(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169126
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】X線回折測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/205 20180101AFI20241128BHJP
G01N 23/20008 20180101ALI20241128BHJP
【FI】
G01N23/205
G01N23/20008
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086343
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】乾 典規
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001DA06
2G001DA09
2G001KA01
2G001KA07
2G001LA02
2G001SA02
(57)【要約】
【課題】X線回折測定装置を小型化する。
【解決手段】X線回折測定装置は、基板16と、基板15の孔から試料へX線を照射するコリメータ12と、基板16上において、コリメータ12の中心からの距離がD
1の位置に設けられ、試料から回折した回折環を検出するチップ15Aとチップ15Bと、コリメータの中心からの距離がD
1より長いD
2の位置に設けられ、試料から回折した回折環を検出するチップ16を備える。D
1とD
2とは、α相とγ相のそれぞれに対応した回折角等のパラメータを用いた関係式により示される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の孔から試料へX線を照射するコリメータと、
前記基板上において、前記コリメータの中心からの距離D
1は、検出面から前記試料までの距離をC
Lとし、第1の相に対応する回折角を2θ
01とし、前記距離D
1と平行な前記検出面の幅をW
1とすると、
【数1】
となり、前記試料から回折した回折環を検出する第1検出部と、
前記基板上において、前記コリメータの中心からの距離D
2は、前記距離D
1より長く、前記第1の相とは異なり回折角が2θ
01と異なる第2の相に対応する回折角を2θ
02とし、前記距離D
2と平行な前記検出面の幅をW
2とすると、
【数2】
となり、前記試料から回折した回折環を検出する第2検出部と、
を備えるX線回折測定装置。
【請求項2】
前記第1検出部は、前記コリメータを挟んで2つ設けられており、
前記第2検出部は、2つの前記第1検出部の中心及び前記コリメータの中心を結ぶ線と直交する方向において、前記距離D2の位置に設けられている請求項1に記載のX線回折測定装置。
【請求項3】
前記第1の相は、α相であり、
前記第1検出部は、α相Kα回折を検出し、
前記第2の相は、γ相であり、
前記第2検出部は、γ相Kα回折を検出する請求項1に記載のX線回折測定装置。
【請求項4】
前記C
Lは、前記第1の相又は前記第2の相に対応して、回折プロフィル幅をW
pとし、半価幅をFWHMとし、回折角を2θ
0とすると、
【数3】
となる請求項1から3のいずれか1項に記載のX線回折測定装置。
【請求項5】
前記基板は、前記第1検出部を前記距離D1の方向に、前記第2検出部を前記距離D2の方向に位置変更可能な機構が設けられている請求項1から3のいずれか1項に記載のX線回折測定装置。
【請求項6】
前記コリメータの中心を軸として、前記試料と、前記第1検出部及び前記第2検出部とを前記軸周りに相対的に回転させる回転機構を備える請求項1から3のいずれか1項に記載のX線回折測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料を分析するために、試料へ向けてX線を照射し、試料で回折したX線の回折環を検出する方法がある。検出された回折環によることで、試料の半価幅(鉄鋼材料では硬さに相当)や残留応力、残留オーステナイト等を分析することが可能である。
【0003】
例えば特許文献1には、α相(フェライト相又はマルテンサイト相)と、γ相(オーステナイト相)との理論回折X線ピーク強度比から、γ相の体積率を求めることが開示されている。また、特許文献2には、試料にX線を照射して得た回折線のピーク付近をガウス曲線で近似して回折線の広がりを評価し、硬度を推定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-140094号公報
【特許文献2】特開昭59-155743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来方法では複数の相に対応する回折を検出して、試料の物性分析に用いている。例えば残留オーステナイト量の分析では、回折強度の高いα相Kα回折とγ相Kα回折とを用いている。しかしながら、通常、試料における各相の回折角は異なる。例えば鉄鋼材をCrターゲット線で測定する場合、α相Kα回折で回折角が約156.4°、γ相Kα回折で回折角が約128.8°と異なる。このように回折角が異なる複数の相の回折をそれぞれ検出しようとした場合、測角機構等を搭載した大型の装置により検出器を円弧上に移動させて回折X線を得るか、大型の2次元検出器を搭載した装置を使用していた。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、装置の小型化をすることができるX線回折測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るX線回折測定装置は、基板と、前記基板の孔から試料へX線を照射するコリメータと、前記基板上において、前記コリメータの中心からの距離D1は、検出面から前記試料までの距離をCLとし、第1の相に対応する回折角を2θ01とし、前記距離D1と平行な前記検出面の幅をW1とすると、
【0008】
【0009】
となり、前記試料から回折した回折環を検出する第1検出部と、前記基板上において、前記コリメータの中心からの距離D2は、前記距離D1より長く、前記第1の相とは異なり回折角が2θ01と異なる第2の相に対応する回折角を2θ02とし、前記距離D2と平行な前記検出面の幅をW2とすると、
【0010】
【数2】
となり、前記試料から回折した回折環を検出する第2検出部と、を備える。
【0011】
また、前記第1検出部は、前記コリメータを挟んで2つ設けられており、前記第2検出部は、2つの前記第1検出部の中心及び前記コリメータの中心を結ぶ線と直交する方向において、前記距離D2の位置に設けられている。
【0012】
また、前記第1の相は、α相であり、前記第1検出部は、α相Kα回折を検出し、前記第2の相は、γ相であり、前記第2検出部は、γ相Kα回折を検出する。
【0013】
また、前記CLは、前記第1の相又は前記第2の相に対応して、回折プロフィル幅をWpとし、半価幅をFWHMとし、回折角を2θ0とすると、
【0014】
【0015】
また、前記基板は、前記第1検出部を前記距離D1の方向に、前記第2検出部を前記距離D2の方向に位置変更可能な機構が設けられている。
【0016】
また、前記コリメータの中心を軸として、前記試料と、前記第1検出部及び前記第2検出部とを前記軸周りに相対的に回転させる回転機構を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るX線回折測定装置によれば、装置の小型化をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るX線回折測定装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図1のX線回折測定装置の検出部を示す図である。
【
図3】
図2に対応してα相Kα回折とγ相Kα回折を示す図である。
【
図5】第1検出部と第2検出部の配置を示す図である。
【
図6】本発明の第二実施形態に係る回転を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
―――第一実施形態―――
まず、第一実施形態について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るX線回折測定装置1の構成の一例を示す図である。X線回折測定装置1は、試料2に対してX線を照射し、試料2で回折したX線を検出する。試料2は、分析対象物であり、例えば歯車、クランク軸、シャフト等の自動車部品や、その他の機械部品等である。特に、試料2は、鉄鋼材である。検出結果は、例えばコンピュータ等で分析される。分析される試料2のパラメータとしては、例えば試料2の硬さ(例えば、鉄鋼材料では回折X線プロフィルの半価幅との相関)や、残留応力(例えば、回折角あるいは回折環半径のひずみから算出)、残留オーステナイト量(例えば、α相とγ相の各回折X線のプロフィルの積分強度比)等が挙げられる。
【0021】
本実施形態では、残留オーステナイト量を分析するために、α相とγ相の回折X線をX線回折測定装置1で検出する場合を例として説明する。なお、本実施形態のX線回折測定装置1は異なる相の回折X線を検出可能であり、α相とγ相に限定されない。また、分析されるパラメータは残留オーステナイト量以外でも適用可能である。さらに、検出された回折X線を用いてパラメータを分析する方法は限定されない。
【0022】
<X線回折測定装置1の構成>
図1に示すように、X線回折測定装置1は、本体部10があり、管球11と、コリメータ12と、基板13と、検出部14とを主な構成要素としている。
【0023】
管球11は、X線を生成し、生成したX線を試料2に向けて照射する照射部としての機能を有する。管球11は、ガラスや金属等の材料によって構成される。
【0024】
コリメータ12は、管球11により生成したX線の照射範囲を調整する機能を有する。コリメータ12は、管球11の下方(基板側)に設けられ、基板13の下部まで延伸している。管球11で生成されたX線は、コリメータ12を通り、試料2へ照射される。
【0025】
基板13は、板状部材であり、後述する検出部14が設けられている。また、基板13には孔が設けられており、管球11側から伸びるコリメータ12がこの孔から試料2側へ突出している。基板13には検出部14の検出結果(画素信号)を例えばコンピュータへ送信するためのコネクタが設けられている。
【0026】
検出部14は、四角形状であり、基板13上において試料2側(管球11とは反対の面)に設けられている。検出部14は、試料2からの回折したX線を検出する。具体的には、検出部14は、回折したX線の環状の回折像である回折環を検出する。回折環は、デバイ環やデバイ・シェラー環とも呼ばれる。すなわち、検出部14は回折環を撮像するための撮像素子であり、例えばSOI(Silicon on Insulator)センサである。SOIセンサは高感度及び高分解能であるためα相Kα回折とγ相Kα回折とを正確に検出することができる。
【0027】
図2は、X線回折測定装置1における検出部14を示している。すなわち、
図2は、
図1におけるX線回折測定装置1の検出部14周りの底面図である。
図2に示すように、検出部14は、第1検出部としてのチップ15A及びチップ15Bと、第2検出部としてのチップ16とを含んで構成される。本実施形態では、第1検出部としてチップ15A及びチップ15Bの2つを設けることとしているが、数は限定されず、例えば1つとすることも可能である。
【0028】
チップ15A及びチップ15Bは、コリメータ12を挟んでそれぞれ設けられている。これは、コリメータ12に近い位置に形成される回折環を観測するためである。すなわち、チップ15A及びチップ15Bは、特定の相に対応する回折環を検出する。特定の相は、第1の相である。本実施形態では、第1の相は、α相であり、チップ15A及びチップ15Bは、α相Kα回折を検出する。
【0029】
図2では、回折環の一例をライン20、ライン21、ライン22として示している。ライン20はα相Kα回折に対応し、ライン21はγ相Kβ回折に対応し、ライン22はγ相Kα回折に対応する。
【0030】
図3は、回折プロフィルを示している。縦軸は強度(Intensity)、横軸はコリメータ12の中心を基準とした位置(px)としている。
図3に示すように、回折環は、中心に近い位置にL1としてα相Kα回折が現れ、α相Kα回折よりも離れた位置にL3としてγ相Kα回折が現れる。これはそれぞれの回折X線の回折角が離れているためである。チップ15Aとチップ15Bは、このように形成されるα相Kα回折を検出する。なお、チップ15Aとチップ15Bの適切な設置位置の詳細については後述する。
図3に示すように、α相Kα回折の付近には、L2としてγ相Kβ回折も現れる。すなわち、チップ15Aとチップ15Bでα相Kα回折を検出する場合には、γ相Kβ回折の成分も検出される可能性があるため、例えばV(バナジウム)フィルタ等によってγ相Kβ回折の成分を減衰(強度低下)している。
【0031】
チップ16は、チップ15A及びチップ15Bよりも離れた位置に設けられる。そして、チップ16は、チップ15A及びチップ15Bの中心及びコリメータ12の中心を結ぶ線と直交する方向に設けられている。チップ16は、特定の相に対応する回折環を検出する。特定の相は、第1の相とは異なる第2の相である。本実施形態では、第2の相は、γ相であり、チップ16は、γ相Kα回折を検出する。
【0032】
図3に示すように、チップ16は、α相Kα回折と離れた位置に形成されるγ相Kα回折を検出する。なお、チップ16の適切な設置位置の詳細については後述する。α相Kα回折とγ相Kα回折とは位置が離れているため、チップ15A及びチップ15Bと、チップ16のそれぞれで各相のKα回折を検出するようにしている。
【0033】
<各チップの配置>
次に、チップ15Aと、チップ15Bと、チップ16との配置の説明をする。
チップ15A及びチップ15Bは、α相Kα回折を検出し、チップ16は、γ相Kα回折を検出できるように、コリメータ12を基準として基板13上に配置される。
【0034】
図4は、試料2で回折したX線をチップ15Bで検出する場合の一例を示している。
図4は、チップ15Aとチップ15Bとチップ16の配置と距離の関係を示している。
図4に示すように、コリメータ12から照射されたX線は、試料2で回折してチップ15Bへ到達する。
図4ではα相Kα回折の例を示しており、回折角は2θ
01(degree)とする。チップ15Bの検出面から試料2までの距離をC
L(mm)とする。検出面は、X線を検出可能な面であり、例えばピクセル(画素)で構成される。
図4では、X線の回折プロフィルの一例をPとして示している。回折プロフィルは、回折環の中心座標(コリメータ12の中心)を基準とした半径方向の強度分布である。
図4の回折プロフィルPは、コリメータ12の中心から距離R(mm)の位置で回折強度が最大であるプロフィルピークPmとなっている。すなわち、距離Rは回折X線の最大強度の位置である。また、コリメータ12の中心からチップ15Bの検出面の端部までの距離をD
1(mm)とし、チップ15Bの検出面の幅をW
1(mm)とする。なお、チップ15Bの幅とは、距離D
1と平行なチップ15Bの検出面の長さである。このように各パラメータを考えると、距離Rは、以下の式(1)及び式(2)のそれぞれで示すことができる。回折角は材質や組織ごとに定数であるため、距離RはC
Lで決まることとなる。また、式(1)で距離Rが定まれば、W
1は定数であるため、式(2)より距離D
1の最適な値を求めることも可能である。
【0035】
【0036】
上記の式(1)と式(2)について距離D1に対して解くと、以下の式(3)を得る。
【0037】
【0038】
距離D1は、コリメータ12の直径をdとすると、D1>d/2の関係となる。このようにチップ15Bは、コリメータ12の中心を基準として距離D1の位置に配置されることで、α相Kα回折に対応する回折角2θ01の回折X線を検出面で捉えることができる。なお、特に検出面の中心部分で回折強度が高くなるように回折環を捉えることが可能となる。
【0039】
上記の式(3)は、最も好ましいチップ15Bの配置を示しており、多少位置を変更することとしてもよい。すなわち、以下の式(4)のように位置を設定することも可能である。この場合には、距離D1は、式(3)の±30%と設定してもよい。なお、±30%については、これに限定されず、許容値を大きくしてもよい。
【0040】
【0041】
なお、式(3)及び式(4)では、チップ15Bに対応して説明したが、チップ15Aについても同様の式となる。すなわち、チップ15Aの検出面から試料2までの距離=チップ15Bの検出面から試料2までの距離=距離CLとなる。ここで、回折プロフィルのプロフィル幅をWp(mm)とする。プロフィル幅とは、ガウス幅であり、中心の±σ分の幅である。距離Rを中心として、+σ分をRL、-σ分をRHとすると、Wp=RL-RHとなる。すなわち、プロフィル幅Wpを半価幅(半値全幅)であるFWHM(degree)を用いると、以下の式(5)を得る。なお、式(5)では、回折角を一般化して2θ0として示している。
【0042】
【0043】
この式(5)を距離CLについて解くと、以下の式(6)を得る。
【0044】
【0045】
このように、式(6)でチップ15Bの検出面から試料2までの距離CLを算出することとしてもよい。式(6)は、α相に対応して算出することができる。具体的には、α相に対応する回折角2θ0(すなわち回折角2θ01)、プロフィル幅Wp、半価幅FWHMを入れることで、相に対応したCLを算出することができる。なお、例えばγ相など、他の相に対応して距離CLを算出することも可能である。また、この式(6)を式(3)や式(4)のCLに代入することによって、距離D1の式からCLをキャンセルすることも可能である。
【0046】
上記の式(3)は、α相Kα回折に対応して、チップ15A及びチップ15Bの設置位置として説明したが、γ相Kα回折に対応したチップ16の設置位置も同様の関係式となる。すなわち、チップ16の検出面から試料2までの距離として上記と同様の距離CLを用い、γ相Kα回折に対応した回折角を回折角は2θ02(degree)とし、コリメータ12の中心からチップ16の検出面の端部までの距離をD2(mm)とし、チップ16の検出面の幅をW2(mm)とする。チップ16の幅とは、距離D2と平行なチップ16の検出面の長さである。このように各パラメータを設定すると、距離D2は、以下の式(7)となる。距離D2については、上記のα相とは異なり、回折角が2θ01とは異なり、距離D1よりも長くなる。
【0047】
【0048】
このようにして、距離D2は、チップ15A等における距離D2と平行な長さをhとすると、D2>h/2の関係となる。このようにすることで、チップ16で、γ相Kα回折に対応する回折角2θ02の回折X線を検出面で捉えることができる。なお、特に検出面の中心部分で回折強度が高くなるように回折環を捉えることが可能となる。
【0049】
上記の式(7)は、最も好ましいチップ16の配置を示しており、多少位置を変更することとしてもよい。すなわち、以下の式(8)のように位置を設定することも可能である。この場合には、距離D2は、式(7)の±30%と設定してもよい。なお、±30%については、これに限定されず、許容値を大きくしてもよい。
【0050】
【0051】
なお、式(6)を式(7)や式(8)のCLに代入することによって、距離D2の式からCLをキャンセルすることも可能である。
【0052】
<効果>
【0053】
以上、第一実施形態において、X線回折測定装置1は、基板13と、基板13の孔から試料2へX線を照射するコリメータ12と、基板13上において、コリメータ12の中心からの距離D1は、検出面から試料2までの距離をCLとし、第1の相に対応する回折角を2θ01とし、距離D1と平行な検出面の幅をW1とすると、式(4)となり、試料2から回折した回折環を検出するチップ15A及びチップ15Bと、基板13上において、コリメータ12の中心からの距離D2は、距離D1より長く、第1の相とは異なり回折角が2θ01と異なる第2の相に対応する回折角を2θ02とし、距離D2と平行な検出面の幅をW2とすると、式(8)となり、試料2から回折した回折環を検出するチップ16と、を備える。
【0054】
この構成によれば、チップ15A及びチップ15Bを式(4)に基づいて配置することでα相に対応する回折環を検出することができ、さらに、チップ16を式(8)に基づいて配置することでγ相に対応する回折環を適切に検出することができる。すなわち、それぞれに対応する相の検出を適切な位置で行うことができるため、余分な検出可能範囲を抑制することができる。例えば、検出器を円弧上に移動させて回折線を得る装置や、大型の2次元検出器を搭載した装置では実際に回折環を検出しない範囲まで装置が構成されているが、この場合と比較してX線回折測定装置1の小型化が可能である。
【0055】
また、第一実施形態では、チップ15A及びチップ15Bは、コリメータ12を挟んで2つ設けられており、チップ16は、チップ15A及びチップ15Bの中心及びコリメータ12の中心を結ぶ線と直交する方向(α角が90°)において、距離D2の位置に設けられている。
この構成によれば、チップ15A及びチップ15Bと、チップ16とを直交方向に設けることで、重複を抑制することができる。
【0056】
また、第一実施形態では、第1の相は、α相であり、チップ15A及びチップ15Bは、α相Kα回折を検出し、第2の相は、γ相であり、チップ16は、γ相Kα回折を検出する。
【0057】
この構成によれば、チップ15A及びチップ15Bと、チップ16とでそれぞれの相に対応する回折環を検出して、残留オーステナイト量の分析に用いることができる。
【0058】
また、第一実施形態では、CLは、第1の相又は第2の相に対応して、回折プロフィル幅をWpとし、半価幅をFWHMとし、回折角を2θ0とすると、式(6)となる。
この構成によれば、CLを回折角等のパラメータで算出することができる。
【0059】
―――第二実施形態―――
次に、第二実施形態について説明する。
【0060】
第二実施形態では、チップ15Aと、チップ15Bと、チップ16の位置変更可能な場合を説明する。基板13において、位置変更可能な機構としてのチップ設置範囲が設けられている。チップ設置範囲は、チップ15A、チップ15B、チップ16のそれぞれに対して設けられており、各チップのサイズより大きく、チップ設置範囲の中で各チップは位置変更可能である。チップ15Aは、距離D1の方向に位置変更可能である。チップ15Bは、距離D1の方向に位置変更可能である。チップ16は、距離D2の方向に位置変更可能である。位置変更については、例えば任意位置に着脱することで行われる。なお位置変更については自動ステージやマイクロメータを搭載して自動移動させてもよい。
【0061】
<効果>
以上、第二実施形態では、基板13は、チップ15A及びチップ15Bを距離D1の方向に、チップ16を距離D2の方向に位置変更可能な機構が設けられている。
この構成によれば、位置変更可能であることで、検出可能な回折環の自由度が向上する。
【0062】
―――第三実施形態―――
次に、第三実施形態について説明する。
【0063】
第三実施形態では、より広く回折環を検出する場合について説明する。試料2に粗大粒や集合組織があると回折ピークが一定の回折環が得られない可能性があり、分析に影響する場合がある。本実施形態では、回転機構を設ける。
【0064】
図6は、本実施形態の概略構成を示している。本体部10から台30に載置された試料2へX線が照射される。軸31は、コリメータ12の中心を示している。この軸31に沿ってX線が照射される。台30は、軸31周りに試料2を回転させる回転機能としての機能を有する。これによって、本体部10、すなわちチップ15Aとチップ15Bとチップ16とは位置を変えず、試料2を回転させることで、より広い範囲の回折環を検出することができる。なお、1周回転させつつ測定してもよいし、あるいは例えば90°といった所定角度だけ回転させて複数回測定行うことも可能である。
【0065】
なお、試料2と、チップ15Aからチップ16とを軸31周りに相対的に回転させることができれば、試料2を回転させる場合に限定されず、本体部10側を軸31周りに回転させることとしてもよい。なお、本体部10の特にチップ15Aとチップ15Bとチップ16とが少なくとも回転すればよい。
【0066】
<効果>
以上、第三実施形態では、コリメータ12の中心を軸31として、試料2と、チップ15Aからチップ16とを軸周りに相対的に回転させる回転機構を備える。
この構成によれば、回折環を広く測定することができるため、回折線強度の偏りの影響を抑制して測定することができる。
【0067】
<変形例>
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、上述した具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記実施形態及び下記変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0068】
例えば、上記実施形態では、チップ16は、チップ15Aとチップ15Bの中心及びコリメータ12の中心を結ぶ線と直交する方向において距離D2の位置設けられる場合を例として説明したが、直交の関係に限定されない。
【符号の説明】
【0069】
1:X線回折測定装置、2:試料、12:コリメータ、13:基板、15A~15B:チップ(第1検出部)、16:チップ(第2検出部)