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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168988
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ガスバリア積層体及び包装袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/085 20060101AFI20241128BHJP
   B32B 15/12 20060101ALI20241128BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20241128BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20241128BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20241128BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B32B15/085 A
B32B15/12
B32B15/20
B32B27/10
B32B29/00
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086146
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】神永 純一
(72)【発明者】
【氏名】越山 良樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 里佳
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AC07
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA35
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB51
3E086CA01
3E086CA28
4F100AB10B
4F100AK70C
4F100AK70D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DE01C
4F100DE01D
4F100DG10A
4F100EH66B
4F100EJ65D
4F100GB23
4F100JD04B
4F100JL12C
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】紙を使用したガスバリア積層体であって、水蒸気バリア性が低下することを抑制することができるガスバリア積層体を提供すること。
【解決手段】紙基材と、アルミニウム蒸着層と、ヒートシール層と、をこの順序で備えるガスバリア積層体であって、ヒートシール層はカルボキシ基を有するポリオレフィンを含み、ヒートシール層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークの面積に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積の比が0.1以下である、ガスバリア積層体。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、アルミニウム蒸着層と、ヒートシール層と、をこの順序で備えるガスバリア積層体であって、
前記ヒートシール層はカルボキシ基を有するポリオレフィンを含み、
前記ヒートシール層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークの面積に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積の比が0.1以下である、ガスバリア積層体。
【請求項2】
前記カルボキシ基を有するポリオレフィンが、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体である、請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項3】
前記ヒートシール層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基の塩に由来するピークが検出されない、請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項4】
前記紙基材と前記アルミニウム蒸着層との間にアンカーコート層を更に備える、請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項5】
前記アンカーコート層はカルボキシ基を有するポリオレフィンを含み、
前記アンカーコート層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークの面積に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積の比が0.1以下である、請求項4に記載のガスバリア積層体。
【請求項6】
前記アンカーコート層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基の塩に由来するピークが検出されない、請求項4に記載のガスバリア積層体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のガスバリア積層体を含む包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア積層体及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料、医薬品及び化学品等の多くの分野では、それぞれの内容物に応じた包装材が使用されている。包装材は、内容物の変質の原因となる酸素及び水蒸気等の透過防止性(ガスバリア性)が求められる。
【0003】
近年、海洋プラスチックごみ問題等に端を発する環境意識の高まりから、脱プラスチックの機運が高まっている。プラスチック材料の使用量削減の観点から、種々の分野において、プラスチック材料の代わりに、紙を使用することが検討されている。例えば下記特許文献1では、紙にバリア層を積層するガスバリア積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-69783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、紙製の包装材において高いガスバリア性と高い遮光性とを実現するためには、紙基材にアルミニウム蒸着層を設けた積層体を用いることが考えられる。また、紙を使用したガスバリア積層体には、ヒートシールにより包装袋を形成できるようにするために、ヒートシール層が設けられる場合がある。ヒートシール層は、例えば、ポリオレフィンを水分散させた塗工液をアルミニウム蒸着層上に塗工し、乾燥することにより形成される。しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記のような構成を有するガスバリア積層体は、アルミニウムの腐食が生じ、水蒸気バリア性が低下しやすいことが判明した。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、紙を使用したガスバリア積層体であって、アルミニウムの腐食により水蒸気バリア性が低下することを抑制することができるガスバリア積層体、及びこれを含む包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、以下のガスバリア積層体及び包装袋を提供する。
[1]紙基材と、アルミニウム蒸着層と、ヒートシール層と、をこの順序で備えるガスバリア積層体であって、上記ヒートシール層はカルボキシ基を有するポリオレフィンを含み、上記ヒートシール層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークの面積に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積の比が0.1以下である、ガスバリア積層体。
[2]上記カルボキシ基を有するポリオレフィンが、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体である、上記[1]に記載のガスバリア積層体。
[3]上記ヒートシール層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基の塩に由来するピークが検出されない、上記[1]又は[2]に記載のガスバリア積層体。
[4]上記紙基材と上記アルミニウム蒸着層との間にアンカーコート層を更に備える、上記[1]~[3]のいずれかに記載のガスバリア積層体。
[5]上記アンカーコート層はカルボキシ基を有するポリオレフィンを含み、上記アンカーコート層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークの面積に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積の比が0.1以下である、上記[4]に記載のガスバリア積層体。
[6]上記アンカーコート層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基の塩に由来するピークが検出されない、上記[4]又は[5]に記載のガスバリア積層体。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載のガスバリア積層体を含む包装袋。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、紙を使用したガスバリア積層体であって、アルミニウムの腐食により水蒸気バリア性が低下することを抑制することができるガスバリア積層体、及びこれを含む包装袋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るガスバリア積層体を示す模式断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る包装袋を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、場合により図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<ガスバリア積層体>
ガスバリア積層体は、紙基材と、アルミニウム蒸着層と、ヒートシール層と、をこの順序で備えるガスバリア積層体であって、ヒートシール層はカルボキシ基を有するポリオレフィンを含み、ヒートシール層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークの面積に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積の比が0.1以下である。上記カルボキシ基は、無水物の状態(カルボン酸無水物基)であってもよい。
【0012】
上記構成を有するガスバリア積層体によれば、アルミニウムの腐食により水蒸気バリア性が低下することを抑制することができる。かかる効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように推察する。紙基材を用いたガスバリア積層体においてヒートシール層を形成する場合、臭気等の観点から、水系塗工液を用いることがほとんどである。ヒートシール層の代表的な材料はポリオレフィンであるが、ポリオレフィンは水に不溶であることから、オレフィンにアクリル酸やメタクリル酸を共重合させてカルボキシ基を導入し、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を用いてカルボキシ基の金属塩等を形成して水に分散させた水系塗工液が用いられている。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、過剰な水酸化ナトリウムや水酸化カリウムがヒートシール層中に残存していると、ヒートシール層がアルカリ性を呈し、両性化合物であるアルミニウム蒸着層を腐食する傾向があることを見出した。これにより、アルミニウム蒸着層に抜け等の欠陥が生じて水蒸気バリア性の低下や遮光性の低下といった問題が生じることとなる。これに対し、例えば、カルボキシ基にアンモニアを用いてカルボキシ基のアンモニウム塩とし、水に分散させた水系塗工液を用いると、乾燥工程では、塗工液中に過剰に含まれるアンモニアが揮発するため、ヒートシール層は中性となる。さらにアンモニウム塩から脱離したアンモニアも揮発するため、カルボキシ基を多く有するヒートシール層となる。すなわち、ヒートシール層のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークの面積(ACOOH)に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積(ACOOX)の比(ACOOX/ACOOH)を0.1以下とすることで、ヒートシール層が中性を呈し、アルミニウム蒸着層を腐食することを抑制することができ、水蒸気バリア性及び遮光性が低下することを抑制することができる。なお、上記ACOOXは、例えば、ヒートシール層の形成に使用する材料や成膜条件等を調整し、ヒートシール層へのカルボキシ基の塩の残存を抑制することで低減することができる。上記ACOOXを低減することで、ピーク面積比(ACOOX/ACOOH)を低くすることができる。
【0013】
IRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークは、1700cm-1付近に現れ、カルボキシ基の塩に由来するピークは、塩の種類にもよるが、概ね1490~1620cm-1の間に現れる。例えば、カルボキシ基のナトリウム塩、及び、カルボキシ基のカリウム塩に由来するピークは、1540cm-1付近に現れる。カルボキシ基のアンモニウム塩に由来するピークは、1520cm-1付近に現れる。このようなピークの面積を求めることで、カルボキシ基に由来するピークの面積(ACOOH)及びカルボキシ基の塩に由来するピークの面積(ACOOX)を得ることができる。
【0014】
図1は、一実施形態に係るガスバリア積層体を示す模式断面図である。一実施形態に係るガスバリア積層体10は、紙基材1と、アンカーコート層2と、アルミニウム蒸着層3と、ヒートシール層4とをこの順に備える。なお、ガスバリア積層体は、アンカーコート層2を備えなくてもよい。以下、各層について説明する。
【0015】
(紙基材)
紙基材1としては、特に限定されるものではなく、ガスバリア積層体10が適用される包装袋の用途に応じて適宜選択すればよい。紙基材1は、植物由来のパルプを主成分としている紙であってよい。紙基材1の具体例として、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙及びクラフト紙、グラシン紙が挙げられる。紙基材1の厚さ(坪量)は、例えば、20~500g/m、30~100g/mであってよい。
【0016】
紙基材1には、少なくとも後述するアンカーコート層2と接する側にコート層を設けてあってもよい。コート層を設けることで、紙にアンカーコート層が染み込むことを防ぐことができるほか、紙の凹凸を埋める目止めの役割を果たすこともでき、アンカーコート層を欠陥なく均一に製膜することができる。コート層には、例えば、バインダー樹脂として、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、などの各種共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、パラフィン(WAX)等を用い、填料としてクレー、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等が含まれていてもよい。
【0017】
コート層の厚さは、特に制限されるものではないが、例えば、1~10μm、又は3~8μmであってよい。
【0018】
紙の質量は、ガスバリア積層体全体を基準として、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。紙の質量がガスバリア積層体全体を基準として、50質量%以上であれば、プラスチック材料の使用量を十分に削減することができ、ガスバリア積層体全体として紙製であるということができるとともに、リサイクル性に優れる。
【0019】
(アンカーコート層)
アンカーコート層2は、必要に応じて紙基材1の表面上に設けられ、紙基材1と後述するアルミニウム蒸着層3(以下、単に「蒸着層3」ともいう)との間の密着性向上や、ガスバリア積層体のガスバリア性の向上のために設けられるものである。
【0020】
アンカーコート層2は、極性基を有するポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、及び、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでいてよい。また、水蒸気バリア性の低下をより抑制する観点から、アンカーコート層2は、極性基を有するポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、及び、アクリルウレタン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含んでいてもよい。
【0021】
アンカーコート層2が極性基を有するポリオレフィンを含む場合、アンカーコート層2は柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)に後述する蒸着層3の割れを抑制することができるとともに、アンカーコート層2と蒸着層3との密着性を向上させることができる。さらに、アンカーコート層2が極性基を有するポリオレフィンを含むことで、ポリオレフィンの結晶性による緻密な膜の形成が可能であり、水蒸気バリア性が発現する。ポリオレフィンの結晶性により水蒸気バリア性が発現し、極性基を有することで蒸着層3との密着が発現する。
【0022】
極性基を有するポリオレフィンは、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、カルボン酸無水物基及びカルボン酸エステルより選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。
【0023】
極性基を有するポリオレフィンとして、エチレンやプロピレンに、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等カルボキシ基を有する不飽和化合物)や、不飽和カルボン酸エステルを共重合したもの、及びカルボン酸を塩基性化合物で中和した塩などを用いてもよく、その他、酢酸ビニル、エポキシ系化合物、塩素系化合物、ウレタン系化合物、ポリアミド系化合物等と共重合したものなどを用いてもよい。
【0024】
極性基を有するポリオレフィンとして、具体的には、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、アクリル酸エステルと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0025】
アンカーコート層2は、上述した樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、上記極性基を有するポリオレフィン以外のポリオレフィン、シランカップリング剤、有機チタネート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、メラミン、フェノール等が挙げられる。
【0026】
アンカーコート層2の厚さは、例えば、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、20μm以下であってよく、10μm以下であってよく、5μm以下であってよい。アンカーコート層2の厚さが1μm以上であれば、上述した紙基材の凹凸を効率的に埋めることができ、後述する蒸着層を均一に積層させることができる。また、アンカーコート層2の厚さが20μm以下であれば、コストを抑えつつ蒸着層を均一に積層させることができる。
【0027】
アンカーコート層2の塗液に含まれる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、特性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また環境の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。
【0028】
アンカーコート層2が、極性基としてカルボキシ基を有するポリオレフィンを含む場合、アンカーコート層2のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークの面積(ACOOH)に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積(ACOOX)の比(ACOOX/ACOOH)は、0.1以下であってよく、0.05以下であってよく、0.03以下であってよい。ピーク面積比(ACOOX/ACOOH)の下限値は特に限定されないが、例えば0.001以上であってもよい。また、アンカーコート層2のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基の塩に由来するピークが検出されなくてもよい。アンカーコート層2が上記の条件を満たすことで、アンカーコート層2により蒸着層3が腐食することを抑制でき、水蒸気バリア性が低下することをより抑制することができる。
【0029】
アンカーコート層2は、紙基材上に、上述した樹脂及び溶媒を含む塗液を塗布し、乾燥させることで得ることができる。アンカーコート層2の材料として、カルボキシ基を有するポリオレフィンを用いる場合、上記塗液としては、カルボキシ基のアンモニウム塩を有するポリオレフィンの水分散液を用いることが好ましい。上記水分散液を用いた場合、塗膜の乾燥時にアンモニアが揮発しやすいため、アンカーコート層2は中性になる。そのため、アンカーコート層2により蒸着層3が腐食することを抑制でき、水蒸気バリア性が低下することをより抑制することができる。
【0030】
塗液の乾燥温度は、105~160℃であることが好ましく、110~155℃であることがより好ましく、120~150℃であることが更に好ましく、125~145℃であることが特に好ましい。乾燥温度を上記下限値以上とすることで、アンカーコート層2の材料としてカルボキシ基を有するポリオレフィンを用いた場合に、アンカーコート層2にアルカリ性であるアンモニアが残存しにくくなる。そのため、アンカーコート層2により蒸着層3が腐食することを抑制でき、水蒸気バリア性が低下することをより抑制することができる。一方、乾燥温度を上記上限値以下とすることで、紙の急激な収縮によるシワなどの外観不良の発生を抑制できる。また、塗膜の乾燥時間は、例えば0.1~5分であってよく、1~3分であってよい。
【0031】
(アルミニウム蒸着層)
蒸着層3は、アルミニウムを蒸着して得られたものである。アルミニウムは、酸化アルミニウム(AlO)を含んでいてもよい。
【0032】
蒸着層3の厚さは、使用用途によって適宜設定すればよいが、好ましくは10~300nmであり、より好ましくは30~100nmである。蒸着層3の厚さを10nm以上とすることで蒸着層3の連続性を十分なものとしやすく、300nm以下とすることでカールやクラックの発生を十分に抑制でき、十分なガスバリア性能及び可撓性を達成しやすい。
【0033】
蒸着層3は、真空成膜手段によって成膜することが、酸素ガスバリア性能や膜均一性の観点から好ましい。成膜手段には、真空蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長法(CVD法)などの公知の方法があるが、成膜速度が速く生産性が高いことから真空蒸着法が好ましい。また真空蒸着法の中でも、特に電子ビーム加熱による成膜手段は、成膜速度を照射面積や電子ビーム電流などで制御しやすいことや蒸着材料への昇温降温が短時間で行えることから有効である。
【0034】
(ヒートシール層)
ヒートシール層4は、蒸着層3の表面上に、蒸着層3に接するように設けられるもので、カルボキシ基を有するポリオレフィンを含む。
【0035】
カルボキシ基を有するポリオレフィンとしては、エチレンやプロピレンに、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等カルボキシ基を有する不飽和化合物)や、不飽和カルボン酸エステルを共重合したもの、及びカルボン酸を塩基性化合物で中和した塩などを用いてもよく、その他、酢酸ビニル、エポキシ系化合物、塩素系化合物、ウレタン系化合物、ポリアミド系化合物等と共重合したものなどを用いてもよい。
【0036】
カルボキシ基を有するポリオレフィンとして、具体的には、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(エチレン-アクリル酸共重合体及びエチレン-メタクリル酸共重合体)、エチレン-無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0037】
このようなヒートシール層4は、柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)に蒸着層の割れを抑制することができるとともに、蒸着層との密着性に優れる。さらに、上述したカルボキシ基を有するポリオレフィンを含むことで、ポリオレフィンの結晶性による緻密な膜の形成が可能であり、水蒸気バリア性が発現する。また、極性基であるカルボキシ基を有することで蒸着層との密着が発現する。また、ヒートシール層4は、上記カルボキシ基を有するポリオレフィンを含むことで、ヒートシール層として機能する。
【0038】
ヒートシール層4には、上記カルボキシ基を有するポリオレフィン以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、上記カルボキシ基を有するポリオレフィン以外のポリオレフィン、シランカップリング剤、有機チタネート、ポリアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリイミド、メラミン、フェノール等が挙げられる。
【0039】
ヒートシール層4におけるカルボキシ基を有するポリオレフィンの含有量は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0040】
ヒートシール層4の厚さは、例えば、0.05μm以上であってよく、0.5μm以上であってよく、1μm以上であってよく、20μm以下であってよく、10μm以下であってよく、5μm以下であってよい。ヒートシール層4の厚さが0.05μm以上であれば、上述したヒートシール層としての役割を十分に発揮することができる。また、ヒートシール層4の厚さが20μm以下であれば、コストを抑えつつ蒸着層との密着性やバリア性を十分に発揮することができる。
【0041】
ヒートシール層4の塗液に含まれる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、特性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また環境の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。
【0042】
ヒートシール層4のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基に由来するピークの面積(ACOOH)に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積(ACOOX)の比(ACOOX/ACOOH)は、0.1以下であり、0.05以下であってよく、0.03以下であってよい。ピーク面積比(ACOOX/ACOOH)の下限値は特に限定されないが、例えば0.001以上であってもよい。また、ヒートシール層4のIRスペクトルにおいて、カルボキシ基の塩に由来するピークが検出されなくてもよい。ヒートシール層4が上記の条件を満たすことで、ヒートシール層4により蒸着層3が腐食することを抑制でき、水蒸気バリア性が低下することを抑制することができる。
【0043】
ヒートシール層4は、蒸着層上に、上述したカルボキシ基を有するポリオレフィン及び溶媒を含む塗液を塗布し、乾燥させることで得ることができる。上記塗液としては、カルボキシ基のアンモニウム塩を有するポリオレフィンの水分散液を用いることが好ましい。上記水分散液を用いた場合、塗膜の乾燥時にアンモニアが揮発しやすいため、ヒートシール層4にアルカリ性物質が残存しにくくなり、ヒートシール層4は中性となる。そのため、ヒートシール層4により蒸着層3が腐食することを抑制でき、水蒸気バリア性が低下することをより抑制することができる。
【0044】
塗液の乾燥温度は、105~160℃であることが好ましく、110~155℃であることがより好ましく、120~150℃であることが更に好ましく、125~145℃であることが特に好ましい。乾燥温度を上記下限値以上とすることで、ヒートシール層4にアルカリ性物質が残存しにくくなる。そのため、ヒートシール層4により蒸着層3が腐食することを抑制でき、水蒸気バリア性が低下することをより抑制することができる。一方、乾燥温度を上記上限値以下とすることで、紙の急激な収縮によるシワなどの外観不良の発生を抑制できる。また、塗膜の乾燥時間は、例えば0.1~5分であってよく、1~3分であってよい。
【0045】
アンカーコート層2がカルボキシ基を有するポリオレフィンを含む場合、アンカーコート層2及びヒートシール層4に含まれるカルボキシ基を有するポリオレフィンは、同種のものであっても異種のものであってもよいが、製造の容易性等を考慮すれば、同種のものであってもよい。
【0046】
<包装袋>
図2は、ガスバリア積層体10からなるガゼット袋20を示す斜視図である。ガゼット袋20の上部の開口部をシールすることで包装袋が製造される。ガゼット袋20はガスバリア積層体10が折り曲げられている箇所(折り曲げ部B1,B2)を有する。折り曲げ部B1は、最内層側からみてガスバリア積層体10が谷折りされている箇所であり、他方、折り曲げ部B2は、最内層側からみてガスバリア積層体10が山折りされている箇所である。
【0047】
包装袋は、1枚のガスバリア積層体をヒートシール層4が対向するように二つ折りにした後、所望の形状になるように適宜折り曲げてヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよく、2枚のガスバリア積層体をヒートシール層4が対向するように重ねた後、ヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよい。
【0048】
本実施形態に係る包装袋において、ヒートシール強度は、2N以上であってよく、4N以上であってよい。なお、ヒートシール強度の上限値は特に制限されるものではないが、例えば10N以下であってよい。
【0049】
包装袋は、内容物として、食品、医薬品等の内容物を収容することができる。特に食品として、お菓子等を収容するのに適している。本実施形態に係る包装袋は、水蒸気バリア性が低下することを抑制することができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、包装袋の一例としてガゼット袋を挙げたが、本実施形態に係るガスバリア積層体を使用して、例えば、ピロー袋、三方シール袋又はスタンディングパウチを作製してもよい。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0052】
<ガスバリア積層体の作製>
(実施例1)
紙基材(コート紙、坪量55g/m)の表面上に、カルボキシ基のアンモニウム塩を有するポリオレフィンの水分散液(住友精化株式会社製、商品名:ザイクセンAC、粒径:0.2μm未満、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:20質量%)をグラビアーターで乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工速度200m/minで塗工した。次いで、塗膜をオーブン中、125℃で3分間乾燥させ、アンカーコート層を形成した。
【0053】
続いて、アンカーコート層上に真空蒸着法にてAL蒸着を施し、厚さ50nmのAL蒸着層(アルミニウム蒸着層)を形成した。その後、AL蒸着層上に、カルボキシ基のアンモニウム塩を有するポリオレフィンの水分散液(住友精化株式会社製、商品名:ザイクセンAC、粒径:0.2μm未満、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:20質量%)をグラビアーターで乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工速度200m/minで塗工した。次いで、塗膜をオーブン中、125℃で3分間乾燥させ、ヒートシール層を形成した。これにより、紙基材/アンカーコート層/AL蒸着層/ヒートシール層の積層構造を有するガスバリア積層体を得た。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同様にして、紙基材上にアンカーコート層及びAL蒸着層を形成した。その後、AL蒸着層上に、カルボキシ基のナトリウム塩を有するポリオレフィンの水分散液(三井化学株式会社製、商品名:ケミパールS100、粒径:0.1μm未満、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:20質量%)をグラビアーターで乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工速度200m/minで塗工した。次いで、塗膜をオーブン中、125℃で3分間乾燥させ、ヒートシール層を形成した。これにより、紙基材/アンカーコート層/AL蒸着層/ヒートシール層の積層構造を有するガスバリア積層体を得た。
【0055】
<IRスペクトルの測定>
実施例及び比較例で得られたガスバリア積層体のヒートシール層について、フーリエ変換赤外分光光度計(Perkin Elmer社製、商品名:Frontier)を用いてIRスペクトルを測定した。1700cm-1付近を極大として現れるカルボキシ基のピークについて、1620~1770cm-1間のピーク面積を、カルボキシ基に由来するピークの面積(ACOOH)として求めた。一方、1520~1540cm-1付近を極大として現れるカルボキシ基の塩のピークについて、1490~1620cm-1間のピーク面積を、カルボキシ基の塩に由来するピークの面積(ACOOX)として求めた。これらの結果から、カルボキシ基に由来するピークの面積に対するカルボキシ基の塩に由来するピークの面積の比(ACOOX/ACOOH)を算出した。結果を表1に示す。なお、実施例1及び比較例1におけるアンカーコート層のピーク面積比(ACOOX/ACOOH)は、実施例1におけるヒートシール層のピーク面積比(ACOOX/ACOOH)と同等である。
【0056】
<水蒸気透過度(WVTR)の測定>
実施例及び比較例で得られたガスバリア積層体の40℃、90%RHの雰囲気下での水蒸気透過度(g/m・day)を、JIS K7129に準拠し、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製、商品名:PERMATRAN 3/34G)を用いて測定した。この結果を、初期のガスバリア積層体の水蒸気透過度として表1に示す。
【0057】
<加速試験後の水蒸気透過度(WVTR)の測定>
実施例及び比較例で得られたガスバリア積層体を40℃、90%RHの環境下に保管する加速試験を行った。7日間保管後、及び、21日間保管後のガスバリア積層体について、上記と同様の方法で水蒸気透過度を測定した。また、7日間保管後、及び、21日間保管後の水蒸気透過度を初期の水蒸気透過度で除した値を、水蒸気バリア性の劣化度として求めた。劣化度が小さいほど、水蒸気バリア性の低下が抑制されていることとなる。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示した通り、比較例1のピーク面積比(ACOOX/ACOOH)は0.1超であったのに対し、実施例1のピーク面積比(ACOOX/ACOOH)は0.1以下であり、ガスバリア積層体を高湿環境下で長期間保管した場合でも、水蒸気バリア性の低下が抑制されていることが確認された。比較例1では、カルボキシ基の塩に由来するピークとして、主にカルボキシ基のナトリウム塩(COONa)のピークが検出され、ACOOXが大きくなった。比較例1では、ヒートシール層を形成する際の乾燥時に塗膜から水酸化ナトリウムが揮発せず、カルボキシ基のナトリウム塩(COONa)が多く残存したものと考えられる。これに対し、実施例1では、ヒートシール層を形成する際の乾燥時に塗膜からアンモニアが揮発し、カルボキシ基のアンモニウム塩(COONH)がカルボキシ基(COOH)に変化したため、ACOOXが小さくなったと考えられる。
【符号の説明】
【0060】
1…紙基材、2…アンカーコート層、3…アルミニウム蒸着層、4…ヒートシール層、10…ガスバリア積層体、20…ガゼット袋、B1,B2…折り曲げ部。
図1
図2