(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168920
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】筆記板用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20241128BHJP
【FI】
C09D11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085980
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牛山 嘉美
(72)【発明者】
【氏名】中田 有亮
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB01
4J039AD14
4J039BE01
4J039BE02
4J039CA03
4J039CA06
4J039EA34
4J039EA43
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】非吸収面に筆記しても、耐擦過性がありながら、紫外線または高温環境下に晒された場合でも発色性、消去性に優れた筆記板用水性インク組成物を提供する。
【解決手段】本発明の筆記板用水性インク組成物は、少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、還元デンプン糖化物と、水とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、還元デンプン糖化物と、水とを含むことを特徴とする、筆記板用水性インク組成物。
【請求項2】
中空粒子を含むことを特徴とする、請求項1記載の筆記板用水性インク組成物。
【請求項3】
温度25℃において、ELD型回転粘度計のずり速度38.3(S-1)における粘度の測定値が、10~35(mPa・s)であることを特徴とする請求項1または2の筆記板用水性インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記板用水性インク組成物に関し、ガラス面やホワイトボード、あるいはブラックボードなどの非吸収面、特にはガラス面などの筆記板に対して利用可能であり、紫外線または高温環境下であっても描線の発色性がよく、かつ水拭きによる消去性が良好でありながら、耐擦過性を両立することができる筆記板用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における、消去性、耐水固着性などを良好としてなる筆記具用などの水性インク組成物として、例えば、
〔1〕水、着色剤及び樹脂を含有するマーキングペン用インキ組成物において、前記樹脂が、水溶性ポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とするマーキングペン用インキ組成物(例えば、特許文献1参照)
〔2〕店頭の看板等としてホワイトボード又はブラックボードを利用した場合、非吸収面に筆記した際に、その描線が、適切な耐水固着性に優れるにもかかわらず、水拭きにより、容易に消去することができ、更に、残像の残らない水性顔料インク組成物を提供することを目的とした水性顔料組成物(例えば、特許文献2参照)
〔3〕水を主成分とする溶剤中に必須の成分として、着色剤としての顔料、樹脂および剥離剤を含有し、該剥離剤は一般式が化1で表されるリン酸エステル化合物であることを特徴とする筆記板用水性マーキングペンインキ組成物(例えば、特許文献3参照)
〔4〕少なくとも、顔料と、顔料分散樹脂と、隠蔽剤と、変性ポリビニルアルコール又はけん化度が40~84%のポリビニルアルコールとを含有することを特徴とする筆記板用水性インク組成物(例えば、特許文献4参照)
などが知られている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1~4に記載の筆記具用水性インク組成物では、近年の需要にあるような店頭の窓ガラス面等に水性マーキングペンにより装飾を行う窓ガラスペイント等での用途において、ガラス面に筆記した描線の擦過性が十分といえず、さらには窓ガラス面に筆記した描線が、屋外からの太陽光に暴露され、紫外線や高温環境下に晒された場合での発色性や消去性が優れているとはいえないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-171092号公報 (特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2015-48437号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開平6-184486公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開2021-91815公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、店頭の窓ガラス面等に水性マーキングペンにより装飾を行う窓ガラスペイント等を行うことがあるが、描線に触れたり、強く擦ったりすると消えやすくなる問題があった。さらに窓ガラス面では、屋外からの太陽光に暴露されやすく、紫外線や高温に晒される影響により、描線がガラス面に張り付きやすく、発色性や消去性が低下するという問題があった。
本発明は、上記した従来技術の開発の経過及びその課題、現状等に鑑み、これらを解消しようとするものであり、非吸収面、特にはガラス面に筆記した際にも耐擦過性に優れ、さらには紫外線や高温の環境下であっても、描線の発色性が低下しにくく、容易に消去することが可能な筆記板用水性インク組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、還元デンプン糖化物と、水とを含むことにより、上記目的の筆記板用水性インク組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明の筆記板用水性インク組成物は、少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、還元デンプン糖化物と、水とを含むことを特徴とする。
前記筆記板用水性インク組成物は、中空粒子を含むことが好ましい。
前記筆記板用水性インク組成物は、温度25℃において、ELD型回転粘度計のずり速度38.3(S-1)における粘度の測定値が、10~35(mPa・s)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非吸収面、特にはガラス面に筆記した描線の擦過性が十分であり、さらには紫外線または高温環境下に晒された場合でも、描線の発色性や消去性に優れた筆記板用水性インク組成物が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識(設計事項、自明事項を含む)に基づいて実施することができる。
【0010】
〈筆記板用水性インク組成物〉
本発明の筆記板用水性インク組成物は、少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、還元デンプン糖化物と、水とを含むことを特徴とするものである。
【0011】
<色材>
本発明に用いる色材としては、水に溶解もしくは分散する全ての染料、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、白色系プラスチック顔料、中空樹脂顔料(粒子)、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料、アルミニウム顔料などの光輝性顔料、熱変色性顔料(粒子)、光変色性顔料(粒子)等、およびこれらの複合顔料(粒子)を制限なく使用することができる。用いることができるアルミニウム顔料としては、市販品では、例えば、アルミニウム表面をリン系化合物により防錆処理したWXMシリーズ、アルミニウム表面をモリブテン化合物により防錆処理したWLシリーズ、アルミニウムフレークの表面を密度の高いシリカでコーティングしたEMRシリーズ〔以上、東洋アルミニウム社製〕、SW-120PM〔以上、旭化成ケミカルズ社製〕等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
また、酸化チタンを添加する場合においては、例えば、アルミナまたはシリカ、またはジルコニアまたは亜鉛処理されたものを用いることが望ましく、ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタンを用いることが好ましい。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6-C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154,ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットBB等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0012】
無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0013】
熱変色性顔料(粒子)としては、発色剤として機能するロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.1~10μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性顔料などを挙げることができる。
光変色性顔料(粒子)としては、例えば、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、テルペンフェノール樹脂などの樹脂とにより構成される光変色性粒子や、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、有機溶媒と、酸化防止剤、光安定剤、増感剤などの添加剤とを含む光変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.1~10μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性顔料(粒子)などを挙げることができる。
なお、本発明(実施例等含む)において、「平均粒子径」は、レーザー回析または動的光散乱法により測定した値であり、レーザー回折法においては
体積基準により算出されたD50の値であり、この測定は、例えば日機装株式会社の粒子径分布解析装置HRA9320-X100を用いることができ、動的光散乱法を用いた平均粒子径とは、例えば、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子社製)を用いて算出された、散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径の値である。
【0014】
これらの色材は、各単独で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)使用することができる。
また、これらの色材において、描線の発色性の点、消去性の点から、顔料の使用、すなわち、上記無機顔料、有機顔料、顔料を含有した樹脂粒子顔料または樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料などの着色樹脂顔料、白色系プラスチック顔料、中空樹脂顔料(粒子)、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料、アルミニウム顔料などの光輝性顔料、熱変色性顔料(粒子)、光変色性顔料(粒子)等、およびこれらの複合顔料(粒子)の使用が望ましい。
【0015】
これらの色材の(合計)含有量は、筆記板用水性インク組成物全量(以下、単に「インク組成物全量」という)に対して、好ましくは、0.5~50質%、更に好ましくは、2~40質量%、特に好ましくは、5~30質量%とすることが望ましい。
この色材の含有量を0.5質量%以上とすることにより、紫外線または高温環境下に晒された場合でも描線の発色性を発現しより美しい描線の形成を実現とすることができ、一方、50質量%以下とすることにより、消去性が良好であり、粘度上昇を抑制し、インクの流動性が良好となる点で好ましい。なお、本発明の筆記板用インク組成物は、前記色材のなかでも、消去性や、紫外線や高温環境下の描線の発色性を維持するという点で、顔料を用いることがより好ましい。
【0016】
本発明に用いるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物は、イソブチレンと無水マレイン酸の共重合物の中和物であり、本発明においては後述する水溶性樹脂(樹脂エマルジョンを含む)との併用により、耐擦過性を高め、消去性との両立を良好とする機能を発揮せしめる成分となるものである。
用いるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物において、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の基本構造は下記式(I)で示されるものであり、下記式(II)は、本発明において好ましく用いることができるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア中和物(変性物)である。
【0017】
【0018】
【0019】
本発明では、上記式(II)のアンモニア中和物の他、水酸化ナトリウム中和物、アミン中和物であってもよいものである。また、上記式(I)中のn、(II)中のlとm、下記式(III)中のjとkなどの数値は、後述する重量平均分子量などにより変動し、好適な範囲が定まるものである。
また、本発明では、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物をイミド化(イミド変性)した下記式(III)で示されるイミド化イソブチレン・無水マレイン酸共重合物をアンモニア、水酸化ナトリウム、アミンなどで中和した各中和物であってもよいものである。
【化3】
【0020】
上記式(II)、式(III)などのイソブチレン・無水マレイン酸共重合物を中和した各中和物の重量平均分子量は、3,000~400,000が好ましく、5,000~200,000が更に好ましく、30,000~100,000、特に好ましくは,50,000~70,000が最も好ましい。この重量平均分子量は、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の値である。
上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物やその中和物は、市販品を使用することができ、例えば、クラレ社製の「イソバン」等を挙げることができ、例えば、イソバン-04,06,10,18の中和物、イソバン-104,110は上記式(II)におけるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア中和物(変性物)の市販品などが挙げられ、更に、イソバン-304,306,310の中和物などが挙げられる。なお、用いるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物〔上記式(I)等から〕の中和物を調製する場合は、例えば、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の全てのカルボキシル基が中和された場合、中和度1とし、中和に用いるアンモニア、水酸化ナトリウム、アミンなどの必要量を算出して調製することなどにより各中和物を得ることができる。
【0021】
これらのイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物の含有量は、インク組成物全量に対して、0.01~4質量%が好ましく、更に好ましくは、0.05~3質量%、特に好ましくは0.1~2質量%である。
このイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物の含有量が0.01質量%未満であると、ガラス面などの非吸収面において十分な耐擦過性が得られなくなり、一方、4質量%を超えた場合は、粘度が上昇してインク吐出性が低下し筆記性に悪影響を及ぼしたり、消去性の低下に繋がることとなる。
【0022】
本発明に用いる水溶性樹脂、樹脂エマルジョンは、定着剤、分散剤、安定化剤として機能するものであり、例えば、ポリアクリル酸、アクリル系樹脂、水溶性スチレン-アクリル樹脂、水溶性スチレン-マレイン酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、水溶性エステル-アクリル樹脂、エチレン-マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂等の分子内に疎水部を持つ水溶性樹脂、また、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、ポリオレフィン系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、スチレン-ブタジエンエマルジョン、スチレン-アクリロニトリルエマルジョン、シリコーンレジンエマルジョン、シリコーンアクリル共重合体エマルションなどの樹脂エマルジョンなどから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
好ましくは、色材の分散性、粘度調整、並びに、定着力向上の点から、ガラス転移温度(Tg)が140℃以下の上記各水溶性樹脂、上記各樹脂エマルジョンの使用が好ましく、更に好ましくは、ガラス転移温度(Tg)が140℃以下のアクリル系樹脂、水溶性スチレン-アクリル樹脂、スチレンマレイン酸、ウレタン樹脂の水溶性樹脂、または、アクリル系樹脂エマルジョンなどの各樹脂エマルジョンの使用が望ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)の下限は、低光沢性や擦過性などの描線品位の点から、―50℃以上が望ましい。
上記樹脂のガラス転移温度(Tg)を140℃以下とすることにより、ひび割れ等の塗膜描線の品位を低下させることなく、耐擦過性、消去性を良好にすることができる。
本発明において、「ガラス転移温度」は、JIS K7121に準じて測定した際のTg、例えば、Rigaku thermo plus evo DSC8230(リガク社製)を用いて測定することができる。
【0023】
上記水溶性樹脂、樹脂エマルジョンは、市販品を使用することができ、例えば、水溶性樹脂では、BASF社製のジョンクリルJDX6500(Tg;65℃)、JDX6180(Tg:134℃)、52J(Tg;56℃)、70J(Tg;102℃)同PDX-6137A(Tg;102℃)が使用でき、樹脂エマルジョンでは、BASF社製のジョンクリルPDX352D(Tg;52℃)、同PDX7199(Tg;88℃)、PDX7537(Tg;-4℃)、または、星光PMC社製のKE―1062(96℃)、同PE―1304(Tg;9℃)が使用できる。
【0024】
これらの水溶性樹脂、樹脂エマルジョンの(合計:固形分)含有量は、前記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物とは別に、インク組成物全量に対して、0.1~20質量%が好ましく、更に好ましくは、0.5~15質量%、特に好ましくは、1~10質量%である。
この水溶性樹脂、樹脂エマルジョンの含有量が0.1質量%未満であると、耐擦過性が低下し、一方、20質量%を超えた場合は、消去性の悪化や、筆記板用水性インク組成物としての粘度が高くなり、インク吐出性の低下により描線品位が悪化する。
【0025】
本発明で用いる還元デンプン糖化物は、消去剤として作用する添加剤として用いるものであり、筆記板用水性インク組成中に配合してもインキ性能の低下等を招くことなどがないものである。
用いる還元デンプン糖化物は、糖アルコールの一種であって、澱粉のカルボニル基を還元して得られる鎖状多価アルコールであり、例えば、澱粉をαアミラーゼや酸で液化した後、βアミラーゼなどの酵素で部分的に加水分解することにより製造された糖化液をそれ自体は公知の方法により水素加圧下で接触還元することにより製造される。
用いることができる還元デンプン糖化物としては、上記製造法により得られるものの他、還元デンプン糖化物の名称で食品用または一般用に市販されているものが挙げられる。例えば、市販の三菱商事フードテック株式会社製のPO-10(商品名)、PO-20(商品名)、PO-30(商品名)、PO-40(商品名)、あめんこ(住化グリーン社製)、エコピタ液剤(協友アグリ社製)、還元マルトデキストリン等としてH-PDX(松谷化学工業社製)を挙げることができる。
【0026】
これらの還元デンプン糖化物の含有量は、インク組成物全量に対して、固形分濃度で、0.1~5%、好ましくは、0.5~4%とすることが望ましい。
この含有量が0.1%未満であると、消去剤としての効果が低く、好ましくなく、一方、5%を超える場合は、筆記板用水性インク組成物としての粘度が高くなりすぎたり、耐擦過性が低下したり、インクの保存安定性に問題が出てくることとなり、好ましくない。
【0027】
本発明の筆記板用インク組成物は、中空粒子を用いることが、紫外線や高温環境に晒された描線への消去性と発色性という点で好ましい。筆記描線を紫外線や高温環境に晒した場合、ガラス面への塗膜の張り付きが発生し、描線の消去性が低下する。さらに紫外線による描線の発色性も低下しやすくなる。
しかしながら、中空粒子を含有することにより、均一で柔軟な塗膜を経時的に維持しやすくなり、その結果、紫外線や高温環境下に晒された描線であっても、良好な消去性を得ることができ、さらに描線の退色を抑制し、発色性のよい描線が得られることとなる。
【0028】
本発明で用いる中空粒子としては、平均粒子径0.1~2.0μmの中空粒子、例えば、市販品でいえば、ローペイクOP-62(平均粒径450nm、中空率33%)、ローペイクOP-91、ローペイクHP-1055(平均粒径1000nm、中空率55%)、ローペイクHP-91(平均粒径1000nm、中空率50%)、ローペイクULTRA(平均粒径380nm、中空率45%)、ローペイクULTRA E(平均粒径380nm、中空率45%)、ローペイクULTRA DUAL(平均粒径380nm、中空率45%)(以上、DOW社製)、SX-863(A)、SX-864(B)、SX-866(A)、SX-866(B)(平均粒径300nm、中空率30%)、SX-868(平均粒径500nm)(以上、JSR社製)、Nipol MH5055(平均粒径500nm)、Nipol MH8101(平均粒径1μm)(以上、日本ゼオン社製)等の少なくとも1種を使用することができる。
これらの中空粒子の含有量は、筆記板用水性インク組成物全量に対して、好ましくは、固形分濃度で0.1~10%、更に好ましくは、0.5~8%が望ましい。この中空粒子の含有量が1%未満であると、消去性と発色性が低下しやすくなり、一方、10%超過であると、インク保存安定性が低下しやすくなったり、所望の発色が損なわれるため、好ましくない。
【0029】
本発明の筆記板用水性インク組成物は、25℃におけるELD型回転粘度計のずり速度38.3(S-1)における粘度の測定値が、10~35(mPa・s)とすれば、ガラス面へより均一な描線を形成しやすくなるため、描線の耐擦過性、発色性、消去性の点でより好ましい。
なお本発明における粘度とは、温度25℃でのELD型回転粘度計のずり速度38.3(S-1)による粘度の測定値であり、トキメック社製TV-20L型粘度計(コーンプレートタイプ)において、標準ロータ(1°34′×R24)を使用して測定することができる。
【0030】
本発明の筆記板用水性インク組成物には、少なくとも、上述の色材とイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、還元デンプン糖化物の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、本発明の効果を損なわない範囲で、分散剤、潤滑剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤、増粘剤などを適宜含有することができる。
【0031】
用いることができる分散剤としては、ノニオン、アニオン界面活性剤や前記した水溶性樹脂以外の水溶性樹脂が用いられる。好ましくは水溶性高分子が用いられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、アセチレン系活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。これらのなかでも、描線塗膜の定着性やインク保存安定性の点から、アセチレン系活性剤を用いることが好ましく、市販品では例えば、サーフィノールシリーズ、たとえばサーフィノール104H(日信化学工業社製)等が挙げられ、本発明の筆記板用水性インク組成物全量に対し、0.01~2質量%を含有することがより好ましい。
【0032】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
増粘剤としては、例えばセルロース誘導体を用いることができ、ヒドロキシエチルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、発酵セルロース、結晶セルロース、多糖類などが挙げられる。用いることができる多糖類としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピル化グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、アミロース、アガロース、アガロペクチン、アラビナン、カードラン、カロース、カルボキシメチルデンプン、キチン、キトサン、クインスシード、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、ニゲラン、ヒアルロン酸、プスツラン、フノラン、HMペクチン、ポルフィラン、ラミナラン、リケナン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、アルカシーガム、サクシノグリカン、ローカストビーンガム、タラガムなどが挙げられる。
合成高分子としては、たとえば、ポリアクリル酸類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ビスアクリルアミドメチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、ポリジオキソラン、ポリスチレンスルホン酸、ポリプロピレンオキサイドなどが挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる。
【0033】
本発明の筆記板用水性インク組成物は、少なくとも、上記色材、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョンと、還元デンプン糖化物と、水、その他の各成分を筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の撹拌機により撹拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって発色性に優れた筆記板用水性インク組成物が得られる。
また、本発明の筆記板用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0034】
このように構成される本発明の筆記板用水性インク組成物は、少なくとも、上記色材、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物、水溶性樹脂及び/又は樹脂エマルジョン、還元デンプン糖化物と、水とを含有するものであり、色材と水溶性樹脂、樹脂エマルジョンとイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、還元デンプン糖化物によって、耐擦過性がありながら、紫外線または高温環境に晒された描線であっても、ガラス面に張り付きが起こりにくく、容易に消去ができる筆記板用水性インク組成物が得られることとなる。
【0035】
さらに、本発明の筆記板用インク組成物における加熱残分は、2~60質量%、好ましくは3~55質量%、さらに好ましくは5~50質量%であることが、高温環境下に晒された描線に対し、良好な消去性が得られるという点でより好ましい。本発明における加熱残分とはJIS K 5601-1-2(2008)の方法に準拠して測定された値であり、インク試料2.0gに対し、加熱温度150℃、加熱時間60分後に測定された値である。
【0036】
〈筆記具〉
本発明の筆記具は、上記特性の筆記板用水性インク組成物を搭載したものであり、非吸収面、特にはガラス面に筆記しても、耐擦過性、発色性、消去性などに優れた筆記具が得られることとなる。
筆記具としては、例えば、ボールペンチップ、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、繊維芯、多孔質芯などのペン先部を備えたボールペン、マーキングペン等に搭載される。
【0037】
本発明において、「マーキングペン」とは、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを、毛細管現象により樹脂製の筆記部に供給する機構を有するペンを意味し、「サインペン」として言及されるペンをも包含する。また、「ボールペン」とは、筆記部に備えられているボールの回転によって、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを滲出させる機構を有するペンを意味する。
ボールペンとしては、前記組成の筆記板用水性インク組成物を直径が0.18~2.0mmのボールを備えたボールペン用インク収容体(リフィール)に収容すると共に、インク追従体を追加する。インク追従体には、インク収容体内に収容された上記特性の筆記板用水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい液体、例えば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等が使用される。
なお、ボールペン、マーキングペン等の構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に前記構成の筆記板用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のボールペン、マーキングペンであってもよいが、
本発明の筆記板用水性インク組成物においては、ペン芯が繊維芯である直液式マーキングペンの構造が好ましく、ガラス板(縦15cm×横30cm×厚さ1cm、普通板ガラス)表面への筆記流量が20~400mg/m(直線書き)であることが、より良好な消去性と発色性を得られる点から好ましい。
【実施例0038】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1~8及び比較例1~5〕
下記表1に示す配合組成により、常法により、各筆記板用水性インク組成物を調製した。各筆記板用水性インク組成物の室温(25℃)下のpHをpH測定計(HORIBA社製)で測定したところ、7.9~8.2の範囲内であった。
さらに粘度の測定は、各筆記板用水性インク組成物を十分に撹拌したのち、トキメック社製TV-20L型粘度計(コーンプレートタイプ)において、標準ロータ(1°34′×R24)、ずり速度38.3(S-1)で測定した値を用いた。
上記で得られた各筆記板用水性インク組成物について、下記方法により筆記具(マーキングペン)を作製して、下記各評価方法で描線の耐擦過性、発色性、消去性の評価を行った。
試験に用いたガラス板は、縦15cm×横30cm×厚さ1cmの大きさの普通板ガラスを用いた。
これらの結果を下記表1に示す。
【0040】
(マーキングペンの作製)
上記で得られた各インク組成物を用いてマーキングペンを作製した。具体的には、マーキングペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:PXW-200-5M、軸材質:再生PP樹脂、ペン芯:PET繊維〕の軸を使用し、各筆記板用インク組成物を装填して各直液式マーキングペンを作製した。
各マーキングペンはガラス板への筆記流量 が20~400mg/mの範囲内であることを確認した。
得られた実施例1~8及び比較例1~5のマーキングペンを用いて、各評価を行った。
【0041】
(耐擦過性の評価方法)
各ペン体をガラス板に、直径約2cmの円を螺旋状に3行筆記し、得られた描線を30分乾燥させた。この描線の上にウエス紙(キムワイプ;日本製紙クレシア株式会社製)を置き、500gの分銅を載せ、ウエス紙を分銅ごと水平に20回往復させることによって擦過して、その後の筆跡の状態を下記の基準で評価した。
評価基準:
〇:筆跡に欠損は全く生じなかった
△:筆跡に一、二の細線状の欠損があった
✕:筆跡に明らかな欠損があった
【0042】
(発色性の評価方法)
各ペン体をガラス板に、直径約2cmの円を螺旋状に3行筆記し、得られた描線を乾燥させたのち、キセノンフェドメーターX25F(FLR40SW/M/36、スガ試験機株式会社製、照射時のブラックパネル温度を50±3℃に設定)を使用し、50時間照射後、その描線を、下記の基準で評価した。
なお、本発明においては白色(系)やメタリック色系の筆記板用インク組成物については、キセノンフェドメーターX25Fによる試験後の描線に、初期の色相と比較して、黄ばみや褐色等の色変化がみられた場合、発色性が劣るものとして判断し評価を行った。
評価基準:
〇:筆記した描線が初期と同等である。
△:上記○に較べ描線の発色が僅かに劣る。
✕:上記○に較べ描線の発色が顕著に劣る。
【0043】
(消去性の評価方法)
各ペン体をガラス板に、直径約2cmの円を螺旋状に3行筆記し、得られた描線を乾燥させたのち、キセノンフェドメーターX25F(FLR40SW/M/36、スガ試験機株式会社製、照射時のブラックパネル温度を50±3℃に設定)を使用し、50時間照射後、その描線を水に濡らしたティッシュにて消去し、下記の基準で評価した。
評価基準:
○:筆記した描線が綺麗に消去される。
△:上記○に較べ描線が僅かに残る部分がある。
✕:上記○に較べ描線が大部分で残る。
【0044】
【0045】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1~8の各筆記板用水性インク組成物は、本発明の範囲外となる比較例1~5の筆記板用水性インク組成物に較べて、非吸収面、特にはがガラス面に筆記しても、耐擦過性がありながら、紫外線または高温環境下に晒された場合でも描線の発色性、消去性に優れることが判明した。