(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169024
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】水性コーティングニス、及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/00 20060101AFI20241128BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241128BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086193
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】高木 優作
(72)【発明者】
【氏名】藤田 篤史
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038HA186
4J038MA10
4J038MA13
4J038NA01
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】耐熱性及び貯蔵安定性を有しながらも、耐熱水性に優れる水性コーティングニスを提供すること。
【解決手段】酸化亜鉛系架橋剤、及びアクリル系樹脂粒子を含有する水性コーティングニスであって、前記アクリル系樹脂粒子は、ガラス転移温度が50℃以上130℃以下であり、前記酸化亜鉛系架橋剤は、前記水性コーティングニス中、0.1質量%以上1.2質量%以下である水性コーティングニス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛系架橋剤、及びアクリル系樹脂粒子を含有する水性コーティングニスであって、
前記アクリル系樹脂粒子は、ガラス転移温度が50℃以上130℃以下であり、
前記酸化亜鉛系架橋剤は、前記水性コーティングニス中、0.1質量%以上1.2質量%以下であることを特徴とする水性コーティングニス。
【請求項2】
ワックス粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の水性コーティングニス。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂粒子は、前記水性コーティングニス中、20質量%以上40質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水性コーティングニス。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の水性コーティングニスを印刷して得られることを特徴とする印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性コーティングニス、及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
プレプリント方式の段ボールに使用されるコルゲーター加工に必要な耐熱性を有し、耐水性、耐摩耗性、や貯蔵安定性に優れた水性印刷ワニス組成物が知られている(特許文献1)。この水性印刷ワニス組成物は、ガラス転移温度(Tg)が30~100℃の水性エマルジョン樹脂、油脂、及び特定の構造を有するリン酸エステル系活性剤を含有する。また、特定量の酸化亜鉛系架橋剤、特定量のポリオレフィン樹脂粒子、スチレンまたはアクリル樹脂粒子を含有し、耐ブロッキング性や耐摩擦性が優れる水性コーティングニスが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-290078号公報
【特許文献2】特開2022-116795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、上記のようなコルゲーター加工では、インク及び水性印刷ワニス組成物(水性コーティングニス)が印刷された原紙は、通常、ウェットエンド工程が施された後、ドライエンド工程が施される。ドライエンド工程では、ダブルフェーサと呼ばれる熱乾燥処理により、約200℃の熱がかかり、原紙や糊の水分が蒸気となって発生する。この発生した蒸気が、水性印刷ワニス組成物(水性コーティングニス)の塗膜に侵入し、塗膜が白化してしまう問題があった。
【0005】
よって、本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、耐熱性及び貯蔵安定性を有しながらも、耐熱水性に優れる水性コーティングニスを提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、上記の水性コーティングニスを印刷して得られる印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、酸化亜鉛系架橋剤、及びアクリル系樹脂粒子を含有する水性コーティングニスであって、前記アクリル系樹脂粒子は、ガラス転移温度が50℃以上130℃以下であり、前記酸化亜鉛系架橋剤は、前記水性コーティングニス中、0.1質量%以上1.2質量%以下である水性コーティングニスに関する。
【0008】
また、本発明の水性コーティングニスは、ワックス粒子を含有することが好ましい。
【0009】
また、本発明の水性コーティングニスは、前記アクリル系樹脂粒子が、前記水性コーティングニス中、20質量%以上40質量%以下であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、上記の水性コーティングニスを印刷して得られる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性コーティングニスは、酸化亜鉛系架橋剤、及びアクリル系樹脂粒子を含有し、前記アクリル系樹脂粒子は、ガラス転移温度が50℃以上130℃以下であり、前記酸化亜鉛系架橋剤は、前記水性コーティングニス中、0.1質量%以上1.2質量%以下である。本発明の水性コーティングニスは、前記アクリル系樹脂粒子のガラス転移温度が50℃以上130℃以下であり、特定量の酸化亜鉛系架橋剤を含むことから、高Tg樹脂が架橋した膜が形成されるため、耐熱性及び貯蔵安定性を有しながらも、耐熱水性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<水性コーティングニス>
本発明の水性コーティングニスは、酸化亜鉛系架橋剤、及びアクリル系樹脂粒子を含有し、前記アクリル系樹脂粒子は、ガラス転移温度が50℃以上130℃以下であり、前記酸化亜鉛系架橋剤は、前記水性コーティングニス中、0.1質量%以上1.2質量%以下である。
【0013】
<酸化亜鉛系架橋剤>
前記酸化亜鉛系架橋剤は、カルボン酸等の酸と反応する架橋剤である。前記酸化亜鉛系架橋剤は、塩基性の水溶液に溶解させた状態で使用することが好ましく、例えば、アンモニア水を用いて錯体形成した水溶液の形態で用いることができる。前記酸化亜鉛系架橋剤は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
前記酸化亜鉛系架橋剤は、前記水性コーティングニス中、0.1質量%以上1.2質量%以下である。前記酸化亜鉛系架橋剤は、前記水性コーティングニス中、耐熱性及び耐熱水性を向上させる観点から、0.2質量%以上であることが好ましく、0.35質量%以上であることがより好ましく、そして、貯蔵安定性を向上させる観点から、1質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
<アクリル系樹脂粒子>
前記アクリル系樹脂粒子は、アクリル系樹脂が水に分散した粒子であり、樹脂のガラス転移温度が50℃以上130℃以下である。前記アクリル系樹脂粒子は、例えば、(アクリル系単量体のみからなる)アクリル樹脂粒子のほか、スチレン系単量体成分を含むスチレン-アクリル樹脂粒子、マレイン酸単量体成分を含むアクリル-マレイン酸樹脂粒子、スチレン系単量体成分及びマレイン酸単量体成分を含むスチレン-アクリル-マレイン酸樹脂粒子等が挙げられる。前記アクリル系樹脂粒子は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
前記アクリル系樹脂粒子は、耐熱性及び耐熱水性を向上させる観点から、ガラス転移温度が80℃以上であることが好ましく、そして、耐熱性及び耐熱水性を向上させる観点から、ガラス転移温度が115℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が130℃を越える場合、成膜性が悪くなる。なお、ガラス転移温度は、製造元のカタログ値が参考となるが、アクリル系樹脂の場合、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度を用いることができる。
Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・・+Wx/Tgx
[式中、Tg1~Tgxは樹脂を構成する単量体1、2、3・・・xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W1~Wxは単量体1、2、3・・・xのそれぞれの重合分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。]
【0017】
前記アクリル系樹脂粒子は、酸化亜鉛系架橋剤と効率よく架橋できる観点から、カルボキシル基を含むことが好ましく、また、酸価が、30mgKOH/g以上130mgKOH/g以下であることが好ましく、40mgKOH/g以上110mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0018】
前記アクリル系樹脂粒子は、前記水性コーティングニス中、20質量%以上40質量%以下であることが好ましい。前記アクリル系樹脂粒子は、前記水性コーティングニス中、成膜性を向上させる観点から、25質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
前記水性コーティングニスは、耐熱水性を向上させる観点から、ワックス粒子を含有することが好ましい。前記ワックス粒子としては、例えば、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリプロピレン、酸化ポリプロピレン等のポリオレフィンを、界面活性剤や他のエマルジョン等とともに、水中に単純分散させたもの、あるいは、エマルジョン分散体としたもの等が挙げられる。前記ワックス粒子は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。前記ワックス粒子は、前記水性コーティングニス中、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
前記水性コーティングニスは、成膜性を向上させる観点から、有機溶剤を含んでいてもよい。前記有機溶剤は、例えば、ブチルセロソルブ等のケトン類;エチルジグリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール等が挙げられ、前記水性コーティングニス中、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0021】
前記水性コーティングニスは、耐ブロッキング性付与の観点から、リン酸エステルを含んでいてもよい。前記リン酸エステルは、前記水性コーティングニス中、通常、0.1質量%以上1.5質量%以下である。
【0022】
前記水性コーティングニスに含有する水は、前記水性コーティングニス中、60質量%以上75質量%以下であることが好ましく、60質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
前記水性コーティングニスには、さらに、必要に応じて、レベリング剤、界面活性剤、増粘剤、酸化防止剤、消泡剤、等の添加剤や、上記のアクリル系樹脂粒子以外の水溶性樹脂(例えば、アルカリ可溶性樹脂)を添加してもよい。
【0024】
酸化亜鉛系架橋剤、アクリル系樹脂粒子、及び水の合計は、前記水性コーティングニス中、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、ワックス粒子や有機溶剤を使用する場合、酸化亜鉛系架橋剤、アクリル系樹脂粒子、ワックス粒子、有機溶剤、及び水の合計は、前記水性コーティングニス中、75質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0025】
<水性コーティングニスの調製方法>
前記水性コーティングニスの調製方法は、特に限定されず、例えば、上記の各成分を順番に、あるいは同時に添加して、ロールミル、ニーダー、高速攪拌機、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散機、高圧分散装置等を用いて調製すればよい。
【0026】
前記水性コーティングニスは、例えば、オフセットインラインコーテイング印刷やフレキソ印刷により、記録媒体上に付与し、印刷物とすることができる。また、記録媒体として、コート紙やコートボール等の塗工層を有するものが好適に使用できる。なお、文字や画像が印刷された記録媒体上に、前記水性コーティングニスを付与してもよい。
【実施例0027】
以下に本発明を実施例等によって説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。
【0028】
<実施例1-6、比較例1-6>
<水性コーティングニスの調製>
表1に示す配合にて、各材料を混合し、各水性コーティングニスを調製した。なお、各表に記載の数値は有効成分の質量部である。
【0029】
上記で得られた各水性コーティングニスを用い、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0030】
<耐熱性>
コート紙CRC(大阪製紙社製)に0.15mmバーコーターを用いてサカタインクス社製グラトーンPCN藍を展色し、その上から実施例及び比較例の水性コーティングニスを0.1mmバーコーターにて塗布した。ドライヤーで乾燥させた塗布面にアルミ箔を貼り付け、熱傾斜試験機HG-100(東洋精機社製)を用いて、下記条件にて評価した。A又はBであればよく、Aであることが好ましい。
評価条件:200℃、2.0kgf/cm2の圧力で1秒間加圧
A:アルミ箔の剥離時に抵抗がなく、アルミ箔にニスの付着はない
B:アルミ箔の剥離時に抵抗があるが、アルミ箔にニスの付着はない
C:アルミ箔の剥離時に抵抗があり、アルミ箔にニスの付着がある
D:加圧部が接着して剥離しない
【0031】
<耐熱水性>
コート紙CRC(大阪製紙社製)に0.15mmバーコーターを用いてサカタインクス社製グラトーンPCN藍を展色し、その上から実施例及び比較例の水性コーティングニスを0.1mmバーコーターにて塗布した。ドライヤーで乾燥させた塗布面に水2ccを滴下した後アルミ箔を貼り付け、熱傾斜試験機HG-100(東洋精機社製)を用いて、下記条件にて評価した。A又はBであればよく、Aであることが好ましい。
評価条件:200℃、2.0kgf/cm2の圧力で1秒間加圧
A:加圧部の塗膜に変化なし
B:加圧部の塗膜に僅かに跡が見られる
C:加圧部の塗膜が僅かに白く変色する
D:加圧部の塗膜が白く変色する
【0032】
<貯蔵安定性>
実施例及び比較例の水性コーティングニスをポリ瓶に入れて密閉し、40℃で7日間放置した。B型粘度計TVB-25L(東機産業社製)を用いて放置前後の粘度を測定し、粘度変化率を評価した。A又はBであればよく、Aであることが好ましい。
A:粘度変化率が1.3未満
B:粘度変化率が1.3以上2未満
C:粘度変化率が2以上だが、流動性がある
D:固化する
【0033】
【0034】
表1中、
ジョンクリルPDX-7780(Tg=92℃)は、アクリル系樹脂粒子(酸価:46mgKOH/g、BASF社製);
ジョンクリルPDX-7177(Tg=113℃)は、アクリル系樹脂粒子(酸価:104mgKOH/g、BASF社製);
ジョンクリルPDX-7789(Tg=60℃)は、アクリル系樹脂粒子(酸価:60mgKOH/g、BASF社製);
ジョンクリルPDX-7777(Tg=40℃)は、アクリル系樹脂粒子(酸価:71mgKOH/g、BASF社製);
ジョンクリルPDX-7741(Tg=14℃)は、アクリル系樹脂粒子(酸価:52mgKOH/g、BASF社製);
Zinc Oxide Solution #1(酸化亜鉛)は、酸化亜鉛系架橋剤(BASF社製);
ジルコゾールAC-7((NH4)2ZrO(CO3)2)は、ジルコニウム系架橋剤(第一稀元素化学工業社製);
オルガチックスTC-300(チタンラクテートアンモニウム塩)は、チタン系架橋剤(マツモトファインケミカル社製);
SNデフォーマー777は、消泡剤(サンノプコ社製);
ケミパールW400は、ポリオレフィンの水分散体(三井化学社製);
サーフィノール104DEGは、界面活性剤(日信化学工業社製);を示す。