(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169132
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】再生プラスチックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/06 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
C08J11/06 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086349
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】和泉 敦
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】成廣 治憲
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA16
4F401AA17
4F401AA18
4F401AD01
4F401AD02
4F401AD07
4F401CA58
4F401CA79
4F401CB18
4F401DC06
4F401EA78
4F401EA81
4F401FA01Z
4F401FA03Z
4F401FA07Z
(57)【要約】
【課題】本発明は、引張強度に優れ、押出し開始直後及び連続押出し後における異物及びやけの少ない再生プラスチックの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
第一のスクリュー及び吐出部を具備した押出装置を用いて、印刷物から再生プラスチックを得る、再生プラスチックの製造方法であって、前記印刷物が、ヒートシール層、基材及び印刷層を含み、前記印刷物は、基材と印刷層とを脱離させる脱離工程を経たものでなく、前記印刷物の塩素含有率が、全質量中0.4質量%以下であり、前記印刷物は、ポリオレフィン樹脂(A)を、前記印刷物の全質量中80質量%以上含有し、前記押出装置中において前記印刷物を、加熱溶融及び混練して樹脂組成物(D)を得る加熱溶融混練工程、及び、前記樹脂組成物(D)が、押出装置の吐出部から圧力18MPa以下で押出される押出工程を含む、再生プラスチックの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のスクリュー及び吐出部を具備した押出装置を用いて、印刷物から再生プラスチックを得る、再生プラスチックの製造方法であって、
前記印刷物が、ヒートシール層、基材及び印刷層を含み、
前記印刷物は、基材と印刷層とを脱離させる脱離工程を経たものでなく、
前記印刷物の塩素含有率が、全質量中0.4質量%以下であり、
前記印刷物は、ポリオレフィン樹脂(A)を、前記印刷物の全質量中80質量%以上含有し、
前記押出装置中において前記印刷物を、加熱溶融及び混練して樹脂組成物(D)を得る加熱溶融混練工程、及び、
前記樹脂組成物(D)が、押出装置の吐出部から圧力18MPa以下で押出される押出工程を含む、再生プラスチックの製造方法。
【請求項2】
ヒートシール層が、ポリオレフィン樹脂(B)及び/又はアクリル樹脂を含む、請求項1に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項3】
ポリオレフィン樹脂(B)が、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂及び/又はポリエチレン樹脂(前記エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂である場合を除く)を含む、請求項2に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィン樹脂(A)が、ポリエチレン樹脂及び/又はポリプロピレン樹脂を含む、請求項1又は2に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項5】
印刷物が、更にバリア層を含む、請求項1又は2に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項6】
バリア層が、蒸着膜を含む蒸着層、又はバリアコート層である、請求項5に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項7】
印刷物が、更に、印刷層上に表面保護層を有する、請求項1又は2に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項8】
印刷層が、顔料及びバインダー樹脂を含み、前記バインダー樹脂の塩素含有率が、5質量%以下である、請求項1又は2に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項9】
加熱溶融混練工程が、酸化防止剤の存在下で実施される、請求項1又は2に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項10】
加熱溶融混練工程が、相溶化剤の存在下で実施される、請求項1又は2に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項11】
加熱溶融混練工程における加熱溶融の温度が、120~280℃である、請求項1又は2に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項12】
押出装置が具備する第一のスクリューの回転数が、50~1000rpmである、請求項1又は2に記載の再生プラスチックの製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の再生プラスチックの製造方法によって製造される、再生プラスチックの成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生プラスチックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックフィルムからなるパッケージ、プラスチックボトル、及びその他のプラスチック製品は、海洋にゴミとして廃棄・投棄され環境汚染問題が生じている。プラスチック製品は海水中で粉砕されてサブミクロンサイズの破片(マイクロプラスチック)となり海水中に浮遊する。マイクロプラスチックは、魚類等の海洋生物に摂取され、その体内中で濃縮される。そのため、海洋生物を食料として摂取する海鳥や人間等の健康への影響が懸念されている。
【0003】
食品包装材では、フィルム基材として、ポリプロピレン基材(PP)、ポリエチレン基材(PE)等のポリオレフィン基材が多く使用されている。食品包装材としては、例えば、フィルム基材に対して印刷インキにより印刷を施し、印刷層上に、必要に応じて接着剤層を介して、シーラントフィルムをラミネートしたラミネート積層体や、フィルム基材の片方の面に印刷インキにより印刷を施し、他方の面にヒートシール剤を印刷した印刷物がある。前記印刷物は、ラミネートするシーラントフィルムが不要である分、プラスチック量を削減することができ、環境対応への貢献が期待される。また、さらなる環境対応の観点から、マテリアルリサイクルの要望がある。しかしながら、フィルム基材、印刷層等に含まれる着色剤及びバインダー樹脂の相溶性、その他の問題があるため、印刷物は、マテリアルリサイクルが難しい。
【0004】
包装材のマテリアルリサイクル方法として、プラスチック基材上に脱離可能な印刷層を設けた印刷物及びラミネート包装材について、界面活性剤を含む脱離液中で印刷層を分離する発明が開示されている(特許文献1)。しかしながら、印刷層の脱離工程が存在することで、加工完了までの時間や、人が関わる段取作業が増える事に繋がり、生産量低下の問題がある。なお、特許文献1に記載された発明において、印刷層を分離させずに包装材をマテリアルリサイクルする方法については、一切想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、引張強度に優れ、押出し開始直後及び連続押出し後における異物及びやけの少ない再生プラスチックの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記課題に対して鋭意研究を重ねた結果、以下に記載の包装材を用いることで上記課題を解決することを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下[1]~[13]に関する。
【0009】
[1]第一のスクリュー及び吐出部を具備した押出装置を用いて、印刷物から再生プラスチックを得る、再生プラスチックの製造方法であって、
前記印刷物が、ヒートシール層、基材及び印刷層を含み、
前記印刷物は、基材と印刷層とを脱離させる脱離工程を経たものでなく、
前記印刷物の塩素含有率が、全質量中0.4質量%以下であり、
前記印刷物は、ポリオレフィン樹脂(A)を、前記印刷物の全質量中80質量%以上含有し、
前記押出装置中において前記印刷物を、加熱溶融及び混練して樹脂組成物(D)を得る加熱溶融混練工程、及び、
前記樹脂組成物(D)が、押出装置の吐出部から圧力18MPa以下で押出される押出工程を含む、再生プラスチックの製造方法。
【0010】
[2]ヒートシール層が、ポリオレフィン樹脂(B)及び/又はアクリル樹脂を含む、[1]に記載の再生プラスチックの製造方法。
【0011】
[3]ポリオレフィン樹脂(B)が、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂及び/又はポリエチレン樹脂(前記エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂である場合を除く)を含む、[2]に記載の再生プラスチックの製造方法。
【0012】
[4]ポリオレフィン樹脂(A)が、ポリエチレン樹脂及び/又はポリプロピレン樹脂を含む、請求項[1]~[3]いずれかに記載の再生プラスチックの製造方法。
【0013】
[5]印刷物が、更にバリア層を含む、[1]~[4]いずれかに記載の再生プラスチックの製造方法。
【0014】
[6]バリア層が、蒸着膜を含む蒸着層、又はバリアコート層である、[5]に記載の再生プラスチックの製造方法。
【0015】
[7]印刷物が、更に、印刷層上に表面保護層を有する、[1]~[6]いずれかに記載の再生プラスチックの製造方法。
【0016】
[8]印刷層が、顔料及びバインダー樹脂を含み、前記バインダー樹脂の塩素含有率が、5質量%以下である、[1]~[7]いずれかに記載の再生プラスチックの製造方法。
【0017】
[9]加熱溶融混練工程が、酸化防止剤の存在下で実施される、[1]~[8]いずれかに記載の再生プラスチックの製造方法。
【0018】
[10]加熱溶融混練工程が、相溶化剤の存在下で実施される、[1]~[9]いずれかに記載の再生プラスチックの製造方法。
【0019】
[11]加熱溶融混練工程における加熱溶融の温度が、120~280℃である、[1]~[10]いずれかに記載の再生プラスチックの製造方法。
【0020】
[12]押出装置が具備する第一のスクリューの回転数が、50~1000rpmである、[1]~[12]いずれかに記載の再生プラスチックの製造方法。
【0021】
[13][1]~[12]いずれかに記載の再生プラスチックの製造方法によって製造される、再生プラスチックの成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、引張強度に優れ、押出し開始直後及び連続押出し後における異物及びやけの少ない再生プラスチックの製造方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、記載する実施形態又は要件の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0024】
[再生プラスチックの製造方法]
本発明は、スクリュー及び吐出部を具備した押出装置を用いて、基材と印刷層との脱離工程を経ていない印刷物から再生プラスチックを得る、再生プラスチックの製造方法であって、前記印刷物が、ヒートシール層、基材層、及び印刷層を含み、前記印刷物は、基材と印刷層とを脱離させる脱離工程を経たものでなく、塩素含有率が、前記印刷物の全質量中0.4質量%以下であり、かつ、ポリオレフィン樹脂(A)を、前記印刷物の全質量中80質量%以上含有し、前記押出装置中において前記印刷物を、加熱溶融及び混練して樹脂組成物(D)を得る加熱溶融混練工程、及び、前記樹脂組成物(D)が、押出装置の吐出部から圧力18MPa以下で押出される押出工程を含むことを特徴とする。
【0025】
上記印刷物に含まれるポリオレフィン樹脂(A)は、印刷物各層に含まれる全てのポリオレフィン樹脂を指す。印刷物各層に含まれるポリオレフィン樹脂として、後述のヒートシール層に含まれるポリオレフィン樹脂(B)や、後述の基材に含まれるポリオレフィン樹脂(C)が挙げられるが、これらに限定されず、バリア層、表面保護層等の任意の層が含有するポリオレフィン樹脂も、ポリオレフィン樹脂(A)に含まれる。
【0026】
「印刷物は、基材と印刷層とを脱離させる脱離工程を経たものでなく」との文言における脱離工程とは、例えばアルカリ等で印刷物から印刷層の大部分を脱離して除く、脱離除去工程のことをいい、何らかの原因により意図せず印刷層が欠落した場合等は「脱離工程を経た」とはいえない。
【0027】
本発明の製造方法においては、ヒートシール層、基材層、及び印刷層を含む印刷物を、加熱溶融及び混練することで、(1)溶融状態となったヒートシール層が、印刷層中に含まれ得る着色剤の凝集を抑制し、かつ印刷層中に含まれ得るバインダー樹脂と相溶することで、溶融混練時に印刷物の構成成分同士相溶性を向上させ、(2)印刷物中の塩素含有率が、印刷物の全質量中0.4質量%以下であることで、加熱溶融混練工程での塩素ガス発生による再生プラスチックの発泡、及び設備損傷を抑制でき、(3)印刷物中のポリオレフィン樹脂(A)含有量が、印刷物100質量%中、80質量%以上であることで、加熱溶融混練工程でのヒートシール層、基材層、印刷層が層分離することなく混練され、(4)押出装置の吐出部の圧力を18MPa以下とすることで、異物のフィルター抜けを抑制できるため、押出し開始直後及び連続押出し後の異物及びやけを抑制でき、更に引張強度が良好となると考えられる。なお、上記効果発現のメカニズムは一推察であり、何ら発明を限定するものではない。
【0028】
本発明の課題である、押出し開始直後の異物及びやけとは、加熱溶融混練工程において、印刷物を押出装置へ投入した後、押出装置の吐出部から最初に吐出された再生プラスチックの異物及びやけをいう。また、連続押出し後の異物及びやけとは、押出装置にて再生プラスチックの製造を5時間継続した後、押出装置の吐出部から吐出された再生プラスチックの異物及びやけをいう。なお、上記異物及びやけについては、再生プラスチックを再度加熱溶融し、フィルム状に形成して目視で評価を行った。
【0029】
本発明の製造方法は、印刷物を加熱溶融混練して樹脂組成物(D)とする加熱溶融混練工程と、得られた樹脂組成物(D)を押出す押出工程を必須とするが、更に、押出された樹脂組成物(D)を冷却して、再生プラスチックとする冷却工程を含むことが好ましい。得られる再生プラスチックの形状は特に限定されず、棒状、粒子状、立方体、直方体、不定形等が挙げられる。
【0030】
本発明の製造方法は、更に、印刷物のハンドリング性の観点から、加熱溶融混練工程前に、包装材を破砕する破砕工程を含むことが好ましい。また、ゴミや汚れ等の異物除去の観点から、加熱溶融混練工程前に、印刷物を洗浄する洗浄工程を含むことが好ましい。更にまた、水分除去の観点から、加熱溶融混練工程前に、印刷物を脱水及び/又は乾燥する脱水乾燥工程を含むことが好ましい。加えて、加熱溶融混練工程を、酸化防止剤や相溶化剤等の添加剤の存在下で行うことが好ましい。また、異物除去の観点から、押出装置は、その吐出部に異物分離装置を具備することが好ましい。更にまた、再生プラスチックのハンドリング性の観点から、冷却工程の後又は冷却工程と同時に、押出された樹脂組成物(D)を細断するペレタイズ工程を含むことが好ましい。
【0031】
<破砕工程>
破砕工程は、加熱溶融混練工程の前に実施されることが好ましい。また、破砕工程は、後述の洗浄工程の前又は洗浄工程と同時に実施されることが好ましく、後述の洗浄工程の前に実施されることがより好ましい。破砕工程における破砕方法は特に制限されず、例えば、ジョークラッシャー、インパクトクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、リングミル、ローラーミル、ジェットミル、又はハンマーミルを用いる方法が挙げられる。破砕後の印刷物の断片のサイズは辺の長さが1mm~50mmであることが好ましく、3mm~40mmであることがより好ましく、5mm~30mmであることが更に好ましい。破砕後の印刷物の断片のサイズが上記範囲である場合、表面積の拡大による洗浄工程及び脱水乾燥工程の効率化、及び樹脂組成物の均一化が促進され、押出し開始直後及び連続押出し後の異物の発生を抑制できる。
【0032】
<洗浄工程>
洗浄工程は、加熱溶融混練工程前の印刷物に対して実施されることが好ましく、また、前述の破砕工程後に、破砕された印刷物に対して実施されることが好ましい。洗浄方法としてはバッチ式あるいは連続式等が挙げられ、水、洗剤、中和剤、アルカリ水溶液等の洗浄液を用いてもよい。
【0033】
<脱水乾燥工程>
脱水乾燥工程は、加熱溶融混練工程前の印刷物に対して実施されることが好ましく、脱水の方式としては遠心脱水方式、乾燥方式としては熱風乾燥方式が好適である。脱水乾燥工程においては、脱水又は乾燥のどちらかのみを行ってもよいが、脱水及び乾燥をいずれも行うことが好ましい。脱水乾燥工程を経た後の印刷物中の水分量は、印刷物の全質量中3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.6質量%以下が特に好ましい。脱水乾燥工程を経た後の印刷物中の水分量が上記範囲である場合、加熱溶融時の水の気化による発泡を抑制できる。
【0034】
<加熱溶融混練工程>
加熱溶融混練工程は、第一のスクリューを具備した押出装置を用いて、印刷物を加熱溶融混練する工程であり、この工程により、印刷物は加熱溶融され、さらに第一のスクリューで混練されることで、印刷物から、連続相の樹脂組成物へ変化する。樹脂組成物の均一性が高いほど、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後の異物の発生を抑制できる。
【0035】
加熱溶融混練工程において、加熱溶融温度は120℃~280℃であることが好ましく、170℃~250℃であることがより好ましく、180℃~240℃であることが更に好ましい。加熱溶融温度が上記範囲である場合、再生プラスチックの均一性及び低熱履歴が両立できるため、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後の異物の発生を抑制できる。
【0036】
第一のスクリューの回転数は、50~1000rpmであることが好ましく、80rpm~850rpmであることがより好ましく、100rpm~600rpmであることが更に好ましい。第一のスクリューの回転数が上記範囲であると、再生プラスチックの均一性、押出装置内での短滞留時間、及びせん断発熱の抑制のバランスが良好となるため、押出し開始直後及び連続押出し後における異物及びやけを抑制できる。なお、スクリューの回転数50~900rpmは、せん断速度に換算すると222~4004sec-1に相当する。せん断速度は、後述の実施例の条件にて、以下式を用いて算出した。
式:(円周率)×(スクリュー径)×(スクリュー回転数)/{(60×(シリンダー内壁とスクリューとの最小間隙距離)}
・スクリュー径:34mm
・シリンダー内壁とスクリューとの最小間隙距離:0.4mm
【0037】
押出装置内での樹脂組成物の滞留時間は、10~120秒であることが好ましく、15~80秒であることがより好ましく、20~40秒であることが特に好ましい。押出装置内での樹脂組成物の滞留時間が上記範囲である場合、加熱時間及び混練効率が良好となるため、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後の異物の発生を抑制できる。
【0038】
《押出装置》
本発明の製造方法に用いる押出装置は、第一のスクリュー及び吐出部を具備している。押出装置は一般的に用いられる、熱可塑性樹脂等を溶融して成形可能な装置であって、例えば、特開2017-148997号公報に記載された公知の押出装置等を使用することができる。
押出し装置は、具体的には、材料を供給する第一の供給口と、前記第一の供給口から供給された熱可塑性樹脂等の材料を加熱溶融混練する加熱溶融混練部と、前記加熱溶融混練部で加熱溶融混練された熱可塑性樹脂を吐出する吐出部を有しているものが好ましい。
【0039】
上記押出し装置においては、第一のスクリューの回転によるせん断熱、及び電熱ヒーター等の加熱により材料が溶融し、第一のスクリューの回転により、溶融した材料が混練される。前記押出装置としては、例えば二軸押出機、単軸押出機、ローター型二軸混練機が挙げられるが、混練効率の観点から、二軸押出機、又はローター型二軸混練機が好ましい。
【0040】
<添加剤を添加する方法>
本発明の製造方法では、加熱溶融混練工程が、酸化防止剤及び/又は相溶化剤の存在下で実施されることが好ましい。当該酸化防止剤及び/又は相溶化剤は、印刷物に予め含まれるものとは別である。また、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤及び相溶化剤以外の公知の添加剤を添加してもよい。添加剤を添加する方法として、加熱溶融混練工程で、上記第一の供給口から添加剤を添加した印刷物を供給する方法、又は、第二の供給口、及び第二のスクリューを具備する押出装置を用いて添加剤を添加する方法が、好ましい例である。押出装置は、バレル同士を連結して作成できるため、前記バレルの1つ以上が、第二の供給口及び第二のスクリューを具備することができ、第二の供給口及び第二のスクリューの位置は、押出装置のどこにあってもよい。第二の供給口から添加された添加剤は、第二のスクリューにより混練されながら、第一の供給口から投入・加熱溶融混練された樹脂組成物に混合されることが好ましい。
【0041】
《添加剤》
添加剤として、例えば、酸化防止剤、相溶化剤、滑剤、耐候安定剤、可塑剤、帯電防止剤が挙げられ、酸化防止剤、相溶化剤が好ましい。
【0042】
《酸化防止剤》
酸化防止剤を用いることで、やけの発生を抑制し、押出し開始直後及び連続押出し後のやけが少ない再生プラスチックを得ることができる。酸化防止剤としては、フェノール系、リン酸系、硫黄系、アミン系等の公知の酸化防止剤を使用できるが、フェノール系、リン酸系であることが好ましい。印刷物100質量%に対する酸化防止剤の添加率は、0.01~3質量%であることが好ましく、0.05~1質量%であることがより好ましく、0.1~0.5質量%であることが更に好ましい。酸化防止剤の添加率が上記範囲である場合、押出し開始直後及び連続押出し後のやけの発生を抑制できる。
【0043】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤としては、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリスフェノール系、テトラフェノール系、ポリフェノール系、チオビスフェノール系等が挙げられ、やけ抑制効果の大きい、ビスフェノール系、トリスフェノール系、テトラフェノール系であることが好ましく、テトラフェノール系であることがより好ましい。
【0044】
市販品のフェノール系酸化防止剤として、Irganox1010、Irganox1076、Irganox245(BASF社製)等を使用することができる。
【0045】
(リン酸系酸化防止剤)
リン酸系酸化防止剤としては、モノノニル系、ジノニル系、トリノニル系、アリル系、アルキルアリル系、モノアルキル系、ジアルキル系、トリアルキル系、ジオキサ系が挙げられ、やけ抑制効果の大きい、トリノニル系、アリル系、アルキルアリル系、トリアルキル系、ジオキサ系であることが好ましく、ジオキサ系であることがより好ましい。
【0046】
市販品のリン酸系酸化防止剤として、Irgafos168(BASF社製)、ADK STAB PEP-36(ADEKA社製)等を使用することができる。
【0047】
(相溶化剤)
相溶化剤を用いることで、印刷層由来の着色剤及びバインダー樹脂と他の構成成分とが混ざりやすくなり、押出し開始直後及び連続押出し後の異物が少ない再生プラスチックを得ることができる。
相溶化剤はポリオレフィン共重合体を含むことが好ましく、ポリオレフィン共重合体としては、ポリオレフィン-スチレン共重合体、ポリオレフィン-アクリル共重合体、ポリオレフィン-アクリロニトリル共重合体、(無水)マレイン酸変性ポリオレフィン等が好適に挙げられる。ただし、これらに限定されない。「共重合体」とはブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよく、グラフト共重合体であってもよい。(以下、グラフト共重合体の場合は、「主鎖=g=側鎖」と表記する。)
相溶化剤の好ましい形態として、ポリエチレン=g=ポリスチレン、ポリエチレン=g=スチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリプロピレン=g=スチレン-アクリロニトリル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体=g=スチレン-アクリロニトリル共重合体、オキサゾリン基含有ポリスチレン、ポリカーボネート=g=メタクリル酸グリシジル-スチレン-アクリロニトリル共重合体、無水マレイン酸変性ポリオレフィン等が挙げられ、無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましい。
【0048】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンとしては、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン共重合体等が挙げられ、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0049】
印刷物100質量%に対する相溶化剤の添加率は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましく、0.1~0.2質量%であることが更に好ましい。相溶化剤の添加率が上記範囲である場合、印刷層由来のバインダー樹脂と、ポリオレフィン樹脂との相溶性が向上するため、押出し開始直後及び連続押出し後の異物の発生を抑制できる。
【0050】
相溶化剤としては、アドマーQシリーズ(三井化学社製)、ユーメックスシリーズ(三洋化成社製)等の市販品を使用することができる。
【0051】
(滑剤)
滑剤は、押出装置内における、樹脂組成物同士の摩擦や樹脂組成物と押出装置との摩擦を低減させる役割がある。滑剤として、例えば、パラフィンワックス、合成ポリエチレン等の炭化水素系滑剤、ステアリン酸、ベヘニン等の脂肪酸系滑剤、ステアリルアルコール等の高級アルコール系滑剤、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド等の脂肪酸アマイド系滑剤、ステアリン酸カルシウム、亜鉛、マグネシウム等の金属石鹸系滑剤、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート等のエステル系滑剤が挙げられ、脂肪酸アマイド系滑剤が好ましい。
【0052】
印刷物100質量%に対する滑剤の添加率は、0.01~5質量%であることが好ましく、0.03~3質量%であることがより好ましく、0.05~1質量%であることが更に好ましい。
【0053】
上記滑剤としては、脂肪酸アマイドS(花王社製)、脂肪酸アマイドO-N等の市販品を使用することができる。
【0054】
(耐候安定剤)
耐候安定剤は、紫外線を吸収し、プラスチックの耐候寿命を延長させる役割がある。耐候安定剤として、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ヒンダードアミン系等が挙げられる。
【0055】
印刷物100質量%に対する耐候安定剤の添加率は、0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~2質量%であることがより好ましい。
【0056】
上記耐候安定剤としては、アデカスタブALAシリーズ(ADEKA社製)等の市販品を使用することができる。
【0057】
(可塑剤)
可塑剤は、プラスチックに柔軟性を付与する役割がある。可塑剤として、例えば、エポキシ化大豆油やエポキシ化アマニ油等のエポキシ化植物油系、ジオクチルフタレートやジブチルフタレート等のフタル酸エステル系、二塩基酸とグリコール類とからなるポリエステル等のポリエステル系が挙げられる。
【0058】
印刷物100質量%に対する可塑剤の添加率は、0.1~50質量%であることが好ましく、0.5~30質量%であることがより好ましく、1~15質量%であることが更に好ましい。
【0059】
上記可塑剤としては、アデサイザーPNシリーズ(ADEKA社製)等の市販品を使用することができる。
【0060】
(帯電防止剤)
帯電防止剤は、プラスチックが帯電することを抑制する役割を持つ。帯電防止剤として、例えば、脂肪酸スルホン酸塩、及び脂肪酸エステル系が挙げられる。
【0061】
上記帯電防止剤としては、エレクトロマスターシリーズ(花王社製)、エレクトロストリッパー(花王社製)等の市販品を使用することができる。
【0062】
印刷物100質量%に対する帯電防止剤の添加率は、0.05~3質量%であることが好ましく、0.1~2質量%であることがより好ましい。
【0063】
<押出工程>
押出工程において、樹脂組成物(D)は、押出し装置が具備する吐出部から吐出される。一実施形態として、吐出部が異物分離装置を具備し、樹脂組成物(D)が当該異物分離装置を通過し吐出されることが好ましい。
加熱溶融混練した樹脂組成物(D)の吐出において、押出装置の押出圧力は、押出装置の耐久性の観点から、18MPa以下であり、0.1~18MPaであることがより好ましく、1~12MPaであることが更に好ましく、3~7MPaであることが特に好ましい。なお、押出装置の押出圧力は、常に一定である必要はないが、ここでいう押出圧力は、押出工程中の最大押出圧力である。
押出圧力が上記範囲である場合、異物分離装置による異物分離効率が良好となるため、押出し開始直後及び連続押出し後の異物の発生を抑制できる。押出圧力は、加工温度、スクリュー回転数、吐出量、樹脂粘度、再生プラスチックへの異物を取り除くために使用される異物分離装置(スクリーンメッシュ等)の影響を受ける。また、不溶物、異物等のメッシュの詰まりや、水分、塩素含有物等に起因した発泡等も圧力の変化の要因となる。
【0064】
押出装置の吐出量は、1時間あたり、5~60kgであることが好ましく、10~50kgであることがより好ましく、15~40kgであることが特に好ましい。上記範囲である場合、押出圧力及び混練効率が良好となるため、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物及びやけの発生を抑制できる。
【0065】
《異物分離装置》
押出装置の吐出部は、樹脂組成物(D)中の異物を取り除くため、異物分離装置を具備することが好ましい。異物分離装置として、例えば、スクリーンメッシュ(金属の網)が挙げられる。スクリーンメッシュとして、例えば、平織、綾織、平畳織及び綾畳等の織製織と、パンチングメタルのタイプが挙げられるが、異物除去の観点から、平織が好ましい。
スクリーンメッシュのサイズは異物除去、吐出圧力、及び目詰まり性を考慮し、20~200メッシュであることが好ましく、60~150メッシュであることがより好ましく、80~140メッシュであることが更に好ましい。
【0066】
<冷却工程>
押出工程で押出された樹脂組成物(D)は、冷却工程で冷却され、再生プラスチックとすることが好ましい。
冷却工程における冷却方法としては、例えば空冷、風冷、水冷が挙げられる。本発明においては、水冷工程を含むことが好ましい。冷却工程における冷却温度は20℃~80℃であることが好ましく、30℃~60℃であることがより好ましい。冷却工程は、後述のペレタイズ工程と同時に実施してもよく、ペレタイズ工程の後に行ってもよい。具体的には例えば、押出された樹脂組成物(D)を押出し直後に空冷しながらペレタイズし、その後水冷してもよい。
【0067】
<ペレタイズ工程>
再生プラスチックはペレタイズ工程によりペレット状に加工してもよく、上述の冷却工程中にペレタイズを行ってもよい。ペレタイズ方法としては例えば、ホットカット方式、ストランドカット方式が挙げられ、特に制限されないが、連続生産性を考慮し、ホットカット方式が好ましい。
【0068】
[印刷物]
本発明の再生プラスチックの製造方法では、原料として、印刷物を用いる。当該印刷物は、ヒートシール層、基材層、及び印刷層を含む。また、少なくともいずれかの層が、ポリオレフィン樹脂を含み、印刷物全質量中、ポリオレフィン樹脂を80質量%以上含有する。なお、印刷層等の各層は、それぞれ1番目の印刷層、2番目の印刷層のように実際は複数層が接して積層されている場合には、合わせて単に印刷層と表記している。
印刷物の構成は、具体的には、以下の構成を例示することができるが、これらに限定されない。なお以下(1)から(4)の構成表示においては、「/」は各層の境界を意味する。
(1)ヒートシール層/基材/印刷層
(2)ヒートシール層/基材/印刷層/表面保護層
(3)ヒートシール層/基材/バリア層/印刷層
(4)ヒートシール層/基材/バリア層/印刷層/表面保護層
ただし、本発明に用いられる印刷物の形態はこれらに限定されない。
【0069】
本発明は、再生ポリオレフィン樹脂の製造が主眼であるため、印刷物は、ポリオレフィン樹脂を、印刷物の全質量中80質量%以上含有するものを用いる。ポリオレフィン樹脂の含有率は85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。上記範囲である場合、樹脂組成物の均一性が向上するため、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物の発生を抑制できる。ポリオレフィンはポリプロピレン及び/又はポリエチレンであることが好ましい。当該ポリプロピレンは、エチレン及び/又はブテンとの共重合体であることがより好ましい。
【0070】
[ヒートシール層]
ヒートシール層は、ポリオレフィン樹脂(B)、及び/又はアクリル樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂(B)を含むことが更に好ましい。ヒートシール層は、基材層の印刷層を具備した面とは反対側に位置することが好ましい。ヒートシール層の単位面積質量は、1~18g/m2であり、3~12g/m2であることが好ましい。上記範囲である場合、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物及びやけの発生を抑制できる。
【0071】
ヒートシール層は、ポリオレフィン樹脂(B)、及び/又はアクリル樹脂の他に、ウレタン樹脂、ポリ乳酸樹脂等の公知の熱可塑性樹脂を含んでもよい。これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
ヒートシール層の樹脂の含有率は、ヒートシール層100質量%中、70~100質量%であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。樹脂の含有率が上記範囲である場合、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物及びやけの発生を抑制できる。
【0073】
<ポリオレフィン樹脂(B)>
ポリオレフィン樹脂(B)としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂等が挙げられ、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂であることが好ましい。
【0074】
<エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂>
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂は、エチレンと酢酸ビニルからなる共重合体である。エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂中の酢酸ビニル含有率は、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂100質量%中、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることが特に好ましい。エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂の最低造膜温度は、40~120℃であることが好ましく、60~100℃であることがより好ましい。酢酸ビニル含有量、及び最低造膜温度が上記範囲である場合、印刷物のヒートシール性が良好となる。エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂のガラス転移温度は、-60~20℃であることが好ましく、-25~5℃であることがより好ましい。
【0075】
上記エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂としては例えば、ジャパンコーティングレジン社製 アクアテックスECシリーズ、住友化学工業社製 スミカフレックスS-201HQ、S-305、S-305HQ、S-400HQ、S-401HQ、S-408HQE、S-450HQ、S-455HQ、S-456HQ、S-460HQ、S-467HQ、S-470HQ、S-480HQ、S-510HQ、S-520HQ、S-752、S-755を使用することができる。
<ポリエチレン樹脂(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂を除く)>
ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンを使用することができ、また、イオン性のポリエチレン樹脂を用いることもできる。
【0076】
《イオン性基を有するポリエチレン樹脂》
イオン性基を有するポリエチレン樹脂としては、特に限定されないが、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体を金属イオンにより中和したものを用いることができ、具体的にはエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を金属イオンにより中和したものを用いることができる。金属イオンとしては、1価金属イオン又は多価金属イオンのいずれでもよく、亜鉛イオン、ナトリウムイオン等を挙げることができ、イオン性基を有するポリエチレン樹脂の中和度は、5~90%が好ましい。
【0077】
ポリエチレン樹脂としては例えば、三井化学株式会社のケミパールシリーズの「S-500」、「S420」、「S200」等の市販品を使用することができる。
【0078】
<アクリル樹脂>
アクリル樹脂とは、アクリル基又はメタクリル基を有するモノマーを含むエチレン性不飽和単量体を、ビニル重合した構造を有するものをいう。アクリル樹脂の酸価は、20~120mgKOH/gであることが好ましく、30~100mgKOH/gであることがより好ましく、40~80mgKOH/gであることが特に好ましい。アクリル樹脂の酸価が上記範囲である場合、着色剤との相溶性が向上することで、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物の発生を抑制できる。アクリル樹脂のガラス転移温度は、-40~90℃であることが好ましく、-30~70℃であることがより好ましく、-20~50℃であることが特に好ましい。アクリル樹脂のガラス転移温度が上記範囲である場合、着色剤との相溶性が向上することで、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物の発生を抑制できる。また、アクリル樹脂はアクリルモノマーの単独重合体や、アクリルモノマーと酸性モノマーからなる共重合体、エチレンとアクリルモノマーからなる共重合体等が好適に挙げられる。
【0079】
前記(メタ)アクリルモノマーを含む不飽和二重結合を有するモノマーとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル化合物、
N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の少なくとも1個のN-置換メチロール基を含有する(メタ)アクリル酸アミド誘導体、
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアミノアルキルエステル、
ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類の(メタ)アクリル酸のモノ又はジエステル類、
スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン誘導体、
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル化合物、
アクリル酸、メタクリル酸、
マレイン酸、イタコン酸等の酸基を有するビニル化合物が挙げられる。
印刷物のヒートシール性の面から、アクリル樹脂は、カルボキシル基及び/又は水酸基を有するものが好ましく、アクリル樹脂が水酸基を有する場合、アクリル樹脂を構成するモノマーとして(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル化合物を含有するものが好ましい。
【0080】
アクリル樹脂としては、市販品を用いてもよく、例えば、BASF社製 JONCRYL PDX7356、PDX-7326、PDX-7430、星光PMC社製 PE-1126、JE-1113、KE1148等を使用することができる。
【0081】
<添加剤>
ヒートシール層は、更に、消泡剤、乳化剤、防腐剤、可塑剤、アマイドワックス、炭化水素ワックス、及びキレート架橋剤等の任意の添加剤を含むことができ、消泡剤及び/又は乳化剤を含むことが好ましい。
【0082】
《消泡剤》
ヒートシール層は、ヒートシール層の平滑性向上の観点から、消泡剤を含むことが好ましい。消泡剤を含む場合、ヒートシール強度が良好となる。消泡剤は、シリコン系消泡剤及び非シリコン系消泡剤が挙げられ、消泡性の観点から、シリコン系消泡剤が好ましい。ヒートシール層中の消泡剤の含有率は、ヒートシール層100質量%中、0.01~1質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましく、0.1~0.3質量%であることが特に好ましい。
【0083】
《乳化剤》
ヒートシール層は、水への溶解性の観点から、乳化剤を含むことが好ましい。乳化剤としては、ビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等が挙げられ、リサイクル性の観点から、ビニルアルコール樹脂及びカチオン系界面活性剤が好ましい。ヒートシール層中の乳化剤の含有率は、ヒートシール層100質量%中、0.01~1質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましく、0.1~0.3質量%であることが特に好ましい。
【0084】
消泡剤としては、市販品を用いてもよく、例えば、BYK社製 BYK-024、BYK-025、BYK-028を使用することができる。
【0085】
<ヒートシール層の形成>
ヒートシール層は、例えば、表面保護層と反対側の基材面上に対し、(1)熱可塑性樹脂を加熱溶融塗工することにより、又は、(2)ヒートシール剤を用いて印刷した後、揮発成分を乾燥して除去することにより、形成することができる。形成方法として好ましくは、(2)のヒートシール剤を用いる方法である。ヒートシール剤の印刷方法としては、グラビア印刷方式やフレキソ印刷方式が好適である。例えば、グラビア印刷では、必要に応じて適した粘度及び濃度にまで希釈溶剤で希釈され、単独で又は混合されて各印刷ユニットに供給された後、塗布され、オーブンによる乾燥によって被膜を定着させることでヒートシール層を得ることができる。
【0086】
<ヒートシール剤>
ヒートシール剤は、ポリオレフィン樹脂(B)及び/又はアクリル樹脂を含むことが好ましく、更に、溶剤を含むことが好ましい。また、上述の添加剤を含んでもよい。ヒートシール剤は、環境負荷の観点から、水性であることが好ましい。
【0087】
(グラビア印刷)
《グラビア版》
グラビア印刷において、グラビア版は金属製の円筒状のものであり、彫刻又は腐蝕・レーザーによって各色の凹部を形成する。彫刻とレーザーの使用に制限はなく、柄に合わせて任意に設定が可能である。線数としては80線~250線のものが適宜使用され、線数の大きいものほど目の細かい印刷が可能である。
【0088】
《グラビア印刷機》
グラビア印刷機においては、一つの印刷ユニットが、上記グラビア版及びドクターブレードを備えている。印刷ユニットは多数あり、各ユニットはオーブン乾燥ユニットを有する。印刷は輪転により行われ、巻取印刷方式である。版の種類やドクターブレードの種類は適宜選択され、仕様に応じたものが選定できる。
【0089】
[基材]
基材は、原料としてポリオレフィン樹脂(C)を主として含むプラスチック基材であることが好ましい。基材は、フィルム又はシート状の形態であると、再生プラスチックの均一性が向上する結果、異物が低減し、引張強度が向上するため好ましい。
ポリオレフィン樹脂(C)を主として含む基材は、エステル系基材と比較して耐熱性が高く、加熱溶融混練工程及び再生プラスチックの成形過程時において熱分解や加水分解等が起きにくいため、分子量を高く維持することができる。
更に、ポリオレフィン樹脂(C)を主として含むプラスチック基材として例えば、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、及びこれらを積層したフィルム等が好適に挙げられる。基材の厚みは特に限定されず、再生プラスチックの異物の低減及び引張強度向上の観点から、好ましくは5μm以上150μm以下であり、より好ましくは10μm以上70μm以下である。また、ヒートシール性を有するフィルムは好適に用いられ、CPPやヒートシール性OPP等がそれに該当する。
【0090】
ポリオレフィン樹脂(C)を主として含む基材としては、単純にポリオレフィン基材同士が積層されていてもよいし、ポリオレフィン基材とは異なる基材が積層されていてもよい。「ポリオレフィン基材とは異なる基材」は、ポリオレフィン基材と異なる性質を有するフィルムが挙げられ、種類を問わない。また、積層された基材である場合は接着層を含む形態であってもよい。プラスチックを積層させる方法は特に限定されず、共押出製法、熱融着、接着層を介した圧着等、従来公知の方法が挙げられる。
【0091】
基材は、帯電防止剤、防曇剤、紫外線防止剤等の添加剤を、塗工又は混錬により含む形態、易接着性コート層(例えばポリビニルアルコール及びその誘導体を含む層)を有する形態、基材の表面をコロナ処理あるいは低温プラズマ処理した形態、蒸着層、又はバリアコート層を有するバリア基材である形態等が好ましい。上記の添加や加工は、印刷インキや、その他コーティング剤の濡れ性を向上させる目的や、フィルムに特定の機能性を持たせる目的でも施され、例えば、湿気による包材の曇りを防止することで内容物の視認性に優れた包材を提供するのにも好適に用いられる。
【0092】
[印刷層]
印刷層は、装飾又は美感の付与;内容物、賞味期限、及び、製造者又は販売者の表示等を目的とした、任意の絵柄、パターン、文字、及び記号等を表示する層であることができる。印刷層は、絵柄、パターン、文字、及び記号等を有さないベタ印刷層であってもよい。印刷層の形成方法は特に制限されず、例えば着色剤及びバインダー樹脂を含む印刷インキを用いて形成することができる。また、印刷層は、単層構成でも複層構成でもよく、表層に設けられていてもよい。印刷層の厚みは、0.1~12g/m2であることが好ましく、0.5~6g/m2であることがより好ましく、1~3g/m2であることが更に好ましい。
【0093】
《印刷層に含まれるバインダー樹脂》
印刷層は、バインダー樹脂を含むことが好ましい。印刷層に含まれるバインダー樹脂とは、印刷層における結着樹脂をいう。印刷層に含まれるバインダー樹脂の例としては、以下に限定されるものではないが、ウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ロジン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ダンマル樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、ブチラール、ポリアセタール樹脂、石油樹脂、及びこれらの変性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。上記の中でも、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂以外の樹脂からなる群より選択される一種以上を含有することが好ましく、ウレタン樹脂、スチレン-アクリル樹脂を含有することがより好ましい。
【0094】
(印刷層に含まれるバインダー樹脂の塩素含有率)
バインダー樹脂の塩素含有率は、バインダー樹脂の質量を基準とした場合の塩素原子の含有率(質量%)である。印刷層に含まれるバインダー樹脂は、塩素含有率が0~5質量%であることが好ましく、0~3質量%であることがより好ましく、0~2質量%であることが更に好ましい。印刷層に含まれるバインダー樹脂の塩素含有率が上記範囲である場合、加熱溶融混練工程での塩素発生が抑制できるため、再生プラスチックの引張強度が良好となる。バインダー樹脂が含有する塩素の由来は、用いたエチレン性不飽和単量体自体が塩素原子を含む場合と、製造過程で塩素原子を含む化合物が混入した場合等がある。
【0095】
本発明において、樹脂の塩素含有率は、JISK0127(2013)に準拠して測定される。この測定方法では、燃焼法にて前処理を行ったサンプルをイオンクロマトグラフ法で定量する。
また、印刷層の塩素含有率は、印刷層を構成する各原料の塩素含有率から、以下の式により簡易的に算出することができる。その他各層においても同様である。
式:バインダー樹脂固形分総質量中の塩素含有率(%)=バインダー樹脂固形分総質量中の塩素の質量/バインダー樹脂の固形分総質量(%)
式:印刷層固形分総質量中の塩素含有率(%)=印刷層固形分総質量中の塩素の質量/印刷層の固形分総質量(%)
【0096】
《着色剤》
印刷層は、着色剤を含むことが好ましい。着色剤は顔料であることが好ましく、当該顔料は、有機顔料、無機顔料のいずれでも使用でき、着色剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。再生プラスチックの着色による品質劣化を考慮し、印刷層全質量中の着色剤の含有率は、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがなお好ましく、23質量%以下であることが更に好ましい。
【0097】
(有機顔料)
上記有機顔料としては、以下の例には限定されないが、溶性アゾ系、不溶性アゾ系、アゾ系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラキノン系、アンサンスロン系、ジアンスラキノニル系、アンスラピリミジン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、フラバンスロン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリン系、インダンスロン系、カーボンブラック系等の顔料が挙げられる。また、例えば、カーミン6B、レーキレッドC、パーマネントレッド2B、ジスアゾイエロー、ピラゾロンオレンジ、カーミンFB、クロモフタルイエロー、クロモフタルレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジオキサジンバイオレット、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンレッド、インダンスロンブルー、ピリミジンイエロー、チオインジゴボルドー、チオインジゴマゼンタ、ペリレンレッド、ペリノンオレンジ、イソインドリノンイエロー、アニリンブラック、ジケトピロロピロールレッド、昼光蛍光顔料等が挙げられる。
【0098】
(無機顔料)
無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛酸化クロム、アルミニウム粒子、マイカ(雲母)、ブロンズ粉、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、群青、紺青、ベンガラ、黄色酸化鉄、鉄黒、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、硫酸バリウム、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、アルミニウムはリーフィングタイプ又はノンリーフィングタイプがあるが、ノンリーフィングタイプが好ましい。
【0099】
《添加剤》
印刷層、又は印刷層形成に使用される印刷インキは、必要に応じて消泡剤、芳香剤、難燃剤、炭化水素ワックス、増粘剤、レベリング剤、分散剤、硬化剤、シランカップリング剤、可塑剤、赤外線吸収剤、及び紫外線吸収剤等の公知の添加剤を含むことができ、炭化水素ワックス、及び分散剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0100】
<印刷層の形成>
印刷層は、例えば、基材上に、印刷インキを用いて印刷した後、揮発成分を除去することによって形成することができる。印刷方法としてはグラビア印刷方式やフレキソ印刷方式が好適であり、例えば、グラビア印刷に適した粘度及び濃度にまで希釈溶剤で希釈され、単独で又は混合されて各印刷ユニットに供給され、印刷される。その後、オーブン等による乾燥によって被膜を定着させることで印刷層を得ることができる。
【0101】
<印刷インキの製造方法>
印刷層の形成に用いられる印刷インキは、例えば、顔料を樹脂等により分散機を用いて有機溶剤中に分散させ、得られた顔料分散体に樹脂、各種添加剤や有機溶剤等を混合して製造できる。分散機としては一般に使用される、例えばローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルを用いることができる。顔料分散体における顔料の粒度分布は、分散機の粉砕メディアのサイズ、粉砕メディアの充填率、分散処理時間、顔料分散体の吐出速度、顔料分散体の粘度等を適宜変更することにより、調整することができる。25℃における印刷インキの粘度は、顔料の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から10~1000mPa・s以下の範囲であることが好ましい。尚、上記粘度はトキメック社製B型粘度計で25℃において測定された粘度である。
【0102】
<ヒートシール層、基材、及び印刷層以外の層>
[表面保護層]
印刷物は、更に表面保護層を有してもよい。表面保護層は、基材のヒートシール層を具備した面の反対側に位置することが好ましい。
表面保護層の単位面積質量は、1.5~12g/m2であることが好ましく、より好ましくは3~8.4g/m2である。表面保護層はオーバーコート剤により形成することができ、形成方法は、グラビア印刷方式、フレキソ印刷方式等、公知の印刷方式から適宜選択でき、好ましくはグラビア印刷方式である。オーバーコート剤の粘度は、印刷適性等の観点から、20~200mPa・sであることが好ましい。本発明において、「オーバーコート剤」は、顔料等の着色剤を含有しないものを表すが、意図せず混入した僅かな着色剤を含むものを排除するものではない。
【0103】
(表面保護層に含まれるバインダー樹脂)
表面保護層は、バインダー樹脂を有することが好ましい。表面保護層に含まれるバインダー樹脂は、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ロジン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ダンマル樹脂、アルキッド樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、ブチラール、ポリアセタール樹脂、石油樹脂及びこれらの変性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。上記の中でも、セルロース系樹脂、スチレン-アクリル樹脂を含有することがより好ましい。
【0104】
《添加剤》
表面保護層、又は表面保護層形成に使用されるオーバーコート剤は、必要に応じて、例えば、可塑剤、アマイドワックス、炭化水素ワックス、キレート架橋剤等の任意の添加剤を含むことができる。
【0105】
<表面保護層の形成>
表面保護層は、例えば、基材上に印刷層が設けられた印刷物の印刷層上に、オーバーコート剤を用いて印刷した後、揮発成分を除去することによって形成することができる。印刷方法としてはグラビア印刷方式、フレキソ印刷方式が挙げられ、例えば、オーバーコート剤がグラビア印刷に適した粘度及び濃度にまで希釈溶剤で希釈され、単独で又は混合されて各印刷ユニットに供給され、塗布される。その後、オーブン等による乾燥によって被膜を定着させることで表面保護層を得ることができる。
【0106】
<オーバーコート剤の製造方法>
オーバーコート剤は、攪拌羽根、回転翼等を供えた攪拌機に、樹脂を溶剤に溶解又は分散させた樹脂溶液、溶剤を仕込み、混合、攪拌して得ることができる。撹拌速度としては特に制限されることはなく、50~2000rpmで行うことが可能である。オーバーコート剤の取り扱い、塗布性等の向上のために、さらに溶剤を適宜追加することもできる。
オーバーコート剤の粘度は、印刷適性等の観点から、50~300mPa・sであることが好ましい。
【0107】
[バリア層]
印刷物は、更に、バリア層を含んでもよい。バリア層は、印刷物にバリア性を付与することを目的に存在しており、バリア層は、光、磁気、各種気体等、バリアすべき対象が包装材を透過するのを制御するために存在し、バリア成分を含む。バリア層は、蒸着層であってもよく、バリアコート層であってもよい。
【0108】
(蒸着層)
印刷物がバリア層として蒸着層を有する場合、蒸着層は、蒸着膜を含むことが好ましく、蒸着層として、蒸着膜を有する基材、蒸着膜を有する中間基材、蒸着膜を有するシーラントからなる群より選ばれる一種以上を用いることが好ましい。印刷物が、蒸着膜を含む蒸着層を有することで、印刷物が、高いガスバリア性、具体的には、酸素バリア性及び水蒸気バリア性を有することに加え、印刷物を用いて作製した包装容器は、その内部に充填された内容物の質量の減少を抑制できる。
【0109】
蒸着膜は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の1種又は2種以上の無機物又は無機酸化物の蒸着膜とすることができる。蒸着膜は、2層以上の構成とすることができ、同一の材料によって構成されていても、異なる材料によって構成されていてもよい。
上記の中でも、密着性、及びガスバリア性の観点から、蒸着膜はアルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)又は酸化ケイ素(シリカ)により構成されることが好ましい。
【0110】
また、蒸着膜の厚さは、1nm以上150nm以下であることが好ましく、5nm以上60nm以下であることがより好ましく、10nm以上40nm以下であることがさらに好ましい。蒸着膜の厚さを1nm以上とすることにより、蒸着層の酸素バリア性及び水蒸気バリア性をより向上することができる。また、蒸着膜の厚さを150nm以下とすることにより、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物の発生を抑制できる。
【0111】
蒸着膜の形成方法としては、従来公知の方法を採用でき、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PhysicalVaporDeposition法、PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(ChエマルジョンicalVaporDeposition法、CVD法)等を挙げることができる。
【0112】
(バリアコート層)
印刷物がバリア層としてバリアコート層を有する場合、バリアコート層は、バリアコート剤により形成される。バリアコート層は、基材、中間基材、シーラント及び/又は印刷層に隣接していることが好ましい。これにより、印刷物の酸素バリア性及び水蒸気バリア性を向上することができる。
【0113】
バリアコート剤は、例えば、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、酢酸ビニル-塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、並びに(メタ)アクリル樹脂等のガスバリア性樹脂を含む、樹脂単体からなるバリアコート剤の他に、下記のような無機層状化合物と樹脂からなるバリアコート剤を用いることができる。
【0114】
無機層状化合物は、例えば、カオリナイト族、スメクタイト族、及びマイカ族等の粘土鉱物等であって、層状構造を有する結晶性の無機化合物である。これら無機層状化合物の種類、粒径、及びアスペクト比等は、適宜選択され、特に限定されるものでない。この中で、モンモリロナイト、ヘクトライト、及びサポナイト等のスメクタイト族が好適で、無機層状化合物の層間に樹脂を取り込み、複合体を形成し易い。特に、この族の中でも、モンモリロナイトは溶融状態での安定性、及び塗工性が最も優れている。
【0115】
また、無機層状化合物と樹脂からなるバリアコート剤に使用される樹脂は、前述の無機層状化合物の層間に取り込まれ易いものであれば特に限定されないが、水溶性高分子を用いることが好ましい。水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル樹脂及びアルギン酸ナトリウム等が挙げられる。特にポリビニルアルコール(PVA)を用いた場合にガスバリア性が最も優れる。
【0116】
また、バリアコート層は、さらに金属アルコキシドの加水分解・重縮合生成物を含有した組成としてもよい。この金属アルコキシドは、Mを金属、Rをアルキル基、及びnをアルコキシ基の配位数とした場合、下記一般式、M(OR)nで示される化合物である。Mが、Si、Ti、Ar及びZrからなる群より選ばれ、Rが、メチル基、エチル基から選ばれるのが好ましい。特に、テトラエトキシシラン〔Si(OC2H5)4〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-2’-C3H7)3〕等を用いると、アルコキシドの加水分解生成物が、水系の溶媒中で比較的安定に存在するために好ましい。
【0117】
上述した各成分を単独又はいくつかを組み合わせてバリアコート剤に加えることができ、さらにバリアコート剤のバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、あるいは分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤等公知の添加剤を加えることができる。
【0118】
バリアコート層は、上記材料を水又は適当な溶剤に、溶解又は分散させ、塗布、乾燥することにより形成することができる。また、市販されるバリアコート剤を塗布、乾燥することによってもバリアコート層を形成することができる。
【0119】
バリアコート剤の塗布方法には、通常用いられる、ディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、スプレー法等従来公知の手段が用いられる。
【0120】
バリアコート層の厚さは、0.01μm以上10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上3μm以下であることが更に好ましい。バリアコート層の厚さを0.01μm以上とすることにより、印刷物の酸素バリア性及び水蒸気バリア性を向上させることができる。バリアコート層の厚さを10μm以下とすることにより、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物を低減でき、更に引張強度に優れる。
【0121】
<印刷物の塩素含有率>
印刷物に含有されることのあるハロゲン元素によって、再生プラスチック製造時にハロゲンガスや酸性ガスである塩化水素が発生し、設備が損傷する、又は人体の健康が脅かされる恐れがある。そのうえ、発生したガスにより、シリンダー中の圧力が変化し、押出量、及び/又は押出圧力が一定にならず、再生プラスチックの形状や寸法が不規則になる恐れがある。再生プラスチック製造時に気泡が発生した場合、製造された再生プラスチックを用いて、成形品を製造する際に、表面に凹凸が発生しやすく、成形品の表面状態が悪化する恐れがある。そのため、印刷物において、塩素含有率が、印刷物の全質量中、0.4質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがなお好ましい。
【0122】
《印刷物の塩素含有率測定方法》
本発明において、印刷物の塩素含有率は、JISK0127(2013)に準拠して測定される。この測定方法では、燃焼法にて前処理を行ったサンプルをイオンクロマトグラフ法で定量する。
【0123】
<印刷物のメルトマスフローレイト(MFR)>
印刷物のメルトマスフローレイト(MFR)の測定は、辺の長さが5mm~10mmとなるように破砕して実施される。本発明におけるMFRは、JISK7210に準拠し、温度190℃、圧力2.6kgfの条件で測定される値である。印刷物のMFRとして好ましくは0.5~15g/10分であり、より好ましくは1.0~14g/10分であり、更に好ましくは3~13g/10分である。印刷物のMFRが上記範囲である場合、加熱溶融混練工程での流動性が向上するため、押出し開始直後及び連続押出し後におけるやけの発生を抑制できる。
【0124】
<印刷物中の顔料の含有率>
印刷物中の顔料の含有率は、印刷物100質量%中、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることが更に好ましい。印刷物中の顔料の含有率上記範囲である場合、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物の発生を抑制できる。
【0125】
<印刷物中のバインダー樹脂の含有率>
印刷物中のバインダー樹脂の含有率は、印刷物100質量%中、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。印刷物中のバインダー樹脂の含有率が上記範囲である場合、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物の発生を抑制できる。
【0126】
[再生プラスチック]
上述した再生プラスチックの製造方法を用いて、印刷物から再生プラスチックを得ることができる。再生プラスチックは、印刷層由来の顔料、バインダー樹脂を含み得る。また、加熱溶融混練工程で添加した添加剤を含んでもよい。
【0127】
<再生プラスチック中の顔料の含有率>
再生プラスチック中の顔料の含有率は、再生プラスチック100質量%中、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることが更に好ましい。再生プラスチック中の顔料の含有率が上記範囲である場合、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物の発生を抑制できる。
【0128】
<再生プラスチック中のバインダー樹脂の含有率>
再生プラスチック中のバインダー樹脂の含有率は、再生プラスチック100質量%中、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。再生プラスチック中のバインダー樹脂の含有率が上記範囲である場合、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後における異物の発生を抑制できる。
【0129】
<再生プラスチック中の酸化防止剤の含有率>
再生プラスチック中の酸化防止剤の含有率は、再生プラスチック100質量%中、0.01~5質量%であることが好ましく、0.01~3質量%であることがより好ましく、0.05~1質量%であることが更に好ましく、0.1~0.5質量%であることが特に好ましい。再生プラスチック中の酸化防止剤の含有率が上記範囲である場合、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後におけるやけの発生を抑制できる。
【0130】
<再生プラスチック中の相溶化剤の含有率>
再生プラスチック中の相溶化剤の含有率は、再生プラスチック100質量%中、0.01~3質量%であることが好ましく、0.05~0.5質量%であることがより好ましい。再生プラスチック中の相溶化剤の含有率が上記範囲である場合、再生プラスチックの押出し開始直後及び連続押出し後におけるやけの発生を抑制できる。
【0131】
<再生プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)>
再生プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)は、成形時の温度、冷却スピード等の、熱履歴に大きな影響を受ける。再生プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)は、印刷物の構成及びリサイクル方法等によるが、0.5~20g/10分であることが好ましく、3~15g/10分であることがより好ましい。再生プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)が上記範囲である場合、押出し開始直後及び連続押出し後におけるやけの発生を抑制でき、更に様々な成形に適する。本発明の製造方法は、熱履歴を変更することにより、再生プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)を調整する工程を含むことも好ましい。再生プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)の測定は、前述の印刷物のメルトマスフローレイト(MFR)の測定と同様の方法で実施される。
【0132】
<成形品>
本発明により得られた再生プラスチックを成形することで、成形品を得ることができる。成形方法としては特に制限されず、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、及び圧縮成形が挙げられる。成形品は、家電製品、文房具、自動車部品、おもちゃ、スポーツ用品、医療用品、及び建築・建設資材等、様々な用途に用いることができる。
【0133】
《フィルム成形》
得られた再生プラスチックは、例えば、加熱溶融させて、Tダイと呼ばれるスリット状の装置を用いて押出し、フィルム状に成形した後、冷却ロールで冷却して固化させ、フィルム成形体を得ることができる。加熱溶融温度は100~210℃であることが好ましい。フィルム成形体の厚みは10~300μmが好ましい。
【実施例0134】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明における部及び%は、特に注釈の無い場合、質量部及び質量%を表す。
【0135】
(水酸基価)
水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数であり、JIS K 0070に記載された方法で測定した。
【0136】
(酸価)
酸価は、試料1g中に含有する遊離脂肪酸、樹脂酸等を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数であり、JIS K 0070に記載された方法で測定した。
【0137】
(アミン価)
アミン価は、試料1g中に含有するアミノ基を中和するのに必要とする塩酸の当量と同量の水酸化カリウムのmg数であり、JIS K 0070に準拠して測定した。試料を0.5~2g精秤し(試料固形分:Sg)、精秤した試料にメタノール/メチルエチルケトン=60/40(質量比)の混合溶液50mLを加え溶解させた。得られた溶液に指示薬としてブロモフェノールブルーを加え、得られた溶液を0.2mol/Lエタノール性塩酸溶液(力価:f)で滴定を行なった。溶液の色が緑から黄に変化した点を終点とし、この時の滴定量(AmL)を用い、下記式によりアミン価を求めた。
(式)アミン価=(A×f×0.2×56.108)/S[mgKOH/g]
【0138】
(質量平均分子量)
質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー株式会社製HLC-8220)を用いて分子量分布を測定し、ポリスチレンを標準物質に用いた換算分子量として求めた。下記に測定条件を示す。
カラム:下記カラムを直列に連結して使用した。
東ソー株式会社製TSKgelSuperAW2500
東ソー株式会社製TSKgelSuperAW3000
東ソー株式会社製TSKgelSuperAW4000
東ソー株式会社製TSKgelguardcolumnSuperAWH
検出器:RI(示差屈折計)
測定条件:カラム温度40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
【0139】
(ガラス転移点(Tg))
ガラス転移点は、示差走査熱量測定測定(DSC)により求めた。測定は、株式会社リガク製DSC8231を使用し、測定温度範囲-70~250℃、昇温速度10℃/分の
条件で行った。DSC曲線におけるガラス転移に基づくベースラインシフトの中点(変曲点)をガラス転移点とした。
【0140】
(塩素含有率)
塩素含有率は、JIS K0127(2013)に準拠して測定した。透明基板上に、インキ又はバインダー樹脂をそれぞれ2.0μmになるように塗布し塗膜を形成し、80℃で乾燥させ、0.5g削り取った。削り取った塗膜を燃焼法にて前処理を行い、得られたサンプルの塩素含有量を、イオンクロマトグラフィー(島津製作所製LC-20ADsp)で定量し、塩素含有率を求めた。なお、印刷物の塩素含有率に関しては、印刷物0.5gを切り出し、燃焼法にて前処理したものをサンプルとして使用した以外は、上記と同様の方法で求めた。
【0141】
(メルトマスフローレイト(MFR)の測定)
MFRは、JIS K 7210-1:2014に記載された方法で、温度190℃、圧力2.6kgfの条件で測定した。印刷物のMFRの測定は、辺の長さが5mm~10mmとなるように破砕して実施した。
【0142】
(水分量測定方法)
水分量は、JIS K 0068(2001)に準拠して測定した。以下に測定機器及び試薬を示す。
測定機器:カールフィッシャー水分測定計MKC-710D(京都電子工業社製)
:水分気化装置ADP-611(京都電子工業社製)
カールフィッシャー試薬:ケムアクア水標準 1(京都電子工業社製)
【0143】
(ポリオレフィン樹脂(A)含有率の算出)
印刷物中のポリオレフィン樹脂(A)含有率について、以下の式を用いて算出した。
式:(印刷物中のポリオレフィン樹脂(A)質量)/(印刷物の質量)×100
より具体的には、以下の式を適用した。
式:印刷物の1m2あたりの樹脂質量[g]=(基材厚み)×(基材密度)+(バリア層の塗工量)+(印刷層の塗工量)+(ヒートシール層の塗工量)
式:印刷物中のポリオレフィン樹脂(A)質量[g]=(基材厚み)×(基材密度)+(ヒートシール層の塗工量)×(ヒートシール層中のポリオレフィン比率)
式:印刷物中のポリオレフィン樹脂(A)含有率[%]=(印刷物中のポリオレフィン樹脂質量)/(印刷物の1m2あたりの質量)×100
なお、印刷物が、バリア層等上記に記載のない層を有する場合は、該当する層の塗工量とポリオレフィン比率とを、計算式に追加して算出することができる。
【0144】
実施例で使用した基材厚み及び基材密度は以下の通りである。
・コロナ処理二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(厚み40μm) 密度:0.91g/cm3
・コロナ処理二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(厚み60μm) 密度:0.91g/cm3
・高密度ポリエチレンフィルム(HDPE)フィルム(厚み40μm) 密度:0.94g/cm3
・リニア低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム(厚み150μm) 密度:0.91g/cm3
・ナイロン(NY)フィルム(厚み15μm) 密度:1.15g/cm3
【0145】
(樹脂合成)
<合成例1>ウレタン樹脂PU1
3-メチル1,5ペンタンジオール(MPD)とセバシン酸(SA)の縮合物である、数平均分子量2,000のポリエステルポリオール(以下「MPD/SA」)100部、1,4-ブタンジオール(以下「1,4-BD」)1部、イソホロンジイソシアネート(以下「IPDI」)28.5部及び酢酸エチル32.1部を混合して、窒素雰囲気下で90℃、5時間反応させて、末端イソシアネートのウレタンプレポリマーを得た。
次いで、イソホロンジアミン(以下「IPDA」)11.0部、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン(以下「AEA」)1.0部、ジブチルアミン(以下「DBA」)1.0部及び混合溶剤1(酢酸エチル/イソプロパノール=70/30(質量比))298.1部を攪拌混合し、得られた末端イソシアネートのウレタンプレポリマーを40℃で徐々に添加した。
80℃で1時間反応させ、固形分30質量%、アミン価6.5mgKOH/g、水酸基価3.8mgKOH/g、質量平均分子量50,000のウレタン樹脂PU1の溶液を得た。ウレタン樹脂PU1の塩素含有率は0質量%である。
【0146】
<調製例1>ヒートシール剤HS1の調製
アクリル樹脂エマルジョンAC1(BASF社製 JONCRYL PDX7356、酸価:78mgKOH/g、ガラス転移温度:25℃、固形分:50%) 91.7部、水/イソプロピルアルコール混合溶剤(質量比率1:1) 8.2部、BYK-024(BYK社製、消泡剤) 0.1部となるように添加、撹拌混合してヒートシール剤HS1を得た。
<調製例2~4>ヒートシール剤HS2~4の調製
表1に記載した原料及び配合比を使用した以外は調製例1と同様の方法で、ヒートシール剤HS2~4を得た。なお、使用した原料の性状は以下の通りである。
・ポリエチレン樹脂エマルジョンPE1(三井化学社製、ケミパールS500、アイオノマー樹脂、固形分:50%)
・エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンEVA1(住友化学社製、スミカフレックス S-400HQ、最低造膜温度:0℃、ガラス転移温度:0℃、ビニルアルコール樹脂系乳化剤、固形分:50%)
・ポリ乳酸樹脂エマルジョンPL1(ミヨシ油脂社製、PL-3000、固形分50%)
【0147】
【0148】
<調製例5> 印刷インキY1
ウレタン樹脂PU1溶液40部、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)溶液15部、C.I.ピグメントブルー15:3(トーヨーカラー社製、製品名:LIONOL BLUE FG-7330、塩素含有率0質量%、硝化度0質量%)5部、シリカ粒子(親水性シリカ、平均粒子径3.0μm、比表面積300m2/g)0.8部、n-プロピルアセテート/イソプロパノール=70/30(質量比)の混合溶剤33.4部を混合し、ビーズミルで20分間分散して顔料分散体を得た。得られた顔料分散体に、塩素化ポリプロピレン溶液0.8部、プロピレングリコールモノメチルエーテル 3.5部、及び水1.5部を攪拌混合し、印刷インキY1を得た。
【0149】
<調製例6及び7、比較調製例1> 印刷インキY2~4
表2に記載した原料及び配合比を使用した以外は、調製例5と同様の方法で、印刷インキY2~4を得た。なお、使用した原料の性状は以下の通りである。
・PVB溶液:ビニルアルコール単位、酢酸ビニル単位及びビニルブチラール単位を有し、ブチラール環基を73質量%含むポリビニルブチラール樹脂(ガラス転移点70℃、質量平均分子量50,000、塩素含有率0質量%、硝化度0質量%)の酢酸エチル/イソプロパノール=1/1混合溶剤による固形分30%溶液
・塩化ビニル-酢酸ビニル溶液:塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂(日信化学社製 ソ
ルバインTA3、塩素含有率47.1質量%、硝化度0質量%)の固形分30%酢酸エチル溶液
・塩素化ポリプロピレン溶液:固形分30%、固形分中の塩素含有率30%、溶媒:酢酸エチル
【0150】
【0151】
<調製例8>ニトロセルロース樹脂溶液NC1の調整
ニトロセルロースnc1(NV.70%(溶剤:イソプロピルアルコール)、質量平均分子量:10,000、溶液濃度25質量%における粘度:2秒、ガラス転移温度:155℃)59.6部を、酢酸エチル33.6部とイソプロピルアルコール33.6部に混合溶解させて、固形分30%のニトロセルロース樹脂溶液(NC1)を得た。
【0152】
<調製例9>ポリアミド樹脂溶液PA1の調整
ポリアミド樹脂pa1(築野食品工業社製、製品名ベジケムグリーン725、NV.100%、ガラス転移温度50℃、質量平均分子量8,000)30部、及びイソプロピルアルコール70部を仕込み、窒素気流下に50℃で2時間溶解し、固形分30%のポリアミド樹脂溶液(PA1)を得た。
【0153】
<調製例10>オーバーコート剤Z1の調整
ニトロセルロース樹脂溶液NC1を13.5部、ポリアミド樹脂溶液PA1を52.1部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル 1.9部、ヘキサメンレンビスオレイン酸アミド 3部、ポリエチレンワックス 8.3部、酢酸エチル/酢酸プロピル/イソプロパノール混合溶剤(質量比率=1/1/1) 14部、メチルシクロヘキサン/メチルプロピレングリコール混合溶剤(質量比率=1/1) 6.3部、水 0.9部を攪拌混合し、オーバーコート剤Z1を得た。
【0154】
<調製例11>バリアコート剤V1の調整
ポリビニルアルコール系樹脂PVA1(クラレ社製、エクセバールAQ-4104、エチレンビニルアルコール樹脂、エチレン含有率:6モル%、固形分質量%=100%) 6部、混合溶剤(水/IPA=8/2) 92部を攪拌しながら加熱し、95℃で1時間、加熱攪拌を継続し、その後、加熱を停止して、常温に戻るまで攪拌を継続し、ポリビニルアルコール系樹脂PVA1水溶液を得た。前記ポリビニルアルコール樹脂PVA1水溶液にモンモリロナイト(膨潤性、平均粒子径:2μm、アスペクト比:500、比表面積:13.1m2/g、粒子厚み:1nm、粒子広がり:500nm、固形分質量%=100%) 2部を加え、混合攪拌することで、バリアコート剤V1を得た。
【0155】
(印刷物の製造例)
<製造例1>印刷物A1
基材であるコロナ処理二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム(厚み40μm)のコロナ処理された面上に対し、版深50μmのグラビア版を備えたグラビア印刷機を用いて、印刷速度50m/分、インラインオーブン70℃の条件下で、基材全面にヒートシール剤HS1を2度印刷してヒートシール層を形成し、ヒートシール層/基材の構成である中間印刷物a1を得た。
次に、印刷インキY1及びオーバーコート剤Z1を酢酸エチル:イソプロピルアルコール=7:3(質量比)の混合溶剤で希釈し、それぞれザーンカップ#3(離合社製)25℃で15秒になるよう粘度を調整した。また、バリアコート剤V1を水:イソプロピルアルコール=1:1(質量比)の混合溶剤で希釈し、ザーンカップ#3(離合社製)25℃で16秒になるよう粘度を調整した。
中間印刷物a1における、基材のヒートシール層とは反対の面に対し、版深30μmのグラビア版を備えたグラビア印刷機を用いて、印刷速度50m/分、インラインオーブン60℃の条件下で、希釈したバリアコート剤V1を二度印刷してバリア層を形成し、次に、バリア層上に、版深30μmのグラビア版を備えたグラビア印刷機を用いて、印刷速度50m/分、インラインオーブン60℃の条件下で、希釈した印刷インキY1を印刷して印刷層を形成した。次に、印刷層上に、版深30μmのグラビア版を備えたグラビア印刷機を用いて、印刷速度50m/分、インラインオーブン60℃の条件下で、オーバーコート剤Z1を印刷し、ヒートシール層/バリア層/基材/印刷層/表面保護層の構成である印刷物A1を得た。
【0156】
<製造例2~11、比較製造例1~3>印刷物A2~14
表3に記載した原料及び層構成に変更した以外は、製造例1と同様の方法で、印刷物A2~15を得た。
【0157】
【0158】
(再生プラスチックの製造)
<実施例1>《再生プラスチックB1及びBB1の製造》
印刷物A1 100kgを、カッターミル(西村機械製作所製、U-210)2cm×2cmのサイズに破砕し、水洗した後に、遠心脱水機(岩槻機械製作所製、YDK-FS型)で脱水を行い、更に水分量が0.5%になるまで、熱風乾燥した。
上記工程を経て得られた印刷物A1、Irganox1010(フェノール系酸化防止剤)、及びユーメックス1010(無水マレイン酸変性ポリプロピレン系相溶化剤)を二軸押出機(日本製鋼所製、スクリュー径:34mm、シリンダー内壁とスクリューとの最小間隙距離:0.4mm)に投入し、スクリュー回転数200rpm、230℃、押出流量20Kg/hで30秒にわたって溶融、混練した。
なお、印刷物A1 100質量%の印刷物A1に対するIrganox1010の添加量は、0.2質量%となるように調整した。また、100質量%の印刷物A1に対するユーメックス1010の添加量は、0.15質量%となるように調整した。
【0159】
その後、120メッシュのスクリーンメッシュを使用し、押出装置の吐出部から押出した。押出し開始直後における吐出部の圧力は2MPaであった。押出した樹脂組成物を直ぐにペレタイザーでカットし、冷水に浸水させて冷却した。このようにして、印刷物A1からリサイクルされた、ペレット形状の再生プラスチックB1を得た。
再生プラスチックB1を得た後は、再生プラスチックB1の製造条件で、5時間(ロングラン)運転を継続し、5時間経過時における、押出した樹脂組成物を直ぐにペレタイザーでカットし、冷水に浸水させて冷却した。5時間の連続押出し後の吐出部の圧力は4MPaであった。このようにして、印刷物A1からロングランでリサイクルされた、ペレット形状の再生プラスチックBB1を得た。
【0160】
<実施例2~24、比較例1~4>再生プラスチックB2~B28、BB2~28
表5に記載された原料及び条件に従い、再生プラスチックB1及びBB1の製造工程と同様にしてB2~B27、BB2~BB27をそれぞれ得た。なお、使用した原料は以下の通りである。
・Irganox1010:フェノール系酸化防止剤(BASF社製)
・Irgafos168:リン酸系酸化防止剤(BASF社製)
・Irganox PS 800FL:硫黄系酸化防止剤(BASF社製)
・ノラックCD:アミン系酸化防止剤(大内新興化学工業社製)
・ユーメックス1001:無水マレイン酸変性ポリプロピレン系相溶化剤(三洋化成工業社製、融点:142℃)
・ボンドファーストE:エチレン-グリシジルメタクリレート系共重合体系相溶化剤(住友化学社製、融点:103℃)
・ボンドファースト-7L:エチレン-グリシジルメタクリレート系共重合体系相溶化剤(住友化学社製、融点:60℃)
・ボンドファースト-7M:エチレン-グリシジルメタクリレート系共重合体系相溶化剤(住友化学社製、融点:52℃)
なお、回転数1100rpmは、せん断速度に換算すると、4900sec-1である。
【0161】
[再生プラスチックの評価]
上記実施例及び比較例で得られたペレット状の再生プラスチックを、それぞれTダイ押出機を用いて、230℃で押出成形し、厚み50μmのフィルム状の成形体を作製した。当該フィルム状成形体を用いて、下記の評価を行った。
<異物評価>
得られたフィルム状成形体について、0.5m2あたりの目視(およそ100μm以上)で判別可能な異物の個数をカウントし、以下の基準で評価した。評価結果を表4に示す。なお、A、B、Cが実用上問題ない範囲である。
A(良):異物の数が50個未満
B(可):異物の数が50個以上100個未満
C(可):異物の数が100個以上200個未満
D(不良):異物の数が200個以上
【0162】
<やけ評価>
得られたフィルム状成形体について、目視で判別可能なやけについて、以下の基準で評価した。評価結果を表4に示す。なお、A、B、Cが実用上問題ない範囲である。
A(良):やけ物なし(色の変化なし)
B(可):やや、やけ物がみられる(一部薄茶色に変色箇所がみられる)
C(可):やけ物がみられる(複数個所又は全体的に薄茶色に変色箇所がみられる)
D(不良):やけ物が多くみられる(黒色や茶色の異物や変色箇所がみられる)
【0163】
<引張強度評価>
得られたフィルム状成形体を幅10mm、長さ160mmに切り出し、引張試験機(東洋精機社製)を用いて、JIS K7127:1999に準拠した方法で測定を行い、下記基準にて評価した。評価結果を表4に示す。なお、A、B、Cが実用上問題ない範囲である。
《引張強度試験条件》
引張速度:300mm/分、引張方向:長さ方向
《引張強度評価基準》
A:引張強度が5MPa以上
B:引張強度が3MPa以上、5MPa未満
C:引張強度が1MPa以上、3MPa未満
D:引張強度が1MPa未満
【0164】
【0165】
上記結果から、比較例1は、押出装置の吐出部から圧力が18MPa超であったため、連続押出し後のやけ評価が不良であった。比較例2は、ヒートシール層を含まないため、連続押出し後の異物評価及びやけ評価が不良であった。比較例3は、印刷物中の塩素含有率が、印刷物の全質量中0.4質量%超であったため、引張強度が不良であった。比較例4は、印刷物中のオレフィン含有率が、印刷物全質量中80質量%未満であったため、押出開始直後の異物評価及び引張強度、並びに連続押出し後の異物評価が不良であった。
一方実施例は、印刷物が、ヒートシール層、基材及び印刷層を含み、印刷物中の塩素含有率が、印刷物全質量0.4質量%以下であり、印刷物中のオレフィン含有率が、印刷物全質量中80質量%以上であり、押出装置の吐出部からの圧力が18MPa以下であるため、引張強度に優れ、押出し開始直後及び連続押出し後における異物及びやけの少ない再生プラスチックを得ることができた。