む層が積層されていてもよいが、整流性の観点から、積層されていることが好ましい。
【0067】
積層されている場合は、電子ドナー材料を含む層が陽極側、電子アクセプター材料を含む層が陰極側に位置することが好ましい。また、積層されている場合、積層界面に混合層(i層)を有してもよい。このような構成はp-i-n構造と呼ばれており、i層が主に電荷分離を担い、p層とn層がそれぞれ主に正孔輸送と電子輸送を担うことにより、光電変換効率をより高めることができる。
【0068】
混合されている場合は、一般式(1)で表される構造を有する光電変換材料と組み合わせる材料が分子レベルで相溶しているか、もしくは、ナノレベルで相分離していることが好ましい。相分離している場合、相分離構造のドメインサイズは、1nm以上50nm以下が好ましい。
【0069】
光電変換層の厚さは、10nm~500nmが好ましく、より好ましくは20nm~100nmである。光電変換層が積層構造からなる場合は、上記光電変換層全体の厚さのうち、一般式(1)で表される構造を有する光電変換材料を含む層の厚さおよび積層される層の厚さは、それぞれ5nm~495nmが好ましく、より好ましくは10nm~50nmである。積層界面に混合層(i層)を有する場合、i層の厚さは、1nm~100nmが好ましく、より好ましくは5nm~50nmである。
【0070】
光電変換素子においては、陽極および/または陰極が光透過性を有することが好ましい。電極の光透過性は、光電変換層に入射光が到達して起電力が発生する程度であれば、特に限定されるものではない。ここで、光透過性とは、[透過光強度(W/m)/入射光強度(W/m)]×100(%)で求められる値(これを「光透過度」という)から示される指標である。本発明では、350nm以上の波長において光透過度が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。光透過性を有する電極の厚さは、光透過性と導電性とを有する範囲であればよく、電極素材によって異なるが、20nm~300nmが好ましい。なお、もう一方の電極は、導電性があれば必ずしも光透過性は必要ではなく、厚さも特に限定されない。
【0071】
電極に用いられる材料としては、一方の電極には仕事関数の大きな導電性素材、もう一方の電極には仕事関数の小さな導電性素材を使用することが好ましい。
【0072】
異なる材料で電極を作製する場合、仕事関数の大きな導電性素材を用いた電極は陽極として用いることが好ましい。仕事関数の大きな導電性素材としては、例えば、金、白金、クロム、ニッケルなどの金属のほか、透明性を有するインジウム、スズ、モリブデンなどの金属酸化物、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などの複合金属酸化物などが好ましく用いられる。
【0073】
ここで、陽極に用いられる導電性素材は、光電変換層とオーミック接合するものであることが好ましい。さらに、後述するように、陽極と光電変換層の間に正孔輸送層を設けた場合においては、陽極に用いられる導電性素材は、正孔輸送層とオーミック接合するものであることが好ましい。
【0074】
陽極の形成方法は、その形成材料に応じて最適な方法を選択することができるが、例えば、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法などが挙げられる。例えば、金属酸化物によって陽極を形成する場合にはスパッタ法、金属によって陽極を形成する場合には蒸着法が好ましく用いられる。
【0075】
異なる材料で電極を作製する場合、仕事関数の小さな導電性素材を用いた電極は陰極として用いることが好ましい。仕事関数の小さな導電性素材としては、例えば、リチウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、錫や銀、アルミニウムなどや、これらの合金などが好ましく用いられる。これらを2種以上用いた積層体であってもよい。
【0076】
ここで、陰極に用いられる導電性素材は、光電変換層とオーミック接合するものであることが好ましい。さらに、後述するように、陰極と光電変換層の間に電子輸送層を設けた場合においては、陰極に用いられる導電性素材は、電子輸送層とオーミック接合するものであることが好ましい。また、陰極と電子輸送層の界面に、フッ化リチウムやフッ化セシウムなどの金属フッ化物を導入することにより、取り出し電流を向上させることも可能である。
【0077】
陰極の形成方法は、その形成材料に応じて最適な方法を選択することができるが、例えば、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法などが挙げられる。例えば、金属酸化物によって陰極を形成する場合にはスパッタ法、金属によって陽極を形成する場合には蒸着法が好ましく用いられる。
【0078】
光電変換素子の機械的強度を保ち、熱変形を抑制し、光電変換層への水蒸気や酸素の侵入を抑制するバリア性を付与するために、光電変換素子を基板上に形成することが好ましい。基板としては、例えば、ガラス板、セラミック板、樹脂フィルム、ワニスを硬化した樹脂薄膜、金属製薄板などが挙げられる。これらの中でも、透明であり、加工が容易である観点から、ガラス基板が好適に用いられる。また、主にスマートフォンなどのモバイル機器において、フレキシブルディスプレイやフォルダブルディスプレイが増加しており、この用途には、樹脂フィルムや樹脂薄膜が好適例えば、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどの耐熱フィルムが挙げられる。
【0079】
本発明の実施の形態に係る光電変換素子は、陽極と光電変換層の間に正孔輸送層を設けてもよい。正孔輸送層を形成する材料としては、上述のオリゴチオフェン化合物、フェニレンビニレン系化合物、p-フェニレン系化合物、ポリフルオレン系化合物、H2フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)等のフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン(TPD)、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミン(NPD)等のトリアリールアミン誘導体、4,4’-ジ(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体や、酸化モリブデン、酸化タングステンなどのp型半導体性を示す金属酸化物が挙げられる。正孔輸送層の厚さは、1nm~200nmが好ましく、より好ましくは5nm~100nmである。
【0080】
さらに、本発明の実施の形態に係る光電変換素子は、陽極と正孔輸送層の間に正孔取り出し層を設けてもよい。正孔取り出し層を形成する材料としては、例えば、トリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)などの電荷移動錯体、1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレン-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN6)、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体、フッ素化銅フタロシアニンなどが挙げられる。
【0081】
また、本発明の実施の形態に係る光電変換素子は、光電変換層と陰極の間に電子輸送層を設けてもよい。電子輸送層を形成する材料としては、例えば、上述のn型有機半導体の他、多環芳香族誘導体、スチリル系芳香環誘導体、キノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられる。
【0082】
電子輸送効率をより向上させる観点から、電子輸送層には、電子受容性窒素を含むヘテロアリール基を有する化合物を用いることが好ましい。ここで、電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。電子受容性窒素を含むヘテロアリール基は、電子親和力が大きいため、電子を輸送しやすくなり、より光電変換効率向上に寄与する。
【0083】
電子受容性窒素を含むヘテロアリール基構造を有する化合物としては、例えば、ピリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、キナゾリン誘導体、ナフチリジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、フェナンスロイミダゾール誘導体、ビピリジンやターピリジンなどのオリゴピリジン誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0084】
また、電子輸送材料が縮合多環芳香族骨格を有していると、ガラス転移温度が向上し、電子移動度が大きいためより好ましい。このような縮合多環芳香族骨格としては、キノリノール錯体、トリアジン誘導体、フルオランテン骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格またはフェナントロリン骨格が好ましい。
【0085】
電子輸送層は、電子ドナー性材料を含有してもよい。ここで、電子ドナー性材料とは、電子輸送層の電気伝導性を向上させる化合物である。電子ドナー性材料の好ましい例としては、Liなどのアルカリ金属、LiFなどのアルカリ金属を含有する無機塩、リチウムキノリノールなどのアルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩、アルカリ土類金属と有機物との錯体、EuやYbなどの希土類金属、希土類金属を含有する無機塩、希土類金属と有機物との錯体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、金属リチウム、希土類金属、リチウムキノリノール(Liq)が好ましい。
【0086】
電子輸送層の厚さは、1nm~200nmが好ましく、より好ましくは5nm~100nmである。
【0087】
光電変換素子を構成する上記各層の形成方法は、ドライプロセスまたはウェットプロセスのいずれでもよく、例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法、インクジェット法、印刷法などが挙げられる。これらの中でも、素子特性の観点から、抵抗加熱蒸着が好ましい。
【0088】
本発明の実施の形態に係る光電変換素子は、光を電気エネルギーに変換できる機能を有する。本発明の実施の形態に係る光電変換素子は、波長の異なる緑色光を高効率に光電変換させる観点から、光電変換層の吸収スペクトルにおいて、吸収ピーク波長が480nm以上580nm以下、半値幅が30nm以上140nm以下であることが好ましく、吸収ピーク波長が500nm以上570nm以下、半値幅が35nm以上130nm以下であることがより好ましい。
【0089】
<光センサ>
本発明の実施の形態に係る光電変換素子は、緑色光を選択的かつ高効率に光電変換する機能を利用した種々の電子デバイス、光センシングデバイスへの応用が可能である。例えば、光センサ、光スイッチ、撮像素子として利用することができ、指紋、静脈、脈波、血中酸素濃度等の生体情報を高感度で取得することができる。
【0090】
本発明における生体情報としては、生体から得られる情報であれば特に限定されるものではないが、生体に放射光を照射し、その反射光または透過光として得られる情報や生体からの発光として得られる情報が挙げられる。また、測定する目的物としては、前記の指紋、静脈、脈波、血中酸素濃度以外にも、例えば、虹彩、顔の形状、肌の乾燥度、血糖値が挙げられる。
【0091】
また、近年、携帯電話やタブレット端末などの表示機能を有した通信機器にあってはセキュリティ機能の向上のために生体認証機能を持つものが多くなっているところ、本発明の光センサは、表示装置の指紋認証デバイスとして用いることが好ましい。その一態様としては、本発明の実施の形態に係る光センサと有機発光素子を組み合わせて用い、有機発光素子の光を利用して指紋認証する表示装置に具備せしめたものを挙げることができる。例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示する有機ELディスプレイの画素の一部を、本発明の光電変換素子により構成することにより、有機ELディスプレイに指紋認証機能を付与することができる。
【0092】
前記のとおり、本発明の実施の形態に係る光センサは、緑色光に対する光電変換特性に優れているので、緑色の光源と組み合わせて用いることで精度や感度良くセンシングを行うことが可能である。
【0093】
例えば、有機ELディスプレイの有機発光素子から発せられる緑色光がディスプレイに触れた指により反射・散乱された光を、本発明の実施の形態に係る光センサにより受光・光電変換することにより、指紋情報を高精度に取得することができる。
【0094】
また、上記のように有機ELディスプレイの画素の一部を、本発明の実施の形態に係る光センサにより構成することにより、有機ELディスプレイにバイオセンシング機能を付与することができる。すなわち、有機ELディスプレイの有機発光素子から発せられる緑色光がディスプレイに触れた指により吸収・散乱された光を、本発明の光電変換素子により受光・光電変換することにより、静脈、脈波、血中酸素濃度等の生体情報を高精度に取得することができる。
【0095】
なお、本発明の実施の形態に係る化合物として、下記一般式(3)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0096】
【化12】
【0097】
上記一般式(3)中、R13~R17のうち、少なくとも1つは、炭素原子数が2以上のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アミノ基、シリル基、および隣接基との間の環構造からなる群より選ばれ、それ以外は水素原子である。これらの基はさらに置換基を有していてもよい。R13~R17のうち、少なくとも1つは、中でも、アルキル基、アルコキシ基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選ばれることが好ましく、耐熱性の観点から、アルキル基およびアリール基がより好ましい。
【0098】
一般式(3)で表される化合物は、蒸着安定性と薄膜の耐熱性を両立する材料であり、上記に説明した光センサの他にも、有機発光素子、有機トランジスタ、有機薄膜太陽電池、バイオセンサー等の用途にも用いることができる。
【実施例0099】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0100】
まず、各実施例および比較例における評価方法を以下に記載する。
【0101】
H-NMR)
実施例1により得られたピロメテンホウ素錯体について、超伝導FT-NMR JNM-ECZ400R(日本電子(株)製)を用いて、重クロロホルム溶液にて、H-NMR測定を行い、化学構造を同定した。
【0102】
(薄膜吸収特性)
3cm角の石英板を、UVオゾン洗浄機(セン特殊光源製)を用いて10分間表面洗浄した。続いて、蒸着機を用いて、各実施例により得られたピロメテンホウ素錯体および比較例により得られたピロメテンをそれぞれ成膜速度10nm/sの条件で蒸着し、厚さ30nmの薄膜を作製した。得られた薄膜について、(株)日立ハイテクサイエンス製の分光光度計(U-3010)を用いて吸収スペクトルを測定しピーク波長および半値幅を求めた。
【0103】
また、得られた吸収スペクトルの長波長側の立ち下がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を次に示す換算式2に代入して、エネルギーギャップEgを算出した。
換算式2:Eg[eV]=1239.85/λedge
また、吸収スペクトルから得られた吸光度Aと膜厚xを次に示す換算式3に代入して、吸収係数αを求めた。
換算式3:α[m-1]=A/log10(e/x)[m]。
【0104】
(分光感度ピークの測定)
各実施例および比較例によって得られた光センサについて、大気中、ガラス基板側から波長400nmから700nmまで1nmごとに単色光を照射し、分光感度測定装置(分光計器(株)製、ハイパーモノライトシステム、SM-250型)を用いて、-3Vにおける外部量子効率と分光感度ピーク波長を測定した。
【0105】
(実施例1)
化合物A-1の合成
以下の反応は窒素雰囲気下で行った。ピロール(化合物A-1A、11.9g)をn-オクタンに溶解させ、ビスピナコールジボラン(15.0g)、クロロ(1,5-シクロオクタジエン)イリジウムダイマー(0.60g)、4,4-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジピリジル(0.48g)を加えた後、80℃にて6時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却し、セライトにてろ過をした後、ろ液を減圧濃縮し、化合物A-1Bを粗生成物として得た。
【0106】
以下の反応は窒素雰囲気下で行った。上記で得られた化合物A-1Bの粗生成物を1,2-ジメトキシエタン(236mL)に溶解させ、メシチルブロマイド(47.0g)、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロリド(2.49g)、リン酸三カリウムを(30.1g)を加え、80℃にて5時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却し、セライトにてろ過をした後、ろ液を減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン/ヘプタン、1:3)にて精製し、化合物A-1Cを7.70g(化合物A-1Aからの2工程収率35%)得た。
【0107】
以下の反応は窒素雰囲気下で行った。3,5-ジブロモベンズアルデヒド(化合物A-1D、20.0g)をトルエン(189mL)に溶解させ、フェニルボロン酸(10.2g)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(1.31g)、炭酸カリウム(6,65g)、水(24mL)を加え、加熱還流下4時間攪拌した。反応溶液を室温まで冷却し、セライトにてろ過をした後、ろ液を減圧濃縮した。得られた残渣をトルエンにて再結晶精製をすることで化合物A-1Eを11.2g(57%)得た。
【0108】
以下の反応は窒素雰囲気下で行った。化合物A-1C(3.16g)をトルエンに溶解させ、化合物A-1E(2.00g)とトリフルオロ酢酸(パスツールピペットにて1滴)を加え、室温にて4時間攪拌した。続いて2,3-ジクロロ-5、6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(1.58g)を加え室温にて2時間攪拌した。反応溶液を水(30ml)にてクエンチし、トルエンにて抽出、抽出液を乾燥させた後、減圧濃縮した。得られた粗生成物を塩化メチレン(39mL)に溶解させ、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(7.78mL)、ジイソプロピルエチルアミン(10.5mL)を加え、室温にて4時間攪拌した。反応溶液を水(50mL)でクエンチし、塩化メチレンで抽出した後、抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥した。抽出液を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン/ヘプタン、1:2)にて精製することで、化合物A-1を橙色粉末として3.95g(化合物A-1Cからの3工程収率78%)得た。
【0109】
得られた粉末のH-NMRの分析結果は次の通りであり、上記で得られた橙色粉末が化合物A-1であることを確認した。
H-NMR(CDCl (d=ppm)):8.03(t,1H),7.90(d,2H),7.76(dd,4H),7.52(td,4H),7.43(t,2H),7.06(d,2H),6.84(s,4H),6.30(d,2H),2.28(s,6H),2.13(s,12H)
【0110】
【化13】
【0111】
さらに化合物の純度を上げるために昇華精製を行った。LC-MS純度99.0%以上の化合物A-1(5.80g)の入った金属容器をガラス管中に設置し、油拡散ポンプを用いて3.6×10-3Paの圧力下、263℃で加熱して昇華させた。ガラス管壁に付着した固体を5.08g回収し、LC-MSにより分析したところ、純度99.9%であった。
【0112】
昇華精製後のA-1について、前述の方法により薄膜吸収特性評価した結果を以下に示す。
吸収スペクトル(薄膜):λmax 530nm 半値幅:39nm
【0113】
続いて、化合物A-1を緑色光吸収材として用いた光センサを作製した。陽極としてITO電極層を膜厚125nm有する、46mm×38mmの透明ガラス基板を用意した。この基板を、純水に浸し10分間超音波洗浄した後、イソプロピルアルコールによる10分間の超音波洗浄を行い、十分に乾燥した。その後、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0114】
続いて、基板のITO電極層上に、ポリ4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)とイソプロピルアルコールを体積比6:4で混合した溶液を、3,000rpmで30秒間スピンコートし、150℃のホットプレートで10分間、加熱処理し、厚さ55nmの正孔取り出し層を形成した。
【0115】
正孔取り出し層を形成した基板を、真空蒸着装置((株)エイコー・エンジニアリング製)に設置し、約3×10-3Paまで減圧した。正孔取り出し層上に、正孔輸送層としてN-[1,1’-ビフェニル]-4-イル-9,9-ジメチル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-9H-フルオレン-2-アミン(60nm)を蒸着し、正孔輸送層を形成した。次いで、p型有機半導体としてA-1(23nm)、n型有機半導体としてフラーレン(C60、23nm)をそれぞれ蒸着し、光電変換層を形成した。
【0116】
真空蒸着装置を一度大気開放した後、蒸着源を入れ替え、再び約3×10-3Paまで減圧した。光電変換層上に、リチウムキノリノール(7.5nm)とアルミニウム(72nm)を順次蒸着し、電子輸送層と陰極をそれぞれ形成した。得られた積層体を、グローブボックス内において、バリアフィルム(TESA製)により封止し、光センサを得た。
【0117】
得られた光センサについて、前述の方法により評価したところ、緑色光領域に感度を示し、外部量子効率は8.0%、その時の分光感度ピーク波長は526nmであった。
【0118】
(実施例2)
化合物A-1の代わりに化合物A-2を緑色吸収材として用いたこと以外、実施例1と同様に光センサを作製した。
【0119】
得られた光センサについて、前述の方法により評価をしたところ、緑色吸収領域に感度を示し、外部量子効率は7.6%、その時の分好感度ピーク波長は512nmであった。
【0120】
(比較例1)
化合物A-1の代わりに化合物B-2を緑色吸収材として用いたことと、アルミニウムの膜厚を26nmに変更させたこと以外、実施例1と同様に光センサを作製した。
【0121】
得られた光センサについて、前述の方法により評価をしたところ、緑色吸収領域に感度を示し、外部量子効率は0.6%、その時の分好感度ピーク波長は520nmであった。
【0122】
【化14】