(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169091
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ファイバレーザ、励起光源ユニット、及び、ファイバアンプの制御方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/00 20060101AFI20241128BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20241128BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01S3/00 G
H01S3/067
H01S3/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086284
(22)【出願日】2023-05-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、防衛装備庁、試作研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 達也
(72)【発明者】
【氏名】長岡 隆二
【テーマコード(参考)】
5F172
【Fターム(参考)】
5F172AM04
5F172AM08
5F172DD03
5F172NN10
5F172NP16
5F172NR28
5F172XX05
5F172ZA03
5F172ZZ01
(57)【要約】
【課題】ジャイアントパルスの発生を抑えたファイバレーザ等を実現する。
【解決手段】ファイバレーザ(1)は、MO部(11)、PA部(12)、電圧検出部(12b3)、及び制御部(12b2)を備えている。PA部(12)は、光ファイバ(12a)、励起光源(LD)、コンデンサ(C)、及びスイッチ(SW2)を備えている。電圧検出部(12b3)は、MO部(11)及び励起光源(LD)に電流を供給する直流電源(PS)の電圧を検出する。制御部(12b2)は、電圧検出部(12b3)にて検出された電圧が予め定められた閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したことをトリガーとして、スイッチ(SW2)を開状態に制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MO(Master Oscillator)部と、
希土類元素が添加された光ファイバ、該希土類元素を励起させるための励起光を生成する励起光源、該励起光源に並列に接続されたコンデンサ、及び、該励起光源と該コンデンサとを含む閉電流路内に設けられたスイッチを含み、該光ファイバを用いて前記MO部にて生成されたレーザ光を増幅するPA(Power Amplifier)部と、
前記MO部及び前記励起光源に電流を供給する直流電源の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部にて検出された電圧が予め定められた閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したことをトリガーとして、前記スイッチを開状態に制御する制御部と、を備えている、
ことを特徴とするファイバレーザ。
【請求項2】
前記MO部は、希土類元素が添加された光ファイバ、該希土類元素を励起させるための励起光を生成する励起光源、及び、該励起光源に並列に接続されたコンデンサを含んでおり、
前記直流電源は、前記MO部に含まれる前記励起光源及び前記PA部に含まれる前記励起光源の双方に電流を供給する、
ことを特徴とする請求項1に記載のファイバレーザ。
【請求項3】
前記スイッチを開状態に制御してから前記PA部に含まれる前記励起光源に供給される電流が0Aになるまでの時間は、100μ秒以下であり、
前記スイッチを開状態に制御してから前記MO部に含まれる前記励起光源に供給される電流が0Aになるまでの時間は、1m秒以上である、
ことを特徴とする請求項2に記載のファイバレーザ。
【請求項4】
前記スイッチは、前記直流電源の負極と前記MO部の前記励起光源との間の電流路上に設けられた負極側スイッチであり、
前記制御部は、前記電圧検出部にて検出された電圧が前記閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したときに、前記負極側スイッチを開状態に制御する
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のファイバレーザ。
【請求項5】
前記スイッチは、前記直流電源の負極と前記MO部の前記励起光源との間の電流路上に設けられた負極側スイッチ、及び、前記直流電源の正極と前記MO部の前記励起光源との間の電流路上に設けられた正極側スイッチであり、
前記制御部は、前記電圧検出部にて検出された電圧が前記閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したときに、前記負極側スイッチ及び前記正極側スイッチの一方又は両方を開状態に制御する、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のファイバレーザ。
【請求項6】
前記スイッチは、FET(Field Effect Transistor)である、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載のファイバレーザ。
【請求項7】
希土類元素が添加された光ファイバを含むファイバアンプに用いる励起光源ユニットであって、
前記希土類元素を励起させるための励起光を生成する励起光源と、
前記励起光源に並列に接続されたコンデンサと、
前記励起光源と前記コンデンサとの間の電流路上に設けられたスイッチと、
前記励起光源に電流を供給する直流電源の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部にて検出された電圧が予め定められた閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したことをトリガーとして、前記スイッチを開状態に制御する制御部と、を備えている、
ことを特徴とする励起光源ユニット。
【請求項8】
MO(Master Oscillator)部と、希土類元素が添加された光ファイバ、該希土類元素を励起させるための励起光を生成する励起光源、該励起光源に並列に接続されたコンデンサ、及び、該励起光源と該コンデンサとの間の電流路上に設けられたスイッチを含み、該光ファイバを用いて前記MO部にて生成されたレーザ光を増幅するPA(Power Amplifier)部と、を備えたファイバレーザの制御方法であって、
前記MO部及び前記励起光源に電流を供給する直流電源の電圧を検出する電圧検出工程と、
前記電圧検出工程にて検出された電圧が予め定められた閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したときに、前記スイッチを開状態に制御する制御工程と、を含んでいる、
ことを特徴とするファイバレーザの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MO部とPA部とを備えるファイバレーザに関する。また、そのようなファイバレーザに用いられる励起光源ユニットに関する。また、そのようなファイバレーザの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工等に用いられる高出力ファイバレーザとして、MOPA型のファイバレーザが広く用いられている。MOPA型のファイバレーザを開示した文献としては、例えば、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MOPA型のファイバレーザにおいては、MO部にて生成されたレーザ光をPA部において増幅することによって、高強度のレーザ光を得る。PA部としては、希土類元素が添加された光ファイバと、その希土類元素を励起させるための励起光を生成する励起光源と、を備えたファイバアンプが用いられる。PA部においては、励起光により励起された希土類元素における誘導放出によってレーザ光の増幅が実現される。
【0005】
MOPA型のファイバレーザを緊急停止する場合、MO部からPA部へのレーザ光の供給停止が、PA部における励起光源から希土類元素への励起光の供給停止に先行することがある。そうすると、励起光のエネルギーは、レーザ光の増幅のために消費されることなく、希土類元素に溜め込まれることになる。励起光のエネルギーが希土類元素に溜め込まれた状態では、ノイズなどがトリガーとなって、希土類元素における誘導放出の連鎖が爆発的に進行することがある。そうすると、超高強度のパルス光がPA部から出力されることになる。このようにしてPA部から出力される超高強度のパルス光は、ジャイアントパルスと呼ばれ、周囲の光学部品などにダメージを与える要因になる。
【0006】
本願発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ジャイアントパルスの発生を抑えたファイバレーザ等を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1に係るファイバレーザは、MO(Master Oscillator)部と、希土類元素が添加された光ファイバ、該希土類元素を励起させるための励起光を生成する励起光源、該励起光源に並列に接続されたコンデンサ、及び、該励起光源と該コンデンサとを含む閉電流路内に設けられたスイッチを含み、該光ファイバを用いて前記MO部にて生成されたレーザ光を増幅するPA(Power Amplifier)部と、前記MO部及び前記励起光源に電流を供給する直流電源の電圧を検出する電圧検出部と、前記電圧検出部にて検出された電圧が予め定められた閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したことをトリガーとして、前記スイッチを開状態に制御する制御部と、を備えている。
【0008】
上記の構成によれば、PA部における励起光源から希土類元素への励起光の供給停止をMO部からPA部へのレーザ光の供給停止に先行させることができる。その結果、ジャイアントパルスの発生を抑えることができる。
【0009】
本発明の態様2に係るファイバレーザにおいては、態様1の構成に加え、前記MO部は、希土類元素が添加された光ファイバ、該希土類元素を励起させるための励起光を生成する励起光源、及び、該励起光源に並列に接続されたコンデンサを含んでおり、前記直流電源は、前記MO部に含まれる前記励起光源及び前記PA部に含まれる前記励起光源の双方に電流を供給する、という構成が採用されている。
【0010】
上記の構成によれば、PA部における励起光源から希土類元素への励起光の供給停止を、より確実にMO部からPA部へのレーザ光の供給停止に先行させることができる。その結果、ジャイアントパルスの発生を、より確実に抑えることができる。
【0011】
本発明の態様3に係るファイバレーザにおいては、態様2の構成に加え、前記スイッチを開状態に制御してから前記PA部に含まれる前記励起光源に供給される電流が0Aになるまでの時間は、100μ秒以下であり、前記スイッチを開状態に制御してから前記MO部に含まれる前記励起光源に供給される電流が0Aになるまでの時間は、1m秒以上である、という構成が採用されている。
【0012】
上記の構成によれば、PA部における励起光源から希土類元素への励起光の供給停止を、より一層確実にMO部からPA部へのレーザ光の供給停止に先行させることができる。その結果、ジャイアントパルスの発生を、より一層確実に抑えることができる。
【0013】
本発明の態様4に係るファイバレーザにおいては、態様1~3の何れかの構成に加え、前記スイッチは、前記直流電源の負極と前記MO部の前記励起光源との間の電流路上に設けられた負極側スイッチであり、前記制御部は、前記電圧検出部にて検出された電圧が前記閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したときに、前記負極側スイッチを開状態に制御する、という構成が採用されている。
【0014】
上記の構成によれば、通常動作時において励起光源のスイッチング駆動に利用される負極側スイッチを、緊急停止時においてコンデンサに蓄えられた電荷の励起光源への流入防止に利用することができる。
【0015】
本発明の態様5に係るファイバレーザにおいては、態様1~3の何れかの構成に加え、前記スイッチは、前記直流電源の負極と前記MO部の前記励起光源との間の電流路上に設けられた負極側スイッチ、及び、前記直流電源の正極と前記MO部の前記励起光源との間の電流路上に設けられた正極側スイッチであり、前記制御部は、前記電圧検出部にて検出された電圧が前記閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したときに、前記負極側スイッチ及び前記正極側スイッチの両方を開状態に制御する、という構成が採用されている。
【0016】
上記の構成によれば、負極側スイッチが故障した場合、或いは、励起光源の地絡が生じた場合であっても、正極側スイッチを開状態に制御することによって、コンデンサに蓄えられた電荷の励起光源への流入することを防止することができる。
【0017】
本発明の態様6に係るファイバレーザにおいては、態様1~5の何れかの構成に加え、前記スイッチは、FET(Field Effect Transistor)である、という構成が採用されている。
【0018】
上記の構成によれば、スイッチの開閉を高速に実現することができる。
【0019】
本発明の態様7に係る励起光源ユニットは、希土類元素が添加された光ファイバを含むファイバアンプに用いる励起光源ユニットであって、前記希土類元素を励起させるための励起光を生成する励起光源と、前記励起光源に並列に接続されたコンデンサと、前記励起光源と前記コンデンサとの間の電流路上に設けられたスイッチと、前記励起光源に電流を供給する直流電源の電圧を検出する電圧検出部と、前記電圧検出部にて検出された電圧が予め定められた閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したことをトリガーとして、前記スイッチを開状態に制御する制御部と、を備えている。
【0020】
上記の構成によれば、ファイバアンプにおける励起光源から希土類元素への励起光の供給停止を、ファイバアンプへのレーザ光の供給停止に先行させることができる。その結果、ジャイアントパルスの発生を抑えることができる。
【0021】
本発明の態様8に係るファイバレーザの制御方法は、MO(Master Oscillator)部と、希土類元素が添加された光ファイバ、該希土類元素を励起させるための励起光を生成する励起光源、該励起光源に並列に接続されたコンデンサ、及び、該励起光源と該コンデンサとの間の電流路上に設けられたスイッチを含み、該光ファイバを用いて前記MO部にて生成されたレーザ光を増幅するPA(Power Amplifier)部と、を備えたファイバレーザの制御方法であって、前記MO部及び前記励起光源に電流を供給する直流電源の電圧を検出する電圧検出工程と、前記電圧検出部にて検出された電圧が予め定められた閾値を上回る状態から下回る状態へと遷移したときに、前記スイッチを開状態に制御する制御工程と、を含んでいる。
【0022】
上記の構成によれば、PA部における励起光源から希土類元素への励起光の供給停止をMO部からPA部へのレーザ光の供給停止に先行させることができる。その結果、ジャイアントパルスの発生を抑えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、ジャイアントパルスの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(a)は、本発明の一実施形態に係るファイバレーザの構成を示す模式図である。(b)は、そのファイバレーザのMO部に含まれる励起光源ユニットの構成を示す回路図である。(c)は、そのファイバレーザのPA部に含まれる励起光源ユニットの構成を示す回路図である。
【
図2】
図1に示すファイバレーザの効果を示す。(a)は、直流電源の電源電圧の時間変化を示すグラフである。(b)は、レーザダイオードの駆動電流の時間変化を示すグラフである。
【
図3】
図1に示すファイバレーザの変形例を示す。(a)は、PA部の励起光源ユニットの第1の変形例を示す回路図である。(b)は、PA部の励起光源ユニットの第2の変形例を占めす回路図である。(c)は、PA部の励起光源ユニットの第3の変形例を示す回路図である。
【
図4】
図1に示すファイバレーザの変形例を示す。(a)は、MO部の第1の変形例を示す模式図である。(b)は、MO部の第2の変形例を示す模式図である。
【
図5】
図1に示すファイバレーザの変形例を示す。(a)は、PA部の第1の変形例を示す模式図である。(b)は、PA部の第2の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(ファイバレーザの構成)
本発明の一実施形態に係るファイバレーザ1について、
図1の(a)を参照して説明する。
図1の(a)は、ファイバレーザ1の構成を示す模式図である。
【0026】
ファイバレーザ1は、MOPA型の加工用ファイバレーザであり、
図1の(a)に示すように、MO(Master Oscillator)部11と、MO部11にて生成されたレーザ光を増幅するPA(Power Amplifier)部12と、加工ヘッド13と、を備えている。なお、加工ヘッド13は、用途に応じて付け替えることが可能であり、また、省略することも可能である。
【0027】
本実施形態においては、MO部11として、前方励起型のファイバレーザを用いている。MO部11は、例えば
図1の(a)の示すように、光ファイバ11aと、励起光源ユニット11bと、コンバイナ11cと、1対のFBG(Fiber Bragg Grating)11d1,11d2と、により構成することができる。励起光源ユニット11bは、
図1の(a)に示すように、複数であってもよい。
【0028】
光ファイバ11aは、コアに希土類元素が添加された光ファイバ(例えば、ダブルクラッドファイバ)である。光ファイバ11aのコアに添加する希土類元素は特に限定されないが、本実施形態においては、Ybを用いている。光ファイバ11aの一端には、ミラーとして機能するFBG11d1が接続されており、光ファイバ11aの他端には、ハーフミラーとして機能するFBG11d2が接続されている。これにより、光ファイバ11aは、励起した希土類元素から放出されるレーザ光を再帰的に増幅する共振器として機能する。
【0029】
励起光源ユニット11bは、光ファイバ11aのコアに添加された希土類元素を励起させるための励起光(前方励起光)を生成するための構成である。励起光を生成する励起光源は特に限定されないが、本実施形態においては、LD(Laser Diode)を用いている。励起光源ユニット11bの構成については、
図1の(b)を参照して後述する。励起光源ユニット11bにて生成された励起光は、コンバイナ11cによって光ファイバ11のインナークラッドに導入される。
【0030】
また、本実施形態においては、PA部12として、後方励起型のファイバアンプを用いている。PA部12は、例えば
図1の(a)の示すように、光ファイバ12aと、励起光源ユニット12bと、コンバイナ12cと、により構成することができる。励起光源ユニット12bは、
図1の(a)に示すように、複数であってもよい。
【0031】
光ファイバ12aは、コアに希土類元素が添加された光ファイバ(例えば、ダブルクラッドファイバ)である。光ファイバ12aのコアに添加する希土類元素は特に限定されないが、本実施形態においては、Ybを用いている。光ファイバ12aの一端には、MO部11のFBG11d2が接続されている。これにより、光ファイバ12aは、MO部11により生成されたレーザ光を増幅する増幅器として機能する。また、光ファイバ12aの他端には、加工ヘッド13が接続されている。これにより、光ファイバ12aにより増幅されたレーザは、加工ヘッド13を介してワークに照射される。
【0032】
励起光源ユニット12bは、光ファイバ12aのコアに添加された希土類元素を励起させるための励起光(後方励起光)を生成するための構成である。励起光を生成する励起光源は特に限定されないが、本実施形態においては、LDを用いている。励起光源ユニット12bの構成については、
図1の(c)を参照して後述する。励起光源ユニット12bにて生成された励起光は、コンバイナ12cによって光ファイバ12のインナークラッドに導入される。
【0033】
MO部11の励起光源ユニット11b及びPA部12の励起光源ユニット12bは、共通の直流電源PS(例えば、商用電源等の交流電源に接続されたAC/DCコンバータ)から供給される電流により動作する。直流電源PSと励起光源ユニット11b,12bとの間の電流路上には、スイッチSW0が設けられている。このスイッチSW0は、例えば、ファイバレーザ1に何らかの異常が発生したときにファイバレーザ1の動作を緊急停止させるための緊急停止スイッチである。本実施形態においては、スイッチSW0として、リレースイッチを用いている。
【0034】
このスイッチSW0を開状態にすると、励起光源ユニット11b,12bへの電流の供給が停止し、その結果、光ファイバ11a,12aへの励起光の供給が停止する。この際、MO部11の光ファイバ11aへの励起光の供給停止がPA部12の光ファイバ12aへの励起光の供給停止に先行すると、PA部12においてジャイアントパルスが発生するリスクがある。このため、本実施形態に係るファイバレーザ1においては、PA部12の光ファイバ12aへの励起光の供給停止がMO部11の光ファイバ11aへの励起光の供給停止に先行するよう、励起光源ユニット12bの構成に工夫を加えている。
【0035】
(MO部の励起光源ユニットの構成)
MO部11の励起光源ユニット11bの構成について、
図1の(b)を参照して説明する。
図1の(b)は、MO部11の励起光源ユニット11bの構成を示す回路図である。
【0036】
励起光源ユニット11bは、励起光を生成するレーザダイオードLDと、このレーザダイオードLDを駆動する駆動回路により構成されている。この駆動回路は、例えば
図1の(b)に示すように、ダイオードDと、コンデンサCと、インダクタLと、スイッチSW1(特許請求の範囲における「正極側スイッチ」の一例)と、スイッチSW2(特許請求の範囲における「負極側スイッチ」の一例)と、電流検出部11b1と、制御部11b2と、により構成することができる。
【0037】
ダイオードD及びコンデンサCは、それぞれ、レーザダイオードLDに並列に接続される。レーザダイオードLDの向きは、アノードが直流電源PSの正極側に接続され、カソードが直流電源PSの負極側に接続される向きである。また、ダイオードDの向きは、カソードが直流電源PSの正極側に接続され、アノードが直流電源PSの負極側に接続される向きである。
【0038】
スイッチSW1,SW2及びインダクタLは、それぞれ、レーザダイオードLDに直列に接続される。スイッチSW1の位置は、レーザダイオードLD及びダイオードDを含む閉電流路γDの外、且つ、レーザダイオードLD及びコンデンサCを含む閉電流路γCの外である。スイッチSW2の位置は、レーザダイオードLD及びダイオードDを含む閉電流路γDの外、且つ、レーザダイオードLD及びコンデンサCを含む閉電流路γCの内である。インダクタLの位置は、レーザダイオードLD及びダイオードDを含む閉電流路γDの内、且つ、レーザダイオードLD及びコンデンサCを含む閉電流路γCの内である。本実施形態においては、スイッチSW1,SW2として、FET(Field Effect Transistor)を用いている。
【0039】
電流検出部11b1は、レーザダイオードLDに流入する電流(以下、「駆動電流I1」とも記載する)を検出する。制御部11b2は、通常動作時において、スイッチSW1を閉状態に維持すると共に、スイッチSW2を駆動電流I1の大きさに基づいて開閉制御する。より具体的に言うと、制御部11b2は、(1)駆動電流I1が予め定められた閾値Th1を上回るとスイッチSW2を開状態に制御し、(2)駆動電流I1が閾値Th1を下回るとスイッチSW2を閉状態に制御する。これにより、
図1の(a)に示すスイッチSW0が開状態に制御されている間、レーザダイオードLDには、閾値Th1と同程度の大きさを有する駆動電流I1が定常的に供給されることになる。
【0040】
緊急停止時にスイッチSW0を開状態にすると、励起光源ユニット11bへの電流の供給が停止する。ただし、スイッチSW2が閉状態であれば、レーザダイオードLDへの駆動電流I1の供給は継続する。なぜなら、コンデンサCに蓄えられた電荷がレーザダイオードLDに流入するためである。また、
図1の(b)に示すように、励起光源ユニット11bと直流電源PSとの間に挿入されたフィルタFに、レーザダイオードLDに並列に接続されたコンデンサが含まれている場合、スイッチSW1,SW2が閉状態であれば、これらのコンデンサに蓄えられた電荷もレーザダイオードLDに流入する。なお、フィルタFは、必須の構成ではなく、省略しても構わない。
【0041】
(PA部の励起光源ユニットの構成)
PA部12の励起光源ユニット12bの構成について、
図1の(c)を参照して説明する。
図1の(c)は、PA部12の励起光源ユニット12bの構成を示す回路図である。
【0042】
励起光源ユニット12bは、励起光を生成するレーザダイオードLDと、このレーザダイオードLDを駆動する駆動回路により構成されている。励起光源ユニット12bの駆動回路の構成は、電圧検出部12b3が追加されている点を除き、
図1の(b)に示す励起光源ユニット11bの駆動回路の構成と同様である。
【0043】
電流検出部12b1は、電流検出部11b1と同様、レーザダイオードLDに流入する電流(以下、「駆動電流I2」とも記載する)を検出する。制御部12b2は、制御部11b2と同様、通常動作時において、スイッチSW1を閉状態に維持すると共に、スイッチSW2を駆動電流I2の大きさに基づいて開閉制御する。より具体的に言うと、制御部12b2は、(1)駆動電流I2が予め定められた閾値Th2を上回るとスイッチSW2を開状態に制御し、(2)駆動電流I2が閾値Th2を下回るとスイッチSW2を閉状態に制御する。これにより、
図1の(a)に示すスイッチSW0が開状態に制御されている間、レーザダイオードLDには、閾値Th1と同程度の大きさを有する駆動電流I2が定常的に供給されることになる。
【0044】
電圧検出部12b3は、直流電源PSの電圧(以下、「電源電圧V0」とも記載する)を検出する。制御部12b2は、スイッチSW2を電源電圧V0の大きさに基づいて制御する。より具体的に言うと、制御部12b2は、電源電圧V0が予め定められた閾値Th0を上回る状態から電源電圧V0が閾値Th0を下回る状態に遷移したことをトリガーとして、スイッチSW2を開状態に制御する。
【0045】
ここで、閾値Thは、直流電源PSの定格電圧よりも小さい値(例えば、直流電源PSの定格電圧の85%程度の値)に設定される。一例を挙げると、直流電源PSの定格電圧が270Vの場合、例えば、閾値Thは230Vに設定される。このため、緊急停止時にスイッチSW0を開状態にすると、その直後にスイッチSW2が開状態に制御される。スイッチSW2が開状態になることにより、コンデンサCに電荷が蓄えられている電荷がレーザダイオードLDに流入することが防止される。また、スイッチSW2が開状態になることにより、フィルタFに含まれるコンデンサに蓄えられている電荷がレーザダイオードLDに流入することが防止される。したがって、励起光源ユニット12bへの電流の供給が停止してから、励起光源ユニット12bのレーザダイオードLDへの駆動電流I2の供給が停止するまでの時間は、励起光源ユニット11bへの電流の供給が停止してから、励起光源ユニット11bのレーザダイオードLDへの駆動電流I1の供給が停止するまでの時間よりも短くなる。
【0046】
なお、制御部12b2は、電源電圧V0が閾値Th0を下回る状態に遷移したときに、スイッチSW2のみでなく、スイッチSW1,SW2の両方を開状態に制御してもよい。これにより、レーザダイオードLDの地絡が生じた場合、或いは、スイッチSW2が故障した場合であっても、フィルタFに含まれるコンデンサに蓄えられている電荷がレーザダイオードLDに流入することを防止することが可能になる。またスイッチSW1は、アラーム発生時の緊急遮断用にも利用することができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、電圧検出部12b3を励起光源ユニット12bの内部に設けているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、電圧検出部12b3を励起光源ユニット12bの外部に設ける構成を採用してもよい。また、本実施形態においては、電源電圧V0に応じてスイッチSW1,SW2を開状態に制御する機能を、励起光源ユニット12bの内部に設けられた制御部12b2に担わせているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、電源電圧V0に応じてスイッチSW1,SW2を開状態に制御する機能を、励起光源ユニット12bの外部に設けられた制御部、例えば、ファイバレーザ全体を制御する制御部に担わせてもよい。
【0048】
(ファイバレーザの効果)
ファイバレーザ1により得られる効果について、
図2を参照して説明する。
図2において、(a)は、直流電流PSの電源電圧V0の時間変化を示すブラフであり、(b)は、MO部11のレーザダイオードLDに供給される駆動電流I1、及び、PA部12のレーザダイオードLDに供給される駆動電流I2の時間変化を示すグラフである。
【0049】
時刻t0においてスイッチSW0が開状態に制御されると、電源電圧V0が低下し始める(
図2の(a)参照)。そして、時刻t1において電源電圧V0が閾値Th0を上回る状態から閾値Th0を下回る状態に遷移すると(
図2の(a)参照)、PA部12の制御部12b2がスイッチSW2を開状態に制御する(
図1の(c)参照)。
【0050】
そうすると、PA部12のレーザダイオードLDに供給される駆動電流I2が急峻に低下する(
図2の(b)参照)。一方、MO部11のレーザダイオードLDには、コンデンサCに蓄えられていた電荷が駆動電流I1として流入し続ける。このため、MO部11のレーザダイオードLDに供給される駆動電流I1は、PA部12のレーザダイオードLDに供給される駆動電流I2よりも緩慢に低下する(
図2の(b)参照)。
【0051】
PA部12の制御部12b2がスイッチSW2を開状態に制御してからMO部11のレーザダイオードLDへの駆動電流I1の供給が停止されるまでの時間Δt1は、コンデンサCの放電に要する時間であり、例えば、1m秒以上である。なお、この時間Δ1の上限は特に限定されないが、例えば、500m秒である。これに対して、PA部12の制御部12b2がスイッチSW2を開状態に制御してからPA部12のレーザダイオードLDへの駆動電流I2の供給が停止されるまでの時間Δt2は、インダクタLの放電に要する時間であり、例えば、100μ秒以下である。なお、この時間Δt2の下限は特に限定されないが、例えば、1n秒である。
【0052】
これにより、MO部11の光ファイバ11aからPA部12の光ファイバ12aへのレーザ光の供給が停止する前に、PA部12の励起光源ユニット12bからPA部12の光ファイバ12aへの励起光の供給を停止することができる。したがって、PA部12の光ファイバ12aにおいてジャイアントパルスが発生する可能性を有意に低下させることができる。
【0053】
(PA部の励起光源ユニットの変形例)
PA部12の励起光源ユニット12bの変形例について、
図3を参照して説明する。
【0054】
図3の(a)は、励起光源ユニット12bの第1の変形例を示す回路図である。
【0055】
図1の(c)に示す励起光源ユニット12bと
図3の(a)に示す励起光源ユニット12bとの相違点は、スイッチSW1の位置である。すなわち、
図1の(c)に示す励起光源ユニット12bにおいては、レーザダイオードLD及びコンデンサCを含む閉電流路γCの外にスイッチSW1が配置されている。これに対して、
図3の(a)に示す励起光源ユニット12bにおいては、レーザダイオードLD及びコンデンサCを含む閉電流路γCの内にスイッチSW1が配置されている。
【0056】
このため、
図3の(a)に示す励起光源ユニット12bにおいては、スイッチSW1,SW2の少なくとも一方を開状態に制御することによって、コンデンサCに電荷が蓄えられている電荷がレーザダイオードLDに流入することを防止できる。スイッチSW1,SW2の両方を開状態に制御する構成を採用すれば、レーザダイオードLDの地絡が生じた場合、或いは、スイッチSW2が故障した場合であっても、コンデンサC及びフィルタFに含まれるコンデンサに蓄えられている電荷がレーザダイオードLDに流入することを防止することが可能になる。
【0057】
図3の(b)は、励起光源ユニット12bの第2の変形例を示す回路図である。
【0058】
図1の(c)に示す励起光源ユニット12bと
図3の(b)に示す励起光源ユニット12bとの相違点は、前者がスイッチング方式の駆動回路を有しているのに対して、後者がリニア方式の駆動回路を有している点である。このため、と
図3の(b)に示す励起光源ユニット12bにおいては、ダイオードD、及びインダクタLが省略されている。また、制御部12b2は、通常動作時、駆動電流I2が予め定められた値に一致するよう、スイッチSW2(FET)のゲート電圧を調整することによって、スイッチSW2(FET)の抵抗値を設定する。
【0059】
図3の(b)に示す励起光源ユニット12bにおいては、
図1の(c)に示す励起光源ユニット12bと同様、スイッチSW2を開状態に制御することによって、コンデンサCに蓄えられている電荷がレーザダイオードLDに流入することを防止できる。
【0060】
図3の(c)は、励起光源ユニット12bの第3の変形例を示す回路図である。
【0061】
図3の(b)に示す励起光源ユニット12bと
図3の(c)に示す励起光源ユニット12bとの相違点は、スイッチSW1の位置である。すなわち、
図3の(b)に示す励起光源ユニット12bにおいては、レーザダイオードLD及びコンデンサCを含む閉電流路γCの外にスイッチSW1が配置されている。これに対して、
図3の(c)に示す励起光源ユニット12bにおいては、レーザダイオードLD及びコンデンサCを含む閉電流路γCの内にスイッチSW1が配置されている。
【0062】
このため、
図3の(c)に示す励起光源ユニット12bにおいては、スイッチSW1,SW2の少なくとも一方を開状態に制御することによって、コンデンサCに電荷が蓄えられている電荷がレーザダイオードLDに流入することを防止できる。スイッチSW1,SW2の両方を開状態に制御する構成を採用すれば、レーザダイオードLDの地絡が生じた場合、或いは、スイッチSW2が故障した場合であっても、コンデンサC及びフィルタFに含まれるコンデンサに蓄えられている電荷がレーザダイオードLDに流入することを防止することが可能になる。
【0063】
なお、ここでは、PA部12の励起光源ユニット12bについて、3つの変形例を説明したが、MO部11の励起光源ユニット11bについても、同様の変形が可能である。
【0064】
(MO部の変形例)
MO部11の第1の変形例について、
図4の(a)を参照して説明する。
図4の(a)は、MO部11の第1の変形例を示す模式図である。
【0065】
図4の(a)に示すMO部11は、
図1の(a)の示すMO部11に励起光源ユニット11b’及びコンバイナ11c’を追加した、双方向励起型のファイバレーザである。ここで、励起光源ユニット11b’は、光ファイバ11aのコアに添加された希土類元素を励起させるための励起光(後方励起光)を生成するための構成である。また、コンバイナ11c’は、励起光源ユニット11b’にて生成された励起光を光ファイバ11aのインナークラッドに導入するための構成である。
【0066】
MO部11の第2の変形例について、
図4の(b)を参照して説明する。
図4の(b)は、MO部11の第2の変形例を示す模式図である。
【0067】
図4の(b)に示すMO部11は、
図1の(a)の示すMO部11の励起光源ユニット11b及びコンバイナ11cを励起光源ユニット11b’及びコンバイナ11c’に置き換えた、後方励起型のファイバレーザである。ここで、励起光源ユニット11b’は、光ファイバ11aのコアに添加された希土類元素を励起させるための励起光(後方励起光)を生成するための構成である。また、コンバイナ11c’は、励起光源ユニット11b’にて生成された励起光を光ファイバ11aのインナークラッドに導入するための構成である。
【0068】
なお、MO部11は、PA部12に供給するレーザ光(シード光)を生成するレーザ装置であればよく、ファイバレーザであることを要さない。固体レーザ、液体レーザ、気体レーザなど、直流電源PSにより駆動可能な任意のレーザ装置を、MO部11として利用することができる。
【0069】
(PA部の変形例)
PA部12の第1の変形例について、
図5の(a)を参照して説明する。
図5の(a)は、PA部12の第1の変形例を示す模式図である。
【0070】
図5の(a)に示すPA部12は、
図1の(a)の示すPA部12に励起光源ユニット12b’及びコンバイナ12c’を追加した、双方向励起型のファイバアンプである。ここで、励起光源ユニット12b’は、光ファイバ12aのコアに添加された希土類元素を励起させるための励起光(前方励起光)を生成するための構成である。また、コンバイナ12c’は、励起光源ユニット12b’にて生成された励起光を光ファイバ12aのインナークラッドに導入するための構成である。
【0071】
PA部12の第2の変形例について、
図5の(b)を参照して説明する。
図5の(b)は、PA部12の第2の変形例を示す模式図である。
【0072】
図5の(b)に示すPA部12は、
図1の(a)の示すPA部12の励起光源ユニット12b及びコンバイナ12cを励起光源ユニット12b’及びコンバイナ12c’に置き換えた、前方励起型のファイバレーザである。ここで、励起光源ユニット12b’は、光ファイバ12aのコアに添加された希土類元素を励起させるための励起光(前方励起光)を生成するための構成である。また、コンバイナ12c’は、励起光源ユニット12b’にて生成された励起光を光ファイバ12aのインナークラッドに導入するための構成である。
【0073】
(付記事項)
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものでなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。上述した実施形態に含まれる各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 ファイバレーザ
11 MO部
11a 光ファイバ
11b 励起光源ユニット
11b1 電流検出部
11b2 制御部
11c コンバイナ
12 PA部
12a 光ファイバ
12b 励起光源ユニット
12b1 電流検出部
12b2 制御部
12b3 電圧検出部
12c コンバイナ