(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169025
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】環状オレフィン系共重合体および環状オレフィン系共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 232/00 20060101AFI20241128BHJP
C08F 4/6592 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C08F232/00
C08F4/6592
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086194
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】中川 絢太
(72)【発明者】
【氏名】和佐 英樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 亮平
(72)【発明者】
【氏名】中村 達也
(72)【発明者】
【氏名】木越 宣正
【テーマコード(参考)】
4J100
4J128
【Fターム(参考)】
4J100AA02P
4J100AA03P
4J100AA04P
4J100AA07P
4J100AA09P
4J100AA15P
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4J100AA21P
4J100AR09Q
4J100CA04
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4J100FA10
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4J100JA28
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4J100JA50
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4J100JA53
4J100JA58
4J100JA59
4J128AA01
4J128AC01
4J128AC10
4J128AC20
4J128AC28
4J128AD08
4J128AD11
4J128AD13
4J128BA00A
4J128BA01B
4J128BB00A
4J128BB01B
4J128BC25B
4J128EA01
4J128EB01
4J128EB02
4J128EB03
4J128EB04
4J128EB05
4J128EB07
4J128EB08
4J128EB09
4J128EB10
4J128EB17
4J128EB18
4J128EC02
4J128FA02
4J128GA18
4J128GA19
4J128GB01
(57)【要約】
【課題】耐薬品性が向上した環状オレフィン系共重合体を提供する。
【解決手段】非環状オレフィン(A')由来の構成単位(A)と、環状オレフィン(B')由来の構成単位(B)と、有する環状オレフィン系共重合体であって、特定の<X線回折測定条件>により求められる前記環状オレフィン系共重合体の結晶化度が1%以上である、環状オレフィン系共重合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非環状オレフィン(A')由来の構成単位(A)と、
環状オレフィン(B')由来の構成単位(B)と、
を有する環状オレフィン系共重合体であって、
下記の<X線回折測定条件>により求められる前記環状オレフィン系共重合体の結晶化度が1%以上である、環状オレフィン系共重合体。
<X線回折測定条件>
粉末状の環状オレフィン系共重合体を広角X線回折測定し、結晶に由来するピークの面積である結晶由来ピーク面積と、非晶に由来するハローの面積である非晶ハロー由来面積とから、以下の式を用いて算出する。
結晶化度(%)=結晶由来ピーク面積/(結晶由来ピーク面積+非晶由来ハロー面積)×100
【請求項2】
前記構成単位(A)および前記構成単位(B)の合計含有率を100mol%としたとき、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)の含有率が50mol%以上68mol%以下であり、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(B)の含有率が32mol%以上50mol%以下である、請求項1に記載の環状オレフィン系共重合体。
【請求項3】
前記構成単位(A)が下記一般式(I)で表される構造を有し、
前記構成単位(B)が下記一般式(VI)で表される構造を有する、請求項1または2に記載の環状オレフィン系共重合体。
【化1】
(前記一般式(I)において、R
300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(前記一般式(VI)において、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【請求項4】
前記構成単位(A)がエチレン由来の構成単位を含み、
前記構成単位(B)がベンゾノルボルナジエン由来の構成単位を含む、請求項1~3のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体。
【請求項5】
融点が250℃以上である、請求項1~4のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法であって、
下記一般式(1)で示される遷移金属化合物(X)を含有する触媒の存在下において、非環状オレフィン(A')と、環状オレフィン(B')と、を共重合させる工程を備え、
前記非環状オレフィン(A')が下記一般式(Ia)で表される構造を有し、
前記環状オレフィン(B')が下記一般式(VIa)で表される構造を有する、環状オレフィン系共重合体の製造方法。
【化3】
(前記一般式(1)において、
M
1は、周期律表4族の遷移金属原子を示し、
X
1は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される原子または基を示し、
n
1は、1~4の整数を示し、
Y
1は、炭素原子またはケイ素原子を示し、
R
1~R
14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される原子または基を示し、
R
1~R
14のうち隣接するもの同士は互いに結合して環を形成していてもよく、形成される環は共役二重結合を含む芳香族性を有するものでもよく、
R
1~R
14のうち1つ以上は、炭素数1以上の炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される基である。)
【化4】
(前記一般式(Ia)において、R
300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化5】
(前記一般式(VIa)において、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
【請求項7】
前記共重合させる工程における、前記非環状オレフィン(A')および前記環状オレフィン(B')の合計含有率を100mol%としたとき、
前記非環状オレフィン(A')の含有率が50mol%以上68mol%以下であり、
前記環状オレフィン(B')の含有率が32mol%以上50mol%以下である、請求項6に記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記非環状オレフィン(A')がエチレンを含み、
前記環状オレフィン(B')がベンゾノルボルナジエンを含む、請求項6または7に記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記一般式(1)において、
R1~R14のうち1つ以上は炭素数1以上の炭化水素基である、請求項6~8のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
【請求項10】
前記一般式(1)において、
R1~R14のうち1つ以上は炭素数4以上の炭化水素基である、請求項6~9のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
【請求項11】
前記一般式(1)において、
R1~R14のうち1つ以上はt-ブチル基である、請求項6~10のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系共重合体および環状オレフィン系共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系共重合体は、フィルム、シート、レンズ、容器等の様々な用途に適用することができる。
【0003】
たとえば、特許文献1には、環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位と、非環式オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位と、を含む環状オレフィン系樹脂であって、ガラス転移点が、150℃以上であり、前記環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位の割合が、50mol%から80mol%であり、前記非環式オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位の割合が、20mol%から50mol%であり、環状オレフィン系成分中における、前記環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が二量体として存在する割合が、30mol%以上であり、環状オレフィン系成分中における前記環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が三量体として存在する割合が15mol%以上である環状オレフィン系樹脂が記載されている。
また、特許文献1には、特許文献1に記載された発明の目的は、高い耐熱性、引張特性を備えた位相差フィルムを製造するのに適した環状オレフィン系樹脂及び当該環状オレフィン系樹脂を用いたフィルム、中でも位相差フィルムを提供することにあると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、様々な用途や多様な環境で環状オレフィン系共重合体が使用されるようになり、環状オレフィン系共重合体には、従来にない過酷な使用状況、たとえば、トルエンのような溶解性の高い有機溶剤に曝される蓋然性が高い環境下での使用に耐えることが求められている。そのため、環状オレフィン系共重合体には、トルエンのような樹脂製品に強いダメージを与え得る薬品への更なる耐性の向上が要請されている。
しかし、かかる要請に対して従来技術では充分に対応できていなかった。
【0006】
本発明の目的は、耐薬品性が向上した環状オレフィン系共重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、結晶化度を所定の数値範囲とすることにより、環状オレフィン系共重合体の耐薬品性を向上させられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す環状オレフィン系共重合体および環状オレフィン系共重合体の製造方法が提供される。
【0009】
1. 非環状オレフィン(A')由来の構成単位(A)と、
環状オレフィン(B')由来の構成単位(B)と、
を有する環状オレフィン系共重合体であって、
下記の<X線回折測定条件>により求められる前記環状オレフィン系共重合体の結晶化度が1%以上である、環状オレフィン系共重合体。
<X線回折測定条件>
粉末状の環状オレフィン系共重合体を広角X線回折測定し、結晶に由来するピークの面積である結晶由来ピーク面積と、非晶に由来するハローの面積である非晶ハロー由来面積とから、以下の式を用いて算出する。
結晶化度(%)=結晶由来ピーク面積/(結晶由来ピーク面積+非晶由来ハロー面積)×100
2. 前記構成単位(A)および前記構成単位(B)の合計含有率を100mol%としたとき、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(A)の含有率が50mol%以上68mol%以下であり、
前記環状オレフィン系共重合体中の前記構成単位(B)の含有率が32mol%以上50mol%以下である、1.に記載の環状オレフィン系共重合体。
3. 前記構成単位(A)が下記一般式(I)で表される構造を有し、
前記構成単位(B)が下記一般式(VI)で表される構造を有する、1.または2.に記載の環状オレフィン系共重合体。
【化1】
(前記一般式(I)において、R
300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(前記一般式(VI)において、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
4. 前記構成単位(A)がエチレン由来の構成単位を含み、
前記構成単位(B)がベンゾノルボルナジエン由来の構成単位を含む、1.~3.のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体。
5. 融点が250℃以上である、1.~4.のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体。
6. 1.~5.のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法であって、
下記一般式(1)で示される遷移金属化合物(X)を含有する触媒の存在下において、非環状オレフィン(A')と、環状オレフィン(B')と、を共重合させる工程を備え、
前記非環状オレフィン(A')が下記一般式(Ia)で表される構造を有し、
前記環状オレフィン(B')が下記一般式(VIa)で表される構造を有する、環状オレフィン系共重合体の製造方法。
【化3】
(前記一般式(1)において、
M
1は、周期律表4族の遷移金属原子を示し、
X
1は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される原子または基を示し、
n
1は、1~4の整数を示し、
Y
1は、炭素原子またはケイ素原子を示し、
R
1~R
14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される原子または基を示し、
R
1~R
14のうち隣接するもの同士は互いに結合して環を形成していてもよく、形成される環は共役二重結合を含む芳香族性を有するものでもよく、
R
1~R
14のうち1つ以上は、炭素数1以上の炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される基である。)
【化4】
(前記一般式(Ia)において、R
300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化5】
(前記一般式(VIa)において、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、前記単環または前記多環が二重結合を有していてもよく、また前記単環または前記多環が芳香族環であってもよい。)
7. 前記共重合させる工程における、前記非環状オレフィン(A')および前記環状オレフィン(B')の合計含有率を100mol%としたとき、
前記非環状オレフィン(A')の含有率が50mol%以上68mol%以下であり、
前記環状オレフィン(B')の含有率が32mol%以上50mol%以下である、6.に記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
8. 前記非環状オレフィン(A')がエチレンを含み、
前記環状オレフィン(B')がベンゾノルボルナジエンを含む、6.または7.に記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
9. 前記一般式(1)において、
R
1~R
14のうち1つ以上は炭素数1以上の炭化水素基である、6.~8.のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
10. 前記一般式(1)において、
R
1~R
14のうち1つ以上は炭素数4以上の炭化水素基である、6.~9.のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
11. 前記一般式(1)において、
R
1~R
14のうち1つ以上はt-ブチル基である、6.~10.のいずれかに記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐薬品性が向上した環状オレフィン系共重合体および環状オレフィン系共重合体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明する。なお、本実施形態では、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
また、本発明の環状オレフィン系共重合体を構成する各モノマーは、化石原料から得られるモノマーであってもよく、動植物系原料から得られるモノマーであってもよい。
【0012】
[環状オレフィン系共重合体]
以下、本発明の環状オレフィン系共重合体について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体は、非環状オレフィン(A')由来の構成単位(A)と、環状オレフィン(B')由来の構成単位(B)と、を有する環状オレフィン系共重合体であって、下記の<X線回折測定条件>により求められる前記環状オレフィン系共重合体の結晶化度が1%以上である。
<X線回折測定条件>
粉末状の環状オレフィン系共重合体を広角X線回折測定し、結晶に由来するピークの面積である結晶由来ピーク面積と、非晶に由来するハローの面積である非晶ハロー由来面積とから、以下の式を用いて算出する。
結晶化度(%)=結晶由来ピーク面積/(結晶由来ピーク面積+非晶由来ハロー面積)×100
【0014】
ここで、ピークとハローについて説明する。環状オレフィン系共重合体が結晶を含むと、結晶に由来するシャープなピークが現れる。一方、環状オレフィン系共重合体が非晶を含むと、非晶に由来する非常にブロードなパターン、いわゆるハローが現れる。本実施形態のおいては、ピークとハローの面積から上記の式により結晶化度を算出する。
【0015】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体により上述の課題が解決されるメカニズムは明らかではないが、特定の化学構造を有する環状オレフィン系共重合体の結晶化度を一定以上であることにより、環状オレフィン系共重合体の分子が適切に並び、薬品による浸食に抵抗できるようになるというメカニズムが推測される。
【0016】
X線回折測定により求められる環状オレフィン系共重合体の結晶化度は、好ましくは2%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは8%以上、さらに好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である。結晶化度の上限値は特に制限されないが、例えば50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下である。
当該結晶化度が当該範囲内であると、環状オレフィン系共重合体の耐薬品性がより良好になる。結晶化度は、環状オレフィン系共重合体に用いる非環状オレフィン(A')と環状オレフィン(B')の種類および割合や、重合に用いる触媒の種類などにより制御することができる。
なお、X線回折測定の具体的な方法は後述する。
【0017】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体の融点は、好ましくは250℃以上、より好ましくは270℃以上、さらに好ましくは290℃以上、さらに好ましくは310℃以上、さらに好ましくは330℃以上、さらに好ましくは350℃超過である。融点が上記下限値以上または超過であることにより、耐熱性が向上する。融点の上限値は特に制限されないが、例えば800℃以下、好ましくは700℃以下、より好ましくは600℃以下、さらに好ましくは500℃以下、さらに好ましくは450℃以下である。
【0018】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体は、非環状オレフィン(A')由来の構成単位(A)と、環状オレフィン(B')由来の構成単位(B)と、を有する。
【0019】
非環状オレフィン(A')とは環状オレフィンでないオレフィンを指し、具体的には直鎖状または分岐鎖状のオレフィンを指す。
【0020】
環状オレフィン(B')由来の構成単位(B)は特に限定はされないが、例えば、国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の環状オレフィンモノマー等をその例として挙げることができる。
【0021】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体においては、得られる成形体の透明性および屈折率の性能バランスを良好に保ちつつ耐熱性を向上したり、成形性を向上したりする観点から、前記構成単位(A)が下記一般式(I)で表される構造を有し、前記構成単位(B)が下記一般式(VI)で表される構造を有することが好ましく、前記構成単位(A)がエチレン由来の構成単位を含み、前記構成単位(B)がベンゾノルボルナジエン由来の構成単位を含むことがより好ましい。
【0022】
【化6】
上記一般式(I)において、R
300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。
【0023】
【化7】
上記一般式(VI)において、qは1、2または3であり、R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基であり、またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
【0024】
本実施形態にかかる非環状オレフィン(A')として、具体的には、上記一般式(I)に対応する下記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーを挙げることができる。
【0025】
【化8】
上記一般式(Ia)において、R
300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。より優れた耐熱性、機械的特性および光学特性を有する成形体を得る観点から、これらのなかでも、エチレンとプロピレンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0026】
上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーは2種類以上を用いてもよい。
【0027】
本実施形態にかかる環状オレフィン(B')として、具体的には、上記一般式(VI)に対応する一般式(VIa)で表される環状オレフィンモノマーを挙げることができる。
【0028】
【化9】
上記一般式(VIa)において、qは1、2または3である。qは1または2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
R
32~R
39はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子を除くハロゲン原子、またはフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基である。R
32~R
39はそれぞれ独立に水素原子または炭素原子数1~20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
またq=1のときR
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、またq=2または3のときR
36とR
36、R
36とR
37、R
37とR
38、R
38とR
39、R
39とR
39は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、上記単環または上記多環が二重結合を有していてもよく、また上記単環または上記多環が芳香族環であってもよい。
また、炭素原子数1~20の炭化水素基としては、それぞれ独立に、例えば炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、および芳香族炭化水素基等が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基等が挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基およびフェニルエチル基等のアリール基またはアラルキル基等が挙げられる。これらの炭化水素基はフッ素原子を除くハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0029】
上記一般式(VIa)で表される環状オレフィンモノマーは2種類以上を用いてもよい。
【0030】
上述した一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、一般式(VIa)で表される環状オレフィンモノマーを共重合成分として用いると、一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーにより樹脂組成物に柔軟性を付与でき、さらに一般式(VIa)で表される環状オレフィンモノマーにより樹脂組成物の屈折率を高くしたり、ガラス転移温度を高くすることで、耐熱性を向上したりすることができる。
【0031】
上記一般式(VIa)で表される環状オレフィンモノマーとして、一般式(VIa)中のq=1であるモノマーを用いることが好ましい。これらの環状オレフィンは、ベンゼン環を一つ有するため、二つ以上のベンゼン環を有する場合と比べて着色しにくい樹脂組成物が得られやすくなる利点がある。特に、ベンゾノルボルナジエンを用いることが好ましい。ベンゾノルボルナジエンを用いることの利点は、芳香環を有するため、樹脂組成物の屈折率を高くできることである。
【0032】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れ、高精度の光学部品を得ることができる観点から、ランダム共重合体であることが好ましい。
【0033】
本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体は、エチレンとベンゾノルボルナジエンとのランダム共重合体であることが好ましい。
【0034】
環状オレフィン系共重合体中の構成単位(A)および構成単位(B)の合計含有率を100mol%としたとき、本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(A)の含有率は、好ましくは50mol%以上68mol%以下であり、より好ましくは50mol%以上65mol%以下であり、さらに好ましくは50mol%以上63mol%以下である。これにより環状オレフィン系共重合体の結晶化度や融点が薬品耐性の観点から適切な範囲に調整され、耐薬品性をより一層向上させることができる。
【0035】
環状オレフィン系共重合体中の構成単位(A)および構成単位(B)の合計含有率を100mol%としたとき、本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体中の上記構成単位(B)の含有率は、好ましくは32mol%以上50mol%以下であり、より好ましくは35mol%以上50mol%以下であり、さらに好ましくは37mol%以上50mol%以下である。これにより環状オレフィン系共重合体の結晶化度や融点が薬品耐性の観点から適切な範囲に調整され、耐薬品性をより一層向上させることができる。
【0036】
上記含有率は、環状オレフィン系共重合体がNMR重溶媒に良好に溶解する場合は13C-NMRによって、溶解性が不良である場合はFT-IRによって測定する。詳細な測定方法は後述する。
【0037】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体は、本発明の効果を妨げない範囲で、非環状オレフィン(A')および環状オレフィン(B')以外のモノマーに由来する、その他の構成単位(C)を有してもよい。非環状オレフィン(A')および環状オレフィン(B')以外のモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などのアクリル系モノマー、塩化ビニルモノマーなどのビニルモノマー、スチレンモノマーなどが挙げられる。
【0038】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体の用途は特に限定されず、フィルム、シート、レンズ、容器等に用いることができる。本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体は耐薬品性に優れているため、トルエンのような溶解性の高い有機溶剤に曝される蓋然性が高い過酷な環境下での使用に耐えることができる。
【0039】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体の用途としては、たとえば、光ディスク、光学レンズ、プリズム、光拡散板、光カード、光ファイバー、光学ミラー、液晶表示素子基板、導光板、偏光フィルム、位相差フィルムなどの光学材料;液体、粉体、または固体薬品の容器(注射用の液体薬品容器、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、輸液用バッグ、密封薬袋、プレス・スルー・パッケージ、固体薬品容器、点眼薬容器など)、サンプリング容器(血液検査用サンプリング試験管、薬品容器用キャップ、採血管、検体容器など)、医療器具(注射器など)、医療器具などの滅菌容器(メス用、鉗子用、ガーゼ用、コンタクトレンズ用など)、実験・分析器具(ビーカー、シャーレ、フラスコ、試験管、遠心管など)、医療用光学部品(医療検査用プラスチックレンズなど)、配管材料(医療用輸液チューブ、配管、継ぎ手、バルブなど)、人工臓器やその部品(義歯床、人工心臓、人造歯根など)などの医療用器材;ボトル、リターナブルボトル、哺乳瓶、フィルム、シュリンクフィルムなどの食品用容器;処理用または移送用容器(タンク、トレイ、キャリア、ケースなど)、保護材(キャリアテープ、セパレーション・フィルムなど)、配管類(パイプ、チューブ、バルブ、流量計、フィルター、ポンプなど)、液体用容器類(サンプリング容器、ボトル、アンプルバッグなど)の電子部品処理用器材;被覆材(電線用、ケーブル用など)、民生用・産業用電子機器匡体(複写機、コンピューター、プリンター、テレビ、ビデオデッキ、ビデオカメラなど)、構造部材(パラボラアンテナ構造部材、フラットアンテナ構造部材、レーダードーム構造部材など)などの電気絶縁材料;一般回路基板(硬質プリント基板、フレキシブルプリント基板、多層プリント配線板など)、高周波回路基板(衛星通信機器用回路基板など)などの回路基板;透明導電性フィルム(液晶基板、光メモリー、面発熱体など)の基材;半導体封止材(トランジスタ封止材、IC封止材、LSI封止材、LED封止材など)、電気・電子部品の封止材(モーター封止材、コンデンサー封止材、スイッチ封止材、センサー封止材など)の封止材;ルームミラーやメーター類のカバーなど自動車用内装材料;ドアミラー、フェンダーミラー、ビーム用レンズ、ライト・カバーなど自動車用外装材料;などが挙げられる。
【0040】
また、本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体の用途としては、たとえば、一般回路基板(硬質プリント基板、フレキシブルプリント基板、多層プリント配線板など)、高周波回路基板(衛星通信機器用回路基板など)などの回路基板;透明導電性フィルム(液晶基板、光メモリー、面発熱体など)の基材;半導体封止材(トランジスタ封止材、IC封止材、LSI封止材、LED封止材など)、電気・電子部品の封止材(モーター封止材、コンデンサー封止材、スイッチ封止材、センサー封止材など)の封止材;ルームミラーやメーター類のカバーなど自動車用内装材料;ドアミラー、フェンダーミラー、ビーム用レンズ、ライト・カバーなど自動車用外装材料;などが挙げられる。
【0041】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体は、任意の製造方法により製造することができる。例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
また、本実施形態に係る環状オレフィン系共重合体であって、環状オレフィンの開環重合体であるものは、例えば、特開昭60-26024号公報、特開平9-268250号公報、特開昭63-145324号公報、特開2001-72839号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0042】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体は、下記の製造方法により製造することができる。
【0043】
[環状オレフィン系共重合体の製造方法]
以下、本発明の環状オレフィン系共重合体の製造方法について詳細に説明する。
【0044】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体の製造方法は、上記に記載の環状オレフィン系共重合体の製造方法であって、下記の一般式(1)で示される遷移金属化合物(X)を含有する触媒の存在下において、非環状オレフィン(A')と、環状オレフィン(B')と、を共重合させる工程を備え、前記非環状オレフィン(A')が、上記一般式(Ia)で表される構造を有し、前記環状オレフィン(B')が、上記一般式(VIa)で表される構造を有する。
【0045】
本実施形態にかかる環状オレフィン系共重合体の製造方法においては、前記非環状オレフィン(A')がエチレンを含み、前記環状オレフィン(B')がベンゾノルボルナジエンを含むことが好ましい。
【0046】
【0047】
上記一般式(1)において、M1は、周期律表4族の遷移金属原子を示し、X1は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される原子または基を示し、n1は、1~4の整数を示し、Y1は、炭素原子またはケイ素原子を示し、R1~R14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される原子または基を示し、R1~R14のうち隣接するもの同士は互いに結合して環を形成していてもよく、形成される環は共役二重結合を含む芳香族性を有するものでもよく、R1~R14のうち1つ以上は、炭素数1以上の炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される基である。
【0048】
本実施形態にかかる製造方法によると、耐薬品性に優れた環状オレフィン系共重合体を製造することができる。
耐薬品性に優れた環状オレフィン系共重合体を製造することができる詳細なメカニズムは不明であるが、上記の一般式(1)で示される遷移金属化合物(X)を含有する触媒は、置換基R1~R14のうち1つ以上がハロゲン含有基や酸素含有基等のようなヘテロ原子を含有する基や、メチル基やt-ブチル基のような炭素数1以上の炭化水素基といった、ある程度の嵩高さを有する基であるという特徴を有し、このように嵩高い置換基を有することにより、環状オレフィン系共重合体の結晶性に何らかの影響が与えられ、これにより耐薬品性が向上するものと推測される。当該効果は、嵩高い置換基を複数有する場合はより顕著となる。
【0049】
一般式(1)で示される遷移金属化合物(X)の具体例としては特に制限されないが、例えば、ジメチルメチレン(3-tert-ブチル-シクロペンタジエニル)(3,6-ジ-tert-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルメチレン(3-メチル-シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウムジクロライドなどを用いることができる。
【0050】
本実施形態にかかる製造方法は、非環状オレフィン(A')と、環状オレフィン(B')とを共重合させる工程(以下、単に重合工程ともいう。)を備える環状オレフィン系共重合体の製造方法である。
【0051】
本実施形態にかかる製造方法の重合工程においては、非環状オレフィン(A')としては上記一般式(Ia)で表されたオレフィンモノマーを挙げることができ、その非限定的具体例も上記のとおりである。それらのなかでも、上記同様の観点から、エチレンとプロピレンが好ましく、エチレンがより好ましい。
また、本実施形態にかかる製造方法の重合工程においては、環状オレフィン(B')としては上記一般式(VIa)で表された環状オレフィンモノマーを挙げることができ、その非限定的具体例も上記のとおりである。それらのなかでも、上記同様の観点から、ベンゾノルボルナジエンが好ましい。
【0052】
本実施形態にかかる製造方法の重合工程においては、前記非環状オレフィン(A')および前記環状オレフィン(B')の合計含有率を100mol%としたとき、前記非環状オレフィン(A')の含有率は上記同様の観点から、好ましくは50mol%以上68mol%以下であり、より好ましくは50mol%以上65mol%以下であり、さらに好ましくは50mol%以上63mol%以下であり、さらに、前記環状オレフィン(B')の含有率は上記同様の観点から、好ましくは32mol%以上50mol%以下であり、より好ましくは35mol%以上50mol%以下であり、さらに好ましくは37mol%以上50mol%以下である。
【0053】
本実施形態にかかる製造方法の重合工程の温度は、反応効率向上の観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは40℃以上であり、そして、触媒失活や副反応の抑制の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0054】
本実施形態にかかる製造方法の重合工程は溶媒中でおこなってもよいし、無溶媒でおこなってもよい。本実施形態にかかる製造方法の重合工程に用いられる溶媒は、例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、MEK、MIBK,PGMEA、PGME、酢酸エチル及び酢酸メチルからなる群から選択される一種または二種以上を含み、好ましくはトルエンを含む。
【0055】
本実施形態にかかる製造方法の重合工程においては、上記の一般式(1)で示される遷移金属化合物(X)を含有する触媒以外の任意の成分を用いてもよい。たとえば、後述する有機アルミニウムオキシ化合物を助触媒として用いることができる。
【0056】
<遷移金属化合物(X)>
本実施形態にかかる製造方法の重合工程では、下記の一般式(1)で示される遷移金属化合物(X)の存在下で重合反応が行われる。
【0057】
【0058】
上記一般式(1)において、M1は、周期律表4族の遷移金属原子を示す。
M1としては、チタン原子、ジルコニウム原子またはハフニウム原子等を例示できる。
【0059】
M1は、チタン原子またはジルコニウム原子であることが好ましく、ジルコニウム原子であることがより好ましい。
【0060】
上記一般式(1)において、X1は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される原子または基を示す。
【0061】
X1が示すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子または臭素原子などを例示できる。
【0062】
上記一般式(1)において、X1が示す炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基またはデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ノルボニル基、ビシクロノニル基またはトリシクロデカン基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェナントリル基またはアントラセニル基等のアリール基;ベンジル基またはフェニルエチル基等のアラルキル基;1,3-ブタジエニル基、イソプレニル(2-メチル-1,3-ブタジエニル)基、ピペリレニル(1,3-ペンタジエニル)基、2,4-ヘキサジエニル基、1,4-ジフェニル-1,3-ペンタジエニル基またはシクロペンタジエニル基等のジエン系二価誘導体基;等を例示できる。
【0063】
上記一般式(1)において、X1が示すハロゲン含有基としては、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロピルまたはノナフルオロ-t-ブチル等のハロゲン含有炭化水素基;ペンタフルオロフェニル、ペンタクロロフェニル等のハロゲン含有アリール基;等を例示できる。
【0064】
上記一般式(1)において、X1が示す酸素含有基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基またはt-ブトキシ基等のアルコシキ基;フェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基または2,4,6-トリメチルフェノキシ基等のアリーロキシ基;アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、メトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基またはp-クロロフェノキシカルボニル基等のエステル基;エーテル基;ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基、p-クロロベンゾイル基またはp-メトキシベンゾイル基等のアシル基;カルボキシル基;カルボナート基;ヒドロキシ基;ペルオキシ基;カルボン酸無水物基;フリル基;
等を例示できる。
【0065】
上記一般式(1)において、X1が示す硫黄含有基としては、メルカプト基;アセチルチオ基、ベンゾイルチオ基、メチルチオカルボニル基またはフェニルチオカルボニル基等のチオエステル基;ジチオエステル基;メチルチオ基またはエチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、メチルフェニルチオ基またはナフチルチオ基等のアリールチオ基;チオアシル基;チオエーテル基;チオシアン酸エステル基;イソチオシアン酸エステル基;スルホン酸メチル基、スルホン酸エチル基もしくはスルホン酸フェニル基等のスルホン酸エステル基;フェニルスルホンアミド基、N-メチルスルホンアミド基もしくはN-メチル-p-トルエンスルホンアミド基等のスルホンアミド基;チオカルボキシル基;ジチオカルボキシル基;スルホ基;スルホニル基;スルフィニル基;スルフェニル基;等を例示できる。
【0066】
上記一般式(1)において、X1が示す窒素含有基としては、アミノ基;ジメチルアミノ基またはエチルメチルアミノ基等のアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基等のアリールアミノ基;イミノ基;メチルイミノ基、エチルイミノ基、プロピルイミノまたはブチルイミノ基等のアルキルイミノ基;フェニルイミノ基等のアリールイミノ基;アミド基;アセトアミド基またはN-メチルアセトアミド基等のアルキルアミド基;N-メチルベンズアミド基等のアリールアミド基;イミド基;アセトイミド基等のアルキルイミド基;ベンズイミド基等のアリールイミド基;ピロリジノ基;ヒドラジノ基;ヒドラゾノ基;ニトロ基;ニトロソ基;シアノ基;イソシアノ基;シアン酸エステル基;アミジノ基;ジアゾ基;アミノ基がアンモニウム塩となったもの等を例示できる。
また、X1が示す窒素含有基の置換体としては、シリルアミド基またはホスフィノアミド基等を例示できる。
【0067】
上記一般式(1)において、X1が示すリン含有基としては、ホスフィド基;ホスホリル基;チオホスホリル基;ホスフェート基等を例示できる。
【0068】
上記一般式(1)において、X1が示すケイ素含有基としては、メチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、エチルシリル基、ジエチルシリル基、トリエチルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基またはジメチル-t-ブチルシリル基等のアルキルシリル基;等を例示できる。
【0069】
上記一般式(1)において、X1が示すホウ素含有基としては、ボランジイル基;ボラントリイル基;ジボラニル基;等を例示できる。
上記一般式(1)において、X1が示すホウ素含有基の置換体としては、(Et)2B-、(iPr)2B-、(iBu)2B-、(Et)3B、(iPr)3Bまたは(iBu)3B等で表されるアルキル基置換ホウ素;(C6H5)2B-、(C6H5)3B、(C6F5)3Bもしくは(3,5-(CF3)2C6H3)3B等で表されるアリール基置換ホウ素;BCl2-またはBCl3等で表されるハロゲン化ホウ素;(Et)BCl-、(iBu)BCl-または(C6H5)2BCl等で表されるアルキル基置換ハロゲン化ホウ素;等を例示できる。
ここで、Etはエチル基、iPrはイソプロピル基、iBuはイソブチル基を表す。
【0070】
上記一般式(1)において、X1が示すアルミニウム含有基の置換体としては、(Et)2Al-、(iPr)2Al-、(iBu)2Al-、(Et)3Al、(iPr)3Alまたは(iBu)3Al等で表されるアルキル基置換アルミニウム;(C6H5)2Al-等で表されるアリール基置換アルミニウム;AlCl2-、またはAlCl3等で表されるハロゲン化アルミニウム;(Et)AlCl-、(iBu)AlCl-等で表されるアルキル基置換ハロゲン化アルミニウム;等を例示できる。
ここで、Etはエチル基、iPrはイソプロピル基、iBuはイソブチル基を表す。
【0071】
上記一般式(1)において、X1が炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される基である場合、X1の炭素原子数は、それぞれ独立に、1~20であることが好ましい。
【0072】
上記一般式(1)において、X1は、それぞれ独立に、ハロゲン原子または炭化水素基であることが好ましく、ハロゲン原子であることがより好ましい。
【0073】
上記一般式(1)においてX1がハロゲン原子である場合、X1は、それぞれ独立に、塩素原子であることがより好ましい。
【0074】
上記一般式(1)において、n1は、1~4の整数を示す。n1は、M1の価数およびX1の種類に応じて、上記の一般式(1)が示す遷移金属化合物(X)全体が電気的に中性になるように選択される。
【0075】
上記一般式(1)において、n1は、2または3であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0076】
上記一般式(1)において、Y1は、炭素原子またはケイ素原子を示す。
【0077】
上記一般式(1)において、Y1は、炭素原子であることが好ましい。
【0078】
上記一般式(1)において、R1~R14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される原子または基を示す。
【0079】
上記一般式(1)において、R1~R14が示すハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基、ならびにそれらの置換体としては、X1が示すハロゲン原子、炭化水素基、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基およびアルミニウム含有基、ならびにそれらの置換体として例示したものを例示できる。
【0080】
上記一般式(1)において、R1~R14のうち隣接するもの同士は互いに結合して環を形成していてもよく、形成される環は共役二重結合を含む芳香族性を有するものでもよい。
【0081】
上記一般式(1)において、R1~R14のうち隣接するもの同士は、互いに結合して環を形成し、形成される環はシクロペンタジエニル基と結合することが好ましい。形成される環がシクロペンタジエニル基と結合した構造は、例えば以下に示した構造であり、好ましくはフルオレニル環構造である。
【0082】
【0083】
上記一般式(1)において、R1~R14のうち1つ以上は、ハロゲン含有基、酸素含有基、硫黄含有基、窒素含有基、リン含有基、ケイ素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基および炭素数1以上の炭化水素基からなる群、ならびにそれらの置換体からなる群より選択される基である。
【0084】
上記一般式(1)においては、R1~R14のうち1つ以上が炭素数1以上の炭化水素基であることが好ましく、R1~R14のうち1つ以上が炭素数4以上の炭化水素基であることがより好ましく、R1~R14のうち1つ以上がt-ブチル基であることがさらに好ましく、R1~R14のうち2つ以上がt-ブチル基であることがさらに好ましく、R1~R14のうち3つ以上がt-ブチル基であることがさらに好ましい。これにより、得られる環状オレフィン系共重合体の耐薬品性がより向上する。
R1~R14のうち1つ以上がこれらの基であることによって得られる環状オレフィン系共重合体の耐薬品性がより向上する詳細なメカニズムは不明であるが、触媒がメチル基やt-ブチル基のような嵩高い基を有することが環状オレフィン系共重合体の結晶性に何らかの影響を与え、これにより耐薬品性がより向上すると推測される。当該効果は、嵩高い置換基を複数有する場合はより顕著となる。
【0085】
<有機アルミニウムオキシ化合物>
本実施形態にかかる製造方法の重合工程では、有機アルミニウムオキシ化合物を助触媒として用いることができる。
【0086】
有機アルミニウムオキシ化合物としては、従来公知の有機アルミニウムオキシ化合物を使用することができる。
具体的には、たとえば、下記式[B2-1]、[B2-2]、[B2-3]および[B2-4]で表わされる化合物、特開平2-78687号公報、特開平2-167305号公報に記載されたベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物、特開平3-103407号公報に記載されている二種類以上のアルキル基を有するアルミノキサン等が挙げられる。
【0087】
【0088】
式中、Rは炭素数1から10の炭化水素基、nは2以上の整数を示す。
【0089】
【0090】
式中、Rは炭素数1から10の炭化水素基、nは2以上の整数を示す。
【0091】
【0092】
式中、Rは炭素数1から10の炭化水素基、Meはメチル基、mおよびnはそれぞれ独立に2以上の整数を示す。
【0093】
式[B2-3]で表される化合物は修飾メチルアルミノキサンと呼ばれ、トリメチルアルミニウムとトリメチルアルミニウム以外のアルキルアルミニウムを用いて調製されるものである。このような化合物は一般にMMAOと呼ばれている。このようなMMAOは、米国特許第4960878号明細書および米国特許第5041584号明細書で挙げられている方法で調製することができる。
【0094】
【0095】
式中、Rcは炭素数1から10の炭化水素基を示す。Rdは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1から10の炭化水素基を示す。
【0096】
有機アルミニウムオキシ化合物としては、市販品のために入手が容易なメチルアルミノキサン、およびトリメチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムを用いて調製したMMAOが好ましい。
【0097】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0098】
以下、本発明の実施形態を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明の実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
[重合活性の測定方法]
各実施例および比較例に記載された方法により得られた粉末状の環状オレフィン系共重合体の重量を秤量し、ポリマー収量を測定した。そのポリマー収量を触媒量と重合反応時間で除することで、重合活性(単位はkg/(mmol・hr)である)を求めた。
【0100】
[組成解析の方法]
(13C-NMR測定)
環状オレフィン系共重合体の組成解析は、原則として13C-NMRで行った。各実施例および比較例に記載された方法により得られた粉末状の環状オレフィン系共重合体を下記の測定条件で測定し、43.5ppm付近に現れるBNBD由来のピークおよび30~32ppm付近に現れるエチレン由来のピークとの面積強度の比を算出することで組成解析を行った。
装置:ブルカーバイオスピン社製AVANCEIII cryo-500型核磁気共鳴
測定核:13C(125MHz)
測定モード:シングルパルスプロトン(逆ゲート付)デカップリング
パルス幅:90度
ポイント数:64000
測定範囲:-55~195ppm(合計250ppm)
繰り返し時間:25秒
積算回数:256回
溶媒:1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2
濃度:20mg/0.6mL
温度:120℃
ケミカルシフト基準:1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2の74.2ppm
【0101】
(FT-IR測定)
環状オレフィン系共重合体の上記NMR重溶媒への溶解性が不良である場合は、FT-IR測定にて組成解析を行った。測定には、各実施例および比較例に記載された方法により得られた粉末状の環状オレフィン系共重合体を打錠機にて押し固めて作製した打錠サンプルを用いた。下記の条件で測定を行い、ベンゾノルボルナジエン(BNBDともいう。)の定量ピークとして1608cm-1(ベンゼン環C=C伸縮振動)、基準ピークとして4257cm-1(C-H伸縮振動とCH2変角振動の結合音)を検出し、それぞれ吸光度を求めた。13C-NMRから求めたBNBD含量を横軸に、定量ピークの吸光度および基準ピークの吸光度との比を縦軸にプロットして、一次式の検量線を作成し、この検量線を元に組成解析を行った。
装置:JASCO社製、FT/IR-4200
測定法:透過法/打錠サンプル
積算回数:32回
波数分解能:2cm-1
測定波数範囲:5000~400cm-1
【0102】
[X線回折測定(XRD測定)の方法]
各実施例および比較例に記載された方法により得られた粉末状の環状オレフィン系共重合体を広角X線回折測定し、結晶に由来するピークの面積である結晶由来ピーク面積と、非晶に由来するハローの面積である非晶ハロー由来面積とから、以下の式を用いて算出した。なお、結晶由来ピークが複数現れた場合、複数現れたピークの面積の合計を結晶由来ピーク面積とした。なお、X線回折パターンの解析にはプロファイル・フィッティングの手法を用いた。プロファイル・フィッティングには、X線回折装置付属の解析ソフト(スペクトリス株式会社製、製品名:High Score)を使用した。
結晶化度(%)=結晶由来ピーク面積/(結晶由来ピーク面積+非晶由来ハロー面積)×100
装置:スペクトリス製、EMPYREAN
X線源:CuKα線
出力:45kV 40mA
測定範囲:3°~35°
スキャンスピード:1°/min
ステップ幅:0.026°
検出器:PIXcel3D
【0103】
[DSC測定方法]
各実施例および比較例に記載された方法により得られた粉末状の環状オレフィン系共重合体のDSC測定を行った。測定条件は以下の通りである。
(1)示唆走査熱量計(日立ハイテクサイエンス社製、DSC7020)を用い、窒素雰囲気下にて、環状オレフィン系共重合体を常温から10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温した。
(2)350℃で5分保持した。
(3)10℃/分の降温速度で-20℃まで降温した。
(4)-20℃で5分間保持した。
(5)10℃/分の昇温速度で350℃まで昇温した。
上記の手順により行われた測定の第2回目の昇温工程において得られるDSC曲線で観測された吸熱ピークを融解ピークとした。当該融解ピークの頂点の温度を融点とした。
【0104】
[耐薬品性(耐トルエン性)試験]
各実施例および比較例に記載された方法により得られた粉末状の環状オレフィン系共重合体を5質量%の濃度になるようにトルエンに投入し、常温(23℃)で一晩静置した。静置後、トルエンに投入した環状オレフィン系共重合体の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
+:ポリマーが溶解せず、容器の底に沈殿した状態である。
-:ポリマーは溶解しないが、溶媒で膨潤して白濁した状態である。
--:ポリマーは溶解し、溶け残りがなく透明な状態である。
【0105】
[実施例1]
充分に窒素置換した500mLのガラス製オートクレーブにトルエン300mLとベンゾノルボルナジエン23.8gを装入し、エチレンガスを6L/時間、窒素ガスを96L/時間の流量で流通させ、600rpmで攪拌しながら50℃に昇温し、昇温後10分間保持した。
続いて、触媒1(ジメチルメチレン(3-tert-ブチル-シクロペンタジエニル)(3,6-ジ-tert-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド)を0.03mmolとメチルアルミノキサン9.0mmolをそれぞれ装入し、重合を開始させた。50℃で10分間、常圧下で重合させた後、過剰量のイソプロパノールを加え、重合を停止させ、ポリマー溶液を得た。当該共重合体は、重合反応中に溶媒内で溶解できず析出するため、ポリマー溶液は白濁していた。得られたポリマー溶液を、9mLの塩酸を添加した過剰量のメタノール/アセトン混合溶液(混合比率1/3(体積比))に加え、ポリマーを析出させた。析出させたポリマーを取り出し、130℃で一晩減圧乾燥し、粉末状のエチレンとベンゾノルボルナジエンの共重合体1.14gを得た。
重合活性は0.23kg/mmol・hrであった。
得られたエチレン・ベンゾノルボルナジエン共重合体の組成は、構成単位(A):エチレン52mol%、構成単位(B):ベンゾノルボルナジエン48mol%であった。なお、組成解析は、NMR重溶媒への溶解性不良のため、FT-IR測定にて行った。
XRD測定により、2θ=7°、14°、16°、17°、21°、23°付近に結晶由来のピークが観察され、上述した方法により算出した結晶化度は21%であった。
DSC測定にて、-20℃から350℃まで昇温したが、融解ピークは検出されなかったため、融点は350℃超過に存在するとした。
トルエンに対する耐薬品性は、ポリマーは溶解せず、容器の底に沈殿した状態であった(トルエンに対する耐薬品性:+)。
【0106】
[実施例2]
充分に窒素置換した500mLのガラス製オートクレーブにトルエン300mLとベンゾノルボルナジエン19.4gを装入し、エチレンガスを24L/時間、窒素ガスを72L/時間の流量で流通させ、600rpmで攪拌しながら50℃に昇温し、昇温後10分間保持した。
続いて、触媒1を0.01mmolとメチルアルミノキサン3.0mmolをそれぞれ装入し、重合を開始させた。50℃で10分間、常圧下で重合させた後、過剰量のイソプロパノールを加え、重合を停止させ、ポリマー溶液を得た。当該共重合体は、重合反応中に溶媒内で溶解できず析出するため、ポリマー溶液は白濁していた。得られたポリマー溶液を、3mLの塩酸を添加した過剰量のメタノール/アセトン混合溶液(混合比率1/3(体積比))に加え、ポリマーを析出させた。析出させたポリマーを取り出し、130℃で一晩減圧乾燥し、粉末状のエチレンとベンゾノルボルナジエンの共重合体3.92gを得た。
重合活性は2.35kg/mmol・hrであった。
得られたエチレン・ベンゾノルボルナジエン共重合体の組成は、構成単位(A):エチレン59mol%、構成単位(B):ベンゾノルボルナジエン41mol%であった。なお、組成解析は、NMR重溶媒への溶解性不良のため、FT-IR測定にて行った。
XRD測定により、2θ=7°、14°、16°、17°、21°、23°付近に結晶由来のピークが観察され、上述した方法により算出した結晶化度は17%であった。
DSC測定にて-20℃から350℃まで昇温したが、融解ピークは検出されなかったため、融点は350℃超過に存在するとした。
トルエンに対する耐薬品性は、ポリマーは溶解せず、容器の底に沈殿した状態であった(トルエンに対する耐薬品性:+)。
【0107】
[実施例3]
充分に窒素置換した500mLのガラス製オートクレーブにトルエン300mLとベンゾノルボルナジエン16.0gを装入し、エチレンガスを24L/時間、窒素ガスを72L/時間の流量で流通させ、600rpmで攪拌しながら50℃に昇温し、昇温後10分間保持した。
続いて、触媒1を0.003mmolとメチルアルミノキサン0.9mmolをそれぞれ装入し、重合を開始させた。50℃で10分間、常圧下で重合させた後、過剰量のイソプロパノールを加え、重合を停止させ、ポリマー溶液を得た。当該共重合体は、重合反応中に溶媒内で溶解できず析出するため、ポリマー溶液は白濁していた。得られたポリマー溶液を、0.9mLの塩酸を添加した過剰量のメタノール/アセトン混合溶液(混合比率1/3(体積比))に加え、ポリマーを析出させた。析出させたポリマーを取り出し、130℃で一晩減圧乾燥し、粉末状のエチレンとベンゾノルボルナジエンの共重合体1.34gを得た。
重合活性は2.69kg/mmol・hrであった。
得られたエチレン・ベンゾノルボルナジエン共重合体の組成は、13C-NMR測定より構成単位(A):エチレン64mol%、構成単位(B):ベンゾノルボルナジエン36mol%であった。
XRD測定により、2θ=7°、14°、16°、17°、21°、23°付近に結晶由来のピークが観察され、上述した方法により算出した結晶化度は6%であった。
DSC測定にて、融解ピークが検出され、融点は293℃であった。
トルエンに対する耐薬品性は、ポリマーは溶解せず、容器の底に沈殿した状態であった(トルエンに対する耐薬品性:+)。
【0108】
[実施例4]
充分に窒素置換した500mLのガラス製オートクレーブにトルエン300mLとベンゾノルボルナジエン13.6gを装入し、エチレンガスを24L/時間、窒素ガスを72L/時間の流量で流通させ、600rpmで攪拌しながら50℃に昇温し、昇温後10分間保持した。
続いて、触媒1を0.003mmolとメチルアルミノキサン0.9mmolをそれぞれ装入し、重合を開始させた。50℃で10分間、常圧下で重合させた後、過剰量のイソプロパノールを加え、重合を停止させ、ポリマー溶液を得た。当該共重合体は、重合反応中に溶媒内で溶解できず析出するため、ポリマー溶液は白濁していた。得られたポリマー溶液を、0.9mLの塩酸を添加した過剰量のメタノール/アセトン混合溶液(混合比率1/3(体積比))に加え、ポリマーを析出させた。析出させたポリマーを取り出し、130℃で一晩減圧乾燥し、粉末状のエチレンとベンゾノルボルナジエンの共重合体1.41gを得た。
重合活性は2.88kg/mmol・hrであった。
得られたエチレン・ベンゾノルボルナジエン共重合体の組成は、13C-NMR測定より構成単位(A):エチレン66mol%、構成単位(B):ベンゾノルボルナジエン34mol%であった。
XRD測定により、2θ=14°、16°付近に結晶由来のピークが観察され、上述した方法により算出した結晶化度は2%であった。
DSC測定にて、融解ピークが検出され、融点は279℃であった。
トルエンに対する耐薬品性は、ポリマーは溶解せず、容器の底に沈殿した状態であった(トルエンに対する耐薬品性:+)。
【0109】
[実施例5]
充分に窒素置換した500mLのガラス製オートクレーブにトルエン300mLとベンゾノルボルナジエン9.2gを装入し、エチレンガスを24L/時間、窒素ガスを72L/時間の流量で流通させ、600rpmで攪拌しながら50℃に昇温し、昇温後10分間保持した。
続いて、触媒2(ジメチルメチレン(3-メチル-シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウムジクロライド)を0.002mmolとメチルアルミノキサン0.6mmolをそれぞれ装入し、重合を開始させた。50℃で10分間、常圧下で重合させた後、過剰量のイソプロパノールを加え、重合を停止させ、ポリマー溶液を得た。当該共重合体は、重合反応中に溶媒内で溶解できず析出するため、ポリマー溶液は白濁していた。得られたポリマー溶液を、0.6mLの塩酸を添加した過剰量のメタノール/アセトン混合溶液(混合比率1/3(体積比))に加え、ポリマーを析出させた。析出させたポリマーを取り出し、130℃で一晩減圧乾燥し、粉末状のエチレンとベンゾノルボルナジエンの共重合体1.62gを得た。
重合活性は4.85kg/mmol・hrであった。
得られたエチレン・ベンゾノルボルナジエン共重合体の組成は、13C-NMR測定より構成単位(A):エチレン62mol%、構成単位(B):ベンゾノルボルナジエン38mol%であった。
XRD測定により、2θ=14°、16°付近に結晶由来のピークが観察され、上述した方法により算出した結晶化度は3%であった。
DSC測定にて、融解ピークが検出され、融点は273℃であった。
トルエンに対する耐薬品性は、ポリマーは溶解せず、容器の底に沈殿した状態であった(トルエンに対する耐薬品性:+)。
【0110】
[比較例1]
充分に窒素置換した500mLのガラス製オートクレーブにトルエン300mLとベンゾノルボルナジエン9.2gを装入し、エチレンガスを24L/時間、窒素ガスを72L/時間の流量で流通させ、600rpmで攪拌しながら50℃に昇温し、昇温後10分間保持した。
続いて、触媒1を0.005mmolとメチルアルミノキサン1.5mmolをそれぞれ装入し、重合を開始させた。50℃で10分間、常圧下で重合させた後、過剰量のイソプロパノールを加え、重合を停止させ、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を、1.5mLの塩酸を添加した過剰量のメタノール/アセトン混合溶液(混合比率1/3(体積比))に加え、ポリマーを析出させた。析出させたポリマーを取り出し、130℃で一晩減圧乾燥し、粉末状のエチレンとベンゾノルボルナジエンの共重合体2.22gを得た。
重合活性は2.67kg/mmol・hrであった。
得られたエチレン・ベンゾノルボルナジエン共重合体の組成は、13C-NMR測定より構成単位(A):エチレン70mol%、構成単位(B):ベンゾノルボルナジエン30mol%であった。
XRD測定にて結晶性由来ピークは確認されず、非晶性ポリマーであった。そのため、表1の結晶化度の欄には0%と記載した。
DSC測定にて、-20℃から350℃まで昇温したが、融解ピークは検出されなかった。
トルエンに対する耐薬品性は、ポリマーは溶解しないが、溶媒で膨潤して、白濁した状態であった(トルエンに対する耐薬品性:-)。
【0111】
[比較例2]
充分に窒素置換した500mLのガラス製オートクレーブにシクロヘキサン/ヘキサン(9/1)混合溶液300mLとベンゾノルボルナジエン18.0gを装入し、エチレンガスを90L/時間、水素ガスを0.24L/時間の流量で流通させ、600rpmで攪拌しながら50℃に昇温し、昇温後10分間保持した。
続いて、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)1.5mmolと触媒3(3,5-ビス-1-メチルエチル-1-ピラゾレート-t-ブチルシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド)0.001mmolとトリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.004mmolを装入し、重合を開始させた。50℃で3分間、常圧下で重合させた後、過剰量のイソプロパノールを加え、重合を停止させ、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を、1.5mLの塩酸を添加した過剰量のメタノール/アセトン混合溶液(混合比率1/3(体積比))に加え、ポリマーを析出させた。析出させたポリマーを取り出し、130℃で一晩減圧乾燥し、粉末状のエチレンとベンゾノルボルナジエンの共重合体4.49gを得た。
重合活性は89.8kg/mmol・hrであった。
得られたエチレン・ベンゾノルボルナジエン共重合体の組成は、13C-NMR測定より構成単位(A):エチレン57mol%、構成単位(B):ベンゾノルボルナジエン43mol%であった。
XRD測定にて結晶性由来ピークは確認されず、非晶性ポリマーであった。そのため、表1の結晶化度の欄には0%と記載した。
DSC測定にて、-20℃から350℃まで昇温したが、融解ピークは検出されなかった。
トルエンに対する耐薬品性は、ポリマーは溶解し、溶け残りがなく透明な状態であった(トルエンに対する耐薬品性:--)。
【0112】
【0113】
実施例では比較例と比べ耐薬品性が向上していた。このことから、本実施形態によると耐薬品性に優れた環状オレフィン系共重合体を提供できることがわかる。