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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169004
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】混焼用電子制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20241128BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20241128BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D45/00 362
F02D19/08 ZAB
F02P5/15 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086167
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】島田 敦史
【テーマコード(参考)】
3G022
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G022AA01
3G022CA06
3G022CA07
3G022CA08
3G022CA09
3G022EA01
3G022GA01
3G022GA07
3G092AB12
3G092BA09
3G092DC01
3G092EB01
3G092EC01
3G092EC05
3G092FA06
3G092HD05Z
3G092HE01Z
3G092HE03Z
3G092HE06Z
3G092HF01Z
3G384AA16
3G384BA05
3G384BA11
3G384BA24
3G384DA14
3G384EA01
3G384EA11
3G384EB03
3G384EB04
3G384ED01
3G384ED05
3G384FA29Z
3G384FA40Z
3G384FA49Z
3G384FA54Z
3G384FA56Z
3G384FA57Z
3G384FA58Z
3G384FA81Z
(57)【要約】
【課題】第一コントローラのソフトウェアの変更を抑制しつつ、事前取得のマップデータなしでエンジンの運転条件に適した混焼を実施することができる混焼用電子制御装置を提供する。
【解決手段】混焼用電子制御装置は、第一燃料の燃焼を制御する第一コントローラ11と、第一燃料と第二燃料の混焼を制御する第二コントローラ12と、を備える。第二コントローラ12は、エンジンの運転条件ごとに第一燃料の燃焼タイミングに対応する観測値(例えば、クランク軸の回転速度の極値と極値タイミング)を記憶する(S504)。第二コントローラ12は、それぞれの運転条件に適する第一燃料の燃焼タイミングに対応する観測値を学習する(S503)。第二コントローラ12は、現在の運転条件及び学習状況から、混焼を実施するか判定する(S505)。第二コントローラ12は、混焼を実施すると判定した場合、学習した観測値を用いて混焼を制御する(S506)。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一燃料の燃焼を制御する第一コントローラと、前記第一燃料と第二燃料の混焼を制御する第二コントローラと、を備え、
前記第二コントローラは、
エンジンの運転条件ごとに前記第一燃料の燃焼タイミングに対応する観測値を記憶し、
それぞれの前記運転条件に適する前記第一燃料の燃焼タイミングに対応する観測値を学習し、
現在の前記運転条件及び学習状況から前記混焼を実施するか判定し、
前記混焼を実施すると判定した場合、学習した前記観測値を用いて前記混焼を制御する
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の混焼用電子制御装置であって、
前記観測値は、クランク軸の回転速度の極値と、前記回転速度が前記極値となるタイミングを示す極値タイミングであり、
前記第二コントローラは、
前記極値と前記極値タイミングを検出し、
前記運転条件ごとに前記極値と前記極値タイミングを記憶し、
それぞれの前記運転条件に適する前記極値と前記極値タイミングを学習する
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の混焼用電子制御装置であって、
前記第二コントローラは、
前記混焼を実施すると判定した場合、現在の前記運転条件の前記混焼の燃焼タイミングに対応する前記極値タイミングが、前記運転条件に適する前記第一燃料の燃焼タイミングに対応する前記極値タイミングに近づくように点火タイミングを決定する
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の混焼用電子制御装置であって、
前記第二コントローラは、
現在の前記運転条件の前記極値タイミングが前記運転条件に適する前記極値タイミングより遅い場合、点火タイミングを進角させる指令を含む制御信号を第一コントローラへ出力し、
現在の前記運転条件の前記極値タイミングが前記運転条件に適する前記極値タイミングより早い場合、点火タイミングを遅角させる指令を含む制御信号を第一コントローラへ出力し、
前記第一コントローラは、
前記制御信号に含まれる指令に応じて点火タイミングを制御する
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載の混焼用電子制御装置であって、
前記第二コントローラは、
前記混焼を実施すると判定した場合、現在の前記運転条件の前記混焼の燃焼タイミングに対応する前記極値タイミングが前記運転条件に適する前記第一燃料の燃焼タイミングに対応する前記極値タイミングに近づくように混焼率を決定する
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の混焼用電子制御装置であって、
前記第二燃料の燃焼速度は、前記第一燃料の燃焼速度より大きく、
前記第二コントローラは、
現在の前記運転条件の前記極値タイミングが前記運転条件に適する前記極値タイミングより遅い場合、前記第二燃料の混焼率を大きくし、
現在の前記運転条件の前記極値タイミングが前記運転条件に適する前記極値タイミングより早い場合、前記第二燃料の混焼率を小さくする
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【請求項7】
請求項2に記載の混焼用電子制御装置であって、
前記第二コントローラは、
前記混焼を実施すると判定した場合、現在の前記運転条件の前記混焼の燃焼タイミングに対応する前記極値タイミングと、前記運転条件に適する前記第一燃料の燃焼タイミングに対応する前記極値タイミングを比較し、前記混焼の燃焼状態を判定する
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【請求項8】
請求項2に記載の混焼用電子制御装置であって、
前記第二コントローラは、
現在の前記運転条件の前記混焼の燃焼タイミングに対応する前記極値及び前記極値タイミングと、前記運転条件に適する前記第一燃料の燃焼タイミングに対応する前記極値及び前記極値タイミングを比較し、前記混焼の燃焼状態を判定する
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【請求項9】
請求項6に記載の混焼用電子制御装置であって、
前記第一燃料の流量を調整する第一燃料流量調整装置への前記第一コントローラからの第一制御信号と、前記第一燃料流量調整装置への前記第二コントローラからの第二制御信号と、を切り替える切替装置を備え、
前記第二コントローラは、
前記混焼率を変更する場合、前記切替装置を制御し、前記第一制御信号から前記第二制御信号へ切り替えさせる
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載の混焼用電子制御装置であって、
前記エンジンは、発電機を駆動し、
前記運転条件は、
発電電力、発電電流、空気過剰率、エンジン回転数、トルクのうち1つ以上を含む
ことを特徴とする混焼用電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混焼用電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の使用を削減するための脱炭素システムとして、再生可能エネルギーで生成した燃料を活用した混焼エンジンシステムについて、発電用途やコジェネレーション用途で検討されている。再生可能エネルギー由来燃料として、水素やアンモニアがあるが、水素は燃焼速度が従来の炭化水素燃料の約7倍以上であり、アンモニアは燃焼速度が従来の炭化水素燃料の1/5であり、燃焼特性が大きく異なる。
【0003】
水素は燃焼速度が速いために早期着火やバックファイアといった異常燃焼が発生しやすい。またアンモニアは失火や、燃焼タイミングが遅いことで熱効率低下につながる。そのような背景から、再生可能エネルギー由来燃料と従来燃料との混焼時は、燃焼タイミング等の制御が必要となる。
【0004】
燃料の混焼率に応じて燃焼タイミングを適切に制御するには、コントローラの実装マップや開発コストが増大する。また燃焼タイミングのオンボード検出には、燃焼圧力センサの設置が必要であり、追加搭載のハード改造、コスト増加を伴う。
【0005】
以上より、炭化水素燃料と燃焼性の異なる燃料(水素やアンモニア等)を一部燃料とする混焼エンジンにおいて、異常燃焼や失火を抑制するために、リアルタイムに燃焼状態を検出する必要がある。燃焼状態を検出する技術は、特許文献1に開示されている。
【0006】
特許文献1には、追加改造無しで燃焼タイミングを検出する手段について記載されている。具体的にはエンジンのクランク軸の回転センサを活用する手法である。クランク回転センサを用いて、クランク角速度の極値タイミングから燃焼重心を推定する手法である。この手法は追加センサレスで燃焼重心を推定できるが、事前に諸条件で取得した燃焼タイミングとの相関マップが必要となるため、既存コントローラ実装ソフトの大幅変更が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-161904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
再生可能エネルギー由来燃料との混焼エンジンシステムを成立させるために、エンジンの大幅改造無しで、かつ、コントローラの実装ソフトの大幅変更を伴うことなく、オンボードに燃焼検知して、制御することが求められる。そのためには、ベース燃料システムの既存コントローラのソフト変更無しで、かつ、追加センサレスにて混焼の燃焼タイミング検知・制御を行うことができることが求められる。
【0009】
本発明の目的は、第一コントローラのソフトウェアの変更を抑制しつつ、事前取得のマップデータなしでエンジンの運転条件に適した混焼を実施することができる混焼用電子制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の混焼用電子制御装置は、第一燃料の燃焼を制御する第一コントローラと、前記第一燃料と第二燃料の混焼を制御する第二コントローラと、を備え、前記第二コントローラは、エンジンの運転条件ごとに前記第一燃料の燃焼タイミングに対応する観測値を記憶し、それぞれの前記運転条件に適する前記第一燃料の燃焼タイミングに対応する観測値を学習し、現在の前記運転条件及び学習状況から、前記混焼を実施するか判定し、前記混焼を実施すると判定した場合、学習した前記観測値を用いて前記混焼を制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第一コントローラのソフトウェアの変更を抑制しつつ、事前取得のマップデータなしでエンジンの運転条件に適した混焼を実施することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】再生可能エネルギー由来燃料を混焼するエンジンシステムの概略図である。
図2】混焼用電子制御装置の構成図である。
図3】電磁ピックアップを用いた方式における電磁ピックアップの信号の例を示す図である。
図4】回転時間プロファイルの一例を示した図である
図5】混焼用電子制御装置の制御フローを示す図である。
図6】各種燃料毎の極値タイミングと燃焼重心の関係図である。
図7】水素混焼率に対する点火タイミング、燃焼重心の関係図である
図8】燃料毎の空気過剰率とMBT時の角速度極値タイミングの関係図である。
図9】極値タイミングと極値から正常燃焼、異常燃焼を判定する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、第一燃料(既存燃料)と第二燃料(再生可能エネルギ由来燃料)を用いるエンジンシステム18の概略図である。なお、図1では、図面を見やすくするため主要な制御線(破線)のみを表示している。
【0015】
エンジンシステム18では、第一燃料流量調整装置6を制御することで、第一燃料(例えば、炭化水素燃料)が吸気ポート16に供給される。また第二燃料流量調整装置8を制御することで、第二燃料(例えば、水素、アンモニア、バイオガス、浸炭炉排ガス、オフガスなど)が吸気ポート16に供給される。吸気ポート16にて第一燃料、第二燃料と空気が混合され、燃焼室2に供給される。吸気ポート16に搭載されたスロットルバルブ3の開度を調整することで、燃焼室2に供給されるガス量を調整する。スロットルバルブ3の開度は、不図示の開度センサにより検出され、第一コントローラ11に出力される。
【0016】
燃焼室2に供給された混合ガスは、ピストン1で圧縮されて高温及び高圧になり、その状態で点火プラグによる所定のタイミングで点火を行い、燃焼が開始される。燃焼速度の高い水素等の割合が多い場合は、点火タイミングを遅くし、燃焼速度の低いアンモニアや不活性ガス混合ガスの割合が多い場合は、点火タイミングを早くすることで、熱効率の高い燃焼が可能となる。
【0017】
点火プラグ4の点火により、燃料と空気の混合気が点火され、火炎伝播により燃焼圧力が大きくなり、ピストン1にトルクが発生する。ピストン1の上下運動はクランク軸14の回転運動に変換される。クランク軸14には、発電機(不図示)が接続され、クランク軸14の回転に伴い発電機が発電する。
【0018】
第二燃料は例えば、水素を一部燃料とするガスであり、水素リッチガス、水素が一部含まれる天然ガス、水素が一部含まれるバイオガス、水素が一部含まれる合成ガス、アンモニア、改質ガス等である。改質ガスとは、例えば天然ガス、バイオガス、エタノールなどのバイオ燃料、アンモニア、合成燃料を改質したガスである。これらのガスは、第二燃料貯蔵装置7から供給される。第二燃料貯蔵装置7へは水素生成装置17で生成したガスが貯蔵される。第二燃料貯蔵装置7を設けずに、化学プラントや水の分解装置と第二燃料流量調整装置8を直接接続してもよい(水素生成装置17を直接接続してもよい)。
【0019】
水素生成装置17として、例えば、水を水素と酸素に分解する電気分解装置、または触媒が挿入された改質器等が用いられる。水素生成装置17が電気分解装置の場合、供給する電気は、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーから生成された電気が活用される。水素生成装置17が改質器の場合、改質器には炭化水素系燃料もしくはアンモニアが供給され、改質して水素が生成される。改質器にはエンジンの排気、冷却水(冷却水15もしくは外部から供給)、または電気ヒータのいずれか一つ以上が供給され、所定温度に制御される。
【0020】
第二燃料貯蔵装置7の残量が小さくなると、水素生成装置17で生成した水素を含むガスを貯蔵する。第二燃料貯蔵装置の残量に応じてより水素を含むガスを取り出す。水素吸蔵合金、有機ハイドライド、アンモニアを使用する場合は、エンジンの排気、冷却水のいずれか一つ又は両方を供給し、水素を含むガスを取り出す。
【0021】
第一コントローラ11は、エンジンの回転タイミングを検出するクランク角センサ9とカムセンサ10の信号に基づき、点火タイミングを制御する。第一燃料の噴射タイミングは、エンジンの回転数、推定トルク(吸気圧やエアーフローメータ等から推定)、排気中のO2センサの信号に基づき制御される。第二燃料は、一部水素を含むため、第二燃料と空気の予混合気は、量論比率よりも空気過剰な割合、つまり高空気過剰率条件においても、燃焼が成立する。そのため、従来の火花点火燃焼用のエンジンの吸気に第二燃料を追加供給する際、広い空気過剰率条件においても混焼が成立する。本実施形態では、カムセンサ10の信号は第二コントローラ12を介して第一コントローラ11に入力されるが、第一コントローラ11に直接入力してもよい。
【0022】
第二コントローラ12は、上述した第一燃料流量調整装置6と、第二燃料流量調整装置8とを有する混焼用のエンジン(エンジンシステム18)の燃焼室(燃焼室2)で混焼する複数の燃料の混合割合や燃料量および点火時期を制御する装置である。第二コントローラ12は、第一燃料流量調整装置6および第二燃料流量調整装置8と接続され、それぞれの燃料をエンジンに供給する量を調整することができる。第一燃料流量調整装置6は、第一コントローラ11からも制御が可能であり、コントローラ切替装置20にて第一燃料流量調整装置6と接続するコントローラを選択できる(第一コントローラ11か第二コントローラ12かを切替することができる)。
【0023】
第二コントローラ12は、クランク角センサ9とカムセンサ10の検出結果(信号)に基づき、エンジンの燃焼タイミングを検出する。点火時期は第一コントローラ11(エンジン制御コントローラ)により制御されるが、点火時期を制御するための基準タイミングであるカムセンサの信号(センサ値)は、第二コントローラ12で制御された後に第一コントローラ11へ入力される。こうすることで、検出されたエンジンの燃焼タイミングに基づき、第一燃料流量調整装置6及び第二燃料流量調整装置8および点火時期を第二コントローラ12にて制御可能となる。
【0024】
スロットルバルブ3は、エンジンの回転数が所定範囲になるよう開度を調整する。吸気管には吸気圧センサ19もしくはエアーフローメータが接続されており、信号が第二コントローラ12に供給される。これにより第二コントローラ12にて、空気量に応じて第一燃料流量調整装置6及び第二燃料流量調整装置8および点火時期を制御することが可能である。
【0025】
また排気中の酸素濃度を把握するためのO2センサ13が排気管に装着されており、O2センサ13は第二コントローラ12に接続される。空燃比もしくは空気過剰率を第二コントローラ12にてリアルタイムに検出可能であり、空燃比もしくは空気過剰率の値に応じて、第一燃料流量調整装置6及び第二燃料流量調整装置8および点火時期を制御することが可能である。
【0026】
図2は、第二コントローラ12の構成図である。クランク角センサ9とカムセンサ10を第二コントローラ12に入力する。また発電機21の電流センサまたは電圧センサの信号(センサ値)の少なくとも1つ以上を第二コントローラ12へ入力する。クランク角センサ9、カムセンサ10はそれぞれ前処理回路にて整形された後、マイコン(マイコン演算部)に供給される。クランク角センサ9、カムセンサ10が電磁ピックアップの場合は図3に示すように±24Vもしくはそれ以上の電圧で供給されることから、マイコンに直接供給できないため、3V矩形波へ変換後、マイコンに入力される。また発電機21の電流、電圧信号は分圧回路により3V以下にしてマイコンに入力される。
【0027】
マイコンに入力された信号を用いて、燃焼検知部は回転時間プロファイルの演算を行う。図3に示すようにクランク角センサ9の信号から変換された矩形波の立下りエッジ間の時間を取得し、サイクル毎に平均値をとると回転時間プロファイルを取得できる。そして、回転時間プロファイルをフーリエ級数展開することで、図4の回転時間プロファイルが得られる(演算される)。
【0028】
次に極値、極値タイミング演算部にて、回転時間プロファイルの極値:Pと極値タイミング:Ptを取得する。1気筒エンジンの場合は極値:Pおよび極値タイミングPtがエンジンサイクル(クランク2回転に1つ)、N気筒エンジンの場合は極値Pおよび極値タイミングPtがN個取得できる。つまり、気筒毎の極値P(n)および極値タイミングPt(n)を取得できる(n=1,2,…,N)。運転条件(発電電力、空気過剰率、エンジン回転数、トルク等で定義される条件)毎に極値、極値タイミングを学習する。その後、燃焼検知部から燃焼制御部へ信号が受け渡される。燃焼制御部は制御モード決定部(燃料モード決定部)、燃焼状態判定部、燃焼タイミング制御決定部、混焼率決定部の機能に分類される。
【0029】
制御モード決定部は、第一コントローラ11(ベース燃料用)にて制御するか、第二コントローラ12で制御するかを判定する。始動時は第一コントローラ11で制御し、所定時間が経過し運転条件での学習データ取得ができれば、第二コントローラ12の制御へ移行する。
【0030】
燃焼状態判定部は、極値および極値タイミングから燃焼が高効率なタイミングで燃焼できているかを判定する。その判定結果に基づき、燃焼タイミング制御決定部は点火タイミングを制御する。また、混焼率決定部は、混焼割合を決定する。
【0031】
図5に混焼用電子制御装置を用いた制御のフローチャートを示す。S501にてベース燃料(例えば、炭化水素燃料)にてエンジンを始動する。S502にて要求発電出力に対し、第一コントローラ11にて制御する。極値・極値タイミング演算部で計算された結果(極値及び極値タイミング)を運転条件と対応付けてS504にてデータベースに保存する。そして、S503にて運転条件毎の極値および極値タイミングを学習する。学習状況から制御モード決定部にて混焼が実施可能かを判定する(S505)。
【0032】
S505にて混焼が可能となると、S506にて第二コントローラ12による制御に移行する。S505にて混焼が実施不可能と判断されれば、エンジン停止フラグ有無に移行し、停止フラグが無ければ、S502に戻り、ベース燃料にて諸条件でデータを取得し学習を行う。なおS505にて混焼が実施不可能となるケースは、混焼を実施するためのデータが不足している、もしくは、エンジンが暖機条件等で所定の運転状態に至っていないのかのどちらかである。
【0033】
第二コントローラ12による制御が実施可能となった場合は、S508にて混焼率決定部は、第一燃料、第二燃料の流量割合を決定し、第一燃料流量調整装置6および第二燃料流量調整装置8へ信号(制御指令)を送り、各燃料の流量が制御される。
【0034】
S509にて混焼時の極値および極値タイミングを把握し、S510にて混焼時の極値・極値タイミングが所定範囲内になるように燃焼タイミングと第一燃料流量、第二燃料流量を制御し、その情報は学習され、S504にてデータベースへ保存される。S512にて異常燃焼が発生する場合は混焼停止、バイパス制御(第二コントローラ12による制御)を停止し、エンジン停止フラグがあれば、エンジンを停止する。またエンジン停止フラグが無い場合、ベース燃料にて第一コントローラ11(エンジン制御コントローラ)はエンジン制御を実施する。
【0035】
図6は同運転条件(同出力、同回転数、同空気過剰率(空燃比))で異なる燃料の極値タイミングPtと燃焼重心(MFB50T(Mass Fraction Burned Timing)の関係である。極値タイミングを所定範囲(図6の例では、Pt:10.5~11.5)に入れることで、最適点火条件(MBT:Minimum advanced for best torque)となる。これは運転条件毎の最適(最大効率となる)な燃焼重心は、燃焼種に依存しないことに起因している。図7は第一燃料にメタン、第二燃料に水素を用いた際の水素混焼率と点火タイミング、燃焼重心の関係である。水素混焼率の増加に伴い、点火タイミングは遅角化されるが、燃焼重心(MFB50T)は一定となる。また燃焼重心(MFB50T)と極値タイミングPtは線形の関係にあることから、極値タイミングPtを同運転条件で所定範囲にて運転すれば、燃焼種に依存せずに最大熱効率にて運転可能となる。
【0036】
次にMBT条件でのPtタイミング(以下、最適Ptタイミング)の空気過剰率の依存性について説明する。図8はエンジン回転数、出力が同じ条件で空気過剰率の異なる際の最適Ptタイミングの変化を示している。空気過剰率が異なることで最適Ptタイミングは変化することが分かる、これは空気過剰率λが変わるとエンジンに供給する作動ガスが変わることで、筒内圧の履歴が大きく変わることに依存している。つまり、エンジン回転数、出力、空気過剰率毎に最適Ptタイミングが決まり、それは燃料種に依存しないということになる。
【0037】
以上の基本的な考え方で実施した場合、エンジンのサイズやタイプ、回転センサ(クランク角センサ)の種類が異なる場合は最適Ptタイミングが異なる。そのため、ベース燃料にてまず幅広い運転域でベース制御の極値タイミングPtを把握することが重要となる。ベース制御は最高熱効率もしくは低排気の燃焼タイミングで制御されていることから、ベース燃料で最適極値タイミングPtの学習を行うことで、混焼時に最適極値タイミングPtをベースに点火時期や燃焼種制御を行うことが可能となる。
【0038】
図8に示す正常燃焼エリアを逸脱すると、遅角側は燃焼重心が遅くなり、大きく外れると失火となる。一方、進角側は燃焼重心が早くなり、大きく外れると早期着火となる。つまり最適燃焼エリアからの逸脱している角度を見ることで燃焼の状態を判定できる。それにより、最適燃焼のための点火タイミングの制御値が決まる。
【0039】
図9に極値タイミングと極値に対する正常燃焼と異常燃焼の各種類のエリアを示す。極値タイミングが遅角化すると失火異常になり、進角化すると連続的な早期着火(異常燃焼)となる。極値タイミングが正常でも断続的な早期着火やノッキングが起こる場合がある。断続的な早期着火やノッキングは、極値タイミングのみを見ていると判断できないため、極値を把握する必要がある。これらのことから、極値と極値タイミングの両方を見ることで正常燃焼もしくは異常燃焼(種類も含めて)を判断できる。
【0040】
本実施形態の主な特徴は、次のように換言することもできる。
【0041】
混焼用電子制御装置は、第一燃料(例えば、炭化水素燃料)の燃焼を制御する第一コントローラ11と、第一燃料と第二燃料(例えば、水素)の混焼を制御する第二コントローラ12と、を備える(図1)。第二コントローラ12は、エンジンの運転条件ごとに第一燃料の燃焼タイミングに対応する観測値(例えば、クランク軸の回転速度の極値と極値タイミング)を記憶する(S504、図5)。第二コントローラ12は、それぞれの運転条件に適する第一燃料の燃焼タイミングに対応する観測値を学習する(S503)。第二コントローラ12は、現在の運転条件(発電電力、空気過剰率、エンジン回転数、トルク等)及び学習状況(例えば、学習データの量が十分かどうか)から混焼を実施するか判定する(S505)。第二コントローラ12は、混焼を実施すると判定した場合、学習した観測値を用いて混焼を制御する(S506)。
【0042】
第一コントローラ11が第一燃料の燃焼を制御し、第二コントローラ12が混焼を制御することで、第一コントローラ11のソフトウェアの変更(マップの変更等)を抑制しつつ、混焼を実施することができる。
【0043】
また、運転条件に適する第一燃料の燃焼タイミングに対応する観測値は燃焼種に依存しないので、学習した観測値を用いることでマップを用いずに運転条件に適した混焼を実施することができる。
【0044】
なお、第二コントローラ12は、例えば、学習データの量が十分でない場合、又は、現在の運転条件が暖機運転の運転条件(例えば、発電電力:低、空気過剰率:低、エンジン回転数:低、トルク:低)である場合、混焼を実施しないと判定する。一方、第二コントローラ12は、例えば、学習データの量が十分であり、かつ現在の運転条件が発電時の運転条件である場合、混焼を実施すると判定する。観測値の学習(機械学習)は、例えば、ニューラルネットワークモデルを用いて行われる。
【0045】
本実施形態では、観測値は、図4に示すように、クランク軸の回転速度の極値Pと、回転速度が極値Pとなるタイミングを示す極値タイミングPtである。第二コントローラ12は、極値Pと極値タイミングPtを検出する。第二コントローラ12は、運転条件ごとに極値Pと極値タイミングPtを記憶する。第二コントローラ12は、それぞれの運転条件に適する極値Pと極値タイミングPtを学習する。
【0046】
例えば、エンジンに設けられている既存のクランク角センサ9とカムセンサ10の信号を用いることで、筒内圧センサ等を新たに追加しなくても、それぞれの運転条件に適する第一燃料の燃焼タイミングに対応するクランク軸の回転速度の極値Pと極値タイミングPtを学習することができる。
【0047】
第二コントローラ12(燃焼タイミング制御決定部、図2)は、混焼を実施すると判定した場合、現在の運転条件の混焼の燃焼タイミングに対応する極値タイミングPtが、運転条件に適する第一燃料の燃焼タイミングに対応する極値タイミングに近づくように点火タイミングを決定する(S510、図5)。
【0048】
これにより、現在の運転条件の混焼の燃焼タイミングを燃焼重心に近づけることができる。その結果、混焼の熱効率が向上する。
【0049】
詳細には、第二コントローラ12は、現在の運転条件の極値タイミングPtが運転条件に適する極値タイミングより遅い場合、点火タイミングを進角させる指令を含む制御信号を第一コントローラ11へ出力する。一方、第二コントローラ12は、現在の運転条件の極値タイミングPtが運転条件に適する極値タイミングより早い場合、点火タイミングを遅角させる指令を含む制御信号を第一コントローラ11へ出力する。第一コントローラ11は、制御信号に含まれる指令に応じて点火タイミングを制御する。
【0050】
点火タイミングを遅角又は遅角させることで、現在の運転条件の混焼の燃焼タイミングを燃焼重心に近づけることができる。
【0051】
第二コントローラ12(混焼率決定部、図2)は、混焼を実施すると判定した場合、現在の運転条件の混焼の燃焼タイミングに対応する極値タイミングが運転条件に適する第一燃料の燃焼タイミングに対応する極値タイミングに近づくように混焼率(燃料流量の割合)を決定する(S510、図5)。
【0052】
これにより、現在の運転条件の混焼の燃焼タイミングを燃焼重心に近づけることができる。その結果、混焼の熱効率が向上する。
【0053】
詳細には、第二燃料(例えば、水素)の燃焼速度は、例えば、第一燃料(例えば、炭化水素燃料)の燃焼速度より大きい。第二コントローラ12は、現在の運転条件の極値タイミングPtが運転条件に適する極値タイミングより遅い場合、第二燃料(例えば、水素)の混焼率を大きくする。一方、第二コントローラ12は、現在の運転条件の極値タイミングPtが運転条件に適する極値タイミングより早い場合、第二燃料(例えば、水素)の混焼率を小さくする。
【0054】
混焼率を調整することで、現在の運転条件の混焼の燃焼タイミングを燃焼重心に近づけることができる。なお、混焼率の初期値は、例えば、不揮発性メモリ等の記憶装置に記憶されるが、気温、冷却水温等の環境条件から計算してもよい。
【0055】
第二コントローラ12は、混焼を実施すると判定した場合、現在の運転条件の混焼の燃焼タイミングに対応する極値タイミングPtと、運転条件に適する第一燃料の燃焼タイミングに対応する極値タイミングを比較し、混焼の燃焼状態を判定する(図8)。
【0056】
これにより、極値タイミングPtから混焼の燃焼状態(失火、正常燃焼、早期着火)を判定することができる。
【0057】
第二コントローラ12は、現在の運転条件の混焼の燃焼タイミングに対応する極値P及び極値タイミングPtと、運転条件に適する第一燃料の燃焼タイミングに対応する極値及び極値タイミングを比較し、混焼の燃焼状態を判定する(図9)。
【0058】
これにより、極値P及び極値タイミングPtから混焼の燃焼状態(失火、正常燃焼、連続早期着火のほか断続的な早期着火、ノッキング)を判定することができる。
【0059】
混焼用電子制御装置は、図2に示すように、第一燃料の流量を調整する第一燃料流量調整装置6への第一コントローラ11からの第一制御信号と、第一燃料流量調整装置6への第二コントローラ12からの第二制御信号と、を切り替える切替装置(コントローラ切替装置20)を備える。第二コントローラ12は、混焼率を変更する場合、切替装置(コントローラ切替装置20)を制御し、第一制御信号から第二制御信号へ切り替えさせる。
【0060】
これにより、第一コントローラ11の制御(ソフトウェア)を変更しなくても、混焼率を変更することができる。
【0061】
エンジンは、発電機21を駆動する。運転条件は、例えば、発電電力、発電電流、空気過剰率、エンジン回転数、トルクのうち1つ以上を含む。
【0062】
第二コントローラ12によりエンジンの運転条件に合わせて混焼の熱効率が向上又は最適化されるので、発電機21の燃費が向上する。
【0063】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0064】
第1燃料としてガソリンを用い、第一燃料流量調整装置6として、燃料噴射装置(インジェクタ)を用いてもよい。
【0065】
また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサ(マイコン)がそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0066】
なお、本発明の実施形態は、以下の態様であってもよい。
【0067】
(1).第一燃料(ベース燃料)および第二燃料を用いて発電するエンジンにおいて、第一コントローラ(ベース燃料用)とは別に第二コントローラを有し、第二コントローラはエンジンの燃焼状態を検出する機能、ベース燃料運転時の諸条件での燃焼状態を保存する機能、上記保存した情報をもとに混焼を実施するかどうかを判定する燃料モード決定機能、燃焼状態を判定する燃焼状態判定機能、燃焼タイミング制御する燃焼タイミング制御決定機能、混焼率を決定する混焼率決定機能、のいずれか一つ以上の機能を有する混焼用電子制御装置。
【0068】
(2).(1)に記載の混焼用電子制御装置であって、第二コントローラにてエンジンのクランク回転センサ、カムセンサが入力され、上記回転センサ、上記カムセンサの信号をもとにクランク軸の回転速度のサイクル内の極値および極値タイミングを演算する演算機能を有し、演算した前記極値と極値タイミングを運転条件毎に学習する学習機能を有し、前記演算機能と前記学習機能に基づき、混焼モードを実施するか否かを決定する制御モード決定機能を有する混焼用電子制御装置。
【0069】
(3).(1)、(2)のいずれかに記載の混焼用電子制御装置であって、前記燃焼タイミング制御決定部で決定した結果に基づき、前記第一コントローラへタイミング制御信号を出力し、前記第一コントローラでは、前記タイミング制御信号をもとに点火時期を制御する点火タイミング制御部を有することを特徴とする混焼用電子制御装置。
【0070】
(4).(1)、(2)のいずれかに記載の混焼用電子制御装置であって、前記燃焼タイミング制御決定部で決定した結果に基づき、第一燃料流量調整装置を制御するコントローラを第一コントローラとするか、第二コントローラとするかを切替可能なコントローラ切替装置20を有する混焼用電子制御装置。
【0071】
(1)~(4)によれば、筒内圧センサ等を追加することなく、また既存コントローラのソフトウェアを大幅改造せずに、混焼時の燃焼タイミングをリアルタイムに制御可能になる。これにより、多種のエンジンシステムに対し、既存のコントローラの大幅改良無しに第二の燃料を混焼できる。本手法により多種のエンジンを活用できるため、自動車用エンジンや産業用エンジン、船舶用エンジンなどあらゆるエンジンにて再生可能エネルギー由来燃料やサーキュラエコノミ由来燃料を活用することが可能となる。また中古や廃棄されたエンジンにも適用可能であるため、リサイクル化の面にも寄与できる。
【符号の説明】
【0072】
1…ピストン、2…燃焼室、3…スロットルバルブ、4…点火プラグ、5…第一燃料(ベース燃料)貯蔵装置、6…第一燃料流量調整装置、7…第二燃料貯蔵装置、8…第二燃料流量調整装置、9…クランク角センサ、10…カムセンサ、11…第一コントローラ、12…第二コントローラ、13…O2センサ、14…クランク軸、15…冷却水、16…吸気ポート、17…水素生成装置、18…エンジンシステム、19…吸気圧センサ、20…コントローラ切替装置、21…発電機
図1
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