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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169165
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電解システム
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/02 20210101AFI20241128BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20241128BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20241128BHJP
   H01M 8/04694 20160101ALI20241128BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20241128BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241128BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20241128BHJP
【FI】
C25B15/02
H01M8/12 101
H01M8/04 J
H01M8/04694
C25B1/042
C25B9/00 A
H01M8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086401
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC09
4K021DC03
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB14
5H127AB16
5H127BA02
5H127BA15
5H127BA22
5H127BB02
5H127BB10
5H127DA05
5H127DA11
5H127DC41
5H127EE13
5H127EE29
5H127EE30
(57)【要約】
【課題】簡易な構成により、待機時においてスタックを適切に保温する。
【解決手段】電解システムは、電解動作と発電動作とが可能な可逆作動固体酸化物形セルにより構成される複数のスタックと、断熱性を有し複数のスタックを収容するケースと、複数のスタックの各燃料極を直列に接続する燃料極用流路と、複数のスタックの各酸素極を直列に接続する酸素極用流路と、複数のスタックに対して個別に直流電力を授受可能な電力授受部と、通常運転時には複数のスタックのうちの全てで電解動作を実行するように電力授受部を制御し、待機時には複数のスタックのうちの一部のスタックで電解動作を実行すると共に残余のスタックで発電動作を実行するように電力授受部を制御する制御部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気を電気分解して水素と酸素とを生成する電解動作と、水素と酸素との反応により発電する発電動作とが可能な可逆作動固体酸化物形セルにより構成される複数のスタックと、
断熱性を有し、前記複数のスタックを収容するケースと、
前記複数のスタックの各燃料極を直列に接続する燃料極用流路と、
前記複数のスタックの各酸素極を直列に接続する酸素極用流路と、
前記複数のスタックに対して個別に直流電力を授受可能な電力授受部と、
通常運転時には、前記複数のスタックのうちの全てで前記電解動作を実行するように前記電力授受部を制御し、待機時には、前記複数のスタックのうちの一部のスタックで前記電解動作を実行すると共に前記複数のスタックのうちの残余のスタックで前記発電動作を実行するように前記電力授受部を制御する制御部と、
を備える電解システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電解システムであって、
前記制御部は、前記待機時には、前記複数のスタックのうち前記電解動作が実行されるスタックの水素の生成量と前記発電動作が実行されるスタックの水素の消費量とが均衡するように前記電力授受部を制御する、
電解システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電解システムであって、
前記制御部は、前記待機時には、前記複数のスタックで前記電解動作と前記発電動作とを順次入れ替えて実行するように前記電力授受部を制御する、
電解システム。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載の電解システムであって、
前記燃料極用流路において前記複数のスタックのうち最上流に設置されたスタックの燃料極入口側に設けられた第1バッファタンクと、
前記燃料極用流路において前記複数のスタックのうち最下流に設置されたスタックの燃料極出口側に設けられた第2バッファタンクと、
前記酸素極用流路において前記複数のスタックのうち最上流に設置されたスタックの酸素極入口側に設けられた第3バッファタンクと、
前記酸素極用流路において前記複数のスタックのうち最下流に設置されたスタックの酸素極出口側に設けられた第4バッファタンクと、
を備える電解システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、電解システムについて開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電解システムとしては、固体酸化物形の電解スタックと、電解スタックを収容する内側ケースと、内側ケースを外側から囲む中間ケースと、中間ケースを外側から囲む外側ケースと、中間ケースと外側ケースとの間に形成された真空用空間の空気を外部に排出するための空気導出流路と、内側ケースと中間ケースとの間に形成された蓄熱用空間に加熱装置により加熱された加熱流体を供給する流体供給流路と、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。電解スタックは、蓄熱用空間および真空用空間に囲まれているため、適度な温度に保温することができるとしている。
【0003】
また、電解セルスタックを有するN個の反応器を含むユニットにおいて、N個の反応器のうちの一部であるP個の反応器に電力を供給し、水蒸気または水蒸気と二酸化炭素との混合物のいずれかに基づいてP個の反応器で水蒸気電解または高温共電解を行ない、電解によって得られるガスの少なくとも一部を回収して電力が供給されていないX(N-P)個の反応器に供給し、X個の反応器(メタン化反応触媒材料)でメタン化を行なうものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このユニットでは、始動モードまたは待機モードにおいて、X個の反応器による内部メタン化反応により、ユニット全体を高温に保持することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-152445号公報
【特許文献2】特開2019-112717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電解システムでは、真空状態を維持するための真空容器や真空ポンプを必要とし、システムが複雑化してしまう。また、特許文献2に記載の電解システムでは、メタネーション反応のために二酸化炭素を供給可能で、メタネーション反応で生成されるメタンを回収可能なシステムしか適用することができない。
【0006】
本開示の電解システムは、簡易な構成により、待機時においてスタックを適切に保温することが可能な電解システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電解システムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本開示の電解システムは、
水蒸気を電気分解して水素と酸素とを生成する電解動作と、水素と酸素との反応により発電する発電動作とが可能な可逆作動固体酸化物形セルにより構成される複数のスタックと、
断熱性を有し、前記複数のスタックを収容するケースと、
前記複数のスタックの各燃料極を直列に接続する燃料極用流路と、
前記複数のスタックの各酸素極を直列に接続する酸素極用流路と、
前記複数のスタックに対して個別に直流電力を授受可能な電力授受部と、
通常運転時には、前記複数のスタックのうちの全てで前記電解動作を実行するように前記電力授受部を制御し、待機時には、前記複数のスタックのうちの一部のスタックで前記電解動作を実行すると共に前記複数のスタックのうちの残余のスタックで前記発電動作を実行するように前記電力授受部を制御する制御部と、
を備えることを要旨とする。
【0009】
この本開示の電解システムでは、複数のスタックの各燃料極は燃料極用流路により直列に接続され、複数のスタックの各酸素極は酸素極用流路により直列に接続されているから、電解動作により一部のスタックで生成された水素と酸素とを消費して残余のスタックで発電動作を実行することができる。一般に、電解動作の効率よりも発電動作の効率の方が低く、差分のエネルギは熱として与えられる。このため、待機時において、一部のスタックで電解動作を実行する一方、残余のスタックで発電動作を実行することで、スタック全体の熱収支を発熱とし、余剰の熱によりケース内を保温することができる。この結果、簡易な構成により、待機時においてスタックを適切に保温することが可能な電解システムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の電解システムの概略構成図である。
図2】電解システムの補機類と制御装置との電気的な接続関係を示す説明図である。
図3】制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図4】通常運転時における電解システムの動作の様子を示す説明図である。
図5】ホットスタンバイ時における電解システムの動作の様子を示す説明図である。
図6】他の実施形態に係る電解システムの概略構成図である。
図7】通常運転時における電解システムの動作の様子を示す説明図である。
図8】ホットスタンバイ時における電解システムの動作の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の電解システム10の概略構成図である。図示するように、本実施形態の電解システム10は、水蒸気電解により水素を生成する2つの電解セルスタック(第1スタック21,第2スタック22)を含む電解モジュール20と、第1スタック21に対して水蒸気電解に必要な電力を供給する第1電源系50と、第2スタック22に対して水蒸気電解に必要な電力を供給する第2電源系55と、第1スタック21および第2スタック22で生成された水素を回収する水素回収系60と、システム全体を制御する制御装置100と、を備える。
【0013】
第1スタック21および第2スタック22は、いずれも、水蒸気を電気分解して水素をと酸素とを生成する電解動作(ECモード)と水素と酸素との電気化学反応により発電する発電動作(FCモード)とを実行可能な可逆作動固体酸化物形の単セルを備える。各単セルは、電解質21a,22aと、電解質21a,22aの一方の面側に配置される燃料極21b,22bと、電解質21a,22aの他方の面側に配置される酸素極21c,22cと、を有する。
【0014】
第1,第2スタック21,22は高温で作動するため、電解質21a,22aや燃料極21b,22b、酸素極21c,22cは、セラミックス材料により作製される。また、触媒により水蒸気を酸素イオンと水素とに分解するため、燃料極21b,22bには、触媒作用をもつニッケル等の金属とセラミックスとのサーメットが用いられる。燃料極21b,22bの触媒活性を良好に維持するためには、燃料極21b,22bを還元雰囲気に保ち、金属の酸化を防止する必要がある。このため、本実施形態では、ECモードにおいて燃料極21b,22bに供給される水蒸気には、水素ガス(酸化防止用水素)が混合される。
【0015】
電解モジュール20は、第1スタック21および第2スタック22の他に、燃料極用配管31や酸素極用配管41、蒸発器32、ヒータ33,42、バッファタンク34,35,44,45を備える。これらは、断熱性を有するモジュールケース29に収容されている。燃料極用配管31の入口には、水供給管36の一端が接続され、当該水供給管36の他端には、水タンク67が設置されている。また、水供給管36には、開閉弁37が設置されている。燃料極用配管31の出口には、燃料極オフガス配管38の一端が接続されている。また、燃料極オフガス配管38には、開閉弁39が設置されている。酸素極用配管41の入口には、空気供給管46の一端が接続され、当該空気供給管46の他端には、図示しないエアブロワが接続されている。また、空気供給管46には、開閉弁47が設置されている。酸素極用配管41の出口には、排気管48が接続されている。また、排気管48には、開閉弁49が設置されている。
【0016】
燃料極用配管31は、第1スタック21の燃料極21bと第2スタック22の燃料極22bとを直列に接続する配管であり、当該燃料極用配管31には、蒸発器32とバッファタンク34,35とが設置されている。バッファタンク35は、燃料極用配管31における上流側の第1スタック21の燃料極21b入口近傍に設置され、バッファタンク35は、燃料極用配管31における下流側の第2スタック22の燃料極22b出口近傍に設置されている。蒸発器32は、燃料極用配管31におけるバッファタンク35の上流側に設置されている。蒸発器32には、ヒータ33(例えばシーズヒータ等)が設けられ、ヒータ33からの熱により、水を蒸発させて水蒸気を生成すると共に生成した水蒸気を電解動作に必要な温度まで昇温させる。
【0017】
酸素極用配管41は、第1スタック21の酸素極21cと第2スタック22の酸素極22cとを直列に接続する配管であり、当該酸素極用配管41には、ヒータ42やバッファタンク44,45が設置されている。バッファタンク44は、酸素極用配管41における上流側の第1スタック21の酸素極21c入口近傍に設置され、バッファタンク45は、酸素極用配管41における下流側の第2スタック22の酸素極22c出口近傍に設置されている。ヒータ42は、例えばシーズヒータであり、酸素極用配管41におけるバッファタンク44の上流側に設置されている。ヒータ42は、酸素極用配管41から第1スタック21の酸素極21cに供給される空気の温度を電解動作に必要な温度まで昇温させる。
【0018】
第1電源系50は、設定された電流値の直流電流を生成して第1スタック21に出力する直流定電流電源51と、例えばリチウムイオンバッテリ等により構成される蓄電池52と、設定された電流値の直流電流を第1スタック21から掃引して蓄電池52に出力する定電流負荷装置53と、第1スタック21に対して直流定電流電源51と定電流負荷装置53とを選択的に接続する切替スイッチ54と、を備える。
【0019】
第2電源系55は、設定された電流値の直流電流を生成して第2スタック22に出力する直流定電流電源56と、例えばリチウムイオンバッテリ等により構成される蓄電池57と、設定された電流値の直流電流を第2スタック22から掃引して蓄電池57に出力する定電流負荷装置58と、第2スタック22に対して直流定電流電源56と定電流負荷装置58とを選択的に接続する切替スイッチ59と、を備える。
【0020】
水素回収系60は、燃料極用配管31の出口から排出される燃料極オフガスから水素を回収するものである。この水素回収系60は、燃料極用配管31の出口に連結された燃料極オフガス配管38に接続され燃料極オフガスに含まれる水蒸気を凝縮させて気液分離する気液分離器61と、水素を貯蔵する水素タンク63と、を備える。気液分離器61は、冷却水と熱交換可能な熱交換流路を有し、当該熱交換流路の入口には、燃料極オフガス配管38が接続され、当該熱交換流路の出口には、水素回収配管62の一端が接続されている。水素回収配管62の他端には、水素タンク63が接続されている。水素と水蒸気とを含む燃料極オフガスは、冷却水との熱交換により、燃料極オフガスに含まれる水蒸気が凝縮させられた後、図示しない昇圧ポンプの駆動により水素回収配管62を通って水素タンク63に回収される。また、水素タンク63には、水素供給配管64の一端が接続され、当該水素供給配管64の他端は、バッファタンク34に接続されている。また、水素供給配管64には、開閉弁65が設置されている。水素タンク63に蓄えられた水素の一部は、酸化防止用水素として用いられる。
【0021】
気液分離器61で燃料極オフガスが凝縮することにより得られた水蒸気は、水回収配管66を通って水タンク67に蓄えられる。水タンク67は、水供給管36を介して燃料極用配管31に接続されており、水タンク67に蓄えられた水は、電解用の水蒸気を生成するための原料水として用いられる。
【0022】
制御装置100は、図2に示すように、CPU101を中心としたマイクロプロセッサとして構成され、CPU101の他にROM102やRAM103、入出力ポート等を備える。制御装置100は、ヒータ33,42への駆動信号や開閉弁37,39,47,49,65の開閉信号、直流定電流電源51,56への制御信号、定電流負荷装置53,58への制御信号、切替スイッチ54,59への制御信号などを出力ポートを介して出力する。
【0023】
次に、こうして構成された本実施形態の電解システム10の動作(電解動作、発電動作)について説明する。
【0024】
電解動作(ECモード)では、第1スタック21の燃料極21bには、水タンク67の水から生成される水蒸気と水素タンク63からの若干量の酸化防止用水素とが燃料極用配管31によりバッファタンク34を通って導入され、第1スタック21の酸素極21cには、スイープガスとしての空気が酸素極用配管41によりバッファタンク44を通って導入される。そして、第1電源系50の直流定電流電源51により第1スタック21に直流の定電流が印加されると、燃料極21bに導入された水蒸気は、燃料極21bにおいて電解作用により水素と酸素イオン(O2-)とに分解され、当該酸素イオンが電解質21aを透過することで酸素極21cにおいて酸素が生成される。燃料極21bには、水蒸気と共に若干量の酸化防止用水素も供給されるため、燃料極21bが還元雰囲気に保たれ、当該燃料極21bの触媒金属が酸化するのを防止することができる。
【0025】
第1スタック21の燃料極21bで生成された水素は、電解未反応の水蒸気と共に当該第1スタック21の燃料極21bと直列に接続された第2スタック22の燃料極22bに供給される。また、第1スタック21の酸素極21cで生成された酸素は、スイープガス(空気)と共に当該第1スタック21の酸素極21cと直列に接続された第2スタック22の酸素極22cに供給される。そして、第2電源系55の直流定電流電源56により第2スタック22に直流の定電流が印加されると、燃料極22bに導入された水蒸気は、同様に、燃料極22bにおいて電解作用により水素と酸素イオン(O2-)とに分解され、当該酸素イオンが電解質22aを透過することで酸素極22cにおいて酸素が生成される。燃料極22bには、燃料極21bで生成された水素の一部が酸化防止用水素として用いられる。
【0026】
第2スタック22の燃料極22bで生成された水素は、電解未反応の水蒸気と共に水素極オフガスとしてバッファタンク35を通って燃料極オフガス配管38に排出され、水素回収系60へ供給される。そして、水素回収系60に供給された水素極オフガスは、気液分離器61で冷却水との熱交換により冷却させられて水蒸気が除去された後、水素回収配管62を通って水素タンク63に回収される。水素タンク63に蓄えられた水素の一部は、酸化防止用水素として、水素供給配管64を介して燃料極用配管31(バッファタンク34)に供給される。なお、酸化防止用水素の供給は、燃料極用配管31の出口側から排出された水素極オフガスを燃料極用配管31の入口側へ直接に還流させることで行なうようにしてもよい。
【0027】
第2スタック22の酸素極22cで生成された酸素は、スイープガス(空気)と共にバッファタンク45を通って排気される。
【0028】
本実施形態の電解システム10では、第1スタック21および第2スタック22は、可逆作動固体酸化物形セルにより構成され、第1電源系50および第2電源系55は、定電流負荷装置53,58と蓄電池52,57とを備えているから、第1,第2スタック21,22から直流電流を掃引することで、第1,第2スタック21,22は、発電動作(FCモード)により動作する。すなわち、第1スタック21の発電動作では、第1スタック21の燃料極21bに水素が導入され、第1スタック21の酸素極21cに空気が導入される。そして、酸素極21cで酸化物イオン(O2-)が生成され、当該酸化物イオンが電解質21aを透過して燃料極21bで水素と反応することにより発電すると共に水蒸気が生成される。第1スタック21で発電した電力は、定電流負荷装置53を介して蓄電池52に蓄電される。第2スタック22の発電動作についても同様である。
【0029】
次に、電解システム10の通常運転モード時の制御とホットスタンバイモード時の動作について説明する。ここで、通常運転モードは、第1スタック21および第2スタック22での電解動作により水素を製造する運転モードである。一方、ホットスタンバイモードは、通常運転を終了した後、次の通常運転時の起動を素早く行なえるように、電解モジュール20内を保温するための運転モードである。図2は、制御装置100のCPU101により実行される制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0030】
制御ルーチンが実行されると、制御装置100のCPU101は、まず、上位システムから指示された運転モードが通常運転モードとホットスタンバイモードのいずれであるかを判定する(ステップS100)。
【0031】
CPU101は、指示された運転モードが通常運転モードであると判定すると、ホットスタイバイモード中であるか否かを判定する(ステップS102)。CPU101は、ホットスタンバイ中であると判定すると、全ての開閉弁37,39,47,49,65を開弁すると共に(ステップS104)、ヒータ33,42をオンとして(ステップS106)、ステップS108に進む。一方、CPU101は、ホットスタンバイモード中ではなく通常運転モード中であると判定すると、ステップS104,S106をスキップしてステップS108に進む。次に、CPU101は、図4に示すように、第1スタック21に直流定電流電源51が接続されるように切替スイッチ54を制御すると共に第2スタック22に直流定電流電源56が接続されるように切替スイッチ59を制御する(ステップS108)。そして、CPU101は、直流定電流電源51,56の各電流値を設定して第1スタック21および第2スタック22で電解動作を実行して(ステップS110)、制御ルーチンを終了する。電解動作は、上述したように、第1,第2スタック21,22に直流定電流電源51,56から直流電流を印加し、燃料極用配管31に水タンク67から水を供給すると共に水素タンク63から酸化防止用水素を供給し、酸素極用配管41に空気を供給することにより行なわれる。上述したように、燃料極用配管31に供給された水は、ヒータ33からの熱により蒸発器32で水蒸気に変換されると共に必要温度まで昇温させられてから、バッファタンク34を通って燃料極21b,22bに供給され、燃料極21b,22bに供給された水蒸気は、直流定電流電源51,56からの直流電力により電気分解される。これにより、水蒸気が消費され、燃料極21b,22bには水素が生成され、酸素極21c,22cには酸素が生成される。
【0032】
本実施形態の電解システム10では、複数の固体酸化物形セルスタック(第1スタック21,第2スタック22)を備えるから、各スタックの設置場所や配管のレイアウトの違い等によって、スタック間の温度に違いが発生したり、各スタックに導入されるガスの組成や濃度、流速に違いが発生したりし、スタック間の劣化の速度にバラツキが生じる場合がある。この場合、スタック間の温度のバラツキやガスの組成や濃度等のバラツキが緩和されるように直流定電流電源51,56の電流値を実験等により予め求めて個別に設定することで、スタック間の劣化の速度を揃えて電解システム10の寿命の向上を図ることができる。
【0033】
CPU101は、ステップS100において、指示された運転モードがホットスタンバイモードであると判定すると、通常運転モード中であるか否かを判定する(ステップS112)。CPU101は、通常運転モード中であると判定すると、全ての開閉弁37,39,47,49,65を閉弁する(ステップS114)。これにより、燃料極用配管31の入口と出口とが閉鎖され、酸素極用配管41の入口と出口とが閉鎖される。すなわち、燃料極用配管31と酸素極用配管41とは閉空間が形成される。続いて、CPU101は、ヒータ33,42をオフとして(ステップS116)、ステップS118に進む。一方、CPU101は、通常運転モード中ではなくホットスタンバイモード中であると判定すると、ステップS114,S116をスキップしてステップS118に進む。
【0034】
次に、CPU101は、図5に示すように、第1スタック21に直流定電流電源51が接続されるように切替スイッチ54を制御すると共に(ステップS118)、第2スタック22に定電流負荷装置58(蓄電池57)が接続されるように切替スイッチ59を制御する(ステップS120)。そして、CPU101は、直流定電流電源51の電流値を設定して第1スタック21で電解動作を実行すると共に(ステップS122)、第1スタック21で流れる電流の向きとは反対側で且つ同じ電流量の電流が掃引されるように定電流負荷装置58を設定して第2スタック22で発電動作を実行する(ステップS124)。
【0035】
第1スタック21で電解動作を実行し、第2スタック22で発電動作を実行することにより、第1スタック21の燃料極21bで生成される水素は、第2スタック22の燃料極22bで消費され、第1スタック21の酸素極21cで生成される酸素は、第2スタック22の酸素極22cで消費される。また、第2スタック22の燃料極22bで生成される水蒸気は、第1スタック21の燃料極21bで消費される。第1スタック21および第2スタック22でそれぞれ流れる電流の電流量を合わせることで、第1スタック21の燃料極21bでの水素の生成量および水蒸気の消費量と第2スタック22の燃料極22bでの水素の消費量および水蒸気の生成量とが釣り合うと共に、第1スタック21の酸素極21cでの酸素の生成量と第2スタック22の酸素極22cでの酸素の消費量とが釣り合うため、電解モジュール20からオフガス(燃料極オフガスおよび酸素極オフガス)が排出されることがなくなり、電解モジュール20(モジュールケース29)外に持ち出される熱量を低減することができる。ここで、ホットスタンバイモードにおいて、水素、水蒸気および酸素並びにスイープガス(空気)の組成や濃度は、全体でみると一定ではあるものの、局所的には濃度分布が発生するおそれがある。しかし、本実施形態の電解システム10では、上流側の第1スタック21の燃料極21b入口近傍および酸素極21c入口近傍と、下流側の第2スタック22の燃料極22b出口近傍および酸素極22c出口近傍とには、それぞれバッファタンク34,44,35,45が設置されているから、バッファタンク34,44,35,45に含まれるガスにより局所的な濃度分布を緩和することができる。
【0036】
一般的に、電解動作(ECモード)の効率(投入した電力に対する生成された水素の燃焼エネルギの割合)より発電動作(FCモード)の効率(投入した水素の燃焼エネルギに対する発電した電力の割合)の方が低いため、第1スタック21での水蒸気電解に必要な電力よりも第2スタック22での発電電力の方が小さくなり、差分のエネルギは、電解モジュール20内に熱として与えられる。このため、ホットスタンバイモードの実行により、スタック全体の熱収支を発熱とし、余剰の熱により電解モジュール20内を保温することができる。ステップS122により直流定電流電源51で設定される電流値は、ホットスタンバイモードから通常運転モードに移行するときに、電解モジュール20が高温状態から起動(ホットスタート)するための必要最小限の温度で保温されるような電流値に設定されることが望ましい。こうした電流値は予め実験等により定めることができる。
【0037】
次に、CPU101は、予め定められた所定時間(例えば、数秒~数時間程度)が経過するまで、第1スタック21での電解動作の実行と第2スタック22での発電動作の実行とを継続する(ステップS126)。CPU101は、所定時間が経過すると、次に、第1スタック21に定電流負荷装置53(蓄電池52)が接続されるように切替スイッチ54を制御すると共に(ステップS128)、第2スタック22に直流定電流電源56が接続されるように切替スイッチ59を制御する(ステップS130)。そして、CPU101は、直流定電流電源56の電流値を設定して第2スタック22で電解動作を実行すると共に(ステップS132)、第2スタック22で流れる電流の向きとは反対側で且つ同じ電流量の電流が掃引されるように定電流負荷装置53を設定して第1スタック21で発電動作を実行する(ステップS134)。
【0038】
CPU101は、ステップS122と同じ時間が経過するまで、第2スタック22での電解動作の実行と第1スタック21での発電動作の実行とを継続して(ステップS132)、制御ルーチンを終了する。このように、第1スタック21と第2スタック22との間で、電解動作と発電動作とを交互に行なうことにより、電解モジュール20内を保温できることに加えて、第1,第2スタック21,22の劣化の回復を促して、その耐久性の向上を図ることができる。これは、電解セルスタックに印加する電流を反転させ、一時的に発電動作を実行することで、電解セルスタックの耐久性が向上することが複数報告されていることに基づく(例えば、S. N. Sampathkumar et al.,” Degradation study of a reversible solid oxide cell(rSOC) short stack using distribution of relaxation times (DRT) analysis”, Int. J. Hydrogen Energy, 47(2022), 10175-10193)。本実施形態では、交互に実行される電解動作と発電動作の各実行時間を同じ時間としたから、第1スタック21と第2スタック22のそれぞれの劣化のレベルと劣化回復のレベルとを合わせることができる。
【0039】
上述した実施形態では、電解モジュール20は、2つの電解セルスタック(第1スタック21,第2スタック22)を備えるものとしたが、3つ以上の電解セルスタックを備えてもよい。図6は、他の実施形態に係る電解システム110の概略構成図である。他の実施形態に係る電解システム110は、図6に示すように、第1スタック21および第2スタック22に加えて第3スタック121を有する電解モジュール120を備えると共に、第1電源系50および第2電源系55に加えて、第3スタック121に対して直流電力の授受が可能な第3電源系150を備える。
【0040】
第3スタック121は、第1,第2スタック21,22と同様に、電解動作と発電動作とが可能な可逆作動固体酸化物形の単セルを備える。各単セルは、電解質121aと、電解質121aの一方の面側に配置される燃料極121b、電解質121aの他方の面側に配置される酸素極121cと、を有する。第3スタック121は、第1スタック21と第2スタック22との間に配置される。第1~第3スタック21,22,121の燃料極21b,22b,121bは、燃料極用配管31により直列に接続される。また、第1~第3スタック21,22,121の酸素極21c,22c,121cは、酸素極用配管41により直列に接続される。
【0041】
第3電源系150は、第1,第2電源系50,55と同様の、直流定電流電源151、蓄電池152および定電流負荷装置153を備える。
【0042】
こうして構成された他の実施形態に係る電解システム110において、通常運転モードでは、3つの電解セルスタック(第1~第3スタック21,22,121)の全てで電解動作が実行される。具体的には、CPU101は、図7に示すように、第1スタック21に直流定電流電源51が接続されるように切替スイッチ54を制御し、第2スタック22に直流定電流電源56が接続されるように切替スイッチ59を制御し、第3スタック121に直流定電流電源151が接続されるように切替スイッチ154を制御する。そして、CPU101は、直流定電流電源51の電流値と直流定電流電源56の電流値と直流定電流電源151の電流値とを設定して第1スタック21と第2スタック22と第3スタック121とで電解動作を実行する。なお、上述したように、スタック間の温度のバラツキやガスの組成や濃度等のバラツキが緩和されるように直流定電流電源51,56,151の電流値を実験等により予め求めて個別に設定することで、スタック間の劣化の速度を揃えて電解システム110の寿命の向上を図ることができる。
【0043】
また、ホットスタンバイモードでは、3つの電解セルスタック(第1~第3スタック21,22,121)のうち2つのスタックで電解動作を実行し、1つのスタックで発電動作を実行する。なお、発電動作を実行するスタックは、第1~第3スタック21,22,121のいずれであってもよい。例えば、CPU101は、図8に示すように、第1スタック21に直流定電流電源51が接続され、第2スタック22に直流定電流電源56が接続されるように切替スイッチ54,59を制御する一方、第3スタック121に定電流負荷装置153(蓄電池152)が接続されるように切替スイッチ154を制御する。そして、CPU101は、直流定電流電源51の電流値と直流定電流電源56の電流値に同じ値を設定して第1スタック21と第2スタック22とで電解動作を実行すると共に、第1および第2スタック21,22で流れる電流の向きとは反対側で且つ2倍の電流量の電流が掃引されるように定電流負荷装置153を設定して第3スタック121で発電動作を実行する。これにより、第1スタック21および第2スタック22の燃料極21b,22bでの水素の生成量の総和および水蒸気の消費量の総和と第3スタック121の燃料極121bでの水素の消費量および水蒸気の生成量とが釣り合うと共に、第1スタック21および第2スタック22の酸素極21c,22cでの酸素の生成量の総和と第3スタック121の酸素極121cでの酸素の消費量とが釣り合い、電解モジュール120からオフガス(燃料極オフガスおよび酸素極オフガス)が排出されることがなくなり、電解モジュール120(モジュールケース29)外に持ち出される熱量を低減することができる。また、この場合、発電動作が実行されるスタック(第3スタック121)の電流密度は、電解動作が実行されるスタック(第1スタック21,第2スタック22)の電流密度と比べて2倍となるため、発電動作の効率は更に低下する。したがって、3つの電解セルスタック全体の熱収支は発熱となり、余剰の熱は、電解モジュール120の保温に用いられる。更に、電解動作と発電動作とを順次入れ替えながら3つの電解セルスタックを運転することで、第1,第2および第3スタック21,22,121の劣化の回復を促して、その耐久性の向上を図ることができる。
【0044】
上述した実施形態では、電解モジュール20は、燃料極用配管31と酸素極用配管41とにそれぞれバッファタンク34,35,44,45を備えるものとしたが、バッファタンクの一部または全部を省略してもよい。
【0045】
以上、本開示を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本開示はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本開示は、電解システムの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
10,110 電解システム、21 第1スタック(スタック)、22 第2スタック(スタック)、29 モジュールケース(ケース)31 燃料極用配管(燃料極用流路)34 バッファタンク(第1バッファタンク)、35 バッファタンク(第2バッファタンク)、41 酸素極用配管(酸素極用流路)44 バッファタンク(第3バッファタンク)、45 バッファタンク(第4バッファタンク)、50 第1電源系(電力授受部)、55 第2電源系(電力授受部)、100 制御装置(制御部)、121 第3スタック(スタック)、150 第3電源系(電力授受部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8