(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169201
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】蓄電デバイスおよび蓄電デバイス用外装材
(51)【国際特許分類】
H01M 50/105 20210101AFI20241128BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/119 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/122 20210101ALI20241128BHJP
H01M 50/117 20210101ALI20241128BHJP
【FI】
H01M50/105
H01M50/129
H01M50/121
H01M50/119
H01M50/122
H01M50/117
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086465
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・パッケージング
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 大介
(72)【発明者】
【氏名】熊木 輝利
【テーマコード(参考)】
5H011
【Fターム(参考)】
5H011AA02
5H011AA09
5H011CC02
5H011CC05
5H011CC06
5H011CC10
5H011DD14
5H011KK02
(57)【要約】
【課題】シーラント層に開口部を精度良く形成できる蓄電デバイス用外装材を提供する。
【解決手段】本発明は、基材層11と、基材層11の内面側に積層された金属箔層12と、金属箔層12の内面側に積層されたガスバリア層13と、ガスバリア層13の内面側に、接着層14を介して積層されたシーラント層15とを備え蓄電デバイス用外装材1を対象とする。シーラント層15には、開口予定部2aが設けられ、接着層14には、開口予定部2aに対応して設けられ、かつ接着剤が存在しない接着剤未塗工部14bと、開口予定部以外の部分に設けられ、かつ接着剤が存在する接着剤塗工部14aとが設けられ、接着剤塗工部14aの接着剤が着色接着剤によって構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイス本体と、前記蓄電デバイス本体を外装する蓄電デバイス用外装材とを備えた蓄電デバイスであって、
前記蓄電デバイス用外装材は、樹脂製の基材層と、前記基材層の内面側に積層された金属箔層と、前記金属箔層の内面側に積層されたガスバリア層と、前記ガスバリア層の内面側に、接着層を介して積層された樹脂製のシーラント層とを備え、
前記シーラント層には、前記蓄電デバイス本体に対応する位置に、シーラント層用樹脂が存在しない開口部が設けられ、
前記接着層には、前記開口部に対応して設けられ、かつ接着剤が存在しない接着剤未塗工部と、前記開口部以外の部分に対応して設けられ、かつ接着剤が存在する接着剤塗工部とが設けられ、
前記接着剤塗工部の接着剤が着色接着剤によって構成されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
前記蓄電デバイス本体が収容される収容部が設けられたケース本体と、前記ケース本体における前記収容部の開放部を閉塞した状態に取り付けられる閉塞部材とを備え、
前記ケース本体および前記閉塞部材の少なくともいずれか一方が、前記蓄電デバイス用外装材によって構成されている請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蓄電デバイスに用いられる蓄電デバイス用外装材であって、
前記シーラント層には、シーラント層用樹脂が存在し、かつ前記開口部となる予定の開口予定部が設けられ、
前記接着層には、前記開口予定部に対応して設けられ、かつ接着剤が存在しない接着剤未塗工部と、前記開口予定部以外の部分に設けられ、かつ接着剤が存在する接着剤塗工部とが設けられ、
前記接着剤塗工部の接着剤が着色接着剤によって構成されていることを特徴とする蓄電デバイス用外装材。
【請求項4】
前記着色接着剤は、二液硬化型接着剤と、着色剤とを含み、
前記着色剤は、顔料または染料を含む請求項3に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項5】
前記着色接着剤の塗布量が、1g/m2~6g/m2であり、
着色剤の含有率が、0.1wt%~10wt%である請求項3に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項6】
前記シーラント層の内面側から測定した接着剤塗工部のL値を「La」、接着剤未塗工部のL値を「Lb」としたとき、
|La-Lb|≧0.5
の関係式が成立するように構成されている請求項3に記載の蓄電デバイス用外装材。
【請求項7】
請求項3に記載の蓄電デバイス用外装材における前記開口予定部のシーラント層が除去されて形成されている蓄電デバイス用開口部付外装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車載用電池等のハイパワーバッテリー、モバイル電子機器等のポータブル機器用電池、回生エネルギーの蓄電用電池等として用いられる全固体電池等の蓄電デバイスおよび蓄電デバイス用外装材に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、固体電解質を使用した電池であるため、液漏れやデンドライトが発生せずセパレータが破壊されることもない。従ってセパレータの破壊による発火等も懸念されることがなく、安全性の面等から大いに注目されている。
【0003】
通常の全固体電池は、ケーシングとしての外装材の内部に、電極活物質や固体電解質等の全固体電池本体が封入されて構成されている。この全固体電池においては、固体電解質の研究が進むにつれて、外装材に求められる性能が、従来の液体電解質を用いた電池の外装材とは異なる部分が徐々に顕現されてきており、全固体電池用の性能を満たすために種々の外装材が提案されている。
【0004】
全固体電池用の外装材は、基本構造として、金属箔層と、金属箔層の内側に積層された熱融着層(シーラント層)とを含み、シーラント層を熱融着することによって、全固体電池本体を封入するものである。
【0005】
例えば下記特許文献1に示す全固体電池用外装材は、金属箔層とシーラント層との間に保護膜が介在されるとともに、シーラント層として硫化水素ガス透過度が高いものが用いられている。さらに特許文献2に示す全固体電池用外装材は、シーラント層として硫化水素ガス透過度が低いものが用いられている。また特許文献3に示す全固体電池用外装材は、シーラント層としてガスを吸収するものが用いられている。さらに特許文献4に示す全固体電池用外装材は、シーラント層の内面に蒸着膜層が積層されて構成されている。
【0006】
しかしながら、上記従来の全固体電池では、固体電解質と水分との反応によって生じる硫化水素ガス等のガスが漏出するおそれがあるという課題を抱えている。
【0007】
その一方、全固体電池は充放電時に固体電解質により電子(イオン)の交換が起こるため、液体電解質と比較して、抵抗値が高く発熱量が大きくなる。しかしながら、全固体電池は、高温環境であっても性能自体に影響がないと考えられており、上記特許文献1~4を含め、高温対策(冷却性)について考察がなされていないというのが現状である。ところが電池技術の高出力高容量化が進むに従って将来的に、全固体電池においても冷却性の向上が求められることは十分に予測されることである。
【0008】
そこで本願出願人は、下記特許文献5に示すように、硫化水素ガス等の漏出を防止しつつ、十分な冷却性を確保することができる全固体電池を提案した。
【0009】
この全固体電池において、外装材は、基材層の内面側に、金属箔層、ガスバリア層およびシーラント層が順次積層されて構成されており、シーラント層に、ガスバリア層を内側に露出する開口部が形成されている。この全固体電池においては、ガスバリア層によって硫化水素ガス等の漏出を防止する一方、開口部を形成することによって冷却性を向上させるようにしている。
【0010】
この全固体電池においては、ガスバリア層の内面全域にシーラント層が積層された外装材用シートにおけるシーラント層の一部(開口予定部)を除去することによって開口部を形成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6777276号
【特許文献2】特許第6747636号
【特許文献3】特開2020-187855号
【特許文献4】特開2020-187835号
【特許文献5】国際公開第2023/022087号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、全固体電池の外装材は、フィルム状の積層体(ラミネートシート)によって構成されているため、シーラント層を、除去する部分(開口予定部)と、残存させる部分との境界を的確に把握することが困難であり、開口部に相当するシーラント層を適切に除去できず、寸法精度に優れた開口部を形成することが困難であるという課題を抱えている。
【0013】
以上は、全固体電池における課題について説明したが、他の蓄電デバイスにおいても同様な課題が生じる可能性はある。
【0014】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、シーラント層に寸法精度に優れた開口部を確実に形成することができる蓄電デバイスおよび蓄電デバイス用外装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0016】
[1]蓄電デバイス本体と、前記蓄電デバイス本体を外装する蓄電デバイス用外装材とを備えた蓄電デバイスであって、
前記蓄電デバイス用外装材は、樹脂製の基材層と、前記基材層の内面側に積層された金属箔層と、前記金属箔層の内面側に積層されたガスバリア層と、前記ガスバリア層の内面側に、接着層を介して積層された樹脂製のシーラント層とを備え、
前記シーラント層には、前記蓄電デバイス本体に対応する位置に、シーラント層用樹脂が存在しない開口部が設けられ、
前記接着層には、前記開口部に対応して設けられ、かつ接着剤が存在しない接着剤未塗工部と、前記開口部以外の部分に対応して設けられ、かつ接着剤が存在する接着剤塗工部とが設けられ、
前記接着剤塗工部の接着剤が着色接着剤によって構成されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【0017】
[2]前記蓄電デバイス本体が収容される収容部が設けられたケース本体と、前記ケース本体における前記収容部の開放部を閉塞した状態に取り付けられる閉塞部材とを備え、
前記ケース本体および前記閉塞部材の少なくともいずれか一方が、前記蓄電デバイス用外装材によって構成されている前項1に記載の蓄電デバイス。
【0018】
[3]前項1または2に記載の蓄電デバイスに用いられる蓄電デバイス用外装材であって、
前記シーラント層には、シーラント層用樹脂が存在し、かつ前記開口部となる予定の開口予定部が設けられ、
前記接着層には、前記開口予定部に対応して設けられ、かつ接着剤が存在しない接着剤未塗工部と、前記開口予定部以外の部分に設けられ、かつ接着剤が存在する接着剤塗工部とが設けられ、
前記接着剤塗工部の接着剤が着色接着剤によって構成されていることを特徴とする蓄電デバイス用外装材。
【0019】
[4]前記着色接着剤は、二液硬化型接着剤と、着色剤とを含み、
前記着色剤は、顔料または染料を含む前項3に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0020】
[5]前記着色接着剤の塗布量が、1g/m2~6g/m2であり、
着色剤の含有率が、0.1wt%~10wt%である前項3または4に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0021】
[6]前記シーラント層の内面側から測定した接着剤塗工部のL値を「La」、接着剤未塗工部のL値を「Lb」としたとき、
|La-Lb|≧0.5
の関係式が成立するように構成されている前項3~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外装材。
【0022】
[7]前項3~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用外装材における前記開口予定部のシーラント層が除去されて形成されている蓄電デバイス用開口部付外装材。
【発明の効果】
【0023】
発明[1][2]の蓄電デバイスによれば、外装材における耐熱ガスバリア層およびシーラント層間の接着層において、開口部には接着剤が塗工されない接着剤未塗工部が形成されるとともに、開口部以外の部分には着色接着剤が塗工された接着剤塗工部が形成されているため、シーラント層の一部を除去して開口部を形成する際に、着色接着剤の有無による色差によって接着剤塗工部と接着剤未塗工部との境界位置を的確に把握することができ、その境界位置に沿って正確にシーラント層を部分的に切除でき、精度の高い開口部を形成することができる。
【0024】
発明[3]の蓄電デバイス用外装材によれば、上記と同様に、シーラント層に精度の高い開口部を形成することができる。
【0025】
発明[4]~[6]の蓄電デバイス用外装材によれば、接着剤塗工部と接着剤未塗工部とをより明確に識別でき、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0026】
発明[7]の蓄電デバイス用開口部付外装材によれば、上記と同様に、シーラント層に精度の高い開口部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1はこの発明の実施形態である蓄電デバイスとしての全固体電池を示す模式断面図である。
【
図3】
図3は実施形態の全固体電池を模式化して示す分解斜視図である。
【
図4】
図4は実施形態の全固体電池におけるケース本体用の外装材を示す模式断面図である。
【
図5】
図5は実施形態の外装材を示す模式内面図である。
【
図6】
図6は実施形態の外装材に対し開口部を形成する方法を説明するための模式断面図である。
【
図7】
図7は実施形態の開口部付外装材を用いてケース本体を成形するための金型装置を示す模式断面図である。
【
図8】
図8はこの発明の第1変形例である全固体電池を示す模式断面図である。
【
図9】
図9はこの発明の第2変形例である全固体電池を示す模式断面図である。
【
図10】
図10はこの発明の第3変形例である全固体電池を示す模式断面図である。
【
図11】
図11はこの発明の第4変形例である全固体電池を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1はこの発明の実施形態である蓄電用デバイスとしての全固体電池を示す模式断面図、
図2は
図1の要部を拡大して示す模式断面図、
図3は実施形態の全固体電池を模式化して示す分解斜視図である。これらの図に示すように本実施形態の全固体電池は、ケーシングとしてのケース本体3および閉塞部材4と、ケーシング内に収容されて封止される全固体電池本体5とを備えている。
【0029】
図4は実施形態の全固体電池におけるケース本体3を構成する外装材1を示す模式断面図である。同図に示すように外装材1は、最外側に配置される基材層11と、基材層11の内面側に、第1接着層(図示せず)を介して積層接着される金属箔層12と、金属箔層12の内面側に、第2接着層(図示せず)を介して積層接着される耐熱ガスバリア層13と、耐熱ガスバリア層13の内面側に、第3接着層14を介して積層接着されるシーラント層15とを備えている。本発明において、外装材1を構成する各層の位置を方向で説明する場合に、基材層11の方向(
図3の上側)を外側、シーラント層15の方向(
図3の下側)を内側と称する。
【0030】
なお、閉塞部材4を構成する外装材1も、上記ケース本体3を構成する外装材1と同様の構成を備えている。
【0031】
ケース本体3は、外装材1の成形体によって構成されており、天壁31と、天壁31の外周縁部から下方に延びる側壁(周側壁)32と、側壁32の下端部外周に設けられたフランジ33とを一体に備え、天壁31および側壁32の内側には収容部35が形成されている。また閉塞部材4は、シート状の外装材1によって構成されている。そしてケース本体3の収容部35内に全固体電池本体5が収容されて、収容部35の下端開放部を閉塞するように閉塞部材4が配置される。閉塞部材4は、そのシーラント層15が内側(上側)に向けて配置され、ケース本体3のフランジ33のシーラント層15と閉塞部材4の外周縁部のシーラント層15とが対向して重ね合わせされるように配置される。この重ね合わされたシーラント層15同士が熱接着(ヒートシール)によって接合一体化されることによって、全固体電池本体5がケーシング(ケース本体3および閉塞部材4)内に封止状態に収容された全固体電池が製作されている。
【0032】
また全固体電池のケース本体3には、収容部35に対応する部分においてシーラント層15を構成する樹脂と、接着層14を構成する接着剤とが存在しない開口部2が形成されている。さらに閉塞部材4にも、収容部35に対応する部分においてシーラント層用の樹脂と、接着層用の接着剤が存在しない開口部2が形成されている。そしてケース本体3および閉塞部材4の開口部2を通じて、外装材1の耐熱ガスバリア層13が収容部35内に露出して、全固体電池本体5に対向するように配置されている。
【0033】
また本実施形態の全固体電池においては、図示は省略するが、電気取出用にタブリードが設けられている。このタブリードは、その一端(内端)が全固体電池本体5に接着固定されて、中間部がケース本体3のフランジ33および閉塞部材4の外周縁部間のヒートシール部を通じて、他端側が外部に引き出されるように配置されている。
【0034】
以下に本実施形態の全固体電池における各部位の詳細について説明する。
【0035】
外装材1の基材層11は、厚さが5μm~50μmの耐熱性樹脂のフィルムによって構成されている。この基材層11を構成する樹脂としては、延伸ポリアミドフィルム、延伸ポリエステル(PET、PBT、PEN等)、延伸ポリオレフィン(PE、PP等)等を好適に用いることができる。
【0036】
金属箔層12は、厚さが5μm~120μmに設定されており、表面(外面)側から酸素や水分の浸入をブロックする機能を有している。この金属箔層12としては、アルミニウム箔、SUS箔(ステンレス箔)、銅箔、ニッケル箔等を好適に用いることができる。なお本実施形態において、「アルミニウム」「銅」「ニッケル」という用語は、それらの合金も含む意味で用いられている。
【0037】
また金属箔層12にメッキ処理等を行うと、ピンホールが発生するリスクが少なくなり、より一層、酸素や水分の浸入をブロックする機能を向上させることができる。
【0038】
さらに金属箔層12にクロメート処理のような化成処理等を行うと、耐腐食性が一層向上するため、欠損等の不具合が発生するのをより確実に防止でき、また樹脂との接着性を向上できて耐久性を一段と向上させることができる。
【0039】
シーラント層(熱融着性樹脂層)15は、厚さが20μm~100μmに設定されており、熱接着性(熱融着性)樹脂のフィルムによって構成されている。このシーラント層15を構成する樹脂としては、ポリエチレン(LLDPE、LDPE、HDPE)や、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、環状ポリオレフィン、オレフィン系共重合体、これらの酸変性物およびアイオノマーからなる群、例えば無延伸ポリプロピレン(CPP、IPP)等を好適に用いることができる。
【0040】
シーラント層15としては、タブリードを使って電気を取り出すことを考慮すると、つまりタブリードとのシール性や接着性等を考慮すると、ポリプロピレン系樹脂(無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、IPP))を用いるのが好ましい。
【0041】
耐熱ガスバリア層13は、耐熱性および絶縁性を有する樹脂のフィルムによって構成されている。この耐熱ガスバリア層13を構成する樹脂としては、ポリアミド(6-ナイロン、66-ナイロン、MXDナイロン等)、ポリエステル(PET、PBT、PEN)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレン(LLDPE、LDPE、HDPE)や、ポリプロピレン(CPP、OPP)のようなポリオレフィン、オレフィン系共重合体、これらの酸変性物およびアイオノマーからなる群から選ばれたものを好適に用いることができる。
【0042】
本実施形態においては、耐熱ガスバリア層13の厚さを3μm~50μmに設定するのが良く、より好ましくは10μm~40μmに設定するのが良い。すなわち耐熱ガスバリア層13の厚さをこの範囲に設定した場合には、硫化水素ガスおよび水蒸気ガスの透過抑制作用を確実に得ることができるとともに、熱接着によりシーラント層15が溶融流出したとしても、耐熱ガスバリア層13によって絶縁性を確実に確保することができる。換言すると、耐熱ガスバリア層13が薄過ぎる場合には、ガス透過抑制作用や絶縁性を確保できないおそれがあり、好ましくない。逆に耐熱ガスバリア層13が厚過ぎる場合には、外装材1の薄肉化を図ることができないばかりか、必要以上に厚くすることの効果も十分に得られないため、好ましくない。
【0043】
本実施形態において、耐熱ガスバリア層13として樹脂フィルムを用いるのが好ましい。すなわちフィルム全体がバリア層となるので、蒸着フィルム等とは異なり、バリアクラックが発生せず、バリア性を向上させることができる。
【0044】
さらに耐熱ガスバリア層13を構成する樹脂フィルムとしては、無延伸フィルムまたは延伸フィルムを用いることができ、特に延伸フィルムを用いるのが好ましい。すなわち延伸フィルムを用いる場合には、耐熱性、絶縁性、成形性およびガスバリア性をより一層向上させることができる。
【0045】
本実施形態の耐熱ガスバリア層13は、良好な絶縁性を備えるものであり、本実施形態の外装材1としてのケース本体3および閉塞部材4によって全固体電池本体5を封入した後(シール後)も、良好な絶縁性を得るものである。
【0046】
本実施形態では、耐熱ガスバリア層13を構成する樹脂は、JIS K7129-1(感湿センサー法40℃、90%Rh)に準拠して測定された水蒸気透過率が50(g/m2/day)以下に調整するのが好ましい。すなわち水蒸気透過率が50(g/m2/day)以下の場合には、耐熱ガスバリア層13によるガス透過防止作用によって、外部から水蒸気ガス等の水分の浸入を防止できるため、水分と固体電解質との反応による硫化水素ガスの発生を抑制でき、より確実に硫化水素ガス等の漏出を防止することができる。
【0047】
また本実施形態においては、耐熱ガスバリア層13を構成する樹脂として、熱伝導率が0.2W/m・K以上のものを採用するのが好ましい。すなわちこの構成を採用する場合には、耐熱ガスバリア層13の伝熱性を十分に確保できるため、全固体電池本体5の冷却性をより一層向上させることができる。
【0048】
さらに本実施形態においては、耐熱ガスバリア層13を構成する樹脂として、シーラント層15を構成する樹脂よりも融点が10℃以上高いものを採用するのが好ましい。すなわち耐熱ガスバリア層13を高融点とした場合には、固体電池収納後のヒートシール時に耐熱ガスバリア層13の厚さ変化が無くなり、耐熱ガスバリア層13の水蒸気透過防止作用を良好に維持でき、より確実に硫化水素ガスの発生を抑制することができる。本実施形態において融点の測定方法は、JIS K7121-1987に準拠して測定したDSCの融解ピーク温度を融点とするものである。
【0049】
本実施形態において、基材層11および金属箔層12間を接着する第1接着層、金属箔層12および耐熱ガスバリア層13間を接着する第2接着層、耐熱ガスバリア層13およびシーラント層15間を接着する第3接着層14としては、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリアクリル酸エステル系接着剤、変性ポリプロピレン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、エポキシ系接着剤などの二液硬化型ドライラミネート用接着剤を好適に用いることができる。これらの第1~第3接着層の厚さは、1μm~6μmに設定するのが良い。
【0050】
ここで本実施形態においては、耐熱ガスバリア層13およびシーラント層15間の第3接着層14を構成する接着剤は、上記の接着剤に、顔料または染料からなる着色剤が添加された着色接着剤によって構成されている。これにより後述するように開口部2を形成する前の外装材1において、接着剤が存在しない接着剤未塗工部14b(開口予定部2a)と、着色接着剤が存在する接着剤塗工部14aとが着色接着剤の有無による色差によって明確に区別できるように構成されている。
【0051】
着色接着剤とは、上記の二液硬化型接着剤に着色剤を含有させたものである。着色剤は一般的に、水、油等の溶剤に溶ける染料と、溶けない顔料とに分類されている。
【0052】
化学構造により分類された染料としては、分子中にアゾ基(-N=N-)を有するアゾ染料、分子中にアントラキノン骨格を持つアントラキノン染料、インジゴ、チオインジゴおよびこれらの誘導体等によるインジゴイド染料等を例示することができる。
【0053】
顔料には、無機顔料と有機顔料とがある。無機顔料としては種々の酸化物、硫化物、フェロシアン化合物があり、白色顔料(酸化チタン、酸化亜鉛、亜鉛含有焼成ハイドロタルサイト)、赤色顔料(酸化鉄赤)、青色顔料(フェロシアン化物 紺青)、黒色顔料(カーボンブラック)等がある。
【0054】
さらに一部の顔料は着色するだけでなく、特殊な用途で使用されることもある。例えば、白色顔料である酸化アルミニウムは、吸湿剤として用いられる場合があり、白色顔料として亜鉛含有焼成ハイドロタルサイトを、接着剤に添加した場合には、硫化物全固体電池が水分と反応して発生する硫化水素ガスを吸収して、硫化水素ガスの電池外部への漏洩を抑制するとともに、電池外部から侵入してくる水蒸気も吸収して、硫化水素ガスの発生を抑制することも可能である。
【0055】
一方、有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、ペリレン系、キナクリドン系等があり、アゾ系顔料は黄色~赤色の色材であり、プラスチック用として汎用に使用されている。フタロシアニン系顔料は青色、緑色の色材であり、プラスチック用、インキ用として用いられている。
【0056】
本実施形態においては、顔料および染料のうち顔料を用いる方が耐候性、耐溶剤性、耐熱性の点で有利であり、顔料を着色剤として用いるのがより一層好ましい。
【0057】
本実施形態においては、着色接着剤における着色剤の含有率を0.1wt%~10wt%に調整するのが好ましい。すなわちこの含有率が0.1wt%以上の場合には、外装材1を内面側から見た状態において、接着剤塗工部14aと接着剤未塗工部14bとの境界を明確にすることができ、開口部2を精度良く形成することができる。なお着色剤の含有率が10wt%を超えても、その含有率に見合う効果は特になく、場合によってコストの増加を来すおそれがあるため、10wt%以下に調整するのが好ましい。
【0058】
さらに第3接着層14としての着色接着剤の接着剤塗工部14aにおける塗布量を、1g/m2~6g/m2に調整するのが好ましい。すなわちこの塗布量が1g/m2以上の場合には、外装材1を内面側から見た状態において、接着剤塗工部14aと接着剤未塗工部14bとの境界を明確にすることができ、開口部2を精度良く形成することができる。なお塗布量が6g/m2を超えたとしても、その塗布量に見合う効果は特になく、場合によってコストの増加を来すおそれがあるため、6g/m2以下に調整するのが好ましい。
【0059】
なお本実施形態において、金属箔層12および耐熱ガスバリア層13間を接着する第2接着層については、接着剤の代わりに、接着性樹脂(ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、金属変性ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、アミノ樹脂等)を用いて、金属箔層12上に、該接着性樹脂と耐熱ガスバリア層13を形成する樹脂を共押出しすることにより積層する方法(押出しラミネーション法)や、予め接着性樹脂と耐熱ガスバリア層13を積層した積層体を形成しておき、この積層体を金属箔層12上に熱ラミネーション法により積層する方法、金属箔層12と耐熱ガスバリア層13との間に溶融させた接着性樹脂を流し込みながら、金属箔層12と耐熱ガスバリア層13を貼り合せる方法(サンドラミネーション法)等により金属箔層12と耐熱ガスバリア層13を積層することもできる。
【0060】
本実施形態において、ケース本体3側の開口部2は、その外周縁部21がケース本体3のフランジ33に設けられる。さらに閉塞部材4側の開口部2は、その開口縁部21がケース本体3の開口部2の開口縁部21に対応して形成されている。
【0061】
本実施形態では、ケース本体3および閉塞部材4に形成される開口部2には、接着層14を構成する着色接着剤も設けられておらず、開口部2を介して耐熱ガスバリア層13が内側に露出(表出)し、全固体電池を作製した状態では、耐熱ガスバリア層13が全固体電池本体5の上面、周側面および下面に対向するように配置されている。
【0062】
次に本実施形態における外装材1の製造方法について説明する。言うまでもなく本発明においては、外装材1の製造方法は限定されるものではない(後に説明するケース本体3の製造方法や全固体電池の製造方法についても同様である)。
【0063】
本実施形態においてはまず、シーラント層無しの積層体を例えばドライラミネート法によって製作する。すなわち必要に応じて下地処理、化成処理が施された金属箔層12用の金属箔の外面に、基材層11用の樹脂フィルムを接着剤を介して接着するとともに、金属箔の内面に、耐熱ガスバリア層13用の樹脂フィルムを接着剤を介して接着して、基材層11の内面側に金属箔層12および耐熱ガスバリア層13が積層されたシーラント層無しの積層体を製作する。
【0064】
なおシーラント層無しの積層体を製作するに際しては、上記したように押出ラミネート法等のドライラミネート法以外の方法によって製作することも可能である。例えば、基材層11用の樹脂組成物および耐熱ガスバリア層13用の樹脂組成物を、金属箔の内外面にそれぞれ押し出しつつ積層することによって、上記の積層体を製作するようにしても良い。
【0065】
次に上記のシーラント層無しの積層体における内面(耐熱ガスバリア層13の内面)に、グラビアロール等で接着層14を構成する接着剤(着色接着剤)を塗布するものであるが、この塗布に際しては、耐熱ガスバリア層13の内面において、シーラント層15における開口部2を形成する予定の部分(開口予定部2a)を除いた部分に、接着剤を塗工して接着剤塗工部14aを形成する一方、開口予定部2aに対応する部分には、接着剤を塗工せずに、接着剤未塗工部14bを形成しておく。
【0066】
そしてこの接着剤未塗工部14bを有する耐熱ガスバリア層13の内面に接着層14を介してシーラント層用の樹脂フィルムを貼り付けて乾燥する。なおシーラント層用樹脂フィルムは、接着剤未塗工部14bに対応する部分にも設けられている。
【0067】
こうして得られた外装材1は
図5に示すように、接着剤塗工部14a(同図の斜線のハッチングで示す)が着色接着剤によって着色されているため、接着剤塗工部14aと、接着剤未塗工部14b(開口予定部2a)との間の色差(明度の違い等)によって、両者14a,14b間の境界が明確になる。
【0068】
その後
図6に示すように、接着剤塗工部14aと開口予定部2aとの間を切り裂き、接着剤未塗工部14bのシーラント層15である開口予定部2aを切り取って開口部2を形成するものである。この切取方法としては、レーザーカッター、ロール刃、打ち抜き刃(トムソン刃、エッチング刃等)、超音波カッター等を用いて行うものである。中でも高精度で加工できるレーザーカッターを用いるのが好ましい。
【0069】
本実施形態においては
図5に示すように、開口位置検出装置と、レーザー切断装置82とを用いて自動的に、開口予定部2aのシーラント層14を切り取って開口部2を形成することが可能である。
【0070】
すなわち開口位置検出装置81は、接着剤塗工部14aと接着剤未塗工部14bとの境界位置を検出するものであり、例えば、光源から被験体に照射された光の反射光の光量等を検出する検知センサーを備え、その光量等の違いに基づき、接着剤塗工部14aと接着剤未塗工部14bとの境界位置を検出するものである。またレーザー切断装置82は、CO2レーザー切断装置等によって構成されており、開口位置検出装置81からの位置情報に基づき、接着剤塗工部14aと接着剤未塗工部14bとの境界位置、つまり開口予定部2aの外周縁部21aを切り裂いて、開口予定部2aのシーラント層15を切除して、開口部2を形成するものである。これにより外装材1に開口部2を自動的に形成して開口部付外装材を製作する。従って開口位置検出装置81およびレーザー切断装置82を用いることによって、外装材1に開口部2を自動的に形成して、開口部付外装材を製作することができる。
【0071】
ここで本実施形態の開口部2を形成する前の外装材1においては、シーラント層15側(内面側)から測定した接着剤塗工部14aの明度であるL値を「La」、接着剤未塗工部14bの明度であるL値を「Lb」としたとき、LaとLbとの差の絶対値としてのΔL(明度差)の絶対位置を0.5以上に設定するのが好ましい。換言すると、|La-Lb|=|ΔL|≧0.5の関係式が成立するように構成するのが好ましい。
【0072】
すなわち上記の関係式を満足する場合には、接着剤塗工部14aと接着剤未塗工部14bとの明度差ΔLが大きいため、接着剤塗工部14aと接着剤未塗工部14bとの境界位置を適切に捉えることができ、高精度の開口部2を形成することができる。
【0073】
もっとも本発明においては、明度差以外の色差例えば、色相の違いや、彩度の違いによって、接着剤塗工部14aと接着剤未塗工部14bとの間の色差(境界位置)を捉えるようにしても良い。
【0074】
次に上記のように得られたシート状の開口部付外装材を型成形して、ケース本体3を製作する方法について説明する。まず
図6に示すように型成形前のシート状のケース本体用外装材1においては、天壁31となる予定の部分である天壁予定部31aと、側壁32となる予定の部分である側壁予定部32aと、フランジ33となる予定の部分であるフランジ予定部33aとを含んでいる。
【0075】
そして本実施形態においては、開口予定部2aの外周縁部21aは、フランジ予定部33aの範囲内に設定されることになる。
【0076】
図7は開口部付外装材1を用いてケース本体3を成形するための金型装置を示す模式断面図である。同図に示すように、この金型装置は、上金型としてのダイス6と、下金型としてのパンチ7およびしわ押さえ金型70とを備えている。
【0077】
ダイス6の下面側には、ケース本体3の収容部35(天壁31および側壁32)を成形するための成形凹部65が形成されている。
【0078】
パンチ7は、ダイス6の成形凹部65に対応して配置されるとともに、しわ押さえ金型70は、パンチ7の外周に配置されて、ダイス6の下面外周部に対向している。
【0079】
そして成形素材としての開口部付外装材1がその側壁予定部32aがパンチ7の先端外周縁部に対応するように設置される。その状態で、外装材1のフランジ予定部33aがダイス6の外周部およびしわ押さえ金型70によって挟み込まれて支持されて、パンチ7がダイス6の成形凹部65内に打ち込まれることによって、外装材1がプレス加工される。これにより、収容部35(天壁31および側壁32)と、収容部35の外側にフランジ33とを有するケース本体用成形体(成形素材)が成形される。続いてその成形体のフランジ33を所定のサイズに切断することによって、本実施形態のケース本体3が製作される。このケース本体3においては、
図1~
図3に示すように収容部35の全領域に開口部2が配置され、開口部2の外周縁部21がフランジ33に配置されるものである。
【0080】
図1~3に示すように本実施形態では、上記ケース本体3およびシート状の閉塞部材4を用いて、固体電池本体5を包装して全固体電池を製作するものである。すなわち、ケース本体3の収容部35内に全固体電池本体5を収容して、収容部35を下側から閉塞するように閉塞部材4を配置するとともに、ケース本体3におけるフランジ33のシーラント層15と閉塞部材4における外周縁部のシーラント層15とを対向して重なり合うように配置する。その状態で、ケース本体3のフランジ33と閉塞部材4の外周縁部とを一対のシール金型によって挟み込んで加熱する。これにより互いに重なり合うシーラント層15同士がヒートシールされて接合一体化されて、全固体電池本体5がケース本体3および閉塞部材4内に気密状態に収容された全固体電池が製作される。
【0081】
以上の構成の本実施形態の全固体電池によれば、ケース本体3および閉塞部材4における金属箔層12およびシーラント層15間に、耐熱ガスバリア層13を設けるとともに、天壁31および側壁32にシーラント層15の一部を除去した開口部2を形成しているため、全固体電池本体5から発生する熱は、シーラント層15に遮られることなく、開口部2および耐熱ガスバリア層13を介して金属箔層12に効率良く伝達されて放熱されることにより、十分な放熱性および冷却性を確保することができる。
【0082】
特に本実施形態では、ケース本体3における開口部2の外周縁部21をケース本体3のフランジ33に設定しているため、全固体電池本体5のほぼ全域に対応する大きい開口部2を形成でき、放熱性および冷却性をより一層向上させることができる。
【0083】
また本実施形態の外装材1における耐熱ガスバリア層13およびシーラント層15間の接着層14において、開口予定部2aには接着剤が塗工されない接着剤未塗工部14bが形成されるとともに、開口予定部2a以外の部分には着色接着剤が塗工されて接着剤塗工部14aが形成されているため、着色接着剤の有無による色差によって接着剤塗工部14aと接着剤未塗工部14bとの境界位置を的確に把握することができ、その境界位置(開口予定部2aの外周縁部21a)に沿って正確にレーザーカッター等によってシーラント層15を切除でき、精度の高い開口部2を形成することができる。
【0084】
特に本実施形態においては、接着剤塗工部15aおよび接着剤未塗工部15bの明度差|La-Lb|を0.5以上に調整した場合には、両者14a,14b間の境界位置をより一層的確に捉えることができ、より一層寸法精度の高い開口部2を形成することができる。
【0085】
また本実施形態の全固体電池によれば、金属箔層12の内面側に耐熱ガスバリア層13が配置されているため、全固体電池本体5の固体電解質が外気の水分と反応して硫化水素ガス等が発生しても、そのガスが耐熱ガスバリア層13によって漏出するのを確実に防止することができる。さらに耐熱ガスバリア層13によるガス透過防止作用によって、外部から水蒸気ガス等の水分の浸入を防止できるため、その水分と固体電解質との反応による硫化水素ガス自体の発生も抑制でき、より確実に、硫化水素ガス等の漏出を防止することができる。
【0086】
また本実施形態の全固体電池において、開口部2が形成される部分では、全固体電池本体5と金属箔層12との間にシーラント層15が存在しないものの、その間に絶縁性を有する耐熱ガスバリア層13が配置されているため、耐熱ガスバリア層13によって絶縁性を確実に確保することができる。
【0087】
また外装材1にレーザーカッター等で切り取って開口部2を形成する際に、開口部外周縁部21にレーザーによる損傷部が形成されて、この損傷部に起因してクラックやピンホール等の不具合が発生するおそれがあるが、本実施形態においては、開口部外周縁部21をケース本体3のフランジ33に形成しているため、損傷部による悪影響を回避することができる。すなわち成形体3のフランジ33は、ヒートシールされるため、そのヒートシールによって形成される樹脂溜まり部が、損傷部(開口部外周縁部21)に形成される。従って樹脂溜まり部によって損傷部を被覆して修復できるため、レーザー抜きによる損傷部の悪影響を確実に回避することができる。
【0088】
また本実施形態の全固体電池では、外装材1における全固体電池本体5に対応する部分にシーラント層15が形成されていないため、その分、全固体電池本体5を収容するためのスペースを大きく(厚く)することができる。従って本実施形態の全固体電池においては、従来の全固体電池と比較して、ケース本体3の外形寸法を変更せずに、大きいサイズの全固体電池本体5を収容できるため、薄型化を図りつつ、高出力化および高容量化を図ることができる。
【0089】
また本実施形態の全固体電池では、ケース本体3の全周に設けられたフランジ33にシーラント層15が設けられるため、その全周に設けられたシーラント層15によって全固体電池の全周を確実に密封できて、良好な密封性を確保することができる。
【0090】
なお上記本実施形態の全固体電池においては、ケース本体3および閉塞部材4の双方に開口部2を形成する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては
図8示すようにケース本体3に開口部2を形成し、閉塞部材4には開口部2を形成しないようにしても良い。
【0091】
また
図1に示す本実施形態の全固体電池は、上側にケース本体3、下側に閉塞部材4を配置するようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、
図1に示す全固体電池を反転させたもの、つまり下側に成形体であるケース本体3、上側にシート状の閉塞部材4を配置するようにしても良い。
【0092】
また上記実施形態においては、開口部2の縁部21をフランジ33内に設定するようにしているが、本発明はそれだけに限られるものではない。例えば本発明においては、
図9に示すように、開口部2の縁部21をケース本体3の側壁32に設定するようにしても良いし、
図10に示すように開口部2の縁部21をケース本体3の天壁(底壁)33に設定するようにしても良い。つまり本発明においては開口部2の形状や大きさは特に限定されるものではない。
【0093】
さらに本発明においては、閉塞部材4として成形体を用いるようにしても良い。例えば
図11に示すように、閉塞部材4としてケース本体3の上下を反転させた形状のトレイ状の成形体を用い、成形体であるケース本体3と、成形体であるトレイ状の閉塞部材4とによって全固体電池のケーシングを形成するようにしても良い。この場合、閉塞部材4を上記ケース本体3と同様の構成を用いることによって、閉塞部材4においても同様の効果を得ることができる。
【0094】
また上記実施形態においては、本発明の蓄電デバイスとして全固体電池を採用する場合について説明したが、それだけに限られず、本発明においては、全固体電池以外の他の蓄電デバイスにも適用することができる。
【実施例0095】
【0096】
表1の略称で示す名称は以下の通りである。
TDI:トルエンジイソシアネート
TMP:トリメチロールプロパン
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
HT:亜鉛含有焼成ハイドロタルサイト[(Mg/Zn)
0.8.Al
0.2(OH)
2]
0.2(CO
3)
0.2
CB:カーボンブラック
<実施例1>
表1に示すように試料(外装材)の内側の構成において、金属箔層として厚さ40μmのJIS H4160で規定されたA8021-Oよりなるアルミニウム箔の内面(消し面)に、耐熱ガスバリア層として12μm厚のマットPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを、第2接着層としての2液硬化型ポリエステルーウレタン系接着剤を介して積層した。さらに耐熱ガスバリア層の内面に、シーラント層として80μm厚のCPP(無延伸ポリプロピレン)のフィルムを、第3接着層としての着色接着剤を用いて積層した。この際、開口予定部には第3接着層を塗工しなかった。この接着剤未塗工部(開口予定部)の大きさは、100mm×200mmの矩形状である(
図4および
図5参照)。
【0097】
第3接着層としての着色接着剤は、ポリエステルポリオールを主剤樹脂、TDIとTMPのアダクト体を硬化剤とする接着剤に、着色剤としての粒径0.4μmのCBを0.2wt%添加したものである。また着色接着剤の塗布量は、2g/m2である。
【0098】
また表には記載されていないが試料の外側の構成において、金属箔層12の外面(光沢面)に厚さ25μmの延伸ナイロンフィルム(ONY)を2液硬化型ポリエステルーウレタン系接着剤(第1接着層)を介して積層している(実施例2~10および比較例1,2においても同じ)。
【0099】
こうして得られた積層フィルムを、各層を貼り合わせた後に40℃×5日間の養生を行って、実施例1の試料(外装材)を50枚作製した。
【0100】
<実施例2~7および比較例1,2>
表1に示す素材を用いて、上記実施例1と同様にして、実施例2~7および比較例1,2の接着剤未塗工部付の試料(外装材)を各実施例および各比較例毎に50枚ずつ作製した。
【0101】
なお比較例1,2の試料において、第3接着層を構成する接着剤には着色剤は添加されていない。
【0102】
<L値および検知性の評価>
【0103】
【0104】
表2に示すように上記の各実施例および各比較例の50枚ずつの試料に対し、コニカミノルタ製分光測色計(CM-2500c)を用いて内面側から接着剤未塗工部(開口予定部)のL値(Lb)および接着剤塗工部のL値(La)を測定し、接着剤未塗工部および接着剤塗工部間の明度差(|ΔL|=|La-Lb|)の平均値を求めた。その結果を表2に示す。
【0105】
また上記各実施例および比較例の50枚ずつの試料に対し、開口位置検出装置およびレーザー切断装置によって構成される開口部形成装置を用いて、開口予定部(接着剤未塗工部)のシーラント層を除去するようにした。
【0106】
開口位置検出装置としては、株式会社ニレコ製MR101スキャニングヘッドを用いた。この検出装置は、光源にLEDを使用しており、着色接着剤未塗工部と着色接着剤塗工部との光の反射量の違いをSPD(シリコンフォトダイオード)で受光し、光量に比例した電圧を出力する仕組みを基に、着色接着剤未塗工部(開口予定部)の外周位置を検出する。
【0107】
レーザー切断装置としては、CO2レーザー切断装置を用いた。この切断装置は、開口位置検出装置によって検出された各試料中央部の着色接着剤未塗工部(開口予定部)の位置情報に基づいて、着色接着剤未塗工部上のシーラント層(CPPフィルム)のみを切断・除去し、幅100×長さ200mm耐熱ガスバリア層(マットPETフィルム)の表出部(開口部)を作製するものである。
【0108】
表2において接着剤未塗工部の検知性に関して、「○」は50枚すべての試料において接着剤未塗工部の外周位置を正確に検出できて、開口部を精度良く形成できたものであり、「△」は50枚の試料のうち、1箇所のみ接着剤未塗工部を検出できず開口部を形成できなかったものであり、「×」は接着剤未塗工部の外周位置を十分に検出できず、開口部を形成できなかったものである。
【0109】
表2から明らかなように、実施例2~10の試料は、ΔLが大きく、接着剤未塗工部と接着剤塗工部との違いが明確であり、接着剤未塗工部(開口予定部)を精度良く切り取ることができた。なお実施例1の試料は、ΔLがやや小さかったものの、基本的にはほぼ接着剤未塗工部を検出できて、実使用上問題無く開口部を形成できると思われる。
【0110】
これに対し、比較例1,2の試料は、ΔLが小さく、接着剤未塗工部と接着剤塗工部との違いが不明確となり、開口位置検出装置によって接着剤未塗工部の外周位置を正確に検出できず、開口予定部を切り取ることができなかった。