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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169005
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】レーザ式ガス分析計
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/39 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G01N21/39
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086170
(22)【出願日】2023-05-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 直希
(72)【発明者】
【氏名】吉峰 郁洋
(72)【発明者】
【氏名】篠田(シュレスタ) ソミ
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059EE01
2G059GG01
2G059GG09
2G059JJ11
2G059KK02
2G059LL01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】受光部におけるレーザ光のビーム径の調整、及び受光部へのレーザ光の入射角の調整を容易にすることができるレーザ式ガス分析計を提供する。
【解決手段】レーザ式ガス分析計100は、波長可変のレーザ素子112と、レーザ光の波長を掃引し、かつ、レーザ光の波長を変調するためのレーザ素子駆動信号を出力する変調光生成部111と、レーザ素子駆動信号に応じた駆動電流をレーザ素子に供給する駆動電流制御部116と、を有する発光部110と、測定対象空間を透過したレーザ光を受光する受光素子122と、受光素子122から出力された受光信号に基づき測定対象ガスの濃度、又は有無を求める受光信号処理部121と、を有する受光部120と、を備え、発光部110は、レーザ素子112を光軸方向に移動すること、及び、光軸方向を変化させる方向にレーザ素子112を移動すること、のそれぞれを可能にする移動機構117を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象空間に存在する測定対象ガスの濃度、又は有無を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射する波長可変のレーザ素子と、
前記波長帯域において前記レーザ素子が出射する前記レーザ光の波長を掃引し、かつ、前記レーザ光の波長を変調するためのレーザ素子駆動信号を出力する変調光生成部と、
前記レーザ素子駆動信号に応じた駆動電流を前記レーザ素子に供給する駆動電流制御部と、
を有する発光部と、
前記測定対象空間を透過した前記レーザ光を受光する受光素子と、
前記受光素子から出力された受光信号に基づき測定対象ガスの濃度、又は有無を求める受光信号処理部と、
を有する受光部と、
を備え、
前記発光部は、
前記レーザ素子を光軸方向に移動すること、及び、前記光軸方向を変化させる方向に前記レーザ素子を移動すること、のそれぞれを可能にする移動機構を備える、
レーザ式ガス分析計。
【請求項2】
前記移動機構を駆動するアクチュエータを含む移動機構駆動部と、
前記移動機構による前記レーザ素子の移動を前記移動機構駆動部に指示する操作装置と、
を備える請求項1に記載のレーザ式ガス分析計。
【請求項3】
前記発光部は、
防爆構造の発光部容器を備え、
前記レーザ素子、及び前記移動機構が前記発光部容器に収められる
請求項2に記載のレーザ式ガス分析計。
【請求項4】
前記操作装置は、外部からの制御信号に基づいて前記移動機構駆動部に指示する
請求項2に記載のレーザ式ガス分析計。
【請求項5】
前記移動機構は、キネマティックマウントを含む
請求項1に記載のレーザ式ガス分析計。
【請求項6】
前記レーザ素子は、
前記光軸方向、又は、前記光軸方向を変化させる方向の少なくとも1の方向に前記移動機構によって周期的に移動する
請求項1に記載のレーザ式ガス分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ式ガス分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
気体状のガス分子は、それぞれ固有の光吸収波長および吸収強度を表す吸収線スペクトルを有する。また、レーザ光は、特定の波長でスペクトル線幅が狭い光である。レーザ式ガス分析計は、気体状のガス分子である測定対象ガスが吸収する光吸収波長のレーザ光を測定対象ガスに吸収させ、その光吸収波長におけるレーザ光の吸収量に基づいて測定対象ガスの有無を検出する。加えて、レーザ式ガス分析計は、光吸収波長におけるレーザ光の吸収量が測定対象ガスの濃度に比例することを利用して、その濃度を検出することもできる。
【0003】
このようなガス分析を行うレーザ式ガス分析計の従来技術が、例えば特許文献1に開示されている。この特許文献1の技術は、当該特許文献1の図1に示されるように、対象ガスの吸収線スペクトルのスペクトル線幅にわたって波長を走査可能な波長可変レーザ素子12と、各種のプロセスによって生じたガスの間を通過するレーザ光の強度をDCおよび当該レーザ光の変調周波数の倍数で検出する受光素子22と、ロックイン増幅器およびマイクロプロセッサを含む受光信号処理部21と、変調光生成部11と、変調光生成部11及び受光信号処理部21をつなぐ通信線30と、を備える。
【0004】
特許文献1のレーザ式ガス分析計は、波長変調分光法により検出を行う。すなわち、駆動電流によって波長が掃引され、かつ特定の周波数で変調されたレーザ光を波長可変レーザ素子12が出射し、そのレーザ光を受光素子22が検出する。そして、受光信号処理部21において、ロックイン増幅器が受光素子22の検出信号を、レーザ光の変調周波数の逓倍でロックイン検出し、マイクロプロセッサが、ロックイン検出によって得られるロックイン検波波形の振幅に基づいてガス濃度を算出する。この種のレーザ式ガス分析計は、ロックイン検出により信号ノイズ比が向上するために微量ガスの計測に適する。
【0005】
測定対象空間に存在する複数ガスの組成が定まっている場合には、測定対象ガスの吸光によって得られるロックイン検波波形の振幅は波長変調振幅の関数であり、極大値が存在する。したがって、標準ガスを校正する際には、ロックイン検波波形の振幅が極大となるように波長変調振幅を調節することで信号ノイズ比を最大化することができる。そして、マイクロプロセッサは、測定対象ガスのガス濃度とロックイン検波波形の振幅の対応関係(例えば比例関係など)に基づき、ガス濃度を求めることができる。
【0006】
ところで、レーザ式ガス分析計は、発光部から出射されたレーザ光を受光部で受光して測定するため、発光部と受光部のそれぞれの光軸を合わせることが重要となる。そのため、例えば特許文献2の図8に示されるように、アジャストボルトで受光部又は発光部がとりついた配管の蛇腹部を変形させることにより受光部又は発光部の角度を調節し、発光部から出射したレーザ光が受光部で受光できるように調整するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-106742号公報
【特許文献2】特許第6191345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、レーザ式ガス分析計の取付工事実施後において、測定対象ガスを生じさせるプロセスの影響による熱膨張や、レーザ式ガス分析計が取り付けられた箇所の振動などにより、当該レーザ式ガス分析計の取付部位が僅かに変形することがある。レーザ式ガス分析計において、測定光路長は、0.5mから10mといった広い範囲に亘って設定されることが多いため、取付部位の僅かな変形でも、受光部での受光が影響を受けることがある。
この場合、取付工事実施後に、プロセスが安定した状態において、作業者などが受光部又は発光部の角度調整を再度実施するのが一般的である。しかしながら、この段階の角度調整は、そのプロセス条件において最適となる調整であるため、プロセスの条件が変化した場合には再度の角度調整が必要となる。
【0009】
取付工事実施後に、プロセスの影響に起因する角度調整を避ける手法としては、レーザ光のビーム径を予めやや拡げることにより、発光部又は受光部の取付角度に僅かなズレが生じても受光素子がレーザ光を受光できるように調整すること、が考えられる。レーザ光のビーム径を調整する手法としては、例えば特許文献1の図1において、波長可変レーザ素子12とコリメートレンズ13の間の距離をねじやスペーサー等で変更すること、が考えられる。
しかしながら、レーザ光のビーム径を拡げると、受光素子の受光による信号レベルが低下する等の影響が生じる。したがって、レーザ光のビーム径を調整する場合も、取付現場の状況に合わせて、必要以上にビーム径が拡がり過ぎないように調整することが好ましい。
また、ビーム径調整の際に、受光部へのレーザ光の入射角調整が必要となった場合には、発光部、又は受光部の取付角度を再度調整することとなり、調整作業が煩雑なものとなる。
【0010】
本開示は、受光部におけるレーザ光のビーム径の調整、及び受光部へのレーザ光の入射角の調整を容易にすることができるレーザ式ガス分析計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の1つの態様に係るレーザ式ガス分析計は、測定対象空間に存在する測定対象ガスの濃度、又は有無を測定するレーザ式ガス分析計であって、前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射する波長可変のレーザ素子と、前記波長帯域において前記レーザ素子が出射する前記レーザ光の波長を掃引し、かつ、前記レーザ光の波長を変調するためのレーザ素子駆動信号を出力する変調光生成部と、前記レーザ素子駆動信号に応じた駆動電流を前記レーザ素子に供給する駆動電流制御部と、を有する発光部と、前記測定対象空間を透過した前記レーザ光を受光する受光素子と、前記受光素子から出力された受光信号に基づき測定対象ガスの濃度、又は有無を求める受光信号処理部と、を有する受光部と、を備え、前記発光部は、前記レーザ素子を光軸方向に移動すること、及び、前記光軸方向を変化させる方向に前記レーザ素子を移動すること、のそれぞれを可能にする移動機構を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示の1つの態様によれば、受光部におけるレーザ光のビーム径の調整、及び受光部へのレーザ光の入射角の調整を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の実施形態に係るレーザ式ガス分析計の全体構成の一例を模式的に示す図である。
図2】移動機構の構成の一例を示す斜視図である。
図3】移動機構の各送りねじの操作と、支持部材の移動との関係の一例を模式的に示す図である。
図4】第1手法、及び第2手法による光路の差異を示す図である。
図5】第1手法におけるレーザ素子の光軸方向への変位長と光路長の変化量との関係を示す図である。
図6】第2手法におけるレーザ素子の光軸方向の変位角と光路長の変化量との関係を示す図である。
図7】受光信号の平均化処理による干渉ノイズの低減効果についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本開示に係る好適な形態を説明する。なお、図面において、各部の寸法、及び縮尺が実際と適宜に異なる場合があり、理解を容易にするために模式的に示している部分を含む場合がある。また、以下の説明において、本開示を限定する旨の特段の記載が無い限り、本開示の範囲は以下の説明に記載された形態に限られない。本開示の範囲は当該形態の均等の範囲を含む。
【0015】
1.実施形態
図1は、本実施形態に係るレーザ式ガス分析計100の全体構成の一例を模式的に示す図である。
レーザ式ガス分析計100は、互いに対向する第1壁150aと第2壁150bとの内部を流通するガスに含まれる測定対象ガスの濃度、または、測定対象ガスの有無を、レーザ光を用いて検出する装置である。第1壁150a、及び第2壁150bは、ガスが内部を通過する管状の煙道の断面が含む壁部に相当する。煙道は、産業プロセス又は化学プロセスにおいて生じたガスの流路である。
なお、第1壁150aと第2壁150bの間の距離は限定されないが、例えば0.5mから10mの範囲である。また、本開示において、産業プロセス又は化学プロセスを単に「プロセス」と称する。
【0016】
図1に示される通り、レーザ式ガス分析計100は、第1壁150aの外側に取り付けられた発光部110と、第2壁150bの外側に取り付けられた受光部120と、発光部110及び受光部120の間における電気信号の伝送に用いられる通信線140と、を備える。なお、通信線140に代えて無線や光通信のような通信部が用いられてもよい。
【0017】
発光部110はレーザ光である検出光130を出射するユニットであり、検出光130が第1壁150aと第2壁150bとの内部の測定対象空間に投光される。測定対象空間において、検出光130の一部は測定対象ガスによって吸収され、吸収されなかった残りの検出光130、すなわち透過光が受光部120に入射する。受光部120は、測定対象空間を透過した検出光130を受光し、その受光量を検出するユニットでる。また、本実施形態の受光部120は、検出光130の受光量に基づいて、測定対象ガスの濃度、又は、当該測定対象ガスの有無を求める機能を有する。
【0018】
次いで、発光部110、及び受光部120の取付構造について詳述する。
【0019】
発光部110は、発光部容器115と、この発光部容器115を第1壁150aに取り付けるための第1調整フランジ部材152aと、を備える。
発光部容器115は、検出光130を出射するための出射口115aが開口した箱体である。発光部容器115の形状は限定されないが、本実施形態では略直方体形状である。また、発光部容器115の主材、及び製法は限定されないが、本実施形態の発光部容器115は、防爆構造のアルミダイカスト製品である。
【0020】
第1調整フランジ部材152aは、円筒部152a1と、円筒部152a1の先端に設けられたフランジ部152a2とを有する部材であり、主材には、例えばアルミ合金が用いられる。円筒部152a1の基端が出射口115aを包囲するように発光部容器115に溶接等で強固に固定され、円筒部152a1の内部を検出光130が伝播する。
一方、第1壁150aには、発光部110から出射された検出光130を内部に導入するための開口150a1が設けられ、当該開口150a1には第1フランジ151aが溶接等により固定される。第1調整フランジ部材152aのフランジ部152a2は、この第1フランジ151aに結合される。
【0021】
受光部120は、受光部容器125と、この受光部容器125を第2壁150bに取り付けるための第2調整フランジ部材152bと、を備える。
受光部容器125は、検出光130の透過光を内部に導入するための導入口125aが開口した箱体である。受光部容器125の形状は限定されないが、本実施形態では略直方体形状である。また、受光部容器125の主材、及び製法は限定されないが、本実施形態の受光部容器125は、防爆構造のアルミダイカスト製品である。
【0022】
第2調整フランジ部材152bは、円筒部152b1と、円筒部152b1の先端に設けられたフランジ部152b2とを有する部材であり、主材には、例えばアルミ合金が用いられる。円筒部152b1の基端は、導入口125aを包囲するように受光部容器125に溶接等で強固に固定され、測定対象空間を透過した検出光130が円筒部152b1の内部を伝播して受光部容器125の内部に導入される。
一方、第2壁150bには、測定対象空間を透過した検出光130を外部に導出するための開口150b1が設けられ、当該開口150b1には第2フランジ151bが溶接等により固定される。第2調整フランジ部材152bのフランジ部152b2は、この第2フランジ151bに結合される。
【0023】
本実施形態において、第1調整フランジ部材152aは、第1壁150aに対する発光部110の取付角度、すなわち、発光部110から出射される検出光130が第1壁150aに入射する角度を可変する手段でもある。具体的には、第1調整フランジ部材152aは、自身の円筒部152a1の中心軸の方向を第1フランジ151aに対して可変することにより、発光部110の取付角度を可変する取付角度可変機構を備える。本実施形態の取付角度可変機構は、フランジ部152a2と第1フランジ151aとの間を連結する金属製の蛇腹部材152a4と、フランジ部152a2と第1フランジ151aとを結合する複数本のアジャストボルト152a3とを備え、それぞれのアジャストボルト152a3の変位量によって第1フランジ151aに対する第1調整フランジ部材152aの中心軸の方向が可変される。
【0024】
同様に、本実施形態において、第2調整フランジ部材152bは、第2壁150bに対する受光部120の取付角度、すなわち、第2壁150bから受光部120に入射する検出光130の角度を可変する手段でもある。具体的には、第2調整フランジ部材152bは、自身の円筒部152b1の中心軸の方向を第2フランジ151bに対して可変することにより、受光部120の取付角度を可変する取付角度可変機構を備える。本実施形態の取付角度可変機構は、フランジ部152b2と第2フランジ151bとの間を連結する金属製の蛇腹部材152b4と、フランジ部152b2と第2フランジ151bとを結合する複数本のアジャストボルト152b3とを備え、それぞれのアジャストボルト152b3の変位量によって第2フランジ151bに対する第2調整フランジ部材152bの中心軸の方向が可変される。
【0025】
なお、第1調整フランジ部材152a、及び第2調整フランジ部材152bが備える取付角度可変機構は、本実施形態で説明した形態に限定されない。
【0026】
次いで、発光部110、及び受光部120の内部構成について詳述する。
【0027】
発光部110は、レーザ素子112と、コリメートレンズ113と、変調光生成部111と、駆動電流制御部116と、移動機構117と、移動機構駆動部118と、を備え、これらが発光部容器115に収められる。
【0028】
レーザ素子112は、検出光130に用いられるレーザ光を出射する、波長可変型のレーザ光源の一例である。レーザ素子112には、例えば、DFBレーザダイオード(DistributedFeedback Laser Diode)、VCSEL(VerticalCavity Surface EmittingLaser)、及びDBRレーザダイオード(Distributed Bragg Reflector Laser Diode)などが用いられる。
【0029】
コリメートレンズ113は、レーザ素子112が出射する検出光130を平行光化する光学素子の一例であり、検出光130の波長において透過率が高い材料を主材とする。検出光130がコリメートレンズ113によって略平行光に変換されることにより、拡散による損失を抑えながら受光部120に伝播される。本実施形態の発光部110において、コリメートレンズ113が発光部容器115の出射口115aに嵌め込まれることにより、出射口115aが閉塞される。なお、コリメートレンズ113の代わりに放物面鏡が用いられてもよい。
【0030】
変調光生成部111は、波長可変レーザ分光法、及び波長変調光分光法による測定対象ガスの濃度、又は有無の分析を実施するために、測定対象ガスの吸収波長を含む波長範囲内でレーザ素子112の波長を掃引し、なおかつ、レーザ素子112の波長を変調するための信号を出力する機能部である。
具体的には、本実施形態の変調光生成部111は、掃引信号発生回路と、変調信号発生回路と、駆動信号発生回路とを備える。掃引信号発生回路は、測定対象ガスの吸収波長を走査するために、当該測定対象ガスの吸収波長を含む波長範囲内でレーザ素子112の波長を掃引させる波長掃引駆動信号を出力する電気回路である。変調信号発生回路は、ガス吸収波形を検出するために、正弦波の高周波変調信号を出力する電気回路である。この高周波変調信号はレーザ素子112の波長を変調するために用いられる。駆動信号発生回路は、波長掃引駆動信号に高周波変調信号を重畳したレーザ素子駆動信号を出力する電気回路である。
【0031】
駆動電流制御部116は、レーザ駆動信号発生回路が出力するレーザ素子駆動信号を電流に変換することにより、レーザ素子駆動信号に応じた駆動電流をレーザ素子112に供給する電気回路を備える。係る駆動電流がレーザ素子112に供給されることにより、レーザ素子112は、レーザ駆動信号に応じた波長、及び強度のレーザ光、すなわち、測定対象ガスの吸収波長を含む波長範囲内で波長が掃引され、なおかつ、波長が変調されたレーザ光を検出光130として出射する。
【0032】
なお、変調光生成部111は、レーザ素子112の波長制御のために、当該レーザ素子112の温度を制御する温度制御機能を備えてもよい。温度制御機能を実現する具体的な要素には、例えば、レーザ素子112の温度を検出する温度センサ、当該レーザ素子112の温度を制御する温度制御素子、及び、温度センサによる検出温度等に基づいて温度制御素子を制御する制御回路が挙げられる。温度センサには例えばサーミスタを用いてもよく、温度制御素子には例えばペルチェ素子を用いてもよい。
【0033】
移動機構117、及び移動機構駆動部118は、発光部容器115の内部空間においてレーザ素子112を複数の所定方向に移動するためのものである。これらについては後に詳述する。
【0034】
受光部120は、受光素子122と、集光レンズ123と、受光信号処理部121と、を備え、これらが受光部容器125に収められる。
受光素子122は、受光部120の内部に導入された検出光130を受光し、受光量に応じた受光信号を出力する素子であり、例えばフォトダイオードを備える。受光素子122は、検出光130に対する波長掃引範囲の全体に対して感度を有する。
集光レンズ123は、受光部120に入射する検出光130を、当該受光部120の内部に設置された受光素子122の受光面に集光する光学素子の一例である。本実施形態の受光部120において、集光レンズ123が受光部容器125の導入口125aに嵌め込まれることにより、導入口125aが閉塞される。なお、集光レンズ123に代えて、放物面鏡、ダブレットレンズ、及び回折レンズなどが用いられてもよい。
【0035】
受光信号処理部121は、受光素子122が出力する受光信号に基づいて、測定対象ガスのガス濃度、又は有無を求める機能部である。具体的には、受光信号処理部121は、ロックインアンプと、プロセッサと、を備える。
ロックインアンプは、変調されたレーザ光である検出光130の受光信号を、当該検出光130の変調周波数の逓倍でロックイン検出する同期検波回路の一例である。測定対象空間内を通った検出光130が測定対象ガスに吸収された場合には、ロックイン検出によって得られるロックイン検波波形に、測定対象ガスの吸収波形が現れる。
プロセッサは、ロックイン検波波形の振幅に基づいて測定対象ガスの濃度を求める演算回路である。詳細には、変調光生成部111における波長掃引駆動信号に同期した信号が上述の通信線140を通じて演算器に入力されており、プロセッサは、ロックイン検波波形における1回の波長掃引に対応する区間を、波長掃引駆動信号に同期した信号に基づいて特定し、当該区間内に現れた測定対象ガスの吸収波形の振幅に基づいて、測定対象ガスの濃度を求める。
【0036】
なお、受光信号処理部121は、受光信号からノイズを除去したり、当該信号を増幅したりするためのローパスフィルタを備えてもよい。
【0037】
レーザ式ガス分析計100を煙道に取り付ける取付工事について説明すると、作業者は、先ず、発光部110、及び受光部120のそれぞれを、第1壁150a、及び第2壁150bに取り付ける。上述の通り、本実施形態のレーザ式ガス分析計100は、発光部110の発光部容器115、及び受光部120の受光部容器125がいずれも防爆構造の容器であるため、可燃性ガスや粉塵が存在し得る雰囲気下でも使用可能である。
【0038】
次いで、作業者は、発光部110、及び受光部120の少なくとも一方の取付角度を、第1調整フランジ部材152a、及び第2調整フランジ部材152bを用いて調整することにより、発光部110から出射された検出光130が受光部120に入射し、当該受光部120の受光素子122によって受光されるようにする。この場合において、作業者は、受光部120において最大の光量で受光されるように、発光部110、及び受光部120の少なくとも1つの取付角度を調整する。
【0039】
係る取付工事の実施後、又は、実施中において、作業者は、プロセスの影響による熱膨張や、第1壁150a、及び第2壁150bの振動などによって発光部110、及び受光部120の取付角度が僅かにズレた場合でも、受光素子122の受光量が確保されるように、検出光130のビーム径を予め拡げる作業を行う。
しかしながら、本実施形態の発光部110は、防爆構造の発光部容器115を備え、当該発光部容器115に、レーザ素子112、及びコリメートレンズ113などが収められているため、取付工事の現場において、作業者が発光部容器115の内部にアクセスし、ビーム径を調整することは困難である。
【0040】
本実施形態のレーザ式ガス分析計100は、作業者が係る作業を、発光部110の内部にアクセスすることなく実施可能にするために、上述の移動機構117、及び移動機構駆動部118と、操作装置160と、を備える。また、これらの構成は、ビーム径の調整の他にも、レーザ素子112の光軸調整、及び、レーザ素子112と受光素子122の間の光路長の調整にも用いられる。
以下、係る構成について詳述する。
【0041】
移動機構117は、発光部容器115の内部の所定位置に配置された機構であり、レーザ素子112の6つの自由度のうちの少なくとも2つの自由度について調整することにより、レーザ素子112を複数の方向に移動可能な機構である。6つの自由度は、発光部容器115の内部空間において、剛体と見做されるレーザ素子112の自由な運動の自由度を意味し、直交3次元空間におけるX軸、Y軸、及びZ軸のそれぞれの方向への並進移動、並びに、X軸、Y軸、及びZ軸のそれぞれのまわりの回転Rx、Ry、Rzの方向への回転移動に対応する。すなわち、本実施形態の移動機構117は、発光部容器115の内部においてレーザ素子112を、X軸、Y軸、及びZ軸の各方向へ並進移動すること、及び、回転Rx、Ry、Rzの各方向へ回転移動すること、を可能にする。
【0042】
図2は移動機構117の構成の一例を示す斜視図である。
本実施形態の移動機構117には、レーザ素子112を支持する光学マウントの一形態であるキネマティックマウントが用いられる。キネマティックマウントは、レーザ素子112の6つの自由度を拘束しつつ、1以上の自由度を高精度に調整可能にするマウントである。本実施形態の移動機構117には、6つの自由度のそれぞれを調整可能にするキネマティックマウントが用いられる。
【0043】
具体的には、移動機構117は、図2に示される通り、レーザ素子112を支持する第1主面150S1を有する板状の支持部材150と、この支持部材150の第2主面150S2に先端が当接する3本の送りねじST、SB、SCと、3本の送りねじを連結する連結部材152と、を備える。3本の送りねじST、SB、SCのそれぞれが操作されることによって、レーザ素子112を保持した支持部材150について6つの自由度のそれぞれが調整される。
なお、以下の説明では、支持部材150の第1主面150S1に平行な平面をXY平面と定義し、当該XY平面の法線方向をZ軸と定義する。また、レーザ素子112は、その光軸がZ軸に一致する姿勢で支持部材150に保持されるものとする。
【0044】
図3は、移動機構117の各送りねじST、SB、SCの操作と、支持部材150の移動との関係の一例を模式的に示す図である。
【0045】
操作形態1に示されるように、3本の送りねじST、SB、SCが全て同じ量で連結部材152に対して押し込まれ、又は引き出される操作により、支持部材150がZ軸方向、すなわちレーザ素子112の光軸方向に並進移動する。
また、操作形態2に示されるように、3本の送りねじST、SB、SCのうちの1本の送りねじSBが連結部材152に対して押し込まれ、又は引き出される操作により、支持部材150がX軸まわりの回転Rxの方向に回転移動する。
また、操作形態3に示されるように、3本の送りねじST、SB、SCのうちの1本の送りねじSTが連結部材152に対して押し込まれ、又は引き出される操作により、支持部材150がY軸まわりの回転Ryの方向に回転移動する。
【0046】
なお、図示は省略するが、本実施形態の移動機構117において、3本の送りねじST、SB、SCのそれぞれが適宜に押し込まれ、又は引き出されることにより、支持部材150がX軸方向、及びY軸方向のそれぞれに並進移動し、また、Z軸まわりの回転Rzの方向にも回転移動する。
【0047】
移動機構駆動部118は、移動機構117の各送りねじST、SB、SCを駆動する機能部であり、各送りねじST、SB、SCを駆動するアクチュエータを備える。なお、移動機構117は、各送りねじST、SB、SCに代えて、ピエゾアクチュエータ等のような直線変位を可能にする機器を備えてもよい。
【0048】
操作装置160は、通信線140を介して信号を送受可能に移動機構駆動部118に接続された装置であり、発光部110、及び受光部120の外部に設けられる。また、操作装置160は、作業者などのユーザによるユーザ操作を受け付け、各送りねじST、SB、SCの駆動を指示する指示信号をユーザ操作に基づいて移動機構駆動部118に入力する。係る操作装置160には、例えば、キーボード等の入力装置、表示装置等の出力装置、及びコンピュータを備えるコンピュータシステムが用いられる。
なお、本実施形態において、操作装置160は、発光部110、及び受光部120のそれぞれの制御に係る各種情報、及び設定値を出力装置に出力する機能を備える。また、操作装置160は、設定値についてのユーザ設定を入力装置から取得し、当該ユーザ設定を設定する機能も備える。これらの機能により、ユーザは、各種情報、及び設定値を確認し、また、適宜に設定できる。
【0049】
本実施形態のレーザ式ガス分析計100によれば、作業者は、操作装置160を操作して移動機構117を駆動することにより、発光部110の内部にアクセスすることなく発光部容器115の内部に配置されたレーザ素子112を複数の方向に移動できる。そして、レーザ素子112を移動させることにより、その移動方向に応じて、発光部110が出射する検出光130のビーム径、その検出光130の光軸、並びに、レーザ素子112と受光素子122との間の光路長が調整される。
以下、これらの調整について詳述する。
【0050】
[ビーム径調整]
発光部110から出射される検出光130のビーム径は、レーザ素子112とコリメートレンズ113との距離を可変するように移動機構117によってレーザ素子112を移動することにより調整される。当該距離は、レーザ素子112の光軸に沿った距離であり、本実施形態において、レーザ素子112の光軸はZ軸に一致する。したがって、図3の操作形態1の操作によって移動機構117がレーザ素子112をZ軸方向に並進移動させることにより、検出光130のビーム径が調整される。この場合において、レーザ素子112の発光面がコリメートレンズ113のバックフォーカスよりもコリメートレンズ113に近いほどビーム径は拡がり、これとは逆に、レーザ素子112の発光面がコリメートレンズ113のバックフォーカスよりもコリメートレンズ113から遠いほどビーム径は狭まる。
【0051】
作業者は、係るビーム径の調整作業を、レーザ式ガス分析計100の取付工事実施後、又は、実施中において行うことにより、プロセスの影響による熱膨張や、第1壁150a、及び第2壁150bの振動などによって発光部110、及び受光部120の取付角度が僅かにズレた場合でも、受光素子122の受光量が確保されるように、検出光130のビーム径を予め設定することができる。
【0052】
[光軸調整]
発光部110から出射される検出光130の光軸、すなわち出射角の調整は、移動機構117によって、レーザ素子112を、その光軸と直交する他の軸まわりに回転移動させることにより調整される。本実施形態において、光軸と直交する他の軸は、X軸、及びY軸である。したがって、図3の操作形態2、及び操作形態3の少なくとも一つの操作によって、移動機構117がレーザ素子112をX軸まわりの回転Rxの方向、及びY軸まわりの回転Ryの方向の少なくとも1つの方向に回転移動させることにより、検出光130の光軸が調整される。
ただし、本実施形態の移動機構117において、操作形態2、または操作形態3によって光軸調整が行われた場合、レーザ素子112の光軸方向の位置が調整前の位置からズレる。したがって、光軸調整実施後には、操作形態2、及び操作形態3において固定されていた2つの送りねじを同じ量だけ押し込み、又は引き出す操作をすることで、ズレを解消することが好ましい。
【0053】
作業者は、レーザ式ガス分析計100の取付工事実施後、又は、実施中において、第1調整フランジ部材152a、及び第2調整フランジ部材152bによる取付角度の調整に加え、レーザ素子112の光軸調整を実施することにより、発光部110からの検出光130の出射角、及び受光部120への検出光130の入射角を微調整できる。
【0054】
[光路長調整]
レーザ素子112と受光素子122との間の光路長は、移動機構117によって、レーザ素子112を光軸方向に並進移動し、又は、光軸方向が変化する方向にレーザ素子112を移動することにより調整される。本実施形態において、光軸方向へのレーザ素子112の並進移動は図3の操作形態1の操作によって行われる。また、本実施形態において、光軸方向を変化させる方向は、回転Rxの方向、及び回転Ryの方向である。回転Rxの方向、及び回転Ryの方向へのレーザ素子112の移動は、図3の操作形態2、及び操作形態3の操作によって行われる。
【0055】
ここで、本実施形態において、レーザ素子112と受光素子122と間の光路長の可変は、レーザ式ガス分析計100における光学干渉の問題解決に用いられる。
詳述すると、一般に、レーザ式ガス分析計において、レーザ素子から出射した検出光が、コリメートレンズなどの各種の光学素子に複数回反射し受光素子に到達すると、直接到達した検出光と、複数回反射して到達した検出光とが干渉し、互いに強め合ったり打ち消し合ったりすることにより、受光素子の受光信号に干渉信号が干渉ノイズとして重畳されることが知られている(例えば、特開2019-117147号公報参照)。
【0056】
これに対し、レーザ素子112と受光素子122と間の光路長が変化することによって、コリメートレンズ113、及び集光レンズ123などの光学素子における干渉光の反射位置が変わり位相ずれを生じさせることができる。したがって、当該光路長を微小量の範囲で周期的に繰り返し変化させ、1つの周期の間に得られる複数の受光信号を平均化することにより光学干渉の影響を低減できることとなる。
この場合において、「微少量」はレーザ光の波長と同じオーダーであり、例えば、その波長の数分の1から数倍の値である。ただし、レーザ素子112が光軸方向に並進移動することによって光路長が可変された場合、レーザ素子112とコリメートレンズ113の間の距離が変わることにより、レーザ光のビーム径も変わる。したがって、「微少量」は、受光素子122における受光量が大きく変わらない範囲とすることが好ましい。
また、光路長が変化する周期は適宜であるが、レーザ光の波長の掃引周期に比べて十分に長いことが望ましい。例えば、光路長が変化する周期は、レーザ光の波長の掃引周期の300倍~800倍程度である。レーザ光の波長の掃引周期が0.15msの場合、光路長が変化する周期は45ms~120msが妥当である。
【0057】
本実施形態では、レーザ式ガス分析計100においてガス分析が行われる間、操作装置160が移動機構駆動部118を制御することによって移動機構117を駆動することにより、レーザ素子112を微小な範囲で周期的に移動することにより(すなわち、微小な振幅で振動させることにより)、光路長を微小な範囲で繰り返し周期的に変化させ、干渉ノイズを抑えた分析を可能としている。
【0058】
ところで、光路長を可変するための手法には、上述の通り、レーザ素子112を光軸方向に並進移動する第1手法と、レーザ素子112の光軸方向を変化させる第2手法と、の2つの手法がある。以下、第1手法、及び第2手法における干渉ノイズの低減効果の違いについて詳述する。
【0059】
図4は、第1手法、及び第2手法による光路の差異を示す図である。なお、同図において、固定形態は、レーザ素子112が所定の基準位置に固定されている場合を示す。また直線KsはZ軸と一致した状態の光軸を示す。
第1手法によれば、レーザ素子112が光軸方向に微小な変位長αで周期的に並進移動するため(すなわち、レーザ素子112が変位長αで光軸方向に振動するため)、レーザ素子112とコリメートレンズ113との間である区間Aにおいて光路長が変化する。したがって、受光信号の平均化処理により、区間Aで生じる干渉光の影響が低減されることになる。
しかしながら、コリメートレンズ113と集光レンズ123との間である区間B、及び、集光レンズ123と受光素子122との間である区間Cにおいて光路長は変化しないため、区間B、及び区間Cで生じる干渉光の影響は低減されない。
【0060】
第2手法によれば、レーザ素子112が回転Rx、又は回転Ryの方向に回転移動することにより、光軸の方向が直線Ksを中心に微小な変位角θだけ周期的に変化する(すなわち、レーザ素子112が変位角θの範囲で直線Ks(Z軸)を中心に振動する)。この結果、コリメートレンズ113、及び集光レンズ123のそれぞれの光学面において検出光130の入射角、及び出射角が変化するため、区間A、区間B、及び区間Cのすべてにおいて光路長が変化する。したがって、第2手法によれば、第1手法とは異なり、受光信号の平均化処理により、区間A、区間B、及び区間Cのすべてにおいて、そこで生じる干渉光の影響を低減できることとなる。
【0061】
図5は第1手法におけるレーザ素子112の光軸方向への変位長αと光路長の変化量Dとの関係を示す図である。図6は第2手法におけるレーザ素子112の光軸方向の変位角θと光路長の変化量Dとの関係を示す図である。光軸方向の変位角θはZ軸方向に対する光軸の角度である。また、光路長の変化量Dは、レーザ素子112と受光素子122との間の最長光路長Kmaxと最短光路長Kminとの差である。最長光路長Kmaxと最短光路長Kminは図4に示されている。
図5に示されるように、第1手法において、光軸方向へのレーザ素子112の変位長αが大きくなっても、光路長の変化量Dはほぼ一定である。これに対し、図6に示されるように、第2手法において、光軸方向の変位角θが大きくなるほど、光路長の変化量Dは大きくなる。
したがって、第2手法により、光路長の変位角θを可変することで光路長をより変化させることができ、受光信号の平均化処理による干渉光の影響の低減について、第1手法よりも大きな効果が見込めることが分かる。
【0062】
図7は、受光信号の平均化処理による干渉ノイズの低減効果についての説明図である。
なお、図7に示される検出例は、それぞれ、測定対象ガスが測定対象空間に存在しない状態、換言すれば測定対象空間における検出光130の吸光が無視できる状態において、受光信号処理部121が受光信号をロックイン検出することにより得られたロックイン検波波形を示す。
具体的には、例Aは、レーザ素子112が所定の基準位置に固定された状態において受光信号処理部121によって得られたロックイン検波波形の一例である。例Aは、第2手法により光軸方向の変位角θが4点の異なる角度に変化するごとに、受光信号処理部121によって得られたロックイン検波波形B1、B2、B3、及びB4を重ねて示したものである。例Cは、検出例2における4つのロックイン検波波形B1、B2、B3、B4を平均化処理した後の波形を示す。
例Bに示される通り、レーザ素子112の光軸方向の角度が変化するごとに光路長が変化するため、干渉ノイズの位相が変化する。したがって、例Cに示される通り、ロックイン検波波形B1、B2、B3、及びB4を一定時間で平均化処理することで、干渉ノイズを大幅に低減したロックイン検波波形が得られる。
【0063】
以上の通り、光路長を可変する手法として第2手法を用いることで、第1手法に比べ、コリメートレンズ113、及び集光レンズ123等の全ての光学素子の間のそれぞれの区間において光路長を変化させることができ、それぞれの区間における干渉光の影響を低減できる。加えて、レーザ素子112から受光素子122の間の光路長の変化量Dがより大きくなるため、干渉光の影響低減について、より大きな効果を期待できる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態のレーザ式ガス分析計100は、測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光(検出光130)を出射する波長可変のレーザ素子112と、その波長帯域においてレーザ素子112が出射するレーザ光の波長を掃引し、かつ、レーザ光の波長を変調するためのレーザ素子駆動信号を出力する変調光生成部111と、レーザ素子駆動信号に応じた駆動電流をレーザ素子112に供給する駆動電流制御部116と、を有する発光部110を備える。また、レーザ式ガス分析計100は、測定対象空間を透過したレーザ光を受光する受光素子122と、受光素子122から出力された受光信号に基づき測定対象ガスの濃度、又は有無を求める受光信号処理部121と、を有する受光部120と、を備える。さらに、発光部110は、レーザ素子112を光軸方向に移動すること、及び、光軸方向を変化させる方向にレーザ素子112を移動すること、のそれぞれを可能にする移動機構117を備える。
【0065】
この構成によれば、レーザ素子112を光軸方向に移動させることによりビーム径を調整し、また、光軸方向を変化させる方向にレーザ素子112を移動することにより受光部120へのレーザ光の入射角を調整する、といった作業が、移動機構117の操作だけで容易に行うことができる。
【0066】
本実施形態のレーザ式ガス分析計100は、移動機構117を駆動するアクチュエータを含む移動機構駆動部118と、移動機構117によるレーザ素子112の移動を移動機構駆動部118に指示する操作装置160と、を備える。
この構成によれば、作業者は、操作装置160の操作によって移動機構117を駆動し、ビーム径の調整、及び、受光部120へのレーザ光の入射角の調整を容易に行うことができる。
【0067】
本実施形態のレーザ式ガス分析計100において、発光部110は、防爆構造の発光部容器115を備え、レーザ素子112、及び移動機構117が発光部容器115に収められる。
この構成によれば、作業者は、上記操作装置160を操作することにより、発光部容器115を開けることなく、ビーム径の調整、及び、受光部120へのレーザ光の入射角の調整を容易に行うことができる。
【0068】
本実施形態のレーザ式ガス分析計100において、移動機構117は、キネマティックマウントを含む。
この構成によれば、レーザ素子112を高精度に移動させることができる。
【0069】
本実施形態のレーザ式ガス分析計100において、レーザ素子112は、光軸方向、又は、光軸方向を変化させる方向の少なくとも1の方向に移動機構117によって周期的に移動する。
この構成によれば、コリメートレンズ113、及び集光レンズ123等の光学素子での複数回反射に起因した干渉光の影響を低減できる。
特に、レーザ素子112が光軸方向を変化させる方向に周期的に移動することにより、各光学素子の間のそれぞれにおいて生じる干渉光の影響を低減できる。
【0070】
2.変形例
上述の実施形態は多様に変形され得る。前述の形態に適用され得る変形の形態を以下に例示する。
【0071】
例えば、上述の実施形態において、操作装置160は、外部からの制御信号に基づいて移動機構駆動部118に移動機構117の駆動を指示してもよい。
この構成によれば、例えば遠隔地からでも移動機構117を駆動し、ビーム径の調整、及び、受光部120へのレーザ光の入射角の調整を行うことができる。
【0072】
また例えば、上述の実施形態において、操作装置160は、受光部120の受光信号、又は、受光信号処理部121から出力される信号に基づいて移動機構駆動部118に移動機構117の駆動を指示してもよい。
この構成によれば、受光部120における受光状態に応じて移動機構117を自動的に駆動し、ビーム径の調整、及び、受光部120へのレーザ光の入射角の調整を行うことができる。
【0073】
また例えば、上述の実施形態において、移動機構117として、レーザ素子112について6つの自由度を調整可能にする機構を説明した。しかしながら、移動機構117は、レーザ素子112を光軸方向に移動すること、及び、光軸方向を変化させる方向にレーザ素子112を移動すること、を可能にする自由度について調整可能な機構であればよい。
【符号の説明】
【0074】
100…レーザ式ガス分析計、110…発光部、111…変調光生成部、112…レーザ素子、113…コリメートレンズ、115…発光部容器、116…駆動電流制御部、117…移動機構、118…移動機構駆動部、120…受光部、121…受光信号処理部、122…受光素子、123…集光レンズ、125…受光部容器、130…検出光(レーザ光)、152a…第1調整フランジ部材、152a3…アジャストボルト、152a4…蛇腹部材、152b…第2調整フランジ部材、152b2…フランジ部、152b3…アジャストボルト、152b4…蛇腹部材、160…操作装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-10-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象空間に存在する測定対象ガスの濃度、又は有無を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射する波長可変のレーザ素子と、
前記レーザ素子の光軸方向を変化させる方向に前記レーザ素子を周期的に移動する移動機構と、
前記測定対象空間を透過した前記レーザ光を受光する受光素子と、
前記受光素子から出力された受光信号について前記受光信号の平均化処理を含む処理を実行することで、測定対象ガスの濃度、又は有無を求める受光信号処理部と
を備えレーザ式ガス分析計。
【請求項2】
測定対象空間に存在する測定対象ガスの濃度、又は有無を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射する波長可変のレーザ素子と、
前記レーザ素子を光軸方向に移動すること、及び、前記光軸方向を変化させる方向に前記レーザ素子を移動すること、のそれぞれを可能にする移動機構と、
を有する発光部と、
前記測定対象空間を透過した前記レーザ光を受光する受光素子と、
前記受光素子から出力された受光信号に基づき測定対象ガスの濃度、又は有無を求める受光信号処理部と、
を有する受光部と、
を備え、
前記発光部は、
前記レーザ素子、及び前記移動機構を収容する発光部容器と、
前記発光部容器に固定された第1調整フランジ部材と、
前記第1調整フランジ部材と、前記測定対象空間の壁に固定された第2調整フランジ部材との間を連結する蛇腹部材と、
前記第1調整フランジ部材と前記第2調整フランジ部材とを結合する複数のアジャストボルトとを備え、
前記第2調整フランジ部材に対する前記第1調整フランジ部材の方向は、前記複数のアジャストボルトの各々の変位量に応じて可変である
レーザ式ガス分析計。
【請求項3】
測定対象空間に存在する測定対象ガスの濃度、又は有無を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射する波長可変のレーザ素子と、
前記波長帯域において前記レーザ素子が出射する前記レーザ光の波長を掃引し、かつ、前記レーザ光の波長を変調するためのレーザ素子駆動信号を出力する変調光生成部と、
前記レーザ素子駆動信号に応じた駆動電流を前記レーザ素子に供給する駆動電流制御部と、
前記レーザ素子を光軸方向に移動すること、及び、前記光軸方向を変化させる方向に前記レーザ素子を移動すること、のそれぞれを可能にする移動機構と、
前記測定対象空間を透過した前記レーザ光を受光する受光素子と、
前記受光素子から出力された受光信号に基づき測定対象ガスの濃度、又は有無を求める受光信号処理部と
を備え、
前記移動機構が前記レーザ素子を周期的に移動することで、前記レーザ素子と前記受光素子との間の光路長は、前記レーザ光の掃引周期の300倍~800倍の周期で周期的に変化する
レーザ式ガス分析計。
【請求項4】
前記波長帯域において前記レーザ素子が出射する前記レーザ光の波長を掃引し、かつ、前記レーザ光の波長を変調するためのレーザ素子駆動信号を出力する変調光生成部と、
前記レーザ素子駆動信号に応じた駆動電流を前記レーザ素子に供給する駆動電流制御部と、
をさらに備える請求項1または請求項2に記載のレーザ式ガス分析計。
【請求項5】
前記移動機構を駆動するアクチュエータを含む移動機構駆動部と、
前記移動機構による前記レーザ素子の移動を前記移動機構駆動部に指示する操作装置と、
さらに備える請求項1から請求項3の何れかに記載のレーザ式ガス分析計。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象空間に存在する測定対象ガスの濃度、又は有無を測定するレーザ式ガス分析計であって、
前記測定対象ガスの吸収線スペクトルの光吸収波長を含む波長帯域のレーザ光を出射する波長可変のレーザ素子と、
前記レーザ素子を光軸方向に移動すること、及び、前記レーザ素子の光軸方向を変化させる方向に前記レーザ素子を周期的に移動すること、のそれぞれを可能にする移動機構と、
前記測定対象空間を透過した前記レーザ光を受光する受光素子と、
前記受光素子から出力された受光信号について前記受光信号の平均化処理を含む処理を実行することで、測定対象ガスの濃度、又は有無を求める受光信号処理部と、
を備えるレーザ式ガス分析計。
【請求項2】
前記波長帯域において前記レーザ素子が出射する前記レーザ光の波長を掃引し、かつ、前記レーザ光の波長を変調するためのレーザ素子駆動信号を出力する変調光生成部と、
前記レーザ素子駆動信号に応じた駆動電流を前記レーザ素子に供給する駆動電流制御部と、
をさらに備える請求項のレーザ式ガス分析計。
【請求項3】
前記移動機構を駆動するアクチュエータを含む移動機構駆動部と、
前記移動機構による前記レーザ素子の移動を前記移動機構駆動部に指示する操作装置と、
をさらに備える請求項1または請求項2のレーザ式ガス分析計。