(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168975
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】一方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/07 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
F16D41/07 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086116
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山田 政義
(72)【発明者】
【氏名】日比 康雅
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍
(57)【要約】
【課題】応答性に優れたスプラグタイプの一方向クラッチを実現する。
【解決手段】外輪6と内輪7の間に、複数のスプラグ8と、複数のスプラグ8を周方向に間隔を空けて保持する保持器9と、対応するスプラグ8を外輪6及び内輪7と係合する係合姿勢に維持するように周方向一方側に押圧したばね部10aを有する複数のばね部材10とを配置してなる一方向クラッチ3において、外輪6の内径をG、ばね部材10の外接円の直径をB、ばね部10aの周方向一方側の端部の径方向中央部を通る円の直径をZ、スプラグ8の重心を通る円の直径をSG、スプラグ8が内輪7及び外輪6と係合した状態でのスプラグ8と保持器10の接触点を通る円の直径をHとしたとき、B<G、SG<Z、(Z-SG)<(SG-H)という3つの関係式を満たす。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に同軸配置された内輪及び外輪と、
内外輪間に配置され、前記内輪の中心軸に直交する平面内で揺動する複数のスプラグと、
複数のスプラグを周方向に間隔を空けて保持した保持器と、
対応する前記スプラグと前記保持器の間に周方向に圧縮された状態で配置され、対応する前記スプラグを前記内輪及び前記外輪と係合する係合姿勢に維持するように周方向一方側に押圧したばね部を有する複数のばね部材と、を備えた一方向クラッチにおいて、
前記外輪の内径をG、前記ばね部材の外接円の直径をB、前記ばね部の周方向一方側の端部の径方向中央部を通る円の直径をZ、前記スプラグの重心を通る円の直径をSG、前記スプラグが前記内輪及び前記外輪と係合した状態での前記スプラグと前記保持器の接触点を通る円の直径をHとしたとき、下記の関係式(1)~(3)を満たすことを特徴とする一方向クラッチ。
B<G ・・・・・・・・・・・・(1)
SG<Z ・・・・・・・・・・・(2)
(Z-SG)<(SG-H) ・・(3)
【請求項2】
前記ばね部材は、軸方向に間隔を空けて配置された一対の前記ばね部と、この一対のばね部の周方向他方側の端部を連結した連結部とを一体に有しており、
前記保持器は、前記ばね部材を収容したばね収容部と、前記一対のばね部により軸方向に挟持される隔壁とを有する請求項1に記載の一方向クラッチ。
【請求項3】
前記スプラグは、鋼材で形成され、表層部に浸炭窒化層を有する請求項1に記載の一方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向クラッチに関し、特に相対回転可能に同軸配置された内外輪間に配された「スプラグ」と称される係合子(輪留め)の姿勢を制御することにより、内外輪の相対回転が規制される(内輪と外輪が一体回転する)ロック状態と、内外輪の相対回転が許容される(内輪が外輪に対して空転する)空転状態とが切り換えられる、スプラグタイプの一方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
一方向のみに回転力(トルク)を伝達する一方向クラッチは、例えば、自動車用の補機ベルトによって駆動されるプーリに内蔵された上でオルタネータの回転軸に装着される。この場合、一方向クラッチは、エンジンのアイドル回転変動による補機ベルトの張力変動を低減する役割や、オルタネータの慣性トルクがエンジンに伝達されようとする際のトルク伝達を遮断することによって補機ベルトの損傷防止を図る役割を果たす。
【0003】
例えば下記の特許文献1には、相対回転可能に同軸配置された内輪及び外輪と、内外輪間に配置され、内輪の中心軸に直交する平面内で揺動(回転)する複数の係合子(スプラグ)と、対応するスプラグを内輪及び外輪と係合する係合姿勢に維持するように周方向に押圧した複数のばね部材と、複数のスプラグ及びばね部材を周方向に間隔を空けて保持した保持器と、を備えた、いわゆるスプラグタイプの一方向クラッチが記載されている。
【0004】
特許文献1の一方向クラッチにおいて、各ばね部材は、軸方向に間隔を空けて並列配置され、それぞれが対応するスプラグを押圧する方向(周方向)に延びた一対のばね部(コイルばね部)と、一対のばね部のうちスプラグとの当接部とは周方向反対側の端部同士を連結する連結部とを一体に有する1本の線材で構成されている。係る構成のばね部材を採用すれば、ばね部の自然長を大きくしなくても高いばね定数が得られるので、入力トルクに対する良好な応答性を有すると共に耐久性に優れた一方向クラッチを実現できる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、上記のようなスプラグタイプの一方向クラッチの組み込み(適用)対象の一つである自動車用オルタネータにおいては特に小型化及び発電能力の向上を求められている関係上、オルタネータ用プーリを高速回転化することが検討されている。しかしながら、プーリの回転速度が増すほど回転時に生じる振動が増加するため、スプラグの姿勢が不安定化し易く、クラッチの応答性が悪くなる(クラッチのロック状態と空転状態の切替えを精度良く行えなくなる)ことが懸念される。
【0007】
そこで、本発明は、応答性に優れたスプラグタイプの一方向クラッチを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
スプラグタイプの一方向クラッチの応答性は、スプラグを周方向に(常に)押圧しているばね部材の配置態様等に大きく影響を受ける。そこで、本発明者らは、ばね部材の配置態様等に関連する種々の関係式を規定してこれを満足させることにより、高い応答性を発揮させることを可能にした。
【0009】
すなわち、上記の目的を達成するために創案された本発明は、
相対回転可能に同軸配置された内輪及び外輪と、内外輪間に配置され、内輪の中心軸に直交する平面内で揺動する複数のスプラグと、複数のスプラグを周方向に間隔を空けて保持した保持器と、対応するスプラグと保持器の間に周方向に圧縮された状態で配置され、対応するスプラグを内輪及び外輪と係合する係合姿勢に維持するように周方向一方側に押圧したばね部を有する複数のばね部材と、を備えた一方向クラッチにおいて、
外輪の内径をG、ばね部材の外接円の直径をB、ばね部の周方向一方側の端部の径方向中央部を通る円の直径をZ、スプラグの重心を通る円の直径をSG、スプラグが内輪及び外輪と係合した状態でのスプラグと保持器の接触点を通る円の直径をHとしたとき、下記の関係式(1)~(3)を満たすことを特徴とする一方向クラッチ。
B<G ・・・・・・・・・・・・(1)
SG<Z ・・・・・・・・・・・(2)
(Z-SG)<(SG-H) ・・(3)
【0010】
上記の関係式(1)を満足すれば、外輪とばね部材の干渉を防止することができるので、外輪との干渉によるばね部材の姿勢変化(に起因するばね部材とスプラグ相互間での力の伝達精度の低下)を防止することができ、関係式(2)を満足すれば、ばね部材とスプラグ相互間で周方向の力を精度良く伝達することができる。また、関係式(3)を満足すれば、スプラグ及び保持器に対するばね部材の径方向相対位置を適正に管理することができるので、関係式(2)を満足する場合と同様に、ばね部材とスプラグ相互間で周方向の力を精度良く伝達することができる。以上の作用効果が相俟って、本発明によれば、高い応答性を有し、ロック状態と空転状態の切り替えをスムーズに行い得る一方向クラッチを実現できる。
【0011】
上記構成において、ばね部材は、軸方向に間隔を空けて配置された一対の上記ばね部と、この一対のばね部の周方向他方側の端部を連結した連結部とを一体に有するものとすることができる。この場合、保持器には、ばね部材を収容したばね収容部と、上記一対のばね部により軸方向に挟持される隔壁とを設けることができる。
【0012】
スプラグは、内輪(の外周面)及び外輪(の内周面)に対して摺動する摺動部品であることから、鋼材で形成され、表層部に浸炭窒化層を有する熱処理品とするのが好ましい。これにより、浸炭処理では使用されない安価な低炭素鋼等を用いてスプラグを作製した場合であっても、スプラグに必要とされる耐摩耗性(表面硬度)や機械的強度等を確保し、、スプラグの摩耗や変形に起因した応答性の低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上から、本発明によれば、高い応答性を有するスプラグタイプの一方向クラッチを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る一方向クラッチが組み込まれる自動車用エンジンのベルト式補機駆動装置の概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る一方向クラッチを内蔵したクラッチ内蔵プーリの横断面図である。
【
図4】一方向クラッチを構成する保持器を径方向外側から見たときの部分拡大図である。
【
図5】
図4に示す保持器にばね部材を組み込んだ状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る一方向クラッチが組み込まれる自動車用エンジンのベルト式補機駆動装置の概略図である。同図に示すベルト式補機駆動装置100は、駆動プーリ101と、オルタネータ102を含む複数の補機の回転軸に取り付けられる複数の従動プーリと、駆動プーリ101及び従動プーリに巻き掛けられた1本のベルト部材(Vリブドベルト)103とを備えた、いわゆるサーペンタイン式の補機駆動装置である。
【0017】
駆動プーリ101は、自動車用の4サイクルエンジン200の一端側に配置され、エンジン200の爆発行程に起因する角速度の微小変動を伴って回転するクランク軸200aに取り付けられる。従動プーリとしては、Vリブドベルト103の走行方向(
図1中の矢印参照)に沿って順に配置された、オートテンショナのテンションプーリ104、クラッチ内蔵プーリ1、パワーステアリング装置の油圧ポンプ用プーリ105、アイドラプーリ106、エアコンディショナの圧縮機用プーリ107、及びエンジン冷却ファン用プーリ108がある。
【0018】
クラッチ内蔵プーリ1は、本発明の実施形態に係る一方向クラッチを内蔵しており、オルタネータ102の回転軸102aに取り付けられている。
【0019】
次に、
図2~
図5に基づき、本発明の一実施形態に係る一方向クラッチ3(を内蔵したクラッチ内蔵プーリ1)について説明する。以下の説明では、方向性を説明する上で「軸方向」、「径方向」及び「周方向」との語句を使用するが、これらはそれぞれ、一方向クラッチ3(を構成する内輪7)の中心軸に沿う方向、上記中心軸を中心とする円の径方向、及び上記中心軸を中心とする円の周方向である。なお、
図2は、クラッチ内蔵プーリ1の横断面図、
図3は、
図2の部分拡大図、
図4は、一方向クラッチ3を構成する保持器9を径方向外側から見たときの部分拡大図、
図5は、
図4に示す保持器にばね部材を組み込んだ状態を示す図である。
【0020】
図2に示すように、クラッチ内蔵プーリ1は、一方向クラッチ3及びこれを内周に収容したリング状のプーリ2を備え、プーリ2の外周面には、
図1に示すVリブドベルト103が巻き掛けられる。プーリ2とVリブドベルト103の相対滑りを可及的に防止するため、プーリ2の外周面は、周方向に延びる凸部と凹部が軸方向に沿って交互に設けられた凹凸面に形成されている。
【0021】
一方向クラッチ3は、クラッチ部4と、クラッチ部4の軸方向両側に配置された一対の転がり軸受(図示省略)とを備える。クラッチ部4は、プーリ2の内周面に固定された外輪6と、外輪6と同軸に配置された内輪7と、外輪6と内輪7の間に配置された複数のスプラグ8と、複数のスプラグ8を周方向に間隔を空けて保持した円環状の保持器9と、対応するスプラグ8を周方向一方側(
図3の紙面右側)に押圧する複数のばね部材10とを備えており、外輪6と内輪7は、上記一対の転がり軸受によって相対回転自在に支持されている。
【0022】
図3~
図5に示すように、保持器9は、複数のスプラグ8を個別に収容する複数のスプラグ収容部9aと、複数のばね部材10を個別に収容する複数のばね収容部9bと、ばね収容部9bの径方向中央部に配置された隔壁9cとを備える。本実施形態では、収容部9a,9b及び隔壁9cのそれぞれが周方向等間隔で形成されている。隔壁9cの周方向他方側の端面9dは凸円弧面に形成されており、端面9dの曲率半径Rは例えば5~20mmの範囲内とされる。
【0023】
スプラグ8は、円弧状の外径側カム面8a及び内径側カム面8bと、両カム面8a,8bの周方向他方側の端部同士を接続する平坦面8cとを有する略勾玉形状をなしており、軸方向に直交する平面内で揺動するように保持器9のスプラグ収容部9aに収容されている。すなわち、スプラグ8は、外径側カム面8aを外輪6の内周面6aに接触させると共に、内径側カム面8bを内輪7の外周面7aに接触させた状態でスプラグ収容部9aに収容されている。スプラグ8の平坦面8cは、ばね部材10(の周方向一方側の端部)が当接する面であり、その径方向寸法Wは、ばね部材10(を構成する螺旋状のばね部10a)の外径よりも大きく設定されている。径方向寸法Wは、例えば1.0~3.5mmの範囲とすることができる。
【0024】
上記の構成を有するスプラグ8は、熱処理が可能な鋼材(例えばSUJ2)で形成され、その表層部には、熱処理としての浸炭窒化処理によって形成された表面硬化層が形成されている(図示省略)。なお、スプラグ8(の基材)に対する浸炭窒化処理は、処理後の金属組織(鋼組織)における残留オーステナイト量が20~35質量%の範囲内にあり、表面硬さがロックウェル硬さCスケール(HRC)60.5~64.5の範囲内にあり、さらには厚み(表面からの深さ)0.3mm以上の硬化層が得られるように行う。これにより、スプラグ8(特にカム面8a,8b)に必要とされる耐摩耗性の他、所望の機械的強度を具備したスプラグ8が得られる。特に、熱処理として浸炭窒化処理を選択すれば、浸炭処理では使用されない安価な低炭素鋼を用いてスプラグ8を作製した場合であっても、必要とされる耐摩耗性等を確保し、スプラグ8の摩耗や変形に起因した応答性の低下を防止することができる。
【0025】
本実施形態のばね部材10は、
図5に示すように、軸方向に間隔を空けて配置された一対のばね部10aと、この一対のばね部10aの周方向他方側の端部同士を連結した連結部10bとを一体に有しており、一本の線材を湾曲変形等させることで形成されたものである。各ばね部10aは、螺旋状をなし、いわゆるコイルばねの形態を有している。
【0026】
上記の構成を有するばね部材10は、一対のばね部10aの一方及び他方を保持器9に設けた隔壁9cの軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配置すると共に、連結部10bを隔壁9cの周方向他方側に配置した状態で保持器9のばね収容部9bに収容されている。保持器9のスプラグ収容部9a及びばね収容部9bのそれぞれにスプラグ8及びばね部材10が収容された状態(
図5参照)において、ばね部材10のばね部10aは、その周方向一端部及び他端部のそれぞれをスプラグ8の平坦面8c及び保持器9の周端面9eに当接させた状態で弾性的に圧縮変形している。このため、保持器9のスプラグ収容部9aに収容されたスプラグ8は、ばね収容部9bに収容されたばね部材10(のばね部10a)によって常に周方向一方側に押圧(付勢)されている。
【0027】
また、ばね収容部9bにばね部材10が収容されたとき、一対のばね部10aを連結した連結部10bは、凸円弧面に形成された隔壁9cの周方向他方側の端面9dと当接することにより、周方向他方側に膨出した凸円弧状に弾性変形している。このとき、連結部10bの頂部(径方向中央部)は、ばね部10aの周方向他方側の端部が当接した周端面9eよりも周方向他方側に位置する。また、上記周端面9eは、隔壁9cの軸方向端面よりも軸方向外側に設けられている。以上の構成により、一対のばね部10aには互いに接近する方向の力が作用し、保持器9の隔壁9cが一対のばね部10aによって挟持される。この挟持力は、例えば0.5~1.0Nの範囲に設定することが可能である。
【0028】
以上の構成を有するクラッチ内蔵プーリ1は、以下のように動作する。
【0029】
エンジン200の駆動力(回転トルク)がVリブドベルト103を介してクラッチ内蔵プーリ1に伝達されると、プーリ2と一体に一方向クラッチ3の外輪6が回転する。図示例の形態においては、外輪6の回転方向が時計回りであるとき、各スプラグ8の外径側クラッチ面8a及び内径側クラッチ面8bが外輪6の内周面6a及び内輪7の外周面7aに対してそれぞれ係合する(ロック状態)。これにより、スプラグ8を介して外輪6から内輪7へエンジン200の回転トルクが伝達され、内輪7に連結されたオルタネータ102の回転軸102aが回転する。
【0030】
一方、外輪6が反時計回りに回転した場合や、時計回りに回転する外輪6に対して同方向に回転する内輪7の回転速度が速くなった場合には、各スプラグ8が反時計回りに回転し、外輪6及び内輪7に対する両カム面8a,8bの係合が解除される。これにより、一方向クラッチ3においては、外輪6が内輪7に対して空転する空転状態となるので、エンジン200からオルタネータ102の回転軸102aへのトルク伝達が遮断されることになる。
【0031】
ところで、
図1に示す補機駆動装置1において、オルタネータ102の回転軸102aに取り付けられるオルタネータ用プーリとしてのクラッチ内蔵プーリ1は、オルタネータの小型化及び発電能力向上を実現させるために高速回転化することが検討されている。そして、オルタネータ102の回転軸102aを高速回転化した場合でも、オルタネータ用プーリとしてのクラッチ内蔵プーリ1に組み込まれる一方向クラッチ3が良好な応答性(作動性)を示すようにするために、本実施形態においては以下の関係式(1)~(3)を満たすようにしている。
B<G ・・・・・・・・・・・・(1)
SG<Z ・・・・・・・・・・・(2)
(Z-SG)<(SG-H) ・・(3)
なお、関係式(1)~(3)を構成する各種パラメータは、
図3に示すように、
B:ばね部材10の外接円の直径、
G:外輪6の内径、
SG:スプラグ8の重心を通る円の直径、
Z:ばね部10aの周方向一方側の端部の径方向中央部を通る円の直径、
H:スプラグ8が外輪6及び内輪7と係合した状態でのスプラグ8と保持器9の接触点を通る円の直径、
とする。
【0032】
そして、上記の関係式(1)を満足すれば、外輪6(の内周面6a)とばね部材10の干渉を防止することができるので、外輪6との干渉によるばね部材10の姿勢変化、さらにはばね部材10の姿勢変化に起因するばね部材10とスプラグ8相互間での力(周方向の力)の伝達精度の低下を防止することができる。また、関係式(2)を満足すれば、ばね部材10とスプラグ8相互間で周方向の力を精度良く伝達することができる。具体的には、一方向クラッチ3のロック状態においては、ばね部材10からスプラグ8に対して、スプラグ8を外輪6及び内輪7と係合する係合姿勢に維持するための周方向の押圧力を精度良く付与することができる一方で、一方向クラッチ3がロック状態から空転状態に移行する際には、スプラグ8からばね部材10に付与される周方向の圧縮力をばね部材10に精度良く伝達することができる。さらに、関係式(3)を満足すれば、スプラグ8及び保持器9に対するばね部材10の径方向相対位置を適正に管理することができるので、関係式(2)を満足する場合と同様に、ばね部材10とスプラグ8相互間で周方向の力を精度良く伝達することができる。
【0033】
また、前述したように、保持器9のばね収容部9bに収容したばね部材10に設けた一対のばね部10aで保持器9に設けた隔壁9cを挟持するようにしたので、保持器9のばね収容部9bに収容した(保持器9に取り付けた)ばね部材10の意図せぬ姿勢変化等を可及的に防止することができる。この点からも、スプラグ8とばね部材10相互間での周方向の力の伝達精度を高めることができる。
【0034】
以上の作用効果が相俟って、本発明によれば、高い応答性を有し、ロック状態と空転状態の切り替えをスムーズに行い得る一方向クラッチ3を実現することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態に係る一方向クラッチ3について説明を行ったが、本発明の実施形態に係る一方向クラッチ3は、
図1に示したベルト式補機駆動装置100以外の各種駆動装置に適用することができる。また、本発明は以上で説明した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 クラッチ内蔵プーリ
3 一方向クラッチ
4 クラッチ部
6 外輪
7 内輪
8 スプラグ
8a 外径側カム面
8b 内径側カム面
8c 平坦面
9 保持器
9a スプラグ収容部
9b ばね収容部
9c 隔壁
10 ばね部材
10a ばね部
10b 連結部