(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169149
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】エンジンの燃焼室構造
(51)【国際特許分類】
F02B 23/10 20060101AFI20241128BHJP
F02M 61/14 20060101ALI20241128BHJP
F02M 59/20 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
F02B23/10 R
F02B23/10 S
F02M61/14 310E
F02M61/14 310S
F02M59/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086370
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽平
(72)【発明者】
【氏名】中原 康志
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
【テーマコード(参考)】
3G023
3G066
【Fターム(参考)】
3G023AA07
3G023AB01
3G023AC05
3G066AA02
3G066BA02
3G066CC26
3G066CC30
(57)【要約】
【課題】直噴構造のエンジンにおいて燃焼室内における燃料と空気のミキシングを促進させてより均一な火炎伝搬を行うことが可能な燃焼室構造を提供する。
【解決手段】点火プラグ10の点火部10aは、シリンダの中心軸に沿った断面視において、シリンダ13の中心軸C1よりも排気側Y2にオフセットした位置に配置されている。インジェクタ11の燃料噴射部11aは、シリンダ13の中心軸C1よりも吸気側Y1にオフセットした位置に配置されている。燃料噴射部11aは、燃料を噴霧する複数の噴霧口11b、11cを備え、かつ、排気側Y2へ向けた燃料噴霧量を吸気側Y1へ向けた燃料噴霧量よりも多くなるように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの冠面と、前記ピストンが摺動可能に収容されるシリンダの内壁面と、シリンダヘッドに形成された天井面とによって区画される燃焼室と、
前記天井面に配置され、前記燃焼室内に燃料を噴霧する燃料噴射部と、
前記天井面に配置され、前記燃焼室内において前記燃料と空気との混合気に点火して火炎伝搬燃焼を実現させる点火部と、
を備え、
前記天井面には、前記燃焼室に吸気を供給する吸気ポートの開口と、前記燃焼室から排気を排出する排気ポートの開口とが形成されているエンジンの燃焼室構造であって、
前記吸気ポートが配設される側を吸気側、前記排気ポートが配設される側を排気側とするとき、
前記点火部は、シリンダの中心軸に沿った断面視において、前記シリンダの中心軸よりも前記排気側にオフセットした位置に配置され、
前記燃料噴射部は、シリンダの中心軸に沿った断面視において、前記シリンダの中心軸よりも前記吸気側にオフセットした位置に配置され、
前記燃料噴射部は、前記燃料を噴霧する複数の噴霧口を備え、かつ、前記排気側へ向けた燃料噴霧量を前記吸気側へ向けた燃料噴霧量よりも多くなるように構成されている、
エンジンの燃焼室構造。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの燃焼室構造において、
前記複数の噴霧口は、前記燃料噴射部の中心軸の周囲に、当該中心軸よりも排気側の噴霧口の数が吸気側の噴霧口の数よりも多くなるように配置されている、
エンジンの燃焼室構造。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの燃焼室構造において、
前記排気側の前記噴霧口は、前記燃料噴射部の中心軸から見た平面視において前記燃料噴射部の中心軸および前記点火部の中心軸とそれぞれ交差するように延びる直線状の仮想線を避けた位置に配置されている、
エンジンの燃焼室構造。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンの燃焼室構造において、
前記排気側の前記噴霧口は、前記仮想線の両側において当該仮想線を挟んで互いに対称となる位置にそれぞれ配置されている、
エンジンの燃焼室構造。
【請求項5】
請求項2に記載のエンジンの燃焼室構造において、
前記吸気側の前記噴霧口は、前記燃料噴射部の中心軸および前記点火部の中心軸とそれぞれ交差するように前記天井面に沿って延びる仮想線に沿う位置を含む複数の位置に分散して配置されている、
エンジンの燃焼室構造。
【請求項6】
請求項5に記載のエンジンの燃焼室構造において、
前記吸気側の前記噴霧口は、前記仮想線に沿う位置と、前記仮想線の両側において当該仮想線を挟んで互いに対称となる位置にそれぞれ分散して配置されている、
エンジンの燃焼室構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造において、
前記燃料噴射部は、前記シリンダの中心軸に対して吸気側へ傾斜して配置され、
前記燃料噴射部の中心軸に対する排気側の噴霧角度は、吸気側の噴霧角度よりも大きい、
エンジンの燃焼室構造。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造において、
前記ピストンの前記冠面は、湾曲した凹形状のキャビティを有する、
エンジンの燃焼室構造。
【請求項9】
請求項2~6のいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造において、
前記燃料噴射部の中心軸よりも排気側には、前記噴霧口が4つ配置され、吸気側には前記噴霧口が3つ配置されている、
エンジンの燃焼室構造。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載のエンジンの燃焼室構造において、
前記点火部は、当該点火部の中心軸が前記シリンダの中心軸に対して平行になるように配置されている、
エンジンの燃焼室構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料を燃焼室内に直接噴霧するエンジンの燃焼室構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インジェクタおよび点火プラグが配置され、燃料をインジェクタから燃焼室内部に直接噴霧する直噴構造のエンジンが広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インジェクタおよび点火プラグが共通のケーシングに収容された状態で燃焼室の天井面に配置されたエンジンが開示されている。インジェクタは、燃料を燃焼室の内部に均一に噴霧させるためにエンジンの各シリンダ(気筒)の中心軸の延長線上に配置されている。点火プラグは、インジェクタに対して吸気側(吸気ポートが配置されている側)に傾斜して配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような直噴構造のエンジンでは、シリンダの中心軸の延長線上に配置されたインジェクタから燃料を燃焼室内部に均一に噴霧させることはできるが、高圧縮比化や燃費向上の観点から、燃焼室内における噴霧された燃料と空気のミキシングをさらに促進させてより均一な火炎伝搬を行うためにさらなる改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、燃料噴射部および点火部を備えた直噴構造のエンジンにおいて、燃焼室内における燃料と空気のミキシングを促進させてより均一な火炎伝搬を行うことが可能なエンジンの燃焼室構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエンジンの燃焼室構造は、ピストンの冠面と、前記ピストンが摺動可能に収容されるシリンダの内壁面と、シリンダヘッドに形成された天井面とによって区画される燃焼室と、前記天井面に配置され、前記燃焼室内に燃料を噴霧する燃料噴射部と、前記天井面に配置され、前記燃焼室内において前記燃料と空気との混合気に点火して火炎伝搬燃焼を実現させる点火部と、を備え、前記天井面には、前記燃焼室に吸気を供給する吸気ポートの開口と、前記燃焼室から排気を排出する排気ポートの開口とが形成されているエンジンの燃焼室構造であって、前記吸気ポートが配設される側を吸気側、前記排気ポートが配設される側を排気側とするとき、前記点火部は、シリンダの中心軸に沿った断面視において、前記シリンダの中心軸よりも前記排気側にオフセットした位置に配置され、前記燃料噴射部は、シリンダの中心軸に沿った断面視において、前記シリンダの中心軸よりも前記吸気側にオフセットした位置に配置され、前記燃料噴射部は、前記燃料を噴霧する複数の噴霧口を備え、かつ、前記排気側へ向けた燃料噴霧量が前記吸気側へ向けた燃料噴霧量よりも多くなるように構成されている。
【0008】
かかる構成によれば、点火部は、シリンダの中心軸に沿った断面視において、シリンダの中心軸よりも排気側にオフセットした位置に配置され、それに対し、燃料噴射部は、シリンダの中心軸よりも吸気側にオフセットした位置に配置されている。燃料噴射部は、燃料を噴霧する複数の噴霧口を備え、かつ、排気側へ向けた燃料噴霧量を吸気側へ向けた燃料噴霧量よりも多くなるように構成されている。したがって、吸気側にオフセットした燃料噴射部から排気側へ向けて吸気側よりも多くの燃料を噴霧することにより、排気側にオフセットした点火部へ多くの燃料を直接噴霧することが可能になる。それとともに、吸気側に噴霧された燃料もピストン冠面に沿って吸気ポートからの吸気とともに点火部へ送られる。これにより、排気側の点火部近傍では噴霧後の霧状の燃料、すなわち、噴霧燃料が濃くなり、燃焼室内における噴霧燃料と空気のミキシングを促進させてより均一な火炎伝搬を行うことが可能になる。
【0009】
上記のエンジンの燃焼室構造において、前記複数の噴霧口は、前記燃料噴射部の中心軸の周囲に、当該中心軸よりも排気側の噴霧口の数が吸気側の噴霧口の数よりも多くなるように配置されているのが好ましい。
【0010】
複数の噴霧口を上記のように配置することにより簡単な構造で排気側への噴霧量を確実に多くすることが可能である。
【0011】
上記のエンジンの燃焼室構造において、前記排気側の前記噴霧口は、前記燃料噴射部の中心軸から見た平面視において前記燃料噴射部の中心軸および前記点火部の中心軸とそれぞれ交差するように延びる直線状の仮想線を避けた位置に配置されているのが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、排気側の噴霧口から噴霧された噴霧燃料が排気側の点火部に付着すること(いわゆるプラグ濡れ)を回避しながら、噴霧燃料を点火部周辺に拡散させることが可能である。
【0013】
上記のエンジンの燃焼室構造において、前記排気側の前記噴霧口は、前記仮想線の両側において当該仮想線を挟んで互いに対称となる位置にそれぞれ配置されているのが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、排気側の噴霧口から噴霧された噴霧燃料が排気側の点火部に付着すること(プラグ濡れ)を回避しながら、噴霧燃料を点火部周辺に均等に拡散させることができるので、噴霧燃料と空気の混合気を点火位置の近傍に広く輸送することが可能である。
【0015】
上記のエンジンの燃焼室構造において、前記吸気側の前記噴霧口は、前記燃料噴射部の中心軸および前記点火部の中心軸とそれぞれ交差するように前記天井面に沿って延びる仮想線に沿う位置を含む複数の位置に分散して配置されているのが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、吸気側の噴霧口から吸気側へ噴霧された燃料は吸気ポートの開口から吸入された空気と衝突することにより噴霧燃料と空気とのミキシング(混合)が促進され、ミキシング後の混合気を排気側の点火部へ効率良く送ることが可能になる。
【0017】
上記のエンジンの燃焼室構造において、前記吸気側の前記噴霧口は、前記仮想線に沿う位置と、前記仮想線の両側において当該仮想線を挟んで互いに対称となる位置にそれぞれ分散して配置されているのが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、吸気側の噴霧口から吸気側へ噴霧された燃料は吸気ポートの開口から吸入された空気と衝突することにより噴霧燃料と空気とのミキシングが促進され、ミキシング後の混合気を排気側の点火部へ効率良く送ることが可能になる。しかも、仮想線の両側の吸気側の噴霧量を均等にすることが可能になるので、より均等に拡散した混合気を点火部へ送ることが可能になる。
【0019】
上記のエンジンの燃焼室構造において、前記燃料噴射部は、前記シリンダの中心軸に対して吸気側へ傾斜して配置され、前記燃料噴射部の中心軸に対する噴霧角度は、排気側の噴霧角度の方が吸気側の噴霧角度よりも大きいのが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、排気側の噴霧燃料を燃焼室の天井面に沿う方向に噴霧させるとともに、吸気側の噴霧燃料を燃料室の底面を構成するピストンの冠面へ向けて下向きに噴霧させることが可能になる。これにより、排気側の噴霧燃料を燃焼室の天井面における前記点火部近傍に集めて点火部近傍の噴霧燃料を濃くし、それとともに吸気側の噴霧燃料を下向きに噴霧させて冠面に沿って流すことにより噴霧燃料と吸入吸気とのミキシングが促進される。
【0021】
上記のエンジンの燃焼室構造において、前記ピストンの前記冠面は、湾曲した凹形状のキャビティを有するのが好ましい。
【0022】
かかる構成によれば、吸気側の噴霧燃料を吸入吸気とのミキシングを促進しながら、凹形状のキャビティに沿って前記点火部側へ誘導することが可能である。
【0023】
上記のエンジンの燃焼室構造において、前記燃料噴射部の中心軸よりも排気側には、前記噴霧口が4つ配置され、吸気側には前記噴霧口が3つ配置されているのが好ましい。
【0024】
かかる構成によれば、前記点火部側に噴霧燃料を集め易くなる。
【0025】
上記のエンジンの燃焼室構造において、前記点火部は、当該点火部の中心軸が前記シリンダの中心軸に対して平行になるように配置されているのが好ましい。
【0026】
かかる構成によれば、前記点火部近傍の混合気への火炎伝播が容易となる。すなわち、燃焼室の天井面から点火部を起点として発生した火炎を燃焼室内部全体に均等に伝搬させることが可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明のエンジンの燃焼室構造によれば、直噴構造のエンジンにおいて燃焼室内における燃料と空気のミキシングを促進させてより均一な火炎伝搬を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係るエンジンの燃焼室構造が適用される直列多気筒の縦置きエンジンの本体が備える1つのシリンダの構造を示す図であって、ピストンが上死点の位置にあるときの燃焼室付近の断面図である。
【
図2】
図1のピストンが上死点から離れている位置にあるときの燃焼室付近の断面図である。
【
図3】
図1のシリンダヘッドにおける各シリンダの燃焼室の天井面を下方から見た図であって、吸気弁、排気弁、点火プラグ、およびインジェクタの配置を示す図である。
【
図5】
図3のインジェクタの燃料噴射部の複数の噴霧口の配置を示す図である。
【
図6】
図1のインジェクタの燃料噴射部の複数の噴霧口から噴霧される複数の噴霧燃料の方向を示す図である。
【
図7】
図1のインジェクタの燃料噴射部の吸気側の噴霧口および排気側の噴霧口からそれぞれ噴霧される噴霧燃料の噴霧角度を示す図である。
【
図8】
図1のインジェクタの燃料噴射部の吸気側の噴霧口および排気側の噴霧口からそれぞれ噴霧される噴霧燃料の燃焼室内で広がる状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明に係るエンジンの燃焼室構造が適用される直列多気筒の縦置きエンジンのエンジン本体1が備える1つのシリンダ13の構造を示す図であって、ピストン4が上死点の位置にあるときの燃焼室5付近の断面図である。
図2は、
図1のピストン4が上死点から離れている位置にあるときの燃焼室5付近の断面図である。
図3は、
図1のシリンダヘッド3における各シリンダ13の燃焼室5の天井面5aを下方から見た図であって、吸気弁8、排気弁9、点火プラグ10、およびインジェクタ11の配置を示す図である。
図4は、
図1のピストン4の平面図である。
【0030】
図1~2には、直列多気筒の縦置きエンジンのエンジン本体1における各シリンダ13の構造が示されている。シリンダ13の内壁面は、シリンダライナ14によって構成されている。ピストン4は、シリンダライナ14に対して摺動可能に、シリンダ13内に収容されている。
【0031】
なお、
図1~2及び他の図には、XYZの方向表示が付されているZ方向はシリンダ13の中心軸C1に沿う方向(各図における上下方向)、X方向はエンジン本体1の前後方向(気筒配列方向)、Y方向はZ方向及びX方向の双方と直交する方向に各々相当する。以下の説明において、吸気ポート6が配設される側という意味において吸気側(IN側;Y1)、排気ポート7が配設される側という意味において排気側(EX側;Y2)、シリンダ13の中心軸C1上の上側、下側との意味において上方Z1、下方Z2ということがある。
【0032】
燃焼室5は、シリンダ13の内壁面(シリンダライナ14)と、ピストン4の冠面4aと、シリンダヘッド3の底面に形成された燃焼室5の天井面5a(吸気弁8及び排気弁9の各バルブ面を含む)とによって区画されている。天井面5aは、上向きに凸のペントルーフ型の形状を有する天井面である。ペントルーフ型の天井面5aには、吸気ポート6の開口と、排気ポート7の開口とが形成されている。
【0033】
図1~2および
図4に示されるピストン4は、その上面として、燃焼室5の壁面の一部(底面)を構成する冠面4aを有する。冠面4aの中央領域には、回転楕円体の曲面を有するように湾曲した凹形状のキャビティ4bが形成されている。また、冠面4aにおけるキャビティ4bに対して前後方向Xの両側には、燃焼室5の天井面5aに向かって突出する一対の凸部4cが形成されている。
【0034】
点火プラグ10は、その下端に点火部10aを有する。点火プラグ10は、燃焼室5の天井面5aから点火部10aが燃焼室5の天井面5aから燃焼室5内へ突出するように、シリンダヘッド3に上下方向Zに組み付けられている。天井面5aに配置された点火部10aは、ピストン4が上死点付近に到達したタイミングで燃焼室5内において燃料と空気との混合気に点火して火炎伝搬燃焼を実現させる。
【0035】
図1~3に示されるように、点火部10aを含む点火プラグ10は、シリンダ13の中心軸C1に沿った断面視(すなわち、
図1のようにシリンダ13の中心軸C1を通るとともにY方向に切断した断面)において、シリンダ13の中心軸C1よりも排気側Y2にオフセットした位置に配置される。
【0036】
また、点火部10aを含む点火プラグ10は、当該点火プラグ10の中心軸C2がシリンダ13の中心軸C1に対して平行になるように配置されている。
【0037】
インジェクタ11は、その下端に燃料噴射部11aを有する。インジェクタ11は、燃料噴射部11aが天井面5aから燃焼室5に臨むようにシリンダヘッド3に組み付けられている。天井面5aに配置された燃料噴射部11aは、ピストン4が上死点付近でかつ点火プラグ10の点火直前のタイミングで燃焼室5内に燃料を噴霧する。
【0038】
図1~3に示されるように、燃料噴射部11aを含むインジェクタ11は、シリンダ13の中心軸C1に沿った断面視において、シリンダ13の中心軸C1よりも吸気側Y1にオフセットした位置に配置される。
【0039】
図5~6に示されるように、燃料噴射部11aは、燃料を噴霧する複数の噴霧口11b、11cを備え、かつ、排気側Y2へ向けた燃料噴霧量を吸気側Y1へ向けた燃料噴霧量よりも多くなるように構成されている。
【0040】
具体的には、複数の噴霧口11b、11cは、インジェクタ11の中心軸C3の周囲に、当該中心軸C3よりも排気側Y2の噴霧口11bの数を吸気側Y1の噴霧口11cの数よりも多くなるように配置されている。
【0041】
さらに具体的には、
図5~6に示される燃料噴射部11aでは、インジェクタ11の中心軸C3よりも排気側Y2に噴霧口11bが4つ配置され、吸気側Y1には噴霧口11cが3つ配置されている。これにより、
図5~6に示されるように、排気側Y2の4個の噴霧口11bから排気側Y2へ噴霧される4本の噴霧燃料S1は、インジェクタ11の中心軸C3と交差してX方向に延びる線L2(すなわち、後述の仮想線L1に直交する線)よりも排気側Y2の領域に多く拡散し、当該領域に配置されている点火プラグ10の点火部10aの周辺に多く拡散される。一方、吸気側Y1の3個の噴霧口11cから吸気側Y1へ噴霧される3本の噴霧燃料S2は、線L2よりも吸気側Y1の領域に拡散し、吸気ポート6から燃焼室5に吸収された空気と混合した後に混合気が排気側Y2の点火部10aへ送られる。
【0042】
なお、本実施形態では、排気側Y2の噴霧口11bおよび吸気側Y1の噴霧口11cは、いずれも同じ口径を有し、かつ、同じ噴霧量になるように設定されているが、口径および噴霧量を変えることにより燃料噴射部11aを排気側Y2の燃料噴霧量を吸気側Y1の燃料噴霧量よりも多くなる構成にしてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、
図5~6に示されるように、排気側Y2の4個の噴霧口11bは、インジェクタ11の中心軸C3から見た平面視においてインジェクタ11の中心軸C3および点火プラグ10の中心軸C2とそれぞれ交差するように延びる直線状の仮想線L1を避けた位置に配置されている。
【0044】
しかも、排気側Y2の噴霧口11bは、仮想線L1の両側において当該仮想線L1を挟んで互いに対称となる位置にそれぞれ配置されている。
【0045】
具体的には、排気側Y2の噴霧口11bは、仮想線L1の両側において当該仮想線L1を挟んで互いに対称となる位置にそれぞれ2個配置されている。
【0046】
一方、吸気側Y1の3個の噴霧口11cは、仮想線L1に沿う位置を含む複数の位置に分散して配置されている。
【0047】
具体的には、吸気側Y1の噴霧口11cは、仮想線L1に沿う位置に1個配置され、仮想線L1の両側において当該仮想線L1を挟んで互いに対称となる位置に分散してそれぞれ1個配置されている。
【0048】
また、燃料噴射部11aを含むインジェクタ11は、
図1~2および
図8に示されるように、シリンダ13の中心軸C1に対して吸気側Y1へ傾斜(具体的には、上方Z1へ向かうにしたがって吸気側Y1へ向かう方向へ傾斜)して配置されている。
【0049】
さらに、
図7に示されるように、インジェクタ11の中心軸C3に対する排気側Y2の噴霧口11bから噴霧される噴霧燃料S1の噴霧角度θ1は、吸気側Y1の噴霧口1cから噴霧される噴霧燃料S2の噴霧角度θ2よりも大きくなるように設定されている。
【0050】
したがって、
図8に示されるように、排気側Y2の噴霧口11bから排気側Y2へ向けて噴霧される噴霧燃料S1は、燃焼室5の天井面5aに沿う方向に噴霧されるが、
図6に示されるように、点火プラグ10の中心軸C2と交差する仮想線L1を避けて噴霧されるので、点火プラグ10の点火部10aを濡らさずに点火部10a周辺に拡散することが可能である。
【0051】
一方、吸気側Y1の噴霧口11cから吸気側Y1へ向けて噴霧される噴霧燃料S2は、
図8に示されるように、燃焼室5の底面を構成するピストン4の冠面4aの凹形状のキャビティ4bに向けて噴霧され、吸気ポート6から吸入された空気とミキシングされ、噴霧燃料S2と空気とが混合した混合気が排気側Y2に配置された点火プラグ10の点火部10aの近傍に送られるので、点火部10a周辺では噴霧燃料S1、S2が合わさって噴霧燃料の濃度を濃くすることが可能になる。
【0052】
(本実施形態の特徴)
(1)
以上のように、本実施形態の燃焼室5の構造では、
図1~2に示されるように、点火部10aを含む点火プラグ10は、シリンダ13の中心軸C1に沿ったY方向の断面視において、シリンダ13の中心軸C1よりも排気側Y2にオフセットした位置に配置されている。それに対し、インジェクタ11は、シリンダ13の中心軸C1よりも吸気側Y1にオフセットした位置に配置されている。
【0053】
インジェクタ11の燃料噴射部11aは、
図5~6に示されるように、燃料を噴霧する複数の噴霧口11b、11cを備える。燃料噴射部11aは、具体的には、4個の排気側Y2の噴霧口11bおよび3個の吸気側Y1の噴霧口11cを備えることにより、排気側Y2へ向けた燃料噴霧量を吸気側Y1へ向けた燃料噴霧量よりも多くなるように構成されている。
【0054】
したがって、この構造では、
図6および
図8に示されるように、吸気側Y1にオフセットしたインジェクタ11から排気側Y2へ向けて吸気側Y1よりも多くの燃料を噴霧することにより、排気側Y2にオフセットした点火プラグ10の点火部10aへ多くの噴霧燃料S1を直接噴霧することが可能になる。それとともに、吸気側Y1に噴霧された噴霧燃料S2もピストン4の冠面4a(具体的には、キャビティ4bの曲面)に沿って吸気ポート6からの吸気とともに点火プラグ10へ送られる。これにより、排気側Y2の点火プラグ10近傍では噴霧燃料S1、S2が合わさって噴霧燃料が濃くなり、燃焼室5内における噴霧燃料と空気のミキシングを促進させてより均一な火炎伝搬を行うことが可能になる。
【0055】
(2)
本実施形態の燃焼室5の構造では、
図5~6に示されるように、複数の噴霧口11b、11cは、インジェクタ11の中心軸C3の周囲に、当該中心軸C3よりも排気側Y2の噴霧口11bの数が吸気側Y1の噴霧口11cの数よりも多くなるように配置されている。これにより、簡単な構造で排気側Y2への噴霧燃料S1の噴霧量を確実に多くすることが可能である。
【0056】
(3)
本実施形態の燃焼室5の構造では、
図5~6に示されるように、排気側Y2の噴霧口11bは、インジェクタ11の中心軸C3に沿って見た平面視においてインジェクタ11の中心軸C3および点火プラグ10の中心軸C2とそれぞれ交差するように延びる直線状の仮想線L1を避けた位置に配置されている。この構成では、排気側Y2の噴霧口11bから噴霧された噴霧燃料S1が排気側Y2の点火プラグ10に付着すること(プラグ濡れ)を回避しながら、噴霧燃料S1を点火プラグ10周辺に拡散させることが可能である。
【0057】
(4)
本実施形態の燃焼室5構造では、
図5~6に示されるように、排気側Y2の噴霧口11bは、仮想線L1の両側において当該仮想線L1を挟んで互いに対称となる位置にそれぞれ配置されている。この構成では、排気側Y2の噴霧口11bから噴霧された噴霧燃料S1が排気側Y2の点火プラグ10に付着すること(プラグ濡れ)を回避しながら、噴霧燃料S1を点火プラグ10周辺に均等に拡散させることができるので、噴霧燃料S1と空気の混合気を点火部10aによる点火位置の近傍に広く輸送することが可能である。
【0058】
(5)
本実施形態の燃焼室5の構造では、
図5~6に示されるように、吸気側Y1の噴霧口11cは、仮想線L1に沿う位置を含む複数の位置に分散して配置されている。この構成では、吸気側Y1の噴霧口11cから吸気側Y1へ噴霧された噴霧燃料S2は吸気ポート6の開口から吸入された空気と衝突することにより噴霧燃料S2と空気とのミキシング(混合)が促進され、ミキシング後の混合気を排気側Y2の点火プラグ10の点火部10aへ効率良く送ることが可能になる。
【0059】
(6)
本実施形態の燃焼室5の構造では、
図5~6に示されるように、吸気側Y1の3個の噴霧口11cは、仮想線L1に沿う位置と、仮想線L1の両側において当該仮想線L1を挟んで互いに対称となる位置にそれぞれ分散して配置されている。この構成では、吸気側Y1の噴霧口11cから吸気側Y1へ噴霧された噴霧燃料S2は吸気ポート6の開口から吸入された空気と衝突することにより噴霧燃料S2と空気とのミキシングが促進され、ミキシング後の混合気を排気側Y2の点火プラグ10へ効率良く送ることが可能になる。しかも、仮想線L1の両側の吸気側Y1の噴霧量を均等にすることが可能になるので、より均等に拡散した混合気を点火プラグ10へ送ることが可能になる。
【0060】
(7)
本実施形態の燃焼室5の構造では、燃料噴射部11aを含むインジェクタ11は、シリンダ13の中心軸C1に対して吸気側Y1へ傾斜して配置されている。インジェクタ11の中心軸C3に対する排気側Y2の噴霧口11bから噴霧される噴霧燃料S1の噴霧角度θ1は、吸気側Y1の噴霧口11cから噴霧される噴霧燃料S2の噴霧角度θ2よりも大きくなるように設定されている。
【0061】
この構成では、排気側Y2の噴霧燃料S1を燃焼室5の天井面5aに沿う方向に噴霧させるとともに、吸気側Y1の噴霧燃料S2を燃焼室5の底面を構成するピストン4の冠面4aへ向けて下向きに噴霧させることが可能になる。これにより、排気側Y2の噴霧燃料S1を燃焼室5の天井面5aにおける点火プラグ10の点火部10a近傍に集めて点火部10a近傍の噴霧燃料S1を濃くし、それとともに吸気側Y1の噴霧燃料S2を下向きに噴霧させて冠面4a(具体的にはキャビティ4bの曲面)に沿って流すことにより噴霧燃料S2と吸入吸気とのミキシングが促進される。
【0062】
(8)
本実施形態の燃焼室5の構造では、
図1~2、
図4および
図8に示されるように、ピストン4の冠面4aは、湾曲した凹形状(本実施例ではエッグシェイプ)のキャビティ4bを有する。この構成では、
図8に示されるように、吸気側Y1の噴霧燃料S2を吸入吸気とのミキシングを促進しながら、凹形状のキャビティ4bに沿って点火プラグ10の点火部10a側へ誘導することが可能である。
【0063】
(9)
本実施形態の燃焼室5の構造では、インジェクタ11の中心軸C3よりも排気側Y2には、噴霧口11bが4つ配置され、吸気側Y1には噴霧口11cが3つ配置されている。この構成では、点火プラグ10の点火部10a側に噴霧燃料S1、S2を集め易くなる。
【0064】
(10)
本実施形態の燃焼室5の構造では、点火部10aを含む点火プラグ10は、当該点火プラグ10の中心軸C2がシリンダ13の中心軸C1に対して平行になるように配置されている。この構成では、点火プラグ10の点火部10a近傍の混合気への火炎伝播が容易となる。すなわち、燃焼室5の天井面5aから点火プラグ10の点火部10aを起点として発生した火炎を燃焼室5内部全体に均等に伝搬させることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 エンジン本体
4 ピストン
4a 冠面
4b キャビティ
5 燃焼室
5a 天井面
6 吸気ポート
7 排気ポート
8 吸気弁
9 排気弁
10 点火プラグ
10a 点火部
11 インジェクタ
11a 燃料噴射部
11b 排気側の噴霧口
11c 吸気側の噴霧口
13 シリンダ
C1 シリンダの中心軸
C2 点火プラグの中心軸
C3 インジェクタの中心軸
L1 仮想線
L2 仮想線に直交する線