(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168907
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
H02K9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085953
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】森本 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健介
(72)【発明者】
【氏名】松浦 透
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609PP02
5H609PP06
5H609PP08
5H609PP09
5H609QQ05
5H609RR36
5H609RR42
5H609RR43
(57)【要約】
【課題】ステータコイルを全体的に冷却し、コイル線の温度分布が小さな冷却性能が優れるモータを提供する。
【解決手段】本発明のモータは、モータケース内にロータとステータとを収容したモータであり、上記ステータのステータコアが、複数の電磁鋼板を積層して成る。
そして、上記ステータのスロット内に、軸方向に貫通した軸方向冷媒流路を有し、
一部の電磁鋼板が、そのすべてのスロットから径方向外側に延びるバックヨーク貫通冷媒流路を有し、上記バックヨーク貫通冷媒流路を介して上記軸方向冷媒流路に冷媒を流すこととしたため、コイル線の温度分布が小さく、冷却性能が優れるモータを提供することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータケース内にロータとステータとを収容したモータであって、
上記ステータのステータコアが、複数の電磁鋼板を積層して成り、
そのスロット内に、軸方向に貫通した軸方向冷媒流路を有し、
一部の電磁鋼板が、そのすべてのスロットから径方向外側に延びるバックヨーク貫通冷媒流路を有し、
上記バックヨーク貫通冷媒流路を介して上記軸方向冷媒流路に冷媒を流すことを特徴とするモータ。
【請求項2】
上記バックヨーク貫通冷媒流路が形成された電磁鋼板が、上記ステータコアの軸方向中央部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
上記バックヨーク貫通冷媒流路が形成された電磁鋼板は、そのスロットの内径側で繋がった1枚の電磁鋼板であることを特徴とする請求項2に記載のモータ。
【請求項4】
上記バックヨーク貫通冷媒流路が形成された電磁鋼板は、他の電磁鋼板よりも周方向のスロット幅が広く、
上記軸方向冷媒流路が、上記スロット内に挿通されたコイル線よりも内径側に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のモータ。
【請求項5】
上記バックヨーク貫通冷媒流路が形成された電磁鋼板を除く他の電磁鋼板は、そのスロットが軸方向に貫通する孔で形成されていることを特徴とする請求項4に記載のモータ。
【請求項6】
上記バックヨーク貫通冷媒流路が形成された電磁鋼板を除く他の電磁鋼板は、スロットの内径側に開口部を有する形状であり、
上記開口部が永久磁石で塞がれていることを特徴とする請求項4に記載のモータ。
【請求項7】
上記バックヨーク貫通冷媒流路が形成された電磁鋼板は、その内径が他の電磁鋼板の内径よりも大きいことを特徴とする請求項6に記載のモータ。
【請求項8】
さらに、冷媒を周方向に流す円環冷媒流路を有し、
上記円環冷媒流路が上記バックヨーク貫通冷媒流路の径方向外側に設けられ、上記バックヨーク貫通冷媒流路と連通していることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項9】
上記円環冷体流路が、上記モータケースに設けられていることを特徴とする請求項8に記載のモータ。
【請求項10】
上記円環冷媒流路が、上記バックヨーク貫通冷媒流路が形成された電磁鋼板に設けられていることを特徴とする請求項9に記載のモータ。
【請求項11】
さらに、上記スロットよりも径方向外側に形成された軸方向に延びる軸方向バイパス冷媒流路を有し、
上記軸方向バイパス冷媒流路が、上記バックヨーク貫通冷媒流路と繋がり、
上記ステータのコイルエンドに上記冷媒を供給することを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項12】
上記軸方向バイパス冷媒流路が、周方向に並んで複数配置され、
重力方向上側の軸方向バイパス冷媒流路が、下側の軸方向バイパス冷媒流路よりも太いことを特徴とする請求項11に記載のモータ。
【請求項13】
さらに、筒形カバーを有し、
上記筒形カバーの一端面が、上記軸方向冷媒流路よりも内径側のステータコアの軸方向端面に当接し、
上記ロータが上記冷媒に濡れることを抑制することを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【請求項14】
上記筒形カバーの他端面が、上記ステータコアの軸方向端面に対向する上記モータケースの壁に当接し、上記ロータを収容した空間と上記ステータを収容した空間とを分離して液密のステータ収容空間を形成していることを特徴とする請求項13に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに係り、更に詳細には、液冷式の冷却構造を有するモータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)のモータは、車両の限られたスペース有効に活用するため、小型かつ高性能であることが要望されており、上記モータは導電材料と磁性材料とを用いているので、発熱が不可避的であり、出力トルクを向上させるには効率よく冷却することが不可欠である。
【0003】
特許文献1には、ステータコアのバックヨークの一部に切り欠きを設け、ステータコアの外径側から内径側に向け、冷媒を上記切り欠きに繋がったスロット内のコイル線の隙間に浸透させるモータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のものにあっては、外径側から内径側に向け、一部のスロット内に冷媒を浸透させるものであって、冷媒を軸方向に流すものでないため、コイル線の冷却効果が位置によって異なり、コイル線の温度分布が大きいため、冷却性能を向上させることは困難である。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ステータコイルを全体的に冷却し、コイル線の温度分布が小さな冷却性能が優れるモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ステータのスロット内を軸方向に貫通する冷媒流路を設け、軸方向に冷媒を流すことにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のモータは、モータケース内にロータとステータとを収容したモータであり、上記ステータのステータコアが、複数の電磁鋼板を積層して成る。
そして、上記ステータのスロット内に、軸方向に貫通した軸方向冷媒流路を有し、
一部の電磁鋼板が、そのすべてのスロットから径方向外側に延びるバックヨーク貫通冷媒流路を有し、上記バックヨーク貫通冷媒流路を介して上記軸方向冷媒流路に冷媒を流すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステータのスロット内に、軸方向に貫通する冷媒流路を設けて軸方向に冷媒を流すことととしたため、コイル線の温度分布が小さく、冷却性能が優れるモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のモータの一例を示す軸方向の断面図である。
【
図2】
図1中、A-A、B-B部分の要部断面図である。
【
図3】バックヨーク貫通冷媒流路が形成された電磁鋼板の例を示す図である。
【
図4】バックヨーク貫通冷媒流路が形成されていない部分のステータの断面図である。
【
図5】円環冷媒流路が形成された部分の要部断面図である。
【
図6】軸方向バイパス冷媒流路の配置位置を説明するする断面図である。
【
図7】筒形カバーを備えるモータの一例を示す軸方向の断面図である。
【
図8】液密のステータ収容空間を備えるモータの一例を示す軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のモータについて詳細に説明する。
本発明のモータは、
図1に示すように、モータケース内にステータとロータとを収容して成る。上記ステータは、ステータコアとコイル線とを有し、上記ステータコアは、複数の電磁鋼板を積層して成る。
【0012】
上記ステータコアは、そのスロット内に軸方向に貫通した軸方向冷媒流路を有する。この軸方向冷媒流路は、コイル線をスロット全体に挿通せず、一部に隙間を残すことで形成できる。
【0013】
また、上記ステータコアは、すべての電磁鋼板が同じ形状ではなく、
図2の上に示すように、一部の電磁鋼板が、そのすべてのスロットから径方向外側に延びるバックヨーク貫通冷媒流路を有する。このバックヨーク貫通冷媒流路は、バックヨークをスロットから電磁鋼板の外周まで切り欠くことで形成できる。
【0014】
このバックヨーク貫通冷媒流路が形成された電磁鋼板(以下、「径流路鋼板」ということがある。)を、ステータコアを構成する複数の電磁鋼板に含めることで、上記軸方向冷媒流路と上記バックヨーク貫通冷媒流路とが連通するので、モータケース側から上記バックヨーク貫通冷媒流路を介して、絶縁性の冷媒を上記軸方向冷媒流路に流すことができ、ステータの軸方向の温度分布を小さくすることができる。
【0015】
上記径流路鋼板は、ステータコアの軸方向(電磁鋼板の積層方向)中央部に設けることが好ましい。これにより、バックヨーク貫通冷媒流路からのステータコアの軸方向両端までの距離が等しくなり、冷媒が軸方向に流れる距離が短くなるので、さらにステータの軸方向の温度分布を小さくすることができる。
【0016】
また、上記径流路鋼板は、
図2の上に示すように、そのティースが、バックヨーク貫通冷媒流路及びスロットによって分割された複数のティースを組み合わせたものであってもよいが、
図3の上に示すように、スロットの内径側が繋がった1枚の電磁鋼板であると、そのまま他の電磁鋼板と積層できるので、組み立て性が悪化することがない。
【0017】
さらに、上記径流路鋼板は、他の電磁鋼板よりも周方向のスロット幅が広いことが好ましい。これにより、
図3の下に示すように、スロットの内面とコイル線との間に隙間を形成することができる。
【0018】
この隙間を冷媒が内径側に向かって流れることで圧損が低減し、上記軸方向冷媒流路をコイル線よりも内径側に形成することができるので、ステータの径方向の温度分布をも小さくすることができる。
【0019】
なお、上記径流路鋼板には、コイル線を固定できないが、上記バックヨーク貫通冷媒流路が形成されていない他電磁鋼板(以下、「普通鋼板」ということがある。)は、従来の一般的な電磁鋼板と同様の形状をしており、この電磁鋼板のスロットにコイル線を固定することで、コイル線のずれを防止することができる。
【0020】
上記ロータを冷却する観点からは、上記ステータからロータ側に冷媒が流れても構わないが、冷媒がエアギャップに入り込むと、冷媒とロータとの摩擦による機械損が生じ、モータ効率を低下させるので、上記ステータからロータ側のエアギャップに冷媒が漏れないことが好ましい。
【0021】
エアギャップへの冷媒の漏れを防止できる普通鋼板の形状としては、
図4の上に示すように、スロットが軸方向に貫通する孔で形成されて、スロットの内径側が繋がった形状であっても、
図4の下に示すように、スロットの内径側に開口部を有する形状であってもよいが、スロットが開口部を有する場合は、その開口部を永久磁石で塞いで、普通鋼板部分からのロータ側への冷媒の漏れを防止する。
【0022】
また、径流路鋼板については、
図3に示すような、上記スロットの内径側が繋がった1枚の電磁鋼板を用いることで、ロータ側への冷媒の漏れを防止することができる。
【0023】
普通鋼板がスロットの内径側に開口部を有する形状である場合、上記径流路鋼板は、そのスロットの内径側が繋がっているため、そのスロット内に上記永久磁石を挿通することができない。そこで、普通鋼板部分に挿通した永久磁石の端面の一部を径流路鋼板のスロットの内径側の側面に当接させ、軸方向冷媒流路を確保しつつ冷媒の漏れを防止する。
【0024】
すると、上記永久磁石の磁束が径流路鋼板側に流れ、径流路鋼板側に磁気的な短絡経路が形成されて普通鋼板のスロット開口部を通る磁束が疎になり、磁気特性が悪化してしまう。
【0025】
径流路鋼板の内径を普通鋼板の内径よりも大きくし、径流路鋼板部分のエアギャップを広くすることで、上記磁気的な短絡経路の形成が防止され、磁気特性の悪化を抑制できるる。
【0026】
上記モータは、
図5に示すように、冷媒を周方向に流す、円環冷媒流路を有することが好ましく、この円環冷媒流路は、上記バックヨーク貫通冷媒流路の径方向外側に上記バックヨーク貫通冷媒流路と連通して設けられる。
【0027】
上記円環冷媒流路を全周に設け、該円環冷媒流路を介してバックヨーク貫通冷媒流路に冷媒を流すことで、放射状に延びるバックヨーク貫通冷媒流路のすべてに冷媒が供給されるので、ステータの周方向の温度分布を小さくすることができる。
【0028】
上記円環冷媒流路は、径流路鋼板の外周面と対向するモータケースの内面に設けられていてもよく、径流路鋼板の外周面に設けられてもいてもよい。
【0029】
モータケースに円環冷媒流路を設ける場合は、径流路鋼板と普通鋼板の外径を揃えることができるので、これらを積層する際の組み立て性が向上する。
【0030】
また、径流路鋼板の外径を普通鋼板の外径よりも小さくし、円環冷媒流路を径流路鋼板に設ける場合は、モータケースの径を大きくする必要がないので、モータを小型化することが可能である。
【0031】
上記モータは、上記バックヨーク貫通冷媒流路と繋がって冷媒を軸方向に流す、軸方向バイパス冷媒流路を有することが好ましい。
【0032】
上記軸方向冷媒流路は、スロット内に設けられた冷媒流路であり、この軸方向冷媒流路を流れる冷媒は、スロット内のコイル線を冷却する。
【0033】
これに対し、軸方向バイパス冷媒流路は、スロットよりも径方向外側に形成されており、軸方向バイパス冷媒流路を流れる冷媒は、ステータコア自体を冷却すると共に、ステータコアの軸方向端面からステータコア外に吐き出され、コイルエンドに降り掛かることで、コイルエンドをも冷却する。
【0034】
これにより、上記軸方向冷媒流路を流れた冷媒よりも温度が低い冷媒をコイルエンドに供給できるので、ステータコア内のコイル線とコイルエンドとの温度差を小さくすることができる。
【0035】
上記軸方向バイパス冷媒流路は、周方向に並べて複数配置し、重力方向上側の軸方向バイパス冷媒流路を下側の軸方向バイパス冷媒流路よりも太くすることが好ましい。
【0036】
ステータコアを流れた冷媒は、モータケースの下部に溜まるので、この冷媒溜まりに近い重力方向下側は冷えやすく、上側が冷え難い。
【0037】
重力方向上側の軸方向バイパス冷媒流路を太くするすることで、高温になりやすい上側のステータコア内のコイル線だけでなく、冷媒流路がなく高温になりやすいコイルエンドに重力方向上側から多くの冷媒を供給することができ、コイルエンドでドライアウトが生じて温度が上昇することを防止できる。
【0038】
上記軸方向バイパス冷媒流路は、
図6に示すように、径流路鋼板の外周面と対向するモータケースの内面に設けられていてもよく、径流路鋼板の外周面に設けられてもいてもよい。
【0039】
上記軸方向バイパス冷媒流路や上記軸方向冷媒流路を流れた冷媒は、ステータコアの端面からステータの外に吐き出される。このステータコアから吐き出された冷媒にロータが濡れることを防止することが好ましい。
【0040】
このロータの濡れは、ステータコアの軸方向端面の内径側、すなわち、冷媒を吐き出す軸方向冷媒流路よりも内径側に当接する筒形のカバーを設けることで防止できる。
【0041】
上記冷媒が、気化熱を奪うことで冷却する沸騰型の冷媒である場合は、
図7に示すように、上記筒形カバーの一端面がステータコアの軸方向端面に当接させることでロータの濡れを防止できる。
【0042】
また、上記冷媒が、冷媒油など液体の状態を維持するものである場合は、
図8に示すように、上記筒形カバーの一端面を上記ステータコアの軸方向端面に当接させるだけでなく、他端面を上記ステータコアの軸方向端面に対向する上記モータケースの壁に当接させる。
【0043】
これにより、上記ロータを収容した空間と上記ステータを収容した空間とを分離して液密のステータ収容空間を形成することができ、ロータの濡れを完全に防止して、冷媒とロータとの摩擦によるモータ効率の低下を防止することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 モータケース
11 冷媒入口
12 冷媒出口
13 軸受け
14 カバー
2 ステータ
21 ステータコア
22 コイル線
23 コイルエンド
24 永久磁石
25 径流路鋼板
26 普通鋼板
3 ロータ
31 ロータコア
32 軸
4 冷媒
5 エアギャップ
100 軸方向冷媒流路
200 バックヨーク貫通冷媒流路
300 円環冷媒流路
400 軸方向バイパス冷媒流路