IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

特開2024-169187需給計画策定支援装置および需給計画策定支援方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169187
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】需給計画策定支援装置および需給計画策定支援方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/46 20060101AFI20241128BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20241128BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20241128BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H02J3/46
H02J3/38 130
H02J3/38 160
H02J3/00 130
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086444
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 秀岳
(72)【発明者】
【氏名】山崎 潤
(72)【発明者】
【氏名】藤原 徹
(72)【発明者】
【氏名】三好 晴樹
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064AB05
5G064AC09
5G064BA02
5G064CB03
5G064DA02
5G064DA03
5G066AA02
5G066AA03
5G066AE01
5G066AE05
5G066AE07
5G066AE09
5G066HA15
5G066HB05
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】再生可能エネルギー電源と需要の不確実性および対策のリードタイムを考慮した需給計画を策定可能な需給計画策定支援装置を提供する。
【解決手段】需給計画策定支援装置100は、需要および再生可能エネルギー電源の過去の所定期間の予測値と実績値との差分である予測誤差データを用いて、予測誤差の時系列データとその発生確率を含む予測誤差シナリオを作成するシナリオ作成部21と、シナリオ作成部21が作成した予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価する予備率評価部22と、予備率評価部22の供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する追加供給計画策定部23とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
需要および再生可能エネルギー電源の過去の所定期間の予測値と実績値との差分である予測誤差データを用いて、予測誤差の時系列データとその発生確率を含む予測誤差シナリオを作成するシナリオ作成部と、
前記シナリオ作成部が作成した予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価する予備率評価部と、
前記予備率評価部の供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する追加供給計画策定部とを備える
ことを特徴する需給計画策定支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の需給計画策定支援装置であって、
前記追加供給計画策定部は、前記追加供給対策候補データにあるリードタイム、優先度、コスト情報を用いて追加供給対策を策定する
ことを特徴とする需給計画策定支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の需給計画策定支援装置であって、
前記追加供給計画策定部は、少なくとも2つ以上の追加供給計画を策定する
ことを特徴とする需給計画策定支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の需給計画策定支援装置であって、
前記追加供給計画策定部は、前記予測誤差シナリオの発生確率と正の相関を持つ対策指標を算出する
ことを特徴とする需給計画策定支援装置。
【請求項5】
請求項1に記載の需給計画策定支援装置であって、
前記需給計画策定支援装置で対象とする需給計画は、少なくとも1週間以上である
ことを特徴とする需給計画策定支援装置。
【請求項6】
請求項1に記載の需給計画策定支援装置であって、
前記需給計画策定支援装置は、定周期で動作する
ことを特徴とする需給計画策定支援装置。
【請求項7】
請求項1に記載の需給計画策定支援装置であって、
前記追加供給計画策定部の対象とする追加対策候補として、揚水発電、バランス停止中の発電機、作業停止中の発電機、発動指令電源が含まれる
ことを特徴とする需給計画策定支援装置。
【請求項8】
需要、再生可能エネルギー電源および気象情報の過去実績データを用いて気象感度を算出する気象感度算定部と、
前記気象感度算定部が算出した気象感度と、需要、前記再生可能エネルギー電源および気象情報の将来の予測データとを用いて予測誤差シナリオを作成するシナリオ作成部と、
前記シナリオ作成部が作成した予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価する予備率評価部と、
前記予備率評価部の供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する追加供給計画策定部とを備える
ことを特徴する需給計画策定支援装置。
【請求項9】
請求項8に記載の需給計画策定支援装置であって、
前記気象感度算定部は、フィルタリングされた実績データから電力需要の気温に対する感度を算出する
ことを特徴とする需給計画策定支援装置。
【請求項10】
請求項8に記載の需給計画策定支援装置であって、
前記気象感度算定部は、フィルタリングされた実績データから前記再生可能エネルギー電源の出力の日射および風速に対する感度を算出する
ことを特徴とする需給計画策定支援装置。
【請求項11】
請求項8に記載の需給計画策定支援装置であって、
前記シナリオ作成部は、将来の予測気温に対する変動量から前記予測誤差シナリオ作成する
ことを特徴とする需給計画策定支援装置。
【請求項12】
需給計画の策定を支援する需給計画策定支援方法であって、
コンピュータが、
需要および再生可能エネルギー電源の過去の所定期間の予測値と実績値との差分である予測誤差データを用いて、予測誤差の時系列データとその発生確率を含む予測誤差シナリオを作成し、
前記予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価し、
前記供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する
ことを特徴する需給計画策定支援方法。
【請求項13】
需給計画の策定を支援する需給計画策定支援方法であって、
コンピュータが、
需要、再生可能エネルギー電源および気象情報の過去実績データを用いて気象感度を算出し、
前記気象感度と、需要、前記再生可能エネルギー電源および気象情報の将来の予測データとを用いて予測誤差シナリオを作成し、
前記予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価し、
前記供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する
ことを特徴する需給計画策定支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需給計画策定支援装置および需給計画策定支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送電系統運用者は、予備率(需要に対する供給力の裕度)を指標とし、十分な予備率を確保することで、安定的な需給運用を実現している。一方、近年、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー電源(以下、再エネという。)の導入が進んでおり、再エネの発電量は天候に依存することから、供給力の不確実性が増加している。また、電化の促進による電力需要の増加も想定されているが、電力需要も気温や天候などと相関を持つことから、電力需要の不確実性も増加している。この不確実性の増加により、需給運用の安定性が低下し、需給ひっ迫(予備率が特定の値より低下する事態)に陥るケースが発生している。
【0003】
特許文献1では、不確実性を持つパラメータを考慮しながら、再生可能エネルギーの出力抑制を含む計画を作成することができる運転計画作成装置、およびプログラムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-33625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
送電系統運用者は、需給ひっ迫が想定される場合、供給力を追加するなどの対策を講じて予備率を改善させるが、それぞれの対策にはリードタイムが存在することから、週間単位での需給計画が必要となる。しかしながら、需給計画に用いる需要および再エネの予測期間(予測時点と予測断面との時間差)が長いほど、需要および再エネの不確実性が増加し、予測誤差を大きくなる。また、不確実性を考慮して余剰に供給力を確保する場合、需給運用コストが増加するため、経済性の観点から確保する供給力は必要最小限にとどめる必要がある。
【0006】
安定的かつ経済的な需給運用を実現するためには、再エネと需要の不確実性および対策のリードタイムを考慮した需給計画の策定が必要となる。
【0007】
特許文献1では、需要や再エネの不確実性を考慮した出力抑制を含む需給計画について言及されているが、対策のリードタイムを考慮した、予備率の低下に対応可能な需給計画の策定については言及されていない。
【0008】
本発明の目的は、再エネと需要の不確実性および対策のリードタイムを考慮した需給計画を策定可能な需給計画策定支援装置および需給計画策定支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の需給計画策定支援装置は、需要および再生可能エネルギー電源の過去の所定期間の予測値と実績値との差分である予測誤差データを用いて、予測誤差の時系列データとその発生確率を含む予測誤差シナリオを作成するシナリオ作成部と、前記シナリオ作成部が作成した予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価する予備率評価部と、前記予備率評価部の供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する追加供給計画策定部とを備えることを特徴する。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、再エネと需要の不確実性および対策のリードタイムを考慮した需給計画を策定できる。なお、その他の効果については、実施形態を通して明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1に係る需給計画策定支援装置のハードウェア構成の例を示す図である。
図2】実施形態1に係る需給計画策定支援装置の装置構成の例を示す図である。
図3】実施形態1に係る需要予測データベースの例を示す図である。
図4】実施形態1に係る再エネ予測データベースの例を示す図である。
図5】実施形態1に係る需要実績データベースの例を示す図である。
図6】実施形態1に係る再エネ実績データベースの例を示す図である。
図7】実施形態1に係る発電計画データベースの例を示す図である。
図8】実施形態1に係る追加供給対策候補データベースの例を示す図である。
図9】実施形態1に係る予測誤差シナリオデータベースの例を示す図である。
図10】実施形態1に係る予備率評価結果データベースの例を示す図である。
図11】実施形態1に係る追加供給計画データベースの例を示す図である。
図12】実施形態1に係るシナリオ作成部のシナリオ作成処理を示すフローチャートである。
図13】実施形態1に係る予備率評価部の予備率評価処理を示すフローチャートである。
図14】実施形態1に係る追加供給計画策定部の追加供給計画策定処理を示すフローチャートである。
図15A】実施形態1に係る需給計画策定部による予測誤差シナリオの作成例を示す図である。
図15B】実施形態1に係る需給計画策定部による各予測誤差シナリオの予備率評価例を示す図である。
図15C】実施形態1に係る需給計画策定部による追加供給計画の策定例を示す図である。
図16】実施形態1に係る表示部の例を示す図である。
図17】実施形態2に係る需給計画策定支援装置のハードウェア構成の例を示す図である。
図18】実施形態2に係る需給計画策定支援装置の装置構成の例を示す図である。
図19】実施形態2に係る気象感度算定部の気象感度算出処理を示すフローチャートである。
図20】実施形態2に係る気象感度算定部およびシナリオ作成部の処理例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に好適な実施形態について説明する。尚、下記はあくまでも実施形態に過ぎず、下記具体的内容に発明自体が限定されることを意図するものではない。
【0013】
≪実施形態1≫
実施形態1に係る需給計画策定支援装置の構成について、図1図16を参照して説明する。
図1は、実施形態1に係る需給計画策定支援装置100のハードウェア構成の例を示す図である。需給計画策定支援装置10は、入力部101と、表示部102と、通信部103と、プロセッサ104と、メモリ105と、バス106と、需要予測データベースDB1と、再エネ予測データベースDB2と、需要実績データベースDB3と、再エネ実績データベースDB4と、発電計画データベースDB5と、追加供給対策候補データベースDB6と、予測誤差シナリオデータベースDB7と、予備率評価結果データベースDB8と、追加供給計画データベースDB9と、プログラムデータベースDB10から構成されている。これらの要素はバス106を介して接続されている。また、通信部103は、通信ネットワーク107を介して、電力系統1の計測器や制御端末と通信する。
【0014】
需要予測データベースDB1は、対象電力系統における需要の予測値を格納する。
再エネ予測データベースDB2は、対象電力系統における再エネの予測値を格納する。
需要実績データベースDB3は、対象電力系統における需要の実績値を格納する。
再エネ実績データベースDB4は、対象電力系統における再エネの実績値を格納する。
発電計画データベースDB5は、対象電力系統における発電設備の発電計画値を格納する。
追加供給対策候補データベースDB6は、追加供給対策に関する情報を格納する。
予測誤差シナリオデータベースDB7は、予測誤差シナリオの作成結果を格納する。
予備率評価結果データベースDB8は、各シナリオの予備率の評価結果を格納する。
追加供給計画データベースDB9は、追加供給対策の策定結果を格納する。
プログラムデータベースDB10は、需給計画策定支援装置10の各種実行プログラムを格納する。
【0015】
入力部101は、例えば、キーボード、マウス、Universal Serial Bus(USB)経由で、システムへ情報を入力する手段である。
【0016】
表示部102は、例えば、モニターやスマートウォッチなどである。システムの入出力データを画像、音声などで出力してもよい。
【0017】
通信部103は、例えば、イーサーネットや電話線や無線通信などと計算機を接続する。通信部103により、電力系統G1内の各種機器との通信を可能にする。
【0018】
プロセッサ104は、例えば、Central Processing Unit(CPU)やGraphics Processing Unit(GPU)、Field Programmable Gate Array(FPGA)、Application Specific Integrated Circuit(ASIC)などが含まれる。
【0019】
メモリ105は、需給計画策定支援装置10の各種プログラムやデータを格納する。一例としては、Random Access Memory(RAM)が含まれる。
バス106は、需給計画策定支援装置100の各種要素をつなげる。
【0020】
需給計画策定支援装置100は、コンピュータ(計算機システム)により構成してもよい。コンピュータは、処理部(例えば、プロセッサ104)、記憶部、入力部101、表示部102、通信部103などを有している。
【0021】
図2は、実施形態1に係る需給計画策定支援装置100の装置構成の例を示す図である。需給計画策定支援装置100は、プロセッサ104で実行する需給計画策定部20を有する。需給計画策定部20には、需要および再エネ(再生可能エネルギー電源)の過去の所定期間の予測値と実績値との差分である予測誤差データを用いて、予測誤差の時系列データとその発生確率を含む予測誤差シナリオを作成するシナリオ作成部21(図15A参照)と、シナリオ作成部21が作成した予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価する予備率評価部22(図15B参照)と、予備率評価部22の供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する追加供給計画策定部23(図15C参照)と、を備える。
【0022】
需給計画策定支援装置100で対象とする需給計画は、少なくとも1週間以上である。需給計画策定支援装置100は、需給計画策定部20を定周期で動作するとよい。
【0023】
追加供給計画策定部23は、追加供給対策候補データにあるリードタイム、優先度(優先順位)、コスト情報を用いて追加供給対策を策定する。追加供給計画策定部23は、少なくとも2つ以上の追加供給計画を策定してもよい。追加供給計画策定部23は、予測誤差シナリオの発生確率と正の相関を持つ対策指標を算出することができる。追加供給計画策定部23の対象とする追加対策候補として、揚水発電、バランス停止中の発電機、作業停止中の発電機、発動指令電源が含まれる。詳細については後述する。
【0024】
図3は、需給計画策定支援装置100の需要予測データベースDB1の一例を示す図である。需要予測データベースDB1は、対象の電力系統における需要予測値が、予測日時および予測対象日時ごとに時系列データとして格納されている。なお、格納する需要予測データは対象の電力系統の総需要予測値だけでなく、エリアや母線毎に分割した需要予測値が格納されていてもよい。
【0025】
図4は、需給計画策定支援装置100の再エネ予測データベースDB2の一例を示す図である。再エネ予測データベースDB2は、対象の電力系統における風力発電および太陽光の出力予測値が、予測日時および予測対象日時ごとに時系列データとして格納されている。なお、格納する再エネ予測データは対象の電力系統全体の予測値だけでなく、エリアや母線毎に分割した予測値や、発電所毎の予測値が格納されていてもよい。なお、図4において、太陽光予測値が0MWとなっているのは、夜間であるからである。
【0026】
図5は、需給計画策定支援装置100の需要実績データベースDB3の一例を示す図である。需要実績データベースDB3は、対象の電力系統における需要実績値が、日時ごとに時系列データとして格納されている。なお、格納する需要予測値は対象の電力系統全体の需要実績値だけでなく、エリアや母線毎に分割した需要実績値が格納されていてもよい。
【0027】
図6は、需給計画策定支援装置100の再エネ実績データベースDB4の一例を示す図である。再エネ実績データベースDB4は、対象の電力系統における風力発電および太陽光の出力実績値が、対象日時ごとに時系列データとして格納されている。なお、格納する再エネ実績データは対象の電力系統全体の実績値だけでなく、エリアや母線毎に分割した予測値や、発電所毎の実績値が格納されていてもよい。なお、図6において、太陽光実績値が0MWとなっているのは、夜間であるからである。
【0028】
図7は、需給計画策定支援装置100の発電計画データベースDB5の一例を示す図である。発電計画データベースDB5は、対象の電力系統に連系する発電機の発電計画が格納されている。発電計画には、電源種別、設備容量といった設備データと、各時刻の起動停止状態、発電計画値といった時系列データが格納されている。なお、発電計画は発電事業者から受領したデータが格納されてもよいし、系統運用者によって策定された計画値が格納されていてもよい。なお、図7中、バランス停止とは、電力需要に対して供給力が十分大きい場合、効率的な需給運用のために発電機を停止することをいう。
【0029】
図8は、需給計画策定支援装置100の追加供給対策候補データベースDB6の一例を示す図である。追加供給対策候補データベースDB6は、各種追加供給対策の追加供給量、優先順位、コスト、リードタイムといった情報が格納されている。この他にも、起動上限回数といった制約条件が格納されていてもよい。なお、これらパラメータは系統運用者によって設定された値を用いてもよいし、発電事業者から提供された値を用いてもよい。
【0030】
図9は、需給計画策定支援装置100の予測誤差シナリオデータベースDB7の一例を示す図である。予測誤差シナリオデータベースDB7は、シナリオ作成部21で作成されたシナリオ情報が格納されている。シナリオ情報には対象シナリオの発生確率および各時刻の需要/再エネ想定値が格納されている。
【0031】
図10は、需給計画策定支援装置100の予備率評価結果データベースDB8の一例を示す図である。予備率評価結果データベースDB8は、予備率評価部22で算出された各シナリオの需要、供給力、および予備率が時系列データとして格納されている。なお、時系列データのほかに、各シナリオにおける日付ごとの最低予備率などの情報が格納されいてもよい。
【0032】
図11は、需給計画策定支援装置100の追加供給計画データベースDB9の一例を示す図である。追加供給計画データベースDB9は、追加供給計画策定部23で算出された各シナリオに対する対策指標、対策リミット、および対策内容として追加供給量と追加供給対策後の予備率が時系列データとして格納されている。また、追加供給量には、各種追加供給対策の具体的な追加供給量が記入されている。
【0033】
次に需給計画策定部20の各部(図2参照)の処理について説明する。
(シナリオ作成部21)
図12は、シナリオ作成部21のシナリオ作成処理S21を示すフローチャートである。ステップS100では、需要予測データベースDB1から需要予測値、再エネ予測データベースDB2から再エネ予測値、需要実績データベースDB3から需要実績値、再エネ実績データベースDB4から再エネ実績値を読み込む。このとき、予測誤差の算出精度を向上させるために、予測データおよび実績データの読み込みの対象となるデータを限定してもよい。例えば、計画対象日が2023/4/1~2023/4/7とした場合、2021/3/1~2021/5/31、2022/3/1~2022/5/31の予測データおよび実績データを用いるなど、策定する計画の対象日に応じて限定することで、需要特性の近いデータを抽出でき、予測誤差の算出精度を向上できる。また、日付以外にも、計画対象日の気温や天気などの気象情報に応じて用いる予測データおよび実績データを限定することで、再エネの出力特性の近いデータを抽出でき、予測誤差の算出精度を向上できる。
【0034】
ステップS101では、ステップS100で読み込んだ需要予測値と需要実績値から需要予測誤差値を算出する。
需要予測誤差値=需要実績値-需要予測値 ・・・(1)
再エネも同様に再エネ予想値と再エネ実績値から再エネ予測誤差値を算出する。
再エネ予測誤差値=再エネ実績値-再エネ予測値 ・・・(2)
【0035】
ステップS102では、ステップS101で算出した需要予測誤差値から需要予測誤差シナリオを算出する。需要予測誤差シナリオの算出方法として、例えば、予測誤差値が正規分布だった場合、分散σを用いてシナリオとその発生確率を算出してもよい。例えば、+1σシナリオの場合、発生確率は34%であり、各コマの+1σに該当する需要予測誤差値が採用される。この他にも、+2σシナリオ、+3σシナリオなど、運用者による設定に応じて複数のシナリオを策定してもよい。
【0036】
ステップS103では、ステップS101と同様に、再エネ予測誤差シナリオを算出する。すなわち、ステップS101で算出した再エネ予測誤差値から再エネ予測誤差シナリオを算出する。
【0037】
(予備率評価部22)
図13は、予備率評価部22の予備率評価処理S22を示すフローチャートを示す図である。
ステップS200では、対象の予測誤差シナリオを設定する。
ステップS201では、対象の予測誤差シナリオから対象電力系統の需要を設定する。
需要=需要予測値+予測誤差シナリオの需要予測誤差 ・・・(3)
【0038】
ステップS202では、供給力を設定する。
供給力=Σ調整電源の設備容量
+Σ再エネを除く非調整電源の出力計画値
+Σ(再エネ予測値+再エネ想定値) ・・・(4)
【0039】
ステップS203では、ステップS200で設定した予測誤差シナリオと発電計画データベースDB5の発電計画値を用いて予測誤差シナリオの予備率を算出する。
予備率=(供給力-需要)/需要×100 ・・・(5)
【0040】
また、算出した需要、供給力、予備率を予備率評価結果データベースDB8に格納する。なお、対象とする予備率はエリア単体の予備率でもよいし、連系線潮流を考慮した複数エリアの予備率を対象としてもよい。
【0041】
ステップS204では、全ての予測誤差シナリオで需要、供給力、予備率を算出したかを確認する。全ての予測誤差シナリオで予備率を算出済みでない場合(ステップS204,No)場合、ステップS200に戻り、全ての予測誤差シナリオで予備率を算出済みである場合(ステップS204,Yes)の場合、処理フローを終了する。
【0042】
(追加供給計画策定部23)
図14は、追加供給計画策定部23の追加供給計画策定処理S23)を示すフローチャートである。
ステップS300では、対象の予測誤差シナリオを設定する。
ステップS301では、設定した予測誤差シナリオの予備率評価結果において、8%を下回るコマがないかを判定する。8%を下回るコマがある場合(ステップS301,Yes)、ステップS302へ進み、8%を下回るコマがない場合(ステップS301,No)、ステップS304へ進む。なお、予備率判定値の8%は一例であれば、運用者により任意の値を設定可能である。
【0043】
ステップS302では、追加供給対策候補データベースDB6の追加供給対策候補の情報を用いて予備率が8%を下回るコマを対象に追加供給対策計画を策定する。追加供給計画の策定方法として、例えば、予備率から必要な追加供給量を算出し、リードタイムを考慮したうえで、優先順位が低い対策候補から追加供給量を満たすまで対策候補を積み上げていく方法がある。
追加供給必要量=(1+8/100)×需要―供給力 ・・・(6)
【0044】
また、優先順位のほかに、コストを用いてメリットオーダで対策計画を決定する方法を用いてもよい。この他にも、目的関数を優先順位およびコストの総和とし、制約条件を追加供給量、リードタイムなどとする最適化計算により追加供給計画を決定してもよいし、発電機起動停止計画を用いて追加供給計画をしてもよい。なお、策定する追加供給計画は複数個あってもよい。
【0045】
ステップS303では、ステップS302で決定した追加供給計画の対策指標を算出する。対策指標として、例えば、予測誤差シナリオの発生確率と追加供給必要量とを乗算した期待値を用いる。
対策指標=予測誤差シナリオの発生確率×追加供給必要量 ・・・(7)
【0046】
前述の対策指標では、予測誤差の発生確率が大きくなるほど対策指標が大きくなる。予測誤差の発生確率が高い場合、運用者はこの対策指標の大きさに応じて追加供給対策の実施の有無を判断可能となる。また、追加供給必要量が大きいほど対策指標が大きくなるため、運用者は需給ひっ迫の影響度に応じて追加供給対策の実施の有無を判断可能となる。
【0047】
ステップS304では、全ての予測誤差シナリオで追加供給計の策定および対策指標を算出したかを確認する。全ての予測誤差シナリオで算出済みでない場合(ステップS304,No)、ステップS300に戻り、全ての予測誤差シナリオで算出済みである場合(ステップS304,Yes)、処理フローを終了する。
【0048】
次に処理結果の例ついて説明する。
図15Aは、需給計画策定部20による予測誤差シナリオの作成例を示す図である。図15Bは、需給計画策定部20による各予測誤差シナリオの予備率評価例を示す図である。図15Cは、需給計画策定部20による追加供給計画の策定例を示す図である。
【0049】
図15Aには、予測誤差シナリオの作成例を示している。グラフは、縦軸が予測誤差、横軸が予測期間(予測時点と予測断面との時間差)を表している。各点は、過去の予測データおよび実績データから算出した予測誤差を表しており、この予測誤差とシナリオ作成条件に基づき予測誤差シナリオを作成する。図15Aでは、シナリオA(破線)とシナリオB(一点鎖線)を示す。シナリオBの方がシナリオAよりも予測期間において、予測誤差が高くなっている。
【0050】
なお、今回予備率の低下による供給力不足を対象としていることから、需要であれば上振れ(予測<実績)、再エネであれば下振れ(予測>実績)を対象としてシナリオを作成するが、この限りではない。
【0051】
図15Bには、各予測誤差シナリオの予備率評価例を示している。グラフは、縦軸が予備率、横軸が予測期間(予測時点と予測断面との時間差)を表している。予備率評価の結果、シナリオB(一点鎖線)において4日後~5日後、6日後~7日後の間で予備率が8%を下回るコマがあるため、追加供給計画を策定する。
【0052】
図15Cには、追加供給計画の策定例を示している。上のグラフは、縦軸が追加供給力、横軸が予測期間(予測時点と予測断面との時間差)を表している。予備率が8%を下回るコマに対して追加供給計画を策定している。追加供給量は、リードタイムを考慮したうえで、対策候補から必要な分選択される。具体的には、図15BのシナリオB(一点鎖線)において4日後~5日後において、揚水発電、バランス停止中の発電機を追加起動による発電、発動指令電源による発電により追加供給する計画が示されている。
【0053】
図15Cの下のグラフは、縦軸が予備率、横軸が予測期間(予測時点と予測断面との時間差)を表している。シナリオBでは予備率が8%を下回っているが、追加供給対策を行う計画のシナリオB-1では、追加供給により予備率が改善することがわかる。
【0054】
図16は、実施形態1に係る表示部102の表示例を示す図である。表示部102の表示画面160には、シナリオ情報161、追加供給情報162、シナリオ予備率情報163が表示されている。シナリオ情報161には、各シナリオの発生確率、最低予備率、対策指標、対策ケース、策定期日、コストなどの情報が含まれる。例えば、シナリオBの場合、最低予備率が5%となる場合がある。運用者は示されて対策を検討する必要がある。
【0055】
表示方法としては、本実施形態では、計算機システムのモニター表示を一例としているが、携帯端末や画面表示型のアクセサリーを用いてもよい。また、イベントケース毎の制御を表示してもよい。
【0056】
本実施形態において、各シナリオの予備率や追加供給計画の内容や対策指標およびリミットを表示することにより、運用者が予測誤差の発生確率やその影響度に応じて追加供給対策の実施を判断することが可能となる。この他にも追加供給対策のコストを表示することで、経済性を考慮した実施判断が可能となる。また、追加供給対策が複数個存在する場合、並べて表示することで、運用者によって好適な対策の実施をサポートできる。
【0057】
<実施形態1の狙いおよび効果>
本実施形態では、過去実績から作成した需要および再エネの予測誤差シナリオを用いて予備率を評価することで、需要および再エネの不確実性を考慮している。また、リードタイムを考慮したうえで、対策の優先度やコストに応じた追加供給計画を策定し、コストや対策指標などの情報と合わせて運用者に提示することで、運用者による追加供給対策の実施判断をサポートすることができる。なお、追加供給対策の実施判断については、運用者による判断だけでなく、対策指標を用いてシステムが自動的に判断してもよい。
【0058】
≪実施形態2≫
実施形態2に係る需給計画策定支援システムの構成について、図17図20を参照して説明する。
図17には、実施形態2に係る需給計画策定支援装置100Aのハードウェア構成の例を示す図である。実施形態1に記載の需給計画策定支援装置100との相違点として、需給計画策定支援装置100Aは新たに気象予測データベースDB11と、気象実績データベースDB12を備えている。気象予測データベースDB11は、気温、天候、日射量、風速といった気象情報の予測データを格納する。気象実績データベースDB12は、気温、天候、日射量、風速といった気象情報の実績データを格納する。
【0059】
図18には、実施形態2に係る需給計画策定支援装置100Aの装置構成の例を示す図である。需給計画策定支援装置100Aの実施形態1との相違点として、気象感度算定部24と、シナリオ作成部21Aと、気象予測データベースDB11と、気象実績データベースDB12とを備える。
【0060】
気象感度算定部24は、需要実績データベースDB3の需要実績データと、再エネ実績データベースDB4の再エネ実績データと、気象実績データベースDB12の気象実績データとから、需要および再エネの気象条件に対する感度を算出し、算出した気象感度をシナリオ作成部21Aに送信する。
【0061】
シナリオ作成部21Aでは、気象感度算定部24で算定した気象感度と、需要予測データベースDB1の需要予測データと、再エネ予測データベースDB2の再エネ予測データと、気象予測データベースDB11の気象予測データとを用いて、予測誤差シナリオを作成する。
【0062】
図19は、実施形態2に係る気象感度算定部24の気象感度算定処理S24を示すフローチャートである。
ステップS400では、需要・再エネ実績データを読み込む。
ステップS401では、気象実績データを読み込み、需要・再エネ実績データと紐づける。
ステップS402では、実績データをフィルタリングし、特異データを除外する。除外の方法として、例えば日付(4月の計画であれば、過去2年間の3~5月の実績を用いる)でフィルタリングしてもよいし、気温でフィルタリングしてもよい(予測気温に対して±5℃の範囲の実績を用いる)。
ステップS403では、気象感度を算出する。気象感度の算出方法として、例えば実績データから最小二乗法により近似直線を算出し、需要・再エネの気温に対する感度を算出してもよい。
【0063】
図20は、実施形態2に係る気象感度算定部24及びシナリオ作成部21Aの処理例を示す図である。
図20の気象感度171には、気象感度算定部24の気象感度算定処理S24による感度算出例を示している。グラフは、縦軸が需要実績(再エネであれば再エネ実績)、横軸が気温(再エネであれば日射量、風量など)を表している。各点は、過去の気温に対する需要データを表している。点線は、各点から算出した感度を表している。
【0064】
図20のシナリオ例172には、シナリオ作成部21Aでのシナリオ作成の例を示している。グラフは、縦軸が想定需要、横軸は時間を表している。シナリオとして、例えば気温が+1℃となるケースを想定する場合、気象感度算定部24で算出した気象感度を用いて想定需要を算出することで、シナリオを作成する。
【0065】
実施形態2の需給計画策定支援装置100Aは、需要、再生可能エネルギー電源および気象情報の過去実績データを用いて気象感度を算出する気象感度算定部24と、気象感度算定部24が算出した気象感度と、需要、再生可能エネルギー電源(再エネ)および気象情報の将来の予測データとを用いて予測誤差シナリオを作成するシナリオ作成部21Aと、シナリオ作成部21Aが作成した予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価する予備率評価部22と、予備率評価部22の供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する追加供給計画策定部23とを備える。
【0066】
気象感度算定部24は、フィルタリングされた実績データから電力需要の気温に対する感度を算出する。
【0067】
気象感度算定部24は、フィルタリングされた実績データから再生可能エネルギー電源の出力の日射および風速に対する感度を算出してもよい。
【0068】
また、シナリオ作成部21Aは、将来の予測気温に対する変動量から予測誤差シナリオを作成するとよい。
【0069】
<実施形態2の狙い>
本実施形態では、需要および再エネ出力が気象に相関することを利用し、気象情報を用いてシナリオを作成する。これにより、季節外れの気象条件に対しても予備率の評価および追加供給対策の策定が可能となる。
【0070】
最後に、需給計画策定支援方法について説明する。
(1)需給計画の策定を支援する需給計画策定支援方法であって、コンピュータが、需要および再生可能エネルギー電源(再エネ)の過去の所定期間の予測値と実績値との差分である予測誤差データを用いて、予測誤差の時系列データとその発生確率を含む予測誤差シナリオを作成し(シナリオ作成処理S21参照)、予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価し(予備率評価処理S22参照)、供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する(追加供給計画策定処理S23参照)。これにより、再エネと需要の不確実性および対策のリードタイムを考慮した需給計画を策定できる。
(2)需給計画の策定を支援する需給計画策定支援方法であって、コンピュータが、需要、再生可能エネルギー電源および気象情報の過去実績データを用いて気象感度を算出し(気象感度算定処理S24参照)、気象感度と、需要、再生可能エネルギー電源および気象情報の将来の予測データとを用いて予測誤差シナリオを作成し、予測誤差シナリオと発電計画データを用いて供給予備率を評価し、供給予備率の評価結果と供給力不足を補う追加供給対策候補データを用いて追加供給計画を策定する。これにより、再エネと需要の不確実性および対策のリードタイムを考慮した需給計画を策定できる。
【符号の説明】
【0071】
20 需給計画策定部
21,21A シナリオ作成部
22 予備率評価部
23 追加供給計画策定部
24 気象感度算定部
100,100A 需給計画策定支援装置
101 入力部
102 表示部
103 通信部
104 プロセッサ
105 メモリ
106 バス
160 表示画面
161 シナリオ情報
162 追加供給情報
163 シナリオ予備率情報
171 気象感度
172 シナリオ例
DB1 需要予測データベース
DB2 再エネ予測データベース
DB3 需要実績データベース
DB4 再エネ実績データベース
DB5 発電計画データベース
DB6 追加供給対策候補データベース
DB7 予測誤差シナリオデータベース
DB8 予備率評価結果データベース
DB9 追加供給計画データベース
DB10 プログラムデータベース
DB11 気象予測データベース
DB12 気象実績データベース
S21 シナリオ作成処理
S22 予備率評価処理
S23 追加供給計画策定処理
S24 気象感度算定処理
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16
図17
図18
図19
図20