(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169001
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】同期リラクタンスモータおよび同期リラクタンスモータの回転子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 19/10 20060101AFI20241128BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20241128BHJP
H02K 1/24 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H02K19/10 A
H02K15/02 E
H02K1/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086163
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 活徳
(72)【発明者】
【氏名】松下 真琴
(72)【発明者】
【氏名】小番 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小山田 将亜
(72)【発明者】
【氏名】吉武 翔
(72)【発明者】
【氏名】倉員 淳
(72)【発明者】
【氏名】前川 佳朗
(72)【発明者】
【氏名】古賀 郁也
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
5H619
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601CC01
5H601CC13
5H601CC17
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601EE35
5H601FF17
5H601GA02
5H601GA25
5H601GA34
5H601KK01
5H601KK08
5H601KK30
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615SS03
5H615SS05
5H619AA01
5H619AA07
5H619BB01
5H619BB06
5H619BB24
5H619PP04
(57)【要約】
【課題】力率が高くトルクリップル率の低い同期リラクタンスモータおよび同期リラクタンスモータの回転子の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、同期リラクタンスモータ1は、回転子シャフト110と回転子鉄心120とを具備する回転子100と、固定子鉄心11と固定子とを具備する固定子10とを備える。回転子鉄心120の6分の1周の周角度領域125のそれぞれの対象領域には、径方向に配列されそれぞれが径方向内側に向かって湾曲している非磁性体の領域である複数のバリア領域Fが形成され、回転子鉄心120の回転軸CLに垂直な断面における複数のバリア領域122の占有面積の周角度領域の全体の面積に対する割合は48%以上かつ55%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に軸支されて軸方向に延びる回転子シャフトと、前記回転子シャフトに外嵌固定された円筒状の回転子鉄心とを具備する回転子と、
前記回転子鉄心の径方向の外側を囲むように前記回転子鉄心と間隔をあけて配置された固定子鉄心と、前記固定子鉄心に巻回された電機子巻線とを具備する固定子と、
を備えた同期リラクタンスモータであって、
前記回転子鉄心の6分の1周の周角度領域のそれぞれの対象領域には、径方向に配列されそれぞれが径方向内側に向かって湾曲している弓形の非磁性体の領域である複数のバリア領域が形成され、
前記回転子鉄心の前記回転軸に垂直な断面における複数の前記バリア領域の占有面積の前記周角度領域の全体の面積に対する割合は48%以上かつ55%以下である、
ことを特徴とする同期リラクタンスモータ。
【請求項2】
前記断面において、それぞれの前記バリア領域の径方向の境界は、前記周角度領域の周方向の両側の境界線を漸近線とする双曲線であることを特徴とする請求項1に記載の同期リラクタンスモータ。
【請求項3】
製作条件決定ステップと製作ステップを有する同期リラクタンスモータの回転子の製造方法であって、
前記製作条件決定ステップは、
回転子の全体の基本仕様を決定するステップと、
回転子鉄心の外径および回転子スロットの仕様を決定するステップと、
前記回転子鉄心の周角度領域のそれぞれについて径方向に配列されそれぞれが径方向内側に向かって湾曲している弓形の非磁性体の領域である複数のバリア領域の配置を力率およびトルクリップルの点から決定する配置決定ステップを有し、
前記製作ステップは、
前記基本仕様に基づいて回転子シャフトを製作するステップと、
前記回転子鉄心の前記外径に基づいて電磁鋼板を確保するステップと、
前記回転子スロットの仕様と複数の前記バリア領域の前記配置に基づいて前記電磁鋼板の打ち抜きを行うステップと、
前記打ち抜きをされた前記電磁鋼板を積層構造に組み立てるステップと、
製作された前記回転子シャフトと前記積層構造を一体物に組み立てるステップと、
を有する、
ことを特徴とする同期リラクタンスモータの回転子の製造方法。
【請求項4】
前記配置決定ステップは、
前記周角度領域内の複数の前記バリア領域の径方向の層数を決定するステップと、
前記周角度領域内における対象領域内を径方向に分割し複数の微小領域を生成するステップと、
複数の前記微小領域から選択して前記層数の前記バリア領域を生ずる全ての組合せを生成するステップと、
前記全ての組合せのそれぞれについて、前記力率および前記トルクリップルを算出するステップと、
前記力率および前記トルクリップルに関する総合的なスコアに基づいて複数の前記バリア領域の前記配置を決定するステップと、
を有することを特徴とする請求項3に記載の同期リラクタンスモータの回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期リラクタンスモータおよび同期リラクタンスモータの回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図35は、同期リラクタンスモータ(SynRM:Synchronous Reluctance Motor)の回転子20の従来例を示す部分断面図である。
図35は、4極子の場合の1極に相当する周方向に4分の1の部分を示している。
【0003】
一般的な同期リラクタンスモータの回転子20は、その内径側で回転子シャフト21に篏合されている。回転子20と図示しない固定子との間には、ギャップ空間30が形成されている。
【0004】
回転子20の領域内には、フラックスバリア23が設けられている。それぞれのフラックスバリア23は、周方向に延びて、内径方向にすなわち回転子シャフト21の方向に凸形状に湾曲して形成されている。フラックスバリア23は、弓形の非磁性体(
図35の場合は空気)で構成された空洞部であるバリア領域23aと、その周方向の両端部に配された外周ブリッジ23bを有する。
図35に示す例では、フラックスバリア22aは、1極あたりに、径方向にたとえば3層設けられている。回転子20において、フラックスバリア23と回転子シャフト21を除く部分を、回転子鉄心22とする。
【0005】
一般に空洞部は鉄心をくり抜いただけの構成とされることが多いが,非磁性体(樹脂や非磁性金属など)を挿入してもよい。
【0006】
図35で示すように、フラックスバリア23の長手方向(周方向)の中央と回転軸中心Oとを通り、外径方向に延びる軸をd軸とする。また、d軸から電気角90度(
図35に示す場合は4極であるので機械角で45度)だけ反時計回り(=回転方向)に回転させた軸をq軸とする。この定義において、「q軸に磁束を流す」とは、q軸の正方向(矢印の延びる方向)にS極が、q軸の負方向(
図35に示す場合はq軸を時計回りに90度回転させた方向)にN極が生じるように、図示しない固定子の電機子巻線に電流を流すことを意味する。
【0007】
ここで、回転子鉄心22とフラックスバリア23の面積の和を回転子鉄心領域の面積SRtで表し、また、バリア領域23a全体の面積すなわち非磁性体領域の面積をSHoleで表す。回転子鉄心領域の面積SRtに占める非磁性体領域の面積SHoleの比を、バリア領域比率ηHoleで表す。すなわち、(バリア領域比率ηHole)=(非磁性体領域の面積SHole)/(回転子鉄心領域の面積SRt)である。
【0008】
4極のSynRMでは,バリア領域比率ηHoleを適切に設計することによってトルクが最大化できることが知られている。空洞部と鉄心部の比率を約1:2に設定することによりトルクを最大化できることが知られている。この場合は、バリア領域比率ηHoleが、1/(1+2)すなわち0.33に対応する。一方、トルクだけでなく力率にも着目することにより、4極のSynRMにおける最適なバリア領域比率ηHoleが0.35~0.39となることを示した例も知られている。このように4極のSynRMについては、バリア領域比率ηHoleを適切な値に設定することにより、トルクや力率の特性を改善したモータが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、SynRMの極数は4に限らず任意の偶数を設定できる。一般に、1極あたりの磁気回路に流れる磁束量は極数に反比例する。このため、極数を大きくすると、磁束量が減って磁束密度が小さくなり磁気回路に余裕ができる。したがって、その分だけ磁気回路の幅を小さくすることができる。この結果、トルク密度を大きくして、より小さなモータで同一トルクが得られることが知られている。
【0011】
一方で、極数を大きくすると、1極あたりのギャップ磁気抵抗が大きくなる。このため、一般に力率が悪化する。力率の悪化を抑えるためには、回転子の径を大きくして、相対的に、ギャップの磁気抵抗の割合を小さくせざるを得ない。この場合、回転子径が大きくなるため、回転子に生じる遠心力が大きくなり機械強度の制約が厳しくなる。
【0012】
以上をまとめると、以下のことが言える。
【0013】
(1)極数を大きくすると、トルク密度は大きくなるが遠心力も大きくなる。したがって、高トルクかつ低回転数のSynRMの仕様に適した選択と言える。
【0014】
(2)極数を小さくすると、トルク密度は小さくなるが遠心力も小さくなる。したがって、低トルクかつ高回転数のSynRMの仕様に適した選択と言える。
【0015】
これらのことから、高トルクは要求されるが回転数はそれほど高くないというSynRMの場合には、従来から多くの事例で用いられてきた4極の回転子よりも6極の回転子の方が適している場合がある。しかしながら、これまで、6極の回転子に関してバリア領域比率ηHoleをどのように設定すればよいのかについては明らかにされていない。
【0016】
ここで、さらなる観点として、トルクリップル率がある。トルクリップル率は、振動や騒音に大きく影響するため、モータ性能を評価する上で重要なパラメータである。
【0017】
本発明の目的は、力率が高くトルクリップル率の低い同期リラクタンスモータおよび同期リラクタンスモータの回転子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態に係る同期リラクタンスモータは、回転軸を中心に回転可能に軸支されて軸方向に延びる回転子シャフトと、前記回転子シャフトに外嵌固定された円筒状の回転子鉄心とを具備する回転子と、前記回転子鉄心の径方向の外側を囲むように前記回転子鉄心と間隔をあけて配置された固定子鉄心と、前記固定子鉄心に巻回された電機子巻線とを具備する固定子と、を備えた同期リラクタンスモータであって、前記回転子鉄心の6分の1周の周角度領域のそれぞれの対象領域には、径方向に配列されそれぞれが径方向内側に向かって湾曲している複数のバリア領域が形成され、前記回転子鉄心の前記回転軸に垂直な断面における複数の前記バリア領域の占有面積の前記周角度領域の全体の面積に対して48%以上かつ55%以下である、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータを示す部分断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順を示すフロー図である。
【
図3】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順におけるバリア領域洞形成領域の分割を説明する部分断面図である。
【
図4】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順におけるバリア領域配置の評価の際の固定子側のモデルを示す部分断面図である。
【
図5】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域配置についての力率の算出結果を示すグラフである。
【
図6】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域配置についてのトルクリップルの算出結果を示すグラフである。
【
図7】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域配置についてのスコアの算出結果を示すグラフである。
【
図8】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域配置についてのハイスコアを得た第1のバリア領域配置例である。
【
図9】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域配置についてのハイスコアを得た第2のバリア領域配置例である。
【
図10】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域配置についてのハイスコアを得た第3のバリア領域配置例である。
【
図11】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域配置についてのハイスコアを得た第4のバリア領域配置例である。
【
図12】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域配置についてのハイスコアを得た第5のバリア領域配置例である。
【
図13】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合の各バリア領域配置についての力率の算出結果を示すグラフである。
【
図14】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合の各バリア領域配置についてのトルクリップルの算出結果を示すグラフである。
【
図15】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合の各バリア領域配置についてのスコアの算出結果を示すグラフである。
【
図16】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第1のバリア領域配置例である。
【
図17】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第2の空洞配置例である。
【
図18】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第3のバリア領域配置例である。
【
図19】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第4のバリア領域配置例である。
【
図20】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第5のバリア領域配置例である。
【
図21】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合の各バリア領域配置についての力率の算出結果を示すグラフである。
【
図22】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合の各バリア領域配置についてのトルクリップルの算出結果を示すグラフである。
【
図23】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合の各バリア領域配置についてのスコアの算出結果を示すグラフである。
【
図24】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第1のバリア領域配置例である。
【
図25】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第2の空洞配置例である。
【
図26】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第3のバリア領域配置例である。
【
図27】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第4のバリア領域配置例である。
【
図28】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合のバリア領域配置についてのハイスコアを得た第5のバリア領域配置例である。
【
図29】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域の配置について補足するための第1の説明図である。
【
図30】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域の配置について補足するための第2の説明図である。
【
図31】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域の配置について補足するための第3の説明図である。
【
図32】第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域の配置について補足するための第4の説明図である。
【
図33】第2の実施形態に係る同期リラクタンスモータを示す部分断面図である。
【
図34】第3の実施形態に係る同期リラクタンスモータを示す部分断面図である。
【
図35】同期リラクタンスモータの回転子の従来例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る同期リラクタンスモータおよび同期リラクタンスモータの回転子の製造方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータ1を示す部分断面図である。
図1は、6極の回転子において、周方向に6分の1の範囲である周角度領域125のみを示している。ここで、周角度領域125は、回転軸CLの延びる方向に垂直な主断面において、径方向内側は回転子シャフト貫通孔120r、径方向外側は回転子外表面120wに挟まれ、周方向には2つの周方向境界線128に囲まれた領域である。
【0022】
同期リラクタンスモータ1は、回転子100、および回転子100の径方向外側に、ギャップ空間30を介して回転子100を囲むように配された円筒状の固定子10を備える。また、固定子は図示しないフレーム内に収納されている。
【0023】
固定子10は、円筒状の固定子鉄心11および固定子巻線12を有する。固定子鉄心11の内周面には、周方向に互いに間隔を置いて軸方向に延びた複数の固定子ティース11aが形成されている。互いに隣接する固定子ティース11aの間にはそれぞれ固定子スロット11bが形成されている。固定子巻線12は、固定子ティース11aに巻回されており、固定子巻線12の固定子鉄心11内の部分は、固定子スロット11b内に収納されている。なお、固定子10のスロット数やスロット形状等については、
図1に示されているものに限定されない。
【0024】
回転子100は、回転子シャフト110および回転子鉄心120を有する。回転子シャフト110は、回転軸CLに沿った方向に延びて、その長手方向の両側を、図示しない軸受によりそれぞれ回転可能に軸支されている。なお、軸方向とは、回転子シャフト110の回転軸に平行な方向、周方向とは、回転軸の周りを回転する方向を言うものとする。
【0025】
回転子鉄心120は、回転軸の延びる方向(軸方向)に積層された複数の円板状の電磁鋼板129を有する。それぞれの電磁鋼板129には、所定の部分が、たとえばパンチングマシンによりくり抜かれている。電磁鋼板129が積層されていることにより、くり抜かれた部分は、軸方向に延びた空間を形成する。なお、回転子鉄心120にスキューが施されている場合、例えば段スキューの場合は、回転軸のある部分で前記空間が途切れていてもよい。また、連続スキューの場合は、前記空間が軸方向に所定の角度を有して延在していてもよい。以降は、積層された状態の回転子鉄心120についての空間について説明する。
【0026】
回転子鉄心120の中央部分は、回転子シャフト110が貫通するための回転子シャフト貫通孔120rが形成されている。なお、回転子鉄心120が回転子シャフト110に嵌合されており、そのために、たとえば、一方にはキーが、また他方にはキー溝が形成されているが、図示は省略している。なお、キー以外の方法でトルクを伝達する構成(圧入、焼き嵌め、ボルト締め)で嵌合する場合は、キー溝は無くともよい。
【0027】
回転子鉄心120には、フラックスバリア121が形成されている。
図1では、フラックスバリア121は、第1層フラックスバリア121a、第2層フラックスバリア121b、第3層フラックスバリア121c、第4層フラックスバリア121d、第5層フラックスバリア121e、および第6層フラックスバリア121fの6つのフラックスバリアを有する例を示している。以下では、必要のない限り、それぞれのフラックスバリアを含めて、フラックスバリア121と表記する場合がある。
【0028】
第1層のフラックスバリア121aは、周方向に延びて、内径方向にすなわち回転子シャフト110の方向に凸形状に湾曲して形成された空洞部(非磁性体領域)であるバリア領域122aと、その周方向の両端部に配された外周ブリッジ123bを有する。同様に、第2層フラックスバリア121bは、バリア領域122bと、その周方向の両端部に配された外周ブリッジ123bを有する。第3層フラックスバリア121c、第4層フラックスバリア121d、第5層フラックスバリア121e、および第6層フラックスバリア121fについても同様である。以下それぞれのバリア領域をバリア領域122と、また、それぞれの外周ブリッジを外周ブリッジ123と、それぞれ総称するものとする。バリア領域122は、多くは、鉄心をくり抜いた空洞部だけで形成されるが、樹脂や非磁性金属などの非磁性体が充填されていてもよい。
【0029】
ここで、それぞれのフラックスバリア121のバリア領域122と回転子鉄心120の鉄心部との内部境界線127aは、周角度領域125の周方向の両側の周方向境界線128を漸近線とする双曲線の一部となっている。なお、
図1および
図3以降においても、内部境界線127aが双曲線の場合を示しているが、これに限定されない。たとえば、楕円あるいは多項式で表現される曲線であってもよい。あるいは、特性の複数の位置を指定し、それらを多項式その他の関数で内挿することにより曲線を設定してもよい。
図1で示す場合は、回転子鉄心120のバリア領域比率η
Holeは48.2%である。
【0030】
図2は、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順を示すフロー図である。
【0031】
同期リラクタンスモータの回転子の製造方法は、回転子100の製作条件を決定する製作条件決定ステップと、製作条件決定ステップの結果に基づいて回転子100を製作する製作ステップを有する。まず、製作条件決定ステップの詳細について、以下に説明する。
<製作条件決定ステップ>
【0032】
まず、回転子100全体の基本仕様の決定を行う(ステップS11)。具体的には、同期リラクタンスモータ1の仕様の決定の一部として、回転子100全体の基本仕様の決定を行う。この結果、回転子シャフト110の寸法・形状、回転子鉄心120の外径寸法が決定される。
【0033】
次に、回転子鉄心120の仕様、電磁鋼板129の打ち抜き形状の決定を行う(ステップS12)。以下に、ステップS12の詳細を説明する。
【0034】
ステップS12としては、まず、各周角度領域内の径方向のフラックスバリア層数の決定を行う(ステップS12a)。すなわち、フラックスバリア121の径方向の層数Nを決定する。本実施形態では、層数Nが6の場合を例にとっている。なお、本実施形態では、回転子100が6極であるため、周角度領域125を中心角(円周角)が60度の領域としている。
【0035】
次に、バリア領域形成領域内の分割を行う(ステップS12b)。
【0036】
図3は、実施形態に係る同期リラクタンスモータ1の回転子100の製造方法の手順における対象領域126の分割を説明する部分断面図である。
【0037】
周角度領域125は、回転軸CLに垂直な断面(主断面)においては、径方向内側の回転子シャフト貫通孔120r、径方向外側の回転子外表面120w、および隣接する周角度領域125との境界である2つの周方向境界線120sに囲まれた扇状の領域である。
【0038】
対象領域126を、周角度領域125において形成領域内側境界126aと外周ブリッジ境界126bとに挟まれた領域として定義する。
【0039】
形成領域内側境界126aは、空洞としてのバリア領域122を形成する径方向の内側の限界位置である。たとえば、回転子鉄心120の径方向の内側領域における冷却孔の有無等を考慮して設定される。形成領域内側境界126aは、内径側に凸であり、たとえば2つの周方向境界線120sを漸近線とする双曲線である。
【0040】
外周ブリッジ境界126bは、回転子鉄心120の構造強度の確保と漏れ磁束の低減の両者の観点からその径方向の厚みが設定される外周ブリッジ122(
図1)の径方向の内側表面の包絡面である。
【0041】
このようにして設定された対象領域126において、内径側に凸の曲線群を描く。この曲線群のそれぞれは、たとえば、2つの周方向境界線120sを漸近線とする双曲線であるN本の点線で示す内部境界線127aを描く。なお、
図3では、対象領域126内の内部境界線127aの一部のみを図示している。N本の内部境界線127aにより、対象領域126は、細長い弓型領域である(N+1)個の微小領域127bに分割される。なお、N本の内部境界線127aは、等間隔に配置されている。ここで、等間隔とは、周方向境界線120sの一方に正の最大値、もう一方に負の最小値となるような、周方向に正弦波状に分布する起磁力を回転子外表面120wに与えたとき、隣り合う2本の内部境界線127aで囲まれた微小領域127bに流れる磁束の量が均一になることにより定義される。単純に、距離が等間隔であるというわけではない。
【0042】
ここで、「内径側に凸の曲線群」について説明する。一般に、SynRMの性能(効率や力率)を高めるためには、q軸に磁束を流した時に生じる磁束線に対して、バリア部の長手方向がこれにほぼ平行となるように,フラックスバリアを構成すればよいことが知られている。固定子の起磁力分布が完全な正弦波状で,鉄心内部の透磁率が一様であるという理想的な条件においては、q軸に磁束を流した場合の回転子のベクトルポテンシャルA(p,θ)は,次の式(1)のようになる。
【0043】
【数1】
ここで,pは極数,Rは回転子100の外半径,aは回転子100の内半径(シャフト110の半径),Bは回転子100の外周位置における磁束密度の径方向成分の最大値である。
【0044】
すなわち,A(r,θ)の等高線を描けば,それが磁束線に対応する。式(1)において,例えば,p=4、a=0とすれば,A(r,θ)は次の式(2)のようになる。
A(r,θ)=Br2/(2R)・sin2θ=(B/R)xy=A(x,y)
・・・(2)
ここで、x=rcosθ、y=rsinθであることを用いた。すなわち,4極のモータにおいては,A(r,θ)の等高線(A(r,θ)=const.)は、XY=const.となり、直交座標系における双曲線となることが分かる。6極の場合は、前述の通り、2つの周方向境界線120s(この2直線のなす角は60度)を漸近線とする双曲線となる。
【0045】
図3における「内径側に凸の曲線群」は,式(1)の(1)式のA(r,θ)の等高線そのものであり,次の式(3)として,等間隔に200本の等高線を引いて得られたものである。
A(r,θ)=C(n/200)(n=1,2,・・・,200) …(3)
【0046】
なお,実際には,固定子10の起磁力分布には空間高調波が含まれるため、理想的な正弦波にはならない。また,回転子鉄心120には磁気飽和が発生するため,透磁率の分布も一様ではない。したがって、式(1)はあくまで目安であり、フラックスバリア121が式(1)の等高線に完全に沿っていることを必要とするものではない。
【0047】
次に、バリア領域の配置の全ての組合せを摘出する(ステップS12c)。すなわち、径方向に1つあるいは連続する複数の微小領域127bをバリア領域として、このようなバリア領域が径方向に6つ形成される全ての組合せを、バリア領域配置として摘出する。
【0048】
なお,バリア領域配置の組み合わせを摘出する際に,制約条件を全く設けない場合,例えば,微小領域127bが1個だけで構成されたバリア領域や鉄心領域を有する回転子形状が選ばれてしまう可能性がある。このような形状は,構造強度が弱かったり,機械加工が困難であったりして,製造上の課題があるため,初めから取り除いておいた方が良い。このため,組み合わせを探索する際は,微小領域が適当な数M以上連続するという制約条件を課す。本実施例では,M=10とした。また,バリア領域比率η
Holeについても,極端に小さいものや,極端に大きいものは,モータ性能が低いと想定され,初めから省いておくことが望ましい。以上から,本実施例では,η
Holeが0.35以上,0.6以下となることも制約条件とした。ここで、バリア領域比率η
Holeは、前述の様に、回転子鉄心領域の面積SRtに占めるバリア領域の面積S
Holeの比である。具体的には、
図3で示す主断面において、対象領域126内に形成された6つのバリア領域の面積の、周角度領域125の面積に対する比である。
【0049】
次に、それぞれのバリア領域配置に関して、バリア領域比率ηHole、力率およびトルクリップルを算出する(ステップS12d)。
【0050】
図4は、実施形態に係る同期リラクタンスモータ1の回転子100の製造方法の手順におけるバリア領域配置の評価の際の固定子10側のモデルを示す部分断面図である。
図4は、周方向に6分の1セクターを示しており、1つのセクターに固定子スロット11bが12個形成されている。なお、固定子スロット11bの数(スロット数)や、固定子スロット11bの形状は、
図4に示したものに限定されない。たとえば、矩形のスロット形状でもよい。
<実施例>
【0051】
図3において、対象領域126を200個の微小領域127bに分割した場合で、本実施形態の実施例を以下に説明する。なお、分割数は、バリア領域配置の性能上の相互の比較の精度が確保できる数以上であれば200に限定されない。
【0052】
微小領域127bが200個の場合、前述の制約条件を満足するバリア領域配置の組み合わせは、1409ケースとなる。この1409ケースのバリア領域配置のそれぞれについて、バリア領域比率ηHole、力率およびトルクリップルを計算する。ここで、n番目のケースの力率とトルクリップル率をそれぞれ、P6(n)、R6(n)で表す。なお、添え字の6は、バリア領域が6層の場合であることを表す。
【0053】
1409ケースの力率の平均値P6aveとトルクリップルの平均値R6aveは、それぞれ次の式(4)および式(5)により算出される。
【0054】
P6ave=(ΣP6(n))/1409 …(4)
【0055】
R6ave=(ΣR6(n))/1409 …(5)
【0056】
ここで、Σは、n=1~1409の和を示す。
【0057】
また、力率およびトルクリップルはバリア領域比率ηHoleに対して正規分布であるとは限らないが、力率の標準偏差P6stdとトルクリップルの標準偏差R6stdを、それぞれ次の式(6)および式(7)により算出される値とする。
【0058】
P6std=√[(Σ(P6(n)-P6ave)2/1409] …(6)
【0059】
R6std=√[(Σ(R6(n)-R6ave)2/1409] …(7)
【0060】
ここで、√[X]は、Xの平方根を示す。
【0061】
次に、上記の平均値と標準偏差を用いて、次の式(8)および式(9)を用いて、各物理量を規格化する。
【0062】
p6(n)=(P6(n)-P6ave+3P6std)/(6P6std) ‥‥(8)
【0063】
r6(n)=(R6(n)-R6ave+3R6std)/(6R6std) ‥‥(9)
【0064】
この結果、それぞれ、(平均値-標準偏差の3倍)から(平均値+標準偏差の3倍)の領域を、0から1の間の領域に変換することができる。仮に正規分布の場合は、平均値±標準偏差の範囲は、全体の99.7%であることから、この場合も、0から1の間の領域で、データの大部分をカバーすることになる。
【0065】
このようにして算出した力率、トルクリップルを
図5および
図6を引用しながら説明する。
【0066】
図5は、実施形態に係る同期リラクタンスモータ1の回転子100の製造方法の手順における各バリア領域配置についての力率の算出結果を示すグラフである。
図5の横軸はバリア領域比率η
Hole(%)、縦軸は、規格化した力率である。
【0067】
図5で、白抜きの丸印は、それぞれバリア領域配置の結果を示す。また、黒塗りのひし形で示す5つは、後述する高スコアの上位5つのバリア領域配置の結果を示す。
図5の結果が示すように、上位5つのバリア領域配置は、力率の値が大きいが、力率のみに注目すれば、他にも力率の高いバリア領域配置があることが分かる。それぞれのバリア領域比率η
Hole(%)においては、力率の値は
図5の上下(力率の大小)方向に分布している。設計上、力率を最大化したケースをみると、バリア領域比率η
Holeに対して上に凸状となっている。
【0068】
図6は、実施形態に係る同期リラクタンスモータ1の回転子100の製造方法の手順における各バリア領域配置についてのトルクリップルの算出結果を示すグラフである。
図6の横軸はバリア領域比率η
Hole(%)、縦軸は、規格化したトルクリプル値である。
【0069】
図5と同様に、
図6において、白抜きの丸印は、それぞれバリア領域配置の結果を示す。また、黒塗りのひし形で示す5つは、後述する高スコアの上位5つのバリア領域配置の結果を示す。
図6の結果が示すように、上位5つのバリア領域配置は、トルクリップル値の値が小さいが、トルクリップル値のみに注目すれば、他にもトルクリップル値の小さいバリア領域配置があることが分かる。それぞれのバリア領域比率η
Hole(%)においては、トルクリップル値は
図5の上下(力率の大小)方向に分布している。設計上、トルクリップル値を最小化したケースをみると、バリア領域比率η
Holeに対して下に凸状となっている。
【0070】
図7は、実施形態に係る同期リラクタンスモータ1の回転子100の製造方法の手順における各バリア領域配置についてのスコアの算出結果を示すグラフである。
図7の横軸はバリア領域比率η
Hole(%)、縦軸は、スコア値s(n)である。
【0071】
ここで、スコア値s(n)は、次の式(10)により算出する。
【0072】
s(n)=[mP/(mP+mR)]・p6(n)-[mR/(mP+mR)]・r6(n)
・・・(10)
【0073】
ここで、m
Pおよびm
Rはそれぞれ力率およびトルクリップル値についての重み付けの数である。力率が高く、トルクリップルが小さいほど、s(n)の値は大きくなる。すなわち、s(n)は、同期リラクタンスモータの総合的な性能を表す指標と考えられる。
図7では、m
P=3、m
R=1とした場合を示している。
図1に示す本実施形態の同期リラクタンスモータ1においては、バリア領域比率η
Holeは48.2%、そのスコア値s(n)は、0.517である。
【0074】
図5で示す力率は上に凸状、
図6で示すトルクリップルは下に凸の特性を有している。この結果、力率の最大化とトルクリップルの最小化を図ろうとする場合、
図7に示すように、最適なケースを生ずるバリア領域比率η
Hole(%)は、ある範囲に収まる。
【0075】
図8ないし
図12は、それぞれ、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域配置についてのハイスコアを得たその他の第1ないし第5の例である。なお、第1の例は、
図1に示した回転子鉄心120のバリア領域部配置である。
【0076】
6層での第1のバリア領域配置例136aでは、バリア領域比率ηHoleは48.2%、スコア値s(n)は0.517である。6層での第2のバリア領域配置例136bでは、バリア領域比率ηHoleは49.5%、スコア値s(n)は0.526である。6層での第3のバリア領域配置例136cでは、バリア領域比率ηHoleは51.3%、スコア値s(n)は0.518である。6層での第4のバリア領域配置例136dでは、バリア領域比率ηHoleは48.7%、スコア値s(n)は0.520である。6層での第5のバリア領域配置例136fでは、バリア領域比率ηHoleは54.5%、スコア値s(n)は0.515である。
【0077】
このように、s(n)の値の大きな上位5つのケースにおいては、バリア領域比率ηHoleの最小値は、48.2%、バリア領域比率ηHoleの最大値は、54.5%である。したがって、バリア領域比率ηHoleが48.2%ないし54.5%の範囲で、スコア値s(n)が最大となるケースを選定すれば総合的な性能が最良のケースが得られることになる。
【0078】
なお、トルク性能に関しては、以下のことが言える。いま、力率は皮相電力に対する有効電力の比率であり、有効電力は出力と損失の合計である。また、一般には出力が損失よりも十分大きいため、有効電力の値はほぼ出力の値と考えてもよい。このため、力率を向上させることは、皮相電力をできるだけ小さくしながら出力を大きくすること、すなわちトルクを大きくすることと同義である。したがって、以上の様にして得られたケースにおいては、トルク値も確保できることになる。
<バリア領域が7層の場合>
【0079】
以下に、変形例として、フラックスバリアが7層の場合を示す。
【0080】
図13は、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合の各バリア領域配置についての力率の算出結果を示すグラフである。
図13の横軸はバリア領域比率η
Hole(%)、縦軸は、規格化した力率である。
【0081】
図13においては、
図5と同様に、白抜きの丸印は、それぞれバリア領域配置の結果を示す。また、黒塗りのひし形で示す5つは、後述する高スコアの上位5つのバリア領域配置の結果を示す。
図13の結果は、
図5の6層の場合と同様に、設計上、力率を最大化したケースをみると、バリア領域比率η
Holeに対して上に凸状となっている。
【0082】
図14は、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合の各バリア領域配置についてのトルクリップルの算出結果を示すグラフである。
図14の横軸はバリア領域比率η
Hole(%)、縦軸は、規格化したトルクリプル値である。
【0083】
図13と同様に、
図14において、白抜きの丸印は、それぞれバリア領域配置の結果を示す。また、黒塗りのひし形で示す5つは、後述する高スコアの上位5つのバリア領域配置の結果を示す。
図14の結果が示すように、設計上、トルクリップル値を最小化したケースをみると、バリア領域比率η
Holeに対して下にやや凸状となっている。
【0084】
図15は、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を7層とした場合の各バリア領域配置についてのスコアの算出結果を示すグラフである。
【0085】
図13で示す力率は上に凸状、
図14で示すトルクリップルは下に凸の特性を有している。この結果、力率の最大化とトルクリップルの最小化を図ろうとする場合、
図15に示すように、最適なケースを生ずるバリア領域比率η
Hole(%)は、ある範囲に収まる。
【0086】
図16ないし
図20は、それぞれ、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域配置についてのハイスコアを得た第1ないし第5の例である。
【0087】
7層での第1のバリア領域配置例137aでは、バリア領域比率ηHoleは52.7%、スコア値s(n)は0.539である。7層での第2のバリア領域配置例137bでは、バリア領域比率ηHoleは50.9%、スコア値s(n)は0.539である。7層での第3のバリア領域配置例137cでは、バリア領域比率ηHoleは49.8%、スコア値s(n)は0.528である。7層での第4のバリア領域配置例137dでは、バリア領域比率ηHoleは51.0%、スコア値s(n)は0.530である。7層での第5のバリア領域配置例137fでは、バリア領域比率ηHoleは52.2%、スコア値s(n)は0.535である。
【0088】
このように、s(n)の値の大きな上位5つのケースにおいては、バリア領域比率ηHoleの最小値は、49.8%、バリア領域比率ηHoleの最大値は、52.7%である。したがって、バリア領域を7層とした場合は、バリア領域比率ηHoleが49.8%ないし52.7%の範囲で、スコア値s(n)が最大となるケースを選定すれば総合的な性能が最良のケースが得られることになる。
<フラックスバリアが8層の場合>
【0089】
図21は、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてフラックスバリア121を8層とした場合の各バリア領域配置についての力率の算出結果を示すグラフである。
図21の横軸はバリア領域比率η
Hole(%)、縦軸は、規格化した力率である。
【0090】
図21においては、
図5と同様に、白抜きの丸印は、それぞれバリア領域配置の結果を示す。また、黒塗りのひし形で示す5つは、後述する高スコアの上位5つのバリア領域配置の結果を示す。
図21の結果は、
図5の6層の場合と同様に、設計上、力率を最大化したケースをみると、バリア領域比率η
Holeに対して上に凸状となっている。
【0091】
図22は、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合の各バリア領域配置についてのトルクリップルの算出結果を示すグラフである。
図22の横軸はバリア領域比率η
Hole(%)、縦軸は、規格化したトルクリプル値である。
【0092】
図5と同様に、
図22において、白抜きの丸印は、それぞれバリア領域配置の結果を示す。また、黒塗りのひし形で示す5つは、後述する高スコアの上位5つのバリア領域配置の結果を示す。
図22の結果が示すように、設計上、トルクリップル値を最小化したケースをみると、バリア領域比率η
Holeに対して下に凸状となっている。
【0093】
図23は、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域を8層とした場合の各バリア領域配置についてのスコアの算出結果を示すグラフである。
【0094】
図21で示す力率は上に凸状、
図22で示すトルクリップルは下に凸の特性を有している。この結果、力率の最大化とトルクリップルの最小化を図ろうとする場合、
図23に示すように、最適なケースを生ずるバリア領域比率η
Hole(%)は、ある範囲に収まる。
【0095】
図24ないし
図28は、それぞれ、実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順においてバリア領域配置についてのハイスコアを得た第1ないし第5の例である。
【0096】
8層での第1のバリア領域配置例138aでは、バリア領域比率ηHoleは48.3%、スコア値s(n)は0.547である。8層での第2のバリア領域配置例138bでは、バリア領域比率ηHoleは50.6%、スコア値s(n)は0.519である。8層での第3のバリア領域配置例138cでは、バリア領域比率ηHoleは48.7%、スコア値s(n)は0.535である。8層での第4のバリア領域配置例138dでは、バリア領域比率ηHoleは53.1%、スコア値s(n)は0.540である。8層での第5のバリア領域配置例138fでは、バリア領域比率ηHoleは51.7%、スコア値s(n)は0.522である。
【0097】
このように、s(n)の値の大きな上位5つのケースにおいては、バリア領域比率ηHoleの最小値は、48.3%、バリア領域比率ηHoleの最大値は、53.1%である。したがって、バリア領域を8層とした場合は、バリア領域比率ηHoleが48.3%ないし53.1%の範囲で、スコア値s(n)が最大となるケースを選定すれば総合的な性能が最良のケースが得られることになる。
【0098】
<標準偏差との関係について>
以上、ほぼ同じバリア領域比率ηHoleの中に複数ある形状の中から最良のケースを選定する上で、最大のスコアを有する形状を得る方法を説明した。以下では、標準偏差との関係について説明する。
【0099】
図29は、第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域の配置について補足するための第1の説明図である。具体的には、対象領域126(
図3)が分割された微小領域127の一部を示す図である。
1つのバリア領域122は、k個の連続した微小領域127により形成される。
図29では、kが15の場合を示している。このkを割当て数と呼ぶものとすると、たとえば6層配置の場合であれば、6つの割当て数で、6つのバリア領域122を形成していることになる。すなわち、それぞれのバリア領域配置がその層数の対応する割当て数の組を有することになる。
【0100】
図30は、第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域の配置について補足するための第2の説明図である。
図30は、先に示した
図7上に、ほぼ同じバリア領域比率η
Holeを有する中で、スコアが最大のケースNo.595と、スコアが最小のケースNo.1314)を示したものである。No.595のケースは、
図9に示した6層での第2のバリア領域配置例136bである。このケースは、前述のように、バリア領域比率η
Holeは49.5%、スコア値s(n)は0.526である。
【0101】
図31は、第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域の配置について補足するための第3の説明図である。
図31は、No.1314のケース、すなわち、6層での比較例136hのバリア領域の配置を示している。No.1314のケースでは、バリア領域比率η
Holeは、No.595のケースとほぼ同じ49.3%、スコア値s(n)は0.176である。
【0102】
ここで、各層の割当て数niを(n
1,・・・,n
N)で表す(n
1は最も外径側のバリア領域における割り当て数で、添え字が大きいほど、内径側を表すとする)と、No.595のケースでは(21,15,10,24,17,23)である。また、No.1314のケースでは(16,15,51,15,15,17)となり、
図31に示すように、径方向外側から3番目のバリア領域122が大きく、全体のバランスが悪い。
【0103】
今、N層の場合の(n1,・・・,nN)の標準偏差QNstdを次の式(11)で表す。
QNstd=√[(Σ(P6(n)-QNave)2/N] …(11)
ただし、ΣはN個の数の和、QNaveはN個の数の平均値である、
【0104】
式(11)によりそれぞれの標準偏差を求めると、No.595のケースでは4.89、No.1314のケースでは13.21となる。
【0105】
図32は、第1の実施形態に係る同期リラクタンスモータの回転子の製造方法の手順における各バリア領域の配置について補足するための第4の説明図である。
図32の横軸はバリア領域比率(%)、縦軸は式(11)で計算した標準偏差を示す。
図32中に、No.595のケースとNo.1314のケースの場所を表示している。
【0106】
このように、バリア領域比率がほぼ同じ場合は、スコアが高いバリア配置ケースでは、標準偏差が小さく、スコアが低いバリア配置ケースでは、標準偏差が大きいことが分かる。本来、磁界解析等によって、モータの力率やトルクリップルを計算し、それを元にスコアを計算しなければならないが、単純に回転子の形状情報から標準偏差を算出し、それに基づいて、ベストケースを選択することも可能である。
【0107】
以上のように、6極の同期リラクタンスモータ1の回転子100においては、フラックスバリア121を6層ないし8層形成する場合は、バリア領域比率ηHoleを48%~55%の範囲で選定することにより、力率、トルク値およびトルクリップル値に関する総合的な性能を確保することができる。
【0108】
[第2の実施形態]
図33は、第2の実施形態に係る同期リラクタンスモータ1aを示す部分断面図である。第2の実施形態は、第1の実施形態の変形である、
【0109】
本実施形態に係る同期リラクタンスモータ1aの回転子鉄心120aにおいては、フラックスバリア121が、第1の実施形態と異なる。これ以外は、第1の実施形態と同様である。
【0110】
具体的には、たとえば、フラックスバリア121aは、第1の実施形態と同様に、バリア領域122aおよび外周ブリッジ123aを有するとともに、バリア領域122aをまたぐように径方向に延びた内部ブリッジ124aをさらに有する。また、フラックスバリア121bは、バリア領域122bおよび外周ブリッジ123bを有するとともに、バリア領域122bをまたぐように径方向に延びた内部ブリッジ124bをさらに有する。フラックスバリア121c、121d、121eおよび121fについても同様である。
【0111】
このように、内部ブリッジを有することにより、バリア領域の形成による構造強度の低下を補償し、必要な構造強度を確保することができる。なお、内部ブリッジはすべてのフラックスバリアにおいて設けなければならないわけでなく、例えば、フラックスバリア121fのみを設けて、それ以外のフラックスバリア121c、121d、121eには内部ブリッジはなく、外部ブリッジのみを有する、という構造でもよい。
【0112】
[第3の実施形態]
図34は、第3の実施形態に係る同期リラクタンスモータ1bを示す部分断面図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。
【0113】
本実施形態における回転子100bの回転子鉄心120bにおいては、フラックスバリア121が形成されていない領域に、スタッドボルト通し孔141が回転子鉄心120bを軸方向に貫通するように形成されている。また、周方向境界線128の一部において、冷却孔142が形成されており、それぞれの周角度領域125が互いに隣接することにより、回転子鉄心120bを軸方向に貫通する冷却用の貫通孔が形成される。
【0114】
このように、本実施形態では、さらに回転子鉄心120bの結束、回転子100bの冷却の機能を備える構成とすることができる。なお、これらの孔の配置や個数は任意であり、必要とされる軸方向結束強度や冷却性能に基づいて、任意に配置してよい。
【0115】
以上、説明した実施形態によれば、力率が高くトルクリップル率の低い同期リラクタンスモータおよび同期リラクタンスモータの回転子の製造方法を提供することが可能となる。
【0116】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。さらに、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0117】
1、1a、1b…同期リラクタンスモータ、10…固定子、11…固定子鉄心、11a…固定子ティース、11b…固定子スロット、12…固定子巻線、20…従来例の回転子、21…回転子シャフト、22…回転子鉄心、23…フラックスバリア、23a…バリア領域、23b…外周ブリッジ、30…ギャップ空間、100…回転子、110…回転子シャフト、120、120a、120b…回転子鉄心、120r…回転子シャフト貫通孔、120s…周方向境界線、120w…回転子外表面、121…フラックスバリア、121a…第1層フラックスバリア、121b…第2層フラックスバリア、121c…第3層フラックスバリア、121d…第4層フラックスバリア、121e…第5層フラックスバリア、121f…第6層フラックスバリア、122、122a、122b…バリア領域、123、123a、123b…外周ブリッジ、124a、124b…内部ブリッジ、125…周角度領域、126…対象領域、126a…形成領域内側境界、126b…外周ブリッジ境界、127a…内部境界線、127b……微小領域、128…周方向境界線、129…電磁鋼板、136a…6層での第1のバリア領域配置例、136b…6層での第2のバリア領域配置例、136c…6層での第3のバリア領域配置例、136d…6層での第4のバリア領域配置例、136f…6層での第5のバリア領域配置例、136h…6層での比較例、137a…7層での第1のバリア領域配置例、137b…7層での第2のバリア領域配置例、137c…7層での第3のバリア領域配置例、137d…7層での第4のバリア領域配置例、137f…7層での第5のバリア領域配置例、138a…8層での第1のバリア領域配置例、138b…8層での第2のバリア領域配置例、138c…8層での第3のバリア領域配置例、138d…8層での第4のバリア領域配置例、138f…8層での第5のバリア領域配置例、141…スタッドボルト通し孔、142…冷却孔