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特開2024-169155電動機制御装置及び電動機制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169155
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電動機制御装置及び電動機制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/032 20160101AFI20241128BHJP
【FI】
H02P29/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086384
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】山平 優
(72)【発明者】
【氏名】増本 将士
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501CC04
5H501FF05
5H501HA09
5H501HB07
5H501JJ03
5H501JJ18
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL32
5H501LL38
5H501LL60
5H501MM02
(57)【要約】
【課題】電動機のロック状態が完全に解除される以前に、インバータを構成する素子に大きな電流が継続的に流れることを抑制する。
【解決手段】制御装置40は、電動機30のロック状態が判定されると、電動機30に通電する電流を制限する。電動機30に通電する電流の制限の終了は、電動機30のロック状態の解除を判定するための解除条件が満たされている期間が所定期間継続したときに実施される。従って、電動機30のロック状態が完全に解消されておらず、一時的に解除条件が満たされたとしても、すぐに解除条件を満たさなくなるような場合、電動機30に通電する電流の制限は終了されない。このため、電動機30のロック状態が完全に解除される以前に、インバータを構成するスイッチングモジュール24に大きな電流が継続的に流れることを抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータを介して電流が通電される電動機(30)を制御するための電動機制御装置であって、
前記電動機のロック状態を判定するロック状態判定部(S100)と、
前記ロック状態判定部によって前記電動機のロック状態が判定されると、前記電動機に通電する電流を制限する電流制限部(S250)と、
前記電動機のロック状態の解除を判定するための解除条件が満たされているか否かを判定する解除判定部(S330、S336)と、
前記解除条件が満たされている期間が、所定期間継続すると、前記電動機のロック状態が解除されたとみなして、前記電流制限部による電流制限を終了させる制限終了部(S450、S455、S470)と、を備える電動機制御装置。
【請求項2】
前記所定期間が経過する前に、前記解除条件の成立をキャンセルするキャンセル条件が満たされると、前記所定期間の計測を中止する計測中止部(S430、S435、S440、S445)をさらに備える、請求項1に記載の電動機制御装置。
【請求項3】
前記解除条件は、前記電動機の回転数、前記電動機が発生すべきトルクを指令するトルク指令、及び前記インバータの素子温度の少なくとも1つ、もしくはそれらに関連するパラメータの少なくとも1つについて設定される、請求項1又は2に記載の電動機制御装置。
【請求項4】
前記解除条件は、前記電動機の回転数、及び前記電動機が発生すべきトルクを指令するトルク指令の少なくとも1つに関連するパラメータについて設定され、
前記インバータの素子温度に関連するパラメータを検出し、検出された前記インバータの素子温度に関連するパラメータに基づき、前記インバータの素子温度が低いときには高いときに比較して、前記解除条件に対応して設定される前記所定期間を短縮するように前記所定期間を設定する設定部(S332、S334)をさらに備える、請求項1又は2に記載の電動機制御装置。
【請求項5】
前記解除判定部(S336)は、複数の前記解除条件について、各々の前記解除条件が満たされているか否か判定するものであり、
前記所定期間は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められており、
前記制限終了部(S455、S470)は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められた、いずれかの前記所定期間が経過すると、前記電動機のロック状態が解除されたとみなして、前記電流制限部による電流制限を終了させる、請求項1又は2に記載の電動機制御装置。
【請求項6】
複数の前記解除条件は、同じパラメータについて設定され、
前記同じパラメータについて設定される複数の前記解除条件に対して個別に定められる前記所定期間は相互に異なる、請求項5に記載の電動機制御装置。
【請求項7】
前記同じパラメータは、前記電動機の回転数又は前記電動機の回転数に相関するパラメータであり、
複数の前記解除条件は、少なくとも、前記電動機が第1回転数以上となる第1解除条件と、前記第1回転数よりも高い第2回転数以上となる第2解除条件とを含み、
前記第2解除条件に対して個別に定められる前記所定期間は、前記第1解除条件に対して個別に定められる前記所定期間よりも短い、請求項6に記載の電動機制御装置。
【請求項8】
前記同じパラメータは、前記電動機が発生すべきトルクを指令するトルク指令又は前記トルク指令に相関するパラメータであり、
複数の前記解除条件は、少なくとも、前記トルク指令が第1トルク以下となる第1解除条件と、前記第1トルクよりも低い第2トルク以下となる第2解除条件とを含み、
前記第2解除条件に対して個別に定められる前記所定期間は、前記第1解除条件に対して個別に定められる前記所定期間よりも短い、請求項6に記載の電動機制御装置。
【請求項9】
前記制限終了部は、前記解除条件が満たされたことを契機として時間のカウントを開始するタイマーを用いて前記所定期間を計測するか、又は、一定の間隔で前記解除条件が満たされているか否かを判定しつつ、前記解除条件が満たされているとの判定が所定の回数連続することにより前記所定期間を計測する、請求項1又は2に記載の電動機制御装置。
【請求項10】
前記解除判定部(S336)は、複数の前記解除条件について、各々の前記解除条件が満たされているか否か判定するものであり、
前記所定期間は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められており、
前記所定の回数は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められた前記所定期間に応じて異なる、請求項9に記載の電動機制御装置。
【請求項11】
前記解除判定部(S336)は、複数の前記解除条件について、各々の前記解除条件が満たされているか否か判定するものであり、
前記所定期間は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められており、
前記一定の間隔は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められた前記所定期間に応じて異なる、請求項9に記載の電動機制御装置。
【請求項12】
前記解除条件が設定されたパラメータに関して、前記解除条件よりも高い可能性で前記ロック状態が解除されたことを判定するための第2解除条件が少なくとも1つ定められており、
前記解除判定部は、所定の間隔で前記解除条件及び前記第2解除条件を満たしているか否かを判定し、
前記制限終了部は、前記解除条件が連続して満たされている間、前記解除条件を満たしたときの得点と、前記解除条件を満たしたときの得点よりも高く設定された前記第2解除条件を満たしたときの得点との合計点を算出し、前記合計点がしきい値を超えると、前記所定期間が経過したとみなす、請求項1又は2に記載の電動機制御装置。
【請求項13】
前記ロック状態判定部によって前記電動機のロック状態が判定されても、前記電動機の運転開始から所定の保留時間の間、前記電動機に通電する電流の制限を保留する電流制限保留部(S242、S244)をさらに備える、請求項1又は2に記載の電動機制御装置。
【請求項14】
前記電動機は、車両を駆動するために用いられる、請求項1又は2に記載の電動機制御装置。
【請求項15】
インバータを介して電流が通電される電動機(30)を制御するための電動機制御プログラムであって、
少なくとも1つのプロセッサに、
前記電動機のロック状態を判定させ(S100)、
前記電動機のロック状態が判定されると、前記電動機に通電する電流を制限させ(S250)、
前記電動機のロック状態の解除を判定するための解除条件が満たされているか否かを判定させ(S330、S336)、
前記解除条件が満たされている期間が、所定期間継続すると、前記電動機のロック状態が解除されたとみなして、前記電動機に通電する電流の制限を終了させる(S450、S455、S470)命令を含む、電動機制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インバータを介して電流が通電される電動機を制御する電動機制御装置及び電動機制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、モータの回転数が低回転数範囲にあるモータロック時に、第1トルクと、第1トルクより大きい第2トルクとを設定し、この設定された第1トルクと第2トルクとの間で変化させたトルクをモータが出力するロック時制御を実行することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-296881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、モータのロック状態を解消するためにモータに相対的に大きなトルクを発生させようとして、モータに大電流を通電すると、同相のコイルへの通電が継続されるため、モータに通電する電流を調整するインバータを構成する素子の温度の上昇を招いてしまう。このため、ある程度の期間ロック状態が継続する場合には、モータに通電する電流を、ロック状態の解消が期待できる範囲で、インバータ素子の温度上昇を抑制することが可能な大きさの電流に制限することが望ましい。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、第1トルクと第2トルクとの間でモータのトルクを変化させることにより、モータの回転数が低回転数範囲を規定するしきい値を超えると、モータのロック状態が解除されたとみなすようにしている。このため、モータのロック状態が完全に解消されておらず、一旦、しきい値を超えたモータの回転数がすぐにしきい値以下の回転数まで低下した場合、再度、ロック時制御が実行されることになる。このロック時制御として、第1トルクと第2トルクとの間で変化するトルクを発生させると、再度、インバータ素子には相対的に大きな電流が流れる。従って、このようなロック時制御が繰り返されると、インバータ素子に継続的に大きな電流が流れて、温度上昇を招く虞がある。
【0006】
本開示は、上述した点に鑑みてなされたものであり、電動機のロック状態が完全に解除される以前に、インバータを構成する素子に大きな電流が継続的に流れることを抑制することが可能な電動機制御装置及び電動機制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示による電動機制御装置は、インバータを介して電流が通電される電動機(30)を制御するための電動機制御装置であって、
電動機のロック状態を判定するロック状態判定部(S100)と、
ロック状態判定部によって電動機のロック状態が判定されると、電動機に通電する電流を制限する電流制限部(S250)と、
電動機のロック状態の解除を判定するための解除条件が満たされているか否かを判定する解除判定部(S330、S336)と、
解除条件が満たされている期間が、所定期間継続すると、電動機のロック状態が解除されたとみなして、電流制限部による電流制限を終了させる制限終了部(S450、S455、S470)と、を備える。
【0008】
また、本開示による電動機制御プログラムは、インバータを介して電流が通電される電動機(30)を制御するための電動機制御プログラムであって、
少なくとも1つのプロセッサに、
電動機のロック状態を判定させ(S100)と、
電動機のロック状態が判定されると、電動機に通電する電流を制限させ(S250)、
電動機のロック状態の解除を判定するための解除条件が満たされているか否かを判定させ(S330、S336)、
解除条件が満たされている期間が、所定期間継続すると、電動機のロック状態が解除されたとみなして、電動機に通電する電流の制限を終了させる(S450、S455、S470)命令を含む。
【0009】
上述した電動機制御装置及び電動機制御プログラムによれば、電動機に通電する電流の制限の終了は、電動機のロック状態の解除を判定するための解除条件が満たされている期間が所定期間継続したときに実施される。従って、電動機のロック状態が完全に解消されておらず、一時的に解除条件が満たされたとしても、すぐに解除条件を満たさなくなるような場合、電動機に通電する電流の制限は終了されない。このため、特許文献1に記載されるようなロック時制御が繰り返されることが防止され、電動機のロック状態が完全に解除される以前に、インバータを構成する素子に大きな電流が継続的に流れることを抑制することができる。
【0010】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0011】
また、上記した本開示の特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る、電動機を制御する制御装置を含むシステム全体の構成を概略的に示す構成図である。
図2】車両が停止した状態から発進する毎に、制御装置において実施される処理を示すフローチャートである。
図3図2のフローチャートのロック判定処理の詳細を示すフローチャートである。
図4図2のフローチャートのタイマー開始処理の詳細を示すフローチャートである。
図5図2のフローチャートの解除処理の詳細を示すフローチャートである。
図6】車両の発進時に、電動機はロック状態に陥ったが、電動機に電流制限値を通電する間にロック状態が解消された場合の動作波形の一例を示すタイムチャートである。
図7】車両の発進時に、電動機はロック状態の解除判定と、その解除判定をキャンセルするキャンセル判定とが繰り返された後に、ロック状態が解消された場合の動作波形の一例を示すタイムチャートである。
図8】第2実施形態に係る制御装置において実施される、タイマー開始処理の詳細を示すフローチャートである。
図9】第3実施形態に係る制御装置において実施される、ロック判定処理の詳細を示すフローチャートである。
図10図9のフローチャートに示すロック判定処理が行われた場合の動作波形の一例を示すタイムチャートである。
図11】第4実施形態に係る制御装置において実施される、タイマー開始処理の詳細を示すフローチャートである。
図12】第4実施形態に係る制御装置において実施される、解除処理の詳細を示すフローチャートである。
図13図11のフローチャートに示すタイマー開始処理及び図12のフローチャートに示す解除処理が行われた場合の動作波形の一例を示すタイムチャートである。
図14】第5実施形態に係る制御装置による処理を説明するためのタイムチャートである。
図15】第5実施形態に係る制御装置による処理を説明するための別のタイムチャートである。
図16】第6実施形態に係る制御装置による処理を説明するためのタイムチャートである。
図17】第6実施形態に係る制御装置による処理を説明するための別のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。
【0014】
各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりでなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、組み合わせが可能であることを明示していなくても、実施形態同士、実施形態と変形例、及び、変形例同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0015】
(第1実施形態)
先ず、図1を参照して、インバータを介して電流が通電される電動機30を制御する制御装置40を含むシステム100全体の構成を説明する。このシステム100は、例えば、電気自動車、ハイブリッド車両、燃料電池車両などの車両に搭載される。電動機30は、車両を駆動するための駆動力を発生する。
【0016】
システム100は、バッテリ10、昇圧回路12、インバータを含む電力変換回路20、冷却装置26、電動機30、及び制御装置40などを有する。バッテリ10は電気的に直列若しくは並列接続された複数の電池スタックを有する。複数の電池スタックは、それぞれ電気的に直列接続された複数の二次電池を有している。二次電池としてはリチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、及び、有機ラジカル電池などを採用することができる。なお、バッテリ10は燃料電池であっても良い。
【0017】
昇圧回路12は、DC-DCコンバータを有し、バッテリ10の直流電圧を電動機30の力行に適した電圧レベルに昇圧する。例えば、昇圧回路12は、主として、車両の運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じて、踏み込み量が大きくなるほど電圧レベルが高くなるように、バッテリ10の直流電力を昇圧する。昇圧回路12による昇圧動作は、制御装置40によって制御されても良いし、制御装置40とは別個の制御装置によって制御されても良い。昇圧回路12によって昇圧された直流電圧は、電力変換回路20の平滑コンデンサ22に充電される。
【0018】
電力変換回路20は、インバータを有する。インバータは、昇圧回路12(平滑コンデンサ22)から供給される直流電力を交流電力に変換する。この交流電力が電動機30に供給され、電動機30が回転する。また、インバータは、電動機30によって発電(回生)された交流電力を直流電力に変換する。昇圧回路12は、この直流電力をバッテリ10の充電に適した電圧レベルに降圧する。この降圧された直流電力がバッテリ10と車両の各種電気負荷に供給される。
【0019】
インバータは、3相インバータである。各相の上アーム及び下アームに、それぞれ、スイッチングモジュール24が設けられている。スイッチングモジュール24は、例えば、MOSFETやIGBTなどの半導体スイッチと、半導体スイッチに対して逆並列接続されたダイオードとから構成される。各相の上アームと下アームとの中点が、電動機30のU相コイル、V相コイル、W相コイルにそれぞれ接続されている。
【0020】
電力変換回路20には、冷却装置26と、温度センサ28及び電流センサ29を含む各種のセンサが設けられている。冷却装置26は、例えば、インバータを構成する素子に相当する各スイッチングモジュール24と熱交換可能に配設された冷却管内に冷媒を流動させるように構成される。冷却装置26は、例えば、各スイッチングモジュール24の温度に応じて、冷媒の流量を変化させるものであっても良い。具体的には、冷却装置26は、各スイッチングモジュール24の温度が高くなるほど流動させる冷媒の流量が増加するようにして、各スイッチングモジュール24の温度を適正な温度範囲に調節するものであっても良い。
【0021】
温度センサ28は、各スイッチングモジュール24の近傍に設けられ、各スイッチングモジュール24の温度を検出する。温度センサ28は、例えば、スイッチングモジュール24毎に、あるいは、近傍に配置される複数のスイッチングモジュール24毎に、複数設けられても良い。
【0022】
電流センサ29は、インバータの各相の中点と、電動機30のU相コイル、V相コイル、及びW相コイルとをそれぞれ接続する各接続線に流れる電流を検出する。なお、電流センサによって検出された電流から電動機30の回転を検出する場合、後述する回転センサ32は省略されても良い。
【0023】
温度センサ28及び電流センサ29以外のセンサとして、電力変換回路20には、電圧センサ、冷媒温度センサ、冷媒流量センサなどが設けられても良い。電圧センサは、インバータへの入力電圧、すなわち、平滑コンデンサ22の両端電圧を検出する。冷媒温度センサは、冷却装置26の冷媒の温度を検出する。冷媒流量センサは、冷却装置26における冷媒の流量を検出する。冷媒温度及び冷媒流量は、いずれも、インバータを構成する素子に相当する、スイッチングモジュール24の温度に相関する。つまり、冷媒温度及び冷媒流量は、いずれも、インバータを構成するスイッチングモジュール24の温度に関連するパラメータである。
【0024】
電動機30は、例えば、出力軸と、出力軸に設けられたロータと、ロータの外周に対向して配置されるU相、V相、W相のステータコイルと、を有する。電動機30の出力軸が、例えばギアボックスを介して、車両の駆動輪の車軸に連結される。従って、電動機30が発生する回転トルクは、ギアボックスと車軸を介して車両の駆動輪に伝達される。電動機30は、電力変換回路20から供給される交流電力によって力行する。これにより、電動機30によって発生された駆動力が駆動輪に与えられる。
【0025】
回転センサ32は、レゾルバ、MRセンサ、エンコーダなどとすることができ、電動機30の回転位置に応じた検出信号を出力する。回転センサ32の検出信号は、制御装置40に出力される。
【0026】
制御装置40は、少なくとも記憶部と演算部とを有する。記憶部は、プロセッサによって読み取り可能なデータとプログラムを非一時的に記憶する非遷移的実体的記憶媒体である。記憶部は、揮発性メモリと不揮発性メモリとを有している。記憶部の揮発性メモリは、例えば、制御装置40に入力された諸情報や演算部の処理結果を一時的に記憶する。記憶部の不揮発性メモリは、例えば、演算部が演算処理するための各種プログラムと各種参照値を記憶する。
【0027】
演算部は、少なくとも1つのプロセッサを含む。演算部は、制御装置40に入力された諸情報を記憶部に記憶させる。さらに、演算部は、記憶部に記憶された情報に基づき、記憶されたプログラムの各命令に従って各種演算処理を実行し、例えば、インバータの各スイッチングモジュール24を制御するための制御信号を出力する。
【0028】
具体的には、制御装置40は、上位の制御装置から、電動機30が発生すべきトルクを示すトルク指令を受信する。なお、トルク指令は、アクセルペダルの踏み込み量や、車両の速度などに基づいて、制御装置40が算出することも可能である。制御装置40は、受信したトルク指令を電流指令に変換し、その変換した電流指令に応じた電流が電動機30に通電されるように制御信号を出力して、インバータの各スイッチングモジュールをPWM制御する。
【0029】
また、制御装置40は、停止している車両を、電動機30が発生するトルクによって発進させる際、電動機30がロック状態に陥ったか否かを判定する。ロック状態とは、電動機30が所定値以上のトルクを発生しているにも係らず、電動機30の回転数がロック判定回転数以下の低回転数に留まっている状態を言う。これは、例えば、車両が登坂路にて発進を試みていたり、発進時に路面の凹凸による抵抗を受けていたりして、電動機30が回転を開始する際の抵抗力が大きい場合に発生し得る。制御装置40は、電動機30がロック状態に陥ったと判定すると、電動機30に通電する電流を、ロック状態の解消が期待できる範囲で、インバータを構成するスイッチングモジュール24の温度上昇を抑制することが可能な大きさの電流に制限する。
【0030】
しかしながら、例えば、電動機30の回転数が、ロック解除判定回転数を超えたことをもって、ロック状態が解消されたものとみなし、電流制限を終了してしまうと、以下に述べるような問題が生じる虞がある。例えば、発進の抵抗となっていた路面の突起を車両が乗り越えそうになったが、完全に乗り越えることができず、元に戻った場合など、ロック解除判定回転数を一旦超えても、電動機30の回転数がすぐにロック解除判定回転数以下の回転数まで低下してしまうことが起こり得る。このようなことが繰り返し発生する場合に、電流制限を終了して、トルク指令に応じた大電流をインバータを介して電動機30に通電すると、ロック解除判定回転数を超えるごとにインバータに大電流が流れることになる。その結果、インバータを構成する素子に対応するスイッチングモジュール24に継続的に大きな電流が流れて、温度上昇を招く虞がある。
【0031】
そのため、本実施形態に係る制御装置40は、電動機30に通電する電流の制限を、電動機30のロック状態の解除を判定するためのロック解除条件が満たされただけでなく、ロック解除条件が満たされている期間が所定期間継続したときに終了するように構成される。従って、電動機30のロック状態が完全に解消されておらず、一時的にロック解除条件が満たされたとしても、すぐにロック解除条件を満たさなくなるような場合、電動機30に通電する電流の制限は終了されない。このため、電動機30のロック状態が完全に解除される以前に、インバータを構成するスイッチングモジュール24に大きな電流が流れることを抑制することができる。
【0032】
以下、記憶されたプログラムに従って、制御装置40において実施される処理を、図2のフローチャートを参照して説明する。図2のフローチャートに示す処理は、車両が停止した状態から発進する毎に実行される。
【0033】
ステップS100では、制御装置40は、ロック判定処理を実行する。ロック判定処理の詳細が図3のフローチャートに示されている。以下、図3のフローチャートを参照して、ロック判定処理について説明する。
【0034】
ステップS200では、制御装置40は、ロックフラグがオンされているか否か、すなわち、既に、電動機30のロック状態が判定されているか否かを判定する。なお、ロックフラグは、後述するステップS230にてロック判定条件が満たされたときに、ステップS240にてオンされる。ロックフラグがオンされていると判定すると、さらにロック判定を行う必要はないので、制御装置40は、図3のフローチャートに示す処理を終了する。一方、ロックフラグがオンされていないと判定すると、制御装置40はステップS210の処理に進む。
【0035】
ステップS210では、制御装置40は、上位の制御装置からトルク指令を受信する。ステップS220では、制御装置40は、回転センサ32の検出信号、又は電流センサの検出信号に基づき、電動機30の回転数を算出して取得する。ステップS230では、制御装置40は、ロック判定条件を満たすか否かにより、電動機30がロック状態に陥っているか否かを判定する。ロック判定条件は、例えば、図6のタイムチャートに示すように、トルク指令がロック判定トルク以上であり、かつ電動機30の回転数がロック判定回転数以下とすることができる。ある程度の大きさのトルク指令が出されているにも係らず、電動機30の実際の回転数がロック判定回転数以下の低回転である場合、電動機30はロック状態に陥っているとみなすことができるためである。ただし、ロック判定条件は、上述した条件に限定されない。例えば、トルク指令に代えて、トルク指令から変換された電流指令を用いても良い。なお、図6は、車両の発進時に、電動機30はロック状態に陥ったが、電流制限を行って電動機30に電流制限値を通電する間にロック状態が解消された場合の動作波形の一例を示すタイムチャートである。
【0036】
ステップS230にて、ロック判定条件を満たすと判定した場合、制御装置40は、ステップS240の処理に進む。一方、ロック判定条件を満たさないと判定した場合、電動機30はロック状態に陥っていないので、制御装置40は、図3のフローチャートに示す処理を終了する。
【0037】
ステップS240では、制御装置40は、図6のタイムチャートに示すように、電動機30がロック状態に陥っていることを示すロックフラグをオンする。ステップS250では、制御装置40は、図6のタイムチャートに示すように、電動機30に通電する電流を、ロック状態の解消が期待できる範囲で、インバータを構成するスイッチングモジュール24の温度上昇を抑制することが可能な大きさの電流制限値に制限する。以上で、ロック判定処理は終了する。なお、ロック判定処理は、車両の発進から所定時間が経過するまでの間、繰り返し実行され得る。
【0038】
再び図2を参照すると、ステップS110では、制御装置40は、ロック判定処理において、電動機30がロック状態と判定されたか否かを判定する。電動機30がロック状態と判定された場合、制御装置40は、ステップS120の処理に進む。一方、電動機30がロック状態ではないと判定された場合、制御装置40は、ステップS150に進む。
【0039】
ステップS120では、制御装置40は、タイマー開始処理を実行する。タイマー開始処理の詳細が図4のフローチャートに示されている。以下、図4のフローチャートを参照して、タイマー開始処理について説明する。
【0040】
ステップS300では、制御装置40は、タイマーが計測中であるか否か、すなわち、既に、ロック解除条件が満たされたことに応じて、タイマーが計測を開始しているか否かを判定する。なお、タイマーは、ステップS330にて、制御装置40によってロック解除条件が満たされる判定されたときに、ステップS340にて計測を開始する。タイマーが計測中であると判定すると、制御装置40は、タイマーの計測を開始するか否かを判定する必要はないので、図4のフローチャートに示す処理を終了する。一方、タイマーが計測中ではないと判定すると、制御装置40は、ステップS310の処理に進む。
【0041】
ステップS310では、制御装置40は、上位の制御装置からトルク指令を受信する。ステップS320では、制御装置40は、回転センサ32の検出信号、又は電流センサの検出信号に基づき、電動機30の回転数を取得する。ステップS330では、制御装置40は、ロック解除条件を満たすか否かにより、電動機30のロック状態が解消されたか否かを判定する。ロック解除条件は、例えば、図6のタイムチャートに示すように、電動機30の回転数がロック解除回転数以上とすることができる。電動機30の回転数がロック解除回転数以上となった場合、その時点では、電動機30のロックが解消された状態と判定することができるためである。
【0042】
なお、ロック解除条件は、上述した条件に限定されない。例えば、電動機30の回転数に応じて、PWM制御のためのキャリア周波数が比例的に変化する場合、キャリア周波数がロック解除周波数以上となったことをもって、電動機30のロック解除判定を行ってもよい。つまり、キャリア周波数は、電動機30の回転数に相関し、関連するパラメータであり、このキャリア周波数に対して、ロック解除条件が設定されても良い。
【0043】
さらに、ロック解除条件は、図6のタイムチャートに示すように、トルク指令が解除トルク以下としても良い。電動機30がロック状態に陥った場合、車両の運転者は、アクセルペダルを踏み続けるのではなく、一旦、アクセルペダルを戻し、改めてアクセルペダルを踏み込む場合があり得る。運転者が、アクセルペダルを戻すと、トルク指令も低下する。従って、トルク指令が解除トルク以下に低下した場合、その時点では、電動機30のロックが解消された状態とみなすことができる。トルク指令に関するロック解除条件を判定しない場合、ステップS310の処理は省略されても良い。また、トルク指令に応じて、昇圧回路12による昇圧電圧が比例的に変化する場合、昇圧回路12の昇圧電圧、すなわち、平滑コンデンサ22の両端電圧がロック解除電圧以下となったことをもって、電動機30のロック解除判定を行ってもよい。つまり、平滑コンデンサ22の両端電圧は、トルク指令に相関し、関連するパラメータであり、この平滑コンデンサ22の両端電圧に対して、ロック解除条件が設定されても良い。
【0044】
加えて、ロック解除条件は、インバータを構成する素子の温度、すなわちスイッチングモジュール24の温度、もしくは、冷却装置26の冷媒温度又は冷却装置26の冷媒流量について設定されても良い。例えば、スイッチングモジュール24の温度が所定のしきい値温度以下に低下した場合、スイッチングモジュール24に大きな電流が継続的に流れても、スイッチングモジュール24の温度上昇は適正な温度範囲に収まる可能性が高い。このような理由から、スイッチングモジュール24の温度が所定のしきい値温度以下であれば、電動機30に通電する電流を制限するために、電動機30のロック状態の判定を継続する必要はないためである。冷却装置26の冷媒温度、冷媒流量は、スイッチングモジュール24の温度と相関し、関連するパラメータである。従って、スイッチングモジュール24の温度に代えて、冷却装置26の冷媒温度又は冷媒流量に関してロック解除条件を設定しても良い。
【0045】
ステップS330にて、ロック解除条件を満たすと判定した場合、制御装置40は、ステップS340の処理に進む。一方、ロック解除条件を満たさないと判定した場合、制御装置40は、図4のフローチャートに示す処理を終了する。
【0046】
ステップS340では、制御装置40は、図6のタイムチャートに示すように、タイマーの計測を開始する。後述するように、本実施形態では、タイマーによる計測時間が、ロック解除の判定をキャンセルする解除キャンセル条件が満たされることなく、ロック解除条件に対応して設定される所定期間に達すると、制御装置40は、初めて電動機30のロック状態が解消されたと判定する。以上で、タイマー開始処理は終了する。
【0047】
再び図2を参照すると、制御装置40は、ステップS120のタイマー開始処理に続いて、ステップS130の解除処理を実行する。解除処理の詳細が図5のフローチャートに示されている。以下、図5のフローチャートを参照して、解除処理について説明する。
【0048】
ステップS400では、制御装置40は、タイマーが計測中であるか否かを判定する。タイマーが計測中であると判定すると、制御装置40は、ステップS410の処理に進む。一方、タイマーが計測中ではないと判定すると、制御装置40は、タイマーが計測する時間が所定期間に達したか否かを判定する必要はないので、図5のフローチャートに示す処理を終了する。
【0049】
ステップS410では、制御装置40は、上位の制御装置からトルク指令を受信する。ステップS420では、制御装置40は、回転センサ32の検出信号、又は電流センサの検出信号に基づき、電動機30の回転数を取得する。ステップS430では、制御装置40は、解除キャンセル条件が満たされたか否かを判定する。解除キャンセル条件は、一旦は電動機30のロック状態が解消されたと判定する基準となるロック解除条件が満たされたが、その後、電動機30のロック状態は完全に解消されていないことを判定して、ロック解除をキャンセルするための基準となるものである。
【0050】
解除キャンセル条件は、例えば、ロック解除条件が電動機30の回転数について設定された場合、図6のタイムチャートに示すように、解除回転数以上となった電動機30の回転数が、解除回転数以下に設定されるリセット回転数以下まで低下したこととすることができる。また、例えば、ロック解除条件がトルク指令について設定された場合、解除トルク以下まで低下したトルク指令が、解除トルク以上に設定されるリセットトルク(図示せず)以上に上昇したこととすることができる。さらに、例えば、ロック解除条件がスイッチングモジュール24の温度について設定された場合、所定のしきい値温度以下まで低下していたスイッチングモジュール24の温度が、所定のしきい値温度よりも高く設定されるキャンセル温度まで上昇したこととすることができる。
【0051】
解除キャンセル条件が満たされると判定すると、制御装置40は、ステップS440の処理に進む。ステップS440では、制御装置40は、計測中のタイマーをリセットし、タイマーによる、ロック解除条件がみたされてからの経過時間の計測を中止する。その後、制御装置40は、図5のフローチャートに示す処理を終了する。
【0052】
一方、解除キャンセル条件が満たされないと判定すると、制御装置40は、ステップS450の処理に進む。ステップS450では、制御装置40は、タイマーによる計測時間が、ロック解除条件に対応して設定される所定期間に相当する所定時間に達したか否かを判定する。例えば、図6のタイムチャートに示すように、タイマーによる計測時間が所定時間に達した場合、制御装置40は、電動機30のロック状態が解消されたものとみなし、ステップS460の処理に進む。このように、本実施形態では、制御装置40は、タイマーによる計測時間が、解除キャンセル条件が満たされることなく、ロック解除条件に対応して設定される所定期間に達すると、制御装置40は、初めて電動機30のロック状態が解消されたと判定する。
【0053】
ステップS460では、制御装置40は、図6のタイムチャートに示すように、ロックフラグをオフする。さらに、ステップS470において、制御装置40は、図6のタイムチャートに示すように、電流制限を解除する。これにより、電動機30に通電される電流は、トルク指令に応じた電流指令値まで増加する。その後、図1のフローチャートのステップS150において、制御装置40は、トルク指令に応じた電流が流れるように、電動機50をPWM制御する。
【0054】
ここで、ロック解除条件が満たされたときに、電動機30のロック状態が解除されたと判定したとすると、例えば、図7のタイムチャートに点線で示すように、電動機30の回転数が解除回転数を超えた時点でロックフラグがオフされることになる。すると、図7のタイムチャートに点線で示すように、電動機30に通電される電流の電流値は、トルク指令に応じた電流指令値に向けて上昇する。しかし、その後、電動機30の回転数がロック判定回転数を下回ることにより、再度、電動機30のロック状態が判定される。このロック状態の判定に応じて、図7のタイムチャートに点線で示すように、電動機30に通電される電流は、電流制限値に向けて減少される。
【0055】
このように、電動機30のロック状態が完全に解消されておらず、一時的に電動機30の回転数がロック解除回転数を上回っても、すぐにロック判定回転数以下まで低下してしまう状態が繰り返される場合、図7のタイムチャートに点線で示すように、電動機30には、繰り返し大きな電流値の電流が通電されることになる。その結果、インバータを構成するスイッチングモジュール24の過度の温度上昇が懸念される。
【0056】
それに対して、本実施形態によれば、制御装置40は、電動機30のロック状態の解除を判定するためのロック解除条件(ロック解除回転数以上)が満たされたときに、タイマーによる経過時間の計測を開始する。電動機30のロック状態が完全に解消されておらず、ロック解除条件をキャンセルする解除キャンセル条件(リセット回転数以下)が満たされると、図7のタイムチャートに示すように、計測中のタイマーをリセットして、タイマーによる経過時間の計測を中止する。本実施形態では、制御装置40が、タイマーが計測する経過時間が所定期間に達したとき、すなわち、タイマーによる計測が満了したときに、初めて電動機30のロック状態が解消されたと判定する。
【0057】
このため、本実施形態では、図7のタイムチャートに示すように、ロック解除条件が満たされた時点でロックフラグがオフされることはなく、ロックフラグはオンのままである。従って、一時的にロック解除条件が満たされるが、すぐにロック判定が繰り返される状況においても、継続的に電動機30に通電する電流を電流制限値に制限することができる。その結果、電動機30のロック状態が完全に解消するまでの間に、インバータを構成するスイッチングモジュール24の温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態に係る、電動機30の制御装置40について説明する。本実施形態に係る制御装置40は、第1実施形態に係る制御装置40と同様に構成されるため、構成に関する説明は省略する。
【0059】
上述した第1実施形態では、インバータを構成するスイッチングモジュール24の温度、もしくは、冷却装置26の冷媒温度又は冷却装置26の冷媒流量について、ロック解除条件を設定することが可能である旨を説明した。この場合、ロック解除条件が満たされることに応じて、タイマーの計測が開始される。そして、タイマーによる計測時間が、スイッチングモジュール24の温度、もしくは、冷却装置26の冷媒温度又は冷却装置26の冷媒流量に関して定められた所定期間に達すると、制御装置40は、電動機30のロック状態が解消されたと判定する。
【0060】
しかしながら、スイッチングモジュール24の温度、もしくは、冷却装置26の冷媒温度又は冷却装置26の冷媒流量については、それぞれのロック解除条件を設定するのではなく、電動機30の回転数及び/又はトルク指令、もしくはそれらの少なくとも1つに関連するパラメータについて設定されるロック解除条件に対応する所定期間を変更するために用いられても良い。
【0061】
例えば、スイッチングモジュール24の温度、もしくはそれに関連するパラメータである、冷却装置26の冷媒温度又は冷媒流量に基づいて、制御装置40は、スイッチングモジュール24の温度が低いときには高いときに比較して、電動機30の回転数及び/又はトルク指令、もしくはそれらの少なくとも1つに関連するパラメータについて設定されるロック解除条件に対応する所定期間を短縮するように、所定期間を設定することができる。スイッチングモジュール24の温度が相対的に低ければ、電動機30のロック状態解消のために、同じスイッチングモジュール24に継続的に大きな電流が通電されても、スイッチングモジュール24の温度が適正な温度範囲を超えて上昇する懸念は低い。そのため、スイッチングモジュール24の温度が相対的に低い場合、所定期間を短く変更して、早期に電動機30のロック状態の解消を判定しても差し支えないためである。
【0062】
図8のフローチャートは、第2実施形態に係る制御装置40において実行されるタイマー開始処理を示している。図8のフローチャートに示されるタイマー開始処理は、第1実施形態における、図4のフローチャートに示されたタイマー開始処理に対して、ステップS332、S334の処理が追加されている。
【0063】
ステップS332では、制御装置40は、インバータを構成する素子に相当するスイッチングモジュール24の温度、もしくは、スイッチングモジュール24の温度に関連するパラメータを検出する。ステップS334では、制御装置40は、検出したスイッチングモジュール24の温度もしくは関連するパラメータに応じて、電動機30の回転数及び/又はトルク指令、もしくはそれらの少なくとも1つに関連するパラメータについて設定されるロック解除条件に対応する所定期間を設定する。この際、所定期間は、上述したように、スイッチングモジュール24の温度が低いときには高いときに比較して、短くなるように設定される。
【0064】
(第3実施形態)
次に、本開示の第3実施形態に係る、電動機30の制御装置40について説明する。本実施形態に係る制御装置40は、第1実施形態に係る制御装置40と同様に構成されるため、構成に関する説明は省略する。
【0065】
上述した第1実施形態に係る制御装置40は、図6のタイムチャートに示すように、電動機30がロック状態に陥っていると判定すると、即座に、電動機30に通電する電流を電流制限値に制限するものであった。しかしながら、電動機30がロック状態に陥ったとき、電動機30に一時的に大きな電流を通電することにより、電動機30のロック状態が解消される場合もあり得る。この場合、車両は円滑に発進することが可能となり、発進時のドライバビリティが向上する。
【0066】
そこで、本実施形態に係る制御装置40は、電動機30のロック状態が判定されても、即座に、電動機30に通電する電流を制限するのではなく、一定の保留期間の間は、トルク指令に応じた大きな値の電流を電動機30に通電するものである。
【0067】
図9のフローチャートは、第3実施形態に係る制御装置40において実行されるロック判定処理を示している。図9のフローチャートに示されるロック判定処理は、第1実施形態における、図3のフローチャートに示されたロック判定処理に対して、ステップS242、S244の処理が追加されている。
【0068】
ステップS242では、ステップS230にて、電動機30のロック状態が判定された後であるが、制御装置40は、トルク指令に応じた電流を電動機30に通電する。そして、ステップS242において、制御装置40は、ステップS230にて、電動機30のロック状態の判定がなされたときからの経過時間が、保留時間に達したか否かを判定する。制御装置40は、経過時間が保留時間に達していれば、ステップS250の処理に進み、保留時間に達していなければ、ステップS242の処理を継続する。
【0069】
これにより、図10のタイムチャートに示されるように、電動機30のロック状態が判定され、ロックフラグがオンされた後であっても、保留期間が経過するまでは、電動機30にトルク指令に応じた大きな値の電流が通電される。従って、電動機30のロック状態の早期解消を図ることができる。保留期間が経過すると、電動機30に通電される電流値は電流制限値に制限される。このため、保留期間における大電流の通電ではロック状態が解消されない場合であっても、スイッチングモジュール24の温度上昇を抑制することができる。なお、本実施形態では、ロックフラグがオンされて、保留期間が開始されると、タイマー開始処理が実行される。
【0070】
(第4実施形態)
次に、本開示の第4実施形態に係る、電動機30の制御装置40について説明する。本実施形態に係る制御装置40は、第1実施形態に係る制御装置40と同様に構成されるため、構成に関する説明は省略する。
【0071】
第1実施形態に係る制御装置40では、1つのロック解除条件に基づいて、電動機30のロック状態が解消されたか否かを判定した。それに対して、本実施形態に係る制御装置40は、複数のロック解除条件を設定し、それら複数のロック解除条件に基づいて、電動機30のロック状態の解消を判定する点が異なる。
【0072】
複数のロック解除条件は、電動機30の回転数、電動機30が発生すべきトルクを指令するトルク指令、及びインバータを構成するスイッチングモジュール24の温度、並びに、それらに相関し、関連するパラメータの中で、複数のパラメータについて設定されても良い。加えて、もしくは代わりに、電動機30の回転数、電動機30が発生すべきトルクを指令するトルク指令、及びインバータを構成するスイッチングモジュール24の温度、並びに、それらに相関し、関連するパラメータの中の1つのパラメータについて、複数の解除条件が設定されても良い。
【0073】
複数のロック解除条件が、複数のパラメータについて設定される場合、例えば、電動機30の回転数について、ロック解除回転数(例えば、100rpm)と所定期間(例えば、50ms)が設定され、トルク指令について、ロック解除トルク(例えば、10Nm)と所定期間(例えば、100ms)が設定され、スイッチングモジュール24の温度について、ロック解除温度(例えば、100℃)と所定期間(例えば、10ms)が設定され、冷媒温度について、ロック解除温度(例えば、25℃)と所定期間(例えば、10ms)が設定され得る。さらに、他のパラメータに関するロック解除条件が追加されても良いし、複数のロック解除条件が残る限り、上述した一部のロック解除条件が削除されても良い。
【0074】
また、複数のロック解除条件が、1つのパラメータについて設定される場合、例えば、電動機30の回転数について、第1ロック解除回転数(例えば、100rpm)と第1所定期間(例えば、50ms)が設定され、第2ロック解除回転数(例えば、300rpm)と第2所定期間(例えば、30ms)が設定され、第3ロック解除回転数(例えば、500rpm)と第3所定期間(例えば、10ms)が設定され得る。複数のロック解除条件が設定される1つのパラメータは、電動機30の回転数に制限されず、トルク指令やその他のパラメータであっても良い。また、1つのパラメータについて設定される複数のロック解除条件は、2つ以上であれば良い。例えば、トルク指令ついて、複数のロック解除条件が設定される場合、少なくとも、トルク指令が第1トルク以下となる第1解除条件と、第1トルクよりも低い第2トルク以下となる第2解除条件とを含み、第2解除条件に対して個別に定められる所定期間は、第1解除条件に対して個別に定められる所定期間よりも短くなるように設定される。
【0075】
このように、複数のパラメータ及び/又は1つのパラメータについて複数のロック解除条件が設定される場合、所定期間は、複数のロック解除条件ごとに個別に定められる。そして、制御装置40は、複数のロック解除条件のいずれかについて、各ロック解除条件が満たされている期間が、複数のロック解除条件ごとに個別に定められた所定期間に達したと判定すると、電動機30のロック状態が解除されたとみなして、電動機30の電流制限を終了させる。
【0076】
図11のフローチャートは、第4実施形態に係る制御装置40において実行されるタイマー開始処理を示している。図11のフローチャートに示されるタイマー開始処理は、第1実施形態における、図4のフローチャートに示されたタイマー開始処理に対して、ステップS300、S330、S340の処理が削除され、ステップS336、S338、S342の処理が追加されている。
【0077】
ステップS336では、制御装置40は、複数のパラメータ及び/又は1つのパラメータについて設定された複数のロック解除条件の内、1つ以上のロック解除条件が満たされているか否かを判定する。満たされているロック解除条件が1つも無い場合、制御装置40は、図11のフローチャートに示す処理を終了する。一方、1つ以上のロック解除条件が満たされていると判定すると、制御装置40は、ステップS338の処理に進む。ステップS338では、制御装置40は、満たされていると判定したロック解除条件に対応するタイマーが計測中であるか否かを判定する。対応するタイマーが計測中であれば、制御装置40は、図11のフローチャートに示す処理を終了する。一方、対応するタイマーが計測中でなければ、制御装置40は、ステップS342の処理に進んで、対応するタイマーの計測を開始する。
【0078】
図12のフローチャートは、第4実施形態に係る制御装置40において実行される解除処理を示している。図12のフローチャートに示される解除処理は、第1実施形態における、図5のフローチャートに示された解除処理に対して、ステップS430、S440、S450の処理が削除され、ステップS435、S445、S455の処理が追加されている。
【0079】
ステップS435では、制御装置40は、1つ以上の解除キャンセル条件が満たされたか否かを判定する。解除キャンセル条件は、複数のロック解除条件ごとに個別に定められる。例えば、電動機30の回転数について、上述したように第1~第3ロック解除回転数が設定された場合、第1~第3ロック解除回転数に対して個別に、対応する第1~第3ロック解除回転数以下となるように第1~第3解除キャンセル回転数が定められる。
【0080】
1つ以上の解除キャンセル条件が満たされていると判定すると、制御装置40は、ステップS445の処理に進む。ステップS445では、制御装置40は、まず、満たされた1つ以上の解除キャンセル条件に対応する、1つ以上のロック解除条件を選定する。そして、制御装置40は、選定したロック解除条件が満たされたことによって計測を開始した1つ以上のタイマー(以下、該当タイマーとも呼ばれる)をリセットし、該当タイマーによる、選定したロック解除条件が満たされてからの経過時間の計測を中止する。その後、制御装置40は、図12のフローチャートに示す処理を終了する。
【0081】
図13は、1つのパラメータとして、例えば、電動機30の回転数について複数のロック解除条件である第1~第3ロック解除回転数が設定された場合の、各ロック解除条件に対応する各タイマーの計測開始から計測終了までの期間を例示するタイムチャートである。図13のタイムチャートに示すように、第1~第3ロック解除回転数について、解除回転数が高くなるほど、すなわち、電動機30のロック状態が解消された可能性が高くなるほど、対応する所定期間は短くなるように設定されている。
【0082】
実際に電動機30のロック状態が解消されると、電動機30の回転数は、第1~第3ロック解除回転数を超えて上昇する。この際、図13のタイムチャートに示すように、各ロック解除回転数に対応する各タイマーが計測を開始する順序は、第1ロック解除回転数、第2ロック解除回転数、第3ロック解除回転数の順となる。しかし、各ロック解除回転数に対応して設定された各所定期間は、解除回転数が高くなるほど短くなるように設定されている。このため、各ロック解除回転数に対応する所定期間に達する順序は、逆に、第3ロック解除回転数、第2ロック解除回転数、第1ロック解除回転数の順となる。
【0083】
このように、1つのパラメータについて、複数のロック解除条件と、各ロック解除条件に対応する所定期間を個別に設定することにより、実際に電動機30のロック状態が解消されたとき、早期に、電動機30のロック状態の判定を終了することができる。その結果、電動機30のロック状態が解消されたときの車両のドライバビリティの向上を図ることができる。
【0084】
(第5実施形態)
次に、本開示の第5実施形態に係る、電動機30の制御装置40について説明する。本実施形態に係る制御装置40は、第1実施形態に係る制御装置40と同様に構成されるため、構成に関する説明は省略する。
【0085】
上述した第1実施形態に係る制御装置40は、ロック解除条件に対応して設定される所定期間が経過したか否かを、タイマーによって計測される経過時間に基づいて判定していた。それに対して、本実施形態に係る制御装置40は、一定の間隔でロック解除条件が満たされているか否かを判定しつつ、ロック解除条件が満たされているとの判定が所定の回数連続するか否かにより、ロック解除条件に対応して設定された所定期間が経過したか否かを判定するものである。このようにしても、ロック解除条件が満たされた期間が、所定期間継続したことを判定することができる。
【0086】
また、第4実施形態のように、複数のロック解除条件を設定し、複数の所定期間が、それら複数のロック解除条件に対応して個別に設定される場合、ロック解除条件が満たされているとの判定が連続する所定の回数(すなわち、判定数)を、所定期間に応じて異ならせることにより、複数のロック解除条件に対応して個別に設定された各所定期間が経過したか否かを判定することができる。
【0087】
例えば、図14は、1つのパラメータとして、例えば、電動機30の回転数について複数のロック解除条件である第1~第3ロック解除回転数が設定された場合に、ロック解除回転数毎に、各ロック解除回転数が満たされていると判定する所定の回数を異ならせることで、各ロック解除条件に対応する各所定期間が経過したか否かを判定する一例を示すタイムチャートである。図14のタイムチャートに示される例では、第1ロック解除回転数に対する第1判定数は6回、第2ロック解除回転数に対する第2判定数は4回、第3ロック解除回転数に対する第3判定数は2回に設定されている。
【0088】
これにより、第4実施形態の場合と同様に、電動機30の回転数が各ロック解除回転数を満たす順序は、第1ロック解除回転数、第2ロック解除回転数、第3ロック解除回転数の順となる。しかし、各ロック解除回転数に対する所定の回数を満たす順序は、逆に、第3ロック解除回転数、第2ロック解除回転数、第1ロック解除回転数の順となる。
【0089】
また、判定数ではなく、ロック解除条件が満たされているか否かを判定する一定の間隔(すなわち、判定周期)を、ロック解除条件毎に異ならせることによっても、各ロック解除条件に対応する各所定期間が経過したか否かを判定することができる。
【0090】
例えば、図15は、1つのパラメータとして、例えば、電動機30の回転数について複数のロック解除条件である第1~第3ロック解除回転数が設定された場合に、ロック解除回転数毎に、各ロック解除回転数が満たされていると判定する判定周期を異ならせることで、各ロック解除条件に対応する各所定期間が経過したか否かを判定する一例を示すタイムチャートである。図15のタイムチャートに示される例では、各ロック解除回転数を満たしているか否かを判定する判定数は、同じ6回である。しかし、第1ロック解除回転数を満たしているか否かを判定する判定周期は、最も長い第1判定周期に設定される。第2ロック解除回転数を満たしているか否かを判定する判定周期は、中間的な長さの第2判定周期に設定される。第3ロック解除回転数を満たしているか否かを判定する判定周期は、最も短い第3判定周期に設定される。
【0091】
この結果、各ロック解除回転数に対して判定数を異ならせた場合と同様に、各ロック解除回転数に対する同じ判定回数を満たす順序は、第3ロック解除回転数、第2ロック解除回転数、第1ロック解除回転数の順となる。
【0092】
なお、複数のロック解除条件が設定される場合、各ロック解除条件に対して、判定数と判定周期との両方を異ならせても良い。
【0093】
(第6実施形態)
次に、本開示の第6実施形態に係る、電動機30の制御装置40について説明する。本実施形態に係る制御装置40は、第1実施形態に係る制御装置40と同様に構成されるため、構成に関する説明は省略する。
【0094】
第6実施形態に係る制御装置40においては、ロック解除条件が設定されたパラメータに関して、そのロック解除条件よりも高い可能性で、電動機30のロック状態が解除されたことを判定するための少なくとも1つの第2ロック解除条件が定められる。そして、制御装置40は、所定の間隔でロック解除条件及び第2ロック解除条件が満たされているか否かを判定する。
【0095】
制御装置40は、ロック解除条件が連続して満たされている間、ロック解除条件を満たしたときの得点と、ロック解除条件を満たしたときの得点よりも高く設定された第2ロック解除条件を満たしたときの得点との合計点を算出する。この合計点がしきい値を超えると、制御装置40は、所定期間が経過したとみなして、電動機30のロック状態が解消したと判定する。
【0096】
図16は、例えば、電動機30の回転数を、ロック解除条件が設定されるパラメータとし、ロック解除条件として第1ロック解除回転数が設定され、その第1ロック解除回転数よりも高い可能性で、電動機30のロック状態が解除されたことを判定するための少なくとも1つの第2ロック解除条件として、第2ロック解除回転数及び第3ロック解除回転数が設定された例を示すタイムチャートである。
【0097】
図16のタイムチャートに示す例において、制御装置40は、所定の期間毎に、電動機30の回転数と、各解除回転数との大小比較を行う。電動機30の回転数が第1解除回転数以上であると、制御装置40は、第1解除回転数以上である場合の得点(例えば、1点)を合計点として算出する。電動機30の回転数が、1回、第1解除回転数以上となっても、合計点は、しきい値を超えない。次の判定周期において、電動機30の回転数が第2解除回転数以上であると、制御装置40は、第2解除回転数以上である場合の得点(例えば、2点)を、算出済みの合計点に加算して、合計点を算出する。この場合も、まだ、合計点は、しきい値を超えていない。さらに、次の判定周期において、電動機30の回転数が第3解除回転数以上であると、制御装置40は、第3解除回転数以上である場合の得点(例えば、10点)を、算出済みの合計点に加算して、合計点を算出する。図16のタイムチャートに示す例では、この時点で、算出された合計点がしきい値を超えるので、所定期間が経過したとみなして、電動機30のロック状態が解消したと判定する。
【0098】
また、図17のタイムチャートに示すように、電動機30の回転数が、一旦、第2解除回転数以上となったが、その後、第2解除回転数よりも低下した場合、例えば、第2解除回転数以上となった場合の得点分を、合計点から減算しても良い。減算値は、第2解除回転数以上となった場合の得点よりも大きくても良いし、小さくても良い。さらに、電動機30の回転数の前回値と今回値とを比較し、今回値が前回値よりも大きい場合だけ、合計値に得点を加算するようにしても良い。
【0099】
なお、本実施形態においては、電動機30の回転数が第1解除回転数以下に設定されるリセット回転数以下まで低下すると、それまでに算出された合計値がリセットされることで、所定期間の計測が中止される。また、スイッチングモジュール24の温度、もしくはそれに関連するパラメータである、冷却装置26の冷媒温度又は冷媒流量に基づいて、しきい値を変更することにより、電動機30の回転数及び/又はトルク指令、もしくはそれらの少なくとも1つに関連するパラメータについて設定されるロック解除条件に対応する所定期間を変更しても良い。
【0100】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態になんら限定されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することができる。
【0101】
例えば、上述した各実施形態において、電動機30は、車両の駆動力を発生するために用いられたが、電動機30は他の用途に用いられても良い。
【0102】
最後に、この明細書には、以下に列挙する複数の技術的思想と、それらの複数の組み合わせが開示されている。
【0103】
(技術的思想1)
インバータを介して電流が通電される電動機(30)を制御するための電動機制御装置であって、
前記電動機のロック状態を判定するロック状態判定部(S100)と、
前記ロック状態判定部によって前記電動機のロック状態が判定されると、前記電動機に通電する電流を制限する電流制限部(S250)と、
前記電動機のロック状態の解除を判定するための解除条件が満たされているか否かを判定する解除判定部(S330、S336)と、
前記解除条件が満たされている期間が、所定期間継続すると、前記電動機のロック状態が解除されたとみなして、前記電流制限部による電流制限を終了させる制限終了部(S450、S455、S470)と、を備える電動機制御装置。
【0104】
(技術的思想2)
前記所定期間が経過する前に、前記解除条件の成立をキャンセルするキャンセル条件が満たされると、前記所定期間の計測を中止する計測中止部(S430、S435、S440、S445)をさらに備える、技術的思想1に記載の電動機制御装置。
【0105】
(技術的思想3)
前記解除条件は、前記電動機の回転数、前記電動機が発生すべきトルクを指令するトルク指令、及び前記インバータの素子温度の少なくとも1つ、もしくはそれらに関連するパラメータの少なくとも1つについて設定される、技術的思想1又は2に記載の電動機制御装置。
【0106】
(技術的思想4)
前記解除条件は、前記電動機の回転数、及び前記電動機が発生すべきトルクを指令するトルク指令の少なくとも1つに関連するパラメータについて設定され、
前記インバータの素子温度に関連するパラメータを検出し、検出された前記インバータの素子温度に関連するパラメータに基づき、前記インバータの素子温度が低いときには高いときに比較して、前記解除条件に対応して設定される前記所定期間を短縮するように前記所定期間を設定する設定部(S332、S334)をさらに備える、技術的思想1又は2に記載の電動機制御装置。
【0107】
(技術的思想5)
前記解除判定部(S336)は、複数の前記解除条件について、各々の前記解除条件が満たされているか否か判定するものであり、
前記所定期間は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められており、
前記制限終了部(S455、S470)は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められた、いずれかの前記所定期間が経過すると、前記電動機のロック状態が解除されたとみなして、前記電流制限部による電流制限を終了させる、技術的思想1乃至4のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【0108】
(技術的思想6)
複数の前記解除条件は、同じパラメータについて設定され、
前記同じパラメータについて設定される複数の前記解除条件に対して個別に定められる前記所定期間は相互に異なる、技術的思想5に記載の電動機制御装置。
【0109】
(技術的思想7)
前記同じパラメータは、前記電動機の回転数又は前記電動機の回転数に相関するパラメータであり、
複数の前記解除条件は、少なくとも、前記電動機が第1回転数以上となる第1解除条件と、前記第1回転数よりも高い第2回転数以上となる第2解除条件とを含み、
前記第2解除条件に対して個別に定められる前記所定期間は、前記第1解除条件に対して個別に定められる前記所定期間よりも短い、技術的思想6に記載の電動機制御装置。
【0110】
(技術的思想8)
前記同じパラメータは、前記電動機が発生すべきトルクを指令するトルク指令又は前記トルク指令に相関するパラメータであり、
複数の前記解除条件は、少なくとも、前記トルク指令が第1トルク以下となる第1解除条件と、前記第1トルクよりも低い第2トルク以下となる第2解除条件とを含み、
前記第2解除条件に対して個別に定められる前記所定期間は、前記第1解除条件に対して個別に定められる前記所定期間よりも短い、技術的思想6に記載の電動機制御装置。
【0111】
(技術的思想9)
前記制限終了部は、前記解除条件が満たされたことを契機として時間のカウントを開始するタイマーを用いて前記所定期間を計測するか、又は、一定の間隔で前記解除条件が満たされているか否かを判定しつつ、前記解除条件が満たされているとの判定が所定の回数連続することにより前記所定期間を計測する、技術的思想1乃至8のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【0112】
(技術的思想10)
前記解除判定部(S336)は、複数の前記解除条件について、各々の前記解除条件が満たされているか否か判定するものであり、
前記所定期間は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められており、
前記所定の回数は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められた前記所定期間に応じて異なる、技術的思想9に記載の電動機制御装置。
【0113】
(技術的思想11)
前記解除判定部(S336)は、複数の前記解除条件について、各々の前記解除条件が満たされているか否か判定するものであり、
前記所定期間は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められており、
前記一定の間隔は、複数の前記解除条件ごとに個別に定められた前記所定期間に応じて異なる、技術的思想9又は10に記載の電動機制御装置。
【0114】
(技術的思想12)
前記解除条件が設定されたパラメータに関して、前記解除条件よりも高い可能性で前記ロック状態が解除されたことを判定するための第2解除条件が少なくとも1つ定められており、
前記解除判定部は、所定の間隔で前記解除条件及び前記第2解除条件を満たしているか否かを判定し、
前記制限終了部は、前記解除条件が連続して満たされている間、前記解除条件を満たしたときの得点と、前記解除条件を満たしたときの得点よりも高く設定された前記第2解除条件を満たしたときの得点との合計点を算出し、前記合計点がしきい値を超えると、前記所定期間が経過したとみなす、技術的思想1乃至4のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【0115】
(技術的思想13)
前記ロック状態判定部によって前記電動機のロック状態が判定されても、前記電動機の運転開始から所定の保留時間の間、前記電動機に通電する電流の制限を保留する電流制限保留部(S242、S244)をさらに備える、技術的思想1乃至12のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【0116】
(技術的思想14)
前記電動機は、車両を駆動するために用いられる、技術的思想1乃至13のいずれか1項に記載の電動機制御装置。
【0117】
(技術的思想15)
インバータを介して電流が通電される電動機(30)を制御するための電動機制御方法であって、
少なくとも1つのプロセッサに、
電動機のロック状態を判定させること(S100)、
前記電動機のロック状態が判定されると、前記電動機に通電する電流を制限させること(S250)、
前記電動機のロック状態の解除を判定するための解除条件が満たされているか否かを判定させること(S330、S336)、及び
前記解除条件が満たされている期間が、所定期間継続すると、前記電動機のロック状態が解除されたとみなして、前記電動機に通電する電流の制限を終了させること(S450、S455、S470)を含む、電動機制御方法
【符号の説明】
【0118】
10:バッテリ、12:昇圧回路、20:電力変換回路、22:平滑コンデンサ、24:スイッチングモジュール、26:冷却装置、28:温度センサ、30:電動機、32:回転センサ、40:制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17