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特開2024-169121潜熱蓄熱材装填物、及び潜熱蓄熱材装填物の製造方法
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  • 特開-潜熱蓄熱材装填物、及び潜熱蓄熱材装填物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169121
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材装填物、及び潜熱蓄熱材装填物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/02 20060101AFI20241128BHJP
   C09K 5/06 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F28D20/02 D
C09K5/06 D
C09K5/06 E
C09K5/06 G
C09K5/06 M
C09K5/06 K
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086335
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 大稀
(72)【発明者】
【氏名】中村 洸平
(57)【要約】
【課題】収容部材の内部に装填された潜熱蓄熱材に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材の端部に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる潜熱蓄熱材装填物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】潜熱蓄熱材装填物1は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材10を、収容部材30の内部空間31Sに漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物において、潜熱蓄熱材10は、内部空間31Sをなす収容部材30の端部32aとの間に緩衝材20を介在させた状態で、内部空間31Sに装填されている。緩衝材20は、液相状態の潜熱蓄熱材10とは非親和性をなす物質からなる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物において、
前記潜熱蓄熱材は、前記内部空間をなす前記収容部材の端部との間に緩衝材を介在させた状態で、前記内部空間に装填されていること、
前記緩衝材は、液相状態の前記潜熱蓄熱材とは非親和性をなす物質からなること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項2】
請求項1に記載する潜熱蓄熱材装填物において、
前記収容部材は、前記潜熱蓄熱材を充填するための開口を有した筒状体、または袋状体に形成され、前記潜熱蓄熱材と前記緩衝材とが、溶着または接着により、前記収容部材の前記開口を封止した状態で、前記内部空間に装填されていること、
前記緩衝材は、前記収容部材のうち、溶着または接着を施した封止部と隣接して配されていること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項3】
請求項2に記載する潜熱蓄熱材装填物において、
前記封止部が複数箇所にある場合、前記緩衝材は、全箇所の前記封止部のうち、少なくとも一箇所の前記封止部を対象に配されていること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項4】
請求項1に記載する潜熱蓄熱材装填物において、
前記潜熱蓄熱材は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも1種を主成分とした蓄熱材であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項5】
請求項4に記載する潜熱蓄熱材装填物において、
前記緩衝材は、無機塩、または無機酸化物であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項6】
請求項5に記載する潜熱蓄熱材装填物において、
前記緩衝材は、前記潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤として作用する物質であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項7】
相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
液相状態の前記潜熱蓄熱材とは非親和性をなす緩衝材を有し、
前記内部空間をなす前記収容部材の端部と、前記内部空間に充填する前記潜熱蓄熱材との間に、前記緩衝材を介在させること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記収容部材は、前記潜熱蓄熱材を充填するための開口を有した筒状体、または袋状体に形成されており、前記緩衝材を、前記収容部材のうち、溶着または接着を施した封止部と隣接した部位に、前記開口から充填して配すること、
前記緩衝材と前記潜熱蓄熱材とを前記内部空間に充填後、溶着または接着により、前記収容部材の前記開口を封止すること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記潜熱蓄熱材装填物が設置された条件の下、前記収容部材は、鉛直方向に沿った方向に対し、上下による位置関係で対向した上下2箇所の前記封止部を有し、
前記緩衝材は、前記上下2箇所の前記封止部のうち、下側に位置する前記封止部である下側封止部に、少なくとも配され、前記下側封止部側に配する前記緩衝材は、前記潜熱蓄熱材より大きい比重をなす物質であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記上下2箇所の前記封止部のうち、上側に位置する前記封止部である上側封止部に、前記緩衝材を配する場合に、
前記上側封止部側に配する前記緩衝材は、前記潜熱蓄熱材より小さい比重をなす物質であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材や、このような潜熱蓄熱材に添加剤を配合した潜熱蓄熱材組成物を、収容部材の内部空間に装填してなる潜熱蓄熱材装填物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う物性を有しており、予め排熱等の熱を蓄熱し、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことで、エネルギが無駄なく有効に活用できる。潜熱蓄熱材は、収容部材の内部空間に漏れなく装填され、収容部材内での密閉性を高めた状態で使用される。潜熱蓄熱材は、収容部材内で相変化を生じ、固相状態から液相状態に変化する際に潜熱を蓄え、固相状態から液相状態に変化する際に潜熱を放熱する。潜熱蓄熱材は、潜熱を蓄熱し、蓄えた潜熱を放熱する熱の移動サイクルを、複数回に亘って繰り返することができる。このような潜熱蓄熱材を収容部材内に装填して構成された潜熱蓄熱材装填物として、その一例が、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1は、本出願人による特許出願で開示された技術であり、無機塩水和物に含む水和水を脱離した無水和物と、加えた水とを、容器内で水和反応させることにより、蓄熱材となる無機塩水和物を生成し、容器内に封入する蓄熱材の容器内封入方法である。特許文献1では、無水和物の容器への充填前、隣接する粉末同士の間にあった間隙は水和反応時に、容器に加えた水で満たされるため、容器の容積に対し、蓄熱材が占める体積充填率は、粉末状の無機塩水和物を容器内に直に充填した場合に比べ、大幅に向上している。従って、間隙の発生が抑制され、蓄熱材と蓄熱槽内の熱媒体との間で、熱伝導に要する時間の短縮化ができているため、蓄熱材の伝熱性能の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-77035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、蓄熱材の伝熱性能を向上させる上で、有効性の高い技術である。しかしながら、本出願人は、潜熱蓄熱材に関する技術開発を継続して進めていく中で、収容部材内に装填した潜熱蓄熱材を使用するにあたり、特許文献1の技術を含め、従来の潜熱蓄熱材装填物に、新たな技術的な課題を見出した。
【0006】
すなわち、潜熱蓄熱材は、熱の移動サイクルを、複数回に亘って繰り返して使用されるのが一般的であり、密閉された状態の収容部材の内部空間では、潜熱蓄熱材は、液相と固相との間で可逆的な相変化を、何度も繰り返す。また、密閉された状態の収容部材の内部空間で、潜熱蓄熱材が、固相から液相に相変化すると、潜熱蓄熱材は膨張し、固相状態と液相状態との密度差に起因して、潜熱蓄熱材の体積変態化が生じる。この体積変態化で、液相状態下の潜熱蓄熱材の体積は、固相状態下との対比で10%程増加する。
【0007】
他方で、潜熱蓄熱材は、収容部材に薄い樹脂製袋を用いて袋内に充填され、融着により袋の端部を封止して装填されることもある。このような場合、潜熱蓄熱材が、液相と固相との間で可逆的な相変化を起こし、膨張・収縮を繰り返すことで、潜熱蓄熱材を装填した樹脂製袋には、大きな応力負荷が作用する。そのため、潜熱蓄熱材では、熱の移動サイクルが複数回に亘って繰り返されると、応力集中を生じ易い融着部では、疲労破壊が経時的に発生して、装填していた潜熱蓄熱材が、樹脂製袋の外に漏洩してしまう虞があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、収容部材の内部に装填された潜熱蓄熱材に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材の端部に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる潜熱蓄熱材装填物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物、及びその製造方法は、以下の構成を有する。
【0010】
(1)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物において、前記潜熱蓄熱材は、前記内部空間をなす前記収容部材の端部との間に緩衝材を介在させた状態で、前記内部空間に装填されていること、前記緩衝材は、液相状態の前記潜熱蓄熱材とは非親和性をなす物質からなること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する潜熱蓄熱材装填物において、前記収容部材は、前記潜熱蓄熱材を充填するための開口を有した筒状体、または袋状体に形成され、前記潜熱蓄熱材と前記緩衝材とが、溶着または接着により、前記収容部材の前記開口を封止した状態で、前記内部空間に装填されていること、前記緩衝材は、前記収容部材のうち、溶着または接着を施した封止部と隣接して配されていること、を特徴とする。
(3)(2)に記載する潜熱蓄熱材装填物において、前記封止部が複数箇所にある場合、前記緩衝材は、全箇所の前記封止部のうち、少なくとも一箇所の前記封止部を対象に配されていること、を特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する潜熱蓄熱材装填物において、前記潜熱蓄熱材は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも1種を主成分とした蓄熱材であること、を特徴とする。
(5)(4)に記載する潜熱蓄熱材装填物において、前記緩衝材は、無機塩、または無機酸化物であること、を特徴とする。
(6)(5)に記載する潜熱蓄熱材装填物において、前記緩衝材は、前記潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤として作用する物質であること、を特徴とする。
(7)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、液相状態の前記潜熱蓄熱材とは非親和性をなす緩衝材を有し、前記内部空間をなす前記収容部材の端部と、前記内部空間に充填する前記潜熱蓄熱材との間に、前記緩衝材を介在させること、を特徴とする。
(8)(7)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記収容部材は、前記潜熱蓄熱材を充填するための開口を有した筒状体、または袋状体に形成されており、前記緩衝材を、前記収容部材のうち、溶着または接着を施した封止部と隣接した部位に、前記開口から充填して配すること、前記緩衝材と前記潜熱蓄熱材とを前記内部空間に充填後、溶着または接着により、前記収容部材の前記開口を封止すること、を特徴とする。
(9)(8)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記潜熱蓄熱材装填物が設置された条件の下、前記収容部材は、鉛直方向に沿った方向に対し、上下による位置関係で対向した上下2箇所の前記封止部を有し、前記緩衝材は、前記上下2箇所の前記封止部のうち、下側に位置する前記封止部である下側封止部に、少なくとも配され、前記下側封止部側に配する前記緩衝材は、前記潜熱蓄熱材より大きい比重をなす物質であること、を特徴とする。
(10)(9)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、前記上下2箇所の前記封止部のうち、上側に位置する前記封止部である上側封止部に、前記緩衝材を配する場合に、前記上側封止部側に配する前記緩衝材は、前記潜熱蓄熱材より小さい比重をなす物質であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を有する本発明の潜熱蓄熱材装填物、及びその製造方法の作用・効果について説明する。
【0012】
(1)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物において、潜熱蓄熱材は、内部空間をなす収容部材の端部との間に緩衝材を介在させた状態で、内部空間に装填されていること、緩衝材は、液相状態の潜熱蓄熱材とは非親和性をなす物質からなること、を特徴とする。
【0013】
この特徴により、潜熱蓄熱材が、密閉状態にある収容部材内で、蓄熱・放熱サイクルを、複数回に亘って繰り返す中で、潜熱蓄熱材と収容部材の端部との間に介在させた緩衝材が、収容部材の端部への潜熱蓄熱材の到達を抑制し、潜熱蓄熱材の膨張・収縮に伴う応力負荷が、収容部材の端部に直に作用するのを防止できる。それ故に、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物では、潜熱蓄熱材の膨張・収縮の繰り返しに起因する疲労破壊が、経時的に収容部材の端部で生じるのを抑制できていることから、潜熱蓄熱材による蓄熱・放熱サイクルが、複数回に亘って繰り返されても、収容部材から潜熱蓄熱材の漏洩は生じ難くい。
【0014】
なお、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物、及びその製造方法において、「緩衝材は、液相状態の潜熱蓄熱材とは非親和性をなす物質」とは、例えば、粉末状、スラリー状またはゲル状、弾性を有した固体状等、非液体状であり、液相状態下の潜熱蓄熱材と溶解せず、液相状態の潜熱蓄熱材と分離した態様で存在し得る物性をなす物質を意味する。この物質の一例として、硫酸カルシウム(融点1460℃)、ケイ酸カルシウム(融点1540℃)、ナトリウムイオンを含むリン酸塩水和物等の無機塩のほか、酸化アルミニウムや、酸化鉄(II) (FeO)、酸化鉄(II,III) (Fe)、酸化鉄(III) (Fe) に挙げられる酸化鉄等の無機塩酸化物、発砲ウレタン材のような発砲樹脂材、ゴム材等の弾性材他が挙げられる。
【0015】
従って、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物によれば、収容部材の内部に装填された潜熱蓄熱材に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材の端部に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる、という優れた効果を奏する。
【0016】
(2)に記載する潜熱蓄熱材装填物において、収容部材は、潜熱蓄熱材を充填するための開口を有した筒状体、または袋状体に形成され、潜熱蓄熱材と緩衝材とが、溶着または接着により、収容部材の開口を封止した状態で、内部空間に装填されていること、緩衝材は、収容部材のうち、溶着または接着を施した封止部と隣接して配されていること、を特徴とする。また、(3)に記載する潜熱蓄熱材装填物において、封止部が複数箇所にある場合、緩衝材は、全箇所の封止部のうち、少なくとも一箇所の封止部を対象に配されていること、を特徴とする。
【0017】
このような特徴により、収容部材における封止部の機械的強度は、収容部材の中でも必然的に小さくなり、特に収容部材の端部で応力集中が生じ易いが、封止部に対する潜熱蓄熱材の膨張・収縮による応力負荷の影響を、緩衝材によって低減することができる。
【0018】
(4)に記載する潜熱蓄熱材装填物において、潜熱蓄熱材は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも1種を主成分とした蓄熱材であること、を特徴とする。
【0019】
この特徴により、無機塩水和物、包摂水和物、または糖アルコールのいずれかを主成分に含む潜熱蓄熱材では、パラフィン系の蓄熱材との対比で、体積当たりの蓄熱量が、大きく確保できるようになるため、潜熱蓄熱材の使い勝手は良い。
【0020】
(5)に記載する潜熱蓄熱材装填物において、緩衝材は、無機塩、または無機酸化物であること、を特徴とする。
【0021】
この特徴により、無機塩水和物、包摂水和物、または糖アルコールのいずれかを主成分とした潜熱蓄熱材が、固相状態と液相状態の間で相変化を繰り返し起こしても、緩衝材は、この潜熱蓄熱材との間で化学反応を生じることなく、潜熱蓄熱材と分離した状態で、安定して存在し続けることができる。
【0022】
(6)に記載する潜熱蓄熱材装填物において、緩衝材は、潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤として作用する物質であること、を特徴とする。
【0023】
この特徴により、潜熱蓄熱材が、過冷却現象を発現し易い物性の無機塩水和物、包摂水和物、または糖アルコールのいずれかの主成分に含む場合に、緩衝材は、潜熱蓄熱材に対し、過冷却現象を解除する役割と、収容部材の端部への潜熱蓄熱材の到達を抑制することにより、潜熱蓄熱材の膨張・収縮に伴う応力負荷に基づき、収容部材の端部で発生し得る過度な応力集中を抑制する役割とを、併せて果たすことができる。
【0024】
(7)相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、液相状態の潜熱蓄熱材とは非親和性をなす緩衝材を有し、内部空間をなす収容部材の端部と、内部空間に充填する潜熱蓄熱材との間に、緩衝材を介在させること、を特徴とする。
【0025】
この特徴により、潜熱蓄熱材が、密閉状態にある収容部材内で、蓄熱・放熱サイクルを、複数回に亘って繰り返す中で、緩衝材が、収容部材の端部への潜熱蓄熱材の到達を抑制し、潜熱蓄熱材の膨張・収縮に伴う大きな応力負荷が、収容部材の端部うち、応力集中を生じ易い部分(例えば、収容部材が樹脂製袋の場合は融着部等)に作用することを防止できる。それ故に、潜熱蓄熱材装填物では、潜熱蓄熱材の膨張・収縮の繰り返しに起因する疲労破壊が、収容部材の端部で経時的に生じるのを抑制できていることから、潜熱蓄熱材による蓄熱・放熱サイクルが、複数回に亘って繰り返されても、収容部材から潜熱蓄熱材の漏洩は生じ難くい。
【0026】
従って、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法によれば、収容部材の内部に装填された潜熱蓄熱材に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材の端部に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる、という優れた効果を奏する。
【0027】
(8)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、収容部材は、潜熱蓄熱材を充填するための開口を有した筒状体、または袋状体に形成されており、緩衝材を、収容部材のうち、溶着または接着を施した封止部と隣接した部位に、開口から充填して配すること、緩衝材と潜熱蓄熱材とを内部空間に充填後、溶着または接着により、収容部材の開口を封止すること、を特徴とする。
【0028】
この特徴により、収容部材における封止部の機械的強度は、収容部材の中でも必然的に小さくなり、特に収容部材の端部で応力集中が生じ易いが、封止部に対し、潜熱蓄熱材の膨張・収縮による応力負荷の影響を、緩衝材によって低減することができる。
【0029】
(9)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、潜熱蓄熱材装填物が設置された条件の下、収容部材は、鉛直方向に沿った方向に対し、上下による位置関係で対向した上下2箇所の封止部を有し、緩衝材は、上下2箇所の封止部のうち、下側に位置する封止部である下側封止部に、少なくとも配され、下側封止部側に配する緩衝材は、潜熱蓄熱材より大きい比重をなす物質であること、を特徴とする。
【0030】
この特徴により、緩衝材が、潜熱蓄熱材の融液下で沈降した状態を維持し、この潜熱蓄熱材が固相化したときでも、緩衝材は、下側封止部側の端部と隣接した状態を保持し続けることができる。
【0031】
(10)に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、上下2箇所の封止部のうち、上側に位置する封止部である上側封止部に、緩衝材を配する場合に、上側封止部側に配する緩衝材は、潜熱蓄熱材より小さい比重をなす物質であること、を特徴とする。
【0032】
この特徴により、緩衝材が、潜熱蓄熱材の融液下で浮上した状態を維持し、この潜熱蓄熱材が固相化したときでも、緩衝材は、上側封止部側の端部と隣接した状態を保持し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物を模式的に示す説明図であり、(a)は実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物、(b)は実施例2に係る潜熱蓄熱材装填物、(c)は実施例3に係る潜熱蓄熱材装填物を、それぞれ示す。
図2】実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物に装填した潜熱蓄熱材組成物を模式的に示す説明図である。
図3】実施形態の実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法の工程を示すフロー図である。
図4】実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物の作用を模式的に示す説明図である。
図5】比較例1に係る潜熱蓄熱材装填物で生じていた現象を模式的に示す説明図である。
図6】実施例3に係る潜熱蓄熱材装填物の作用を模式的に示す説明図である。
図7】比較例2に係る潜熱蓄熱材装填物で生じていた現象を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物、及び潜熱蓄熱材装填物の製造方法について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明に係る潜熱蓄熱材装填物は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなり、潜熱蓄熱材に蓄熱した潜熱による熱エネルギを、需要先で利用する目的で使用される。
【0035】
一例として、熱媒体で満たされた蓄熱槽内に、潜熱蓄熱材装填物を収容した用途の場合、例えば、病院やビル等の非常用電源に設置されているコジェネレーション(CogenerationまたはCombined Heat and Power)のガスエンジンシステムの排熱や、工場や事業所、大型施設、家庭等の設備で生じる排熱を利用して、蓄熱槽内に貯めた水等の熱媒体が加熱される。潜熱蓄熱材装填物内の潜熱蓄熱材は、熱媒体より、その加熱温度近傍の温度帯域で潜熱を一時的に蓄熱した後、時間差をもって、蓄えていた潜熱を放熱し、熱媒体を介して熱需要先に供給することができる。潜熱蓄熱材は、装填された収容部材容器内で、蓄熱とその放熱のサイクルを、必要に応じて複数回繰り返す。以下、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物について、本実施形態では、無機塩水和物、包摂水和物、糖アルコールを、それぞれ主成分とした場合の潜熱蓄熱材を挙げて、説明する。
【0036】
はじめに、潜熱蓄熱材装填物の概要について、図1を用いて簡単に説明する。図1は、実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物を模式的に示す説明図であり、(a)は実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物、(b)は実施例2に係る潜熱蓄熱材装填物、(c)は実施例3に係る潜熱蓄熱材装填物を、それぞれ示す。図1では、潜熱蓄熱材装填物1が、例えば、蓄熱槽内等、所定の設置手段に配置された条件の下、潜熱蓄熱材装填物1の配置姿勢について、鉛直方向VTに沿った方向を、図1中、上下方向とし、水平方向HZに沿った方向を、図1中、左右方向とする。図3以降の各図についても、図1で定義した方向に準ずる。図2は、実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物に装填した潜熱蓄熱材組成物を模式的に示す説明図である。
【0037】
<潜熱蓄熱材10について>
図1及び図2に示すように、潜熱蓄熱材装填物1は、潜熱蓄熱材10(または蓄熱材混合物12)と、緩衝材20と、収容部材30等からなる。潜熱蓄熱材10は、例えば、酢酸ナトリウム三水和物等の酢酸塩水和物、二リン酸ナトリウム十水和物等の二リン酸塩(ピロリン酸塩)水和物、リン酸水素二ナトリウム十二水和物等のリン酸塩水和物、アンモニウムミョウバン十二水和物、カリウムミョウバン十二水和物等のミョウバン水和物、硫酸アルミニウム水和物等の硫酸塩水和物に代表されるような無機塩水和物を主成分とした蓄熱材である。
【0038】
また、潜熱蓄熱材10は、例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド水和物、テトラブチルアンモニウムブロミド水和物、テトラブチルアンモニウムフルオリド水和物等に代表されるような包摂水和物を主成分とした蓄熱材である。さらに、潜熱蓄熱材10は、例えば、エリスリトール、ラクチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等に代表されるような糖アルコールを主成分とした蓄熱材である。
【0039】
本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1では、潜熱蓄熱材10は、例示的に列挙した前述の無機塩水和物、包摂水和物、糖アルコールを主成分とする蓄熱材の中から、一例として挙げたアンモニウムミョウバン十二水和物のように、液相状態から融点を下回る温度下で、過冷却現象を生じ易い物性を有した蓄熱材である。アンモニウムミョウバン十二水和物の物性は、水和数12、分子量[g/mol]453.34、融点93.5℃、蓄熱量270~280(kJ/kg)、常温では固体で、水に可溶な物性を有する。アンモニウムミョウバン十二水和物は、融点を境に、固相状態から液相状態に変化する際に潜熱を蓄熱し、液相状態から固相状態に変化する際に潜熱を放熱する。
【0040】
潜熱蓄熱材装填物1には、このような潜熱蓄熱材10が単体で収容部材30に装填される第1の場合があるほか、潜熱蓄熱材10の物性を調整する添加剤11と共に、潜熱蓄熱材10が収容部材30に装填される第2の場合もある。すなわち、第2の場合には、図2に示すように、潜熱蓄熱材10に添加剤11を配合してなる蓄熱材混合物12が、収容部材30に装填される。添加剤11は、潜熱蓄熱材10と親和性をなし、潜熱蓄熱材10の融液に溶解可能な物性を有する物質である。
【0041】
具体的には、添加剤11は、例えば、融点調整剤、増粘剤、柔軟剤、着色剤等である。融点調整剤は、例えば、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、カルシウムイオンを含むリン酸塩化合物等、潜熱蓄熱材10の融点を調整する作用を有した添加剤である。増粘剤は、潜熱蓄熱材10の融液を増粘する役割を果たし、潜熱蓄熱材10の構成成分を、均一な混合状態に維持することができると共に、潜熱蓄熱材10の相分離や、潜熱蓄熱材10と混合した他の添加剤との間で、密度差の違いによる配合物同士の分離を、抑制する作用を有した添加剤である。増粘剤の一例として、糖アルコールに属する物質や、多糖類に属する物質等が挙げられる。
【0042】
柔軟剤は、固相状態下にある潜熱蓄熱材10に対し、ある程度の柔軟性を呈するよう、物性を調整する作用を有した添加剤である。柔軟剤の一例には、グリセリン等が挙げられる。着色剤は、潜熱蓄熱材10を着色する添加剤であり、着色剤の一例に、食紅や顔料等が挙げられる。
【0043】
なお、蓄熱材混合物12に含有する添加剤11は、その物質を特に限定するものではなく、潜熱蓄熱材10の物性を調整する作用を有した添加剤であれば、潜熱蓄熱材装填物1の用途に応じて適宜変更可能である。
【0044】
また、潜熱蓄熱材装填物に装填される潜熱蓄熱材は、無機塩水和物、包摂水和物、糖アルコールのいずれかを主成分とする蓄熱材以外にも、パラフィン系の蓄熱材を用いることはできる。しかしながら、パラフィン系の蓄熱材の使用は、蓄熱・放熱性能上や取り扱い上の観点で、好ましくない。その理由として、パラフィン系の蓄熱材では、その蓄熱量は物質毎に異なるため、一概に比較はできないが、比重は概ね0.9、体積当たりの蓄熱量は、およそ220~240kJ/kgと、先に例示したアンモニウムミョウバン十二水和物の蓄熱量270~280(kJ/kg)等の無機塩水和物と比べても、低いことがある。しかも、パラフィン系の蓄熱材は可燃性で、火気に関して安全対策を必要とする場合もあり、使い勝手は良くないからである。
【0045】
<収容部材30について>
図3は、実施形態の実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物の製造方法の工程を示すフロー図である。収容部材30は、図3に示すように、充填するための開口33を有した筒状体、袋状体、またはチューブ状に形成されている。具体的には、収容部材30は、例えば、ポリプロピレン(PP:polypropylene)、ポリエチレン(PE:polyethene)等、可撓性を有した樹脂からなり、本実施形態では、高温等に対する耐候性や、熱融着による加工性に優れたポリプロピレンを主成分に、その柔軟性を確保するため、別の樹脂成分を加えた混合樹脂材で形成されている。収容部材30の樹脂層厚さは、目安として1mm未満であり、本実施形態では、0.2~0.7mm程である。
【0046】
<緩衝材20について>
緩衝材20は、液相状態の潜熱蓄熱材10とは非親和性をなす物質である。緩衝材20は、本実施形態では、潜熱蓄熱材10の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤として作用する物質である。先に例示したアンモニウムミョウバン十二水和物が潜熱蓄熱材10である場合、緩衝材20は、一例として、硫酸カルシウム等であり、粉状、またはゲル状等、非液体状の無機塩、または無機塩酸化物である。
【0047】
なお、緩衝材20は、潜熱蓄熱材10向けの過冷却防止剤に限定するものではなく、液相状態の潜熱蓄熱材10とは非親和性をなす物質であれば、潜熱蓄熱材装填物1の用途に応じて適宜変更可能である。その一例として、緩衝材20は、発砲ウレタン材のような発砲樹脂材や、ゴム材等、弾性を有した非液体状で、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮を吸収可能な性状の物質や部材でも良い。
【0048】
潜熱蓄熱材装填物1では、図1及び図3に示すように、潜熱蓄熱材10(または蓄熱材混合物12の場合もあるが、以下、潜熱蓄熱材10と蓄熱材混合物12とをまとめて「潜熱蓄熱材10等」で総称することもある。)は、内部空間31Sをなす収容部材30の端部32aとの間に緩衝材20を介在させた状態で、内部空間31Sに装填されている。すなわち、本実施形態では、潜熱蓄熱材10等と緩衝材29とが、収容部材30の融着(溶着)により、収容部材30の開口33を封止した状態で、内部空間31Sに装填されている。緩衝材20は、収容部材30のうち、融着を施した封止部40と隣接して配されている。封止部40が複数箇所にある場合、緩衝材20は、全箇所の封止部40のうち、少なくとも一箇所の特定封止部40Xを対象に配されている。
【0049】
具体的に説明する。図1に示すように、潜熱蓄熱材装填物1を、蓄熱槽内等、所定の設置手段に、鉛直方向VTに沿った縦置き、または水平方向HZに沿った横置きによる配置条件に応じて、潜熱蓄熱材装填物1は、実施例1~3に挙げる3種の態様で構成される。
【0050】
<実施例1>
図1(a)に示すように、実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物1A(1)は、所定の設置手段に、縦置きで配置される場合を対象としている。収容部材30に有する封止部40は、上下の位置関係で対向した2箇所である。潜熱蓄熱材装填物1Aでは、下側に位置する封止部40(下側封止部40L)と上側に位置する封止部40(上側封止部40U)との間には、緩衝材20と潜熱蓄熱材10等が充填され、下側封止部40Lだけが、特定封止部40Xとなっており、上側封止部40U側には、緩衝材20は配されていない。
【0051】
<実施例2>
図1(b)に示すように、実施例2に係る潜熱蓄熱材装填物1B(1)は、所定の設置手段に、縦置きで配置される場合を対象としている。収容部材30に有する封止部40は、上下の位置関係で対向した2箇所である。潜熱蓄熱材装填物1Bでは、下側封止部40Lと上側封止部40Uとの間には、緩衝材20と潜熱蓄熱材10等が充填され、下側封止部40Lと上側封止部40Uの双方が、特定封止部40Xとなっている。
【0052】
<実施例3>
図1(c)に示すように、実施例3に係る潜熱蓄熱材装填物1C(1)は、所定の設置手段に、横置きで配置される場合を対象としている。収容部材30に有する封止部40は、左右の位置関係で対向した2箇所である。潜熱蓄熱材装填物1Cでは、左右両方の封止部40同士の間には、緩衝材20と潜熱蓄熱材10等が充填され、左右両方の封止部40が、特定封止部40Xとなっている。
【0053】
次に、実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法について、説明する。実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法は、内部空間31Sをなす収容部材30の端部32aと、内部空間31Sに充填する潜熱蓄熱材10等との間に、緩衝材20を介在させる。
【0054】
具体的には、潜熱蓄熱材装填物1A(1)を製造する場合、図3(a),(b)に示すように、下側封止部40L(封止部40)を既設した有底の収容部材30の内部空間31Sに、開口33から緩衝材20を充填して、下側封止部40L側の端部32aに隣接させる。緩衝材20が、下側封止部40Lと隣接した部位に、開口33から充填して配されたことで、下側封止部40Lは、特定封止部40Xとなる。
【0055】
このとき、下側封止部40L側に配する緩衝材20は、潜熱蓄熱材10等より大きい比重をなす物質であることが重要である。緩衝材20が、潜熱蓄熱材10等の融液下で沈降した状態を維持し、この潜熱蓄熱材10等が固相化したときでも、緩衝材20は、下側封止部40L側の端部32aと隣接した状態を保持し続けることができるからである。
【0056】
次に、開口33から緩衝材20の上に潜熱蓄熱材10等を充填する(図3(c))。緩衝材20と潜熱蓄熱材10とを内部空間31Sに充填後、空隙50Sの残存をより小さく抑えた状態で、収容部材30の開口33を、融着(溶着)により封止して、上側封止部40U(封止部40)を形成する。かくして、潜熱蓄熱材装填物1A(1)が構成される。
【0057】
また、潜熱蓄熱材装填物1B(1)を製造する場合、下側封止部40Lに加えて、上側封止部40Uにも、緩衝材20が配されるため、図3(c)に示すように、緩衝材20と潜熱蓄熱材10とを内部空間31Sに充填後、開口33から緩衝材20を再び充填する。このとき、上側封止部40U側に配する緩衝材20は、潜熱蓄熱材10等より小さい比重をなす物質であることが重要である。緩衝材20が、潜熱蓄熱材10等の融液下で浮上した状態を維持し、この潜熱蓄熱材10等が固相化したときでも、緩衝材20は、上側封止部40U側の端部32aと隣接した状態を保持し続けることができるからである。
【0058】
次いで、緩衝材20を上側封止部40U側に充填後、空隙50Sの残存をより小さく抑えた状態で、収容部材30の開口33を、融着(溶着)で封止して、上側封止部40U(封止部40)を形成する。かくして、潜熱蓄熱材装填物1B(1)は構成される。なお、潜熱蓄熱材装填物1B(1)と潜熱蓄熱材装填物1C(1)では、所定の設置手段における配置条件が、縦置き、横置きで異なるものの、潜熱蓄熱材装填物1B,1C(1)の製造方法は、双方で共通する。
【0059】
但し、潜熱蓄熱材装填物1C(1)は、横置きに配置されるため、緩衝材20の比重は、潜熱蓄熱材10等の比重に対し、同じであっても、差異を有しても良い。また、緩衝材20の構成物質は、左右両方の特定封止部40Xにおいて、同じ物質同士や、異なる物質同士であっても良く、異なる物質同士の場合には、両者の比重の大小関係に条件を設ける必要もない。
【0060】
次に、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1で行った耐久試験について、説明する。本出願人は、潜熱蓄熱材装填物1の有意性を検証する目的で、潜熱蓄熱材10で蓄熱とその放熱のサイクルを、複数回に亘り、収容部材30内で繰り返す潜熱蓄熱材装填物1の耐久試験を実施した。
【0061】
図4は、実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物の作用を模式的に示す説明図である。図5は、比較例1に係る潜熱蓄熱材装填物で生じていた現象を模式的に示す説明図である。耐久試験では、図4に示すように、緩衝材20を具備した、実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物1A(1)と、図5に示すように、緩衝材を具備していない、比較例1に係る潜熱蓄熱材装填物100Aに対し、それぞれ4つのサンプルを用いて、これらの耐久性について、実施例1と比較例1との双方で比較した。なお、図4及び図5と、これらの図と関連した図6及び図7は、潜熱蓄熱材10の膨張による収容部材30の変形について、強調した図示となっている。
【0062】
耐久試験は、緩衝材20有無の条件を除き、潜熱蓄熱材装填物1A,100Aとも、潜熱蓄熱材10等、収容部材30、及び封止部40に関する条件を統一し、空隙50Sの残存をより小さく抑えた状態で、融着(溶着)により、収容部材30の開口33を封止して行われた。潜熱蓄熱材装填物1A,100Aでは、潜熱蓄熱材10としてカリウムミョウバン十二水和物が用いられ、添加剤11は、塩化カリウムとマンニトールである。潜熱蓄熱材装填物1Aでは、内部空間31Sへの緩衝材20の充填量として、鉛直方向VTに対し、収容部材30の全長のうち、緩衝材20による層で占める割合を、概ね10%とした。作業者は、潜熱蓄熱材装填物1A,100Aに対し、収容部材30の破損や、内部空間31Sから潜熱蓄熱材10の漏洩等の有無を、それぞれ目視で観察した。
【0063】
耐久試験結果は、次の通りであった。実施例1に係る潜熱蓄熱材装填物1A(1)では、蓄熱・放熱のサイクル数が、試験継続中に確認を行った1107回目に達した時点でも、収容部材30の破損と潜熱蓄熱材10の漏洩等は全く確認されず、試験に供した4つのサンプルの全てにおいて、潜熱蓄熱材装填物1A(1)は、それ以降の蓄熱・放熱のサイクルを、引き続き継続できる正常な状態であった。
【0064】
これに対し、比較例1に係る潜熱蓄熱材装填物100Aでは、試験に供した4つのサンプルのうち、3つのサンプルで、蓄熱・放熱のサイクル数が、1000回目に満たない数百回目の時点で、主に下側封止部40L(封止部40)側で破損し、潜熱蓄熱材10等の漏洩が生じて、全サンプルとも、潜熱蓄熱材装填物100Aは、使用不可の状態となった。
【0065】
<考察>
潜熱蓄熱材10等、収容部材30、及び封止部40に関する条件は、実施例1・比較例1とも実質的に同じである。また、潜熱蓄熱材10が、密閉状態にある収容部材30内で、蓄熱過程(液相状態)と放熱過程(固相状態)を交互に行う蓄熱・放熱サイクルを、複数回に亘って繰り返す中で、膨張する挙動も、実施例1・比較例1とも同じである。他方、実施例1・比較例1とも、樹脂製の収容部材30には、潜熱蓄熱材10の固相・液相間での相変化に伴う膨張・収縮により、応力負荷が作用する。しかも、収容部材30の封止部40は、収容部材30の端部を融着して封止されており、封止部40での機械的強度は、収容部材30中で必然的に小さく、特に収容部材30の端部32aでは、応力集中が生じ易くなっている。
【0066】
図4に示すように、実施例1の場合、潜熱蓄熱材装填物1Aは、緩衝材20を具備している。そのため、緩衝材20が、応力集中を生じ易い封止部40への潜熱蓄熱材10等の到達を抑制し、潜熱蓄熱材10の膨張・伸縮に伴う大きな応力負荷が、封止部40に直に作用するのを防止できている。すなわち、潜熱蓄熱材10等は、封止部40への到達を、緩衝材20によって抑制されている。そのため、相変化に伴う潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に際して、収容部材30では、水平方向HZに膨張・収縮させようとする応力が、緩衝材20よりも上方の領域に作用する。
【0067】
このとき、特に緩衝材20の直上近傍では、潜熱蓄熱材10等の自重により、収容部材30に対して、水平方向HZに作用する応力は、より大きくなり、これによって、収容部材30の水平方向HZへの変形量も、より大きくなる。その一方で、収容部材30は、可撓性を有した樹脂で構成されており、前述の応力に追従して水平方向HZに膨張・収縮することができるため、潜熱蓄熱材10等の膨張・収縮を、収容部材30の外周縁部34で吸収することができている。加えて、収容部材30の開口33側の封止部40を融着した際に、その残存をより小さく抑えられたことにより、潜熱蓄熱材10等の膨張代として、収容部材30内の空隙50Sは、潜熱蓄熱材10等の膨張分について、出入りできる状態となっており、潜熱蓄熱材10の相変化に伴う膨張・収縮の吸収に寄与できている。
【0068】
それ故に、封止部40(下側封止部40L、上側封止部40U)には、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮による応力負荷の影響が、低減されていることから、封止部40の疲労破壊が抑制され、封止部40の破損を招くことなく、潜熱蓄熱材装填物1Aが正常な状態に保たれているものと推察される。
【0069】
これに対し、図5に示すように、比較例1の場合、潜熱蓄熱材装填物100Aには、緩衝材20が構成されていない。そのため、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮による応力負荷が、応力集中を生じ易い封止部40(下側封止部40L)に、直接作用する構造となっている。その結果、比較例1では、主に下側封止部40L(封止部40)側が、経時的に疲労破壊を起こし、潜熱蓄熱材10の漏洩を招いたものと考えられる。
【0070】
図6は、実施例3に係る潜熱蓄熱材装填物の作用を模式的に示す説明図である。図7は、比較例2に係る潜熱蓄熱材装填物で生じていた現象を模式的に示す説明図である。実施例1及び比較例1に係る耐久試験とは別で、実施例3に係る潜熱蓄熱材装填物1C(1)と、その比較例2を用いて確認した場合でも、この耐久試験結果と同様な知見が得られた。
【0071】
すなわち、図6に示すように、実施例3に係る潜熱蓄熱材装填物1C(1)では、緩衝材20が、封止部40への潜熱蓄熱材10の到達を抑制し、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に伴う大きな応力負荷が、封止部40に直に作用するのを防止できている。換言すれば、潜熱蓄熱材10等は、封止部40への到達を、緩衝材20によって抑制されている。そのため、相変化に伴う潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に際して、収容部材30では、鉛直方向VTに膨張・収縮させようとする応力が、左右双方の緩衝材20によって挟まれた領域に作用する。
【0072】
このとき、特に左右双方の緩衝材20近傍では、水平方向HZへの潜熱蓄熱材10等の膨張・収縮が制限される。そのため、鉛直方向VTに対して、収容部材30に作用する応力は、より大きくなり、これによって、収容部材30の鉛直方向VTへの変形量も、より大きくなる。その一方で、収容部材30は、可撓性を有した樹脂で構成されており、前述の応力に追従して鉛直方向VTに膨張・収縮することができるため、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮を、収容部材30の外周縁部34で吸収することができている。それ故に、封止部40には、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮による応力負荷の影響が、緩衝材20によって低減されていることから、封止部40の疲労破壊が抑制され、封止部40は破損し難くい。
【0073】
これに対し、図7に示すように、比較例2に係る潜熱蓄熱材装填物100Bでは、緩衝材20が構成されていない。そのため、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に伴い、より大きな応力負荷が、応力集中を生じ易い封止部40にそのまま、潜熱蓄熱材10の膨張分を吸収可能な限界を超えて作用すると、封止部40での疲労破壊を招き、封止部40は破損し易い。
【0074】
次に、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1、及び潜熱蓄熱材装填物1の製造方法の作用・効果について説明する。
【0075】
本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材10を、収容部材30の内部空間31Sに漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物において、潜熱蓄熱材10は、内部空間31Sをなす収容部材の端部32aとの間に緩衝材20を介在させた状態で、内部空間31Sに装填されていること、緩衝材20は、液相状態の潜熱蓄熱材10とは非親和性をなす物質からなること、を特徴とする。
【0076】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材10を、収容部材30の内部空間31Sに漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物1の製造方法において、相変化による潜熱蓄熱材の膨張を吸収可能な性状で、液相状態の潜熱蓄熱材10とは非親和性をなす緩衝材20を有し、内部空間31Sをなす収容部材30の端部32aと、内部空間31Sに充填する潜熱蓄熱材10との間に、緩衝材20を介在させること、を特徴とする。
【0077】
これらの特徴により、潜熱蓄熱材10が、密閉状態にある収容部材30内で、蓄熱・放熱サイクルを、複数回に亘って繰り返す中で、緩衝材20が、封止部40への潜熱蓄熱材10の到達を抑制し、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に伴う大きな応力負荷が、封止部40に直に作用するのを防止できる。それ故に、潜熱蓄熱材装填物1では、封止部40において、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮による応力負荷の影響を低減でき、疲労破壊に起因した封止部40の破損が抑制できていることから、潜熱蓄熱材10による蓄熱・放熱サイクルが、複数回に亘って繰り返されても、収容部材30から潜熱蓄熱材10の漏洩は生じ難くい。
【0078】
従って、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1によれば、収容部材30の内部空間31に装填された潜熱蓄熱材10に、相変化に伴う体積変態が生じても、収容部材30の封止部40に及ぼす応力負荷の影響を抑制することができる、という優れた効果を奏する。また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法についても、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1と同様の効果を奏する。
【0079】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1では、収容部材30は、潜熱蓄熱材10を充填するための開口33を有した筒状体、または袋状体に形成され、潜熱蓄熱材10と緩衝材20とが、溶着により、収容部材30の開口33を封止した状態で、内部空間31Sに装填されていること、緩衝材20は、収容部材30のうち、溶着を施した封止部40と隣接して配されていること、を特徴とする。また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1では、封止部40が複数箇所にある場合、緩衝材20は、全箇所の封止部40のうち、少なくとも一箇所の特定封止部40X(封止部40)を対象に配されていること、を特徴とする。
【0080】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、収容部材30は、潜熱蓄熱材10を充填するための開口33を有した筒状体、または袋状体に形成されており、緩衝材20を、収容部材30のうち、溶着を施した封止部40と隣接した部位に、開口33から充填して配すること、緩衝材20と潜熱蓄熱材10とを内部空間31Sに充填後、溶着により、収容部材30の開口33を封止すること、を特徴とする。
【0081】
このような特徴により、収容部材30における封止部40の機械的強度は、収容部材30の中でも必然的に小さくなり、特に収容部材30の端部32aで応力集中が生じ易いが、封止部40に対し、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮による応力負荷の影響が、緩衝材20によって低減することができている。
【0082】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1では、潜熱蓄熱材10は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも1種を主成分とした蓄熱材であること、を特徴とする。
【0083】
この特徴により、無機塩水和物、包摂水和物、または糖アルコールのいずれかを主成分に含む潜熱蓄熱材10では、パラフィン系の蓄熱材との対比で、体積当たりの蓄熱量が、大きく確保できるようになるため、潜熱蓄熱材10の使い勝手は良い。
【0084】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1では、緩衝材20は、無機塩、または無機酸化物であること、を特徴とする。
【0085】
この特徴により、無機塩水和物、包摂水和物、または糖アルコールのいずれかを主成分とした潜熱蓄熱材10が、固相状態と液相状態の間で相変化を繰り返し起こしても、緩衝材20は、潜熱蓄熱材10との間で化学反応を生じることなく、潜熱蓄熱材10と分離した状態で、安定して存在し続けることができる。
【0086】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1では、緩衝材20は、潜熱蓄熱材10の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤として作用する物質であること、を特徴とする。
【0087】
この特徴により、潜熱蓄熱材10が、過冷却現象を発現し易い物性の無機塩水和物、包摂水和物、または糖アルコールのいずれかの主成分を含む場合に、緩衝材20は、潜熱蓄熱材10に対し、過冷却現象を解除する役割と、収容部材30の封止部40への潜熱蓄熱材10の到達を抑制することにより、潜熱蓄熱材10の膨張・収縮に伴う応力負荷に基づき、収容部材30の端部32aで発生し得る過度な応力集中を抑制する役割とを、併せて果たすことができる。
【0088】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、潜熱蓄熱材装填物1が設置された条件の下、収容部材30は、鉛直方向VTに沿った方向に対し、上下による位置係で対向した上下2箇所の封止部40を有し、緩衝材20は、上下2箇所の封止部40のうち、下側に位置する封止部である下側封止部40Lに、少なくとも配され、下側封止部40Lに配する緩衝材20は、潜熱蓄熱材10より大きい比重をなす物質であること、を特徴とする。
【0089】
この特徴により、緩衝材20が、潜熱蓄熱材10等の融液下で沈降した状態を維持し、この潜熱蓄熱材10等が固相化したときでも、緩衝材20は、下側封止部40L側の端部32aと隣接した状態を保持し続けることができる。
【0090】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材装填物1の製造方法では、上下2箇所の封止部40のうち、上側に位置する封止部である上側封止部40Uに、緩衝材20を配する場合に、上側封止部40Uに配する緩衝材20は、潜熱蓄熱材10より小さい比重をなす物質であること、を特徴とする。
【0091】
この特徴により、緩衝材20が、潜熱蓄熱材10等の融液下で浮上した状態を維持し、この潜熱蓄熱材10等が固相化したときでも、緩衝材20は、上側封止部40U側の端部32aと隣接した状態を保持し続けることができる。
【0092】
以上において、本発明を実施形態、実施例1~3に即して説明したが、本発明は上記実施形態、実施例1~3に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0093】
(1)例えば、実施形態では、潜熱蓄熱材装填物1に装填する潜熱蓄熱材10(無機塩水和物、包摂水和物、糖アルコールのいずれかを主成分とした潜熱蓄熱材)の一例として、アンモニウムミョウバン十二水和物を挙げたが、アンモニウムミョウバン十二水和物は、あくまでも一例に過ぎず、潜熱蓄熱材の種類やその主成分は、実施形態に限定されるものではなく、需要先での潜熱の利用態様に応じて、適宜変更可能である。
【0094】
(2)実施形態では、潜熱蓄熱材装填物1に装填する緩衝材20が、無機塩または無機酸化物で構成される場合、下側封止部40Lに配する緩衝材20を、潜熱蓄熱材10より大きい比重をなす物質とし、上側封止部40Uに配する緩衝材20を、潜熱蓄熱材10より小さい比重をなす物質とした。しかしながら、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物に有する緩衝材は、例えば、発砲ウレタン材のような発砲樹脂材や、ゴム材等、弾性を有した非液体状の物質であっても良く、可撓性を有した樹脂製の収容部材の封止部に対し、当該緩衝材の弾性と共に、収容部材の弾性を利用して安定的に配置、固定できるものであれば、無機塩や無機酸化物に限定されず、種々変更可能である。このような物質で緩衝材を構成すると、潜熱蓄熱材に対する比重の大小とは関係なく、緩衝材の構成物質が、より幅広い選択肢から選定できるようになるからである。
【0095】
(3)実施形態では、潜熱蓄熱材装填物1の収容部材30の材質に、可撓性を有した樹脂として、ポリプロピレンを主成分に、別の樹脂成分を加えた混合樹脂材を、例示して挙げた。しかしながら、収容部材の材質は、実施形態では、あくまでも一例で挙げたに過ぎず、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス鋼等、金属製であっても良く、需要先での潜熱の利用態様に応じて、適宜変更可能である。
【0096】
(4)実施形態では、潜熱蓄熱材装填物1の収容部材30の開口33を、融着(溶着)により封止しているが、融着(溶着)はあくまでも一例に過ぎず、収容部材30の開口33の封止方法は、需要先での潜熱の利用態様に応じて、適宜変更可能である。
【0097】
(5)実施形態では、熱媒体で満たされた蓄熱槽内に、潜熱蓄熱材装填物を収容した用途を一例で挙げたが、本発明に係る潜熱蓄熱材装填物を設置する手段は、蓄熱槽に限らず、例えば、建物の壁の内部や床の内部、植物の温室栽培をビニールハウス内等、蓄熱した潜熱による熱エネルギを利用する需要先に対応した所定の設置手段であれば、特に限定されるものでない。
【符号の説明】
【0098】
1、1A、1B、1C 潜熱蓄熱材装填物
10 潜熱蓄熱材
20 緩衝材(過冷却防止剤)
30 収容部材
31S 内部空間
32a 収容部材の端部
33 開口
40 封止部
40A 第1封止部(封止部)
40B 第2封止部(封止部)
40U 上側封止部(封止部)
40L 下側封止部(封止部)
VT 鉛直方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-09-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物において、
前記潜熱蓄熱材は、前記内部空間をなす前記収容部材の端部との間に緩衝材を介在させた状態で、前記内部空間に装填されていること、
前記緩衝材は、液相状態の前記潜熱蓄熱材とは非親和性をなす物質からなること、
前記収容部材は、前記潜熱蓄熱材を充填するための開口を有した筒状体、または袋状体に形成され、前記潜熱蓄熱材と前記緩衝材とが、溶着または接着により、前記収容部材の前記開口を封止した状態で、前記内部空間に装填されていること、
前記緩衝材は、前記収容部材のうち、溶着または接着を施した封止部と隣接して配されていること、
前記潜熱蓄熱材が、固相から液相に相変化する状態の下では、前記緩衝材が、前記潜熱蓄熱材の膨張を吸収すると共に、前記封止部を避けた位置で前記収容部材を変形させて、前記封止部に対し、前記潜熱蓄熱材の膨張に伴って及ぶ応力負荷を低減することにより、前記封止部の破損を抑止して前記潜熱蓄熱材の漏洩が防止できていること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項2】
請求項に記載する潜熱蓄熱材装填物において
記緩衝材は、複数箇所の前記封止部のうち、少なくとも一箇所の前記封止部を対象に配されていること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項3】
請求項1に記載する潜熱蓄熱材装填物において、
前記潜熱蓄熱材は、無機塩水和物、包摂水和物、及び糖アルコールのうち、少なくとも1種を主成分とした蓄熱材であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項4】
請求項に記載する潜熱蓄熱材装填物において、
前記緩衝材は、無機塩、または無機酸化物であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項5】
請求項に記載する潜熱蓄熱材装填物において、
前記緩衝材は、前記潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤として作用する物質であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物。
【請求項6】
相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材を、収容部材の内部空間に漏れなく装填してなる潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
液相状態の前記潜熱蓄熱材とは非親和性をなす緩衝材を有し、
前記内部空間をなす前記収容部材の端部と、前記内部空間に充填する前記潜熱蓄熱材との間に、前記緩衝材を介在させること、
前記収容部材は、前記潜熱蓄熱材を充填するための開口を有した筒状体、または袋状体に形成されており、前記緩衝材を、前記収容部材のうち、溶着または接着を施した封止部と隣接した部位に、前記開口から充填して配すること、
前記緩衝材と前記潜熱蓄熱材とを前記内部空間に充填後、溶着または接着により、前記収容部材の前記開口を封止すること、
前記潜熱蓄熱材が、固相から液相に相変化するときに、前記潜熱蓄熱材の膨張を前記緩衝材で吸収させると共に、前記封止部を避けた位置で前記収容部材を変形させて、前記封止部に対し、前記潜熱蓄熱材の膨張に伴って及ぶ応力負荷を低減することにより、前記封止部の破損が抑止されたものであること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記潜熱蓄熱材装填物が設置された条件の下、前記収容部材は、鉛直方向に沿った方向に対し、上下による位置関係で対向した上下2箇所の前記封止部を有し、
前記緩衝材は、前記上下2箇所の前記封止部のうち、下側に位置する前記封止部である下側封止部に、少なくとも配され、前記下側封止部側に配する前記緩衝材は、前記潜熱蓄熱材より大きい比重をなす物質であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。
【請求項8】
請求項に記載する潜熱蓄熱材装填物の製造方法において、
前記鉛直方向の上側に位置する前記封止部である上側封止部に配する前記緩衝材は、前記潜熱蓄熱材より小さい比重をなす物質であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材装填物の製造方法。