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特開2024-168963アレイアンテナ装置のリーク波低減方法、アレイアンテナ装置のリーク波低減装置、アレイアンテナ装置のリーク波低減プログラム及びアレイアンテナ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168963
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】アレイアンテナ装置のリーク波低減方法、アレイアンテナ装置のリーク波低減装置、アレイアンテナ装置のリーク波低減プログラム及びアレイアンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/06 20060101AFI20241128BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20241128BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20241128BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20241128BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H04B7/06 982
H01Q21/06
H01Q3/26 Z
H01Q21/24
H04B7/08 982
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086059
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】工藤 俊紀
(72)【発明者】
【氏名】勝本 達也
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA02
5J021AA05
5J021AA11
5J021DB02
5J021DB03
5J021FA06
5J021FA12
5J021FA26
5J021FA31
5J021JA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本開示は、アレイアンテナ装置の各RFモジュールにおいて、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波を低減するにあたり、各RFモジュールの設計及び製造の制約及びコストを低減することを目的とする。
【解決手段】本開示は、アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備えるRF系統を複数備えるRFモジュールを複数備えるアレイアンテナ装置において、各RFモジュールにおいて、一のRF系統の移相器の設定値を変化させながら、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波のレベルを測定するリーク波測定ステップと、各RFモジュールにおいて、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となるように、一のRF系統の移相器の初期値(アレイアンテナ装置の正面方向の放射パターンを実現する。)を設定する移相器設定ステップと、を順に備えるアレイアンテナ装置のリーク波低減方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備えるRF(Radio Frequency)系統を複数備えるRFモジュールを複数備えるアレイアンテナ装置において、
各RFモジュールにおいて、一のRF系統の移相器の設定値を変化させながら、他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルを測定するリーク波測定ステップと、
前記各RFモジュールにおいて、前記他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となるように、前記一のRF系統の移相器の初期値(前記アレイアンテナ装置の正面方向の放射パターンを実現する。)を設定する移相器設定ステップと、
を順に備えることを特徴とするアレイアンテナ装置のリーク波低減方法。
【請求項2】
前記RFモジュールは、偏波共用の前記アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備える水平偏波用及び垂直偏波用の前記RF系統をそれぞれ一つずつ備える
ことを特徴とする、請求項1に記載のアレイアンテナ装置のリーク波低減方法。
【請求項3】
一のRFモジュールにおいて、前記リーク波測定ステップは、前記一のRF系統の移相器の設定値を変化させながら、前記他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルを測定し、前記移相器設定ステップは、前記他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となるように、前記一のRF系統の移相器の初期値を設定し、
他のRFモジュールにおいて、前記リーク波測定ステップは、処理を実行するまでもなく、前記移相器設定ステップは、前記一のRFモジュールの前記一のRF系統の移相器の初期値と等しくなるように、前記一のRF系統の移相器の初期値を設定する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアレイアンテナ装置のリーク波低減方法。
【請求項4】
請求項1に記載のアレイアンテナ装置のリーク波低減方法が備える各処理ステップを実行する各処理部を備えることを特徴とするアレイアンテナ装置のリーク波低減装置。
【請求項5】
請求項1に記載のアレイアンテナ装置のリーク波低減方法が備える各処理ステップをコンピュータに実行させるためのアレイアンテナ装置のリーク波低減プログラム。
【請求項6】
アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備えるRF(Radio Frequency)系統を複数備えるRFモジュールを複数備えるアレイアンテナ装置であって、
各RFモジュールにおいて、他のRF系統(一のRF系統以外)から前記一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となるように、前記一のRF系統の移相器の初期値(前記アレイアンテナ装置の正面方向の放射パターンを実現する。)が設定されている
ことを特徴とするアレイアンテナ装置。
【請求項7】
前記RFモジュールは、偏波共用の前記アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備える水平偏波用及び垂直偏波用の前記RF系統をそれぞれ一つずつ備える
ことを特徴とする、請求項6に記載のアレイアンテナ装置。
【請求項8】
前記各RFモジュールにおいて、前記他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となる状態が維持されたうえで、前記一のRF系統及び前記他のRF系統の移相器の設定値が、前記一のRF系統及び前記他のRF系統の移相器の初期値から変更され、前記アレイアンテナ装置の正面方向以外のチルト方向の放射パターンが実現される
ことを特徴とする、請求項6又は7に記載のアレイアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アレイアンテナ装置のリーク波を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アレイアンテナ装置のリーク波を低減する技術が、特許文献1等に開示されている。アレイアンテナ装置は、RF(Radio Frequency)モジュールを複数備える。RFモジュールは、アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備えるRF系統を複数備える。各RFモジュールにおいて、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波が生じる。
【0003】
特許文献1では、各RFモジュールにおいて、一のRF系統と他のRF系統との間にシールドを設置し、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波を低減する。特許文献1以外の先行技術では、各RFモジュールにおいて、一のRF系統と他のRF系統とを集積回路内で多層化・階層化し、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-104049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、各RFモジュールにおいて、シールドの設置にあたり、シールドのエリア及び重量等の制約があるとともに、設計及び製造のコストが増大する。そして、特許文献1以外の先行技術では、各RFモジュールにおいて、集積回路内の多層化・階層化のため、リーク波の低減の効果が高いものの、設計及び製造のコストが増大する。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、アレイアンテナ装置の各RFモジュールにおいて、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波を低減するにあたり、各RFモジュールの設計及び製造の制約及びコストを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、各RFモジュールにおいて、シールドの設置及び集積回路内の多層化・階層化をせず、現状のモジュールのままとする。そして、各RFモジュールにおいて、一のRF系統の移相器の設定値を変化させ、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となるように、一のRF系統の移相器の初期値を設定する。
【0008】
ここで、各RFモジュールの設計製造段階では、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波の経路・位相・振幅は未知である。しかし、各RFモジュールのリーク波測定段階では、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波同士の打消条件が探索される。ただし、各RFモジュールにおいて、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波そのものは低減されず、一のRF系統と他のRF系統との間のアイソレーションが等価的に向上する。
【0009】
具体的には、本開示は、アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備えるRF(Radio Frequency)系統を複数備えるRFモジュールを複数備えるアレイアンテナ装置において、各RFモジュールにおいて、一のRF系統の移相器の設定値を変化させながら、他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルを測定するリーク波測定ステップと、前記各RFモジュールにおいて、前記他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となるように、前記一のRF系統の移相器の初期値(前記アレイアンテナ装置の正面方向の放射パターンを実現する。)を設定する移相器設定ステップと、を順に備えることを特徴とするアレイアンテナ装置のリーク波低減方法である。
【0010】
この構成によれば、各RFモジュールにおいて、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波を低減するにあたり、現状のモジュールのままとするため、各RFモジュールの設計及び製造の制約及びコストを低減することができる。そして、各RFモジュールの製造後の経年変化に対して、各RFモジュールの再設計を不要とすることができる。
【0011】
また、本開示は、前記RFモジュールは、偏波共用の前記アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備える水平偏波用及び垂直偏波用の前記RF系統をそれぞれ一つずつ備えることを特徴とするアレイアンテナ装置のリーク波低減方法である。
【0012】
この構成によれば、各RFモジュールにおいて、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統の間のリーク波を低減するにあたり、現状のモジュールのままとするため、各RFモジュールの設計及び製造の制約及びコストを低減することができる。そして、各RFモジュールの製造後の経年変化に対して、各RFモジュールの再設計を不要とすることができる。
【0013】
また、本開示は、一のRFモジュールにおいて、前記リーク波測定ステップは、前記一のRF系統の移相器の設定値を変化させながら、前記他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルを測定し、前記移相器設定ステップは、前記他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となるように、前記一のRF系統の移相器の初期値を設定し、他のRFモジュールにおいて、前記リーク波測定ステップは、処理を実行するまでもなく、前記移相器設定ステップは、前記一のRFモジュールの前記一のRF系統の移相器の初期値と等しくなるように、前記一のRF系統の移相器の初期値を設定することを特徴とするアレイアンテナ装置のリーク波低減方法である。
【0014】
この構成によれば、複数のRFモジュールにおいて、設計及び製造の個体差が少なく、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波のレベルの相関性が高いならば、一のRFモジュールのみにおいて(他のRFモジュールにおいて測定なし)、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波のレベルを測定すれば足りるようにすることができる。
【0015】
また、本開示は、以上に記載のアレイアンテナ装置のリーク波低減方法が備える各処理ステップを実行する各処理部を備えることを特徴とするアレイアンテナ装置のリーク波低減装置である。
【0016】
この構成によれば、以上の効果を有するアレイアンテナ装置を提供することができる。
【0017】
また、本開示は、以上に記載のアレイアンテナ装置のリーク波低減方法が備える各処理ステップをコンピュータに実行させるためのアレイアンテナ装置のリーク波低減プログラムである。
【0018】
この構成によれば、以上の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0019】
また、本開示は、アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備えるRF(Radio Frequency)系統を複数備えるRFモジュールを複数備えるアレイアンテナ装置であって、各RFモジュールにおいて、他のRF系統(一のRF系統以外)から前記一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となるように、前記一のRF系統の移相器の初期値(前記アレイアンテナ装置の正面方向の放射パターンを実現する。)が設定されていることを特徴とするアレイアンテナ装置である。
【0020】
この構成によれば、各RFモジュールにおいて、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波を低減するにあたり、現状のモジュールのままとするため、各RFモジュールの設計及び製造の制約及びコストを低減することができる。そして、各RFモジュールの製造後の経年変化に対して、各RFモジュールの再設計を不要とすることができる。
【0021】
また、本開示は、前記RFモジュールは、偏波共用の前記アンテナ素子の移相器及び可変減衰器を備える水平偏波用及び垂直偏波用の前記RF系統をそれぞれ一つずつ備えることを特徴とするアレイアンテナ装置である。
【0022】
この構成によれば、各RFモジュールにおいて、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統の間のリーク波を低減するにあたり、現状のモジュールのままとするため、各RFモジュールの設計及び製造の制約及びコストを低減することができる。そして、各RFモジュールの製造後の経年変化に対して、各RFモジュールの再設計を不要とすることができる。
【0023】
また、本開示は、前記各RFモジュールにおいて、前記他のRF系統から前記一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となる状態が維持されたうえで、前記一のRF系統及び前記他のRF系統の移相器の設定値が、前記一のRF系統及び前記他のRF系統の移相器の初期値から変更され、前記アレイアンテナ装置の正面方向以外のチルト方向の放射パターンが実現されることを特徴とするアレイアンテナ装置である。
【0024】
この構成によれば、各RFモジュールにおいて、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となる状態を維持したうえで、又は、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波のレベルが最小となる状態を多少外したとしても、アレイアンテナ装置の正面方向以外のチルト方向の放射パターンを実現することができる。
【0025】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0026】
このように、本開示は、アレイアンテナ装置の各RFモジュールにおいて、他のRF系統から一のRF系統へのリーク波を低減するにあたり、各RFモジュールの設計及び製造の制約及びコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】偏波共用のアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
図2】偏波共用のアレイアンテナ装置の課題を示す図である。
図3】偏波共用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の手順を示す図である。
図4】偏波共用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の具体例を示す図である。
図5】偏波共用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の具体例を示す図である。
図6】偏波共用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の具体例を示す図である。
図7】偏波共用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の結果を示す図である。
図8】偏波共用のアレイアンテナ装置のビームチルト処理の具体例を示す図である。
図9】一偏波用のアレイアンテナ装置の構成を示す図である。
図10】一偏波用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の手順を示す図である。
図11】一偏波用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の具体例を示す図である。
図12】一偏波用のアレイアンテナ装置のビームチルト処理の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0029】
(偏波共用のアレイアンテナ装置の構成)
偏波共用のアレイアンテナ装置の構成を図1に示す。アレイアンテナ装置Pは、偏波共用のフェーズドアレイアンテナ装置であり、アンテナボードA、IF(Intermediate Frequency)及び信号処理ボードIを備える。アンテナボードAは、複数のRFモジュールR1、・・・、RN、リーク波測定部L及び移相器設定部Sを備える。リーク波測定部L及び移相器設定部Sは、図3に示すプログラムをコンピュータ又はFPGA等にインストール又は搭載することにより実現することができる。
【0030】
RFモジュールR1は、偏波共用のアンテナ素子15HV、水平偏波用のRF系統10H及び垂直偏波用のRF系統10Vを備える。水平偏波用のRF系統10Hは、可変減衰器11H、移相器12H、送受信切替用のスイッチ13H及び各々送受信用のパワーアンプ14Hを備える。垂直偏波用のRF系統10Vは、可変減衰器11V、移相器12V、送受信切替用のスイッチ13V及び各々送受信用のパワーアンプ14Vを備える。
【0031】
RFモジュールRNは、偏波共用のアンテナ素子N5HV、水平偏波用のRF系統N0H及び垂直偏波用のRF系統N0Vを備える。水平偏波用のRF系統N0Hは、可変減衰器N1H、移相器N2H、送受信切替用のスイッチN3H及び各々送受信用のパワーアンプN4Hを備える。垂直偏波用のRF系統N0Vは、可変減衰器N1V、移相器N2V、送受信切替用のスイッチN3V及び各々送受信用のパワーアンプN4Vを備える。
【0032】
偏波共用のアレイアンテナ装置の課題を図2に示す。図2の左欄では、RFモジュールR1、・・・、RNにおいて、主偏波(水平偏波又は垂直偏波)側のパワーアンプ14H、・・・、N4H又は14V、・・・、N4VをONにしているが、交差偏波(垂直偏波又は水平偏波)側のパワーアンプ14V、・・・、N4V又は14H、・・・、N4HをOFFにしており、水平偏波及び垂直偏波のうちの一偏波のみを利用している。
【0033】
図2の右欄では、RFモジュールR1、・・・、RNにおいて、主偏波(水平偏波)側のパワーアンプ14H、・・・、N4HをONにするとともに、交差偏波(垂直偏波)側のパワーアンプ14V、・・・、N4VをONにしており、水平偏波及び垂直偏波のうちの両偏波ともに利用している。両偏波ともに利用するときでは、一偏波のみを利用するときと比べて、交差偏波(垂直偏波)の正面方向の放射振幅は、約25dBも増加している。
【0034】
これは、RFモジュールR1、・・・、RNにおいて、水平偏波用のRF系統10H、・・・、N0Hから垂直偏波用のRF系統10V、・・・、N0Vへのリーク波が生じるからである。そこで、RFモジュールR1、・・・、RNにおいて、水平偏波用のRF系統10H、・・・、N0Hから垂直偏波用のRF系統10V、・・・、N0Vへのリーク波を低減することとした。ただし、RFモジュールR1、・・・、RNにおいて、シールドの設置及び集積回路内の多層化・階層化をせず、現状のモジュールのままとしている。
【0035】
(偏波共用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理)
偏波共用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の手順を図3に示す。偏波共用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の具体例を図4~6に示す。
【0036】
リーク波測定部Lは、RFモジュールR1において、垂直偏波用のRF系統10Vの移相器12Vの設定値を変化させながら、水平偏波用のRF系統10Hから垂直偏波用のRF系統10Vへのリーク波のレベルを測定する(ステップS1)。
【0037】
又は、リーク波測定部Lは、RFモジュールR1において、水平偏波用のRF系統10Hの移相器12Hの設定値を変化させながら、垂直偏波用のRF系統10Vから水平偏波用のRF系統10Hへのリーク波のレベルを測定してもよい(ステップS1)。
【0038】
移相器設定部Sは、RFモジュールR1において、水平偏波用のRF系統10Hから垂直偏波用のRF系統10Vへのリーク波のレベルが最小となるように、垂直偏波用のRF系統10Vの移相器12Vの初期値を設定する(ステップS2)。ここで、垂直偏波用のRF系統10Vの移相器12Vの初期値は、アレイアンテナ装置Pの正面方向の放射パターンを実現するものであり、その理由についてはステップS3で説明する。
【0039】
又は、移相器設定部Sは、RFモジュールR1において、垂直偏波用のRF系統10Vから水平偏波用のRF系統10Hへのリーク波のレベルが最小となるように、水平偏波用のRF系統10Hの移相器12Hの初期値を設定してもよい(ステップS2)。ここで、水平偏波用のRF系統10Hの移相器12Hの初期値は、アレイアンテナ装置Pの正面方向の放射パターンを実現するものであり、その理由についてはステップS3で説明する。
【0040】
ところで、RFモジュールR1の設計製造段階では、水平偏波用のRF系統10Hから垂直偏波用のRF系統10Vへのリーク波の経路・位相・振幅は未知である。しかし、RFモジュールR1のリーク波測定段階では、水平偏波用のRF系統10Hから垂直偏波用のRF系統10Vへのリーク波同士の打消条件が探索される。ただし、RFモジュールR1において、水平偏波用のRF系統10Hから垂直偏波用のRF系統10Vへのリーク波そのものは低減されず、水平偏波用のRF系統10Hと垂直偏波用のRF系統10Vとの間のアイソレーションが等価的に向上する。以下に、このことを具体的に説明する。
【0041】
図4の左欄では、RFモジュールR1は、水平偏波用のRF系統10Hのみにおいて、種信号を入力している。そして、アンテナボードAは、RFモジュールR1において、垂直偏波用のRF系統10Vの「可変減衰器11V」の設定値を変化させながら、水平偏波用のRF系統10Hの出力波のレベルSHHと、水平偏波用のRF系統10Hから垂直偏波用のRF系統10Vへのリーク波のレベルSVHと、を測定している。
【0042】
図4の右欄では、水平偏波用のRF系統10Hの出力波のレベルSHHから、水平偏波用のRF系統10Hから垂直偏波用のRF系統10Vへのリーク波のレベルSVHを減算したうえで、レベル差分SHH-SVH[dB]を計算している。すると、垂直偏波用のRF系統10Vの「可変減衰器11V」の設定値が0dBから15dBへと変化するにつれて、レベル差分SHH-SVH[dB]は約20~25dBであり大きく変化しない。
【0043】
つまり、図4の左欄に示したように、水平偏波用のRF系統10Hの「可変減衰器11Hの前段」から、垂直偏波用のRF系統10Vの「可変減衰器11Vの前段」へと、微弱なリーク波による微弱な回路間結合が生じているのみであると考えられる。そこで、アンテナボードAは、RFモジュールR1において、垂直偏波用のRF系統10Vの「可変減衰器11V」の初期値を0dBから変化させないで0dBのままに維持するとともに、水平偏波用のRF系統10Hの「可変減衰器11H」の初期値を0dBのままに維持する。
【0044】
図5の左欄では、RFモジュールR1は、水平偏波用のRF系統10Hのみにおいて、種信号を入力している。そして、リーク波測定部Lは、RFモジュールR1において、垂直偏波用のRF系統10Vの「移相器12V」の設定値を変化させながら、水平偏波用のRF系統10Hの出力波のレベルSHHと、水平偏波用のRF系統10Hから垂直偏波用のRF系統10Vへのリーク波のレベルSVHと、を測定している。
【0045】
図5の右欄では、水平偏波用のRF系統10Hの出力波のレベルSHHから、水平偏波用のRF系統10Hから垂直偏波用のRF系統10Vへのリーク波のレベルSVHを減算したうえで、レベル差分SHH-SVH[dB]を計算している。すると、垂直偏波用のRF系統10Vの「移相器12V」の設定値が0°又は360°から202.5°へと変化するにつれて、レベル差分SHH-SVH[dB]は約25dB分だけ大きく増加する。
【0046】
つまり、図5の左欄に示したように、水平偏波用のRF系統10Hの「移相器12Hの前段及び後段」から、垂直偏波用のRF系統10Vの「移相器12Vの前段及び後段」へと、リーク波による回路間結合がそれぞれ生じていると考えられる。そして、これらのリーク波による回路間結合は、ほぼ同レベルかつほぼ同相の結合であると考えられる。さらに、これらのリーク波同士は、垂直偏波用のRF系統10Vの「移相器12V」の設定値が202.5°(≒180°)であるときには、ほぼ打ち消し合っていると考えられる。そこで、移相器設定部Sは、RFモジュールR1において、垂直偏波用のRF系統10Vの「移相器12V」の初期値を0°から202.5°へと変更するとともに、水平偏波用のRF系統10Hの「移相器12H」の初期値を0°のままに維持する。
【0047】
なお、これらのリーク波による回路間結合は、ほぼ同レベルの結合ではなく、異なるレベルの結合であることもあり、ほぼ同相の結合ではなく、ほぼ逆相の結合であることもあり、移相器12H、12Vの前後での結合ではなく、その他の位置での結合であることもある。また、移相器12H、12Vの初期値が異なるときでも、水平偏波及び垂直偏波の放射パターンは影響を受けないが、水平偏波及び垂直偏波の放射位相を同位相に揃えるためには、水平偏波及び垂直偏波の種信号位相を制御すればよい。
【0048】
このように、RFモジュールR1において、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H、10Vの間のリーク波を低減するにあたり、現状のモジュールのままとするため、RFモジュールR1の設計及び製造の制約及びコストを低減することができる。そして、RFモジュールR1の製造後の経年変化に対して、リーク波測定部L及び移相器設定部Sの処理を再実行すればよく、RFモジュールR1の再設計を不要とすることができる。
【0049】
移相器設定部Sは、RFモジュールRNにおいて、RFモジュールR1の垂直偏波用のRF系統10Vの移相器12Vの初期値と等しくなるように、垂直偏波用のRF系統N0Vの移相器N2Vの初期値を設定する(ステップS3)。つまり、リーク波測定部Lは、RFモジュールRNにおいて、RFモジュールR1と同様な処理を実行するまでもない。ここで、RFモジュールRNの垂直偏波用のRF系統N0Vの移相器N2Vの初期値は、RFモジュールR1の垂直偏波用のRF系統10Vの移相器12Vの初期値と等しく、アレイアンテナ装置Pの正面方向の放射パターンを実現するものである。
【0050】
又は、移相器設定部Sは、RFモジュールRNにおいて、RFモジュールR1の水平偏波用のRF系統10Hの移相器12Hの初期値と等しくなるように、水平偏波用のRF系統N0Hの移相器N2Hの初期値を設定してもよい(ステップS3)。つまり、リーク波測定部Lは、RFモジュールRNにおいて、RFモジュールR1と同様な処理を実行するまでもない。ここで、RFモジュールRNの水平偏波用のRF系統N0Hの移相器N2Hの初期値は、RFモジュールR1の水平偏波用のRF系統10Hの移相器12Hの初期値と等しく、アレイアンテナ装置Pの正面方向の放射パターンを実現するものである。
【0051】
図6の右欄では(仮にリーク波を測定)、垂直偏波用のRF系統10V~N0Vの「移相器12V~N2V」の設定値が0°又は360°から180°又は202.5°へと変化するにつれて、レベル差分SHH-SVH[dB]は約20dB分だけ大きく増加する。
【0052】
図6の左欄では、図5の左欄とほぼ同様に、水平偏波用のRF系統10H~N0Hの「移相器12H~N2Hの前段及び後段」から、垂直偏波用のRF系統10V~N0Vの「移相器12V~N2Vの前段及び後段」へと、リーク波による回路間結合がそれぞれ生じていると考えられる。そして、これらのリーク波による回路間結合は、ほぼ同レベルかつほぼ同相の結合であると考えられる。さらに、これらのリーク波同士は、垂直偏波用のRF系統10V~N0Vの「移相器12V~N2V」の設定値が180°又は202.5°(≒180°)であるときには、ほぼ打ち消し合っていると考えられる。
【0053】
そこで、図6の右欄では、図5の右欄とほぼ同様に、移相器設定部Sは、RFモジュールR1~RNにおいて、垂直偏波用のRF系統10V~N0Vの「移相器12V~N2V」の初期値を0°から202.5°へと変更するとともに、水平偏波用のRF系統10H~N0Hの「移相器12H~N2H」の初期値を0°のままに維持する。
【0054】
このように、複数のRFモジュールR1~RNにおいて、設計及び製造の個体差が少なく、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H~N0H、10V~N0Vの間のリーク波のレベルの相関性が高いならば、一のRFモジュールR1のみにおいて(他のRFモジュールRNにおいて測定なし)、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H、10Vの間のリーク波のレベルを測定すれば足りるようにすることができる。
【0055】
偏波共用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の結果を図7に示す。図7では、RFモジュールR1~RNにおいて、主偏波(水平偏波)側のパワーアンプ14H~N4HをONにするとともに、交差偏波(垂直偏波)側のパワーアンプ14V~N4VをONにしており、水平偏波及び垂直偏波のうちの両偏波ともに利用している。水平偏波用及び垂直偏波用の移相器12H~N2H、12V~N2Vの設定値は、PS(Phase Shift)=0deg~337.5degの16値のうちのいずれかの値を取り得る。
【0056】
垂直偏波用の移相器12V~N2Vの初期値をPS=202.5degに設定したときでは、垂直偏波用の移相器12V~N2Vの初期値をPS=22.5deg、112.5deg、315degに設定したときと比べて、交差偏波(垂直偏波)の正面方向の放射振幅は、約10dBも低減している。そこで、垂直偏波用の移相器12V~N2Vの初期値をPS=0degからPS=202.5degへと変更するとともに、水平偏波用の移相器12H~N2Hの初期値をPS=0degのままに維持する。
【0057】
(偏波共用のアレイアンテナ装置のビームチルト処理)
偏波共用のアレイアンテナ装置のビームチルト処理の具体例を図8に示す。アンテナボードAは、アレイアンテナ装置Pの正面方向以外のチルト方向の放射パターンを実現する。ここで、アンテナボードAは、RFモジュールR1~RNにおいて、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H~N0H、10V~N0Vの移相器12H~N2H、12V~N2Vの設定値を、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H~N0H、10V~N0Vの移相器12H~N2H、12V~N2Vの初期値から変更する。
【0058】
ただし、アンテナボードAは、RFモジュールR1~RNにおいて、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H~N0H、10V~N0Vの間のリーク波のレベルが最小となる状態を維持する。又は、アンテナボードAは、RFモジュールR1~RNにおいて、リーク波による回路間結合の経路・位相・振幅によっては、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H~N0H、10V~N0Vの間のリーク波のレベルが最小となる状態を多少外すこともあり得る。以下に、このことを具体的に説明する。
【0059】
図8では、図5とほぼ同様に、RFモジュールR1、R2~RNにおいて、水平偏波用のRF系統10H、20H~N0Hの「移相器12H、22H~N2Hの前段及び後段」から、垂直偏波用のRF系統10V、20V~N0Vの「移相器12V、22V~N2Vの前段及び後段」へと、リーク波による回路間結合がそれぞれ生じている。
【0060】
図8の左欄では、図5の右欄とほぼ同様に、移相器設定部Sは、RFモジュールR1、R2~RNにおいて、垂直偏波用のRF系統10V、20V~N0Vの「移相器12V、22V~N2V」の初期値を200°に設定するとともに、水平偏波用のRF系統10H、20H~N0Hの「移相器12H、22H~N2H」の初期値を0°に設定する。すると、アンテナボードAは、アレイアンテナ装置Pの正面方向の放射パターンを実現する。
【0061】
図8の右欄では、アンテナボードAは、(1)RFモジュールR1において、垂直偏波用のRF系統10Vの「移相器12V」の初期値を200°に設定するとともに、水平偏波用のRF系統10Hの「移相器12H」の初期値を0°に設定し、(2)RFモジュールR2において、垂直偏波用のRF系統20Vの「移相器22V」の初期値を(200+α)°に設定するとともに、水平偏波用のRF系統20Hの「移相器22H」の初期値をα°に設定し、(3)RFモジュールRNにおいて、垂直偏波用のRF系統N0Vの「移相器N2V」の初期値を(200+(N-1)α)°に設定するとともに、水平偏波用のRF系統N0Hの「移相器N2H」の初期値を(N-1)α°に設定し、(4)アレイアンテナ装置Pの正面方向以外のチルト方向の放射パターンを実現する。
【0062】
ここで、アンテナボードAは、RFモジュールR1、R2~RNにおいて、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H、20H~N0H、10V、20V~N0Vの間のリーク波のレベルが最小となる状態を維持する。つまり、RFモジュールR1、R2~RNにおいて、水平偏波用のRF系統10H、20H~N0Hの「移相器12H、22H~N2H」の初期値に対する、垂直偏波用のRF系統10V、20V~N0Vの「移相器12V、22V~N2V」の初期値の差分は、200°に維持されている。
【0063】
このように、RFモジュールR1~RNにおいて、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H~N0H、10V~N0Vの間のリーク波のレベルが最小となる状態を維持したうえで、又は、水平偏波用及び垂直偏波用のRF系統10H~N0H、10V~N0Vの間のリーク波のレベルが最小となる状態を多少外したとしても、アレイアンテナ装置Pの正面方向以外のチルト方向の放射パターンを実現することができる。
【0064】
(一偏波用のアレイアンテナ装置の構成)
一偏波用のアレイアンテナ装置の構成を図9に示す。アレイアンテナ装置Pは、一偏波用のフェーズドアレイアンテナ装置であり、アンテナボードA、IF(Intermediate Frequency)及び信号処理ボードIを備える。アンテナボードAは、複数のRFモジュールR1、・・・、RN、リーク波測定部L及び移相器設定部Sを備える。リーク波測定部L及び移相器設定部Sは、図10に示すプログラムをコンピュータ又はFPGA等にインストール又は搭載することにより実現することができる。
【0065】
RFモジュールR1は、複数のRF系統101、102、103を備える(3系統以外でもよい)。RF系統101は、可変減衰器111、移相器121、送受信切替用のスイッチ131、各々送受信用のパワーアンプ141及び一偏波用のアンテナ素子151を備える。RF系統102は、可変減衰器112、移相器122、送受信切替用のスイッチ132、各々送受信用のパワーアンプ142及び一偏波用のアンテナ素子152を備える。RF系統103は、可変減衰器113、移相器123、送受信切替用のスイッチ133、各々送受信用のパワーアンプ143及び一偏波用のアンテナ素子153を備える。
【0066】
RFモジュールRNは、複数のRF系統N01、N02、N03を備える(3系統以外でもよい)。RF系統N01は、可変減衰器N11、移相器N21、送受信切替用のスイッチN31、各々送受信用のパワーアンプN41及び一偏波用のアンテナ素子N51を備える。RF系統N02は、可変減衰器N12、移相器N22、送受信切替用のスイッチN32、各々送受信用のパワーアンプN42及び一偏波用のアンテナ素子N52を備える。RF系統N03は、可変減衰器N13、移相器N23、送受信切替用のスイッチN33、各々送受信用のパワーアンプN43及び一偏波用のアンテナ素子N53を備える。
【0067】
(一偏波用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理)
一偏波用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の手順を図10に示す。一偏波用のアレイアンテナ装置のリーク低減処理の具体例を図11に示す。
【0068】
リーク波測定部Lは、RFモジュールR1において、一のRF系統101等の移相器121等の設定値を変化させながら、他のRF系統102、103等から一のRF系統101等へのリーク波のレベルを測定する(ステップS4)。移相器設定部Sは、RFモジュールR1において、他のRF系統102、103等から一のRF系統101等へのリーク波のレベルが最小となるように、一のRF系統101等の移相器121等の初期値を設定する(ステップS5)。ここで、一のRF系統101等の移相器121等の初期値は、アレイアンテナ装置Pの正面方向の放射パターンを実現するものである。
【0069】
図11の左欄では、RFモジュールR1は、他のRF系統101のみにおいて、種信号を入力している。そして、リーク波測定部Lは、RFモジュールR1において、一のRF系統102の「移相器122」の設定値を変化させながら、他のRF系統101の出力波のレベルS11と、他のRF系統101から一のRF系統102へのリーク波のレベルS21と、を測定している。さらに、他のRF系統101の「移相器121の前段及び後段」から、一のRF系統102の「移相器122の前段及び後段」へと、リーク波による回路間結合がそれぞれ生じている。そこで、移相器設定部Sは、RFモジュールR1において、一のRF系統102の「移相器122」の初期値を0°からβ°へと変更するとともに、他のRF系統101の「移相器121」の初期値を0°のままに維持する。
【0070】
図11の右欄では、RFモジュールR1は、他のRF系統102のみにおいて、種信号を入力している。そして、リーク波測定部Lは、RFモジュールR1において、一のRF系統103の「移相器123」の設定値を変化させながら、他のRF系統102の出力波のレベルS22と、他のRF系統102から一のRF系統103へのリーク波のレベルS32と、を測定している。さらに、他のRF系統102の「移相器122の前段及び後段」から、一のRF系統103の「移相器123の前段及び後段」へと、リーク波による回路間結合がそれぞれ生じている。そこで、移相器設定部Sは、RFモジュールR1において、一のRF系統103の「移相器123」の初期値を0°からγ°へと変更するとともに、他のRF系統102の「移相器122」の初期値をβ°のままに維持する。
【0071】
なお、これらのリーク波による回路間結合は、ほぼ同レベルの結合であってもよく、異なるレベルの結合であってもよく、ほぼ同相の結合であってもよく、ほぼ逆相の結合であってもよく、移相器121~123の前後での結合ではなく、その他の位置での結合であってもよい。また、移相器121~123の初期値が異なるときでも、RF系統101~103の放射パターンは影響を受けないが、RF系統101~103の放射位相を同位相に揃えるためには、RF系統101~103の種信号位相を制御すればよい。
【0072】
このように、RFモジュールR1において、他のRF系統102、103等から一のRF系統101等へのリーク波を低減するにあたり、現状のモジュールのままとするため、RFモジュールR1の設計及び製造の制約及びコストを低減することができる。そして、RFモジュールR1の製造後の経年変化に対して、リーク波測定部L及び移相器設定部Sの処理を再実行すればよく、RFモジュールR1の再設計を不要とすることができる。
【0073】
移相器設定部Sは、RFモジュールRNにおいて、RFモジュールR1の一のRF系統101等の移相器121等の初期値と等しくなるように、一のRF系統N01等の移相器N21等の初期値を設定する(ステップS6)。つまり、リーク波測定部Lは、RFモジュールRNにおいて、RFモジュールR1と同様な処理を実行するまでもない(図6を参照)。ここで、RFモジュールRNの一のRF系統N01等の移相器N21等の初期値は、RFモジュールR1の一のRF系統101等の移相器121等の初期値と等しく、アレイアンテナ装置Pの正面方向の放射パターンを実現するものである。
【0074】
このように、複数のRFモジュールR1~RNにおいて、設計及び製造の個体差が少なく、他のRF系統102、103等から一のRF系統101等へのリーク波のレベルの相関性が高いならば(図6を参照)、一のRFモジュールR1のみにおいて(他のRFモジュールRNにおいて測定なし)、他のRF系統102、103等から一のRF系統101等へのリーク波のレベルを測定すれば足りるようにすることができる。
【0075】
(一偏波用のアレイアンテナ装置のビームチルト処理)
一偏波用のアレイアンテナ装置のビームチルト処理の具体例を図12に示す。アンテナボードAは、アレイアンテナ装置Pの正面方向以外のチルト方向の放射パターンを実現する。ここで、アンテナボードAは、RFモジュールR1~RNにおいて、一のRF系統101~N01等及び他のRF系統102~N02、103~N03等の移相器121~N21、122~N22、123~N23の設定値を、これらの初期値から変更する。
【0076】
ただし、アンテナボードAは、RFモジュールR1~RNにおいて、一のRF系統101~N01等から他のRF系統102~N02、103~N03等へのリーク波のレベルが最小となる状態を維持する。又は、アンテナボードAは、RFモジュールR1~RNにおいて、リーク波による回路間結合の経路・位相・振幅によっては、一のRF系統101~N01等から他のRF系統102~N02、103~N03等へのリーク波のレベルが最小となる状態を多少外すこともあり得る。以下に、このことを具体的に説明する。
【0077】
図12では、図11とほぼ同様に、RFモジュールR1、R2~RNにおいて、他のRF系統101、201~N01、102、202~N02の「移相器121、221~N21、122、222~N22の前段及び後段」から、一のRF系統102、202~N02、103、203~N03の「移相器122、222~N22、123、223~N23の前段及び後段」へと、リーク波による回路間結合がそれぞれ生じている。
【0078】
図12の左欄では、図11とほぼ同様に、移相器設定部Sは、RFモジュールR1、R2~RNにおいて、一のRF系統102、202~N02の「移相器122、222~N22」の初期値をβ°に設定し、一のRF系統103、203~N03の「移相器123、223~N23」の初期値をγ°に設定し、他のRF系統101、201~N01の「移相器121、221~N21」の初期値を0°に設定する。すると、アンテナボードAは、アレイアンテナ装置Pの正面方向の放射パターンを実現する。
【0079】
図12の右欄では、アンテナボードAは、(1)RFモジュールR1において、一のRF系統102の「移相器122」の初期値を(β+α)°に設定し、一のRF系統103の「移相器123」の初期値を(γ+2α)°に設定し、他のRF系統101の「移相器121」の初期値を0°に設定し、(2)RFモジュールR2において、一のRF系統202の「移相器222」の初期値を(β+4α)°に設定し、一のRF系統203の「移相器223」の初期値を(γ+5α)°に設定し、他のRF系統201の「移相器221」の初期値を3α°に設定し、(3)RFモジュールRNにおいて、一のRF系統N02の「移相器N22」の初期値を(β+(3N-2)α)°に設定し、一のRF系統N03の「移相器N23」の初期値を(γ+(3N-1)α)°に設定し、他のRF系統N01の「移相器N21」の初期値を(3N-3)α°に設定し、(4)アレイアンテナ装置Pの正面方向以外のチルト方向の放射パターンを実現する。
【0080】
ここで、アンテナボードAは、RFモジュールR1、R2~RNにおいて、一のRF系統101、201~N01等から他のRF系統102、202~N02、103、203~N03等へのリーク波のレベルが最小となる状態を多少外す。つまり、RFモジュールR1、R2~RNにおいて、他のRF系統101、201~N01の「移相器121、221~N21」の初期値に対して、一のRF系統102、202~N02の「移相器122、222~N22」の初期値の差分は、β°から多少外れ、一のRF系統103、203~N03の「移相器123、223~N23」の初期値の差分は、γ°から多少外れる。よって、アレイアンテナ装置Pのチルト角度は、小さいことが好ましい。
【0081】
このように、RFモジュールR1~RNにおいて、一のRF系統101~N01等から他のRF系統102~N02、103~N03等へのリーク波のレベルが最小となる状態を維持したうえで、又は、一のRF系統101~N01等から他のRF系統102~N02、103~N03等へのリーク波のレベルが最小となる状態を多少外したとしても、アレイアンテナ装置Pの正面方向以外のチルト方向の放射パターンを実現することができる。ただし、アレイアンテナ装置Pのチルト角度は、小さいことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本開示のアレイアンテナ装置のリーク波低減方法、アレイアンテナ装置のリーク波低減装置、アレイアンテナ装置のリーク波低減プログラム及びアレイアンテナ装置は、各RFモジュールの設計及び製造の制約及びコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0083】
P:アレイアンテナ装置
A:アンテナボード
I:IF及び信号処理ボード
L:リーク波測定部
S:移相器設定部
R1、R2、RN:RFモジュール
10H、10V、20H、20V、N0H、N0V:RF系統
11H、11V、N1H、N1V:可変減衰器
12H、12V、22H、22V、N2H、N2V:移相器
13H、13V、N3H、N3V:スイッチ
14H、14V、N4H、N4V:パワーアンプ
15HV、25HV、N5HV:アンテナ素子
101、102、103、201、202、203、N01、N02、N03:RF系統
111、112、113、N11、N12、N13:可変減衰器
121、122、123、221、222、223、N21、N22、N23:移相器
131、132、133、N31、N32、N33:スイッチ
141、142、143、N41、N42、N43:パワーアンプ
151、152、153、251、252、253、N51、N52、N53:アンテナ素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12