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特開2024-168927ポリアミド酸ワニス、及び半導体デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168927
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ポリアミド酸ワニス、及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085989
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 昂
(72)【発明者】
【氏名】梶原 陸生
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 真喜
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA05
4J043PA06
4J043PA08
4J043PA19
4J043PB08
4J043PB15
4J043PC015
4J043PC016
4J043PC145
4J043PC146
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA44
4J043SB03
4J043SB04
4J043TA22
4J043TA47
4J043TB01
4J043UA132
4J043UA142
4J043UA151
4J043UA152
4J043UA232
4J043UB011
4J043UB021
4J043UB022
4J043UB062
4J043UB121
4J043UB122
4J043UB402
4J043VA012
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA031
4J043VA032
4J043VA041
4J043VA042
4J043VA061
4J043VA062
4J043VA072
4J043VA092
4J043VA102
4J043XA14
4J043XA15
4J043XA16
4J043XA19
4J043XB02
4J043XB27
4J043YA06
4J043ZA02
4J043ZA05
4J043ZA12
4J043ZA20
4J043ZA23
4J043ZA46
4J043ZB01
4J043ZB02
4J043ZB03
4J043ZB11
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】NMPの代替溶媒を用いて調製された、脂肪族ジアミンを所定量以上含むポリアミド酸を含むワニスを提供する。
【解決手段】ポリアミド酸ワニスは、ポリアミド酸と、溶媒とを含む。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重付加物である。前記ジアミンは、脂肪族基と結合したアミノ基を有する脂肪族ジアミン(Aa)を含み、前記脂肪族ジアミン(Aa)の含有量は、前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンからなるモノマーの総量に対して13.5質量%以上である。前記溶媒は、アミド骨格を有する溶媒(但し、N-メチル-2-ピロリドンを除く)又はスルホキシド骨格を有する溶媒を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸と、溶媒とを含むポリアミド酸ワニスであって、
前記ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重付加物であり、
前記ジアミンは、脂肪族基と結合したアミノ基を有する脂肪族ジアミン(Aa)を含み、
前記脂肪族ジアミン(Aa)の含有量は、前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンからなるモノマーの総量に対して5.0モル%以上であり、
前記溶媒は、アミド骨格を有する溶媒(但し、N-メチル-2-ピロリドンを除く)又はスルホキシド骨格を有する溶媒を含む、
ポリアミド酸ワニス。
【請求項2】
前記溶媒は、前記アミド骨格を有する溶媒を含む、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項3】
前記アミド骨格を有する溶媒は、環状構造を有する、
請求項2に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項4】
前記アミド骨格を有する溶媒は、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを含む、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項5】
前記アミド骨格を有する溶媒と前記スルホキシド骨格を有する溶媒の合計含有量は、前記溶媒全体に対して60質量%以上である、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項6】
前記脂肪族ジアミン(Aa)は、式(1)で表される脂肪族ジアミンと、式(2)で表される脂肪族ジアミンとの少なくとも一方を含む、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【化1】
(式(1)中、Rは、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖であり、前記主鎖を構成する原子数の合計が21~500である)
【化2】
(式(2)中、Rは、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖であり、前記主鎖を構成する原子数の合計が5~20である)
【請求項7】
前記モノマーは、式(3)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と式(4)で表される芳香族ジアミンの少なくとも一方を含む、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【化3】
【化4】
(式(3)のR及び式(4)のRは、それぞれC、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する2価の基であり、前記主鎖を構成する原子数の合計が2~100である)
【請求項8】
前記式(3)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物は、式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物を含み、
前記式(4)で表される芳香族ジアミンは、式(4-1)で表される芳香族ジアミンを含む、
請求項7に記載のポリアミド酸ワニス。
【化5】
(式(3-1)中、
Yは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
mは、それぞれ0又は1の整数を示し、
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換若しくは無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
e及びfは、それぞれ0~3の整数を示す)
【化6】
(式(4-1)中、
Zは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
nは、それぞれ0又は1の整数を示し、
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
g及びhは、それぞれ0~3の整数を示す)
【請求項9】
前記モノマーの総量に対して、前記式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と前記式(4-1)で表される芳香族ジアミンの合計含有量は60~90モル%である、
請求項8に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項10】
基板上に、請求項1に記載のポリアミド酸ワニスを塗布した後、イミド化させて、樹脂層を形成する工程と、
前記樹脂層をその溶融温度以上に加熱して、支持基板を貼り合わせる工程と、
を含む、
半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸ワニス、及び半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、耐久性や耐熱性に優れた特性を有する材料であり、電子材料用途に広く使用されている。例えば、液晶ディスプレイのOLEDディスプレイ等の画像表示装置に用いられるガラス基板を、プラスチック基板へ代替えすることが検討されている。そのようなプラスチック基板の材料として、ポリイミド樹脂が使用されることがある。また、ポリイミド樹脂は、半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜にも使用されている。
【0003】
これらのポリイミド樹脂の成形体を製造する方法としては、前駆体であるポリアミド酸を含むワニスを基材上に塗布した後、加熱して、乾燥・イミド化する方法や、ポリイミドを含むワニスを基材上に塗布した後、乾燥させる方法等が知られている。これらのワニスに用いられる溶媒としては、通常、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が用いられている。
【0004】
しかしながら、NMPは、有害性が懸念される物質(高懸念物質)の一つとして知られており、それに代わる溶媒の使用が求められている。
【0005】
NMPの代替え溶媒としては、γ-ブチロラクトン(γ-BL)が多く用いられている。例えば、特許文献1では、ノルボルナン骨格を有するテトラカルボン酸二無水物に由来する構成単位(A1)と、式(b1)で表される化合物に由来する構成単位(B1)を含むポリイミド樹脂と、γ-BLとを含むポリイミドワニスが開示されている。
【0006】
特許文献2では、ポリアミド酸と、式(1)で表される溶剤と、式(1)で表される溶剤以外の窒素原子又は硫黄原子を含む溶剤とを含むポリアミド酸ワニスが開示されている。合成例では、式(1)で表される溶剤として、エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンや1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを含み、式(1)で表される溶剤以外の溶剤として、ジメチルスルホキシドを含むポリアミド酸ワニスが調製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2022/091814号
【特許文献2】特開2020-2284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のようなポリアミド酸ワニスは、溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重付加反応させることによって調製される。しかしながら、アミノ基の窒素原子が脂肪族基(脂環式基を含む)に結合した脂肪族ジアミンのアミノ基の求核性は、アミノ基の窒素原子が芳香環に結合した芳香族ジアミンのアミノ基の求核性よりも高い。そのような脂肪族ジアミンを所定量以上含むポリアミド酸をγ-BL中で調製しようとすると、重合反応が進まず、所定の重合度のポリアミド酸が得られないという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、NMPの代替溶媒を用いて調製された、脂肪族ジアミンを所定量以上含むポリアミド酸を含むワニス及びそれを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0011】
[1] ポリアミド酸と、溶媒とを含むポリアミド酸ワニスであって、前記ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重付加物であり、前記ジアミンは、脂肪族基と結合したアミノ基を有する脂肪族ジアミン(Aa)を含み、前記脂肪族ジアミン(Aa)の含有量は、前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンからなるモノマーの総量に対して5.0モル%以上であり、前記溶媒は、アミド骨格を有する溶媒(但し、N-メチル-2-ピロリドンを除く)又はスルホキシド骨格を有する溶媒を含む、ポリアミド酸ワニス。
[2] 前記溶媒は、前記アミド骨格を有する溶媒を含む、[1]に記載のポリアミド酸ワニス。
[3] 前記アミド骨格を有する溶媒は、環状構造を有する、[2]に記載のポリアミド酸ワニス。
[4] 前記アミド骨格を有する溶媒は、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを含む、[1]~[3]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
[5] 前記アミド骨格を有する溶媒と前記スルホキシド骨格を有する溶媒の合計含有量は、前記溶媒全体に対して60質量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
[6] 前記脂肪族ジアミン(Aa)は、式(1)で表される脂肪族ジアミンと、式(2)で表される脂肪族ジアミンとの少なくとも一方を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
【化1】
(式(1)中、Rは、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖であり、前記主鎖を構成する原子数の合計が21~500である)
【化2】
(式(2)中、Rは、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖であり、前記主鎖を構成する原子数の合計が5~20である)
[7] 前記モノマーは、式(3)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と式(4)で表される芳香族ジアミンの少なくとも一方を含む、[1]~[6]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
【化3】
【化4】
(式(3)のR及び式(4)のRは、それぞれC、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する2価の基であり、前記主鎖を構成する原子数の合計が2~100である)
[8] 前記式(3)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物は、式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物を含み、前記式(4)で表される芳香族ジアミンは、式(4-1)で表される芳香族ジアミンを含む、[7]に記載のポリアミド酸ワニス。
【化5】
(式(3-1)中、
Yは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
mは、それぞれ0又は1の整数を示し、
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換若しくは無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
e及びfは、それぞれ0~3の整数を示す)
【化6】
(式(4-1)中、
Zは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
nは、それぞれ0又は1の整数を示し、
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
g及びhは、それぞれ0~3の整数を示す)
[9] 前記モノマーの総量に対して、前記式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と前記式(4-1)で表される芳香族ジアミンの合計含有量は60~90モル%である、[8]に記載のポリアミド酸ワニス。
[10] 基板上に、[1]~[9]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニスを塗布した後、イミド化させて、樹脂層を形成する工程と、前記樹脂層をその溶融温度以上に加熱して、支持基板を貼り合わせる工程と、を含む、半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、NMPの代替溶媒を用いて調製された、脂肪族ジアミンを所定量以上含むポリアミド酸を含むワニス及びそれを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1A~1Fは、本発明の一実施形態に係る半導体デバイスの製造方法の一部を示す模式図である。
図2図2A~2Cは、本発明の一実施形態に係る半導体デバイスの製造方法の他の一部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記の通り、γ-BLを所定量以上含む溶媒中で、上記脂肪族ジアミンを反応させようとしても、反応が阻害され、所定の重合度を有するポリアミド酸が得られないことがあった。
【0015】
この理由は明らかではないが、以下のように考えられる。
上記の通り、アミノ基の窒素原子が脂肪族基に結合した脂肪族ジアミンは、アミノ基の窒素原子が芳香環に結合した芳香族ジアミンよりも塩基性が高い。そのため、γ-BLのようにエステル骨格を有する溶媒に対し、脂肪族ジアミンのアミノ基が求核攻撃して溶媒分子を分解させやすい。その結果、脂肪族ジアミンが、本来、消費されるべき重合反応に消費されにくくなり、重合反応が阻害されると推測される。
また、脂肪族ジアミンのアミノ基が、アミド酸オリゴマーのカルボキシル基を攻撃して、塩を生成することもある。生成した塩はγ-BLには溶けにくいため、反応がさらに進みにくい。
【0016】
これに対し、本発明では、溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン以外の、アミド骨格(-C(=O)-N-)を有する溶媒又はスルホキシド骨格(-S(=O)-)を有する溶媒を用いる。上記アミド骨格を有する溶媒やスルホキシド骨格を有する溶媒に対しては、脂肪族ジアミンのアミノ基による求核攻撃は生じにくい。その結果、脂肪族ジアミンを、本来の重合反応に消費させることができるため、重合反応が阻害されにくく、所定の重合度を有するポリアミド酸を得ることができる。
また、脂肪族ジアミンのアミノ基が、アミド酸オリゴマーのカルボキシル基を攻撃して塩を生成したとしても、生成した塩はこれらの溶媒には溶けやすい。従って、反応が進むと考えられる。
【0017】
このような、脂肪族ジアミンを所定量以上含むポリアミド酸は、適度な柔軟性を有するポリイミドを付与しうる。そのようなポリイミドは、各種接着剤、例えば半導体デバイスの製造工程において、半導体ウエハと支持基板とを貼り合わせるための仮固定用接着剤として好適である。
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係るポリアミド酸ワニスについて説明する。
【0019】
1.ポリアミド酸ワニス
本実施形態に係るポリアミド酸ワニスは、ポリアミド酸と、溶媒とを含む。
【0020】
1-1.ポリアミド酸
ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重付加物である。テトラカルボン酸二無水物とジアミンからなるモノマーは、脂肪族モノマー(A)を少なくとも含む。脂肪族モノマー(A)は、得られるポリイミドに適度な柔軟性を付与しうる。
【0021】
(脂肪族モノマー(A))
脂肪族モノマー(A)は、少なくとも脂肪族ジアミン(Aa)を含む。
【0022】
脂肪族ジアミン(Aa)は、脂肪族基と結合したアミノ基を有するジアミン、即ち、アミノ基の窒素原子が脂肪族基の炭素原子と直接結合しているジアミンである。脂肪族基は、鎖状の脂肪族基であってもよいし、環状の脂肪族基(脂環式基)であってもよいが、鎖状の脂肪族基(脂肪族鎖)であることが好ましい。脂肪族鎖は、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖であり、当該主鎖を構成する原子数の合計が3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。原子数の合計の上限値は、例えば500以下とすることができる。脂肪族鎖は、(ポリ)アルキレンオキシ基やアルキレン基であることが好ましい。そのようなポリイミドを2つの被着体同士の熱圧着に用いた場合、ポリイミドの溶融流動性を高めることができ、良好に貼り合わせることができる。
【0023】
脂肪族ジアミン(Aa)の含有量は、ポリアミド酸を構成するテトラカルボン酸二無水物とジアミンからなるモノマーの総量に対して5.0モル%以上である。脂肪族ジアミン(Aa)の含有量が5.0モル%以上であると、得られるポリイミドの柔軟性を高めることができ、例えば溶融流動性を向上させることができる。そのようなポリイミドを含む樹脂層を介して2つの被着体同士を熱圧着した場合、ポリイミドの溶融流動性を高めることができるため、貼り合わせ面全体に樹脂層を均一に押し広げやすく、良好に密着させることができる。同様の観点から、脂肪族ジアミン(Aa)の上記含有量は、10.0モル%以上であることが好ましく、12.0モル%以上であることがより好ましい。脂肪族ジアミン(Aa)の上記含有量の上限値は、特に制限されないが、後述する芳香族モノマー(B)の含有量を所定以上とすることで、ポリイミドの耐熱性をより高める観点では、30モル%以下であることが好ましく、25モル%以下であることがより好ましく、20モル%であることがさらに好ましい。
【0024】
脂肪族ジアミン(Aa)は、式(1)で表される脂肪族ジアミンと、式(2)で表される脂肪族ジアミンの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【化7】
【0025】
式(1)中、Rは、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖であり、当該主鎖を構成する原子数の合計が21~500であり、好ましくは40~400であり、より好ましくは40~300であり、さらに好ましくは50~100である。Rにおける主鎖とは、分子末端の2つのアミノ基を連結する脂肪族鎖のうち、側鎖を構成する原子以外の原子からなる鎖である。式(1)で表される脂肪族ジアミンは、長い主鎖を有するため、溶融流動性をより高めやすい。
【0026】
C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖の例には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミンに由来する構造を有する主鎖;アルキレン主鎖;アルキルエーテル構造を有する主鎖;ポリアルキレンカーボネート構造を有する主鎖;アルキレンオキシ基又はポリアルキレンオキシ基を含む主鎖が含まれる。
【0027】
アルキレンオキシ基又はポリアルキレンオキシ基を含む主鎖における、ポリアルキレンオキシ基とは、アルキレンオキシを繰り返し単位として含む2価の連結基であり、エチレンオキシユニットを繰り返し単位とする「-(CHCHO)-」や、プロピレンオキシユニットを繰り返し単位とする「-(CH-CH(-CH)O)-」(nとmは繰り返し数)等を例示できる。
【0028】
アルキレンオキシ基のアルキレン部分及びポリアルキレンオキシ基を構成するアルキレンオキシユニットのアルキレン部分の炭素数は、2~10であることが好ましい。アルキレンオキシ基を構成するアルキレン基の例には、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基が含まれる。
【0029】
中でも、上記主鎖は、エーテル結合を含むことが好ましい。即ち、上記主鎖は、アルキレンオキシ基又はポリアルキレンオキシ基を含むか、アルキルエーテル構造を含むことが好ましい。エーテル結合は、レーザー光の照射により分解しやすいため、LLOによる剥離性を高めうる。
【0030】
で表される脂肪族鎖は、C、N、H、Oのいずれか一以上の原子からなる側鎖をさらに有してもよい。側鎖とは、主鎖を構成する原子に連結する1価の基である。側鎖を構成する原子数の合計は、10以下であることが好ましい。そのような側鎖の例には、メチル基等のアルキル基が含まれる。
【0031】
式(1)で表される脂肪族ジアミンの例には、炭素数20~70の(ポリ)アルキレンオキシジアミン、好ましくは式(1-1)で表される(ポリ)アルキレンオキシジアミンが含まれる。
【化8】
【0032】
式(1-1)のp、q及びrは、それぞれ独立に0~12の整数を示す。但し、3p+q×(n+1)+3r+2は、好ましくは21~500、好ましくは40~400、より好ましくは50~100である。このような脂肪族ジアミンは、長鎖アルキレンオキシ基を含むため、得られるポリイミドは高い柔軟性を有する。また、分岐構造を有するアルキレン基は、レーザー光の吸収により生じる熱で分解しやすいため、LLOによる剥離性をより高めうる。式(1-1)で表される脂肪族ジアミンの例には、RT1000やED900(いずれも、HUNTSMAN社製、ポリエーテルアミン)等が含まれる。
【0033】
【化9】
【0034】
式(2)中、Rは、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖であり、当該主鎖を構成する原子数の合計が5~20であり、好ましくは5~18であり、より好ましくは8~14であり、さらに好ましくは、8~12である。Rにおける主鎖とは、上記と同様、分子末端の2つのアミノ基を連結する脂肪族鎖のうち、側鎖を構成する原子以外の原子からなる鎖である。式(2)で表される脂肪族ジアミンは主鎖が短いため、耐熱性の低下を少なくしうる。
【0035】
C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖は、式(1)におけるC、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖と同様でありうる。
【0036】
で表される脂肪族鎖は、上記式(1)と同様に、C、N、H、Oのいずれか一以上の原子からなる側鎖をさらに有してもよい。
【0037】
式(2)で表される脂肪族ジアミンの例には、炭素数4~12の直鎖状のアルキレンジアミンや、炭素数6~12の直鎖状の(ポリ)アルキレンオキシジアミンが含まれる。炭素数4~12の直鎖状の(ポリ)アルキレンオキシジアミンの例には、1,8-ジアミノ-3,6-ジオキサオクタン、4,9-ジオキサン-1,12-ドデカンジアミン、1,13-ジアミノ-4,7,10-トリオキサトリデカン等が含まれる。炭素数6~12、好ましくは炭素数6~10の直鎖状のアルキレンジアミンの例には、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンが含まれる。
【0038】
例えば、溶融流動性をより高める観点では、脂肪族ジアミン(Aa)は、式(1)で表される脂肪族ジアミンを含むことが好ましく、式(1)で表される脂肪族ジアミンと式(2)で表される脂肪族ジアミンの両方を含むことがより好ましい。脂肪族モノマー(A)が、式(1)で表される脂肪族ジアミンと式(2)で表される脂肪族ジアミンの両方を含む場合、式(1)で表される脂肪族ジアミンの主鎖はエーテル結合を含み、式(2)で表される脂肪族ジアミンの主鎖はエーテル結合を含まないことが好ましい。式(2)で表される脂肪族ジアミンの主鎖がエーテル結合を含まない場合、当該主鎖は、アルキレン鎖であることが好ましく、分岐構造を有さない直鎖状のアルキレン鎖であることがより好ましい。溶融流動性が過度に高くならないようにし、耐熱性をより担保しうる。
【0039】
式(1)で表される脂肪族ジアミンの含有量Aa1と、式(2)で表される脂肪族ジアミンの含有量Aa2との比Aa1/Aa2は、0.8~1.8(質量比)であることが好ましく、1.0~1.6(質量比)であることがより好ましく、1.3~1.5(質量比)であることがさらに好ましい。Aa1/Aa2が下限値以上であると、溶融流動性が一層高まりやすく、Aa1/Aa2が上限値以下であると、耐熱性の低下を一層少なくしやすい。
【0040】
脂肪族モノマー(A)は、脂肪族基を有するテトラカルボン酸二無水物(Ab)をさらに含んでもよい。そのようなテトラカルボン酸二無水物(Ab)の例には、脂肪族鎖を有するテトラカルボン酸二無水物や、脂環式基を有するテトラカルボン酸二無水物が含まれる。
【0041】
脂肪族モノマー(A)の含有量は、耐熱性と貼り合わせ温度での十分な溶融流動性とを両立しうるという観点では、モノマーの総量に対して5.0モル%以上であることが好ましい。脂肪族モノマー(A)の含有量が5.0モル%以上であると、ポリイミドの溶融流動性をより高めやすい。脂肪族モノマー(B)の含有量の上限値は、特に制限されないが、ポリイミドの耐熱性をより損なわれにくくする観点では、30.0モル%以下であることが好ましい。
【0042】
(芳香族モノマー(B))
ポリアミド酸を構成する上記モノマーは、芳香族モノマー(B)をさらに含むことが好ましい。芳香族モノマー(B)は、得られるポリイミドに耐熱性を付与することができる。また、芳香環はレーザー光を吸収しやすいため、ポリイミドがエーテル結合を含む場合、レーザー光の吸収により生じた熱によってエーテル結合が分解しやすく、LLOによる剥離性を高めることができる。芳香族モノマー(B)は、テトラカルボン酸二無水物であってもよいし、ジアミンであってもよい。
【0043】
即ち、芳香族モノマー(B)は、式(3)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と式(4)で表される芳香族ジアミンの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【化10】
【化11】
【0044】
式(3)のR及び式(4)のRは、それぞれC、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する2価の基である。
【0045】
2価の基は、芳香環を含んでいてもよいし、芳香環を含まなくてもよいが、耐熱性をより高める観点では、芳香環を含むことが好ましい。主鎖を構成する原子数の合計は、2~100であり、好ましくは4~50であり、より好ましくは6~30である。なお、主鎖が芳香環を含む場合、主鎖を構成する原子には、環を構成する原子(例えばベンゼン環であれば、環を構成する原子は炭素原子6個)もカウントする。また、2価の基は、C、N、H、Oのいずれか一以上の原子からなる側鎖をさらに有してもよく、側鎖を構成する原子数の合計は10以下である。
【0046】
式(3)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物は、式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。得られるポリイミドフィルムの耐熱性を維持しつつ、柔軟性を高めうる。
【化12】
【0047】
式(3-1)中、Yは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示すし;好ましくは-CR、より好ましくは-C(CHである。mは、それぞれ0又は1の整数を示し、好ましくは0である。
【0048】
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換若しくは無置換のアルキル基、又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し;好ましくはメチル基又はメトキシ基である。e及びfは、それぞれ0~3の整数を示し、好ましくは0又は1である。
【0049】
式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(pBPADA)が含まれる。
【0050】
式(4)で表される芳香族ジアミンは、式(4-1)で表される芳香族ジアミンを含むことが好ましい。得られるポリイミドフィルムの耐熱性を維持しつつ、柔軟性を高めうる。
【化13】
【0051】
式(4-1)中のZ、R、R、n、g及びhは、式(3-1)中のY、m、R、R、e及びfとそれぞれ同義である。
【0052】
式(4-1)で表される芳香族ジアミンの例には、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンが含まれる。
【0053】
式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と式(4-1)で表される芳香族ジアミンの合計量は、特に制限されないが、モノマーの総量に対して60~90モル%であることが好ましい。上記合計量が60モル%以上であると、耐熱性をより高めつつ、レーザー光もより吸収しやすくなるため、例えばLLOによる剥離性を一層高めやすい。同様の観点から、上記合計量は、モノマーの総量に対して70~85モル%であることがより好ましい。
【0054】
芳香族モノマー(B)は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の芳香族モノマーをさらに含んでもよい。他の芳香族モノマーは、例えば他の芳香族テトラカルボン酸二無水物でありうる。他の芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、
3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)等のビフェニル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物;
1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、3,4’-オキシジフタル酸無水物、及び3,3'-オキシジフタル酸無水物等の式(3-1)に該当しないジフェニルエーテル骨格からなる芳香族テトラカルボン酸二無水物;
2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)等のヘキサフルオロイソプロピリデン骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物;及び
9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)等のフルオレン骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物
が含まれる。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は、適度な剛直性を有するため、得られるポリイミドフィルムの耐熱性(Td5)を高めやすい。
【0055】
(共通事項)
ポリアミド酸の分子末端は、酸無水物基とアミノ基のいずれであってもよい。ポリイミドフィルムの溶解性を高める観点では、分子末端が酸無水物基である割合のほうが、分子末端がアミノ基である割合よりも多いことが好ましい。分子末端が酸無水物基である割合を多くするためには、反応させるテトラカルボン酸二無水物成分(aモル)を、ジアミン成分(bモル)よりも多くすればよい。具体的には、ポリアミド酸を構成するジアミン(bモル)とテトラカルボン酸二無水物(aモル)のモル比は、特に制限されないが、b/a=0.90~0.999であることが好ましく、0.90~0.95であってもよい。b/aが0.999以下であると、得られるポリイミドの分子末端を酸無水物基としやすいため、ポリイミドフィルムの溶解性が得られやすい。b/aは、反応させるテトラカルボン酸二無水物成分(aモル)とジアミン成分(bモル)の仕込み比として特定することができる。
【0056】
ポリアミド酸ワニスのE型粘度は、成膜しやすくしつつ攪拌しやすくする観点から、1,000~100,000mPasであることが好ましく、5,000~50,000mPasであることがより好ましい。ポリアミド酸ワニスのE型粘度は、樹脂固形分が1~50%となるように調製したワニスを、E型粘度計(東機産業株式会社製、VISCOMETER TV-25)に0.15mLのポリアミド酸ワニスを入れ、プレヒートとして25℃で120秒加熱した後、コーンローター(3°×R9.7)を用いて25℃の条件下でトルクが0~80%に収まる回転数において、プレヒート終了後から240秒後に測定した値とすることができる。
【0057】
ポリアミド酸ワニスの固有粘度ηは、成膜しやすくする観点から、0.35~2.00dL/gであることが好ましく、0.40~1.50dL/gであることがより好ましい。ポリアミド酸ワニスの固有粘度(η)は、ポリアミド酸ワニスを、濃度が0.5g/dLとなるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させたときの25℃でウベローデ粘度管にて3回測定した平均値である。ポリアミド酸ワニスの固有粘度(η)が0.35dL/g以上であると、得られるポリイミドフィルムがより脆くなりにくく、柔軟で変形しやすい、貼り合わせに適した膜となりやすい。ポリアミド酸ワニスの固有粘度(η)が2.00dL/g以下であると、固形分濃度をある程度確保しつつ、よりフィルム化しやすくなるため、ハンドリング性をより高めることができる。
【0058】
ポリアミド酸ワニスの固有粘度(η)は、ポリアミド酸ワニスの調製時の溶媒の種類によって調整することができる。例えば、アミド骨格を有する溶媒の含有割合を多くすれば、重合がより進みやすく、ポリアミド酸ワニスの固有粘度が高くなりやすい。
【0059】
1-2.溶媒
溶媒は、アミド骨格を有する溶媒又はスルホキシド骨格を有する溶媒を含む。但し、上記アミド系溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンではないものとする。
【0060】
アミド骨格を有する溶媒は、分子内にアミド骨格を有する溶媒である。スルホキシド骨格を有する溶媒は、分子内にスルホキシド骨格を有する溶媒である。これらの溶媒は、鎖状構造を有してもよいし、環状構造を有していてもよい。モノマーや上記した塩の溶解性をより高める観点では、アミド骨格を有する溶媒又はスルホキシド骨格を有する溶媒は、環状構造を有することが好ましい。
【0061】
アミド骨格を有する溶媒の例には、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、2-イミダゾリジノン等の環状のアミド骨格を有する溶媒;3-メトキシ-N、N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジプロピルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、プロピレン尿素、N,N’-ジメチルプロピレン尿素等の鎖状のアミド骨格を有する溶媒が含まれる。中でも、モノマーや塩の溶解性が高く、所定の重合度を有するポリアミド酸が得られやすい観点から、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが好ましい。
【0062】
スルホキシド骨格を有する溶媒の例には、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド、及びスルホラン等が含まれる。
【0063】
アミド骨格を有する溶媒又はスルホキシド骨格を有する溶媒の合計含有量は、溶媒全体に対して60質量%以上であることが好ましい。アミド骨格を有する溶媒又はスルホキシド骨格を有する溶媒の上記含有量が60質量%以上であると、モノマーや生成した塩がより溶解しやすいため、反応をより継続させやすくすることができる。これらの溶媒の上記含有量は、同様の観点から、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。なお、上記溶媒の合計含有量の上限値は、特に制限されないが、溶媒全体に対して100質量%以下であってもよく、他の溶媒との組み合わせる場合、溶媒全体に対して例えば90質量%以下としうる。
【0064】
溶媒は、上記以外の他の溶媒をさらに含んでもよい。他の溶媒は、上述したジアミン成分及びテトラカルボン酸二無水物成分を溶解可能であれば特に制限されず、例えば非プロトン性極性溶媒、芳香族炭化水素系溶媒及びアルコール系溶媒を挙げることができる。
【0065】
非プロトン性極性溶媒の例には、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルフォスフォラアミド、イプシロンカプロラクトン;エーテル系溶媒である、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート;ケトン系溶媒である、シクロヘキサノン等が含まれる。
【0066】
芳香族系炭化水素系溶媒の例には、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン及び混合キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、クロロベンゼン、オルソクロロベンゼン等が含まれる。
【0067】
アルコール系溶媒の例には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジアセトンアルコール等が含まれる。
【0068】
上記溶媒が、スルホキシド骨格を有する溶媒を含む場合、ポリアミド酸ワニスの保存安定性がやや劣る場合がある。そのような場合、ケトン系溶媒やエーテル系溶媒と組み合わせることで、保存安定性をより高めることができる。
【0069】
なお、高懸念物質の含有割合をより少なくする観点では、ポリアミド酸ワニスに含まれる溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンを実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、溶媒全体に対する含有量が10質量%以下、好ましくは0質量%であることをいう。
【0070】
溶媒の総量は、ポリアミド酸ワニスに対して50~95質量%であることが好ましく、70~90質量%であることがより好ましい。
【0071】
ポリアミド酸ワニスにおけるポリアミド酸の含有量は、塗工性を高める観点等から、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15~35質量%であることがさらに好ましい。
【0072】
1-3.ポリアミド酸ワニスの物性
上記ポリアミド酸ワニスは、例えば仮固定用接着剤に用いた際に、良好な貼り合わせ特性を得る観点等から、以下の物性を満たすことが好ましい。
【0073】
i)ガラス転移温度(Tg)
ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドのTgは、80~150℃であることが好ましい。ポリイミドのTgが80℃以上であると、溶融粘度が低くなりすぎないため、例えば2つの被着体同士を貼り合わせる際に、塗布面からのはみ出すのを一層抑制することができる。ポリイミドのTgが150℃以下であると、溶媒を除去するための乾燥温度をより低くしうるため、乾燥性をより高めることができる。同様の観点から、得られるポリイミドのTgは、80~140℃であることがより好ましく、100~130℃であることがさらに好ましい。
【0074】
ポリイミドのTgは、以下の方法で測定することができる。
ポリアミド酸ワニスを、ガラス板上に塗布して、大気下で50℃から加熱到達温度まで5℃/分で昇温し、加熱到達温度で30分保持して、ポリイミドフィルムを得る。得られたポリイミドフィルムを、幅5mm、長さ22mmの大きさに切り出す。切り出したフィルムのTgを、熱分析装置(例えば島津製作所社製TMA-50)により測定する。具体的には、大気雰囲気下、昇温速度5℃/分、引張りモード(100mN)で測定を行い、TMA曲線を求める。得られたTMA曲線において、ガラス転移に起因するTMA曲線の変曲点に対し、その前後の曲線を外挿して、ガラス転移温度(Tg)を求める。
【0075】
加熱到達温度は、予めフィルムのガラス転移温度Tgを測定し、このTgよりも高い温度とする。加熱到達温度は、好ましくは(Tg+10)~(Tg+30)℃である。加熱到達温度の下限は、溶媒を揮発させる観点から180℃以上とすることができ、加熱到達温度の上限は、ポリイミドフィルムの熱分解を抑制しにくくする観点から300℃以下にすることができる。即ち、加熱到達温度は、180~300℃、且つ(Tg+10)~(Tg+30)℃とすることが好ましい。
【0076】
ポリイミドのTgは、例えば脂肪族モノマー(A)の含有量や芳香族モノマー(B)の種類によって調整することができる。例えば、脂肪族モノマー(A)の含有量を多くすれば、ポリイミドのTgは低くなりやすい。芳香族モノマー(B)として、式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物や式(4-1)で表される芳香族ジアミンの含有量を多くすると、ポリイミドのTgは高くなりやすい。
【0077】
ii)溶融温度
ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドの溶融温度は、160~220℃であることが好ましい。溶融温度が220℃以下であると、比較的低い温度で溶融流動性を示すため、例えば2つの被着体同士をポリイミドフィルムを介して熱圧着させる際に、貼り合わせ面全体にポリイミドフィルムをより均一に押し広げることができる。同様の観点から、ポリイミドの溶融温度は、170~220℃であることがより好ましい。
【0078】
iii)複素粘度
ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドの溶融温度における溶融粘度(複素粘度)は、40000mPa・s以下であることが好ましい。複素粘度が40000mPa・s以下であると、溶融温度以上に加熱したときの粘度が適度に低いため、例えば2つの被着体同士を、ポリイミドを含む樹脂層を介して熱圧着させる際に、樹脂層を貼り合わせ面全体により均一に押し広げることができる。また、複素粘度の下限値は、特に制限されないが、塗布面からはみ出にくくする観点等から、例えば1000mPa・s以上としうる。同様の観点から、ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドの複素粘度は、1000~30000mPa・sであることが好ましく、1000~20000mPa・sであることがより好ましく、1000~15000mPa・sであることがさらに好ましく、2000~10000mPa・sであることがさらに好ましい。
【0079】
溶融温度や複素粘度は、溶融粘弾性測定により測定することができる。
まず、上記i)のTgの測定用に作製したポリイミドフィルムを、直径15~25mmとなるように複数枚切り出し、これらを重ねて、厚み0.5~2mmのサンプルとする。
次いで、準備したサンプルを、TA Instruments社製 ARES-G2レオメーターにセットして、周波数1Hz、昇温速度3℃/分で、所定の温度まで昇温し、溶融粘弾性を測定する。得られた測定結果において、ガラス転移温度よりも高い温度範囲に着目した際に貯蔵弾性率と損失弾性率が等しくなる点(tanδ=1となる温度)が溶融点であり、溶融点となる温度を溶融温度とする。また、溶融温度(溶融点)における溶融粘度を複素粘度とする。
【0080】
ポリイミドの溶融温度や複素粘度は、例えば脂肪族モノマー(A)の含有量や種類、芳香族モノマー(B)の種類によって調整することができる。例えば、脂肪族モノマー(A)の含有量を多くすれば、ポリイミドの溶融温度や複素粘度は低くなりやすい。また、芳香族モノマー(B)として、BPDA等の剛直なモノマーではなく、式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物のような柔軟なモノマーを用いることで、ポリイミドの溶融温度や複素粘度は低くなりやすい。
【0081】
また、上記ポリアミド酸ワニスは、高温プロセスに耐える高い耐熱性を有し、溶媒に対する良好な溶解性を有することが好ましい。
【0082】
iv)5%重量減少温度(Td5
ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドの大気雰囲気下での5%重量減少温度(Td5)は、上記と同様の観点から、300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。ポリイミドのTd5の上限は、特に制限されないが、例えば600℃でありうる。
【0083】
ポリイミドのTd5は、例えば芳香族モノマー(B)としての式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物、式(4-1)で表される芳香族ジアミンの含有量を多くすると、ポリイミドフィルムのTd5が高くなりやすい。
【0084】
v)溶解性
ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドは、例えば接着剤として用いる際に、溶媒に溶解させて剥離しやすくする観点では、溶媒に対する溶解性が高いことが好ましい。具体的には、ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られるポリイミドフィルムを、N-メチル-2-ピロリドンに80℃で5分間浸漬させた後、ろ紙でろ過して測定される下記式で表される溶解率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
溶解率(%)=[1-[(ろ過・乾燥後のろ紙の重量)-(使用前のろ紙の重量)]/(浸漬前のフィルムの重量)]×100
【0085】
溶解性は、以下の手順で測定することができる。
まず、上記ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドフィルムを、厚さ20μm、2.0cm×2.0cmの大きさに切断してサンプルとし、予めその重量(浸漬前のフィルムの重量)を測定する。また、使用前のろ紙の重量も予め測定しておく。
次いで、当該サンプルを、濃度1質量%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加えてサンプル液とし、得られたサンプル液を、80℃に加熱したオーブンの中に5分間静置する。その後、サンプル液をオーブンから取り出し、ろ紙でろ過した後、100℃で減圧乾燥させる。そして、ろ過・乾燥後のろ紙の重量を測定する。
得られた測定値を上記式に当てはめて、溶解率を算出する。これらの操作をn=2で行い、その平均値を溶解率(%)とする。
【0086】
ポリイミドフィルムの溶解性は、例えば脂肪族モノマー(A)の含有量を多くしたり、芳香族モノマー(B)として式(3-1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物や式(4-1)で表される芳香族ジアミンを用いたりすると、高くなりやすい。また、ジアミン/酸二無水物の比率を小さくすると、得られるポリイミドフィルムの溶解性が高くなりやすい。
【0087】
2.ポリアミド酸ワニスの製造方法
上記ポリアミド酸ワニスは、上記のジアミンとテトラカルボン酸二無水物を、上述したアミド骨格を有する溶媒又はスルホニル骨格を有する溶媒を含む溶媒中で重合反応させて得ることができる。
【0088】
重合反応の手順は、特に制限されない。例えば、まず、撹拌機及び窒素導入管を備えた容器を用意する。窒素置換した容器内に前述の溶媒を投入し、ポリアミド酸の固形分濃度が5~30重量%となるようにジアミンを加えて、温度調整して攪拌及び溶解させる。この溶液に、ジアミンに対して、モル比率が上記モル比(y/x)の範囲内となるようにテトラカルボン酸二無水物を加え、温度を調整して1~50時間程度攪拌する。重合反応終了後、必要に応じて溶媒をさらに加えて希釈してもよい。それにより、ポリアミド酸を含むワニスを得ることができる。
【0089】
重合反応させるときの温度は、上述したアミド骨格を有する溶媒又はスルホニル骨格を有する溶媒を含む溶媒中で重合反応が進む程度であればよく、特に制限されない。重合反応時の温度は、例えば70℃よりも高い温度、例えば80~90℃とすることができる。
【0090】
3.ポリイミド組成物
本実施形態に係るポリイミド組成物は、上記ポリアミド酸ワニスを加熱して、イミド化させたものである。即ち、本実施形態に係るポリイミド組成物は、上記テトラカルボン酸二無水物と上記ジアミンとの重縮合物であるポリイミドを含む。
【0091】
ポリアミド酸がイミド化する温度は、例えば150~250℃でありうる。そのため、塗膜の温度を急激に250℃以上まで上昇させると、塗膜から溶媒が揮発する前に、塗膜表面のポリアミド酸がイミド化する。その結果、塗膜内に残った溶媒が気泡を生じさせたり、塗膜表面に凹凸を生じたさせたりする。したがって、50~250℃の温度領域では、塗膜の温度を徐々に上昇させることが好ましい。具体的には、50~250℃の温度領域における昇温速度を0.25~30℃/分とすることが好ましく、1~20℃/分とすることがより好ましく、2~10℃/分とすることがさらに好ましい。
【0092】
ポリイミド組成物の形態は、特に制限されず、ワニス状であってもよいし、フィルム状であってもよい。ポリイミド組成物がポリイミドフィルムである場合、ポリイミドフィルムは、上記した物性を満たすことが好ましい。
【0093】
4.用途
上記ポリイミド組成物は、上記の通り、脂肪族ジアミンに由来する構成単位を所定量以上含むため、良好な貼り合わせ特性を有する。よって、上記ポリイミド組成物は、電子回路基板、半導体デバイス、サージ部品等における接着剤、封止材、絶縁材料又は保護材料として用いることができる。
【0094】
例えば、上記ポリイミド組成物を接着剤に用いる場合、基材と、上記ポリイミド組成物を含む樹脂層とを有する積層体としうる。樹脂層の厚みは、特に制限されないが、仮固定用接着剤として用いる場合は1~100μm程度としうる。当該積層体は、例えば基材上に、上記ポリアミド酸ワニスを塗布した後、加熱してイミド化させて、ポリイミド組成物を含む樹脂層を形成するステップを経て製造されうる。
【0095】
基材に含まれる材料は、用途にもよるが、シリコン、セラミックス、金属又は樹脂でありうる。金属の例には、銅、アルミ、SUS、鉄、マグネシウム、ニッケル、及びアルミナ等が含まれる。セラミックスの例には、炭化ケイ素、窒化ガリウム、酸化ガリウムなどが含まれる。樹脂の例には、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド、PET樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド等が含まれる。中でも、基材は、Si、Ga、Ge、As及びAIからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、Si、Ga、Ge、As及びAIからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む半導体基板であることがさらに好ましく、シリコン、炭化ケイ素、窒化ガリウム、酸化ガリウム、サファイヤからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む半導体基板であることが特に好ましい。
【0096】
このうち、上記ポリイミド組成物は、特に半導体デバイス用の仮固定用接着剤として好適に用いることができる。
【0097】
即ち、半導体デバイスの製造工程では、半導体ウエハの裏面を研削して、半導体ウエハの厚みを薄くするバックグラインド加工が行われている。バックグラインド工程では、半導体ウエハの表面を保護すると共に、剛性の高い支持基板(例えばガラス基板)を固定するための材料として、ポリイミド樹脂の使用が検討されている。
【0098】
そのような用途に用いるポリイミド樹脂には、半導体ウエハと支持基板とを良好に密着させて、貼り合わせられることが求められる。そのようなポリイミド樹脂として、脂肪族ジアミン由来の構成単位を所定量以上含む上記ポリイミド組成物を好適に用いることができる。
【0099】
5.半導体デバイスの製造方法
図1A~1F及び図2A~2Cは、本発明の一実施形態に係る半導体デバイスの製造方法を示す模式図である。
【0100】
本実施形態に係る半導体デバイスの製造方法は、1)基板10上に、ポリアミド酸ワニスを塗布した後、加熱してイミド化させて、樹脂層20を形成する工程と(図1A及び1B参照)、2)樹脂層20を加熱しながら、支持基板30を貼り合わせる工程と(図1C参照)、3)当該貼り合わされた基板10の、樹脂層20とは反対側の面を研削する工程(図1D及び1E参照)とを含む。さらに、本実施形態では、4)研削した基板10の裏面を加工する工程(図1F参照)、5)レーザー光を照射し、支持基板30を樹脂層20から剥離する工程(図2A及び2B参照)、及び6)残った樹脂層20を溶媒に溶解させて除去する工程(図2C参照)を行うことができる。
【0101】
1)の工程
基板10上に、上記ポリアミド酸ワニスを塗布した後、加熱してイミド化させて、樹脂層20を形成する(図1A及び1B参照)。基板10は、上記した基材、好ましくはシリコン、炭化ケイ素、窒化ガリウム、酸化ガリウム、サファイヤからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む半導体基板でありうる。
【0102】
ワニスの塗布方法は、特に制限されず、例えばスピンコート法でありうる。
【0103】
塗布したワニスの加熱は、例えばオーブンやホットプレートにより行うことができる。加熱温度は、ポリアミド酸をイミド化させることができ、且つ自立した膜状となるまで溶媒を除去できる温度であればよく、1段階でイミド化させる場合は、20~50℃から180~250℃の温度域に昇温し、到達温度で所定の時間保持することでイミド化させることができる。具体的な到達温度は、180~250℃が好ましく、180~200℃がより好ましい。また、昇温速度は、0.25~30℃/分が好ましく、1~20℃/分がより好ましく、2~10℃/分がさらに好ましい。さらに、到達温度ので保持時間は、10~120分が好ましく、20~60分がより好ましく、20~30分がさらに好ましい。
【0104】
また、2段階でイミド化させる場合は、1段階目を50~150℃とすることが好ましく、50~100℃とすることがより好ましい。また、2段階目は150~300℃とすることが好ましく、150~250℃とすることがより好ましい。各段階における保持時間は、1~60分とすることが好ましく、2~15分とすることがより好ましく、2~10分とすることがさらに好ましい。また、各段階の間における温度変化や時間は、特に制限されない。
【0105】
樹脂層20の厚みは、特に制限されないが、例えば仮固定用接着剤として用いる場合は、1~100μm程度としうる。
【0106】
2)の工程
次いで、樹脂層20をその溶融温度以上に加熱し、支持基板30を貼り合わせる(図1C参照)。
【0107】
支持基板30は、剛性を有する基板であればよく、例えば樹脂基板、セラミックス基板、ガラス基板のいずれであってもよい。このうち、LLOを行う観点では、支持基板30は、ガラス基板等の透明支持基板であることが好ましい。支持基板30の厚みは、特に制限されないが、樹脂層20の厚みよりも厚いことが好ましく、例えば50~1000μmでありうる。
【0108】
樹脂層20の加熱温度は、溶融温度以上であればよい。溶融温度とは、上記ポリアミド酸ワニスから得られるポリイミドフィルムの溶融温度を意味する。具体的には、貼り合わせ時の加熱温度は、溶融温度以上350℃以下としうる。
【0109】
樹脂層20の加熱方法は、特に制限されず、上記と同様にオーブンやホットプレート等用いて行うことができる。貼り合わせ時に所定の圧力を加えて、熱圧着させてもよい。
【0110】
3)の工程
次いで、支持基板30が貼り合わされた基板10の、樹脂層20とは反対側の面を研削する(図1D及び1E参照)。それにより、基板10が、所定以下の厚みに薄化される。
【0111】
他の工程
さらに、本実施形態では、4)研削した裏面を加工する工程(図1F参照)、5)レーザー光を照射し、支持基板30を樹脂層20から剥離する工程(図2A及び2B参照)、及び6)残った樹脂層20を溶媒に溶解させて除去する工程(図2C参照)を行う。
【0112】
4)の工程(裏面加工工程)では、例えばイオン注入やアニールを行った後、コレクタ層を形成して、トランジスタ40(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ、IGBT)を形成してもよい。あるいは、レジストを形成し、パターニングする加工を行ってもよい。
【0113】
5)の工程では、レーザー光を照射し、支持基板30を樹脂層20から剥離する(図2A及び2B参照)。
【0114】
レーザー光は、波長が200~360nm(好ましくは355nm)の光でありうる。レーザー光を照射することにより、ポリイミド組成物のポリイミド中の芳香環が吸収して生じる熱により、エーテル結合が切れて剥離しやすくなる。
【0115】
6)の工程では、残った樹脂層20を溶媒と接触させて溶解させることにより、除去する(図2C参照)。
【0116】
使用される溶媒は、樹脂層20を溶解させることができる溶媒であればよく、上記ポリアミド酸ワニスに用いられる溶媒と同様のものを用いてもよい。それにより、裏面加工された基板10’を得ることができる。
【実施例0117】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例の記載に限定されない。
【0118】
1.材料の準備
1-1.脂肪族モノマー(A)
(脂肪族ジアミン)
デカンジアミン:1,10-ジアミノデカン
ジオキサドデカンジアミン:4,9-ジオキサン-1,12-ドデカンジアミン
RT1000:ポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、下記式参照、Mw=1015)
【化14】
【0119】
1-2.芳香族モノマー(B)
(芳香族テトラカルボン酸二無水物)
pBPADA:4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)
【0120】
(芳香族ジアミン)
p-BAPP:2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン
【0121】
1-3.溶媒
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
GBL:γ-ブチロラクトン
KJCMPA-100:3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド
DMI:1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン
DMSO:ジメチルスルホキシド
1-メチルイミダゾール
アセト酢酸エチル
マロン酸ジメチル
ピルピン酸メチル
【0122】
2.ワニスの調製及び評価
[実施例1~10、比較例1~6]
表1に示す溶媒中に、同表に示される種類及び量(モル%)のテトラカルボン酸二無水物とジアミンを配合した。得られた混合物を、乾燥窒素ガスを導入できるフラスコ内で、45~85℃で5時間以上攪拌し、樹脂固形分が20~30質量%であるポリアミド酸ワニスを得た。なお、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込み量(モル比)は、ジアミン/テトラカルボン酸二無水物=0.93とした。
【0123】
なお、固体の脂肪族ジアミン(デカンジアミン)は、室温での溶媒に対する溶解性が低い。そのため、固体の脂肪族ジアミンを用いた実施例3~10、比較例1~6では、45℃から順次昇温して85℃まで加熱し、固体の脂肪族ジアミンを溶解・溶融させた。そして、85℃に到達して30分間保持した後、45℃に自然降温させることにより反応させた。
【0124】
[評価]
(1)E型粘度
得られたポリアミド酸ワニスのE型粘度を、25℃においてE型粘度計により測定した。
【0125】
(2)固有粘度
ポリアミド酸の固有粘度(η)は、ポリアミド酸ワニスを、濃度が0.5g/dLとなるように、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させたときの25℃でウベローデ粘度管にて3回測定した平均値である。
【0126】
(3)モノマー溶解性(モノマーが固体の場合)
表1の溶媒を、投入する全モノマーに対して30質量%になるように容器に入れた。これに、酸二無水物、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミンを順次投入して昇温し、75~85℃で攪拌しながら所定時間以上維持した。そして、以下の基準でモノマーの溶解性を評価した。
〇:75~85℃で30分加熱した時点でワニス全体が均一になっており、溶け残りが目視で確認できない
△:75~85℃で30分超6時間以内の加熱でワニス全体が均一になっており、溶け残りが目視で確認できない
×:6時間を超える時間加熱しても溶けない
【0127】
(4)塩の溶解性(モノマーが液体の場合)
容器に入れた表1の溶媒中で、同表のモノマーを同表に示す反応温度で反応させた時の、テトラカルボン酸二無水物の開環物とジアミンとの反応物(塩)が析出しているかどうかを、目視観察した。そして、以下の基準で評価した。
〇:脂肪族ジアミン(常温で液体状態の化合物も含む)を装入し、白色の析出物が生じない
△:生じた白色の析出物が45~85℃において所定時間反応させた後に溶解する
×:上記条件で生じた白色の析出物が溶解しない
【0128】
(5)成膜性
得られたポリアミド酸ワニスを、ガラス基板上にバーコーターを用いて塗布した後、50℃から180~250℃の温度まで5℃/分で昇温し、到達温度で30分経過後に室温まで降温したときに、フィルム状となるかどうかを評価した。
そして、成膜性を、以下の基準で評価した。
〇:フィルム状となる
△:上記条件においてフィルム状として得られるが、塗布の際にワニスが白く変化する
×:上記条件でフィルム状として得られない
【0129】
(6)保存安定性
1)調製直後のポリアミド酸ワニスの粘度は、次のように測定した。E型粘度計(東機産業株式会社製、VISCOMETER TV-25)に0.15mLのポリアミド酸ワニスを入れ、プレヒートとして25℃で120秒加熱した後、コーンローター(3°×R9.7)を用いて25℃の条件下でトルクが0~80%に収まる回転数において、プレヒート終了後から240秒後に測定した値を採用した。
2)次いで、調製したポリアミド酸ワニスを所定量採取し、10mLのバイアル瓶に封入して、密閉した。これを、常温(25℃)で一定期間保存した。その後、バイアル瓶から取り出したポリアミド酸ワニスのE型粘度を上記と同様にして測定した。
3)次いで、保存前後の粘度を、下記式に当てはめて、変化率を算出した。
変化率(%)=((保存後の粘度-保存前の粘度)/保存前の粘度)×100
そして、以下の基準で保存安定性を評価した。
〇:変化率が±10%以下
△:変化率が±10%超20%以下
×:変化率が±20%超
これと同様の評価を、保存温度を、冷蔵(3~8℃)、冷凍(-19~-14℃)とした場合についても行った。
【0130】
実施例1~10及び比較例1~6の評価結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
表1に示すように、比較例1のポリアミド酸ワニスは、モノマーの溶解性や塩の溶解性が悪く、ほとんど反応しないことがわかる。
【0133】
これに対して、実施例1~10のポリアミド酸ワニスは、モノマー溶解性や塩の溶解性が良好であることから、反応していることがわかる。また、成膜性も優れることから、良好な重合度を有するポリアミド酸が得られることがわかる。
【0134】
これらのことから、NMP代替え溶媒としてNMP以外のアミド骨格を有する溶媒やスルホキシド骨格を有する溶媒を用いることで、脂肪族ジアミンを多く含んでいても、所定の重合度のポリアミド酸を含むワニスが得られることがわかる。
【0135】
特に、溶媒として、スルホキシド骨格を有する溶媒を用いた場合、保存安定性がやや劣るが、DMIとブレンドすることで、保存安定性の低下を抑制できることがわかる。
【0136】
3.各種物性及び溶融貼り合わせ性の評価
表1の実施例5のワニスについて、以下の物性(ガラス転移温度、溶融温度、複素粘度)を測定した。また、得られるポリイミドフィルムの溶融貼り合わせ性を、以下の方法で評価した。
【0137】
(1)ガラス転移温度
ガラス板上にワニスを塗布して、大気下で50℃から加熱到達温度まで5℃/分で昇温し、加熱到達温度で30分保持して、ポリイミドフィルムを製膜した。ポリアミド酸ワニス7の加熱到達温度は180℃とした。
【0138】
次いで、得られたポリイミドフィルムを、幅5mm、長さ22mmの大きさに裁断し、得られたサンプルのガラス転移温度(Tg)を、島津製作所社製TMA-50により測定した。具体的には、大気雰囲気下、昇温速度5℃/分で50℃未満から180~250℃まで昇温させて、引張りモード(100mN)で測定を行い、得られた曲線においてガラス転移に起因する変曲点に対し、その前後の曲線を外挿してTgを求めた。
【0139】
(2)溶融温度、複素粘度
上記(1)で製膜したポリイミドフィルムを、直径15~25mmとなるように複数枚切り出し、これらを重ねて、厚み0.5~2mmのサンプルとした。
【0140】
上記サンプルを、TA Instruments社製ARES-G2レオメーターにセットして、周波数1Hz、昇温速度3℃/分で、所定の温度まで昇温し、溶融粘弾性を測定した。得られた測定結果におけるガラス転移温度以上の温度域において、貯蔵弾性率と損失弾性率が等しくなる点(tanδ=1となる温度)が溶融点であり、溶融点となる温度を溶融温度とした。また、同条件において同時に得られる溶融温度(溶融点)における複素粘度も、併せて求めた。
【0141】
これらの測定結果を表2に示す。
【表2】
【0142】
(3)溶融貼り合わせ性
表1の実施例5のワニスについて、直径300mmのシリコンウエハ上に上記ワニスを滴下して、スピンコートを用いて塗布した。これを、ホットプレート上に配置し、80℃で5~10分加熱した後、200~250℃で5~10分さらに加熱した。その後、直径300mmのガラス基板を220~280℃で5分間の圧力20~30kNで押し付けて、貼り付けた。
【0143】
ガラス基板を貼り合わせたときの、貼り合わせにおける気泡の有無を目視観察した結果、目視で確認できる範囲で気泡が無かった。それにより、NMPの代替溶媒を用いても、良好に貼り合わせ性が得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明によれば、NMPの代替溶媒を用いて調製された、脂肪族ジアミンを所定量以上含むポリアミド酸を含むワニスを提供することができる。
【符号の説明】
【0145】
10 基板
10’ 裏面加工された基板
20 樹脂層
30 支持基板
40 トランジスタ
図1
図2