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特開2024-169084炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169084
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241128BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20241128BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20241128BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/14 A
C04B18/14 F
C04B40/02
B28C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086273
(22)【出願日】2023-05-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/CO2を用いたコンクリート等製造技術開発/CO2排出削減・固定量最大化コンクリートの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】クマル アワド
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐麻
(72)【発明者】
【氏名】取違 剛
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CB25
4G112JC01
4G112PA27
4G112PA29
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】COの固定量が多く、CO源の供給に伴う流動性組成物のスランプ低下を抑制できる、炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法は、COを吸収し、かつセメントを含まないセメント非含有CO吸収剤と、CO源と、減水剤、AE剤および高性能AE減水剤からなる群より選択される1種以上を含む添加剤と、を含有する非セメント成分を混練して、炭酸ガスを固定化した炭酸ガス固定化非セメント混練物を得る非セメント混練工程と、前記非セメント混練工程で得られた前記炭酸ガス固定化非セメント混練物とセメントとを混練して流動性組成物を得るセメント混練工程と、前記セメント混練工程で得られた前記流動性組成物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化水硬性硬化体を得る硬化工程とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
COを吸収し、かつセメントを含まないセメント非含有CO吸収剤と、CO源と、減水剤、AE剤および高性能AE減水剤からなる群より選択される1種以上を含む添加剤と、を含有する非セメント成分を混練して、炭酸ガスを固定化した炭酸ガス固定化非セメント混練物を得る非セメント混練工程と、
前記非セメント混練工程で得られた前記炭酸ガス固定化非セメント混練物とセメントとを混練して流動性組成物を得るセメント混練工程と、
前記セメント混練工程で得られた前記流動性組成物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化水硬性硬化体を得る硬化工程と
を有する、炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記セメント非含有CO吸収剤は、γ-CS、高炉スラグ微粉末、製鋼スラグおよびフライアッシュからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1に記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記CO源は、ドライアイスである、請求項1に記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
【請求項4】
前記非セメント成分は、さらに骨材を含む、請求項1に記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
【請求項5】
前記非セメント混練工程において、前記非セメント成分と水とを混練して前記炭酸ガス固定化非セメント混練物を得る、請求項1に記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
【請求項6】
前記セメント混練工程において、前記炭酸ガス固定化非セメント混練物およびセメントに加えて、さらに水および前記添加剤の少なくとも一方を混練して前記流動性組成物を得る、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
【請求項7】
前記セメント混練工程において、前記炭酸ガス固定化非セメント混練物、セメント、水および前記添加剤を混練して得られるセメント混練物に対して、水および前記添加剤を添加し混練して前記流動性組成物を得る、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに使用されているセメントは、製造時に、燃料の燃焼および脱炭酸反応により多量の炭酸ガス(二酸化炭素、CO)を排出することから、コンクリートのCO排出原単位が大きい。近年、地球温暖化や気候変動の脅威が高まる中、コンクリート中へのCO固定を高効率化する革新的で適用しやすい方法が求められている。
【0003】
コンクリートにCOを固定させる方法には、炭酸ガスやドライアイスなど、様々なCO源の供給方法がある。例えば、特許文献1には、セメント、細骨材および水を含み、かつ、二酸化炭素を固定化してなるセメント組成物を製造する方法が記載されている。特許文献1のセメント組成物の製造方法では、所定量のセメント、所定量の細骨材、所定量の水およびCO源であるドライアイスを撹拌しながら混合して、セメント含有混合物を得る第1混合工程と、セメント含有混合物を所定時間静置して混合物を得る静置工程と、混合物、セメントの残部、細骨材の残部および水の残部を撹拌しながら混合して、セメント組成物を得る第2混合工程と、を有する。
【0004】
しなしながら、特許文献1のように、セメント成分に対してCO源を供給すると、セメントの水和反応に伴う凝結に加えてセメントとCOとが反応することにより、上記のセメント含有混合物のような流動性組成物のスランプが大幅に減少することから、流動性組成物の所望のフレッシュ性状を得ることは難しい。また、スランプの減少を抑制するためには、セメント成分に対するCO源の供給量を少なくしなければならず、その結果、コンクリートなどの水硬性硬化体に固定されるCOの量には限界がある。さらに、特許文献1では、セメント成分にCOを固定させるために所定時間の静置工程を行う必要があることから、所定時間待機しなければならず、さらには静置中にスランプの減少がさらに進むので、スランプが一段と減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2023-18308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、COの固定量が多く、CO源の供給に伴う流動性組成物のスランプ低下を抑制できる、炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] COを吸収し、かつセメントを含まないセメント非含有CO吸収剤と、CO源と、減水剤、AE剤および高性能AE減水剤からなる群より選択される1種以上を含む添加剤と、を含有する非セメント成分を混練して、炭酸ガスを固定化した炭酸ガス固定化非セメント混練物を得る非セメント混練工程と、前記非セメント混練工程で得られた前記炭酸ガス固定化非セメント混練物とセメントとを混練して流動性組成物を得るセメント混練工程と、前記セメント混練工程で得られた前記流動性組成物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化水硬性硬化体を得る硬化工程とを有する、炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
[2] 前記セメント非含有CO吸収剤は、γ-CS、高炉スラグ微粉末、製鋼スラグおよびフライアッシュからなる群より選択される1種以上を含む、上記[1]に記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
[3] 前記CO源は、ドライアイスである、上記[1]または[2]に記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
[4] 前記非セメント成分は、さらに骨材を含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
[5] 前記非セメント混練工程において、前記非セメント成分と水とを混練して前記炭酸ガス固定化非セメント混練物を得る、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
[6] 前記セメント混練工程において、前記炭酸ガス固定化非セメント混練物およびセメントに加えて、さらに水および前記添加剤の少なくとも一方を混練して前記流動性組成物を得る、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
[7] 前記セメント混練工程において、前記炭酸ガス固定化非セメント混練物、セメント、水および前記添加剤を混練して得られるセメント混練物に対して、水および前記添加剤を添加し混練して前記流動性組成物を得る、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、COの固定量が多く、CO源の供給に伴う流動性組成物のスランプ低下を抑制できる、炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、実施例1および比較例1、3~4の流動性組成物のスランプ試験を行った結果を示すグラフである。
図3図3は、比較例1の圧縮強度に対する実施例1および比較例2~4の圧縮強度の割合を示すグラフである。
図4図4は、実施例2~4および比較例5の水硬性硬化体および比較例6の流動性組成物に固定したCO量を測定した結果を示すグラフである。
図5図5は、γ-CSまたは高炉スラグ微粉末に固定したCO量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、セメント非含有CO吸収剤とCO源と添加剤とを含む非セメント成分を混練して得られる炭酸ガス固定化非セメント混練物に対してセメントを混練することで、水硬性硬化体中のCO固定量が多く、CO源の供給に伴う流動性組成物のスランプ低下を抑制できることを見出し、かかる知見に基づき本開示を完成させるに至った。
【0012】
本発明の炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法は、COを吸収し、かつセメントを含まないセメント非含有CO吸収剤と、CO源と、減水剤、AE剤および高性能AE減水剤からなる群より選択される1種以上を含む添加剤と、を含有する非セメント成分を混練して、炭酸ガスを固定化した炭酸ガス固定化非セメント混練物を得る非セメント混練工程と、非セメント混練工程で得られた炭酸ガス固定化非セメント混練物とセメントとを混練して流動性組成物を得るセメント混練工程と、セメント混練工程で得られた流動性組成物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化水硬性硬化体を得る硬化工程とを有する。
【0013】
本発明の炭酸ガス固定化水硬性硬化体(以下、単に水硬性硬化体ともいう)の製造方法は、非セメント混練工程S10、セメント混練工程S20および硬化工程S30を有する。この製造方法で製造される水硬性硬化体は、炭酸ガスを固定化しているコンクリートまたはモルタルである。
【0014】
炭酸ガス固定化水硬性硬化体の製造方法における非セメント混練工程S10では、セメントを含まない非セメント成分を混練して、炭酸ガス(CO)を固定化した炭酸ガス固定化非セメント混練物を得る。非セメント成分は、セメント非含有CO吸収剤、CO源および添加剤を含む。
【0015】
非セメント成分に含まれるセメント非含有CO吸収剤は、セメントを含まない。さらに、セメント非含有CO吸収剤は、COを吸収し、炭酸化されて、COを固定化する。水硬性硬化体中の炭酸ガス固定量を多くする観点から、セメント非含有CO吸収剤は、γ-CS(γ-2CaO・SiO、γビーライトともいう)、高炉スラグ微粉末、製鋼スラグおよびフライアッシュからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、γ-CSを含むことがより好ましく、γ-CSであることがさらに好ましい。
【0016】
後述のセメント混練工程S20で炭酸ガス固定化非セメント混練物と混練するセメントの一部をセメント非含有CO吸収剤に代替することで、セメントの使用量を減らすことができる。そのため、製造時のCO排出量の多いセメントの使用量を削減し、CO排出量を削減することができる。さらには、γ-CSを含有することで、水硬性硬化体の圧縮強度を増加することができることから、この点からもセメントの使用量を減らすことができる。
【0017】
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206:2013「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定される微粉末である。高炉で、せん鉄と同時に生成する溶融状態の高炉スラグを水や空気によって急冷したものが高炉水砕スラグであり、その塩基度は1.60以上である。この高炉水砕スラグを乾燥・粉砕したもの、又はこれに、石膏を添加したものが、高炉スラグ微粉末である。ポルトランドセメントの一部を高炉スラグ微粉末で代替することにより、セメント製造段階での炭酸ガス排出量を低減させることができる。
【0018】
非セメント成分に含まれるCO源は、COが含まれていれば、性状などは特に限定されるものではない。例えば、CO源は、気体状のCO(炭酸ガス)、液体状のCO(液化二酸化炭素、液体炭酸ガス)、固体状のCO(ドライアイス)、COを含む気体、COを含む液体、COを含む固体などが挙げられる。COを含む液体としては、COを含む水溶液(炭酸水)などが挙げられる。COを含む固体としては、炭酸氷などが挙げられる。CO源は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。後述のように、CO源がCOを含む水溶液であると、セメント非含有CO吸収剤にCOを効率よく固定できる。
【0019】
また、CO源がドライアイスまたはCOを含む固体である場合には、水溶性材料で構成され、内部にCO源を収容する、CO源収容物を用いてもよい。CO源収容物には、セメント非含有CO吸収剤などがさらに収容されてもよい。CO源収容物が非セメント成分中の水分によって溶けることで、収容されていたCO源などの収容物が外に出る。
【0020】
セメント非含有CO吸収剤とセメントとの合計重量に対するCO源の割合ついて、下限値は、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.6%以上、さらに好ましくは1.0%以上であり、上限値は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは5.0%以下である。上記のCO源割合が0.3%以上であると、十分な量のCOを水硬性硬化体に固定できる。また、上記のCO源割合が20.0%以下であると、CO源の供給に伴う流動性組成物のスランプ低下を抑制できる。
【0021】
また、COの供給源としては、大気中のCOを効率的に削減する観点から、火力発電所の排ガス、ボイラーからの排ガス、他の製品の製造工程で排出されるCOを含む排ガス、排ガス中のCO濃度を高めた高濃度COガスなどであることが好ましい。また、これらのガスは、湿度や温度を調整してもよい。
【0022】
また、水硬性硬化体がコンクリートである場合、非セメント成分は、さらに骨材を含む。骨材は、細骨材および粗骨材の少なくとも一方を含む。
【0023】
細骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材である。細骨材としては、例えば砕砂、砂、川砂、海砂、石灰砕砂、再生骨材、軽量骨材、重量骨材等が挙げられる。
【0024】
粗骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材であり、粒の大きさにより上記の細骨材とは区別されるもので、5mmふるいを通るか否かで区分する。実用上、10mmふるいをすべて通り5mmふるいを重量で85%以上通るものを細骨材、5mmふるいに重量で85%以上とどまるものを粗骨材としている。
【0025】
非セメント成分におけるセメント非含有CO吸収剤や骨材が水分で湿っている、すなわちセメント非含有CO吸収剤や骨材に水分が含まれている場合や、COを含む水溶液のような、CO源に水分が含まれている場合などでは、セメント非含有CO吸収剤は、非セメント成分中の水分によってイオン化されるため、COを短時間に効率よく固定(炭酸化)できる。
【0026】
非セメント成分中の水分量が少ない場合や非セメント成分に水分が含まれていない場合には、非セメント成分に水を加えることで、イオン化するセメント非含有CO吸収剤の量が増えるため、炭酸ガス固定化非セメント混練物は、短時間でより多くのCOを固定できる。すなわち、非セメント成分と水とを混練することで、炭酸ガス固定化非セメント混練物に固定されるCOの量を増加できる。
【0027】
非セメント成分に含まれる添加剤は、減水剤、AE剤および高性能AE減水剤からなる群より選択される1種以上を含む。添加剤は、後述のセメント混練工程S20において、炭酸ガス固定化非セメント混練物に含まれるCOのうち、セメント非含有CO吸収剤に固定(炭酸化)されていないCOとセメントとの反応に起因する流動性組成物のスランプの低下を抑制する。
【0028】
また、流動性組成物のスランプの低下および水硬性硬化体のCO固定量の低下が生じなければ、流動性組成物や水硬性硬化体の所望の特性に応じて、炭酸ガス固定化非セメント混練物には、上記したセメント非含有CO吸収剤、CO源、添加物および骨材に加えて、各種の任意成分が含まれてもよい。非セメント混練工程S10では、任意成分を非セメント成分と共に混練してもよいし、炭酸ガス固定化非セメント混練物に任意成分を添加して混練してもよい。
【0029】
非セメント混練工程S10の後に実施するセメント混練工程S20では、非セメント混練工程S10で得られた炭酸ガス固定化非セメント混練物とセメントとを混練して、流動性組成物を得る。流動性組成物は、セメント組成物であり、流動性を有する。
【0030】
セメント混練工程S20で用いられるセメントは、ポルトランドセメントであることが好ましい。ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメント(OPC)の他、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等の種類があり、これらはJIS R 5210:2019に規定されている。流動性組成物においては、これら種々のポルトランドセメントの1種又は2種以上を配合するものを用いることができる。これらの中でも、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントの1種又は2種を使用したものを用いることが好ましい。
【0031】
非セメント混練工程S10で得られた炭酸ガス固定化非セメント混練物に含まれる水分とセメントとが反応して水和反応が起こるが、炭酸ガス固定化非セメント混練物中の水分が少ない場合には、セメント混練工程S20前やセメント混練工程S20時に水を加えてもよい。
【0032】
流動性組成物中に固定されているCOとしては、セメント非含有CO吸収剤に固定されているCOおよびセメントに固定されているCOがある。
【0033】
セメント混練工程S20において、炭酸ガス固定化非セメント混練物に含まれるCOのうち、セメント非含有CO吸収剤に固定されていないCOがセメントと反応して、セメントにCOが固定される一方で、COがセメントと反応すると、流動性組成物のスランプが低下する。
【0034】
ここで、特許文献1などの従来技術では、セメントを含む系にCOを供給する。一方、本発明では、非セメント混練工程S10でセメント非含有CO吸収剤にCOを固定させる。ただし、全てのCOがセメント非含有CO吸収剤に固定されない場合には、後続のセメント混練工程S20において、セメント非含有CO吸収剤に固定されていないCOがセメントと反応する。
【0035】
このように、本発明と従来技術では、CO源を供給する対象物が異なる。さらには、本発明に比べて、セメントを含む系にCOを供給する従来技術では、多くのセメントがCOと反応する。このように、本発明では、COと反応するセメントの量を大幅に減らせるため、流動性組成物のスランプ低下を抑制できる。また、本発明では、炭酸ガス固定化非セメント混練物に添加剤が含まれることから、セメントとCOとの反応に起因する流動性組成物のスランプの低下をさらに抑制できる。
【0036】
また、流動性組成物のスランプの低下および水硬性硬化体のCO固定量の低下が生じなければ、流動性組成物や水硬性硬化体の所望の特性に応じて、流動性組成物には、上記した炭酸ガス固定化非セメント混練物およびセメントに加えて、各種の任意成分が含まれてもよい。セメント混練工程S20では、任意成分を炭酸ガス固定化非セメント混練物およびセメントと共に混練してもよいし、流動性組成物に任意成分を添加して混練してもよい。
【0037】
また、セメント混練工程S20において、炭酸ガス固定化非セメント混練物およびセメントに加えて、さらに水および上記添加剤の少なくとも一方を混練して流動性組成物を調製してもよい。上記添加剤とは、減水剤、AE剤および高性能AE減水剤からなる群より選択される1種以上である。このように、本発明では、水や添加剤をセメント混練工程S20で供給してもよい。
【0038】
また、セメント混練工程S20において、炭酸ガス固定化非セメント混練物、セメント、水および上記添加剤を混練して得られるセメント混練物に対して、水および添加剤を添加し混練して流動性組成物を調製してもよい。このように、本発明では、セメント混練工程S20において水や添加剤を複数回に亘って供給してもよい。
【0039】
セメント混練工程S20の後に実施する硬化工程S30では、セメント混練工程S20で得られた流動性組成物を打設して硬化させ、炭酸ガス固定化水硬性硬化体を得る。流動性組成物は、COを固定していない流動性組成物と同様の作業プロセスで、型枠に容易に打ち込むことができる。硬化工程S30における流動性組成物の硬化の方法は、特に限定されるものではない。例えば、コンクリートやモルタルの分野で実施されている既知の方法を適用できる。
【0040】
水硬性硬化体のCO固定量を増加し、流動性組成物のスランプ低下を抑制する観点から、非セメント混練工程S10におけるCO源はドライアイスであることが好ましい。また、このときには、同様の観点から、非セメント混練工程S10において、非セメント成分と水とを混練して炭酸ガス固定化非セメント混練物を得ることが好ましい。
【0041】
以上説明した実施形態によれば、セメント非含有CO吸収剤とCO源と添加剤とを含む非セメント成分を混練して得られる炭酸ガス固定化非セメント混練物に対してセメントを混練することで、水硬性硬化体中のCO固定量が多く、CO源の供給に伴う流動性組成物のスランプ低下を抑制することができる。
【0042】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0043】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例および比較例で用いた原料を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例1)
まず、表2に示す数値量のγ-CS(γ)、ドライアイス(D)、細骨材(S)および粗骨材(G)を20秒間混練した後、混練物に対して表2に示す数値の70%の量の上水道水(W)、減水剤(AD)およびAE剤(AE)を添加して30秒間混練し、炭酸ガスを固定化した炭酸ガス固定化非セメント混練物を得た。
【0047】
次に、炭酸ガス固定化非セメント混練物に対して、表2に示す数値量の普通ポルトランドセメント(C)、ならびに表2に示す数値の15%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して60秒間混練した。続いて、混練物に対して、表2に示す数値の15%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して30秒間混練し、流動性組成物を得た。次に、流動性組成物を型枠に打設し、7日間の封緘養生を行って、炭酸ガス固定化水硬性硬化体を得た。表2に示すように、ドライアイスの量は、粉体量P(Cとγの合計重量)の0.6%とした。
【0048】
(比較例1~2)
表2に示す原料を混練して流動性組成物を得た。次に、流動性組成物を型枠に打設し、7日間の封緘養生を行って、水硬性硬化体を得た。すなわち、比較例1~2では、CO源を使用せず、強制的なCO添加を行わなかった。
【0049】
(比較例3)
まず、表2に示す数値量の普通ポルトランドセメント、細骨材および粗骨材を30秒間混練した。続いて、セメント混練物に対して表2に示す数値量の上水道水、ドライアイス、減水剤およびAE剤を添加して60秒間混練し、炭酸ガスを固定した流動性組成物を得た。次に、流動性組成物を型枠に打設し、7日間の封緘養生を行って、炭酸ガス固定化水硬性硬化体を得た。すなわち、比較例3では、セメント混練物に対して、水とCO源とを同時に添加した。また、比較例3では、セメント非含有CO吸収剤を使用しなかった。
【0050】
(比較例4)
まず、表2に示す数値量の普通ポルトランドセメント、細骨材および粗骨材を30秒間混練した。続いて、セメント混練物に対して表2に示す数値量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して60秒間混練した。続いて、セメント混練物に対して表2に示す数値量のドライアイスおよびγ-CSを添加して30秒間混練し、炭酸ガスを固定した流動性組成物を得た。次に、流動性組成物を型枠に打設し、7日間の封緘養生を行って、炭酸ガス固定化水硬性硬化体を得た。すなわち、比較例4では、セメント混練物に対して、水を添加した後に、CO源を添加した。また、比較例4では、CO源とセメント非含有CO吸収剤を同時に添加した。
【0051】
実施例1および比較例1、3~4について、流動性組成物のフレッシュ性状の評価として、JIS A 1101:2005「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠して流動性組成物のスランプ試験を行った結果を図2に示す。図2に示すように、セメント混練物に対して水とCO源とを同時に添加した比較例3、およびセメント混練物に対して水を添加した後にCO源を添加した比較例4に比べて、炭酸ガスを固定化した炭酸ガス固定化非セメント混練物にセメントを添加した実施例1では、スランプの低下を抑制できた。
【0052】
また、実施例1および比較例1の水硬性硬化体を熱重量分析して、水硬性硬化体に固定したCO量を測定した結果、比較例1に比べて、実施例1の水硬性硬化体中のCO固定量が多かった。
【0053】
また、JIS A 1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に従い、実施例1および比較例1~4の水硬性硬化体の圧縮強度を測定した結果を表2に示す。また、比較例1の圧縮強度(32.3N/mm))に対する実施例1および比較例2~4の圧縮強度の割合を図3に示す。表2および図3に示すように、CO源を添加した実施例1および比較例3~4を比べると、実施例1の圧縮強度が最も大きかった。さらには、実施例1の圧縮強度は、CO源が無添加でセメント量が多い比較例1と同等であった。
【0054】
【表2】
【0055】
(実施例2~4)
実施例2~4では、ドライアイスの量を変えて得られた水硬性硬化体の特性を調査した。
【0056】
まず、表3に示す数値量のγ-CSおよびドライアイスを20秒間混練した後、混練物に対して表3に示す数値の70%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して30秒間混練し、炭酸ガスを固定化した炭酸ガス固定化非セメント混練物を得た。
【0057】
次に、炭酸ガス固定化非セメント混練物に対して、表3に示す数値量の普通ポルトランドセメント、ならびに表3に示す数値の15%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して60秒間混練した。続いて、混練物に対して、表3に示す数値の15%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して30秒間混練し、流動性組成物を得た。次に、流動性組成物を型枠に打設し、7日間の封緘養生を行って、炭酸ガス固定化水硬性硬化体を得た。
【0058】
(比較例5)
比較例5では、ドライアイスを使用せずに得られた水硬性硬化体の特性を調査した。まず、表3に示す数値量のγ-CSおよび表3に示す数値の70%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を30秒間混練し、非セメント混練物を得た。
【0059】
次に、非セメント混練物に対して、表3に示す数値量の普通ポルトランドセメント、ならびに表3に示す数値の15%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して60秒間混練した。続いて、混練物に対して、表3に示す数値の15%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して30秒間混練し、流動性組成物を得た。次に、この流動性組成物を型枠に打設し、7日間の封緘養生を行って、水硬性硬化体を得た。すなわち、比較例5では、CO源を使用せず、強制的なCO添加を行わなかった。
【0060】
(比較例6)
比較例6では、セメントを使用せずに得られた流動性組成物の特性を調査した。まず、表3に示す数値量のγ-CSおよびドライアイスを20秒間混練した後、混練物に対して表3に示す数値の70%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して30秒間混練し、炭酸ガスを固定化した炭酸ガス固定化非セメント混練物を得た。
【0061】
次に、炭酸ガス固定化非セメント混練物に対して、表3に示す数値の15%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して60秒間混練した。続いて、混練物に対して、表3に示す数値の15%の量の上水道水、減水剤およびAE剤を添加して30秒間混練し、流動性組成物を得た。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例1と同様に、流動性組成物のスランプ試験および水硬性硬化体の圧縮強度を測定した。その結果、実施例2~4は、実施例1と同様に、スランプの低下を抑制できた。また、実施例2~4は、実施例1と同様に、優れた圧縮強度であった。
【0064】
また、実施例2~4および比較例5の水硬性硬化体、ならびに比較例6の流動性組成物を熱重量分析して、水硬性硬化体または流動性組成物に固定したCO量を測定した結果を図4に示す。図4に示すように、実施例2~4のように、CO源の量を増加することによって、水硬性硬化体中のCO固定量を増加できた。
【0065】
また、セメント非含有CO吸収剤であるγ-CSまたは高炉スラグ微粉末とドライアイスとを混練して得られた試料を熱重量分析して、γ-CSまたは高炉スラグ微粉末に固定したCO量を測定した結果を図5に示す。図5に示すように、γ-CSと同様に、高炉スラグ微粉末とドライアイスとを混練することで、高炉スラグ微粉末に多くのCOを固定できた。このように、セメント非含有CO吸収剤の種類を変えても、COを固定できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5