(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168945
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
E02F 3/43 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
E02F3/43 C
E02F3/43 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086023
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】向井 誠嗣朗
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB03
2D003AB04
2D003BA01
2D003BA02
2D003BB07
2D003BB08
2D003BB11
2D003FA02
(57)【要約】
【課題】作業時間の増大を抑制しつつ、作業装置の制限領域への進入を回避することができる建設機械を提供する。
【解決手段】建設機械100は、被駆動部材114、116、118を連結した作業装置104と、被駆動部材を駆動する油圧アクチュエータ120、122、124と、油圧アクチュエータの動作を操作する複数の操作装置112と、被駆動部材の進入を制限する制限領域α、制限領域に隣接する減速領域β、被駆動部材上に設定された進入検知点を記憶する記憶装置128と、油圧アクチュエータの動作を制御する制御装置130とを備え、制御装置は、操作装置が操作されて進入検知点が減速領域内に進入すると、進入検知点の移動速度を、制限領域と減速領域との境界面である制限領域境界面Pの法線方向成分と接線方向成分とに分解し、法線方向成分が制限領域に向かっている場合にのみ、法線方向成分を減速させるように油圧アクチュエータの動作を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被駆動部材を連結して構成された多関節型の作業装置と、
前記複数の被駆動部材を駆動する複数の油圧アクチュエータと、
前記複数の油圧アクチュエータの動作を操作する複数の操作装置と、
前記被駆動部材の進入を制限する制限領域と、該制限領域に隣接する減速領域と、前記複数の被駆動部材上に設定された進入検知点とを記憶する記憶装置と、
前記複数の油圧アクチュエータの動作を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記操作装置が操作されて前記進入検知点が前記減速領域内に進入すると、前記進入検知点の移動速度を、前記制限領域と前記減速領域との境界面である制限領域境界面の法線方向成分と接線方向成分とに分解し、
前記法線方向成分が前記制限領域に向かっている場合にのみ、該法線方向成分を減速させるように前記複数の油圧アクチュエータの動作を制御することを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記制御装置は、前記複数の油圧アクチュエータのうち、作業員が操作していない油圧アクチュエータの動作を制御することを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記制御装置は、前記進入検知点が前記制限領域に進入した場合は、該進入検知点の移動速度の法線方向成分を、前記進入検知点が前記制限領域から出る方向に補正することを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節型の作業装置を備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械である油圧ショベルは、多関節型の作業装置(フロント装置)と操作装置とを備える。フロント装置は、ブームやアームなどの回転運動を行う複数の剛体で構成されている。また操作装置は、フロント装置の各剛体の回転運動に対応した操作レバーなどである。作業員(オペレータ)は、例えば操作レバーを自由に操作することによって、法面整形や整地などの作業を行う。
【0003】
オペレータには、これらの作業を行うための高度な技術が要求される。一例として、市街地などで作業をする場合は、フロント装置が周囲の物体(地中の電線や壁など)に干渉しないように注意しなければならない。そこで建設機械の分野では、フロント装置と周囲の物体との干渉を防止するための種々の提案がなされている。
【0004】
特許文献1には、掘削作業機の作業領域制御装置が記載さされている。この作業領域制御装置では、制限領域の手前に減速領域を設定し、フロント装置を構成するフロント部品(例えばバケット)が減速領域に進入すると、操作レバーの操作信号に減衰係数を乗じることでフロント装置を減速し、バケットが禁止領域の境界に達すると停止するようにしている。
【0005】
特許文献1の作業領域制御装置によれば、各フロント部品の任意の位置に制限領域への進入を判定する点を設けることによって、全てのフロント部品の制限領域への進入を監視することができる。
【0006】
特許文献2には、建設機械の領域制限掘削制御装置が記載されている。この領域制限掘削制御装置では、掘削可能領域を設定し、フロント装置の一部(例えばバケット)が掘削可能領域の境界に近づくと、バケットの当該境界に向かう方向の動きを減速し、バケットが掘削可能領域の境界に達すると、バケットは掘削可能領域の外には出ないが、掘削可能領域の境界に沿って動けるようにしている。
【0007】
さらに建設機械の分野に限らず、ロボットの分野においても、ロボットアームがほかの物体と衝突することを防止する技術の開発が活発に行われている(例えば特許文献3)。特許文献3には、減衰領域と制限領域を設け、ロボットが減衰領域に進入すると減速させて、制限領域内に進入する危険性を低下させるロボット制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4-136324号公報
【特許文献2】国際公開公報第95/30059号
【特許文献3】特開2022-131424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし特許文献1の作業領域制御装置および特許文献3のロボット制御装置では、減衰領域内で領域を離れる方向に移動させる場合においても、減衰が適応されるため、余計な作業時間が増えてしまう。特許文献2は、バケット先端を基準とした制限領域への進入を制限することについて記載しているに過ぎず、他のフロント部品が制限領域に進入した際の動作について対策が講じられていない。
【0010】
また油圧ショベルの作業において、バケットシリンダやアームシリンダを最長または最短になるように操作し、バケットとアームの姿勢を設定する動作を行う場合がある。この場合、特許文献1、2の技術を用いて、狭い作業空間で上記の動作を行うと、フロント部品が制限領域境界面に接触し、停止動作を繰り返して、操作性を大きく損なうことが有り得る。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、作業時間の増大を抑制しつつ、作業装置の制限領域への進入を回避することができる建設機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる建設機械の代表的な構成は、複数の被駆動部材を連結して構成された多関節型の作業装置と、複数の被駆動部材を駆動する複数の油圧アクチュエータと、複数の油圧アクチュエータの動作を操作する複数の操作装置と、被駆動部材の進入を制限する制限領域と、制限領域に隣接する減速領域と、複数の被駆動部材上に設定された進入検知点とを記憶する記憶装置と、複数の油圧アクチュエータの動作を制御する制御装置とを備え、制御装置は、操作装置が操作されて進入検知点が減速領域内に進入すると、進入検知点の移動速度を、制限領域と減速領域との境界面である制限領域境界面の法線方向成分と接線方向成分とに分解し、法線方向成分が制限領域に向かっている場合にのみ、法線方向成分を減速させるように複数の油圧アクチュエータの動作を制御することを特徴とする。
【0013】
上記構成の制御装置は、作業装置の被駆動部材が減速領域内に進入した場合であっても、被駆動部材(進入検知点)が制限領域に向かう方向の速度を減速させるため、制限領域への進入を回避することができる。したがって、被駆動部材が減速領域内にある場合であっても、制限領域から離れる方向の速度や、制限領域境界面に平行な方向の速度は減速させないため、作業時間の増大を抑制することができる。また、バケット先端のみならず複数の被駆動部材上(特に軸の位置)に進入検知点を設定することにより、バケット以外のフロント部品が減速領域内に入った場合にも同様に制限領域に向かう方向の速度を減速し、制限領域への進入を確実に回避することができる。
【0014】
上記の制御装置は、複数の油圧アクチュエータのうち、作業員が操作していない油圧アクチュエータの動作を制御するとよい。
【0015】
これにより、作業員による操作装置の操作によって、作業装置の被駆動部材が制限領域に進入しそうになった場合でも、作業員が操作していない油圧アクチュエータを動作させることによって、被駆動部品の制限領域への進入を回避することができる。つまり、被駆動部材が制限領域に進入しそうになると、急停止動作を行うのではなく、自動操作によって滑らかに回避動作を取ることができる。
【0016】
上記の制御装置は、進入検知点が制限領域に進入した場合は、進入検知点の移動速度の法線方向成分を、進入検知点が制限領域から出る方向に補正するとよい。
【0017】
これにより、作業装置の被駆動部材が制限領域に進入した場合であっても、油圧アクチュエータの動作を制御して被駆動部材を制限領域から追い出すことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業時間の増大を抑制しつつ、作業装置の制限領域への進入を回避することができる建設機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態における建設機械の構成および座標系を説明する図である。
【
図2】
図1(a)の建設機械の機能ブロックを示す図である。
【
図3】
図2の制御装置の処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図3のステップS110、S112の処理に対応するフローチャートである。
【
図5】進入検知点と制限領域境界面上の点との関係を示す図である。
【
図6】
図3のステップS114の処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図1(a)の作業装置の制限領域および減衰領域での動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態における建設機械100の構成および座標系を説明する図である。建設機械100は、
図1(a)に示すように車両本体102と多関節型の作業装置104を備えた油圧ショベルである。なお作業装置104はフロント装置とも称される。
【0022】
車両本体102は、旋回体106と運転室108と走行装置110とを有する。旋回体106は、走行装置110上に配置されていて、上下方向に沿った旋回軸を中心として旋回可能である。運転室108は、旋回体106上に載置されている。運転室108内には、操作装置112(
図2参照)が配置されている。走行装置110は、一対のクローラー110a、110bを有する。建設機械100は、走行装置100の一対のクローラー110a、110bがそれぞれ回転することによって走行する。
【0023】
作業装置104は、旋回体106上に取り付けられている。作業装置104は、複数の被駆動部材であるブーム114と、アーム116と、バケット118とを有し、これらを連結して構成されている。ブーム114は、旋回体106に揺動可能に取り付けられている。アーム116は、ブーム114の先端に揺動可能に取り付けられている。バケット118は、アーム116の先端に揺動可能に取り付けられている。
【0024】
作業装置104はさらに、作動油によって駆動される複数の油圧アクチュエータであるブームシリンダ120と、アームシリンダ122と、バケットシリンダ124とを有する。ブームシリンダ120、アームシリンダ122およびバケットシリンダ124はそれぞれ、ブーム114、アーム116およびバケット118を駆動する。
【0025】
図1(b)は、建設機械100を基準にして設定した各座標系を示している。まず、Σxは、xに関する座標系を意味する。Σpは、制限領域境界面P上の点の座標系の1つであって、無数に存在するうちの1つの例示である。制限領域境界面Pとは、後述するが、複数の被駆動部材の進入を制限する制限領域αと、制限領域αに隣接する減衰領域(減速領域β)との境界面である(
図5および
図7参照)。Σwは、作業空間上における基準であるワールド座標系を示している。さらに
図1(b)では、Σbをブーム座標系、Σaをアーム座標系、Σkをバケット座標系、Σtをバケット先端118a(
図1(a)参照)のバケット先端座標系として示している。
【0026】
つぎに、xTyは、X座標系からy座標系への同時変換行列を意味する。このため、wTpは、ワールド座標系から制限領域境界面上点の座標系への同時変換行列を示している。さらに
図1(b)では、wTbをワールド座標系からブーム座標系への同時変換行列、bTaをブーム座標系からアーム座標系への同時変換行列、aTkをアーム座標系からバケット座標系への同時変換行列、kTtをバケット座標系からバケット先端座標系への同時変換行列、pTtを制限領域境界面上点の座標系からバケット先端座標系への同時変換行列として示している。
【0027】
図2は、
図1(a)の建設機械100の機能ブロックを示す図である。建設機械100は、複数の操作装置112と、計測装置126と、記憶装置128と、制御装置130と、複数の流量制御弁132とを備える。操作装置112は、建設機械100の運転室108内に配置され、作業員によって操作される操作レバーなどである。操作装置112は、操作量に応じた操作信号を出力し、複数の油圧アクチュエータであるブームシリンダ120、アームシリンダ122およびバケットシリンダ124の動作を操作する。
【0028】
計測装置126は、複数の被駆動部材であるブーム114、アーム116およびバケット118の姿勢を計測する。記憶装置128は、
図5および
図7に示す制限領域αおよび減速領域βを点群データで記憶し、さらに複数の被駆動部材上に設定された進入検知点を記憶している。なお制限領域境界面Pは、制限領域αと減速領域βとの境界面であるため、点群データに基づいて算出可能である。ただしこれに限らず、制限領域境界面Pを、点群データとして予め設定してもよい。また進入検知点は、ブーム114、アーム116およびバケット118の例えば軸の位置や、バケット先端118aの位置に設定される。これらの進入検知点は、各被駆動部材上の任意位置に複数個設定してもよい。
【0029】
制御装置130は、複数の油圧アクチュエータであるブームシリンダ120、アームシリンダ122およびバケットシリンダ124の動作を制御する制御信号を、複数の流量制御弁132に出力する。流量制御弁132は、ブームシリンダ120、アームシリンダ122およびバケットシリンダ124に供給される油圧の流量および方向を制御する。また流量制御弁132は、複数の操作装置112の操作量に応じて出力される操作信号および制御装置130からの制御信号に応じて駆動される。
【0030】
制御装置130は、図示のように仮目標シリンダ速度演算部134と、シリンダ速度-関節角速度変換部136と、フロント姿勢演算部138と、最近傍点探査部140と、領域制御演算部142と、関節角速度-シリンダ速度変換部144と、バルブ指令演算部146とを備える。
【0031】
仮目標シリンダ速度演算部134は、操作装置112から出力された操作量を、任意の法則に基づいてシリンダの仮の目標速度(仮目標シリンダ速度)に変換する。シリンダ速度-関節角速度変換部136は、仮目標シリンダ速度演算部134で変換された仮目標シリンダ速度を関節速度(仮目標関節角速度)に変換する。フロント姿勢演算部138は、計測装置126から出力されたブーム114、アーム116およびバケット118の角度情報と予め設定された幾何学的情報とに基づいて、フロント姿勢を演算する。
【0032】
最近傍点探査部140は、記憶装置128から点群データと、作業装置104を構成するフロント部品すなわちブーム114、アーム116およびバケット118にそれぞれ設定された進入検知点とを読み出して、最近傍点を探査する。最近傍点とは、フロント部品の進入検知点と、点群データに基づく制限領域境界面Pとの最短直線距離を持つ点である。また1つのフロント部品上に設定された進入検知点が複数ある場合には、最近傍点探査部140は、記憶装置128の点群データと1つのフロント部品上の複数の進入検知点で最短直線距離を持つ組み合わせを探査する。
【0033】
領域制御演算部142は、シリンダ速度-関節角速度変換部136で演算された仮目標関節角速度を、進入検知点の位置情報および速度情報に基づいて補正することにより、補正した目標関節角速度を演算する。ここで進入検知点の位置情報とは、最近傍点探査部140で探査された進入検知点であって、制限領域境界面Pの法線ベクトルをz軸とする領域制限境界P上の点の座標系上での対応する侵入検知点の位置情報である。また進入検知点の速度情報は、シリンダ速度-関節角速度変換部136で演算された仮目標関節角速度を実行した際に生じる進入検知点の速度情報である。
【0034】
関節角速度-シリンダ速度変換部144は、領域制御演算部142で演算された補正した目標角速度を目標シリンダ速度に変換する。バルブ指令演算部146は、目標シリンダ速度が実現できるようなバルブ指令を演算し、複数の流量制御弁132にバルブ指令を出力する。
【0035】
図3は、
図2の制御装置130の処理を示すフローチャートである。まず制御装置130は、計測装置126から作業装置104の関節角度情報を取得し(ステップS100)、さらにブームシリンダ120、アームシリンダ122およびバケットシリンダ124の操作量を操作装置112から取得する(ステップS102)。
【0036】
つぎに制御装置130は、アーム座標系Σa、バケット座標系Σk、バケット先端座標系Σtを進入検知点として、それぞれの座標系に対する制限領域境界面P上の点群から最近傍点を探査する(ステップS104)。
【0037】
制御装置130は、ステップS104で探査した最近傍点を基準座標系とした進入検知点の位置とヤコビ行列を計算する(ステップS106)。一例として、Σtの関節位置は、以下の式(1)を用いて演算することができる。
【数1】
【0038】
またステップS106において、ヤコビ行列は、上記式(1)の関節角度を時間微分することで演算される。ここで、X^(-1)は行列Xの逆行列を意味する。つぎに、制御装置130は、ステップS102で取得した各油圧アクチュエータの操作量を、任意の法則に基づいて目標シリンダ速度に変換し、さらに変換した目標シリンダ速度を、ステップS106で演算したヤコビ行列を用いて、最近傍点座標系上の進入検知点の速度を求める(ステップS108)。
【0039】
続いて制御装置130は、最近傍点座標系上のアーム座標系Σaの位置と速度が領域制御の対象であるか否かを判定し(ステップS110)、領域制御の対象であれば(Yes)、ステップS112の処理を行う(
図4参照)。これらのステップは、最もワールド座標系Σwに近い根本の被駆動部材上の座標系Σから順次計算される。
【0040】
図4は、
図3のステップS110、S112の処理に対応するフローチャートである。
図5は、進入検知点と制限領域境界面上の点との関係を示す図である。なお
図5に示すΣa0、Σa1、Σa2、Σa3はそれぞれ、アーム座標系Σaのパターン0、1、2、3を示している。また、全てのパターンにおけるアーム座標系Σaの最近傍点はpである。
【0041】
制御装置130は、
図4に示すステップS200において、以下の式(2)を用いて、最近傍点P座標系におけるアーム座標系のZ位置であるpΣa(z)が0以上であるか否を判定する。
図5では、Σa0、Σa1、Σa2が0以上であり、Σa3が0より小さいことが示されている。つまりΣa3は、制限領域α内に位置している。
【数2】
【0042】
ステップS200でアーム座標系のZ位置が0以上であれば(No)、制御装置130は、以下の式(3)を用いて、最近傍点p座標系におけるアーム座標系のZ位置であるpΣa(z)が減衰領域β内であるか否かを判断する(ステップS202)。
図5では、Σa1、Σa2がlmin(減速領域β)内に位置し、Σa0がlmin内に位置しないことが示されている。なおlminは、任意で設定された減衰領域の範囲である。
【数3】
【0043】
ステップS202でアーム座標系のZ位置が減衰領域内に位置すれば(Yes)、制御装置130は、以下の式(4)を用いて、最近傍点p座標系におけるアーム座標系のZ速度dot(pΣa(z))が境界面Pへ接近する方向の速度成分を有するか否かを判定する(ステップS204)。
【数4】
【0044】
ステップS204でアーム座標系のZ速度が境界面へ接近する方向の速度成分を有する場合(Yes)、制御装置130は、以下の式(5)を用いて、アーム座標系のZ速度を、制限領域境界面Pとの距離に応じた減衰係数kによって減衰(減速)する(ステップS206)。なお減衰係数kは、自由に設定される任意値である。
【数5】
【0045】
一方、ステップS200でアーム座標系のZ位置が0より小さい場合すなわち制限領域α内に位置する場合(Yes)、制御装置130は、最近傍点p座標系におけるアーム座標系のZ速度dot(pΣa(z))を、進入検知点が制限領域境界面P上にのるような速度に更新する(ステップS208)。
図5では、Σa3が制限領域α内に位置することが示されている。
【数6】
【0046】
このようにして制御装置130は、ステップS112に示すように、アーム116が制限領域αに位置する場合、制限領域αから出るように(制限領域αに進入しないように)、目標速度を更新し、アーム116が減衰領域βに位置する場合、境界Pに接近する法線方向成分の目標速度を更新する。なお
図1(a)に示す作業装置104の制限領域αおよび減衰領域βでの具体的な動作は後述する(
図7参照)。
【0047】
制御装置130は、ステップS206、S208の後、
図3に示す目標回避速度dot(θa)、零空間射影行列Nの更新を行う(ステップS114)。またステップS202で減衰領域内に位置しない場合(No)、あるいはステップS204で境界面Pへ接近する方向の速度成分を有していない場合(No)には、制御装置130は、
図3に示すステップS116の処理を行う。
【0048】
図6は、
図3のステップS114の処理を示すフローチャートである。制御装置130は、目標回避速度dot(θa)と零空間射影行列Nが一度も計算されていないか否かを判定する(ステップS300)。ステップS300で目標回避速度dot(θa)と零空間射影行列Nが一度も計算されていない場合(Yes)、制御装置130は、以下の式(7)に示すように、目標回避速度dot(θa)を[000]
Tに初期化し、零空間射影行列Nを、3行3列の単位行列I(3)に初期化する(ステップS302)。なお要素数は、ヤコビ行列の行数に応じて変化する。ただし、ここでのヤコビ行列は、二次平面上の位置・姿勢となるため、3要素となる。
【数7】
【0049】
一方、ステップS300で目標回避速度dot(θa)と零空間射影行列Nが一度は計算されている場合(No)、あるいはステップS302の初期化の後、制御装置130は、以下の式(8)を用いて、作業装置104の関節角速度を、p座標系におけるアーム座標系の速度に変換するヤコビ行列pJaからZ軸に関する要素のみを抜き出す操作を行う(ステップS304)。
【数8】
【0050】
つぎに制御装置130は、以下の式(9)を用いて、目標回避速度dot(θa)を更新し(ステップS306)、最近傍点p座標系におけるアーム座標系のZ速度dot(pΣa(z))の2乗和が最小となるような作業装置104の関節の目標角速度を演算する。X^+は非正方行列Xの疑似逆行列を意味する。ここで、目標回避速度dot(θa)と零空間射影行列Nが既に一度でも計算されていた場合、最近傍点p座標系におけるアーム座標系のZ速度dot(pΣa(z))は、実現される速度との間に偏差を生じる場合が多い。そのような場合には偏差を考慮した目標速度としてアーム座標系のZ速度dot(pΣa(z))を与えても良い。
【数9】
【0051】
以下、式(10)で示される実装例を例示する。
【数10】
【0052】
続いて制御装置130は、以下の式(11)を用いて、零空間射影行列Nを更新する(ステップS308)。なお式(11)において零空間射影行列Nに乗じた値は、最近傍点P座標系におけるアーム座標系のZ速度dot(pΣa(z))に影響を与えない空間に射影される。このようにして制御装置130は、目標回避速度dot(θa)、零空間射影行列Nの更新を行う。
【数11】
【0053】
また、
図3に示すステップS116、S118、S120はバケット座標系Σkに関する処理であって、上記のステップS110、S112、S114の各処理にそれぞれ対応している。このため、制御装置130は、アーム座標系Σaに代えてバケット座標系Σkに関して、上記のステップS110、S112、S114の各処理を行うことで、ステップS116、S118、S120を実行可能である。
【0054】
さらにステップS122、S124、S126はバケット先端座標系Σtに関する処理であって、上記のステップS110、S112、S114の各処理にそれぞれ対応している。このため、制御装置130は、アーム座標系Σaに代えてバケット先端座標系Σtに関して、上記のステップS110、S112、S114の各処理を行うことで、ステップS122、S124、S126を実行可能である。
【0055】
ステップS126の後、すなわち作業装置104のフロント部品に関する計算を終了した後、制御装置130は、以下の式(12)に示すように、目標回避速度dot(θa)と零空間射影行列Nを用いて最終的な各関節の目標角速度を計算する(ステップS128)。
【数12】
【0056】
上記式(12)において、dot(θ)は最終的な作業装置104の各関節の目標角速度である。dot(θa)は進入検知点が減衰領域内あるいは制限領域内に位置した際に強制的に実施される目標回避速度である。Nは、零空間射影行列である。dot(θr)は操作装置112の操作量によって決まる作業装置104の各関節の目標角速度である。なおdot(θr)についても上記の実装例のように、偏差を考慮した目標速度を与えても良い。
【0057】
以上により、操作装置112の操作量によって決まる作業装置104の各関節の角速度が、制限領域α内に進入検知点が進入しないような作業装置104の各関節の目標角速度を満たす範囲で実現される。
【0058】
つぎに制御装置130は、ステップS128で算出された最終的な作業装置104の各関節の目標角速度dot(θ)を目標シリンダ速度に変換し(ステップS130)、さらに油圧アクチュエータであるブームシリンダ120、アームシリンダ122およびバケットシリンダ124が目標シリンダ速度を追従するように流量制御弁132を制御する。
【0059】
図7は、
図1(a)の作業装置104の制限領域αおよび減衰領域βでの動作を示す図である。まず建設機械100において、作業員によってブームシリンダ120が操作されて、
図7(a)の矢印QAに示すオペレータ指示速度でブーム114が動き、バケット先端118aに設定された進入検知点が減速領域β内に進入した場合について説明する。
【0060】
進入検知点が減速領域β内に進入すると、制御装置130は、進入検知点の移動速度を制限領域境界面Pの法線方向成分Z
tと接線方向成分x
tとに分解する。
図7(a)に示すように法線方向成分Z
tは、制限領域αに向かっている。そこで制御装置130は、作業者が操作していないアームシリンダ122とバケットシリンダ124の動作を制御する。制御装置130は、矢印RA方向にアームシリンダ122の動作を制御し、さらに矢印SA方向にバケットシリンダ124の動作を制御することにより、法線方向成分Z
tをZ
t+1に減速する。なお接線方向成分x
tはx
t+1に補正されるが、減速されていない。
【0061】
また
図4のステップS204で説明したように、減衰領域内に位置していても、境界面から離れる方向の速度である場合には減衰(減速)しない。
【0062】
このように建設機械100では、作業装置104のバケット先端118aが減速領域β内に進入した場合であっても、制御装置130が進入検知点が制限領域αに向かう方向のみの速度を減速させるため、制限領域αへの進入を回避することができる。
【0063】
したがって建設機械100によれば、作業装置104の被駆動部材が減速領域β内にある場合であっても、制限領域αから離れる方向の速度や、制限領域境界面Pに平行な方向の速度は減速させないため、作業時間の増大を抑制することができる。また、バケット先端118aのみならず複数の被駆動部材上(特に軸の位置)に進入検知点を設定することにより、バケット118以外のフロント部品が減速領域β内に入った場合にも同様に制限領域αに向かう方向の速度を減速し、制限領域αへの進入を確実に回避することができる。
【0064】
また制御装置130は、作業者がブームシリンダ120を操作したとき、作業者が操作していないアームシリンダ122やバケットシリンダ124の動作を優先的に制御している。これにより、作業員による操作装置112の操作によって、作業装置104の被駆動部材が制限領域αに進入しそうになった場合でも、作業員が操作していない油圧アクチュエータを動作させることによって、被駆動部品の制限領域αへの進入を回避することができる。したがって建設機械100によれば、作業装置104の被駆動部材が制限領域αに進入しそうになると、急停止動作を行うのではなく、自動操作によって滑らかに回避動作を取ることができる。
【0065】
つぎに、建設機械100において、作業員によってブームシリンダ120が操作されて、
図7(b)の矢印QBに示すオペレータ指示速度でブーム114が動き、バケット先端118aに設定された進入検知点が制限領域α内に進入した場合について説明する。
【0066】
進入検知点が制限領域α内に進入した場合、制御装置130は、進入検知点の移動速度を制限領域境界面Pの法線方向成分Ztと接線方向成分xtとに分解する。そして制御装置130は、矢印RBに示すアーム補正速度でアームシリンダ122の動作を制御し、さらに矢印SBに示すバケット補正速度でバケットシリンダ124の動作を制御する。このようにして制御装置130は、進入検知点の移動速度の法線方向成分ZtをZt+1に補正する。補正された法線方向成分Zt+1は、進入検知点が制限領域αから出る方向の速度成分となっている。なお接線方向成分xtはxt+1に補正されるが、減速されていない。
【0067】
これにより建設機械100によれば、作業装置104の被駆動部材が制限領域αに進入した場合であっても、油圧アクチュエータの動作を制御して被駆動部材を制限領域αから追い出すことができる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、多関節型の作業装置を備えた建設機械として利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
100…建設機械、102…車両本体、104…作業装置、106…旋回体、108…運転室、110…走行装置、110a、110b…クローラー、112…操作装置、114…ブーム、116…アーム、118…バケット、118a…バケット先端、120…ブームシリンダ、122…アームシリンダ、124…バケットシリンダ、126…計測装置、128…記憶装置、130…制御装置、132…流量制御弁、134…仮目標シリンダ速度演算部、136…シリンダ速度-関節角速度変換部、138…フロント姿勢演算部、140…最近傍点探査部、142…領域制御演算部と、144…関節角速度-シリンダ速度変換部、146…バルブ指令演算部、α…制限領域、β…減衰領域(減速領域)、P…制限領域境界面