(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169205
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】変性アルミノシリケートの製造方法、および変性アルミノシリケートを用いた芳香族ジヒドロキシ化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/46 20060101AFI20241128BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20241128BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241128BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20241128BHJP
B01J 29/70 20060101ALI20241128BHJP
C07C 39/08 20060101ALI20241128BHJP
C07C 37/60 20060101ALI20241128BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
C01B39/46
B01J37/06
B01J37/08
B01J37/02 101A
B01J29/70 Z
C07C39/08
C07C37/60
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086471
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】窪田 好浩
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 怜史
(72)【発明者】
【氏名】中村 海生
(72)【発明者】
【氏名】大久保 快
(72)【発明者】
【氏名】井本 樹
(72)【発明者】
【氏名】中西 契太
(72)【発明者】
【氏名】秋山 聰
【テーマコード(参考)】
4G073
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G073BA04
4G073BA05
4G073BA19
4G073BA20
4G073BA23
4G073CZ41
4G073FB11
4G073FB26
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4G073FC25
4G073FD20
4G073FD23
4G073GA01
4G073UA03
4G169AA03
4G169AA08
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4G169BA01C
4G169BA02C
4G169BA07A
4G169BA07B
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4G169FC08
4G169ZA32B
4G169ZB04
4G169ZB09
4G169ZC04
4G169ZF01A
4G169ZF01B
4G169ZF05A
4G169ZF05B
4H006AA02
4H006AC42
4H006BA09
4H006BA33
4H006BC10
4H006BE32
4H006DA10
4H006FC52
4H006FE13
4H039CA60
(57)【要約】
【課題】工業的に有利な条件で、フェノール類と過酸化水素との反応によりハイドロキノン類を高選択的に製造する、変性アルミノシリケートの製造方法、変性アルミノシリケートおよびこれを用いた芳香族ジヒドロキシ化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の変性アルミノシリケートの製造方法は、特定の方法でアルミノシリケート(A1)を製造する工程1と、前記アルミノシリケート(A1)と酸とを2回以上接触させてアルミノシリケート(A2)を製造する工程2と、前記アルミノシリケート(A2)と、周期表の4族元素および5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む化合物(B)とを接触、焼成して変性アルミノシリケート(A3)を製造する工程3とを含む。
また本発明は、前記変性アルミノシリケート(A3)の存在下、フェノール類と過酸化水素とを反応させて芳香族ジヒドロキシ化合物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1~工程3を含む変性アルミノシリケートの製造方法。
(工程1)
(α)ケイ素酸化物、(β)アルミニウム酸化物、(γ)アルカリ金属化合物、(δ)水、(ε)アルミノシリケート結晶を、下記iv)~v)を満たす条件下、100~200℃で接触させて、Si/Al:3~12.5(モル比)のアルミノシリケート(A1)を調製する工程
iv)成分(ε)が、Si/Al(モル比):4~15のアルミノシリケート結晶である。
v)成分(ε)/成分(α):0.1~20重量%
(工程2)
前記アルミノシリケート(A1)を酸と2回以上接触させた後に、焼成してアルミノシリケート(A2)を調製する工程
(工程3)
前記アルミノシリケート(A2)を周期表の4族元素および5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む化合物(B)と接触させ、焼成して変性アルミノシリケート(A3)を調製する工程
【請求項2】
前記化合物(B)が液状化合物である、請求項1に記載の変性アルミノシリケートの製造方法。
【請求項3】
前記アルミノシリケート(A1)と酸とを2回以上接触させる際に、異なる酸の濃度とする、請求項1に記載の変性アルミノシリケートの製造方法。
【請求項4】
前記工程1が構造規定剤の非存在下で行う工程である、請求項1に記載の変性アルミノシリケートの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の変性アルミノシリケート(A3)とフェノール類と過酸化水素とを接触させる工程を含む芳香族ジヒドロキシ化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性アルミノシリケートの製造方法、および変性アルミノシリケートを用いた芳香族ジヒドロキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジヒドロキシ化合物は、種々の有機合成中間体または原料物質として重要であり、還元剤、ゴム薬、染料、医薬、農薬、重合禁止剤、酸化抑制剤等の分野に利用される。
フェノール類を過酸化水素と反応させて得られる芳香族ジヒドロキシ化合物は、例えばハイドロキノンやカテコールなどであり、製造方法によりハイドロキノンとカテコールの生成比が異なる。近年、ハイドロキノンとカテコールの需要バランスから、特にハイドロキノンを高選択的に製造する方法が切望されている。
【0003】
フェノール類を過酸化水素と反応させて芳香族ジヒドロキシ化合物を製造するために、結晶性多孔質シリケートの一つであるチタノシリケートを触媒として使用する方法が開示されている(例えば特許文献1、特許文献2)。また、特許文献3は、酸処理したアルミノシリケートを気相の塩化チタンやチタンアルコキシドで処理して得られるチタノシリケートを開示している。
【0004】
また、特許文献4は、アルミノシリケートの鋳型原料、アルミニウム源、チタン源、ケイ素源、ヨウ化物、水とともに混合してゲルを調製し、これを加熱して結晶化させた後、焼成して得られるチタノシリケートの製造方法を開示している。
【0005】
本発明者らは、アルミノシリケート化合物と液状のハロゲン化チタン化合物とを接触させてアルミノチタノシリケート等の変性アルミノシリケートを製造する方法と、当該変性アルミノシリケートがフェノール類を過酸化水素と反応させて芳香族ジヒドロキシ化合物を得る触媒として好適であること等を開示している(特許文献5、特許文献6)。
【0006】
一方、前記の様なアルミノシリケートの鋳型原料(以下、「構造規定剤」ということがある)は比較的高価な材料であり、当該変性アルミノシリケート製造工程が焼成工程を含むため、回収、再利用が出来ないことから前記アルミノシリケートの製造方法は高コストの傾向がある様である。この為、前記の様な鋳型原料を用いないアルミノシリケートの製造方法も報告されている。(特許文献7、特許文献8)当該文献で得られるアルミノシリケートは、自動車などの排ガス分解触媒や、ナフサなどのパラフィンの分解触媒の原料となる事が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4254009号公報
【特許文献2】国際公開第2015/041137号
【特許文献3】特開2008-050186号公報
【特許文献4】特開2017-057126号公報
【特許文献5】国際公開第2019/225549号
【特許文献6】国際公開第2022/225050号
【特許文献7】国際公開第2011/013560号
【特許文献8】特開2013-237613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献7および8の実施例で開示される前記の様な鋳型原料を用いずに製造されるアルミノシリケートは、前記鋳型原料を用いて得られるアルミノシリケートよりも、比較的Si/Alモル比が低い結果となっている。具体的には、前記の様な鋳型原料を用いなかった場合はSi/Alモル比が6.4、同鋳型原料を用いた場合はSi/Alモル比が13.1との開示がある。また、前記アルミノシリケートを用いて各種触媒を製造する際には、特許文献7ではイオン交換工程、スチーム処理工程を行っている。特許文献8では、前記2工程に加えて酸処理工程を行っている。前記イオン交換工程はナトリウムなどのアルカリ金属イオンをアンモニウムイオンに変換する工程であり、スチーム処理工程、および酸処理工程は、アルミニウム脱離を目的とする工程であると開示されている。その結果、前記アルミノシリケートから一部のアルミニウムが除去され、Si/Al比の高いアルミノシリケートを得ている。
【0009】
前記の様なアルミノシリケートの鋳型原料を用いずに製造される(イオン交換処理などを行う前の)アルミノシリケートは比較的低コストで製造できることは自明であり、事業化等の観点で魅力的である。一方で、本発明者の検討によれば、前記アルミノシリケートの鋳型原料を用いずに得られたアルミノシリケートを用いて調製したアルミノチタノシリケートは、フェノール類を過酸化水素と反応させて芳香族ジヒドロキシ化合物を得る触媒としては、性能が十分とは言えない結果を得た。
【0010】
従って、本発明は、例えば前記の様な鋳型原料を用いずに得られる様なアルミノシリケートやSi/Alモル比が低めのアルミノシリケートを用いても、フェノール類と過酸化水素との反応により芳香族ジヒドロキシ化合物(例えばハイドロキノン)を製造する際に用いられる触媒として好適な変性アルミノシリケートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題に対し検討を行った結果、所定のアルミノシリケートを酸で複数回処理する工程を経て得られる変性アルミノシリケートが、フェノール類を過酸化水素と反応させてハイドロキノン類を製造する際のハイドロキノン類の選択率が改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]~[5]に記載の事項を含む。
[1]下記工程1~工程3を含む変性アルミノシリケートの製造方法。
(工程1)
(α)ケイ素酸化物、(β)アルミニウム酸化物、(γ)アルカリ金属化合物、(δ)水、(ε)アルミノシリケート結晶を、下記iv)~v)を満たす条件下、100~200℃で接触させて、Si/Al:3~12.5(モル比)のアルミノシリケート(A1)を調製する工程
iv)成分(ε)が、Si/Al(モル比):4~15のアルミノシリケート結晶である。
v)成分(ε)/成分(α):0.1~20重量%
(工程2)
前記アルミノシリケート(A1)を酸と2回以上接触させた後に、焼成してアルミノシリケート(A2)を調製する工程
(工程3)
前記アルミノシリケート(A2)を周期表の4族元素、5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む化合物(B)と接触させ、焼成して変性アルミノシリケート(A3)を調製する工程
[2]前記化合物(B)が液状化合物である、[1]に記載の変性アルミノシリケートの製造方法。
[3]前記アルミノシリケート(A1)と酸とを2回以上接触させる際に、異なる酸の濃度とする、[1]または[2]に記載の変性アルミノシリケートの製造方法。
[4]前記工程1が構造規定剤の非存在下で行う工程である、[1]~[3]のいずれかに記載の変性アルミノシリケートの製造方法。
[5][1]に記載の変性アルミノシリケート(A3)とフェノール類と過酸化水素とを接触させる工程を含む芳香族ジヒドロキシ化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態である変性アルミノシリケートの製造方法によれば、フェノール類と過酸化水素との反応により芳香族ジヒドロキシ化合物(例えばハイドロキノン)を製造する際に用いられる触媒として好適な変性アルミノシリケートを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
<変性アルミノシリケートの製造方法>
本発明の一実施形態は、下記工程1~工程3を含む変性アルミノシリケートの製造方法である。
(工程1)
(α)ケイ素酸化物、(β)アルミニウム酸化物、(γ)アルカリ金属化合物、(δ)水(H2O)、(ε)アルミノシリケート結晶を下記iv)~v)を満たし、且つ、100~200℃で接触させて、Si/Al:3~12.5(モル比)のアルミノシリケート(A1)を調製する工程
iv)成分(ε)が、Si/Al(モル比):4~15のアルミノシリケート結晶である。
v)成分(ε)/成分(α):0.1~20重量%
(工程2)
前記アルミノシリケート(A1)を酸と2回以上接触させた後に、焼成してアルミノシリケート(A2)を調製する工程
(工程3)
前記アルミノシリケート(A2)を周期表の4族元素および5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含む化合物(B)と接触させ、焼成して変性アルミノシリケート(A3)を調製する工程
【0016】
なお、前記のSi/Alモル比の好ましい下限値は4、より好ましくは4.5、更に好ましくは5である。一方、好ましい下限値は12.0、より好ましくは11、更に好ましくは10、特に好ましくは9である。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0017】
(工程1)
工程1では、より具体的には、(α)ケイ素酸化物、(β)アルミニウム酸化物、(γ)アルカリ金属化合物、(δ)水(H2O)を接触させると共に、更に
iv)Si/Al(モル比):4~15のアルミノシリケート結晶
を満たす(ε)アルミノシリケート結晶を
v)成分(ε)/成分(α):0.1~20重量%
となる条件で接触させ、100~200℃で接触させることにより、Si/Al:3~12.5(モル比)のアルミノシリケート(A1)を調製するのが好ましい方法である。
【0018】
前記のSi/Alモル比の好ましい下限値は4、より好ましくは4.5、更に好ましくは5である。一方、好ましい下限値は12.0、より好ましくは11、更に好ましくは10、特に好ましくは9である。
前記のアルミノシリケート(A1)は、ベータ型ゼオライトやMSE型ゼオライトであることが好ましい。
【0019】
前記のベータ型ゼオライトは、(a)外観形状が略八面体であること、(b)Si/Al比が5以上であること等の特徴を有する場合がある。特には(a)及び(b)の両方の特徴を有する物が好ましい。
【0020】
前記の様なベータ型ゼオライトやMSE型ゼオライトはブレンステッド酸点を有する物が好ましい。この観点から、本発明のゼオライトはプロトン型のものであることが好ましい。ただし、本発明の効果を損なわない範囲であれば、微量のアンモニウムイオンやアルカリ金属イオンが含まれていても差し支えない。
【0021】
前記の様なベータ型ゼオライトやMSE型ゼオライトは、その平均粒子径が好ましくは0.2~2.0μm、更に好ましくは0.5~1.0μmである。また、BET比表面積は、400~650m2/g、好ましくは500~650m2/g、550~650m2/gであることが更に好ましい。更に、ミクロ孔容積は、0.10~0.28cm3/gであることが好ましく、0.15~0.25cm3/gであることが更に好ましい。これらの比表面積や容積は、BET表面積測定装置を用いて測定される。
【0022】
前記の工程1の、より好ましい方法は、(α)ケイ素酸化物、(β)アルミニウム酸化物、(γ)アルカリ金属化合物、(δ)水(H2O)を
i)Si/Al:15~200(モル比)
ii)アルカリ金属/Si:0.10~0.80(モル比)
iii)H2O/Si:4.0~50(モル比)
を満たす条件で接触させると共に、更に
iv)Si/Al(モル比):4~15のアルミノシリケート結晶
を満たす(ε)アルミノシリケート結晶を
v)成分(ε)/成分(α):0.1~20重量%
となる条件で接触させ、100~200℃で接触させることによりアルミノシリケート(A1)を調製する方法である。
【0023】
前記のさらに好ましい条件は以下のとおりである。
i-1)Si/Al:17~200(モル比)
ii-1)アルカリ金属/Si:0.15~0.70(モル比)
iii-1)H2O/Si:4.5~30(モル比)
【0024】
前記Siは主として(α)ケイ素酸化物に由来するSiであり、前記Alは主として(β)アルミニウム酸化物に由来するAlである。アルカリ金属は主として(γ)アルカリ金属化合物に由来する。(δ)水は例えば純水として使用される。ただし、前記Si、Al、アルカリ金属、水は、複数の成分に含まれる場合がある。例えば後述する様に、(α)成分がシリカの水分散体、ゲルやゾルの場合、(β)成分がアルミン酸ナトリウムの様なアルカリ金属含有成分や水溶液である場合、(γ)アルカリ金属化合物が水含有物や水溶液である場合等が挙げられる。前記のi)~iii)の規定は、これ等の複数の成分に跨って含まれる元素や分子も考慮して決定される。
【0025】
前記のモル比を満たす接触物を得るために用いられる(α)ケイ素酸化物としては、シリカそのものおよび水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物が挙げられる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのケイ素酸化物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのケイ素酸化物のうち、シリカ(二酸化ケイ素)を用いることが、不要な副生物を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0026】
前記(β)アルミニウム酸化物としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物を用いることができる。具体的には、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムも好適な例の一つである。これらの(β)アルミニウム酸化物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの(β)アルミニウム酸化物のうち、アルミン酸ナトリウムや水酸化アルミニウムを用いることが、不要な副生物(例えば硫酸塩や硝酸塩等)を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0027】
前記(γ)アルカリ金属化合物としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属のヒドロキシ化合物等を例示ができる。なお、(α)ケイ素酸化物としてケイ酸ナトリウムを用いた場合や、(β)アルミニウム酸化物としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合は、(前述の通り)そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは同時に水酸化ナトリウムとみなされ、(γ)アルカリ金属化合物とも見なされる。したがって、前記(γ)アルカリ金属化合物は、反応系内に含まれる全てのアルカリ金属原子の和として計算される。
【0028】
前記(δ)水は、本発明の目的を損なわない限り、公知の物を制限なく用いることが出来る。具体的には純水や蒸留水、脱イオン水を挙げることができるが、本発明の目的を損なわない限り、水道水や工業用水等を用いることも出来る。また、各種吸着剤と接触させて、含有物の割合を調製した水を用いることも出来る。
【0029】
iv)Si/Al(モル比):4~15のアルミノシリケート結晶である(ε)アルミノシリケート結晶は、一般的に種晶と言われるアルミノチタノシリケートと考えても差し支えない。この様な(ε)アルミノシリケート結晶としては、前記の要件iv)を満たすアルミノチタノシリケート結晶であれば、公知のアルミノシリケート結晶を制限なく使用することができる。
【0030】
本発明の(ε)アルミノシリケート結晶として具体的には、所謂ベータ型ゼオライト種結晶を挙げることができる。より具体的には、公知のMCM型ゼオライト、YNU型ゼオライト、MSE型ゼオライト等を例示することができ、さらに具体的にはMCM-68ゼオライト、YNU-2型ゼオライト等のMCM型ゼオライトを例示することができる。この様な(ε)アルミノシリケート結晶の平均粒子径は、150nm以上、好ましくは150~1000nm、より好ましくは200~600nmである。平均粒子径は公知の方法で測定することができる。例えば走査型電子顕微鏡による観察における最大頻度の結晶の粒子直径として決定することができる。前記(ε)アルミノシリケート結晶は、その使用量が少ないことも有り、前記鋳型原料を用いて得られたものであっても構わない。但し、好ましくは前記(ε)アルミノシリケート結晶は、後述する様な焼成工程などを行って、前記の様な鋳型原料を分解する等の方法で、前記の様な鋳型原料が含まれないアルミノシリケートであることが好ましい。また、例えば後述する本発明の工程2を経て得られるアルミノシリケート(A2)を(ε)アルミノシリケート結晶として使用することも勿論可能である。
【0031】
(ε)アルミノシリケート結晶の使用量は、(α)ケイ素酸化物に対して0.1~20重量%の範囲である。好ましい下限値は、0.3重量%、より好ましくは0.5重量%である。一方、好ましい上限値は17重量%、より好ましくは15重量%である。
【0032】
前記の成分(α)~成分(ε)は100~200℃で接触、反応させる(本発明においては、接触と言う語は反応の意味を含むことがある。)前記の温度は、好ましくは120~180℃の範囲であり、自生圧力下での加熱である。100℃未満の温度では結晶化速度が極端に遅くなるのでアルミノシリケート結晶(A1)の生成効率が悪くなる場合がある。一方、200℃超の温度では、高耐圧強度のオートクレーブが必要となるため経済性に欠けるばかりでなく、不純物の発生速度が速くなる場合がある。
【0033】
工程1での前記温度範囲での反応時間は、本製造方法において臨界的ではなく、結晶性の十分に高いアルミノシリケート結晶が生成するまで加熱すればよい。一般に5~150時間程度が好適である。
【0034】
前記の成分(α)~成分(ε)を接触させる場合の各成分の接触順序は特に制限はない。好ましくは、均一な反応混合物が得られ易い方法が採用される。例えば、室温下、水酸化ナトリウム水溶液にアルミン酸ナトリウムなどのアルミニウム酸化物を添加して溶解させ、次いでシリカを添加して攪拌混合することにより、均一な反応混合物を得ることができる。前記種結晶は、シリカと混合しながら加えるか又はシリカを添加した後に加え、その後、種結晶が均一に分散するように攪拌混合することが好ましい。前記の接触段階での温度にも特に制限はなく、一般的には室温(20~25℃)である。
【0035】
成分(α)~成分(ε)を含む接触物は、例えば密閉容器中に入れて前記の温度範囲で加熱して反応させることにより、結晶性のアルミノシリケート(A1)を得ることができる。この反応混合物には構造規定剤(以下、「SDA」と記載することがある)は含まれていないことが好ましい。前記の通りSDAは一般的に高価であることが多く、後述する酸との接触や焼成工程で変質や分解することが殆どなので、回収、再使用も困難であり、製造コストを押し上げることがある。また、前記100~200℃で接触させた後、その温度よりも低い温度で保持する、所謂、熟成工程を設けることも出来る。この様な熟成工程においては、攪拌することなしに静置することが好ましい。熟成を行うことで、不純物の副生を防止できる場合がある。
【0036】
前記熟成の好ましい温度と時間は、前記の効果が最大限に発揮されるように設定することができる。好ましくは20~80℃、さらに好ましくは20~60℃の温度で、好ましくは2時間から1日の間で熟成が行われる。
【0037】
前記100~200℃での接触中に温度の均一化を図るため攪拌をする場合は、前記熟成を行った後に加熱攪拌することが好ましい。この方法は、不純物の副生をより防止することが期待できる。前記の攪拌は、攪拌羽根による混合や、容器の回転による混合などの公知の方法を制限なく採用することが出来る。攪拌強度や回転数は、温度の均一性や不純物の副生具合に応じて調整すればよい。常時攪拌ではなく、間歇攪拌でもよい。このように熟成と攪拌を組み合わせることによって、工業的量産化には有利となる場合がある。
【0038】
工程1では、4級アンモニウム塩などに代表される構造規定剤は使用しないことが好ましい。この様な構造規定剤は一般的の高価であり回収使用も不可能であることが多い。本発明においては、前記i)~v)の様な特定の条件でアルミノシリケート(A1)を製造する為、構造規定剤の非存在下で得られるアルミノシリケート(A1)であっても、後述する芳香族ジヒドロキシ化合物の製造触媒の調製に好適なアルミノシリケート原料となる。
【0039】
(工程2)
工程2では、前記工程1で得られたアルミノシリケート(A1)を酸とを2回以上接触させ、その後に焼成(一次焼成)を行う。
【0040】
前記の酸としては、例えば、無機酸、有機酸およびこれらの混合物が挙げられ、これらの具体例としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、クエン酸、シュウ酸およびこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、周期表の15族、16族元素から選ばれる元素を含む酸が好ましく、硝酸がより好ましい。
【0041】
酸の濃度は特に制限されないが、5重量%~80重量%が好ましく、40重量%~80重量%がより好ましい。これらの酸を水溶液として使用する場合、その濃度は、モル濃度や規程数(N)で表すことも有る。モル濃度での好ましい濃度範囲は、例えば0.01モル/リットル~50モル/リットルである。より好ましい下限値は0.03モル/リットル、さらに好ましくは0.05モル/リットル、特に好ましくは0.07モル/リットルである。一方、より好ましい上限値は40モル/リットル、さらに好ましくは30モル/リットル、特に好ましくは20モル/リットルである。
【0042】
本発明の工程2ではアルミノシリケート(A1)と酸とを2回以上接触させる。この場合、使用する酸の濃度は、同一であっても異なっていても構わない。好ましくは異なる濃度とする条件である。濃度が異なる条件とする場合、その濃度差は、3モル/リットル以上、20モル/リットル以下であることが好ましい。より好ましい濃度差の下限値は5モル/リットル、さらに好ましくは7モル/リットル、特に好ましくは9モル/リットル、殊に好ましくは10モル/リットルである。一方、より好ましい上限値は18モル/リットル、さらに好ましくは16モル/リットル、特に好ましくは15モル/リットルである。
【0043】
前記の異なる濃度の酸で2回以上アルミノシリケート(A1)と接触させる場合、低濃度の酸と接触させた後に、高濃度の酸と接触させる順番とすることが好ましい。前記低濃度の酸の濃度範囲は、好ましくは0.01~5モル/リットルである。より好ましい下限値は0.03モル/リットル、さらに好ましくは0.05モル/リットル、特に好ましくは0.07モル/リットルである。一方、より好ましい上限値は1.7モル/リットル、さらに好ましくは1.5モル/リットル、特に好ましくは1.3モル/リットルである。前記高濃度の酸の濃度範囲は、好ましくは6~50モル/リットルである。より好ましい下限値は8モル/リットル、さらに好ましくは9モル/リットル、特に好ましくは10モル/リットルである。一方、より好ましい上限値は40モル/リットル、さらに好ましくは30モル/リットル、特に好ましくは20モル/リットルである。
【0044】
工程2においては、アルミノシリケート(A1)1重量部に対して、酸は10~100重量部となる割合で接触させることが好ましく、20~100重量部であることがより好ましい。
【0045】
特許文献7および8では、前記した通り、酸と接触させる工程以外に、イオン交換工程、スチーム処理工程が併用されている。また、特許文献8にはイオン交換工程、スチーム処理工程無しではゼオライト結晶構造の破壊が起こる可能性についての開示がある。
【0046】
本発明では、アルミノシリケート(A1)と酸とを2回以上接触する工程を設けて得られるアルミノシリケート(A2)を製造し、さらにそれを用いて製造した変性アルミノシリケートは、前記のイオン交換工程、スチーム処理工程無しでも、驚くべきことに後述する芳香族ジヒドロキシ化合物の製造触媒として高い性能を示す。この様な予想外の効果を示す理由は、現時点で明確にはなっていないが、本発明者は以下の様な仮説を考えている。
【0047】
前記のイオン交換工程、スチーム処理工程を行わずにアルミノシリケート(A1)と酸との接触を行うと、確かにアルミノシリケートの構造の破壊が起こるかもしれない。これは工程1で得られるアルミノシリケート(A1)のアルミニウム含有率が比較的高い為、酸によるアルミニウム脱離反応後の構造が不安定になり易い為ではないかと考えられる。一方で、不安定化した部位にSiが移動する現象(Si-migration)が起こり、結晶構造が安定化する現象も併発しているであろう。低濃度の酸と接触させると、Si-migrationの影響が相対的に優位となり、結晶構造が安定化し易いのであろう。
【0048】
前記の他、これはアルミニウムの脱離だけでなく、残存するアルカリ金属等と酸との反応が併発し、アルミノシリケートからのアルミニウムの脱離が円滑に進行しないことが要因の一つと考えることができる。また、アルカリ金属の存在が前記のSi-migrationを阻害している可能性も考えることができる。また、アルミノシリケート(A1)のアルミニウム含有率が高いゆえに、アルミニウムの脱離が不十分となり易く、後述する触媒としての性能が発揮され難い可能性も考えられる。
【0049】
対して、本発明の方法では、2度目以降のアルミノシリケートと酸との接触を行うので、前記のSi-migrationによる結晶構造の安定化がさらに進行し易く、しかもアルミニウムの脱離も十分に進行するので、結果として前記の破壊が抑制され、Si/Alモル比の高い優れたアルミノシリケートが得られるのであろう。その為、2度目以降の酸との接触工程では、高い酸濃度であることが好ましい条件となると考えられる。また、余剰アルカリ金属が少ない環境となるので、アルミニウムの脱離が優先して起こりやすい環境であることも、Si/Alモル比を高める観点で好適な可能性も考えられる。前記のような工程で得られるアルミノシリケートは、一部、軽度な破壊を伴う構造が併存する可能性があるが、この不安定な部位が、芳香族ジヒドロキシ化合物製造触媒の好適な活性種を形成する要因となる可能性も考えられる。
【0050】
前記の通り、本発明では酸の濃度の異なる条件でアルミノシリケート(A1)と接触させることが好ましい。特には低濃度条件での接触を先に実施することが好ましい。
【0051】
前記のアルミノシリケート(A1)と酸との接触段階で、低濃度の酸を使用すると、恐らく残存アルカリ金属との反応が優先され、アルミニウムの脱離は比較的少なく、その結果、前記のようなアルミノシリケ-ト構造を低減できることが期待される。このため、より、アルミノシリケート構造に負荷をかけ過ぎることなく、アルミニウムの一部を効率的に脱離することができる可能性がある。またこの際に形成されるやや不安定な構造が、芳香族ジヒドロキシ化合物製造触媒として好適な構造なのかもしれない。
【0052】
前記の通り、本発明においては、アルミノシリケート(A1)と酸との接触を2回以上行うことが、予想外の効果をもたらすことが期待できる。
【0053】
前記アルミノシリケート(A1)と酸とを接触させる際の温度条件は、50℃~170℃が好ましく、100℃~170℃がより好ましい。また、前記の接触させる時間は、1回あたり5時間~48時間が好ましく、12時間~36時間がより好ましい。さらに好ましい時間の下限は、18時間である。
【0054】
前記の様にして得た接触物は、水などの媒体で洗浄を行い、過剰な酸を除去することが好ましい。この工程は、洗浄工程と考えても差し支えなく、周知、公知の方法を制限なく採用することができる。例えば、ヌッチェ等を用いて接触物を濾過して、過剰に存在する酸(水溶液)などを分離し、次いで濾過物を水洗して乾燥させることが好ましい。前記洗浄工程は、乾燥させることなくウェットな状態を保ったまま行うことが好ましい。乾燥の方法としては、特に制限されないが、均一かつ迅速に乾燥することが好ましく、例えば、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式や、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式を用いることができる。
【0055】
このアルミノシリケート(A1)と酸との接触により、主としてアルミノシリケート(A1)からアルミニウムの一部が除去されると考えられる。特にアルミノシリケート(A1)の表面のアルミニウムが除去される傾向があると推測される。前記の様な比較的高温で長時間の条件で処理することにより、後述する焼成工程で、前記の4族元素、5族元素の導入に有利な構造を形成し易くなると推測される。
【0056】
工程2では、前記のアルミノシリケート(A1)と酸との接触によって得た接触物の焼成を行い、アルミノシリケート(A2)を得る。この方法としては、特に制限はなく、例えば、電気炉、ガス炉等を使用して焼成する方法が挙げられる。焼成条件としては、大気雰囲気中で、0.1時間~20時間加熱することが好ましい。焼成温度は550℃~850℃であり、600℃~800℃がより好ましい。この比較的高温環境下での一次焼成によって、活性の高い状態で、チタン種を代表例とする4族元素、5族元素が含まれる、変性アルミノシリケート形成にさらに有利な環境が得られるものと推測される。
【0057】
(工程3)
本発明の工程3では、前記アルミノシリケート(A2)と周期表の4族元素および5族元素から選ばれる一つ以上の元素を有する化合物(B)と接触させ、次いで、焼成(二次焼成)を行うことで、変性アルミノシリケート(A3)を得る。この工程では、前記した様に、酸によって除去されたアルミニウムが周期表の4族元素および5族元素から選ばれる一つ以上の元素の原子に置き換わると考えられる。
【0058】
ここで使用するアルミノシリケート(A2)には、4族元素および5族元素が含まれていないか、含まれていたとしても本発明の効果に影響しない程度であることが好ましい。前記4族元素としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどが挙げられる。前記5族元素としては、バナジウムなどが挙げられる。これら元素の中でも、4族元素が好ましく、チタン、ジルコニウム、ハフニウムがより好ましく、チタンがさらに好ましい。前記の元素は、1種単独で用いることができ、2種以上を併用してもよい。
【0059】
工程3では、アルミノシリケート(A2)と、周期表の4族元素および5族元素から選ばれる1つ以上の元素を含む化合物(B)とを接触させる。これらの化合物は、液相で接触させることも気相状態で接触させることも可能であるが、好ましくは液相で接触させる。
【0060】
化合物(B)を気相で接触させる方法は公知の方法を採用することが出来る。例えば、液状の化合物(B)に窒素などの不活性ガスを通気させることで化合物(B)を含むガス流を形成して、このガス流をアルミノシリケート(A2)に導入する方法を挙げることができる。この際の温度は、400℃以上、1000℃以下であることが好ましい。より好ましい下限値は450℃、さらに好ましくは500℃である。一方、より好ましい上限値は900℃、さらに好ましくは800℃、特に好ましくは700℃である。
【0061】
化合物(B)を液状でアルミノシリケート(A2)と接触させる方法も公知の方法を制限なく採用することができる。以下、最も好ましい態様であるチタンを含む液体(液相のチタン源)を用いた態様を代表例として説明する。
【0062】
液相のチタン源はチタンを含有する液体である。チタンを含有する液体としては、例えば、液体状のチタン化合物そのものであるか、チタン化合物の水溶液などが挙げられる。中でも液状状態で実質的に酸性を示すようなチタン化合物であることが好ましい態様である。
【0063】
液体状のチタン化合物としては、例えば、四塩化チタン(TiCl4)、テドラブトキシチタンなどが挙げられ、中でも、四塩化チタンが好ましい。チタン化合物の水溶液としては、例えば、四塩化チタン水溶液、三塩化チタン(TiCl3)水溶液、硫酸チタン(Ti(SO4)2)水溶液、ヘキサフルオロチタン酸カリウム水溶液などが挙げられ、中でも、四塩化チタン水溶液、三塩化チタン水溶液、硫酸チタン水溶液が好ましい。本発明では、四塩化チタン以外に、三塩化チタンや硫酸チタンなどの反応性の低いチタン源を用いた場合でも、後述する触媒活性を発現させることができる。また、これらのチタンを含有する液体は単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。前記チタンを含有する液体は、市販品を使用することもできるし、固体のチタン化合物を水で所望の濃度に希釈して適宜調製したものを使用することもできる。気相のチタン源に比べて、液相のチタン源は漏洩しにくく、製造機械や分析機器等への腐食の問題も改善されるため、工業的な製造が実施しやすくなる。
【0064】
前記アルミノシリケート(A2)にチタン源を添加する条件は特に制限は無い。例えば、液体状のチタン化合物そのものを使用する場合、一次焼成物1重量部当たり、液体状のチタン化合物を5~300重量部添加することが好ましく、20~250重量部添加することがより好ましい。チタン化合物の水溶液を用いる場合は、一次焼成物1重量部当たり、チタン化合物の水溶液を1~10重量部添加することが好ましく、1~7重量部添加することがより好ましい。前記の水溶液の濃度は、用いる化合物によっても異なるが、例えば10~70重量%、好ましくは15~60重量%である。
【0065】
前記水溶液のチタン化合物の量としては、一次焼成物1重量部当たりの好ましい下限値は0.1重量部であり、より好ましくは0.2重量部、さらに好ましくは0.3重量部、特に好ましくは0.5重量部である。一方、好ましい上限値は10重量部であり、より好ましくは5重量部、さらに好ましくは3重量部である。
【0066】
前記チタン源を添加する場合は、合計添加量が前記添加量の範囲内であれば、一度に添加してもよいし、工程3を繰り返して複数回に分けて添加してもよい。例えば、一次焼成物にチタン源を添加して、後述する乾燥および二次焼成を行って得られた焼成物に、再度チタン源を添加して乾燥および二次焼成を行ってもよい。前記チタン源を添加する際は、空気中の水分とチタン化合物との反応によって塩化水素が発生するため、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0067】
前記アルミノシリケート(A2)と前記チタン源とを十分に接触させた後、当該接触物の焼成工程を行う。
好ましくは当該接触物を比較的低い温度での加熱処理や、工程2で説明した乾燥方法等を用いて十分乾燥させた後、焼成を行う。前記加熱処理や乾燥工程での温度は特に制限はないが、例えば、チタンを効果的にアルミノシリケートに導入するためには、0~150℃の範囲が好ましい。より好ましい下限値は、10℃、さらに好ましくは15℃、特に好ましくは20℃である。一方、より好ましい上限値は、140℃、さらに好ましくは120℃、特に好ましくは100℃である。前記工程に必要な時間にも特に制限は無いが、好ましくは0.1~24時間である。より好ましい下限値は、0.3時間、さらに好ましくは0.4時間、特に好ましくは0.5時間である。一方、より好ましい上限値は、12時間、さらに好ましくは6時間である。前記焼成方法は、特に制限はなく、例えば、電気炉、ガス炉等を使用して焼成することができる。焼成条件としては、大気雰囲気中で、400℃以上800℃以下で、0.1~20時間行う。この工程により、結晶性多孔質アルミノシリケート中のアルミニウムの一部がチタンで置換されたと考えられるアルミノチタノシリケート(A3-Ti)を得ることができる。
【0068】
前記乾燥工程を行う前に、チタン源と一次焼成物の混合物を加熱して予備的に水分を除き、混合物を濾過して夾雑物を除き、有機溶媒で洗浄操作を行う等した後に、二次焼成を行ってもよい。
前記の製造条件は、チタン以外の元素を用いる場合についても準用することができる。
【0069】
前記チタン源に代えて用いることができる周期表の4族元素を含む化合物の例としては、四塩化ジルコニウム、テトラアルコキシジルコニウム、四塩化ハフニウム、テトラアルコキシハフニウム、硫酸ジルコニウムなどを必要に応じて水、アルコール、エーテルなどを併用して液状化して用いることができる。例えばそれらの化合物の水溶液やアルコール、エーテル等の溶液などが挙げられる。また、前記チタン源に代えて用いることができる周期表の5族元素としては五塩化バナジウム、硫酸バナジウム、三塩化バナジルやそのアルコキシ置換体等も、必要に応じて水、アルコール、エーテルなどを併用して液状化して用いることができる。例えばそれらの水溶液やアルコール、エーテル等の溶液を挙げることができる。
【0070】
(変性アルミノシリケート(A3))
本発明の変性アルミノシリケート(A3)は、原料であるアルミノシリケートと同様、結晶性を有することが好ましく、多孔質であることも好ましい。結晶性とは、原料であるアルミノシリケートの説明と同様の態様と考えて差し支えない。
【0071】
多孔質性化合物が広い比表面積を持つことは周知である。本発明の変性アルミノシリケート(A3)は、その比表面積が、好ましくは50~1000m2/gである。その比表面積の下限値としては、より好ましくは100m2/g、さらに好ましくは150m2/gである。一方、その比表面積の上限値としては、より好ましくは800m2/g、さらに好ましくは600m2/gである。前記の比表面積の値は、公知の窒素吸脱着測定装置法(例えば、Microtrac BEL社製 BELSORP-maxなど)を用いた測定結果からBET plotを作成することにより、BET理論に基づく公知の計算方法によって決定することができる。
【0072】
本発明の変性アルミノシリケート(A3)の好ましい細孔容積の範囲としては、0.1~0.5cm3/g、より好ましくは0.2~0.4cm3/gである。
【0073】
本発明の変性アルミノシリケート(A3)は、紫外可視吸収スペクトル測定において、特定の波長領域の吸収に特徴を有する場合がある。
【0074】
本発明における変性アルミノシリケート(A3)は、周期表の4族元素および5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素を含み、紫外可視スペクトルの300nmの吸光度(A[300])が1.0以上を示すことが好ましい場合がある。なお、前記紫外可視光スペクトルは、変性アルミノシリケート(A3)を0.1gを試料として含む光路長10mmのセルを用い、常法によって測定して得られる値である。
【0075】
本発明の変性アルミノシリケート(A3)に含まれる4族元素、5族元素の含有量には特に制限はない。例えば、前記変性アルミノシリケート(A3)に含まれる4族元素および5族元素からなる群より選ばれる1つ以上の元素としてチタンが含まれる場合には、チタンに対するケイ素のモル比([Si]/[Ti])として0.1~100の範囲にあることが好ましく、0.5~50の範囲にあることがより好ましく、1~30の範囲にあることがさらに好ましく、2~30の範囲にあることが最も好ましい。
【0076】
TiCl3の様に、それ自身が結晶化し易い化合物を用いる場合、アルミノシリケート表面に当該元素がクラスター形態や結晶形態で導入される可能性がある。この場合、見かけの元素含有量が増えることがあるので、[Si]/[Ti]比は小さな値になる傾向がある。このような場合の[Si]/[Ti]比の範囲は、好ましくは0.5~30である。より好ましい下限値は1であり、さらに好ましくは1.2である。一方、より好ましい上限値は、20であり、さらに好ましくは15である。
【0077】
本発明の変性アルミノシリケート(A3)のアルミニウム含有量には特に制限は無いが、アルミニウムに対するケイ素のモル比([Si]/[Al])として5~100000の範囲にあることが好ましく、10~10000の範囲にあることがさらに好ましく、100~1000の範囲にあることが最も好ましい。
【0078】
また、紫外可視吸収スペクトルの210nmの吸光度(A[210])に対するA[300]の比(A[300]/A[210])は0.1以上であることが好ましく、0.13以上であることがより好ましく、0.15以上であることがさらに好ましい。例えば結晶構造の骨格に欠陥無く組み込まれたチタンを含む場合にはA[210]がA[300]に対し相対的に高くなるため、通常の結晶性多孔質アルミノチタノシリケートでは通常A[300]/A[210]は低い値になる傾向がある。前記A[300]/A[210]の上限値に特に意味はないが、好ましくは1.5でありさらに好ましくは1.0、特に好ましくは0.5である。
【0079】
<芳香族ジヒドロキシ化合物の製造方法>
本発明の一実施形態は、前記変性アルミノシリケート(A3)の存在下、フェノール類と過酸化水素とを反応させて芳香族ジヒドロキシ化合物を製造する方法である。以下これについて説明する。
【0080】
本発明で使用するフェノール類とは、無置換のフェノールおよび置換フェノールを意味する。ここで、置換フェノールとしては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基等の炭素数1から6の直鎖または分岐アルキル基、あるいはシクロアルキル基で置換されたアルキルフェノールなどが挙げられる。
【0081】
フェノール類として、例えば、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2-エチルフェノール、3-イソプロピルフェノール、2-ブチルフェノール、2-シクロヘキシルフェノールなどが挙げられ、中でも、フェノールが好ましい。なお、フェノール類の2位と6位の両方に置換基を有している場合には、生成物はハイドロキノン誘導体のみとなる。
【0082】
反応生成物である芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ハイドロキノン類(置換または無置換のハイドロキノン)、カテコール類(置換または無置換のカテコール)などが挙げられ、これらの具体例としては、ハイドロキノン、カテコール、2-メチルハイドロキノン、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、3-メチルハイドロキノン、1,4-ジメチルハイドロキノン、1,4-ジメチルカテコール、3,5-ジメチルカテコール、2,3-ジメチルハイドロキノン、2,3-ジメチルカテコールなどが挙げられる。
【0083】
前記本発明の一実施形態で得られる変性アルミノシリケート(A3)は、芳香族ジヒドロキシ化合物を製造する際の触媒として使用する。触媒の充填方式としては、固定床、流動床、懸濁床、棚段固定床等種々の方式が採用され、いずれの方式で実施しても差し支えない。また、前記触媒はそのまま使用してもよいが、触媒の充填方式に合わせて成型して使用してもよい。触媒の成型方法としては、押し出し成型、打錠成型、転動造粒、噴霧造粒などが一般的である。固定床の方式で触媒を使用する場合は、押し出し成型や打錠成型が好ましい。懸濁床の方式の場合は、噴霧造粒が好ましい。噴霧造粒後に乾燥や焼成を行ってもよい。噴霧造粒した触媒の平均粒径は、好ましくは0.1μm~1000μm、より好ましくは5μm~100μmの範囲である。0.1μm以上であると、触媒の濾過などのハンドリングがしやすいため好ましく、1000μm以下であると触媒の性能が良く強度が強いため好ましい。
【0084】
前記触媒の使用量は、反応液の総質量(反応系内の液状成分の総質量であって、触媒等の固定成分の質量は含まない)に対して、外率で好ましくは0.1~30質量%、より好ましくは0.4~20質量%の範囲である。0.1%質量%以上であると、反応が短時間で完結し、生産性が向上するため好ましい。30質量%以下であると、触媒の分離回収量が少ない点で好ましい。
【0085】
前記変性アルミノシリケート(A3)を芳香族ジヒドロキシ化合物製造方法の触媒として用いる場合、他の成分と組み合わせることもできる。例えば、前記特許文献1に記載のシロキサン化合物や、前記特許文献2に記載の特定のアルコール化合物を挙げることができる。このような成分は、前記反応液の5~90質量%となる様な割合で用いることが好ましく、8~90質量%がより好ましい。
【0086】
また、過酸化水素は、フェノール類に対して、モル比で0.01以上1以下にすることが好ましい。また、用いる過酸化水素の濃度は特に限定しないが、通常の30%濃度の水溶液を用いてもよいし、さらに高濃度の過酸化水素水をそのまま、あるいは反応系において不活性な溶媒で希釈して用いてもよい。希釈に用いる溶媒としては、アルコール類、水などが挙げられる。過酸化水素は一度に加えてもよいし、時間をかけて徐々に加えてもよい。
【0087】
反応温度は、好ましくは30℃~130℃の範囲、より好ましくは40℃~100℃の範囲である。この範囲以外の温度でも反応は進行するが、生産性の向上の観点から前記範囲が好ましい。反応圧力は特に制限されない。
【0088】
前記反応の方式は特に制限はなく、回分式、半回分式、連続式のいずれの方式で反応を行ってもよい。連続式で行う場合は、懸濁床式の均一混合槽で行ってもよく、固定床流通式のプラグフロー形式で反応を行ってもよいし、また複数の反応器を直列および/または並列に接続してもよい。反応器数は1~4器とするのが機器費の観点から好ましい。また複数の反応器を使用する場合は、それらに過酸化水素を分割して加えてもよい。
【0089】
反応液から芳香族ジヒドロキシ化合物を得るため、反応液または前記触媒を分離した後の芳香族ジヒドロキシ化合物を含む分離液に対し、未反応成分や副生成物を除去するなどの精製処理を行ってもよい。精製処理は、触媒を分離した後の芳香族ジヒドロキシ化合物を含む該分離液に対して行うことが好適である。
【0090】
精製処理の方法については、特に制限は無く、具体的には油水分離、抽出、蒸留、晶析、およびこれらの組み合わせ等の方法が挙げられる。精製処理の方法、手順等は特に限定しないが、例えば、以下のような方法により、反応液および前記触媒を分離した後の芳香族ジヒドロキシ化合物を含む分離液の精製が可能である。
【0091】
反応液が油相と水相の2相に分離する場合、油水分離が可能である。油水分離により、芳香族ジヒドロキシ化合物含有量が低い水相を除去して、油相を回収する。この場合、分離した水相は抽出や蒸留により、芳香族ジヒドロキシ化合物を回収してもよいし、一部または全部を再度反応に用いてもよい。また分離した水相に前記触媒分離工程で分離した触媒や、乾燥処理した触媒を分散し、反応器に供給することもできる。一方、油相はさらに抽出、蒸留および晶析等により精製処理を行うことが望ましい。
【0092】
抽出には、例えば、1-ブタノール、トルエン、イソプロピルエーテル、メチルイソブチルケトンなどの溶媒が使用される。抽出と油水分離とを組み合わせると、前記油水分離を効率よく実施できる。抽出溶媒は蒸留塔により分離回収しリサイクルして使用することが好ましい。
【0093】
蒸留は、触媒分離直後の反応液に対して実施してもよいし、前記油水分離後の油相および水相に実施してもよい。さらに抽出液を蒸留してもよい。
触媒の分離直後の反応液を蒸留する場合、まず水やアルコール類などの軽沸成分を分離するのが好ましい。水とアルコール類は別々の蒸留塔で分離してもよいし、1つの蒸留塔で分離してもよい。
【0094】
前記した油水分離、抽出、蒸留操作等により、水やアルコール類を分離した後、次の蒸留操作でフェノール類を回収し、再度反応に用いてもよい。回収したフェノール類に分離しきれなかった水が含まれる場合は、イソプロピルエーテルまたはトルエンを加え共沸蒸留により除去できる。
【0095】
この共沸蒸留は、フェノール類回収前の水やアルコール類分離後の液に対して行うこともできる。分離した水は、再度反応に用いてもよいし、廃水としてもよい。回収したフェノール類に水以外の反応副生物などの不純物が含まれる場合は、さらに蒸留操作で分離することもできる。不純物が反応副生物のベンゾキノン類の場合、フェノール類と共に再度反応器に供給することができる。
【0096】
フェノール類の分離の後、芳香族ジヒドロキシ化合物よりも高沸の成分を蒸留によって除去し、次の蒸留操作によってハイドロキノン類とカテコール類を分離できる。また高沸成分とハイドロキノン類とカテコール類は、ハイドロキノン類を蒸留塔の中段から抜き出すことにより、1つの蒸留操作で分離することもできる。
得られたハイドロキノン類とカテコール類は、必要に応じて、蒸留や晶析により不純物を除去し純度を高めることができる。
【0097】
本発明にかかる変性アルミノシリケート(A3)の存在下に、例えばフェノールと過酸化水素とを反応させると、高い収率でハイドロキノンが生成する傾向がある。また、カテコールやベンゾキノンなどに比して、ハイドロキノンが高い選択率で生成する傾向がある。この為、本発明にかかる変性アルミノシリケート(A3)の産業的な価値が高いと言える。
【実施例0098】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0099】
実施例中、各測定方法および条件は以下の通りである。
[XRD測定]
装置:リガク社製 Ultima IV(Protectus)型装置
X線源:CuKα:1.545Å
電圧:40kV
電流:20mA
測定範囲:2θ=2.0~52°
走査速度:2°/分
サンプリング間隔0.020°
発散スリット:1/2°、散乱スリット:1.00mm、受光スリット:0.15mm
[ガスクロマトグラフィー]
装置:島津製作所製GC-14型装置
カラム:DB-1 capillary coloum 30m * 0.25mmφ * 1.0mm
検出器:FID
キャリアガス:ヘリウム
インジェクション温度:250℃
検出部温度:250℃
カラム温度条件 : 初期60℃ * 2分
その後、10℃/分の速度で200℃迄昇温
[酸化還元滴定]
装置:京都電子工業製 電位差自動的低装置 AT-500N型装置
【0100】
(製造例1)
(種結晶(MCM-68型ゼオライト)の調製)
コロイダルシリカ(製品名:LUDOX(登録商標)HS-40、デュポン社製、40質量%)15.02g(100mmol-SiO2)と純水(商品名:milliQ)20.5gとを混合して約10分攪拌した。(この時点での水の全量は1500mmol)
【0101】
これに水酸化アルミニウム(Pfaltz & Bauer社製)0.91g(10mmol-Al)、水酸化カリウム水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製)6.19g(37.5mmol-K)、純水20.33gを加えて30分攪拌し、さらに構造規定剤としてN,N,N',N'-tetraethylbicyclo[2,2,2]oct-7-ene-2,3:5,6-dipyrrodinium dichloride(以下、TEBOPと示すことがある。)を5.59g(10mmol-N)加えて4時間攪拌してゲルを得た。
【0102】
前記ゲルをオートクレーブ中、160℃で16日間静置した。得られた生成物を中性になる迄遠心分離した後、100℃で乾燥させて6.18gの白色粉末を得た。前記白色粉末の5.32gを1℃/分の速度で加熱し、650℃に達した後に10時間、同温度を保持し、放冷して4.45gのアルミノシリケート結晶(MCM-68型)を得た。(構造規定剤(TEBOP)は検出されず。)これを後述する実施例、比較例で、種結晶として使用した。
【0103】
(実施例1)
(原料アルミノシリケートの調製)
富士フィルム和光純薬株式会社製の水酸化ナトリウム水溶液(6.32ミリモル/g)を12.68グラム(ナトリウムとして80.14ミリモル)、水酸化カリウム水溶液(5.96ミリモル/g)を996ミリグラム(カリウムとして5.94ミリモル)を量り取り、純水43.84グラムと混合し、水の物質量の総和を3.00モルとした水溶液をテフロン(登録商標)カップに準備した。これにアルミン酸ナトリウム(Al2O3 34.5wt%, Na2O 27.5wt%を含む)を443ミリグラム加えて溶解させた。
【0104】
前記溶液を乳鉢に移し、前記の焼成した種結晶を901ミリグラム加えた混合物を乳棒で10分間、均一化させ、次いでこれに150ミリモルのシリカ(Cab-O-sil M5:Cabot社製)を加えて、再度、乳棒で、20~30分の間、均一化させた。
前記の混合物を60ミリリットルのステンレス製オートクレーブに移して密閉し、静置条件下140℃で48時間水熱合成を行い、固体生成物を含む混合物を得た。
【0105】
前記で生じた固体生成物を含む合成混合物をろ紙(5C)を用いて吸引ろ過し、ろ紙上に残った固体部を、ろ液が中性になるまで蒸留水で洗浄した。固体部を80℃で乾燥させて白色粉末1.53gを得た(アルミノシリケート(A1-1))。また、前記の実験を複数回繰返し、同様の白色粉末を得た。これ等の白色粉末をICP法(島津製作所製ICP8000E型装置使用)を用いた常法により分析し、ケイ素とアルミニウムのモル比(原子比)を求めた。(Si/Al比は、5~7の範囲であった。)
【0106】
(白色粉末(アルミノシリケート)と硝酸との接触)
前記白色粉末(アルミノシリケート(A1-1))0.75gと、0.1モル/リットルの硝酸水溶液45.7ミリリットル(白色粉末:硝酸水溶液=1g:60ml)とを混合し、加熱、還流下条件で、24時間攪拌した。生じた固体生成物を含む合成混合物をろ紙(5C)を用いて吸引ろ過し、ろ紙上に残った固体部を、ろ液が中性になるまで蒸留水を用いて洗浄し、80℃で乾燥して白色粉末を得た。次いで、得られた白色粉末と13.4モル/リットルの硝酸水溶液とを用いた以外は、前記と同様の方法で、白色粉末と硝酸との接触、攪拌を行い、白色粉末(アルミノシリケート(A2-1))を得た。
【0107】
(チタン変性アルミノシリケートの調製)
前記白色粉末(アルミノシリケート(A2-1))0.4gと四塩化チタン水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製)4.97gとを混合し、25℃で1時間攪拌した。その後、セパロートを用いて中性になるまで洗浄した後、80℃で乾燥させ、0.36gの固体を得た。次いで得られた固体の0.20gを1℃/分の速度で加熱し、650℃に達した後に4時間、同温度を保持し、放冷して0.18gの変性アルミノシリケート(A3-1)を得た。XRD測定により、変性アルミノシリケート(A3-1)はMSE型骨格を有していた。
【0108】
(フェノールと過酸化水素との反応)
前記変性アルミノシリケート(A3-1)20mg、フェノール21.25mmol、過酸化水素水(30質量%)4.25mmol-H2O2を耐圧容器中で混合し、100℃で10分間反応させた。
【0109】
反応終了後、前記耐圧容器を氷冷し、スルホラン2.0gとアニソール(ガスクロマトグラフィーの内部標準物質)0.225gとを加えてよく混合した後、遠心分離法で固液分離した。得られた液相部0.1gに無水酢酸を9当量、炭酸カリウムを10当量加えて、アセチル化した。この溶液にクロロホルム3.5ミリリットルを加えた後に、その2ミリリットルを採取し、フィルターで固液分離した。得られた溶液をガスクロマトグラフでハイドロキノン、クレゾール等の成分の含有率を分析した。
【0110】
一方、前記反応溶液0.5gと2モル/リットルの塩酸50ミリリットルヨウ化カリウム0.8gとを混合して十分に攪拌した後、0.1モル/リットルのチオ硫酸ナトリウム水溶液を用いた酸化還元滴定によって、未反応過酸化水素量を分析し、過酸化水素ベースの収率を常法によって決定した。結果を表1にまとめた。
【0111】
(実施例2)
(チタン変性アルミノシリケートの調製)
石英管にアルミノシリケート(A2-1)0.376gと石英ウールとを装入した。この石英管にアルゴンガスを30ミリリットル/分の速度で供給した。供給するアルコンガスの温度を4時間かけて600℃迄昇温して、アルミノシリケート(A2-1)を加温した。別途四塩化チタン(富士フィルム和光純薬株式会社製、純度99%)をバブラー管に挿入し、これに前記600℃アルゴンガスを供給して、四塩化チタンを含む600℃アルゴンガス流を準備し、これを前記石英管に1時間供給した。その後、600℃アルコンガス流に切り替え、前記石英管に1時間供給した。その後、アルコン気流下で徐冷し、内容物を蒸留水で洗浄した後、乾燥して白色粉末を得た。
【0112】
得られた白色粉末を1℃/分の速度で加熱し、650℃に達した後に4時間、同温度を保持し、放冷して変性アルミノシリケート(A3-2)を得た。変性アルミノシリケート(A3-2)はXRD測定によりMSE型構造を有していた。
【0113】
(フェノールと過酸化水素との反応)
触媒として前記変性アルミノシリケート(A3-2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表1にまとめた。
【0114】
(比較例1)
(アルミノシリケート(A1-1)のイオン交換/水蒸気処理/酸との接触)
イオン交換処理
前記アルミノシリケート(A1-1)0.61gを硝酸アンモニウム水溶液(硝酸アンモニウム1.22gを蒸留水30.5gに溶解させた溶液)に分散させた。この分散液を耐熱密閉容器中に密封し、80℃の恒温槽中に24時間にわたって静置してイオン交換を行った。その後、ろ紙(5C)を用いて吸引濾過を行い、アルミノシリケートを濾別した。この一連の操作をさらに二回繰り返した(ただし、静置時間はそれぞれ20時間である)。ろ紙上に残った固体を蒸留水で十分に洗浄して80℃で乾燥し、アンモニウム型のアルミノシリケート0.51gを得た。
【0115】
スチーム処理
特許第6083903号の実施例1と同様の方法で行った。充填量は0.46gとした。500℃に加熱した状態下に、アルゴン-水蒸気の混合ガスを24時間にわたって連続して流通させた。水蒸気の分圧は10kPaとした。水蒸気による曝露で、アルミノシリケートはアンモニウム型からプロトン型に変換された。プロトン型のアルミノシリケート0.32gを得た。
【0116】
酸との接触
スチーム処理後のアルミノシリケート0.32gと、13.4モル/リットルの硝酸水溶液9.6ミリリットル(白色粉末:硝酸水溶液=1g:30ml)とを混合し、加熱、還流条件下で、24時間攪拌した。ろ過、洗浄、乾燥後、アルミノシリケート(C2-1)0.25gを得た。
【0117】
(変性アルミノシリケートの調製)
前記アルミノシリケート(C2-1)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で行い、変性アルミノシリケート(C3-1)を得た。
【0118】
(フェノールと過酸化水素との反応)
触媒として前記変性アルミノシリケート(C3-1)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表1にまとめた。
【0119】
【0120】
前記結果から、アルミノシリケートと酸との接触回数を2回以上にすることで、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物製造用の優れた触媒となる変性アルミノシリケートが得られることが分かる。
【0121】
(比較例2)
(白色粉末(アルミノシリケート)と硝酸との接触)
前記白色粉末(アルミノシリケート(A1-1))0.75gと、13.4モル/リットルの硝酸水溶液45.7ミリリットル(白色粉末:硝酸水溶液=1g:60ml)とを混合し、加熱、還流下条件で、24時間攪拌した。得られた生成物を中性になるまでセパロートを用いて洗浄し、80℃で乾燥して白色粉末(アルミノシリケートC2-2)を得た。前記アルミノシリケート(C2-2)のXRD測定により、結晶構造の破壊が観測された。この為、変性アルミノシリケートの調製は行わなかった。