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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169069
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】外装構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/88 20060101AFI20241128BHJP
   H02S 20/26 20140101ALI20241128BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
E04B2/88
H02S20/26
E04F13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086255
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】古城 雄一
(72)【発明者】
【氏名】河原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 晴果
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
【テーマコード(参考)】
2E002
2E110
【Fターム(参考)】
2E002NA01
2E002NB02
2E002XA16
2E110AA04
2E110AB04
2E110AB22
2E110BA12
2E110CA07
2E110CA08
2E110EA01
2E110GA07W
2E110GA07X
2E110GA33W
2E110GA33X
2E110GA33Y
2E110GB01X
2E110GB32W
2E110GB32X
(57)【要約】
【課題】ガラスカーテンウォールのスパンドレル部に太陽電池パネルが設置された外装構造において、太陽電池パネルの発電効率が低下することを抑制する。
【解決手段】建物(1)の外装(10)に用いられるガラスカーテンウォールのスパンドレル部(SA)に太陽電池パネル(50)が設置される外装構造であって、スパンドレル部(SA)の外部空間側に設けられる表面ガラス(11)と、スパンドレル部(SA)の室内空間側に設けられるバックボード(12)と、表面ガラス(11)とバックボード(12)との間の中空層(13)に設けられる太陽電池パネル(50)と、を有し、前記表面ガラス(11)は、赤外線反射機構(60)を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外装に用いられるガラスカーテンウォールのスパンドレル部に太陽電池パネルが設置される外装構造であって、
前記スパンドレル部の外部空間側に設けられる表面ガラスと、
前記スパンドレル部の室内空間側に設けられるバックボードと、
前記表面ガラスと前記バックボードとの間の中空層に設けられる前記太陽電池パネルと、
を有し、
前記表面ガラスは、赤外線反射機構を有する、ことを特徴とする外装構造。
【請求項2】
請求項1に記載の外装構造であって、
前記赤外線反射機構は、赤外線を選択的に反射し、前記太陽電池パネルの発電に有効な可視光線及び紫外線を透過する、ことを特徴とする外装構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の外装構造であって、
前記赤外線反射機構は、前記表面ガラスの表面に設けられる膜である、ことを特徴とする外装構造。
【請求項4】
請求項3に記載の外装構造であって、
前記膜は、可視光透過性を有し、金属酸化物被覆合成マイカ及び金属酸化物導電性微粒子の少なくとも何れかを含んでいる、ことを特徴とする外装構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物(ビル)の外装の表面に太陽電池パネルを設置して、建物の発電効率を高める技術が知られている。例えば、特許文献1には、建物の外装材の上に太陽電池モジュール(太陽電池パネル)を設置しつつ、当該太陽電池モジュールから外装材への熱放射を抑制することにより、発電効率を高く維持しつつ屋内の冷房負荷を軽減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-85258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、建物(ビル)の外装として、ビジョン部とスパンドレル部とを備えたガラスカーテンウォール構造が採用される場合が増えている。そのようなガラスカーテンウォールに太陽電池パネルを設置しようとする場合、外側から太陽電池パネルが視認され難くなるように、スパンドレル部の内側(屋内側)に形成される空間(中空層)に、太陽電池パネルを設置することが考えられる。しかしながら、太陽光に含まれる赤外線等の熱線の影響で、スパンドレル部の中空層が熱せられて高温になると、当該中空層に配置される太陽電池パネル及び周囲の温度が過度に上昇して、発電効率が低下してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ガラスカーテンウォールのスパンドレル部に太陽電池パネルが設置された外装構造において、太陽電池パネルの発電効率が低下することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための主たる発明は、建物の外装に用いられるガラスカーテンウォールのスパンドレル部に太陽電池パネルが設置される外装構造であって、前記スパンドレル部の外部空間側に設けられる表面ガラスと、前記スパンドレル部の室内空間側に設けられるバックボードと、前記表面ガラスと前記バックボードとの間の中空層に設けられる前記太陽電池パネルと、を有し、前記表面ガラスは、赤外線反射機構を有する、ことを特徴とする外装構造である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガラスカーテンウォールのスパンドレル部に太陽電池パネルが設置された外装構造において、太陽電池パネルの発電効率が低下することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ガラスカーテンウォールを備えた建物1の断面構造について説明する図である。
図2】比較例において、ガラスカーテンウォールのスパンドレル部SAの表面ガラス11として太陽電池パネルを設置した場合の外装構造について説明する図である。
図3】本実施形態において、ガラスカーテンウォールのスパンドレル部SAの表面ガラス11よりも内部空間側に太陽電池パネル50を設置した場合の外装構造について説明する図である。
図4】一般的な太陽電池パネルの温度と出力との関係について表す図である。
図5】地上における太陽光の分光放射強度スペクトルを表す図である。
図6】外装10のスパンドレル部SAにおける太陽光の照射について説明する断面図である。
図7図7A及び図7Bは、太陽電池パネル50の設置角度の変更例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
建物の外装に用いられるガラスカーテンウォールのスパンドレル部に太陽電池パネルが設置される外装構造であって、前記スパンドレル部の外部空間側に設けられる表面ガラスと、前記スパンドレル部の室内空間側に設けられるバックボードと、前記表面ガラスと前記バックボードとの間の中空層に設けられる前記太陽電池パネルと、を有し、前記表面ガラスは、赤外線反射機構を有する、ことを特徴とする外装構造。
【0011】
このような外装構造によれば、スパンドレル部の表面ガラスで赤外線が反射されて中空層に入射し難くなるため、太陽電池パネルで赤外線加熱が生じ難くなり、また、中空層の雰囲気温度も上昇し難くなる。したがって、スパンドレル部の中空層に太陽電池パネルを設置した場合であっても、太陽電池パネルの過度な温度上昇が抑制され、発電効率が低下してしまうことを抑制することができる。
【0012】
かかる外装構造であって、前記赤外線反射機構は、赤外線を選択的に反射し、前記太陽電池パネルの発電に有効な可視光線及び紫外線を透過する、ことが望ましい。
【0013】
このような外装構造によれば、太陽電池パネルの発電に有効な可視光線及び紫外線が中空層に入射することが制限され難いため、赤外線反射機構が設けられていない場合(赤外線が反射されない場合)と比較して、太陽電池パネルで受光される有効な光エネルギーの大きさが低減され難い。また、可視光線及び紫外線は、太陽電池パネルの温度上昇には寄与し難い。したがって、太陽電池パネルの発電効率の低下を抑制しやすい。
【0014】
かかる外装構造であって、前記赤外線反射機構は、前記表面ガラスの表面に設けられる膜である、ことが望ましい。
【0015】
このような外装構造によれば、外装の表面にパネル状の遮光フィルター等の部材を取り付ける場合と比較して、表面ガラスの外観のデザインが変更され難く、美観を損ない難い。したがって、ガラスカーテンウォールの外観デザイン上の統一性を維持しやすい。また、太陽電池パネルや外装の追加工事等を行うことなく赤外線反射機構を設置することができる。すなわち、表面ガラスにフィルムを貼り付けたり塗膜を形成したりするだけであることから、赤外線反射機構の設置コストを低く抑えることができる。
【0016】
かかる外装構造であって、前記膜は、可視光透過性を有し、金属酸化物被覆合成マイカ及び金属酸化物導電性微粒子の少なくとも何れかを含んでいる、ことが望ましい。
【0017】
このような外装構造によれば、スパンドレル部において、可視光透過性を維持しつつ、赤外線を選択的に反射することで高い遮熱性を実現することができる。これにより、ビジョン部とスパンドレル部との外観デザイン上の統一性が保たれやすく、且つ、中空層の温度上昇が抑制されるため太陽電池パネルの発電効率を低下させ難くすることができる。
【0018】
===実施形態===
<ガラスカーテンウォールについて>
はじめに、外装としてガラスカーテンウォールを備えたビル等の建物の基本的な構造について説明する。図1は、ガラスカーテンウォールを備えた建物1の断面構造について説明する図である。
【0019】
図1には、複数層のフロアを有する建物1の或るフロアの室内空間が描かれている。建物1は、外装10と、床部20と、天井部30とを有している。外装10は、建物1の外壁を含み、屋外の空間(以下、「外部空間」とも呼ぶ)と屋内の空間(以下、「室内空間」とも呼ぶ)とを仕切る部分である。床部20は、建物1の室内空間において、或るフロアの床を構成する部分であり、コンクリートスラブ21と床仕上げ材22とを有する。天井部30は、建物1の室内空間において、或るフロアの天井を構成する部分である。このうち、コンクリートスラブ21を耐火構造とすることで、建物1の各フロアが防火区画として区画される。
【0020】
外装10のうち、上下方向において床部20よりも上側、且つ、天井部30よりも下側の部分を、ビジョン部VAとする。ビジョン部VAは、室内空間のうち人が居住している空間に隣接する部分であり、主にガラスによって構成され、室内空間側からビジョン部VAを介して外部空間側を視認することが可能となっている。以下では、外装10のうちビジョン部VAに設けられているガラスをウインドウガラス15とも呼ぶ。
【0021】
また、外装10のうち、上下方向において天井部30よりも上側、且つ、床部20よりも下側の部分を、スパンドレル部SAとする。スパンドレル部SAは、建物1の防火区画を構成している壁や床(ここではコンクリートスラブ21)と接する部分であり、火災等が生じた場合に、或る防火区画から他の防火区画への延焼を抑制するために設けられる。図1において、外装10のスパンドレル部SAは、外部空間側に設けられた表面ガラス11と、室内空間側に設けられたバックボード12とを有している。表面ガラス11は、ウインドウガラス15と同等のデザイン(意匠)を有するガラスである。バックボード12は、耐熱性や耐火性を有する板状部材であり、火災時に火炎や煙等が建物1の外部空間側から室内空間側へ回り込むことを抑制すると共に、室内空間側に設けられた梁等の構造材が外部空間側から視認されないようにする機能を有している。また、表面ガラス11とバックボード12との間(図1においては水平方向における間)には、中空の空間である中空層13が設けられている。
【0022】
なお、図1では示されていないが、外装10において、床部20よりも上側に所定の高さ(例えば1メートル程度の高さ)を有する壁(所謂、腰壁)が設けられる場合がある。この場合、上下方向において天井部30よりも上側、且つ、腰壁の上端よりも下側の部分をスパンドレル部SAとしても良い。
【0023】
このような建物1は、ビジョン部VA及びスパンドレル部SAにおいて外装10の表面(外部空間との境界)がガラス(ウインドウガラス15及び表面ガラス11)によって構成されており、外装10のほぼ全域がガラスの壁面で覆われたような構造となっている。すなわち、建物1は、カーテンウォール(非耐力壁)がガラスによって形成された外装構造(ガラスカーテンウォール構造)を有している。
【0024】
<スパンドレル部に設けられる太陽電池パネル>
図1で説明したようなガラスカーテンウォールを備えた建物1において、外装10のスパンドレル部SAに太陽電池パネルを設置することによって、スパンドレル部SAにて太陽光発電を行い、建物1のエネルギー効率を向上させることができる。
【0025】
図2は、比較例として、スパンドレル部SAの表面ガラス11として太陽電池パネルを設置した場合の外装構造について説明する図である。従来、ガラスカーテンウォールのスパンドレル部SAに太陽電池パネルを設置しようとする場合、太陽電池パネルがスパンドレル部SAの表面ガラス11を兼用する構成とすることがあった。すなわち、ガラスカーテンウォールの一部となるように太陽電池パネルを設置することが一般的に行われていた。図2では、スパンドレル部SAのうち斜線で表示される表面ガラス11の全体が太陽電池パネルによって構成されている。つまり、図2の矢視A-Aに示されるように、外部空間側から外装10を垂直に見たときに、表面ガラス11の見付面(正面に見える面)の全体が太陽電池パネルとなっている。
【0026】
図2の表面ガラス11として適用される太陽電池パネルは、ビル等の外壁を構成する外装材として用いることが可能な太陽電池パネルであって、厚さ方向に光を透過させない所謂ソリッド型の太陽電池パネルである。このようなソリッド型の太陽電池パネルをスパンドレル部SAに配置した場合、該スパンドレル部SA上下のビジョン部VAに設けられたウインドウガラス15との外観の相違が大きくなりやすい。すなわち、建物1の外装10において、光透過性のウインドウガラス15と光不透過性のソリッド型太陽電池パネル(表面ガラス11)とが並んで配置されていることにより、ガラスカーテンウォールの外観デザイン上の統一性が阻害されるおそれがある。
【0027】
これに対して、本実施形態の外装10では、スパンドレル部SAにおいて、太陽電池パネルを表面ガラス11とは異なる部材とすることで、太陽電池パネルが外部空間側から視認され難くなるようにして、ガラスカーテンウォールの外観デザイン上の統一性を高めている。図3は、スパンドレル部SAの表面ガラス11よりも内部空間側に太陽電池パネル50を設置した場合の外装構造について説明する図である。
【0028】
図3の外装10では、スパンドレル部SAにおいて、表面ガラス11とバックボード12との間の空間である中空層13に、太陽電池パネル50が設けられている。言い換えると、表面ガラス11から室内空間側に所定距離だけ離間した位置、且つ、バックボード12から外部空間側に所定距離だけ離間した位置に太陽電池パネル50が配置されている。このような構成であれば、外部空間側から見たときに、スパンドレル部SAにおいて表面ガラス11が視認され、太陽電池パネル50が視認され難くなる。したがって、スパンドレル部SAの表面ガラス11と、ビジョン部VAのウインドウガラス15とによって、ガラスカーテンウォールの外観デザイン上の統一性が高まる。
【0029】
また、太陽電池パネル50と表面ガラス11とが異なる部材として構成されるため、太陽電池パネル50の大きさや形状が制限され難い。例えば、太陽電池パネル50が表面ガラス11を兼用する場合(図2参照)、スパンドレル部SAの見付面のサイズに合わせて太陽電池パネル50を新規に設計・製造する必要が生じ、著しくコストが高くなるおそれがあった。これに対して、本実施形態では、太陽電池パネル50のサイズが、表面ガラス11の見付面の内側に収容されるサイズであれば良い(図3のB-B矢視参照)。したがって、複数種類の規格品サイズの太陽電池パネル(一般に市販されている太陽電池パネル)の中から、適合可能なサイズの太陽電池パネルを選択して適用することが可能であり、コストを軽減することができる。
【0030】
なお、図3に示される外装10において、太陽電池パネル50が設置されている中空層13は、建物1の室内空間の空調のために設けられる空間とは異なる空間である。したがって、外装10の中空層13において気流を発生させる必要は無く、中空層13は必ずしも室内空間と連通していなくても良いし、密閉された空間であっても良い。これにより、外装10のスパンドレル部SAの構造をシンプルにすることが可能となり、また、中空層13に空調用の余計な設備を設ける必要が無いため、太陽電池パネル50のレイアウトの自由度を高めることができる。したがって、規格品サイズの太陽電池パネル50を設置しやすくなる。
【0031】
一方、図3のようにスパンドレル部SAの中空層13に太陽電池パネル50を設置する場合、中空層13の温度上昇によって太陽電池パネル50の発電効率が低下するおそれがある。すなわち、太陽光に含まれる赤外線(熱線)等の照射を受けることで、太陽電池パネル50及び中空層13の温度(太陽電池パネル50周囲の雰囲気温度)が上昇してしまい、温度上昇に伴って太陽電池パネルの発電出力が低下するおそれがある。
【0032】
図4は、一般的な太陽電池パネルの温度と出力との関係について表す図である。同図4で、横軸は太陽電池パネルの温度を表し、縦軸は当該温度条件下における太陽電池パネルの発電出力を表している。図4に示されるように、太陽電池パネルは、通常、所定の基準温度にて100%の出力で発電を行うように設計されており、基準温度よりも温度が高くなるほど発電出力が低くなる性質を有する。図4では、基準温度である摂氏25度で太陽電池パネルの発電出力100%となり、温度上昇に伴って、発電出力が徐々に低下している。つまり、温度が高くなるほど発電効率が低下していく。したがって、図3において太陽電池パネル50が設置されている中空層13の温度が上昇すると、太陽電池パネル50の発電出力が小さくなり、発電効率が低下するおそれがある。
【0033】
ここで、中空層13の温度を上昇させる要因について説明する。図5は、地上における太陽光の分光放射強度スペクトルを表す図である。太陽光には、主に紫外線(UV)、可視光線(VL)、赤外線(IR)等が含まれている。このうち、波長が約780nm~1mm程度の領域に分布する赤外線の照射を受けた物体は、当該物体内で分子運動(振動)が励起されて温度が上昇する、所謂、赤外線加熱を生じる。一方、波長が780nm未満の可視光線や紫外線ではこのような分子運動による加熱は生じ難く、可視光線や紫外線の照射を受けても温度は上昇し難い。
【0034】
したがって、中空層13に設置された太陽電池パネル50が赤外線の照射を受けると、赤外線加熱によって太陽電池パネル50の温度が上昇する。さらに、加熱された太陽電池パネル50から放出される遠赤外線によって中空層13内の空気が温められ、雰囲気温度が上昇しやすくなる。そのため、中空層13に太陽電池パネル50を設置した場合、徐々に発電効率が低下していくおそれがある。
【0035】
そこで、本実施形態の外装10では、中空層13に赤外線が入射することを抑制することによって、中空層13内部の温度が上昇してしまうことを抑制する。一方、中空層13に可視光線及び紫外線を入射させることによって、太陽電池パネル50における太陽光発電の発電効率が低下しないようにする。図5に示されるように、可視光線(VL)及び紫外線(UL)の合計の放射強度は、赤外線(IR)の放射強度よりも大きく、中空層13に可視光線及び紫外線が入射していれば、太陽光発電に有効な光エネルギーを確保することが可能である。すなわち、太陽電池パネル50が可視光線及び紫外線を選択的に受光し、赤外線を受光しないようにすることで、太陽電池パネル50の発電効率が低下することを抑制することができる。
【0036】
図6は、外装10のスパンドレル部SAにおける太陽光の照射について説明する断面図である。本実施形態では、外装10のスパンドレル部SAにおいて表面ガラス11に、赤外線を選択的に反射する赤外線反射機構60を設けることにより、外部空間側から中空層13に赤外線が入射することを抑制している。赤外線反射機構60は、波長780未満の光(主に紫外線及び可視光線)を透過させ、波長780nm以上の光(赤外線)を反射する膜であり、表面ガラス11の外部空間側の表面に設けられる。
【0037】
赤外線反射機構60を構成する膜の一例としては、特定の波長の光(赤外線)を反射させることで高い遮熱性を備えたフィルムを適用することができる。例えば、東レ株式会社製ナノ積層フィルムPICASUS(R)(登録商標)を例示できる。
【0038】
また、赤外線反射機構60は、赤外線を遮蔽する機能を有する粒子を含んだ透明な樹脂等によって形成される塗膜であっても良い。赤外線を遮蔽する機能を有する粒子としては、例えば、特開2004-4840号公報に記載されている干渉顔料や、特開2010-212381号公報に記載されている金属酸化物被覆合成マイカ、ATOやITO等の金属酸化物導電性微粒子、及びそれらを混合した粒子を例示できる。金属酸化物被覆合成マイカの具体例としては、層状顔料として、メルク社製のIriodin(登録商標)SHR870やIriodin(登録商標)SHR9870等が挙げられ、単層顔料として、メルク社製のIriodin(登録商標)SHR875やIriodin(登録商標)SHR9875等が挙げられる。また、金属酸化物導電性微粒子の具体例としては、リンドープの酸化アンチモンである、三菱マテリアル株式会社製のEPSP-2等が挙げられる。
【0039】
図6において、太陽電池パネル50は、太陽電池セル51と、封止材52と、支持材53とを有している。太陽電池セル51は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子であり、一つの太陽電池パネル50には複数の太陽電池セル51,51…が並べて配列されている。太陽電池セル51自体は公知であるため、詳細な説明は省略する。なお、太陽電池パネル50において隣り合って配置される2つの太陽電池セル51,51の間には、所定の間隔(隙間)が設けられている。封止材52は、配列された複数の太陽電池セル51,51…を封止して保護すると共に位置を固定する部材である。また、封止材52は太陽電池セル51を支持材53と接合する機能も有している。封止材52としては、光透過性及び耐候性の高い部材を用いることが好ましく、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)によって構成される。支持材53は、太陽電池パネル50の外装を構成し、太陽電池セル51を支持する光透過性の部材であり、例えば強化ガラスによって構成される。本実施形態では、太陽電池セル51の厚さ方向の一方側及び他方側の両側に封止材52及び支持材53が設けられている。
【0040】
本実施形態において、外部空間から建物1の外装10に照射する太陽光に含まれる光線のうち波長780nm以上の赤外線は、表面ガラス11に設けられた赤外線反射機構60によって反射され、中空層13には入射し難くなる。一方、波長780nm未満の可視光線及び紫外線は、赤外線反射機構60及び表面ガラス11を透過して中空層13に入射する。なお、表面ガラス11が赤外線によって加熱されてしまうことを抑制するために、赤外線反射機構60は、表面ガラス11の内部空間側ではなく、外部空間側に設けられることが好ましい。
【0041】
中空層13に入射して、支持材53及び封止材52を透過した太陽光(本実施形態においては可視光線及び紫外線)が太陽電池セル51に到達すると、太陽電池セル51にて光エネルギーが電気エネルギーへ変換され、発電がおこなわれる。本実施形態の太陽電池パネル50は、太陽電池セル51の厚さ方向の両側に光透過性を有する封止材52及び支持材53が設けられ、厚さ方向の両側から太陽光が透過可能である。つまり、太陽電池パネル50の両側の面にて太陽光を受光して発電することができる。但し、太陽電池パネル50は、厚さ方向の一方側のみで受光・発電が可能な構成であってもよい。
【0042】
なお、厚さ方向の両側から受光・発電が可能な太陽電池パネル50を用いる場合には、図6のように、バックボード12の外部空間側の面に太陽光を反射する反射板14が設けられていることが好ましい。反射板14は、表面ガラス11を透過して外部空間から中空層13に入射した太陽光を反射させる部材であり、太陽光のうち少なくとも太陽電池パネル50の発電に有効な成分(可視光線及び紫外線)を反射させる。反射板14は、例えばアルミシート等を用いて形成されても良いし、バックボード12の外部空間側の表面にメッキ処理を施したり金属粒子を付着させたりすることによって形成されるのであっても良い。
【0043】
このように、本実施形態の外装10では、建物1の外壁に相当する表面ガラス11に赤外線を反射する赤外線反射機構60が設けられることにより、中空層13に赤外線が入射し難い。したがって、該中空層13内に設置された太陽電池パネル50において赤外線加熱が生じ難く、中空層13の雰囲気温度も上昇し難くなる。これにより、ガラスカーテンウォール構造を有する外装10のスパンドレル部SAに太陽電池パネル50を設置した場合であっても、該太陽電池パネル50の発電効率が低下してしまうことを抑制することができる。
【0044】
また、赤外線反射機構60は、赤外線を選択的に反射しつつ、可視光線及び紫外線は透過させるため、太陽電池パネル50の発電に有効な可視光線及び紫外線が中空層13に入射することは制限され難い。したがって、赤外線反射機構60が設けられていない場合(すなわち、赤外線が反射されずに中空層13に入射する場合)と比較して、太陽電池パネル50に受光される光エネルギーの大きさは低減され難く、発電効率は低下し難い。そして、可視光線及び紫外線は、赤外線加熱の様な発熱を生じさせ難いため、中空層13及び太陽電池パネル50の温度上昇には寄与し難い。これらのことから、太陽電池パネル50の発電効率が低下してしまうことを抑制しやすくなる。
【0045】
また、赤外線反射機構60は、表面ガラス11の表面に設けられる膜(フィルムや塗膜)である。このような構成であれば、外装10の外側にパネル状の遮光フィルター等の部材を取り付ける場合と比較して、表面ガラス11の外観のデザインが大きく変更され難く、美観を損ない難い。したがって、ガラスカーテンウォールの外観デザイン上の統一性を維持しやすい。また、太陽電池パネル50や外装10の追加工事等を行うことなく設置することができる。すなわち、表面ガラス11自体を交換する等の必要は無く表面ガラス11に、フィルムを貼り付けたり塗膜を形成したりするだけで、簡単に赤外線反射機構60を設置可能であり、設置に係るコストを低く抑えることができる。
【0046】
そして、赤外線反射機構60は、可視光透過性を有する透明な膜(フィルムや塗膜)であって、金属酸化物被覆合成マイカ及び金属酸化物導電性微粒子の少なくとも何れかを含んでいることが好ましい。これらの粒子を含んだ透明な膜であれば、スパンドレル部SAにおいて、可視光透過性を維持しつつ、赤外線を選択的に反射することで高い遮熱性を実現することができる。したがって、ビジョン部VAのウインドウガラス15とスパンドレル部SAの表面ガラス11との外観デザイン上の統一性が保たれやすく、且つ、中空層13の温度上昇が抑制されるため太陽電池パネル50の発電効率を低下させ難くすることができる。
【0047】
なお、図3で説明したように、太陽電池パネル50の見付面は表面ガラス11の見付面よりも小さなっている。ここで、外部空間側から表面ガラス11を垂直に見たときに、太陽電池パネル50の見付面よりも外側に位置する部分を周囲ガラス部SGとすると、太陽光の少なくとも一部は、周囲ガラス部SGを透過して外装10の中空層13へ入射する。そして、反射板14で反射された太陽光は、太陽電池パネル50の室内空間側の面に入射して太陽電池セル51によって受光される(図6参照)。これにより、太陽電池パネル50による発電効率をより高めることができる。
【0048】
仮に、太陽電池パネル50の見付面と表面ガラス11の見付面とが同じ大きさであった場合、すなわち、周囲ガラス部SGが存在していなかった場合、反射板14で反射される太陽光の光エネルギーが小さくなってしまうおそれがある。周囲ガラス部SGが存在していない場合、表面ガラス11を透過して中空層13へ入射した太陽光(可視光線及び紫外線)は、先ずシースルーの太陽電池パネル50を外部空間側から室内空間側へ透過してから反射板14で反射され、太陽電池セル51の室内空間側の面で受光される。この場合、太陽光の光エネルギーは、太陽電池パネル50の封止材52及び支持材53を透過する際に拡散されたり低減されたりし、その後で反射板14で反射されることになる。
【0049】
これに対して、本実施形態の外装10では、表面ガラス11に周囲ガラス部SGが設けられ、当該周囲ガラス部SGを透過した太陽光の一部は、太陽電池パネル50(封止材52及び支持材53)を透過せずに反射板14で反射されるため、光エネルギーが低減され難い。したがって、太陽電池セル51の室内空間側の面で受光される太陽光(反射板14による反射光)の光エネルギーがより大きくなり、周囲ガラス部SGが設けられていない場合と比較して発電効率を高めることができる。
【0050】
また、太陽電池パネル50の設置角度を適当に調節することによって発電効率を高めることができる。図7A及び図7Bは、太陽電池パネル50の設置角度の変更例について説明する図である。
【0051】
図7Aは、外装10の表面ガラス11が南向きに配置されている場合の、太陽電池パネル50の設置角度の変更例について表している。建物1において、表面ガラス11が南向きに設置されている場合、太陽光は、南側の斜め上方から北側の斜め下方に向かって照射する時間が長くなる。この場合、太陽電池パネル50の外部空間側の受光面を、太陽光が照射する方向に対してなるべく直交に近い角度となるように配置することで、発電効率を高めることができる。すなわち、図7Aのように中空層13において太陽電池パネル50の受光面が、表面ガラス11に対して斜め上側に傾斜するように配置することにより、効率よく太陽光を受光することができるようになる。したがって、太陽電池パネル50を表面ガラス11と平行に配置する場合と比較して、発電効率を高めることが可能となる。
【0052】
次に、図7Bは、外装10の表面ガラス11が西向きに配置されている場合の、太陽電池パネル50の設置角度の変更例について表している。建物1において、表面ガラス11が西向きに設置されている場合、太陽光は、南西方向から北東方向に向かって照射する時間が長くなる。この場合も、太陽電池パネル50の外部空間側の受光面を、太陽光が照射する方向に対してなるべく直交に近い角度となるように配置することで、発電効率を高めることができる。すなわち、図7Bのように中空層13において太陽電池パネル50の受光面が、南西方向を向くよう表面ガラス11に対して傾斜して配置することにより、効率よく太陽光を受光することができるようになる。したがって、太陽電池パネル50を表面ガラス11と平行に配置する場合と比較して、発電効率を高めることが可能となる。
【0053】
図7A及び図7B以外の場合も、外装10の表面ガラス11と太陽との位置関係に応じて、太陽光を効率よく受光可能なように表面ガラス11に対する太陽電池パネル50の設置角度を調整することによって、より効率的に太陽光発電を行うことができる。
【0054】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0055】
上述の実施形態では、外装10のスパンドレル部SAにおいて、中空層13に規格品サイズの太陽電池パネル50が1枚だけ設置される例について説明されていた(図3等参照)。しかしながら、設置される太陽電池パネル50の数は1枚に限られものではなく、スパンドレル部SA内に複数枚の太陽電池パネル50が設置されていても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 建物(ビル)、
10 外装、
11 表面ガラス、12 バックボード、13 中空層、14 反射板、
15 ウインドウガラス、
20 床部、
21 コンクリートスラブ、22 床仕上げ材、
30 天井部、
50 太陽電池パネル、
51 太陽電池セル、52 封止材、53 支持材、
60 赤外線反射機構、
VA ビジョン部、
SA スパンドレル部、SG 周囲ガラス部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7