(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168887
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】プレス成形品形状解析方法、金型データ作成方法、プレス成形品の製造方法、プレス成形品形状解析プログラム及びプレス成形品形状解析システム
(51)【国際特許分類】
B21D 22/00 20060101AFI20241128BHJP
B21D 37/20 20060101ALI20241128BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20241128BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20241128BHJP
G06F 113/22 20200101ALN20241128BHJP
【FI】
B21D22/00
B21D37/20 Z
G06F30/10 100
G06F30/23
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085918
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】澤 靖典
【テーマコード(参考)】
4E050
4E137
5B146
【Fターム(参考)】
4E050JD03
4E137AA10
4E137AA21
4E137BB01
4E137CB01
4E137EA01
4E137GA01
4E137GB02
4E137GB11
5B146AA06
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】プレス成形解析の精度を向上させる。
【解決手段】プレス成形品形状解析方法は、初期金型データ取得ステップS1と、初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データを取得する試作品データ取得ステップS2と、試作品ワークを、初期金型データが示す初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における試作品ワークの下死点応力分布を計算する下死点応力分布計算ステップS3と、下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される形状を有する解析対象ワークに適用した場合の解析対象ワークの変形を計算することで、解析対象金型でプレス成形されたプレス成形品の形状を計算する成形品形状計算ステップS4と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより実行されるプレス成形品形状解析方法であって、
初期金型の形状を示す初期金型データを取得する初期金型データ取得ステップと、
前記初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データを取得する試作品データ取得ステップと、
前記試作品データが示す前記試作品の形状を有する試作品ワークを、前記初期金型データが示す前記初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における前記試作品ワークの下死点応力分布を計算する下死点応力分布計算ステップと、
前記下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される形状を有する解析対象ワークに適用した場合の前記解析対象ワークの変形を計算することで、前記解析対象金型でプレス成形されたプレス成形品の形状を計算する成形品形状計算ステップと、を有する、プレス成形品形状解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス成形品形状解析方法であって、
前記解析対象金型の形状は、前記初期金型を修正した形状である、プレス成形品形状解析方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプレス成形品形状解析方法であって、
前記初期金型データは、計測された前記実金型の形状を示すデータである、プレス成形品形状解析方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のプレス成形品形状解析方法であって、
前記成形品形状計算ステップでは、前記下死点応力分布を、前記解析対象ワークの一部に適用し、他の部分には、前記解析対象金型を用いたプレス成形の解析により計算された応力分布を適用した場合の前記解析対象ワークの変形を計算する、プレス成形品形状解析方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のプレス成形品形状解析方法であって、
前記成形品形状計算ステップでは、前記下死点応力分布を、前記解析対象ワークの全体に適用した場合の前記解析対象ワークの変形を計算する、プレス成形品形状解析方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のプレス成形品形状解析方法を含む金型データ作成方法であって、
コンピュータが、前記成形品形状計算ステップで計算された前記プレス成形品の形状と目標形状との比較に基づいて前記解析対象金型を修正する金型修正ステップを有する、金型データ作成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の金型データ作成方法であって、
前記金型修正ステップで修正された前記解析対象金型を用いて、前記成形品形状計算ステップ及び前記金型修正ステップを、繰り返し実行する、金型データ作成方法。
【請求項8】
請求項7に記載の金型データ作成方法であって、
前記成形品形状計算ステップ及び前記金型修正ステップの繰り返しにおいて、同じ前記下死点応力分布が繰り返し用いられる、金型データ作成方法。
【請求項9】
請求項6に記載の金型データ作成方法であって、
前記解析対象ワークは、外装パネルである、金型データ作成方法。
【請求項10】
請求項6に記載の金型データ作成方法を含むプレス成形品の製造方法であって、
前記金型修正ステップで修正された前記解析対象金型の形状を有する本金型を作製する金型作製ステップと、
前記本金型を用いてワークをプレス成形することでプレス成形品を作製するプレス成形ステップと、を有する、プレス成形品の製造方法。
【請求項11】
初期金型の形状を示す初期金型データを取得する初期金型データ取得処理と、
前記初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データを取得する試作品データ取得処理と、
前記試作品データが示す前記試作品の形状のワークを、前記初期金型データが示す前記初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における前記ワークの下死点応力分布を計算する下死点応力分布計算処理と、
前記下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される形状を有する解析対象ワークに適用した場合の前記解析対象ワークの変形を計算することで、前記解析対象金型でプレス成形されたプレス成形品の形状を計算する成形品形状計算処理と、コンピュータに実行させる、プレス成形品形状解析プログラム。
【請求項12】
初期金型の形状を示す初期金型データを取得する初期金型データ取得部と、
前記初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データを取得する試作品データ取得部と、
前記試作品データが示す前記試作品の形状のワークを、前記初期金型データが示す前記初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における前記ワークの下死点応力分布を計算する下死点応力分布計算部と、
前記下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される形状を有する解析対象ワークに適用した場合の前記解析対象ワークの変形を計算することで、前記解析対象金型でプレス成形されたプレス成形品の形状を計算する成形品形状計算部と、を備える、プレス成形品形状解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型を用いたプレス成形の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、プレス装置は、一対以上の金型の間にプレス対象材を配置して、一対以上の金型を互いに近づけることで、プレス対象材を金型の加工面の形に応じた形状にプレス成形する。プレス対象材、例えば、自動車ドアのアウタパネルをプレス成形によって加工した際、スプリングバックによってドアハンドルの周辺部位に面ひずみが生じる問題がよく知られている。面ひずみは、プレス対象材に微小な凹凸(極微小なしわ)が生じる欠陥であり、一般に、プレス成形によって形状が急激に変化する部位に生じやすい。面ひずみは、製品の品質低下の原因となる。
【0003】
面ひずみを抑制する対策として、例えば以下の方法が知られている。一つ目は、プレス成形品の目標形状に応じてプレス成形中の応力の比率を制御することにより、面ひずみの発生を抑制する方法である。二つ目は、面ひずみが発生しやすい周辺部位を、一対の金型でより強く加圧することにより、面ひずみの発生を抑制する方法である。3つ目は、面ひずみの発生を見込んで面ひずみが発生しにくくなる形状(見込みの金型形状)を金型の加工面に予め付与することにより、面ひずみの発生を抑制する方法である。この3つ目の方法について、成形シミュレーションによって予め面ひずみの発生を予測したり、見込みの金型形状を決定したりする方法が開示されている。
【0004】
特許第5070859号公報(特許文献1)では、自動車用ドアアウターパネルの面ひずみ予測・評価方法が開示されている。面ひずみ予測・評価方法は、コンピュータを用いたシミュレーションにより、自動車用ドアアウターパネルの対象領域の弾性回復量を解析することに着目し、対象領域のプレス成形品の面ひずみの発生度合いを予測・評価している。
【0005】
特許第5542019号公報(特許文献2)では、プレス成形品を製造する金型の金型形状データを作成するシステムが開示されている。システムは、成形後のプレス成形品のプレス成形後形状データを作成し、プレス成形後形状データにおける第1形状データの曲率と第2形状データの曲率との差を算出し、この曲率差に基づいて修正用形状データを作成している。金型形状データは、修正用形状データに基づいて修正される。
【0006】
「塑性と加工 vol.24 no.275 モデル実験型による面ひずみの検討」(非特許文献1)では、ドア取手座周りに面ひずみが発生する要因を検討した上で、取手座面の部位ごとにひずみ発生部位に作用する周辺からの張力をバランスよく負荷することにより、面ひずみを軽減する方法が提案されている。
【0007】
特開2021-81384号公報(特許文献3)には、面ひずみを定量的に評価する方法が記載されている。この方法では、評価対象の表面の形状を表す表面形状データと、設計上の表面の形状を表す表面設計データが用いられる。評価対象の表面の点の曲率に対する、設計上の表面の点の曲率に対する相対値が計算される。
【0008】
特開2022-165545号公報(特許文献4)では、金型形状データ作成方法が開示されている。この方法は、金型形状データの金型を用いたプレス成形で得られる形状を示す推測形状データを算出し、推測形状データの推測3次元座標と、対応する目標形状データの目標3次元座標との差分を計算する。この差分に基づいて金型形状データが修正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5070859号公報
【特許文献2】特許第5542019号公報
【特許文献3】特開2021-81384号公報
【特許文献4】特開2022-165545号公報
【非特許文献1】日本塑性加工学会誌「塑性と加工 vol.24 no.275 モデル実験型による面ひずみの検討」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術では、コンピュータを用いた数値解析により、金型を用いたプレス成形によるプレス成形品の形状が推測される。推測される形状が目標形状に近づくように金型データが修正される。このようにして決定された金型データが示す形状の金型を用いて実際にプレス成形すれば、目標形状に近いプレス成形品が得られる。この場合、より目標形状に近い成形品を得るには、コンピュータによるプレス成形の解析の精度が重要になる。発明者らは、上記従来技術におけるプレス成形解析に、改善の余地があることを見出した。
【0011】
そこで、本開示は、プレス成形品の形状を導出する解析の精度を向上できる、プレス成形品形状解析方法、金型データ作成方法、プレス成形品の製造方法、プレス成形品形状解析プログラム及びプレス成形品形状解析システムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の実施形態におけるプレス成形品形状解析方法は、
初期金型の形状を示す初期金型データを取得する初期金型データ取得ステップと、
前記初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データを取得する試作品データ取得ステップと、
前記試作品データが示す前記試作品の形状を有する試作品ワークを、前記初期金型データが示す前記初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における前記試作品ワークの下死点応力分布を計算する下死点応力分布計算ステップと、
前記下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される形状を有する解析対象ワークに適用した場合の前記解析対象ワークの変形を計算することで、前記解析対象金型でプレス成形されたプレス成形品の形状を計算する成形品形状計算ステップと、を有する。上記ステップの各々は、コンピュータにより実行される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態におけるプレス成形品形状解析方法及び金型データ作成方法の各ステップを説明するための図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すプレス成形品形状解析方法及び金型データ作成方法を実行するシステムの構成例を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、
図1の下死点応力分布計算S3の具体例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、
図1の成形品形状計算S4の具体例を説明するための図である。
【
図5】
図5は、
図1の金型修正S5の具体例を説明するための図である。
【
図6】
図6は、実験用に作製された金型の写真である。
【
図7】
図7は、実験結果と計算結果を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1に示す金型データ作成方法(S1~S5)をコンピュータにより実行した結果を示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図8に示すグラフのプロットp1、p2における面ひずみ分布及び初期金型との差の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明者らは、プレス成形の解析で計算されるプレス成形品の形状と、実際のプレス成形品の形状との間で生じる誤差の原因について検討した。プレス成形の解析では、金型によりワークをプレスした場合のワークの変形及び応力が計算される。そして、下死点で金型に保持されるワークの下死点応力分布が計算される。下死点におけるワークの形状に対して、下死点応力分布によるスプリングバックを反映した形状が、プレス成形品の形状として計算される。発明者らは、プレス成形解析で計算される下死点応力分布の精度が、誤差に与える影響が大きいことを見出した。下死点応力分布の計算は、プレス成形におけるワークの材料移動を伴う有限要素法解析(一般には弾塑性解析)により実行される。弾塑性解析では、材料モデル等、様々な計算モデルを実際と完全に合致させるのが難しい。また、材料の移動が伴う解析では解析と実際の差異が生じやすい。
【0015】
発明者らは、プレス成形解析における下死点応力分布に着目し、プレス成形解析の精度を向上するための方法を検討した。検討において、金型によるプレス成形の下死点応力分布を、その金型で成形された試作品の3次元計測データと、その金型の形状データを用いて計算することを試みた。さらに、このようにして計算した下死点応力分布を、解析対象の金型による解析対象ワークの下死点形状に適用することで、スプリングバックを考慮したプレス成形品の形状を計算することに想到した。これにより、金型のワークへの接触開始から下死点までのワークの材料移動を伴う弾塑性解析をしなくても、精度のよい下死点応力分布が求められる。すなわち、弾塑性解析による応力分布の精度の問題を排除した状態で、プレス成形品の形状を計算できる。その結果、より実際に近いプレス成形品の形状を計算できることが見出された。下記実施形態は、この知見に基づくものである。
【0016】
(方法1)
本開示の実施形態におけるプレス成形品形状解析方法は、
初期金型の形状を示す初期金型データを取得する初期金型データ取得ステップと、
前記初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データを取得する試作品データ取得ステップと、
前記試作品データが示す前記試作品の形状を有する試作品ワークを、前記初期金型データが示す前記初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における前記試作品ワークの下死点応力分布を計算する下死点応力分布計算ステップと、
前記下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される形状を有する解析対象ワークに適用した場合の前記解析対象ワークの変形を計算することで、前記解析対象金型でプレス成形されたプレス成形品の形状を計算する成形品形状計算ステップと、を有する。上記ステップの各々は、コンピュータにより実行される。
【0017】
上記方法では、初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データと、その初期金型データにより、下死点応力分布が計算される。これにより、試作品の形状と初期金型の下死点で保持されるワークの形状との間の変形を生じさせる応力の分布が、下死点応力分布として計算される。この下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される解析対象ワークの形状に対して適用した場合の変形が計算される。これにより、解析対象ワークが離型後に弾性変形した後の形状が、プレス成形品の形状として計算される。このように、上記方法では、実際のプレス成形による試作品をベースとして下死点応力分布を計算している。さらに、誤差が生じにくい弾性解析により離型後のプレス成形品の形状を計算できる。すなわち、誤差が生じやすい材料移動(材料の流入等)を伴う弾塑性解析をしなくても、精度よくプレス成形品の形状を計算できる。そのため、実現象と解析結果の差異を抑制できる。すなわち、プレス成形品の形状を導出する解析の精度を向上できる。
【0018】
前記解析対象金型は、前記初期金型とは異なる形状を有する。これにより、初期金型とは異なる形状の金型でプレス成形した場合のプレス成形品の形状を計算できる。
前記解析対象金型の下死点で保持される前記解析対象ワークは、前記解析対象金型の成形面に対応する形状の面を有する。例えば、前記解析対象ワークは、前記解析対象金型の成形面と同じ形状の面を有してもよい。
前記下死点応力分布の計算では、例えば、前記試作品データが示す前記試作品の面の形状と、前記試作品の面に対応する前記初期金型の成形面の形状との相違に基づいて前記下死点応力分布が計算されてもよい。
前記解析対象ワークに前記下死点応力分布を適用した場合の前記解析対象ワークの変形の計算は、例えば、前記下死点応力分布を基に前記解析対象ワークに適用する適用応力分布を決定する処理と、前記適用応力分布が示す応力による解析対象ワークの変形を計算する処理とを含んでもよい。
【0019】
(方法2)
上記方法1において、前記解析対象金型の形状は、前記初期金型を修正した形状であってもよい。これにより、初期金型を修正した場合のプレス成形品の形状が得られる。この場合、前記解析対象金型の形状は、前記初期金型に基づく形状である。前記解析対象金型の成形面の各位置と前記初期金型の成形面の各位置は対応していることが好ましい。なお、初期金型を修正した形状は、初期金型を直接的に修正した形状であってもよいし、初期金型を修正した対象金型の形状をさらに修正した形状であってもよい。
【0020】
(方法3)
上記方法1又は2において、前記初期金型データは、計測された前記実金型の形状を示すデータであってもよい。これにより、実金型の形状と、その実金型によりプレス成形された試作品の形状に基づいて、初期金型の下死点における下死点応力分布が計算される。そのため、より現実に近い条件で前記下死点応力分布が計算できる。
【0021】
(方法4)
上記方法1~3のいずれかにおいて、前記成形品形状計算ステップでは、前記下死点応力分布を、前記解析対象ワークの一部に適用し、他の部分には、前記解析対象金型を用いたプレス成形の解析により計算された応力分布を適用した場合の前記解析対象ワークの変形が計算されてもよい。
【0022】
(方法5)
上記方法1~3のいずれかにおいて、前記成形品形状計算ステップでは、前記下死点応力分布を、前記解析対象ワークの全体に適用した場合の前記解析対象ワークの変形が計算されてもよい。
【0023】
(方法6)
上記方法1~5のいずれかのプレス成形品形状解析方法を含む金型データ作成方法も本開示の実施形態に含まれる。前記金型データ作成方法は、コンピュータが、前記成形品形状計算ステップで計算された前記プレス成形品の形状と目標形状との比較に基づいて前記解析対象金型を修正する金型修正ステップを有してもよい。これにより、修正された解析対象金型の形状を示すデータが、目標形状に近い形状のプレス成形品を作製するための金型形状を示す金型データとして作成される。このように、精度よく計算されたプレス成形品の形状と目標形状との比較によって解析対象金型を修正するため、目標形状に近いプレス成形品を製造できる金型データが得られる。
【0024】
(方法7)
上記方法6において、前記金型修正ステップで修正された前記解析対象金型を用いて、前記成形品形状計算ステップ及び前記金型修正ステップが繰り返し実行されてもよい。これにより、解析対象金型を繰り返し修正することで、より目標形状に近い形状のプレス成形品を作製できる金型とすることができる。例えば、前記プレス成形品の形状と前記目標形状との比較結果が、所定の条件を満たすまで、前記成形品形状計算ステップ及び前記金型修正ステップが繰り返し実行されてもよい。
【0025】
(方法8)
上記方法7において、前記成形品形状計算ステップ及び前記金型修正ステップの繰り返しにおいて、同じ前記下死点応力分布が繰り返し用いられてもよい。
【0026】
(方法9)
上記1~8のいずれかにおいて、前記解析対象ワークは、外装パネルであってもよい。これにより、例えば、外装パネルをプレス成形した場合の面ひずみを精度よく計算できる。そのため、プレス成形されたパネルの面ひずみを低減できる金型の形状を示す金型データの作成が可能になる。外装パネルは、例えば、車両の外装パネルであってもよい。外装パネルは、外側に露出するため、外観が重要になる場合が多い。面ひずみを低減できる金型データを作成することで、面ひずみが低減された目標形状に近い外装パネルを得るための金型を効率よく作製できる。
【0027】
(方法10)
上記6~9のいずれかの金型データ作成方法を含むプレス成形品の製造方法も、本発明の実施形態に含まれる。前記製造方法は、前記金型修正ステップで修正された前記解析対象金型の形状を有する本金型を作製する金型作製ステップと、前記本金型を用いてワークをプレス成形することでプレス成形品を作製するプレス成形ステップと、を有する。これにより、高い精度で計算されたプレス成形品及び金型の形状を用いて金型及びプレス成形品が作製される。そのため、目標形状により近い形状のプレス成形品を作製できる。結果として、目標形状のプレス成形品を得るための実金型の修正及び試作品の作製の繰り返し回数を抑えることができる。
【0028】
本開示の実施形態におけるプレス成形品形状解析プログラムは、初期金型の形状を示す初期金型データを取得する初期金型データ取得処理と、前記初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データを取得する試作品データ取得処理と、前記試作品データが示す前記試作品の形状のワークを、前記初期金型データが示す前記初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における前記ワークの下死点応力分布を計算する下死点応力分布計算処理と、前記下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される形状を有する解析対象ワークに適用した場合の前記解析対象ワークの変形を計算することで、前記解析対象金型でプレス成形されたプレス成形品の形状を計算する成形品形状計算処理と、コンピュータに実行させる。
【0029】
本開示の実施形態におけるプレス成形品形状解析システムは、初期金型の形状を示す初期金型データを取得する初期金型データ取得部と、前記初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データを取得する試作品データ取得部と、前記試作品データが示す前記試作品の形状のワークを、前記初期金型データが示す前記初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における前記ワークの下死点応力分布を計算する下死点応力分布計算部と、前記下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される形状を有する解析対象ワークに適用した場合の前記解析対象ワークの変形を計算することで、前記解析対象金型でプレス成形されたプレス成形品の形状を計算する成形品形状計算部と、を備える。
【0030】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0031】
(プレス成形品形状解析方法及び金型データ作成方法の例)
図1は、本実施形態におけるプレス成形品形状解析方法及び金型データ作成方法の各ステップを説明するための図である。
図1の例では、プレス成形品形状解析方法は、初期金型データ取得S1、試作品データ取得S2、下死点応力分布計算S3、成形品形状計算S4のステップを含む。金型データ作成方法は、これらのS1~S4のステップに加えて、金型修正S5のステップを含む。S1~S5の各ステップは、コンピュータにより実行される。
【0032】
(S1:初期金型データ取得処理の例)
S1で、コンピュータは、初期金型データを取得する。コンピュータは、S3の下死点応力分布計算に用いる初期金型データを決定してアクセス可能な状態とする。初期金型データは、初期金型の3次元形状を示すデータである。初期金型データは、初期金型の形状を特定する複数のノードの3次元座標を含んでもよい。初期金型データは、例えば、有限要素解析モデルを構成するデータであってもよい。この場合、初期金型データは、初期金型の成形面の形状を表す複数の要素(例えば、三角形要素)を含んでもよい。
【0033】
初期金型の形状は、試作品をプレス成形する実金型の形状に対応している。例えば、初期金型データを基に実金型が作製されてもよい。又は、計測により得られる実金型の形状を示すデータを基に初期金型データが作成されてもよい。
【0034】
前者の例として、初期金型データは、プレス成形品の目標形状を示す設計データ(CADデータ)を基に生成されてもよい。一例として、プレス成形品の目標とする基準面に対応する金型の成形面の形状を表すデータを初期金型データとしてもよい。この場合、目標形状の基準面に対して、経験則に基づく見込み分の修正が施された形状が、初期金型の成形面の形状とされてもよい。又は、特開2022-165545号公報に記載された金型形状データ作成方法により作成された金型形状データを、初期金型データとしてもよい。
【0035】
初期金型は、例えば、第1成形面を有する第1金型部と、第2成形面を有する第2金型部を含んでもよい。この場合、第1成形面と第2成形面の間にワークが配置された状態で、第1金型部を第2金型部に対して相対的に近づけ下死点に達することで、ワークがプレス成形され試作品が形成される。試作品は、下死点において、第1成形面と第2成形面の間の形状に保持され、その後すなわち離型後に、スプリングバック等の変形をする。この場合、初期金型データは、第1成形面及び第2成形面の形状を示すデータとすることができる。
【0036】
(S2:試作品データ取得処理の例)
S2で、コンピュータは、試作品データを取得する。コンピュータは、S3の下死点応力分布計算に用いる試作品データを決定してアクセス可能な状態とする。試作品データは、初期金型データに対応する実金型でプレス成形された試作品の3次元形状を示すデータである。試作品データは、実金型から離型した後の試作品の形状を示すデータである。試作品データは、試作品の形状を特定する複数のノードの3次元座標を含んでもよい。試作品データは、例えば、有限要素解析モデルを構成するデータであってもよい。この場合、試作品データは、試作品の形状を表す複数の要素(例えば、三角形要素)を含んでもよい。
【0037】
試作品データは、例えば、3次元形状計測システムによる実測で得られた試作品の3次元形状を示すデータである。試作品データ例えば、実測により得られた試作品の表面の計測点群それぞれの3次元座標を含む点群データであってもよい。又は、試作品データは、点群データを基に生成された、試作品の表面を表す複数の要素(例えば、3角形要素)を含むデータであってもよい。
【0038】
(S3:下死点応力分布計算処理の例)
S3で、コンピュータは、試作品データが示す試作品の形状を有する試作品ワークを、初期金型データが示す初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における試作品ワークの下死点応力分布を計算する。この計算は、試作品を初期金型で下死点までプレスするシミュレーションすなわち数値解析により実行できる。例えば、試作品ワークを、初期金型データが示す第1成形面と第2成形面の間に配置し、第1金型部を第2金型部に近づけて下死点まで移動させる動作の解析処理が実行される。すなわち、試作品形状を初期金型の第1及び第2金型部で挟み込む解析が実行されてもよい。下死点における試作品ワークの変形及び応力を計算することで、下死点応力分布が計算される。
【0039】
S3の解析処理は、弾性解析であってもよい。すなわち、試作品ワークが初期金型の成形面の形状に弾性変形する動作を解析することができる。この場合、試作品ワークを、初期金型の成形面の形状に弾性変形して保持する場合の試作品ワークの応力分布が、下死点応力分布として計算される。誤差が生じにくい弾性解析で下死点応力分布を計算することで、解析精度がより確保しやすい。
【0040】
S3の計算は、例えば、有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いた解析処理であってもよい。この場合、試作品データ及び初期金型データは、有限要素解析モデルを構成するデータとなる。試作品ワーク及び初期金型は、それぞれ、複数の要素によって表される。試作品ワークが初期金型の成形面に押されて変形する場合の各要素のノードの変位が計算される。下死点における試作品ワークを構成する要素の少なくとも一部の応力が計算される。
【0041】
(S4:成形品処理の例)
S4で、コンピュータは、S3で計算された下死点応力分布を、解析対象金型の下死点で保持される形状を有する解析対象ワークに適用した場合の解析対象ワークの変形を計算する。これにより、解析対象金型でプレス成形されたプレス成形品の形状が計算される。すなわち、解析対象金型から離型後の変形を加味したプレス成形品の形状が計算される。
【0042】
解析対象金型の形状は、解析対象金型データにより表される。解析対象ワークの形状は、解析対象ワークデータにより表される。解析対象金型データ及び解析対象ワークデータは、解析対象金型及び解析対象ワークの形状を特定する複数のノードの3次元座標を含んでもよい。これらのデータは、例えば、有限要素解析モデルを構成するデータであってもよい。この場合、解析対象金型データは、解析対象金型の成形面の形状を表す複数の要素(例えば、三角形要素)を含んでもよい。解析対象ワークデータは、解析対象ワークの形状を表す複数の要素を含んでもよい。
【0043】
解析対象金型の形状は、初期金型の形状を修正した形状とすることができる。例えば、初期金型の成形面に対して、プレス成形品を目標形状に近づけるための見込み修正を施したものを解析対象金型とすることができる。例えば、解析対象金型データは、初期金型データのノード又は要素に対応するノード又は要素を有してもよい。解析対象金型の成形面のノード又は要素は、初期金型の成形面のノード又は要素の少なくとも一部のノードを変位させたものであってもよい。
【0044】
解析対象ワークの形状は、解析対象金型の成形面の形状に対応する。例えば、解析対象金型は、初期金型と同様に、第1成形面を有する第1金型部と第2成形面を有する第2金型部を含んでもよい。この場合、解析対象ワークの形状は、下死点における第1成形面と第2成形面の間に収まる形状となる。例えば、解析対象ワークの板厚中心の形状は、第1成形面と第2成形面の中間形状とすることができる。解析対象ワークデータは、解析対象金型データに基づき生成されてもよい。
【0045】
S4において、コンピュータは、S3で計算した下死点応力分布を、解析対象ワークにマッピングする。すなわち、下死点応力分布を基に解析対象ワークに適用する適用応力分布を決定する。コンピュータは、下死点応力分布がマッピングされた解析対象ワークの変形を計算する。すなわち、適用応力分布の応力による解析対象ワークの変形が計算される。例えば、下死点応力分布を、解析対象ワークにマッピングした場合の、解析対象ワークの弾性変形が計算されてもよい。すなわち、弾性解析が実行されてもよい。これにより、誤差が生じにくい弾性解析でプレス成形品形状を計算できる。結果として、解析精度がより確保しやすくなる。
【0046】
S4の計算は、例えば、FEMを用いた解析処理であってもよい。この場合、解析対象ワークデータは、有限要素解析モデルを構成するデータとなる。解析対象ワークは、複数の要素によって表される。解析対象ワークに下死点応力分布がマッピングされた条件下で、解析対象ワークの各要素の変形が計算される。下死点応力分布がマッピングされた解析対象ワークの変形後の形状が、プレス成形品の形状として計算される。
【0047】
(S5:金型修正処理の例)
S5では、コンピュータが、S4で計算されたプレス成形品の形状と目標形状との比較に基づいて解析対象金型を修正する。修正された解析対象金型の形状を示すデータが、金型データとなる。金型修正S5で修正された解析対象金型を用いて、成形品形状計算S4及び金型修正S5が繰り返し実行されてもよい。例えば、S4で計算されるプレス成形品の形状と目標形状との比較結果が所定条件を満たすまで、S4及びS5の処理が繰り返し実行されてもよい。目標形状に近いプレス成形品を作製できる金型形状を示す金型データを作成できる。
【0048】
成形品形状計算S4及び金型修正S5の繰り返しにおいて、S3で計算された同じ下死点応力分布が繰り返し用いられてもよい。これにより、実金型による試作品の作製の回数を少なくできる。そのため、より迅速に、目標形状の成形品を得るための金型データを作成できる。なお、発明者らは、初期金型による下死点応力分布と、初期金型を修正した解析対象金型による下死点応力分布の差は、解析精度の観点からほぼ無視できる程度であることを見出した。そのため、S4及びS5の繰り返し処理において、同じ下死点応力分布を用いても、プレス成形品の形状を導出する解析の精度を確保できる。
【0049】
S5における目標形状は、目標形状データによって表される。目標形状データは、プレス成形品の目標形状を示す複数のノードの3次元座標を含んでもよい。目標形状データは、目標形状を表す複数の要素(例えば、三角形要素)を含んでもよい。
【0050】
S5では、コンピュータは、例えば、目標形状の3次元座標と、解析対象ワークの対応する3次元座標との差分を算出し、差分に基づいて解析対象金型を修正してもよい。修正処理は、一例として、差分と所定のゲインの積を、対応する解析対象金型の3次元座標に加算する処理を含んでもよい。
【0051】
S5で生成された金型データを用いて実際の本金型(本番用金型)を作製することができる。すなわち、S5の金型修正で修正された金型データが示す解析対象金型の形状を有する本金型が作製されてもよい。例えば、S1~S5により作成された金型データを用いたマシニング等による切削加工で本金型を作製することができる。この場合、必要に応じて、最終研磨仕上げすることで本金型が作製されてもよい。また、本金型が前記金型データと合致するように適宜切削用の金型データが調整されてもよい。本金型を用いてワークをプレス成形することでプレス成形品が作製される。この場合、本金型が装着されたプレス機でワークをプレス成形することでプレス成形品が作製される。
【0052】
(システム構成例)
図2は、
図1に示すプレス成形品形状解析方法及び金型データ作成方法を実行するシステムの構成例を示す機能ブロック図である。
図2の例では、金型データ作成システム11は、プレス成形品形状解析システム10を含む。プレス成形品形状解析システム10は、初期金型データ取得部1、試作品データ取得部2、下死点応力分布計算部3、及び成形品形状計算部4を含む。金型データ作成システム11は、金型修正部5をさらに含む。プレス成形品形状解析システム10及び金型データ作成システム11がアクセス可能な記憶部15には、初期金型データ、解析対象金型データ、解析対象ワークデータ、試作品データ、下死点応力分布、及び目標形状データが記録される。
【0053】
初期金型データ取得部1は、初期金型の形状を示す初期金型データを取得する。初期金型データ取得部1は、例えば、計測システム30で計測された実金型の形状を基にした初期金型データを取得してもよい。又は、初期金型データ取得部1は、設計データを基にした初期金型データを取得してもよい。この場合、金型加工システム20は、初期金型データを用いて実金型を作製してもよい。初期金型データ取得部1は、例えば、設計データ又は計測データを、下死点応力分布計算部3で処理されるデータ形式に変換して初期金型データを生成してもよいし、適切な形式に変換された初期金型データを取得してもよい。
【0054】
試作品データ取得部2は、初期金型データに対応する実金型を用いて実際にプレス成形された試作品の形状を示す試作品データを取得する。試作品データ取得部2は、例えば、計測システム30で計測された試作品の形状を基にした試作品データを取得してもよい。試作品データ取得部2は、例えば、計測データを、下死点応力分布計算部3で処理されるデータ形式に変換して試作品データを生成してもよいし、適切な形式に変換された試作品データを取得してもよい。
【0055】
下死点応力分布計算部3は、試作品データ及び初期金型データを用いて、試作品ワークを初期金型で下死点までプレスした場合の下死点における試作品ワークの下死点応力分布を計算する。下死点応力分布計算部3は、上記S3の処理を実行する。
【0056】
成形品形状計算部4は、解析対象金型データ、解析対象ワークデータ、及び、下死点応力分布を用いて、解析対象ワークに下死点応力分布を適用した場合の変形を計算する。変形後の解析対象ワークの形状が、解析対象金型を用いたプレス成形によるプレス成形品の形状として算出される。成形品形状計算部4は、上記S4の処理を実行する。
【0057】
金型修正部5は、成形品形状計算部4で計算されたプレス成形品の形状と、目標形状との比較に基づいて、解析対象金型データが示す解析対象金型の形状を修正する。金型修正部5は、上記S5の処理を実行する。
【0058】
計測システム30は、3次元形状測定装置を含んでもよい。計測システム30は、例えば、構造物の表面を走査して表面の計測点の3次元座標を示す計測値を取得する。計測システム30によって、試作品の3次元形状を測定できる。計測システム30は、例えば、光を用いて対象を非接触測定する装置を含んでもよい。光を用いた測定方法の例として、光レーダ法(LiDAR)、光切断法(アクティブステレオ法)、パッシブステレオ法、等が挙げられる。金型加工システム20は、金型の形状を示すデータを用いて、金型を加工する。これにより、データが示す形状の金型が作製される。例えば、金型加工システム20は、金型成形面を、成形面の形状を示すデータを用いて切削する。金型加工システム20は、一例として、形状データが示す形状に対象物を切削するよう制御されるマシニングセンタ又はフライス盤等の切削機を含むマシニング加工システムであってもよい。金型加工システム20は、初期金型データを用いた試作品用の実金型を作製できる。また、金型加工システム20は、金型修正部5で修正された解析対象金型データである金型データを用いて本番用の金型(本金型)を作製することができる。
【0059】
プレス成形品形状解析システム10及び金型データ作成システム11は、1又は複数のコンピュータにより実装される。プレス成形品形状解析システム10及び金型データ作成システム11の各機能部は、コンピュータが備えるプロセッサが、所定のプログラムを実行することで実現できる。プレス成形品形状解析システム10及び金型データ作成システム11の機能をコンピュータに実行させるプログラム又はそのプログラムを記憶した非一時的な(non-transitory)記憶媒体も本発明の実施形態に含まれる。記憶部15は、プレス成形品形状解析システム10及び金型データ作成システム11を構成するコンピュータがアクセス可能な記憶装置(メモリ又はストレージ)で構成される。
【0060】
(下死点応力分布計算の具体例)
図3は、
図1の下死点応力分布計算S3の具体例を説明するための図である。
図3(a)は、S3の解析初期における初期金型及び試作品ワークの配置例を示す。一例として、
図3(a)に示す状態から、初期金型の第1金型部及び第2金型部をプレス方向に相対的に近づけて、試作品ワークを挟み込む動作をシミュレーションが実行される。
図3(b)は、下死点における初期金型と試作品ワークの要素の例を示す。
【0061】
図3(a)の例では、初期金型データが示す成形面と、試作品データが示す試作品ワークの3次元座標系における位置決めがされる。一例として、初期金型の第1成形面と第2成形面の間に試作品ワークが配置されるよう位置決めされる。位置決めは、初期金型の形状と試作品ワークの形状のフィッティングにより実行されてもよい。又は、ユーザにより位置指定に基づき位置決めがされてよい。或いは、初期金型データと試作品データが計測により得られた場合は、金型及び試作品におけるマーカ等の特徴部の計測点の位置に基づいて位置決めがされてもよい。
【0062】
図3の例では、初期金型データは、金型の成形面を表すシェル要素を含み、試作品データは、試作品ワークを表すシェル要素を含む。例えば、複数層のシェル要素で試作品ワークが表される。
図3では、試作品データに含まれる複数層のシェル要素のうち中央の1層を代表して模式的に表示している。なお、初期金型及び試作品ワークの少なくとも1つはソリッド要素で表されてもよい。初期金型の各要素と試作品ワークの各要素が、互いに対応するよう構成されてもよい。
【0063】
図3(b)に示すように、初期金型が下死点の状態で、初期金型に保持される試作品ワークの形状が計算される。例えば、下死点の初期金型の第1成形面と第2成形面の間に挟まれた試作品ワークの形状が計算される。試作品ワークが、
図3(a)に示すように、初期金型からの力が作用していない状態から下死点の初期金型に押されて変形した状態になるまでの試作品ワークの各要素のノードの変位が計算される。下死点における試作品ワークの各要素における積分点の応力も計算される。応力として、例えば、3次元直交座標系における直交する3方向それぞれの引張(圧縮)応力(σx,σy,σz)、及びせん断応力(τx、τy,τz)が計算される。なお、各ノードの応力が計算されてもよい。例えば、各要素の積分点の応力の外挿により各ノードの応力が計算される。1つのシェル要素の面内に、例えば、4つの積分点が存在する。
図3(b)では、試作品ワークの各要素の面を横から見ているため、積分点が重なって見える。すなわち、1要素の4つの積分点のうち2つの積分点が見えている状態が示されている。このようにして計算された試作品ワークの各要素の応力が、下死点応力分布のデータとなる。
【0064】
図3は、S3の下死点応力分布計算をFEM解析により実行する場合の要素の例を示す。解析処理では、境界条件及び材料特性値が決定される。境界条件及び材料特性値は、例えば、予め、初期金型データ又は試作品データの少なくとも1つに含まれてもよいし、ユーザからの入力に基づいて決定されてもよいし、予め記録されたデータにより決定されてもよい。
【0065】
材料特性値は、例えば、初期金型及び試作品ワークのそれぞれについて設定されてもよい。材料特性値の例としては、これらに限定されないが、応力―歪特性、ヤング率、ポアソン比、密度、熱伝導率、及び、比熱等が挙げられる。
【0066】
境界条件の例としては、これらに限定されないが、摩擦係数、熱伝達係数、要素の変位の拘束条件、金型の動作行程等が挙げられる。要素の変位の拘束条件は、例えば、試作品ワークの位置規制であってもよい。
【0067】
S3では、弾性解析が実行される。すなわち、試作品のワークの弾性変形により応力が計算されることになる。そのため、初期金型データ及び試作品データとして、弾性解析モデルデータを使用した解析が実行されてもよい。或いは、初期金型データ及び試作品データとして、弾塑性解析モデルデータを使用した弾塑性解析が実行されてもよい。この場合、試作品ワークの弾性変形の範囲内で解析を実行することができる。S3で弾性解析により下死点応力分布を計算することにより、現実との誤差が小さい下死点応力分布を得ることができる。
【0068】
(成形品形状計算の具体例)
図4は、
図1の成形品形状計算S4の具体例を説明するための図である。
図4(a)は、解析対象金型データにおける解析対象金型の要素例を示す。
図4(a)の例では、第1金型部の第1成形面の要素群と、第2金型部の第2成形面の要素群により解析対象金型が表される。解析対象金型データの要素群は、例えば、初期金型データの要素群を基に生成されてもよい。例えば、初期金型の成形面の要素群の少なくとも一部の要素を見込み量(修正量)だけ変位させた要素群を、解析対象金型データの要素群としてもよい。或いは、解析対象金型データの要素群は、目標形状データの要素群を基に生成されてもよい。例えば、目標形状データの基準面をオフセットした面を、解析対象金型の成形面としてもよい。この場合、前記オフセットした面の少なくとも一部を見込み量(修正量)だけ変位させた面を、解析対象金型の成形面としてもよい。
【0069】
図4(b)は、解析対象金型の要素群に加えて、解析対象ワークデータにおける解析対象ワークの要素群の例を示す。解析対象ワークの要素群により構成される解析対象ワークの面の形状は、解析対象金型の成形面に対応する形状となっている。
図4(b)の例のように、解析対象ワークの要素群の各々は、解析対象金型の要素群の各々に対応していてもよい。例えば、解析対象ワークデータは、解析対象金型データを基に生成されてもよい。
【0070】
図4では、一例として、解析対象金型データ及び解析対象ワークデータは、シェル要素を含む。解析対象金型データは、例えば、解析対象金型の第1成形面及び第2成形面をそれぞれ表す2つのシェル要素を含む。解析対象ワークデータは、例えば、解析対象ワークを表す複数の層のシェル要素を含む。
図4では、複数の層のうち中間の層を代表して表示している。一例として、解析対象金型の第1成形面のシェル要素と第2成形面のシェル要素の間の中間の面の形状を、解析対象ワークの板厚中心の形状を示すシェル要素で表してもよい。
【0071】
図4(c)に示す例では、解析対象ワークの要素群に、S3で計算された下死点応力分布に基づく応力分布を設定する。これにより、下死点応力分布が、解析対象ワークにマッピングされる。例えば、解析対象ワークの各要素に、下死点応力分布の対応する位置の応力が設定される。下死点応力分布は、例えば、
図3(b)に示すように試作品ワークの各要素における応力値として計算される。そのため、下死点応力分布は、例えば、試作品ワークの各位置(例えば、3次元座標又は要素識別子等により特定される)における応力値とすることができる。この場合、マッピング処理は、解析対象ワークの各要素に対応する試作品ワークの位置を特定し、特定された位置の応力値を、下死点応力分布から取得し、各要素の応力値として決定する処理とすることができる。このようにして、解析対象ワークの各要素の応力値を、下死点応力分布における対応する試作品ワークの応力値を基に決定することで、マッピングが実行されてもよい。
【0072】
図4(d)に示すように、解析対象ワークの各要素に設定された応力による各要素のノードの変位が計算される。この計算は、例えば、FEM解析により実行される。解析処理では、境界条件及び材料特性値が決定される。境界条件及び材料特性値は、例えば、予め、解析対象金型データ又は解析対象ワークデータの少なくとも1つに含まれてもよいし、ユーザからの入力に基づいて決定されてもよいし、予め記録されたデータにより決定されてもよい。材料特性値は、例えば、解析対象金型及び解析対象ワークのそれぞれについて設定されてもよい。材料特性値及び境界条件の例は、上記例と同様である。
【0073】
S4では、弾性解析が実行される。すなわち、下死点応力分布が適用された解析対象ワークの弾性変形が計算されることになる。そのため、解析対象ワークデータとして、弾性解析モデルデータを使用した解析が実行されてもよい。或いは、解析対象ワークデータとして、弾塑性解析モデルデータを使用した弾塑性解析が実行されてもよい。この場合、解析対象ワークの弾性変形の範囲内で解析を実行することができる。S4で弾性解析により解析対象ワークの変形を計算することにより、現実との誤差が小さいプレス成形品の形状を計算することができる。
【0074】
(金型修正の具体例)
図5は、
図1の金型修正S5の具体例を説明するための図である。
図5(a)に示すように、S4で計算された変形後の解析対象ワークの形状と、目標形状との差分が計算される。例えば、解析対象ワークの要素の3次元座標の位置と、対応する目標形状の要素の3次元座標の位置とを結ぶベクトルが差分として計算される。解析対象ワークの各要素は、目標形状の各要素と対応していてもよい。解析対象ワークの各要素のノードと、目標形状の対応するノードの間の差分が計算される。或いは、差分の計算において、目標形状の各ノードに対応する解析対象ワークのポイントが特定されてもよい。この場合、目標形状の各ノードと、各ノードに対応する解析対象ワークのポイントとの間の差分が計算される。
【0075】
図5(b)に示すように、解析対象ワークの各位置における目標形状との差分に基づき、解析対象金型の対応する位置のノードを変位させる。これにより、プレス成形品が目標形状に近づくように、解析対象金型を修正できる。例えば、解析対象ワークの各要素のノードに対応する解析対象金型のノードを、差分に応じた量だけ変位させる。差分に応じた量は、例えば、解析対象ワークの各要素のノードにおける目標形状との差分と所定のゲインとの積とすることができる。
【0076】
図5(b)のように修正された解析対象金型データを用いて、再び、
図4に示すプレス成形品の形状の計算(S4)が実行される。S4とS5の処理は、S5で計算される差分が、閾値より小さくなるまで繰り返し実行されてもよい。これにより、目標形状との差が小さいプレス成形品を作製するための金型の形状を示すデータが得られる。この繰り返し処理において、
図4(c)の下死点応力分布は、
図3(b)で計算された応力値を用いることができる。
【0077】
本実施形態では、下死点応力分布が、実際のプレス成形で得られた試作品の形状を基に計算される。すなわち、離型後の変形を伴う試作品の形状と、初期金型の違いから下死点応力分布が計算される。この下死点分布を解析対象ワークに適用した場合の変形を計算することで、解析対象金型を用いたプレス成形のプレス成形品の形状が計算される。これにより、現実の成形で得られる形状により忠実な成形品形状を得ることができる。
【0078】
従来、下死点応力分布は、解析対象ワークを、解析対象金型でプレス成形した場合の弾塑性解析により計算されていた。この弾塑性解析では、プレス開始から下死点までの過程におけるワークの材料流入等の材料移動をシミュレーションする必要がある。この解析には、材料の塑性力学特性を表現する材料モデルや物体間の摺動特性を表現する摩擦モデルが用いられる。このような材料モデルや摩擦モデル等では、実際と完全に合致するのが難しく、弾塑性解析によって計算される下死点応力分布の実際との誤差を小さくすることが難しい。そのため、実際に金型を作製する前に、数値解析によって十分に対策しきること、あるいは金型作製直後の金型一発修正は難しい場合がある。この場合、金型作製後に試作と金型修正の繰り返しが必要となることが多い。特に、外装パネルのプレス成形において、面ひずみを低減するための金型作製では、この課題が顕著になる。また、目標とするプレス成形品の板厚が薄く、且つ引張強度が高い場合、例えば、軽量化のために極薄ハイテンの板を用いる場合にも、この課題が顕著になる。
【0079】
本実施形態によれば、試作品の形状と初期金型の形状の違いから計算された下死点応力分布を、解析対象ワークに適用した場合の変形を計算することでプレス成形品形状が計算される。そのため、主に弾塑性解析による応力分布の精度の悪さの影響を排除した状態で、成形品形状を計算できる。すなわち、誤差が出やすい材料の流入等の因子を避けて、誤差が生じにくい弾性変形の範囲の解析により成形品形状を計算できる。これにより、例えば、実際の応力分布に近いワークの状態からのスプリングバック量を計算できる。そのため、成形品形状の計算結果は、現実の成形品形状に近いものとなる。すなわち、離型後の変形を加味して高い精度で解析対象金型を用いてプレス成形される成形品形状を計算できる。
【0080】
さらに、本実施形態における金型データ作成では、このように離型後の変形を加味して高い精度で計算された成形品形状と目標形状との比較結果に基づいて解析対象金型を修正することで金型データが作成される。このように作成される金型データは、目標形状により近い成形品を作製できる金型の形状を表すデータとなる。この金型データを用いることで、離型後のプレス成形品の形状が目標形状に精度よく一致することを可能にする金型を作製できる。そのため、実際の金型による試作品の作製と、実金型の修正の工程を減らすことができる。
【0081】
本実施形態の方法、システム及びプログラムは、これに限られないが、例えば、外装パネルのプレス成形に適用することができる。特に、面ひずみが問題となる外装パネルのプレス成形の金型データの作成に本実施形態を適用することで、金型の試作と修正の繰り返しを減らすことができる。外装パネルの面ひずみは、数十mmのスプリングバックでなく、数十μmから数百μmの微妙なスプリングバックによる面外変形が原因となる場合がある。そのため、金型の成形面の微妙な調整が必要になる。本実施形態の金型データ作成によれば、計算によりこのような微妙な金型データの修正が可能になる。また、S5の金型修正量が小さいので、S4とS5の繰り返し処理において同じ下死点応力分布を用いても精度が維持されやすい。面ひずみが問題となる外装パネルの例は、車両のドアの他、あらゆる外装パネル(フード、バックドア、サイドアウタ、あるいは家電製品パネル等)が挙げられる。
【0082】
また、本発明は、外装パネルの他にも、高い形状精度が求められるプレス成形品に適用できる。例えば、本実施形態で作成された金型データにより作製される金型で、合わせ面を精度よく成形された車両部材をプレス成形することができる。この場合、車両組み立て時に、車両部材の合わせ面が精度よく組み立てられる。また、構造部材の形状を精度よく作り込むことができるため、例えば、構造部材の溶接部に引張応力が発生しにくくなる。そのため、特に超ハイテンの材料で懸念される水素脆化も生じにくくなる。また、衝撃吸収部材を精度よくプレス成形することで、衝撃吸収部材の衝突時の潰れ方が安定化し、エネルギー吸収性能が安定化できる。
【0083】
なお、本実施形態におけるプレス成形解析は、弾塑性解析を排除するものではない。例えば、下死点応力分布の計算において、ワークの一部の下死点応力分布を、S4の試作品データと初期金型データを用いた弾性解析で計算し、他の部分の応力分布を、弾塑性解析により計算することもできる。
【0084】
(実施例)
図6は、実験用に作製された金型の写真である。
図6の金型は、取っ手部(ハンドル部)を有するドアのパネルを成形するための金型を模した形状を有する。
図6(a)の破線で囲まれた領域の拡大図が
図6(b)である。
図7(a)は、初期金型を用いて実際にプレス成形した試作品(パネル)で測定したx方向曲率分布(実験結果)を示す図である。A1、A2は凸形状、B1、B2は凹形状であることを示している。
図7(b)は、初期金型の形状を示す初期金型データと、試作品を計測して得られる試作品データを用いて、上記S3の解析処理を実行して下死点応力分布を計算し、解析対象ワークデータ=初期金型間で挟みこんだ形状データとして、上記S4の解析処理を実行し計算された解析対象ワークデータのx方向曲率分布を示す図である。
図7(c)は、
図7(a)及び
図7(b)に示す図の評価線におけるx方向曲率分布を示すグラフである。
図7(a)~
図7(c)に示す結果から、S4の解析処理で計算される下死点応力分布が、実際の試作品の応力分布をほぼ再現できていることが示されている。
【0085】
図8は、
図1に示す金型データ作成方法(S1~S5)をコンピュータにより実行した結果を示すグラフである。
図8は、面ひずみの評価値として、S4で計算されるプレス成形品の表面の最大曲率と最小曲率の差を示している。この金型データ作成方法の実行のために、実験用に作製した初期金型を用いたプレス成形により試作品を作製した。試作品の形状を測定して試作品データを取得した。S4、S5の処理を6回繰り返し実行した。
図8に示す結果では、4回目の金型修正により面品質が合格レベルとなっている。
【0086】
図9(a)は、
図8のグラフのプロットp1における成形品の面ひずみの分布を示す図である。
図9(b)は、
図8のグラフのプロットp2における成形品の面ひずみの分布を示す図である。
図9(c)は、
図8のグラフのプロットp2における解析対象金型と初期金型との差Δの分布を示す図である。
図9に示すように、S4、S5を繰り返すことにより、プレス成形品の面ひずみを低減できる金型の形状を示すデータが得られる。
【0087】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その主旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
S1 初期金型データ取得ステップ
S2 試作品データ取得ステップ
S3 下死点応力分布計算ステップ
S4 成形品形状計算ステップ
S5 金型修正ステップ
10 プレス成形品形状解析システム
11 金型データ作成システム
1 初期金型データ取得部
2 試作品データ取得部
3 下死点応力分布計算部
4 成形品形状計算部
5 金型修正部