IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特開-制御装置 図1
  • 特開-制御装置 図2
  • 特開-制御装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168933
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/26 20160101AFI20241128BHJP
【FI】
H02P21/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086003
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【弁理士】
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】古田 大地
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 和希
(72)【発明者】
【氏名】井手 徹
(72)【発明者】
【氏名】上辻 清
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505CC04
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA10
5H505HB01
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL41
5H505LL60
(57)【要約】
【課題】位置センサレス制御において、脱調の検出精度を向上させること。
【解決手段】制御装置は、角速度指令値ωに基づいて算出されたγ軸電流指令値I γ1及びδ軸電流指令値I δ1と、ゼロアンペアのγ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2と、を選択的にγ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δとして出力するγ-δ電流指令値出力部52と、γ軸電流値Iγとγ軸電流指令値I γとに基づいてγ軸電圧指令値V γを算出し、δ軸電流値Iδとδ軸電流指令値I δとに基づいてδ軸電圧指令値V δを算出するγ-δ電圧指令値算出部53と、γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2が出力されている場合に、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δに基づいて算出される推定位置誤差Δθ^reに基づいてモータの脱調を検出する検出部56と、を備える。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する制御装置であって、
前記モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、
前記モータの角速度指令値に基づいて算出された第1γ軸電流指令値及び第1δ軸電流指令値と、ゼロアンペアの第2γ軸電流指令値及び第2δ軸電流指令値と、を選択的にγ軸電流指令値及びδ軸電流指令値として出力するγ-δ電流指令値出力部と、
前記γ軸電流値と前記γ軸電流指令値とに基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともに前記δ軸電流値と前記δ軸電流指令値とに基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、
前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値を前記駆動信号に変換する駆動信号出力部と、
γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸との位置誤差の推定値である推定位置誤差であって、前記第2γ軸電流指令値及び前記第2δ軸電流指令値が前記γ軸電流指令値及び前記δ軸電流指令値として出力されている場合に、前記γ軸電圧指令値及び前記δ軸電圧指令値に基づいて算出される前記推定位置誤差に基づいて、前記モータの脱調を検出する検出部と、
を備える、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位置センサを用いないでモータを制御する位置センサレス制御が知られている。位置センサレス制御では、d-q座標系のd軸とγ-δ座標系のγ軸との電気角誤差が大きくなると、モータを制御できなくなる脱調が生じる。特許文献1には、モータに流れる電流値、モータパラメータ、及びモータの回転数指令値(角速度指令値)に基づいて、モータの磁束を演算し、演算値が閾値を下回った場合にモータが脱調を起こしたと判断する駆動装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-92787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に記載の駆動装置においては、モータパラメータ及びモータの角速度指令値を用いて脱調が検出される。したがって、モータパラメータ又は角速度指令値に誤差が生じると、脱調の検出精度が低下するおそれがある。
【0005】
本開示は、位置センサレス制御において、脱調の検出精度を向上可能な制御装置を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る制御装置は、モータを駆動させるインバータを制御する駆動信号を生成する装置である。この制御装置は、モータに流れる電流をγ軸電流値及びδ軸電流値に変換する電流値変換部と、モータの角速度指令値に基づいて算出された第1γ軸電流指令値及び第1δ軸電流指令値と、ゼロアンペアの第2γ軸電流指令値及び第2δ軸電流指令値と、を選択的にγ軸電流指令値及びδ軸電流指令値として出力するγ-δ電流指令値出力部と、γ軸電流値とγ軸電流指令値とに基づいてγ軸電圧指令値を算出するとともにδ軸電流値とδ軸電流指令値とに基づいてδ軸電圧指令値を算出するγ-δ電圧指令値算出部と、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値を駆動信号に変換する駆動信号出力部と、γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸との位置誤差の推定値である推定位置誤差であって、第2γ軸電流指令値及び第2δ軸電流指令値がγ軸電流指令値及びδ軸電流指令値として出力されている場合に、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値に基づいて算出される推定位置誤差に基づいて、モータの脱調を検出する検出部と、を備える。
【0007】
上記制御装置においては、第2γ軸電流指令値及び第2δ軸電流指令値がγ軸電流指令値及びδ軸電流指令値として出力されている場合に、γ軸電圧指令値及びδ軸電圧指令値に基づいて推定位置誤差が算出される。第2γ軸電流指令値及び第2δ軸電流指令値は、ゼロアンペアの電流指令値であるので、第2γ軸電流指令値及び第2δ軸電流指令値がγ軸電流指令値及びδ軸電流指令値として出力されると、γ軸電流値及びδ軸電流値はゼロアンペアに収束する。その状態においては、γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデルは、モータパラメータ及び推定角速度に依存しない式となる。この拡張誘起電圧モデルを用いて推定位置誤差が算出されると、モータパラメータ又は角速度指令値に誤差が生じたとしても、推定位置誤差はモータパラメータ及び角速度指令値の影響を受けない。上述のように算出された推定位置誤差に基づいてモータの脱調が検出されることにより、モータパラメータ及び角速度指令値における誤差が、脱調の検出精度に影響を及ぼすことが回避される。したがって、位置センサレス制御において、脱調の検出精度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、位置センサレス制御において、脱調の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。
図2図2は、図1に示される演算器の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は、d軸とγ軸との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら一実施形態に係る制御装置を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0011】
図1を参照しながら、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成を説明する。図1は、一実施形態に係る制御装置を含む制御システムの概略構成図である。図1に示される制御システム1は、モータ(電動機)Mの位置センサレス制御を行うシステムである。モータMは、位置センサレスのモータであり、例えば、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)である。モータMは、例えば、電動フォークリフト及びプラグインハイブリッド車などの車両に搭載される。制御システム1は、インバータ回路2(インバータ)と、制御装置3と、電流センサSe1,Se2,Se3と、を含む。
【0012】
インバータ回路2は、直流電源PSから供給される直流電力によりモータMを駆動する。インバータ回路2は、コンデンサCと、スイッチング素子SW1,SW2,SW3,SW4,SW5,SW6と、を含む。
【0013】
コンデンサCは、直流電源PSから出力され、インバータ回路2へ入力される電圧を平滑化する。
【0014】
スイッチング素子SW1~SW6は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。スイッチング素子SW1は、U相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW2は、U相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW3は、V相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW4は、V相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW5は、W相の上アームのスイッチング素子である。スイッチング素子SW6は、W相の下アームのスイッチング素子である。コンデンサCの一方の端子は、直流電源PSの正極端子及びスイッチング素子SW1,SW3,SW5のそれぞれのコレクタ端子に接続されている。コンデンサCの他方の端子は、直流電源PSの負極端子及びスイッチング素子SW2,SW4,SW6のそれぞれのエミッタ端子に接続されている。
【0015】
スイッチング素子SW1のエミッタ端子とスイッチング素子SW2のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe1を介してモータMのU相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW3のエミッタ端子とスイッチング素子SW4のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe2を介してモータMのV相の入力端子に接続されている。スイッチング素子SW5のエミッタ端子とスイッチング素子SW6のコレクタ端子との接続点は、電流センサSe3を介してモータMのW相の入力端子に接続されている。
【0016】
スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲートには、制御装置3から駆動信号が供給される。スイッチング素子SW1~SW6のそれぞれは、ゲートに供給される駆動信号に基づいて、オン又はオフする。スイッチング素子SW1~SW6がそれぞれオン又はオフすることで、直流電源PSから出力される直流電力が、互いに位相が120度ずつ異なる3つの交流電力に変換され、それらの交流電力がモータMの3つの相(U相、V相、及びW相)の入力端子に入力されてモータMの回転子が回転する。
【0017】
電流センサSe1~Se3は、ホール素子又はシャント抵抗などによって構成される。電流センサSe1は、モータMのU相に流れる交流電流の電流値であるU相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe2は、モータMのV相に流れる交流電流の電流値であるV相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。電流センサSe3は、モータMのW相に流れる交流電流の電流値であるW相電流値Iを検出して制御装置3に出力する。なお、本実施形態では、制御システム1は、3つの電流センサ(電流センサSe1~Se3)を含んでいるが、2つの電流センサを含んでもよい。
【0018】
制御装置3は、モータMの位置センサレス制御を行う装置である。制御装置3は、インバータ回路2を制御することによって、モータMを駆動させる。制御装置3は、インバータ回路2を制御する駆動信号を生成する。制御装置3は、ドライブ回路4と、演算器5と、を含む。
【0019】
ドライブ回路4は、IC(Integrated Circuit)などによって構成さる。ドライブ回路4は、演算器5から出力されるU相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V と搬送波(三角波、ノコギリ波、又は逆ノコギリ波など)とを比較し、その比較結果に応じた駆動信号をスイッチング素子SW1~SW6のそれぞれのゲート端子に出力する。
【0020】
演算器5は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などから構成される電子制御ユニットである。例えばROMに格納されているプログラムがRAM上にロードされてCPUで実行されることにより、図2に示される演算器5の各種機能が実現される。
【0021】
次に、図2及び図3を参照しながら、演算器5の機能構成を説明する。図2は、図1に示される演算器の機能構成を示すブロック図である。図3は、d軸とγ軸との関係を説明するための図である。図2に示されるように、演算器5は、機能的な構成要素として、座標変換部51と、γ-δ電流指令値出力部52と、γ-δ電圧指令値算出部53と、座標変換部54と、推定部55と、検出部56と、を含む。
【0022】
座標変換部51は、推定部55から出力される推定位置θ^reに基づいて、U相電流値I、V相電流値I及びW相電流値Iをγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する。すなわち、座標変換部51は、モータMに流れる電流をγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδに変換する電流値変換部として機能する。推定位置θ^reは、モータMの回転子の位置θreの推定値である。位置θreは、電気角とも称される。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
座標変換部51は、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδをγ-δ電圧指令値算出部53及び推定部55に出力する。座標変換部51には、U相電流値I、V相電流値I及びW相電流値Iのうち、二相の電流値が入力され、残りの一相の電流値は、入力された二相の電流値から算出されてもよい。
【0024】
なお、「θ^re」の表記では「^」が「θ」の右上に位置しているが、「θ^re」と図2の推定部55から座標変換部51に向かう矢印に記載されている記号とは同じ意味である。他の「^」の表記についても同様とする。本明細書において記号「^」は、推定値を意味する。
【0025】
図3に示されるように、位置θreは、α-β座標系のα軸とd-q座標系のd軸とが成す角度である。推定位置θ^reは、α-β座標系のα軸とγ-δ座標系のγ軸とが成す角度である。α-β座標系は、固定座標系である。d-q座標系は、モータMの磁石のN極方向をd軸とし、d軸に直交する方向をq軸とした回転座標系である。γ-δ座標系は、位置センサレス制御における推定回転座標系であり、d-q座標系のd軸に相当する軸をγ軸とし、q軸に相当する軸をδ軸とした座標系である。γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸とは、位置誤差Δθreだけずれている。
【0026】
すなわち、位置誤差Δθreは、γ-δ座標系のγ軸とd-q座標系のd軸とが成す角度(又はγ-δ座標系のδ軸とd-q座標系のq軸とが成す角度)の真値である。位置誤差Δθreは、電気角誤差とも称される。位置誤差Δθreがゼロである場合、γ軸はd軸と一致し、δ軸はq軸に一致する。
【0027】
γ-δ電流指令値出力部52は、γ軸電流指令値I γ1(第1γ軸電流指令値)及びδ軸電流指令値I δ1(第1δ軸電流指令値)と、γ軸電流指令値I γ2(第2γ軸電流指令値)及びδ軸電流指令値I δ2(第2δ軸電流指令値)と、を選択的にγ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δとしてγ-δ電圧指令値算出部53に出力する。γ軸電流指令値I γ1及びδ軸電流指令値I δ1は、モータMの角速度指令値ωに基づいて算出される電流指令値である。γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2は、いずれもゼロアンペアの電流指令値である。γ-δ電流指令値出力部52は、電流指令値生成部52aと、電流指令値生成部52bと、切替部52cと、を含む。
【0028】
電流指令値生成部52aは、外部から入力される角速度指令値ωと推定部55から出力される推定角速度ω^reとの角速度差Δωを算出し、角速度差Δωを用いてトルク指令値Tを算出する。推定角速度ω^reは、モータMの回転子の角速度ωreの推定値である。電流指令値生成部52aは、トルク指令値Tを用いてγ軸電流指令値I γ1及びδ軸電流指令値I δ1を算出する。なお、γ軸電流指令値I γ1及びδ軸電流指令値I δ1の生成方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。電流指令値生成部52aは、γ軸電流指令値I γ1及びδ軸電流指令値I δ1を切替部52cに出力する。
【0029】
電流指令値生成部52bは、ゼロアンペアのγ軸電流指令値I γ2とゼロアンペアのδ軸電流指令値I δ2とを生成し、γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2を切替部52cに出力する。
【0030】
切替部52cは、電流指令値生成部52aから出力されたγ軸電流指令値I γ1及びδ軸電流指令値I δ1と、電流指令値生成部52bから出力されたγ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2と、のいずれかの組を選択し、γ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δとして出力する。切替部52cは、例えば、検出指令を受けている間、γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2を選択し、γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2をγ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δとして出力する。切替部52cは、検出指令を受けていない間、γ軸電流指令値I γ1及びδ軸電流指令値I δ1を選択し、γ軸電流指令値I γ1及びδ軸電流指令値I δ1をγ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δとして出力する。
【0031】
検出指令は、任意のタイミングで所定の期間出力される。検出指令は、予め定められた周期で出力されてもよい。所定の期間は、例えば、γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2が出力されてからγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδがゼロアンペアに収束するまでの収束時間よりも長い時間に設定される。
【0032】
γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを生成する。γ-δ電圧指令値算出部53は、例えば、γ軸電流指令値I γとγ軸電流値Iγとの差である差分γ軸電流指令値ΔI γを算出するとともに、δ軸電流指令値I δとδ軸電流値Iδとの差である差分δ軸電流指令値ΔI δを算出し、差分γ軸電流指令値ΔI γ及び差分δ軸電流指令値ΔI δをγ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δに変換する。
【0033】
すなわち、γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電流指令値I γとγ軸電流値Iγとに基づいてγ軸電圧指令値V γを算出するとともに、δ軸電流指令値I δとδ軸電流値Iδとに基づいてδ軸電圧指令値V δを算出する。γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δの生成方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。γ-δ電圧指令値算出部53は、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを座標変換部54、推定部55及び検出部56に出力する。
【0034】
座標変換部54は、推定部55から出力される推定位置θ^reに基づいて、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δをU相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V に変換する。この変換方法は公知であるので、ここでは詳細な説明を省略する。座標変換部54は、U相電圧指令値V 、V相電圧指令値V 、及びW相電圧指令値V をドライブ回路4に出力する。すなわち、座標変換部54とドライブ回路4とは、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δを駆動信号に変換する駆動信号出力部として機能するといえる。
【0035】
推定部55は、推定角速度ω^re及び推定位置θ^reを算出する。推定部55は、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ及び予め推定可能な推定モータパラメータに基づいて、モータMにおいて生じる拡張誘起電圧(EEMF:Extended ElectroMotive Force)eの推定値である推定拡張誘起電圧e^を算出し、推定拡張誘起電圧e^に基づいて推定位置θ^reを算出する。
【0036】
例えば、推定部55は、推定拡張誘起電圧e^から推定位置誤差Δθ^reを算出し、推定位置誤差Δθ^reと所定の伝達関数とを乗算して推定角速度ω^reを求める。推定位置誤差Δθ^reは、位置誤差Δθreの推定値である。そして、推定部55は、推定角速度ω^reと推定位置誤差Δθ^reとに基づいて推定位置θ^reを算出する。推定部55は、推定位置θ^reを座標変換部51及び座標変換部54に出力し、推定角速度ω^reをγ-δ電流指令値出力部52に出力する。
【0037】
検出部56は、推定位置誤差Δθ^reに基づいて、モータMの脱調を検出する。ここで、γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデル(γ軸電圧値Vγ及びδ軸電圧値Vδ)は、γ軸電流値Iγ、δ軸電流値Iδ、d軸電流値I、q軸電流値I、角速度ωre、位置誤差Δθre及びモータパラメータを用いて、式(1)及び式(2)で表される。なお、pは、時間微分演算子d/dtを表す。巻線抵抗R、d軸インダクタンスL、q軸インダクタンスL、及び誘起電圧定数Kは、制御対象のモータMのモータパラメータである。位置誤差Δθreの上にドットが付された要素は、位置誤差Δθreの微分値を表す。q軸電流値Iの上にドットが付された要素は、q軸電流値Iの微分値を表す。
【数1】

【数2】
【0038】
γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδのいずれもがゼロアンペアに収束している場合には、式(1)においてγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδをゼロにすることによって、式(3)が得られる。同様に、式(2)においてγ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδをゼロにすることによって、式(4)が得られる。
【数3】

【数4】
【0039】
式(3)及び式(4)を用いて位置誤差Δθreの導出式を変形することによって、式(5)が得られる。
【数5】
【0040】
式(5)において、γ軸電圧値Vγ及びδ軸電圧値Vδに代えてγ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δをそれぞれ用いることにより、推定位置誤差Δθ^reの導出式(6)が得られる。
【数6】
【0041】
検出部56は、式(6)を用いて、推定位置誤差Δθ^reを算出する。すなわち、検出部56は、γ-δ電流指令値出力部52において、γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2がγ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δとして出力されている場合に、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δに基づいて、推定位置誤差Δθ^reを算出する。検出部56は、例えば、γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2が出力されてから、上記収束時間が経過したことに応じて、推定位置誤差Δθ^reを算出する。
【0042】
そして、検出部56は、推定位置誤差Δθ^reに基づいて、モータMの脱調を検出する。具体的には、検出部56は、推定位置誤差Δθ^reと予め定められた閾値とを比較し、推定位置誤差Δθ^reが閾値よりも大きい場合にモータMの脱調が生じたと判定し、推定位置誤差Δθ^reが閾値以下である場合にモータMの脱調が生じていないと判定する。閾値としては、例えば、π/2(rad)が用いられる。なお、モータMの脱調が生じたと判定された場合、モータMが停止されてもよい。
【0043】
以上説明した制御装置3においては、γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2がγ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δとして出力されている場合に、γ軸電圧指令値V γ及びδ軸電圧指令値V δに基づいて推定位置誤差Δθ^reが算出される。γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2は、ゼロアンペアの電流指令値であるので、γ軸電流指令値I γ2及びδ軸電流指令値I δ2がγ軸電流指令値I γ及びδ軸電流指令値I δとして出力されると、γ軸電流値Iγ及びδ軸電流値Iδはゼロアンペアに収束する。その状態においては、γ-δ座標系上の拡張誘起電圧モデルは、式(3)及び式(4)に示されるように、モータパラメータ(巻線抵抗R、d軸インダクタンスL、及びq軸インダクタンスL)及び推定角速度ωに依存しない式となる。
【0044】
制御装置3においては、式(3)及び式(4)に示される拡張誘起電圧モデルを用いて推定位置誤差Δθ^reが算出される。したがって、モータパラメータ又は角速度指令値ωに誤差が生じたとしても、推定位置誤差Δθ^reはその影響を受けない。上述のように算出された推定位置誤差Δθ^reに基づいてモータMの脱調が検出されるので、モータパラメータ及び角速度指令値ωにおける誤差が、脱調の検出精度に影響を及ぼすことが回避される。したがって、位置センサレス制御において、脱調の検出精度を向上させることが可能となる。
【0045】
以上、本開示の一実施形態について詳細に説明されたが、本開示に係る制御装置は上記実施形態に限定されない。
【0046】
上記実施形態では、検出部56は、式(6)を用いて推定位置誤差Δθ^reを算出し、推定位置誤差Δθ^reに基づいて、モータMの脱調を検出している。この構成に代えて、推定部55が、式(6)を用いて推定位置誤差Δθ^reを算出し、検出部56が、推定部55によって算出された推定位置誤差Δθ^reに基づいて、モータMの脱調を検出する構成が採用されてもよい。
【符号の説明】
【0047】
2…インバータ回路(インバータ)、3…制御装置、4…ドライブ回路(駆動信号出力部)、51…座標変換部(電流値変換部)、52…γ-δ電流指令値出力部、53…γ-δ電圧指令値算出部、54…座標変換部(駆動信号出力部)、55…推定部、56…検出部、M…モータ。
図1
図2
図3