(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169140
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
G06F 15/78 20060101AFI20241128BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G06F15/78 517
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086359
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】物部 魁士
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】池谷 美香
【テーマコード(参考)】
3D333
5B062
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB44
3D333CD56
3D333CE11
5B062AA03
5B062CC05
5B062HH03
(57)【要約】
【課題】終了時処理の完了を待って起動処理を実行する場合と比較して、起動を早めることができるようにした車両用制御装置を提供する。
【解決手段】起動スイッチ22がオフ状態とされると、PU10は、終了時処理を実行する。終了時処理の実行中に起動スイッチ22が再度オン状態とされると、オン状態とされた旨を、PU10は、他のマイコンに通知する。PU10は、過半数のマイコンにおいてオン状態が検知される場合、終了時処理を中止して起動処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を制御する複数の制御回路を備え、
複数の前記制御回路は、
電源信号がオン状態からオフ状態に切り替えられる場合に前記制御回路がオフ状態となるのに先立って、所定期間、オン状態を保持する終了時処理と、
前記終了時処理の実行中に、前記電源信号がオン状態となったことを検知する検知処理と、
前記検知処理によってオン状態となったことを検知した前記制御回路が複数の前記制御回路のうちの一部のみである場合、前記検知処理によって前記オン状態となったことが検知された前記制御回路が、前記終了時処理が完了したか否かとは独立に予め定められた条件を満たす場合に起動する起動処理と、を実行するように構成されている車両用制御装置。
【請求項2】
前記予め定められた条件は、複数の前記制御回路のうちの過半数の前記制御回路によって前記オン状態となったことが検知される旨の条件を含む請求項1記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記予め定められた条件は、複数の前記制御回路のうちの前記オン状態となったことが検知された前記制御回路と前記オン状態となったことが検知されていない前記制御回路とが混在する状態の継続時間が所定時間以上となる旨の条件を含む請求項1記載の車両用制御装置。
【請求項4】
複数の前記制御回路は、4個の前記制御回路であり、
前記予め定められた条件は、第1条件および第2条件の論理積が真となる条件を含み、
前記第1条件は、複数の前記制御回路のうちの2個以上の前記制御回路において前記オン状態となったことが検知された旨の条件であり、
前記第2条件は、前記継続時間が所定時間以上となる旨の条件である請求項3記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記制御対象は、運転者の操舵の意思が入力される操舵部の操作に対して反力を付与する反力アクチュエータと、転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータと、を含み、
4個の前記制御回路は、前記反力アクチュエータを操作する2個の反力用制御回路と、前記転舵アクチュエータを操作する2個の転舵用制御回路と、からなり、
2個の前記反力用制御回路は、第1系統反力用制御回路と、第2系統反力用制御回路とからなり、
2個の前記転舵用制御回路は、第1系統転舵用制御回路と、第2系統転舵用制御回路とからなり、
前記第1条件は、前記第1系統反力用制御回路および前記第2系統反力用制御回路の2つのうちの少なくとも1つと、前記第1系統転舵用制御回路および前記第2系統転舵用制御回路の2つのうちの少なくとも1つとにおいて前記オン状態となったことが検知された旨の条件を含む請求項4記載の車両用制御装置。
【請求項6】
前記第1系統反力用制御回路は、前記第2系統反力用制御回路および前記第1系統転舵用制御回路と通信線で接続されて且つ、前記第2系統転舵用制御回路とは通信線で接続されておらず、
前記第2系統反力用制御回路は、前記第1系統反力用制御回路および前記第2系統転舵用制御回路と通信線で接続されて且つ、前記第1系統転舵用制御回路とは通信線で接続されておらず、
前記第1条件は、前記第1系統反力用制御回路および前記第1系統転舵用制御回路において前記オン状態となったことが検知された旨の条件、または、前記第2系統反力用制御回路および前記第2系統転舵用制御回路において前記オン状態となったことが検知された旨の条件である請求項5記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、転舵輪の転舵をアシストするモータのステータコイルに通電するための2系統の制御回路を備える装置が記載されている。この装置は、システムの起動スイッチがオフ状態に切り替わった後、所定の終了時処理を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の終了時処理の実行中に起動スイッチが再度オン状態に切り替わる場合、終了時処理の完了を待って起動状態に移行したのでは、起動が遅れる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.制御対象を制御する複数の制御回路を備え、複数の前記制御回路は、電源信号がオン状態からオフ状態に切り替えられる場合に前記制御回路がオフ状態となるのに先立って、所定期間、オン状態を保持する終了時処理と、前記終了時処理の実行中に、前記電源信号がオン状態となったことを検知する検知処理と、前記検知処理によってオン状態となったことを検知した前記制御回路が複数の前記制御回路のうちの一部のみである場合、前記検知処理によって前記オン状態となったことが検知された前記制御回路が、前記終了時処理が完了したか否かとは独立に予め定められた条件を満たす場合に起動する起動処理と、を実行するように構成されている車両用制御装置。
【0006】
上記構成では、電源信号がオン状態となったことを検知した制御回路は、終了時処理の完了とは独立に定められた条件を満たす場合に起動処理を実行する。これにより、終了時処理の完了を待って起動処理を実行する場合と比較して、起動を早めることができる。
【0007】
2.前記予め定められた条件は、複数の前記制御回路のうちの過半数の前記制御回路によって前記オン状態となったことが検知される旨の条件を含む上記1記載の車両用制御装置。
【0008】
上記構成では、過半数の制御回路がオン状態を検知することを条件に含めることにより、電源信号が実際にオン状態に切り替わった確実性が高い場合に起動処理を実行できる。
3.前記予め定められた条件は、複数の前記制御回路のうちの前記オン状態となったことが検知された前記制御回路と前記オン状態となったことが検知されていない前記制御回路とが混在する状態の継続時間が所定時間以上となる旨の条件を含む上記1または2記載の車両用制御装置。
【0009】
複数の制御回路のそれぞれがオン状態を検知するタイミングにはずれが生じうる。そのため、上記の予め定められた条件においてこのずれを考慮しない場合には、一部の制御回路によって起動処理が実行された直後にオン状態を検知する制御回路が生じうる。そしてその場合、遅れてオン状態を検知した制御回路がオン状態を検知するまで実行していた終了時処理の結果が、起動処理を実行した制御回路に影響を及ぼすなどの不都合が生じる懸念がある。
【0010】
そこで上記構成では、上記混在する状態の継続時間が所定時間以上となる旨の条件を、上述の予め定められた条件に含める。この所定時間を、複数の制御回路のそれぞれがオン状態を検知するタイミングに生じうるずれ程度とすることにより、上述の問題が生じることを抑制できる。
【0011】
4.複数の前記制御回路は、4個の前記制御回路であり、前記予め定められた条件は、第1条件および第2条件の論理積が真となる条件を含み、前記第1条件は、複数の前記制御回路のうちの2個以上の前記制御回路において前記オン状態となったことが検知された旨の条件であり、前記第2条件は、前記継続時間が所定時間以上となる旨の条件である上記3記載の車両用制御装置。
【0012】
上記第1条件によれば、電源信号が実際にオン状態に切り替わった確実性が高い場合に起動処理を実行できる。ただし、第1条件が成立する場合に直ちに起動処理を実行する場合、一部の制御回路によって起動処理が実行された直後にオン状態を検知する制御回路が生じうる。そこで、上記構成では、第2条件を設けることでそうした事態が生じることを抑制できる。
【0013】
5.前記制御対象は、運転者の操舵の意思が入力される操舵部の操作に対して反力を付与する反力アクチュエータと、転舵輪を転舵させる転舵アクチュエータと、を含み、4個の前記制御回路は、前記反力アクチュエータを操作する2個の反力用制御回路と、前記転舵アクチュエータを操作する2個の転舵用制御回路と、からなり、2個の前記反力用制御回路は、第1系統反力用制御回路と、第2系統反力用制御回路とからなり、2個の前記転舵用制御回路は、第1系統転舵用制御回路と、第2系統転舵用制御回路とからなり、前記第1条件は、前記第1系統反力用制御回路および前記第2系統反力用制御回路の2つのうちの少なくとも1つと、前記第1系統転舵用制御回路および前記第2系統転舵用制御回路の2つのうちの少なくとも1つとにおいて前記オン状態となったことが検知された旨の条件を含む上記4記載の車両用制御装置。
【0014】
上記構成では、反力アクチュエータを操作する制御回路と、転舵アクチュエータを操作する制御回路と、の双方がオン状態を検知することを起動処理の実行条件とする。これにより、起動処理によって、反力アクチュエータと転舵アクチュエータとの双方が制御回路によって操作可能となる。
【0015】
6.前記第1系統反力用制御回路は、前記第2系統反力用制御回路および前記第1系統転舵用制御回路と通信線で接続されて且つ、前記第2系統転舵用制御回路とは通信線で接続されておらず、前記第2系統反力用制御回路は、前記第1系統反力用制御回路および前記第2系統転舵用制御回路と通信線で接続されて且つ、前記第1系統転舵用制御回路とは通信線で接続されておらず、前記第1条件は、前記第1系統反力用制御回路および前記第1系統転舵用制御回路において前記オン状態となったことが検知された旨の条件、または、前記第2系統反力用制御回路および前記第2系統転舵用制御回路において前記オン状態となったことが検知された旨の条件である上記5記載の車両用制御装置。
【0016】
上記構成では、反力アクチュエータを操作する制御回路と、転舵アクチュエータを操作する制御回路と、の互いに同一系統の制御回路がオン状態を検知した場合に起動処理を実行する。そのため、反力アクチュエータを操作する制御回路と、転舵アクチュエータを操作する制御回路と、のそれぞれについての起動処理を実行した制御回路同士が互いに通信可能な状態となる。そのため、起動処理後に、反力アクチュエータを操作する制御回路と、転舵アクチュエータを操作する制御回路と、が互いに通信をしつつ制御を実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態にかかる車両の操舵制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】同実施形態にかかる各制御回路が実行する処理の手順を示す流れ図である。
【
図3】同実施形態にかかる効果を示すタイムチャートである。
【
図4】同実施形態の比較例にかかる効果を示すタイムチャートである。
【
図5】同実施形態にかかる効果を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「前提構成」
図1に、本実施形態にかかる車両の操舵制御システムの構成を示す。本実施形態では、操舵系として、ステアリングホイールと転舵輪との動力の伝達経路が遮断されている、いわゆるステアバイワイヤシステムを想定している。
【0019】
バッテリ20は、車両の電子機器への電力の供給源である。バッテリ20は、主電源ラインLbを介して電力を供給可能とするとともに、起動スイッチ22および起動時ラインLigを介して電力を供給可能とする。起動スイッチ22は、車両を走行可能とするスイッチである。起動スイッチ22は、車両のユーザの操作によってオン状態、およびオフ状態のいずれか一方から他方へと切り替えられる。車両が内燃機関を備える場合、起動スイッチ22は、イグニッションスイッチであってもよい。また、車両がモータジェネレータを備える場合、起動スイッチ22は、モータジェネレータに接続されるインバータと高電圧バッテリとの間のシステムメインリレーのオン・オフに連動するスイッチであってもよい。
【0020】
第1反力制御回路100は、反力アクチュエータ80を操作することによって、制御対象であるステアリング軸に加わるトルクを制御する装置である。反力アクチュエータ80は、ステアリングホイールの操作に抗する力である反力を付与するアクチュエータである。反力アクチュエータ80は、反力モータを備えており、反力モータのトルクによって反力が生成される。なお、反力アクチュエータ80は、ステアリング軸を含むものとする。そのため、反力アクチュエータ80は、第1反力制御回路100の制御対象と見なせる。
【0021】
第1反力制御回路100は、インバータ110および第1反力マイコン120を備えている。インバータ110は、反力アクチュエータ80が備えるモータの端子に交流電圧を印加する。第1反力マイコン120は、ステアリングホイールに加わる反力を制御すべく、インバータ110を操作する。
【0022】
第1反力マイコン120には、ダイオード32を介して起動時ラインLigの電圧が印加される。ダイオード32は、バッテリ20側をアノード側として且つ、第1反力マイコン120側をカソード側とする。また、第1反力マイコン120には、ダイオード30を介して起動スイッチ22を介すことなくバッテリ20の端子電圧が印加される。ダイオード40は、バッテリ20側をアノード側として且つ、第1反力マイコン120側をカソード側とする。第1反力マイコン120は、起動スイッチ22およびダイオード32のアノード間の電圧を検出ラインLdを介してモニタ可能に構成されている。
【0023】
第2反力制御回路200は、反力アクチュエータ80を操作することによって、制御対象であるステアリング軸に加わるトルクを制御する装置である。第2反力制御回路200は、インバータ210および第2反力マイコン220を備えている。インバータ210は、反力アクチュエータ80が備えるモータの端子に交流電圧を印加する。なお、インバータ110とインバータ210とは、一例として、ロータを共有する反力モータの互いに異なるステータコイルに交流電圧を印加する。第2反力マイコン220は、ステアリングホイールに加わる反力を制御すべく、インバータ210を操作する。
【0024】
第2反力マイコン220には、ダイオード42を介して起動時ラインLigの電圧が印加される。ダイオード42は、バッテリ20側をアノード側として且つ、第2反力マイコン220側をカソード側とする。また、第2反力マイコン220には、ダイオード40を介して起動スイッチ22を介すことなくバッテリ20の端子電圧が印加される。ダイオード40は、バッテリ20側をアノード側として且つ、第2反力マイコン220側をカソード側とする。なお、第2反力マイコン220は、起動スイッチ22およびダイオード42のアノード間の電圧を検出ラインLdを介してモニタ可能に構成されている。
【0025】
第1転舵制御回路300は、転舵アクチュエータ82を操作することによって、制御対象であるラック軸の変位量を制御する装置である。転舵アクチュエータは、転舵輪を転舵させるアクチュエータである。転舵アクチュエータは、転舵モータを備えており、転舵モータのトルクによって転舵輪を転舵させる。なお、転舵アクチュエータ82は、ラック軸を含む。そのため、転舵アクチュエータ82は、第1転舵制御回路300の制御対象と見なせる。
【0026】
第1転舵制御回路300は、インバータ310および第1転舵マイコン320を備えている。インバータ310は、転舵アクチュエータ82が備えるモータの端子に交流電圧を印加する。第1転舵マイコン320は、転舵輪を制御すべく、インバータ310を操作する。
【0027】
第1転舵マイコン320には、ダイオード52を介して起動時ラインLigの電圧が印加される。ダイオード52は、バッテリ20側をアノード側として且つ、第1転舵マイコン320側をカソード側とする。また、第1転舵マイコン320には、ダイオード50を介して起動スイッチ22を介すことなくバッテリ20の端子電圧が印加される。ダイオード50は、バッテリ20側をアノード側として且つ、第1転舵マイコン320側をカソード側とする。なお、第1転舵マイコン320は、起動スイッチ22およびダイオード52のアノード間の電圧を検出ラインLdを介してモニタ可能に構成されている。
【0028】
第2転舵制御回路400は、転舵アクチュエータ82を操作することによって、制御対象であるラック軸の変位量を制御する装置である。第2転舵制御回路400は、インバータ410および第2転舵マイコン420を備えている。インバータ410は、転舵アクチュエータ82が備えるモータの端子に交流電圧を印加する。なお、インバータ310とインバータ410とは、一例として、ロータを共有する転舵モータの互いに異なるステータコイルに交流電圧を印加する。第2転舵マイコン420は、転舵輪を制御すべく、インバータ410を操作する。
【0029】
第2転舵マイコン420には、ダイオード62を介して起動時ラインLigの電圧が印加される。ダイオード62は、バッテリ20側をアノード側として且つ、第2転舵マイコン420側をカソード側とする。また、第2転舵マイコン420には、ダイオード60を介して起動スイッチ22を介すことなくバッテリ20の端子電圧が印加される。ダイオード60は、バッテリ20側をアノード側として且つ、第2転舵マイコン420側をカソード側とする。第2転舵マイコン420は、起動スイッチ22およびダイオード62のアノード間の電圧を検出ラインLdを介してモニタ可能に構成されている。
【0030】
第1反力マイコン120と第2反力マイコン220とは、通信線70によって通信可能となっている。また、第1転舵マイコン320と第2転舵マイコン420とは、通信線72によって通信可能となっている。第1反力マイコン120と第1転舵マイコン320とは、第1通信線74によって通信可能となっている。第2反力マイコン220と第2転舵マイコン420とは、第2通信線76によって通信可能となっている。
【0031】
第1反力マイコン120、第2反力マイコン220、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420は、いずれもPU10およびメモリ12を備えている。PU10は、CPU、GPU、およびTPU等のソフトウェア処理装置である。
【0032】
「起動スイッチ22のオン、オフ時の処理」
図2に、起動スイッチ22がオン状態とオフ状態との2つの状態の一方から他方に切り替わる場合に関する処理の手順を示す。この処理は、第1反力マイコン120、第2反力マイコン220、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420のそれぞれのPU12がメモリ12に記憶されたプログラムをたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0033】
図2に示す一連の処理において、PU10は、まず、フラグFが「1」であるか否かを判定する(S10)。フラグFは、「1」である場合に、起動スイッチ22がオフ状態となっていることを示す。フラグFは、「0」である場合に、起動スイッチ22がオン状態となっていることを示す。PU10は、フラグFが「0」であると判定する場合(S10:NO)、IG信号がオン状態からオフ状態に切り替わったか否かを判定する(S12)。IG信号は、起動スイッチ22のオン状態とオフ状態とを切り替える信号である。S12の処理は、PU10が、検出ラインLdの電圧を入力として実行すればよい。
【0034】
PU10は、IG信号がオン状態からオフ状態に切り替わったと判定する場合(S12:YES)、フラグFに「1」を代入する(S14)。そして、PU10は、終了時処理を実行する(S16)。終了時処理は、一例として、基板の温度の推定値が所定温度以下となるまで、同推定値を更新する処理である。ここで、基板は、インバータ110、インバータ210、インバータ310およびインバータ410のうちの該当するものが実装される基板であってもよい。
【0035】
次に、PU10は、IG信号がオン状態となったか否かを判定する(S24)。S24の処理は、PU10が、検出ラインLdの電圧を入力として実行すればよい。PU10は、IG信号がオンとなったと判定する場合(S24:YES)、その旨を通知する処理を実行する(S26)。
【0036】
ここで、第1反力マイコン120のPU10は、通信線70および第1通信線74に、オン状態となった旨の信号を出力する。すなわち、第1反力マイコン120のPU10は、第2反力マイコン220および第1転舵マイコン320にオン状態となった旨を通知する。また、第2反力マイコン220のPU10は、通信線70及び第2通信線76に、オン状態となった旨の信号を出力する。すなわち、第2反力マイコン220のPU10は、第1反力マイコン120および第2転舵マイコン420にオン状態となった旨を通知する。
【0037】
また、第1転舵マイコン320のPU10は、通信線72及び第1通信線74に、オン状態となった旨の信号を出力する。すなわち、第1転舵マイコン320のPU10は、第1反力マイコン120および第2転舵マイコン420にオン状態となった旨を通知する。また、第2転舵マイコン420のPU10は、通信線72及び第2通信線76に、オン状態となった旨の信号を出力する。すなわち、第2転舵マイコン420のPU10は、第2反力マイコン220および第1転舵マイコン320にオン状態となった旨を通知する。
【0038】
上記処理によって、第1反力マイコン120のPU10は、第2反力マイコン220からオン状態となった旨の通知を受けると、その旨を第1転舵マイコン320に通知する。また、第2反力マイコン220のPU10は、第1反力マイコン120からオン状態となった旨の通知を受けると、その旨を第2転舵マイコン420に通知する。第1転舵マイコン320のPU10は、第2転舵マイコン420からオン状態となった旨の通知を受けると、その旨を第1反力マイコン120に通知する。また、第2転舵マイコン420のPU10は、第1転舵マイコン320からオン状態となった旨の通知を受けると、その旨を第2反力マイコン220に通知する。
【0039】
PU10は、S26の処理を完了する場合、自分および自分以外の2以上のマイコンによって、オン状態となったことが検知されたか否かを判定する(S28)。PU10は、S28の処理において肯定判定する場合、終了時処理を中止する(S32)。
【0040】
たとえば、第1反力マイコン120、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420がオン状態となったことを検知する場合、オン状態となったことを検知したマイコンの数は、3個である。その場合、第1反力マイコン120、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420のそれぞれのPU10は、終了時処理を中止する。
【0041】
そしてPU10は、起動処理を実行する(S34)。起動処理は、反力アクチュエータ80の操作および転舵アクチュエータ82の操作を可能とするための前処理である。起動処理は、一例として、マイコンのイニシャルチェック処理と、操舵角と転舵角との整合処理とを含む。整合処理は、単一のマイコンによって実現するものではなく、反力アクチュエータ80を操作するマイコンと転舵アクチュエータ82を操作するマイコンとの通信によって実現する処理である。また、起動処理には、操舵角のゼロ点を調整する処理、および転舵角のゼロ点を調整する処理を含めてもよい。
【0042】
一方、PU10は、S28の処理において否定判定する場合(S28:NO)、以下の条件Aおよび条件Bの論理積が真であるか否かを判定する(S30)。
条件A:自分および自分と同一系統のマイコンにおいて、オン状態となったことが検知された旨の条件である。
【0043】
条件B:条件Aが成立してから所定時間が経過した旨の条件である。ここで、所定時間は、配線遅延のばらつき等によって、オン状態を検知するタイミング等に生じうる時間差に応じて設定されている。たとえば、所定時間は、全てのマイコンが正常である場合に、S28の処理において全てのマイコンによって肯定判定されるタイミングに生じる時間差以上に設定すればよい。
【0044】
PU10は、上記論理積が真であると判定する場合(S30:YES)、S32の処理に移行する。
一方、PU10は、フラグFが「1」であると判定する場合(S10:YES)、終了時処理を完了したか否かを判定する(S18)。PU10は、終了時処理が未だ完了していないと判定する場合(S18:NO)、S16の処理に移行する。一方、PU10は、終了時処理を完了したと判定する場合(S18:YES)、マイコンをシャットダウンする(S20)。なお、S20の処理は、他のマイコンとシャットダウンするタイミングを同期させる処理であってもよい。
【0045】
PU10は、S34の処理を完了する場合、フラグFに「0」を代入する(S22)。なお、PU10は、S20,S22の処理を完了する場合と、S12,S24,S30の処理において否定判定する場合と、には、
図2に示す一連の処理を一旦終了する。
【0046】
「本実施形態の作用および効果」
図3に、終了時処理の完了前にIG信号がオンに切り替わる場合の処理を例示する。
図3において、第1反力マイコン120、第2反力マイコン220、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420を、それぞれ系統1反力、系統2反力、系統1転舵、および系統2転舵と記載している。
図3には、第2反力マイコン220に異常が生じることにより、IG信号がオンに切り替わったことを第2反力マイコン220が検知できない例を示す。
【0047】
図3に示すように、終了時処理を実行している期間における時刻t1にIG信号がオンに切り替わると、第1反力マイコン120、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420のそれぞれのPU10によって、その旨が検知される(S24:YES)。そして、第1反力マイコン120、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420のそれぞれのPU10は、S26,S28の処理を実行する。そして、第1反力マイコン120、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420のそれぞれのPU10は、S28の処理において肯定判定する場合、時刻t2に、終了時処理を中止して(S32)且つ、起動処理を実行する(S34)。
【0048】
これにより、第1反力マイコン120のPU10は、反力アクチュエータ80を操作可能な状態となるよう準備する。また、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420のPU10は、転舵アクチュエータ82を操作可能な状態となるように準備する。
【0049】
これに対し、
図4に、終了時処理の完了を待って起動処理を実行する場合を示す。この場合、起動処理の実行が遅れるため、反力アクチュエータ80および転舵アクチュエータ82が操作可能な状態となるまでに要する時間が長くなる。
【0050】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1)
図5に、終了時処理の完了前にIG信号がオンに切り替わる場合の処理の別の例を示す。
図5には、第2反力マイコン220および第2転舵マイコン420に異常が生じることにより、それらによってIG信号がオンに切り替わったことを検知できない例を示す。
【0051】
図5に示すように、終了時処理を実行している期間における時刻t1にIG信号がオンに切り替わると、第1反力マイコン120および第1転舵マイコン320のそれぞれのPU10によって、その旨が検知される(S24:YES)。そして、第1反力マイコン120および第1転舵マイコン320のそれぞれのPU10は、S26~S30の処理を実行する。そして、第1反力マイコン120および第1転舵マイコン320のそれぞれのPU10は、S30の処理において肯定判定する場合、終了時処理を中止して(S32)且つ、起動処理を実行する(S34)。
【0052】
このように、反力アクチュエータ80を操作するマイコンと、転舵アクチュエータ82を操作するマイコンとについて同一系統のマイコンがIG信号のオン状態を検知することを条件に、起動処理を実行する。ただし、その際には、所定時間が経過していることを条件とする。そのため、配線遅延等によって、オン状態を検知するタイミングがわずかに遅れたマイコンや、S26の処理による通知結果が他のマイコンに到達するタイミングがわずかに遅れたマイコンがある場合に、そのマイコンと起動処理を同期させることができる。
【0053】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]制御対象は、反力アクチュエータ80および転舵アクチュエータ82に対応する。制御回路は、第1反力制御回路100、第2反力制御回路200、第1転舵制御回路300および第2転舵制御回路400に対応する。電源信号は、IG信号に対応する。終了時処理は、S16の処理に対応する。検知処理は、S24の処理に対応する。起動処理は、S34の処理に対応する。[2]S28の処理に対応する。[3]S30の処理に対応する。[4~6]第1条件は、S30の処理における条件Aに対応する。第2条件は、S30の処理における条件Bに対応する。
【0054】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0055】
「予め定められた条件について」
・S28の処理において、条件Bが成立するか否かの判定を加えてもよい。換言すれば、S28の処理において、自分および自分以外の2以上のマイコンによってオン状態となったことが検知される旨の条件と条件Bとの論理積が真となるか否かを判定してもよい。
【0056】
・S30の処理において、条件Aおよび条件Bの論理積が真であるか否かを判定する代わりに、条件Aが成立するか否かを判定してもよい。換言すれば、条件Bを削除してもよい。
【0057】
・たとえば第1反力制御回路100および第2転舵制御回路400を接続する通信線と、第2反力制御回路200および第1転舵制御回路300を接続する通信線とを備える場合、条件Aを次の条件Cに変更してもよい。
【0058】
条件C:第1反力マイコン120および第2反力マイコン220のいずれかと、第1転舵マイコン320および第2転舵マイコン420のいずれかとにおいてオン状態が検知された旨の条件である。
【0059】
「複数系統について」
・反力アクチュエータ80を操作する制御回路を冗長化する手法としては、モータのステータコイルを互いに独立の複数のステータコイルとする手法に限らない。たとえば、モータ自体を複数備えて且つ、それら各モータに接続される制御回路を互いに別の回路としてもよい。
【0060】
・転舵アクチュエータ82を操作する制御回路を冗長化する手法としては、モータのステータコイルを互いに独立の複数のステータコイルとする手法に限らない。たとえば、モータ自体を複数備えて且つ、それら各モータに接続される制御回路を互いに別の回路としてもよい。
【0061】
「複数の制御回路について」
・複数の制御回路の数が4個であることは必須ではない。たとえば、反力アクチュエータ80を操作する制御回路の系統の数と、転舵アクチュエータ82を操作する制御回路の系統の数とを、ともに3個以上としてもよい。
【0062】
・反力アクチュエータ80を操作する制御回路の系統の数と、転舵アクチュエータ82を操作する制御回路の系統の数とが、同数となることは必須ではない。たとえば、反力アクチュエータ80を操作する制御回路が1系統であって、転舵アクチュエータ82を操作する制御回路を2系統備えてもよい。
【0063】
・操舵系としては、ステアバイワイヤに限らない。たとえばステアリングホイールの操作をアシストする電動パワーステアリング装置であってもよい。その場合、アシストモータの制御回路が複数存在する場合に、上記要領で起動処理を実行すればよい。
【0064】
・制御回路の制御対象が、操舵系のアクチュエータであることは必須ではない。
【符号の説明】
【0065】
20…バッテリ
22…起動スイッチ
70…通信線
72…通信線
74…第1通信線
76…第2通信線
80…反力アクチュエータ
82…転舵アクチュエータ
100…第1反力制御回路
110…インバータ
120…第1反力マイコン
200…第2反力制御回路
210…インバータ
220…第2反力マイコン
300…第1転舵制御回路
310…インバータ
320…第1転舵マイコン
400…第2転舵制御回路
410…インバータ
420…第2転舵マイコン