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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016893
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】真空鋳造装置および真空鋳造成形方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/20 20060101AFI20240201BHJP
   B22D 17/14 20060101ALI20240201BHJP
   B22D 17/32 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B22D17/20 G
B22D17/14
B22D17/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119169
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】釼 祐一郎
(57)【要約】
【課題】真空鋳造成形の各工程に応じて、シール性と滑り性を自在に調整できる真空漏れ防止手段を備えた真空鋳造装置および真空鋳造成形方法を提供する。
【解決手段】射出スリーブ内を前後方向に摺動するプランジャチップと、プランジャチップの前後方向の摺動を操作する射出駆動部と連結されたプランジャロッドと、プランジャチップとプランジャロッドとの間に配置され射出スリーブとの摺動隙間を調整可能な調整リングとを備え、プランジャチップと調整リングおよびプランジャロッドを一体に締結した状態で、温調媒体が循環する媒体循環回路が形成され、媒体循環回路内の温調媒体の循環圧力の調整手段を有する温調媒体循環部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型キャビティあるいは射出スリーブを真空吸引して、前記射出スリーブ内に供給された溶湯を前記金型キャビティ内に向けて射出充填する真空鋳造装置において、
前記射出スリーブ内を前後方向に摺動するプランジャチップと、前記プランジャチップの前後方向の摺動を操作する射出駆動部と連結されたプランジャロッドと、前記プランジャチップと前記プランジャロッドとの間に配置され前記射出スリーブとの摺動隙間を調整可能な調整リングと、を備え、
前記プランジャチップと前記調整リングおよび前記プランジャロッドを一体に締結した状態で、温調媒体が循環する媒体循環回路が形成され、前記媒体循環回路内の前記温調媒体の循環圧力を上昇または低下させる調整手段を有する温調媒体循環部と、を備えることを特徴とする真空鋳造装置。
【請求項2】
前記調整リングは、前記プランジャチップに勘合させるリング状のホイールと、前記ホイールを前記プランジャチップに固定する固定リングと、前記ホイールに支持され内部に密閉された密閉空間部を有する弾性チップリングと、前記媒体循環回路を循環する前記温調媒体を前記密閉空間部に流入する媒体流入回路と、を備え、
前記循環圧力の上昇または低下に応じて、前記密閉空間部に流入する前記温調媒体の流入圧力が上昇または低下し、前記弾性チップリングが膨張または収縮して前記摺動隙間が調整される、請求項1に記載の真空鋳造装置。
【請求項3】
前記弾性チップリングは、耐熱性を有する弾性素材である、請求項1または2に記載の真空鋳造装置。
【請求項4】
請求項1に記載の真空鋳造装置を用いて行う真空鋳造成形方法において、
前記金型キャビティを形成する型締工程と、前記射出スリーブ内に所定量の溶湯を供給する給湯工程と、前記金型キャビティあるいは前記射出スリーブを真空吸引する真空吸引工程と、前記プランジャチップを前進動作させて前記射出スリーブ内の溶湯を前記金型キャビティ内に充満させる射出充填工程と、前記金型キャビティ内の溶湯の密度を調整する増圧工程と、前記金型キャビティ内で所定の圧力を溶湯に作用させた状態で冷却保持する冷却工程と、前記プランジャチップを後退動作させて次ショットの真空鋳造成形の準備を行う準備工程と、を備え、
前記媒体循環回路から前記媒体流入回路を経由して前記密閉空間部内に流入する前記温調媒体の流入圧力を上昇させて前記弾性チップリングを膨張させるシール性形成工程と、前記流入圧力を低下させて前記弾性チップリングを収縮させる滑り性形成工程と、を前記真空鋳造成形の各工程に応じて選択する、ことを特徴とする真空鋳造成形方法。
【請求項5】
前記媒体循環回路内を循環する前記温調媒体の循環圧力の上昇または低下と連動して、前記流入圧力が上昇および低下する、請求項4に記載の真空鋳造成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型キャビティあるいは射出スリーブを真空吸引して、射出スリーブ内に供給された溶湯を金型キャビティ内に向けて射出充填する、真空鋳造装置および真空鋳造成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶湯の酸化防止や空気の巻き込みによるボイド混在等の鋳造不良の低減や、鋳造品に含まれるガス量を低減する手段として、真空鋳造成形が好適とされ、以下の工程を繰り返す。先ず、鋳造金型を型締して金型キャビティを形成し(型締工程)、射出スリーブ内にアルミニウム合金等の溶湯を供給する(溶湯供給工程)。その後、鋳造金型あるいは射出スリーブに設けた真空吸引手段を用いて、金型キャビティあるいは射出スリーブ内を真空吸引する(真空吸引工程)。同時に、プランジャチップを前進させて、射出スリーブ内の溶湯を金型キャビティに向けて射出充填し(射出充填工程)、金型キャビティ内の溶湯の密度を調整する増圧工程、鋳造品の取出し温度まで溶湯を冷却する冷却工程を経て、鋳造金型を型開して(型開工程)、金型キャビティから鋳造品を取り出す(搬出工程)。続いて、金型キャビティの清掃や離型剤塗布等の準備工程を行い次ショットに進む。
【0003】
増圧工程または冷却工程の任意のタイミングで真空吸引工程を終える。この真空吸引工程において、金型キャビティおよび射出スリーブの真空シール手段が適切でない場合、金型キャビティあるいは射出スリーブに外気が流入する(真空漏れという)。特に、射出スリーブで真空漏れが生じると、流入した外気の流れによって射出スリーブ内の溶湯が乱れ、溶湯が粒となって金型キャビティに吸い込まれることがある(先湯という)。真空漏れによって真空鋳造成形の効果が大きく低下し、先湯によって吸い込まれた溶湯が異物となって鋳造不良を誘発する。そのため、真空鋳造成形において、射出スリーブの真空漏れを防止する手段が多く提案されている。
【0004】
なお、射出スリーブの真空漏れの防止効果(シール性という)を高めた形態とすると、射出充填工程において、プランジャチップと射出スリーブとが強く接触することがある(カジリという)。このカジリによって、プランジャチップと射出スリーブの滑り性が低下し、プランジャの前進動作がスムーズに動かない不具合が生じることがある。その結果、金型キャビティ内の溶湯の充填流動が乱れて、湯ジワや空気巻込み等の溶湯流動の乱れに起因する鋳造不良の発生となる。そのため、シール性と滑り性を兼ね備えた真空漏れの防止手段が望まれる。
【0005】
例えば、特許文献1に示すような、環状凸条部と環状凹条部を交互に配列したラビリンスシールを設けたプランジャチップが提案されている。これによると、射出スリーブとラビリンスシールは非接触であるので滑り性とシール性を兼ね備えているとされている。また、特許文献2に示すような、シールリングと摺動リングを備えたプランジャチップが提案されている。シールリングは熱膨張率の高い素材を用いてシールリングの熱膨張によってシール性を高め、摺動リングは高潤滑性の素材を用いて滑り性を高めるとされている。なお、特許文献2は、溶湯の漏出防止を目的としているが、真空漏れの防止手段としても利用することができる。
【0006】
また、例えば、特許文献3に示すような、プランジャチップの外周面に材質の異なる2種類のリング状樹脂部材を重ねて配置することが提案されている。これによると、外側のリング状樹脂部材が熱膨張しても、内側のリング状樹脂部材で熱膨張を吸収し、シール性と滑り性の安定性を得るとされている。また、特許文献4に示すような、プランジャチップ内を循環する冷却水の温度計測に基づいて冷却水の循環状態を調整することで、プランジャチップと射出スリーブとの隙間を適正に調整されることが提案されている。これによると、プランジャチップの熱膨張を適正に調整して、カジリや溶湯の漏出を防止でき、シール性と滑り性のバランスがとれるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-268051号公報
【特許文献2】特開2005-329431号公報
【特許文献3】特開2022-50742号公報
【特許文献4】特開2017-100184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、例えば、650~700℃に温度調整されたアルミニウム合金の溶湯を用いる真空鋳造成形において、溶湯が供給される射出スリーブは400~500℃程度に加熱され、溶湯と接触するプランジャチップは500~600℃程度に加熱される。その結果、射出スリーブおよびプランジャチップ等の部材は、加熱の程度に応じて大きく熱膨張する。その熱膨張量は、加熱温度の高いプランジャチップが最も大きい。また、加熱温度が均等でないことから熱膨張量も均等でなく、射出スリーブやプランジャチップ等の部材は不均等な熱膨張を示し熱変形が生じる。例えば、射出スリーブは大きく湾曲した熱変形が生じることがある(バナナ変形という)。
【0009】
この熱膨張および熱変形によって、特許文献1において、ラビリンスシールと射出スリーブとが強く接触してカジリが生じると考えらえる(滑り性の消失)。このカジリにより、ラビリンスシールが損傷してシール性を消失することになる。また、特許文献2において、熱膨張率の高い素材をシールリングに用いているので、プランジャチップの熱膨張および熱変形とシールリングの熱膨張が加算されて、大きなカジリが生じ、シールリングが大きく損傷してシール性を消失することになる。また、シール性の消失により溶湯が漏出して、摺動スリーブが溶損を受けて滑り性も消失する。その結果、特許文献1および特許文献2は、安定したシール性と滑り性を維持することができない。
【0010】
これに対して、特許文献3において、内側のリング状樹脂部材が収縮することで、外側のリング状樹脂部材の熱膨張を吸収することで、シール性と滑り性を安定して維持できるとされている。しかしながら、収縮された内側のリング状樹脂部材の反発力は、外側のリング状樹脂部材の熱膨張量に応じて大きくなり、外側のリング状樹脂部材に伝達されて、射出スリーブと外側のリング状樹脂部材とは強く接触してカジリが生じる。また、プランジャチップおよび射出スリーブ等の部材の熱膨張および熱変形が、外側のリング状樹脂部材に加わって、カジリがさらに強くなって、外側のリング状樹脂部材のシール性と滑り性を大きく損なうこととなる。
【0011】
また、特許文献4において、プランジャチップを適切に冷却することで、プランジャチップの熱膨張を抑制して、安定したシール性と滑り性が維持できるとされている。ただし、射出スリーブの熱膨張および熱変形に対しては何も対処されていないので、例えば、バナナ変形のような大きな熱変形が生じた場合、プランジャチップと射出スリーブのカジリを確実に阻止することは困難であり、その結果、シール性と滑り性を損なうことは否定できない。このように、熱膨張および熱変形を考慮した特許文献3および特許文献4においても、安定したシール性と滑り性を維持することができない。
【0012】
ここで、真空吸引工程においてはシール性が重要視され、射出充填工程から冷却工程の中で、特に鋳造品質と関係の大きい射出充填工程および増圧工程においては、プランジャチップの正確な前進動作の制御のために、滑り性が重要視される。つまり、真空吸引工程と射出充填工程においては、シール性と滑り性の兼合いが重要視される。しかしながら、冷却工程以降においては、プランジャチップが後退動作するだけであるので、シール性は必要とせず、滑り性のみが重要視される。このように、真空鋳造成形の各工程に応じて、シール性と滑り性を好適に使い分けできる、射出スリーブとプランジャチップの真空漏れの防止手段が好ましい。そこで、本発明は、真空鋳造成形の各工程に応じて、シール性と滑り性を自在に調整できる真空漏れ防止手段を備えた真空鋳造装置および真空鋳造成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の真空鋳造装置は、
金型キャビティあるいは射出スリーブを真空吸引して、前記射出スリーブ内に供給された溶湯を、前記金型キャビティ内に向けて射出充填する真空鋳造装置において、
前記射出スリーブ内を前後方向に摺動するプランジャチップと、前記プランジャチップの前後方向の摺動を操作する射出駆動部と連結されたプランジャロッドと、前記プランジャチップと前記プランジャロッドとの間に配置され前記射出スリーブとの摺動隙間を調整可能な調整リングと、を備え、
前記プランジャチップと前記調整リングおよび前記プランジャロッドを一体に締結した状態で、温調媒体が循環する媒体循環回路が形成され、前記媒体循環回路内の前記温調媒体の循環圧力を上昇または低下させる調整手段を有する温調媒体循環部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の真空鋳造装置において、
前記調整リングは、前記プランジャチップに勘合させるリング状のホイールと、前記ホイールを前記プランジャチップに固定する固定リングと、前記ホイールに支持され内部に密閉された密閉空間部を有する弾性チップリングと、前記媒体循環回路を循環する前記温調媒体を前記密閉空間部に流入する媒体流入回路と、を備え、
前記循環圧力の上昇または低下に応じて、前記密閉空間部に流入する前記温調媒体の流入圧力が上昇または低下し、前記弾性チップリングが膨張および収縮して前記摺動隙間が調整される、ことが好ましい。
【0015】
また、本発明の真空鋳造装置において、
前記弾性チップリングは、耐熱性を有する弾性素材である、ことが好ましい。
【0016】
本発明の真空鋳造成形方法は、
請求項1に記載の真空鋳造装置を用いて行う真空鋳造成形方法において、
前記金型キャビティを形成する型締工程と、前記射出スリーブ内に所定量の溶湯を供給する給湯工程と、前記金型キャビティあるいは前記射出スリーブを真空吸引する真空吸引工程と、前記プランジャチップを前進動作させて前記射出スリーブ内の溶湯を前記金型キャビティ内に充満させる射出充填工程と、前記金型キャビティ内の溶湯の密度を調整する増圧工程と、前記金型キャビティ内で所定の圧力を溶湯に作用させた状態で冷却保持する冷却工程と、前記プランジャチップを後退動作させて次ショットの真空鋳造成形の準備を行う準備工程と、を備え、
前記媒体循環回路から前記媒体流入回路を経由して前記密閉空間部内に流入する前記温調媒体の流入圧力を上昇させて前記弾性チップリングを膨張させるシール性形成工程と、前記流入圧力を低下させて前記弾性チップリングを収縮させる滑り性形成工程と、を前記真空鋳造成形の各工程に応じて選択する、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の真空鋳造方法において、
前記媒体循環回路内を循環する前記温調媒体の循環圧力の上昇または低下と連動して、前記流入圧力が上昇および低下する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、真空鋳造成形の各工程に応じて、シール性と滑り性を自在に調整できる真空漏れ防止手段を備えた真空鋳造装置および真空鋳造成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る真空鋳造装置を示す概念図である。
図2】本発明の実施形態に係る真空漏れ防止手段を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る真空鋳造成形方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0021】
(真空鋳造装置)
先ず、本発明の実施形態に係る真空鋳造装置について、図1を用いて説明する。図1に示す真空鋳造装置100は、鋳造金型10と、射出部20と、温調媒体循環部30と、真空吸引部40と、を備える。なお、図1において、鋳造金型10と射出部20が水平方向に配置された形態(横型締横鋳込みの真空鋳造装置)としたが、これに限定されることなく、例えば、水平方向に配置された鋳造金型10と鉛直方向に配置された射出部20の形態(横型締竪鋳込みの真空鋳造装置)であっても良く、鋳造金型10と射出部20が鉛直方向に配置された形態(竪型締竪鋳込みの真空鋳造装置)であっても良い。いずれにおいても、構成要素は変わらず、鋳造金型10と射出部20の配置の組合せを変えたものであるので、横型締横鋳込みの真空鋳造装置を用いて説明する。
【0022】
鋳造金型10は、図示しない型締手段に支持される固定金型11と可動金型12を備え、型締手段を用いて固定金型11と可動金型12を型締することで金型キャビティ13が形成される。この金型キャビティ13に向けてアルミニウム合金等の溶湯を射出充填して鋳造品を得る。金型キャビティ13から鋳造品を取出しやすいように、溶湯の射出充填前に離型剤が金型キャビティ13に塗布される。また、取出し時の鋳造品の温度を安定させるために、鋳造金型10は図示しない温調手段で所定の温度に調整される。
【0023】
射出部20は、円筒状の射出スリーブ21と、射出スリーブ21内に溶湯を供給する注湯口22と、射出スリーブ21内で前後方向に摺動するプランジャチップ23と、調整リング25と、プランジャロッド24と、を備える。射出スリーブ21の先端は、金型キャビティ13と連通したゲート14と接続する。ここで、プランジャチップ23の摺動動作に関して、ゲート14に近づく方向を前方F、前方Fに向かう動作を前進動作、ゲート14から離れる方向を後方R、後方Rに向かう動作を後退動作、と定義する。前方Fから後方Rに向かって、プランジャチップ23、調整リング25、プランジャロッド24、の順に連結して一体化し、プランジャロッド24の後方Rと射出駆動部26が連結される。射出制御部27で射出駆動部26を操作して、一体化したプランジャロッド24および調整リング25およびプランジャチップ23を前進動作させ、射出スリーブ21内に供給された溶湯を押圧して、ゲート14を経由して金型キャビティ13内に射出充填する。
【0024】
射出スリーブ21およびプランジャチップ23には、必要に応じて、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む図示しない冷却手段が設けられている。また、プランジャチップ23の摩耗損傷の防止や摺動状態の安定化及び溶湯残渣物の付着抑制等のため、射出スリーブ21とプランジャチップ23との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。
【0025】
温調媒体循環部30は、貯蔵した温調媒体の温度調整と循環を行う媒体温調部31と、媒体温調部31から射出部20に向けて温調媒体を流す入口配管32と、射出部20から媒体温調部31に向けて温調媒体を戻す出口配管33と、入口配管32と出口配管33を接続して射出部20内に温調媒体を循環させる配管接手34と、を備える。また、入口配管32には圧力調整バルブ35が配置され、出口配管33には開閉バルブ36が配置される。この2つのバルブ(35、36)を操作することによって、循環する温調媒体の循環圧力が上昇または低下に調整される(循環圧力の調整手段という)。開閉バルブ36はバルブ制御部37によって操作される。圧力制御バルブ35で圧力調整された温調媒体は、補助配管38を経由して媒体温調部31に戻される。
【0026】
真空吸引部40は、鋳造金型10に配置された金型吸引部41を用いて、吸引溝42を介して金型キャビティ13内を直接的に真空吸引する。あるいは、射出スリーブ21に設けた吸引孔44と接続した射出スリーブ吸引部45を用いて、射出スリーブ21内を真空吸引する。ゲート14を介して射出スリーブ21と金型キャビティ13は連通状態であるので、金型キャビティ13内は間接的に真空吸引される。また、金型キャビティ13を真空吸引することで、射出スリーブ21内も間接的に真空吸引される。金型吸引部41あるいは射出スリーブ吸引部45は、吸引制御部43で操作する。なお、直接的な真空吸引および間接的な真空吸引は、同時に選択しても良く、どちらか1つを選択しても良い。また、真空鋳造成形において、直接的および間接的に関わらず金型キャビティ13を真空吸引する動作を真空吸引工程という。
【0027】
ここで、真空鋳造成形は、溶湯の酸化防止や空気の巻き込みによるボイド混在等の鋳造不良の低減や、鋳造品に含まれるガス量を低減する好適な手段とされ、金型キャビティ13および射出スリーブ21内の真空吸引は高い精度が要求される。そのために、金型キャビティ13および射出スリーブ21には、真空吸引の効果を維持できるように、例えばシール部材等を用いた真空漏れ防止手段が講じられる。鋳造金型10は、金型キャビティ13が形成された後に動くことがないので、金型キャビティ13に真空漏れ防止手段は比較的強固にできる。しかし、射出スリーブ21は、後方Rが開放されており、プランジャチップ23の摺動動作や、射出スリーブ21およびプランジャチップ23の不規則な熱膨張や熱変形によって、真空漏れ防止手段の隙間等が不規則に変化する。この変化する隙間から外気が流入して真空吸引の効果が大きく低下することが問題とされている。
【0028】
ここで、例えば、不規則な熱膨張や熱変形を見越して、予め隙間を小さく設定する等の真空漏れ防止手段を行うと、プランジャチップ23と射出スリーブ21とが強固に接触してカジリが生じることがある。その結果、真空漏れ防止手段が大きく損傷を受けて、真空吸引の効果が持続しないことが新たに問題とされている。また、金型キャビティ13内の溶湯の充填流動の状態が鋳造品の品質に大きく影響するため、プランジャチップ23の前進動作は精度の高い制御が要求される。そのために、プランジャチップ23と射出スリーブ21との良好な滑り性が求められる。また、真空吸引工程は、真空漏れが生じないように確実なシール性を必要とする。また、射出充填を終えたプランジャチップ23の後退動作は、シール性は不要であり、滑り性を重視することが好ましい。このように、真空鋳造成形の各工程に応じて、シール性と滑り性を好適に使い分けできる、射出スリーブ21とプランジャチップ23の真空漏れの防止手段が望ましい。そこで、真空鋳造成形の各工程に応じて、シール性と滑り性を自在に調整できる真空漏れ防止手段について、図2を用いて詳しく説明する。
【0029】
(真空漏れ防止手段)
次に、本発明の実施形態に係る真空漏れ防止手段について、図2を用いて説明する。図2は、図1に示す領域Dを拡大した図である。前方Fから後方Rに向かって、プランジャチップ23と調整リング25およびプランジャロッド24が一体に連結され、温調媒体が循環する媒体循環回路232を内部に形成し、媒体循環回路232の先端とプランジャチップ23に形成された循環空間部231が連結される。温調媒体は、媒体循環回路232および循環空間部231を循環することで、プランジャチップ23は適正な温度状態に調整される。真空漏れ防止手段は、調整リング25に設ける。
【0030】
先ず、滑り性を優先させた真空漏れ防止手段の形態を、図2(a)に示す。調整リング25は、プランジャチップ23に勘合するリング状のホイール251と、ホイール251に支持され内部に密閉された密閉空間部253を有する弾性チップリング252と、媒体循環回路232内を循環する温調媒体を密閉空間部253内に流入する媒体流入回路255と、を備える。図1に示す、温調媒体循環部30の媒体温調部31から吐出される温調媒体は、入口配管32内を流動し、配管接手34を経由して媒体循環回路232内に流入し、循環空間部231に向かって流動する(温調媒体流動233)。循環空間部231に到着した温調媒体は、循環空間部231内を渦巻くように流動し(温調媒体流動234)、媒体循環回路232内に戻る。そのため、図2に示すように、媒体循環回路232は2重構造とすることが好ましい。
【0031】
循環空間部231から媒体循環回路232に戻った温調媒体は、媒体循環回路232内を流動して(温調媒体流動235)、図1に示す、配管接手34を経由して、出口配管33内を流動して媒体温調部31に戻される。このように、温調媒体は、媒体温調部31と循環空間部231との間を循環する(温調媒体流動233~235)。なお、温調媒体流動235の一部は、媒体流入回路255を通過して密閉空間部253内に流入する。
【0032】
この時、図1に示す、バルブ制御部37で開閉バルブ36を操作して全開状態とする。この循環圧力の調整手段の操作により、温調媒体は媒体温調部31と循環空間部231との間をスムーズに循環し、温調媒体流動235の循環圧力を低下させることができる。その結果、媒体流入回路255を通過して密閉空間部253に流入した温調媒体流動235の流入圧力も低下し、弾性チップリング252は元の大きさに収縮する。弾性チップリング252の元の大きさを、射出スリーブ21と弾性チップリング252との間に隙間が生じるように設定する。この隙間によって、プランジャチップ23の摺動はスムーズとなり、良好な滑り性を確保する。なお、この状態では、シール性を期待することはできない。
【0033】
次に、シール性を優先させた真空漏れ防止手段の形態を、図2(b)に示す。なお、図2(a)と重複する箇所は説明を省略する。温調媒体は媒体温調部31と循環空間部231との間を温調媒体が循環している状態で、図1に示す、バルブ制御部37で開閉バルブ36を操作して全閉状態とする。この循環圧力の調整手段の操作により、温調媒体流動235の流動が停滞し循環圧力が上昇する。その結果、媒体流入回路255を通過して密閉空間部253内に流入した温調媒体の流入圧力が上昇し、弾性チップリング252は射出スリーブ21側に向かって膨張する。この膨張によって、弾性チップリング252と射出スリーブ21との隙間が無くなり、強固なシール性を発揮する。なお、この状態では、滑り性を期待することはできない。
【0034】
このように、循環圧力の調整手段である開閉バルブ36の操作により、温調媒体流動235の循環圧力の上昇または低下と連動して、密閉空間部253内に流入する温調媒体の流入圧力が上昇または低下し、弾性チップリング252の膨張と収縮を精度良く選択することができる。この弾性チップリング252の膨張と収縮を利用して、真空漏れ防止手段のシール性と滑り性を正確に制御することができる。なお、循環圧力の調整手段を操作して温調媒体の流入圧力の上昇または低下のバランス調整を行い、弾性チップリング252の膨張量を適度に調整することによって、射出スリーブ21への弾性チップリング252の押付力(シール性)と、射出スリーブ21と弾性チップリング252との隙間(滑り性)の両方を作用することもできる。これによって、高品質な真空鋳造成形の安定生産を実現する真空鋳造装置を提供することができる。
【0035】
例えば、図1に示す、循環圧力の調整手段である開閉バルブ36を操作して、全閉状態と全開状態の範囲内でバルブ開度を調整して、温調媒体流動235の循環圧力を任意の状態に調整することができる。あるいは、循環圧力の調整手段である圧力調整バルブ35を操作して、媒体温調部31と循環空間部231とを循環する温調媒体の循環圧力に制限を設定し、温調媒体流動235の循環圧力を任意の状態に調整することができる。また、2つの循環圧力の調整手段である開閉バルブ36と圧力調整バルブ35の両方を操作して、温調媒体流動235の循環圧力を調整するとしても良い。また、例えば、媒体温調部31から温調媒体の吐出量を調整して、温調媒体流動235の循環圧力の調整手段としても良い。弾性チップリング252の膨張と収縮を、真空鋳造成形の各工程に応じて適切に選択することが好ましい。
【0036】
ここで、弾性チップリング252は、温調媒体流動235の循環圧力(密閉空間部253への温調媒体の流入圧力)の上昇と低下によって膨張と収縮(弾性変形する)する弾性素材を選定する。また、射出スリーブ21およびプランジャチップ23の温度上昇(溶湯による加熱と温調媒体による冷却)を考慮して、耐熱温度300℃以上の弾性素材とすることが好ましい。例えば、耐熱温度と弾性変形の両方を満足するシリコン系耐熱ゴム素材あるいはフッ素系耐熱ゴム素材を、弾性チップリング252に用いる。なお、ガラス繊維や炭素繊維等の耐熱性を高めることができる改質剤を、シリコン系ゴム素材あるいはフッ素系ゴム素材に添加して耐熱温度をさらに高めるとしても良い。または、金属表面に特殊な加工を施すことによりゴム的な弾性挙動を示すと言われている金属ゴムと称される新しい素材を用いるとしても良い。また、弾性チップリング252とホイール251は、密閉空間部253内に流入する温調媒体が漏出しない形状とすることが好ましい。
【0037】
また、例えば、弾性チップリング252が消耗して真空漏れ手段の効果が薄れた場合は、プランジャチップ23とプランジャロッド24を切り離した状態で、固定リング254の固定を解除すると、ホイール251および弾性チップリング252を容易に取り外すことができる。この状態で、ホイール251から弾性チップリング252を外して、弾性チップリング252の交換作業等を行う。その後、逆の手順で弾性チップリング252とホイール251をプランジャチップ23に勘合させて、固定リング254で固定することで、真空漏れ防止手段を正常な状態に回復させることができる。このように、簡単な作業により真空漏れ防止手段の効果を維持することができる。
【0038】
(真空鋳造成形方法)
次に、本発明の実施形態に係る真空鋳造成形方法について、図3を用いて説明する。
【0039】
先ず、図3(a)に示すように、鋳造金型10および射出スリーブ21等の温度安定化と、金型キャビティ13内の溶湯の充填状態の確認等の試し打ち鋳造を終えて、生産鋳造を開始するための準備工程から説明する。準備工程は、金型キャビティ13の清掃と離型剤塗布、プランジャチップ23および射出スリーブ21の清掃と潤滑剤塗布、プランジャチップ23を図1に示す位置Aに待機させる、等を行う。なお、準備工程において、弾性チップリング252は収縮して滑り性が確保された状態である。
【0040】
次に、図示しない型締手段を操作して、固定金型11と可動金型12を型締して金型キャビティ13とゲート14を形成する(型締工程)。また、図示しない給湯手段を用いて、注湯口22から射出スリーブ21内に所定量の溶湯を供給する(給湯工程)。その後、射出制御部27で射出駆動部26を操作して、プランジャチップ23の前進動作を行う。プランジャチップ23が位置Bに到達すると、プランジャチップ23の前進動作を減速させるか、好ましくは、プランジャチップ23を停止させる。次いで、バルブ制御部37で循環圧力の調整手段である開閉バルブ36を閉鎖して、密閉空間部253内に流入する温調媒体の流入圧力を高くして、弾性チップリング252を膨張させてシール性を確保する(シール性形成工程)。このシール性形成工程に続いて、吸引制御部43で射出スリーブ吸引部45あるいは金型吸引部41を操作して、射出スリーブ21内あるいは金型キャビティ13内を真空吸引する(真空吸引工程)。
【0041】
次に、図3(b)に示すように、真空吸引工程の任意のタイミングにおいて、射出制御部27で射出駆動部26を操作して、プランジャチップ23を前進動作させて鋳造成形を行う。先ず、射出スリーブ21内の溶湯を押圧して金型キャビティ13内に溶湯を充満させる射出充填工程に続いて、金型キャビティ13内の溶湯の密度を調整する増圧工程と、所定の圧力を溶湯に作用させた状態で冷却保持する冷却工程と、を行う。その際、プランジャチップ23の前進動作は継続される。最終的にプランジャチップ23は位置Cに到達する。なお、増圧工程には、溶湯に冷却に伴う凝固収縮に応じた圧力調整(保圧工程という)も含まれる。
【0042】
また、射出充填工程は、射出スリーブ21内を溶湯で充満させる低速射出工程と、金型キャビティ13内を高速で溶湯を充満させる高速射出工程がある。この低速射出工程および高速射出工程によって鋳造品の品質の大部分が決定される。そのため、プランジャチップ23の前進動作を阻害することがないように、プランジャチップ23と射出スリーブ21とは適正な滑り性が要求される。また、射出充填工程と真空吸引工程は同時進行であるので、確実なシール性も要求される。弾性チップリング252の膨張量を適切に調整することで、滑り性とシール性を兼ね備えた状態を提供することができる。
【0043】
増圧工程から冷却工程の任意のタイミングにおいて、吸引制御部43で射出スリーブ吸引部45あるいは金型吸引部41を操作して真空吸引を停止し真空吸引工程を終える。その後、可動金型12と固定金型11を型開して(型開工程)、図示しない搬出手段を用いて、金型キャビティ13から冷却固化した鋳造品を搬出する(搬出工程)。
【0044】
また、プランジャチップ23が位置Cに到達した後は、真空吸引工程の終了のタイミングと合わせて、バルブ制御部37で循環圧力の調整手段である開閉バルブ36を開放して、密閉空間部253内に流入する温調媒体の流入圧力を低くして、弾性チップリング252を収縮させて滑り性を確保する(滑り性形成工程)。この滑り性形成工程に続いて、射出制御部27で射出駆動部26を操作して、プランジャチップ23の後退動作を行う。これによって、プランジャチップ23と射出スリーブ21とは接触することなく(カジリが生じることなく)、高速で後退動作することができ、真空鋳造成形のサイクル短縮を可能とする。プランジャチップ23が位置Aに到達するとプランジャチップ23を停止させる。この時点で搬出工程を終えておれば、図3(a)に示す準備工程に戻る。このように、真空鋳造成形の各工程に合わせて、シール性形成工程および滑り性形成工程を自在に使い分けることができることで、また、滑り性とシール性のバランスを適正な状態に調整することができることで、高品質な真空鋳造成形の安定生産を実現する真空鋳造成形方法を提供することができる。また、適切なタイミングでの滑り性形成工程とすることで、高温の射出スリーブ21からの伝熱が遮断されて、弾性チップリング252の熱的損傷を最小とすることができ、弾性チップリング252の長寿命化に貢献することができる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
100 真空鋳造装置
10 鋳造金型
11 固定金型
12 可動金型
13 金型キャビティ
14 ゲート
20 射出部
21 射出スリーブ
22 注湯口
23 プランジャチップ
231 循環空間部
232 媒体循環回路
233~235 温調媒体流動
24 プランジャロッド
25 調整リング
251 ホイール
252 弾性チップリング
253 密閉空間部
254 固定リング
255 媒体流入回路
26 射出駆動部
27 射出制御部
30 温調媒体循環部
31 媒体温調部
32 入口配管
33 出口配管
34 配管接手
35 圧力調整バルブ
36 開閉バルブ
37 バルブ制御部
38 補助配管
40 真空吸引部
41 金型吸引部
42 吸引溝
43 吸引制御部
44 吸引孔
45 射出スリーブ吸引部
F 前方
R 後方
D 領域
A~C 位置
図1
図2
図3