(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168938
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】杭と上部構造物との接合構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/28 20060101AFI20241128BHJP
E02D 27/00 20060101ALI20241128BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20241128BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
E02D5/28
E02D27/00 C
E02D27/00 D
E04B1/24 R
E04B1/58 503H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086012
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】592198404
【氏名又は名称】千代田工営株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076093
【弁理士】
【氏名又は名称】藤吉 繁
(72)【発明者】
【氏名】小林 豊彦
【テーマコード(参考)】
2D041
2D046
2E125
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA19
2D041BA37
2D041DB02
2D046AA13
2D046AA14
2E125AA04
2E125AA45
2E125AB17
2E125AC16
2E125AG43
2E125BB09
2E125BB19
2E125BB22
2E125BC06
2E125BD01
2E125BE03
2E125BE04
2E125BE08
2E125BF01
2E125CA03
2E125CA05
2E125CA13
2E125CA16
2E125EA02
(57)【要約】
【課題】
施工時間の短縮化を図ると共に、高い施工精度と品質を確保しつつ、設計上の杭芯とのずれを吸収する、杭とその上の構造物とを接合する接合構造を提供すること。
【手段】
埋設施工される杭の外径とほぼ同径の円筒状をなし、その周壁面には円柱状の腕材が同一円周上から外側に向って等間隔で着脱可能に取付けられた接合用内筒と、前記接合用内筒の外径より大きい内径を有する円筒状をなし、側面には前記接合用内筒の腕材がスライド可能な横長貫通孔が形成されていると共に、隣接した一対の横長貫通孔の中間位置には軸芯方向に向って内筒固定用ボルトが螺合されている接合用外筒とから、杭と上部構造物の接合構造を構成し、内筒固定用ボルトのねじ込み量を適宜増減させて、接合用内筒を固定することにより、設計上の軸芯と実際に埋設された杭の杭芯とのずれを吸収出来るようにした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋設施工される杭と、この杭の上に設置される上部構造物とを接合する為の杭と上部構造物との接合構造であって、前記杭の外径とほぼ同径の円筒状をなし、その周壁面には円柱状の腕材が同一円周上から放射状に外側に向って3個以上等間隔で着脱可能に取付けられた接合用内筒と、前記接合用内筒の外径より大きい内径を有する円筒状をなし、側面には前記接合用内筒の腕材が円周方向にスライド可能な上下幅を有する横長貫通孔が接合用内筒の腕材と同じ間隔で同一円周上に形成されていると共に、隣接した一対の横長貫通孔の中間位置には軸芯方向に向ってねじ孔がそれぞれ形成され、該ねじ孔に内筒固定用ボルトが螺合されている接合用外筒とからなり、腕材を取りはずした状態の接合用内筒が予め頭部に固定されている杭を施工地盤に所定の深さまで埋設した後、接合用外筒を杭の頭部の接合用内筒の外側に被せ、腕材を接合用外筒の横長貫通孔を通して接合用内筒の周側面に固定した後、接合用外筒の上端の接合プレートと上部構造物の下端とを結合すると共に、接合用外筒に取付けられた内筒固定用ボルトのねじ込み量を適宜増減して、接合用外筒の内側における接合用内筒の位置を固定し、これら接合用外筒と接合用内筒とにより、設計上の杭芯と実際に埋設された杭の杭芯とのずれを吸収させる様にしたことを特徴とする杭と上部構造物との接合構造。
【請求項2】
腕材の外径よりわずかに大きい内径の円筒状の凹みを接合用内筒の周壁外面に形成し、この凹みの底面中央から内径側に向って同心円状にめねじを形成すると共に、腕材の一方の端面中央から軸芯に沿っておねじを突設し、腕材を凹みに嵌入し、めねじにおねじを螺合させることにより接合用内筒に腕材を着脱自在に取付けたことを特徴とする請求項1記載の杭と上部構造物との接合構造。
【請求項3】
腕材の外径よりわずかに大きい内径の貫通孔を接合用内筒の周壁に形成すると共に、中央にめねじが形成された板状体を、そのめねじが貫通孔と同心円状となる様に接合用内筒の内壁面に固定し、腕材のおねじを板状体のめねじに螺合することにより、接合用内筒に腕材を着脱自在に取付けたことを特徴とする請求項1記載の杭と上部構造物との接合構造。
【請求項4】
接合用内筒の周壁面に着脱自在に取付けられた腕材が4組であることを特徴とする請求項1記載の杭と上部構造物との接合構造。
【請求項5】
杭が鋼管杭であることを特徴とする請求項1記載の杭と上部構造物との接合構造。
【請求項6】
接合用内筒への杭の上端への固定が溶接によって行われることを特徴とする請求項1記載の杭と上部構造物との接合構造。
【請求項7】
杭と上部構造物との結合が、上部構造物の下端に取付けられた接合プレートと接合用外筒の上端に取付けられた接合プレートとをボルト/ナットによって結合することにより行われることを特徴とする請求項1記載の杭と上部構造物との接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、埋設施工された杭とこの杭の上に設置される上部構造物との接合構造、詳しくは、施工現場における面倒な作業を極力少なくし、施工精度の向上と施工時間の短縮を図った杭と上部構造物との接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種建造物の基礎工は、上部構造物に作用する荷重を基礎地盤に伝達する大切な役目を果たすものであり、場所打ち鉄筋コンクリートによる基礎工が一般的であるが、予め工場で製造された杭を現場に持ち込み、これを地盤に打ち込んだり埋め込んだりする杭基礎も多く採用されている。
【0003】
この杭基礎は、品質管理が行き届いた工場で製造された杭を用いるので、他の基礎工に比べ、品質管理がし易く、現場での作業が少なく、施工時間の短縮を図ることが出来る長所を有し、交通量が多く、作業時間が制約されがちな市街地などでの作業に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この杭基礎においては、杭の頭部とこの杭の上に設置される上部構造物とを接合する必要があり、杭の頭部に固定された接合プレートと上部構造物の下端とをボルト/ナットなどの接合金具によって接合することが行われている。
【0007】
しかしながら、表層地盤の多くには、地中に埋め込まれた瓦礫等の障害物があり、杭を埋設する際、この障害物が邪魔となり、杭を設計通りの位置へ鉛直に埋設できず、設計上の杭芯と実際に埋設された杭の杭芯とにわずかなずれが生じ、上部構造物からの荷重を杭が確実に吸収できなくなることがある。
【0008】
この為、特許文献1に示す様に、杭頭と上部構造物の下端との間に調整用の部材を介在させ、これにより設計上の杭芯と実際に埋設された杭の杭芯とのずれを吸収させることが行われているが、この調整用の部材の杭頭への固定作業はすべて施工現場において行われており、施工精度と品質確保に難があり、作業時間も多く要していた。
【0009】
本発明者は、杭基礎における上記問題点を解決すべく鋭意研究を行った結果、施工現場における面倒な作業を極力なくし、高い施工精度と品質を確保しつつ、作業時間の短縮を図れる、設計上の杭芯と実際に埋設された杭芯とのずれを効果的に吸収する杭と上部構造物との接合構造を開発することに成功し、本発明としてここに提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
埋設施工される杭と、この杭の上に設置される上部構造物とを接合する為の杭と上部構造物との接合構造において、前記杭の外径とほぼ同径の円筒状をなし、その周壁面には円柱状の腕材が同一円周上から放射状に外側に向って3個以上等間隔で着脱可能に取付けられた接合用内筒と、前記接合用内筒の外径より大きい内径を有する円筒状をなし、側面には前記接合用内筒の腕材が円周方向にスライド可能な上下幅を有する横長貫通孔が接合用内筒の腕材と同じ間隔で同一円周上に形成されていると共に、隣接した一対の横長貫通孔の中間位置には軸芯方向に向ってねじ孔がそれぞれ形成され、該ねじ孔に内筒固定用ボルトが螺合されている接合用外筒とから、杭と上部構造物の接合構造を構成することにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
腕材を取りはずした状態の接合用内筒が予め頭部に固定されている杭を施工地盤に所定の深さまで埋設した後、接合用外筒を杭の頭部の接合用内筒の外側に被せ、腕材を接合用外筒の横長貫通孔を通して接合用内筒の周壁面に固定した後、接合用外筒の上端の接合プレートと上部構造物の下端とを結合すると共に、接合用外筒に取付けられた内筒固定用ボルトのねじ込み量を適宜増減して接合用外筒の内側における接合用内筒の位置を固定し、これら接合用内筒と接合用外筒とにより、杭と上部構造物との接合を行うものであり、施工現場においては、杭の頭部に固定された接合用内筒への接合用外筒の取付け作業を行うだけで杭と上部構造物との接合を行うことが出来、施工精度と品質の向上、及び作業時間の短縮を図りつつ、接合用内筒と接合用外筒との組合せにより、設計上の軸芯と実際に埋設された杭の杭芯とのずれを吸収して、上部構造物に作用する荷重を埋設された杭に安定的に伝達させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明に係る杭と上部構造物との接合構造の一実施例の側面図。
【
図4】同じく、主要構成部分を分離して描いた分解斜視図。
【
図5】同じく、主要構造部分である接合用外筒を下方から見た斜視図。
【
図6】同じく、接合用外筒の
図5における矢視A-A線断面図。
【
図7】杭の頭部に固定された状態の接合用内筒の斜視図。
【
図9】同じく、接合用内筒への腕材の取付け状況を説明する
図8における矢視B-B線断面図。
【
図10】同じく、接合用内筒における腕材の形成手段の他の例の横断面図。
【
図11】接合用内筒と接合用外筒とを接合した際、設計上の杭芯Xと実際に埋設された杭の軸芯Yとがずれているときの状態を示した横断面図。
【
図12】同じく、内筒固定用ボルトの調整により、設計上の軸芯Xと実際に埋設された杭の軸芯Yとが一致し、接合用内筒が固定されている状態の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
埋設施工される杭と、この杭の上に設置される上部構造物とを接合する際に、前記杭の外径とほぼ同径の円筒状をなし、その周壁面には円柱状の腕材が同一円周上から放射状に外側に向って3個以上等間隔で着脱可能に取付けられた接合用内筒と、前記接合用内筒の外径より大きい内径を有する円筒状をなし、側面には前記接合用内筒の腕材が円周方向にスライド可能な上下幅を有する横長貫通孔が接合用内筒の腕材と同じ間隔で同一円周上に形成されていると共に、隣接した一対の横長貫通孔の中間位置には軸芯方向に向ってねじ孔がそれぞれ形成され、該ねじ孔に内筒固定用ボルトが螺合されている接合用外筒とから接合構造を構成し、これら接合用外筒と接合用内筒とを組合せることにより、設計上の軸芯と実際に埋設された杭の杭芯とのずれを吸収させることが出来る様にした点に最大の特徴が存する。
【実施例0014】
この発明に係る杭と上部構造物との接合構造の一実施例を図面を参照しながら説明する。
【0015】
図中1は、各種構造物の基礎工として施工現場に埋設される杭であり、この実施例においては回転貫入鋼管杭を用いたが、プレボーリングによる埋め込み杭なら鋼管杭に限らず、鋼管以外の素材のものでも良い。
【0016】
そして、この杭1の上端つまり杭頭には、
図6及び
図7に示す様に、杭1の外径とほぼ同じ外径の円筒状をなした鋼管製の接合用内筒11が固定されている。杭1が鋼管杭である場合は、接合用内筒11の杭頭への固定は溶接によって行うのが一般的だが、杭1がコンクリート杭などの場合は、溶接以外の固定方法が用いられる。
この杭1の杭頭への接合用内筒11の固定作業は、施工現場でなく、施工現場とは別の工場において予め行われ、施工現場へは杭1の杭頭へ接合用内筒11が予め固定された状態で搬入される。
【0017】
又、この接合用内筒11の周壁面には円柱状の腕材3が同一円周上から放射状に外側に向って4個、等間隔で着脱可能に取付けられている。
【0018】
なお、この実施例においては、腕材3は4個取付けられているが、必ずしも4個に限る必要はなく、3個以上を等間隔に取付けるのであるなら、その数は問わない。
この腕材3は着脱自在に取付けられていることが肝要であり、この実施例においては、
図9に示す様に、腕材3の外径よりわずかに大きい内径の円筒状の凹み20を接合用内筒11の周壁に形成し、この凹み20の底面中央から内径側に向って同心円状にめねじ4を形成すると共に、円筒状の腕材3の一方の端面中央から軸芯に沿っておねじ8を突設し、腕材3を凹み20に挿入し、めねじ4におねじ8を螺合することにより、腕材3を接合用内筒11の周壁面に着脱自在に取付ける様にしているが、接合用内筒11の肉厚が薄い場合は、
図10に示す様に、腕材3の外径よりわずかに大きい内径の貫通孔21を接合用内筒11の周壁に形成すると共に、中央にめねじ4が形成された板状体22をそのめねじ4が貫通孔27と同心円状となる様に接合用内筒11の内壁面に固定し、腕材3のおねじ8を板状体22のめねじ4に螺合することにより、腕材3を接合用内筒11の周壁に固定する様にしても良い。
【0019】
更に、図中17は鋼管製の接合用外筒であり、前記接合用内筒11の外径Cより大きい内径Dを有し、側面には前記腕材3が円周方向にスライド可能な上下幅を有する横長貫通孔12が接合用内筒11の腕材3と同じ間隔で同一円周上に等間隔で形成されていると共に、相互に隣接した一対の横長腕材3の中間位置にはねじ孔13がそれぞれ穿孔されている。
【0020】
なお、前述の通り、この接合用外筒17の内径Dは、接合用内筒11の外径Cより大きく形成されているが、これは接合用外筒17の内側に接合用内筒11を位置させた際に、接合用内筒11の軸芯を必要に応じて移動出来る様にする為であり、この実施例においては接合用外筒17の内径Dは接合用内筒11の外径Cの1.3倍程度となっている。
【0021】
又、図中14は内筒固定用ボルトであり、前記接合用外筒17に穿孔されているねじ孔13に螺合する様になっている。
【0022】
この実施例は上記の通りの構成を有するものであり、
図7及び
図8に示す様に、腕材3を取りはずした状態の接合用内筒11が予め頭部に固定されている杭1を施工地盤に所定の深さまで埋設した後、
図11に示す様に、接合用外筒17を杭1の頭部の接合用内筒11の外側に被せ、腕材3を接合用外筒17の横長貫通孔12を通して接合用内筒11の周壁面に固定した後、接合用外筒17の上端の接合プレート16と上部構造物2に取付けられた接合プレート18とをボルト/ナット19により結合すると共に接合用外筒17に取付けられた内筒固定用ボルト14のねじ込み量を適宜増減して接合用外筒17の内側における接合用内筒11の位置を固定し、これら接合用内筒11と接合用外筒17とにより、杭と上部構造物との接合を行う。施工現場においては、杭1の頭部に固定された接合用内筒11への接合用外筒17の取付け作業を行うだけで、杭1と上部構造物2との接合を行い、これら接合用内筒11と接合用外筒17との組合せにより、設計上の軸芯と実際に埋設された杭の杭芯とのずれを吸収する。
【0023】
又、接合プレート16と接合プレート17との間には、必要に応じて高さ調整用のプレートを挟み込んでも良く、上部構造物2下端の接合プレート18を省略し、接合プレート16を上部構造物2の下端に直接結合する様にしても良い。
【0024】
この様に、この実施例においては、施工現場においては、接合用内筒11への接合用外筒17の取付けを行うだけで、杭1と上部構造物2との接合を行うことが出来、施工精度と品質の向上、作業時間の短縮を図りつつ、設計上の軸芯と実際に埋設された杭の杭芯とのずれを吸収し、上部構造物2に作用する荷重を埋設された杭1に安定的に伝達させることが出来る。