(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168989
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】転動案内装置
(51)【国際特許分類】
F16C 29/04 20060101AFI20241128BHJP
F16N 9/04 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F16C29/04
F16N9/04
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086147
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003742
【氏名又は名称】弁理士法人海田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 良寛
(72)【発明者】
【氏名】今村 勇翔
(72)【発明者】
【氏名】金子 亮太
【テーマコード(参考)】
3J104
【Fターム(参考)】
3J104AA15
3J104AA34
3J104AA65
3J104AA69
3J104AA73
3J104AA76
3J104AA77
3J104BA80
3J104CA01
3J104CA13
3J104CA23
3J104CA24
3J104DA05
3J104DA06
3J104EA01
3J104EA07
(57)【要約】
【課題】転動体の転動体転動面に対して潤滑剤を塗布する機構を改良する。
【解決手段】転動案内装置10を構成する移動部材21の長手方向の端部には、板状のエンドプレート51と、エンドプレート51の外方面側に取り付けられた給脂ニップル52と、エンドプレート51の内方面側に取り付けられた潤滑剤タンク55と、が設置され、潤滑剤タンク55は、常には転動体31との間に隙間を有しており、使用者が給脂ガンを給脂ニップル52に押し付けて潤滑剤封入を行うときには、給脂ガンの押付力によってエンドプレート51が弾性変形することで潤滑剤タンク55と転動体31とが隙間なく接触した状態となって転動体31に対する潤滑剤の塗布が行われる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる長尺の部材であって、外部部材との取付基準となる取付面部と、当該取付面部の両端のそれぞれから一方に向けて立設される一対の壁部と、によって形成される軌道部材と、
前記軌道部材の長手方向に沿って往復移動可能に設置される移動部材と、
前記軌道部材と前記移動部材の間であって、前記軌道部材を形成する前記取付面部と前記一対の壁部とで囲まれた空間の内部に転動自在に配置されることで、前記軌道部材に対する前記移動部材の相対的な往復移動を案内する複数の転動体と、
を備え、
前記一対の壁部の対向した壁面のそれぞれには、前記転動体の転動体外周面と接触する転動体転動面が形成される転動案内装置において、
前記移動部材の長手方向の端部には、
板状のエンドプレートと、
前記エンドプレートの外方面側に取り付けられた給脂ニップルと、
前記エンドプレートの内方面側に取り付けられた潤滑剤タンクと、
が設置され、
前記潤滑剤タンクは、常には前記転動体との間に隙間を有しており、
使用者が給脂ガンを前記給脂ニップルに押し付けて潤滑剤封入を行うときには、前記給脂ガンの押付力によって前記エンドプレートが弾性変形することで前記潤滑剤タンクと前記転動体とが隙間なく接触した状態となって前記転動体に対する潤滑剤の塗布が行われることを特徴とする転動案内装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転動案内装置において、
前記潤滑剤タンクは、前記転動体と接触したときに、前記転動体との間で潤滑剤溜りを形成する溝形状部を有していることを特徴とする転動案内装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の転動案内装置において、
前記エンドプレートは、前記移動部材の長手方向の端部との設置箇所に対して、弾性変形のための変形用隙間を有した状態で固定されていることを特徴とする転動案内装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の転動案内装置において、
前記エンドプレートは、外表面に弾性変形のための変形用溝を有していることを特徴とする転動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動案内装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テーブル等の移動体の直線運動や曲線運動を案内するための機械要素として、案内部分にホイール、ボール、ローラ等の転動体を介在させた転動案内装置は、軽快な動きが得られるので、ロボット、工作機械、半導体・液晶製造装置、医療機器、開閉装置等、様々な分野で利用されている。
【0003】
この種の転動案内装置を使用する際には、良好な潤滑、すなわち、転動体と転動体転動面の間に油脂の膜を作り、金属と金属が直接接触するのを防ぐ必要がある。無給脂のままで使用すると、転動体および転動体転動面の摩耗が増加し、早期寿命の原因となるからである。
【0004】
転動案内装置の潤滑剤給脂方法には種々の方式が存在するが、例えば、転動案内装置の移動部材に取り付けられた給脂ニップルを経由して給脂が行われるものがある。一般的には、移動部材の長手方向の両端面に取り付けられるエンドプレートに対して給脂ニップルが取り付けられるとともに、この給脂ニップルと転動体循環経路とを繋げる潤滑剤供給経路が移動部材の内部および移動部材の端面と接触する側に形成されており、給脂ニップルに対してオイルやグリース等の潤滑剤を給脂すると、潤滑剤供給経路を介して潤滑剤が転動体に塗布される。そのような転動案内装置を開示する先行技術文献として、例えば、下記特許文献1等が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上掲した特許文献1に代表される従来技術に係る転動案内装置の給脂構造は、グリース等の潤滑剤を転動体の転動体転動面に塗布する際に給脂ニップルから複雑な経路を通じて潤滑剤を給脂する構造を採用しているので、構成部品の構造が複雑化し、金型製作の費用や潤滑剤が部品間で漏れたりするなど、コスト面や運用面での課題が存在していた。
【0007】
また、従来技術では、転動体の適切な部位に適切な量の潤滑剤を塗布することが難しいので、例えば、転動体転動面に必要な潤滑剤が塗布されなかった場合には、摺動抵抗に大きな影響を与えてしまい、転動案内装置の装置寿命に悪影響を及ぼすことが考えられる。逆に、転動体転動面に必要以上の潤滑剤が塗布されてしまった場合には、環境悪化や運用コストの増加などの悪影響も発生する。
【0008】
本発明は、上述した従来技術に存在する課題に鑑みて成されたものであって、転動案内装置を構成する転動体の転動体転動面に対して潤滑剤を塗布するための構成部品の構造を簡略化することで製造コストを低減し、また、転動体の適切な部位に適切な量の潤滑剤を塗布することで転動案内装置の安定した稼働状態を維持し、さらに、塗布する潤滑剤の無駄をなくすことで環境面と運用コスト面に優れた転動案内装置を実現することを発明の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る転動案内装置は、長手方向に延びる長尺の部材であって、外部部材との取付基準となる取付面部と、当該取付面部の両端のそれぞれから一方に向けて立設される一対の壁部と、によって形成される軌道部材と、前記軌道部材の長手方向に沿って往復移動可能に設置される移動部材と、前記軌道部材と前記移動部材の間であって、前記軌道部材を形成する前記取付面部と前記一対の壁部とで囲まれた空間の内部に転動自在に配置されることで、前記軌道部材に対する前記移動部材の相対的な往復移動を案内する複数の転動体と、を備え、前記一対の壁部の対向した壁面のそれぞれには、前記転動体の転動体外周面と接触する転動体転動面が形成される転動案内装置であって、前記移動部材の長手方向の端部には、板状のエンドプレートと、前記エンドプレートの外方面側に取り付けられた給脂ニップルと、前記エンドプレートの内方面側に取り付けられた潤滑剤タンクと、が設置され、前記潤滑剤タンクは、常には前記転動体との間に隙間を有しており、使用者が給脂ガンを前記給脂ニップルに押し付けて潤滑剤封入を行うときには、前記給脂ガンの押付力によって前記エンドプレートが弾性変形することで前記潤滑剤タンクと前記転動体とが隙間なく接触した状態となって前記転動体に対する潤滑剤の塗布が行われることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転動案内装置を構成する転動体の転動体転動面に対して潤滑剤を塗布するための構成部品の構造を簡略化することで製造コストを低減することができ、また、転動体の適切な部位に適切な量の潤滑剤を塗布することで転動案内装置の安定した稼働状態を維持することができ、さらに、塗布する潤滑剤の無駄をなくすことで環境面と運用コスト面に優れた転動案内装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る転動案内装置を前方右斜め上から見た場合の斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る転動案内装置を構成する移動スライダを後方右斜め上から見た場合の斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る転動案内装置を正面側から見た場合の透視図である。
【
図4】本実施形態に係る転動案内装置を左側面側から見た場合の透視図である。
【
図5】本実施形態に係る転動案内装置の分解斜視図である。
【
図6】本実施形態に係る移動スライダを構成するエンドプレート、給脂ニップルおよび潤滑剤タンクを説明するための斜視図である。
【
図7】本実施形態に係る潤滑剤タンクの構成を説明するための図であり、図中の分図(a)は本実施形態に係る転動案内装置において潤滑剤タンクが設置された周辺の部位を示す部分斜視図であり、分図(b)は分図(a)からホイールを取り除いた状態を示す部分斜視図であり、分図(c)は本実施形態に係る潤滑剤タンク単体を示す斜視図である。
【
図8】本実施形態に係るエンドプレートが弾性変形する様子を示した底面図である。
【
図9】本実施形態に係る転動案内装置においてエンドプレートが弾性変形して潤滑剤タンクがホイールに接触する様子を説明するための部分背面図であり、図中の分図(a)はエンドプレートが弾性変形する前の様子を示しており、分図(b)はエンドプレートが弾性変形した後の様子を示している。
【
図10】本実施形態に係る転動案内装置において潤滑剤タンクからホイールに対して潤滑剤が塗布される状態を説明するための横断面図である。
【
図11】本実施形態に係る転動案内装置において潤滑剤タンクからホイールに対して潤滑剤が塗布される状態を底面側から見た場合の模式図である。
【
図12】本実施形態に係る転動案内装置が備えるエンドプレートと潤滑剤タンクの作用効果を説明するために移動スライダの要部を示した部分底面図である。
【
図13】本発明に係るエンドプレートに適用可能な改良構造を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
まず、
図1~
図4を用いて、本実施形態に係る転動案内装置10の基本構成を説明する。ここで、
図1は、本実施形態に係る転動案内装置を前方右斜め上から見た場合の斜視図であり、
図2は、本実施形態に係る転動案内装置を構成する移動スライダを後方右斜め上から見た場合の斜視図である。また、
図3は、本実施形態に係る転動案内装置を正面側から見た場合の透視図であり、
図4は、本実施形態に係る転動案内装置を左側面側から見た場合の透視図である。なお、本明細書では、説明の便宜のために、
図1~
図4で示すように転動案内装置10の方向を定義した。ただし、この方向は、本実施形態に係る転動案内装置10の使用時の方向を示すものではなく、本実施形態に係る転動案内装置10は、あらゆる姿勢で使用することができる。つまり、
図1~
図4で示した「前、後、上、下、左、右」の方向は、あくまで説明の便宜のために決定したものである。
【0014】
図1~
図4に示されるように、本実施形態に係る転動案内装置10は、軌道部材としての軌道レール11と、軌道レール11の長手方向(すなわち、
図1~
図3における左右方向)に沿って往復移動可能に設置される移動部材としての移動スライダ21と、軌道レール11と移動スライダ21の間に転動自在な状態で配置される複数の転動体としての3個のホイール31と、を有して構成されている。
【0015】
軌道レール11は、長手方向に延びる断面略C字形をした長尺の部材である。
図4に示されるように、本実施形態の軌道レール11は、側面視において、上下方向に延びて形成される取付面部12と、この取付面部12の上方端から前方に延びて形成される本発明に係る壁部としての上方壁部13と、取付面部12の下方端から前方に延びて形成される本発明に係る壁部としての下方壁部14と、を有している。
【0016】
上方壁部13の下面側には、ホイール31のホイール外周面(本発明の転動体外周面)と接触する本発明に係る転動体転動面としてのホイール上方転動面13aが形成されている。同様に、下方壁部14の上面側には、ホイール31のホイール外周面(本発明の転動体外周面)と接触する本発明に係る転動体転動面としてのホイール下方転動面14aが形成されている。ホイール上方転動面13aとホイール下方転動面14aは、側面視において対向配置されている。そして、取付面部12と上方壁部13と下方壁部14とによって囲まれた内部空間15(本発明に係る空間の内部)の中に、3個のホイール31が転動自在な状態で配置されている。
【0017】
本実施形態の軌道レール11は、金属材料を引き抜き加工によって塑性変形させることで、上述した外郭形状を形成している。ただし、軌道レール11の形成方法は引き抜き加工に限られるものではない。例えば、金属材料に対して研削加工や切削加工などを行うことで外観形状を形成してもよいし、金属材料を引き抜き加工によって塑性変形させた後、熱処理加工を行うことで表面硬さや内部品質を制御した上で、研削加工などを行って外郭形状を形成してもよい。つまり、本発明の軌道部材である軌道レール11については、あらゆる加工方法を用いて外郭形状を形成することができる。
【0018】
また、本実施形態の軌道レール11は、転動案内装置10の取付基準となる部材である。そのため、本実施形態では、軌道レール11を構成する取付面部12に対してボルト孔などの取付孔12aを形成することで、この取付孔12aを利用してベースや扉枠などの取付基準面に対する軌道レール11の固定設置を行うことができる。
【0019】
移動スライダ21は、
図1および
図2において示されるように、概略矩形形状をしたブロック状の部材であり、軌道レール11の長手方向に沿って往復移動可能に設置されるものである。本実施形態の移動スライダ21には、後面側に3個のホイール31が転動自在な状態で配置されている。また、移動スライダ21の前面側には、転動案内装置10によって案内移動される可動部材を設置することができる。なお、本実施形態に係る転動案内装置10では、軌道レール11をベースや扉枠などの取付基準面に対して固定設置し、移動スライダ21が軌道レール11に対して往復移動可能に設置される実施形態例を示しているが、本発明の範囲はこれに限られず、例えば、移動スライダ21を取付基準面に固定し、軌道レール11が移動スライダ21に対して往復移動可能としてもよい。
【0020】
ホイール31は、軌道レール11と移動スライダ21の間であって軌道レール11を構成する略C字形の内部空間15に転動自在に配置されることで、軌道レール11に対する移動スライダ21の相対的な往復移動を案内する部材である。
【0021】
より具体的には、本実施形態のホイール31は、移動スライダ21の後面側に3個のホイール31が転動自在な状態で配置されている。そして、
図3および
図4を対比参照して明らかなように、3個のホイール31のうち、中央に位置する1個のホイール31については、ホイール上方転動面13aに接するとともにホイール下方転動面14aとは接触せずに隙間を有するように配置されている。一方、3個のホイール31のうち、左右に位置する2個のホイール31は、ホイール下方転動面14aに接するとともにホイール上方転動面13aとは接触せずに隙間を有するように配置されている。このように、3個のホイール31の位置が正面視で上下方向に互い違いになるように配置することで、例えば、
図3において移動スライダ21が軌道レール11に対して紙面右側に移動したときには、中央に位置する1個のホイール31は、
図3の紙面に対して反時計回りに回転し、左右に位置する2個のホイール31は、
図3の紙面に対して時計回りに回転することとなる。また逆に、
図3において移動スライダ21が軌道レール11に対して紙面左側に移動したときには、中央に位置する1個のホイール31は、
図3の紙面に対して時計回りに回転し、左右に位置する2個のホイール31は、
図3の紙面に対して反時計回りに回転することとなる。このように、3個のホイール31を正面視で上下方向に互い違いになるように配置することで、軌道レール11の長手方向に沿って相対的な直線移動を行う移動スライダ21は、モーメント荷重を適切に受けながら好適な往復直線移動を行うことが可能となる。
【0022】
なお、
図1~
図4で示す本実施形態では、中央に位置する1個のホイール31がホイール上方転動面13aに接するように配置されるとともに、左右に位置する2個のホイール31がホイール下方転動面14aに接するように配置される構成例を示した。しかし、本発明の範囲はこれに限られず、例えば、本実施形態とは逆の配置構成である、中央に位置する1個のホイール31がホイール下方転動面14aに接するように配置されるとともに、左右に位置する2個のホイール31がホイール上方転動面13aに接するように配置される構成を採用してもよい。
【0023】
また、本発明では、ホイール31が移動スライダ21の後面側に対して4個以上配置される構成例を採用することも可能であるが、この構成例の場合には、隣り合うホイール31がホイール上方転動面13aとホイール下方転動面14aに互い違いに接触するように配置することが好ましい。
【0024】
さらに、本発明におけるホイールとは、回転軸に対して回転自在な状態で取り付けられた車輪部材であって、相手部材との転動接触面が、水平面、凸状の曲面、凹状の曲面のいずれかで構成されるものを含むものである。ちなみに、本実施形態において、ホイール31の転動接触面は、凸状の曲面として形成された場合が例示されている(
図4参照)。
【0025】
次に、
図5および
図6を参照図面に加えて、本実施形態に係る移動スライダ21の具体的構成を説明する。ここで、
図5は、本実施形態に係る転動案内装置の分解斜視図である。また、
図6は、本実施形態に係る移動スライダを構成するエンドプレート、給脂ニップルおよび潤滑剤タンクを説明するための斜視図である。なお、
図6において、図中の分図(a)は右上方から見た斜視図であり、分図(b)は左上方から見た斜視図である。
【0026】
図5に示すように、本実施形態に係る移動スライダ21は、概略矩形形状をしたスライダ本体部22を有しており、このスライダ本体部22には、取付ピン23とボルト24によってホイール31が転動自在な状態で設置されている。取付ピン23のうち、中央に配置されたホイール31を取り付ける取付ピン23は偏心取付ピン23aとなっており、左右に配置された2つのホイール31を取り付ける取付ピン23は固定取付ピン23bとなっている。つまり、中央に配置されたホイール31の回転軸は偏芯軸となっており、この偏芯軸としての偏心取付ピン23aを回転させてホイール31の位置調整を行うことができるようになっている。したがって、
図3に示されるように、本実施形態では、3個のホイール31が左右方向に並んで配置されているが、左右に配置された2個のホイール31の回転軸は固定軸となっており、中央に配置された1個のホイール31の回転軸が偏芯軸となっているので、中央に配置されたホイール31の位置を上方に向けて移動させることで、軌道レール11に対する3個のホイール31の予圧調整などを実施することができる。
【0027】
また、本実施形態に係るスライダ本体部22の長手方向の端部には、板状のエンドプレート51と、エンドプレート51の外方面側に取り付けられた給脂ニップル52と、エンドプレート51の内方面側に取り付けられた潤滑剤タンク55と、が設置されている。
【0028】
エンドプレート51は、スライダ本体部22の長手方向の端部に対してボルト51aにより固定設置されている。また、
図6に示すように、エンドプレート51の外方面側に取り付けられる給脂ニップル52には、雄ねじ52aが切られており、また、エンドプレート51における給脂ニップル52の取付孔51bは貫通孔となっており、さらに、潤滑剤タンク55における給脂ニップル52の取付孔55aには、雌ねじが切られている。したがって、エンドプレート51と給脂ニップル52と潤滑剤タンク55とは、給脂ニップル52と潤滑剤タンク55とがエンドプレート51を挟み込んだ状態で、給脂ニップル52と潤滑剤タンク55との雌雄のねじによる螺合接合が行われることによって固定接続がなされている。
【0029】
また、本実施形態に係る移動スライダ21では、エンドプレート51と潤滑剤タンク55との間の挟まれた位置にて回動自在な状態でスクレーパ41が設置されており、さらに、スライダ本体部22のホイール31設置側の面には、長手方向に延びる2本のサイドシール42が設置されている。スクレーパ41は、給脂ニップル52と潤滑剤タンク55との接合箇所に嵌め込まれることで回動自在な状態となっており、一方、2本のサイドシール42は、スライダ本体部22の後面側に挿し込んだ状態で長手方向の左右端をエンドプレート51で押えられることにより固定状態となっている。スクレーパ41とサイドシール42は、いずれもホイール31が配置されるとともにホイール上方転動面13aおよびホイール下方転動面14aが形成された内部空間15に塵芥等の異物が入り込むことを防ぐ目的で設置されており、本実施形態に係る転動案内装置10の安定した稼働状態の維持に寄与している。
【0030】
以上、本実施形態に係る転動案内装置10の基本構成についての説明を行った。次に、
図7~
図12を参照図面に加えて、本実施形態に係る転動案内装置10の要部構成についての説明を行う。ここで、
図7は、本実施形態に係る潤滑剤タンクの構成を説明するための図であり、図中の分図(a)は本実施形態に係る転動案内装置において潤滑剤タンクが設置された周辺の部位を示す部分斜視図であり、分図(b)は分図(a)からホイールを取り除いた状態を示す部分斜視図であり、分図(c)は本実施形態に係る潤滑剤タンク単体を示す斜視図である。また、
図8は、本実施形態に係るエンドプレートが弾性変形する様子を示した底面図である。さらに、
図9は、本実施形態に係る転動案内装置においてエンドプレートが弾性変形して潤滑剤タンクがホイールに接触する様子を説明するための部分背面図であり、図中の分図(a)はエンドプレートが弾性変形する前の様子を示しており、分図(b)はエンドプレートが弾性変形した後の様子を示している。またさらに、
図10は、本実施形態に係る転動案内装置において潤滑剤タンクからホイールに対して潤滑剤が塗布される状態を説明するための横断面図であり、
図11は、本実施形態に係る転動案内装置において潤滑剤タンクからホイールに対して潤滑剤が塗布される状態を底面側から見た場合の模式図である。なお、
図10における分図(a)と
図11における分図(a)が同じ状態を示した対応図であり、
図10における分図(b)と
図11における分図(b)が同じ状態を示した対応図である。さらにまた、
図12は、本実施形態に係る転動案内装置が備えるエンドプレートと潤滑剤タンクの作用効果を説明するために移動スライダの要部を示した部分底面図である。
【0031】
図9(a)に示すように、本実施形態に係る潤滑剤タンク55は、常にはホイール31との間に隙間を有して配置されている。そして、本実施形態では、潤滑剤タンク55が取り付けられたエンドプレート51はプラスチック樹脂などの弾性率の低い材料によって構成されているので、
図8に示すように、外力を受けた場合に容易に弾性変形する部材となっている。そのため、エンドプレート51に固定された潤滑剤タンク55は、
図9(b)に示すように、使用者が不図示の給脂ガンを給脂ニップル52に押し付けて潤滑剤封入を行った場合には、不図示の給脂ガンの押付力によってエンドプレート51が弾性変形し、潤滑剤タンク55とホイール31とが隙間なく接触した状態となる。つまり、
図9で示す分図(a)の初期状態から、紙面右側から紙面左側に向けて使用者が不図示の給脂ガンを給脂ニップル52に押し付けると、この押し付け力を受けたエンドプレート51は弾性変形を起こし、潤滑剤タンク55とホイール31とが隙間なく接触した
図9(b)の状態となる。この
図9(b)の状態で使用者が不図示の給脂ガンを操作して潤滑剤を供給すると、潤滑剤タンク55とホイール31とが接触した状態で、ホイール31に対する潤滑剤の塗布が行われることになるのである。
【0032】
なお、本実施形態に係る潤滑剤タンク55は、
図6と
図7を対比参照すれば明らかなように、給脂ニップル52の取付孔55aに続く穴形状部55bと、穴形状部55bに続いて形成される溝形状部55cを有している。
【0033】
穴形状部55bは、給脂ニップル52を介して供給される潤滑剤を溝形状部55cに向けて誘導する機能を発揮する部位である。また、溝形状部55cは、潤滑剤タンク55がホイール31と接触したときに、潤滑剤タンク55とホイール31との間で潤滑剤溜りのための空間を形成する機能を発揮する部位であり、より具体的には、溝形状部55cは、ホイール31側に開口した入口がホイール31の形状に沿った溝形状として形成された部位である。
【0034】
ここで、
図10および
図11を参照して、潤滑剤タンク55からホイール31に対して潤滑剤が塗布される状態を説明すると、上述したように、使用者が不図示の給脂ガンを給脂ニップル52に押し付けると、この押し付け力を受けたエンドプレート51は弾性変形を起こし、潤滑剤タンク55とホイール31とが隙間なく接触した状態となる。ただし、潤滑剤タンク55とホイール31との接触状態は、完全密着の状態でなくともよい。この状態から使用者が不図示の給脂ガンを操作して潤滑剤を供給すると、潤滑剤タンク55とホイール31とが接触した状態で、まずは、潤滑剤タンク55の穴形状部55bに対して潤滑剤が導入される(
図10(a)および
図11(a)の状態参照)。この状態から更に潤滑剤が供給されると、接触状態にある潤滑剤タンク55とホイール31との間で空間を形成する溝形状部55cの内部にも潤滑剤が充填されるので、潤滑剤タンク55とホイール31との間で潤滑剤溜りが形成された状態となる(
図10(b)および
図11(b)の状態参照)。
【0035】
このとき、潤滑剤タンク55に形成された溝形状部55cの溝形状は、
図9(b)等にも示されているように、潤滑剤タンク55がホイール31と接触したときに、ホイール31の転動方向に沿って潤滑剤が流れるように、溝形状部55cのホイール31側に開口した入口がホイール31の形状に沿うとともに、ホイール31の転動方向に対して垂直な方向では潤滑剤タンク55とホイール31とが隙間なく接触し、潤滑剤が漏れ出さないようになっている。一方で、ホイール31の転動方向に沿った方向では、潤滑剤タンク55とホイール31との間に潤滑剤が排出できる程度の開口が形成されている。そのため、
図11(c)に示すように、溝形状部55cの内部に充填された潤滑剤は、ホイール31の転動体外周面に沿った方向のみに漏れ出すこととなる。
【0036】
図11(c)で示した状態で、ホイール31を転動動作させると、潤滑剤タンク55とホイール31との間で形成された潤滑剤溜りから漏れ出した潤滑剤のみが、ホイール31の転動体外周面とホイール上方転動面13a、もしくは、ホイール31の転動体外周面とホイール下方転動面14aに対して塗布されることとなる(
図11(d)の状態参照)。そして、
図11(d)で示した状態は、
図12において符号αで示した網掛けの部位、すなわち、ホイール31の転動体外周面に沿った部位のみに効率的に潤滑剤が塗布されることを示している。この状態は、ホイール31の適切な部位に適切な量の潤滑剤を塗布することで転動案内装置10の安定した稼働状態を維持することが可能であることを示しており、また、塗布する潤滑剤の無駄をなくすことで環境面と運用コスト面に優れた転動案内装置10を実現できることを示している。さらに、本実施形態に係る転動案内装置10が有する潤滑剤を塗布するための構成部品(エンドプレート51、給脂ニップル52および潤滑剤タンク55)の構造は、非常に簡略化されているので、従来技術に比べて製造コストを低減することができる。
【0037】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0038】
例えば、上述した実施形態に係るエンドプレート51は、プラスチック樹脂などの弾性率の低い材料によって構成されている場合が例示されていた。しかし、本発明のエンドプレートについては、より好適な弾性変形を実現するために、様々な改良を加えることが可能である。その様なエンドプレートの改良構造を例示する図として、
図13を示す。ここで、
図13は、本発明に係るエンドプレートに適用可能な改良構造を例示する図である。
【0039】
図13に示すように、本発明の改良形態に係るエンドプレート151については、移動スライダ21の長手方向の端部との設置箇所に対して、弾性変形のための変形用隙間152を有した状態で固定することが行われている。変形用隙間152を設けることで、エンドプレート151における固定部位以外の梁として機能する部位の長さ(L)が大きくなるので、たとえ外方からの押付力βが小さくとも、エンドプレート151が容易に弾性変形するので、潤滑剤タンク55とホイール31とが接触した状態を安定かつ確実に維持することが可能となる。
【0040】
また例えば、
図13に示すように、本発明の改良形態に係るエンドプレート151の外表面に弾性変形のための変形用溝153を形成することもできる。エンドプレート151の外表面に対して変形用溝153を形成することで、エンドプレート151が容易に弾性変形することが可能となる。これにより、潤滑剤タンク55とホイール31とが接触した状態を安定かつ確実に維持することが可能となる。なお、変形用溝153の形成個数については、1つでもよいし、複数でもよい。また、変形用溝153の形成位置については、エンドプレート151の形状に応じて任意に選択すればよい。
【0041】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0042】
10 転動案内装置、11 軌道レール(軌道部材)、12 取付面部、12a 取付孔、13 上方壁部(壁部)、13a ホイール上方転動面(転動体転動面)、14 下方壁部(壁部)、14a ホイール下方転動面(転動体転動面)、15 内部空間(空間の内部)、21 移動スライダ(移動部材)、22 スライダ本体部、23 取付ピン、23a 偏心取付ピン(偏芯軸)、23b 固定取付ピン、24 ボルト、31 ホイール(転動体)、41 スクレーパ、42 サイドシール、51 エンドプレート、51a ボルト、51b 取付孔、52 給脂ニップル、52a 雄ねじ、55 潤滑剤タンク、55a 取付孔、55b 穴形状部、55c 溝形状部、151 エンドプレート、152 変形用隙間、153 変形用溝、α ホイールの転動体外周面に沿った部位(潤滑剤塗布領域)、β 外方からの押付力、L エンドプレートにおける固定部位以外の梁として機能する部位の長さ。