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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168946
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】パワーモジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20241128BHJP
   H01L 23/48 20060101ALI20241128BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01L21/60 301D
H01L23/48 G
H01L25/04 C
H01L23/48 S
H01L21/60 311Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086025
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】小川 翔平
(72)【発明者】
【氏名】矢野 佑樹
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044CC01
5F044FF05
5F044RR16
(57)【要約】
【課題】パワーモジュールの製造において、リードフレームを加工することなく、ワイヤボンドパッドへのはんだボールの付着を防止する。
【解決手段】半導体素子(20)の主電極(201)の上にはんだ(31)を介して電極板(65)を載置するとともに、半導体素子(20)のワイヤボンドパッドである信号電極(202)を治具(8)で覆う。信号電極(202)を治具(8)で覆った状態で、はんだ(31)を溶融させ、主電極(201)と電極板(65)とをはんだ(31)により接合する。信号電極(202)から治具(8)を取り除いた後、信号電極(202)にワイヤ(40)を接合する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)半導体素子の主電極の上にはんだを介して電極板を載置する工程と、
(b)前記半導体素子の信号電極を治具で覆う工程と、
(c)前記信号電極を前記治具で覆った状態で前記はんだを溶融させ、前記主電極と前記電極板とを前記はんだにより接合する工程と、
(d)前記信号電極から前記治具を取り除いた後、前記信号電極にワイヤを接合する工程と、
を備えるパワーモジュールの製造方法。
【請求項2】
前記治具は、柔軟性を持つシート状部材を備え、
前記工程(b)は、前記シート状部材を前記信号電極に押し当てることによって行われる、
請求項1に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項3】
(e)前記工程(a)および(b)に先立って、前記信号電極の近くに位置する前記半導体素子の端部の上側の角を樹脂で覆う工程、
をさらに備える、
請求項2に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項4】
(e)前記工程(a)および(b)に先立って、前記信号電極の近くに位置する前記半導体素子の端部の上側の角を面取りする工程、
をさらに備える、
請求項2に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項5】
前記治具は、底面の外縁部に樹脂製の突起を有する板状の部材を備え、
前記工程(b)は、前記突起が前記信号電極の外側の前記半導体素子の上面に当接するように、前記板状の部材の前記底面を前記信号電極に押し当てることによって行われる、
請求項1に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項6】
前記板状の部材は、弾性を持つバネ部である、
請求項5に記載のパワーモジュールの製造方法。
【請求項7】
前記突起は、平面視で枠状である、
請求項5または請求項6に記載のパワーモジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パワーモジュールの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
電力制御用の半導体装置であるパワーモジュールは、環境問題の高まりとともに、発電・送電から効率的なエネルギーの利用・再生まで、あらゆる用途で普及しつつある。電気自動車など輸送機器に用いられるパワーモジュールは、特に高い信頼性が求められるため、半導体素子の主電極とリードフレームとの接合には、従来のワイヤボンドではなく、はんだ接合が用いられている。一方、半導体素子のゲート電極などの信号電極と信号端子との接続には、ワイヤボンドが用いられることが多い。そのため、半導体素子の主電極とリードフレームとの接合部から飛散したはんだ(はんだボール)がワイヤボンドパッドとなるゲート電極に付着して、ワイヤボンドを阻害、信頼性の低下を引き起こす懸念がある。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、半導体素子の主電極にはんだ付けされるリードフレームの先端に、半導体素子側に突出した凸部(折り曲げ部)を設けることで、はんだ飛散を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/167254号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようにリードフレームの先端にはんだ飛散を抑制する構造を設けた場合、パワーモジュールの絶縁性能の低下や、半導体素子を封止する封止樹脂の注入性の悪化を招くことが懸念される。そのため、リードフレームの先端を加工せずに飛散したはんだがワイヤボンドパッドに付着することを防止する技術が望まれる。
【0006】
本開示は以上のような課題を解決するためになされたものであり、パワーモジュールの製造において、リードフレームを加工することなく、ワイヤボンドパッドへのはんだボールの付着を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るパワーモジュールの製造方法は、(a)半導体素子の主電極の上にはんだを介して電極板を載置する工程と、(b)前記半導体素子の信号電極を治具で覆う工程と、(c)前記信号電極を前記治具で覆った状態で前記はんだを溶融させ、前記主電極と前記電極板とを前記はんだにより接合する工程と、(d)前記信号電極から前記治具を取り除いた後、前記信号電極にワイヤを接合する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、はんだを溶融する際に半導体素子のワイヤボンドパッドである信号電極が治具で覆われているため、ワイヤボンドパッドへのはんだボールの付着が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る製造方法で形成されるパワーモジュールの構造の例を示す図である。
図2】実施の形態1に係る製造方法で形成されるパワーモジュールの構造の例を示す図である。
図3】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図4】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図5】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図6】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図7】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図8】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図9】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法の変形例を説明するための図である。
図10】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法の変形例を説明するための図である。
図11】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法の変形例を説明するための図である。
図12】実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法の変形例を説明するための図である。
図13】実施の形態2に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図14】実施の形態2に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図15】実施の形態2に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図16】実施の形態2に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
図17】実施の形態3に係る電力変換システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
図1および図2は、実施の形態1に係る製造方法で形成されるパワーモジュールの構造の例を示す図である。図1は、当該パワーモジュールの上面図であり、図2はその断面図である。図1においては、説明の便宜のため、封止樹脂の図示を省略している。
【0011】
当該パワーモジュールは、半導体素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)20およびダイオード21を備えている。IGBT20およびダイオード21は、セラミック基板11上に搭載されている。セラミック基板11は、絶縁性の基材の上面に表面導体層111、下面に裏面導体層112をそれぞれ積層した構造を有している。IGBT20およびダイオード21は、はんだ30を用いてセラミック基板11の表面導体層111に接合されている。
【0012】
セラミック基板11は、ベース板10に搭載されている。ベース板10は、はんだ30を用いてセラミック基板11の裏面導体層112に接合されている。
【0013】
IGBT20の上面に設けられた主電極201およびダイオード21の上面に設けられた主電極211は、はんだ31を用いて電極板65と接続されている。電極板65は、ケース5にインサート成形されており、電極板65の一部がケース5の外部に突出して主端子62となっている。IGBT20の上面に設けられた信号電極202は、信号端子61とワイヤ40を用いて接続されている。すなわち、信号電極202は、ワイヤ40が接合されるワイヤボンドパッドである。
【0014】
ケース5は、ベース板10の外縁部に接着剤(図1および図2には不図示)を用いて接着されている。ケース5の内部には、ダイレクトポッティングの封止樹脂73が充填されており、ケース5に収納されたセラミック基板11、IGBT20、ダイオード21等は、封止樹脂73によって絶縁封止されている。
【0015】
本実施の形態では、セラミック基板11の基材として、窒化アルミ製、サイズ40mm×40mm、厚さ2mmのものが用いられている。また、表面導体層111としては、銅製、サイズ17mm×37mm、厚さ0.8mmのものが2枚用いられている。裏面導体層112としては、銅製、サイズ37mm×37mm、厚さ0.8mmのものが用いられている。IGBT20は、シリコン製、サイズ13mm×13mm、厚さ0.2mmのものが用いられている。ダイオード21としては、シリコン製、サイズ13mm×10mm、厚さ0.2mmのものが用いられている。はんだ30としては、スズ96.5%、銀3%、銅0.5%、融点217℃のものが用いられている。電極板65としては、銅製、板厚0.64mmのものが用いられている。信号端子61としては、銅製、板厚0.64mmのものが用いられている。ワイヤ40としては、純アルミ製、太さ0.15mmのものが用いられている。ケース5の材料としては、PPS(Poly Phenylene Sulfide)樹脂が用いられている。封止樹脂73としては、シリカフィラーを分散させたエポキシ樹脂が用いられている。
【0016】
以下、図3から図8を参照しつつ、実施の形態1に係るパワーモジュールの製造方法を説明する。
【0017】
図3に示すように、ベース板10の上に板状のはんだ30を介してセラミック基板11を載置し、さらにセラミック基板11の上に板状のはんだ30を介してIGBT20およびダイオード21を載置する。そしてリフロー炉を用いて280℃まで加熱してはんだ30を溶融させ、セラミック基板11の裏面導体層112にはんだ30を介してベース板10を接合するとともに、セラミック基板11の表面導体層111にはんだ30を介してIGBT20およびダイオード21を接合する。
【0018】
次に、図4に示すように、ケース5と接着するための接着剤72をベース板10に塗布し、図5に示すように、ケース5とベース板10とを接着剤72により接着固定する。接着剤72は、ベース板10とケース5の隙間を埋めて、この後の工程でケース5内に充填する封止樹脂73の漏れを防止する役割も持つ。
【0019】
ケース5をベース板10に接着する際、図5に示すように、IGBT20の主電極201およびダイオード21の主電極211の上に、板状のはんだ31を介して、ケース5にインサートされた電極板65を載置する。また、シート状部材81を有するカバー治具8を用いて、ワイヤボンドパッドとなる信号電極202の上にシート状部材81を配置する。
【0020】
そして、図6に示すように、カバー治具8のシート状部材81をIGBT20に押し当て、シート状部材81で信号電極202を覆う。シート状部材81は柔軟性を有するため、このときシート状部材81はIGBT20および信号電極202の形状に倣うように変形する。その状態で温度を上げてはんだ31を溶融させて、IGBT20およびダイオード21にはんだ31を介して電極板65を接合する。本実施の形態では、シート状部材81として、ポリイミド製、サイズ10mm×5mm、厚さ0.05mmのものが用いられている。
【0021】
このように、ワイヤボンドパッドとなるIGBT20の信号電極202の上にシート状部材81が押し当てられた状態で、はんだ31を用いた接合が行われるため、はんだ31が溶融した際にはんだボールが生じて飛散しても、はんだボールが信号電極202に付着することが防止される。
【0022】
次に図7に示すように、カバー治具8を取り除き、ケース5にインサート成形された信号端子61とIGBT20の信号電極202とをワイヤ40を用いて接続する。
【0023】
最後に、図8に示すように、ケース5内に封止樹脂73を60℃に加熱した状態で流し込み、真空脱泡して加熱して封止樹脂73を硬化させる。封止樹脂73を硬化させるための加熱処理は、例えば、100℃を1.5時間維持し、その後140℃を1.5時間維持することによって行われる。以上の工程を経て、図1および図2に示したパワーモジュールが完成する。
【0024】
IGBT20の主電極201およびダイオード21の主電極211にはんだ30を用いて電極板65を接合する際に、接合部から飛散したはんだ(はんだボール)が、ワイヤボンドパッドとなるIGBT20の信号電極202に付着すると、ワイヤボンドを阻害したり、信頼性を損ねたりする懸念がある。本実施の形態では、はんだ30を溶融する際に、信号電極202がシート状部材81で覆われているため、はんだボールが信号電極202に付着することを防止される。それにより、はんだボールによるワイヤボンドの阻害、およびそれに起因するパワーモジュールの信頼性の低下が防止される。
【0025】
また、本実施の形態では、シート状部材81は、ポリイミドなど柔軟性を有する材料で形成されている。そのため、シート状部材81は、IGBT20の信号電極202に押し当てられたときに、信号電極202およびその周辺の形状に倣って変形する。よって、シート状部材81がIGBT20にダメージを与えることも防止されている。
【0026】
なお、セラミック基板11の基材は、絶縁性が得られ、Cuのようにはんだが濡れる導体層を形成できるのであればよく、窒化アルミ(AlN)製に限られない。例えば、セラミック板としては、例えば、アルミナ(Al)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)などでもよい。また、表面導体層111および裏面導体層112は、はんだが濡れるものであればよく、Cuに限らず、最表面がSn、Au、Agなどの金属となっていればよい。また、IGBT20およびダイオード21の表面電極および裏面電極は、はんだが濡れる金属であればよく、最表面がSn、Au、Ag、Niなどであればよい。
【0027】
本実施の形態では、IGBT20およびダイオード21を1対備える「1in1」のパワーモジュールを示したが、IGBT20およびダイオード21を2対備える「2in1」や、6対備える「6in1」であってもよい。また、半導体素子は、IGBTおよびダイオードに限られず、例えば、IC(Integrated Circuit)や、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)などでもよい。ここではIGBT20とダイオード21とを別々の素子としたが、IGBTとダイオードとを1つの素子として実現したRC-IGBT(Reverse Conducting Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いてもよい。また、半導体素子は、シリコン製に限られず、炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GnN)などのワイドバンドギャップ半導体で形成されたものでもよい。
【0028】
電極板65の素材は銅に限られず、銅合金や表面をニッケルめっきしたアルミでもよい。はんだ30およびはんだ31の組成は、スズ96.5%、銀3%、銅0.5%、融点217℃のものに限られず、例えば、スズ99.3%、銅0.7%、融点224℃などでもよい。
【0029】
また、IGBT20やダイオード21に接するはんだ30およびはんだ31の一部を、はんだよりも耐熱性に優れた銀焼結材やろう付け材に置き換えてもよい。例えば、Agフィラーをエポキシ樹脂に分散させた導電性接着剤や、ナノ粒子を低温焼成させるAgナノパウダやCuナノパウダなどが用いられてもよい。
【0030】
ワイヤ40はアルミ製のものを用いたが、鉄などの添加剤を微量含んだアルミ合金製や銅製のワイヤまたはアルミ被覆銅ワイヤ、または金ワイヤを用いてもよい。また、リボンボンドを用いてもよい。
【0031】
ケース5の材料は、PPS樹脂に限られず、LCP(Liquid Crystal Polymer)樹脂などでもよい。
【0032】
封止樹脂73は、シリカフィラーを分散させたエポキシ樹脂に限られない。フィラーとしてアルミナ、BNなどが用いられてもよいし、樹脂として、エポキシ樹脂にシリコーン樹脂を混合させたものが用いられてもよい。
【0033】
シート状部材81は、はんだ付けの温度に対する耐熱性があり、シート状に加工でき、十分な柔軟性を有するものであればよい。そのようなシート状部材81の材料としては、ポリイミド製の他、例えばテフロン(登録商標)などがある。
【0034】
本実施の形態では、IGBT20の主電極201およびダイオード21の主電極211と電極板65とを接合ずる際に、はんだ31を供給する例を示したが、例えば、IGBT20およびダイオード21をはんだ30を用いてセラミック基板11と接合させる工程で、IGBT20の主電極201およびダイオード21の主電極211の上にはんだ31を供給し、IGBT20の主電極201およびダイオード21の主電極211とはんだ31とを接合させてもよい。
【0035】
[変形例]
IGBT20をはじめ半導体素子の端部の角には、いわゆるバリなどが残っており、鋭利な形状であることが多い。そのため、カバー治具8のシート状部材81をIGBT20に押し当てる工程を繰り返し実施すると、この角でシート状部材81に傷などのダメージが生じることが懸念される。シート状部材81に傷があると、IGBT20上の異物やはんだがシート状部材81の傷にトラップされ、トラップされた異物やはんだが、次にカバー治具8を使用するときに別のIGBT20に転写されることという問題が生じる。
【0036】
本変形例では、図9に示すように、IGBT20が、ワイヤボンドパッドである信号電極202の近くに位置する端部の上側の角を覆う樹脂製の凸部71を有している。「信号電極202の近く」とは、具体的には、シート状部材81が信号電極202に押し当てられたときに、当該シート状部材81が接触する領域を含む範囲を意図している。凸部71は、ディスペンサおよびニードルを用いてIGBT20の端部の上側の角に描画形成される。ここでは、凸部71は、信号電極202に近い辺の上側の角に設けられている。完成したパワーモジュールの断面を図10に示す。凸部71は、IGBT20の主電極201およびダイオード21の主電極211にはんだ30を介して電極板65を接合する工程の後に除去されてもよい。
【0037】
本変形例によれば、IGBT20における信号電極202の近くの端部の上側の角が凸部71で覆われているため、カバー治具8のシート状部材81が受けるダメージが軽減され、上記の問題の発生を防止できる。
【0038】
なお、IGBT20の端部のバリによるシート状部材81へのダメージを軽減できれば、例えば、図11のように、信号電極202の近くに位置するIGBT20の端部の上側の角を面取りしてもよい。この場合完成したパワーモジュールの断面を図12に示す。
【0039】
<実施の形態2>
図13から図16は、実施の形態2に係るパワーモジュールの製造方法を説明するための図である。
【0040】
実施の形態1では、ワイヤボンドパッドとなるIGBT20の信号電極202へのはんだボールの付着を防止するために、シート状部材81を有するカバー治具8が用いられたが、実施の形態2では、それに代えて、図13のように、底面の外縁部に突起92が形成された弾性を有する板状の部材であるバネ部91を有するカバー治具9が用いられる。突起92の高さはIGBT20の上面からの信号電極202の高さよりも僅かに大きいことが好ましい。
【0041】
セラミック基板11にベース板10、IGBT20およびダイオード21を接合し、ケース5をベース板10に接着固定する工程は、実施の形態1と同様である。
【0042】
ケース5をベース板10に接着する際、図13に示すように、IGBT20の主電極201およびダイオード21の主電極211の上に、板状のはんだ31を介して、ケース5にインサートされた電極板65を載置する。このとき突起92が形成されたバネ部91を有するカバー治具9を用いて、ワイヤボンドパッドとなる信号電極202の上にバネ部91を配置する。
【0043】
そして、図14に示すように、バネ部91の底面をIGBT20に押し当て、IGBT20の信号電極202の上をバネ部91の底面で覆う。その際、バネ部91の底面の突起92は、信号電極202の外側のIGBT20の上面に当接する。その状態で温度を上げてはんだ31を溶融させて、IGBT20およびダイオード21にはんだ31を介して電極板65を接合する。
【0044】
このように、ワイヤボンドパッドとなるIGBT20の信号電極202の上がバネ部91で覆われた状態で、はんだ31を用いた接合が行われるため、はんだ31が溶融した際にはんだボールが生じて飛散しても、はんだボールが信号電極202に付着することが防止される。
【0045】
突起92は弾性を有し、IGBT20に押し当てられると縮むため、突起92の高さが信号電極202の高さよりも大きくても、バネ部91の底面と信号電極202との間に隙間はできない。仮に、バネ部91の底面と信号電極202との間に隙間ができても、僅かな隙間であれば、信号電極202へのはんだボールの付着は防止される。
【0046】
次に図15に示すように、カバー治具8を取り除き、ケース5にインサート成形された信号端子61とIGBT20の信号電極202とをワイヤ40を用いて接続する。
【0047】
最後に、図16に示すように、ケース5内に封止樹脂73を60℃に加熱した状態で流し込み、真空脱泡して加熱して封止樹脂73を硬化させる。封止樹脂73を硬化させるための加熱処理は、例えば、100℃を1.5時間維持し、その後140℃を1.5時間維持することによって行われる。以上の工程を経て、図1および図2に示したパワーモジュールが完成する。
【0048】
突起92は、平面視で信号電極202を囲む形状(枠状)でもよい。その場合、信号電極202は四方が突起92で囲まれ、上方がバネ部91の底面で覆われるため、信号電極202へのはんだボールの付着をより確実に防止できる。
【0049】
突起92の高さのバラツキをカバーするため、突起92は弾性の高い樹脂製であることが好ましい。また、突起92が形成されたバネ部91も弾性を有するため、それによっても突起92の高さのバラツキをカバーできる。
【0050】
本実施の形態では、信号電極202を覆う板状の部材を、弾性のあるバネ部91としたが、弾性のない板状の部材であってもよい。
【0051】
<実施の形態3>
本実施の形態は、上述した実施の形態1または2に係るパワーモジュール、すなわち、実施の形態1または2に係る製造方法で製造したパワーモジュールを、電力変換装置に適用したものである。実施の形態1または2に係るパワーモジュールの適用は特定の電力変換装置に限定されるものではないが、以下、実施の形態3として、三相のインバータに実施の形態1または2に係るパワーモジュールを適用した場合について説明する。
【0052】
図17は、本実施の形態に係る電力変換装置を適用した電力変換システムの構成を示すブロック図である。
【0053】
図17に示される電力変換システムは、電源1100、電力変換装置1200、負荷1300から構成される。電源1100は、直流電源であり、電力変換装置1200に直流電力を供給する。電源1100は、特に限定されないが、例えば、直流系統、太陽電池または蓄電池で構成されてもよいし、交流系統に接続された整流回路またはAC/DCコンバータで構成されてもよい。電源1100は、直流系統から出力される直流電力を別の直流電力に変換するDC/DCコンバータによって構成されてもよい。
【0054】
電力変換装置1200は、電源1100と負荷1300の間に接続された三相のインバータであり、電源1100から供給された直流電力を交流電力に変換し、負荷1300に交流電力を供給する。電力変換装置1200は、図17に示されるように、直流電力を交流電力に変換して出力する主変換回路1201と、主変換回路1201を制御する制御信号を主変換回路1201に出力する制御回路1203とを備えている。
【0055】
負荷1300は、電力変換装置1200から供給された交流電力によって駆動される三相の電動機である。なお、負荷1300は、特に限定されるものではないが、各種電気機器に搭載された電動機であり、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、鉄道車両、エレベーター、または、空調機器向けの電動機として用いられる。
【0056】
以下、電力変換装置1200の詳細を説明する。主変換回路1201は、スイッチング素子(図示せず)と還流ダイオード(図示せず)とを備えている。スイッチング素子が電源1100から供給される電圧をスイッチングすることによって、主変換回路1201は、電源1100から供給される直流電力を交流電力に変換して、負荷1300に供給する。主変換回路1201の具体的な回路構成は種々のものがあるが、本実施の形態に係る主変換回路1201は2レベルの三相フルブリッジ回路であり、6つのスイッチング素子とそれぞれのスイッチング素子に逆並列された6つの還流ダイオードとから構成され得る。主変換回路1201の各スイッチング素子及び各還流ダイオードの少なくともいずれかに、上述した実施の形態1または2に係るパワーモジュールである半導体モジュール1202を適用する。6つのスイッチング素子は2つのスイッチング素子ごとに直列接続され上下アームを構成し、各上下アームはフルブリッジ回路の各相(U相、V相及びW相)を構成する。そして、各上下アームの出力端子、すなわち主変換回路1201の3つの出力端子は、負荷1300に接続される。
【0057】
また、主変換回路1201は、各スイッチング素子を駆動する駆動回路(図示せず)を備えている。駆動回路は、半導体モジュール1202に内蔵されていてもよいし、半導体モジュール1202とは別に設けられてもよい。駆動回路は、主変換回路1201に含まれるスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成して、主変換回路1201のスイッチング素子の制御電極に駆動信号を供給する。具体的には、制御回路1203からの制御信号に従い、スイッチング素子をオン状態にする駆動信号とスイッチング素子をオフ状態にする駆動信号とを各スイッチング素子の制御電極に出力する。スイッチング素子をオン状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以上の電圧信号(オン信号)であり、スイッチング素子をオフ状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以下の電圧信号(オフ信号)となる。
【0058】
制御回路1203は、負荷1300に所望の電力が供給されるよう主変換回路1201のスイッチング素子を制御する。具体的には、負荷1300に供給すべき電力に基づいて主変換回路1201の各スイッチング素子がオン状態となるべき時間(オン時間)を算出する。例えば、出力すべき電圧に応じてスイッチング素子のオン時間を変調するパルス幅変調(PWM)制御によって、主変換回路1201を制御することができる。そして、各時点においてオン状態となるべきスイッチング素子にはオン信号を、オフ状態になるべきスイッチング素子にはオフ信号が出力されるよう、主変換回路1201が備える駆動回路に制御指令(制御信号)を出力する。駆動回路は、この制御信号に従い、各スイッチング素子の制御電極にオン信号又はオフ信号を駆動信号として出力する。
【0059】
本実施の形態に係る電力変換装置1200では、主変換回路1201に含まれる半導体モジュール1202として、実施の形態1または2に係るパワーモジュールが適用される。そのため、本実施の形態に係る電力変換装置1200は、向上された信頼性を有する。
【0060】
本実施の形態では、2レベルの三相インバータに実施の形態1または2に係るパワーモジュールを適用する例を説明したが、これに限られるものではなく、種々の電力変換装置に適用することができる。本実施の形態では2レベルの電力変換装置としたが、3レベルの電力変換装置であってもよいし、マルチレベルの電力変換装置であってもよい。電力変換装置が単相負荷に電力を供給する場合には、単相のインバータに実施の形態1または2に係るパワーモジュールが適用されてもよい。電力変換装置が直流負荷等に電力を供給する場合には、DC/DCコンバータまたはAC/DCコンバータに実施の形態1または2に係るパワーモジュールが適用されてもよい。
【0061】
実施の形態1または2に係るパワーモジュールが適用された電力変換装置は、負荷が電動機の場合に限定されるものではなく、例えば、放電加工機もしくはレーザー加工機の電源装置、または、誘導加熱調理器もしくは非接触器給電システムの電源装置に組み込まれ得る。実施の形態1または2に係るパワーモジュールが適用された電力変換装置は、太陽光発電システムまたは蓄電システム等のパワーコンディショナーとして用いられ得る。
【0062】
なお、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0063】
<付記>
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0064】
(付記1)
(a)半導体素子の主電極の上にはんだを介して電極板を載置する工程と、
(b)前記半導体素子の信号電極を治具で覆う工程と、
(c)前記信号電極を前記治具で覆った状態で前記はんだを溶融させ、前記主電極と前記電極板とを前記はんだにより接合する工程と、
(d)前記信号電極から前記治具を取り除いた後、前記信号電極にワイヤを接合する工程と、
を備えるパワーモジュールの製造方法。
【0065】
(付記2)
前記治具は、柔軟性を持つシート状部材を備え、
前記工程(b)は、前記シート状部材を前記信号電極に押し当てることによって行われる、
付記1に記載のパワーモジュールの製造方法。
【0066】
(付記3)
(e)前記工程(a)および(b)に先立って、前記信号電極の近くに位置する前記半導体素子の端部の上側の角を樹脂で覆う工程、
をさらに備える、
付記2に記載のパワーモジュールの製造方法。
【0067】
(付記4)
(e)前記工程(a)および(b)に先立って、前記信号電極の近くに位置する前記半導体素子の端部の上側の角を面取りする工程、
をさらに備える、
付記2に記載のパワーモジュールの製造方法。
【0068】
(付記5)
前記治具は、底面の外縁部に樹脂製の突起を有する板状の部材を備え、
前記工程(b)は、前記突起が前記信号電極の外側の前記半導体素子の上面に当接するように、前記板状の部材の前記底面を前記信号電極に押し当てることによって行われる、
付記1に記載のパワーモジュールの製造方法。
【0069】
(付記6)
前記板状の部材は、弾性を持つバネ部である、
付記5に記載のパワーモジュールの製造方法。
【0070】
(付記7)
前記突起は、平面視で枠状である、
付記5または付記6に記載のパワーモジュールの製造方法。
【符号の説明】
【0071】
10 ベース板、11 セラミック基板、111 表面導体層、112 裏面導体層、20 IGBT、201 主電極、202 信号電極、21 ダイオード、211 主電極、30,31 はんだ、40 ワイヤ、5 ケース、61 信号端子、62 主端子、65 電極板、71 凸部、72 接着剤、73 封止樹脂、8 カバー治具、81 シート状部材、9 カバー治具、91 バネ部、92 突起、1100 電源、1200 電力変換装置、1201 主変換回路、1202 半導体モジュール、1203 制御回路、1300 負荷。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16
図17