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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024168999
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】漏れ検査装置及び漏れ検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/20 20060101AFI20241128BHJP
   G01M 3/32 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G01M3/20 E
G01M3/20 B
G01M3/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086160
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】510186292
【氏名又は名称】株式会社 マルナカ
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】中川 貢
(72)【発明者】
【氏名】榎本 和巳
【テーマコード(参考)】
2G067
【Fターム(参考)】
2G067AA44
2G067BB02
2G067BB03
2G067BB30
2G067CC13
2G067DD17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大容積の真空容器を用いた真空容器法による漏れ検査において被試験体から漏れ出る探査ガスの漏れ流量の漏れ応答時間を大幅に短縮すること。
【解決手段】第1真空ポンプ3とは別個に、排気速度S且つ圧縮比mの第2真空ポンプ4を真空容器1とヘリウムガス検出器5との間に設ける。真空容器1と第2真空ポンプ4はコンダクタンスがC1の入口配管4aによって接続する。また、第2真空ポンプ4とヘリウムガス検出器5はコンダクタンスがC2の出口配管4bによって接続する。真空容器1を第1真空ポンプ3によって真空排気し、真空容器1の内圧P1が、ヘリウムガス検出器5の入口圧P5を許容上限圧力以下にする到達圧力P[Pa]になる時に、第1真空バルブ14を閉じて、第2真空バルブ15を開とし、第2真空ポンプ4によって真空容器1を真空排気するのと同時にヘリウムガス検出器5のポンプを動作させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の真空環境下で被試験体(11)を収容する真空容器(1)と、
前記真空容器(1)の内部を所定の真空圧力(P1)に真空排気する第1真空ポンプ(3)と、
前記被試験体(11)の内部を真空排気する第3真空ポンプ(12)と、
前記被試験体(11)の内部に探査ガスを供給する探査ガス源(13)と、
前記被試験体(11)から漏洩する前記探査ガスの漏れ流量を検出する探査ガス検出器(5)とを備えた漏れ検査装置(100、200)であって、
前記真空容器(1)と前記探査ガス検出器(5)との間に、前記探査ガス検出器(5)の排気速度より大きい排気速度(S)を有する第2真空ポンプ(4)が設けられ、
前記第2真空ポンプ(4)は前記探査ガス検出器(5)の入口部(5a)での圧力(P5)が許容上限圧力以下となるようにコンダクタンス(C2)が予め設定された出口配管(4b)を介して前記前記探査ガス検出器(5)に接続されている
ことを特徴とする漏れ検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の漏れ検査装置において、
前記第2真空ポンプ(4)の後段に、該第2真空ポンプ(4)の排気を補助する第4真空ポンプ(6)が前記探査ガス検出器(5)に対し並列に設けられている
ことを特徴とする漏れ検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の漏れ検査方法において、
前記第2真空ポンプ(4)は排気速度が0.05m/s以上であり且つ圧縮比が10以上である
ことを特徴とする漏れ検査装置。
【請求項4】
所定の真空圧力に保持された真空容器(1)の内部に置かれた被試験体(11)の内部に探査ガスを供給し前記被試験体(11)から漏洩する前記探査ガスの漏れ流量を探査ガス検出器(5)によって測定する漏れ検査方法であって、
前記漏れ検査方法は、排気速度(S)が前記探査ガス検出器(5)より大きい第2真空ポンプ(4)を前記真空容器(1)に接続すると共に、前記第2真空ポンプ(4)の排気口を「前記探査ガス検出器(5)の入口部(5a)での圧力(P5)が許容上限圧力以下となるように」コンダクタンス(C2)が予め設定されている出口配管(4b)を接続し、前記第2真空ポンプ(4)からの排気流を前記出口配管(4b)によって圧力降下させながら前記探査ガス検出器(5)の入口部(5a)に移送することを特徴とする
ことを特徴とする漏れ検査方法。
【請求項5】
請求項4に記載の漏れ検査方法において、
前記第1真空ポンプ(3)と前記第2真空ポンプ(4)を併用して前記真空容器(1)の内部を真空排気する
ことを特徴とする漏れ検査方法。
【請求項6】
請求項4に記載の漏れ検査方法において、
前記第2真空ポンプ(4)の後段に前記探査ガス検出器(5)と並列に第4真空ポンプ(6)を設け、前記第2真空ポンプ(4)の排気を第4真空ポンプ(6)によって排気しながら、前記真空容器(1)の内部を真空排気する
ことを特徴とする漏れ検査方法。
【請求項7】
請求項4に記載の漏れ検査方法において、
前記被試験体(11)の内部に探査ガスを導入して探査ガスの漏れ流量を測定する時間は、予め漏れ流量の時間推移を測定しておき、測定値が前記飽和漏れ流量の63%以上の漏れ流量となる時間以上とする
ことを特徴とする漏れ検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏れ検査装置及び漏れ検査方法に関し、更に詳細には大容積の真空容器を用いた真空容器法による漏れ検査において被試験体から漏れ出る探査ガスの漏れ流量についての漏れ応答時間を大幅に短縮し、これにより被試験体の漏れ検査時間を大幅に短縮することが可能な漏れ検査装置及び漏れ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械産業や電気産業など各種産業の部品や容器では、漏れ検査が必要なものがある。これら部品や容器の漏れ検査を行う方法として、所定の真空度の真空容器の内部に設置された被試験体の内部に探査ガスを導入することで被試験体から真空容器に漏れ出す探査ガスを探査ガス検出器で検出する真空容器法が用いられるが、部品や容器など被試験体が大型の場合、真空容器法による漏れ検査では、大容積の真空容器が必要となり、漏れ検査に長時間の時間を要するという問題が発現する。
【0003】
大容積の真空容器を用いた真空容器法による漏れ検査が長時間となる原因は、(1)大容積の真空容器の真空排気に時間を要すること、(2)大容積の真空容器に漏れ出た探査ガスを探査ガス検出器を用いて検出する時に探査ガスの漏れ流量についての漏れ応答時間が長時間化することが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、多孔質部材を収容した袋状体を真空容器内に設置することで、真空容器の空間容積を減少させ、これにより真空排気時間が短縮できることが開示されている。
【0005】
非特許文献1は、被試験体を収容する真空容器の漏れ検査についての解説論文であるが、真空容器に対し装置の真空ポンプによる真空排気と探査ガス検出器であるヘリウムリークディテクターの真空排気を並列して実行する場合の漏れ検査について開示されている。この非特許文献1には、並列排気で漏れ検査する時に、真空ポンプに流れるガスの流量とヘリウムリークディテクターに流れるガスの流量の比である分流比に注意が必要なことが開示されている。
【0006】
また、非特許文献1には、探査ガス検出器であるヘリウムリークディテクターを用いた漏れ検査を実行する時に、真空容器の容積をV,真空容器と真空ポンプの接続部(真空容器の排気口)における実効排気速度をSeとした時に、ヘリウムガスの漏れ流量についての漏れ応答時間(τ)がτ=V/Seで表され、真空容器の容積Vが大きい時に、漏れ応答時間が長時間化することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3570333号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】https://doi.org/10.1380/vss.61.505、表面と真空Vol.61,No.8,pp.505-509,2018,特集「真空機器メンテナンス講座」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
漏れ検査の長時間化の原因の一つである真空排気時間については、文献1の真空容器の内容積の削減を用いれば解決できる。また、真空容器を大排気速度の真空ポンプにより真空排気することも有効であることは自明である。
【0010】
一方、真空容器の容積が大きい時に探査ガス検出器の漏れ応答時間が長時間となることは開示されているが、この漏れ応答時間の長時間化の対策については開示されていない。
【0011】
図7は、従来の漏れ検査装置500の要部構成を示す説明図である。すなわち、先ず第1真空ポンプ3によって真空容器1の内部を所定の圧力まで真空排気した後に、第1真空バルブ14を閉じ第1真空ポンプ3を停止する。次に第2真空バルブ15を開きヘリウムガス検出器5によって被試験体11から漏れ出すヘリウムガスの漏れ流量を測定することとしている。
【0012】
詳細については後述するが、漏れ応答時間が長時間となる原因は、通常の真空装置の真空ポンプ(第1真空ポンプ3)の排気速度と比較して、探査ガス検出器(ヘリウムガス検出器5)の入口部5aでの排気速度および圧力(許容上限圧力)が小さく設定されていることに起因する。ここで、探査ガス検出器の入口部5aでの排気速度および許容上限圧力が小さく設定される理由は探査ガス検出器の検出感度を非常に高くするためである。例えば、探査ガス検出器であるヘリウムリークディテクターは入口での排気速度が5×10-3/sと、許容上限圧力は2Paと小さく設定され、検出漏れ流量下限が10-12Pa・m/sと極微量な漏れ流量を検出することが可能である。
【0013】
一般に、ヘリウムガス検出器5によって検出されるヘリウムガスの漏れ流量Qは、真空容器1の内圧をP1、真空容器1の内容積をV、真空容器1と入口配管4aとの接続部における実効排気速度をSe、被試験体11から真空容器1の内部に漏洩する一定値の漏れ流量(以下「飽和漏れ流量」という。)をQとする時に、漏れ流量Qの時間変化は、飽和漏れ流量(Q)から排気流量(Se×P1)を除いたものに等しくなるから、下記式100が成立する。
(式100):V×(ΔP1/Δt)=-Se×P1+Q
【0014】
式100は、真空容器1の内圧P1についての1階の線形微分方程式である。t=0においてP1=P0とすると、内圧P1は下記式101で記述される。
(式101):P1=(P0-Q/Se)exp(-t/V/Se)+Q/Se
【0015】
式101の両辺に実効排気速度Seを乗じると、漏れ流量Qは下記式102で記述される。
(式102):Q=Se×P1=(P0×Se-Q)exp(-t/V/Se)+Q
【0016】
説明の都合上、式102において、P0×Se≪Qと仮定すると、上記式102は下記式103で記述される。
(式103):Q=Q(1-exp(-t/V/Se))
【0017】
図8は、上記式103で表される漏れ流量Qの時間推移を示すグラフである。漏れ応答時間はV/Se(=τ)で定義されるものであるが、この漏れ応答時間τは、漏れ流量Qが飽和漏れ流量Qの約63%に等しくなるまでの時間である。或いは、任意の時間t1から任意の時間t1における漏れ流量Qの接線L1が飽和漏れ流量Qに等しくなるまでの時間である。例えば、真空容器1の内容積Vが0.5m、ヘリウムガス検出器5の入口での実効排気速度が0.25m/sの時、漏れ応答時間τは200s(=0.5m/0.25m/s)となる。
【0018】
各種部品の漏れ検査では、漏れ流量閾値Qt[Pa・m/s]を設定し、部品の内部にヘリウムガスを導入し漏れ応答時間τ以上の時間t2まで漏れ流量を測定するが、一般に、その検査繰り返し時間は、60s以内が要請される。したがって、前述の漏れ応答時間200sは非常に長時間である。
【0019】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、その目的は、大容積の真空容器を用いた真空容器法による漏れ検査において被試験体から漏れ出る探査ガスの漏れ流量についての漏れ応答時間を大幅に短縮し、これにより被試験体の漏れ検査時間を大幅に短縮することが可能な漏れ検査装置及び漏れ検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するための本発明に係る漏れ検査装置は、所定の真空環境下で被試験体(11)を収容する真空容器(1)と、前記真空容器(1)の内部を所定の真空圧力(P1)に真空排気する第1真空ポンプ(3)と、前記被試験体(11)の内部を真空排気する第3真空ポンプ(12)と、前記被試験体(11)の内部に探査ガスを供給する探査ガス源(13)と、前記被試験体(11)から漏洩する前記探査ガスの漏れ流量を検出する探査ガス検出器(5)とを備えた漏れ検査装置(100、200)であって、前記真空容器(1)と前記探査ガス検出器(5)との間に、前記探査ガス検出器(5)の排気速度より大きい排気速度(S)を有する第2真空ポンプ(4)が設けられ、前記第2真空ポンプ(4)は前記探査ガス検出器(5)の入口部(5a)での圧力(P5)が許容上限圧力以下となるようにコンダクタンス(C2)が予め設定された出口配管(4b)を介して前記前記探査ガス検出器(5)に接続されていることを特徴とする。
【0021】
上記構成では、真空容器(1)の内部に拡散した探査ガス分子を、排気速度(S)の大きい第2真空ポンプ(4)によって吸引することにより、真空容器(1)の出口部における実効排気速度(Se)を大きくし、これにより漏れ応答時間(V/Se)が小さくなるようにしている。
【0022】
一方、探査ガス検出器(5)の前段に第2真空ポンプ(4)を設けたことにより、第2真空ポンプ(4)の排気圧(P3)が、探査ガス検出器(5)の入口部(5a)に直接印加する場合は、探査ガス検出器(5)の入口圧(P5)が許容上限圧力を超える虞がある。
【0023】
しかし、上記構成では、第2真空ポンプ(4)の排気口と探査ガス検出器(5)の入口部(5a)とをコンダクタンス(C)が予め設定された出口配管(4b)で接続することにより、出口配管(4b)において圧力降下を引き起こし探査ガス検出器(5)の入口圧(P5)が許容上限圧力以下になるようにしている。その結果、探査ガス検出器(5)の検出感度を維持しながら漏れ応答時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0024】
本発明に係る漏れ検査装置の第2の特徴は、前記第2真空ポンプ(4)の後段に、該第2真空ポンプ(4)の排気を補助する第4真空ポンプ(6)が前記探査ガス検出器(5)に対し並列に設けられていることである。
【0025】
上記構成では、第2真空ポンプ(4)と第4真空ポンプ(6)を真空容器(1)に対する真空排気に使用し、これにより漏れ応答時間だけでなく真空排気時間についても大幅に短縮するようにしている。また、第2真空ポンプ(4)の排気速度(S)のみでは探査ガス検出器(5)の入口圧(P5)を許容上限圧力以下に設定することが難しい場合は、第2真空ポンプ(4)の排気口を第4真空ポンプ(6)によって真空排気することにより、探査ガス検出器(5)の入口圧(P5)を許容上限圧力以下に設定することが可能となる。
【0026】
本発明に係る漏れ検査装置の第3の特徴は、前記第2真空ポンプ(4)は排気速度が0.05m/s以上であり且つ圧縮比が10以上であることである。
【0027】
上記構成では、真空容器(1)の出口での実効排気速度(Se)を大きくすることが可能となる。
【0028】
上記目的を達成するための本発明に係る漏れ検査方法は、所定の真空圧力に保持された真空容器(1)の内部に置かれた被試験体(11)の内部に探査ガスを供給し前記被試験体(11)から漏洩する前記探査ガスの漏れ流量を探査ガス検出器(5)によって測定する漏れ検査方法であって、前記漏れ検査方法は、排気速度(S)が前記探査ガス検出器(5)より大きい第2真空ポンプ(4)を前記真空容器(1)に接続すると共に、前記第2真空ポンプ(4)の排気口を前記探査ガス検出器(5)の入口部(5a)での圧力(P5)が許容上限圧力以下となるようにコンダクタンス(C2)が予め設定されている出口配管(4b)を接続し、前記第2真空ポンプ(4)からの排気流を前記出口配管(4b)によって圧力降下させながら前記探査ガス検出器(5)の入口部(5a)に移送することを特徴とする。
【0029】
上記構成では、漏れ応答時間を大幅に短縮すると共に、探査ガス検出器(5)の検出感度が良好な状態で漏れ流量を測定することが可能となる。
【0030】
本発明に係る漏れ検査方法の第2の特徴は、前記第1真空ポンプ(3)と前記第2真空ポンプ(4)を併用して前記真空容器(1)の内部を真空排気することである。
【0031】
上記構成では、漏れ流量の測定を開始するときの到達圧力(P)まで真空容器(1)の内部を真空排気するのに要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0032】
本発明に係る漏れ検査方法の第3の特徴は、前記第2真空ポンプ(4)の後段に前記探査ガス検出器(5)と並列に第4真空ポンプ(6)を設け、前記第2真空ポンプ(4)の排気を第4真空ポンプ(6)によって排気しながら、前記真空容器(1)の内部を真空排気することである。
【0033】
上記構成では、例えば第2真空ポンプ(4)の排気圧(P5)が上昇して、探査ガス検出器(5)の入口部(5a)の圧力(P5)が許容上限圧力を超える場合であっても、第4真空ポンプ(6)が第2真空ポンプ(4)の排気圧(P5)を低下させ、探査ガス検出器(5)の入口部(5a)の圧力(P5)を許容上限圧力以下になるようにする。このように、第2真空ポンプ(4)の排気を第4真空ポンプ(6)によって排気しながら漏れ流量を測定することにより、探査ガス検出器(5)の高い検出感度を維持した状態で探査ガスの漏れ流量を測定することが可能となる。
【0034】
本発明に係る漏れ検査方法の第4の特徴は、前記被試験体(11)の内部に探査ガスを導入して探査ガスの漏れ流量を測定する時間は、予め漏れ流量の時間推移を測定しておき、測定値が前記飽和漏れ流量の63%以上の漏れ流量となる時間以上とする、ことである。
【0035】
上記構成では、漏れ応答時間が大幅に短縮されるため、飽和漏れ流量(Q)に漸近する時間も短縮されることになる。そのため、飽和漏れ流量の63%以上の漏れ流量となる時間以上をもって、漏れ流量の合否を判定する場合であっても、1回当たりの漏れ検査時間を要求サイクル時間内に抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の漏れ検査方法及びそれを実施する漏れ検査装置によれば、大容積の真空容器を用いた真空容器法による漏れ検査において被試験体から漏れ出る探査ガスの漏れ流量についての漏れ応答時間を大幅に短縮し、これにより被試験体の漏れ検査時間を大幅に短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の第1実施形態に係る漏れ検査装置の要部構成を示す説明図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る漏れ検査装置による漏れ検査工程を示すプロセス図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る漏れ検査装置によって測定されたヘリウム漏れ流量の時間推移の測定結果を示すグラフである。
図4】本発明の第2実施形態に係る漏れ検査装置の要部構成を示す説明図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る漏れ検査装置による漏れ検査工程を示すプロセス図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る漏れ検査装置によって測定されたヘリウム漏れ流量の時間推移の測定結果を示すグラフである。
図7】従来の漏れ検査装置の要部構成を示す説明図である。
図8】上記式103で表される漏れ流量Qの時間推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照しながら本発明について説明する。
【0039】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る漏れ検査装置100の要部構成を示す説明図である。
この漏れ検査装置100は、被試験体11を収容可能であり内部が真空保持可能な真空容器1と、真空容器1の内部の真空度を計測する真空計2と、真空容器1の内部を所定の到達圧力Pまで真空排気する第1真空ポンプ3と、真空容器1の内部に漏洩したヘリウム分子を吸引・圧縮してヘリウムガス検出器5に移送する第2真空ポンプ4と、被試験体11の内部を真空排気する第3真空ポンプ12と、被試験体11から漏れ出すヘリウム分子の漏れ流量を測定するヘリウムガス検出器5と、真空排気された被試験体11の内部にヘリウム分子を供給するヘリウムガスボンベ13と、真空容器1と第1真空ポンプ3との間の連通を遮断する第1真空バルブ14と、真空容器1と第2真空ポンプ4との間の連通を遮断する第2真空バルブ15と、被試験体11と第3真空ポンプ12又はヘリウムガスボンベ13との間の連通を遮断する第1遮断弁16と、被試験体11に対する第3真空ポンプ12による真空排気をオン/オフする第2遮断弁17と、被試験体11に対するヘリウム分子の供給をオン/オフする第3遮断弁18とを具備して構成されている。
【0040】
この漏れ検査装置100は、所定の真空度に保持された真空容器1内に置かれた被試験体11の内部にヘリウムガスを導入し被試験体11から真空容器1に漏れ出すヘリウムガスの漏れ流量を測定するための漏れ検査装置である。特に、真空容器1の内容積が大容量の場合に、測定開始から漏れ流量の飽和値の63%に到達するまでの検出時間(漏れ応答時間)を、従来の漏れ検査装置よりも大幅に短縮することができるように構成されている。
【0041】
ここで、この明細書で使用する各種単位はSI単位を用い、真空下の各種単位は日本産業規格のJIS Z 8126-1:2021真空技術―用語―第1部:一般用語に準拠する。すなわち、高圧のガス圧力及び真空下の圧力は絶対圧力(=ゲージ圧力+大気圧)で表現し、その単位はPa(パスカル)を用いる。真空ポンプの排気速度及び配管のコンダクタンスは体積流量で表現し、その単位はm/s(立方メートル毎秒)を用いる。漏れ流量などのガス流量はPV値流量で表現し、その単位はPa・m/s(パスカル・立方メートル毎秒)を用いることにする。
【0042】
第1実施形態に係る漏れ検査装置100は、例えば1×10-6Pa・m3/s以上のヘリウムガスの漏れ流量(以下「グロスリークフロー」という。)を短時間で検出することができる構成となっている。このように、ヘリウムガスの漏れ流量が比較的高い場合、ヘリウムガス検出器5の入口部5aの入口圧P5は、例えば1500Pa以下と高い圧力に設定することが可能となる。この場合、入口部5aから導入されたヘリウム分子は、ヘリウムガス検出器5の補助空ポンプ5dを通って排気されることになっているが、質量数の小さいヘリウム分子は排気方向と逆方向に逆拡散して、高真空ポンプ5cによって高真空(10-3Paオーダー)に維持された分析管5bに取り込まれることになる。以下に漏れ検査装置100の構成について説明する。
【0043】
真空容器1は、内容積が例えば、0.5m(=500L)である比較的大型の真空容器である。真空計2はピラニ真空計を使用することができる。
【0044】
第1真空ポンプ3は、例えば公称排気速度が1.05m/sであり、ルーツ型真空ポンプ(図示せず)と、ルーツ型真空ポンプの後段に接続される油回転型真空ポンプ(図示せず)とから構成される複合ポンプを使用することができる。
【0045】
真空容器1と第1真空ポンプ3を接続する入口配管3aは、例えば内径80mm、長さ1mの円筒配管である。そして、第1真空バルブ14の内径は例えば80mmであり大口径である。
【0046】
第2真空ポンプ4は、吸い込んだ気体分子(空気とヘリウム)を圧縮して排気する気体輸送式真空ポンプであり、例えばターボ分子ポンプを使用することができる。第2真空ポンプ4の公称排気速度Sは、例えば1.0m/sであり、そして、最大圧縮比は例えば10である。ここで、漏れ検査の実行時の真空容器1の圧力は、10Paから10Paオーダーであることから、第2真空ポンプ4であるターボ分子ポンプの排気速度は3/4から1/20程度低下し、例えば5Paの時に0.35m/s、20Paの時に0.1m/sとなる。また、漏れ検査の実行時のこのポンプの圧縮比は10から10オーダーに低下し、例えば5Paの時に80、20Paの時に25となる。
【0047】
真空容器1と第2真空ポンプ4とを接続する第2真空バルブ15と配管(以降、入口配管4aと総称する)は、漏れ検査の実行時の真空容器1の圧力において入口配管4aの吸気口(真空容器1の排気口)の実効排気速度Seを大きく設定する必要から、例えば内径155mm、長さ400mmのL型バルブである。また、真空容器1または第2真空ポンプ4と第2真空バルブ15を接続する上流側と下流側の2つの配管は、例えば内径155mm、長さ200mmの配管である。
【0048】
この入口配管4aの分子流コンダクタンス値は0.43m/sである。ここで、漏れ検査の実行時の真空容器1の圧力は、10Paから10Paであり、気体(空気とヘリウム)は中間流から粘性流で流れることから、入口配管4aのコンダクタンスC1[m3/s]は、10倍程度以上大きくなり、例えば5Paの時に5.4m/s、20Paの時に20m/sとなる。
【0049】
第2真空ポンプ4とヘリウムガス検出器5を接続する出口配管4bは、漏れ検査の実行時の第2真空ポンプ4の排気口の圧力において出口配管4bの吸気口(第2真空ポンプの排気口)の実効排気速度Seを大きく設定する必要から、例えば内径23mm、長さ1.5mの円筒配管である。この出口配管4bの分子流コンダクタンス値は1×10-3/sである。ここで、漏れ検査の実行時の第2真空ポンプ4の排気口の圧力は、数100Paであり、気体(空気とヘリウム)は粘性流で流れることから、出口配管4bのコンダクタンスC2[m3/s]は、100倍程度大きくなり、例えば第2真空ポンプ4の排気口の圧力が500Paの時、コンダクタンスC2は1.25×10-1/sとなる。
【0050】
第3真空ポンプ12は、例えば油回転型ポンプなど低真空で稼働する容積移送式真空ポンプを使用することができる。
【0051】
ヘリウムガス検出器5は、真空中のヘリウム分圧を測定する分析管5bと、分析管5bの吸気口を所定の真空度に保持する高真空ポンプ5cと、高真空ポンプ5cの背圧(排気口側の圧力)を低下させるための補助ポンプ5dと、入口部5aと各ポンプ5c,5dとを接続する真空排気管路5eとによって構成されている。一般に、分析管5bの吸気口は、真空度が10-3Pa以下の高真空となるように設定されている。高真空ポンプ5cにはターボ分子ポンプが使用され、補助ポンプ5dには油回転型ポンプ或いはスクロール型真空ポンプが使用されている。
【0052】
分析管5bに入ったヘリウム分子は、フィラメント(図示せず)によってイオン化され電場によって加速され、更に磁場(ローレンツ力)によって進路を曲げられるようになっている。そして質量4のヘリウムイオンだけがイオンコレクタ(図示せず)に到達するように、電場と磁場の各大きさがそれぞれ設定されている。ヘリウムガス検出器5は、真空中のヘリウム分子がポンプの排気方向とは逆方向に拡散する逆拡散現象によって、ヘリウム分子を分析管5bに導入している。
【0053】
また、ヘリウムガス検出器5の内部において真空排気管路5eの出口部の圧力は、高真空ポンプ5c又は補助ポンプ5dの吸気圧(吸込圧)に相当する。そのため、ヘリウムガス検出器5の入口部5aでの入口圧P5[Pa]は漏れ流量の検出範囲に応じて異なっている。例えばグロスリークフローでは入口部5aでの入口圧P5[Pa]は例えば1500Pa以下に規定されている。漏れ流量が1×10-6Pa・m/s未満(以下「ファインリークフロー」という。)では入口部5aでの入口圧P5[Pa]は例えば100Pa以下に規定されている。
【0054】
また、ヘリウムガス検出器5は、漏れ流量の検出範囲に応じて、ポンプにおけるヘリウム吸込口が異なっている。漏れ流量がファインリークフローの場合、ヘリウム吸込口は例えば高真空ポンプ5cの吸気口と排気口との中間位置に設けられている。一方、漏れ流量がグロスリークフローの場合、ヘリウム吸込口は例えば補助ポンプ5dの吸気口と排気口との中間位置に設けられている。
【0055】
第1遮断弁16は、第2遮断弁17、第3遮断弁18は、電磁弁によって構成されている。
【0056】
図2は、本発明の第1実施形態に係る漏れ検査装置100による漏れ検査工程を示すプロセス図である。
プロセスP1では、被試験体11を真空容器1内にセットする。そして、被試験体11に第3真空ポンプ12とヘリウムガスボンベ13に連通した試験用配管1aを接続する。
【0057】
プロセスP2では、第1真空バルブ14を開いて、真空容器1の内部を第1真空ポンプ3により真空排気する。真空容器1の到達圧力Pは20Paとした。
【0058】
プロセスP3では、第2遮断弁17を開いて、被試験体11の内部を第3真空ポンプ12により真空排気する。なお、プロセスP3は上記プロセスP2と同時に実施しても良い。
【0059】
プロセスP4では、第1真空バルブ14を閉じて、第1真空ポンプ3による真空排気を停止する。
【0060】
プロセスP5では、第2遮断弁17を閉じて、第3真空ポンプ12による真空排気を停止する。なお、プロセスP5は上記プロセスP4と同時に実施しても良い。
【0061】
プロセスP6では、第2真空バルブ15を開いて、真空容器1を第2真空ポンプ4により真空排気する。
【0062】
プロセスP7では、ヘリウムガス検出器5により真空容器1の内部にヘリウム漏れが無いことを判定する。
【0063】
プロセスP8では、第3遮断弁18を開いて、ヘリウムガスボンベ13から被試験体11にヘリウムガスを供給して漏れ流量を測定する。
【0064】
本発明の第1実施形態に係る漏れ検査装置100の漏れ検査性能について以下のように調べた。
【0065】
被試験体11として、1×10-6Pa・m/sのヘリウムガス漏れ流量を実現するヘリウム標準リークを使用し、それを真空容器1内に設置した。
【0066】
漏れ検査装置100の漏れ検査性能として、真空容器1の大気圧から20Pa到達までの排気時間と、第2真空ポンプ4が無い場合と有る場合のヘリウムガス検出器5におけるヘリウム標準リークの漏れシグナルの時間推移をそれぞれ測定した。ここで、第1真空ポンプ3による真空容器1の到達圧力Pを20Paとした理由は、上記プロセスP6において第2真空ポンプ4を用いて真空容器1内のガスを圧縮してヘリウムガス検出器5に移送することから、ヘリウムガス検出器5の入口部5aでの入口圧P5は上昇するが、その入口圧P5をグロスリークフロー時の許容上限圧力1500Pa以下とするためである。
【0067】
なお、第1真空ポンプ3による真空容器1の到達圧力Pは、ヘリウムガス検出器5の入口圧P5の許容上限圧力を基に下記の通り決定することができる。
【0068】
先ず、入口配管4a(第2真空バルブ15と配管)について下記式1が成立する。
(式1):Q1=C1×(P1-P2)
ここで、Q1は入口配管4aでの空気とヘリウムガスの体積流量[Pa・m/s]である。P1は第2真空ポンプ4による真空排気開始時以降の真空容器1の内圧[Pa]であり、その圧力はP1<Pとなる。また、P2は第2真空ポンプ4の吸気圧[Pa]である。
【0069】
また、第2真空ポンプ4の吸込口において下記式2が成立する。
(式2):Q1=S×P2
Sは第2真空ポンプ4の排気速度[m/s]である。
【0070】
従って、式2を式1に代入してP2について解くと、下記式3が成立する。
(式3):P2=C1/(C1+S)×P1
【0071】
一方、第2真空ポンプ4の排気圧をP3[Pa]と、出口配管4bのコンダクタンスをC2[m/s]と、ヘリウムガス検出器5の入口圧、入口部5aでの排気速度およびヘリウムガスの体積流量を、それぞれP5[Pa]、S5[m/s]、Q2[Pa・m/s]とすると、
出口配管4bについて下記式4が成立する。
(式4):Q2=C2×(P3-P5)=C2×(mP2-P5)(∵P3/P2=m)
【0072】
また、ヘリウムガス検出器5の入口部5aにおいて下記式5が成立する。
(式5):Q2=S5×P5
【0073】
ここで、式4を式5に代入してP5について解くと、下記式6が成立する。
(式6):P5=m×C2/(C2+S5)×P2
【0074】
ここで、式3を式6に代入して整理すると、下記式7が成立する。
(式7):P5=[mC1C2/{(C1+S)(C2+S5)}]P1
【0075】
ヘリウムガス検出器5の入口圧P5は、1500Pa以下であるから、[mC1C2/{(C1+S)(C2+S5)}]P1≦1500、すなわち、下記式8が成立する。
(式8):P1≦1500×[{(C1+S)(C2+S5)}/mC1C2]
【0076】
従って、式8の右辺を第1真空ポンプ3による真空容器1の到達圧力Pと定義すると、この到達圧力Pは、真空容器1に対する真空排気が第1真空ポンプ3から第2真空ポンプ4に切り替わる真空容器1の内圧に相当し、ヘリウムガス検出器5の入口圧P5の許容上限圧力(≦1500Pa)と、入口配管4aのコンダクタンスC1、出口配管4bのコンダクタンスC2、第2真空ポンプ2の排気速度Sおよび圧縮比m、ヘリウムガス検出器5の入口部5aでの排気速度S5から決定されることになる。
【0077】
式8においてヘリウムガス検出器5の入口圧P5を許容上限圧力の1500Paとして、第1真空ポンプ3による真空容器1の到達圧力Pを以下のように求めた。第2真空ポンプ4の圧縮比はm=10とした。そうすると、入口配管4aの圧力は150Pa程度であることからC1=1.5×10/sと勘定できる。第2真空ポンプ4の排気速度Sは3×10-2/sである。一方、出口配管4bのコンダクタンスC2は1500Paの高い圧力を反映して3.9×10-1/sと見積もられた。そして、ヘリウムガス検出器5の入口部5aでの排気速度S5は5×10-3/sである。これらの値を式8に代入すると、真空容器1の到達圧力Pは152Paと求められた。すなわち、真空容器1の内圧P1は152Pa(=P)以下とする必要がある。高い圧力で稼働させた場合、第2真空ポンプ4とヘリウムガス検出器5に負荷をかけてしまうことから、実際の第1実施形態の漏れ検査では真空容器1の内圧P1は20Paまで到達させて第1真空ポンプ3から第2真空ポンプ4に切替えた。
【0078】
第1真空ポンプ3により真空容器1を大気圧から真空排気したところ14sで到達圧力Pは20Paに到達した。これは、第1真空ポンプ3の排気速度が1.05m/sと大きいからであり、このように大排気速度の真空排気により真空容器1の真空排気時間を短くすることができる。
【0079】
次に、第1真空バルブ14を閉じ第1真空ポンプ3による真空排気を終了し(プロセスP4)、第2真空バルブ15を開けヘリウムガス検出器5への流路に切り替えて漏れ無し測定を5秒間実施した(プロセスP7)。そして、ヘリウム標準リークを開きヘリウムガスを導入し漏れ測定を開始した(プロセスP8)。
【0080】
図3は、本発明の第1実施形態に係る漏れ検査装置100によって測定されたヘリウム漏れ流量の時間推移の測定結果を示すグラフである。ここで、時刻0sの時ヘリウム標準リークから1×10-6Pa・m/sの流量のヘリウムガスを真空容器1の内部に漏洩させた。実線は第2真空ポンプ4有りの漏れ検査装置100の漏れシグナル、破線は第2真空ポンプ4無しの従来の漏れ検査装置500の漏れシグナル、一点破線は飽和漏れ流量1×10-6Pa・m/sの63%である。
【0081】
漏れ検査装置100又は従来の漏れ検査装置500のいずれの漏れシグナルも漏洩開始から2~3s後に漏れシグナルが計測され始めた。この時間遅延は、大型の真空容器1に微量のヘリウムガスが漏れ出た場合に典型的に現れるもので、真空容器1に漏れ出たヘリウムガスが、大容積の真空容器1内を拡散しヘリウムガス検出器5に到達するまでに要する時間と考えられる。
【0082】
第2真空ポンプ4を取り付けない従来の漏れ検査装置500の漏れシグナル(破線)は、数秒の短時間で10-8Pa/sまで上昇する。しかし、その後緩やかな上昇となり20s後に10-7Pa・m/sに達するが、さらに緩やかな上昇となり40s後に2×10-7Pa・m/sとなった。この漏れシグナルが飽和漏れ流量の63%である6.3×10-7Pa・m/sに達する漏れ応答時間は152sと長時間であった。漏れシグナル測定の前工程である真空排気工程に14s、漏れ無し測定工程に5s費やす、そして工程後に約5sの大気暴露工程があることから、この従来の漏れ検査装置の工程には約180s(=14s+5s+152s+5s≒3min)が必要となる。この長時間の工程は、量産現場への適応が困難である。
【0083】
一方、第2真空ポンプ4を取り付けた漏れ検査装置100の漏れシグナル(実線)は、漏れ検出の開始から5sの短時間で6.3× 10-7Pa・m/sに上昇し、10s後には飽和漏れ流量の1×10-6Pa・m/sまで到達した。これは、第2真空ポンプ4によるガスの圧縮効果によるものである。なお、この漏れ検査装置100の工程時間は34s(=14s+5s+10s+5s)と非常に短時間であった。この短時間の工程は量産現場へ適応できる。
【0084】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る漏れ検査装置200の要部構成を示す説明図である。
この漏れ検査装置200は、1×10-6Pa・m/s未満の微量のヘリウムガス漏れ流量(ファインリークフロー)を検出する場合に使用される。そのため、ヘリウムガス検出器5の入口圧P5は100Pa(許容上限圧力)以下と低く設定する必要がある。
【0085】
この漏れ検査装置200では、第2真空ポンプ4の後段にヘリウムガス検出器5と並列に分岐配管6aを介して第4真空ポンプ6が設けられている。これは、微量のヘリウム漏れ流量を測定することからヘリウムガス検出器5の入口圧P5の許容上限圧力が100Paと低く、真空容器1の到達圧力Pを5Paまで真空排気する必要があるからである。更にヘリウムガス検出器5と第4真空ポンプ6の各前段には、第3真空バルブ19、第4真空バルブ20がそれぞれ設けられている。それ以外の構成については、上記漏れ検査装置100と同じである。
【0086】
第4真空ポンプ6は、例えば油回転型真空ポンプ又は、スクロール型ポンプなど低真空で稼働する容積移送式真空ポンプを使用することが可能である。吸気圧がP4[Pa]であり、排気圧は大気圧に等しくなる。第4真空ポンプ6の排気速度S4は例えば8.3×10-2[m/s]である。
【0087】
分岐配管6aは、内径23mm長さ1.5mでコンダクタンスがC3[m/s]の円筒配管である。
【0088】
ここで、分岐配管6aを流れるヘリウムガスの体積流量Q3[Pa・m3/s]を求めることにする。
【0089】
先ず分岐配管6aについて下記式9が成立する。
(式9):Q3=C3×(P3-P4)
【0090】
また、第3真空ポンプ6の吸込口において下記式10が成立する。
(式10):Q3=S4×P4
【0091】
従って、式9を式10に代入してP4について解くと、下記式11が成立する。
(式11):P4=C3/(C3+S4)×P3=mC3/(C3+S4)×P2(∵P3/P2=m)
【0092】
式3を式11に代入すると、下記式12が成立する。
(式12):P4=[mC1C3/{(C1+S)(C3+S4)}]P1
【0093】
従って、式12を式10に代入すると、分岐配管6aを流れるヘリウムガスの体積流量Q3は下記式13によって記述される。
(式13):Q3=[mC1C3/{(C1+S)(C3+S4)}]P1×S4
【0094】
一方、出口配管4bを流れるヘリウムガスの体積流量Q2は、式7から下記式14によって記述される。
(式14):Q2=[mC1C2/{(C1+S)(C2+S5)}]P1×S5
【0095】
従って、第2真空ポンプ4から排気されるヘリウムガスの体積流量は、「式14のQ2」と「式13のQ3」との和に等しくなる。また、分流比Q2/Q3は下記式15によって記述される。
(式15):Q2/Q3={(C2×S5)/(C2+S5)}×{(C3+S4)/(C3×S4)}=(1/C3+1/S4)/(1/C2+1/S5)
式15は、分流比Q2/Q3が例えば3:5の場合、ヘリウムガス検出器5によって検出されるヘリウムガスの漏れ流量は、被試験体11から漏れ出た漏れ流量の3/8倍に相当し、被試験体11から漏れ出た漏れ流量は、ヘリウムガス検出器5によって検出されるヘリウムガスの漏れ流量の8/3倍であることを示している。
【0096】
図5は、第2実施形態に係る漏れ検査装置200による漏れ検査工程を示すプロセス図である。
プロセスP1では、被試験体11を真空容器1内にセットする。そして、被試験体11に第3真空ポンプ12とヘリウムガスボンベ13に連通した試験用配管1aを接続する。
【0097】
プロセスP2では、第1真空バルブ14を開いて、真空容器1の内部を第1真空ポンプ3により真空排気する。真空容器1の到達圧力Pは5Paとした。
【0098】
プロセスP2-1では、真空容器1を第1真空ポンプ3により真空排気する際、真空容器1の圧力が1000Paに到達した時に第2真空バルブ15と第4真空バルブ20を開いて、第2真空ポンプ4と第4真空ポンプ6によっても真空容器1の内部を真空排気する。
【0099】
プロセスP3では、第2遮断弁17を開いて、被試験体11の内部を第3真空ポンプ12により真空排気する。なお、プロセスP3は上記プロセスP2と同時に実施しても良い。
【0100】
プロセスP4では、第1真空バルブ14を閉じて、第1真空ポンプ3による真空排気を停止する。
【0101】
プロセスP4-1では、第1真空ポンプ3による真空容器1への真空排気を停止する際、第4真空バルブ20を閉じて第4真空ポンプ6による真空容器1への真空排気も停止する。なお、このプロセスP4-1は省略することが可能である。
【0102】
プロセスP5では、第2遮断弁17を閉じて、第3真空ポンプ12による真空排気を停止する。なお、プロセスP5は上記プロセスP4と同時に実施しても良い。
【0103】
プロセスP6’では、第3真空バルブ19を開いて、第2真空ポンプ4からの排気をヘリウムガス検出器5に移送する。
【0104】
プロセスP7では、ヘリウムガス検出器5により真空容器1の内部にヘリウム漏れが無いことを判定する。
【0105】
プロセスP8では、第3遮断弁18を開いて、ヘリウムガスボンベ13から被試験体11にヘリウムガスを供給して漏れ流量を測定する。
【0106】
本発明の第2実施形態に係る漏れ検査装置200の漏れ検査性能について以下のように調べた。
【0107】
被試験体11として流量1×10-8Pa・m/sのヘリウム標準リークを真空容器1内に設置した。真空容器1の内容積は、0.5mと比較的大型とした。真空容器1の圧力測定のために真空計2はピラニ真空計を用いた。真空容器1を真空排気するための真空排気系として第1真空ポンプ3は、ルーツ型真空ポンプとその後段に接続された油回転型真空ポンプとから成る、例えば排気速度1.05m/sの複合ポンプを用いた。ここで、真空容器1から第1真空ポンプ3までの入口配管3aは、例えば内径80mm×長さ1mとした。
【0108】
ヘリウムガスを検出するための真空排気系として真空容器1に内径212mmの大口径の第3真空バルブ19を取り付け、そして第2真空ポンプ4は排気速度Sが1.0m/s、ヘリウム圧縮率10のターボ分子ポンプを用いた。第2真空ポンプ4の後段には、ヘリウムガスの検出のために第3真空バルブ19と内径23mm×長さ1.5mの出口配管4bを介してヘリウムガス検出器5としてヘリウムリークディテクタを設置すると共に、1000Pa以下の真空排気とヘリウム検出時にヘリウムガス検出器5の入口圧P5を100Pa以下に保持するために第4真空バルブ20と内径23mm×長さ1.5mの分岐配管6aを介して排気速度8.3×10-2/sの第4真空ポンプ6を設置した。
【0109】
第2実施形態に係る漏れ検査装置200の漏れ検査性能として、真空容器1の大気圧から5Pa到達までの真空排気時間と、真空ポンプ4が無い従来の漏れ検査装置のヘリウムガス検出器5におけるヘリウム標準リークの漏れシグナルの時間推移を測定した。ここで、真空容器1の到達圧力Pを5Paとした理由は、後工程において第2真空ポンプ4を用いて真空容器1内のガスを圧縮してヘリウムガス検出器5に移送することから、ヘリウムガス検出器5の入口圧P5は上昇するが、その入口圧P5をヘリウムガス検出器5の入口部5aでの許容上限圧力100Pa以下とするためである。
【0110】
なお、第2実施形態では、ヘリウムガス検出器5の高真空ポンプ5cによる真空排気だけでは、ヘリウムガス検出器5の入口部5aの圧力が150Paとなり許容上限圧力の100Pa以上であったことから、第4真空ポンプ6による真空排気も同時に実行し、ヘリウムガス検出器5による漏れ流量測定を実行した。
【0111】
真空容器1を第1真空ポンプ3により大気圧から真空排気し、且つ真空容器1の圧力が1000Pa以下では第2真空ポンプ4による真空排気も実行したところ21sで真空容器1の内部圧力が5Paに到達した。このように、1×10Paの大気圧から5桁低い5Paへの真空排気でも、第1真空ポンプ3と第2真空ポンプ4を用いることで、真空排気時間を短くすることができる。
【0112】
次に、第1真空バルブ14を閉じ第1真空ポンプ3による真空排気を終了し、第4真空ポンプ6による真空排気も同時に実行しながら、ヘリウムガス検出器5により漏れ無し測定を5s実施した。そして、1×10-8Pa・m/sの流量のヘリウム標準リークを開きヘリウムガスを導入し漏れ測定を開始した。ここで、ヘリウムガス検出器5と第4真空ポンプ6の分流比は3:5であることから、飽和漏れ流量Qは3.8×10-9Pa・m/s(=1×10-8Pa・m/s×3/8)となる。
【0113】
図6は、漏れ検査装置200によるヘリウム漏れ流量の時間推移の測定結果を示すグラフである。ここで、時刻0sの時にヘリウム標準リークからヘリウムガスを真空容器1に漏洩させた。実線は第2真空ポンプ4有りの漏れ検査装置200の漏れシグナル、破線は第2真空ポンプ4無しの従来の漏れ検査装置500の漏れシグナル、一点破線は飽和漏れ流量3.8 ×10-9Pa・m/sの63%(=2.4×10-9Pa・m/s)である。
【0114】
漏れ検査装置200又は従来の漏れ検査装置500のいずれの漏れシグナルも漏洩開始から7~10s後に漏れシグナルが計測され始める。この時間遅延は、実施形態1と同様に真空容器1に漏れ出たヘリウムガスが大容積の真空容器1内を拡散しヘリウムガス検出器5に到達するまでに要する時間と考えられる。ここで、実施形態1と比較して遅延時間が長くなっているのは、ヘリウム濃度が低いためである。
【0115】
図6の第2真空ポンプ4を取り付けない従来の漏れ検査装置500の漏れシグナル(破線)は、緩やかな上昇となり13s後に1×10-10Pa・m/sに達するが、その後さらに緩やかな上昇となり40s後においても6×10-10Pa・m/sであった。この漏れシグナルが飽和漏れ流量の63%である2.4×10-9Pa・m/sに達する漏れ応答時間は175sと長時間であった。したがって、この従来の漏れ検査装置500の工程には約200sが必要となることから、量産現場への適応が困難である。
【0116】
一方、図6の真空ポンプ4を取り付けた漏れ検査装置200による漏れシグナル(実線)は、数秒の短時間で1×10-9Pa・m/sに上昇し、10s後には飽和漏れ流量の63%の2.4×10-9Pa・m/sまで到達した。これは、第2真空ポンプ4によるガスの圧縮効果によるものである。なお、この第2実施形態に係る漏れ検査装置200の工程時間は41sと非常に短時間であった。この短時間の工程は量産現場へ適応できる。
【0117】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明してきた。本発明の実施形態は上記だけに限定されることはなく、本発明の技術的特徴を逸脱しない範囲内において種々の修正・変更を加えることが可能である。例えば、探査ガスについてはヘリウムに代えて、他のガス(例えば、水素、アルゴン、空気)を使用することも可能である。また、探査ガス検出器はヘリウムガス検出器であるヘリウムリークディテクターに代えて、四重極質量分析器や放電発光ガス分析器を使用することも可能である。
【符合の説明】
【0118】
1 真空容器
2 真空計
3 第1真空ポンプ
3a 入口配管
4 第2真空ポンプ
4a 入口配管
4b 出口配管
5 ヘリウムガス検出器
5a 入口部
5b 分析管
5c 高真空ポンプ
5d 補助ポンプ
6 第4真空ポンプ
11 被試験体
12 第3真空ポンプ
13 ヘリウムガスボンベ
14 第1真空バルブ
15 第2真空バルブ
16 第1遮断弁
17 第2遮断弁
18 第3遮断弁
19 第3真空バルブ
20 第4真空バルブ
100 漏れ検査装置
200 漏れ検査装置
P1 真空容器の内圧
P2 第2真空ポンプの吸気圧
P3 第2真空ポンプの排気圧
P4 第4真空ポンプの吸気圧
P5 ヘリウムガス検出器の入口圧
C1 入口配管のコンダクタンス
C2 出口配管のコンダクタンス
C3 分岐配管のコンダクタンス
Q1 入口配管を流れるヘリウムガスの体積流量
Q2 出口配管を流れるヘリウムガスの体積流量
Q3 分岐配管を流れるヘリウムガスの体積流量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8