IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱鉛筆株式会社の特許一覧

特開2024-169117筆記具用水性インク組成物及びそれを用いた筆記具
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169117
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】筆記具用水性インク組成物及びそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20241128BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086326
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】一之瀬 朱音
(72)【発明者】
【氏名】中田 有亮
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA04
4J039AD14
4J039BD02
4J039BD03
4J039BE01
4J039BE02
4J039CA03
4J039CA06
4J039EA42
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非吸収面に濡れやすく、描線がはじかれることなく安定して筆記できると共に、キャップオフにした際にも描線が掠れることがなく、ノンドライ性に優れ、ペン芯内での色材の上下濃度差もなく、しかも、描線乾燥性に優れる筆記具用水性インク組成物及びそれを用いたマーキングペンやサインペンなどに好適な筆記具を提供する。
【解決手段】本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物0.01~10質量%と、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤0.001~5質量%と、水とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物0.01~10質量%と、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤0.001~5質量%と、水とを含むことを特徴とする、筆記具用水性インク組成物。
【請求項2】
前記界面活性剤のHLB値が4~12であることを特徴とする、請求項1記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤が下記A群から選ばれるものであることを特徴とする、請求項1又は2記載の筆記具用水性インク組成物。
A群:アセチレングリコール類、リン酸エステル、シリコーン界面活性剤
【請求項4】
更に中空粒子を含むことを特徴とする、請求項1又は2記載の筆記具用水性インク組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サインペン、マーキングペン等に用いられる筆記具用水性インク組成物及びそれを用いた筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、サインペン、マーキングペン等に用いられる水性インク組成物は、非吸収面での筆記や、ノンドライ性、描線乾燥性の向上などが求められている。
【0003】
従来において、非吸収面での筆記、ノンドライ性、描線乾燥性などを考慮した筆記具用水性インク組成物等として、例えば、
〔1〕 樹脂面、ガラス面、金属面などの様々な種類の筆記面に対して筆記が可能で、非吸収表面に対する描線固着性、耐水性、耐アルコール性に優れたマーキングペン、サインペン、ボールペン用等に好適な筆記具用インキ組成物を提供するために、溶解度パラメーター(SP値)が5~15であり、かつ、20℃における蒸気圧が0.01mmHg~45mmHgである有機溶剤と、顔料からなる着色剤と、25℃における水及びエタノールへの溶解度が7%以下となる樹脂とを含有することを特徴とする筆記具用インキ組成物(例えば、特許文献1参照)、
〔2〕 高い隠ぺいと、ペン先のノンドライ性に優れ、カスレはなく良好に筆記でき、また、キャップオフ性にも優れる隠ぺい性インク組成物を提供するために、水と、隠ぺい剤として室温下で固形状のワックス粒子と、分散剤とを少なくとも含有し、前記固形状ワックスの平均粒子径が1.0~10μmであり、インク粘度が25℃における回転粘度計にて50rpmでの測定値が1.0~10mPa・sであることを特徴とする隠ぺい性インク組成物(例えば、特許文献2参照)、
【0004】
〔3〕 ガラスや陶器の表面に筆記した場合であっても、その筆跡が十分に耐水性、耐温水性、耐擦過性に優れる性質を有し、そのガラス製品や陶器を繰り返し洗浄しても十分に筆跡が残るようなインキを提供するために、アクリルシリコーン系樹脂エマルジョン、顔料、分散剤及び水性溶剤を含有するガラス表面及び陶器表面用水性インキ組成物(例えば、特許文献3参照)、
〔4〕 酸化チタンの経時的なペン芯内分離による隠蔽性低下の防止と、筆記線を軽い擦過力で消去する事ができる容易消去性の両立を可能とする筆記板用消去性インキ組成物を提供するために、水、酸化チタン、消去性付与剤、ポリアミド、脂肪酸アミドを含有する筆記板用消去性インキ組成物(例えば、特許文献4参照)、
【0005】
〔5〕 記録媒体上の耐水性や耐擦過性等の堅牢性が高い印刷物が得られる着色剤水溶液の提供、さらにインクジェット記録方式に用いた場合に耐目詰まり性が高い水性インクを提供するために、油溶染料、分散染料、溶剤易溶性顔料等の疎水性着色剤、カルボン酸、フェノール基等の酸性基を含んだ疎水性樹脂とアルカリ物質からなる塩、水を含む疎水性着色剤水溶液であって、疎水性着色剤を溶解した前記疎水性樹脂をアルカリ物質にて水溶性塩にして水に溶解あるいは分散されているインク組成物、実施例13等には上記疎水性樹脂として、イソブチレン-無水マレイン酸ポリマーを用いる例示(例えば、特許文献5参照)、
〔6〕 溶解性、再分散性に優れる着色タブレット、これを用いた筆記具用水性インク組成物などを提供するために、少なくとも、着色剤、分散剤としての、イソブチレン系ポリマーなどを含む着色タブレットを含有した筆記具用水性インク組成物、実施例3等には上記イソブチレン系ポリマーとして、イソブチレン無水マレイン酸共重合ポリマーを用いる例示などが開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1~4に記載の筆記具用などの水性インク組成物等においては、非吸収面への濡れ性を向上させたり、描線乾燥性を高める点、酸化チタンの経時的なペン芯内分離防止には個々によいものであるが、ペン先のノンドライ性とペン芯内での色材の上下濃度差との硬度の両立は未だ不十分であり更なる改善が切望されていた。
また、上記特許文献5及び6に記載の水性インク組成物等は、イソブチレン-無水マレイン酸ポリマーを用いる例示が開示されている点で近接技術であるが、特許文献5の水性インク組成物は、インクジェット記録方式に用いるものであり、また、特許文献6の水性インク組成物も、イソブチレン-無水マレイン酸ポリマーを分散剤として用いる例示であり、本発明とはその使用目的や、技術思想(構成及びその構成に基づく作用効果)が相違するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-21491号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2013-32454号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2014-105282号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開2021-54898号公報 (特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開平9-143410号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特開2023-31243号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の課題などに鑑み、これを解消しようとするものであり、非吸収面に濡れやすく、描線がはじかれることなく安定して筆記できると共に、キャップオフした際にも描線が掠れることがなく、ノンドライ性に優れ、ペン芯内での色材の上下濃度差もなく、しかも、描線乾燥性に優れる筆記具用水性インク組成物及びそれを用いた筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、少なくとも、色材と、特定のイソブチレン共重合物の中和物の所定量と、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の所定量と、水とを含むことにより、上記目的の筆記具用水性インク組成物及びそれを用いた筆記具が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち、本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物0.01~10質量%と、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤0.001~5質量%と、水とを含むことを特徴とする。
前記界面活性剤のHLB値が4~12であることが好ましい。
前記界面活性剤が下記A群から選ばれるものであることが好ましい。
A群:アセチレングリコール類、リン酸エステル、シリコーン界面活性剤
本発明の筆記具は、上記構成の筆記具用水性インク組成物を搭載したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非吸収面に濡れやすく、描線がはじかれることなく安定して筆記できると共に、キャップオフした際にも描線が掠れることがなく、ノンドライ性に優れ、ペン芯内での色材の上下濃度差もなく、しかも、描線乾燥性に優れる筆記具用水性インク組成物及びそれを用いた筆記具が提供される。
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるものである。上述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、本発明の技術的範囲は下記で詳述する実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識(設計事項、自明事項を含む)に基づいて実施することができる。
【0013】
〈筆記具用水性インク組成物〉
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物0.01~10質量%と、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤0.001~5質量%と、水とを含むことを特徴とするものである。
【0014】
<色材>
本発明に用いる色材としては、水に溶解もしくは分散する全ての染料、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、顔料や染料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、樹脂エマルションを染色していない無色の疑似顔料、白色系樹脂粒子、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料、アルミニウム顔料などの光輝性顔料、熱変色性顔料(粒子)、光変色性顔料(粒子)等、およびこれらの複合顔料(粒子)を制限なく使用することができ、これらの色材(粒子)は密実でもよいし、中空のものでもよい。
用いることができるアルミニウム顔料としては、市販品では、例えば、アルミニウム表面をリン系化合物により防錆処理したWXMシリーズ、アルミニウム表面をモリブテン化合物により防錆処理したWLシリーズ、アルミニウムフレークの表面を密度の高いシリカでコーティングしたEMRシリーズ〔以上、東洋アルミニウム社製〕、SW-120PM〔以上、旭化成ケミカルズ社製〕等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
また、酸化チタンを添加する場合においては、例えば、アルミナまたはシリカ、またはジルコニアまたは亜鉛処理されたものを用いることが望ましく、ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタンを用いることが好ましい。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6-C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;ダイレクトブラック154,ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットBB等の直接染料;ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
【0015】
無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0016】
熱変色性顔料(粒子)としては、発色剤として機能するロイコ色素と、該ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となる顕色剤及び上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールすることができる変色温度調整剤を少なくとも含む熱変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.1~10μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された熱変色性顔料などを挙げることができる。
光変色性顔料(粒子)としては、例えば、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、テルペンフェノール樹脂などの樹脂とにより構成される光変色性粒子や、少なくともフォトクロミック色素(化合物)、蛍光色素などから選択される1種以上と、有機溶媒と、酸化防止剤、光安定剤、増感剤などの添加剤とを含む光変色性組成物を、所定の平均粒子径(例えば、0.1~10μm)となるように、マイクロカプセル化することにより製造された光変色性顔料(粒子)などを挙げることができる。
なお、本発明(実施例等含む)において、「平均粒子径」は、レーザー回析または動的光散乱法により測定した値であり、レーザー回折法においては、体積基準により算出されたD50の値であり、この測定は、例えば日機装株式会社の粒子径分布解析装置HRA9320-X100を用いることができ、動的光散乱法を用いた平均粒子径とは、例えば、濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(大塚電子社製)を用いて算出された、散乱強度分布におけるキュムラント法解析の平均粒子径の値である。
【0017】
これらの色材は、各単独で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という)使用することができる。
また、これらの色材において、塗膜の更なる低光沢化の点、塗膜の均一性の点から、顔料の使用、すなわち、上記無機顔料、有機顔料、顔料を含有した樹脂粒子顔料または樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料などの着色樹脂顔料、白色系プラスチック顔料、中空樹脂顔料(粒子)、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料、アルミニウム顔料などの光輝性顔料、熱変色性顔料(粒子)、光変色性顔料(粒子)等、およびこれらの複合顔料(粒子)の使用が望ましい。
【0018】
これらの色材の(合計)含有量は、筆記具用水性インク組成物全量(以下、単に「インク組成物全量」という)に対して、好ましくは0.5~50質量%、更に好ましくは、2~40質量%、特に好ましくは、5~30質量%とすることが望ましい。
この色材の含有量を0.5質量%以上とすることにより、塗膜の低光沢性、および均一性を発現しより美しい塗膜の形成を実現とすることができ、一方50質量%以下とすることにより、粘度上昇を抑制し、インクの流動性が良好となるので好ましい。
【0019】
本発明に用いるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物は、イソブチレンと無水マレイン酸の共重合物の中和物であり、本発明においては後述するアニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤との併用により、本発明の効果を相乗的に発揮せしめる成分となるものである。
用いるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物において、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の基本構造は下記式(I)で示されるものであり、下記式(II)は、本発明において好ましく用いることができるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア中和物(変性物)である。
【0020】
【化1】
式(I)
【0021】
【化2】
式(II)
【0022】
本発明では、上記式(II)のアンモニア中和物の他、水酸化ナトリウム中和物、アミン中和物であってもよいものである。また、上記式(I)中のn、(II)中のlとm、下記式(III)中のjとkなどの数値は、後述する重量平均分子量などにより変動し、好適な範囲が定まるものである。
また、本発明では、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物をイミド化(イミド変性)した下記式(III)で示されるイミド化イソブチレン・無水マレイン酸共重合物をアンモニア、水酸化ナトリウム、アミンなどで中和した各中和物であってもよいものである。
【化3】
式(III)
【0023】
上記式(II)、(III)などのイソブチレン・無水マレイン酸共重合物を中和した各中和物の重量平均分子量は、3,000~400,000が好ましく、5,000~200,000が更に好ましく、30,000~100,000、特に好ましくは、50,000~70,000が最も好ましい。この重量平均分子量は、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の値である。
上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物やその中和物は、市販品を使用することができ、例えば、クラレ社製の「イソバン」等を挙げることができ、例えば、イソバン-04,06,10,18の中和物、イソバン-104,110は上記式(II)におけるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア中和物(変性物)の市販品などが挙げられ、更に、イソバン-304,306,310の中和物などが挙げられる。なお、用いるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物〔上記式(I)等から〕の中和物を調製する場合は、例えば、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の全てのカルボキシル基が中和された場合、中和度1とし、中和に用いるアンモニア、水酸化ナトリウム、アミンなどの必要量を算出して調製することなどにより各中和物を得ることができる。
【0024】
これらのイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物の含有量は、インク組成物全量に対して、0.01~10質量%が好ましく、更に好ましくは、0.05~4質量%、特に好ましくは、0.1~2質量%である。
このイソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物の含有量が0.01質量%未満であると、ペン先のインク中において緩い凝集体を形成できず、本発明の効果が得られなくなり、一方、10質量%を超えた場合は、粘度が上昇してインク吐出性が低下し、筆記性に悪影響を及ぼし、更にコストアップにも繋がることとなる。
【0025】
本発明の効果を発揮せしめるには、上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と共に、界面活性剤としてアニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を用いることが必要となる。
用いるアニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤は、好ましくは、HLB値が4~18のものが望ましく、特に好ましくは、4~12のものが望ましい。
このHLB値が4~12の範囲となる界面活性剤であると、非吸収面への濡れがよく、描線品位が良好になる。用いる界面活性剤のHLB値が18を超えて高いと活性剤の親水基部分が長く、立体障害が大きくなることから、界面上に配列しにくくなり、非吸収面への濡れ性が低下することとなり、一方、HLB値が4より低いとインクへの溶解性が低下するため、所望の濡れ性を得ることができにくくなる。
なお、本発明における「HLB値」は、川上法〔HLB値=7+11.7log(MW/MO)、MW:親水部分の分子量、MO:親油部分の分子量〕から求めることができる。
【0026】
用いることができるアニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤としては、ペン芯内でのインク分離抑制の点、ペン先のノンドライ性の点から、下記A群から選ばれるものが望ましい。
A群:アセチレングリコール類、リン酸エステル、シリコーン界面活性剤
【0027】
用いることができるアセチレングリコール類としては、具体的には、下記式(I)~(III)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【化4】
〔上記式(I)~(III)中のR1、R2は、それぞれ炭素数1~8の直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基であり、m、n、x、yは1~100の数である。〕
上記式(I)~(III)中のR1、R2が示す炭素数1~8の直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0028】
上記式(I)のアセチレングリコール類としては、例えば、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、5,8-ジメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-ドデシン-4,7-ジオール、8-ヘキサデシン-7、10-ジオール、7-テトラデシン-6,9-ジオール、2,3,6,7-テトラメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,6-ジエチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール等を挙げることでき、上記式(II)、式(III)のアセチレングリコールのアルキレンオキサイド(EO、PO)付加物としては、上記アセチレングリコールのアルキレンオキサイド誘導体を挙げることができる。
【0029】
上記式(I)~(III)に挙げた各化合物の合成法は、既知であり、種々の製法により得ることができ、また、市販のものを使用してもよい。例えば、アセチレングリコール類としては、市販のサーフィノール104〔2,4,7,9-テトラメチル-5-ドデシン-4,7-ジオール、日信化学工業株式会社製〕、サーフィノール104を各種溶剤で希釈したサーフィノール104E(エチレングリコール)、104H(エチレングリコール)、104A(2-エチルヘキサノール)等、シリカ粒子を含有した104Sなどのサーフィノール104シリーズ、サーフィノール104のEO付加物である420、440、465、485、DF110D、DF37、DF58、DF75、DF220などが挙げられる。
【0030】
用いることができるリン酸エステルとしては、例えば、脂肪族アルコールとリン酸とのエステルであるアルキルリン酸エステル、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物とリン酸とのエステルであるアルキルエーテルリン酸エステル、芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物とリン酸とのエステルであるアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、或いはその誘導体の使用が挙げられるが、これらのリン酸エステルは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、リン酸トリエステル、或いはその誘導体の使用が挙げられる。
【0031】
具体的に用いることができるリン酸エステルとしては、東邦化学工業社製のフォスファノールシリーズ、第一工業製薬社製のプライサーフシリーズなどが挙げられる。
フォスファノールシリーズとしては、フォスファノールRA-600(P.O.Eアルキルエーテルリン酸エステル、HLB値:11.7)、同RB-410(P.O.Eオレイルエーテルリン酸エステル、HLB値:8.6)、同RS-710(P.O.Eアルキルエーテルリン酸エステル、HLB値:13.3)(以上、東邦化学工業社製)などが挙げられる。
プライサーフシリーズの中では、プライサーフAL(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、HLB値:5.6)、同A208B〔ポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテルリン酸エステル、HLB値:6.6〕、同A208F〔ポリオキシエチレン(3)アルキル(C8)エーテルリン酸エステル、HLB値:8.7〕、同A212C〔ポリオキシエチレン(6)トリデシルエーテルリン酸エステル、HLB値:9.4〕、同A215C〔ポリオキシエチレン(10)トリデシルエーテルリン酸エステル、HLB値:11.5〕、同212E〔ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、HLB値:10〕(以上、第一工業製薬社製)等が挙げられる。
これらはそのままでも、アルカリ金属や有機塩基で中和した塩としても使用できる。また、2種以上を併用しても良い。
【0032】
前記シリコーン界面活性剤(シリコーン系化合物)としては、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記シリコーン界面活性剤としては、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン界面活性剤が、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
【0033】
このようなシリコーン界面活性剤は、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記シリコーン界面活性剤の市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルション株式会社、共栄社化学株式会社などから入手できる。
【0034】
前記ポリエーテル変性シリコーン界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(S-1)式で表わされる、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入したものなどが挙げられる。
【化5】
(但し、前記一般式(S-1)において、m、p、a、及びbは、それぞれ独立に、整数を表し、Rは、アルキレン基を表し、R’は、アルキル基を表す。)
【0035】
前記ポリエーテル変性シリコーン界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF-644、KF-642、KF-643(以上、信越化学工業株式会社製)、EMALEX-SS-5602、SS-1906EX(以上、日本エマルション株式会社製)、DOWSIL FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、FZ-2164(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)、BYK-33、BYK-387(以上、ビックケミー株式会社製)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(以上、東芝シリコン株式会社製)などが挙げられる。
【0036】
これらの中でも、前記シリコーン界面活性剤としては、下記一般式(1)で表される界面活性剤が、非吸収面への濡れ性の点及びインクの消泡性が向上する点で特に好ましい。
【化6】
(但し、前記一般式(1)において、mは0~7の整数を表し、nは2~15の整数を表す。)
【0037】
これらの界面活性剤の(合計)含有量は、インク組成物全量に対して、0.001~5質量%が好ましく、更に好ましくは、0.001~1質量%、特に好ましくは、0.001~0.5質量%である。
この界面活性剤の含有量が0.001質量%未満であると、ペン先のノンドライ性が不十分となり、一方、5質量%を超えた場合は、ペン芯内のインク分離抑制と、ペン先のノンドライ性が不十分になることとなる。
【0038】
本発明では、上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤と共に、ノンドライ性を更に向上させる点等から、中空粒子を含有することが好ましい。
この中空粒子を更に用いることにより、ペン先のインク中において緩い凝集体を生成するため、キャップオフによる影響を更に受けにくく、ノンドライ性を更に向上させることができる。
用いることができる中空粒子は、平均粒子径0.1~2.0μmの中空粒子、例えば、市販品でいえば、ローペイクOP-62(平均粒径450nm、中空率33%)、ローペイクOP-91、ローペイクHP-1055(平均粒径1000nm、中空率55%)、ローペイクHP-91(平均粒径1000nm、中空率50%)、ローペイクULTRA(平均粒径380nm、中空率45%)、ローペイクULTRA E(平均粒径380nm、中空率45%)、ローペイクULTRA DUAL(平均粒径380nm、中空率45%)(以上、DOW社製)、SX-863(A)、SX-864(B)、SX-866(A)、SX-866(B)(平均粒径300nm、中空率30%)、SX-868(平均粒径500nm)(以上、JSR社製)、Nipol MH5055(平均粒径500nm)、Nipol MH8101(平均粒径1μm)(以上、日本ゼオン社製)等の少なくとも1種を使用することができる。
【0039】
また、用いる中空粒子は、樹脂粒子などの有機粒子中やシリカなどの無機粒子中に中空部があるものであり、本発明の効果を損なわないものであれば、その材質、形状は、特に限定されず、また、中空粒子1個当たり1個の中空部を有する単一中空型粒子であっても、中空粒子1個当たり複数の中空部を有する多中空型粒子であっても良いものである。
【0040】
例えば、用いる中空粒子としては、ガラスやシリカ粒子等の無機系中空粒子や、高分子化合物からなる、架橋スチレン-アクリル樹脂等のスチレン系樹脂、アクリロニトリル-アクリル樹脂等のアクリル系樹脂、メタアクリル系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂等の中空樹脂粒子などを用いることができ、また、形状として球状、楕円状、針状などが挙げられ、好ましくは、材質としては中空樹脂粒子、形状としては球状のものが望ましい。なお、中空部がない粒子、所謂中実粒子(密実粒子)では、本発明の更なる効果を発揮することができないものである。
【0041】
具体的に用いることができる中空粒子としては、中空樹脂粒子では、市販の日本ゼオン社製のニポールMH5055など、DOW社製のSunsphere、UltraE、OP-62、SN-1055など、JSR社製のSX866(A)など等が挙げられる。また、無機のシリカ中空粒子では、日鉄鉱業社製のシリナックス(登録商標)などが挙げられる。用いる中空粒子は、単独で(1種)又は2種以上混合して使用できる。
【0042】
これらの中空粒子の含有量は、水性インク組成物全量に対して、好ましくは、固形分濃度で0.1~10%、更に好ましくは、0.1~5%が望ましい。
この中空粒子の含有量が0.1%未満であると、本発明の更なる効果を発揮することができず、一方、10%超過であると、ペン先のノンドライ性が悪化することとなる。
【0043】
本発明の筆記具用水性インク組成物には、少なくとも、上述の色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)、また、本発明の効果を損なわない範囲で、水溶性樹脂や樹脂エマルジョン、pH調整剤、防腐剤もしくは防菌剤、増粘剤などを適宜含有することができる。
【0044】
用いることができる水溶性樹脂、樹脂エマルジョンは、定着剤、分散剤、安定化剤として機能するものであり、例えば、ポリアクリル酸、アクリル系樹脂、水溶性スチレン-アクリル樹脂、水溶性スチレン-マレイン酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、水溶性エステル-アクリル樹脂、エチレン-マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、水溶性ウレタン樹脂等の分子内に疎水部を持つ水溶性樹脂、また、アクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、塩化ビニル系エマルジョンポリオレフィン系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、スチレン-ブタジエンエマルジョン、スチレン-アクリロニトリルエマルジョン、シリコーンレジンエマルジョン、シリコーンアクリル共重合体エマルションなどの樹脂エマルジョンなどから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
好ましくは、色材の分散性、粘度調整、並びに、定着力向上の点から、酸価が240以下の上記各水溶性樹脂、上記各樹脂エマルジョンの使用が好ましく、特に好ましくは、更にガラス転移温度(Tg)が140℃以下のアクリル系樹脂、水溶性スチレン-アクリル樹脂、スチレンマレイン酸、ウレタン樹脂の水溶性樹脂、または、アクリル系樹脂エマルジョンなどの各樹脂エマルジョンの使用が望ましい。
上記樹脂の酸価を240以下とすることにより、分散安定性と耐擦過性を更に良好とすることができる。
本発明において、「酸価」は、樹脂1gを中和するのに要するKOHのmg数を表し、例えば、JIS K3054に従って測定する値である。また、「ガラス転移温度」は、JIS K7121に準じて測定した際のTg、例えば、Rigaku thermo plus evo DSC8230(リガク社製)を用いて測定することができる。
【0045】
上記水溶性樹脂、樹脂エマルジョンは、市販品を使用することができ、例えば、水溶性樹脂では、BASF社製のジョンクリル60J(水溶性スチレン-アクリル樹脂、酸価:215、ガラス転移温度:85℃)、ジョンクリルPDX―7787(アクリル系エマルジョン、酸価:100、ガラス転移温度:25℃)、または、日信化学工業社製のビニブラン700(塩化ビニル系エマルジョン)、酸価:57、ガラス転移温度:70℃が使用できる。
これらの水溶性樹脂、樹脂エマルジョンの(合計:固形分)含有量は、インク組成物全量に対して、描線品位の向上、インク吐出性の更なる向上の点から、0.1~15質量%が好ましく、更に好ましくは、0.1~10質量%、特に好ましくは、0.1~5質量%である。
【0046】
pH調整剤としては、アンモニア、尿素、モノエタノーアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンや、トリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなとの炭酸やリン酸のアルカリ金属塩、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水和物などが挙げられる。また、防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
増粘剤としては、例えばセルロース誘導体を用いることができ、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、発酵セルロース、結晶セルロース、多糖類などが挙げられる。用いることができる多糖類としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピル化グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、アミロース、アガロース、アガロペクチン、アラビナン、カードラン、カロース、カルボキシメチルデンプン、キチン、キトサン、クインスシード、グルコマンナン、ジェランガム、タマリンドシードガム、デキストラン、ニゲラン、ヒアルロン酸、プスツラン、フノラン、HMペクチン、ポルフィラン、ラミナラン、リケナン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、アルカシーガム、サクシノグリカン、ローカストビーンガム、タラガムなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの市販品があればそれを使用することができる。
【0047】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物0.01~10質量%と、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤0.001~5質量%と、水、その他の各成分を筆記具用(マーキングペン用、サインペン等)インクの用途に応じて適宜組み合わせて、ホモミキサー、ホモジナイザーもしくはディスパー等の撹拌機により撹拌混合することにより、更に必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去すること等によって目的の筆記具用水性インク組成物が得られる。
また、本発明の筆記具用水性インク組成物のpH(25℃)は、使用性、安全性、インク自身の安定性、インク収容体とのマッチング性の点からpH調整剤などにより5~10に調整されることが好ましく、更に好ましくは、6~9.5とすることが望ましい。
【0048】
このように構成される本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、色材と、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物0.01~10質量%と、アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤0.001~5質量%と、水とを含有するものであり、上記イソブチレン-無水マレイン酸共重合中和物と上記アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤の1種以上の各所定の含有量を含有することで、下記1)~4)の各作用効果を発揮することとなる。
1) ノンドライ性と、描線乾燥性と、キャップオフ時のペン芯内分離を防止することとなる。この作用等は、界面活性剤のみ含有であると、界面活性剤濃度が上がって配合系が崩れるが、上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物(粘度・分散性・緩凝集の効果あり)を含有することで、ノンドライ性と、描線乾燥性と、ペン芯内分離防止を高度に両立することとなる。
2) しかも、 非吸収面に濡れやすく、描線がはじかれずに安定して書くことができ(表面張力が低くなるので非吸収面のインクはじきが少なく描線品位が良好になる)、更に、キャップオフした際も描線が擦れることがなく、ノンドライ性に優れることとなる。この作用等は、キャップオフ時、ペン芯内に含まれるインク中の水分が揮発し、濃縮されるため、インクの配合系が崩れ、着色剤等の凝集が起こりやすくなるが、上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と所定の界面活性剤を各所定量含有すると、凝集が緩和されるため、描線がかすれにくくなる。
3) 更に、上下濃度差が少なく、ペン芯内分離が少ないものとなる。上記イソブチレン・無水マレイン酸共重合物の中和物と所定の界面活性剤を各所定量含有すると、色材の緩凝集が起きるため、ペン芯内の色材の分離が少なく、上下濃度差が緩和される。さらに中空粒子を更に加えると、さらなる緩凝集の向上に期待できる。
4) 描線乾燥性に優れるものとなる。本発明では、顔料表面と溶媒の濡れ性が向上するため、インクの分散性が良好なので塗膜が均一になりやすく、描線乾燥性が向上することとなる。
本発明では,上記1)~4)の作用効果等を発揮することとなるので、非吸収面に濡れやすく、描線がはじかれることなく安定して筆記できると共に、キャップオフした際にも描線が掠れることがなく、ノンドライ性に優れ、ペン芯内での色材の上下濃度差もなく、しかも、描線乾燥性に優れる筆記具用水性インク組成物が得られることとなる。
【0049】
〈筆記具〉
本発明の筆記具は、上記特性の筆記具用水性インク組成物を搭載したものであり、非吸収面に濡れやすく、描線がはじかれることなく安定して筆記できると共に、キャップオフした際にも描線が掠れることがなく、ノンドライ性に優れ、ペン芯内での色材の上下濃度差もなく、しかも、描線乾燥性に優れるマーキングペン、サインペンなどに最適な筆記具が得られることとなる。
筆記具としては、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、繊維芯、多孔質芯などのペン先部を備えたサインペン、マーキングペン等に搭載される。
【0050】
本発明において、「マーキングペン」とは、インク貯蔵部に貯蔵されているインクを、毛細管現象により樹脂製の筆記部に供給する機構を有するペンを意味し、「サインペン」として言及されるペンをも包含するペンを意味する。
なお、マーキングペン(ペン芯、ペン先を含む)等の構造は、特に限定されず、例えば、軸筒自体をインク収容体として該軸筒内に前記構成の筆記具用水性インク組成物を充填したコレクター構造(インク保持機構)を備えた直液式のサインペン、マーキングペンであってもよい。
【実施例0051】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1~8及び比較例1~2〕
下記表1に示す配合組成により、常法により、各筆記具用水性インク組成物を調製した。各筆記具用水性インク組成物の室温(25℃)下のpHをpH測定計(HORIBA社製)で測定したところ、7.9~8.2の範囲内であった。
上記で得られた各筆記具用水性インク組成物について、下記方法により筆記具(水性サインペン)を作製して、下記各評価方法でドライアップ性、描線乾燥性、ペン芯内分離、非吸収面(ガラス面)への筆記性の各評価を行った。
これらの結果を下記表1に示す。
【0053】
(サインペンの作製)
上記で得られた各インク組成物を用いてサインペンを作製した。具体的には、サインペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:PM-120Tの軸を使用し、軸材質:再生PP樹脂、ペン芯:(細)PET繊維、(極細)POM樹脂からなるサインペン〕に各インク組成物を装填してサインペンを作製した。得られた実施例1~8及び比較例1~2のサインペンを用いて、各評価を行った。
【0054】
(ノンドライ性の評価方法)
前記サインペンのキャップを外して、25℃で湿度65%の環境下に30分間静置した後、PPC用紙にフリーハンド筆記(丸書き)し、「カスレ」が生じる度合いについて、下記評価基準でノンドライ性を評価した。
評価基準:
A:良好な描線である。
B:描線の1/4未満にカスレがみられる。
C:描線の1/4以上にカスレが認められる。
【0055】
(描線乾燥性の評価方法)
25℃で湿度65%の環境下で、PETフィルムの被筆記物に対し直線筆記(長さ25cm)を行い、所定時間毎にその筆記描線に紙と500gの重りを載せ、転写しなくなった時間(秒)を測定した。この時間が短いほど、描線乾燥性に優れること示し、下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:十秒以内。
B:十秒超過三十秒未満。
C:三十秒以上。
【0056】
(ペン芯内分離の評価方法)
25℃で湿度65%の環境下で、PPC用紙にフリーハンド筆記(丸書き)し、2週間ペン先を上向き静置後のフリーハンド筆記(丸書き)との「濃淡」の差について、下記評価基準でペン芯内分離を評価した。
評価基準:
A:濃淡の差がない。
B:描線の1/4未満に濃淡の差がある。
C:描線の1/4以上に濃淡の差がある。
【0057】
(非吸収面(ガラス)への筆記性の評価方法)
ガラス面(15×30×1cmの普通板ガラス)に、手書きで丸書きした際の描線の状態を目視にて観察した。筆記性は以下の評価基準で評価した。
<評価基準>
A:はじきが発生せず、筆記描線は良好であった。
B:描線の一部にはじきがみられる。
C:描線の全体にはじきがみられる。
【0058】
【表1】
【0059】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる実施例1~8の各筆記具用水性インク組成物は、本発明の範囲外となる比較例1~2の筆記具用水性インク組成物に較べて、ドライアップ性、描線乾燥性に優れ、ペン芯内での色材の分離もなく、非吸収面(ガラス面)への筆記性にも優れることが判明し、本発明の効果である、非吸収面に濡れやすく、描線がはじかれることなく安定して筆記できると共に、キャップオフにした際にも描線が掠れることがなく、ノンドライ性に優れ、ペン芯内での色材の上下濃度差もなく、しかも、描線乾燥性に優れる筆記具用水性インク組成物となることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
マーキングペン、サインペンなどの筆記具用水性インク組成物に好適に用いることができる。