(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168985
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】道路に対する液状化対策構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20241128BHJP
E02D 3/10 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D3/10 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086137
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】眞野 英之
【テーマコード(参考)】
2D043
2D046
【Fターム(参考)】
2D043DA07
2D043EA02
2D043EB02
2D046DA11
(57)【要約】
【課題】車道部の幅方向外側のみに対策工を行うことで、車道部の交通規制を行うことなく路盤の液状化被害を低減することができ、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【解決手段】液状化地盤Gの表層部に構築される路盤20に対して、液状化地盤Gが液状化した際に路面20aへの噴砂を低減させるための道路に対する液状化対策構造であって、路盤20は、車道部21と、車道部21に沿って設けられ、車道部21より薄厚な歩道部22と、を備え、歩道部22には、歩道部22の下方の液状化地盤Gと路盤20の外部とを通水可能に接続するドレーン30を備える液状化対策構造を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状化地盤の表層部に構築される路盤に対して、前記液状化地盤が液状化した際に路面への噴砂を低減させるための道路に対する液状化対策構造であって、
前記路盤は、少なくとも車道部を備え、
前記路盤には、前記路盤における幅方向外側の下方の前記液状化地盤と、前記路盤の外部と、を通水可能に接続する排水経路部を備える道路に対する液状化対策構造。
【請求項2】
前記路盤は、前記車道部に沿って設けられ、前記車道部より薄厚な隣接地を備え、
前記排水経路部は、前記隣接地の下方の前記液状化地盤と、前記路盤の外部と、を通水可能に接続する、請求項1に記載の道路に対する液状化対策構造。
【請求項3】
前記排水経路部は、前記路盤の下面よりも下方の前記液状化地盤内まで延びる、請求項1又は2に記載の道路に対する液状化対策構造。
【請求項4】
前記排水経路部は、前記路盤の下方の前記液状化地盤と前記路盤の路面とを通水可能に接続し、透水性を有するとともに砂の通過を阻止するドレーンである、請求項1又は2に記載の道路に対する液状化対策構造。
【請求項5】
前記ドレーンの上部は、液状化発生時に前記液状化地盤から前記ドレーン内に流入した水を前記路盤の路面に排水させる透水性を有する蓋体を備える、請求項4に記載の道路に対する液状化対策構造。
【請求項6】
前記ドレーンは、前記路盤のうち前記車道部寄りの位置に配置され、前記車道部の延長方向に沿って所定間隔をあけて複数設けられる、請求項4に記載の道路に対する液状化対策構造。
【請求項7】
前記排水経路部は、前記路盤の下方の前記液状化地盤に少なくとも一部が配置され、横に延びる排水管であり、
前記排水管は、前記液状化地盤から水が浸入可能に設けられ、管内を流通する水を前記路盤の外方に排水する、請求項1に記載の道路に対する液状化対策構造。
【請求項8】
前記排水経路部は、前記路盤の下方の前記液状化地盤に少なくとも一部が配置されたドレーン部と、前記路盤の内部で前記ドレーン部の上端に接続されて横に延びる排水管路と、を有し、
前記排水管路は、前記ドレーン部から水が浸入可能に設けられ、管内を流通する水を前記路盤の外方に排水する、請求項1に記載の道路に対する液状化対策構造。
【請求項9】
前記路盤における前記車道部の側方部に側溝が設けられ、
前記排水経路部は、前記側溝の下部を包み込むようにして前記車道部の下方の前記液状化地盤から前記路盤の路面まで連続して礫材を敷いて形成されている、請求項1に記載の道路に対する液状化対策構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路に対する液状化対策構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震時に液状化が生じる場合、道路が被害を受け、ひび割れ、隆起、沈下を生じたり、噴砂により路面が覆われたりすることにより、復旧に多大な費用や期間を要し、市民生活や企業活動に大きな影響が出る。そのため、好適な対策が必要となるものの、道路は道路網として張り巡らされているため、対策を要する範囲は広大であり従来の液状化を防止する対策では費用が莫大なものになる。また、大型の重機を用いるため工事のために道路を長期間閉鎖する必要があり、既に供用されている道路では適用が困難な現状がある。
【0003】
このため、簡易に対策を行う方法として、例えば特許文献1に示されるように舗装面の下に粒径の小さい礫等により通水層かつ砂を通さないフィルター層となる溝部を所定間隔で設けて、地表部へ水のみを溢水させて過剰間隙水圧を消散させ、被害を防止する工法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1等に示すような従来の液状化対策工法では、駐車場など溝部の設置位置にある程度の自由度が確保できる場所では採用できるが、車道等の道路では重量が大きなトラック等が通行するため路盤の強度を確保する必要がある。そのため、地表への溢水部を効果的な位置に設けるのが難しい。また、幹線など交通量の多い道路では、工事により通行を規制することが難しいという問題があった。
【0006】
また、実際の地震による液状化被害として、車道の被害は比較的軽微であるのに対し、歩道部において噴砂、隆起、沈下、舗装の割れといった被害が多い。また、歩道がない車道では側溝や車道脇の隣接地との境界で被害が多く発生していた。歩道部や歩道のない車道の側溝部、車道と隣接地との境界部(これらを以下では「歩道部等」と記す)で液状化被害が大きい原因としては、歩道部等で車道部に対して路盤の厚さが薄い、もしくは路盤がなく薄い表土や簡易な舗装のみのように、車道部より路盤が薄厚な部分であるためである。ここで、液状化による過剰間隙水圧の消散過程では透水性の低い路盤下に水膜が形成されることが知られている。つまり、水膜の水圧は、水膜の上にある地盤の重量(上載圧)とつり合うため、車道の路盤下の水膜の水圧は歩道部等の路盤下の水圧より大きい。車道の路盤下に形成された水膜の水が歩道部下に流れ込むと、歩道部路盤下の水圧は車道部路盤下の大きな水圧の影響をうけ歩道部の路盤の重量より大きな水圧が発生する。この高い水圧により歩道部で隆起、噴砂による地盤体積の減少に伴う沈下などの被害が生じ、歩道で発生した噴砂が車道の上にも流れることで車道も砂で覆われてしまう問題が生じている。そのため、コストや工期を抑えつつ液状化対策を行うことができる工法が求められていた。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、車道部の幅方向外側のみに対策工を行うことで、車道部の交通規制を行うことなく路盤の液状化被害を低減することができ、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる道路に対する液状化対策構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る道路に対する液状化対策構造は、液状化地盤の表層部に構築される路盤に対して、前記液状化地盤が液状化した際に路面への噴砂を低減させるための道路に対する液状化対策構造であって、前記路盤は、少なくとも車道部隣接地を備え、前記路盤には、前記路盤における幅方向外側の下方の前記液状化地盤と、前記路盤の外部と、を通水可能に接続する排水経路部を備えることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る道路に対する液状化対策構造では、路盤における幅方向外側の下方の液状化地盤と路盤の外部とを通水可能に接続する排水経路部を設けるといった簡単な対策工を行うことで、少なくとも車道部を含む路盤の液状化被害を低減することができる。本発明では、排水経路部を路盤における幅方向外側に設置し、地震時の液状化後に車道部を含む路盤下の水のみを排水経路部を通じて路盤の外部に排水することで、路盤下の水圧を低減することができる。そのため、路盤の下面に向けて上昇する液状化地盤内の水を速やかに排水することにより路盤下の水圧の上昇量を低減することで、路盤隣接地の噴砂や隆起を抑止し、路盤に地震後の機能を維持して液状化被害を低減できる。すなわち、地震終了後の液状化地盤内の水が薄厚の路盤の下面に向けて集まるので、その水の多くが排水経路部内に入る構成となる。そして、排水経路部に流入した水は排水経路部を通じて路盤の外部に排水することで噴砂を抑制し、噴砂に伴い地盤が緩むことによる液状化被害を防ぐことができる。
【0010】
このように、本発明では、歩道部がある場合は車道部に対する対策工事が不要であり、歩道部がない車道でも対策工事を車道端のみとできるため、車道部の交通規制を行う必要がなく、車道が幹線道路であっても交通への影響を小さく抑えることができる。
また、本発明では、幅方向外側の位置の路盤に対して排水経路部を設ける対策工となるので、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【0011】
また、本発明に係る道路に対する液状化対策構造は、前記路盤は、前記車道部に沿って設けられ、前記車道部より薄厚な隣接地を備え、前記排水経路部は、前記隣接地の下方の前記液状化地盤と、前記路盤の前記路面を含む外部と、を通水可能に接続することが好ましい。
【0012】
この場合には、車道部の幅方向外側に隣接し、車道部よりも薄厚な例えば歩道部等(歩道、側溝、隣接地との境界など)の隣接地に対して排水経路部を設ける対策工となるので、液状化対策にかかるコストや工期をより低減できる。
【0013】
また、本発明に係る道路に対する液状化対策構造は、前記排水経路部は、前記路盤の下面よりも下方の前記液状化地盤内まで延びることが好ましい。
【0014】
この場合には、排水経路部における路盤下の液状化地盤と接する面積を増大させることで排水経路部の集水能力を高めることができ、この路盤下の液状化地盤内の水をより多くかつ確実に排水経路部に取り込むことができる。
また、路盤の下方の液状化地盤に粘土層など非常に透水性の小さい層がある場合は、粘土層下の砂質土層まで排水経路部が届くように延ばして設置することができる。
【0015】
また、本発明に係る道路に対する液状化対策構造は、前記排水経路部は、前記路盤の下方の前記液状化地盤と前記路盤の路面とを通水可能に接続し、透水性を有するとともに砂の通過を阻止するドレーンであることが好ましい。
【0016】
このような構成とすることで、排水経路部に流入した水を排水経路部の直上の路盤の路面に排水することができる。この場合には、排水経路部の経路長を最短にすることができ、長い距離で水を通水する必要がなく簡単な構造となるので、液状化対策時の施工が簡単になり、対策工にかかるコストや工期を低減できる。
【0017】
また、本発明に係る道路に対する液状化対策構造は、前記ドレーンの上部は、液状化発生時に前記液状化地盤から前記ドレーン内に流入した水を前記路盤の路面に排水させる透水性を有する蓋体を備えることが好ましい。
【0018】
この場合には、ドレーンの上部に蓋体を備えることで、路盤の路面にドレーンの上部が直接露出することがない。そのため、歩きやすさや美観の観点から、例えば車道部脇に歩道部等を備えた路盤である場合にその歩道部等の舗装面に対して排水することができる。
【0019】
また、本発明に係る道路に対する液状化対策構造は、前記ドレーンは、前記路盤のうち前記車道部寄りの位置に配置され、前記車道部の延長方向に沿って所定間隔をあけて複数設けられることが好ましい。
【0020】
この場合には、路盤にドレーンが所定間隔で複数配置されているので、効率よく、かつ確実に路盤下の水を排水することができる。
【0021】
また、本発明に係る道路に対する液状化対策構造は、前記排水経路部は、前記路盤の下方の前記液状化地盤に少なくとも一部が配置され、横に延びる排水管であり、前記排水管は、前記液状化地盤から水が浸入可能に設けられ、管内を流通する水を前記路盤の外方に排水することが好ましい。
【0022】
この場合には、排水経路部における液状化地盤内の水の浸入箇所の直上で排水が困難な場合に、液状化地盤内に一部が配置され水が浸入可能な排水管を設けることで、路盤における排水可能な位置まで排水管を横に延ばして排水することができる。
【0023】
また、本発明に係る道路に対する液状化対策構造は、前記排水経路部は、前記路盤の下方の前記液状化地盤に少なくとも一部が配置されたドレーン部と、前記路盤の内部で前記ドレーン部の上端に接続されて横に延びる排水管路と、を有し、前記排水管路は、前記ドレーン部から水が浸入可能に設けられ、管内を流通する水を前記路盤の外方に排水することが好ましい。
【0024】
この場合には、排水経路部における液状化地盤内の水の浸入箇所の直上で排水が困難な場合に、液状化地盤内に一部が配置され水が浸入可能なドレーン部を設け、さらにドレーン部に通水可能な排水管路を設けることで、路盤における排水可能な位置まで排水管路を横に延ばして排水することができる。
【0025】
また、本発明に係る道路に対する液状化対策構造は、前記路盤における前記車道部の側方部に側溝が設けられ、前記排水経路部は、前記側溝の下部を包み込むようにして前記車道部の下方の前記液状化地盤から前記路盤の路面まで連続して礫材を敷いて形成されていることが好ましい。
【0026】
この場合には、車道部の側部に側溝がある場合であっても、側溝の下部を包むように礫材を敷くことにより排水経路部を形成することで、車道部下の水を排水経路部を通じて路盤の外方に排水することができる。
また、この場合には、車道部と側溝との境界部分が礫材からなる排水経路部で覆われて保護された状態となるので、この境界部分における地震時の液状化被害も低減する効果が得られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の道路に対する液状化対策構造によれば、車道部の幅方向外側のみに対策工を行うことで、車道部の交通規制を行うことなく路盤の液状化被害を低減することができ、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態による液状化対策構造を示す縦断面図である。
【
図3】(a)、(b)は、道路に対する液状化対策構造のドレーンの効果を確認した実験結果であって、ドレーンなしを示す図である。
【
図4】(a)、(b)は、道路に対する液状化対策構造のドレーンの効果を確認した実験結果であって、ドレーンありを示す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態による液状化対策構造を示す縦断面図である。
【
図7】本発明の第3実施形態による液状化対策構造を示す縦断面図である。
【
図9】本発明の第4実施形態による液状化対策構造を示す縦断面図である。
【
図10】
図9に示す液状化対策構造の平面図である。
【
図11】本発明の第5実施形態による液状化対策構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態による道路に対する液状化対策構造について、図面に基づいて説明する。
【0030】
(第1実施形態)
図1及び
図2に示すように、本実施形態の道路に対する液状化対策構造1は、液状化地盤Gの表層部に構築される路盤20に対して、液状化地盤Gが液状化した際に路面20aへの噴砂を低減する場合に適用される。
【0031】
路盤20は、液状化地盤Gの表面を全面的に設けられ、路盤面には舗装面21A、22Aによって被覆されている。路盤20は、車道部21と、車道部21に沿って設けられ、車道部21より薄厚な歩道部22(隣接地)と、を備える。歩道部22は、車道部21の左右両側に設けられている。
【0032】
車道部21は、例えば礫からなる複数の礫層が積層され、その表層部に舗装面21Aが形成されている。歩道部22は、例えば礫からなる礫層の表層部に舗装面22Aが形成されている。車道部21及び歩道部22の舗装面21A、22Aは、それぞれ同程度の仕様でもよく、例えば通常のアスファルト舗装やコンクリート舗装が採用される。路盤20の厚さとしては、例えば車道部21の厚さH1が900mmであるのに対して歩道部22の厚さH2は200mmである。
本実施形態では、車道部21の下面21cが地下水位Waよりも浅い位置に施工されている。
【0033】
歩道部22には、歩道部22の下方の液状化地盤Gと路盤20の外部とを通水可能に接続するドレーン30(排水経路部)を備える。ドレーン30は、歩道部22の下面22cよりも下方の液状化地盤G内に達するまで鉛直方向に延びる。すなわち、ドレーン30は、歩道部22の下方の液状化地盤Gと歩道部22の路面22aとを通水可能に接続し、透水性を有するとともに砂の通過を阻止する。
【0034】
ドレーン30の上部には、透水性を有する蓋体31を備える。蓋体31は、液状化発生時に液状化地盤Gからドレーン30内に流入した水Wを歩道部22の路面22aに排水させる。
【0035】
図2に示すように、ドレーン30は、歩道部22のうち車道部21寄りの位置に配置され、車道部21の延長方向に沿って所定間隔L1をあけて複数設けられる。ドレーン30同士の間隔L1としては、車道部21の幅員や液状化地盤Gの層厚を考慮して決定されるが、例えば5~15m程度である。
【0036】
ドレーン30は、例えば直径300mm以上であることが好ましい。ドレーン30は、砂利や砂礫などの透水性を有する材料を敷設することにより形成され、砂の通過を規制するフィルターの機能を有する。ドレーン30を構成する礫は、上述したフィルターの機能をもたせるために礫同士の間隙を小さくするため、例えば粒径2~5mmの砕石(7号砕石など)が採用される。ドレーン30の目詰まりを防止するために、例えば下から5cm程度上までの範囲に礫径の小さな礫を詰めるようにしてもよい。
【0037】
ドレーン30は、歩道部22の所定位置において、歩道部22の下方の液状化地盤Gに到達する穴22bを形成し、その掘削した穴22bに例えば天然の礫材(砂利)を充填するように詰めることにより造成される。なお、礫材として、同等の透水性能が得られるものであれば砕石や各種の人工透水性材料も採用可能である。例えばドレーン30の透水係数は原地盤である液状化地盤Gよりも大きくする必要があり、例えば液状化地盤Gよりも2桁(100倍)程度以上大きくすることが好ましい。
【0038】
ドレーン30は、上述したように歩道部22下の液状化地盤Gと歩道部22の路面22aとを連通し、路盤20外への排水経路を確保するためのものである。ここで、車道部21の下面21cに集まった液状化地盤G内の水Wは、深度の浅い歩道部22の下面22c側に流れる。すなわち、車道部21及び歩道部22の下方の液状化地盤G内を上昇してきた水W(地下水)が歩道部22の下面22c付近に集まるので、その水Wをドレーン30に取り込み、水Wのみをドレーン30を通過させて路面22aに排出する。
【0039】
上述した道路に対する液状化対策構造1の構築方法としては、
図1に示すように、先ず、液状化地盤Gに設けられる路盤20のうち歩道部22の所定位置に鉛直方向に延び、歩道部22下の液状化地盤Gに達する穴22bを掘削する。このとき、歩道部22下の液状化地盤Gも所定深さだけ掘削しておく。
【0040】
次に、歩道部22内に、歩道部22下の液状化地盤Gと路面22aとを通水可能に接続するドレーン30を形成する。具体的には、掘削した穴22bに礫材を充填することでドレーン30が形成され、液状化対策構造1の構築が完了となる。
【0041】
図3(a)、(b)及び
図4(a)、(b)は、本実施形態による道路に対する液状化対策構造1のドレーン30の効果を確認した実験結果を示している。この実験では、本実施形態に示すドレーン30を設けていない「ドレーンなし」のCASE1と、歩道部22にドレーン30を設けた「ドレーンあり」のCASE2の2ケースにおいて、所定規模の地震動を与えたときの地盤内の過剰間隙水圧(kPa)と、地表面鉛直変位(mm)を測定した。地震動の継続時間は、50秒とした。CASE2では、歩道部に直径400mm程度のドレーンを設けて排水性能を持たせたものである。
【0042】
図3(a)及び
図4(a)は、横軸を地震発生からの時間(s)、縦軸を過剰間隙水圧(kPa)とし、車道下1.5m、歩道下1.5m、歩道下0.45mのそれぞれの測定結果を示している。
図3(b)及び
図4(b)は、横軸を地震終了からの時間(s)、縦軸を地表面鉛直変位(mm)とし、車道部と歩道部のそれぞれの測定結果を示している。
【0043】
図3(a)、(b)に示すように、ドレーンがないCASE1では、歩道部において地震後に深さ0.45mの過剰間隙水圧がより深い1.5mの水圧を上回るまで上昇していることがわかる。これにより、車道部が地震後にゆっくりと沈下するのに対し、歩道部は上昇した水圧によって大きく隆起することがわかる。
【0044】
一方、
図4(a)、(b)に示すように、ドレーンを設けたCASE2では、歩道部における深さ0.45mの過剰間隙水圧は地震後に上昇するものの深さ1.5mの水圧を超えることはない。また、歩道部は大きく隆起することなく車道部とほぼ同様の沈下が生じ、両者の相対的な沈下量が小さくなった。
この実験結果から、歩道部でドレーンによる排水を行うことで、道路全体が受ける液状化被害を抑制できることが確認できる。
【0045】
次に、上述した道路に対する液状化対策構造1の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態による道路に対する液状化対策構造1では、路盤20における幅方向外側(ここでは、車道部21に隣接する歩道部22)に対して、歩道部22の下方の液状化地盤Gと路盤20の外部とを通水可能に接続するドレーン30を設けるといった簡単な対策工を行うことで、車道部21及び歩道部22の液状化被害を低減することができる。本実施形態では、ドレーン30を路盤20における幅方向外側の車道部21よりも薄厚の歩道部22に設置し、地震時の液状化後に車道部21及び歩道部22からなる路盤20下の水Wのみをドレーン30を通じて路盤20の外部に排水することで、路盤20下の水圧を低減することができる。そのため、路盤20の下面に向けて上昇する液状化地盤G内の水を速やかに排水することにより路盤20下の水圧の上昇量を低減することで、歩道部22の噴砂や隆起を抑止し、車道部21及び歩道部22ともに地震後の機能を維持して液状化被害を低減できる。すなわち、地震終了後の液状化地盤G内の水Wが薄厚の歩道部22の下面22cに向けて集まるので、その水Wの多くがドレーン30内に入る構成となる。そして、ドレーン30に流入した水Wはドレーン30を通じて路盤20の外部に排水することで噴砂を抑制し、噴砂に伴い地盤が緩むことによる液状化被害を防ぐことができる。
【0046】
このように、本実施形態では、歩道部22がある場合は車道部21に対する対策工事が不要であり、歩道部22がない車道であっても対策工事を車道端のみとできるため、車道部21の交通規制を行う必要がなく、車道が幹線道路であっても交通への影響を小さく抑えることができる。
また、本実施形態では、幅方向外側の位置の路盤20となる車道部21よりも薄厚な歩道部22に対してドレーン30を設ける対策工となるので、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【0047】
また、本実施形態では、ドレーン30が歩道部22の下面22cよりも下方の液状化地盤G内まで延びる。これにより、ドレーン30における歩道部22下の液状化地盤Gと接する面積を増大させることでドレーン30の集水能力を高めることができ、この歩道部22下の液状化地盤G内の水Wをより多くかつ確実にドレーン30に取り込むことができる。
また、本実施形態では、歩道部22の下方の液状化地盤Gに粘土層など非常に透水性の小さい層がある場合は、粘土層下の砂質土層までドレーン30が届くように延ばして設置することができる。
【0048】
また、本実施形態では、ドレーン30に流入した水Wをドレーン30の直上の歩道部22の路面に排水することができる。この場合には、ドレーン30の経路長を最短にすることができ、長い距離で水Wを通水する必要がなく簡単な構造となるので、液状化対策時の施工が簡単になり、対策工にかかるコストや工期を低減できる。
【0049】
また、本実施形態では、ドレーン30の上部に蓋体31を備えることで、歩道部22の路面22aにドレーン30の上部が直接露出することがない。そのため、歩きやすさや美観の観点から、歩道部22にその歩道部22の舗装面22Aに対して排水することができる。
【0050】
また、本実施形態では、ドレーン30が歩道部22のうち車道部21寄りの位置に配置され、車道部21の延長方向に沿って所定間隔をあけて複数設けられているので、効率よく、かつ確実に歩道部22下の水Wを排水することができる。
【0051】
上述のように本実施形態による道路に対する液状化対策構造1では、車道部21の幅方向外側に位置し車道部21に隣接する歩道部22のみに対策工を行うことで、車道部21の交通規制を行うことなく車道部21及び歩道部22の液状化被害を低減することができ、液状化対策にかかるコストや工期を低減できる。
【0052】
次に、本発明の道路に対する液状化対策構造による他の実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
【0053】
(第2実施形態)
図5及び
図6に示すように、第2実施形態による道路に対する液状化対策構造1Aは、歩道部22(隣接地)の下方の液状化地盤Gに少なくとも一部が配置され、車道部21に沿って横に延びる排水管40(排水経路部)を備えている。排水管40は、液状化地盤Gから水Wが浸入可能な流入口40aを備え、液状化地盤Gから流入して管内を流通する水Wを路盤20の外方に排水する。
【0054】
排水管40は、歩道部22のうち車道部21寄りの位置に設けられている。排水管40は、
図5において四角形の断面形状であるが、とくに限定されることはなく、例えば円形断面であってもよい。
【0055】
排水管40は、上部が歩道部22内に配置され、中央から下部が歩道部22下の液状化地盤G内に配置されている。排水管40の流入口40aは、排水管40の上下方向中央部、すなわち液状化地盤Gに位置している。排水管40は、不図示の路盤20の外方に繋がる排水部を有し、排水管40内を通過する水Wが前記排水部を通じて路盤20の外方に排水される。排水管40は、所定の設置位置の歩道部22及び液状化地盤Gを掘削した掘削部に配置した後、埋戻すことにより設置される。
【0056】
流入口40aは、排水管40の左右両側壁に設けられ、排水管40の延在方向に所定間隔L2を開けて複数箇所に配置されている。流入口40a同士の間隔L2としては、車道部21の幅員や液状化地盤Gの層厚を考慮して決定されるが、例えば5~15m程度である。各流入口40aには、排水管40内に流入する水Wに含まれる砂の通過を規制するフィルター41が設けられている。これにより、排水管40内には、水Wのみを通過させて路盤20の外方に排水できる。なお、流入口40aは、排水管40の左右両側壁に設けられることに限定されず、左右いずれか一方の側壁に設けられていてもよい。
【0057】
このように、第2実施形態による液状化対策構造1Aでは、第1実施形態で示すドレーン30(
図1参照)のように液状化地盤G内の水Wの浸入箇所の直上で排水が困難な場合に、液状化地盤G内に一部が配置され水Wが浸入可能な排水管40を設けることで、路盤20における排水可能な位置まで排水管40を横に延ばして排水することができる。
【0058】
(第3実施形態)
図7及び
図8に示すように、第3実施形態による道路に対する液状化対策構造1Bの排水経路部50は、歩道部22(隣接地)の下方の液状化地盤Gに少なくとも一部が配置されたドレーン部51と、歩道部22の内部でドレーン部51の上端51aに接続されて横に延びる排水管路52と、を有する。
【0059】
ドレーン部51は、鉛直方向に延び、上端51aが歩道部22内に位置し、下端51bが歩道部22の下面22cよりも下方の液状化地盤G内に達するように配置されている。すなわち、ドレーン部51は、歩道部22の下方の液状化地盤Gと歩道部22内に埋設される排水管路52とを通水可能に接続し、透水性を有するとともに砂の通過を阻止する。
【0060】
図8に示すように、ドレーン部51は、歩道部22のうち車道部21寄りの位置に配置され、車道部21の延長方向に沿って所定間隔L3をあけて複数設けられる。ドレーン部51同士の間隔L3としては、車道部21の幅員や液状化地盤Gの層厚を考慮して決定されるが、例えば5~15m程度である。
【0061】
ドレーン部51は、例えば直径300mm以上であることが好ましい。ドレーン部51は、砂利や砂礫などの透水性を有する材料を敷設することにより形成され、砂の通過を規制するフィルターの機能を有する。ドレーン部51を構成する礫は、上述したフィルターの機能をもたせるために礫同士の間隙を小さくするため、例えば粒径2~5mmの砕石(7号砕石など)が採用される。ドレーン部51の目詰まりを防止するために、例えば下から5cm程度上までの範囲に礫径の小さな礫を詰めるようにしてもよい。なお、礫材として、同等の透水性能が得られるものであれば砕石や各種の人工透水性材料も採用可能である。例えばドレーン部51の透水係数は原地盤である液状化地盤Gよりも大きくする必要があり、例えば液状化地盤Gよりも2桁(100倍)程度以上大きくすることが好ましい。
【0062】
排水管路52は、ドレーン部51から水Wが浸入可能に設けられ、管内を流通する水Wを路盤20の外方に排水する。排水管路52は、全体が歩道部22内に埋設され、歩道部22のうち車道部21寄りの位置に設けられる。排水管路52の底面52aは、複数のドレーン部51の上端51aに通水可能に接続している。すなわち、排水管路52のドレーン部51との接続部が排水管路52内への水Wの流入口となる。排水管路52は、
図7において四角形の断面形状であるが、とくに限定されることはなく、例えば円形断面であってもよい。排水管路52は、不図示の路盤20の外方に繋がる排水部を有し、排水管路52内を通過する水Wが前記排水部を通じて路盤20の外方に排水される。
【0063】
排水経路部50は、上述したように歩道部22下の液状化地盤Gと路盤20の外方とを連通し、路盤20外への排水経路を確保するためのものである。排水経路部50は、車道部21及び歩道部22の下方の液状化地盤G内を上昇してきた水W(地下水)が歩道部22の下面22c付近に集まる水Wを排水経路部50のドレーン部51に取り込み、水Wのみをドレーン部51から排水管路52内を通過させて路盤20の外方に排出する。
【0064】
ドレーン部51及び排水管路52は、所定の設置位置の歩道部22及び液状化地盤Gを掘削した掘削部に形成、配置した後、埋戻すことにより設置される。
【0065】
第3実施形態による液状化対策構造1Bでは、排水経路部50における液状化地盤G内の水Wの浸入箇所の直上で排水が困難な場合に、液状化地盤G内に一部が配置され水が浸入可能なドレーン部51を設け、さらにドレーン部51に通水可能な排水管路52を設けることで、路盤20における排水可能な位置まで排水管路52を横に延ばして排水することができる。
【0066】
(第4実施形態)
図9及び
図10に示す第4実施形態による道路に対する液状化対策構造1Cは、歩道部などの隣接地がなく、私有地などの隣接地24に接する車道部21に適用される。すなわち、第4実施形態の液状化対策構造1Cは、排水経路部が私有地などの隣接地24内に設けられず、車道部21の幅方向外側の位置に設けられている。
【0067】
液状化対策構造1Cの排水経路部50Aは、上述した第3実施形態の
図7に示す排水経路部50と同様の構成である。排水経路部50Aは、車道部21の幅方向の道路端部21dにおいて路盤20の厚さよりも深い位置までドレーン部53を設置し、ドレーン部53内の水Wを排水管路54に導き排水する。すなわち、ドレーン部53は車道部21の下面21cよりも深部まで打設されている。
【0068】
このように第4実施形態による液状化対策構造1Cでは、道路端部21dにドレーン部53を設けることにより、隣接地24に水Wが流れ込む直前で排水を行うことができるので、上述した第3実施形態の液状化対策構造1Bのように歩道部22(
図7参照)で対策する構造と同様の効果を得ることができる。ここで、
図9に示す点線は、道路端部21dに排水経路部50Aが無い場合に水Wが隣接地24に流れ込む状態を示している。
なお、車道部21の道路端部21dに側溝などが既に敷設されている場合には、ドレーン部53を既設の側溝下に打設することで、既設の側溝を活用することも可能である。
【0069】
(第5実施形態)
図11に示すように、第5実施形態による道路に対する液状化対策構造1Dは、車道部21と歩道部22(隣接地)との間に側溝23が設けられる場合に適用される排水経路部60を備えている。側溝23の底面23aは、車道部21の下面21cよりも深い位置となっている。
【0070】
排水経路部60は、側溝23の下方を包み込むようにして車道部21の下方の液状化地盤Gから歩道部22の路面22aまで連続して礫材を敷いて形成されている。排水経路部60は、液状化地盤G内で側溝23の下部23bを覆うように形成される第1礫層部61と、歩道部22の下方の液状化地盤G内に形成される第2礫層部62と、第2礫層部62と歩道部22の路面22aとを通水可能に接続するドレーン部63と、を備える。第1礫層部61、第2礫層部62及びドレーン部63は、通水可能に連続して繋がっている。
【0071】
第1礫層部61は、少なくとも一部が車道部21下の液状化地盤Gに位置している。第2礫層部62は、歩道部22下の液状化地盤G内に形成され、第1礫層部61とドレーン部63とに接続されている。ドレーン部63は、歩道部22の下方の第2礫層部62と歩道部22の路面22aとを通水可能に接続し、透水性を有するとともに砂の通過を阻止する。
【0072】
第5実施形態による液状化対策構造1Dでは、車道部21の側部に側溝23がある場合であっても、側溝23の下部23bを包むように礫材を敷くことにより排水経路部60を形成することで、車道部21下の水Wを排水経路部60を通じて路盤20の外方に排水することができる。
【0073】
また、この場合には、車道部21と側溝23との境界部分が礫材からなる排水経路部60で覆われて保護された状態となるので、この境界部分における地震時の液状化被害も低減する効果が得られる。
【0074】
以上、本発明による道路に対する液状化対策構造および液状化対策方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0075】
例えば、本実施形態の排水経路部の構成(例えばドレーン30の高さ、直径、断面形状等)は、路盤20(車道部21、歩道部22)の厚さ、地盤条件などを考慮して適宜設定される。
【0076】
また、上記の実施形態では、隣接地として歩道部22を対象としているが、歩道部22であることに限定されず、歩道として機能しない通路やスペースからなる隣接地であってもよい。なお、隣接地(歩道部22)を含まない車道部21のみの路盤20を対象としてもよい。すなわち、路盤20は、少なくとも車道部21を有する構成であればよい。車道部21のみを路盤20とする場合、路盤20の幅方向外側の位置は、車道部21の側溝位置など車道の最も外側の部分となる。
【0077】
また、排水経路部を通じて水を排水する路盤20の外部は、路盤20の路面20aを含む部分であってもよい。
【0078】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0079】
1、1A、1B、1C、1D 液状化対策構造
20 路盤
20a 路面
21 車道部
21a 路面
21c 下面
22 歩道部(隣接地)
22a 路面
22b 穴
22c 下面
23 側溝
30 ドレーン(排水経路部)
31 蓋体
40 排水管(排水経路部)
40a 流入口
41 フィルター
50、50A、60 排水経路部
51、53 ドレーン部
52、54 排水管路
61 第1礫層部
62 第2礫層部
63 ドレーン部
G 液状化地盤
W 水