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特開2024-169049パルプモールディング成形品の折り曲げ加工品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169049
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】パルプモールディング成形品の折り曲げ加工品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21J 5/00 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
D21J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086230
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 厚史
(72)【発明者】
【氏名】宮川 惇紀
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055BF07
4L055CJ06
4L055EA08
4L055EA15
4L055FA22
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】 複雑な構造の金型を使うことなくアンダーカットが付与され、無理抜きによる破損や変形が発生しないパルプモールディング成形品を提供する。
【解決手段】 本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品1は、パルプモールディング成形品2からなり、主体部21と、主体部21の表面に沿って折り曲げられた1以上の折り曲げ片22とを備え、折り曲げ片22が、主体部21の表面に沿った状態で主体部21の型抜き方向に対してアンダーカット形状となる、凹部222及び/又は凸部221を有している。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプモールディング成形品からなり、
主体部と、前記主体部の表面に沿って折り曲げられた1以上の折り曲げ片とを備え、
前記折り曲げ片が、前記主体部の表面に沿った状態で前記主体部の型抜き方向に対してアンダーカット形状となる、凹部及び/又は凸部を有している、
パルプモールディング成形品の折り曲げ加工品。
【請求項2】
前記主体部と前記折り曲げ片とで厚みが異なる、請求項1記載のパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品。
【請求項3】
前記折り曲げ片の前記凹部及び前記凸部が、前記凹部及び前記凸部の周囲と厚みが異なる、請求項1又は請求項2記載のパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品。
【請求項4】
前記折り曲げ片が前記主体部の端部以外の部分から折り曲げられており、
前記折り曲げ片の折り曲げ開始部分が前記主体部と全周囲で連続している、請求項1又は請求項2記載のパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品。
【請求項5】
前記主体部が内側面と外側面とを有し、
前記折り曲げ片が、前記主体部の前記内側面と前記外側面との境界から、前記内側面及び/又は前記外側面に沿うように折り曲げられている、請求項1又は請求項2記載のパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品。
【請求項6】
前記主体部が筒又は容器である、請求項5記載のパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品。
【請求項7】
前記凹部及び前記凸部が線状であり、前記筒又もしくは前記容器の前記内側面、又は前記筒又もしくは前記容器の前記外側面にスクリューを構成する、請求項6記載のパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品。
【請求項8】
前記折り曲げ片の折り曲げ開始部分に、ミシン入れ又はスジ入れが施されている、請求項1記載のパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品。
【請求項9】
前記主体部が内側面と外側面とを有する容器であり、
前記折り曲げ片が、前記容器の前記外側面に沿うように折り曲げられており、
前記折り曲げ片の先端かつ外側に前記凸部を有し、
前記凸部が、前記折り曲げ片の最先端に近づくほど厚みを増すように三角形の断面を有し、
断面が三角形の前記凸部が、前記容器の前記外側面の全周囲に設けられるか、又は前記容器の前記外側面の周囲に分散して配置されている、請求項1又は請求項2記載のパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品。
【請求項10】
主体部と、前記主体部の表面に設けられた1以上の折り曲げ前の折り曲げ片とを備え、前記折り曲げ片が凹部及び/又は凸部を有し、前記折り曲げ片とその前記凹部及び前記凸部が金型内で前記主体部の型抜き方向に対してアンダーカット形状とならない成形品を、パルプモールディングの工法により得る成形工程と、
成形後に、前記パルプモールディング成形品の前記折り曲げ片を前記主体部の表面に沿って折り曲げることにより、前記凹部及び前記凸部を前記主体部の型抜き方向に対してアンダーカット形状とする折り曲げ工程とを備えた、
パルプモールディング成形品の折り曲げ加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑な構造の金型を使うことなくアンダーカットが付与され、無理抜きによる破損や変形が発生しない、パルプモールディング成形品の折り曲げ加工品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脱炭素社会に貢献するプラスチック代替となるパルプ成形品が脚光を浴びている。パルプ成形品は、石油由来のプラスチックと比較して廃棄時に排出される二酸化炭素の排出量を抑制することが出来る。また焼却時に排出される二酸化炭素は、主原料となる植物が成長する際に吸収するため二酸化炭素の削減に貢献する。パルプ成形品の用途としては、例えば、医薬品・医療機器、化粧品、コンシューマーエレクトロニクス、産業機器、日用品、文具などのパッケージ(トレー、外箱、梱包資材など)、製品への活用を想定されている。
本出願人においては、一般的なパルプモールディングのほか、その発展形であるパルプインジェクション、ペーパーフォーム、パルプサーモフォーミング、ペーパープレッシング等の各種工法により、パルプ成形品に複雑な形状や特徴ある質感などを再現している。
【0003】
上記した各工法のうち第1に挙げたパルプモールディングについて詳しく説明すると、非特許文献1に示すように、以下の成形工程を経て。パルプ成形品(以下、本工法によるパルプ成形品を他と区別して「パルプモールディング成形品」と呼ぶ)を得るものである
1 原料3となる再生紙や古紙と水をかき混ぜる。
2 紙漉きと同様の原理でメッシュを張った金型4(以下、「メッシュ金型」という)に原料3を吸着させて3D形状を作る(図14(a)参照)。
3 メッシュ金型4とプレス金型5とで上下から挟み込み圧力を加え、押し固める(図14(b)参照)。
4 金型4,5から取り出して、乾燥炉に入れて水分を飛ばして乾燥させる。
5 外周の不要な部分のトリミングや穴加工などの二次工程を加えて製品が完成する。
上記パルプモールディングは、再生紙や古紙を使用するため、前述した各工法の中でもとくに環境にやさしい工法となる。
【0004】
また、得られたパルプモールディング成形品2は、紙の質感を最大限に活かした表面の仕上がりとなる。また、パルプモールディング成形品2は、厚みの調整が可能で、厚みを厚くすることで緩衝性を発揮する。さらに、パルプモールディング成形品2は、着色・刻印を施すことで自由なテクスチャー表現ができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“カスタム設計の乾式パルプモールド|パルプモールディング -ecosense molding”,[online],NISSHA株式会社,connect.nissha.com,[令和5年 5月 22 日検索],インターネット<URL:https://connect.nissha.com/ecosense/molding/pulp/pulp-molding/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1に示すパルプモールディングで、単純な構造の金型を用いてアンダーカット形状を有するパルプモールディング成形品2を製造しようとすると、無理抜きによるパルプモールディング成形品の破損や変形が発生し、綺麗に成形することが難しい。
ここで、アンダーカットとは、成形分野において、成形品を金型から取り出す際に金型の開閉方向(あるいは成形品の型抜き方向)には離型出来ない形状部分のことを言う。一般的には、成形品を金型の開閉方向から見て影になる部分であり、例えば、成形品の壁にある横穴や、成形品の外壁や内壁から突き出している突起物など、どれもアンダーカットに相当する。アンダーカット形状(アンダー形状ともいう)とは、そのようなアンダーカット23を備えた形状のことを言う(図14(d)参照)。
【0007】
アンダーカット23の対策としては、一般的には金型にスライド機構を設定する。具体的には、金型のアンダーカットを形成する部分を分割(駒割り)し、成形の際に分割した部分を型抜き方向とは違う方向に成形品と干渉しない位置までスライドさせる。その結果、成形品と金型とが無理なく離型可能となる(図14(c)参照、図中のプレス金型5は型抜き方向と垂直な方向に移動するスライドコア51を備えている)。
しかしながら、金型の構造が複雑になる程、型強度の低下や細かいトラブルが増えていき、量産性の良くない金型になってしまう傾向がある。とくに、パルプモールディング成形品2の前述した用途では、単価を考えると経済的ではない。
【0008】
したがって、本発明は、上記の課題を解決し、複雑な構造の金型を使うことなくアンダーカットが付与され、無理抜きによる破損や変形が発生しないパルプモールディング成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(以下、省略して「折り曲げ加工品」とも呼ぶ)は、パルプモールディング成形品からなり、主体部と、主体部の表面に沿って折り曲げられた1以上の折り曲げ片とを備えている。また、折り曲げ片が、主体部の表面に沿った状態で主体部の型抜き方向に対してアンダーカット形状となる、凹部及び/又は凸部を有している。
【0010】
上記折り曲げ加工品において、主体部と折り曲げ片とで厚みが異なっていてもよい。
【0011】
また、上記折り曲げ加工品において、折り曲げ片の凹部及び凸部が、凹部及び凸部の周囲と厚みが異なっていてもよい。
【0012】
また、上記折り曲げ加工品において、折り曲げ片が主体部の端部以外の部分から折り曲げられていてもよい。この場合、折り曲げ片の折り曲げ開始部分は、主体部と全周囲で連続している。
【0013】
また、上記折り曲げ加工品において、主体部が内側面と外側面とを有していてもよい。この場合、折り曲げ片が、主体部の内側面と外側面との境界から、内側面及び/又は外側面に沿うように折り曲げられていてもよい。
【0014】
また、上記折り曲げ加工品において、折り曲げ片が主体部の内側面と外側面との境界から折り曲げられている場合、主体部が筒又は容器であってもよい。
【0015】
また、上記折り曲げ加工品において、筒又は容器の内側面と外側面との境界から折り曲げ片が折り曲げられている場合、凹部及び凸部が線状であってもよい。そして、この線状の凹部及び凸部によって、筒又もしくは容器の内側面、又は筒又もしくは容器の外側面にスクリューを構成していてもよい。
【0016】
また、上記折り曲げ加工品において、折り曲げ片の折り曲げ開始部分に、ミシン入れ又はスジ入れが施されてもよい。
【0017】
また、上記折り曲げ加工品において、主体部が内側面と外側面とを有する容器であってもよい。この容器は、その外側面に沿うように折り曲げ片が折り曲げられていてもよい。この折り曲げ片は、先端かつ外側に凸部を有していてもよい。この凸部は、折り曲げ片の最先端に近づくほど厚みを増すように三角形の断面を有していてもよい。この断面が三角形の凸部は、容器の外側面の全周囲に設けられるか、又は容器の外側面の周囲に分散して配置されてもよい。
【0018】
本発明の一見地に係る折り曲げ加工品の製造方法は、成形工程と、折り曲げ工程とを備えている。
成形工程は、パルプモールディングの工法により成形品を得る。成形工程で得られる成形品は、主体部と、主体部の表面に設けられた1以上の折り曲げ前の折り曲げ片とを備えている。折り曲げ片は、凹部及び/又は凸部を有している。折り曲げ片とその凹部及び凸部は、金型内で主体部の型抜き方向に対してアンダーカット形状とならないものである。
折り曲げ工程は、成形後に、パルプモールディング成形品の折り曲げ片を主体部の表面に沿って折り曲げる。この折り曲げにより、折り曲げ片の凹部及び凸部を主体部の型抜き方向に対してアンダーカット形状とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品及びその製造方法によれば、複雑な構造の金型を使うことなくアンダーカットが付与され、無理抜きによる破損や変形が発生しないパルプモールディング成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)の一例を示す斜視図である。
図2】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)が折り曲げられる前の状態の一例を示す側面図および正面図である。
図3】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)を製造する工程の一例を示す模式断面図である。
図4】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)において主体部と折り曲げ片とで厚みが異なっている例を示す模式断面図である。
図5】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)において折り曲げ片の凸部がその周囲と厚みが異なっている例を示す模式断面図である。
図6】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)において折り曲げ片が主体部の端部以外の部分から折り曲げられている例を示す模式断面図である。
図7】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)において折り曲げ片の凸部がスクリューを構成する例を示す斜視図である。
図8】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品において折り曲げ片の折り曲げ開始部分にミシン入れ又はスジ入れが施されている例を、折り曲げられる前の状態で示す部分拡大正面図である
図9】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)において蓋に対するタンパーエビデンスを付与する例を示す模式断面図である。
図10】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)において主体部が筒である例を示すも模式断面図
図11】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(内折り)の一例を示す斜視図である。
図12】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)においてアンダーカットが非線状凸部であるの一例を示す斜視図である。
図13】本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)においてアンダーカットが凹部である例を示す模式図である。
図14】従来技術に係るアンダーカット形状を有するパルプモールディング成形品を製造する工程の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、図面に基づき説明する。
(1)パルプモールディング成形品の折り曲げ加工品
まず、第1実施形態の折り曲げ加工品の全体構造について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)の一例を示す斜視図である。図2は、本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)が折り曲げられる前の状態の一例を示す側面図および正面図である。
【0022】
図1(b)に示す折り曲げ加工品1は、図1(a)及び図2に示すパルプモールディング成形品2からなり、主体部21と、主体部21の表面に沿って折り曲げられた対向する一対の折り曲げ片22とを備えている。
【0023】
図1及び図2に示す主体部21は、外側面213と内側面214とを有する有底筒状物、すなわち容器211である。容器211の筒状部211Cの形状は、図示した例では円筒状である。筒状部211C及び容器211の底部211Bの厚みは、0.5~10.0mm、より好ましくは0.7~5.0mmである。
【0024】
図1及び図2に示す各々の折り曲げ片22は、容器211の外側面213と内側面214との境界から、外側面213に沿うように折り曲げられている。すなわち、容器211の外側面213と内側面214との境界が、折り曲げ開始部分である折り曲げ片後端22Rとなる。また、折り曲げ片22は、折り曲げた後に折り曲げ加工品1の外側となる部分に線状凸部221Lを有している。この線状凸部221Lは、容器211の外側面213とおおよそ同心円の線上に存在する。
【0025】
各々の折り曲げ片22の線状凸部221Lは、容器211の外側面213に沿った状態で容器211の型抜き方向に対してアンダーカット形状となる。すなわち、折り曲げ加工品1としては、線状凸部221Lがアンダーカット23である。
【0026】
(2)パルプモールディング成形品の折り曲げ加工品を製造する方法
図3は、本発明に係るパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品(外折り)を製造する工程の一例を示す模式断面図である。なお、本実施形態の折り曲げ片22は、実際には図1及び図2に示すように曲面を有しているが、図3の模式断面図では理解しやすいように曲面を無視し簡略化して描いている。同様に、図3の模式断面図では、線状凸部221Lなどの寸法も誇張して描いている。
【0027】
本実施形態の折り曲げ加工品2の製造方法は、パルプモールディングの工法により、上記(1)で述べたパルプモールディング成形品2を得る成形工程(図3(a)~(b)参照)と、この成形後に、パルプモールディング成形品2の折り曲げ片22を主体部21の表面に沿って折り曲げることにより、上記(1)で述べた折り曲げ加工品1を得る折り曲げ工程(図3(c)~(d)参照)とを備える。
【0028】
成形工程では、先ず、水槽8中で原料3となる再生紙や古紙と水をかき混ぜ、紙漉きと同様の原理でメッシュ金型4に原料3を吸着させることにより、パルプモールディング成形品2の3D形状を作る(図3(a)参照)。このとき、メッシュ金型4は、パルプモールディング成形品2の主体部21の型抜き方向(図中の上下方向)に対してアンダーカット形状を付与しない。メッシュ金型4は、図3(a)に示すように、主体部21の型抜き方向に垂直な方向(図中の左右方向)に伸びる折り曲げ片22に、メッシュ金型4の溝に嵌る線状凸部221Lを付与するだけである。
次いで、メッシュ金型4を水槽8から引き揚げた状態で、メッシュ金型4に対してプレス金型5を下降させて型締めする。すなわち、メッシュ金型4とプレス金型5とで上下から挟み込み圧力を加え、原料3を押し固める(図3(b)参照)。図示した例では、パルプモールディング成形品2の厚みが均一になるように、メッシュ金型4とプレス金型5との間隔が設定されている。
最後に、パルプモールディング成形品2を金型4,5から取り出して、乾燥炉に入れて水分を飛ばして乾燥させる。あるいは、パルプモールディング成形品2を金型4,5内に保持したまま加熱し、パルプモールディング成形品2の水分を飛ばして乾燥させてもよい(つまり、本発明の成形にはパルプサーモフォーミングも含める)。
なお、乾燥後、必要に応じて、パルプモールディング成形品2の外周の不要な部分のトリミングや穴加工などの二次工程を加えてもよい。
【0029】
折り曲げ工程では、成形後のパルプモールディング成形品2(図3(c)参照)の折り曲げ片22を、主体部21(容器211)の外側面213(容器211の外側面213)と内側面214(容器211の外側面214)との境界から、主体部21の外側面213に沿うように折り曲げる。図中の白枠矢印は折り曲げ方向を示す。これにより、折り曲げ片22の線状凸部221Lを主体部21の型抜き方向に対してアンダーカット形状とすることができる(図3(d)参照)。
折り曲げ手段としては、例えば手加工、機械加工などを用いるとよい。
なお、折り曲げ工程は、製品製造時に行なってもよいし、後の内容物充填時のキャップタイミングで行なってもよい。
【0030】
(3)特徴
以上のように、本実施形態では、成形されたパルプモールディング成形品2が、金型4,5内でアンダーカット形状を有していない。金型4,5内から取り出されたパルプモールディング成形品2の折り曲げ片22を折り曲げることにより、アンダーカット23が付与される。
したがって、上記したパルプモールディング成形品の折り曲げ加工品の構造及びその製造方法によれば、スライド機構のような複雑な構造の金型を使うことなくパルプモールディング成形品2にアンダーカット23が付与され、かつ、無理抜きにならないため破損や変形も発生しない。
【0031】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態を、図4に基づき説明する。
本実施形態のパルプモールディング成形品2およびその折り曲げ加工品1では、主体部21(容器211)と折り曲げ片22とで厚みが異なる点で第1実施形態と異なる。
図4に示す例では、主体部21(容器211)が厚く、折り曲げ片22が比較して薄い。このように主体部21を肉厚とすることにより、容器211としての使用に耐え得る強度を得ることができる。一方、折り曲げ片22を薄肉とすることにより、折り曲げが容易となる。
なお、用途によっては、主体部21を薄く、折り曲げ片22を比較して厚くすることもできる。
【0032】
本実施形態のようにパルプモールディング成形品2の主体部21と折り曲げ片22とで厚みを異ならせる場合、メッシュ金型4とプレス金型5との間隔を主体部21に対応する部分、折り曲げ片22に対応する部分の肉厚に合わせて設定するとよい。また、パルプモールディング工法における公知の他の方法により厚みを異ならせてもよい。いずれにしろ、パルプモールディング工法による成形では、紙製板材を使用して組み立てる紙製容器では困難な肉厚差も、容易に設定できる。
【0033】
その他の構成については、第1実施形態と同様であるから説明を省略する。
【0034】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態を、図5に基づき説明する。
本実施形態のパルプモールディング成形品2およびその折り曲げ加工品1では、折り曲げ片22の線状凸部221Lが、線状凸部221Lの周囲と厚みが異なる点で第1実施形態と異なる。
図5(c)(d)に示す例では、折り曲げ片22の線状凸部221Lにおいて断面が三角形状をしており、折り曲げ片22の線状凸部221Lが設けられた面とは反対面が平滑である。このように線状凸部221Lを形成することにより、外力が加わっても線状凸部221Lの形が変形しない強度を得ることができる。
【0035】
本実施形態のようにパルプモールディング成形品2の折り曲げ片22において線状凸部221Lと線状凸部221Lの周囲とで厚みを異ならせる場合、線状凸部221Lに対応するメッシュ金型4の溝411に沿ってプレス金型5が原料3を介して嵌り込まないように設定するとよい。より具体的には、金型本体41にメッシュ42を張ってなるメッシュ金型4において金型本体41の溝411にメッシュ42を沿わせ(図5(a)参照)、プレス金型5においてメッシュ金型4の溝411と対応する部分をフラットとすることで金型のクリアランスを調整し(図5(b)参照)、メッシュ金型4の溝411内で押し固められた原料3の分だけ周囲より肉厚を盛ることができる。
このようにパルプモールディング工法による成形では、紙製板材を使用して組み立てる紙製容器では困難な肉厚差も、容易に設定できる。
【0036】
その他の構成については、第1実施形態と同様であるから説明を省略する。
【0037】
[第4実施形態]
以下、本発明の第4実施形態を、図6に基づき説明する。
本実施形態の折り曲げ加工品1では、折り曲げ片22が主体部21の端部以外の部分から折り曲げられており、折り曲げ片22の折り曲げ開始部分22Rが主体部21と全周囲で連続している点で第1実施形態と異なる。
図6に示す例では、折り曲げ片22の折り曲げ開始部分22Rが、主体部21である容器211の筒状部211Cの上端よりも底部211B側に少し下がった箇所に存在している。このように折り曲げ片22が主体部21の端部以外の部分から折り曲げられることにより、主体部2のデザイン設計がより自由となる。例えば、筒状部211Cの底部211Bからの高さを変化させて筒状部211Cの上端を波状に設計しても、折り曲げ片22の折り曲げを阻害しない。
【0038】
パルプモールディング工法による成形ではこのような形状の成形は容易であるが、紙製板材を使用して組み立てる紙製容器では無理な形状である。
【0039】
その他の構成については、第1実施形態と同様であるから説明を省略する。
【0040】
[第5実施形態]
以下、本発明の第5実施形態を、図7に基づき説明する。
本実施形態の折り曲げ加工品1では、アンダーカット23として容器211(主体部21)の外側面213に形成されている線状凸部221Lが、スクリュー231を構成する点で第1実施形態と異なる。
図7に示す例では、一対の折り曲げ片22,22が、それぞれ外折りで折り曲げられた状態で容器211の筒状部211Cのうち上部半周ずつを覆っている。また、折り曲げ片22の線状凸部221Lは、折り曲げ片22の幅方向において全体に亘って2列で形成され、容器211の底部211Bに対してそれぞれ傾斜している。また、一方の折り曲げ片22の傾斜した線状凸部221Lと他方の折り曲げ片22の傾斜した線状凸部221Lとは、回転しながら回転面に垂直な方向へ移動する1本の曲線となるように繋がっている。すなわち、図に示す例では2回転するスクリューである。
【0041】
このように線状凸部221Lがスクリュー231を構成することによって、容器211のスクリュー231による溝にスクリュー式の蓋(図示せず)を回転させながら嵌め込むことができる。この場合、蓋と容器211の噛み合う接点が広いので、容器211に収納される液体などが漏れるのを防止するに適している。なお、図7に示す例では、スクリュー231は2回転だが、本実施形態のスクリュー231は3回転以上であってもよい。
【0042】
その他の構成については、第1実施形態と同様であるから説明を省略する。
【0043】
[第6実施形態]
以下、本発明の第6実施形態を、図8に基づき説明する。
本実施形態のパルプモールディング成形品2およびその折り曲げ加工品1では、折り曲げ片22の折り曲げ開始部分22Rに、ミシン入れ又はスジ入れが施されている点で第1実施形態と異なる。
【0044】
図8(a)に示す例では、折り曲げ片22の折り曲げ開始部分22Rに1本のミシン目241が設けられている(ミシン入れ)。パルプモールディング成形品2が肉厚である場合、ミシン目241を入れておくことによって、折り曲げ片22を思い通りの方向に折り曲げることが容易にできる。具体的には、折り曲げ片22が歪んで思わぬ方向に折り曲がってしまったり、折れたとしてもヒビがはいったようにシワシワになってしまったりすることを防止できる。
なお、ミシン目241の形成する割合は、大きすぎると折り曲げ片22が切り離されてしまうので、パルプモールディング成形品2の厚みや折り曲げ片22の幅などに応じて適宜設定する。また、図8(a)に示す例では、ミシン目241は1本のみであるが、複数本を並列させてもよい。
【0045】
図8(b)に示す例では、折り曲げ片22の折り曲げ開始部分22Rに1本のスジ242が設けられている(スジ入れ)。スジ242を入れておくことによって、ミシン目241と同様に、パルプモールディング成形品2が肉厚である場合でも、折り曲げ片22を思い通りの方向に折り曲げることが容易にできる。
ところで、スジ242には、凹んでいる側242aと、盛り上がっている側242bがある。このような場合、スジ242が凹んでいる側242aが山折りになり、盛り上がっている側242bが谷折りになる。パルプモールディング成形品2の折り曲げ片22を折り曲げたときは元の形に戻ろうとする力が働くが、凹んでいる側242aを山折りにするほうが元に戻ろうとする力を抑えやすい。したがって、図8(b)に示す例のように折り曲げ片22を容器211に対して外折りする場合、折り曲げ前の状態でスジ242の凹んでいる側242aが容器211の内側面214と連続する。
【0046】
上記したミシン入れ、スジ入れの加工は、成形工程のメッシュ金型4とプレス金型5とで上下から挟み込み圧力を加え、原料3を押し固めると同時に行なうことができる。また、乾燥後のトリミングや穴加工と同様に、二次工程として行なうこともできる。
【0047】
その他の構成については、第1実施形態と同様であるから説明を省略する。
【0048】
[第7実施形態]
以下、本発明の第7実施形態を、図9に基づき説明する。
本実施形態の折り曲げ加工品1では、折り曲げ片先端22Fに線状凸部221を有する点、その線状凸部221が折り曲げ片22の最先端に近づくほど厚みを増すように三角形の断面を有する点、その断面が三角形の線状凸部221が、容器211の外側面213の全周囲に設けられるか、又は容器211の外側面213の周囲に分散して配置されている点で第1実施形態と異なる。
【0049】
図9(a)~(b)に示すように、折り曲げ片先端22Fにおいて、線状凸部221を構成する1面が折り曲げ片22に対して垂直に立ち上がっていることによって(図中の垂直面221V)、容器211にタンパーエビデンス性を付与することができる。タンパーエビデンス性とは、蓋7で密封された食品などの容器211に手を加えられたことが明確にわかるようにすることで、意図的な改竄を防止することを意味する。
具体的には、図9(c)に示すように、折り曲げ片22を折り曲げた状態で、折り曲げ片22に対して垂直に立ち上がっている線状凸部221の垂直面221Vに引っ掛かるような係止爪71を有する蓋7で密封する場合、蓋7を上から嵌めるときには、蓋7が変形しながらその係止爪71が折り曲げ片22の線状凸部221の傾斜面221Sに沿って移動し、係止爪71が傾斜面221Sの端を超えた瞬間に蓋7が元の形状に戻る。この状態から、蓋7を上に引き上げても、折り曲げ片22に対して垂直に立ち上がっている線状凸部221の垂直面221Vに蓋7の係止爪71の一面が対向しているため、蓋7の係止爪71は折り曲げ片22の線状凸部221を乗り越えることは困難である。無理やりに蓋7を上に引き上げると、折り曲げ片後端22R部分が破壊されることにより、開封される。この折り曲げ片後端22R部分の破壊跡が開封済みの証拠となる。
【0050】
その他の構成については、第1実施形態と同様であるから説明を省略する。
【0051】
[変形例]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
【0052】
(a)上記各実施形態では、容器211の開口形状が円形の例について説明しているが、本発明の折り曲げ加工品1はこれに限定されない。例えば、第5実施形態のスクリュー構成以外では、容器211の開口形状を楕円形や多角形などの任意の形状としてもよい。
【0053】
(b)また、上記各実施形態では、対向する一対の折り曲げ片22,22を備えている例について説明しているが、本発明の折り曲げ加工品1はこれに限定されない。例えば、折り曲げ片22は1片だけでもよいし、3片以上であってもよい。
【0054】
(c)また、上記各実施形態では、主体部21が有底筒状物、すなわち容器211である例について説明しているが、本発明の折り曲げ加工品1はこれに限定されない。例えば、主体部21は、底部211Bが無く筒状部211Cのみからなる筒212であってもよい(図10参照)。
【0055】
(d)また、上記各実施形態では、全ての折り曲げ片22が主体部21の外側面213に沿うように折り曲げられている例について説明しているが、本発明の折り曲げ加工品1はこれに限定されない。例えば、図11に示すように、全ての折り曲げ片22が主体部21の内側面214に沿うように折り曲げられていてもよい(内折り)。
図11に示す例では、折り曲げ片22は、折り曲げた後に折り曲げ加工品1の内側となる部分に線状凸部221Lを有している。この線状凸部221Lは、容器211(主体部21)の内側面214とおおよそ同心円の線上に存在する。
なお、内折りにおいて第6実施形態で述べた折り曲げ用のスジ242を設ける場合、図8(c)に示すように、折り曲げ前の状態でスジ242の盛り上がっている側242bが容器211(主体部21)の内側面214と連続する。
さらに、折り曲げ片22の内折りと外折りを組み合わせてもよい。
【0056】
(e)また、上記各実施形態では、折り曲げ片22が有する凸部221が線状凸部221Lである例について説明しているが、本発明の折り曲げ加工品1はこれに限定されない。例えば、円柱、三角柱状(図12参照)などの多角柱、錐体状、半球状やその他の非線状の凸部221であってもよい。また、線状凸部221が曲線であってもよい。これらの非線状の凸部221も、線状凸部221Lと同様に、折り曲げ片22を折り曲げた状態で容器211の型抜き方向に対してアンダーカット形状となる。
【0057】
(f)また、上記各実施形態では、アンダーカット23が折り曲げ片22に設けられた凸部221である例について説明しているが、本発明の折り曲げ加工品1はこれに限定されない。例えば、アンダーカット23が折り曲げ片22に設けられた凹部222であってもよい(図13参照)。さらに、凸部221と凹部222を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 折り曲げ加工品
2 パルプモールディング成形品
21 主体部
211 容器
211B 底部
211C 筒状部
212 筒
213 外側面
214 内側面
215 開口部
22 折り曲げ片
22R 折り曲げ開始部分(=折り曲げ片後端)
22F 折り曲げ片先端
221 凸部
221L 線状凸部
221S 傾斜面
221V 垂直面
222 凹部
222L 線状凹部
23 アンダーカット
231 スクリュー
241 ミシン目
242 スジ
242a 凹んでいる側
242b 盛り上がっている側
3 原料
4 メッシュ金型
41 金型本体
411 溝
42 メッシュ
5 プレス金型
51 スライドコア
7 蓋
71 係止爪
8 水槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14