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特開2024-169055工具ホルダ、主軸および工具ホルダの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169055
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】工具ホルダ、主軸および工具ホルダの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/28 20060101AFI20241128BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20241128BHJP
   B23P 15/34 20060101ALI20241128BHJP
   B23H 9/00 20060101ALI20241128BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20241128BHJP
   B23H 7/22 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B23C5/28
B23Q11/10 D
B23P15/34
B23H9/00 Z
B23H7/02 Q
B23H7/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086236
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】市川 泰久
【テーマコード(参考)】
3C011
3C059
【Fターム(参考)】
3C011EE06
3C059AA01
3C059AB07
3C059DA03
3C059HA07
(57)【要約】
【課題】クーラントによる冷却能力を向上させつつ、工具ホルダの剛性を向上させることができる工具ホルダを得ること。
【解決手段】工具ホルダ2は、切削工具を保持する工具ホルダ2であって、工具ホルダ2の内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路21と、第1のクーラント流路21にクーラントを導入するための第1の導入口と、第1のクーラント流路21から切削工具に向かってクーラントを供給するための第1の供給口と、第1のクーラント流路21、第1の導入口および第1の供給口を囲む第1の外殻24と、第1の外殻24の内周面において第1のクーラント流路21の軸方向に延びて第1のクーラント流路21の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレット25と、が形成されている。第1の外殻24の最小厚さTminは、第1のクーラント流路21の最大半径Rmaxよりも大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具を保持する工具ホルダであって、
前記工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、
前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、
前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、
前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、
前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、
前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きいことを特徴とする工具ホルダ。
【請求項2】
前記工具ホルダの前記第1の外殻の外周面の輪郭を外形線として前記軸方向と直交する方向で切ったときの前記第1の外殻の断面積と前記第1のクーラント流路の断面積とを併せたホルダ断面積をCとし、前記第1のリブレットを含む前記第1のクーラント流路の輪郭を外形線として前記軸方向と直交する方向で切ったときの前記第1のクーラント流路の断面積を流路断面積Dとし、前記第1の外殻の外周面の輪郭と前記第1のクーラント流路の輪郭との間の前記第1の外殻の最小厚さをTminとし、前記第1のリブレットの最大高さをhmaxとしたときに、C/D≧4.0、かつ、Tmin/hmax≧8.0の関係が成立することを特徴とする請求項1に記載の工具ホルダ。
【請求項3】
複数の前記第1のリブレットは、同じ形状かつ同じ大きさであるか、または、形状および大きさのうち少なくとも一方が異なっていることを特徴とする請求項1に記載の工具ホルダ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の工具ホルダと、
前記工具ホルダに接続されて前記工具ホルダに回転力を伝達するスピンドル部と、を備え、
前記スピンドル部には、
前記第1のクーラント流路に連通するとともに前記スピンドル部の内部に配置されて前記クーラントを流すための第2のクーラント流路と、
前記第2のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第2の導入口と、
前記第2のクーラント流路から前記工具ホルダの前記第1のクーラント流路に向かって前記クーラントを供給するための第2の供給口と、
前記第2のクーラント流路、前記第2の導入口および前記第2の供給口を囲む第2の外殻と、
前記第2の外殻の内周面において前記第2のクーラント流路の軸方向に延びて前記第2のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第2のリブレットと、が形成されていることを特徴とする主軸。
【請求項5】
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
円筒形状の前記第1のクーラント流路が形成された前記工具ホルダを準備する準備工程と、
電極となる単一ワイヤを前記第1のクーラント流路に配置する配置工程と、
前記単一ワイヤと前記第1の外殻の内周面との間に放電を発生させながら前記単一ワイヤと前記工具ホルダとを前記周方向に相対的に移動させ前記単一ワイヤを軸方向に引き抜くことにより、前記第1の外殻の内周面に複数の前記第1のリブレットを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
【請求項6】
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
円筒形状の前記第1のクーラント流路が形成された前記工具ホルダを準備する準備工程と、
外周面の輪郭が複数の前記第1のリブレットの形状に対応する形状であって電極となるダイス引抜ワイヤを前記第1のクーラント流路に配置する配置工程と、
前記ダイス引抜ワイヤと前記第1の外殻の内周面との間に放電を発生させながら前記ダイス引抜ワイヤを前記第1の外殻の内周面に沿って前記軸方向に引き抜くことにより、前記第1の外殻の内周面に複数の前記第1のリブレットを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
【請求項7】
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
円筒形状の前記第1のクーラント流路が形成された前記工具ホルダを準備する準備工程と、
外周面の輪郭が複数の前記第1のリブレットの形状に対応する形状であるクーラント流路用切削工具を前記第1のクーラント流路に挿入して、前記クーラント流路用切削工具を前記第1の外殻の内周面に沿って前記軸方向に引き抜くことにより、前記第1の外殻の内周面に複数の前記第1のリブレットを形成する引抜工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
【請求項8】
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
前記第1のクーラント流路となる凹部が形成された工具ホルダを準備する準備工程と、
複数本のワイヤが撚り合わされることにより形成されて外周面の輪郭が複数の前記第1のリブレットの形状に対応する形状であるツイストワイヤと前記工具ホルダとの間に放電を発生させながら、前記ツイストワイヤを前記凹部の深さ方向に移動かつ軸まわりに同期回転させることにより、前記第1のクーラント流路と複数の前記第1のリブレットとを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
【請求項9】
前記放電工程では、絶縁コーティングが一部に施された前記ツイストワイヤを前記凹部の深さ方向に移動かつ軸まわりに同期回転させることを特徴とする請求項8に記載の工具ホルダの製造方法。
【請求項10】
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
前記第1のクーラント流路となる凹部が形成された工具ホルダを準備する準備工程と、
複数本のワイヤが溶接で一体化されることにより形成されて外周面の輪郭が複数の前記第1のリブレットの形状に対応する形状である溶接ワイヤと前記工具ホルダとの間に放電を発生させながら、前記溶接ワイヤを前記凹部の深さ方向に移動させることにより、前記第1のクーラント流路と複数の前記第1のリブレットとを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
【請求項11】
前記放電工程では、絶縁コーティングが一部に施された前記溶接ワイヤを前記凹部の深さ方向に移動させることを特徴とする請求項10に記載の工具ホルダの製造方法。
【請求項12】
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
円筒形状の前記第1のクーラント流路が形成された前記工具ホルダを準備する準備工程と、
型彫放電加工機に周方向に回転可能に取り付けられたフィルム電極を、前記第1のクーラント流路に配置する配置工程と、
前記フィルム電極と前記第1の外殻の内周面との間に放電を発生させながら前記フィルム電極を前記第1の外殻の内周面に沿って前記周方向に回転させることにより、前記第1の外殻の内周面に複数の前記第1のリブレットを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クーラント流路が形成される工具ホルダ、この工具ホルダを備える主軸および工具ホルダの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械のスピンドル部に着脱可能に取り付けられる工具ホルダが知られている。工具ホルダには、ワークを切削する切削刃などの切削工具が取り付けられている。消耗品である切削工具の寿命を延長させることは、切削工具の交換時間、切削工具の位置の調整時間、切削工具の使用本数の削減などに直結するため、製造コストの低減に大きく寄与する。切削工具の寿命を延長させるためには、加工熱の除去が有効な手段の1つである。加工熱を除去する手段としては、クーラントによる切削工具の冷却が効果的であるため、工具ホルダの内部には、クーラントを流すためのクーラント流路が形成されているのが一般的である。
【0003】
工具ホルダには、クーラント流路の他に、クーラント流路にクーラントを導入するための導入口と、クーラント流路から切削工具に向かってクーラントを供給するための供給口とが形成されている。また、工具ホルダは、導入口、供給口およびクーラント流路を囲む外殻を備えている。このような工具ホルダでは、クーラントが導入口からクーラント流路を経て供給口から切削工具に供給されることにより、切削工具の冷却を行うことができる。
【0004】
クーラントによる冷却能力を向上させる手段としては、特許文献1に開示されているようなリブレットを工具ホルダの外殻の内周面に形成する手段が考えられる。特許文献1に開示されているリブレットは、工具ホルダの外殻の内周面ではなく、水、石油などの流体が流れる金属管の内周面に形成されている。このようなリブレットを工具ホルダの外殻の内周面に形成した場合、外殻の内周面とクーラントとの間の摩擦抵抗を低減させて、クーラントの圧力損失を小さくすることができる。これにより、クーラントによる冷却能力を向上させることができるため、切削工具の寿命をさらに延長させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/088138号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、ダイスを用いた冷間引抜成形またはパイプ溶接により金属管の内周面にリブレットを形成する技術であり、金属管の先端部を口絞り加工したり、金属管を曲げたりするために、金属管が不可避的に薄肉になる。このような特許文献1に開示された技術を工具ホルダの外殻の内周面のリブレットの形成に適用すると、工具ホルダの外殻の厚さがクーラント流路の半径よりも極端に小さくなる。これにより、工具ホルダの剛性が不十分になる可能性がある。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、クーラントによる冷却能力を向上させつつ、工具ホルダの剛性を向上させることができる工具ホルダを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示にかかる工具ホルダは、切削工具を保持する工具ホルダであって、工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、第1のクーラント流路にクーラントを導入するための第1の導入口と、第1のクーラント流路から切削工具に向かってクーラントを供給するための第1の供給口と、第1のクーラント流路、第1の導入口および第1の供給口を囲む第1の外殻と、第1の外殻の内周面において第1のクーラント流路の軸方向に延びて第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成されている。第1の外殻の最小厚さは、第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、クーラントによる冷却能力を向上させつつ、工具ホルダの剛性を向上させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1にかかる工作機械を示した片側断面図
図2】実施の形態1にかかる工具ホルダおよび切削刃を示した断面図
図3図2に示されたIII-III線に沿った断面図
図4図3の部分拡大図であって、実施の形態1の第1のリブレットを示した断面図
図5】実施の形態1の第1のリブレットの変形例1を示した断面図
図6】実施の形態1の第1のリブレットの変形例2を示した断面図
図7】実施の形態1の第1のリブレットの変形例3を示した断面図
図8】工具ホルダのホルダ断面積を説明するための断面図であって、図2に示されるIII-III線に沿った断面図に相当する図
図9】工具ホルダの流路断面積を説明するための断面図であって、図2に示されるIII-III線に沿った断面図に相当する図
図10】単一ワイヤを用いた放電加工による工具ホルダの製造方法を説明するための図であって、準備工程を示した図
図11】単一ワイヤを用いた放電加工による工具ホルダの製造方法を説明するための図であって、配置工程および放電工程を示した断面図
図12】単一ワイヤを用いた放電加工による工具ホルダの製造方法を説明するための図であって、放電工程を示した図
図13】ダイス引抜ワイヤを用いた放電加工による工具ホルダの製造方法を説明するための図であって、準備工程および配置工程を示した図
図14】ダイス引抜ワイヤを用いた放電加工による工具ホルダの製造方法を説明するための図であって、放電工程を示した図
図15図14の部分拡大図
図16】引抜加工に用いられるクーラント流路用切削工具を示した図
図17】クーラント流路用切削工具を用いた引抜加工による工具ホルダの製造方法を説明するための図であって、準備工程および引抜工程を示した図
図18】クーラント流路用切削工具を用いた引抜加工による工具ホルダの製造方法を説明するための図であって、引抜工程を示した断面図
図19】放電加工に用いられるツイストワイヤの一例を示した図
図20】放電加工に用いられるツイストワイヤの変形例1を示した図
図21】実施の形態1にかかる第1のクーラント流路の変形例1を示した図
図22】実施の形態1にかかる第1のクーラント流路の変形例2を示した図
図23】放電加工に用いられる溶接ワイヤの一例を示した図
図24】放電加工に用いられる溶接ワイヤの変形例1を示した図
図25】放電加工に用いられるツイストワイヤの変形例2、または、放電加工に用いられる溶接ワイヤの変形例2を示した図
図26】放電加工に用いられる溶接ワイヤの変形例3を示した図
図27】フィルム電極を用いた放電加工による工具ホルダの製造方法を説明するための図であって、準備工程、配置工程および放電工程を示した図
図28】フィルム電極を用いた放電加工による工具ホルダの製造方法を説明するための図であって、準備工程および配置工程を示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施の形態にかかる工具ホルダ、主軸および工具ホルダの製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる工作機械100を示した片側断面図である。工作機械100は、主軸1と、切削刃4とを備えている。工作機械100は、切削刃4により図示しない被加工物を切削して加工する機械である。
【0013】
主軸1は、工具ホルダ2と、工具ホルダ2に接続されて工具ホルダ2に回転力を伝達するスピンドル部3とを備えている。工具ホルダ2の後記する第1のクーラント流路21は、中心軸Oを有する円筒形状に形成されている。以下、主軸1の各構成要素について方向を説明するときには、中心軸Oと平行な方向を軸方向、中心軸Oと直交する方向を半径方向、中心軸Oを中心とする回転方向を周方向とする。
【0014】
スピンドル部3は、ハウジング31と、ステータ32と、ロータ33と、シャフト34と、2対の軸受35と、連結ホルダ36とを備えている。
【0015】
ハウジング31は、ステータ32、ロータ33、シャフト34および軸受35を収容する部材である。ハウジング31は、軸方向の両端部が開口する円筒形状のフレーム31aと、フレーム31aの軸方向の両端部の開口部に配置される2つのブラケット31bとを有している。2つのブラケット31bのそれぞれには、シャフト34が挿入される挿入孔31cが形成されている。
【0016】
ステータ32は、ハウジング31の内部に配置されている。ステータ32は、フレーム31aの内周に配置されている。ステータ32は、フレーム31aの内周に嵌め込まれている。ステータ32は、ステータコア32aと、コイル32bとを有している。ステータコア32aは、円筒形状に形成されている。ステータコア32aは、第1のクーラント流路21の中心軸Oと同軸に配置されている。
【0017】
ロータ33は、ステータ32の内周に配置されている。ロータ33は、ステータ32と空隙を介して配置されている。ロータ33は、第1のクーラント流路21の中心軸Oと同軸に配置されている。
【0018】
シャフト34は、ロータ33の内周に配置されている。シャフト34は、ロータ33の内周に嵌め込まれている。シャフト34は、ロータ33の回転に伴って回転する。シャフト34は、第1のクーラント流路21の中心軸Oに沿って延びている。シャフト34は、第1のクーラント流路21の中心軸Oと同軸に配置されている。シャフト34の軸方向の両端部は、ブラケット31bの挿入孔31cを通じてハウジング31の外部に突出している。シャフト34の軸方向の一端部には、連結ホルダ36を介して工具ホルダ2が接続されている。シャフト34の内部には、クーラントを流すためのシャフト側流路34aが形成されている。シャフト側流路34aを含むシャフト34の詳細については後記する。
【0019】
軸受35は、シャフト34を回転可能に支持する部材である。軸受35は、各ブラケット31bの挿入孔31cの内周面に1対ずつ配置されている。シャフト34は、2対の軸受35により回転可能に支持されている。
【0020】
連結ホルダ36は、シャフト34と工具ホルダ2とを連結する部材である。連結ホルダ36は、円筒形状に形成されている。連結ホルダ36の内部には、クーラントを流すための連結ホルダ側流路36aが形成されている。連結ホルダ側流路36aを含む連結ホルダ36の詳細については後記する。
【0021】
工具ホルダ2は、切削工具である切削刃4を保持する部材である。工具ホルダ2は、円筒形状に形成されている。工具ホルダ2の材質は、炭素鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、ステンレス鋼、超硬合金鋼、マグネシウム合金鋼のいずれか1つ、または、2つ以上を含むことが好ましい。工具ホルダ2の軸方向の一端部には、切削刃4が取り付けられている。工具ホルダ2の軸方向の他端部は、連結ホルダ36に接続されている。工具ホルダ2の内部には、クーラントを流すための第1のクーラント流路21が形成されている。第1のクーラント流路21を含む工具ホルダ2の詳細については後記する。
【0022】
次に、シャフト34、連結ホルダ36および工具ホルダ2の構成について詳しく説明する。図2は、実施の形態1にかかる工具ホルダ2および切削刃4を示した断面図である。
【0023】
図2に示すように、工具ホルダ2には、工具ホルダ2の内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路21と、第1のクーラント流路21にクーラントを導入するための第1の導入口22とが形成されている。また、工具ホルダ2には、第1のクーラント流路21から切削刃4に向かってクーラントを供給するための第1の供給口23と、第1のクーラント流路21、第1の導入口22および第1の供給口23を囲む第1の外殻24とが形成されている。
【0024】
図1に示すように、シャフト34には、シャフト34の内部に配置されてクーラントを流すためのシャフト側流路34aと、シャフト側流路34aにクーラントを導入するためのシャフト側導入口34bとが形成されている。また、シャフト34には、連結ホルダ36の連結ホルダ側流路36aに向かってクーラントを供給するためのシャフト側供給口34cと、シャフト側流路34a、シャフト側導入口34bおよびシャフト側供給口34cを囲むシャフト側外殻34dとが形成されている。
【0025】
連結ホルダ36には、連結ホルダ36の内部に配置されてクーラントを流すための連結ホルダ側流路36aと、連結ホルダ側流路36aにクーラントを導入するための連結ホルダ側導入口36bとが形成されている。また、連結ホルダ36には、連結ホルダ側流路36aから工具ホルダ2の第1のクーラント流路21に向かってクーラントを供給するための連結ホルダ側供給口36cと、連結ホルダ側流路36a、連結ホルダ側導入口36bおよび連結ホルダ側供給口36cを囲む連結ホルダ側外殻36dとが形成されている。
【0026】
シャフト側流路34aと連結ホルダ側流路36aとは、第2のクーラント流路37となる。第2のクーラント流路37は、第1のクーラント流路21に連通するとともにスピンドル部3の内部に配置されてクーラントを流すための流路である。第2のクーラント流路37は、第1のクーラント流路21の中心軸Oと同軸に形成されている。軸方向で直交する方向で切ったときの第2のクーラント流路37の流路断面積は、軸方向で直交する方向で切ったときの第1のクーラント流路21の流路断面積よりも大きいことが好ましい。
【0027】
シャフト側導入口34bは、第2のクーラント流路37にクーラントを導入するための第2の導入口となる。連結ホルダ側供給口36cは、第2のクーラント流路37から工具ホルダ2の第1のクーラント流路21に向かってクーラントを供給するための第2の供給口となる。シャフト側外殻34dと連結ホルダ側外殻36dとは、第2のクーラント流路37、第2の導入口であるシャフト側導入口34bおよび第2の供給口である連結ホルダ側供給口36cを囲む第2の外殻となる。
【0028】
シャフト側供給口34cと連結ホルダ側導入口36bとは、互いに連通している。連結ホルダ側供給口36cと第1の導入口22とは、互いに連通している。シャフト側流路34aと第1のクーラント流路21とは、連結ホルダ側流路36aを介して互いに連通している。クーラントは、シャフト側流路34a、連結ホルダ側流路36a、第1のクーラント流路21の順に流れ、第1のクーラント流路21から第1の供給口23を通じて切削刃4に供給される。
【0029】
図3は、図2に示されたIII-III線に沿った断面図である。図4は、図3の部分拡大図であって、実施の形態1の第1のリブレット25を示した断面図である。図3に示すように、第1のクーラント流路21の軸方向と直交する方向で切ったときの第1の外殻24の断面形状は、環状である。以下、断面形状とは、軸方向と直交する方向で切ったときの断面形状のことを意味する。工具ホルダ2には、第1の外殻24の内周面において第1のクーラント流路21の軸方向に延びる複数の第1のリブレット25が形成されている。複数の第1のリブレット25は、第1のクーラント流路21の周方向に互いに間隔を空けて配置されている。複数の第1のリブレット25は、本実施の形態では等間隔で配置されているが、不等間隔で配置されていてもよい。第1のリブレット25は、第1の外殻24の内周面から第1のクーラント流路21の半径方向内側に向かって突出する凸部である。
【0030】
複数の第1のリブレット25は、本実施の形態では同じ形状かつ同じ大きさである。図4に示すように、複数の第1のリブレット25の断面形状は、本実施の形態では第1の外殻24の内周面から第1のクーラント流路21の半径方向内側に向かうにつれて先細りとなる台形状である。図4に示される符号hは、第1のリブレット25の高さを表している。図4に示される符号sは、隣り合う第1のリブレット25の距離を表している。図4に示される符号tは、第1のリブレット25の幅を表している。複数の第1のリブレット25のそれぞれの高さh、距離sおよび幅tは、本実施の形態では同じである。
【0031】
第1のリブレット25の断面形状および大きさは、クーラントの圧力、温度などの流体条件を考慮して適宜変更してもよい。例えば、図5から図7に示される第1のリブレット25の断面形状および大きさにしてもよい。図5は、実施の形態1の第1のリブレット25の変形例1を示した断面図である。図6は、実施の形態1の第1のリブレット25の変形例2を示した断面図である。図7は、実施の形態1の第1のリブレット25の変形例3を示した断面図である。図5に示される複数の第1のリブレット25は、同じ形状かつ同じ大きさである。図5に示される複数の第1のリブレット25の断面形状は、一定の幅tを有する矩形状である。
【0032】
図6に示される複数の第1のリブレット25は、同じ形状かつ異なる大きさである。図6に示される複数の第1のリブレット25の断面形状は、第1の外殻24の内周面から第1のクーラント流路21の半径方向内側に向かうにつれて先細りとなる台形状である。本変形例では、異なる高さh1,h2、異なる距離s1,s2および異なる幅t1,t2を有する第1のリブレット25が混在している。
【0033】
図7に示される複数の第1のリブレット25は、同じ形状かつ異なる大きさである。図7に示される複数の第1のリブレット25の断面形状は、一定の幅t1,t2を有する矩形状である。本変形例では、異なる高さh1,h2、異なる距離s1,s2および異なる幅t1,t2を有する第1のリブレット25が混在している。
【0034】
複数の第1のリブレット25の断面形状は、図示した例に限定されず、例えば、第1の外殻24の内周面から第1のクーラント流路21の半径方向内側に向かうにつれて先鋭となる三角形状であってもよい。また、複数の第1のリブレット25は、異なる形状であってもよい。すなわち、複数の第1のリブレット25は、同じ形状かつ同じ大きさであるか、または、形状および大きさのうち少なくとも一方が異なっていればよい。
【0035】
具体的な図示は省略するが、図1に示されるシャフト34および連結ホルダ36にも、複数のリブレットが形成されている。以下、シャフト34の複数のリブレットをシャフト側リブレット34eと称する。一方、連結ホルダ36の複数のリブレットを連結ホルダ側リブレット36eと称する。シャフト34の複数のシャフト側リブレット34eと連結ホルダ36の複数の連結ホルダ側リブレット36eとは、第2の外殻の内周面において第2のクーラント流路37の軸方向に延びて第2のクーラント流路37の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第2のリブレット38となる。なお、図3から図7は工具ホルダ2の断面図ではあるが、説明の便宜上、図3から図7に第1のリブレット25の符号と第2のリブレット38の符号とシャフト側リブレット34eの符号と連結ホルダ側リブレット36eの符号とを併記する。
【0036】
シャフト側リブレット34eは、第1のリブレット25と同じ形状かつ同じ大きさであってもよいし、第1のリブレット25とは形状および大きさのうち少なくとも一方が異なっていてもよい。連結ホルダ側リブレット36eは、第1のリブレット25およびシャフト側リブレット34eと同じ形状かつ同じ大きさであってもよいし、第1のリブレット25あるいはシャフト側リブレット34eとは形状および大きさのうち少なくとも一方が異なっていてもよい。第2のクーラント流路37は、クーラントの圧力損失を小さくして第1のクーラント流路21に向かってクーラントを勢い良く供給する必要がある。また、第2のクーラント流路37を流れるクーラントは、スピンドル部3から発生する熱を冷却する役割を果たす。これらのことを考慮して、シャフト側リブレット34eおよび連結ホルダ側リブレット36eのそれぞれの形状および大きさを適宜決定すればよい。なお、図1のドットハッチングは、第1のクーラント流路21のうち第1のリブレット25が形成される箇所および第2のクーラント流路37のうち第2のリブレット38が形成される箇所を表している。図2のドットハッチングは、第1のクーラント流路21のうち第1のリブレット25が形成される箇所を表している。
【0037】
図8は、工具ホルダ2のホルダ断面積Cを説明するための断面図であって、図2に示されるIII-III線に沿った断面図に相当する図である。図9は、工具ホルダ2の流路断面積Dを説明するための断面図であって、図2に示されるIII-III線に沿った断面図に相当する図である。ここでは、図8に示される工具ホルダ2の第1の外殻24の外周面の輪郭を外形線として軸方向と直交する方向で切ったときの第1の外殻24の断面積と第1のクーラント流路21の断面積とを併せたホルダ断面積をCとする。図8では、ホルダ断面積Cの範囲を明確にするために、ホルダ断面積Cに相当する部分に斜線ハッチングを付している。また、図9に示される第1のリブレット25を含む第1のクーラント流路21の輪郭を外形線として軸方向と直交する方向で切ったときの第1のクーラント流路21の断面積を流路断面積Dとする。図9では、流路断面積Dの範囲を明確にするために、流路断面積Dに相当する部分のみに斜線ハッチングを付している。
【0038】
また、図8に示される第1の外殻24の外周面の輪郭と第1のクーラント流路21の輪郭との間の最小厚さをTminとする。また、図8に示される第1のリブレット25の最大高さをhmaxとする。第1のクーラント流路21を流れるクーラントによる冷却能力の向上と工具ホルダ2の剛性の向上とを両立させるためには、C/D≧4.0、かつ、Tmin/hmax≧8.0の関係が成立することが好ましい。なお、第1の外殻24の外周面の輪郭の大きさが軸方向に沿って変化する場合には、第1の外殻24の外周面の輪郭のうち最も小さい最小部を外形線として軸方向と直交する方向で切ったときの第1の外殻24の断面積と第1のクーラント流路21の断面積とを併せた断面積をホルダ断面積Cとする。また、図6および図7に示されるように異なる高さh1,h2を持つ第1のリブレット25が混在する場合には、第1のリブレット25の最大高さhmaxは、最も高い高さh1になる。
【0039】
図8に示される第1のリブレット25を含む第1のクーラント流路21の最大半径をRmaxとする。最小厚さTminは、最大半径Rmaxよりも大きい。すなわち、Tmin>Rmaxの関係になる。
【0040】
次に、本実施の形態にかかる工具ホルダ2の製造方法について説明する。すなわち、C/D≧4.0、かつ、Tmin/hmax≧8.0の関係が成立する工具ホルダ2の製造方法について説明する。このような工具ホルダ2の製造方法として、複数の製造方法がある。はじめに、図10から図12を参照して、単一ワイヤ5を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法について説明する。図10は、単一ワイヤ5を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法を説明するための図であって、準備工程を示した図である。図11は、単一ワイヤ5を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法を説明するための図であって、配置工程および放電工程を示した断面図である。図12は、単一ワイヤ5を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法を説明するための図であって、放電工程を示した図である。図10および図12は、工具ホルダ2および単一ワイヤ5を軸方向に沿って見たときの図である。図11は、工具ホルダ2を軸方向に沿って切ったときの断面図である。工具ホルダ2の製造方法は、準備工程と、配置工程と、放電工程とを含んでいる。
【0041】
図10に示すように、準備工程は、円筒形状の第1のクーラント流路21が形成された工具ホルダ2を準備する工程である。
【0042】
配置工程は、電極となる単一ワイヤ5を第1のクーラント流路21に配置する工程である。単一ワイヤ5の形状は、円形である。図11に示すように、配置工程では、軸方向にテンションが掛けられた状態の単一ワイヤ5を第1のクーラント流路21に配置する。単一ワイヤ5の軸方向の両端部は、第1のクーラント流路21の外部に配置されていて、保持具6により保持されている。
【0043】
図12に示すように、放電工程では、単一ワイヤ5と第1の外殻24の内周面との間に放電を発生させながら単一ワイヤ5と工具ホルダ2とを周方向に相対的に移動させ単一ワイヤ5を軸方向に引き抜くことにより、第1の外殻24の内周面に複数の第1のリブレット25を形成する工程である。具体的には、単一ワイヤ5の位置決めを行って単一ワイヤ5を移動不能に固定し、単一ワイヤ5に対して工具ホルダ2を周方向に移動させる。これにより、単一ワイヤ5が第1の外殻24の内周面に沿って工具ホルダ2と相対的に移動することになるため、放電で第1の外殻24の内周面が溶かされて、複数の第1のリブレット25が第1の外殻24の内周面に形成される。この際、単一ワイヤ5は軸方向に引き抜かれる。図12に示される破線は、単一ワイヤ5の移動軌跡を表している。単一ワイヤ5の移動軌跡により第1のリブレット25の形状が決まる。なお、工具ホルダ2を移動不能に固定し、単一ワイヤ5を工具ホルダ2に対して周方向に移動させるようにしてもよい。
【0044】
以上の工程を行うことにより、第1のリブレット25を有する工具ホルダ2を製造することができる。当該製造方法では、第1のクーラント流路21が形成された既存の工具ホルダ2に対して、第1のリブレット25を形成することができる。
【0045】
次に、図13から図15を参照して、ダイス引抜ワイヤ7を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法について説明する。図13は、ダイス引抜ワイヤ7を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法を説明するための図であって、準備工程および配置工程を示した図である。図14は、ダイス引抜ワイヤ7を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法を説明するための図であって、放電工程を示した図である。図15は、図14の部分拡大図である。図13から図15は、工具ホルダ2およびダイス引抜ワイヤ7を軸方向に沿って見たときの図である。工具ホルダ2の製造方法は、準備工程と、配置工程と、放電工程とを含んでいる。図13から図15では、ダイス引抜ワイヤ7の範囲を明確にするために、ダイス引抜ワイヤ7にドットハッチングを付している。
【0046】
図13に示すように、準備工程は、円筒形状の第1のクーラント流路21が形成された工具ホルダ2を準備する工程である。
【0047】
配置工程は、電極となるダイス引抜ワイヤ7を第1のクーラント流路21に配置する工程である。ダイス引抜ワイヤ7の外周面には、軸方向に延びて周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の凸部71が形成されている。凸部71を含むダイス引抜ワイヤ7の外周面の輪郭は、複数の第1のリブレット25の形状に対応する形状である。すなわち、凸部71を含むダイス引抜ワイヤ7の外周面の輪郭は、第1のリブレット25を含む第1のクーラント流路21の輪郭に対応する形状である。
【0048】
図14に示すように、放電工程では、ダイス引抜ワイヤ7と第1の外殻24の内周面との間に放電を発生させながらダイス引抜ワイヤ7を第1の外殻24の内周面に沿って軸方向に引き抜くことにより、第1の外殻24の内周面に複数の第1のリブレット25を形成する工程である。具体的には、工具ホルダ2を移動不能に固定し、ダイス引抜ワイヤ7を第1の外殻24の内周面に沿って軸方向に引き抜く。これにより、放電で第1の外殻24の内周面が溶かされて、複数の第1のリブレット25が第1の外殻24の内周面に形成される。図15に示される二点鎖線は、第1のリブレット25を形成する前の第1のクーラント流路21の輪郭を表している。放電工程を行うことにより、第1のクーラント流路21の輪郭が二点鎖線の位置から紙面右側の実線の位置へと変化する。
【0049】
以上の工程を行うことにより、第1のリブレット25を有する工具ホルダ2を製造することができる。当該製造方法では、第1のクーラント流路21が形成された既存の工具ホルダ2に対して、第1のリブレット25を形成することができる。
【0050】
次に、図16から図18を参照して、クーラント流路用切削工具8を用いた引抜加工による工具ホルダ2の製造方法について説明する。図16は、引抜加工に用いられるクーラント流路用切削工具8を示した図である。図17は、クーラント流路用切削工具8を用いた引抜加工による工具ホルダ2の製造方法を説明するための図であって、準備工程および引抜工程を示した図である。図18は、クーラント流路用切削工具8を用いた引抜加工による工具ホルダ2の製造方法を説明するための図であって、引抜工程を示した断面図である。図16は、クーラント流路用切削工具8を軸方向に沿って見たときの図である。図17は、工具ホルダ2およびクーラント流路用切削工具8を軸方向に沿って見たときの図である。図18は、工具ホルダ2およびクーラント流路用切削工具8を軸方向に沿って切ったときの断面図である。工具ホルダ2の製造方法は、準備工程と、引抜工程とを含んでいる。
【0051】
図17に示すように、準備工程は、円筒形状の第1のクーラント流路21が形成された工具ホルダ2を準備する工程である。
【0052】
引抜工程は、クーラント流路用切削工具8を第1のクーラント流路21に挿入して、クーラント流路用切削工具8を第1の外殻24の内周面に沿って軸方向に引き抜くことにより、第1の外殻24の内周面に複数の第1のリブレット25を形成する工程である。図16に示すように、クーラント流路用切削工具8の外周面には、軸方向に延びて周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の凸部81が形成されている。図17に示される二点鎖線は、クーラント流路用切削工具8の凸部81の輪郭、すなわち第1のリブレット25を形成した後の第1のクーラント流路21の輪郭を示している。図17に示される斜線ハッチングは、第1の外殻24のうちクーラント流路用切削工具8により削られる領域を表している。図17に示すように、凸部81を含むクーラント流路用切削工具8の外周面の輪郭は、複数の第1のリブレット25の形状に対応する形状である。すなわち、凸部81を含むクーラント流路用切削工具8の外周面の輪郭は、第1のリブレット25を含む第1のクーラント流路21の輪郭に対応する形状である。
【0053】
図18に示すように、クーラント流路用切削工具8は、軸方向の一方から他方に向かうにつれて狭まるテーパ状に形成されている。クーラント流路用切削工具8は、第1のリブレット25を形成する前の第1のクーラント流路21の直径よりも直径が小さい小径部82と、第1のリブレット25を形成する前の第1のクーラント流路21の直径よりも直径が大きい大径部83と、第1のリブレット25を形成する前の第1のクーラント流路21の直径と同じ直径の中径部84とを有している。図18に示される二点鎖線は、第1のリブレット25を形成する前の第1のクーラント流路21の輪郭を示している。
【0054】
図18に示すように、引抜工程では、工具ホルダ2を移動不能に固定し、クーラント流路用切削工具8を軸方向に引き抜く。具体的には、小径部82、中径部84、大径部83の順序でクーラント流路用切削工具8を第1のクーラント流路21に挿入する。これにより、クーラント流路用切削工具8の大径部83が第1の外殻24の内周面に接触するため、クーラント流路用切削工具8の大径部83の凸部81で第1の外殻24の内周面が削られて、複数の第1のリブレット25が第1の外殻24の内周面に形成される。引抜工程を行うことにより、第1のクーラント流路21の輪郭が二点鎖線の位置から紙面上側の実線の位置および紙面下側の実線の位置へと変化する。
【0055】
以上の工程を行うことにより、第1のリブレット25を有する工具ホルダ2を製造することができる。当該製造方法では、第1のクーラント流路21が形成された既存の工具ホルダ2に対して、第1のリブレット25を形成することができる。
【0056】
次に、図19から図22を参照して、電極となるツイストワイヤ9を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法について説明する。図19は、放電加工に用いられるツイストワイヤ9の一例を示した図である。図20は、放電加工に用いられるツイストワイヤ9の変形例1を示した図である。図21は、実施の形態1にかかる第1のクーラント流路21の変形例1を示した図である。図22は、実施の形態1にかかる第1のクーラント流路21の変形例2を示した図である。図19には、凹部26が形成された工具ホルダ2も図示している。
【0057】
図19に示されるツイストワイヤ9は、複数本のワイヤ15が撚り合わされることにより形成されている。複数本のワイヤ15の径は、同径である。すなわち、ツイストワイヤ9は、複数本の単一径のワイヤ15から成る。ワイヤ15の本数は、図示の例では3本である。図20に示されるツイストワイヤ10も、複数本のワイヤ15が撚り合わされることにより形成されている。複数本のワイヤ15の径は、同径である。すなわち、ツイストワイヤ10は、複数本の単一径のワイヤ15から成る。ワイヤ15の本数は、図示の例では6本である。
【0058】
ツイストワイヤ9,10の外周面の輪郭は、図3などに示される複数の第1のリブレット25の形状に対応する形状となる。すなわち、ツイストワイヤ9,10の外周面の輪郭は、第1のリブレット25を含む第1のクーラント流路21の輪郭に対応する形状となる。図19に示されるツイストワイヤ9を用いた放電加工では、ツイストワイヤ9の外周面の輪郭に対応する3つの第1のリブレット25が第1の外殻24の内周面に形成される。図20に示されるツイストワイヤ10を用いた放電加工では、ツイストワイヤ10の外周面の輪郭に対応する5つの第1のリブレット25が第1の外殻24の内周面に形成される。ワイヤ15の本数は、作製したい第1のリブレット25の数に合わせて適宜変更される。
【0059】
当該製造方法は、前記した単一ワイヤ5を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法と同様の、準備工程と、配置工程と、放電工程とを含んでいてもよい。すなわち、当該製造方法は、円筒形状の第1のクーラント流路21にツイストワイヤ9,10を通して放電加工を行ってもよい。また、当該製造方法は、単一ワイヤ5を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法とは異なる準備工程と、放電工程とを含んでいてもよい。すなわち、当該製造方法は、図19に示される第1のクーラント流路21となる凹部26に、ツイストワイヤ9,10を配置して放電加工を行ってもよい。
【0060】
この場合、準備工程は、第1のクーラント流路21となる凹部26が形成された工具ホルダ2を準備する工程である。放電工程は、ツイストワイヤ9,10と工具ホルダ2との間に放電を発生させながらツイストワイヤ9,10を工具ホルダ2の凹部26の深さ方向に移動かつ中心軸Oまわりに同期回転させることにより、第1のクーラント流路21と複数の第1のリブレット25とを形成する工程である。放電工程では、放電により工具ホルダ2の凹部26の内面が溶かされて、第1のクーラント流路21と複数の第1のリブレット25とが形成される。
【0061】
当該製造方法では、ツイストワイヤ9,10の外周面の輪郭が第1の外殻24の内周面に転写されるため、ツイストワイヤ9,10の位置決めを行うことなく第1の外殻24の内周面に複数の第1のリブレット25を形成することができる。また、当該製造方法では、第1のクーラント流路21が形成された既存の工具ホルダ2に対して、第1のリブレット25を形成することもできる。また、当該製造方法では、ツイストワイヤ9,10の位置決めを行う必要がないため、図21,22に示されるような斜め流路21bを囲む第1の外殻24の内周面に第1のリブレット25を容易に形成することができる。
【0062】
斜め流路21bは、第1のクーラント流路21の一部である。第1のクーラント流路21は、メイン流路21aと、工具ホルダ2の外部とメイン流路21aとを連通して第1のクーラント流路21に対して傾斜する斜め流路21bとを含んでいる。図21に示される斜め流路21bは、R加工が施されていない直線状の流路である。図22に示される斜め流路21bは、R加工が施された曲線状の流路である。以下、図22に示される斜め流路21bを湾曲部21cと称する場合もある。図19に示される凹部26がメイン流路21aとなる場合には、凹部26の深さ方向はメイン流路21aの軸方向と平行であり、放電工程ではツイストワイヤ9,10をメイン流路21aの軸方向に沿って移動かつメイン流路21aの中心軸まわりに同期回転させる。凹部26が斜め流路21bとなる場合には、凹部26の深さ方向は斜め流路21bの軸方向と平行であり、放電工程ではツイストワイヤ9,10を斜め流路21bの軸方向に沿って移動かつ斜め流路21bの中心軸まわりに同期回転させる。
【0063】
次に、図23および図24を参照して、電極となる溶接ワイヤ12を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法について説明する。図23は、放電加工に用いられる溶接ワイヤ12の一例を示した図である。図24は、放電加工に用いられる溶接ワイヤ12の変形例1を示した図である。
【0064】
図23に示される溶接ワイヤ12は、複数本のワイヤ15が溶接で一体化されることにより形成されている。複数本のワイヤ15の径は、同径である。すなわち、溶接ワイヤ12は、複数本の単一径のワイヤ15から成る。ワイヤ15の本数は、図示の例では3本である。図24に示される溶接ワイヤ13も、複数本のワイヤ15が溶接で一体化されることにより形成されている。複数本のワイヤ15の径は、同径である。すなわち、溶接ワイヤ13は、複数本の単一径のワイヤ15から成る。ワイヤ15の本数は、図示の例では6本である。
【0065】
溶接ワイヤ12,13の外周面の輪郭は、図3などに示される複数の第1のリブレット25の形状に対応する形状となる。すなわち、溶接ワイヤ12,13の外周面の輪郭は、第1のリブレット25を含む第1のクーラント流路21の輪郭に対応する形状となる。
【0066】
図23に示される溶接ワイヤ12を用いた放電加工では、溶接ワイヤ12の外周面の輪郭に対応する3つの第1のリブレット25が第1の外殻24の内周面に形成される。図24に示される溶接ワイヤ13を用いた放電加工では、溶接ワイヤ13の外周面の輪郭に対応する5つの第1のリブレット25が第1の外殻24の内周面に形成される。ワイヤ15の本数は、作製したい第1のリブレット25の数に合わせて適宜変更される。
【0067】
当該製造方法は、前記した単一ワイヤ5を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法と同様の、準備工程と、配置工程と、放電工程とを含んでいてもよい。すなわち、当該製造方法は、円筒形状の第1のクーラント流路21に溶接ワイヤ12,13を通して放電加工を行ってもよい。また、当該製造方法は、単一ワイヤ5を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法とは異なる準備工程と、放電工程とを含んでいてもよい。すなわち、当該製造方法は、図19に示される第1のクーラント流路21となる凹部26に、溶接ワイヤ12,13を配置して放電加工を行ってもよい。
【0068】
この場合、準備工程は、第1のクーラント流路21となる凹部26が形成された工具ホルダ2を準備する工程である。放電工程は、溶接ワイヤ12,13と工具ホルダ2との間に放電を発生させながら溶接ワイヤ12,13を工具ホルダ2の凹部26の深さ方向に移動させることにより、第1のクーラント流路21と複数の第1のリブレット25とを形成する工程である。放電工程では、放電により工具ホルダ2の凹部26の内面が溶かされて、第1のクーラント流路21と複数の第1のリブレット25とが形成される。
【0069】
当該製造方法では、溶接ワイヤ12,13の外周面の輪郭が第1の外殻24の内周面に転写されるため、溶接ワイヤ12,13の位置決めを行うことなく第1の外殻24の内周面に複数の第1のリブレット25を形成することができる。また、当該製造方法では、第1のクーラント流路21が形成された既存の工具ホルダ2に対して、第1のリブレット25を形成することもできる。また、当該製造方法では、溶接ワイヤ12,13の位置決めを行う必要がないため、図21,22に示されるような斜め流路21bを囲む第1の外殻24の内周面に第1のリブレット25を容易に形成することができる。
【0070】
図25は、放電加工に用いられるツイストワイヤ11の変形例2、または、放電加工に用いられる溶接ワイヤ14の変形例2を示した図である。図25に示すように、ツイストワイヤ11は、複数本の異径のワイヤ15が撚り合わされることにより形成されていてもよいし、溶接ワイヤ14は、複数本の異径のワイヤ15が溶接で一体化されることにより形成されていてもよい。ワイヤ15の本数は、図示の例では7本であるが、適宜変更してもよい。また、図示の例では3本の同径のワイヤ15と4本の同径のワイヤ15とを組み合わせているが、異径のワイヤ15の組み合わせを限定する趣旨ではない。
【0071】
ツイストワイヤ11を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法は、前記したツイストワイヤ9,10を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法と同様に2通りの方法がある。一方、溶接ワイヤ14を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法は、前記した溶接ワイヤ12,13を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法と同様に2通りの方法がある。このため、ここではその説明を省略する。本変形例でも、前記したツイストワイヤ9,10または溶接ワイヤ12,13を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法と同様の効果を奏することができる。
【0072】
図26は、放電加工に用いられる溶接ワイヤ13の変形例3を示した図である。図26に示すように、溶接ワイヤ13の一部には、絶縁コーティング16が施されていてもよい。図示の例では、溶接ワイヤ13の長さ方向の一端部に絶縁コーティング16が施されているが、溶接ワイヤ13の別の部分に絶縁コーティング16が施されていてもよい。具体的な図示は省略するが、前記した溶接ワイヤ12,14の一部に絶縁コーティング16が施されていてもよいし、前記したツイストワイヤ9,10,11の一部に絶縁コーティング16が施されていてもよい。
【0073】
放電を発生させるためには、電極である溶接ワイヤ13と図21などに示される第1の外殻24の内周面との間に隙間を確保する必要がある。本変形例では、絶縁コーティング16を第1の外殻24の内周面に接触させるだけで溶接ワイヤ13と第1の外殻24の内周面との間に隙間を確保することができる。そのため、第1の外殻24の内周面に第1のリブレット25を容易に形成することができる。特に、図22に示される湾曲部21cに放電加工を行う場合には曲線状の部分が存在するため、隙間の確保が困難になるが、本変形例のように絶縁コーティング16が施された溶接ワイヤ13を用いると、湾曲部21cを囲む第1の外殻24の内周面にも第1のリブレット25を容易に形成することができる。
【0074】
次に、図27および図28を参照して、フィルム電極17を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法について説明する。図27は、フィルム電極17を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法を説明するための図であって、準備工程、配置工程および放電工程を示した図である。図28は、フィルム電極17を用いた放電加工による工具ホルダ2の製造方法を説明するための図であって、準備工程および配置工程を示した断面図である。図27は、工具ホルダ2およびフィルム電極17を軸方向に沿って見たときの図である。図28は、工具ホルダ2を軸方向に沿って切ったときの断面図である。工具ホルダ2の製造方法は、準備工程と、配置工程と、放電工程とを含んでいる。
【0075】
図27および図28に示すように、準備工程は、円筒形状の第1のクーラント流路21が形成された工具ホルダ2を準備する工程である。
【0076】
配置工程は、フィルム電極17を第1のクーラント流路21に配置する工程である。フィルム電極17の形状は、矩形の板状である。フィルム電極17は、板幅寸法よりも厚さ寸法が小さい薄板状に形成されている。図28に示すように、配置工程では、型彫放電加工機18に周方向に回転可能に取り付けられたフィルム電極17を、第1のクーラント流路21に配置する。配置工程では、フィルム電極17の長さ方向と第1のクーラント流路21の軸方向とが平行になるように、フィルム電極17を第1のクーラント流路21に配置する。
【0077】
図27に示すように、放電工程では、フィルム電極17と第1の外殻24の内周面との間に放電を発生させながらフィルム電極17を第1の外殻24の内周面に沿って周方向に回転させることにより、第1の外殻24の内周面に複数の第1のリブレット25を形成する工程である。具体的には、フィルム電極17の板幅方向の一端部および他端部のそれぞれと第1の外殻24の内周面との間に放電を発生させながら第1の外殻24の内周面に第1のリブレット25を形成する。これにより、放電で第1の外殻24の内周面が溶かされて、第1のリブレット25が第1の外殻24の内周面に形成される。
【0078】
放電工程では、第1の外殻24の内周面のうちフィルム電極17の板幅方向の中心を挟んで対向する部分を同時に溶かすことができる。放電工程では、第1の外殻24の内周面のうちフィルム電極17の板幅方向の中心を挟んで対向する部分を同時に溶かした後に、中心軸Oを基点にフィルム電極17の位相角を変更して、第1の外殻24の内周面のうちフィルム電極17の板幅方向の中心を挟んで対向する別の部分を溶かす。これにより、1回目に溶かした部分と2回目に溶かした部分との間に第1のリブレット25が形成される。この溶かす作業と位相角を変更する作業とを繰り返し行う。
【0079】
以上の工程を行うことにより、第1のリブレット25を有する工具ホルダ2を製造することができる。当該製造方法では、薄板状のフィルム電極17の周囲にある第1の外殻24の内周面だけを溶かすことができるため、第1の外殻24の内周面に狭小な第1のリブレット25を形成することができる。
【0080】
その他の工具ホルダ2の製造方法としては、例えば、DED(Direct Energy Deposition)方式、PBF(Powder Bed Fusion)方式などの粉末積層造形法が挙げられる。粉末積層造形法により工具ホルダ2を製造する場合には、第1のクーラント流路21と複数の第1のリブレット25とを形成することができるため、円筒形状の第1のクーラント流路21が形成された工具ホルダ2を準備する準備工程が不要になる。
【0081】
次に、本実施の形態にかかる工具ホルダ2、主軸1および工具ホルダ2の製造方法の効果について説明する。
【0082】
本実施の形態では、図3に示すように、工具ホルダ2には、第1の外殻24の内周面において第1のクーラント流路21の軸方向に延びて第1のクーラント流路21の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレット25が形成されている。この構成により、第1のクーラント流路21を囲む第1の外殻24の内周面とクーラントとの間の摩擦抵抗を低減させて、クーラントの圧力損失を小さくすることができる。これにより、クーラントによる冷却能力を向上させることができるため、切削工具である切削刃4の寿命を延長させることが可能になる。また、本実施の形態では、図3に示すように、第1の外殻24の最小厚さTminは、第1のクーラント流路21の最大半径Rmaxよりも大きい。この構成により、工具ホルダ2の剛性を向上させることができる。したがって、本実施の形態では、クーラントによる冷却能力を向上させつつ、工具ホルダ2の剛性を向上させることができる。
【0083】
本実施の形態では、図8および図9に示すように、C/D≧4.0、かつ、Tmin/hmax≧8.0の関係が成立することにより、電縫管などに比べて、第1の外殻24の厚さが厚くなる。このため、工具ホルダ2の剛性を向上させることができる。
【0084】
なお、クーラントによる冷却能力を向上させる手段として、図9に示される工具ホルダ2の流路断面積Dを拡大する手段が挙げられる。一方で、被加工物を切削するときに被加工物と工具ホルダ2との干渉を避けるためには、工具ホルダ2をできる限り細くする必要があり、工具ホルダ2には外周サイズの制約がある。したがって、工具ホルダ2の流路断面積Dを拡大すると、工具ホルダ2の第1の外殻24の厚さが必然的に薄くなり、工具ホルダ2の剛性が低下するという問題がある。クーラントによる冷却能力を向上させる別の手段として、増圧ポンプによりクーラントの圧力を増圧する手段が挙げられる。しかしながら、この手段では、増圧ポンプ分のコストの増加、増圧ポンプ分の設置スペースの拡大、エネルギー消費量の増加などの問題がある。この点、本実施の形態では、図3に示すように、第1の外殻24の内周面に形成した第1のリブレット25により、第1の外殻24の内周面とクーラントとの間の摩擦抵抗を低減させて、クーラントの圧力損失を小さくできる。これにより、工具ホルダ2の外周サイズの制約がある場合においても工具ホルダ2の第1の外殻24の厚さを薄くすることなく、クーラントによる冷却能力を向上させつつ、工具ホルダ2の剛性を向上させることができる。また、本実施の形態では、増圧ポンプを使用することなくクーラントによる冷却能力を向上させることができるため、増圧ポンプの使用に付随して発生する問題を解消することができる。
【0085】
本実施の形態では、図4および図5に示すように、複数の第1のリブレット25は、同じ形状かつ同じ大きさであることにより、複数の第1のリブレット25を形成しやすくなるため、工具ホルダ2の生産性を向上させることができる。
【0086】
本実施の形態では、図6および図7に示すように、複数の第1のリブレット25は、形状および大きさのうち少なくとも一方が異なっていることにより、クーラントの圧力、温度などの流体条件が異なる場合でも、複数の第1のリブレット25のいずれかで第1の外殻24の内周面とクーラントとの間の摩擦抵抗を低減させて、クーラントの圧力損失を小さくすることができる。これにより、流体条件が異なる場合でも、クーラントによる冷却能力を安定的に向上させることができるため、切削刃4の寿命を延長させることが可能になる。
【0087】
本実施の形態では、図1に示すように、スピンドル部3には、第1のクーラント流路21に連通するとともにスピンドル部3の内部に配置されてクーラントを流すための第2のクーラント流路37であるシャフト側流路34aおよび連結ホルダ側流路36aが形成されている。また、スピンドル部3には、第2の外殻であるシャフト側外殻34dおよび連結ホルダ側外殻36dの内面において第2のクーラント流路37の軸方向に延びて第2のクーラント流路37の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第2のリブレット38が形成されている。これらの構成により、シャフト側外殻34dの内周面および連結ホルダ側外殻36dの内周面とクーラントとの間の摩擦抵抗を低減させて、クーラントの圧力損失を小さくすることができる。これにより、クーラントによる冷却能力を向上させることができるため、切削刃4の寿命を延長させることが可能になる。
【0088】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【0089】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0090】
(付記1)
切削工具を保持する工具ホルダであって、
前記工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、
前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、
前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、
前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、
前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、
前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きいことを特徴とする工具ホルダ。
(付記2)
前記工具ホルダの前記第1の外殻の外周面の輪郭を外形線として前記軸方向と直交する方向で切ったときの前記第1の外殻の断面積と前記第1のクーラント流路の断面積とを併せたホルダ断面積をCとし、前記第1のリブレットを含む前記第1のクーラント流路の輪郭を外形線として前記軸方向と直交する方向で切ったときの前記第1のクーラント流路の断面積を流路断面積Dとし、前記第1の外殻の外周面の輪郭と前記第1のクーラント流路の輪郭との間の前記第1の外殻の最小厚さをTminとし、前記第1のリブレットの最大高さをhmaxとしたときに、C/D≧4.0、かつ、Tmin/hmax≧8.0の関係が成立することを特徴とする付記1に記載の工具ホルダ。
(付記3)
複数の前記第1のリブレットは、同じ形状かつ同じ大きさであるか、または、形状および大きさのうち少なくとも一方が異なっていることを特徴とする付記1または2に記載の工具ホルダ。
(付記4)
付記1から3のいずれか1つに記載の工具ホルダと、
前記工具ホルダに接続されて前記工具ホルダに回転力を伝達するスピンドル部と、を備え、
前記スピンドル部には、
前記第1のクーラント流路に連通するとともに前記スピンドル部の内部に配置されて前記クーラントを流すための第2のクーラント流路と、
前記第2のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第2の導入口と、
前記第2のクーラント流路から前記工具ホルダの前記第1のクーラント流路に向かって前記クーラントを供給するための第2の供給口と、
前記第2のクーラント流路、前記第2の導入口および前記第2の供給口を囲む第2の外殻と、
前記第2の外殻の内周面において前記第2のクーラント流路の軸方向に延びて前記第2のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第2のリブレットと、が形成されていることを特徴とする主軸。
(付記5)
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
円筒形状の前記第1のクーラント流路が形成された前記工具ホルダを準備する準備工程と、
電極となる単一ワイヤを前記第1のクーラント流路に配置する配置工程と、
前記単一ワイヤと前記第1の外殻の内周面との間に放電を発生させながら前記単一ワイヤと前記工具ホルダとを前記周方向に相対的に移動させ前記単一ワイヤを軸方向に引き抜くことにより、前記第1の外殻の内周面に複数の前記第1のリブレットを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
(付記6)
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
円筒形状の前記第1のクーラント流路が形成された前記工具ホルダを準備する準備工程と、
外周面の輪郭が複数の前記第1のリブレットの形状に対応する形状であって電極となるダイス引抜ワイヤを前記第1のクーラント流路に配置する配置工程と、
前記ダイス引抜ワイヤと前記第1の外殻の内周面との間に放電を発生させながら前記ダイス引抜ワイヤを前記第1の外殻の内周面に沿って前記軸方向に引き抜くことにより、前記第1の外殻の内周面に複数の前記第1のリブレットを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
(付記7)
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
円筒形状の前記第1のクーラント流路が形成された前記工具ホルダを準備する準備工程と、
外周面の輪郭が複数の前記第1のリブレットの形状に対応する形状であるクーラント流路用切削工具を前記第1のクーラント流路に挿入して、前記クーラント流路用切削工具を前記第1の外殻の内周面に沿って前記軸方向に引き抜くことにより、前記第1の外殻の内周面に複数の前記第1のリブレットを形成する引抜工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
(付記8)
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
前記第1のクーラント流路となる凹部が形成された工具ホルダを準備する準備工程と、
複数本のワイヤが撚り合わされることにより形成されて外周面の輪郭が複数の前記第1のリブレットの形状に対応する形状であるツイストワイヤと前記工具ホルダとの間に放電を発生させながら、前記ツイストワイヤを前記凹部の深さ方向に移動かつ軸まわりに同期回転させることにより、前記第1のクーラント流路と複数の前記第1のリブレットとを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
(付記9)
前記放電工程では、絶縁コーティングが一部に施された前記ツイストワイヤを前記凹部の深さ方向に移動かつ軸まわりに同期回転させることを特徴とする付記8に記載の工具ホルダの製造方法。
(付記10)
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
前記第1のクーラント流路となる凹部が形成された工具ホルダを準備する準備工程と、
複数本のワイヤが溶接で一体化されることにより形成されて外周面の輪郭が複数の前記第1のリブレットの形状に対応する形状である溶接ワイヤと前記工具ホルダとの間に放電を発生させながら、前記溶接ワイヤを前記凹部の深さ方向に移動させることにより、前記第1のクーラント流路と複数の前記第1のリブレットとを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
(付記11)
前記放電工程では、絶縁コーティングが一部に施された前記溶接ワイヤを前記凹部の深さ方向に移動させることを特徴とする付記10に記載の工具ホルダの製造方法。
(付記12)
切削工具を保持する工具ホルダの内部に配置されてクーラントを流すための第1のクーラント流路と、前記第1のクーラント流路に前記クーラントを導入するための第1の導入口と、前記第1のクーラント流路から前記切削工具に向かって前記クーラントを供給するための第1の供給口と、前記第1のクーラント流路、前記第1の導入口および前記第1の供給口を囲む第1の外殻と、前記第1の外殻の内周面において前記第1のクーラント流路の軸方向に延びて前記第1のクーラント流路の周方向に互いに間隔を空けて配置された複数の第1のリブレットと、が形成され、前記第1の外殻の最小厚さは、前記第1のクーラント流路の最大半径よりも大きい工具ホルダの製造方法であって、
円筒形状の前記第1のクーラント流路が形成された前記工具ホルダを準備する準備工程と、
型彫放電加工機に周方向に回転可能に取り付けられたフィルム電極を、前記第1のクーラント流路に配置する配置工程と、
前記フィルム電極と前記第1の外殻の内周面との間に放電を発生させながら前記フィルム電極を前記第1の外殻の内周面に沿って前記周方向に回転させることにより、前記第1の外殻の内周面に複数の前記第1のリブレットを形成する放電工程と、
を含むことを特徴とする工具ホルダの製造方法。
【符号の説明】
【0091】
1 主軸、2 工具ホルダ、3 スピンドル部、4 切削刃、5 単一ワイヤ、6 保持具、7 ダイス引抜ワイヤ、8 クーラント流路用切削工具、9,10,11 ツイストワイヤ、12,13,14 溶接ワイヤ、15 ワイヤ、16 絶縁コーティング、17 フィルム電極、18 型彫放電加工機、21 第1のクーラント流路、21a メイン流路、21b 斜め流路、21c 湾曲部、22 第1の導入口、23 第1の供給口、24 第1の外殻、25 第1のリブレット、26 凹部、31 ハウジング、31a フレーム、31b ブラケット、31c 挿入孔、32 ステータ、32a ステータコア、32b コイル、33 ロータ、34 シャフト、34a シャフト側流路、34b シャフト側導入口、34c シャフト側供給口、34d シャフト側外殻、34e シャフト側リブレット、35 軸受、36 連結ホルダ、36a 連結ホルダ側流路、36b 連結ホルダ側導入口、36c 連結ホルダ側供給口、36d 連結ホルダ側外殻、36e 連結ホルダ側リブレット、37 第2のクーラント流路、38 第2のリブレット、71,81 凸部、82 小径部、83 大径部、84 中径部、100 工作機械。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28