(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169127
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】燃料電池の制御方法、及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20241128BHJP
H01M 8/04014 20160101ALI20241128BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20241128BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20241128BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20241128BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20241128BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20241128BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20241128BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04014
H01M8/04537
H01M8/0438
H01M8/04858
H01M8/04313
H01M8/0432
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086344
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 哲史
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB16
5H127BA05
5H127BA13
5H127BA33
5H127BA37
5H127BA41
5H127BA47
5H127BB02
5H127BB27
5H127BB28
5H127CC03
5H127CC11
5H127DB02
5H127DB22
5H127DB43
5H127DB66
5H127DC02
5H127DC12
5H127DC22
5H127DC45
5H127DC72
5H127EE13
5H127EE15
5H127EE20
5H127EE23
(57)【要約】
【課題】改質触媒を有する燃料電池の発電状態を良好に維持するとともに酸化剤ガスを供給する際の消費電力を低減する燃料電池の制御方法、及び燃料電池システムを提供する。
【解決手段】炭化水素を改質して水素を生成する改質触媒を有する第1の燃料電池スタック11のアノードに炭化水素を含む燃料を供給し、第1の燃料電池スタック11のカソードに空気を供給して発電する燃料電池の制御方法であって、第1の燃料電池スタック11の発電量及び発電効率に基づいて第1の燃料電池スタック11の発熱量を算出し、燃料の流量と第1の燃料電池スタック11の燃料利用率に基づいて炭化水素を改質する際の吸熱量を算出し、発熱量と吸熱量との和が0よりも大きくなるように燃料の流量を制御し、制御後の燃料の流量に基づいて空気の流量を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を改質して水素を生成する改質触媒を有する第1の燃料電池のアノードに前記炭化水素を含む燃料を供給し、前記第1の燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給して発電する燃料電池の制御方法であって、
前記第1の燃料電池の発電量及び発電効率に基づいて前記第1の燃料電池の発熱量を算出し、
前記燃料の流量と前記第1の燃料電池の燃料利用率に基づいて前記炭化水素を改質する際の吸熱量を算出し、
前記発熱量と前記吸熱量との和が0よりも大きくなるように前記燃料の流量を制御し、
制御後の前記燃料の流量に基づいて前記酸化剤ガスの流量を制御する燃料電池の制御方法。
【請求項2】
前記第1の燃料電池に接続された負荷を制御して前記第1の燃料電池の出力電圧又は出力電流を制御することで前記発電量を制御する請求項1に記載の燃料電池の制御方法。
【請求項3】
前記酸化剤ガスの流量を制御して前記第1の燃料電池の温度を調整することで前記発電効率を制御する請求項1に記載の燃料電池の制御方法。
【請求項4】
炭化水素を改質して水素を生成する改質触媒を有する第1の燃料電池スタックと、
前記第1の燃料電池スタックのアノードに前記炭化水素を含む燃料を供給する燃料供給部と、
前記第1の燃料電池スタックのカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給部と、
前記燃料供給部及び前記酸化剤ガス供給部を制御する制御部と、を含む燃料電池システムであって、
前記制御部は、
前記第1の燃料電池スタックの発電量及び発電効率に基づいて前記第1の燃料電池スタックの発熱量を算出し、
前記燃料の流量に基づいて前記炭化水素を改質する際の吸熱量を算出し、
前記発熱量と前記吸熱量との和が0よりも大きくなるように前記燃料供給部の前記燃料の流量を制御し、
制御後の前記燃料の流量に基づいて前記酸化剤ガス供給部の前記酸化剤ガスの流量を制御する燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第1の燃料電池スタックに接続された負荷を制御して前記第1の燃料電池スタックの出力電圧又は出力電流を制御することで前記発電量を制御する請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御部は、
前記酸化剤ガスの流量を制御して前記第1の燃料電池スタックの温度を調整することで前記発電効率を制御する請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記酸化剤ガス供給部と前記第1の燃料電池スタックとの間には前記酸化剤ガスを加熱する熱交換器が配置され、
前記制御部は、
前記酸化剤ガスの流量を制御して前記第1の燃料電池スタックの温度を調整することで前記発電効率を制御する請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記改質触媒を含まない第2の燃料電池スタックを含み、
前記燃料供給部は、前記第1の燃料電池スタックのアノード入口に向けて前記燃料を供給し、
前記第1の燃料電池スタックのアノード出口は前記第2の燃料電池スタックのアノード入口に接続され、
前記酸化剤ガス供給部は、前記第2の燃料電池スタックのカソード入口に向けて、前記酸化剤ガスを供給し、
前記第2の燃料電池スタックのカソード出口は、前記第1の燃料電池スタックのカソード入口に接続され、
前記第1の燃料電池スタックの電池セル枚数に対する前記第2の燃料電池スタックの電池セル枚数の比率、又は前記第1の燃料電池スタックの発電反応が行われる領域の面積に対する前記第2の燃料電池スタックの発電反応が行われる領域の面積の比率をxとしたとき、
0.08≦x≦0.33
の関係を満たす請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記第1の燃料電池スタックのアノード出口と前記第2の燃料電池スタックのアノード入口との間には、水蒸気又は二酸化炭素を除去する除去手段が配置されている請求項8に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記除去手段は、前記水蒸気又は前記二酸化炭素を分離する分離膜である請求項9に記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記除去手段は、前記水蒸気を凝集する凝縮器である請求項9に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記第1の燃料電池スタックのカソード出口と前記第2の燃料電池スタックのアノード出口に接続され、前記第1の燃料電池スタックのカソード出口から供給されたカソードオフガスと前記第2の燃料電池スタックのアノード出口から供給されたアノードオフガスとを混合して燃焼する燃焼器と、
前記酸化剤ガス供給部と前記第2の燃料電池スタックの間に配置され、前記燃焼器から排出された燃焼ガスと前記酸化剤ガス供給部から供給された前記酸化剤ガスとの間で熱交換を行う熱交換器と、を含み、
前記熱交換器により加熱された前記酸化剤ガスが前記第1の燃料電池スタック及び前記第2の燃料電池スタックを暖気する場合において、
前記制御部は、
前記熱交換器で加熱された前記酸化剤ガスの温度が前記第1の燃料電池スタック及び前記第2の燃料電池スタックが発電反応を実行可能な下限温度以上となるように前記燃焼ガスの目標温度を設定し、
前記燃焼ガスの温度が前記目標温度となるように前記燃料の流量及び前記酸化剤ガスの流量を制御する請求項8に記載の燃料電池システム。
【請求項13】
前記第1の燃料電池スタックのカソード出口と前記第2の燃料電池スタックのアノード出口に接続され、前記第1の燃料電池スタックのカソード出口から供給されたカソードオフガスと前記第2の燃料電池スタックのアノード出口から供給されたアノードオフガスとを混合して燃焼する燃焼器と、
前記酸化剤ガス供給部と前記第2の燃料電池スタックの間に配置され、前記燃焼器から排出された燃焼ガスと前記酸化剤ガス供給部から供給された前記酸化剤ガスとの間で熱交換を行う熱交換器と、を含み、
前記制御部は、
前記第2の燃料電池スタックの温度が前記第2の燃料電池スタックが発電反応を実行可能な下限温度以上となるように且つ前記第1の燃料電池スタックの温度が所定の上限温度を超えないように前記燃料の流量及び前記酸化剤ガスの流量を制御する請求項8に記載の燃料電池システム。
【請求項14】
前記制御部は、
前記燃焼ガスの温度が前記燃焼器の耐熱上限温度を超えないように前記燃料の流量及び前記酸化剤ガスの流量を制御する請求項12又は請求項13に記載の燃料電池システム。
【請求項15】
前記制御部は、
前記燃焼ガスの温度が前記燃焼器において窒素酸化物の生成を低減する仕様上限温度を超えないように前記燃料の流量及び前記酸化剤ガスの流量を制御する請求項12又は請求項13に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の制御方法、及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、炭化水素を改質して水素を生成する改質触媒を有する第1の燃料電池スタックと、改質触媒を有しない第2の燃料電池スタックが直列に接続され、炭化水素を含む燃料が第1の燃料電池側から供給され、酸化剤ガスが第2の燃料電池側から供給される燃料電池システムにおいて、第1の燃料電池スタックのカソード出口に温度センサを配置し、当該温度センサが検知する温度に基づいて第1の燃料電池スタック及び第2の燃料電池スタックの温度を制御する技術を開示している。当該技術により、スタック内部の最高温度を推定することが可能となり、スタック内部温度過大による劣化を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、温度センサのみで酸化剤ガスの流量を制御した場合当該流量が過大となり、酸化剤ガスを供給する際の消費電力が増加するおそれがある。
【0005】
本発明は、改質触媒を有する燃料電池の発電状態を良好に維持するとともに酸化剤ガスを供給する際の消費電力を低減する燃料電池の制御方法、及び燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による燃料電池の制御方法は、炭化水素を改質して水素を生成する改質触媒を有する第1の燃料電池のアノードに炭化水素を含む燃料を供給し、第1の燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給して発電する燃料電池の制御方法である。この制御方法では、第1の燃料電池の発電量及び発電効率に基づいて第1の燃料電池の発熱量を算出し、燃料の流量と第1の燃料電池の燃料利用率に基づいて炭化水素を改質する際の吸熱量を算出する。そして、発熱量と吸熱量との和が0よりも大きくなるように燃料の流量を制御し、制御後の燃料の流量に基づいて酸化剤ガスの流量を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1の燃料電池スタックにおいて吸熱反応で吸熱する熱量が発電を伴う発熱反応により発熱する熱量を超えない程度の流量の燃料を第1の燃料電池スタックに供給するので、第1の燃料電池スタックの失活を防止しより安定的な発電となることで電流を安定的に取り出して第1の燃料電池スタックの劣化を防止できる。また、酸化剤ガスの流量を改質後の燃料の発電反応に必要な酸素を供給可能となる最小の流量に低減でき、酸化剤ガスを供給する手段の消費電力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態の燃料電池システムのブロック図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の燃料電池システムの制御フロー図である。
【
図3】
図3は、第1の燃料電池スタックの温度分布であって第1の燃料電池スタックに供給する空気の温度を変化させた場合と当該空気の流量を変化させた場合を示す。
【
図4】
図4は、第1の燃料電池スタックのIV特性であって、第1の燃料電池スタックの発電効率を回復させる場合を説明するための図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態の燃料電池システムのブロック図である。
【
図6】
図6は、第1の燃料電池スタックと第2の燃料電池スタックの合計の発熱量を一定とし、燃料利用率を75[%]、発電効率を70[%]とした場合において、第1の燃料電池スタックの電池セル枚数(X
1)に対する第2の燃料電池スタックの電池セル枚数(X
2)の割合(X
2/X
1)を変化させたときの、第1の燃料電池スタック及び第2の燃料電池スタックのそれぞれの発熱量の分布である。
【
図7】
図7は、第1の燃料電池スタックと第2の燃料電池スタックの合計の発熱量を一定とし、燃料利用率を94[%]、発電効率を70[%]とした場合において、第1の燃料電池スタックの電池セル枚数(X
1)に対する第2の燃料電池スタックの電池セル枚数(X
2)の割合(X
2/X
1)を変化させたときの、第1の燃料電池スタック及び第2の燃料電池スタックのそれぞれの発熱量の分布である。
【
図8】
図8は、第1の燃料電池スタックと第2の燃料電池スタックの合計の発熱量を一定とし、燃料利用率を75[%]、発電効率を60[%]とした場合において、第1の燃料電池スタックの電池セル枚数(X
1)に対する第2の燃料電池スタックの電池セル枚数(X
2)の割合(X
2/X
1)を変化させたときの、第1の燃料電池スタック及び第2の燃料電池スタックのそれぞれの発熱量の分布である。
【
図9】
図9は、第1の燃料電池スタックと第2の燃料電池スタックの合計の発熱量を一定とし、燃料利用率を94[%]、発電効率を60[%]とした場合において、第1の燃料電池スタックの電池セル枚数(X
1)に対する第2の燃料電池スタックの電池セル枚数(X
2)の割合(X
2/X
1)を変化させたときの、第1の燃料電池スタック及び第2の燃料電池スタックのそれぞれの発熱量の分布である。
【
図10】
図10は、第1の燃料電池スタック及び第2の燃料電池スタックの温度分布であって第2の燃料電池スタックに供給する空気の温度を変化させた場合と当該空気の流量を変化させた場合を示す。
【
図11】
図11は、第3実施形態の燃料電池システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の燃料電池システムのブロック図である。
【0011】
図1に示すように、第1実施形態の燃料電池システムは、第1の燃料電池スタック11(STK11)に対して燃料を供給する燃料供給系統と、第1の燃料電池スタック11に対して空気(酸化剤ガス)を供給する空気供給系統と、第1の燃料電池スタック11から排出されたアノードオフガスとカソードオフガスを混合して燃料する燃焼系統(燃焼器4、燃焼ガス通路41)と、第1の燃料電池スタック11から電力を取り出す電力系統と、システム全体を制御する制御系統を有し、主に車両(電動車両)に搭載される。
【0012】
燃料供給系統は、燃料タンク21(TANK)、インジェクタ23(INJ)を含む。空気供給系統は、ブロワ32(BLW)、熱交換器33(HEX)を含む。燃焼系統は燃焼器4(CMB)、燃焼ガス通路41を含む。
【0013】
電力系統は、DC/DCコンバータ61(COMV)、バッテリ62(BATT)、駆動モータ63(M)を含む。制御系統は、システム全体を制御する制御部7(CONT)を含む。
【0014】
第1の燃料電池スタック11は、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)であり、セラミック等の固体酸化物で形成された電解質層を備え、アノードガス(改質ガス)が供給されるアノード(燃料極)と、カソードガス(酸化剤ガス)として酸素を含む空気が供給されるカソード(空気極)により挟み込んで得られる電池セルを積層したものである。なお、本実施形態では、第1の燃料電池スタック11(及び後述の第2の燃料電池スタック12)は電池セルを積層したスタック構造を前提としているが、電池セルを積層させずに1つの電池セルにより構築してもよい、
【0015】
ここで、アノードとは、第1の燃料電池スタック11(及び第2の燃料電池スタック12)において、アノード電極のみならず、アノード電極にアノードガスを供給する内部流路、及びアノード電極で反応後のアノードオフガスを排出させる内部流路も含むものとする。同様に、カソードとは、第1の燃料電池スタック11(及び第2の燃料電池スタック12)において、カソード電極のみならず、カソード電極にカソードガスを供給する内部流路、及びカソード電極で反応後のカソードオフガスを排出させる内部流路も含むものとする。第1の燃料電池スタック11(及び第2の燃料電池スタック12)を構成する複数の電池セルは、アノード及びカソードに対して並列に接続されるが、電気的には直列に接続される。
【0016】
また、第1の燃料電池スタック11には、燃料を改質可能な改質触媒が配置されている。第1の燃料電池スタック11は、燃料を水素を包含するアノードガス(改質燃料)に改質し、改質したアノードガスと空気に含まれる酸素により発電する。よって、第1の燃料電池スタック11では、発電を伴う発熱反応と改質に伴う吸熱反応が発生する。
【0017】
なお、後述の第2実施形態において、第1の燃料電池スタック11は、改質により生成したアノードガスであって第1の燃料電池スタック11の発電反応で消費しなかった分を第2の燃料電池スタック12に供給する。第1の燃料電池スタック11において、燃料の流通方向と空気の流通方向は互いに逆向きとなっている。
【0018】
燃料供給系統において、燃料タンク21は、例えばメタン(炭化水素)、又はメタンを主成分とする天然ガスからなる燃料(ガス)を高圧で蓄えるものであり、インジェクタ23に対して燃料を改質用燃料として供給する。
【0019】
燃料供給系統は、燃料タンク21からインジェクタ23を介して燃料を第1の燃料電池スタック11のアノードに供給する燃料流路22を有する。
【0020】
インジェクタ23は、燃料が圧入されるノズルボディ(不図示)と、ノズルボディの先端にある燃料噴射孔(不図示)を閉止する方向に付勢されたプランジャロッド(不図示)と、プランジャロッドを当該付勢の方向とは逆方向に移動させるソレノイド(不図示)を備える。
【0021】
インジェクタ23において、ソレノイドに指令信号(電流)を印加することでソレノイドがプランジャロッドを当該逆方向に移動させるように駆動し、これによりプランジャロッドが燃料噴射孔を開放して燃料を噴射する。また、指令信号(電流)を停止することでソレノイドの駆動を停止させ、プランジャロッドが付勢力により移動して燃料噴射孔を閉止して燃料の噴射を停止させる。
【0022】
インジェクタ23において、燃料噴射孔の開放・閉止のデューティー比は、指令信号(電流)のオン・オフのデューティー比に依存する。よって、インジェクタ23は、指令信号(電流)のデューティー比を調整することで噴射する燃料の流量を調整することができる。
【0023】
空気供給系統は、空気(酸化剤ガス)を第1の燃料電池スタック11のカソードに供給する空気流路31を有する。そして、この空気流路31に上流からブロワ32、熱交換器33が配置されている。
【0024】
ブロワ32(酸化剤ガス供給部)は、外気を取り入れて空気(酸化剤ガス)を空気流路31に供給するものである。
【0025】
熱交換器33は、空気流路31を介して第1の燃料電池スタック11のカソードに連通しており、空気を燃焼器4から排出された燃焼ガスにより熱交換(加熱)して第1の燃料電池スタック11のカソードに供給するものである。なお、熱交換後の燃焼ガスは燃焼ガス通路41を通じて外部に排出される。
【0026】
燃焼系統において、燃焼器4は、第1の燃料電池スタック11のアノード出口とカソード出口に連通している。燃焼器4にはアノードオフガスとカソードオフガスとの混合ガスが導入される。燃焼器4は当該混合ガスを触媒燃焼して燃焼ガスを生成する。燃焼器4には、前記の触媒燃焼を行うための燃焼触媒(不図示)と、燃料が燃焼可能な温度になるまで燃焼触媒(不図示)を昇温するヒータ(不図示)と、を備える。また、燃焼器4には、燃料供給系統(燃料流路22)から分岐したインジェクタ(不図示)から燃料供給を受けることもできる。本実施形態では、燃焼器4における燃焼ガスの生成量を制御することで、熱交換器33における空気の熱交換量を制御している。
【0027】
温度センサ51は、第1の燃料電池スタック11のカソード入口の温度を検出するものである。
【0028】
流量センサ52は、ブロワ32が取り込む空気(カソードガス)の流量を検出するものである。
【0029】
第1電圧センサ53は、第1の燃料電池スタック11の出力電圧を検出するものである。
【0030】
電流センサ55は、直列接続された第1の燃料電池スタック11とDC/DCコンバータ61との間を流れる出力電流を検出するものである。
【0031】
DC/DCコンバータ61は、第1燃料電池スタックの11に接続され、第1の燃料電池スタック11の出力電圧を昇圧してバッテリ62又は駆動モータ63に電力を供給するものである。
【0032】
バッテリ62は、DC/DCコンバータ61から供給された電力を充電するとともに、駆動モータ63に電力を供給することができる。
【0033】
駆動モータ63は、インバータ(不図示)を介してバッテリ62及びDC/DCコンバータ61に接続され、車両の動力源となっている。また、駆動モータ63は、車両の減速時において、駆動モータ63は回生電力を発生させるが、これをバッテリ62に充電させることができる。
【0034】
制御部7は、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、CPUを含む汎用の電子回路と周辺機器から構成され、特定のプログラムを実行することにより燃料電池システムを制御するための処理を実行する。
【0035】
第1実施形態の燃料電池システムの起動は、まず制御部7が燃焼器4で生成される燃焼ガスの目標温度であって、熱交換器33で当該燃焼ガスにより加熱された空気の温度が第1の燃料電池スタック11(及び後述の第2の燃料電池スタック12)が発電反応が可能となる下限温度以上となる目標温度を設定し、燃焼ガスの温度が当該目標温度となるようにインジェクタ23及びブロワ32の出力を設定する。すると、燃焼ガスの温度を目標温度とするための流量の燃料及び空気が第1の燃料電池スタック11を通じて燃焼器4に供給され、燃焼器4で燃料と空気を混合して燃焼ガスが生成される。次に、目標温度で燃焼する燃焼ガスを熱交換器33に供給することで空気と燃焼ガスとの熱交換を行い、加熱された空気を第1の燃料電池スタック11に供給することで第1の燃料電池スタック11(及び後述の第2の燃料電池スタック12)を暖気する。
【0036】
そして制御部7は、第1の燃料電池スタック11の温度(カソード入口の温度)が、発電反応が可能となる下限温度に到達すると、DC/DCコンバータ61を起動して発電を開始し、燃料及び空気の流量を発電時に必要となる流量に制御する。ここで、第1の燃料電池スタック11で燃料(メタン)を改質可能となる下限温度は、発電反応が可能となる下限温度よりも低い。よって、第1の燃料電池スタック11の温度が、発電反応が可能となる下限温度に到達する前に改質反応が始まり、改質後の燃料(水素)が燃焼器4で燃焼されている。
【0037】
なお、制御部7は、燃焼器4で生成される燃焼ガスの温度が燃焼器4の耐熱上限温度を超えないように、また窒素酸化物の生成を低減する仕様上限温度(耐熱上限温度よりも低い温度)を超えないように、インジェクタ23の出力(又はインジェクタ23とは別のインジェクタであって燃料タンク21から燃焼器4に直接燃料を供給するインジェクタの出力)、ブロワ32の出力を制御する。
【0038】
例えば、熱交換器33で加熱された空気の温度(温度センサ51が検知する温度)及び空気の流量(ブロワ32の出力、又は流量センサ52が検知する空気の流量)と燃焼ガスの温度との関係を示すマップを予め生成し、当該マップに温度センサ51が検知する温度とブロワ32の出力を入力して燃焼ガスの温度を推定し、当該燃焼ガスの温度が耐熱上限温度又は仕様上限温度を超えない様にインジェクタ23の出力、ブロワ32の出力を制御する。
【0039】
制御部7は、DC/DCコンバータ61の取り出し電流(取り出し電圧)をインジェクタ23の出力(燃料の流量)に基づいて制御することで、第1の燃料電池スタック11から排出される未燃の燃料の流量が所定の流量を超えないように制御することもできる。
【0040】
第1の燃料電池スタック11では、発電を伴う発熱反応と燃料を改質する改質反応(吸熱反応)が発生する。
【0041】
例えば、改質前の燃料となるメタンを第1の燃料電池スタック11に1モル供給して改質し、第1の燃料電池スタック11において改質して得られた水素を1モル用いて発熱(発電)する場合を考える。この場合、吸熱反応(改質反応)はCH4+2H2O→CO2+4H2-165[kJ]となる。一方、発熱反応はH2+(1/2)O2→H2O+482[kJ]であるが、例えば発電効率が50[%]の場合、発熱量の半分が電力として取り出されることになるので、正味の発熱量は241[kJ]となる。よって、正味の発熱量から吸熱量を差し引くと241-165=+76[kJ]となって発熱反応が吸熱反応よりも優位となり、第1の燃料電池スタック11において発電反応を維持できる。一方、発電効率を80[%]とすると385[kJ]が電力として取り出されることになるので、正味の発熱量は482-385=97[kJ]となる。よって、正味の発熱量から吸熱量を差し引くと97-165=-68[kJ]となって吸熱反応が発熱反応よりも優位となり、第1の燃料電池スタック11が失活(発電不能)するおそれがある。
【0042】
また、改質前の燃料となるメタンを第1の燃料電池スタック11に2モル供給して改質し、第1の燃料電池スタック11において改質して得られた水素を1モル用いて発熱(発電)する場合を考える。発電効率を50[%]とした場合、正味の発熱量から吸熱量を差し引くと241―(165)×2=-89[kJ]となって吸熱反応が発熱反応よりも優位となり、第1の燃料電池スタック11の温度が低下し失活するおそれがある。
【0043】
そこで制御部7は、第1の燃料電池スタック11が失活しないように、インジェクタ23の流量、ブロワ32の出力、DC/DCコンバータ61の取り出し電流(第1の燃料電池スタック11の発電量)を制御し、その上でブロワ32の出力が最小となるように制御する。
【0044】
[制御フロー]
図2は、第1実施形態の燃料電池システムの制御フロー図である。ステップS201において、制御部7は、第1の燃料電池スタック11の発電量[kW]を算出する。第1の燃料電池スタック11の発電量[kW]は、電流センサ55が検知する電流値[A]と第1電圧センサ53が検知する電圧値[V]との積として算出する。
【0045】
ステップS202において、制御部7は、第1の燃料電池スタック11の発電量[kW]と発電効率[%]に基づいて第1の燃料電池スタック11の発熱量[kW]を算出する。
【0046】
ここで、発熱量[kW]は、発電量[kW]×(1-発電効率[%])/発電効率[%]により算出する。また、発電効率[%]は例えば第1電圧センサ53が検知する電圧値[V]を第1の燃料電池スタック11の解放電圧で除算することにより得られる。
【0047】
ステップS203において、制御部7は、燃料の流量(インジェクタ23の出力)に基づいて第1の燃料電池スタック11における燃料改質時の吸熱量[kW]を算出する。
【0048】
ステップS204において、制御部7は、発熱量+吸熱量>0となるように燃料の流量を調整する。ここで、第1の燃料電池スタック11において供給された燃料(メタン)はすべて水素に改質されることを前提とする。改質反応において1モルのメタンが4モルの水素に改質されるが、当該水素のうち所定の燃料利用率分だけが第1の燃料電池スタック11で発熱反応(発電反応)により消費される。
【0049】
よって、発熱量+吸熱量>0となる水素の流量[mol/sec]を算出し、燃料(メタン)の流量[mol/sec]を水素の流量[mol/sec]/燃料利用率[%]/4により算出する。
【0050】
ここで、燃料利用率[%]は、供給された燃料のうち発電に用いられた燃料の割合であり、第1の燃料電池スタック11の取り出し電流を変化させることで変化させることができる。なお、燃料利用率[%]の最大値は、例えば第1の燃料電池スタック11において最大電力(IV特性において電流と電圧の積が最大となる動作点)を取り出すときであり、75[%]である。
【0051】
第1の燃料電池スタック11では、吸熱反応のほかに、空気(カソードガス)との熱交換による第1の放熱量、第1の燃料電池スタック11本体による外部への第2に放熱量があるので、発熱量+吸熱量+第1の放熱量+第2の放熱量>0となるように燃料の流量を設定する必要がある。第1の放熱量及び第2の放熱量は第1の燃料電池スタック11及びこれを含む燃料電池システムの仕様に基づいて実験により予め定めることができる。
【0052】
ステップS205において、制御部7は、調整後の燃料の流量(インジェクタ23の出力)に基づいて空気の流量(ブロワ32の出力)を調整する。前記のように1モルの燃料(メタン)を改質すると4モルの水素が生成される。また、発熱反応(発電反応)においてアノードの水素(H2)1モルが必要とする酸素(O2)は1/2モルである。よって、空気の流量[mol/sec]は、燃料の流量[mol/sec]×4×燃料利用率[%]×(1/2)×(1/空気中の酸素の組成比)により定めることができる。
【0053】
[第1の燃料電池スタック11の温度分布]
図3は、第1の燃料電池スタック11の温度分布であって第1の燃料電池スタック11に供給する空気の温度を変化させた場合と当該空気の流量を変化させた場合を示す。
【0054】
図3の上段に示すように、ブロワ32が供給する空気は外気温であり、そのまま第1の燃料電池スタック11に供給すると第1の燃料電池スタック11を暖気できない。そこで、第1の燃料電池スタック11のアノードから排出されるアノードオフガスとカソードから排出されるカソードオフガスを燃焼器4で燃焼して燃焼ガスを生成し、燃焼ガスを熱交換器33に供給する。そして、ブロワ32から供給された空気を熱交換器33において熱交換し、高温となった空気を第1の燃料電池スタック11に供給して第1の燃料電池スタック11を暖気し、暖気後の第1の燃料電池スタック11を発電させる。
【0055】
第1の燃料電池スタック11は、供給された空気と熱交換をするため、その分温度が低下する。一方、第1の燃料電池スタック11(カソード)に供給された空気は第1の燃料電池スタック11内を下流側に進行するほど熱交換が進むため温度が上昇する。よって、第1の燃料電池スタック11は、下流側に向かうほど空気との温度差が小さくなるので、空気との熱交換量も小さくなる。
【0056】
従って、
図3に示すように、第1の燃料電池スタック11の温度分布は、結果的に第1の燃料電池スタック11に供給された空気の温度分布と同様となり下流側に向かうにつれて単調に増加する。
【0057】
ここで、第1の燃料電池スタック11に供給する前の空気の温度を上昇させると第1の燃料電池スタック11の温度が全体的に高温側に平行移動し、逆に空気の温度を低下させると第1の燃料電池スタック11の温度が全体的に低温側に平行移動する。
【0058】
空気の温度を変化させるためには、インジェクタ23とは異なるインジェクタ(不図示)を燃焼器4に配置し、燃料タンク21から燃焼器4に燃料を供給して当該燃料を燃焼器4で燃焼させて燃焼ガスの流量(温度)を変化させることで、熱交換器33における熱交換量を変化させる。又は、第1の燃料電池スタック11の発電量を変化させて、残余の燃料(改質後の燃料)が燃焼器4に向かう流量を変化させ、当該燃料を燃焼器4で燃焼させて燃焼ガスの流量(温度)を変化させることで、熱交換器33における熱交換量を変化させればよい。いずれの場合も燃焼器4で燃焼させる燃料の流量を増加させると空気の温度は上昇し、逆に当該燃料の流量を減少させると空気の温度は低下する。
【0059】
一方、空気の流量(ブロワ32の出力)を減少させると、空気の顕熱が減少するので熱交換器33から排出される空気の温度が上昇し、これにより第1の燃料電池スタック11のカソード入口の温度が上昇する。さらに、前記のように空気の顕熱が減少するので、第1の燃料電池スタック11の空気の流通方向における空気の温度勾配が急になり、結果的に第1の燃料電池スタック11の空気の流通方向における第1の燃料電池スタック11の温度勾配も急になる。
【0060】
逆に空気の流量(ブロワ32の出力)を増加させると、空気の顕熱が増加するので熱交換器33から排出される空気の温度が減少し、これにより第1の燃料電池スタック11のカソード入口の温度が低下する。さらに、前記のように空気の顕熱が増加するので、第1の燃料電池スタック11の空気の流通方向における空気の温度勾配が緩やかになり、結果的に第1の燃料電池スタック11の空気の流通方向における第1の燃料電池スタック11の温度勾配も緩やかになる。
【0061】
第1の燃料電池スタック11(及び後述の第2の燃料電池スタック12)には発電反応を安定的に行うための下限温度(Tmin)と、熱ダメージを回避するための上限温度(Tmax)が設定されている。
【0062】
第1実施形態では、
図3の中段及び下段に示された温度分布をマップとして取得する。
【0063】
第1実施形態は、ブロワ32の出力(消費電力)を低減することを目的としているが、制御部7は、第1の燃料電池スタック11のカソード入口の温度(T1in)(温度センサ51が検知する温度)が下限温度(Tmin)よりも低くならず、且つ第1の燃料電池スタック11のカソード出口の温度(T1out)が上限温度(Tmax)を超えないように、ブロワ32の出力、燃焼器4における燃料の燃焼量(第1の燃料電池スタック11の発電量)を前記のマップに基づいて制御することができる。なお、第1の燃料電池スタック11のカソード出口にも温度センサを配置し、当該温度センサが検知する温度(T1out)が上限温度(Tmax)を超えないように、ブロワ32の出力、燃焼器4における燃料の燃焼量(第1の燃料電池スタック11での発電量)を前記のマップに基づいて制御してもよい。
【0064】
[第1の燃料電池スタック11のIV特性]
図4は、第1の燃料電池スタック11のIV特性であって、第1の燃料電池スタック11の発電効率を回復させる場合を説明するための図である。燃料電池では、取り出し電圧が燃料電池の劣化を抑制する下限の電圧となる下限電圧(Vmin)以上となるように取り出し電流を制御している。また、IV特性は燃料電池の温度が上昇すると改善する。そこで、例えば第1の燃料電池スタック11のIV特性が
図4の「a」の特性を有する場合であって、取り出し電流を「I1」とし、取り出し電圧を「Vmin」により発電していた場合、取り出し電流を「I1」よりも低い「I2」に設定し、取り出し電圧を「Vmin」よりも高い「V1」に設定して発電量を減少させる。これにより、前記のように第1の燃料電池スタック11で消費されなかった残余の燃料の流量が増加し、これが燃焼器4に供給されて燃焼ガスの流量(温度)が上昇する。
【0065】
よって、ブロワ32から供給された空気の熱交換器33における熱交換量が増加し、第1の燃料電池スタック11のカソード入口の温度が上昇し、結果的に
図3の中段に示すように第1の燃料電池スタック11の温度特性が高温側にシフトする。これに伴い、
図4に示すように第1の燃料電池スタック11のIV特性が例えば「a」から「c」に改善すると、取り出し電圧が「V1」よりも値の高い「V2」となる。この状態で、取り出し電圧を「V2」から「Vmin」に戻すと、取り出し電流は「I1」よりも値の高い「I3」となる。
【0066】
よって、第1の燃料電池スタック11のIV特性が劣化した場合は、一時的に発電量を低下させて燃焼器4で燃焼させる燃料の流量を増加させることでIV特性を改善させることができる。
【0067】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態の燃料電池システムのブロック図である。第2実施形態の燃料電池システムでは、第1の燃料電池スタック11(STK1)に第2の燃料電池スタック12(STK2)が接続されている。
【0068】
第2の燃料電池スタック12は、第1の燃料電池スタック11と同様に固体酸化物形燃料電池であるが、燃料を改質する改質触媒を有しないものである。
【0069】
第2の燃料電池スタック12のアノード入口は第1の燃料電池スタック11のアノード出口に接続され、第2の燃料電池スタック12のアノード出口は燃焼器4に連通している。
【0070】
第2の燃料電池スタック12のカソード入口は熱交換器33に連通し、第2の燃料電池スタック12のカソード出口は第1の燃料電池スタック11のカソード入口に接続されている。
【0071】
温度センサ51は、第2の燃料電池スタック12のカソード入口の温度を測定する。
【0072】
第1の燃料電池スタック11と第2の燃料電池スタック12は電気的には直列に接続され、DC/DCコンバータ61、第1の燃料電池スタック11、第2の燃料電池スタック12で閉回路を形成している。
【0073】
第2電圧センサ54は、第2の燃料電池スタック12の電圧を検知する。
【0074】
第2実施形態の燃料電池システムの起動は、第1実施形態と同様であるが、第2の燃料電池スタック12の温度(カソード入口の温度)が、発電反応が可能となる下限温度に到達するとDC/DCコンバータ61を起動して発電を開始する。
【0075】
[第2の燃料電池スタックの燃料利用率と電池セル枚数]
第2の燃料電池スタック12は、第1の燃料電池スタック11で生成された改質後の燃料(水素)であって第1の燃料電池スタック11で消費されなかった燃料を用いて発電する。よって、第2の燃料電池スタック12は、第1の燃料電池スタック11から供給される燃料を消費するために必要な最小限の電池セル枚数(電池セルの発電反応を行う領域の面積)有すればよい。
【0076】
ここで、第1の燃料電池スタック11の燃料利用率をU
f1とし、第2の燃料電池スタック12の燃料利用率をU
f2とし、第1の燃料電池スタック11に供給される燃料(改質前の燃料)の流量をF
0とし、第1の燃料電池スタック11から第2の燃料電池スタック12に供給される燃料(改質後の燃料)の流量をF
1とし、第2の燃料電池スタック12から排出される燃料(改質後の燃料)の流量をF
2とすると、以下の(1)式、(2)式の関係を有する。
【数1】
【数2】
【0077】
第1の燃料電池スタック11、第2の燃料電池スタック12、DC/DCコンバータ61からなる閉回路に流れる電流をIとし、第1の燃料電池スタック11の電池セル枚数(電池セルの発電反応を行う領域の面積(有効面積))をX
1とし、第2の燃料電池スタック12の電池セル枚数(有効面積)をX
2とすると以下の(3)式、(4)式の関係を有する。
【数3】
【数4】
【0078】
ここで、Fはファラデー定数(電気素量とアボガドロ数の積)である。
【0079】
また、第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12で消費された燃料使用量(F
0-F
2)は、以下の(5)式となる。
【数5】
【0080】
(1)式、(3)式、(4)式から燃料利用率と発電セル枚数(有効面積)の関係は以下の(6)式となる。
【数6】
【0081】
(1)式、(2)式により、F
2は以下の(7)式の関係を有する。
【数7】
【0082】
第1の燃料電池スタック11と第2の燃料電池スタック12とを直列に接続したシステム全体が目標とする燃料利用率をU
fsとすると、U
fsは(7)式により以下の(8)式となる。
【数8】
【0083】
(6)式、(8)式により、第2の燃料電池スタック12の電池セル枚数(有効面積)X
2は、以下の(9)式となる。
【数9】
【0084】
また(8)式により、第2の燃料電池スタック12の燃料利用率U
f2は、以下の(10)式となる。
【数10】
【0085】
よって、第1の燃料電池スタック11の燃料利用率(Uf1)及び電池セル枚数(有効面積)(X1)、及びシステム全体が目標とする燃料利用率(Ufs)から第2の燃料電池スタック12の燃料利用率(Uf2)及び電池セル枚数(有効面積)(X2)を設定できる。
【0086】
[発電効率及び燃料利用率とシステム全体の発熱量との関係]
図6は、第1の燃料電池スタック11と第2の燃料電池スタック12の合計の発熱量を一定とし、燃料利用率を75[%]、発電効率を70[%]とした場合において、第1の燃料電池スタック11の電池セル枚数(X
1)に対する第2の燃料電池スタック12の電池セル枚数(X
2)の割合(X
2/X
1)を変化させたときの、第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12のそれぞれの発熱量の分布である。
【0087】
図7は、第1の燃料電池スタック11と第2の燃料電池スタック12の合計の発熱量を一定とし、燃料利用率を94[%]、発電効率を70[%]とした場合において、第1の燃料電池スタック11の電池セル枚数(X
1)に対する第2の燃料電池スタック12の電池セル枚数(X
2)の割合(X
2/X
1)を変化させたときの、第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12のそれぞれの発熱量の分布である。
【0088】
図8は、第1の燃料電池スタック11と第2の燃料電池スタック12の合計の発熱量を一定とし、燃料利用率を75[%]、発電効率を60[%]とした場合において、第1の燃料電池スタック11の電池セル枚数(X
1)に対する第2の燃料電池スタック12の電池セル枚数(X
2)の割合(X
2/X
1)を変化させたときの、第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12のそれぞれの発熱量の分布である。
【0089】
図9は、第1の燃料電池スタック11と第2の燃料電池スタック12の合計の発熱量を一定とし、燃料利用率を94[%]、発電効率を60[%]とした場合において、第1の燃料電池スタック11の電池セル枚数(X
1)に対する第2の燃料電池スタック12の電池セル枚数(X
2)の割合(X
2/X
1)を変化させたときの、第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12のそれぞれの発熱量の分布である。
【0090】
前記のように、1段の燃料電池(第1の燃料電池スタック11)に係る燃料電池システムの燃料利用率の上限値は75[%]である。一方、2段の燃料電池(第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12)に係る燃料電池システムの場合、燃料利用率の上限値は(8)式により約94[%]となる。この場合、後段の燃焼器4に燃料を供給することを考慮して燃料利用率を上限値よりも低く設定できるが、1段の燃料電池システムの場合よりも効率的な発電を行うことを考慮して、燃料利用率の下限値は1段の燃料電池システムの上限値(75[%])に設定することが好適である。
【0091】
固体酸化物形燃料電池の運転温度(例えばカソード入口の温度とカソード出口の温度の平均)を例えば600~700[℃]に設定すると、解放電圧(Vopen)は1.1~1.2[V]であり、燃料電池の劣化を抑制する下限の電圧となる下限電圧(Vmin)は0.7[V]となる。この場合の燃料電池の発電効率は60[%]~70[%]に設定される。
【0092】
そこで、本願発明者は、第1の燃料電池スタック11と第2の燃料電池スタック12の合計の発熱量(発電量)を一定とした場合において、第1の燃料電池スタック11の電池セル枚数(有効面積)(X1)に対する第2の燃料電池スタック12の電池セル枚数(有効面積)(X2)の割合(x=X2/X1)を変化させたときの、第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12のそれぞれの発熱量の分布を調査した。
【0093】
調査の前提として、第1の燃料電池スタック11では、電池セル枚数(有効面積)(X1)に関わらず燃料タンク21から供給された燃料(メタン)はすべて燃料(水素)に改質するとした。また、改質後の燃料のうち燃料利用率(Uf1)の分だけ発熱反応(発電反応)に用いるとした。また、前記の発熱反応で得られる発熱量のうち発電効率の分だけ電力として取り出し、残りの発熱量からさらに改質時の吸熱量(一定)を差し引くことで正味の発熱量とした。
【0094】
また、第2の燃料電池スタック12では、第1の燃料電池スタック11から供給された燃料のうち燃料利用率(Uf2)の分だけ発熱反応(発電反応)に用いるとした。また、前記の発熱反応で得られる発熱量のうち発電効率の分だけ電力として取り出し、残りの発熱量を正味の発熱量とした。
【0095】
そして、2段の燃料電池(第1の燃料電池スタック11、第2の燃料電池スタック12)の発電効率と燃料利用率の組み合わせ(発電効率[%]、燃料利用率[%])を(70[%],75[%])(
図6)、(70[%],94[%])(
図7)、(60[%],75[%])(
図8)、(60[%],94[%])(
図9)とした。
【0096】
図6-
図9において、X
2/X
1=0のときは、第2の燃料電池スタック12が存在せず、第1の燃料電池スタック11のみで構成された燃料電池システムと同義であり、第1の燃料電池スタック11の発熱量(STK1)がシステム全体の発熱量(TOTAL)となっている。
【0097】
そして、X2/X1がゼロよりも大きくなると、第2の燃料電池スタック12の発熱量(STK2)はゼロから単調に増加し、第1の燃料電池スタック11の発熱量(STK1)は単調に減少するが、システム全体の発熱量(TOTAL)は一定である。
【0098】
そして、X
2/X
1が所定値になると第1の燃料電池スタック11の発熱量(STK1)と第2の燃料電池スタック12の発熱量(STK2)が一致する。所定値は
図6において0.08であり、
図7では0.19であり、
図8では0.22となり、
図9では0.33となる。
【0099】
さらに、X2/X1が所定値を超えると第2の燃料電池スタック12の発熱量(STK2)が第1の燃料電池スタック11の発熱量(STK1)よりも大きくなる。なお、第1の燃料電池スタック11の発熱量(STK1)はさらに単調に減少して負の値となるが、システム全体の発熱量(TOTAL)は一定である。
【0100】
ここで、第1の燃料電池スタック11は第2の燃料電池スタック12から空気が供給されるので、システム全体において第1の燃料電池スタック11のカソード出口が最も高い温度となるが、当該カソード出口の温度が上限温度(Tmax)を超えないように供給する空気の流量は、第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12のうち発熱量の大きいほうの発熱量に基づいて設定すればよい。
【0101】
よって、ブロワ32の出力は、
図6-
図9に示す曲線(MAX)に基づいて設定することができるが、
図6に示す曲線(MAX)は所定値(0.08)において最小値(極小値)となり、
図7に示す曲線(MAX)は所定値(0.19)において最小値(極小値)となり、
図8に示す曲線(MAX)は所定値(0.22)において最小値(極小値)となり、
図9に示す曲線(MAX)は所定値(0.33)において最小値(極小値)となっている。
【0102】
前記のように2段の燃料電池システムにおける燃料利用率は75[%]~94[%]の範囲で設定可能であり、固体酸化物形燃料電池の発電効率は60[%]~70[%]に設定される。従って、第1の燃料電池スタック11の発電セル枚数(有効面積)(X1)に対する第2の燃料電池スタック12の発電セル枚数(有効面積)(X2)の割合(X2/X1)を0.08≦X2/X1≦0.33の範囲に設定することで、空気の供給量、すなわちブロワ32の出力を小さく設定できるので、システムの効率(出力/消費電力)を向上させることができる。
【0103】
そして、割合(X
2/X
1)を0.08≦X
2/X
1≦0.33の範囲に設定することで、実質的に第1の燃料電池スタック11の発熱量(及び吸熱量)に着目して空気の流量を調整すればよいので、実質的に第1実施形態と同様の制御フロー(
図2)により空気の流量を調整可能となる。
【0104】
[第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12の温度分布]
図10は、第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12の温度分布であって第2の燃料電池スタック12に供給する空気の温度を変化させた場合と当該空気の流量を変化させた場合を示す。
【0105】
第1実施形態と同様に、第1の燃料電池スタック11と第2の燃料電池スタック12の温度分布は、熱交換器33から供給される空気の温度分布と同様となる。
【0106】
第2の燃料電池スタック12のカソード入口の温度は熱交換器33で加熱された空気の温度に略一致する。
【0107】
第2の燃料電池スタック12の温度分布はカソード入口からカソード出口に向けて単調に増加する。
【0108】
第1の燃料電池スタック11のカソード出口の温度は第2の燃料電池スタック12のカソード出口の温度に略一致する。
【0109】
第1の燃料電池スタック11の温度分布はカソード入口からカソード出口に向けて単調に増加する。
【0110】
第2の燃料電池スタック12では第1の燃料電池スタック11で行われる改質反応(吸熱反応)は発生しない。よって、第1の燃料電池スタック11のカソードの流路長と第2の燃料電池スタック12のカソードの流路長が同じ場合、第2の燃料電池スタック12のカソード入口からカソード出口に向かう方向の温度勾配は、第1の燃料電池スタック11のカソード入口からカソード出口に向かう方向の温度勾配よりも急となる。
【0111】
ここで、第2の燃料電池スタック12に供給する前の空気の温度(熱交換器33のに供給する燃焼ガスの流量)を上昇させると第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12の温度が全体的に高温側に平行移動し、逆に空気の温度を低下させると第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12の温度が全体的に低温側に平行移動する。
【0112】
一方、空気の流量(ブロワ32の出力)を減少させると、空気の顕熱が減少するので熱交換器33から排出される空気の温度が上昇することで第2の燃料電池スタック12のカソード入口の温度が上昇する。さらに、前記のように空気の顕熱が減少するので、第2の燃料電池スタック12の空気の流通方向における空気の温度勾配が急になり第2の燃料電池スタック12のカソード出口の温度、すなわち第1の燃料電池スタック11のカソード入口の温度が上昇する。さらに、第1の燃料電池スタック11の空気の流通方向における第1の燃料電池スタック11の温度勾配も急になり、第1の燃料電池スタック11のカソード出口の温度が上昇する。
【0113】
逆に空気の流量(ブロワ32の出力)を増加させると、空気の顕熱が増加するので熱交換器33から排出される空気の温度が低下することで第2の燃料電池スタック12のカソード入口の温度が低下する。さらに、前記のように空気の顕熱が増加するので、第2の燃料電池スタック12の空気の流通方向における空気の温度勾配が緩やかになり第2の燃料電池スタック12のカソード出口の温度、すなわち第1の燃料電池スタック11のカソード入口の温度が低下する。さらに、第1の燃料電池スタック11の空気の流通方向における第1の燃料電池スタック11の温度勾配も緩やかになり、第1の燃料電池スタック11のカソード出口の温度が低下する。
【0114】
第2実施形態では、
図10の中段及び下段に示された温度分布をマップとして取得する。
【0115】
第2実施形態も、ブロワ32の出力(消費電力)を低減することを目的としているが、第2の燃料電池スタック12のカソード入口の温度(T2in)(温度センサ51が検知する温度)が下限温度(Tmin)よりも低くならず、且つ第1の燃料電池スタック11のカソード出口の温度(T1out)が上限温度(Tmax)を超えないように、ブロワ32の出力、燃焼器4における燃料の燃焼量(第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12の発電量)を前記のマップに基づいて制御することができる。
【0116】
[第3実施形態]
図11は、第3実施形態の燃料電池システムのブロック図である。第3実施形態の燃料電池システムは、第2実施形態の燃料電池システムにおいて、第1の燃料電池スタック11のアノード出口と第2の燃料電池スタック12のアノード入口の間に水蒸気又は二酸化炭素を除去する除去手段(分離膜、凝縮器)を配置したものである。
【0117】
分離膜は、水蒸気を分離する分離膜と二酸化炭素を分離する分離膜があるが、例えば第1の燃料電池スタック11のアノード出口から排出された燃料をまず水蒸気を分離する分離膜に供給して水蒸気を分離し、水蒸気が分離された燃料を二酸化炭素を分離する分離膜に供給して二酸化炭素を分離し、二酸化炭素を分離した燃料を第2の燃料電池スタック12のアノード入口に供給する。
【0118】
凝縮器は、例えば水蒸気を含む燃料が流通する伝熱管と当該伝熱管を空冷するファンにより構成されている。そして、第1の燃料電池スタック11のアノード出口から排出された燃料(水蒸気を含む)を伝熱管に供給し、伝熱管において燃料中の水蒸気成分を凝縮させて水蒸気(水)を燃料から分離し、水蒸気が分離した燃料を第2の燃料電池スタック12のアノード入口に供給する。
【0119】
上記のように、第1の燃料電池スタック11から排出された燃料から水蒸気、二酸化炭素を分離することで、燃料の熱容量(比熱)が小さくなり温度追従性が高くなる。よって、第2の燃料電池スタック12においてアノードとカソードの温度差が低減され、熱応力が低下することで第2の燃料電池スタック12の破損を防止できる。また、前記のように第2の燃料電池スタック12の温度追従性が高くなるので第2の燃料電池スタック12のIV特性が改善される。
【0120】
[本実施形態の効果]
本実施形態の燃料電池の制御方法によれば、炭化水素を改質して水素を生成する改質触媒を有する第1の燃料電池(第1の燃料電池スタック11)のアノードに炭化水素を含む燃料を供給し、第1の燃料電池(第1の燃料電池スタック11)のカソードに酸化剤ガス(空気)を供給して発電する燃料電池の制御方法であって、第1の燃料電池(第1の燃料電池スタック11)の発電量及び発電効率に基づいて第1の燃料電池(第1の燃料電池スタック11)の発熱量を算出し、燃料の流量と第1の燃料電池(第1の燃料電池スタック11)の燃料利用率に基づいて炭化水素を改質する際の吸熱量を算出し、
発熱量と吸熱量との和が0よりも大きくなるように燃料の流量を制御し、制御後の燃料の流量に基づいて酸化剤ガス(空気)の流量を制御する。
【0121】
上記方法により、第1の燃料電池スタック11において吸熱反応で吸熱する熱量が発電を伴う発熱反応により発熱する熱量を超えない程度の流量の燃料を第1の燃料電池スタック11に供給するので、第1の燃料電池スタック11の失活を防止しより安定的な発電となることで電流を安定的に取り出して第1の燃料電池スタック11の劣化を防止できる。また、酸化剤ガス(空気)の流量を改質後の燃料の発電反応に必要な酸素を供給可能となる最小の流量に低減でき、酸化剤ガス(空気)を供給する手段(ブロワ32)の消費電力を低減できる。
【0122】
本実施形態において、第1の燃料電池(第1の燃料電池スタック11)に接続された負荷(DC/DCコンバータ61)を制御して第1の燃料電池(第1の燃料電池スタック11)の出力電圧(取り出し電圧)又は出力電流(取り出し電流)を制御することで発電量を制御する。
【0123】
上記方法により、第1の燃料電池スタック11の発電量を容易に増加できるので第1の燃料電池スタック11の温度を容易に上昇できるので、第1の燃料電池スタック11の失活を防止し、より安定的な発電を行うことができる。
【0124】
本実施形態において、酸化剤ガス(空気)の流量を制御して第1の燃料電池(第1の燃料電池スタック11)の温度を調整することで発電効率を制御する。
【0125】
上記方法により、酸化剤ガス(空気)の流量を増加させると酸化剤ガス(空気)の顕熱が増加するので第1の燃料電池スタック11のカソードの流通方向の温度分布が緩やかになり、酸化剤ガス(空気)の流量を減少させると酸化剤ガス(空気)の顕熱が減少するので第1の燃料電池スタック11のカソードの流通方向の温度分布が急になる。また、発電効率は第1の燃料電池スタック11の温度を高くすると高くなる。従って、酸化剤ガス(空気)の流量を制御することで第1の燃料電池スタック11の温度及び発電効率を制御可能となり、第1の燃料電池スタック11の失活を防止し、より安定的な発電を行うことができる。
【0126】
本実施形態の燃料電池システムは、炭化水素を改質して水素を生成する改質触媒を有する第1の燃料電池スタック11と、第1の燃料電池スタック11のアノードに炭化水素を含む燃料を供給する燃料供給部(インジェクタ23)と、第1の燃料電池スタック11のカソードに酸化剤ガス(空気)を供給する酸化剤ガス供給部(ブロワ32)と、燃料供給部(インジェクタ23)及び酸化剤ガス供給部(ブロワ32)を制御する制御部7と、を含む燃料電池システムであって、制御部7は、第1の燃料電池スタック11の発電量及び発電効率に基づいて第1の燃料電池スタック11の発熱量を算出し、燃料の流量に基づいて炭化水素を改質する際の吸熱量を算出し、発熱量と吸熱量との和が0よりも大きくなるように燃料供給部(インジェクタ23)の燃料の流量を制御し、制御後の燃料の流量に基づいて酸化剤ガス供給部(ブロワ32)の酸化剤ガスの流量を制御する。
【0127】
上記構成により、第1の燃料電池スタック11において吸熱反応で吸熱する熱量が発電を伴う発熱反応により発熱する熱量を超えない程度の流量の燃料を第1の燃料電池スタック11に供給するので、第1の燃料電池スタック11の失活を防止しより安定的な発電となることで電流を安定的に取り出して第1の燃料電池スタック11の劣化を防止できる。また、酸化剤ガス(空気)の流量を改質後の燃料の発電反応に必要な酸素を供給可能となる最小の流量に低減でき、酸化剤ガス(空気)を供給する手段(ブロワ32)の消費電力を低減できる。
【0128】
本実施形態において、制御部7は、第1の燃料電池スタック11に接続された負荷(DC/DCコンバータ61)を制御して第1の燃料電池スタック11の出力電圧(取り出し電圧)又は出力電流(取り出し電流)を制御することで発電量を制御する。
【0129】
上記構成により、第1の燃料電池スタック11の発電量を容易に増加できるので第1の燃料電池スタック11の温度を容易に上昇できるので、第1の燃料電池スタック11の失活を防止し、より安定的な発電を行うことができる。
【0130】
本実施形態において、制御部7は、酸化剤ガス(空気)の流量を制御して第1の燃料電池スタック11の温度を調整することで発電効率を制御する。
【0131】
上記構成により、酸化剤ガス(空気)の流量を増加させると酸化剤ガス(空気)の顕熱が増加するので第1の燃料電池スタック11のカソードの流通方向の温度分布が緩やかになり、酸化剤ガス(空気)の流量を減少させると酸化剤ガス(空気)の顕熱が減少するので第1の燃料電池スタック11のカソードの流通方向の温度分布が急になる。また、発電効率は第1の燃料電池スタック11の温度を高くすると高くなる。従って、酸化剤ガス(空気)の流量を制御することで第1の燃料電池スタック11の温度及び発電効率を制御可能となり、第1の燃料電池スタック11の失活を防止し、より安定的な発電を行うことができる。
【0132】
本実施形態において、酸化剤ガス供給部(ブロワ32)と第1の燃料電池スタック11との間には酸化剤ガス(空気)を加熱する熱交換器33が配置され、制御部7は、酸化剤ガス(空気)の流量を制御して第1の燃料電池スタック11の温度を調整することで発電効率を制御する。
【0133】
上記構成により、酸化剤ガス(空気)の流量を増加させると酸化剤ガス(空気)の顕熱が増加するので熱交換器33から排出される酸化剤ガス(空気)の温度すなわち第1の燃料電池スタック11のカソード入口の温度が低下し且つ第1の燃料電池スタック11のカソードの流通方向の温度分布が緩やかになる。逆に、酸化剤ガス(空気)の流量を減少させると酸化剤ガス(空気)の顕熱が減少するので熱交換器33から排出される酸化剤ガス(空気)の温度すなわち第1の燃料電池スタック11のカソード入口の温度が上昇し且つ第1の燃料電池スタック11のカソードの流通方向の温度分布が急になる。また、発電効率は第1の燃料電池スタック11の温度を高くすると高くなる。従って、酸化剤ガス(空気)の流量を制御することで第1の燃料電池スタック11の温度及び発電効率を制御可能となり、第1の燃料電池スタック11の失活を防止し、より安定的な発電を行うことができる。
【0134】
本実施形態において、改質触媒を含まない第2の燃料電池スタック12を含み、燃料供給部(インジェクタ23)は、第1の燃料電池スタック11のアノード入口に向けて燃料を供給し、第1の燃料電池スタック11のアノード出口は第2の燃料電池スタック12のアノード入口に接続され、酸化剤ガス供給部(ブロワ32)は、第2の燃料電池スタック12のカソード入口に向けて、酸化剤ガス(空気)を供給し、第2の燃料電池スタック12のカソード出口は、第1の燃料電池スタック11のカソード入口に接続され、第1の燃料電池スタック11の電池セル枚数(X1)に対する第2の燃料電池スタック12の電池セル枚数(X2)の比率、又は第1の燃料電池スタック11の発電反応が行われる領域の面積(X1)(有効面積)に対する第2の燃料電池スタック12の発電反応が行われる領域の面積(X2)(有効面積)の比率をx(=X2/X1)としたとき、0.08≦x≦0.33の関係を満たす。
【0135】
上記構成により、酸化剤ガス(空気)の流量、すなわち酸化剤ガス供給部(ブロワ32)の出力を最小値(極小値)にすることができるので、システムの効率(発電電力/消費電力)を高めることができる。また第2の燃料電池スタック12が追加されているが、実質的に第1の燃料電池スタック11の発電状態を制御するのみでシステム全体を制御できるので、制御を容易に行うことができる。
【0136】
本実施形態において、第1の燃料電池スタック11のアノード出口と第2の燃料電池スタック12のアノード入口との間には、水蒸気又は二酸化炭素を除去する除去手段(分離膜、凝縮器)が配置されている。
【0137】
上記構成により、第1の燃料電池スタック11から排出された燃料から水蒸気、二酸化炭素を分離することで、燃料の熱容量(比熱)が小さくなり温度追従性が高くなる。よって、第2の燃料電池スタック12においてアノードとカソードの温度差が低減され、熱応力が低下することで第2の燃料電池スタック12の破損を防止できる。また、前記のように第2の燃料電池スタック12の温度追従性が高くなるので第2の燃料電池スタック12のIV特性が改善される。
【0138】
本実施形態において、除去手段は、水蒸気又は二酸化炭素を分離する分離膜である。
【0139】
上記構成により、簡易な構成で除去手段を構築できる。
【0140】
本実施形態において、除去手段は、水蒸気を凝集する凝縮器である。
【0141】
上記構成により、簡易な構成で除去手段を構築できる。
【0142】
本実施形態において、第1の燃料電池スタック11のカソード出口と第2の燃料電池スタック12のアノード出口に接続され、第1の燃料電池スタック11のカソード出口から供給されたカソードオフガスと第2の燃料電池スタック12のアノード出口から供給されたアノードオフガスとを混合して燃焼する燃焼器4と、酸化剤ガス供給部(ブロワ32)と第2の燃料電池スタック12の間に配置され、燃焼器4から排出された燃焼ガスと酸化剤ガス供給部(ブロワ32)から供給された酸化剤ガス(空気)との間で熱交換を行う熱交換器33と、を含み、熱交換器33により加熱された酸化剤ガス(空気)が第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12を暖気する場合において、制御部7は、熱交換器33で加熱された酸化剤ガス(空気)の温度が第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12が発電反応を実行可能な下限温度(Tmin)以上となるように燃焼ガスの目標温度を設定し、燃焼ガスの温度が目標温度となるように燃料の流量及び酸化剤ガス(空気)の流量を制御する。
【0143】
上記構成により、第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12を確実に暖気し、暖気後に安定的な発電を実行できる。
【0144】
本実施形態において、第1の燃料電池スタック11のカソード出口と第2の燃料電池スタック12のアノード出口に接続され、第1の燃料電池スタック11のカソード出口から供給されたカソードオフガスと第2の燃料電池スタック12のアノード出口から供給されたアノードオフガスとを混合して燃焼する燃焼器4と、酸化剤ガス供給部(ブロワ32)と第2の燃料電池スタック12の間に配置され、燃焼器4から排出された燃焼ガスと酸化剤ガス供給部(ブロワ32)から供給された酸化剤ガス(空気)との間で熱交換を行う熱交換器33と、を含み、制御部7は、第2の燃料電池スタック12の温度が第2の燃料電池スタック12が発電反応を実行可能な下限温度(Tmin)以上となるように且つ第1の燃料電池スタック11の温度が所定の上限温度(Tmax)を超えないように燃料の流量及び酸化剤ガスの流量を制御する。
【0145】
上記構成により、燃料の流量を増加させると燃焼ガスの流量及び温度が上昇するため、熱交換器33から排出される酸化剤ガス(空気)の温度が上昇することで第2の燃料電池スタック12及び第1の燃料電池スタック11の温度が上昇し、燃料の流量を減少させると燃焼ガスの流量及び温度が低下するため、熱交換器33から排出される酸化剤ガス(空気)の温度が低下することで第2の燃料電池スタック12及び第1の燃料電池スタック11の温度が低下する。
【0146】
また、酸化剤ガス(空気)の流量を増加させると酸化剤ガス(空気)の顕熱が増加するので熱交換器33から排出される酸化剤ガス(空気)の温度すなわち第2の燃料電池スタック12のカソード入口の温度が低下し且つ第2の燃料電池スタック12のカソードの流通方向の温度分布が緩やかになり、第1の燃料電池スタック11のカソードの流通方向の温度分布が緩やかになる。逆に、酸化剤ガス(空気)の流量を減少させると酸化剤ガス(空気)の顕熱が減少するので熱交換器33から排出される酸化剤ガス(空気)の温度すなわち第2の燃料電池スタック12のカソード入口の温度が上昇し且つ第2の燃料電池スタック12のカソードの流通方向の温度分布が急になり、第1の燃料電池スタック11のカソードの流通方向の温度分布が急になる。
【0147】
さらに、発電効率は第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12の温度を高くすると高くなる。従って、酸化剤ガス(空気)の流量を制御することで第1の燃料電池スタック11及び第2の燃料電池スタック12の温度及び発電効率を制御可能となり、第1の燃料電池スタック11の失活及び熱的ダメージを防止し、より安定的な発電を行うことができる。
【0148】
本実施形態において、制御部7は、燃焼ガスの温度が燃焼器4の耐熱上限温度を超えないように燃料の流量及び酸化剤ガスの流量を制御する。
【0149】
上記構成により、燃焼器4が劣化しない運転が可能となり、性能を維持することができる。
【0150】
本実施形態において、制御部7は、燃焼ガスの温度が燃焼器4において窒素酸化物の生成を低減する仕様上限温度を超えないように燃料の流量及び酸化剤ガスの流量を制御する。
【0151】
上記構成により、燃焼器4における窒素酸化物の発生を抑制できる。
【0152】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0153】
11 第1の燃料電池スタック、12 第2の燃料電池スタック、23 インジェクタ、32 ブロワ、33 熱交換器、4 燃焼器、7 制御部