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特開2024-168997歯科切削用ミルブランク及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168997
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】歯科切削用ミルブランク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/087 20060101AFI20241128BHJP
   A61C 13/15 20060101ALI20241128BHJP
   A61C 5/77 20170101ALI20241128BHJP
【FI】
A61C13/087
A61C13/15
A61C5/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086158
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】飯田 駿太朗
(72)【発明者】
【氏名】永沢 友康
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159HH03
4C159RR11
4C159SS04
(57)【要約】
【課題】 天然歯牙のグラデーション及び内部構造を再現し、治療後に自然な立体感が得られる歯科用補綴物を作製できる、ハイブリッドレジン(HR)からなる被切削部を有する歯科切削用ミルブランク及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ノズル位置制御が可能で且つ色調の異なる2種のHR原料ペーストを混合してノズルより吐出させる2液混合ディスペンサーを用いて、ペーストの混合比、吐出速度、吐出位置を制御しながらモールドへの充填を行ってから硬化させることにより、前記被切削部に、夫々所定の厚さを有し、外観色の異なる5~9個の「色ユニット」(CU)が高さ方向に連続的に配置され、隣接するCU間の色差が所定の範囲内であるグラデーション構造を導入すると共に、相互に隣接するCU間の「境界面」の少なくとも一つを凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面によって構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面及び上面が実質的に同一形状である柱状体の形状を有するハイブリッドレジンからなり、前記柱状体の底面を基端として先端である上面に向かう方向を高さ方向としたときに、外観色が高さ方向に段階的に変化しているグラデーション構造を有する被切削部を含む歯科切削加工用ミルブランクであって、
前記グラデーション構造は、同一の外観色を呈する領域が、前記柱状体を高さ方向に前記底面と平行する「境界面」で分割した所定の厚さの「色ユニット」を構成すると共に、互いに外観色の異なる5~9個の「色ユニット」が高さ方向に連続的に配置されたものであり、
前記5~9個の「色ユニット」を、先端側から基端側に向かって順次数値が大きくなるように1~m(但し、mは、ユニットの数を表す5~9の範囲内の自然数である。)のユニット番号:n(但し、nは、1~mの自然数である。)を付して、「色ユニットn」で表すと共に、先端に位置する「色ユニット1」の色を「先端領域色:A」、基端に位置する「色ユニットm」の色を「基端領域色:B」としたときに、
前記先端領域色:Aと基端領域色:Bとの色差:ΔEABが5~20であり、
前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」において、これらユニットの色は、いずれも前記色A及びBの中間色:Cで、「色ユニット2」~「色ユニットm-1」に向かってAに近い中間色からBに近い中間色に段階的に変化しており、
互いに隣接するユニットの色の色差:ΔEが1~7であり、
相互に隣接する「色ユニット」の間に存在する前記「境界面」の少なくとも一つは、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面によって構成される、
ことを特徴とする前記歯科切削加工用ミルブランク。
【請求項2】
前記柱状体が、積層界面を有さない単一層からなる、請求項1に記載の歯科切削加工用ミルブランク。
【請求項3】
前記柱状体が、縦12~25mm、横8~20mmの矩形若しくは略矩形の底面を有する、高さ6~25mmの柱状体であり、
該柱状体を、その底面に対して垂直で且つ側面と平行な方向で切断したときに得られる任意の断面において、外観色の境界として認識される、前記曲面によって構成される少なくとも一つの「境界面」の端部に相当する「境界線」が、前記断面上に仮想的に配置される前記底面に対して平行な直線を軸線とする「波型曲線」であり、
前記「波型曲線」は、最高点と最低点の高低差が2~5mmの範囲内であり、前記軸線方向の長さが1.5~7mmの範囲内である、所定の形状を有する曲線からなる「パターンユニット曲線」が前記軸線に沿って繰り返し配置されて連結することによって形成されるものである、
請求項1に記載の歯科切削加工用ミルブランク。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の歯科切削加工用ミルブランクを製造する方法であって、
重合性単量体、無機フィラー、重合開始剤及び着色剤を含むペースト状のハイブリッドレジン(HR)原料組成物を準備する原料準備工程;前記被切削部の形状に対応するモールド内に前記HR原料組成物を充填する充填工程;及び前記モールド内に充填された前記HR原料組成物を硬化させる硬化工程を含み、
前記原料準備工程において、HR原料組成物として、色:AのHRを与える「色ユニット1」用原料組成物Aと、色:BのHRを与える「色ユニットm」用原料組成物Bと、前記原料組成物Aと前記原料組成物Bの混合物に相当する組成を有し、前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」の外観色を与える(m-2)種の中間領域用HR原料組成物を準備し、
前記充填工程は、
前記「色ユニット1」を形成するために前記原料組成物Aを前記モールドの内に必要量充填する、先端領域用充填工程と、
前記「色ユニットm」を形成するために前記原料組成物Bを前記モールドの内に必要量充填する、基端領域用充填工程と、
前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」を形成するために前記中間領域用HR原料組成物を前記モールドの内に必要量充填する中間領域用充填工程と、を有し、
前記充填工程を、
(1)前記先端領域用充填工程、前記中間領域用充填工程及び前記基端領域用充填工程の順に順次行うと共に、前記先端領域用充填工程及び前記中間領域用充填工程の各充填工程における少なくとも1つの充填工程において、当該充填工程の次の充填工程を行う前にモールド内に充填されたHR原料組成物の上面を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面とする、パターン1、又は
(2)前記基端領域用充填工程、前記中間領域用充填工程及び前記先端領域用充填工程の順に順次行うと共に、前記基端領域用充填工程及び前記中間領域用充填工程の各充填工程における少なくとも1つの充填工程において、当該充填工程の次の充填工程を行う前にモールド内に充填されたHR原料組成物の上面を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面とする、パターン2
の何れかのパターンによって行う、
ことを特徴とする歯科切削加工用ミルブランクの製造方法。
【請求項5】
前記中間領域用充填工程では、前記原料組成物A及び前記原料組成物Bを、両者の混合比を変えて混合することによって、前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」の各色:を与える前記(m-2)種の中間領域用HR原料組成物を調製し、
前記パターン1においては「色ユニット2」用原料組成物から「色ユニットm-1」用原料組成物までの中間領域用HR原料組成物を順次調製して各「色ユニット」形成するのに必要な量を前記モールドの内に充填し、前記パターン2においては「色ユニットm-1」用原料組成物から「色ユニット2」用原料組成物までの中間領域用HR原料組成物を順次調製し、原料組成物を変更して各「色ユニット」形成するのに必要な量を前記モールドの内に充填する、
請求項4に記載の歯科切削加工用ミルブランクの製造方法。
【請求項6】
前記中間領域用充填工程では、2種類の流体を別々に保持できる貯槽と各貯槽内に保持された2種類の流体を任意の比率で均一に混合して吐出口より吐出させることができる吐出装置を用いて、前記各「色ユニット」用原料組成物の調製とその充填を同時に行う、請求項4又は5に記載の歯科切削加工用ミルブランクの製造方法。
【請求項7】
前記パターン1では、前記吐出装置を用いて、前記原料組成物Aのみを吐出させて前記先端領域用充填工程を行った後に、前記中間領域用充填工程として前記原料組成物A及び前記原料組成物Bを混合するに際し、得られる混合物中に占める前記原料組成物Aの割合を段階的に減少させて、各「色ユニット」用の中間領域用HR原料組成物を調製し、これを順次吐出させて前記中間領域用充填工程を行い、その後、前記原料組成物Bのみを吐出させて前記基端領域用充填工程を行い、
前記パターン2では、前記吐出装置を用いて、前記原料組成物Bのみを吐出させて前記基端領域用充填工程を行った後に、前記中間領域用充填工程として前記原料組成物A及び前記原料組成物Bを混合するに際し、得られる混合物中に占める前記原料組成物Bの割合を段階的に減少させて、各「色ユニット」用の中間領域用HR原料組成物を調製し、これを順次吐出させて前記中間領域用充填工程を行い、その後、前記原料組成物Aのみを吐出させて前記先端領域用充填工程を行う、
請求項6に記載の歯科切削加工用ミルブランクの製造方法。
【請求項8】
前記モールド内の位置を、該モールド内底面における任意の1点を原点とし、底面の横方向及び縦方向を夫々x軸およびy軸とし、高さ方向をz軸とする座標系で表し、該モールド内に形成されるべきm個の「色ユニット」間の各境界の高さ相当する(m-1)個のz座標を底面側からz~zm-1としたときに、
前記充填工程における各種「色ユニット」用原料組成物のモールド内への充填を、前記吐出口の位置を前後方向、左右方向及び高さ方向に自在に制御可能な前記吐出装置を用いて、
(i)充填開始時における前記突出口の位置を、原点に配置し、
(ii)前記吐出口から所定の流速でHR原料組成物を吐出させながら前記吐出口の位置をx軸方向及び/又はy軸方向に移動させて底面上の全領域を1回走査して、当該1回の走査に見合った均一な厚さを有するモールド最下部充填領域を形成し、
(iii)前記(ii)の走査が終了した後に前記吐出口の位置を、z軸方向に上記モールド最下部充填領域の上面以上の高さまで移動させ、
(iv)前記(ii)と同様にして所定の流速でHR原料組成物を吐出させながら前記吐出口の位置をx軸方向及び/又はy軸方向に移動させて前記モールド最下部充填領域を下地として、その上面上の全領域を1回走査して、当該1回走査に見合った均一な厚みが追加された成長充填領域を形成し、
(v)前記成長充填領域を下地として前記(iii)及び(iv)の操作を連続的に繰り返す、
ことによって行い、さらに
吐出させる原料組成物の割合切り替えを、形成された成長充填領域の厚さが、z~zm-1の各高さと一致若しくは実質的に一致したタイミングで次の「色ユニット」の原料組成物が前記吐出口から吐出されるように前記(ii)~(iv)の操作時に行い、
モールド内に充填されたHR原料組成物の上面(露出面)を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面とする前記の少なくとも一つの充填工程においては、最上面の走査を行うに際し、吐出させるHR原料組成物の流速を周期的に増減させる(ただし、減ずる場合には、吐出を一時的に停止して吐出口の移動のみを行うことを含む。)ことにより、成長充填領域の上面(露出面)を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面とする、
請求項7に記載の歯科切削加工用ミルブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
歯科治療に用いられる歯科用補綴物は、一般に、金や銀、チタン、パラジウム合金等のように金属材料から鋳造によって成形されるか、セラミックスやハイブリッドレジン(以下、「HR」と略記することもある。)等の非金属材料を加工することによって成形されるか、又はコア部を金属材料で構成し、前装部等の表層部を非金属材料で構成することにより形成されている。なお、ハイブリッドレジンとはレジンマトリックス中に無機充填材(以下、「無機フィラー」ともいう)を構成する無機粒子が高密度で分散された複合材料を意味し、通常は、重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含むペースト状重合硬化性組成物を加圧・加熱する等して重合硬化させることによって得られる。
【0002】
非金属材料を用いて全体を構成した歯科用補綴物は、金属アレルギーの心配がなく審美性に優れるという特長を有することに加え、近年のデジタル画像技術やコンピュータ処理技術等の発達により、その加工が容易になったことも有り、その需要は急速に高まっている。例えば、特許文献1に開示されているように、口腔内の撮影画像から、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Aided Design)及びコンピュータ支援製造(CAM:Computer Aided Manufacturing)技術によるCAD/CAM装置を用いて、非金属材料からなる歯科加工用ブランクに切削加工を施して歯科用補綴物を成形するCAD/CAMシステムが多用されるようになってきている。ここで、歯科加工用ブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)を意味し、通常は、被切削部と、これを切削加工機に取り付け可能にするための保持ピンのような保持部と、を有する。そして、被切削部としては、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック又は板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスク等が一般的に知られており、被切削部がハイブリッドレジン(HR)からなるものも知られている。なお、本発明では、HRからなる被切削部が保持部と一体化した形態を含めてHR系歯科切削加工用ミルブランク又はHR系ミルブランク、と称する。
【0003】
ところで、歯冠歯列修復治療では、歯科用補綴物に天然組織と等しい、あるいは近い色調や外観等の審美性が要求される場面が近年増加している。このような審美性を確保するためには、単一の色調からなるHR系ミルブランクではなく、異なる色調の複数の層を一体化した多層構造のHR系ミルブランクから製作することが行われている。
【0004】
たとえば、特許文献2には、充填材及び重合性単量体を含有する、色調が異なる3種以上のペースト状の歯科用重合性組成物を、所望の形状を有する型に充填し、3層以上に積層及び成形して成形体を得、得られた成形体を重合硬化することにより多層構造のHR系ミルブランクを製作する方法が記載されている。また、特許文献3には、HR原料である流動性ペーストと複数の型枠ユニットを用いた、多層構造のHR系ミルブランクの製造方法が記載されている。当該方法によれば、型枠ユニットごとに色調が異なる流動性ペースト(硬化性組成物)を充填して積層することにより、多層構造の歯科加工用ブランクを製造でき、しかも通常では型枠に流し入れることが難しい流動性の低いペーストを用いた場合でも、ペースト同士の界面の乱れや、ペーストの空隙、等といった欠陥の発生を抑制して、複数の色調・組成からなる多層構造の歯科加工用ブランクを作製できるとされている。
【0005】
さらに、上記のような層を重ねた構成とは異なる歯牙模倣技術として、特許文献4にはブランクの一端からもう一端にかけて色調が連続的に変化するHR系ミルブランク及びその製造方法が提案されている。すなわち、特許文献4には、ディスペンサーなどの押出機を用いて、夫々色調の異なる2種類の(HR原料である)流動性ペースト(硬化性組成物)の混合物を型内の一方の角から正反対の角まで(たとえば、型の下部のコーナーから上部の反対側のコーナーまで)充填するに際し、上記混合物における両ペーストの混合比を連続的に変化させ、充填後のペーストを硬化させることにより上記したようなグラデーション(色調が連続的に変化する)構造を有する歯科切削加工用ミルブラン(HR系ミルブランク)を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2016-535610号公報
【特許文献2】国際公開第2018/074605号パンフレット
【特許文献3】特開2020-151339号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2019/274168号明細書
【特許文献5】特許第6285909号公報
【特許文献6】特許第6349480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4に開示されたHR系ミルブランクの製造方法(以下、「特許文献4の製造方法」ともいう。)では、前記混合比を一定の割合で連続的に変化させながら上記(ペースト)充填を行ってHR系ミルブランクを製造した場合には、同一の高さを有する横断面においても場所によって色調が僅かに異なるため、切削加工を施す位置によって色調が所期の色調から微妙にずれてしまうことが起こり得る。また、上記したようにして製造したHR系ミルブランクを用いて全部被覆クラウン(冠)を作製した場合には、治療を行っていない天然歯と隣あって比較すると、歯頚部から切端部への色調遷移が立体感の不足した外観を呈する傾向があり、洗面台や化粧台などの光が強く当たる場面では内部構造の有無により天然歯との差が明瞭であった。さらに、複数の補綴物を作製して異なる部位を同時に治療する際、治療部位のサイズによっては、被切削部内の一部分のみを使用することがあり、例えば歯冠長の短い一部被覆冠を作製する場合があるが、この場合には、修復後の歯牙内において不自然なグラデーションを呈することがあることが判明した。
【0008】
また、特許文献2及び3に記載された方法で得られるHR系ミルブランクを用いて全部被覆クラウン等の補綴物は、天然歯牙を高度に再現するような審美性を得ることが困難であった。すなわち、天然歯牙は、象牙質色調を(これとは色調が大きく異なる)エナメル質が被覆した構造を有するが、異なる位置におけるこれらの厚みの違い等を含む内部構造(例えば、前歯群切縁部唇側の内部構造体であるマメロンなど)を反映して、部分的に不均一な色調変化示す外観を呈するが、このような外観を高度に再現するには至っていない。たとえば、マメロンを反映した外観を再現するためには、加工後にキャラクタリゼーションを行い、カットバックしてハイブリッドレジンを盛り付けて硬化させる等の後加工が必要であった。
【0009】
そこで、本発明は、天然歯牙のグラデーション及び内部構造をより忠実に再現し、更に治療後において自然な立体感が得られる歯科用補綴物を作製できる歯科切削用ミルブランクおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、
底面及び上面が実質的に同一形状である柱状体の形状を有するハイブリッドレジンからなり、前記柱状体の底面を基端として先端である上面に向かう方向を高さ方向としたときに、外観色が高さ方向に段階的に変化しているグラデーション構造を有する被切削部を含む歯科切削加工用ミルブランクであって、
前記グラデーション構造は、同一の外観色を呈する領域が、前記柱状体を高さ方向に前記底面と平行する「境界面」で分割した所定の厚さの「色ユニット」を構成すると共に、互いに外観色の異なる5~9個の「色ユニット」が高さ方向に連続的に配置されたものであり、
前記5~9個の「色ユニット」を、先端側から基端側に向かって順次数値が大きくなるように1~m(但し、mは、ユニットの数を表す5~9の範囲内の自然数である。)のユニット番号:n(但し、nは、1~mの自然数である。)を付して、「色ユニットn」で表すと共に、先端に位置する「色ユニット1」の色を「先端領域色:A」、基端に位置する「色ユニットm」の色を「基端領域色:B」としたときに、
前記先端領域色:Aと基端領域色:Bとの色差:ΔEABが5~20であり、
前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」において、これらユニットの色は、いずれも前記色A及びBの中間色:Cで、「色ユニット2」~「色ユニットm-1」に向かってAに近い中間色からBに近い中間色に段階的に変化しており、
互いに隣接するユニットの色の色差:ΔEが1~7であり、
相互に隣接する「色ユニット」の間に存在する前記「境界面」の少なくとも一つは、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面(以下、「凹凸面」ともいう。)によって構成される、
ことを特徴とする前記歯科切削加工用ミルブランクである。
【0011】
上記形態の歯科切削加工用ミルブランク(以下、「本発明のミルブランク」ともいう。)においては、前記柱状体が、積層界面を有さない単一層からなる、ことが好ましい。ここで、積層界面を有さない単一層からなるとは、無機フィラーを構成する無機粒子の分散状態が柱状体の全領域にわたって、均質もしくは実質的に均質(具体的には、任意の領域における無機フィラーの充填率が平均充填率の±2質量%以内、好ましくは±1質量%以内)であることを意味する。
【0012】
また、前記柱状体が、縦12~25mm、横8~20mmの矩形若しくは略矩形の底面を有する、高さ6~25mmの柱状体であり、
該柱状体を、その底面に対して垂直で且つ側面と平行な方向で切断したときに得られる任意の断面(以下、前記方向で切断された断面を「縦断面」ともいう。)において。外観色の境界として認識される、前記曲面によって構成される少なくとも一つの「境界面」の端部に相当する「境界線」が、前記断面上に仮想的に配置される前記底面に対して平行な直線を軸線とする「波型曲線」であり、前記「波型曲線」は、最高点と最低点の高低差が2~5mmの範囲内であり、前記軸線方向の長さが1.5~7mmの範囲内である、所定の形状を有する曲線からなる「パターンユニット曲線」が前記軸線に沿って繰り返し配置されて連結することによって形成されるものである、ことが好ましい。
【0013】
本発明の第二の形態は、本発明のミルブランクを製造する方法であって、
重合性単量体、無機フィラー、重合開始剤及び着色剤を含むペースト状のHR原料組成物を準備する原料準備工程;前記被切削部の形状に対応するモールド内に前記HR原料組成物を充填する充填工程;及び前記モールド内に充填された前記HR原料組成物を硬化させる硬化工程を含み、
前記原料準備工程において、HR原料組成物として、色:AのHRを与える「色ユニット1」用原料組成物Aと、色:BのHRを与える「色ユニットm」用原料組成物Bと、前記原料組成物Aと前記原料組成物Bの混合物に相当する組成を有し、前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」の外観色を与える(m-2)種の中間領域用HR原料組成物を準備し、
前記充填工程は、
前記「色ユニット1」を形成するために前記原料組成物Aを前記モールドの内に必要量充填する、先端領域用充填工程と、
前記「色ユニットm」を形成するために前記原料組成物Bを前記モールドの内に必要量充填する、基端領域用充填工程と、
前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」を形成するために前記中間領域用HR原料組成物を前記モールドの内に必要量充填する中間領域用充填工程と、を有し、
前記充填工程を、
(1)前記先端領域用充填工程、前記中間領域用充填工程及び前記基端領域用充填工程の順に順次行うと共に、前記先端領域用充填工程及び前記中間領域用充填工程の各充填工程における少なくとも1つの充填工程において、当該充填工程の次の充填工程を行う前にモールド内に充填されたHR原料組成物の上面(露出面)を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面とする、パターン1、又は
(2)前記基端領域用充填工程、前記中間領域用充填工程及び前記先端領域用充填工程の順に順次行うと共に、前記基端領域用充填工程及び前記中間領域用充填工程の各充填工程における少なくとも1つの充填工程において、当該充填工程の次の充填工程を行う前にモールド内に充填されたHR原料組成物の上面(露出面)を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面とする、パターン2
の何れかのパターンによって行う、
ことを特徴とする歯科切削加工用ミルブランクの製造方法である。
【0014】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、前記中間領域用充填工程では、前記原料組成物A及び前記原料組成物Bを、両者の混合比を変えて混合することによって、前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」の各色:を与える前記(m-2)種の中間領域用HR原料組成物を調製し、
前記パターン1においては「色ユニット2」用原料組成物から「色ユニットm-1」用原料組成物までの中間領域用HR原料組成物を順次調製して各「色ユニット」形成するのに必要な量を前記モールドの内に充填し、前記パターン2においては「色ユニットm-1」用原料組成物から「色ユニット2」用原料組成物までの中間領域用HR原料組成物を順次調製し、原料組成物を変更して各「色ユニット」形成するのに必要な量を前記モールドの内に充填する、ことが好ましい。
【0015】
また、前記中間領域用充填工程では、2種類の流体を別々に保持できる貯槽と各貯槽内に保持された2種類の流体を任意の比率で均一に混合して吐出口より吐出させることができる吐出装置を用いて、前記各「色ユニット」用原料組成物の調製とその充填を同時に行う、ことが好ましい。
【0016】
さらに、上記態様においては、前記パターン1では、前記吐出装置を用いて、前記原料組成物Aのみを吐出させて前記先端領域用充填工程を行った後に、前記中間領域用充填工程として前記原料組成物A及び前記原料組成物Bを混合するに際し、得られる混合物中に占める前記原料組成物Aの割合を段階的に増加させて、各「色ユニット」用の中間領域用HR原料組成物を調製し、これを順次吐出させて前記中間領域用充填工程を行い、その後、前記原料組成物Bのみを吐出させて前記基端領域用充填工程を行い、
前記パターン2では、前記吐出装置を用いて、前記原料組成物Bのみを吐出させて前記基端領域用充填工程を行った後に、前記中間領域用充填工程として前記原料組成物A及び前記原料組成物Bを混合するに際し、得られる混合物中に占める前記原料組成物Aの割合を段階的に減少させて、各「色ユニット」用の中間領域用HR原料組成物を調製し、これを順次吐出させて前記中間領域用充填工程を行い、その後、前記原料組成物Aのみを吐出させて前記先端領域用充填工程を行う、ことが好ましい。
【0017】
さらにまた、上記態様においては、前記モールド内の位置を、該モールド内底面における任意の1点を原点とし、底面の横方向及び縦方向を夫々x軸およびy軸とし、高さ方向をz軸とする座標系で表し、該モールド内に形成されるべきm個の「色ユニット」間の各境界の高さ相当する(m-1)個のz座標を底面側からz~zm-1としたときに、
前記充填工程における各種「色ユニット」用原料組成物のモールド内への充填を、前記吐出口の位置を前後方向、左右方向及び高さ方向に自在に制御可能な前記吐出装置を用いて、
(i)充填開始時における前記突出口の位置を、原点に配置し、
(ii)前記吐出口から所定の流速でHR原料組成物を吐出させながら前記吐出口の位置をx軸方向及び/又はy軸方向に移動させて底面上の全領域を1回走査して、当該1回の走査に見合った均一な厚さを有するモールド最下部充填領域を形成し、
(iii)前記(ii)の走査が終了した後に前記吐出口の位置を、z軸方向に上記モールド最下部充填領域の上面以上の高さまで移動させ、
(iv)前記(ii)と同様にして所定の流速でHR原料組成物を吐出させながら前記吐出口の位置をx軸方向及び/又はy軸方向に移動させて前記モールド最下部充填領域を下地として、その上面上の全領域を1回走査して、当該1回走査に見合った均一な厚みが追加された成長充填領域を形成し、
(v)前記成長充填領域を下地として前記(iii)及び(iv)の操作を連続的に繰り返す、
ことによって行い、さらに
吐出させる原料組成物の割合切り替えを、形成された成長充填領域の厚さが、z~zm-1の各高さと一致若しくは実質的に一致したタイミングで次の「色ユニット」の原料組成物が前記吐出口から吐出されるように前記(ii)~(iv)の操作時に行い、
モールド内に充填されたHR原料組成物の上面(露出面)を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面とする前記の少なくとも一つの充填工程においては、最上面の走査を行うに際し、吐出させるHR原料組成物の流速を周期的に増減させる(ただし、減ずる場合には、吐出を一時的に停止して吐出口の移動のみを行う子を含む。)ことにより、成長充填領域の上面(露出面)を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面(凹凸面)とする、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のミルブランクによれば、歯頚部から切端部における天然歯牙の不連続な色調変化を自然に再現し、さらにマメロンなどの内部構造による不均一な色調変化示す天然歯牙特有の外観が高度に再現された歯科用補綴物を作製することができる。
することもできる。
【0019】
また、本発明のミルブランクが、積層体ではなく、外観色が高さ方向に段階に変化した単層構造を有する場合には、積層界面の乱れに伴うグラデーションの乱れを生じることなく、更に切削加工中に積層界面に沿って破断する等のトラブルを起こすこともない。
【0020】
また、本発明の製造方法によれば、本発明のミルブランク、特に上記単層構造のミルブランクを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本図は、代表的な本発明のミルブランクにおける被切削部の縦断面を模式的に表した図である。なお、図面の縦方向は高さ方向(z軸方向)を表している。
図2】本図は、本発明の製造方法において好適に使用できる吐出装置の構成を説明するための模式図である。
図3】本図は、図2に示す吐出装置を用いて本発明の製造方法における充填工程を行うにときに、モールド最下部充填領域を形成する際の底面上の状態(変化の様子)を模式的に示した図である。なお、図中の矢印はノズル吐出口の移動方向を表している。
図4】本図は、図2に示す吐出装置を用いて本発明の製造方法における充填工程を行うにときに、モールド最下部充填領域を形成する際(左図)及びその上に成長充填領域を形成する際(右図)のモールドの主側面方向から見た状態(変化の様子)を模式的に示した図である。なお、図中の矢印はノズル吐出口の移動方向を表している。
図5】本図は、本発明のミルブランクにおける被切削部となる柱状体を、その縦断面に現れる「境界線」(凹凸面の端部に相当する。)となる「波型曲線」における「パターンユニット曲線」の例を示すものである。
図6】本図は、図2に示す吐出装置を用いて本発明の製造方法における充填工程を行うにときに、凹凸面を形成する際の底面上の状態(変化の様子)を模式的に示した(平面)図である。なお、図中の矢印はノズル吐出口の移動方向を表している。
図7】本図は、図2に示す吐出装置を用いて本発明の製造方法における充填工程を行うにときに、凹凸面を形成する際のモールドの主側面方向から見た状態(変化の様子)を模式的に示した(縦断面)図である。なお、図中の矢印はノズル吐出口の移動方向を表している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.本発明のミルブランク
本発明のミルブランクは、底面及び上面が実質的に同一形状である柱状体の形状を有するハイブリッドレジンからなる被切削部を含む歯科切削加工用ミルブランクである。そして、上記被切削部が、特定のグラデーション構造を有する点に特徴を有する。
【0023】
1-1.被切削部の材質および形状について
本発明のミルブランクは、ハイブリッドレジン(HR)からなる被切削部を有しており、該被切削部の形状は、底面及び上面が実質的に同一形状である柱状体形状である。このような材質質及形状の被切削部を有するミルブランクは、HR系ミルブランクとして一般的なものであり、本発明のミルブランクにおいても、基本的な材料や形状は一般的なHR系ミルブランクと特に変わる点は無い。
【0024】
たとえ形状に関しては、市販の歯科用CAD/CAMシステムにセットできる柱状体又は盤状体で、1歯または複数歯を加工できるサイズのものが特に制限なく採用できる。好適なサイズの例としては、例えば、一歯欠損ブリッジの作成に適当な40mm×20mm×15mmの角柱状;インレー、オンレーの作製に適当な15mm×8mm×8mmや、15mm×10mm×10mm、の角柱状;フルクラウンの作製に適当な、20mm×18mm×14mm、15mm×12mm×10mm、15mm×12mm×6.5mm、18mm×14mm×12mm、18mm×14mm×16mm、15mm×14.5mm×14.5mm、18mm×14.5mm×14.5mm、若しくは18mm×14.5mm×16mm、の角柱状;ロングスパンブリッジ、義歯床の作成に適当な、直径90~100mm、厚みが10~28mmの円盤状等を挙げることができる。
【0025】
本発明の製造方法により製造することを考慮すると、円盤のように体積の大きいブランクは、より小さいブランクと比較した時に製造時におけるHR原料組成物の充填に長時間を要するうえ、層の平滑性がとりにくくなるため、円柱や角柱の形状である方が好ましく、特に縦12~25mm、横8~20mmの矩形若しくは略矩形の底面を有する、高さ6~25mmの柱状体であることが好ましい。前記被切削部の高さは6~25mmとすることで、一般的なサイズの歯牙に対応することが可能である。高さが小さい場合、後述の色調変化の効果が得られにくくなるため、8mm以上が好ましく、10mm以上であることが最も好ましい。高さが大きい場合には様々な歯冠形態に対応しやすく、中間との色調差をはっきりと表現しやすくなるものの25mmより大きい場合は無駄に切削する部位が増加する。
【0026】
材質(HR)についても、特定のグラデーション構造を実現するために、配合される顔料等の色素成分の種類や配合量が部分的に異なる他は、従来のHR特に変わる点は無い。なお、HRの原料については本発明の製造方法に関する説明で詳述する。
【0027】
1-2.グラデーション構造について
本発明のミルブランクの被切削部は、前記柱状体の底面を基端として先端である上面に向かう方向を高さ方向としたときに、外観色が高さ方向に段階的に変化しているグラデーション構造を有するが、該グラデーション構造は、前記したような効果を得るために、下記(1)~(4)に示す条件を全て満足するものである必要がある(以下、これら条件を満足するグラデーション構造を「本発明のグラデーション構造」ともいう。)。
【0028】
(1)同一の外観色を呈する領域が、前記柱状体を高さ方向に前記底面と平行する「境界面」で分割した所定の厚さの「色ユニット」を構成すると共に、互いに外観色の異なる5~9個の「色ユニット」が高さ方向に連続的に配置されたものであること。
【0029】
(2)前記5~9個の「色ユニット」を、先端側から基端側に向かって順次数値が大きくなるように1~m(但し、mは、ユニットの数を表す5~9の範囲内の自然数である。)のユニット番号:n(但し、nは、1~mの自然数である。)を付して、「色ユニットn」で表すと共に、先端に位置する「色ユニット1」の色を「先端領域色:A」、基端に位置する「色ユニットm」の色を「基端領域色:B」としたときに、前記先端領域色:Aと基端領域色:Bとの色差:ΔEABが5~20であること。
【0030】
(3)前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」において、これらユニットの色は、いずれも前記色A及びBの中間色:Cで、「色ユニット2」~「色ユニットm-1」に向かってAに近い中間色からBに近い中間色に段階的に変化しており、互いに隣接するユニットの色の色差:ΔEが1~7であること。
【0031】
(4)相互に隣接する「色ユニット」の間に存在する前記「境界面」の少なくとも一つは、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面(凹凸面)によって構成されること。
【0032】
グラデーション構造が、前記(1)~(3)の条件を満足することにより、すなわち、被切削部のグラデーションを、色調が連続的に変化するものではなく、高さ方向に不連続に(段階的に)変化すると共に、夫々の色を呈する領域である「色ユニット」の厚さを両端で厚く中央領域で薄くし、更に中央領域では高さ方向に段階的な色の変化を細かくしていることにより、シュブルール錯視やマッハバンド(均一な層が他の層と接する界面付近が強調されて見える)といった錯視効果が生じ、部分的に強調されて人間が認知することで、天然歯牙にみられる不連続な外観を再現することが可能となっている。さらに、グラデーション構造が前記(4)の条件を満足することにより、本発明のミルブランクでは、マメロンなどの天然歯牙における内部構造を反映し外観を再現することが可能となっている。以下、これら条件に付いて説明する。
なお、
1-2―1.条件(1)について
上記(1)に示したように、「色ユニット」とは、前記柱状体を高さ方向に前記底面と平行する「境界面」で分割した所定の厚を有する、同一の外観色を呈する領域を意味する。ここで、「境界面」が凹凸面以外である場合の「境界面」は、厳密な平面である必要はなく、実質的に平面と看做せるものであればよい。また、底面と平行するとは、底面と境界面との高さ方向の間隔が一定又はほぼ一定であることを意味し、たとえば、「底面と完全に平行な平面(底面との高さ方向の間隔が一定で、且つ「境界面」の最下点を通る平面)」を基準面として、場所による基準面からの「境界面」の最高点の高さが例えば1mm以内、好ましくは0.5mm以内であればよい。なお、縦断面における凹凸面の基準面の端部となる直線は、後述する「波型曲線」の「軸線」と平行の関係となる。
【0033】
また、「色ユニット」は、同一の外観色を呈する領域であり、単一の「色ユニット」内の任意の部分領域における外観色は同一である。ここで同一とは作為的に外観色を変えていないことを意味し、隣接「色ユニット」の境界の極薄い領域で、両「色ユニット」の外観色が両者の外観色の混合色となったり、HRの原料となる2種類の硬化性組成物を混合して充填用硬化性組成物を調製する際の組成の不可避的な変動により僅かに外観色が変動したりすることは許容する。たとえば、特許文献4に開示される方法のように、HRの原料となる硬化性組成物を、その組成を僅かに「連続的に」変えながら成形型内へ連続的に押し出して充填してから硬化させた場合には、組成の変化に応じて外観色も変化するので「色ユニット」を形成することはできない。
【0034】
本発明のミルブランクの被切削部は、各「色ユニット」が(独立した)単一層を形成し、これらを積み重ねた(層間に明瞭な積層界面を有する)積層体構造を有するものであってもよいが、乱れや欠陥を含み、剥離等の原因となることもある積層界面を有さないという理由から、各「色ユニット」は高度に一体化した、単層構造のものであることが好ましい。このような単層構造は、後述するように、本発明の製造方法において、各「色ユニット」を構成するHRの原料となる硬化性組成物を、2液混合ディスペンサーのような充填装置を用いてその組成を僅かに「段階的に」変えながら成形型内へノズルを走査して連続的に押し出して充填することにより得ることができる。
【0035】
1-2―2.条件(2)について
前記(2)に示されるように、本発明のグラデーション構造に含まれる「色ユニット」の数:mは5~9である。mが4以下の時は歯牙の切端、歯頚部をはっきり再現することはできるが色ユニット間の色調変化が急になり不自然となり、10以上の時は歯牙の切端、歯頚部をはっきり再現することが困難となり、異なる形状の加工物に対応することが難しくなる傾向がある。mは、5~7であることが好ましい。また、前記先端領域色:Aと基端領域色:Bとの色差:ΔEABは5~20である必要がある。ΔEABが5未満時あるいは20を越える時は一つの天然歯における先端領域の色調と歯頚部及びその近傍領域の色調の組み合わせとしては不自然なものとなる。ΔEABは、8~16であることが好ましい。
【0036】
なお、色差:ΔE(或いはΔE)とは、2つの色の異なりの程度を表す指標であり、その値が大きいほど両者の色調が異なることを意味する。本発明における色差:ΔEは、対比すべき2つの色調について、明度をL、色相と再度を示す色度をa、及びbで表すL色空間(表色系)における各座標軸の数値(L値、a値及びb値)について差(ΔL、Δa及Δb)を用いて下記式で決定されるΔEを意味する。
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
また、本明細書における上記L値、a値及びb値は、厚さ1.0±0.1mmの試料を用いた分光光度計(たとえば、東京電色製、「TC-1800MKII」等)による背景色白での分光反射率測定によって得られるL、a及びbにより決定される。具体的には色差計、東京電色製、「TC-1800MKII」の場合、ハロゲンランプ:12V100W、測定波長範囲380~780nm、反射光0°d法(JIS Z8722)、測定面積5mmφ、背景色白(標準白色板を硬化体に重ねて光遮蔽した状態)が測定条件である。なお、測定試料の作製及び測定は、(i)被切削部から各色ユニットの中心付近を底面と平行な方向に切り出して(単一色ユニットの横断面が露出した)測定試験片とし、色差計で測定する方法、(ii)被切削部から底面と平行な方向に切り出して(全ての色ユニットの縦断面が露出した)測定試験片とし、先端~基端方向にライン状にスキャンして測定する方法、又は、(iii)各「色ユニット」を構成するHRの原料組成物の組成が明らかな場合は、同組成の原料組成物を用いて作製した試料について色差計で測定する方法によって行うことができる。上記(i)の方法を採用する場合には、試料の表裏2面について測定を行い、その平均値を当該「色ユニット」のL値とすればよい。また、上記(ii)の方法を採用する場合には、各色ユニットの中心付近における測定値を当該「色ユニット」のL値とすればよい。
【0037】
1-2―3.条件(3)について
前記(3)に示されるように、「色ユニット2」~「色ユニットm-1」の色は、いずれも前記色A及びBの中間色:Cで、「色ユニット2」~「色ユニットm-1」に向かってAに近い中間色からBに近い中間色に段階的に変化しており、互いに隣接するユニットの色の色差:ΔEが1~7である必要がある。ここで中間色とは色A及びBを混ぜて得られる混合色の意味であり、これら条件を満足しない場合には色ユニット間の色調変化が急になり不自然となる。ΔEは、1~5であることが好ましい。
【0038】
1-2―4.条件(4)について
前記(4)に示されるように、前記「境界面」の少なくとも一つは、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面(凹凸面)によって構成される必要がある。マメロンなどの天然歯牙における内部構造を反映し外観を再現しやすいという理由から、前記凹凸面は、任意の縦断面における端部に相当する「境界線」が、前記縦断面上に仮想的に配置される前記底面に対して平行な直線を軸線とする「波型曲線」であることが好ましい。そして、当該「波型曲線」は、図5に示されるように、最高点と最低点の高低差:Δhが2~5mmの範囲内であり、前記軸線方向の長さ(幅):wが1.5~7mmの範囲内である、所定の形状を有する曲線からなる「パターンユニット曲線」が前記軸線に沿って繰り返し配置されて連結することによって形成されるものであることが好ましい。また、前記「境界線」においては軸線の長さ1cmあたりに「パターンユニット曲線」が2~8個、特に3~7個並んでいることが好ましく、4~6個並んでいることが最も好ましい。
【0039】
なお、「パターンユニット曲線」とは、繰り返しの最小単位となる曲線であり、必ずしも全てが滑らかな曲線で構成される必要はなく、図5に示すように、直線部分や屈曲点を含んでいてもよい。Δhが上記上限を超える場合には、凹凸の起伏が激しくなり不自然な仕上がりとなり、上記下限値を下回る場合には凹凸が不明瞭となる。また、wが上記上限を超える場合には、凹凸の間隔が大きくなり内部構造が不自然な仕上がりとなり、上記下限値を下回る場合には内部構造が認識しづらくなる。天然歯牙の内部構造の実態に近づけるという理由から、Δhは2~4mmの範囲内でることがより好ましく、wは2~5mmの範囲内であることがより好ましい。
【0040】
好適な態様において、「凹凸面」においては任意の縦断面における「境界線」は前記「波型曲線」によって構成されるが、各縦断面における「波型曲線」は同一である必要はない。「凹凸面」の平面図は、その形成方法により、例えば図6に示されるように、ドーム状の凸部が細密構造をとるように、或いは所定の間隔を置いて規則的に並べられた形態となることが一般的であり、全ての縦断面における「パターンユニット曲線」にはドーム状のどこかの縦断面が含まれることは確かであるが、その形状はドームの切断位置でかわるため、「波型曲線」もそれを反映したものとなる。ちなみに、好適な「凹凸面」においては、直径2~4mm、高さ2~4mmの半球状或いは、短径2~4mm、長径2~4mm、高さ2~4mmの半扁球状のドームが6~27個/cmの密度で細密充填的に配列されていることになる。
【0041】
なお、「パターンユニット曲線」の形状は、凹凸曲面の形状に応じて、その位置(縦断面に対して垂直な方向の位置)によって変化し、例えば図6に示す「凹凸面」場合、凸部の頂点(図中の黒丸で示される点に対応する)を結ぶ9本の各直線に沿った9つの縦断面の「パターンユニット曲線」の形状は同一となるが、2つの前記直線の中間点を通る、谷部を結ぶ直線における縦断面の「パターンユニット曲線」とは形状が異なるが、何れの位置の縦断面においても「境界線」は「波型曲線」となる。このように、縦断面の位置に依らず(形状は異なっても)「境界線」が「波型曲線」となるような凹凸曲面を形成することが好ましい。
【0042】
凹凸面となる「境界面」の数や位置は特に限定されないが、天然歯牙の内部構造を模倣するという観点に立つと切端領域である「色ユニット1」(図1における19)と「色ユニット2」(図1における18)と間の「境界面」が、凹凸面であることが好ましい。また、凹凸面からなる「境界面」で隣接する2つの「色ユニット」について各「色ユニット」におけるコントラスト比:Yb/Ywの差であるΔYb/Ywは、0.05~0.2以下であることが好ましい。ΔYb/Ywが0.05未満であると、とクラウン修復物とした際に内部構造を視認しにくくなる傾向があり、0.2を超えると色ユニット界面部が天然歯牙と比べて浮き出てしまい不自然な外観となる傾向がある。なお、コントラスト比:Yb/Ywとは、本発明では、厚さ1.0±0.1mmの試料について分光光度計による色差測定を行ったときに得られる背景色白におけるY値:Ywに対する背景色黒におけるY値:Yb/の比:Yb/Ywとして決定される値を意味する。このコントラスト比Yb/Ywが小さな値であるほど透明性が高く、大きな値であるほど透明性は低くなる。
【0043】
1-3.本発明のミルブランクの具体例について
以下、図1に示す縦断面を有する、6つの「色ユニット」を有する(m=6である)柱状体からなる被切削部1を有するミルブランクを例に、本発明のミルブランクについて説明する。図1に示される本発明のグラデーション構造10は、底面を含み、「基端領域色:B」を呈する「色ユニット6」14と、上面を含み「先端領域色:A」を呈する「色ユニット1」19とこれらの間に介在し、前記色A及びBの中間色:Cを呈する4つの「色ユニット2」18~「色ユニット5」15を有している。ただし、本発明のグラデーション構造は図1に示されるものに限定されず例えば「色ユニット」の数を表すmは、5~9であればよく、5~7であることが好ましい。また、A、Bのどちらを先端領域の色調に相当する色とするかは任意であるが、図1に示す態様ではAとしている。Aを先端領域の色調に相当する色とした場合、vita社の16色のシェードガイドのシェードで表して、Aは、通常、A1、A2及びA3の中から選択され、Bは通常、A3、A3.5、及びA4の中から選択される。また、AをA1より薄い色調としたり、BをA4より濃い色調としたりすることで、それらAとBの組み合わせから作製できる色調バリエーションを増やすことも可能である。
【0044】
本発明のミルブランクの被切削部を構成する柱状体の最先端側に位置する「色ユニット1」(図1における19)及び最基端側に位置する「色ユニット6(=m)」(図1における14)の厚さ(高さ)は、夫々前記柱状体の全厚さ(高さ)の15~35%であることが好ましく、20~30%であることがさらに好ましい。このとき、前記「ユニット1」の厚さ(高さ)と前記「ユニットm」の厚さ(高さ)は異なっていてもよい。「色ユニット1」及び前記「色ユニットm」が上記下限値を超えて薄くなると、歯牙の切端、歯頚部をはっきり再現することが困難となり、異なる形状の加工物に対応することが難しくなる傾向がある。一方、上記上限を超えて厚すぎる場合には、歯牙の切端、歯頚部をはっきり再現することはできるが「色ユニット2」(図1における18)~「色ユニット4(=m-2)」(図1における15)間の色調変化が急になり不自然となる傾向がある。
【0045】
また、本発明のグラデーション構造10では、「色ユニット2」18~「色ユニット5(=m-1)」15において、これらユニットの色は、いずれも前記色A及びBの中間色:Cであり、「色ユニット2」~「色ユニットm-1」に向かってAに近い中間色からBに近い中間色に段階的に変化している。すなわち、色A及びBの中間色:Cに属し、互いに異なる複数の色をC(但しnは、2~m-1までの自然数を表し、nの値が小さいほどAに近い中間色であり、nの値が大きいほどBに近い中間色であることを意味する。)としたときに、前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」の色は夫々C~Cm-1であり、前記中間色Cn-1と前記中間色Cとの色差:ΔEが常に1~7となる。また、AとCとの色差:ΔEAC1及びBとCm-1との色差:ΔEBCm-1も1~7、特に1~5であることが好ましい。ただし、各ΔE、ΔEAC1及びΔEBCm-1もの個別の値は、上記範囲内であれば互いに異なっていてもよい。例えば、変化幅を「色ユニット1」から「色ユニットm」にわたって徐々に増大させたり、徐々に減少させたり、中央部を大きく設定したりすることも可能である。
【0046】
また、本発明のグラデーション構造10では、図1における「色ユニット2」18と「色ユニット1」19との間の境界面のみが凹凸面によって構成されている。
【0047】
2.本発明の製造方法
本発明の製造方法は本発明のミルブランクを製造する方法であって、従来のHR系ミルブランクの一般的な製造方法と同様に、重合性単量体、無機フィラー、重合開始剤及び着色剤を含むペースト状HR原料組成物を準備し(原料準備工程)、これをモールド内に充填してから(充填工程)硬化させる(硬化工程)ことにより被切削加工部を得るものであるが、原料準備工程において2種類のHR原料組成物を準備し、充填工程においてこれらを用いた特殊な充填方法を採用した点に特徴を有し、このことによって本発明のミルブランクを効率的に製造することが可能となっている。以下、従来の一般的な方法と変わらない点を含めて本発明の製造方法における各工程について説明する。
【0048】
2-1.原料準備工程
原料準備工程では、重合性単量体、無機フィラー、重合開始剤及び着色剤を含むペースト状のHR原料組成物として、前記色:AのHRを与える「色ユニット1」用原料組成物Aと、前記色:BのHRを与える「色ユニットm」用原料組成物Bを準備し、更に前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」を形成するためのHR原料組成物として、前記原料組成物Aと前記原料組成物Bの混合物に相当する組成を有し、各「色ユニット」の外観色を与える(m-2)種の中間領域用HR原料組成物を準備する。このとき、上記(m-2)種の中間領域用HR原料組成物の調製は、調製後の組成が前記原料組成物Aと前記原料組成物Bの混合物に相当する組成となるような方法であればどのような方法で行っても良いが、「色ユニット1」用原料組成物Aと「色ユニットm」用原料組成物Bとを、両者の混合比を変えて直接混合して調製するか、「色ユニット1」用原料組成物Aの原料となる2以上の組成物と「色ユニットm」用原料組成物B或いはその原料となる2以上の組成物とを、混合比を変えて混合して調製するか、又は色ユニット1」用原料組成物A或いはその原料となる2以上の組成物と「色ユニットm」用原料組成物Bとを混合比を変えて混合して調製することが好ましく、「色ユニット1」用原料組成物Aと「色ユニットm」用原料組成物Bとを、両者の混合比を変えて直接混合して調製することが最も好ましい。
【0049】
ペースト状のHR原料組成物の原料となる重合性単量体は、その硬化体がHRの樹脂マトリックスとなるものである。当該重合性単量体としては、ラジカル重合性単量体が好適に使用できる。上記ラジカル重合性単量体は、特に限定されず、(メタ)アクリル化合物、エポキシ類やオキセタン類等のカチオン重合性単量体等の中から適宜選択して用いることができる。たとえば、歯科用重合硬化性組成物を得るためには、(メタ)アクリル化合物を使用することが好ましい。必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0050】
無機フィラーは、HR硬化体の強度を高めたり、弾性率を高めて撓みを少なくしたり、耐摩耗性を高めたり、重合収縮を抑制したり、流動性を調整するために添加される充填材である。公知の硬化性組成物に使用されている無機フィラーは、いずれも用いることができる。無機粒子の内、シリカ系複合酸化物粒子は、屈折率の調整が容易である。更に、粒子表面にシラノール基を多量に有するため、シランカップリング剤等を用いて表面改質が行い易いため、特に好ましい。シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニア等の粒子は、高いX線造影性を有しているので好適である。更には、より耐摩耗性に優れた硬化体が得られるので、シリカ-チタニア粒子、シリカ-ジルコニア粒子が最も好ましい。上記の無機フィラーは、有機無機複合粒子として配合してもよい。HR中における無機フィラーの充填率としては、50~99wt%が好ましく、60~95wt%である事がより好ましく、65~90wt%がさらに好ましい。無機充填率を充填率が低い場合、一般に流動性が高まるため、充填しやすいメリットが得られるものの、物性が低下するため70%以上とすることが最も好ましい。一方で、充填率を高めるに従い、歯科補綴物として優れた物性をもつ歯科用ブランクが得られるが、高すぎると流動性低下の影響で充填しにくくなることから85wt%以下であることが最も好ましい。
【0051】
重合開始剤は、重合性単量体を重合硬化させる機能を有するものであれば特に限定されない。硬化性組成物の重合方法には、紫外線、可視光線等の光エネルギーによる反応(以下、光重合という)、過酸化物と促進剤との化学反応によるもの、熱エネルギーによるもの(以下、熱重合という)等があり、いずれの方法であっても良い。光や熱などの外部から与えるエネルギーで重合のタイミングを任意に選択でき、操作が簡便である点から、光重合や熱重合が好ましく、光照射による重合ムラなどが生じ難く、均一に重合反応を行うことができるという理由から熱重合が特に好ましい。なお、光重合開始剤には、還元剤化合物に加えて光酸発生剤を加えて用いても良い。これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。また、重合方法の異なる複数の開始剤を組み合わせることも可能である。重合開始剤の配合量は目的に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して通常0.01~10質量部の割合であり、より好ましくは0.1~5質量部の割合で使用される。
【0052】
着色剤は、ペーストの色調、延いてはその硬化体であるハイブリッドレジンの色調を行うために配合されるものである。着色剤としては、従来から歯科用として使用されている顔料や染料等の着色物質が特に限定なく使用でき、目的とする色(A又はB)に応じて、これらを単独で、または複数を適宜組み合わせて、必要量配合すればよい。
【0053】
所定量の前記成分を混ぜ合わせて原料組成物A及び原料組成物Bやこれらの原料となる組成物を調整する場合の混練方法については、短時間で上記分散条件を満たすようにすることができ、且つスケールアップ製造が容易であるという理由から、遊星運動型撹拌機等の混練装置を用いて混練することが好ましい。連続的に混練が可能という点からは、単軸押し出し混練機や、多軸の混練機を使用することも可能である。また、脱泡処理は短時間で気泡を除去可能であるという理由から、減圧下で脱泡する方法を採用することが好ましい。
【0054】
2-2.充填工程
充填工程は、前記「色ユニット1」を形成するために前記原料組成物Aを前記モールドの内に必要量充填する、先端領域用充填工程と、前記「色ユニットm」を形成するために前記原料組成物Bを前記モールドの内に必要量充填する、基端領域用充填工程と、前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」を形成するために前記中間領域用HR原料組成物を前記モールドの内に必要量充填する中間領域用充填工程と、を有する。
【0055】
そして、これら工程を、(1)前記先端領域用充填工程、前記中間領域用充填工程及び前記基端領域用充填工程の順に順次行うと共に、前記先端領域用充填工程及び前記中間領域用充填工程の各充填工程における少なくとも1つの充填工程において、当該充填工程の次の充填工程を行う前にモールド内に充填されたHR原料組成物の上面(露出面)を、凹凸面とする、パターン1、又は(2)前記基端領域用充填工程、前記中間領域用充填工程及び前記先端領域用充填工程の順に順次行うと共に、前記基端領域用充填工程及び前記中間領域用充填工程の各充填工程における少なくとも1つの充填工程において、当該充填工程の次の充填工程を行う前にモールド内に充填されたHR原料組成物の上面(露出面)を凹凸面とする、パターン2の何れかのパターンによって行う。
【0056】
このとき、前記中間領域用充填工程では、前記原料組成物A及び前記原料組成物Bを、両者の混合比を変えて混合することによって、前記「色ユニット2」~「色ユニットm-1」の各色:を与える前記(m-2)種の中間領域用HR原料組成物を調製することが好ましい。そして、前記パターン1においては「色ユニット2」用原料組成物から「色ユニットm-1」用原料組成物までの中間領域用HR原料組成物を順次調製して各「色ユニット」形成するのに必要な量を前記モールドの内に充填し、前記パターン2においては「色ユニットm-1」用原料組成物から「色ユニット2」用原料組成物までの中間領域用HR原料組成物を順次調製し、原料組成物を変更して各「色ユニット」形成するのに必要な量を前記モールドの内に充填することが好ましい。
【0057】
なお、充填時に用いるモールドの材質は、金属、セラミックス、樹脂類、ゴム等を目的に応じて使用することができ、後述の硬化工程で実施する重合温度よりも耐熱性が高い材質を用いることが好ましい。成形型の材質としては、例えば、SUS、高速度工具鋼、アルミニウム合金、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、硬質ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。必要に応じてモールドの内面に、付着防止などの表面処理を施しても良い。
【0058】
ところで、隣接「色ユニット」間の境界に乱れが生じた場合には、切削加工後において所期のグラデーション構造が得られないことがありまた、境界に欠陥がある場合には、そこを起点として破損する危険性もあることから被切削部は、各「色ユニット」は高度に一体化して、隣接する「色ユニット」間に、乱れや欠陥を含む積層界面を有さない単層構造であることが好ましい。このような単層構造の被切削部は、前記したように、充填工程において2液混合ディスペンサーのような充填装置を用いてその組成を僅かに「段階的に」変えながら成形型内へノズルを走査して連続的にHR原料組成物を押し出して充填する方法(以下「連続充填法」ともいう。)により得ることができる。
【0059】
モールド内に充填されたHR原料組成物の上面(露出面)を凹凸面とする方法は特に限定されないが、所期の形状の「パターンユニット曲線」が規則正しく並んだ「境界線」を与える凹凸面が確実かつ効率的に形成できるという理由から、上記したような充填装置を用い、上記連続充填法において、走査中に吐出させるHR原料組成物の量を周期的に増減させることにより、好適に行うことができる。
【0060】
以下に、単層構造の被切削部を得る場合に好適に使用される充填装置及び該充填装置を用いた充填方法について説明する。
【0061】
2-3.好適な充填装置
上記した理由から、充填工程におけるHR原料組成物のモールド内への充填は、2種類の流体を別々に保持できる貯槽と各貯槽内に保持された複数種類の流体を任意の比率で均一に混合して吐出口より吐出させることができる吐出装置を用いて行うことが好ましい。このような吐出装置としては、所謂多液混合ディスペンサーと呼ばれる吐出装置が好適に使用される。図2は、混合可能な流体(液状組成物)の数が2である代表的な多液混合ディスペンサー(2液混合ディスペンサー)20の基本構成を示した模式図であり、2つの「貯槽部」21a,bの内部に貯留(保持)されている液状組成物を、スタティックミキサーや回転機構を有するミキサー等のミキシング機構を有する「ミキサー部」24で任意の割合で混合して、ノズル等の「吐出部」25の吐出口26から吐出してステージ部に保持されたモールド(成形型)内に充填できるようになっている。具体的には、2つの「貯槽部」21a,bの上流側には、夫々「加圧・減圧部」22a,bが付設されると共、下流部には「ミキサー部」24へ通じる「配管部」23a,bが接続されており、図示しない「制御部」によって各「加圧・減圧部」22a,bをそれぞれ独立に制御・駆動させて押し出し速度を制御して「ミキサー部」24へ送り込み、そこで2種の液状組成物が均一に混合されて前記「吐出部」25の吐出口26から押し出される(吐出する)構造となっている。このとき、「ミキサー部」24で液状組成物の混合を行わずに単一の液状組成物をそのまま吐出部25(吐出ノズルの吐出口26)から吐出させることも勿論可能である。図2に示す多(2)液混合ディスペンサーは、「ミキサー部」24を保持するための「アーム部」27と、モールド30を保持して載置するための「ステージ部」28をさらに有し、図示しない「制御部」によって「アーム部」27及び/又は「ステージ部」28を前後及び上下に移動させて、モールド30に対する「吐出部」25の吐出口26の相対的位置関係を前後左右及び上下に自在に制御できる構造となっている(以下、このような構造を有する多液混合ディスペンサーを「位置制御機構付き多液混合ディスペンサー」ともいう。)また、該位置制御機構付き多液混合ディスペンサーは、必要に応じて温度調整を行う「加温部」(図示せず)を有しても良い。このような基本構造を有する多液混合ディスペンサーでは、ミキサー部に接続する「加圧・減圧部」、「貯槽部」及び配管部からなるセットの数を増やすことにより混合対象となる液状組成物をその数に見合っただけ増やすことができるので、ミキサー部で混合するペーストの種類の組み合わせや混合比を任意に設定できる。このような位置制御機構付き多液混合ディスペンサーは、電子機器製造時に接着剤等の液体材料を所定のパターンで塗布する用途で汎用されているものであり(例えば特許文献5および6参照。)、カスタマイズされたものも商業的に入手可能である。
【0062】
位置制御機構付き多液混合ディスペンサーを用いることにより、「色ユニット2」~「色ユニットm-1」用のペースト状HR原料組成物の調製と(モールド内への)充填を同時に行うことが可能となる。例えば図2に示す構成のものを用いる場合には、2つの「貯槽部」21a,bの夫々予め調整した原料組成物A及びBを仕込んでおけば、「色ユニット1」の充填を行う場合には原料組成物Aのみを吐出させて充填を行い、「色ユニットm」の充填を行う場合には原料組成物Bのみを吐出させて充填を行い、「色ユニット2」~「色ユニットm-1」の充填を行う場合には、原料組成物AとBとを、所期の色調の混合ベースとなるように混合して充填を行えばよい。また、たとえば、先端領域色がA´で基端領域色がB´であるような異なる配色パターンの被切削部用の充填を行う場合には、「色ユニット1」及び「色ユニットm」の充填の際にも原料組成物AとBとの混合を行い、A´及びB´の色調を与えるペーストを調製して充填するようにしても良い。さらに、3以上の「貯槽部」を有する装置を用い、各貯槽にそれぞれ異なる色調を与えるペースト状HR原料組成物を仕込み、これらを適宜混合して各「色ユニット」用のペースト状HR原料組成物を調製して充填するようにしてもよい。
【0063】
2-4.好適な充填装置を用いた充填方法
前記した位置制御機構付き2液混合ディスペンサー用いて充填工程を行う場合について、2つの貯槽部の夫々に予め調整した原料組成物A及びBを仕込み、先端領域用充填工程では前記原料組成物Aのみを吐出させ、基端領域用充填工程では前記原料組成物Bのみを吐出させ、中間領域用充填工程では、前記原料組成物Aと前記原料組成物Bを適宜混合して、「色ユニット2」~「色ユニット4(=m-2)」の原料となる各「色ユニット」用の原料組成物{(m-2)種の中間領域用HR原料組成物}の調製とその充填を同時に行う連続充填法を例に説明する。
【0064】
上記連続充填法を前記パターン1で行う場合には、前記原料組成物Aのみを吐出させて前記先端領域用充填工程を行った後に、前記中間領域用充填工程として前記原料組成物A及び前記原料組成物Bを混合するに際し、得られる混合物中に占める前記原料組成物Bの割合を段階的に増加させて、各「色ユニット」用の中間領域用HR原料組成物を調製し、これを順次吐出させて前記中間領域用充填工程を行い、その後、前記原料組成物Bのみを吐出させて前記基端領域用充填工程を行う。また、前記パターン2を採用する場合には、前記原料組成物Bのみを吐出させて前記基端領域用充填工程を行った後に、前記中間領域用充填工程として前記原料組成物A及び前記原料組成物Bを混合するに際し、得られる混合物中に占める前記原料組成物Bの割合を段階的に減少させて、各「色ユニット」用の中間領域用HR原料組成物を調製し、これを順次吐出させて前記中間領域用充填工程を行い、その後、前記原料組成物Aのみを吐出させて前記先端領域用充填工程を行う。
【0065】
このとき、ペースト状HR原料組成物の充填手順を、モールド内底面における任意の1点を原点とし、底面の横方向及び縦方向を夫々x軸およびy軸とし、高さ方向をz軸とする座標系で表し、該モールド内に形成されるべきm個の「色ユニット」間の各境界の高さ相当する(m-1)個のz座標を底面側からz~zm-1として説明すると、次のようになる。すなわち、
(i)充填開始時における前記突出口の位置を、原点に配置し、
(ii)前記吐出口から所定の流速でHR原料組成物を吐出させながら前記吐出口の位置をx軸方向及び/又はy軸方向に移動させて底面上の全領域を1回走査して、当該1回の走査に見合った均一な厚さを有するモールド最下部充填領域を形成し、
(iii)前記(ii)の走査が終了した後に前記吐出口の位置を、z軸方向に上記モールド最下部充填領域の上面以上の高さまで移動させ、
(iv)前記(ii)と同様にして所定の流速でHR原料組成物を吐出させながら前記吐出口の位置をx軸方向及び/又はy軸方向に移動させて前記モールド最下部充填領域を下地として、その上面上の全領域を1回走査して、当該1回走査に見合った均一な厚みが追加された成長充填領域を形成し、
(v)前記成長充填領域を下地として前記(iii)及び(iv)の操作を連続的に繰り返す、
ことによって行い、さらに
吐出させる原料組成物の割合切り替えを、形成された成長充填領域の厚さが、z~zm-1の各高さと一致若しくは実質的に一致したタイミングで次の「色ユニット」の原料組成物が前記吐出口から吐出されるように前記(ii)~(iv)の操作時に行い、
モールド内に充填されたHR原料組成物の上面(露出面)を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面とする前記の少なくとも一つの充填工程においては、最上面の走査を行うに際し、吐出させるHR原料組成物の流速を周期的に増減させる(ただし、減ずる場合には、吐出を一時的に停止して吐出口の移動のみを行うことを含む。)ことにより、成長充填領域の上面(露出面)を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面とする。
【0066】
こうすることによって、短時間で効率的に単層からなるブランクを製造することが出来る。なお、充填領域における走査の向きは、x方向、y方向、及びそれらの組み合わせから任意に選択すればよいが、例えば、中央を起点とした渦巻状、四隅の何れかを起点とした蛇腹状、四隅の何れかを起点とした渦巻状などが挙げられる。走査の終点の(x,y)座標を変えずに(高さ:z座標)のみを変えて次の走査の起点として途切れなく充填することが好ましい。また、走査時のペースト吐出速度は、装置の動作速度に合わせて適宜調整する必要があるが、あらかじめ十分かつ余剰が出ない量を試運転にて決定しておくことで対応できる。量が多すぎる場合は領域厚が過剰となり、不十分な場合はブランクのサイズ不良に繋がるため、製造するブランクのサイズや要求する製造速度などに応じて過不足ないように試運転により適宜決定を行うようにすればよい。
【0067】
上記した連続充填法により、「色ユニット6(=m)」の色Bが歯牙の歯頚部及びその近傍領域の色調に相当する色調とし、「色ユニット1」の色Aが歯牙の先端領域の色調に相当する色調とし、前記パターン2を採用して図1に示す被切削部1を製造する場合の充填工程を例に更に詳しく説明する。この場合には、モールド内には底面2側から「色ユニット6(=m)」14、「色ユニット5(=m-1)」15、「色ユニット4」16、「色ユニット3」17、「色ユニット2」18及び「色ユニット1」19が形成されることになるので、zは、「色ユニット6(=m)」の厚さに相当する高さとなり、zは「色ユニット6(=m)」と「色ユニット5(=m-1)」の総厚さに相当する高さとなり、同様にしてzは、「色ユニット6」~「色ユニット2)」の総厚さに相当する高さとなる。ここで、「色ユニット2」18と「色ユニット1」19との間の「境界面」は凹凸面であるため、その縦断面に現れる「境界線」は所謂波型となり、zの高さは一定ではなく、前記「境界線」と一致するように軸線の長さ方向においてΔhの幅で周期的に変動する。
【0068】
そして、前記(i)及び(ii)では、例えば原点をモールド底面2の右前方のコーナー部に設定した場合には吐出部(ノズル先端の吐出口)からペースト状HR原料組成物40として原料組成物Bのみを吐出させながら該吐出部を、例えば図3及び図4の左図に示される矢印方向に移動させて、底面2上の全領域を1回走査して当該1回走査に見合った均一な厚み、具体的には当該1回の走査で吐出されたペーストの全容量(体積)を底面積で除した高さの相当する(平均)厚みを有するモールド最下部充填領域50を形成する。その後、(iii)及び(iv)において、図4の右図に示されるように、吐出部を前記1回の走査が終了した地点から前記(平均)厚み分だけ上方に移動させ、そこを始点として上記モールド最下部充填領域50を下地(充填領域)51として、その上面の全領域を1回走査し、当該1回走査に見合った均一な厚みが追加された成長充填領域52を形成する。その後、更に吐出部を走査が終了した地点から上記の追加された厚み分だけ上方に移動させて成長充填領域の上面の全領域を1回走査し、当該1回走査に見合った均一な厚みが追加された新たな成長充填領域を形成するというサイクルを新たな成長充填領域の厚み(高さ)がzと一致するか、最近接するまで繰り返して基端領域11(「色ユニット6」)用の充填を行う。基端領域11の充填が終了次第「ミキサー部」部内に残存する原料組成物Bに所定量の原料組成物Aを追加して「ミキサー部」で混合して「色ユニット5」の原料を調製してから、吐出部を、走査が終了した地点から、上記の追加された厚み分だけ上方に移動させて、これを吐出させて操作を行い、新たな成長充填領域を形成する操作を新たな成長充填領域の厚み(高さ)がzと一致するか、最近接するまで繰り返すことにより「色ユニット5」用の充填を行う。このとき、「色ユニット6」と「色ユニット5」との境界面は底面2と(ほぼ)平行な(ほぼ)平面となり、縦断面に現れる境界線Lは底面(あるいは軸線)と(ほぼ)平行な(略)直線となる。その後、原料組成物Bと原料組成物Aの混合比を変えて(原料組成物Aの割合を増やして)「色ユニット4」の原料(ペースト状HR原料組成物)を調製してから、吐出部を、走査が終了した地点から、上記の追加された厚み分だけ上方に移動させて、これを吐出させて操作を行い、新たな成長充填領域を形成する操作を新たな成長充填領域の厚み(高さ)がzと一致するか、最近接するまで繰り返すことにより「色ユニット4」用の充填を行う。そして、このようなパターンを繰り返して中間領域12において、凹凸面である境界面(図1においては波型の境界線Lに対応する。)の下側の「色ユニット」(図1においては「色ユニット2」)の直下の「色ユニット」(図1においては「色ユニット3」、高さz4)までの充填を行う。このとき、「色ユニット5」と「色ユニット4」との境界面に対応する境界線L、「色ユニット4」と「色ユニット3」との境界面に対応する境界線LもLと同様に底面(あるいは軸線)と(ほぼ)平行な(略)直線となる。
【0069】
その後、凹凸面である境界面(図1においては波型の境界線Lに対応する。)の下側の「色ユニット」(図1においては「色ユニット2」)の充填を上記と同様にして開始し、平面となる境界面(図1においては直線状の境界線Lに対応する。)を形成した後に、さらに同様にして次の境界面となる凹凸面(図1においては波型の境界線Lに対応する。)の最下点と同じ高さ(図1において矢印で現にzとして示される高さ)になるまで充填を継続する。次いで、最上面の走査を行うに際し、吐出させるHR原料組成物の流速を周期的に増減させることにより、成長充填領域の上面(露出面)を、凸部及び/又は凹部が複数規則的に配列された曲面(図1においては波型の境界線Lに対応する。)とする。例えば、図6及び図7に示すように、ノズルを走査するに際して、ノズルが図6の黒丸の位置に来た時のみ、一定の吐出量で一定時間ペースト状HR原料組成物を吐出させ、黒丸の位置以外ではペースト状HR原料組成物を吐出しないようにすることにより、縦断面において図1に示されるような(或いは図5最上図に示されるようなパターンユニットが軸線に沿って繰り返し配置されて連結する)波型の境界線を与える凹凸面からなる境界面を形成することができる。また、各黒丸の位置で吐出させるペースト状HR原料組成物の流速又は吐出時間を周期的に変更したり、ノズルを黒丸の位置に停止した状態で、一定量のペースト状HR原料組成物した後に吐出を停止し、所定時間吐出を停止した後に(一定量の)少量のペースト状HR原料組成物を吐出してから吐出を停止し次の黒丸の位置で同等の操作を繰り返したりすることにより図5の中段や下段に示すようなパターンユニットが軸線に沿って繰り返し配置されて連結する)波型の境界線を与える凹凸面からなる境界面を形成することもできる。
【0070】
このようにして「色ユニット2」における成長充填領域の最上面を形成した後、ペースト状HR原料組成物を原料組成物Aに切り替えて、前記凹凸面(図1においては波型の境界線Lに対応する。)の凹部を選択的に埋めるようにして(例えば周期的に並ぶ凹部最下点のみで充填を行う等して)表面の平滑化を行ってから所定の流速で原料組成物Aを吐出させながら走査を行って(前記(iii)及び(iv)を行って)「色ユニット1(=m)」分の充填、すなわち先端領域13用の充填を行い、充填工程を完了させる。
【0071】
なお、好適な充填装置を用いた充填方法は、上記した方法に限定されるものではなく、例えば、図2示すような2つの貯槽部等を有する装置の下流部にm個(例えば6個)又はm-2個(例えば4個)の「貯槽部」等を設けた2段構成とし、上流部の2つの貯槽部に夫々原料組成物Bと原料組成物Aを仕込み、これらを上流部の「ミキサー部」で適宜混合して「色ユニット2」~「色ユニット4(=m-2)」の原料ペースト{(m-2)種の中間領域用HR原料組成物}を調製して下流の4つの「貯槽部」に仕込み、料組成物Bと原料組成物Aをそのまま下流部の「ミキサー部」に供給できるようにするか又は下流部に別途設けられた2つの「貯槽部」に仕込み、下流部の各「貯槽部」仕込まれた各ペーストを単独で吐出部から吐出させるようにすることも可能である。また、前記したように3以上の貯槽部を有する装置を用いてミキサー部で「色ユニット1」~「色ユニット6(=m12)」の原料ペーストを調製して吐出部から吐出させるようにすることも可能である。また、(m-2)種の中間領域用HR原料組成物の調製と、吐出部の上方への移動のタイミング(順番)を変更することもできる。
【0072】
2-5.硬化工程
モールド内に充填されたペースト状HR原料組成物を重合硬化させ、加工可能なミルブランクの状態とするため、硬化工程を行う。HR原料組成物を硬化させる条件は、用いる重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することが可能である。例を挙げれば、熱重合開始剤を用いる場合の重合温度については、60~200℃が好ましく、70~150℃がより好ましく、80~130℃がさらに好ましい。60℃以下の温度で重合を行った場合、重合反応が不十分となり、歯科切削加工用ブランクの強度が弱くなり、クラックの発生や加工物の物性低下といった問題が生じる。一方、200℃以上の温度で重合を行った場合、HR中のレジン成分の変色が進行し、本発明の効果である天然歯牙との色調適合性が得難くなる。光重合開始剤を使用する場合、硬化対象の厚みが5mm以内となるように、充填と並行して光照射を行うことが好ましい。5mmを超えるとHR内部に光が透過しにくくなるため、長時間の連続照射が必要になったり、物性不良を招きやすくなったりする。物性をさらに向上させる目的で、熱重合開始剤との併用を行っても良い。その場合、前述の工程の後に、熱重合を行えばよい。
【0073】
硬化時の雰囲気に制限は無いが、酸化劣化による色調変化を防ぐために窒素等の不活性ガス雰囲気下で加熱処理する事が好ましい。処理に用いる装置は、硬化体を所望の温度に加熱する事ができる装置で有れば制限は無いが、一般的に自然対流式よりも強制対流式オーブンの方が内温の均一性が高く好ましい。また、不活性ガス雰囲気下とするための方法にも制限は無いが、例えば、別途硬化体を収容するための密閉容器を用いても良く、オーブン自体に密閉構造を持たせて内部雰囲気を置換しても良い。オーブンが密閉構造でない場合でも、雰囲気ガスを連続的に流す方法を用いることもできる。
【0074】
また、硬化時の圧力は常圧下であっても良いが、0.1MPa~0.9MPa、好ましくは0.2MPa~0.6MPaの加圧化で行うことが好ましい。このような加圧下での熱重合は、加圧オーブンやオートクレーブのような加熱可能な圧力容器を用いて行うことができる。
【0075】
そして、得られたハイブリッドレジンに、必要に応じて、熱処理、研磨、切削、保持具の取り付け、印字等の後工程を行うことができる。さらに、必要に応じて、歯科切削加工用ブランクを切削加工機に固定するための保持ピンを接合してもよい。ブランク保持ピンは、切削加工機にブランクを固定できるような形状のものであれば特に制限はなく、ブランクの形状と加工機の要求によっては具備されなくともよい。ブランク保持ピンの材質は、ステンレス、真鍮、アルミニウムなどが使用される。ブランク保持ピンの歯科切削加工用レジン材料への固定方法は前記の接着によらず、はめ込み、ネジ止め等の方法でよく、上記接着方法についても特に制限はなく、イソシアネート系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、アクリル系等の各種市販の接着材を使用することができる。
【実施例0076】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。なお、実施例及び比較例では「色ユニット」を「CU」と表記し、「色ユニット1」は「CU1」のように表すこととする。
【0077】
実施例1
(1)「CU1」用原料組成物A(ペーストAともいう。)と、色:BのHRを与える「CU5(=m)」用原料組成物B(ペーストBともいう。)の調製
重合性単量体組成物として、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン:70質量部、トリエチレングリコールジメタアクリレート:30質量部、及びベンゾイルパーオキサイド:1.0質量部、粉体組成物として、平均粒子径が12μmである有機無機複合フィラー(平均粒径0.2μm球状シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物83質量%含有物(有機成分は前記重合性単量体組成物の硬化体と同一。)を50質量部と、平均粒径0.2μm球状シリカジルコニアのγ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン処理物50質量部を、プラネタリーミキサーを用いて均一になるまで混合し、ベース重合性硬化性組成物を得た。さらに、ベース重合性硬化性組成物100質量部に対して顔料成分として赤色顔料(ピグメントレッド166)、黄色顔料(ピグメントイエロー95)、青色顔料(ピグメントブルー60)、白色顔料(二酸化チタン)、を配合することにより「色ユニット1」用原料組成物A1(ペーストA1ともいう。)を調製すると共に、同ベース重合性硬化性組成物100質量部に対して顔料成分として赤色顔料(ピグメントレッド166)、黄色顔料(ピグメントイエロー95)、青色顔料(ピグメントブルー60)、白色顔料(二酸化チタン)、を配合することにより「色ユニットm」用原料組成物B(ペーストB1ともいう。)を調製した。これら組成物A1及びB1について厚さ1mmの硬化体試料を作製し、分光光度計(東京電色製、「TC-1800MKII」)を用い、ハロゲンランプ:12V100W、測定波長範囲380~780nm、反射光0°d法(JIS Z8722)、測定面積5mmφ、背景色白(標準白色板を硬化体に重ねて光遮蔽した状態)という測定条件でL、a及びbを測定したところ、ペーストA1の試料(先端領域色A1:vitaシェードがA1の色調に相当)についてはL=74.0、a=―3.6、b=8.5であり、ペーストB1の試料(基端領域色B1:vitaシェードがA3の色調に相当)についてはL=68.6、a=―2.5、b=17.0であり、これらから求められる先端領域色A1と基端領域色B1との色差:ΔEABは10.1であった。
【0078】
(2)HR系ミルブランクの製造
表面が平坦な「CU」が一つ少ない他は図1に示す構成と同様の5つの「CU」を有する(m=5の)グラデーション構造の被切削部を有するHR系ミルブランクを次のようにして製造した。すなわち、先ず、図2に示す装置と同じ基本構成を有する、市販の容量計量式2液混合ディスペンサー(位置制御機構付き)と内面底面形状が18.0mm×14.5mmで高さが14.5mmの充填用モールドを用いて、連続充填法により前記モールド内に5つのCU用のペースト状HR原料組成物の充填を行った。
【0079】
具体的には、何れも真空脱泡した前記ペーストA1及びペーストB1を夫々2つの「貯槽部」の一方及び他方に仕込み、パターン2により、前記した方法に順じて、モールド底面上の原点のノズルから一定流速で「CU5」用原料組成物Bを吐出させながらノズルを移動させる連続吐出走査によりモールド最下部充填領域と成長充填領域を形成して厚さ3.6mmの「CU5」(基端領域)の充填を行った。次いで、HR原料組成物をCU4用のものに切り替え、上面がフラットな厚み2.4mmの「CU4」の充填を行った後、更にHR原料組成物をCU3用のものに切り替え、同様にして上面がフラットな厚み2.4mmの「CU3」の充填を行い、さらにHR原料組成物をCU2用のものに切り替え、同様にして2.4mmの厚さとなるまで(10.8mmの高さまで)上面がフラットになるようにHR原料組成物を充填した。その後、図7に示すようにノズル断続的な移動・停止とノヅル停止時における「CU2」用HR原料組成物の吐出を繰り返し、図6に示されるような半球状の凸部が前記上面上に規則的に並んだ構造を形成する「CU2」の充填を行った。その後、HR原料組成物を「CU1」用原料組成物Aに切り替え、「CU2」上面の凸部の谷間に相当する凹部埋めるようにこれを充填することにより、図6に示す凸部の頂点(図中の黒丸で示される点に対応する)を結ぶ直線に沿った縦断面に対応する縦断面においてΔhが2mmであり、wが2mmである図5上段に示すようなパターンユニットが連結した境界線を与える凹凸面を形成した後に、更にほぼモールドの高さに達するまで「CU1」用原料組成物Aの連続吐出走査を続けることにより「CU1」(先端領域)の充填を行った。なお、高さ10.8mmの位置から図った「CU1」の(最大)厚みは、3.6mmとなる。
【0080】
このとき、「CU2」~「CU4」用の各HR原料組成物はペーストA1とペーストB1の混合比A1:B1を以下のように設定した。また別途調製した上記各HR原料組成物の厚さ1mmの硬化体試料を用いてL、a及びbを測定した結果は以下の通りであった。
HR原料組成物 A1:B1 L
「CU2」用 75:25 72.7 ―3.3 10.6
「CU3」用 50:50 71.3 ―3.1 12.8
「CU4」用 25:75 70.0 ―2.8 14.9
なお、上記結果から求められる隣接する2つの「CU」の色の色差:ΔEab(但し、aは下側の色ユニットの番号を表し、bは上側の色ユニットの番号を表す)は、ΔE12=2.5、ΔE23=2.6、ΔE34=2.5、ΔE45=2.5となる。
【0081】
次に、充填済モールドを加熱。加圧装置内に移し、窒素雰囲気下で0.4Mpaに加圧しつつ95℃で15時間の加熱を行うことで硬化させた後に脱型、バリ処理を行って4個の被切削部を作製し、更にこれにCAM用の保持ピンの接着を行うことで4個のHR系ミルブランクを製造した。
【0082】
(3)HR系ミルブランクの評価
得られたHR系ミルブランクを用いてCAD/CAMシステムにより、犬歯及び各臼歯用のクラウン(歯冠)を作製し、その外観評価を行った。作製した補綴物とその作成方法、評価方法の詳細及び評価結果を以下に示す。
【0083】
<作製したクラウンと作成方法>
コア材を用いて作製した、犬歯及び臼歯(第一小臼歯、二小臼歯、第一大臼歯)の支台歯を配置した下顎模型を模型用スキャナでスキャンし、付属のCADソフト(DENTALWING製)を用いて各支台歯に対応する歯冠STLデータを作成し、さらにCAMソフト(WORKNC DENTAL:Vero Software社製)を使用して加工用パスを作製した。作製したパスを用い、切削加工機(DWX-52D:DCSHAPE社製)にて上記犬歯及び臼歯用のクラウンA~Dを作製した。なお、作製した各種クラウンの高さは以下のとおりである。
・下顎犬歯クラウン(クラウンA):高さ12mm
・下顎第一小臼歯クラウン(クラウンB):高さ8mm
・下顎第二小臼歯クラウン(クラウンC):高さ5.5mm
・下顎第一大臼歯クラウン(クラウンD):高さ4.5mm
<クラウンの評価方法及び評価結果>
作製したHR系ミルブランクにより作製したクラウンが、歯冠長(高さ)に拘わらず天然歯牙のグラデーションを再現し、更に治療後において自然な立体感が得られるものであり、天然歯牙の内部構造を再現しているかどうかを確認するために、以下に示すクラウン間外観比較、調和性評価及び口腔内での内部構造模倣性評価を行った。
【0084】
[クラウン間外観比較]
前記支台歯を固定した下顎模型の支台歯に歯科用レジンセメント(エステセムII ユニバーサル色:トクヤマデンタル製)を用いて作製したクラウンA~Dを装着し、隣り合う(大きさの異なる)クラウン間で外観の比較を行い、下記評価基準に基づいて評価を行ったところ、クラウンA、B間、クラウンB、C間及びクラウンC、D間の全てにおいて評価は優(◎)であった。
【0085】
評価基準
優(◎) :外観差がほとんど無く調和している。
良(〇) :注意深く観察すると外観差が認められるレベル。
可(△) :普通に観察して外観差が認められるが許容できるレベル。
不可(×):外観差が大きく、並べると違和感を覚える。
【0086】
[調和性評価]
歯頚部側の色調が基端領域色B1のシェード:A3である人工歯技工物(一般的な審美修復に用いられる市販のポーセレンシステムを用いて作製されたポーセレン歯。通常の自費診療における技工物と同様に、歯牙の構造を積層・築盛によって再現した天然歯の外観に近いもの。)からなる市販の人工歯の全歯セットを準備し、クラウンA~Dの1つに対応する支台歯と、該支台歯以外の人工歯技工物を固定した下顎模型の支台歯に(これに適合する1つの)クラウンを上記と同様にして装着し、評価用試料を(クラウンの数=4個)作製した。これとは別に全ての人工歯技工物を固定した上顎模型を作製し、上下顎模型を咬合させた状態で外観色を観察し、調和性を下記評価基準に基づいて評価を行ったところ、クラウンAは優であり、クラウンB優であり、クラウンCについては優であり、クラウンDについては優であった。
優(◎) :クラウン修復部が周囲と調和し、修復部の色調遷移も人工歯と同等である。
良(〇) :注意深く観察するとクラウン修復部を認識できるレベルであり、修復部の色調遷移は人工歯に近い。
可(△) :普通に観察してクラウン修復部を認識できるが、許容できるレベル。
不可(×):一見して修復部が認識でき、違和感を覚える。
【0087】
[口腔内での内部構造模倣性評価]
前記調和性評価と同様に上顎及び下顎模型を使用した。加えて、口腔内を想定して顎模型及びクラウン修復物の前方以外からの光を遮断し、前方からのみ光を当てた状態でクラウン修復物の内部構造の評価を行った。内部構造の模倣性を下記基準に基づいて評価を行ったところ、クラウンA、クラウンB、クラウンC及びクラウンDすべてにおいて優であった。
優(◎) :クラウン修復部の内部構造が周囲の人工歯と同等である。
良(〇) :内部構造が良く模されているが、注意深く観察するとクラウン修復部を認識できるレベル。
可(△) :修復部を認識できるが、わずかに内部構造も観察され、許容できるレベル。
不可(×):内部構造が観察されず、一見して修復部を認識できる。
【0088】
実施例2~5
パターンユニットの数とパターンユニットの軸線方向の長さを表1に示すものとした以外は、実施例1と同様にしてHR系ミルブランクを作成した。得られたHR系ミルブランクについて実施例1と同様にしてクラウンを作製し評価を行った。結果を表2に示す。
【0089】
実施例6
凹凸の厚みΔhを表1に示すものとした以外は、実施例2と同様にしてHR系ミルブランクを作成した。得られたHR系ミルブランクについて実施例1と同様にしてクラウンを作製し評価を行った。結果を表2に示す。
【0090】
実施例7
凹凸の厚みΔhを表1に示すものとした以外は、実施例1と同様にしてHR系ミルブランクを作成した。得られたHR系ミルブランクについて実施例1と同様にしてクラウンを作製し評価を行った。結果を表2に示す。
【0091】
実施例8
パターンユニットの数とパターンユニットの軸線方向の長さを表1に示すものとした以外は、実施例7と同様にしてHR系ミルブランクを作成した。得られたHR系ミルブランクについて実施例1と同様にしてクラウンを作製し評価を行った。結果を表2に示す。
【0092】
実施例9
凹凸の厚みΔhを表1に示すものとした以外は、実施例8と同様にしてHR系ミルブランクを作成した。得られたHR系ミルブランクについて実施例1と同様にしてクラウンを作製し評価を行った。結果を表2に示す。
【0093】
実施例10~11
凹凸面を有するCUの数を表1に示すものとした以外は、実施例1と同様にしてHR系ミルブランクを作成した。得られたHR系ミルブランクについて実施例1と同様にしてクラウンを作製し評価を行った。結果を表2に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
比較例1
パターンユニットの数とパターンユニットの軸線方向の長さ(w)を表3に示すものとした以外は、実施例1と同様にしてHR系ミルブランクを作成した。得られたHR系ミルブランクについて実施例1と同様にしてクラウンを作製し評価を行った。結果を表4に示す。
比較例2
凹凸の厚みΔhを表3に示すものとした以外は、実施例1と同様にしてHR系ミルブランクを作成した。得られたHR系ミルブランクについて実施例1と同様にしてクラウンを作製し評価を行った。結果を表4に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【符号の説明】
【0099】
1・・・被切削部
2・・・底面
3・・・上面
10・・・本発明のグラデーション構造
11・・・基端領域(基端領域色A)
12・・・中間領域(中間領域色C:C~C
13・・・先端領域(先端領域色B)
14・・・色ユニット6(色ユニットm)
15・・・色ユニット5(色ユニットm-1)
16・・・色ユニット4
17・・・色ユニット3
18・・・色ユニット2
19・・・色ユニット1
20・・・2液混合ディスペンサー(位置制御機構付き多液混合ディスペンサー)
21a,b・・・貯槽部
22a,b・・・加圧・減圧部
23a,b・・・配管部
24・・・ミキサー部
25・・・吐出部
26・・・吐出口
27・・・アーム部
28・・・ステージ部
30・・・モールド
40・・・ペースト状HR原料組成物
50・・・モールド最下部充填領域
51・・・下地(充填領域)
52・・・成長充填領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-08-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
【特許文献1】特表2016-535610号公報
【特許文献2】国際公開第2018/074605号パンフレット
【特許文献3】特開2020-151339号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2019/247168号明細書
【特許文献5】特許第6285909号公報
【特許文献6】特許第6349480号公報